<1> 衛生洗浄装置およびそれを備えるトイレ装置の外観
図1は本発明の一実施の形態に係る衛生洗浄装置およびそれを備えるトイレ装置を示す外観斜視図である。トイレ装置1000はトイレットルーム内に設置される。
トイレ装置1000において、便器700には衛生洗浄装置100が取り付けられる。衛生洗浄装置100は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および蓋部500により構成される。蓋部500を除く衛生洗浄装置100の各構成要素が、後述の便座装置110を構成する。
本体部200には、便座部400および蓋部500が開閉可能に取り付けられている。また、本体部200には、図示しない洗浄水供給機構が設けられるとともに、後述の制御部90(図3)が内蔵される。
図1では、本体部200の正面上部に設けられる着座センサ610が示されている。この着座センサ610は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、着座センサ610は、人体から反射された赤外線を検出することにより便座部400上に使用者が存在することを検知する。
さらに、図1では、本体部200の正面下部に設けられる便器ノズル40が便器700の内側に突出している状態が示されている。この便器ノズル40は、上述の洗浄水供給機構に接続されている。
洗浄水供給機構は、図示しない水道配管に接続されている。これにより、洗浄水供給機構は、水道配管から供給される洗浄水を便器ノズル40に供給する。それにより、便器ノズル40から便器700の内面の広い範囲に洗浄水が噴出される(便器プレ洗浄)。または、便器ノズル40から便器700の内面の背面側に洗浄水が噴出される(便器後部洗浄)。詳細は後述する。
また、洗浄水供給機構は、後述のノズル部20(図3)に接続されている。これにより、洗浄水供給機構は、水道配管から供給される洗浄水をノズル部20に供給する。それにより、ノズル部20から使用者の局部に洗浄水が噴出される。
遠隔操作装置300には、複数のスイッチが設けられている。遠隔操作装置300は、例えば便座部400上に着座する使用者が操作可能な場所に取り付けられる。
入室検知センサ600は、トイレットルームの入口等に取り付けられる。入室検知センサ600は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、入室検知センサ600は、人体から反射された赤外線を検出した場合にトイレットルーム内に使用者が入室したことを検知する。
本体部200の制御部90(図3)は、遠隔操作装置300、入室検知センサ600および着座センサ610から送信される信号に基づいて、衛生洗浄装置100の各部の動作を制御する。
<2> 遠隔操作装置の構成
図2は、図1の遠隔操作装置300の正面図である。遠隔操作装置300は、コントローラ本体部301の下部にコントローラ蓋部302が開閉自在に設けられた構造を有する。
図2(a)に示すように、コントローラ蓋部302が閉じられた状態で、コントローラ本体部301の上部には乾燥スイッチ320、強さ調整スイッチ322,323および位置調整スイッチ325,326が設けられ、コントローラ蓋部302には停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313が設けられている。
使用者により、上記各スイッチが操作される。これにより、遠隔操作装置300から図1の本体部200に各スイッチに応じた所定の信号が無線送信される。本体部200の制御部90(図3)は、受信した信号に基づいて本体部200(図1)および便座部400(図1)の各構成部の動作を制御する。
例えば、使用者がおしりスイッチ312またはビデスイッチ313を操作することにより、後述するノズル部20(図3)から使用者の局部に洗浄水が噴出される。また、使用者が停止スイッチ311を操作することにより、ノズル部20から使用者の局部への洗浄水の噴出が停止される。
使用者が乾燥スイッチ320を操作することにより、使用者の局部に後述する乾燥ユニット210(図64)から温風が噴出される。また、使用者が強さ調整スイッチ322,323を操作することにより、使用者の局部に噴出される洗浄水の流量および圧力等が調整される。
さらに、使用者が位置調整スイッチ325,326を操作することにより、後述するおしりノズル21(図3)または後述するビデノズル22(図3)の位置が調整される。それにより、使用者の局部への洗浄水の噴出位置が調整される。
図2(b)に、コントローラ蓋部302が開かれた状態の遠隔操作装置300の正面図が示されている。図2(b)に示すように、コントローラ蓋部302により覆われるコントローラ本体部301の下部には、上述の停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313に加えて、自動開閉スイッチ331、水温調整スイッチ332、便座温度調整スイッチ333、除菌スイッチ335および便器洗浄スイッチ336が設けられている。
これらのスイッチが操作される場合にも、遠隔操作装置300から本体部200に各スイッチに応じた所定の信号が無線送信される。これにより、本体部200の制御部90は、受信した信号に基づいて本体部200および便座部400の各構成部の動作を制御する。
自動開閉スイッチ331はつまみにより構成されている。使用者が自動開閉スイッチ331のつまみを操作することにより、蓋部500(図1)の開閉動作が設定される。すなわち、自動開閉スイッチ331のつまみがオンの位置にある場合、使用者のトイレットルームへの入室に応じて蓋部500が開閉される。
使用者が水温調整スイッチ332を操作することにより、ノズル部20から使用者の局部に噴出される洗浄水の温度が調整される。使用者が便座温度調整スイッチ333を操作することにより、便座部400の温度が調整される。
また、使用者が除菌スイッチ335を操作することにより、本体部200の洗浄水供給機構に銀イオンを含む洗浄水が流れ、除菌動作が行われる。
自動開閉スイッチ331と同様に、便器洗浄スイッチ336はつまみにより構成されている。使用者が便器洗浄スイッチ336のつまみを操作することにより、便器ノズル40による便器プレ洗浄および便器後部洗浄の動作が設定される。
すなわち、便器洗浄スイッチ336のつまみがオンの位置にある場合、使用者のトイレットルームへの入室に応じて便器ノズル40から便器700内部の広い範囲に洗浄水が噴出される。また、使用者の便座部400への着座中に便器ノズル40から便器700の内面の背面側に洗浄水が噴出される。
上述のように、コントローラ蓋部302はコントローラ本体部301の前面下部に開閉自在に設けられている。この開閉機構について説明する。
図2(a)および図2(b)に示すように、コントローラ蓋部302は、コントローラ本体部301の下端にヒンジ302hを介して取り付けられている。これにより、コントローラ蓋部302は、コントローラ本体部301の下端を中心として回動可能となっている。
ここで、コントローラ本体部301の前面下部には2つの磁石301Mが取り付けられている。これにより、コントローラ蓋部302を強磁性体の金属プレートで構成することより、コントローラ蓋部302を閉じた状態で容易に保持することが可能となる。図2の例では、コントローラ蓋部302が回動することにより、コントローラ蓋部302の2つの角部302pがコントローラ本体部301の2つの磁石301Mに当接する。
このように、磁石301Mを用いることにより、コントローラ蓋部302にコントローラ蓋部302を閉じるための凹凸構造を形成する必要がなくなる。また、2つの磁石301Mをコントローラ本体部301の表面と面一となるように設けることにより、コントローラ本体部301にもコントローラ蓋部302を閉じるための凹凸構造を形成する必要がなくなる。
これにより、コントローラ本体部301およびコントローラ蓋部302の各々に凹凸構造がないので、コントローラ本体部301およびコントローラ蓋部302の表面を容易にふき取ることができる。したがって、遠隔操作装置300の清掃が容易となる。
なお、コントローラ蓋部302は、金属プレートで構成する代わりに、樹脂プレートで構成してもよい。この場合、コントローラ蓋部302の裏面の2つの角部302pに強磁性体の金属プレートを配置する。これにより、上記と同様の効果を得ることができる。また、コントローラ蓋部302が軽量化するので、コントローラ蓋部302の開閉動作が容易となる。
コントローラ蓋部302に設けられた停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313は、それぞれコントローラ本体部301の前面下部に設けられた停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313に対応している。使用者は、コントローラ本体部301およびコントローラ蓋部302のいずれかに設けられた停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313を操作することにより、局部の洗浄および停止を操作することができる。
コントローラ蓋部302に設けられる停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313は、コントローラ本体部301の停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313よりも面積が大きい。
このように、通常頻繁に操作される停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313が大きく形成されているので、コントローラ蓋部302を閉じることにより、各スイッチ311,312,313の視認性が向上するとともに遠隔操作装置300の操作性が向上する。
例えば、トイレットルーム内の照明が暗い場合でも、コントローラ蓋部302を閉じることにより、使用者は確実かつ明瞭に停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313を視認することができる。
また、コントローラ蓋部302の停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313が大きく形成されることにより、各スイッチ311,312,313のふき取りが容易となる。これにより、コントローラ蓋部302の衛生状態を良好に保つことが容易となる。
コントローラ蓋部302には、自動開閉スイッチ331、水温調整スイッチ332、便座温度調整スイッチ333、除菌スイッチ335および便器洗浄スイッチ336が設けられていない。これらのスイッチ331,332,333,335,336は通常使われない。
したがって、コントローラ蓋部302を閉じることにより、自動開閉スイッチ331、水温調整スイッチ332、便座温度調整スイッチ333、除菌スイッチ335および便器洗浄スイッチ336をコントローラ蓋部302により隠すことができる。これにより、遠隔操作装置300の衛生状態を良好に保つことが容易となる。
コントローラ本体部301の下部において、水温調整スイッチ332の側部には水温表示部332Dが設けられ、便座温度調整スイッチ333の側部には便座温度表示部333Dが設けられている。水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dは、それぞれ洗浄水の温度および便座部400の温度を表示するためのものである。
水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dは、複数(本例では3つ)のLED(発光ダイオード)からなる。使用者による水温調整スイッチ332および便座温度調整スイッチ333の操作に応じて水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dの発光状態が変更される。
上記水温表示部332Dは、水温調整スイッチ332の押下回数に応じて発光するLEDの数が増減するように構成されてもよいし、水温調整スイッチ332の押下回数に応じて発光するLEDが順次切替わるように構成されてもよい。
また、上記便座温度表示部333Dは、便座温度調整スイッチ333の押下回数に応じて発光するLEDの数が増減するように構成されてもよいし、便座温度調整スイッチ333の押下回数に応じて発光するLEDが順次切替わるように構成されてもよい。
これにより、使用者は、水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dを視認することにより、現在設定されている洗浄水の温度および便座部400の温度を容易に認識することができる。
さらに、コントローラ蓋部302の開閉状態に応じて水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dのオン状態およびオフ状態が切替えられてもよい。例えば、水温表示部332Dおよび便座温度表示部333Dは、コントローラ蓋部302が閉じられた状態でオフし、コントローラ蓋部302が開かれた状態でオンする。
これにより、遠隔操作装置300に用いられる電力が低減され、省エネルギー化が実現される。遠隔操作装置300が電池により動作する場合、電池の長寿命化が実現される。
<3> 本体部における給水系および制御系の構成
図3は、本体部200の構成を示す模式図である。図3に示すように、本体部200は、分岐水栓2、ストレーナ4、逆止弁5、定流量弁6、止水電磁弁7、流量センサ8、熱交換器9、ポンプ11、バッファタンク12、人体用切替弁13、ノズル部20、バキュームブレーカ31,61、便器ノズル40、便器ノズルモータ40m、ランプ50および制御部90を含む。
ノズル部20は、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23を含み、人体用切替弁13は切替弁モータ13mを含む。
図3に示すように、水道配管1には分岐水栓2が介挿される。分岐水栓2と熱交換器9との間に接続される配管3には、ストレーナ4、逆止弁5、定流量弁6、止水電磁弁7および流量センサ8が順に介挿される。熱交換器9と人体用切替弁13との間に接続される配管10には、ポンプ11およびバッファタンク12が介挿される。
人体用切替弁13の複数のポートにノズル部20のおしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23がそれぞれ接続される。
バキュームブレーカ31は、止水電磁弁7と流量センサ8との間の配管3から延びる分岐配管30に接続され、熱交換器9および便器ノズル40の洗浄水噴出口よりも上方の位置に配置される。バキュームブレーカ31には、分岐配管32の一端が接続される。分岐配管30と分岐配管32とはバキュームブレーカ31を介して連結される。便器ノズル40は、分岐配管32の他端に接続される。便器ノズルモータ40mおよびランプ50は、便器ノズル40の近傍に取り付けられる。バキュームブレーカ61はバッファタンク12に設けられ、熱交換器9よりも上方の位置に配置される。なお、バキュームブレーカ61およびバッファタンク12は一体的に形成されている。したがって、バッファタンク12も熱交換器9よりも上方の位置に配置される。
次に、本体部200における洗浄水の流れおよび制御部90による本体部200の各構成部の制御について説明する。
水道配管1を流れる浄水が、洗浄水として分岐水栓2によりストレーナ4に供給される。これにより、洗浄水に含まれるゴミおよび不純物等はストレーナ4により除去される。
次に、逆止弁5により配管3内における洗浄水の逆流が防止され、定流量弁6により配管3内を流れる洗浄水の流量が一定に維持される。そして、止水電磁弁7により熱交換器9への洗浄水の供給状態が切替えられる。止水電磁弁7の動作は、制御部90により制御される。
配管3において、流量センサ8は、配管3内を流れる洗浄水の流量を測定し、制御部90に測定流量値を与える。熱交換器9は、配管3を通して供給される洗浄水を所定の温度に加熱する。熱交換器9の動作は、流量センサ8により測定された測定流量値に基づいて制御部90により制御される。
続いて、熱交換器9により加熱された洗浄水が、ポンプ11によりバッファタンク12を通して人体用切替弁13に圧送される。ポンプ11の動作は、制御部90により制御される。
バッファタンク12は、加熱された洗浄水の温度緩衝部として作用する。これにより、人体用切替弁13に圧送される洗浄水の温度むらの発生が抑制される。なお、熱交換器9とバッファタンク12との合計の容量は、15cc〜30ccであることが好ましく、20cc〜25ccであることがより好ましい。
人体用切替弁13においては、切替弁モータ13mが動作することにより、ポンプ11から圧送された洗浄水が、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23のいずれかに供給される。これにより、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23のいずれかから洗浄水が噴出する。切替弁モータ13mの動作は、制御部90により制御される。
おしりノズル21およびビデノズル22は、使用者の局部の洗浄を行うために用いられる。ノズル洗浄ノズル23は、おしりノズル21およびビデノズル22の便器700内に突出する部分を洗浄するために用いられる。
止水電磁弁7から熱交換器9に供給される洗浄水のうちノズル部20において使用されない余剰な洗浄水は、分岐配管30、分岐配管32および便器ノズル40を介して捨て水として便器700(図1)内に流される。すなわち、分岐配管30および分岐配管32は捨て水回路として機能する。便器ノズル40の詳細は後述する。
なお、本例においては、熱交換器9と便器ノズル40との間にバキュームブレーカ31が設けられ、熱交換器9とノズル部20との間にバキュームブレーカ61が設けられている。それにより、熱交換器9内の洗浄水が分岐配管30、分岐配管32および便器ノズル40を介して外部に流出することならびに配管10およびノズル部20を介して外部に流出することが防止される。その結果、熱交換器9の空焚きが防止される。
また、バキュームブレーカ31により、便器ノズル40側からの汚水等の逆流が防止されるとともに、バキュームブレーカ61によりノズル部20側からの汚水等の逆流が防止される。
また、バッファタンク12とバキュームブレーカ61とが一体的に設けられているので、本体部200を小型化することができる。また、バキュームブレーカ61によりバッファタンク12内の冷水が排出されるので、おしり洗浄時に、おしりノズル21から冷水が噴出されることを防止することができる。
<4> 便器ノズルの構成および動作
(4−a) 便器ノズルの概略説明
次に、便器ノズル40について説明する。図4は、衛生洗浄装置100の縦断面図である。図4に示すように、便器ノズル40は、本体部200の下部でノズル部20に近接した位置に配置され、その先端部が便器700の内部に位置する。便器ノズル40の近傍にはLED(発光ダイオード)等からなるランプ50が設けられている。
なお、以下においては、図4に示すように、衛生洗浄装置100の本体部200側を後方とし、便座部400の先端側を前方として各部について説明する。
便器ノズル40およびその近傍に設けられるランプ50の前方側を覆うように、便器ノズルカバー40Kが設けられている。便器ノズルカバー40Kは透明な樹脂により形成されている。これにより、ランプ50が発光すると、その光は便器ノズルカバー40Kを通して便器700の内部に照射される。
図5は、図4の便器ノズル40およびその周辺の構造を説明するための拡大断面図である。図5に示すように、便器ノズル40は、筒状の便器ノズル本体部41の先端部に棒状の噴流形成部材42が挿入された構造を有する。便器ノズル本体部41の内部では、便器ノズル本体部41の内面と噴流形成部材42の外周面との間に隙間が形成されている。便器ノズル本体部41の後端部には、図3の分岐配管32の一部を構成する接続管44が接続される。
これにより、接続管44(分岐配管32)から便器ノズル本体部41に洗浄水(捨て水)が供給されると、その洗浄水は、便器ノズル本体部41の内面と噴流形成部材42の外周面との間の隙間を通って便器ノズル40の先端部から噴出される。
便器ノズル本体部41の後端部には、回転片43の一端が固定されている。回転片43の他端は、後述する本体下部ケーシング200Aに固定された便器ノズルモータ40mに接続されている。これにより、便器ノズルモータ40mが動作すると、便器ノズル本体部41の先端部が回動する。
ここで、便器ノズル40の待機時、すなわち、使用者がトイレットルームに入室していないときには、便器ノズル40の先端部が便器ノズルカバー40Kの内面に近接するように位置決めされる。以下、この便器ノズル40の位置を収納位置と称する。
この状態で、図1の入室検知センサ600により使用者のトイレットルームへの入室が検知されると、便器ノズルモータ40mが動作する。これにより、便器ノズル40の先端部が図5の矢印Aで示す方向に回動する。そして、上述の便器プレ洗浄が開始される。
図6は、便器プレ洗浄時における衛生洗浄装置100の縦断面であり、図7は図6の状態の便器ノズル40およびその周辺の構造を説明するための拡大断面図である。
まず、図6および図7に示すように、使用者のトイレットルームへの入室が検知され、便器ノズル40の先端部が回動すると、その先端部が便器ノズルカバー40Kの下方に移動し、便器700の内部空間に露出するように位置決めされる。以下、この便器ノズル40の位置を便器洗浄位置と称する。
この状態で、接続管44から便器ノズル本体部41に洗浄水が供給される。これにより、便器ノズル40の先端部から洗浄水が噴出される。
便器ノズル40から噴出される洗浄水は、便器ノズル40の軸心に対してほぼ直交する方向へ放射状に噴出される。
これにより、図6に示すように、便器700の廃棄口700Dを中心とする内面の広い範囲に洗浄水が噴出される。それにより、使用者のトイレットルームへの入室時に乾燥している便器700の内面が、洗浄水により濡らされる。
また、このとき、ランプ50が発光することにより、使用者は便器プレ洗浄が行われていることを視認することができる。
上記のように、使用前の便器700の内面が濡らされることにより、便器700の内面への汚物の付着が防止される。
なお、便器プレ洗浄動作は、後述するように、所定時間の経過、使用者の便座部400への着座、または使用者による遠隔操作装置300の操作により停止される。
便器プレ洗浄の終了時には、再び便器ノズルモータ40mが動作する。これにより、便器ノズル40の先端部が再び便器ノズルカバー40Kの内側に移動し、便器ノズルカバー40Kの内面に近接する。すなわち、便器プレ洗浄後には、便器ノズル40は再び収納位置に移動する。このとき、便器ノズル40の先端部からは洗浄水が継続して噴出される。それにより、便器後部洗浄が開始される。
便器後部洗浄時には、図4の矢印B,Cで示すように、便器ノズル40から便器700の後方側の内面に噴出される洗浄水が、その内面に衝突して便器700内を流れ落ちる。
ところで、一般に、使用者の局部に洗浄水を噴射するトイレ装置においては、以下の理由により便器の内面の後方側に汚物が付着しやすい。
おしり洗浄時には、使用者の局部に洗浄水が噴出される。これにより、使用者の局部に付着した汚物が洗浄水により飛散すると、飛散した汚物が便器の内面の後方側に付着する場合がある。この現象は、おしり洗浄開始直後に発生しやすい。
トイレ装置の使用後、便器内に蓄積された汚物は、便器の上端部近傍から供給される多量の洗浄水により図示しない下水設備に排出される。以下、便器内に供給される多量の洗浄水をフラッシュ水と称する。
しかしながら、フラッシュ水は、必ずしも便器の内面全域に供給されるわけではない。便器の構造およびフラッシュ水の供給機構の構造等により、フラッシュ水は便器の内面の後方側に供給されにくい。特に、便器の後方側のリム(上縁部)LM内周面にはフラッシュ水が供給されない。そのため、上記のように便器の内面の後方側に汚物が付着すると、付着した汚物はフラッシュ水により洗い流されることなく乾燥する。この場合、固着した汚物を取り除くことは容易ではない。
これに対して、本例のトイレ装置1000においては、使用者が便座部400に着座した状態で便器後部洗浄が行われる。便器後部洗浄時には、便器ノズル40の前方が便器ノズルカバー40Kにより遮蔽される。したがって、便器ノズル40から噴出される洗浄水の前方への飛散を阻止しつつ、便器700の内面の後方側を洗浄水で濡らすことができる。具体的には、図4の矢印Bで示すように、便器後部洗浄時には、便器ノズル40から噴出された洗浄液が便器700のリムLM内周面に供給される。
それにより、便座部400に着座している使用者に洗浄水が付着することを防止しつつ、便器700に汚物が付着することを防止することができる。特に、フラッシュ水で洗い流すことができない汚物の付着を確実に防止することができる。その結果、便器700の衛生状態が良好に保たれる。
上記のように、便器後部洗浄により、使用者によるトイレ装置1000の使用時に、便器700の後方側の内面に汚物が付着することが確実に防止される。
また、このとき便器ノズル40から便器ノズルカバー40Kの内面に噴射される洗浄水は、便器ノズルカバー40Kの内面に衝突し、便器ノズル40の先端部に跳ね返る。これにより、便器ノズル40の先端部が洗浄され、便器ノズル40の先端部の汚染が防止される。
その後、例えば使用者が便座部400から起立することにより、便器後部洗浄が停止される。すなわち、便器ノズル40からの洗浄水の噴出が停止される。
(4−b) 便器ノズルの構造の詳細
ここで、便器ノズル40の先端部の構造の詳細について説明する。図8は、図4の便器ノズル40の先端部の構造を示す断面図である。図8(a)に便器ノズル40の先端部における縦断面図が示され、図8(b)に図8(a)のC14−C14線断面図が示されている。
図8(a)に示すように、便器ノズル本体部41の先端部開口41hから、その内部に噴流形成部材42が挿入される。噴流形成部材42は、挿入軸部42aを有する。図8(b)に示すように、挿入軸部42aにはその軸心から外方へ放射状に延びる3枚の羽根部材42bが形成されている。羽根部材42bから噴流形成部材42の先端部に向かって、径大部42c、拡大部42dおよびフランジ部42eが形成されている。
径大部42cの直径は挿入軸部42aの直径よりも大きい。また、拡大部42dは噴流形成部材42の先端部に向かってさらに漸次径大となっており、噴流形成部材42の先端部の直径は先端部開口41hの直径よりも大きい。また、フランジ部42eの外径は、便器ノズル本体部41の外径よりも大きい。
便器ノズル本体部41の内面には、段差部41dが形成されている。便器ノズル本体部41に噴流形成部材42が挿入されると、段差部41dと噴流形成部材42の羽根部材42bとが当接する。このとき、羽根部材42bは、噴流形成部材42と便器ノズル本体部41との間のスペーサとして作用する。それにより、噴流形成部材42が便器ノズル本体部41の内部で位置決めされる。
この状態で、噴流形成部材42の径大部42cは便器ノズル本体部41の先端部開口41hから突出し、拡大部42dおよびフランジ部42eは便器ノズル本体部41の外部に位置する。
挿入軸部42aおよび径大部42cの外径は便器ノズル本体部41の内径よりも小さい。そのため、便器ノズル本体部41の内面と、噴流形成部材42の外周面との間には、上述のように隙間が形成されている。この隙間が洗浄水の流路41sとなる。
図5の接続管44から洗浄水が供給されると、その洗浄水は流路41sを通って先端部開口41hから噴出される。このとき、洗浄水は、径大部42c、拡大部42dの外周面に沿って外部に噴出される。すなわち、洗浄水は便器ノズル40の軸心に対してほぼ直交する方向へ放射状に噴出される。
(4−c) 便器プレ洗浄時の洗浄水の噴出流速
図9は、図4の便器ノズル40から噴出される洗浄水の噴出流速と広がり幅との関係を示す図である。
まず、噴出流速および広がり幅について説明する。図9(a)に噴出流速および広がり幅の定義を説明するための図が示されている。
図9(a)では、軸心が鉛直方向と平行となるように配置された便器ノズル40から洗浄水が噴出する状態が示されている。
ここで、噴出流速とは、矢印WVで示すように、便器ノズル40の先端部から水平方向に噴出される洗浄水の流速をいう。また、広がり幅とは、矢印WWで示すように、便器ノズル40から100mm下方において洗浄水が供給される領域の外径をいう。
図9(b)に、便器ノズル40から洗浄水を噴出させた場合の実験結果が示されている。図9(b)において縦軸は洗浄水の広がり幅WWを示し、横軸は洗浄水の噴出流速を示し、実線は広がり幅WWと噴出流速との関係を示す。
図9(b)に示すように、洗浄水の噴出流速を2m/sより大きくした場合には、広がり幅が200mmより大きくなる。この場合、便器700の内面の十分広い領域に洗浄水を供給することができるので、便器700の内面に汚物が付着することを十分に防止することができる。
また、洗浄水の噴出流速を10m/sより小さくした場合には、広がり幅が1000mmより小さくなる。この場合、便器700の外方へ洗浄水が飛散することを防止することができる。また、洗浄水の噴出流速を10m/sより小さくすることにより、便器ノズル40から噴出された洗浄水が便器700の内面で大きく跳ね返ることを防止することができる。それにより、洗浄水が便器700の外方へ飛散することを十分に防止することができる。
