JP5404727B2 - 差動装置によるシール構造 - Google Patents

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Description

本発明は、自動変速機のケースにおける差動装置によるシール構造に関する。
車両用の自動変速機では、トルクコンバータ、変速装置、および差動装置が、同一のケース内に収容されるようになっており、このケース内には、これらの作動油が封入されている。
図6は、従来の差動装置100を説明する図である。
図6の(a)に示すように、差動装置100は、エンジンの回転駆動力がトルクコンバータおよび変速装置を介して入力されるピニオンギヤ101と、このピニオンギヤ101に噛み合う左右のサイドギヤ102と、を備えており、ピニオンギヤ101およびサイドギヤ102は、中空状に形成されたデフケース104内に収納されている。
自動変速機が車両に搭載された状態では、ケース(デフハウジング)107を挿通した左右のドライブシャフト109が、サイドギヤ102の円筒状の軸部103にスプライン嵌合しており、差動装置100に入力された回転駆動力が、ピニオンギヤ101とサイドギヤ102とを介して、左右のドライブシャフト109(駆動輪)に伝達されるようになっている。
ここで、従来の差動装置100を備える自動変速機では、左右のドライブシャフト109の外周とケース107の挿通穴108との間にシール110が設けられており、左右のドライブシャフト109を取り付けた状態で初めて、ケース107内に作動油を封入できるようになっている。
そのため、左右のドライブシャフト109が取り付けられていない自動変速機単体としての完成時には、ケース107の挿通穴108が封止されていないので、ケース107内に作動油を封入できないようになっている。
よって、従来の自動変速機の場合、自動変速機の完成検査にあたり、検査前に、左右のドライブシャフト109の組み付けとケース107内への作動油の供給が必要となり、さらに、検査後に、左右のドライブシャフト109の取り外しとケース107からの作動油の抜き取りが必要となっていた。
さらに、オフライン工場での左右のドライブシャフト109の組み付け後に、ケース107内への作動油の再供給が必要となっていた。
そのため、このような左右のドライブシャフト109の組み付け/取り外し、そしてケース107内への作動油の供給/抜き取りによる手間を軽減するために、特許文献1に開示された構成の差動装置100’が提案されている(特許文献1)。
図6の(b)に示すように、特許文献1の差動装置100’では、サイドギヤ102’の軸部103’を軸方向に延長して、軸部103’の外周とケース107の挿通穴108との間にシール110を設けることで、左右のドライブシャフト109を組み付けていない状態において、作動油をケース107内に封入できるようにされている。
特開10−213209号公報
しかし、サイドギヤ102’の軸部103’を軸方向に延長すると、サイドギヤ102’の軸方向長さが長くなってしまう。
デフケース104には、当該デフケース104の内部と外部とを連通させる開口(図示せず)が設けられており、軸部103が短い従来のサイドギヤ102の場合には、デフケース104の開口からサイドギヤ102をデフケース104内に収装していた。
しかし、軸方向に延長されたサイドギヤ102’の場合には、サイドギヤ102’を、デフケース104の開口からデフケース104内に収装できないため、特許文献1の差動装置100’の場合には、デフケース104をドライブシャフト109の軸方向で分割して、ケース部105とカバー部106とし、カバー部106にサイドギヤ102を組み付けた後にケース部105をカバー部106にボルトBで組み付ける構成のデフケース104、すなわち二部品からなるデフケースを採用している。
しかし、デフケース104を分割すると、ケース部105とカバー部106とを締結するためのフランジ部105a、106aが必要となるため、デフケース104が大型化する。さらに、軸部103’を軸方向に延長した分だけサイドギヤ102’もまた大型化する。
そのため、デフケース104の大型化によるデフケース104の重量の増加と、サイドギヤ102’の大型化による重量増加とにより、差動装置100’全体の重量が増加してしまう。
よって、軸方向に延長されたサイドギヤを備える差動装置において、デフケースの大型化を防ぎつつ、ドライブシャフト109が組み付けられていない状態でのケース107の密閉性を確保することが求められている。
本発明は、車両における左右のドライブシャフトの挿通穴を有する自動変速機のケース内で、差動装置の一部品で構成されたデフケースが回転可能に支持されており、挿通穴を挿通させた左右のドライブシャフトが、デフケース内で左右のサイドギヤにそれぞれ嵌合するように構成された自動変速機において、
デフケース内でドライブシャフトの軸方向からサイドギヤに連結される円筒状のスリーブを、デフケースから突出して挿通穴に及ぶ長さで形成し、挿通穴に、スリーブの外周に圧接するシールを設け、
スリーブとサイドギヤとの連結部において、スリーブからサイドギヤ側に延びるスリーブ側の係合部と、サイドギヤからスリーブ側に延びるサイドギヤ側の係合部とを、ドライブシャフトの径方向で重なる位置関係で設けると共に、
スリーブ側の係合部と、サイドギヤ側の係合部に、それぞれ、サイドギヤ側の係合部側に突出するスリーブ側突部と、スリーブ側の係合部側に突出するサイドギヤ側突部とを設けて、
スリーブとサイドギヤの軸方向における互いに離れる方向への移動を、互いに係合させたスリーブ側突部とサイドギヤ側突部により規制した構成の差動装置によるシール構造とした。
本発明によれば、サイドギヤとは別体に設けたスリーブと、スリーブの外周に圧接するシールにより、自動変速機のケース内の作動油が挿通穴から外部に漏出しないようにしたので、作動油の漏出を阻止するためにサイドギヤを軸方向に延長する必要がない。
よって、サイドギヤをデフケース内にセットするために、デフケースを二部品から構成して分割可能にする必要がなく、一部品からなるデフケースの開口部からサイドギヤをセットすることができるので、デフケースの大型化を防ぐことができる。
実施の形態にかかる差動装置を説明する図である。 実施の形態にかかる差動装置の要部拡大図である。 実施の形態にかかる差動装置に対するスリーブの組付けを説明する図である。 実施の形態にかかる差動装置に対するドライブシャフトの組付けを説明する図である。 変形例にかかる差動装置を説明する図である。 従来例にかかる差動装置を説明する図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態にかかる差動装置1の構成を説明する断面図である。
図2は、図1における領域Aの拡大図である。
図1に示すように、変速機ケース(図示せず)の下部に位置するデフハウジング3では、差動装置1のデフケース2が、ベアリング4を介して回転可能に支持されている。
デフケース2は、サイドギヤ7の回転中心軸Xに直交する方向(回転中心軸Xから見て径方向外側)に延びるフランジ部21を有しており、このフランジ部21にはファイナルギヤFがボルトBで固定されている。
実施の形態にかかる差動装置1では、エンジンの回転駆動力が、変速装置(図示せず)を介してファイナルギヤFに入力されると、ファイナルギヤFとデフケース2とが、回転中心軸X周りに一体に回転し、この回転が、デフケース2内のピニオンギヤ5およびサイドギヤ7を介して、ドライブシャフト9に伝達されるようになっている。
デフケース2は、ピニオンギヤ5と、ピニオンシャフト6と、サイドギヤ7とを、内部に収納する中空状に形成されている。このデフケース2には、左右方向(回転中心軸Xの軸方向)に延出する円筒状の支持軸部22が設けられている。この支持軸部22の外周には、ベアリング4が圧入されており、デフケース2は、ベアリング4を介してデフハウジング3で回転可能に支持されている。
左右の支持軸部22には、それぞれドライブシャフト9が軸方向から挿入されて、サイドギヤ7にスプライン嵌合しており、サイドギヤ7とドライブシャフト9とが、回転中心軸X周りに一体に回転するように、互いに連結されている。
デフケース2には、回転中心軸Xに直交する方向に貫通した軸孔2a、2aが設けられており、この軸孔2a、2aは、ピニオンシャフト6の一端6a側および他端6b側が挿入されている。
ピニオンシャフト6の一端6a側は、ピンPでデフケース2に固定されており、ピニオンシャフト6の軸Y周りの自転が、ピンPにより禁止されている。
デフケース2内においてピニオンシャフト6は、サイドギヤ7の間で、回転中心軸Xに直交する軸Yに沿って配置されており、このピニオンシャフト6には、ピニオンギヤ5が外挿して回転可能に支持されている。