したがって、洗浄水の噴出速度を2m/s〜10m/sの範囲で設定することにより、洗浄水が便器700の外方に飛散することを十分に防止しつつ便器700に汚物が付着することを十分に防止することができる。なお、洗浄水の噴出速度は、4m/s〜8m/sの範囲で設定されることがより好ましい。この場合、洗浄水が便器700の外方に飛散することを確実に防止しつつ便器700に汚物が付着することを確実に防止することができる。
なお、便器700の開口は、幅が約27cm以上30cm以下でかつ奥行きが約32cm以上38cm以下に設計される。したがって、便器プレ洗浄時においては、便器ノズル40の先端部を図4のリムLMの上面(便器700の上端面)から約2cm下方に配置することが好ましい。
この状態で、便器ノズル40から洗浄水が噴出されると、噴出された洗浄水は重力の影響により放物線を描いて落下する。これにより、便器700の内面の広い範囲に洗浄水が供給される。
ここで、上記のように便器ノズル40の配置を設定することにより、便器ノズル40から便器700の内面に噴出される洗浄水は、リムLMの下端部よりも下方で便器700の内面に衝突する。それにより、便器プレ洗浄時に便器ノズル40から噴出された洗浄水が、便器700外に飛散することが確実に防止される。
便器後部洗浄時には、便器ノズル40の先端部は、便器ノズル40から噴出された洗浄液が便器700のリムLM内周面の後方側に供給されるように配置される。この場合、便器700の後方側は本体部200により覆われているので、リムLMに衝突した洗浄水が便器700外に飛散することが防止される。
(4−d) 便器プレ洗浄の動作タイミングと制御フロー
本例においては、使用者がトイレットルームに入室した際に制御部90の制御により便器プレ洗浄が開始される。また、使用者がトイレ装置1000を使用している場合には、制御部90の制御により便器後部洗浄が行われる。すなわち、使用者が便座部400(図1)に着座している場合には、便器ノズル40(図1)から前方側への洗浄水の飛散が阻止される。それにより、使用者に洗浄水が付着することが防止される。
制御部90は、所定時間の経過、使用者の便座部400への着座、または使用者による遠隔操作装置300の操作に基づいて便器プレ洗浄から便器後部洗浄への移行を行う。
ここで、上記の所定時間は、使用者がトイレットルームに入室してから便座部400に着座するまでの平均的な時間に基づいて予め決定される。そこで、本発明者らは、この所定時間を決定するために、使用者がトイレットルームに入室してから便座部400上に着座するまでの時間(以下、入室着座時間と呼ぶ。)を調査した。この調査は、所定人数の使用者についてトイレットルームを使用させ、各使用者の入室着座時間を測定し、入室着座時間ごとの累積百分率を算出することにより行った。
図10は、入室着座時間の調査結果を示す図である。図10において、横軸は入室着座時間を示し、縦軸は使用者の累積百分率を示す。
図10に示すように、本調査によれば、使用者の多く(9割以上の使用者)は、トイレットルームに入室した後約6秒間経過してから便座部400に着座することが明らかとなった。そこで、本例においては上記の所定時間を6秒に設定した。この場合、使用者が便座部400に着座する直前に便器プレ洗浄から便器後部洗浄への移行を行うことができる。それにより、使用者の着座前に便器700の内面を十分に濡らすとともに、便器ノズル40から噴出される洗浄水が使用者に付着することを確実に防止することができる。
次に、制御部90(図3)による便器洗浄処理(便器プレ洗浄および便器後部洗浄)の制御フローについて説明する。
図11は、制御部90による便器洗浄処理の制御フローを示す図である。
図11に示すように、制御部90は、まず、便器ノズルモータ40m(図3)を制御することにより、便器ノズル40を収納位置(図4および図5に示す位置)で保持する(ステップS1)。
次に、制御部90は、入室検知センサ600(図1)の出力信号に基づいて、使用者がトイレットルームに入室したか否かを判別する(ステップS2)。使用者がトイレットルームに入室した場合、制御部90は、便器ノズルモータ40mを制御することにより、便器ノズル40を便器洗浄位置(図6および図7に示す位置)に移動させる(ステップS3)。
次に、制御部90は、止水電磁弁7(図3)および切替弁モータ13m(図3)等を制御することにより便器ノズル40から洗浄水を噴出させるとともに、ランプ50を点灯させる(ステップS4)。
次に、制御部90は、使用者がトイレットルームに入室してから所定時間(例えば、6秒)経過したか否かを判別する(ステップS5)。所定時間経過していない場合、制御部90は、使用者により停止スイッチ311(図2)が押下されたか否かを判別する(ステップS6)。
停止スイッチ311が押下されていない場合、制御部90は、着座センサ610(図1)の出力信号に基づいて、使用者が便座部400(図1)に着座したか否かを判別する(ステップS7)。使用者が便座部400に着座していない場合、制御部90は、ステップS5の処理に戻る。
ステップS5において所定時間経過したと判別された場合、制御部90はランプ50を消灯する(ステップS8)。次に、制御部90は、便器ノズルモータ40m(図3)を制御することにより、便器ノズル40を収納位置(図4および図5に示す位置)に移動させる(ステップS9)。
次に、制御部90は、着座センサ610(図1)の出力信号に基づいて、使用者が起立したか否かを判別する(ステップS10)。使用者が起立したと判別された場合、制御部90は、止水電磁弁7(図3)等を制御することにより、便器ノズル40からの洗浄水の噴出を停止する(ステップS11)。これにより、制御部90による便器洗浄処理が終了する。
ステップS2において使用者が入室していないと判別された場合、制御部90は、使用者が入室するまで待機する。
ステップS6において使用者により停止スイッチ311が押下された場合、またはステップS7において使用者が便座部400に着座した場合、制御部90はステップS8の処理に進む。
ステップS10において使用者が起立していない場合、制御部90は、使用者が起立するまで待機する。
以上のように、本例においては、使用者がトイレットルームに入室してから所定時間が経過することにより、便器プレ洗浄が終了される。この場合、上述したように、使用者の着座前に便器700の内面を十分に濡らすとともに、便器ノズル40から噴出される洗浄水が使用者に付着することを確実に防止することができる。
また、使用者が停止スイッチ311を押下するか、あるいは使用者が便座部400に着座することにより、便器プレ洗浄が終了される。したがって、使用者が上記所定時間内に便座部400に着座した場合にも、便器ノズル40から噴出される洗浄水が使用者に付着することを防止することができる。
また、使用者が便座部400に着座している場合には、便器後部洗浄が行われる。それにより、便器700の内面の後方側に汚物が付着することを確実に防止することができる。
なお、図11の制御フローでは、ステップS3において便器ノズル40が便器洗浄位置に移動した後にステップS4において洗浄水の噴出を開始しているが、便器ノズル40が便器洗浄位置に移動する前すなわち収納位置に保持されている状態で洗浄水の噴出を開始してもよい。この場合、便器プレ洗浄が行われる前に、便器ノズル40の洗浄を行うことができる。それにより、便器ノズル40の汚染を確実に防止することができる。
また、図11の制御フローでは、ステップS2において使用者の入室を確認した場合に便器ノズル40を便器洗浄位置に移動させているが、便器ノズル40を予め便器洗浄位置で待機させてもよい。この場合、便器プレ洗浄を迅速に開始することができるので、十分な量の洗浄水を便器700に供給することができる。それにより、便器700に汚物が付着することをより確実に防止することができる。なお、便器ノズル40を予め便器洗浄位置で待機させる場合には、例えば、使用者がトイレ装置1000の使用を終えた後、所定時間経過した時点で便器ノズル40を便器洗浄位置に移動させてもよい。
また、便器ノズル40から洗浄水を噴出させる場合には、人体用切替弁13を制御することによりノズル部20(図3)への洗浄水の供給を停止してもよい。この場合、便器ノズル40に十分な量の洗浄水を供給することができるので、便器700を洗浄水で十分に濡らすことができる。その結果、便器700に汚物が付着することを十分に防止できる。
制御部90は、図11の制御フローにおいて、次の動作を行ってもよい。
例えば、制御部90は、図11のステップS4の動作後、ステップS5〜S7の動作に加えて、図1の便座部400の開閉状態を判別する。以下、この判別動作を便座開閉判別動作と称する。なお、便座部400の閉状態とは、便座部400が略水平となるように保持された状態(倒状態)をいい、便座部400の開状態とは、便座部400が略鉛直となるように保持された状態(起立状態)をいう。
便座部400が閉状態である場合、制御部90は上記ステップS5〜S7の動作および便座開閉判別動作のいずれかの動作を行う。一方、便座部400が開状態である場合、制御部90は、ステップS8の処理に進む。
このように、制御部90が動作することにより、便座部400が開状態で便器プレ洗浄が行われることが防止される。それにより、次の効果を得ることができる。
一般に、男子小用時には便座部400が開かれる。男子小用時に便器プレ洗浄が行われると、便器700内に噴射される洗浄水と小便とが衝突する。それにより、洗浄水または小便が便器700外に大きく飛散するおそれがある。
また、一般に、図1の便器700内の清掃時にも便座部400が開かれる。便器700内の清掃時に便器プレ洗浄が行われると、便器700内に噴射される洗浄水と便器700内に挿入された洗浄具(ブラシ等)とが衝突する。それにより、洗浄水が便器700外に大きく飛散するおそれがある。
また、便器700内に清掃用の洗浄液を塗布した場合でも、便器プレ洗浄が行われると、便器700内に塗布された洗浄液が清掃前に洗い流されてしまう。
したがって、上記のように、便座部400が開状態で便器プレ洗浄が行われない構成とすることにより、上記の不具合が確実に防止される。
さらに、制御部90は、ステップS2において、使用者の入室を検知した後、便座開閉判別動作を行ってもよい。この場合、制御部90は、便座部400が閉状態であるときにステップS3の動作を行い、便座部400が開状態であるときに便器洗浄処理を終了する。これにより、不必要な便器プレ洗浄が防止される。
ここで、制御部90は、便座部400の開状態または閉状態を検知する図示しない検知手段の検知信号に基づいて便座開閉判別動作を行う。
検知手段は、便座部400および蓋部500の図示しない開閉機構に取り付けられる。検知手段としては、例えばポテンショメータまたはリミットスイッチ等が用いられる。
(4−e) 便器洗浄処理および便器ノズルに関する効果
以上のように、本例においては、使用者が便座部400に着座する前に、便器プレ洗浄が行われる。それにより、便器700の内面の略全域を洗浄水で濡らすことができるので、便器700に汚物が付着することを防止することができる。
また、使用者が便座部400に着座した状態では、便器後部洗浄が行われる。便器後部洗浄時には、便器ノズル40の前方が便器ノズルカバー40Kにより遮蔽される。したがって、便器ノズル40から噴出される洗浄水の前方への飛散を阻止しつつ、便器700の内面の後方側を洗浄水で濡らすことができる。それにより、便座部400に着座している使用者に洗浄水が付着することを防止しつつ、便器700に汚物が付着することを防止することができる。
また、便器後部洗浄時には、便器ノズルカバー40Kにより便器ノズル40に汚物が付着することを防止することができる。したがって、便器プレ洗浄時および便器後部洗浄時に、汚物が洗浄水とともに便器ノズル40から噴出されることを防止することができる。それにより、便器700に汚物が付着することを十分に防止することができる。
また、便器後部洗浄時には、便器ノズル40から噴出された洗浄水が便器ノズルカバー40Kで跳ね返る。そして、その跳ね返った洗浄水により便器ノズル40を洗浄することができる。それにより、便器ノズル40に汚物が付着することを確実に防止することができる。
また、衛生洗浄装置100を便器700に取り付ける際または衛生洗浄装置100を搬送する際には、便器ノズル40を収納位置で保持することができる。この場合、便器ノズル40が便器ノズルカバー40Kにより覆われているので、便器ノズル40の損傷を防止することができる。
また、便器ノズルモータ40mを制御することにより、便器ノズル40の先端部の回動角度を調整することができる。それにより、便器700内における洗浄水の広がり幅WW(図9(a)参照)を調整することができる。
また、本例においては、捨て水回路(分岐配管30および分岐配管32)に便器ノズル40が設けられている。すなわち、本例においては、便器ノズル40を設けるために別個の回路を設けなくてよいので、水回路構成を簡略化することができる。
なお、上記においては、前後方向に平行な方向において便器ノズル40を回動させているが、左右方向に平行な方向において便器ノズル40を回動させてもよい。
(4−f) 便器ノズルの他の構造例
図12は、便器ノズル40の他の構造例を示す断面図である。図12(a)に便器ノズル40の先端部における縦断面図が示され、図12(b)に図12(a)のC18−C18線断面図が示されている。図12の便器ノズル40が図8の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。
図12に示す便器ノズル40においては、流路41sが便器ノズル本体部41の先端まで延びるように形成されている。噴流形成部材42は、径大部42cの外周面が便器ノズル本体部41の内面に接触するように流路41s内に挿入される。
また、便器ノズル本体部41の先端部において流路41sの外周部には、流路41sの径方向に突出する断面半円形状の溝部41gが形成されている。溝部41gは、噴流形成部材42を流路41s内に挿入した場合に、溝部41gの上端が径大部42cの上端より上方に位置するように所定の長さで形成されている。
図5の接続管44から便器ノズル40に洗浄水が供給されると、その洗浄水は流路41sおよび溝部41gを通って、溝部41gの先端から噴出される。このとき、洗浄水は、径大部42cおよび拡大部42dの外周面に沿って外部に噴出される。それにより、便器ノズル40から洗浄水が放射状に噴出される。
この便器ノズル40においては、上述したように、径大部42cの外周面と便器ノズル本体部41の内面とが接触するように噴流形成部材42が流路41s内に挿入されている。それにより、便器ノズル本体部41の軸心と噴流形成部材42の軸心とにずれが生じることを防止することができる。その結果、洗浄水を便器ノズル40から安定して噴出することができる。
なお、図12においては、4つの溝部41gを図示しているが、溝部41gの数は4つに限定されない。例えば、2つまたは3つの溝部41gを形成してもよく、5つ以上の溝部41gを形成してもよい。また、溝部41gの断面形状は図12の例に限定されない。例えば、溝部41gが矩形の断面形状を有してもよい。
(4−g) 便器ノズルのさらに他の構造例
図13は、便器ノズル40のさらに他の構造例を示す断面図である。図13(a)に便器ノズル40の先端部における縦断面図が示され、図13(b)に図13(a)のC19−C19線断面図が示されている。図13の便器ノズル40が図8の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。
図13に示す便器ノズル40においては、便器ノズル本体部41の先端部に6つの貫通孔41iが形成されている。これら6つの貫通孔41iは、便器ノズル本体部41の軸心を中心とする所定の径の円周上に等間隔で配置されている。
便器ノズル本体部41の先端には、中央部から下方に向かって突出する噴流形成部45が一体形成されている。噴流形成部45は、先端に向かって漸次径大となる拡大部45bおよび拡大部45bの先端に形成されるフランジ部45cからなる。なお、噴流形成部45の後端の直径は、6つの貫通孔41iの内接円の直径と等しい。
図5の接続管44から便器ノズル40に洗浄水が供給されると、その洗浄水は流路41sおよび貫通孔41iを通って、貫通孔41iの先端から噴出される。このとき、洗浄水は、拡大部45bの外周面に沿って外部に噴出される。それにより、便器ノズル40から洗浄水が放射状に噴出される。
この便器ノズル40においては、上述したように、噴流形成部45が便器ノズル本体部41の先端に一体形成されている。したがって、便器ノズル本体部41の軸心と噴流形成部45の軸心とにずれが生じない。その結果、洗浄水を便器ノズル40から安定して噴出することができる。
また、便器ノズル本体部41と噴流形成部45とが一体形成されているので、便器ノズル40の部品の数を減らすことができる。それにより、衛生洗浄装置100の製造が容易になる。
なお、図13においては、6つの貫通孔41iを図示しているが、貫通孔41iの数は6つに限定されない。例えば、5つ以下の貫通孔41iを形成してもよく、7つ以上の貫通孔41iを形成してもよい。また、貫通孔41iの断面形状は図13の例に限定されない。例えば、貫通孔41iが矩形の断面形状を有してもよい。
(4−h) 便器ノズルのさらに他の構造例
図14は、便器ノズル40のさらに他の構造例を示す断面図である。図14(a)に便器ノズル40の先端部における縦断面図が示され、図14(b)に図14(a)のC20−C20線断面図が示されている。図14の便器ノズル40が図8の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。
図14に示す便器ノズル40においては、挿入軸42aの軸心が便器ノズル本体部41の軸心に対して後方に位置するように噴流形成部材42設けられている。
そのため、便器ノズル本体部41の内周面と噴流形成部材42の外周面との間の隙間は前方側が大きくなる。この場合、便器ノズル40の前方側の隙間から噴出される洗浄水の量が後方側の隙間から噴出される洗浄水の量よりも多くなる。それにより、便器ノズル40が便器700(図1)の後方側に設けられている場合にも、便器700の内面の前方側に十分な量の洗浄水を供給することができる。その結果、便器700の内面の前方側が洗浄水により十分に濡らされ、便器700に汚物が付着することを確実に防止することができる。
なお、便器ノズル40の前方側から噴出される洗浄水の量を多くする方法は、上記の例に限定されない。図15は、便器ノズル40の前方側から噴出される洗浄水の量を多くするための他の方法を説明するための図である。
図15(a)の便器ノズル40が図12(b)の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。図15(a)の便器ノズル40においては、前方側における溝部41g間の距離が後方側における溝部41g間の距離に比べて小さくなっている。すなわち、複数の溝部41gが便器ノズル40の前方側に高い密度で配置されている。それにより、便器ノズル40の前方側に噴出される洗浄水の量を多くすることができる。
また、図15(b)に示す便器ノズル40が図12(b)の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。図15(b)の便器ノズル40においては、前方側の溝部41gの断面積が後方側の溝部41gの断面積よりも大きい。それにより、便器ノズル40の前方側に噴出される洗浄水の量を多くすることができる。
図15(c)に示す便器ノズル40が図13(b)の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。図15(c)の便器ノズル40においては、前方側における貫通孔41i間の距離が後方側における貫通孔41i間の距離に比べて小さくなっている。すなわち、複数の貫通孔41iが便器ノズル40の前方側に密集している。それにより、便器ノズル40の前方側に噴出される洗浄水の量を多くすることができる。
また、図15(d)に示す便器ノズル40が図13(b)の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。図15(d)の便器ノズル40においては、前方側の貫通孔41iの断面積が後方側の貫通孔41iの断面積よりも大きい。それにより、便器ノズル40の前方側に噴出される洗浄水の量を多くすることができる。
(4−i) 便器ノズルのさらに他の構造例
図16は、便器ノズル40のさらに他の構造例を示す断面図である。図16に示す便器ノズル40が図8の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。
図16に示す便器ノズル40においては、便器ノズル本体部41の先端面は、前方側が上方に傾斜するように形成されている。また、径大部42cの先端には、前方側が上方に傾斜するようにフランジ部42eが設けられている。
この場合、便器ノズル40の前方から洗浄水が斜め上方に向かって噴出される。それにより、便器ノズル40が便器700(図1)の後方側に設けられている場合にも、便器700の内面の前方側に十分な量の洗浄水を供給することができる。その結果、便器700の内面の前方側が洗浄水により十分に濡らされ、便器700に汚物が付着することを確実に防止することができる。
また、噴流形成部材42の径大部42cの外周面と便器ノズル本体部41の内周面との隙間で形成される流路の軸方向に平行な方向の長さは、前方側が短く、後方側が長くなる。この場合、後方側の流路に流れる洗浄水の流量に比べて前方側の流路に流れる洗浄水の流量が多くなる。それにより、便器700の内面の前方側を洗浄水により十分に濡らすことができる。その結果、便器700に汚物が付着することを確実に防止することができる。
(4−j) 便器ノズルのさらに他の構造例
図17は、便器ノズル40のさらに他の構造例を示す断面図である。図17に示す便器ノズル40が図8の便器ノズル40と異なるのは以下の点である。
図17に示す便器ノズル40においては、噴流形成部材42が上下動可能に設けられている。本例においては、噴流形成部材42を上下動させることにより、便器ノズル本体部41の内周面と挿入軸42a(径大部42c)の外周面との間の隙間の大きさを調整することができる。それにより、便器ノズル40から噴出される洗浄水の流速を調整することができる。
図17(a)に示すように、フランジ部42eを先端部開口41hから離間させた場合、便器ノズル本体部41の内周面と挿入軸42aの外周面との間の隙間が大きくなる。この場合、便器ノズル40から噴出される洗浄水の流速が小さくなるので、放射状に噴出される洗浄水の広がり範囲が小さくなる。
したがって、例えば、便器後部洗浄時には、図17(a)に示す状態で便器ノズル40から洗浄水を噴出させることにより、便器ノズル40から前方側に洗浄水が飛散することを阻止しつつ、便器700(図1)の内面の後方側を洗浄水で濡らすことができる。それにより、使用者に洗浄水が付着することを防止しつつ便器700に汚物が付着することを防止することができる。
また、図17(b)に示すように、フランジ部42eを先端部開口41hに近接させた場合、便器ノズル本体部41の内周面と径大部42cの外周面との間の隙間が小さくなる。この場合、便器ノズル40から噴出される洗浄水の流速が大きくなる。
したがって、例えば、便器プレ洗浄時には、図17(b)に示す状態で便器ノズル40から洗浄水を噴出させることにより、便器700の内面の前方側に十分な量の洗浄水を供給することができる。その結果、便器700の内面の前方側が洗浄水により十分に濡らされ、便器700に汚物が付着することを確実に防止することができる。
また、本例においては、拡大部42dの最大断面積が先端部開口41hの面積より大きくなるように噴流形成部材42が形成されている。この場合、噴流形成部材42を上方に移動させることにより、拡大部42dで先端部開口41hを封止することができる。したがって、使用者がトイレ装置1000を使用している場合には、拡大部42dで先端部開口41hを封止することにより、先端部開口41hに汚物が付着することを防止することができる。
それにより、便器プレ洗浄時に汚物が洗浄水とともに便器ノズル40から噴出されることを防止することができる。その結果、便器700に汚物が付着することを十分に防止することができる。
また、先端部開口41hを封止することにより、トイレットルームの清掃時等に塵埃および洗剤等が流路41s内に入り込むことを防止することができる。それにより、便器ノズル40の汚染をより確実に防止することができる。
また、本例においては、噴流形成部材42および先端部開口41hに水道水のスケール成分、錆、ゴミ、および汚物等が付着したとしても、噴流形成部材42を上下動させることにより、その付着物を容易に取り除くことができる。それにより、便器ノズル40の目詰まりを防止することができる。
なお、図18に示すように、便器ノズル本体部41を上下動可能に設けてもよい。
(4−k) 便器ノズルおよびその周辺のさらに他の構造例
図19は、便器ノズル40およびその周辺(以下、便器ノズル40等と略記する。)の他の構造例を示す図である。図19に示す便器ノズル40等が図5に示す便器ノズル40等と異なるのは以下の点である。
図19(a)に示すように、本例においては、便器ノズル40の先端部を覆うように、下端にカバー開口40Vを有する箱状の便器ノズルカバー40Kが設けられている。便器ノズル40は上下動可能に設けられており、便器ノズル40が下方に移動することにより、図19(b)に示すように、噴流形成部材42がカバー開口40Vから便器ノズルカバー40Kの下方に突出する。
本例においては、便器ノズル40の先端部を取り囲むように便器ノズルカバー40Kが設けられているので、便器ノズル40に汚物が付着することを確実に防止することができる。したがって、便器ノズル40が汚物によって汚染されることがない。
また、便器ノズルカバー40Kにより便器ノズル40の周囲が取り囲まれているので、衛生洗浄装置100の搬送時等に便器ノズル40が損傷することを防止することができる。
また、本例では、図19(a)の状態で便器ノズル40から洗浄水を噴出させた場合、その洗浄水は便器ノズルカバー40Kの内面に衝突し、便器ノズル40に跳ね返る。それにより、便器ノズル40が洗浄され、便器ノズル40の汚染が防止される。
便器プレ洗浄時には、図19(b)に示す状態で洗浄水が噴出される。
なお、図20に示すように、便器ノズルカバー40Kを上下動可能に設けてもよい。
(4−l) 便器ノズルおよびその周辺のさらに他の構造例
図21は、便器ノズル40等のさらに他の構造例を示す図である。図21に示す便器ノズル40等が図5に示す便器ノズル40等と異なるのは以下の点である。
図21に示すように、本例においては、便器ノズル40は本体下部ケーシング200Aに固定されている。便器ノズル本体部41の先端部は、本体下部ケーシング200Aの下面から下方に突出している。接続管44は便器ノズル本体部41の側面に接続されている。
また、本体下部ケーシング200A内には、モータ49mが設けられ、モータ49mの回転軸49sに回転片43の一端が固定されている。回転片43の他端には、板状の便器ノズルカバー40Kが取り付けられている。便器ノズルカバー40Kの先端部は、本体下部ケーシング200Aの下面から下方に突出している。
モータ49mの回転軸49sが回動することにより、便器ノズルカバー40Kが便器ノズル40の前方で上下方向に移動する。
本例においては、図21(a)に示すように、便器ノズルカバー40Kの下端が便器ノズル40の先端部より上方に位置する状態で便器プレ洗浄が行われる。
また、図21(b)に示すように、便器ノズルカバー40Kの下端が便器ノズル40の先端部とほぼ同じ高さに位置する状態で便器後部洗浄が行われる。なお、この場合、便器ノズル40から前方に噴出された洗浄水は便器ノズルカバー40Kに衝突し、便器ノズル40の先端部に跳ね返る。これにより、人体への洗浄水の付着が防止されるとともに、便器ノズル40の先端部が洗浄される。また、便器ノズルカバー40Kにより便器ノズル40の先端部に汚物が付着することが防止される。これらの結果、便器ノズル40の先端部の汚染を確実に防止することができる。
また、本例においては、便器ノズル40を回動させなくてよいので、便器ノズル40が損傷することを防止することができる。また、便器ノズル40を安定させることができるので、洗浄水の噴出状態を安定させることができる。
(4−m) 便器ノズルおよびその周辺のさらに他の構造例
図22は、便器ノズル40等のさらに他の構造例を示す図である。図22に示す便器ノズル40等が図5に示す便器ノズル40等と異なるのは以下の点である。
図22(a)に示すように、本例においては、下方にカバー開口40Vを有する箱状の便器ノズルカバー40K内に便器ノズル40が設けられている。便器ノズル40の後端部は便器ノズルモータ40mに接続されている。それにより、便器ノズルモータ40mが動作すると、便器ノズル40の先端部が回動する。
図22(a)に示すように便器ノズル40を水平に保持した状態で洗浄水を噴出させた場合、洗浄水が便器ノズルカバー40Kの上面に衝突し、便器ノズル40に跳ね返る。それにより、便器ノズル40が洗浄され、便器ノズル40の汚染が防止される。便器プレ洗浄を行う際には、図22(b)に示すように便器ノズル40を鉛直方向に保持した状態で洗浄水を噴出させる。
本例においては、図22(a)に示すように、便器ノズルカバー40K内において便器ノズル40を水平に保持することができる。それにより、本体部200(図4)内に高さ方向のスペースを十分に確保できない場合にも、本体部200内に便器ノズル40を容易に設けることができる。したがって、本体部200の小型化が可能になるとともに、本体部200の設計が容易になる。
また、便器ノズル40を水平に保持した状態では、便器ノズルカバー40Kにより便器ノズル40が十分に保護されるので、便器ノズル40に汚物が付着することを確実に防止することができる。また、便器ノズル40の損傷を確実に防止することができる。
また、便器ノズル40の回動角度を調整することにより、洗浄水の広がり幅WW(図9(b)参照)を調整することができる。
(4−n) 本体部の他の構成例
図23は、本体部200の他の構成例を示す模式図である。図23の本体部200が図3の本体部200と異なるのは以下の点である。
図23の本体部200においては、配管3における止水電磁弁7と流量センサ8との間にイオン溶出装置70が介挿されている。
イオン溶出装置70は、制御部90により制御され、配管3を流れる洗浄水に銀イオンを溶出させる(除菌動作)。それにより、銀イオンを含む洗浄水がおしりノズル21、ビデノズル22、ノズル洗浄ノズル23および便器ノズル40から噴出される。なお、イオン溶出装置70の詳細は後述する。
銀イオンは殺菌性を有するので、おしりノズル21、ビデノズル22および便器ノズル40の洗浄水の噴出口に付着する細菌が殺菌される。
また、おしりノズル21およびビデノズル22の便器700内に突出する部分がノズル洗浄ノズル23により洗浄される。これにより、おしりノズル21およびビデノズル22の殺菌が確実に行われる。
さらに、便器プレ洗浄時に便器ノズル40から洗浄水が便器700の内面の広い範囲に噴出されるので、便器700の殺菌が確実に行われる。それにより、悪臭の発生を防止することができるとともに、便器700を清潔に保つことができる。
また、上述したように、本例においては、便器ノズルカバー40K(図5)により跳ね返される洗浄水を用いて便器ノズル40を洗浄することが可能である。したがって、便器ノズル40の殺菌も確実に行われる。
なお、イオン溶出装置70において溶出されるイオンは、上記の銀イオンの他、殺菌性を有する金属イオンであればよく、例えば、銅イオンまたは亜鉛イオンが用いられてもよい。この場合、イオン溶出装置70に設けられる後述の銀電極75(図24)に代えて、銅電極または亜鉛電極が用いられる。
(4−o) イオン溶出装置の構成
図24は、図23のイオン溶出装置70の断面図である。図24(a)に、イオン溶出装置70の横断面図が示され、図24(b)に、図24(a)のイオン溶出装置70のC5−C5線断面図(縦断面図)が示されている。
図24(a)および図24(b)に示すように、イオン溶出装置70は、電極ケーシング71を有する。電極ケーシング71は、流路形成部71aおよび電極支持部71bからなる。流路形成部71aの内部にはイオン溶出空間FUが形成されている。イオン溶出空間FUは、洗浄水の流路の一部を構成する。
電極ケーシング71の一方側には、ねじ74により電極支持部材73が固定されている。電極支持部材73には、L字形状の2本の銀電極75の一端部が埋設されている。電極ケーシング71の一方側の側面には、2本の銀電極75を挿通するための2つの貫通孔が形成されている。この2つの貫通孔を介して2本の銀電極75がイオン溶出空間FU内にそれぞれ挿入されている。
電極ケーシング71の他方側には、開口71sが形成されている。この開口71sを塞ぐようにポート部材72が取り付けられる。ポート部材72には、2本の銀電極75の他端がそれぞれ取り付けられている。
ポート部材72には、第1のポート72aおよび第2のポート72bが形成されている。第1のポート72aおよび第2のポート72bには、それぞれ図23の配管3が接続される。配管3を流れる洗浄水は、第2のポート72bを介してイオン溶出空間FU内に導入される。2本の銀電極75の間に電圧を印加することにより、イオン溶出空間FU内で、銀電極75から洗浄水に銀イオンが溶出する。この銀イオンを含む洗浄水は、第1のポート72aを介して再び配管3へと流れる。
上記構成を有するイオン溶出装置70において、2本の銀電極75は、イオン溶出空間FUの略中央部に位置し、銀電極75と電極ケーシング71の内部下面との間には隙間が形成されている。
これにより、銀電極75の電解反応により発生する銀イオンを含む沈殿物(塩化銀および酸化銀等)が、電極ケーシング71の内部下面上に沈殿する。それにより、溶出した銀イオンによる2本の銀電極75間の電極間電位の低下が防止され、安定した電解作用を得ることができる。また、2本の銀電極75間にこのような沈殿物が付着することが防止され、電極間の短絡が防止できる。
また、図24(b)に示すように、第2のポート72bは電極ケーシング71の下面側に設けられている。この場合、電極ケーシング71の内部下面上に沈殿した沈殿物を、第2のポート72bから第1のポート72aへと流れる洗浄水により、イオン溶出空間FUから効率よく排出することができる。
また、図24(b)に示すように、イオン溶出空間FUの上面は、ポート部材72側に向かって上方に傾斜している。この場合、イオン溶出空間FU内で発生したガスがポート部材72側の上部に集められる。それにより、イオン溶出空間FU内で発生したガスを第1のポート72aから効率よく排出することができる。
なお、上述のように、イオン溶出装置70は制御部90により制御される。すなわち、制御部90により、2本の銀電極75間への電圧の印加タイミングが制御される。
(4−p) 本体部のさらに他の構成例
図25は、本体部200のさらに他の構成例を示す模式図である。図25の本体部200が図3の本体部200と異なるのは以下の点である。
図25の本体部200においては、配管3における定流量弁6と止水電磁弁7との間から延びる分岐配管33が設けられている。分岐配管33には、止水電磁弁34および便器ノズル40が設けられている。
この場合、制御部90により止水電磁弁34を制御することにより、便器ノズル40からの洗浄水の噴出の開始および停止を容易に切り替えることができる。
また、分岐配管33が本体部200の上流部に設けられているので、便器ノズル40に十分な圧力で洗浄水を供給することができる。
また、止水電磁弁7および止水電磁弁34を開くことにより、ノズル部20および便器ノズル40から同時に洗浄水を噴出させることが可能となる。
(4−q) 本体部のさらに他の構成例
図26は、本体部200のさらに他の構成例を示す模式図である。図26の本体部200が図3の本体部200と異なるのは以下の点である。
図26の本体部200においては、配管3に便器用切替弁14が設けられている。便器用切替弁14は便器切替弁モータ14mを含む。便器用切替弁14は、配管3において、分岐配管30との連結部より上流側でかつ止水電磁弁7より下流側に設けられている。便器用切替弁14の複数のポートのうちの一つに配管35が接続されている。便器ノズル40は、配管35の先端に設けられている。
この場合、制御部90により便器切替弁モータ14mを制御することにより、便器ノズル40からの洗浄水の噴出の開始および停止を容易に切り替えることができる。
また、分岐配管35が本体部200の上流部に設けられているので、便器ノズル40に十分な圧力で洗浄水を供給することができる。
(4−r) 本体部のさらに他の構成例
図27は、本体部200のさらに他の構成例を示す模式図である。図27の本体部200が図3の本体部200と異なるのは以下の点である。
図27の本体部200においては、配管10におけるバッファタンク12と人体用切替弁13との間に便器用切替弁14が設けられている。便器用切替弁14の複数のポートのうちの一つに配管35が接続されている。便器ノズル40は、配管35の先端に設けられている。
この場合、制御部90により便器切替弁モータ14mを制御することにより、便器ノズル40からの洗浄水の噴出の開始および停止を容易に切り替えることができる。
また、配管35がポンプ11の下流側に配置されるので、便器ノズル40に供給される洗浄水の圧力を一定に保つことができる。
また、配管35が熱交換器9の下流側に配置されるので、便器ノズル40から温水を噴出させることができる。それにより、便器700に汚物が付着することをさらに確実に防止することができる。また、温水で便器700を洗浄することにより、除菌効果が得られる。
(4−s) 本体部のさらに他の構成例
図28は、本体部200のさらに他の構成例を示す模式図である。図28の本体部200が図3の本体部200と異なるのは以下の点である。
図27の本体部200においては、図3の人体用切替弁13の代わりに切替弁15が設けられている。切替弁15は切替弁モータ15mを含む。切替弁15の複数のポートにおしりノズル21、ビデノズル22、ノズル洗浄ノズル23および配管36がそれぞれ接続される。配管36の先端に便器ノズル40が設けられる。
切替弁15においては、切替弁モータ15mが動作することによりポンプ11から圧送された洗浄水が、おしりノズル21、ビデノズル22、ノズル洗浄ノズル23および便器ノズル40(配管36)のいずれかに供給される。
本例においては、おしりノズル21、ビデノズル22、ノズル洗浄ノズル23および便器ノズル40を共通の切替弁15に接続することができるので、本体部の構成を簡略化することができる。それにより、衛生洗浄装置100の製造コストを低減できる。
<5> 熱交換器の構成および制御
(5−a) 熱交換器の外観および構造
熱交換器9について説明する。図29は図3の熱交換器9を一方側から見た外観斜視図であり、図30は図3の熱交換器9を他方側から見た外観斜視図であり、図31は図3の熱交換器9の平面図である。なお、図29には、熱交換器9の制御系も示されている。
また、図32(a)は図31のA31−A31線断面図であり、図32(b)は図31のB31−B31線断面図であり、図32(c)は図31のC31−C31線断面図である。さらに、図33(a)は図3の熱交換器9の側面図であり、図33(b)は図33(a)のC33−C33線断面図である。
以下の説明においては、図29〜図33の矢印X,Y,Zで示すように、互いに直交する3方向をそれぞれX方向、Y方向およびZ方向と定義する。なお、本例において、Z方向は鉛直方向を示す。
図29および図30に示すように、熱交換器9には、X方向に沿うようにかつZ方向に並ぶように2本のシーズヒータ91,92が設けられる。これら2本のシーズヒータ91,92は、それらの中央部がそれぞれ管状の流路形成管9Tの内部に挿入されている。これにより、シーズヒータ91,92の外周面と流路形成管9Tの内周面との間に洗浄水の流路(図32および図33)が形成される。詳細は後述する。
シーズヒータ91,92および流路形成管9Tの両端部は、端面部材94,95により固定されている。また、2本の流路形成管9Tの中央部は、2枚の金属板93a,93bにより挟まれた状態で固定されている。これにより、シーズヒータ91,92、端面部材94,95、流路形成管9T、および金属板93a,93bが互いに一体的に固定される。
なお、金属板93a,93bは、流路形成管9Tを固定するとともに、シーズヒータ91,92が駆動される際に放熱板として機能する。
2本の流路形成管9Tを挟む一方の金属板93aには非復帰型のサーモスタット96が取り付けられている(図29)。サーモスタット96は、金属板93aの温度を監視するために用いられ、熱交換器8内に水がない状態で空焚きされる場合またはトライアックがショートした場合などに通電を遮断する温度ヒューズの役割を果たす。
上記の非復帰型のサーモスタット96に代えて、温度ヒューズを用いてもよい。この場合、例えば温度ヒューズを、2本の流路形成管9Tの間に配置し、2枚の金属板93a,93bにより挟みこむように取り付ける。これにより、温度ヒューズを熱交換器9に一体的に取り付けることができるので、デッドスペースを効果的に利用することができる。また、温度ヒューズが一体的に設けられた熱交換器の薄型化が実現される。
シーズヒータ91,92の一端を固定する端面部材95には、Y方向に延びるように、入水ポート91Pが形成されている(図30)。また、端面部材95のZ方向における一方側には、出水温度検知部95Zが一体成形されている。出水温度検知部95Zには、出水ポート92Pが形成されるとともに、復帰型のサーモスタット97および出湯温度センサ98が取り付けられている(図29)。
また、入水ポート91Pは、図3の流量センサ8および図示しない入水温度センサにより構成されるユニット(図示せず)に連結される。このユニットは、端面部材95に一体的に設けられてもよい。この場合、図3の本体部200の内部における流量センサ8、入水温度センサおよび熱交換器9の設置スペースが十分に低減される。
図31および図32(c)に示すように、端面部材95において、入水ポート91Pは、その内部空間がシーズヒータ91を覆う流路形成管9Tの内部空間に連通するように形成されている。
また、出水ポート92Pは、その内部空間が端面部材95Zの内部に形成された温度検出空間95Sを介してシーズヒータ92を覆う流路形成管9Tの内部空間に連通するように形成されている。
入水ポート91Pおよび出水ポート92Pの内部空間、流路形成管9Tの内周面とシーズヒータ91,92の外周面との間の空間、ならびに温度検出空間95Sが洗浄水の流路fを構成する。
上記のように、端面部材95において、シーズヒータ91側の流路fと、シーズヒータ92側の流路fとは、互いに分離されている。これにより、入水ポート91Pに供給される洗浄水は、シーズヒータ91の外周面に沿って端面部材94側に送られる(図32(b))。
図32(a)に示すように、端面部材94において、固定された2本の流路形成管9Tの間には、シーズヒータ91を覆う流路形成管9Tの内部空間と、シーズヒータ92を覆う流路形成管9Tの内部空間とを連通する流路fが形成されている。
これにより、シーズヒータ91の外周面に沿って端面部材94側に供給された洗浄水は、2本の流路形成管9Tの間に形成された流路fを通って、シーズヒータ92を覆う流路形成管9T側の流路fに導かれる。そして、この洗浄水は、シーズヒータ92の外周面に沿って再び端面部材95側に送られる(図32(b))。端面部材95側に送られた洗浄水は、温度検出空間95Sを通じて出水ポート92Pから流出する。
図32(c)に示すように、温度検出空間95S内には、出湯温度センサ98の先端部が挿入されている。これにより、温度検出空間95Sを流れる洗浄水の温度が出湯温度センサ98の先端部により測定される。また、出水温度検知部95ZにおけるZ方向に直交する一面側には、サーモスタット97が取り付けられている。このサーモスタット97は、温度検出空間95Sを流れる洗浄水の温度を監視するために用いられ、出湯温度(熱交換器9から流出する洗浄水の温度)が所定の温度を超えることにより熱交換器9の通電を遮断する。
シーズヒータ91,92の周辺構造について説明する。図33(b)に示すように、シーズヒータ91,92と流路形成管9Tとの間には、螺旋状のバネ9Bがシーズヒータ91,92の外周面上に巻回されるように設けられている。
これにより、シーズヒータ91,92の外周面、流路形成管9Tの内周面およびバネ9Bの間に、螺旋状の流路fが形成される。したがって、上述のように、洗浄水がシーズヒータ91,92の外周面に沿って流れる際には、洗浄水が螺旋状に旋回しながら流動する。
シーズヒータ91,92に電流を供給することにより、シーズヒータ91,92が発熱する。この状態で、シーズヒータ91,92の外周面に沿って洗浄水を流動させる。この場合、その外周部を流動する洗浄水が加熱される。その結果、出水ポート92Pから、シーズヒータ91,92により加熱された洗浄水が流出する。
シーズヒータ91,92、流路形成管9Tおよびバネ9Bにより形成される流路fの断面積(流路断面積)は、セラミックヒータを用いた熱交換器の流路断面積に比べて非常に小さく設定することができる。
具体的には、図33(b)で示される熱交換器9の加熱部の流路断面積は、約7mm2に設定される。一方。セラミックヒータを用いた熱交換器における加熱部の流路断面積は約32mm2に設定される。
なお、ここでいうセラミックヒータを用いた熱交換器とは、シーズヒータ91,92とほぼ同一の形状を有する2本のセラミックヒータを、シーズヒータ91,92に代えて図29の熱交換器9に取り付けたものをいう。
上記の理由について説明する。上述のように、シーズヒータ91,92を用いた熱交換器9においては、洗浄水がシーズヒータ91,92の外周面に沿って流れる。ここで、シーズヒータ91,92の外周面は、後述するように金属製の管材により構成される。
一方、セラミックヒータの外周面は、陶器製の管材により構成される。陶器製の管材は素焼きにより作製されるので、セラミックヒータの外周面は、シーズヒータ91,92の外周面に比べて表面粗さが大きい。
このため、洗浄水がセラミックヒータの外周面に沿って流れるときの圧力損失は、洗浄水がシーズヒータ91,92の外表面に沿って流れるときの圧力損失に比べて大きくなる。圧力損失が大きくなると、洗浄水の流速が低下する。
これにより、要求される洗浄水の流速を確保する場合に、シーズヒータ91,92を用いた熱交換器9の流路断面積を、セラミックヒータを用いた熱交換器の流路断面積よりも小さくすることが可能となる。
ところで、一般に、使用者の局部に洗浄水を噴射するトイレ装置は、水道配管に直接接続された状態で使用される。したがって、このようなトイレ装置の給水系は、水道配管内の水道水の静水圧に耐えられるように設計される。
水道配管内の水道水の静水圧は、地域ごとに異なる。静水圧が低い地域では、水道配管における静水圧は例えば約49kPaである。また、静水圧が高い地域では、水道配管における静水圧は例えば約735kPaである。したがって、トイレ装置の給水系は、少なくとも約49kPa以上約735kPa以下の範囲で水道水の静水圧に耐えられる構成となっている必要がある。
このような給水系を実現するためには、予め水道水の静水圧に耐えられる部材を用いる必要がある。このため、給水系の各構成部材には、所定の強度および所定のコスト、例えばリブの追加等の十分な材料の厚みおよび強度確保のための構成が要求される。
ここで、給水系における洗浄水の流路の圧力損失が大きいと、各構成部材(ポンプ等)の負荷が大きくなる。この場合、給水系の各構成部材がさらに大型化し、さらに高コスト化する。したがって、給水系における洗浄水の流路は、できる限り圧力損失が低くなるように形成することが望ましい。
そこで、上記のように、シーズヒータ91,92を用いた熱交換器9を用いる。これにより、給水系の少なくとも一部を洗浄水の圧力損失が低くなるように形成することができる。その結果、給水系の大型化が抑制されるとともに、高コスト化が抑制される。
上記のように、図33(b)の熱交換器9の流路fの断面積を、セラミックヒータを用いた熱交換器の流路断面積に比べて非常に小さく設定する。これにより、セラミックヒータを用いる場合に比べて、シーズヒータ91,92により加熱される洗浄水の温度むらの発生が十分に抑制される。それにより、加熱後の洗浄水の流量が安定する。
その結果、ヒータ内の温度勾配がほぼ一定となり、出湯温度センサ98および入水温度センサ(図示せず)からの検知温度、ならびにポンプ11への通電量により流量が推定できる。このため、流量センサ8(図3)が不要となり、省スペース化が実現される。もちろん、流量センサ8を取り付けることにより、より精度よい制御が可能となる。
さらに、図33(b)の熱交換器9の流路fの断面積を小さくすることにより、シーズヒータ91,92の外周面に接する部分の洗浄水と、流路形成管9Tの内周面に接する部分の洗浄水との間で急激な温度勾配が発生することが抑制される。また、流路fを流れる洗浄水の流速が高くなるので、流路f内に乱流が発生する。流路f内に乱流が発生することにより、流路f内の温度分布が急峻に変動する。その結果、熱交換器9における熱交換の効率が向上する。
上記のように、図29の熱交換器9は、構造が単純であり、その組み立て時に、超音波溶着およびポッティングを行う必要がない。それにより、組み立て工数が低減されている。
図32(c)の矢印faで示すように、温度検出空間95Sには、シーズヒータ92側の流路fから加熱された洗浄水が流れ込む。
上述のように、温度検出空間95S内には出湯温度センサ98の先端部が挿入されている。出湯温度センサ98の先端部は、温度検出空間95Sの略中央部に位置する。これにより、シーズヒータ91,92により加熱された洗浄水は、温度検出空間95S内に流れ込むとともに出湯温度センサ98の先端部を通過する。それにより、出湯温度センサ98による洗浄水の温度の検知精度が向上する。
その後、温度センサ98の先端部を通過した洗浄水は、サーモスタット97の温度監視面に衝突する。これにより、加熱された洗浄水が確実にサーモスタット97に供給されるので、サーモスタット97による洗浄水の温度監視が精度よく行われる。
洗浄水がサーモスタット97に衝突することにより、洗浄水の流れ方向が、容易に変更される。これにより、温度検出空間95Sに流れ込む洗浄水が、出水ポート92Pの流路fへ円滑に流れる。
このように、この熱交換器9において、サーモスタット97は、熱交換器9から流出する直前の洗浄水の温度を監視するので、熱交換器9から流出する洗浄水の温度異常が迅速に検知される。
上述のように、シーズヒータ91,92の両端部は、端面部材94,95により固定されている。シーズヒータ91,92の固定について詳細を説明する。
図33(b)に示すように、シーズヒータ91,92の両端部にはOリングORが取り付けられる。そして、シーズヒータ91,92に取り付けられたOリングORが端面部材94,95により固定される。
この場合、シーズヒータ91,92の外周面と、端面部材94,95との間がOリングORによりシールされる。ここで、OリングORは、弾性体である。そのため、シーズヒータ91,92が熱により伸縮する場合でも、その伸縮がOリングORにより許容される。
後述するように、シーズヒータ91,92の外周面は、例えば銅管91c(図34)により構成される。銅の線膨張係数は16.8×10−6/℃である。したがって、20℃の洗浄水を約40℃まで沸かす場合には、シーズヒータ91,92の温度が約50K上昇するので、約100mmの銅管91cが約0.1mm程度伸びる。
この場合、シーズヒータ91,92が端面部材94,95により完全に固定されてしまうと、洗浄水の加熱が繰り返されることにより固定部に繰り返し応力が発生し、シーズヒータ91,92が破損する。また、シーズヒータ91,92と端面部材94,95との間に隙間が発生する。
そこで、本例の熱交換器9においては、上記のように、シーズヒータ91,92をOリングORにより弾性的に固定する。
ここで、シーズヒータ91,92の構造について説明する。なお、シーズヒータ91,92はともに同じ構造を有するため、以下ではシーズヒータ91の構造についてのみ説明する。
図34は、図29のシーズヒータ91の構造を説明するための図である。図34(a)にシーズヒータ91の側面図が示され、図34(b)にシーズヒータ91の上面図が示され、図34(c)にシーズヒータ91の縦断面図が示されている。
図34(a)および図34(b)に示すように、シーズヒータ91は、1本の銅管91cの両端部からそれぞれ電極91aが突出した構造を有する。また、銅管91cの両端部から突出する2本の電極91aの部分には、それぞれ端子91bが取り付けられている。
図34(c)に示すように、銅管91cの内部では、挿入された2本の電極91aの部分が、電熱線91wにより接続されている。銅管91cの内部には、さらに酸化マグネシウムの粉末が絶縁材として充填されている。
上記構成を有するシーズヒータ91においては、銅管91cに代えて、鋼、ステンレスまたはインコネル等の金属管を用いてもよい。また、電熱線91wとしては、例えばタングステンフィラメントが用いられる。
上述のように、熱交換器9には2本のシーズヒータ91,92が用いられる。これらの定格電力は、それぞれ600Wである。これにより、熱交換器9は最大1200Wで駆動される。なお、1200Wとは、一般家庭のコンセントから得ることができるほぼ最大の電力量である。
(5−b) 位相制御による熱交換器の駆動方法
図29に示すように、熱交換器9に設けられる2本のシーズヒータ91,92は、それぞれ電力供給部9VIと接続されている。また、電力供給部9VIは、交流電源ACSおよび制御部90と接続されている。
電力供給部9VIは、図示しないトライアックおよびトリガ部を含む。トリガ部は、制御部90から与えられる制御信号に応答してパルス状の点弧信号をトライアックに与える。これにより、トライアックの点弧角が位相制御され、交流電源ACSからシーズヒータ91,92に供給される電力が調整される。
このように、点弧角の位相制御によりシーズヒータ91,92に供給される電力を調整する場合、シーズヒータ91,92を流れる電流に高調波成分(高調波電流)が発生する。
高調波電流のレベルは、点弧角での交流電流の振幅が大きくなるほど高くなる。そこで、本例では、点弧角の位相制御による高レベルの高調波電流の発生を抑制するために、定格電力が600Wである2本のシーズヒータ91,92を用いるとともに、以下に説明する方法で熱交換器9を駆動する。本例では、熱交換器9の総定格電力は1200Wである。
以下の説明では、図30の入水ポート91P側に配置されたシーズヒータ91を一次側シーズヒータ91と呼び、図30の出水ポート92P側に配置されたシーズヒータ92を二次側シーズヒータ92と呼ぶ。また、熱交換器9の総定格電力(1200W)に対して実際に熱交換器9のシーズヒータ91,92に供給される駆動電力の合計の割合を総負荷率と呼ぶ。また、トライアックの点弧角の位相制御による駆動電力の制御を位相制御と呼ぶ。
(5−c) 熱交換器の第1の駆動方法
熱交換器9の第1の駆動方法について説明する。図35は、図29の熱交換器9の第1の駆動方法を説明するための図である。図35(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図35(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図35(a)および図35(b)に示すように、この駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きく50%以下の範囲で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われ、一次側シーズヒータ91には駆動電力が供給されない。
一方、総負荷率が50%よりも大きく100%以下の範囲では、二次側シーズヒータ92に600Wの駆動電力が供給された状態で、一次側シーズヒータ91の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。この場合、二次側シーズヒータ92の駆動電力は位相制御されないので、二次側シーズヒータ92には高調波電流が流れない。
上記のように、第1の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力の位相制御が同時に行われない。これにより、熱交換器9の駆動時には、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に高調波電流が同時に流れることが防止される。
また、定格電力が600Wのシーズヒータにおいて所定の点弧角で発生する高調波電流のレベルは、定格電力が1200Wのシーズヒータにおいて同じ点弧角で発生する高調波電流のレベルよりも十分に低い。
これは、定格電力が600Wのシーズヒータに流れる交流電流の振幅が、定格電力が1200Wのシーズヒータに流れる交流電流の振幅よりも十分に小さいためである。
上記の理由から、図29の熱交換器9を第1の駆動方法を用いて駆動することにより、定格電力が1200Wのシーズヒータを熱交換器9に用いる場合に比べて、高レベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
また、本例において、熱交換器9は最大1200Wで駆動することができる。これにより、洗浄水を加熱するために必要な十分な発熱量を得ることができる。それにより、水道配管から供給される洗浄水の温度が非常に低い場合でも、その洗浄水を迅速かつ確実に昇温することができる。その結果、使用者の局部に供給される洗浄水が適切な温度に確実に調整される。
さらに、上述のように、総負荷率が0%よりも大きく50%以下の範囲では、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみ位相制御される。二次側シーズヒータ92は、出水ポート92P(図30)側に配置され、出水ポート92Pの近傍には出湯温度センサ98(図32(c))が設けられている。これにより、二次側シーズヒータ92により加熱された洗浄水の温度は、その加熱直後に出湯温度センサ98により正確に測定される。
したがって、総負荷率の0%よりも大きく50%以下の範囲では、熱交換器9の駆動電力が、出湯温度センサ98により測定された測定温度値に基づいて図29の制御部90により正確に制御される。その結果、使用者の局部に供給される洗浄水がより適切な温度に確実に調整される。
(5−d) 熱交換器の第2の駆動方法
熱交換器9の第2の駆動方法について、第1の駆動方法と異なる点を説明する。図36は、図29の熱交換器9の第2の駆動方法を説明するための図である。図36(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図36(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図36(a)および図36(b)に示すように、この駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きく50%よりも小さい範囲で、第1の駆動方法と同様に、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われ、一次側シーズヒータ91には駆動電力が供給されない。