ピニオンギヤ5は、軸Yの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、回転中心軸Xの軸方向におけるピニオンギヤ5の両側には、サイドギヤ7が位置している。
サイドギヤ7は、回転中心軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、ピニオンギヤ5とサイドギヤ7とは、互いの歯部52、72を噛合させた状態で組み付けられている。
図2を参照して、サイドギヤ7およびその周辺を説明する。
なお、この図2では、ドライブシャフト9の回転中心軸Xよりも下側の部分の図示を省略して、サイドギヤ7およびスリーブ30の内周面を表している。
図2に示すように、サイドギヤ7は、ギヤ部71と軸部75とを備えて一体に形成されており、その内部には、軸部75とギヤ部71とを回転中心軸Xの軸方向に貫通して、貫通穴73が設けられている。
貫通穴73は、回転中心軸Xに沿って設けられており、ギヤ部71側の端部には、軸部75側よりも大きい内径の拡径部74が設けられている。拡径部74には、キャップ形状の封止部材20が内嵌して取り付けられている。
なお、この封止部材20は、サイドギヤ7の拡径部74と一体に形成されていても良い。
デフケース2内の空間S1には、デフハウジング3内の作動油(潤滑油)が、デフケース2の外周に設けた図示しない開口を介して供給されるようになっており、封止部材20は、空間S1内に導かれた作動油(潤滑油)が、サイドギヤ7の貫通穴73を通って、デフハウジング3の外部に漏出することを防止するために設けられている。
軸部75は、支持軸部22の径方向内側に及ぶ長さL1で形成されており、この支持軸部22の径方向内側で、円筒形状のスリーブ30に連結されている。
スリーブ30は、サイドギヤ7の構成材料とは異なる材料、例えば耐熱性のある樹脂材料から構成されており、回転中心軸Xの軸方向(ドライブシャフト9の挿入方向)から、軸部75に連結されている。このスリーブ30は、デフケース2の支持軸部22から突出して、デフハウジング3の挿通穴3a内に及ぶ長さL2で形成されている。
スリーブ30の中央の貫通穴32は、軸部75の貫通穴73の内径と整合する内径で形成されている。スリーブ30の外周面の挿通穴3aの内側に位置する部分には、デフハウジング3の挿通穴3aに内嵌して取り付けられたシール10が径方向外側から圧接している。
実施の形態では、デフケース2から突出するスリーブ30と挿通穴3aに設けたシール10により、デフハウジング3の空間S内の潤滑油が挿通穴3aを通ってデフハウジング3の外部に漏出することを防止している。
スリーブ30とサイドギヤ7の軸部75との連結部には、スリーブ30から軸部75側に延びる円筒状のスリーブ側係合部31と、軸部75からスリーブ30側に延びる円筒状のサイドギヤ側係合部76とが位置している、
スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76は、回転中心軸Xから見て径方向で互いに重なるように設けられており、スリーブ側係合部31のほうが、サイドギヤ側係合部76よりも径方向内側に位置している。
スリーブ側係合部31の先端側の外周には、径方向外側に突出する係合突部31aが設けられており、サイドギヤ側係合部76の先端側の内周には、径方向内側に突出する係合突部76aが設けられている。
スリーブ30と軸部75とは、互いの係合突部31a、76a同士を、軸方向から嵌め合わせた状態で互いに連結されており、スリーブ30とサイドギヤ7の軸部75は、互いに係合させた係合突部31a、76aにより、回転中心軸Xの軸方向における互いに離れる方向への移動が規制されている。
実施の形態では、スリーブ30の端面30aと軸部75の端面75aとを含む、スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76の接合面に、接着剤が介在しており、スリーブ30と軸部75とが、係合突部31a、76a同士の係合力と接着剤の接着力により、強固に連結されている。