総負荷率が50%の際には、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力が600Wとなり、二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力が0Wとなる。
一方、総負荷率が50%よりも大きく100%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91に600Wの電力が供給された状態で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。この場合、一次側シーズヒータ91の駆動電力は位相制御されないので、一次側シーズヒータ91には高調波電流が流れない。
上記のように、第2の駆動方法においては、総負荷率が0%から100%の全ての範囲で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみ位相制御が行われる。二次側シーズヒータ92により加熱された洗浄水の温度は、その加熱直後に出湯温度センサ98により正確に測定される。
したがって、総負荷率の全範囲で、熱交換器9の駆動電力が、出湯温度センサ98により測定された測定温度値に基づいて正確に制御される。その結果、使用者の局部に供給される洗浄水がより適切な温度に確実に調整される。
(5−e) 熱交換器の第3の駆動方法
熱交換器9の第3の駆動方法について、第1の駆動方法と異なる点を説明する。図37は、図29の熱交換器9の第3の駆動方法を説明するための図である。図37(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図37(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図37(a)および図37(b)に示すように、この駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きくα%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92のそれぞれの駆動電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
本例において、符号αは予め定められる約5%程度の低い総負荷率を表す。総負荷率がα%である場合に、一次側シーズヒータ91はβWの電力で駆動され、二次側シーズヒータ92もβWの電力で駆動される。それにより、熱交換器9は、全体として(β+β)Wの電力で駆動される。
そして、総負荷率がα%よりも大きく(50+α/2)%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91の駆動電力がβWで一定となるように位相制御が行われる。また、二次側シーズヒータ92の駆動電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
さらに、総負荷率が(50+α/2)%よりも大きく100%以下の範囲では、二次側シーズヒータ92に600Wの駆動電力が供給された状態で、一次側シーズヒータ91の駆動電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
上記のように、第3の駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きくα%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92のそれぞれの駆動電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。そして、総負荷率がα%よりも大きく100%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92のそれぞれの駆動電力が常にβW以上となる。
これにより、一次側シーズヒータ91は、総負荷率がα%よりも大きく100%以下の範囲で、常にβW以上の電力で駆動されることにより低温で発熱している。それにより、一次側シーズヒータ91の駆動電力が大きく変化する際、例えば総負荷率が(50+α/2)%を超えるように上昇する際に、一次側シーズヒータ91の発熱の遅れが防止される。
なお、総負荷率が0%よりも大きくα%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に供給される駆動電圧がともに位相制御されるが、このときの点弧角における交流電流の振幅は非常に小さい。それにより、高レベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
(5−f) 熱交換器の第4の駆動方法
熱交換器9の第4の駆動方法について、第3の駆動方法と異なる点を説明する。図38は、図29の熱交換器9の第4の駆動方法を説明するための図である。図38(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図38(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図38(a)および図38(b)に示すように、この駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きくα%以下の範囲で、第3の駆動方法と同様に、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92のそれぞれの駆動電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
総負荷率がα%よりも大きく(50+α/2)%よりも小さい範囲では、一次側シーズヒータ91の電力がβWで一定となるように位相制御が行われる。また、二次側シーズヒータ92の電力が総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
総負荷率が(50+α/2)%の際には、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力が600Wとなり、二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力がβWとなる。
総負荷率が(50+α/2)%よりも大きく100%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91に600Wの駆動電力が供給された状態で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。この場合、一次側シーズヒータ91の駆動電力は位相制御されないので、一次側シーズヒータ91には高調波電流が流れない。
上記のように、第4の駆動方法においては、総負荷率がα%から100%の範囲で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。二次側シーズヒータ92により加熱された洗浄水の温度は、その加熱直後に出湯温度センサ98により正確に測定される。
したがって、総負荷率の全範囲で、熱交換器9の駆動電力が、出湯温度センサ98により測定された測定温度値に基づいて正確に制御される。その結果、使用者の局部に供給される洗浄水がより適切な温度に確実に調整される。
(5−g) 熱交換器の第5の駆動方法
熱交換器9の第5の駆動方法について、第1の駆動方法と異なる点を説明する。図39は、図29の熱交換器9の第5の駆動方法を説明するための図である。図39(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図39(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図39(a)および図39(b)に示すように、この駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きく(50−γ)%以下の範囲で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われ、一次側シーズヒータ91には駆動電力が供給されない。
本例において、符号γは任意に設定される総負荷率の値を表す。なお、総負荷率γは、例えば約5%から約25%以下の範囲に設定されることが好ましい。
総負荷率が(50−γ)%の際には、二次側シーズヒータ92の駆動電力が300Wとなり、二次側シーズヒータ92に高調波電流が流れる。一方、一次側シーズヒータ91の駆動電力は位相制御されないので、一次側シーズヒータ91には高調波電流が流れない。
総負荷率が(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力がそれぞれ総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。なお、一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との比例関係、および二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との比例関係は、互いに等しくなるように設定される。
これにより、一次側シーズヒータ91の駆動電力は、総負荷率が(50−γ)%から(50+γ)%に上昇するとともに、0Wから300Wに上昇する。また、二次側シーズヒータ92の駆動電力は、総負荷率が(50−γ)%から(50+γ)%に上昇するとともに、300Wから600Wに上昇する。
ここで、総負荷率が(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%よりも小さい範囲では、上記のように一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力にそれぞれ位相制御が行われるので、各シーズヒータ91,92に高調波電流が流れるが、各シーズヒータ91,92に流れる高調波電流のレベルの総和は、一方のシーズヒータに発生する高調波電流のレベルの最大値を超えない。
また、総負荷率が(50+γ)%の際には、一次側シーズヒータ91の駆動電力が300Wとなり、一次側シーズヒータ91に高調波電流が流れる。一方、二次側シーズヒータ92の駆動電力は位相制御されないので、二次側シーズヒータ92には高調波電流が流れない。
総負荷率が(50+γ)%よりも大きく100%以下の範囲では、二次側シーズヒータ92に600Wの駆動電力が供給された状態で、一次側シーズヒータ91の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。この場合、二次側シーズヒータ92の駆動電力は位相制御されないので、二次側シーズヒータ92には高調波電流が流れない。
上記のように、第5の駆動方法においては、総負荷率が0%よりも大きく(50−γ)%以下の範囲、および総負荷率が(50+γ)%よりも大きく100%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に高調波電流が同時に流れないので、高レベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
また、総負荷率が(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%よりも小さい範囲で、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に流れる高調波電流のレベルの総和が、一方のシーズヒータに発生する高調波電流のレベルの最大値を超えないので、定格電力が1200Wのシーズヒータを熱交換器9に用いる場合に比べて、高レベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
上記のように、第5の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91の駆動電力のみ位相制御が行われる総負荷率よりも低い総負荷率の範囲、すなわち(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91に駆動電力が供給される。
これにより、一次側シーズヒータ91は、総負荷率が(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%以下の範囲で低温で発熱している。それにより、例えば総負荷率が(50+γ)%を超えるように上昇する際に、一次側シーズヒータ91の発熱の遅れが防止される。
(5−h) 熱交換器の第6の駆動方法
熱交換器9の第6の駆動方法について、第5の駆動方法と異なる点を説明する。図40は、図29の熱交換器9の第6の駆動方法を説明するための図である。図40(a)に一次側シーズヒータ91の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。また、図40(b)に二次側シーズヒータ92の駆動電力と総負荷率との関係が示されている。
図40(a)および図40(b)に示すように、この駆動方法において、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力の制御は、総負荷率が0%から(50+γ)%よりも小さい範囲で第5の駆動方法と同じである。
総負荷率が(50+γ)%の際には、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力が600Wとなり、二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力が300Wとなる。この場合、一次側シーズヒータ91の駆動電力は位相制御されないので、一次側シーズヒータ91には高調波電流が流れない。
総負荷率が(50+γ)%よりも大きく100%以下の範囲では、一次側シーズヒータ91に600Wの駆動電力が供給された状態で、二次側シーズヒータ92の駆動電力のみが総負荷率の値に対して比例するように位相制御が行われる。
上記のように、第6の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91が600Wの電力で駆動される総負荷率よりも低い総負荷率の範囲、すなわち(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%以下の範囲で、一次側シーズヒータ91に駆動電力が供給される。
これにより、一次側シーズヒータ91は、総負荷率が(50−γ)%よりも大きく(50+γ)%以下の範囲で低温で発熱している。それにより、例えば総負荷率が(50+γ)%を超えるように上昇する際に、一次側シーズヒータ91の発熱の遅れが防止される。
上記のように、第6の駆動方法においては、総負荷率が0%から100%の全ての範囲で、二次側シーズヒータ92の駆動電力の位相制御が行われる。二次側シーズヒータ92により加熱された洗浄水の温度は、その加熱直後に出湯温度センサ98により正確に測定される。
したがって、総負荷率の全範囲で、熱交換器9の駆動電力が、出湯温度センサ98により測定された測定温度値に基づいて正確に制御される。その結果、使用者の局部に供給される洗浄水がより適切な温度に確実に調整される。
(5−i) 熱交換器の第7の駆動方法
熱交換器9の第7の駆動方法について説明する。図41は、図29の熱交換器9の第7の駆動方法を説明するための図である。図41(a)に一次側シーズヒータ91に流れる電流波形の一例が示され、図41(b)に二次側シーズヒータ92に流れる電流波形の一例が示されている。
なお、本例において、熱交換器9が接続される交流電源ACSの周波数は60Hzである。
図41(a)および図41(b)において、縦軸は電流を表し、横軸は時間を表す。また、太い実線は一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に流れる電流を表す。さらに、図41(a)および図41(b)では、理解を容易にするために、1秒間における交流電流の60個のサイクルをそれぞれ示す1〜60の番号を付している。
第7の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92のいずれか一方の駆動電力のみが位相制御される。
図41(a)および図41(b)の例では、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力が位相制御されかつ二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力が位相制御されないサイクルと、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力が位相制御されずに二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力が位相制御されるサイクルとが交互に切替えられている。
このように、第7の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力の位相制御が同時に行われない。これにより、熱交換器9の駆動時には、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に高調波電流が同時に流れることが防止される。
それにより、図29の熱交換器9を第7の駆動方法を用いて駆動することにより、定格電力が1200Wのシーズヒータを熱交換器9に用いる場合に比べて、高レベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
なお、一次側シーズヒータ91に供給される駆動電力の位相制御と、二次側シーズヒータ92に供給される駆動電力の位相制御との切替えは、必ずしも1サイクルごとに行われる必要はなく、任意に設定することができる。例えば、2サイクルまたは3サイクルごとに行われてもよい。
(5−j) 他の駆動方法
上記では、熱交換器9の駆動方法として、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力に位相制御を行う旨を説明したが、このような位相制御を行う代わりに、以下に説明する方法で熱交換器9を駆動してもよい。
(5−k) 熱交換器の第8の駆動方法
熱交換器9の第8の駆動方法について説明する。図42は、図29の熱交換器9の第8の駆動方法を説明するための図である。図42(a)に一次側シーズヒータ91に流れる電流波形の一例が示され、図42(b)に二次側シーズヒータ92に流れる電流波形の一例が示されている。
なお、図42(a)および図42(b)において、縦軸は電流を表し、横軸は時間を表す。また、太い実線は一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に流れる電流を表す。さらに、図42(a)および図42(b)では、理解を容易にするために、1秒間における交流電流の60個のサイクルをそれぞれ示す1〜60の番号を付している。
第8の駆動方法においては、交流電流の各サイクルごとに、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電のオン/オフ状態が選択される。
図42(a)の例では、一次側シーズヒータ91に第1サイクルおよび第31サイクルの全波の交流電流が通電される。また、図42(b)の例では、二次側シーズヒータ92に第1サイクルおよび第31サイクルの全波の交流電流が通電される。
この場合、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の駆動電力はそれぞれ20Wとなる。それにより、熱交換器9は、全体として40Wの電力で駆動される。
このように、第8の駆動方法によれば、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電のオン/オフ状態を1サイクルごとに選択することにより、位相制御を用いることなく熱交換器9を駆動し、熱交換器9の総負荷率を調整することができる。したがって、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92には高調波電流が流れない。
さらに、第8の駆動方法において、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電のタイミングは、60サイクル(1秒間)の間で分散するように設定される。
例えば、図42(a)の例で示されるように、一次側シーズヒータ91に60サイクル内に全波の交流電流の通電が2回行われる場合には、第1サイクルおよび第31サイクルにおける全波の交流電流の通電が行われる。
また、例えば、一次側シーズヒータ91に60サイクル内で全波の交流電流の通電が4回行われる場合には、第1サイクル、第16サイクル、第31サイクルおよび第46サイクルにおける全波の交流電流の通電が行われる。
このように、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電のタイミングを60サイクル内で分散するように設定することにより、熱交換器9が接続される電源ラインに低い周波数で大きい電圧降下が生じることが抑制される。それにより、熱交換器9と同一の電源ラインに接続された照明装置が存在する場合でも、その照明装置にフリッカが発生することが抑制される。
(5−l) 熱交換器の第9の駆動方法
熱交換器9の第9の駆動方法について、第8の駆動方法と異なる点を説明する。図43は、図29の熱交換器9の第9の駆動方法を説明するための図である。図43(a)に一次側シーズヒータ91に流れる電流波形の一例が示され、図43(b)に二次側シーズヒータ92に流れる電流波形の一例が示されている。
なお、図43(a)および図43(b)において、縦軸は電流を表し、横軸は時間を表す。また、太い実線は一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92に流れる電流を表す。さらに、図43(a)および図43(b)では、理解を容易にするために、1秒間における交流電流の60個のサイクルをそれぞれ示す1〜60の番号を付している。
第9の駆動方法においては、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電のタイミングが個別に制御される。
このように、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92への通電タイミングを個別に制御することにより、図43(a)および図43(b)の例で示されるように、60サイクル内の第1サイクルに一次側シーズヒータ91に全波の電流の通電を行い、60サイクル内の第1サイクルおよび第2サイクルに二次側シーズヒータ92に全波の電流の通電を行うことができる。また、一次側シーズヒータ91への通電のタイミングと、二次側シーズヒータ92への通電のタイミングとが部分的に異なる。
この場合、熱交換器9には第1サイクルに高いレベル(振幅)の電流が流れる。したがって、熱交換器9と同一の電源ラインに接続された照明装置が存在する場合、その照明装置にフリッカが発生しやすい。
しかしながら、本例では、第2サイクルにおいて、熱交換器9に第1サイクルの半分のレベル(振幅)の電流が流れる。したがって、熱交換器9に第1サイクルのみ高いレベル(振幅)の電流が流れる場合に比べて、熱交換器9に流れる電流のレベルの変動が緩和される。それにより、熱交換器9と同一の電源ラインに発生する電圧降下の変動量が緩和される。その結果、フリッカが発生しても、発生したフリッカが目立たない。
なお、図43(b)の太い点線で示すように、第2サイクルにおける二次側シーズヒータ92への通電を第59サイクルに行った場合には、第1サイクルに局所的に高いレベルの電流が熱交換器9に流れる。したがって、熱交換器9と同一の電源ラインに接続された照明装置が存在する場合、その照明装置に顕著なフリッカが発生しやすい。
(5−m) 高調波試験
「JIS(日本工業規格) C6100−3−2」では、規定の試験条件で、供試機器が発生する入力電流に含まれる高調波成分(高調波電流)の限度値が定められている。
そこで、本発明者は、上述の第1の駆動方法を用いて図29の熱交換器9を900Wで駆動する際に発生する40次までの高調波電流を測定した。
図44は第1の駆動方法による熱交換器9の900W駆動時に通電される電流波形図であり、図45は第1の駆動方法による熱交換器9の900W駆動時に発生する40次までの高調波電流の測定結果を示すグラフである。
図44では、縦軸に電流が示され、横軸に時間が示されている。また、太い曲線により、熱交換器9に流れる電流が示されている。図44に示すように、900W駆動時に熱交換器9に通電される電流波形図は、位相制御により急峻に変化する部分を有する。この部分で高調波電流が発生する。
図45では、縦軸に高調波電流の電流値(レベル)が示され、横軸に高調波電流の次数が示されている。また、白色の棒グラフは高調波電流の次数ごとの限度値を示し、黒色の棒グラフは高調波電流の次数ごとの実測定値を示す。
図45によれば、第1の駆動方法による熱交換器9の900W駆動時には、奇数次高調波電流と、その奇数次高調波電流よりも低いレベルの偶数次高調波電流とがともに発生する。これらのほぼ全ての次数の高調波電流のレベルが限度値を下回った。
このように、第1の駆動方法によれば、900Wという高い電力で熱交換器9を駆動する場合でも、限度値を超えるような高いレベルの高調波電流の発生が十分に抑制される。
(5−n) 高温水噴出防止機構
本例に係る衛生洗浄装置100において、使用者の局部の洗浄が行われた直後には、その洗浄時に既に加熱された洗浄水が熱交換器9の内部に残留する。
このとき、熱交換器9のシーズヒータ91,92に残留する熱量は、熱交換器9の内部に残留する洗浄水を十分に加熱できるほどに大きい。そのため、使用者の局部の洗浄が行われた直後では、図3の止水電磁弁7が閉塞された後、シーズヒータ91,92の残留熱により熱交換器9の内部に残留する洗浄水が継続して加熱される(後沸きが起こる)。
したがって、再度使用者の局部の洗浄が開始されると、熱交換器9の内部に残留する洗浄水が高温に加熱されている場合がある。そこで、熱交換器9により高温に加熱された洗浄水が、図3のノズル部20から使用者の局部に噴出されることを防止するために、以下に示す高温水噴出防止機構を設ける必要がある。
図46は、高温水噴出防止機構の第1の例を示す図である。図46に示すように、本例では、熱交換器9の出水ポート92Pに接続される配管10にバッファタンクBTを介挿する。
これにより、熱交換器9において洗浄水が高温に加熱された場合でも、その高温の洗浄水がバッファタンクBT内に一時的に貯えられ、洗浄水の温度が緩衝される。その結果、使用者の局部に高温に加熱された洗浄水が噴出されることが防止される。
バッファタンクBTは、図46の点線で示すように、熱交換器9の出水ポート92Pに一体的に設けられてもよい。この場合、衛生洗浄装置100における本体部200の小型化が実現される。
図47は、高温水噴出防止機構の第2の例を示す図である。図47に示すように、本例では、一次側シーズヒータ91を覆う流路形成管9Tの内径に比べて、二次側シーズヒータ92を覆う流路形成管9Tの内径が非常に大きく形成される。
この場合、一次側シーズヒータ91の外周面に沿って形成される一次流路f1の断面積に対して、二次側シーズヒータ92の外周面に沿って形成される二次流路f2の断面積が大きくなる。これにより、二次流路f2が、加熱された洗浄水の温度緩衝部として作用する。その結果、使用者の局部に高温に加熱された洗浄水が噴出されることが防止される。
また、この場合、二次流路f2が図46のバッファタンクBTの役割を果たすので、本体部200内に高温水噴出防止機構としてのバッファタンクを設ける必要がなくなる。それにより、本体部200の小型化が実現される。
図48は、高温水噴出防止機構の第3の例を示す図である。図48には、熱交換器9、人体用切替弁13、ノズル部20および制御部90が示されている。
ノズル部20において、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23の先端部は、ともに破線により示されたノズル先端収容部25内に収容される。このとき、おしりノズル21およびビデノズル22の図示しない洗浄水噴出口は、ノズル先端収容部25により覆われる。なお、ノズル先端収容部25の詳細は後述する(図63参照)。
使用者の局部の洗浄時には、おしりノズル21またはビデノズル22の先端部がノズル先端収容部25から突出する。図48においては、ビデノズル22がノズル先端収容部25から突出した状態が示されている。
本例では、一度使用者の局部の洗浄が終了した後、所定時間内に再度使用者の局部の洗浄が行われる際に、制御部90が人体用切替弁13を次のように制御する。
制御部90は、使用対象となるノズル(ビデノズル22)以外のノズル(おしりノズル21)に洗浄水が流れるように、人体用切替弁13を制御する。このとき、おしりノズル21はノズル先端収容部25に収容されている。
これにより、熱交換器9により洗浄水が高温に加熱される場合でも、高温の洗浄水がノズル先端収容部25内で噴出され、使用者の局部に噴出されることなく流れ落ちる。
なお、制御部90は、おしりノズル21またはビデノズル22から洗浄水が噴出された後、所定時間内に再度おしりノズル21またはビデノズル22から洗浄水が噴出される場合に、ノズル洗浄ノズル23に洗浄水が流れるように、人体用切替弁13を制御してもよい。
図49は、高温水噴出防止機構の第4の例を示す図である。図49(a)には、止水電磁弁7、熱交換器9、人体用切替弁13、ノズル部20および制御部90が示されている。図49(b)には、制御部90による止水電磁弁7および熱交換器9の制御シーケンスが示されている。
本例では、止水電磁弁7は、オン状態のときに開放し、オフ状態の時に閉塞する。また、熱交換器9は、オン状態の時に発熱し、オフ状態の時に発熱しない。
図49(b)に示すように、制御部90は、使用者の局部の洗浄が行われない場合、止水電磁弁7および熱交換器9をオフ状態にする。
そして、制御部90は、使用者の局部の洗浄が開始される際に、まず止水電磁弁7をオン状態にする。これにより、図3の水道配管1から供給される洗浄水が熱交換器9の内部に流れ、熱交換器9に残留する洗浄水が配管10に流出する。そして、新たに供給される洗浄水により熱交換器9が冷却される。このとき、おしりノズル21またはビデノズル22はノズル先端収容部25から突出していない。それにより、仮に熱交換器9に残留する洗浄水(残留水)が高温に加熱される場合でも、その残留水はノズル先端収容部25の内部で噴出され、使用者の局部に噴出されることなく流れ落ちる。
続いて、微小期間DT1が経過するとともに、制御部90は熱交換器9をオン状態にする。それにより、熱交換器9により洗浄水が加熱される。この加熱された洗浄水が、配管10を通して人体用切替弁13に送られ、ノズル先端収容部25から突出したおしりノズル21またはビデノズル22から噴出される。そして、使用者の局部の洗浄が行われる。
このように、本例では、使用者の局部の洗浄が開始される際に、熱交換器9の内部に残留する洗浄水が、加熱されることなく熱交換器9の外部に送られる。これにより、熱交換器9が冷却され、その後の発熱時に熱交換器9が過度に発熱することが防止される。その結果、使用者の局部に高温の洗浄水が噴出されることが十分に防止される。
その後、制御部90は、使用者の局部の洗浄が終了する際に、まず熱交換器9をオフ状態に切替える。これにより、熱交換器9に残留する高温の洗浄水が配管10に流出する。そして、新たに供給される洗浄水により熱交換器9が冷却される。
続いて、微小期間DT2が経過するとともに、制御部90は止水電磁弁7をオフ状態に切替える。これにより、熱交換器9への洗浄水の供給が停止される。
このように、本例では、使用者の局部の洗浄が終了する際にも、熱交換器9の内部に残留する洗浄水が、加熱されることなく熱交換器9の外部に送られる。したがって、使用者の局部の洗浄直後に、再度洗浄が開始される場合でも、熱交換器9により高温に加熱された洗浄水が使用者の局部に噴出されることが確実に防止される。
本例では、制御部90の制御シーケンスにより高温の洗浄水が使用者の局部に噴出されることを防止できる。したがって、高温水噴出防止機構として新たな部材を設ける必要がないので、衛生洗浄装置100の大型化が抑制される。
なお、上記の制御シーケンスにおいて、微小期間DT1,DT2は、熱交換器9に供給される洗浄水の温度に基づいて制御部90により調整される。これにより、冷たい洗浄水が使用者の局部に噴出されることが防止される。
制御部90は、上記のように止水電磁弁7および熱交換器9を制御することに加えて、例えば使用者による局部の洗浄の前に、熱交換器9を動作させるとともに図3のポンプ11を動作させてもよい。これにより、熱交換器9よりも下流側の給水系に残留する冷たい洗浄水を、ノズル先端収容部25内で噴出させることができる。それにより、使用者の局部に冷たい洗浄水が噴出されることが防止される。
このとき、熱交換器9は、人体用切替弁13を制御することにより、使用者による局部の洗浄前にノズル部20に供給される洗浄水をノズル洗浄ノズル23に送ってもよい。これにより、使用者の局部の洗浄前のおしりノズル21およびビデノズル22の先端が洗浄される。
また、制御部90は、使用者による局部の洗浄の後に、熱交換器9を動作させるとともに図3のポンプ11を動作させてもよい。これにより、使用者による局部の洗浄時に発熱した熱交換器9を、新たに供給される冷たい洗浄水により冷却することができる。
このとき、制御部90は、人体用切替弁13を制御することにより、使用者による局部の洗浄後にノズル部20に供給される洗浄水をノズル洗浄ノズル23に送ってもよい。これにより、使用者の局部の洗浄後のおしりノズル21およびビデノズル22の先端が洗浄される。
さらに、制御部90は、上記に加えて以下のように本体部200の各部を制御してもよい。
図32(c)の出湯温度センサ98は、熱交換器9により加熱された洗浄水の温度を検出し、制御部90に与える。これにより、制御部90は、使用者の局部の洗浄時に、出湯温度センサ98より与えられる洗浄水の温度が、予め定められた異常温度(例えば42度)よりも高くなった場合に、異常が発生したと判断して衛生洗浄装置100の各構成部の動作を停止する。これにより、人体に高温の洗浄水が噴出されることが防止される。
一方で、上記のようにして熱交換器9内部の高温の洗浄水を排出する際には、出湯温度センサ98により検出される温度が異常温度を超えやすい。したがって、制御部90は、熱交換器9内部の高温の洗浄水を排出する際には、異常温度を使用者の局部洗浄時に比べて高い温度に設定する。これにより、高温の洗浄水の排出時に衛生洗浄装置100の動作が停止しない。
(5−o) 電熱線の断線防止
図34(c)に示したように、熱交換器9に設けられる一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の内部に電熱線91wが取り付けられている。
ここで、電熱線91wのワット密度は非常に高い。これにより、各シーズヒータ91,92の銅管91c内に充填される酸化マグネシウムの密度分布が不均一であると、酸化マグネシウムの密度が低い部分で電熱線91wの温度が著しく上昇する。それにより、電熱線91wが断線するおそれがある。
銅管91c内への酸化マグネシウムの充填は、銅管91cの内部にその一方側から酸化マグネシウムの粉末を詰め込み、圧縮加工を行うことにより行われる。しかしながら、銅管91c内での酸化マグネシウムの密度は、その他方側の端部で低くなりやすい。
これは、単位長さ当りの巻き数が多い電熱線91wが銅管91c内に設けられた状態で酸化マグネシウムが詰め込まれることにより、他方側の端部まで酸化マグネシウムを押し込むことが困難であるからである。このため、シーズヒータは一方側または他方側の端部近傍で電熱線が断線しやすい。
そこで、電熱線91wの断線を防止するために、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92を以下のように構成する。
図50は、図34(c)の電熱線91wの断線を防止するためのシーズヒータ91,92の第1の構造例を示す図である。
図50に示すように、シーズヒータ91,92の第1の構造例では、シーズヒータ91,92の中央部の領域ER2における電熱線91wの単位長さ当りの巻き数に比べて、シーズヒータ91,92の両端部近傍の領域ER1における電熱線91wの単位長さ当りの巻き数が少ない。
これにより、銅管91cの両端部近傍において酸化マグネシウムの粉末が充填されやすくなる。それにより、シーズヒータ91,92の両端部における酸化マグネシウムの密度を高くすることができるので、シーズヒータ91,92の一方または他方の端部近傍における電熱線の断線が防止される。
図51は、図34(c)の電熱線91wの断線を防止するためのシーズヒータの第2の構造例を示す図である。
図51に示すように、シーズヒータ91,92の第2の構造例では、シーズヒータ91,92の一端部近傍91cdにおける銅管91cの外径が、その中央側から端部に向かって漸次径小となるように形成されている。
これにより、銅管91cへの酸化マグネシウムの粉末の充填時に、銅管91cの両端部近傍において酸化マグネシウムの粉末が充填されやすくなる。それにより、シーズヒータ91,92の両端部における酸化マグネシウムの密度を高くすることができるので、シーズヒータ91,92の一方または他方の端部近傍における電熱線の断線が防止される。
(5−p) 安全性向上
上述のように、図29の電力供給部9VIは、トライアックを含む。ここで、トライアックは、安全性を考慮して、以下のようにして熱交換器9に取り付けることが好ましい。
図52は、図29の電力供給部9VIが有するトライアックの熱交換器9への取り付け例を示す図である。図52では、トライアックの熱交換器9への3つの取り付け例が示されている。
図52(a)に示すように、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92が上下に配置されるように、熱交換器9が本体部200内に設けられる場合を想定する。
この場合、トライアックは、下方に位置する一次側シーズヒータ91を覆う流路形成管9Tの下部に取り付けられることが好ましい。これにより、トライアックの安全性が十分に向上される。
図52(b)に示すように、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92が水平方向で並んで配置されるように、熱交換器9が本体部200内に設けられる場合を想定する。
この場合、トライアックは、一次側シーズヒータ91または二次側シーズヒータ92を覆う流路形成管9Tの下部に取り付けられることが好ましい。これにより、トライアックの安全性が十分に向上される。
図52(c)に示すように、仮に熱交換器9に1つのシーズヒータしか設けられない場合を想定する。この場合、トライアックは、そのシーズヒータを覆う流路形成管の下部に取り付けられることが好ましい。これにより、トライアックの安全性が十分に向上される。
なお、一次側シーズヒータ91に沿って形成される一次流路f1(図47参照)には、加熱されていない冷たい洗浄水が流入する。したがって、トライアックは、一次側シーズヒータ91を覆う流路形成管9Tに取り付けられることが好ましい。これにより、トライアックが一次流路f1を流れる洗浄水により水冷される。
(5−q) 温度むらの防止
(5−q−1) 温度むらを防止するための熱交換器の第1構成例
熱交換器9に設けられる一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92は、必ずしも同じ定格電力を有する必要はない。
図53は、定格電力の異なる2種類のシーズヒータを備える熱交換器9を示す図である。例えば定格電力が900Wのシーズヒータを一次側シーズヒータ91Tとして用い、定格電力が300Wのシーズヒータを二次側シーズヒータ92として用いる。
この場合、入水ポート91Pから供給される洗浄水の温度を、大きい駆動電力で駆動される一次側シーズヒータ91Tにより急激に上昇させることが可能となる。その後、出水ポート92Pから流出される直前の洗浄水の温度を、小さい駆動電力で駆動される二次側シーズヒータ92Tにより微調整することができる。その結果、低い温度の洗浄水が熱交換器9に供給される場合でも、熱交換器9から流れ出る洗浄水の温度むらの発生が抑制される。
(5−q−2) 温度むらを防止するための熱交換器の第2構成例
流出する洗浄水の温度むらの発生を防止するために、熱交換器9は以下の構成を有してもよい。
図54は、熱交換器9に形成される流路の他の構造例を説明するための図である。図54(a)に熱交換器9の模式的平面図が示され、図54(b)に図54(a)のC54−C54線断面が示されている。
図54(a)に示すように、本説明では、一次側シーズヒータ91に沿って形成される洗浄水の一次流路f1と、二次側シーズヒータ92に沿って形成される洗浄水の二次流路f2とを接続する流路を、連結流路f3と呼ぶ。
図54(b)に示すように、本例では、連結流路f3が一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の各銅管91c,92cの外周面の共通の接線を通るように形成される。
この場合、図54(b)の太線矢印で示すように、一次流路f1で一次側シーズヒータ91の外周面に沿って旋回しつつ流動する洗浄水が、円滑に連結流路f3に流れ込む。そして、連結流路f3に流れ込んだ洗浄水は、二次側シーズヒータ92の外周面を取り囲む二次流路f2に円滑に流入する。
これにより、熱交換器9の内部では、一次流路f1と二次流路f2との間で洗浄水の流れが円滑に維持され、熱交換器9内における洗浄水の流速の変動が抑制される。それにより、熱交換器9から流れ出る洗浄水の温度むらの発生が抑制される。
(5−r) 熱交換器の小型化
上述のように、図29の熱交換器9は、一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92を備えることにより、定格電力が1200Wの一本のシーズヒータが設けられる場合に比べて、その長手方向の大きさが縮小される。その結果、本体部200の大型化が抑制されている。
図3の本体部200の小型化を実現するために、熱交換器9は以下の構成を有してもよい。
図55は、図3の本体部200の小型化を実現するための第1の構成例を説明するための図である。図55に示すように、本例では図3の流量センサ8を熱交換器9に一体的に設ける。これにより、流量センサ8および熱交換器9を個別に本体部200の内部に設ける必要がなくなる。その結果、本体部200の小型化が実現できる。
なお、流量センサ8により得られる洗浄水の測定流量値は、洗浄水の温度により変動する。したがって、図55に示すように、流量センサ8を一次流路f1と二次流路f2との間に設けることにより、流量センサ8は熱交換器9による加熱途中の洗浄水の流量を測定する。それにより、熱交換器9の上流側に流量センサ8を設ける場合に比べて、熱交換器9から図23のノズル部20へ流れる洗浄水の流量を精度よく測定することができる。
さらに、流量センサ8を熱交換器9の下流側に設けてもよい。この場合、流量センサ8は熱交換器9による加熱後の洗浄水の流量を測定する。それにより、熱交換器9からノズル部20へ流れる洗浄水の流量をより精度よく測定することができる。
図56は、図3の本体部200の小型化を実現するための第2の構成例を説明するための図である。図46において説明したように、熱交換器9から高温の洗浄水が流出することを防止するために、バッファタンクBTを設ける場合には、バッファタンクBTを熱交換器9に一体的に設ける。これにより、バッファタンクBTおよび熱交換器9を個別に本体部200の内部に設ける必要がなくなる。その結果、本体部200の小型化が実現できる。
ここで、冷たい洗浄水が流れ込む一次流路f1においては、一次側シーズヒータ91の外表面近傍と、流路形成管9Tの内表面近傍との間で温度差が生じやすい。しかしながら、図56に示すように、一次流路f1と二次流路f2との間にバッファタンクBTを設ける場合には、一次側シーズヒータ91から二次側シーズヒータ92に流れる洗浄水の温度むらが迅速に緩和される。
図57は、図3の本体部200の小型化を実現するための第3の構成例を説明するための図である。図57には、熱交換器9の一端部周辺の構造を示す断面図が示されている。
図57(a)に示すように、図34を用いて説明した一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の端部では、電極91a,92aの軸心に沿うように、端子91b,92bが取り付けられる。
これに対して、本例では、図57(b)に示すように、銅管91c,92cから突出する電極91a,92aの部分を約90度折り曲げる。そして、折り曲げられた電極91a,92aの部分に端子91b,92bを取り付ける。これにより、熱交換器9の長手方向の大きさを小さくすることができる。その結果、本体部200の所定方向における小型化が実現できるとともに、本体部200の組み立てが容易となる。
図58は、図3の本体部200の小型化を実現するための第4の構成例を説明するための図である。図58には、熱交換器9の一端部周辺の構造を示す断面図が示されている。
図58(a)に示すように、図34を用いて説明した一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92の端部では、電極91a,92aの軸心に沿うように、端子91b,92bが取り付けられる。
これに対して、本例では、図58(b)に示すように、銅管91c,92cから突出する電極91a,92aの端部にリード線91R,92Rをスポット溶接により接続する。これにより、熱交換器9の長手方向の大きさを小さくすることができる。その結果、本体部200の所定方向における小型化が実現できるとともに、本体部200の組み立てが容易となる。
(5−s) 本体部内部における熱交換器の配置
熱交換器9は、図1の本体部200内で一次側シーズヒータ91および二次側シーズヒータ92が上下に並ぶように、かつ左右方向に延びるように配置されることが好ましく、その熱交換器9の上部には、後述する便座便蓋開閉装置が設けられることが好ましい。これにより、衛生洗浄装置100における本体部200の前後方向の大きさ(奥行き)が低減される。
(5−t) ポンプおよび熱交換器の制御方法
上述のように、使用者は、局部の洗浄中に図2の遠隔操作装置300を操作することにより、局部に噴出される洗浄水の流量および圧力等を調整することができる。
ここで、使用者が、局部の洗浄中に遠隔操作装置300を操作することにより局部に噴出される洗浄水の流量を大きく変化させる際には、使用者の局部に噴出される洗浄水の温度が急激に変動する場合がある。このような洗浄水の急激な温度変動を防止するための制御方法について説明する。
図59は、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動を防止するための第1の制御方法を説明するための図である。図59では、図3のポンプ11から吐出される洗浄水の流量の変化と、熱交換器9の温度の変化とが示されている。
制御部90がポンプ11の動作を制御する場合、制御部90によるポンプ11の制御開始時点から実際に洗浄水の吐出流量が調整されるまでにはほとんど遅延時間が生じない。
これに対して、熱交換器9に流れる電流が増加する場合には、最初に熱交換器9のシーズヒータ91,92の温度が上昇する。それにより、熱交換器9に流れる洗浄水の温度が上昇する(熱交換器の点線参照)。熱交換器9に流れる電流が減少する場合には、熱交換器9のシーズヒータ91,92の温度が低下する。それにより、熱交換器9に流れる洗浄水の温度が低下する(熱交換器の太線参照)。この場合、制御部90による熱交換器9の制御開始時点から実際に洗浄水の温度が所定温度に達するまでには遅延時間が生じる。
本例では、制御部90が、熱交換器9で生じる洗浄水の温度変化の遅延時間に応じてポンプ11の吐出流量の変化にも同様の遅延時間が生じるように制御する(ポンプ流量の点線および太線参照)。それにより、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動が防止される。
図60は、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動を防止するための第2の制御方法を説明するための図である。図60では、図3のポンプ11から吐出される洗浄水の流量の変化と、熱交換器9の温度の変化が示されている。
図60に示すように、制御部90は、使用者に噴出される洗浄水の流量を減少させる場合、熱交換器9のシーズヒータ91,92に流れる電流を一時的に遮断する(熱交換器の太線参照)。
これにより、熱交換器9の内部を通る洗浄水にシーズヒータ91,92の有する熱が放散される。それにより、シーズヒータ91,92を迅速に冷却することができる。また、熱交換器9が洗浄水を再度昇温する際に、突発的に洗浄水の温度が上昇することが防止される。
制御部90は、使用者に噴出される洗浄水の流量を増加させる場合、熱交換器9のシーズヒータ91,92に流れる電流を一時的に急激に増加させる(熱交換器の点線参照)。
これにより、制御部90がポンプ11の動作を制御する際に、ポンプ11による洗浄水の吐出流量の変化に応答して、洗浄水の温度が迅速かつ正確に調整される。このように、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動が防止される。
図61は、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動を防止するための第3の制御方法を説明するための図である。図61では、図3のポンプ11から吐出される洗浄水の実際の吐出流量の変化と、熱交換器9への通電量を決定する因子のひとつであり図3の流量センサ8からの信号により計算される設定流量の変化とが示されている。
図61に示すように、洗浄水の流量を減少させる際には、設定流量を一時的に急激に低下させる(設定流量の太線参照)。これにより、熱交換器9への通電量が設定値より引き下げられることとなり、シーズヒータ91,92を迅速に冷却することができる。また、熱交換器9が再度洗浄水を昇温する際に、突発的に洗浄水の温度が上昇することが防止される。
また、洗浄水の流量を増加させる際には、設定流量を一時的に急激に増加させる(設定流量の点線参照)。これにより、熱交換器9への通電量が設定値より引き上げられることとなり、シーズヒータ91,92の温度を迅速に上昇させることができる。
それにより、制御部90がポンプ11の動作を制御する際に、ポンプ11による洗浄水の吐出流量の変化に応答して、洗浄水の温度が迅速かつ正確に調整される。このように、使用者の局部に噴出される洗浄水の急激な温度変動が防止される。
(5−u) 熱交換器の他の例
図62は、図3の熱交換器9の他の例を示す図である。図62(a)に、本例の熱交換器9の一部切り欠き断面図が示されている。
図62(a)に示すように、樹脂ケース904内に曲折された蛇行配管910が埋設されている。蛇行配管910に接触するように平板状のセラミックヒータ905が設けられている。矢印YSで示すように、洗浄水が、給水口912Pから蛇行配管910内に供給され、蛇行配管910中を流れる間に、セラミックヒータ905により効率よく加熱され、排出口913Pから排出される。
図3の制御部90は、出湯温度センサ98より与えられる温度測定値に基いて、熱交換器9のセラミックヒータ905の温度をフィードバック制御する。
セラミックヒータ905には、3本の電源端子906a,906b,906cが接続されている。
図62(b)にセラミックヒータ905のヒータパターンが示されている。図62(b)に示すように、このヒータパターン905Hにおいては、第1の端子部905aから分
岐する2本の分岐配線905m,906nがともに蛇行するように延びている。
そして、分岐配線905m,906nの各々の端部が、第2の端子部905bおよび第3の端子部905cを形成する。
これにより、第1の端子部905aと第2の端子部905bとの間に電流を流すことにより、分岐配線905mが発熱する。また、第1の端子部905aと第3の端子部905cとの間に電流を流すことにより、分岐配線905nが発熱する。
このようにして、第1の端子部905a、第2の端子部905bおよび第3の端子部905cの各端子間に個別に電流を流すことにより、分岐配線905m,905nを個別に駆動することができる。したがって、上述のシーズヒータ91,92と同様の駆動方法を用いることができる。
なお、制御部90は、フィードフォワード制御によりセラミックヒータ905の温度を制御してもよく、あるいは、温度上昇時には、フィードフォワード制御によりセラミックヒータ905を制御し、定常時には、フィードバック制御によりセラミックヒータ905を制御する複合的な制御を行ってもよい。
<6> ノズル部20の構成
図63は、ノズル部20の外観斜視図である。
図63(a),(b)に示すように、ノズル部20は、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23を有する。ノズルガイド台24には、おしりノズル21およびビデノズル22が進退可能に設けられている。ノズルガイド台24の先端部には、ノズル先端収容部25が設けられている。ノズル先端収容部25の先端開口にノズル収容蓋25aが開閉可能に取り付けられている。
図63(a)はおしりノズル21およびビデノズル22がノズルガイド台24およびノズル先端収容部25に収容された状態を示し、図63(b)はおしりノズル21およびビデノズル22がノズル先端収容部25から突出した状態を示す。
おしりノズル21の先端がノズル先端収容部25の先端の位置にある場合のおしりノズル21の位置をノズル収納位置SP1と呼び、おしりノズル21の先端がノズル先端収容部25の先端から所定長さ突出した位置にある場合のおしりノズル21の位置を標準洗浄位置SP2と呼ぶ。また、おしりノズル21の先端が標準洗浄位置SP2より所定長さ前方にある場合のおしりノズル21の位置を前方洗浄位置SP3と呼び、おしりノズル21の先端が標準洗浄位置SP2より所定長さ後方にある場合のおしりノズル21の位置を後方洗浄位置SP4と呼ぶ。
ビデノズル22の標準洗浄位置、前方洗浄位置および後方洗浄位置は、おしりノズル21の標準洗浄位置、前方洗浄位置および後方洗浄位置よりも所定長さ前方にある。
おしり洗浄の際には、おしりノズル21がノズル駆動モータ20mの回転によりノズル収納位置SP1、後方洗浄位置SP4、標準洗浄位置SP2および前方洗浄位置SP3の間で移動する。同様に、ビデ洗浄の際には、ビデノズル22がノズル駆動モータ20mの回転によりノズル収納位置、後方洗浄位置、標準洗浄位置および前方洗浄位置の間で移動する。
<7> 本体部の構成およびレイアウト
(7−a) 本体部200の内部構造およびケーシング
図64および図65は、図1の本体部200の内部構造を示す外観斜視図である。図64は、シーズヒータを用いた熱交換器9を備える本体部200の例であり、図65のセラミックヒータを用いた熱交換器9を備える本体部200の例である。
図64および図65に示すように、本体部200は本体下部ケーシング200Aを備える。本体下部ケーシング200Aは、ポリプロピレンの原材料(20%)および再生材料(80%)を混合することにより形成される。それにより、環境保護に貢献できる。この場合、本体下部ケーシング200Aは使用者に視認されないため、再生材料を使用することによる意匠上の問題もない。
本体下部ケーシング200Aは、一点鎖線CLで示すように、第1の本体領域201Xおよび第2の本体領域202Xに区分される。
第1の本体領域201Xには、洗浄水が流通する給水接続部1IN、熱交換器9、ノズル部20および便器ノズル40が設けられるとともに、バキュームブレーカBBが設けられる。ノズル部20は、本体下部ケーシング200Aに形成される開口部に挿入される。開口部は、便器700のボウル面の上方に位置する。それにより、本体部200内で万が一水漏れが生じた場合でも、漏れた水は開口部を通して便器700内に落下する。したがって、漏水がトイレットルーム内の床を濡らすことが防止される。
また、第1の本体領域201Xの背面側には、基板ケース240が取り付けられる。基板ケース240の詳細については後述する。
第2の本体領域202Xには、乾燥ユニット210、脱臭ユニット220およびプリント基板230が設けられる。
このように、第1の本体領域201Xに水関連の構成要素が配置され、第2の本体領域202Xに風関連の構成要素が配置される。それにより、水関連の構成要素の水漏れ対策の共用化および風関連の構成要素の粉塵対策の共用化が可能となる。その結果、信頼性および組み立て性が向上する。
本体下部ケーシング200Aの外周部、特に第1の本体領域201Xの外周部には、防水壁WPが形成されている。また、本体下部ケーシング200Aには、例えば本体部200を便器700へ取り付けるための孔部AHが形成される場合がある。この場合にも、孔部AHを取り囲むように防水壁WPが形成される。これにより、水関連の構成要素で水漏れが発生した場合でも、漏れ出した水が本体部200から外部に流れ出ることが防止される。
図66は、図1の本体部200の本体上部ケーシングを示す図である。
図66に示すように、本体上部ケーシング200Bは、ポリプロピレンにより形成される。本体上部ケーシング200Bの上面にはアクリルからなる化粧板200Cがホットメルト樹脂で取り付けられる。それにより、美しい外観を実現することができ、意匠性が向上する。
本体上部ケーシング200Bは、両側に内側面201および外側面202を有する。内側面201には便座接続部244が形成され、外側面202には蓋接続部250が形成される。本体上部ケーシング200Bの上部には便座温調ランプRA1および除菌ランプRA2が設けられる。
便座温調ランプRA1は、後述する便座ヒータ450がオフのときに消灯し、便座ヒータ450の昇温待機時に緑色に点灯し、便座ヒータ450の昇温時に橙色の点滅から点灯に変化する。それにより、使用者が便座ヒータ450の現在の状態を認識することができるので、使い勝手が良い。
また、除菌ランプRA2は、除菌動作がオフのときに消灯し、除菌動作中に青色に点滅し、除菌待機時に青色で点灯する。それにより、使用者が安心感を得ることができる。また、使用者が除菌動作中であることを認識することができるので、自動的な動作を故障と勘違いすることが防止される。