さらに、接着剤により、スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76の接合面を封止することで、この接合面を通って、デフケース2内の潤滑油が、スリーブ30および軸部75の内径側に漏出することを阻止している。スリーブ30および軸部75の内径側に潤滑油が漏出すると、デフハウジング3の外部に潤滑油が漏出する可能性があるからである。
実施の形態では、支持軸部22が、スリーブ30と軸部75との連結部の径方向外側に位置するように、軸部75の長さL1およびスリーブ30の長さL2が設定されている。ここで、スリーブ30と軸部75との連結部とは、スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76とが、回転中心軸Xの径方向で重なる部分を意味する。
ここで、スリーブ30の支持軸部22に挿入されている部分の長さL3は、スリーブ30が回転中心軸Xに対して傾くことなく支持軸部22に支持される長さとなっており、実施の形態では、スリーブ30の軸方向における全長L2の大凡半分が、支持軸部22の径方向内側に位置する長さに設定されている。
サイドギヤ7の貫通穴73の内周面には、スプライン73aが設けられており、サイドギヤ7は、ドライブシャフト9の外周に形成されたスプライン9aにスプライン73aを嵌合させて、ドライブシャフト9にスプライン嵌合されている。
貫通穴73の内周面においてスプライン73aは、回転中心軸Xの軸方向に沿って形成されると共に、回転中心軸X周りの全周に亘って設けられている。
スプライン73aは、貫通穴73における拡径部74の近傍から、サイドギヤ側係合部76の近傍までの範囲に形成されており、スプライン73aのサイドギヤ側係合部76側は、サイドギヤ側係合部76の基端となる軸部75の端面75aからギヤ部71側に所定距離Lxだけオフセットしている。
ドライブシャフト9とサイドギヤ7とのスプライン嵌合部(スプライン9aとスプライン73aとが実際に嵌合している部分)には、回転中心軸X周りの捩り応力が作用するので、かかる部分にサイドギヤ側係合部を設けて回転中心軸Xから見た径方向の厚みを薄くすると、捩り応力に対する強度が低下する。
スプライン73aを、スリーブ30と軸部75との連結部から軸方向にオフセットさせた位置に形成することより、捩り応力に対する強度の低下を防止している。
スリーブ30の内周面であって、前記したシール10に整合する位置には、内周面の全周に亘って凹溝33が形成されている。この凹溝33には、Oリング34が内嵌して取り付けられており、このOリング34は、ドライブシャフト9の外周面に圧接している。
このOリング34は、スリーブ30および軸部75の内径側に潤滑油が漏出した場合に、かかる潤滑油がデフハウジング3の外部に漏出することを阻止するために設けられている。
以下、デフケース2に対するスリーブ30の組み付けと、ドライブシャフト9の組付けを説明する。
図3は、スリーブ30の組付けを説明する図であり、(a)は、スリーブ30を、デフハウジング3の挿通穴3aに挿入する前の状態を示す図であり、(b)は、スリーブ30のスリーブ側係合部31と、軸部75のサイドギヤ側係合部76とが係合し始めた状態を示す図であり、(c)は、スリーブ30のスリーブ側係合部31と、軸部75のサイドギヤ側係合部76とを互いに係合したのちに、シール10を配置した状態を示す図である。
図4は、ドライブシャフト9の組付けを説明する図であり、(a)は、ドライブシャフト9を、デフハウジング3の挿通穴3aに挿入する前の状態を示す図であり、(b)は、ドライブシャフト9とサイドギヤ7とをスプライン嵌合させた状態を示す図である。
スリーブ30の組み付けは、ピニオンギヤ5、ピニオンシャフト6、サイドギヤ7などを収装させたデフケース2を、ベアリング4を介してデフハウジング3で回転可能に支持させたのちに行われる。
図3の(a)に示すように、スリーブ側係合部31の外周面(サイドギヤ側係合部76との接合面)に接着剤を塗布したのち、スリーブ30を、図中矢印A1で示す方向に押し込んで、デフハウジング3の挿通穴3aから支持軸部22の開口22a内に挿入する。
この際、スリーブ30のスリーブ側係合部31と、軸部75のサイドギヤ側係合部76とが互いに係合する位置までスリーブ30を挿入して、スリーブ30とサイドギヤ7の軸部75とを互いに連結する。
スリーブ30を挿入する際には、スリーブ側係合部31の径方向内側にドライブシャフト9が位置していないので、図3の(b)に示すように、スリーブ30は、スリーブ側係合部31を、図中径方向内側(図中矢印A2参照)に撓ませながら、軸部75側に押し込まれることになる。