さらに、本体上部ケーシング200Bの側部には袖部291が設けられる。袖部291の傾斜した上面に本体操作部295が設けられる。この本体操作部295の一部が蓋ストッパ部292となる。本体操作部295には、赤外線受光部兼漏電ブレーカテストボタン293が設けられる。赤外線受光部兼漏電ブレーカテストボタン293は、遠隔操作装置300からの赤外線信号を受光し、制御部90に赤外線信号に基づく各種操作信号を送信する。
この場合、赤外線受光部と漏電ブレーカテストボタンとが兼用されるので、本体操作部295の小型化が可能になるとともに、視認性および操作性が向上する。
本体上部ケーシング200Bは、図64および図65の本体下部ケーシング200Aに取り付けられる。
図66Aは、本体上部ケーシング200Bを下方から見た図である。図66Aに示すように、本体上部ケーシング200Bには、便座部400および蓋部500が取り付けられる。また、本体上部ケーシング200Bの内部には、便座部400および蓋部500を開閉する電動開閉ユニットOCUが取り付けられている。
さらに、本体上部ケーシング200Bの内部には、ランプ用基板LW、ボタン基板BWおよびハーネス集約基板HWが設けられている。ランプ用基板LWには図66の便座温調ランプRA1および除菌ランプRA2が接続され、ボタン基板BWには図66の赤外線受光部兼漏電ブレーカテストボタン293が接続されている。
電動開閉ユニットOCU、ランプ用基板LWおよびボタン基板BWには、それぞれ信号線SL1,SL2,SL3が接続されている。3本の信号線SL1,SL2,SL3は、ハーネス集約基板HWの近傍で、本体上部ケーシング200Bの内部から引き出される。
信号線SL1,SL2,SL3の端部には、それぞれコネクタCN1,CN2,CN3が取り付けられている。矢印で示すように、コネクタCN1,CN2,CN3は、ともにハーネス集約基板HWに接続される。
ハーネス集約基板HWには、1本のメイン信号線MSLが接続されている。メイン信号線MSLは、上記の信号線SL1,SL2,SL3に対応する複数の信号線を束ねたものである。
メイン信号線MSLの端部には、メインコネクタMCNが取り付けられている。メインコネクタMCNは、本体下部ケーシング200Aに設けられたプリント基板230に接続される。
このようにして、本体上部ケーシング200B内の電動開閉ユニットOCU、ランプ用基板LWおよびボタン基板BWから延びる複数の信号線SL1,SL2,SL3がハーネス集約基板HWにより束ねられる。
これにより、本体上部ケーシング200Bから延びる複数の信号線SL1,SL2,SL3を個別にプリント基板230へ接続する必要がなくなる。それにより、本体部200を組み立てる作業性が向上する。そのため、コネクタCN1,CN2,CN3とプリント基板230との間の接続不良(挿入不良)の発生が防止される。その結果、本体部200の信頼性が著しく向上する。
なお、本例では、本体上部ケーシング200Bから延びる複数の信号線SL1,SL2,SL3を1本のメイン信号線MSLに束ねた例を説明したが、メイン信号線MSLは、例えば各信号線を通る信号の大きさ等に応じて2本にしてもよい。
(7−b) 本体部200の外観
図67および図68は、便座部400および蓋部500が取り付けられた本体部200の外観斜視図である。図67(a),(b)は、蓋部500が閉じられた状態を示し、図68は、蓋部500が開かれた状態を示す。
図67に示すように、本体上部ケーシング200Bの蓋接続部250(図66参照)に蓋部500が回動自在に取り付けられる。また、図68に示すように、本体上部ケーシング200Bの便座接続部244(図66参照)に便座部400が回動自在に取り付けられる。
この場合、本体部200の本体操作部295の一部が蓋ストッパ部292となり、蓋部500が一定角度以上開くことを阻止する。本体部200の背部には、ロータンクと呼ばれる排便後の便器700内の水を排出する水溜め部が設けられる場合がある。蓋ストッパ部292は、蓋部500が規定角度以上に開くことにより、蓋部500がロータンクに衝突して音が発生することを防止するために用いられる。このように、本体操作部295が蓋ストッパ部292を兼用するので、別途蓋ストッパ部を設ける必要がない。したがって、本体部200の清掃が容易になり、本体部200を衛生的に維持することができる。また、本体操作部295が傾斜しているので、使用者が便座部400に着座した状態での視認性および操作性が良好となり、見栄えもよい。
図69は、図67(b)のC67−C67線縦断面図である。本体上部ケーシング200B内に基板ケース240が設けられる。基板ケース240の底部には不燃性のマイカ板241が配置され、マイカ板241上に所定間隔をおいてプリント基板230が配置される。マイカ板241およびプリント基板230は樹脂240Vで封止される。
また、本体上部ケーシング200Bの内側上面には不燃性のマイカ板251が配置され、不燃性のガラステープ252で接着される。
このように、プリント基板230が不燃性のマイカ板241,251および不燃性のガラステープ252により取り囲まれるので、プリント基板230の安全性が十分に確保される。
<8> 便座装置
(8−a) 便座装置の構成
図70は、便座装置110の構成を示す模式図である。上述のように、便座装置110は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および入室検知センサ600を備える。
図70に示すように、本体部200は、制御部90、温度測定部401、ヒータ駆動部402、便座温調ランプRA1および着座センサ610を含む。
また、便座部400は便座ヒータ450およびサーミスタ401aを備える。
制御部90は、例えばマイクロコンピュータからなり、使用者の入室および便座部400の温度等を判定する判定部、タイマ機能を有する計時部、種々の情報を記憶する記憶部、ならびに、ヒータ駆動部402の動作を制御するための通電率切替回路等を含む。
本体部200の温度測定部401は、便座部400のサーミスタ401aに接続されている。これにより、温度測定部401は、サーミスタ401aから出力される信号に基づいて便座部400の温度を測定する。以下、サーミスタ401aを通じて温度測定部401により測定される便座部400の温度を測定温度値と称する。
また、本体部200のヒータ駆動部402は、便座部400の便座ヒータ450に接続されている。これにより、ヒータ駆動部402は便座ヒータ450を駆動する。
本実施の形態において、便座装置110は次のように動作する。初期設定時では、制御部90がヒータ駆動部402を制御することにより、便座部400が例えば約18℃となるように温度調整される。このときの温度を待機温度と称する。
ここで、使用者が遠隔操作装置300の便座温度調整スイッチ333を操作することにより、便座設定温度が制御部90に送信される。制御部90は、遠隔操作装置300から受信した便座設定温度を記憶部に記憶する。
使用者がトイレットルームに入室すると、入室検知センサ600が使用者の入室を検知する。それにより、使用者の入室検知信号が制御部90に送信される。
次に、通常の使用時の動作について説明する。制御部90の判定部は、入室検知センサ600からの入室検知信号により使用者のトイレットルームへの入室を検知する。そこで、判定部は、便座部400の測定温度値、および記憶部に記憶された便座設定温度に基づいて便座ヒータ450の駆動に関する特定のヒータ制御パターンを選択する。
通電率切替回路は、選択されたヒータ制御パターンおよび計時部により得られる時間情報に基づいてヒータ駆動部402の動作を制御する。
それにより、ヒータ駆動部402により便座ヒータ450が駆動され、便座部400の温度が便座設定温度へと瞬時に上昇される。
(8−b) 便座部400の第1の例
図71は、便座部400の分解斜視図である。図72(a)は、第1の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図72(b)は、図72(a)の領域C72の拡大図である。図73は、第1の例の便座部400の平面図である。図74は、図73の便座部400のC73−C73断面図である。
図71に示すように、便座部400は、主としてアルミニウムにより形成された略楕円形状の上部便座ケーシング410、略馬蹄形状の便座ヒータ450および合成樹脂により形成された略楕円形状の下部便座ケーシング420を備える。
以下、着座した使用者から見て前方側を便座部400の前部とし、着座した使用者から見て後方側を便座部400の後部とする。
図72(a)および図73に示すように、便座ヒータ450は、前部の一部が切り取られた略馬蹄状に形成される。なお、便座ヒータ450は、略楕円形状を有してもよい。便座ヒータ450は、例えばアルミニウムからなる金属箔451,453および線状ヒータ460を含む。
線状ヒータ460は、シート中央部SE3からシート一方端部SE1までの領域およびシート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて蛇行形状に配設される。
具体的には、線状ヒータ460は、左右6列程度のU字状部を有するように形成される。これらのU字状部は、着座した使用者の大腿部の方向にほぼ沿って並行に配置される。各U字状部における線状ヒータ460の間隔は5mm程度である。
線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
さらに、図72(b)に示すように、蛇行形状の線状ヒータ460の経路中に熱応力緩衝部となる複数の折曲部CUが設けられる。以下に、熱応力緩衝部の必要性について説明する。
後述するように、線状ヒータ460は、例えば銅からなる発熱線463a(図79)の外周面に複数の層が形成された構造を有する。ここで、銅の線膨張係数は16.8×10−6/℃である。これにより、線状ヒータ460の直線部分が50mmである場合に、その直線部分の温度が約50K上昇すると、発熱線463aが約0.1mm伸びる。正確には、発熱線463aが50mmから50.126mmに伸びる。
そのため、線状ヒータ460の直線部分の両端が固定されている場合には、発熱線463aが約1.5mmたわむ。したがって、線状ヒータ460が金属箔451,453の間で長距離に渡って直線状に貼り付けられると、線状ヒータ460がその温度変化とともに局所的に屈曲してしまう。または、線状ヒータ460の位置ずれが発生する。
そこで、本実施の形態では、上記のような熱応力緩衝部を設けることにより、線状ヒータ460の伸縮を熱応力緩衝部に吸収させることができる。その結果、線状ヒータ460の信頼性が向上する。
なお、線状ヒータ460に代えて、箔状(帯状)のヒータを用いる場合でも、箔状ヒータに温度変化に伴う伸縮が発生する。したがって、この場合にも、上記同様の熱応力緩衝部を設けることが好ましい。それにより、箔状ヒータの信頼性が向上する。
図74に示すように、上部便座ケーシング410の外側の側辺に沿った領域G1における線状ヒータ460の間隔ds1および内側の側辺に沿った領域G3における線状ヒータ460の間隔ds3は、上部便座ケーシング410の中央部の領域G2における線状ヒータ460の間隔ds2よりも小さく設定される。それにより、上部便座ケーシング410の外側の側辺に沿った領域G1および内側の側辺に沿った領域G3では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460が密に配列される。
(8−c) 便座部400の第2の例
図75(a)は、第2の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図75(b)は、図75(a)の領域C77の拡大図、図76は、第2の例の便座部400の平面図である。
図75(a)および図76に示すように、線状ヒータ460は、シート中央部SE3からシート一方端部SE1までの領域およびシート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。本例では、線状ヒータ460は、蛇行形状の曲げ部が上部便座ケーシング410の外側の側辺および内側の側辺の近傍に位置するように配置される。
具体的には、線状ヒータ460が便座ヒータ450の後部の一方側からシート一方端部SE1の近傍まで左右に蛇行しながら延びることにより図75(b)の第1系列Aの蛇行形状が形成される。また、線状ヒータ460がシート一方端部SE1の近傍から左右に蛇行しながらシート中央部SE3の近傍を経由してシート他方端部SE2の近傍まで延びることにより第2系列Bの蛇行形状が形成される。さらに、線状ヒータ460がシート他方端部SE2の近傍からシート中央部SE3の近傍を経由して便座ヒータ450の後部の一方側まで延びることにより第1系列Aの蛇行形状が形成される。
さらに、図75(b)に示すように、第1系列Aの蛇行形状の線状ヒータ460と第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460とはほぼ平行に配列される。第1系列Aおよび第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460はヒータ始端部460aからヒータ終端部460bまで連続している。
線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
本例では、線状ヒータ460は、便座ヒータ450の内側の側辺の近傍および外側の側辺の近傍に曲げ部が位置する蛇行形状を有する。それにより、曲げ部間の間隔が短い。したがって、熱膨張および熱収縮に起因する長さ変化が小さくなるので、たとえ線状ヒータ460が伸縮しても曲げ部で伸縮による歪が吸収および緩衝される。その結果、線状ヒータ460の熱膨張および熱収縮に起因するストレスが小さくなり、長期間の使用での破損を抑制することができる。
また、線状ヒータ460の熱的伸縮が小さいので、金属箔451,453に対する密着性を長期間良好に維持することができる。それにより、便座ヒータ450の加温を効率的にかつ確実に行うことができる。
また、図75(b)に示すように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sは、任意に調整することができる。それにより、便座ヒータ450の加熱分布を調整することができる。
例えば、便座ヒータ450の外側および内側の側辺近傍の加熱密度が便座ヒータ450の中央部の加熱密度よりも高くなるように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sを調整する。それにより、便座ヒータ450の全領域において均等な暖房温度を維持することができる。
また、本例では、第1系列Aの蛇行形状の線状ヒータ460での電流の向きが第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460での電流の向きと逆になる。それにより、線状ヒータ460から発生する電磁波が互いが打ち消される。その結果、ノイズの発生が防止される。
(8−d) 便座部400の第3の例
図77(a)は、第3の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図77(b)は、図77(a)の一部の拡大断面図である。
図77(a)に示すように、便座ヒータ450の後部の両側に線状ヒータ460が高い密度で蛇行する検温部450Tがそれぞれ形成される。図77(b)に示すように、一方の検温部450Tには、バイメタル等を用いた復帰型のサーモスタット450Qが設けられる。他方の検温部450Tには、温度ヒューズ等を用いた非復帰型のサーモスタット450Qが設けられる。
例えば、便座ヒータ450が想定外の異常温度になると、復帰型のサーモスタット450Qが開くことにより、一時的に通電が停止される。また、復帰型のサーモスタット450Qが故障等を起こすことにより、便座ヒータ450が危険温度に達しようとすると、非復帰型のサーモスタット450Qが開くことにより、電力の供給が遮断される。
ここで、温度過昇防止のためのサーモスタット450Qまたは温度ヒューズの動作温度設定は、実際に遮断したい温度よりも低くしておくことが望ましい。本実施の形態で説明している構成の便座は昇温速度が速い。したがって、安全装置(例えば、サーモスタット450Qまたは温度ヒューズ等)の動作速度によっては、実際に通電が停止されたタイミングで便座表面が予め設定された温度よりもさらに高い温度になってしまっている可能性があるためである。人体の皮膚のうち、普段露出していない臀部や大腿部の皮膚は他の部分の皮膚に比べて敏感である。これにより、上記のような、より高い安全設計が重要となる。
さらに、安全装置の動作温度設定を、実際に遮断したい温度よりも低くしておくことが望ましいことの他の理由について説明する。
他の理由は、オーバーシュートの防止のためである。上記構成を有する便座部400において、便座表面を短時間で昇温させる際には、線状ヒータ460と便座表面との間に約100Kの温度差が発生する。このように、線状ヒータ460と便座表面との間に大きな温度勾配が発生している場合には、線状ヒータ460への通電が遮断されても、しばらくの間線状ヒータ460から便座表面への熱の移動が継続される。
これは、線状ヒータ460の発熱が停止された時点では便座表面の温度が線状ヒータ460の温度よりも低いので、線状ヒータ460の熱が継続して便座表面に伝達されるためである。
したがって、便座表面の温度が所望の温度よりも上昇すること(オーバーシュート)を防止するために、安全装置の動作温度設定は、実際に遮断したい温度よりも低くしておくことが望ましい。
さらに他の理由は、安全装置と線状ヒータ460および便座表面との間の熱容量差による応答遅れの防止のためである。安全装置の熱容量は、線状ヒータ460および金属箔451,453の熱容量に比べて大きい。そのため、安全装置には、大きな応答遅れが発生する。
したがって、このような安全装置の応答遅れを考慮して、安全装置の動作温度設定は、実際に遮断したい温度よりも低くしておくことが望ましい。
ここで、上記のような安全装置の応答遅れを防止するために、便座部400を次のように構成してもよい。
例えば、安全装置の温度監視面が接触する部分(上述の検温部450T)の線状ヒータ460の密度を他の部分の密度に比べてさらに高くする。これにより、検温部450Tにおける熱密度が高くなり、熱容量が大きい安全装置を便座表面に近い速度で昇温させることができる。
なお、検温部450Tにおける線状ヒータ460の密度は、検温部450Tの熱密度と安全装置の熱容量との関係に基づいて、便座表面を短時間で昇温させる際の検温部450Tの昇温速度と、安全装置の温度監視面の昇温速度とがほぼ一致するように設計することが好ましい。
ところで、図77(b)に示すように、検温部450Tにおいては、線状ヒータ460による金属箔453の凹凸面と、サーモスタット450Qの温度監視面との間に形成される隙間に熱伝導性材料450Uを充填する。
この場合、線状ヒータ460と、サーモスタット450Qの温度監視面との間の熱の伝達経路が拡大される。したがって、線状ヒータ460で発生する熱が効率よくサーモスタット450Qの温度監視面に伝達される。
これにより、検温部450Tの実際の表面温度と、サーモスタット450Qの温度監視面の温度との差が確実に小さくなる。その結果、サーモスタット450Qによる線状ヒータ460の温度監視精度が向上し、サーモスタット450Qの信頼性が著しく向上する。
なお、熱伝導性材料450Uとしては、例えば熱伝導性のグリス、または弾性を有する熱伝導性のシートを用いることができる。
サーモスタット450Qの温度監視面はアルミニウムにより形成されることが好ましい。アルミニウムは、高い熱伝導率(237W/m・K)を有する。これにより、検温部450Tから温度監視面に伝達された熱が、効率よくサーモスタット450Q内のバイメタルに伝達される。
また、上述のように、金属箔451,453は、例えばアルミニウムからなる。この場合、サーモスタット450Qの温度監視面をアルミニウムで構成することにより、検温部450Tとサーモスタット450Qとが同一金属同士で接触する。
その結果、トイレットルーム等の多湿空間であっても、検温部450Tとサーモスタット450Qとの接触部における異種金属接触腐食(ガルバニ腐食)の発生が防止される。その結果、サーモスタット450Qの信頼性が向上する。
なお、異種金属接触腐食とは、異種金属が電気的に接続されることにより、異種金属間で電池が構成されたときに生じる腐食をいう。したがって、金属箔451,453がアルミニウム以外の材料により形成される場合には、サーモスタット450Qの温度監視面も金属箔451,453と同じ材料により形成することが好ましい。
(8−e) 便座部400の第4の例
図78は、第4の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図である。
図78に示すように、シート中央部SE3から左シート一方端部SE1までの領域に配列される線状ヒータ460と、シート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域に配列される線状ヒータ460とが互いに分離されている。
一方の線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。他方の線状ヒータ460のヒータ始端部460cおよびヒータ終端部460dは、便座部400の後部の他方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
(8−f) 便座ヒータ450の構造の一例
図79は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の構造の一例を示す断面図である。
図79に示すように、上部便座ケーシング410は、例えば厚さ1mmのアルミニウム板413により形成される。アルミニウム板413の上面には、アルマイト層412および表面化粧層411が形成される。表面化粧層411の上面が着座面410Uとなる。また、アルミニウム板413の下面には、塗装膜414が形成される。塗装膜414は、例えば膜厚40μmおよび150℃の耐熱性を有するポリエステル粉体塗装膜である。
なお、アルミニウム板413の代わりに、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちいずれかまたは複数を用いてもよい。
塗装膜414の下面に粘着層452aを介して例えばアルミニウムからなる金属箔451が貼着される。金属箔451の膜厚は、50μm以上であり、例えば50μmである。
このように、金属箔451の膜厚を50μm以上とすることにより、線状ヒータ460から発生された熱を、線状ヒータ460の側方へ良好に伝達させることができる。すなわち、金属箔451上の隣接する線状ヒータ460間で、熱の移動量を十分に確保することができる。その結果、線状ヒータ460で発生する熱が便座ヒータ450の全面に均一に拡散される。
また、金属箔451の膜厚を50μm以上とした場合、線状ヒータ460で発生する熱が金属箔451により十分に拡散される。それにより、便座ヒータ450の一部が、局所的に高温になることが防止される。
さらに、金属箔451の膜厚を50μm以上とすることにより、便座ヒータ450を不燃構造とすることができる。その結果、安全性が向上する。
線状ヒータ460は、断面円形の発熱線463a、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462により構成される。断面円形の発熱線463aの外周面がエナメル層463bおよび絶縁被覆層462で順に被覆される。発熱線463aおよびエナメル層463bによりエナメル線463が構成される。
発熱線463aは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有し、銅または銅合金からなる。本例では、発熱線463aとして、直径0.176mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。抵抗値は0.833Ω/mである。
エナメル層463bは、例えば300〜360℃の耐熱性を有するポリエステルイミド(PEI)からなる。エナメル層463bの膜厚は、20μm以下であり、本例では12〜13μmである。このようなエナメル線463は、エナメル層463bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。また、エナメル層463bの材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
なお、エナメル線463の作製時には、発熱線463aの外表面に、ポリエステルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)等の耐熱性絶縁材料からなる皮膜を複数回(10回以上20回以下)に渡って塗布形成する。したがって、エナメル層463bは、単一材料からなる複数の層が積層された構造(多層構造)を有する。
この場合、エナメル層463bの厚みを大きくすることは困難であるが、エナメル層463bの厚みが小さくてもピンホールの発生が十分に抑制される。それにより、エナメル線463の十分な絶縁性が確保される。
複数種類のエナメル層(0種、1種、2種等)がJISにより規定されている。これらのエナメル層のうち、0種のエナメル層は発熱線に形成される皮膜の数(層の数)が他の種類のエナメル層に比べて大きい。したがって、本例のエナメル層463bとしては0種に相当するエナメル層463bを用いることが好ましい。これにより、エナメル線463のより十分な絶縁性が確保され、安全性が向上する。
エナメル層463bにポリエステルイミド(PEI)を用いた場合、エナメル線463が軟化する温度を示す耐熱温度は、上述のように300℃以上360℃以下となる。なお、ポリエステルイミドを用いたエナメル線463の温度指数は約180℃である。
絶縁被覆層462は、例えば260℃の耐熱性を有するパーフロロアルコキシ混合物(以下PFAと称する)等のフッ素樹脂からなる。絶縁被覆層462の厚みは、例えば0.1〜0.15mmである。PFAからなる絶縁被覆層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、絶縁被覆層462の厚みが0.05〜0.1mmと薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
さらに、PFAを絶縁被覆層462として用いる場合、以下の効果を得ることができる。
PFAからなる絶縁被覆層462は、押出し加工により作製することができる。これにより、形成された絶縁被覆層462は、薄くてもピンホールが発生しにくい。これにより、絶縁被覆層462の信頼性を向上させることができる。
また、押出し加工により絶縁被覆層462の厚みを容易に調整することができる。したがって、単一材料の単層構造を有する絶縁被覆層462を高い精度で形成することが可能となる。
さらに、絶縁被覆層462の厚みを調整することにより、必要な機械的強度を確実に得ることができる。これにより、線状ヒータ460の信頼性を十分に向上させることができる。
PFAは、フッ素樹脂の一種である。これにより、PFAは、粘着剤または接着剤に対する濡れ性が低い。そのため、後述するように、線状ヒータ460が粘着層452bを用いて金属箔451と金属箔452との間に取り付けられる場合でも、線状ヒータ460は粘着層452bにより強固に固定されない。
それにより、線状ヒータ460は、金属箔451と金属箔452との間で遊動することが可能である。したがって、線状ヒータ460が伸縮する場合でも、伸縮時に発生する応力が局所的に集中することなく拡散される。その結果、上述の熱応力緩衝部により確実に線状ヒータ460の伸縮が吸収される。
なお、PFAの融点は310℃である。また、PFAの耐熱温度(最高使用温度)は上述のように260℃である。さらに、PFAのボールプレッシャー温度は230℃である。
なお、絶縁被覆層462の材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
線状ヒータ460の外径は、例えば0.46〜0.50mmである。線状ヒータ460の電力密度は、例えば0.95W/cm2である。
線状ヒータ460は、粘着層452bおよび例えばアルミニウムからなる金属箔453で覆うように金属箔451に取り付けられる。金属箔453の膜厚は、例えば50μmである。
ここでも、金属箔453の膜厚を50μm以上とすることにより、線状ヒータ460から発生された熱を、線状ヒータ460の側方へ良好に伝達させることができる。その結果、線状ヒータ460で発生する熱が便座ヒータ450の全面に均一に拡散される。また、金属箔453の膜厚を50μm以上とすることにより、便座ヒータ450を不燃構造とすることができる。その結果、安全性が向上する。
ところで、図79に示すように、金属箔451と線状ヒータ460との間の隙間には、粘着剤452cが充填されることが好ましい。この場合、便座ヒータ450の内部で隙間が形成されないので、熱の伝達効率が向上する。
金属箔451,453の貼り合わせに用いられる粘着層452bおよび粘着剤452cは、次の特性を有することが好ましい。
図79Aは、図79の金属箔451,453の貼り合わせに用いられる粘着層452bおよび粘着剤452cの粘着力と温度との関係を示すグラフである。図79Aでは、縦軸に粘着層452bおよび粘着剤452cの粘着力が示され、横軸に粘着層452bおよび粘着剤452cの温度が示されている。