そして、スリーブ側係合部31の係合突部31aが、サイドギヤ側係合部76の係合突部76aを乗り越えた時点で、係合突部31aがその復元力により径方向外側に変位して、スリーブ30と軸部75とが、互いの係合突部31a、76a同士を係合させた状態で連結される(図3の(c)参照)。
続いて、デフハウジング3の挿通穴3aにシール10を内嵌して取り付けて、スリーブ30の外周にシール10を圧接させる。これによりデフハウジング3の挿通穴3aが、スリーブ30とシール10により封止されるので、デフハウジング3の空間S内に作動油を封入できる状態となる(図3の(c)参照)。
この図3の(c)の状態が、自動変速機単体としての完成状態となるので、完成検査後に、ドライブシャフト9を取り外しても、デフハウジング3内に充填された作動油を除去する必要がない。
さらに、この状態において、スリーブ30は、スリーブ側係合部31の係合突部76aを、サイドギヤ側係合部76の係合突部76aに係合させている。よって、スリーブ30は、支持軸部22からの脱落(抜け)が防止された状態で、軸部75との連結状態が保持される。
図4の(a)に示すように、スリーブ30とシール10により、デフハウジング3の挿通穴3aを封止した状態において、ドライブシャフト9を、図中矢印A1で示す方向に押し込んで、デフハウジング3の挿通穴3aを挿通させたのちに、支持軸部22の開口22a内に挿入する。
これにより、ドライブシャフト9とサイドギヤ7とがスプライン嵌合された状態となる(図4(b)参照)。
この状態では、スリーブ側係合部31の係合突部31aと、軸部75側の係合突部76aとの連結部分の径方向内側にドライブシャフト9が位置し、径方向外側にデフケース2の支持軸部22が位置している。
そのため、係合突部31aと係合突部76aとの係合を解除させる方向(回転中心軸Xに直交する方向)に係合突部31aと係合突部76aを移動させることができない状態で、スリーブ30とサイドギヤ7(軸部75)とが連結されることになる。
よって、差動装置1を備える自動変速機が車両に搭載された状態において、スリーブ30のデフケース2からの脱落(抜け)が好適に防止される。
以上の通り、本実施形態では、車両における左右のドライブシャフト9の挿通穴3aを有する自動変速機のケース下部に位置するデフハウジング3内で、差動装置1の一部品で構成されたデフケース2が、ベアリング4を介して回転可能に支持されており、挿通穴3aに挿通させた左右のドライブシャフト9が、デフケース2内で左右のサイドギヤ7にそれぞれスプライン嵌合するように構成された自動変速機において、デフケース2内でドライブシャフト9の軸方向からサイドギヤ7に連結される円筒状のスリーブ30を、デフケース2から突出して挿通穴3aに及ぶ長さL2(図2参照)で形成し、挿通穴3aに、スリーブ30の外周に圧接するシール10を設けた構成の差動装置によるシール構造とした。
このように構成すると、サイドギヤ7とは別体に設けたスリーブ30と、スリーブ30の外周に圧接するシール10により、自動変速機のケース(デフハウジング3)内の作動油を挿通穴3aから外部に漏出させないようにすることができるので、作動油の漏出を阻止するためにサイドギヤ7を軸方向に延長する必要がない。
さらに、サイドギヤ7とは別体に設けたスリーブ30を採用することで、サイドギヤ7を小型化できるので、サイドギヤ7をデフケース2内にセットするために、デフケース2を二部品から構成して分割可能にする必要がなく、一部品からなるデフケースの開口部からサイドギヤ7をセットすることができるので、デフケースの大型化を防ぐことができる。
そして、一部品からなるデフケースを採用できるので、部品点数を減らすことができ、二部品からなるデフケースの場合に必要であったケースの組付け作業が不要となるので、作製コストの低減に寄与することになる。
さらに、デフケースの締結が不要になるので、フランジを薄くしてデフケースの重量低減が可能となる。これにサイドギヤの小型化による重量低減が寄与するので、自動変速機(差動装置)全体としての重量を低減させることができる。
以上より、ドライブシャフトが取り付けられていない状態にでも、ケースの密閉性を確保できるクローズタイプの差動装置を安価に作成できる。