図79Aの実線VLで示すように、粘着層452bおよび粘着剤452cは、温度が低いときに粘着力が強く、温度が上昇するにつれて粘着力が弱くなっている。
このような特性を有する粘着層452bおよび粘着剤452cを用いることにより、便座ヒータ450が発熱する際には、金属箔451,453間で線状ヒータ460が遊動状態となる。それにより、便座ヒータ450の温度上昇に伴い発生する線状ヒータ460の応力が効率よく分散される。
一方、金属箔451,453の貼り合わせ時等、便座ヒータ450が加熱されない場合には、線状ヒータ460が固定されるので、便座ヒータ450の組み立てが容易となる。
さらに、上記特性を有する粘着層452bおよび粘着剤452cを用いる場合には、次の効果を得ることができる。
本例の便座ヒータ450においては、線状ヒータ460間においても効率よく熱が拡散されるが、実際には線状ヒータ460の近傍と、線状ヒータ460から離れた箇所とでは温度差が生じる。
したがって、線状ヒータ460を取り囲む粘着層452bおよび粘着剤452cは、線状ヒータ460から発生される熱により粘着力が低下する。それにより、線状ヒータ460に発生する応力が十分に拡散される。
一方、隣接する線状ヒータ460間等、線状ヒータ460から離れた箇所では、線状ヒータ460から発生される熱の影響がやや低下するので、強い粘着力が維持される。それにより、金属箔451,453の貼り合わせ状態が確実に維持される。
上記のように、単一のエナメル線463上に絶縁被覆層462を形成することにより二重の絶縁構造を確保することができる。
エナメル層463bおよび絶縁被覆層462は、それぞれピンホールが発生しにくい方法により発熱線463aの表面に形成される。これにより、一方または他方に発生したピンホールが互いに重なり合う確率をほぼ0にすることができる。それにより、線状ヒータ460の絶縁性が向上される。
上述のように、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462には、着座面410Uを昇温するために必要とされる温度よりも十分に高い耐熱温度を有する材料が用いられる。これにより、線状ヒータ460が発熱する際の線状ヒータ460の絶縁性が十分に確保される。
発熱線463aには、ポリエステルイミド(PEI)からなるエナメル層463b、およびPFAからなる絶縁被覆層462が順に被覆される。ここで、発熱線463aを覆う複数の皮膜としては、発熱線463aの表面から外側に遠ざかるにつれて耐熱温度が順次小さくなるような材料を用いることが好ましい。したがって、エナメル層463bには、絶縁被覆層462に用いる材料(PFA)よりも高い耐熱温度を有する材料(ポリエステルイミド)を用いることが好ましい。
この場合、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462が最大限の絶縁性能を発揮することができる。また、発熱線463aから離れるに従って低下する複数の温度領域で適切な絶縁皮膜が用いられる。これにより、長寿命化が実現される。なお、耐熱性絶縁材料の寿命は、使用温度が8℃上昇することにより、その寿命時間が約半分になるといわれている(8℃半減則)。
上述のように、エナメル層463bは、耐熱性絶縁材料(ポリエステルイミド)からなる皮膜を複数回に渡って発熱線463aに塗布することにより形成されるので、十分な絶縁性を得ることはできるが、厚みを大きくすることは困難である。
そのため、線状ヒータ460としてエナメル線463を単独で用いると、機械的強度に限界が生じる。仮に、十分な機械的強度を得るために皮膜の積層数を増加させると、エナメル線463が高コスト化する。また、エナメル線463の製造工程の途中で発熱線463aが断線しやすくなる。その結果、歩留まりが悪化する。
さらに、本例でエナメル層463bとして用いられるポリエステルイミドは、PFAと異なり、粘着剤または接着剤に対する濡れ性が高い。そのため、線状ヒータ460としてエナメル線463を単独で用いる場合に、線状ヒータ460が粘着層452bに取り付けられると、線状ヒータ460は粘着層452bにより強固に固定される。その結果、線状ヒータ460の伸縮時に発生する応力が拡散されないので、便座ヒータ450の寿命が短くなる。
本例では、エナメル線463にPFAからなる絶縁被覆層462で被覆される。これにより、線状ヒータ460が絶縁被覆層462により補強される。その結果、高コスト化および歩留まりの悪化を抑制しつつ、線状ヒータ460の機械的強度を十分に向上させることが可能となっている。さらに、線状ヒータ460の機械的強度が十分に向上されるので、線状ヒータ460の製造が容易となる。また、便座ヒータ450の寿命も長寿命化する。
また、絶縁被覆層462は比較的薄くても十分な絶縁性が得られる。したがって、絶縁被覆層462の厚さを薄くすることができる。上記の例では、線状ヒータ460の樹脂層(エナメル層463bおよび絶縁被覆層462)の厚さは、0.12mm程度であり、極めて薄い。この場合、発熱線463aから金属箔451および便座ケーシング410への熱伝導を極めて俊敏に行うことができる。
ちなみに従来の便座装置においては、線状ヒータのシリコーンゴムまたは塩化ビニール等からなる被覆チューブの厚さは、上記の例の約10倍の1mm程度ある。このような被覆チューブの熱伝導速度は桁違いに遅く、便座の昇温速度を速くすることはできなかった。
従来の便座装置において便座の昇温速度を無理やり速くするためにヒータ線に大きい電力を供給した場合、断熱状態でヒータ線の温度を高くした場合と同様に、被覆チューブが溶融および焼損する。そのため、このような方法による便座の昇温は実用できなかった。
一方、本例のように耐熱性能に優れたエナメル線463をヒータ線として使用した場合、十分短時間で便座を昇温でき、かつ電気絶縁性および安全性を確保できる。したがって、本例の構造は、種々の便座装置に有効に実用することができる。
また、本例の構造では、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462等からなる樹脂層を0.1〜0.4mm程度の薄い厚さで形成できる。それにより、発熱線463aおよび樹脂層の絶対温度が低い温度に維持された状態で、便座を急速に昇温させることができる。その結果、高価な耐熱絶縁材料でなく比較的安価な絶縁材料を用いることができる。
また、本例においては、線状ヒータ460の熱を便座ケーシング410に効率よく伝達するために、線状ヒータ460をアルミ箔451,452で挟んでいる。ここで、本例の線状ヒータ460においては、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462を薄くできるので、線状ヒータ460の外径を細く(約φ0.2〜φ0.4)できる。この場合、アルミ箔451とアルミ箔452とを貼り合わせる際に、アルミ箔451とアルミ箔452との間の空気層を小さくすることができるとともに、アルミ箔451,452のしわを少なくすることができる。それにより、エナメル線463の局所高熱が抑制され、エナメル線463の断線および電気絶縁層(エナメル層463bおよび絶縁被覆層462)の損傷が防止される。その結果、便座装置110の長寿命化が可能になる。
また、エナメル線463を細くできるので、便座ヒータ450の重量を低減でき、便座開閉トルクを小さくすることができる。それにより、便座開閉用の電動開閉ユニットを小型化でき、便座装置110の小型化が可能となる。
図79の便座ヒータ450においては、発熱体として断面円形のエナメル線463が用いられている。エナメル線463は、発熱線463aに複数の絶縁性皮膜を形成することにより容易に作製される。また、絶縁被覆層462は、押出し加工により容易に形成される。また、発熱線463aは微細な円筒形状(線状)を有する。これらより、便座ヒータ450の製造が容易となる。また、便座ヒータ450の大量生産が可能となり、製造コストが十分に低減される。
さらに、上記のように作製される線状ヒータ460は、方向性を有しない。それにより、便座ヒータ450の組み立て時に、配線が容易となる。
なお、便座ヒータ450における発熱手段は断面円形の発熱線463aに限られない。発熱線463aに代えて、断面矩形の発熱線を用いてもよいし、断面楕円形の発熱線を用いてもよい。さらに、帯状の発熱体を用いてもよいし、箔状の発熱体を用いてもよい。
(8−g) 便座ヒータ450の構造の他の例
図80は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の構造の他の例を示す断面図である。
図80の例では、複数のエナメル線463が撚り合わされ、絶縁被覆層462で被覆されている。各エナメル線463は、例えば直径0.1mmの発熱線463aおよび膜厚10μmのエナメル層463bにより構成される。
このように、複数のエナメル線463の束の周囲を取り囲むように絶縁被覆層462を形成することにより二重の絶縁構造を確保することができる。
なお、図80の例では、7本のエナメル線463が撚り合わされているが、エナメル線463の数は7本に限定されない。例えば、2本のエナメル線463およびエナメル層463bにより被覆されていない1本の発熱線463a(以下、単体発熱線463aと称する。)を撚り合わせてもよい。
この構成においては、例えば、局所高熱等により上記2本のエナメル線463のうちの一方のエナメル層463bが絶縁破壊された場合、そのエナメル線463の発熱線463aと、上記の単体発熱線463aとが電気的に接続される。したがって、この構成によれば、単体発熱線463aを絶縁破壊検知線として用いることにより、エナメル層463bの絶縁破壊を検知することができる。それにより、2本のエナメル線463のうちいずれかのエナメル線463のエナメル層463bが絶縁破壊された場合には、すべての発熱線463aへの通電を遮断することができる。
つまり、複数本の撚り線のうち少なくとも1本をエナメル層463bのない非絶縁電線とすることにより、局所高熱等によりいずれかのエナメル線463のエナメル層463bが絶縁破壊された場合にも、その絶縁破壊を迅速に検知することができる。それにより、安全に発熱線463aへの通電を遮断することができる。
なお、上記においては、複数のエナメル線463を撚り合わせて用いた場合について説明したが、複数のエナメル線463を単に束ねて用いてもよい。
また、複数本の発熱線463aのうちの所定数の発熱線463aに流れる電流の向きと残りの発熱線463aに流れる電流の向きとを逆にしてもよい。この場合、一方向に流れる電流により発生する磁界と他方向に流れる電流により発生する磁界とが打ち消し合う。それにより、漏洩磁界の発生およびノイズの発生を抑制することができる。
(8−h) 便座ヒータ450の構造のさらに他の例
図81は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の構造のさらに他の例を示す断面図である。
図81の例では、金属箔451と粘着層452bとの間に耐熱絶縁層455が形成される。また、粘着層452bと金属箔453との間に耐熱絶縁層456が形成される。耐熱絶縁層455は、例えば150℃の耐熱性を有する膜厚12〜25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。同様に、耐熱絶縁層455は、例えば150℃の耐熱性を有する膜厚12〜25μmのPETからなる。
このように、単一のエナメル線463上に絶縁被覆層462を形成するとともに耐熱絶縁層455,456を形成することにより三重絶縁構造を確保することができる。
なお、図81の便座ヒータ450において、単一のエナメル線463の代わりに複数のエナメル線463の束を用いてもよい。
(8−i) 発熱線463aの被覆厚さ
図82は、発熱線463aの被覆厚さと便座部400の各部の温度上昇との関係の測定結果を示す図である。図82において、横軸は発熱線463aの被覆厚さを表し、縦軸は通電開始から6秒後の温度上昇値[K]を表す。
測定には、図81の構造を有する便座ヒータ450を用いた。発熱線463aの被覆厚さは、発熱線463aとアルミニウム板413との間の厚さであり、本例では、エナメル層463b、耐熱絶縁層455、粘着層452aおよび塗装膜414の合計の厚さである。
ここでは、6秒で約10Kの便座部400の着座面410Uの温度上昇を実用昇温性能とし、6秒で約13Kの温度上昇を目標昇温性能とした。
図82において、丸印は便座部400の着座面410Uの温度上昇値であり、三角印はアルミニウムからなる金属箔451の温度上昇値であり、四角印は絶縁被覆層462の温度上昇値である。
図82の結果から、発熱線463aの被覆厚さが0.4mm以下の場合には、実用昇温性能が得られることがわかる。また、発熱線463aの被覆厚さが0.2mm以下の場合には、目標昇温性能が得られることがわかる。したがって、発熱線463aの被覆厚さは、0.4mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましい。
(8−j) 絶縁被覆層462の材料
次に、図81の構造を有する3種類の便座ヒータ450に交流100Vの電圧を印加して発熱線463aの温度を測定した。
第1の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚100μmおよび耐熱温度260℃のPFAを用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚25μmおよび耐熱温度150℃のPETを用いた。第2の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚35〜40μmおよび耐熱温度350℃のPI巻被覆を用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚25μmおよび耐熱温度150℃のPETを用いた。第3の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚35〜40μmおよび耐熱温度350℃のPI巻被覆を用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚3〜6μmおよび耐熱温度90℃のアクリル樹脂を用いた。
第1の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPFAからなる絶縁被覆層462の耐熱温度260℃よりも低い162.3℃となった。第2の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPIからなる絶縁被覆層462の耐熱温度350℃よりも低い155.4℃となった。第3の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPIからなる絶縁被覆層462の耐熱温度350℃よりも低い125.7℃となった。
これらの結果から、絶縁被覆層462の材料として、PFAだけでなく、PI等の他の樹脂を用いることができることがわかった。
上記のように、各便座ヒータ450に交流100Vの電圧を印加することにより、発熱線463aの温度を約120℃から約170℃の範囲まで上昇させることができる。ここで、各便座ヒータ450に設けられた発熱線463aを約120℃から約170℃の温度範囲に上昇させるために必要な時間は、およそ1秒から2秒である。
これにより、各便座ヒータ450の加熱開始から微少時間(1秒から2秒)経過した時点では、発熱線463aから着座面410Uまでの温度勾配が約100K以上となる。このように、発熱線463aから着座面410Uまでの温度勾配を極めて大きくすることにより、発熱線463aから着座面410Uへの熱の移動速度が十分に向上される。その結果、着座面410Uの昇温速度が十分に高くなる。
なお、上記各便座ヒータ450の構成においては、高い温度まで高速に昇温する発熱線463aに、さらに高い温度まで絶縁性を確保することが可能な薄い皮膜が形成されている。
(8−k) 線状ヒータ460とリード線470との接続方法
図83は、線状ヒータ460とリード線470との接続方法を示す図である。図84は、線状ヒータ460とリード線470との接続部の断面図である。図85は、熱カシメの方法を示す図である。
図83および図84に示すように、リード線470の芯線は端子471に接続されている。端子471がU字形状に折曲され、線状ヒータ460の屈曲された先端部が端子471のU字形状の折曲部内に挿入される。
この状態で、図85に示すように、端子471のU字形状の折曲部を一対の電極EL1,EL2で挟み込む。一対の電極EL1,EL2で端子471のU字形状の折曲部を押圧しつつトランスTSから電極EL1,EL2を通して端子471および線状ヒータ460に電流を供給する。それにより、図84に示すように、絶縁被覆層462および線状ヒータ460のエナメル層463bが溶融する。その結果、線状ヒータ460の発熱線463aが接触点463Cで端子471に接触する。
図83に示すように、リード線470の端子471と線状ヒータ460との接続部475には例えば厚さ12μmのポリイミド薄膜からなる耐熱シート480が2〜3回巻き付けられる。さらに、リード線470の端子471と線状ヒータ460との接続部475は、シリコーン樹脂で被覆され、図72〜図81の金属箔451,453間に挟み込まれる。
このように、線状ヒータ460の発熱線463aの熱が金属箔451,453およびリード線470の端子471に伝導する。それにより、発熱線463aの局部過熱および断線が防止され、便座ヒータ450の均熱性が確保される。
また、線状ヒータ460の発熱線463aとリード線470の端子471との接続部475が耐熱シート480およびシリコーン樹脂の二重絶縁構造を有する。この場合、接続部475の熱が耐熱シート480およびシリコーン樹脂を通して便座ヒータ450の金属箔451,453に伝導する。それにより、十分な絶縁性を確保しつつ発熱線463aの局部過熱および断線が防止される。
さらに、線状ヒータ460の発熱線463aとリード線470の端子471とが熱カシメにより接続されるので、薄く確実な電気的接続が実現される。また、発熱線463aの浮き上がりが防止されるので、発熱線463aの局部過熱および断線が防止される。
なお、便座部400の安全性確保のために、便座装置110には2つの安全回路が内蔵されている。1つの安全回路は、便座ヒータ450の一方のリード線470とプリント基板230内部の便座ヒータ絶縁破壊検知回路との間に接続され、他の1つの安全回路は、便座ヒータ450の両方のリード線470と便座ヒータ断線検出回路との間に接続されている。いずれの安全回路も便座ヒータ402に異常が発生したときに使用者の感電を防止するために用いるものである。
便座ヒータ絶縁破壊検知回路は、便座ヒータ450が異常発熱した際の絶縁被覆層462溶融時に便座ヒータ450と金属箔451の間に電流が流れることを検出するものである。また、便座ヒータ断線検出回路は、便座ヒータ450両端に発生する電圧波形が便座ヒータ450断線時には発生しなくなることを検出するものである。ヒータ駆動部402は、2つの安全回路の両方が正常状態を検出しているときにのみ便座ヒータ450に通電を行う。
(8−l) 便座ヒータ450の動作
次に、便座ヒータ450の動作について説明する。便座ヒータ450のヒータ始端部460aとヒータ終端部460bとの間に一定の電圧が印加されると、内部の発熱線463aを電流が流れ、この発熱線463aが発熱する。このとき、発生した熱は、発熱線463aからエナメル層463bおよび金属箔451,453を通って上部便座ケーシング410の着座面410Uに伝導する。
線状ヒータ460は、絶縁被覆層462が260℃程度の耐熱性を有するPFAにより形成されるため、絶縁被覆層462の厚みが例えば0.1〜0.15mmと薄くても、発熱線463aの100〜150℃への急速昇温時にもエナメル層463bが破壊されることが防止される。したがって、線状ヒータ460から着座面410Uへの熱伝導を迅速に進行させることにより、着座面410Uを急速に昇温させることができる。
この場合、線状ヒータ460への通電開始から所定の最適温度に到達するのは5〜6秒と短時間であり、例えば、使用者がトイレットルームに入室して着座面410Uに着座するまでに要する7〜8秒より短時間である。したがって、使用者がトイレットルームに入室したことを入室検知センサ600により検知されると同時に線状ヒータ460に通電を開始しても、使用者が着座するまでには着座面410Uを十分に最適温度に到達させることができる。
さらに、図74の着座面410Uの内側の領域G3および外側の領域G1は、中央部の領域G2に比べて放熱性が高い。本実施の形態では、内側の領域G3および外側の領域G1では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460が密に配列される。したがって、使用者が着座面410Uに着座した瞬間に温度むらおよび冷感を感じることがない。
使用者が着座面410Uに着座した瞬間に温度むらおよび冷感を感じないように、便座部400は以下のような構成を有してもよい。
図85Aは、使用者に温度むらおよび冷感を感じさせないための便座部400の構成例を示す図である。図85A(a)に便座部400の上面図が示されている。図85A(b)に図85A(a)のCa−Ca線断面図が示され、図85A(c)に図85A(a)のCb−Cb線断面図が示されている。
図85A(b)および図85A(c)に示すように、着座面410Uの前方側の幅W41aは後方側の幅W41bよりも短い。また、着座面410Uの前方側の高さCahは、後方側の高さCbhよりも大きい。
このような形状を有する上部便座ケーシング410において、便座ヒータ450は、一般に着座面410Uの幅と同じ幅に形成され、上部便座ケーシング410の内面に貼り付けられる。
この場合、Ca−Ca線部分の便座ヒータ450の幅は、着座面410Uの前方側の幅W41aとほぼ同じに形成される。また、Cb−Cb線部分の便座ヒータ450の幅は、着座面410Uの後方側の幅W41bとほぼ同じに形成される。
しかしながら、このように便座ヒータ450を形成すると、実際には着座面410U全体の温度を均一に昇温させることはできない。それは、以下の理由による。
上記のように、上部便座ケーシング410の断面形状が異なる場合、着座面410Uの側端部から上部便座ケーシング410の下端部までの距離も異なる。
具体的には、図85A(a)の矢印dr1,dr2で示される着座面410Uの側端部から上部便座ケーシング410の下端部までの距離は、図85A(b)の矢印dr3,dr4で示される着座面410Uの側端部から上部便座ケーシング410の下端部までの距離よりも長い。
したがって、Ca−Ca線部分では、Cb−Cb線部分に比べて便座ヒータ450が貼り付けられない領域(以下、非発熱領域と呼ぶ)が大きくなる。そのため、Ca−Ca線部分では、Cb−Cb線部分に比べて便座ヒータ450から非発熱領域に伝達される熱量が大きくなる。その結果、着座面410U全面の温度を均一に昇温させることは困難となる。
そこで、本例の便座部400においては、Ca−Ca線部分と、Cb−Cb線部分とで、非発熱領域がほぼ同じ大きさとなるように、Ca−Ca線部分の便座ヒータ450の幅をCb−Cb線部分の便座ヒータ450の幅よりも大きく形成する。
これにより、Ca−Ca線部分で便座ヒータ450から非発熱領域に伝達される熱量と、Cb−Cb線部分で便座ヒータ450から非発熱領域に伝達される熱量とをほぼ等しくすることができる。すなわち、Ca−Ca線部分の熱容量と、Cb−Cb線部分の熱容量とをほぼ等しくすることができる。それにより、着座面410U全体の温度を均一に昇温させることが可能となる。その結果、使用者が着座面410Uに着座した瞬間に温度むらおよび冷感を感じることが確実に防止される。
一方、線状ヒータ460は、全長10m程度と長く、発熱線463aの急速昇温に伴って急速な膨張が発生し、結果として長さ方向に伸張する。また、通電が停止された場合は、発熱線463aの温度が低下し、収縮により元の長さに戻る。つまり、発熱線463aには熱膨張および熱収縮による熱応力歪が反復して形成される。
線状ヒータ460と金属箔451,453との密着が弱く、または線状ヒータ460と着座面410Uとの間に隙間が形成された場合、熱応力歪全体がそれらのうちの最も動きやすい箇所に集中する。その結果、線状ヒータ460に比較的強い屈伸運動が発生し、その応力疲労の蓄積により発熱線463aの破断といった線状ヒータ460の破損が発生する。
本例では、線状ヒータ460に熱応力緩衝部として複数の折曲部が形成されるので、これらの折曲部が全体の熱応力歪を細かく分散させるとともに、折曲部が熱応力歪を吸収する作用をも果たす。したがって、折曲部での熱応力は極めて小さく、結果として微小な屈伸の発生に留まる。その結果、発熱線463aの破断という事態には至らず、線状ヒータ460の長寿命化および耐久性が向上する。
なお、比較的放熱の多い着座面410Uの内側の領域G3および外側の領域G1では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460の間隔を大きくし、折曲部の数を少なくてもよい。
上記のように、線状ヒータ460の全長はほぼ10mと長く、かつ線状ヒータ460には折曲部が形成される。そのため、着座面410Uへの線状ヒータ460の装着時に、これらの線状ヒータ460の配列を維持および固定化する必要がある。線状ヒータ460を金属箔451,453で挟持した状態で線状ヒータ460を金属箔451,453に密着させることによりユニット化された便座ヒータ450が構成される。したがって、線状ヒータ460の配列を強固に維持した状態で線状ヒータ460を着座面410Uに接着することができる。
また、金属箔451,453により線状ヒータ460が挟持されるように構成されるので、金属箔451,453により均等に熱分散が行われる。それにより、線状ヒータ460が高温化することを防止することができる。また、着座面410Uが均熱化されるとともに、便座ヒータ450の破損が防止される。
(8−m) 便座装置110の通電シーケンス
便座ヒータ450の駆動の制御は、便座ヒータ450を駆動する電力を大きく3つに変化させることにより行う。
例えば、便座部400を第1の温度勾配で昇温させる場合、図70のヒータ駆動部402は約1200Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(1200W駆動)。
前述のように、便座ヒータ450の抵抗値は0.833Ω/mであり、全長10mである。したがって、便座ヒータ450の抵抗値は8.33Ωとなる。この抵抗値を有する便座ヒータ450に交流100Vが印加されると、(100V×100V)÷8.33Ω=1200Wの電力が発生する。すなわち、便座ヒータ450に交流電源の全周期に渡って電流を流すことにより、1200Wの電力が発生する。
図85Bは、便座部400を第1の温度勾配で昇温させる場合の便座ヒータ450(図79)の温度と便座ヒータ450に発生する電力との関係を示すグラフである。図85Bでは、縦軸が便座ヒータ450の温度および便座ヒータ450に発生する電力を表し、横軸が時間を表す。
図85Bの太い実線DWLで示すように、便座ヒータ450においては、交流100Vが印加されることにより、1200Wの電力が発生する。
これにより、太い一点鎖線HTLで示すように、便座ヒータ450の温度が急激に上昇する。それにより、便座ヒータ450の温度は、電力供給が開始されてから約1秒以上約2秒以下の範囲で約150℃まで上昇する。その後、便座ヒータ450の温度は約150℃で維持される。
便座ヒータ450の抵抗値は約150℃で約12Ω/mに増加する。そのため、便座ヒータ450が約150℃まで上昇すると、便座ヒータ450に発生する電力は約850Wまで低下する。
このように、便座部400を第1の温度勾配で昇温させる場合には、電力供給開始時に便座ヒータ450で大きな電力が発生するため、急激に便座ヒータ450の温度を上昇させることが可能となっている。
一方、上記のように、便座ヒータ450は短時間で所定の温度に維持され、飽和状態となる。そして、便座ヒータ450に発生する電力が小さくなる。その結果、便座ヒータ450の制御性が向上する。
また、便座部400を第1の温度勾配よりもやや緩やかな第2の温度勾配で昇温させる場合、ヒータ駆動部402は約600Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(600W駆動)。さらに、便座部400の温度を一定に保つ場合、ヒータ駆動部402は約50Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(低電力駆動)。なお、低電力駆動とは、1200W駆動および600W駆動に比べて十分に低い電力(例えば、0W〜50Wの範囲内の電力)により便座ヒータ450を駆動することをいう。
1200W駆動、600W駆動および低電力駆動の切替えは、制御部90の通電率切替回路が、ヒータ駆動部402から便座ヒータ450への通電を制御することにより行われる。
ヒータ駆動部402には図示しない電源回路から交流電流が供給されている。そこで、ヒータ駆動部402は、通電率切替回路から与えられる通電制御信号に基づいて供給された交流電流を便座ヒータ450に流す。
図86は、便座ヒータ450の駆動例および便座部400の表面温度の変化を示す図である。
図86においては、便座部400の表面温度と時間との関係を示すグラフと、便座ヒータ450を駆動する際の通電率と時間との関係を示すグラフとが示されている。これら2つのグラフの横軸は共通の時間軸である。
本例では、使用者が予め暖房機能をオンし、便座設定温度を高く(38℃)設定した場合を想定する。
冬季等室温が待機温度である18℃よりも低い場合、制御部90(図70)は、便座部400の温度を18℃となるように温度調整する。このように、制御部90は、入室検知センサ600により使用者の入室が検知されるまでの待機期間D1の間、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように、便座ヒータ450の低電力駆動を行う。
制御部90は、時刻t1で入室検知センサ600により使用者の入室が検知された場合、突入電流低減期間D2の間、600W駆動を行う。なお、この600W駆動は、突入電流を十分に低減するために行う。この場合、便座部400の表面温度はやや緩やかな第2の温度勾配で上昇される。
その後、制御部90は、突入電流低減期間D2の経過後の時刻t2で、便座ヒータ450の1200W駆動を開始し、第1の昇温期間D3の間便座ヒータ450の1200W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第1の温度勾配で上昇される。
ここで、便座部400の表面温度は急激に上昇される。便座ヒータ450の1200W駆動は、便座部400の表面温度が所定温度(例えば30℃)に達するまで行われる。もちろん、この所定温度は暖房温度として設定された温度であってもよいが、この所定温度は暖房温度にまで十分に上昇した温度でなく、それよりも低くても、使用者が着座した際に冷たいという不快感情を生じない最低限界の温度(限界温度)であればよい。この限界温度は、発明者らの実施した被験者実験により約29℃であることがわかっている。
このように、第1の昇温期間D3においては、便座部400の表面温度が1200W駆動により迅速に所定温度まで上昇される。それにより、使用者は便座部400を冷たいと感じることなく便座部400に着座することができる。
また、上述のように、便座部400の表面温度を急激に上昇させると、その温度変化にオーバーシュートが生じる。しかしながら、本例では、便座部400の表面温度が所定温度に達したときに便座ヒータ450の1200W駆動を600W駆動に切替える。したがって、便座部400の表面温度の変化がオーバーシュートした場合でも、その表面温度は便座設定温度を超えない。その結果、使用者が着座時に便座部400を熱いと感じることが防止される。
続いて、制御部90は、第1の昇温期間D3の経過後の時刻t3で、便座ヒータ450の600W駆動を開始し、第2の昇温期間D4の間便座ヒータ450の600W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第2の温度勾配で上昇される。
便座ヒータ450の600W駆動は、便座部400の表面温度が便座設定温度(38℃)に達するまで行われる。
第2の温度勾配は第1の温度勾配よりも緩やかである。これにより、便座部400の表面温度の変化に大きなオーバーシュートが生じることが防止される。
制御部90は、第2の昇温期間D4の経過後の時刻t4で、便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、第1の維持期間D5の間便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。それにより、便座部400の表面温度が便座設定温度で一定となる。
制御部90は、時刻t5で着座センサ290により使用者の便座部400への着座が検知された場合、低電力駆動の通電率を低下させ、第1の着座期間D6の間便座部400の表面温度が便座設定温度を維持するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本例では、第1の着座期間D6は約10分に設定される。
また、制御部90は、第1の着座期間D6の経過後の時刻t6で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の着座期間D7の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)に低下するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本例では、第2の着座期間D7は約2分に設定される。
制御部90は、第2の着座期間D7の経過後の時刻t7で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の維持期間D8の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)で一定となるように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。以下の説明では、第2の維持期間D8において一定に維持される期間便座部400の表面温度、すなわち便座設定温度よりもやや低い温度を維持温度と称する。
このように、本例では、使用者が便座部400に着座した後、制御部90が徐々に便座部400の表面温度を低下させる。それにより、使用者が低温やけどすることが防止される。
制御部90は、時刻t8で着座センサ290により使用者が便座部400から離れたことを検知すると、停止期間D9の間便座ヒータ450の駆動を停止する。それにより、便座部400の表面温度が低下する。
制御部90は、便座部400の表面温度が18℃に達した時刻t9で、再び便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように待機期間D10の間便座ヒータ450の低電力駆動を維持する。
このように温度勾配が徐々に緩やかになる場合、便座部400の温度変化により生じるオーバーシュートを十分に小さくすることができる。
本例では、使用者の便座部400への着座後、便座ヒータ450の駆動に用いる電力を調整することにより便座部400の表面温度を徐々に低下させているが、便座ヒータ450の駆動は使用者の便座部400への着座時に停止してもよい。この場合においても、使用者が低温やけどすることが防止される。
上記のように、本例では、時刻t8に使用者が便座部400から離れたことが検知されることにより便座ヒータ450の駆動が停止される旨を説明したが、便座ヒータ450の駆動の停止は、使用者が便座部400から離れたことが検知された時刻t8から一定時間(例えば1分間)経過後に行われてもよい。この場合、一度使用者が便座部400から離れた後に再度便意をもよおし、再度便座部400に着座する際にも、便座部400の表面温度が低下しない。これにより、使用者は快適に便座部400に着座することができる。
1200W駆動時、600W駆動時および低電力駆動時における便座ヒータ450への通電状態を通電率切替回路の通電制御信号とともに説明する。
以下の説明において、通電率とは交流電流の1周期に対して便座ヒータ450に交流電流を流す時間の割合をいう。
図87(a)は1200W駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図87(b)は1200W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号の波形図である。
図87(b)に示すように、1200W駆動時における通電制御信号は常に論理「1」となる。ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図87(a)太線部)。それにより、全周期の期間に渡って交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が約1200Wの電力で駆動される。
図88(a)は600W駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図88(b)は600W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号の波形図である。
図88(b)に示すように、600W駆動時における通電制御信号は、ヒータ駆動部402に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比は50%に設定される。
ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図88(a)太線部)。それにより、半周期の期間交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が約600Wの電力で駆動される。
図89(a)は低電力駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図89(b)は低電力駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号の波形図である。
図89(b)に示すように、低電力駆動時における通電制御信号は、ヒータ駆動部402に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比は50%よりも小さく(例えば数%程度)に設定される。
ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図89(a)太線部)。各周期においては、パルス幅に相当する期間交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が例えば約50Wの電力で駆動する。
上記の他、便座部400の温度を低くする場合、または便座装置110の暖房機能をオフしている場合等には、通電率切替回路はヒータ駆動部402に通電制御信号を与えない(通電制御信号を論理「0」に設定する)。これにより、ヒータ駆動部402は便座ヒータ450を駆動しない。
ここで、一般に、電子機器に供給される電流が高調波成分を有する場合、ノイズが発生する。本例では、上述のように便座ヒータ450の1200W駆動または600W駆動を行う場合には、便座ヒータ450に供給される電流がサインカーブを描くように変化するので、電流の大きさが大きくなってもノイズの発生が十分に低減される。
また、便座ヒータ450の低電力駆動を行う場合、便座ヒータ450に供給される電流は高調波成分を有するが、電流の大きさが1200W駆動時および600W駆動時に比べて非常に小さいので、ノイズの発生が十分に低減される。
上記のように、本実施の形態では、便座ヒータ450を1200W、600Wおよび約50Wの電力で駆動するとしているが、他の大きさの電力で便座ヒータ450を駆動してもよい。
例えば、便座ヒータ450に半周期の期間交流電流を流す場合には、交流電流を流すタイミングを2周期または3周期等所定の周期の間隔で設定する。それにより、1200W、600Wおよび約50Wとは異なる大きさの電力で、ノイズの発生を十分に防止しつつ便座ヒータ450を駆動することができる。
なお、本例では、制御部90は通電制御信号が論理「1」のときに便座ヒータ450に電流を供給し、通電制御信号が論理「0」のときに便座ヒータ450への電流の供給を停止しているが、通電制御信号が論理「1」のときに便座ヒータ450への電流の供給を停止し、通電制御信号が論理「0」のときに便座ヒータ450に電流を供給してもよい。
なお、便座ヒータ450のオンおよびオフは時間により制御されるため、時間の計測がずれると便座部400の温度が所定値を超えたり、所定値に達しない。そこで、時間の計測がずれないように、制御部90では、2つの計測源にて便座部400のオンの時間を計測する。1つの計測源として、制御部90のプログラムの実効速度を規定する発振子により便座ヒータ450のオンの時間を計測し、もう1つの計測源して、交流電圧の周期を基準として便座ヒータ450のオンの時間を計測する。これらの計測値の少なくとも一方が規定時間を超過すると、次の通電パターンに移行する。
特に、便座に1200W通電される時間が正確に計測されることにより過昇温が確実に防止される。これにより、さらに機器の安全性が向上する。ここでは、計測源を複数設けることにより計測の精度を向上させる方法について記載したが、便座ヒータ450がフル通電される時間を計測し、強制的にヒータへの通電を遮断もしくは制限する方法であっても、同様の効果を得ることができる。
(8−n) 便座装置110に関する効果
本例の便座装置110においては、線状ヒータ460の発熱線463aで発生された熱がエナメル層463bおよび絶縁被覆層462を介して上部便座ケーシング410に伝達される。それにより、着座面410Uの温度が上昇する。
ここで、エナメル層463bは十分な電気絶縁性を有する。そのため、エナメル層463bの厚さを小さくしても、発熱線463aと上部便座ケーシング410とを十分に絶縁することができる。また、それにより、絶縁被覆層462の厚さも小さくすることができる。
したがって、この便座装置110においては、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の厚さを小さくすることができる。この場合、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の熱容量を小さくすることができるので、発熱線463aで発生された熱を効率よく着座面410Uに伝達することが可能となる。
また、この便座装置110においては、上部便座ケーシング410にアルミニウム板413が用いられている。したがって、発熱線463aで発生された熱をさらに効率よく着座面410Uに伝達することができる。
以上の結果、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
また、発熱線463aの熱を効率よく着座面410Uに伝達することができるので、発熱線463aの発熱量を抑制することができる。それにより、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の耐久性が向上する。その結果、便座装置110の信頼性が向上する。
また、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを絶縁するためのエナメル層463bおよび絶縁被覆層462の厚さを小さくすることができるので、便座装置110の軽量化が可能となる。
また、十分な耐熱性を有するエナメル層463bで発熱線463aを被覆しているので、絶縁被覆層462として耐熱性の低い材料を用いることができる。それにより、便座装置110の製品コストを確実に低減することができる。
また、エナメル層463bがポリエステルイミドまたはポリアミドイミドにより形成される場合、ポリエステルイミドおよびポリアミドイミドは電気絶縁性および耐熱性に優れているので、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とをより確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
さらに、エナメル層463bの厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.4mm以下である場合、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uをより迅速に昇温させることができる。
特に、エナメル層463bの厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.2mm以下である場合、着座面410Uをさらに迅速に昇温させることができる。
また、絶縁被覆層462がエナメル層463bより耐熱性の低い材料からなるので、便座装置110の製品コストを十分に低減できる。
また、線状ヒータ460が上部便座ケーシング410の裏面側に設けられる金属箔451と金属箔453との間に挟まれるように設けられるので、発熱線463aで発生された熱が金属箔451,453に効率よく伝達される。また、金属箔451の一面が上部便座ケーシング410の裏面に貼着されかつ金属箔453の一面が金属箔451の他面に貼着されている。それにより、発熱線463aから金属箔451,453に伝達された熱を上部便座ケーシング410の裏面全体に効率よく伝達することができる。それにより、着座面410Uの全体を均一に昇温させることができる。
特に、金属箔451,453がアルミニウムからなる場合、発熱線463aで発生された熱を上部便座ケーシング410により迅速に伝達することができる。
さらに、上部便座ケーシング410の裏面の金属箔451と絶縁被覆層462との間に耐熱絶縁層455が設けられる場合、耐熱絶縁層455により発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とをより確実に絶縁することができる。
また、リード線470と線状ヒータ460との接続部475が金属箔451と金属箔453との間に設けられるので、リード線470と線状ヒータ460との接続部475における発熱が金属箔451,453に伝達される。それにより、着座面410Uをより迅速に昇温させることができる。
また、接続部475は耐熱シート480で被覆されてるので、接続部475と上部便座ケーシング410とを確実に絶縁することができる。
さらに、接続部475がシリコーン樹脂で被覆されるので、接続部475を確実に防水することができる。
線状ヒータ460の発熱線463aとしてAg−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられるので、発熱線463aの強度を確保しつつ発熱線463aの径を小さくすることができる。それにより、狭いスペースに長い発熱線463aを高い密度で配列することができる。その結果、着座面410Uの昇温速度を向上させることができる。
<9> 衛生洗浄装置100の各部の動作シーケンス
図90は、衛生洗浄装置100の各部の動作シーケンスを示すタイミング図である。
ここで、図3の人体用切替弁13は、切替弁モータ13mが回転することにより洗浄水の供給経路を切り替える。
ここで、おしりノズル21から洗浄水を噴出させるための切替弁モータ13mmの回転位置をおしり洗浄位置と呼び、ビデノズル22から洗浄水を噴出させるための切替弁モータ13mの回転位置をビデ洗浄位置と呼ぶ。また、人体洗浄前にノズル洗浄ノズル23から洗浄水を噴出させるための切替弁モータ13mの回転位置を前洗浄位置と呼び、人体洗浄後にノズル洗浄ノズル23から洗浄水を噴出させるための切替弁モータ13mの回転位置を後洗浄位置と呼び、ノズル洗浄ノズル23から洗浄水を排出しながら洗浄水を予め加熱するための切替弁モータ13mの回転位置をプレヒート位置と呼ぶ。さらに、おしりノズル21、ビデノズル22およびノズル洗浄ノズル23に洗浄水を供給しない切替弁モータ13mの回転位置を停止(待機)位置と呼ぶ。本例では、前洗浄位置、後洗浄位置およびプレヒート位置は同じである。
時点t11で、使用者が便座部400に着座すると、制御部90は切替弁モータ13mをプレヒート位置に回転させ、止水電磁弁7を開くとともにポンプ11を弱い駆動力で作動させる。それにより、洗浄水が熱交換器9、ポンプ11および人体用切替弁13を通ってノズル洗浄ノズル23から排出される。
本体部200への通電の1回目等のように、水回路に通水が行われていない可能性がある場合には、時点t11から時点t12の間、水回路が満水になるまでの時間(約3秒)は、熱交換器9への通電は行わない。
時点t12から時点t13までの期間は、熱交換器9の空焚き防止のために設けられている。その後、時点t13で流量センサ8により測定される流量が所定値になると、制御部90は、熱交換器9をオンにする。それにより、洗浄水が加熱される。
洗浄水の昇温が完了すると、時点t14で、制御部90は、切替弁モータ13mを停止位置に回転させ、止水電磁弁7を閉じるとともにポンプ11および熱交換器9をオフにする。
時点t15で、使用者がおしりスイッチ312を押下すると、制御部90は、切替弁モータ13mを前洗浄位置に回転させ、止水電磁弁7を開くとともにポンプ11を所定の前洗浄時の駆動力で作動させる。それにより、洗浄水が熱交換器9、ポンプ11および人体用切替弁13を通ってノズル洗浄ノズル23から噴出される。時点t16で流量センサ8により測定される流量が所定値になると、制御部90は、熱交換器9をオンにする。それにより、洗浄水が加熱される。
時点t17で、制御部90は、切替弁モータ13mをおしり洗浄位置に回転させ、止水電磁弁7を閉じるとともにポンプ11および熱交換器9をオフにする。
時点t18で、制御部90は、ノズル駆動モータ20mにより停止位置からおしりノズル21の突出を開始させる。時点t19で、ノズル駆動モータ20mよりおしりノズル21が標準位置まで移動すると、制御部90は、止水電磁弁7を開くとともにポンプ11を設定された洗浄強さに対応する駆動力(設定値)で作動させる。
時点t20で、流量センサ8により測定される流量が所定値になると、制御部90は、熱交換器9をオンにする。それにより、洗浄水が加熱され、加熱された洗浄水が使用者の局部に噴出される。時点t21から時点t22までの期間は、止水電磁弁7を閉じた後におけるノズル部20内部の水圧を排除するために設けられた期間である。この期間は、例えば、0.5秒程度に設定される。
時点t21で、使用者が停止スイッチ311を押下すると、制御部90は、切替弁モータ13mを停止位置へ向かって回転させ、止水電磁弁7を閉じるとともにポンプ11および熱交換器9をオフする。それにより、人体洗浄が終了する。
時点t22で、制御部90は、ノズル駆動モータ20mによりおしりノズル21を標準位置から停止位置に向かって移動させる。
時点t23で、切替弁モータ13mが停止位置まで回転すると、制御部90は、切替弁モータ13mを後洗浄位置に回転させ、止水電磁弁7を開くとともにポンプ11を弱い駆動力で作動させる。それにより、洗浄水が熱交換器9、ポンプ11および人体用切替弁13を通ってノズル洗浄ノズル23から噴出される。
時点t24で、流量センサ8により測定される流量が所定値になると、制御部90は、熱交換器9をオンにする。それにより、洗浄水が加熱され、加熱された洗浄水でおしりノズル21およびビデノズル22が洗浄される。
時点t25で、制御部90は、切替弁モータ13mを停止位置に回転させ、止水電磁弁7を閉じるとともにポンプ11および熱交換器9をオフにする。
<10> トイレ装置1000の使用時の動作シーケンス
(10−a) トイレットルーム入室時
使用者がトイレットルームに入室すると、入室検知センサ600により使用者が検知される。それにより、入室検知センサ600から本体部200の制御部90に入室検知信号が赤外線により送信される。
入室検知センサ600は、使用者を検知しているときに入室検知信号を赤外線により本体部200の制御部90に送信し続けてもよいが、電池寿命を延ばすためには、入室検知センサ600が一旦入室検知信号を送信した後は一定時間入室検知信号を送信を行わなくてもよい。
制御部90は、入室検知センサ600から入室検知信号を受信すると、便座便蓋開閉装置により蓋部500を閉状態から開状態にする。
制御部90は、ヒータ駆動部402により便座部400を図86に示したパターンで昇温させる。また、制御部90は、便器ノズル40により便器プレ洗浄と称した便器面への放水を行うことにより、便が便器面に付着することを防止する動作を行う。
また、制御部90は、便器プレ洗浄の際には、視覚的な効果を上げるために放射状に噴出される洗浄水を男子小用標的表示LED(発光ダイオード)で照らす。
ここで用いた入室検知センサ600は、使用者がトイレに入ることを確実かつ早いタイミングで検知し、便座部400の昇温を開始させるものである。したがって、例えば使用者が夜中にトイレの主照明をつけずに入室した際にも、非常に早いタイミングで衛生洗浄装置100の蓋部500が開く。
そして、入室検知センサ600が人体を検知した瞬間に男子小用標的表示LEDが点灯される。これにより、便器700の内部の光とともに便器700から漏れ出る光が、便器700の周辺をぼんやりと照らす。それにより、眠っていた使用者の覚醒が抑制される。また、安全性に優れたトイレの間接照明が行われる。
(10−b) 男子小用時
使用者が遠隔操作装置300の便座開閉スイッチ(図示せず)を操作すると、制御部90は、便座便蓋開閉装置により便座部400を閉状態から開状態にする。また、制御部90は、便座ヒータ450への通電を停止するとともに、便座温調ランプRA1を消灯させる。それにより、省エネルギー性がさらに向上する。また、男子小用標的表示LEDが点灯される。ここで、男子小用標的表示LEDは、便器700内で男子小用の標的部分に光を照射する。
なお、便座部400および蓋部500の開状態で入室検知センサ600から入室検知信号が5分間受信されない場合には、制御部90は便座便蓋開閉装置により便座部400および蓋部500を開状態から閉状態にする。
(10−c) 着座および排便時
制御部90は、着座センサ610からの着座検出信号に基づいて便座部400への使用者の着座時からの経過時間を計測する。そして、ヒータ駆動部402により便座部400を図86に示したパターンで昇温させる。
また、使用者が便座部400に着座すると、熱交換器9を含む水回路を温めるために図90に示したプレヒートを行う。上記のように、熱交換器9に洗浄水が供給されていないときには、制御部90は、熱交換器9に配置されているヒータ(例えば、シーズヒータ91,92)をオフにする。熱交換器9に洗浄水が供給されているか否かは流量センサ8により検出される。ただし、シーズヒータ91,92の1回目のオンの際には、水回路に通水されていないため、水回路が満水になるまでの時間(約3秒)は、流量センサ8により所定の流量が検出されてもシーズヒータ91,92へ通電されない。
また、使用者が便座部400に着座すると、制御部90は脱臭ユニット220を作動させる。使用者が便座部400に着座を続けている間は最大30分間脱臭ユニット220が作動状態を継続する。脱臭ユニット220の風量は3段階に切り替えられる。使用者の着座から洗浄開始までは、風量が「中」に設定され、洗浄中は風量が「弱」に設定され、使用者の脱座から1分間は風量が「強」に設定される。
(10−d) 人体洗浄時
使用者が遠隔操作装置300のおしりスイッチ312またはビデスイッチ313を押下すると、制御部90は、水回路を温めるために上記の前洗浄を行う。それにより、使用者に冷水が吐出されることが防止される。
制御部90は、熱交換器9の出湯温度センサ98により検出される温度が規定時間(3秒)以上規定温度(32℃)を継続した場合に前洗浄を終了する。前洗浄の終了後に、制御部90は止水電磁弁7を閉じた状態でノズル駆動モータ20mによりおしりノズル21またはビデノズル22を突出させる。それにより、おしりノズル21またはビデノズル22の突出時に洗浄水が使用者にかかることが防止される。
おしりノズル21またはビデノズル22が標準位置にまで到達した後、制御部90はポンプ11を制御することにより遠隔操作装置300を用いて使用者により設定された水勢(水量)で人体洗浄を行う。洗浄の最大時間は例えば5分間である。
使用者が遠隔操作装置300の停止スイッチ311を押下すると、制御部90は、止水電磁弁7を閉じるとともに、ノズル駆動モータ20mによりおしりノズル21またはビデノズル22をノズル部20内に収納する。
その後、制御部90は、ノズル部20の清掃のためにノズル洗浄ノズル23による後洗浄を行う。
ノズル部20による洗浄中は、制御部90は、脱臭ユニット220を弱状態で作動させる。それにより、トイレットルーム内の脱臭が行われる。
(10−e) 脱座時
着座センサ610により使用者の着座が検出されなくなると、制御部90は、視覚的効果を上げるためにノズル駆動モータ20mによりおしりノズル21およびビデノズル22を前後に移動させつつノズル洗浄ノズル23によりノズル部20を洗浄する。このとき、制御部90は、男子小用標的表示LEDを点灯させることによりノズル洗浄動作を強調させる。
また、制御部90は、使用者の脱座後1分の間、脱臭ユニット220を強状態で作動させる。それにより、トイレットルーム内の脱臭が強力に行われる。
さらに、着座センサ610により使用者の着座が検出されなくなり、入室検知センサ600により使用者が3分間検出されない場合、制御部90は、便座便蓋開閉装置により蓋部500を開状態から閉状態にする。
(10−f) 退室時
入室検知センサ600が使用者を一定時間検知しない場合には、制御部90は、便座部400および蓋部500を便座便蓋開閉装置により閉じる。また、入室検知センサ600が使用者を検知しなくなってから1分後に、制御部90は、ヒータ駆動部402による便座ヒータ450への通電を遮断する。それにより、トイレ装置1000の一連の動作シーケンスが終了する。
<11> 請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
上記実施の形態では、着座面410Uが着座面の例であり、発熱線463aが発熱線の例であり、エナメル層463bがエナメル層の例であり、上部便座ケーシング410が便座の例であり、絶縁被覆層462が絶縁被覆層の例であり、耐熱絶縁層455が耐熱絶縁層の例である。
また、金属箔451,453が第1および第2の金属箔の例であり、リード線470がリード線の例であり、接続部475が接続部の例であり、耐熱シート480が絶縁材の例であり、シリコーン樹脂が樹脂材料の例である。
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。