スリーブ30とサイドギヤ7との連結部では、スリーブ30からサイドギヤ7側に延びる円筒状のスリーブ側係合部31と、サイドギヤ7からスリーブ30側に延びる円筒状のサイドギヤ側係合部76とが、ドライブシャフト9の径方向で重なる位置関係で設けられており、スリーブ30とサイドギヤ7との連結部では、内径側に位置するスリーブ側係合部31と外径側に位置するサイドギヤ側係合部76とをインロー嵌合させて、スリーブ30がサイドギヤ7に連結されると共に、スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76の接合面に、接着剤を介在させた構成とした。
このように構成すると、スリーブ30とサイドギヤ7とを、位置精度良く強固に連結させることができる。
さらに、接着剤により、スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76の接合面が封止されるので、この接合面を通って、デフケース2内の潤滑油が、スリーブ30および軸部75の内径側に漏出し、さらにデフハウジング3の外部に漏出することを好適に防止できる。
また、スリーブ側係合部31が内径側に位置しているので、ドライブシャフト9の軸部75内への挿入が阻害されることがない。サイドギヤ側係合部76が内径側に位置している場合、作成誤差によりサイドギヤ側係合部76がスリーブ側係合部31よりも僅かに内径側にずれてしまうと、サイドギヤ側係合部76の延長方向からドライブシャフトが挿入される位置関係となるので、ドライブシャフト9の軸部75内への挿入がサイドギヤ側係合部76により阻害される虞がある。
スリーブ側係合部31が内径側に位置していると、スリーブ側係合部31が僅かに内径側にずれても、ドライブシャフト9がスリーブ側係合部31に引っ掛かる虞がないので、ドライブシャフト9の軸部75内への挿入が阻害されることがない。
スリーブ側係合部31には、サイドギヤ側係合部76側(外径側)に突出する係合突部31aが、サイドギヤ側係合部76には、スリーブ側係合部31側(内径側)に突出する係合突部76aが設けられており、スリーブ30とサイドギヤ7は、互いに係合させた係合突部31a、76aにより、回転中心軸Xの軸方向における互いに離れる方向への移動が規制される構成とした。
このようにすると、スリーブ30のデフケース2からの脱落(抜け)を好適に防止できる。
デフケース2は、サイドギヤ7を回転可能に支持する筒状の支持軸部22を備えており、支持軸部22を、スリーブ30とサイドギヤ7との連結部の径方向外側に位置させた構成とした。
このように構成すると、ドライブシャフト9が、支持軸部22の開口22a内に圧入されてサイドギヤ7にスプライン嵌合されると、スリーブ30とサイドギヤ7との連結部が、ドライブシャフト9と支持軸部22との間に挟まれて、スリーブ30とサイドギヤ70とが強固に連結されるので、スリーブ30のデフケース2からの脱落が好適に防止される。
スリーブ30は、サイドギヤ7との連結部を、ドライブシャフト9の先端側の外周に設けたスプライン9aと、サイドギヤ7(軸部75)の内周に設けたスプライン73aとが実際に嵌合する部分(スプライン嵌合部)よりも、ドライブシャフト9の挿通方向における手前側(ドライブシャフト9の基端側)に位置させる長さL2で形成されている構成とした。
ドライブシャフト9とサイドギヤ7とのスプライン嵌合部には、回転中心軸X周りの捩り応力が作用するので、かかる部分にスリーブ30とサイドギヤ7との連結部(スリーブ側係合部31とサイドギヤ側係合部76)が位置すると、捩り応力が作用する部分における径方向の厚みが薄くなるので、捩り応力に対する強度が低下する。
スリーブ30とサイドギヤ7との連結部を、スプライン嵌合部よりも手前側(ドライブシャフト9の基端側)に位置させると、サイドギヤ7(軸部75)におけるスプライン73aを形成する部分の径方向厚みを確保することができるので、サイドギヤ7(軸部75)の捩り応力に対する強度を確保することができる。
さらに、スリーブ30を、耐熱性のある樹脂材料から構成したので、スリーブ30を、サイドギヤ7と同種の金属材料から構成した場合に比べて、差動装置1の重量を軽減でき、差動装置1(自動変速機)が車両に搭載された場合に、燃費の向上に寄与できる。
なお、スリーブ30とデフケース2(支持軸部22)は、左右のドライブシャフト9が差動回転する場合に相対回転し、差動回転しない場合には、略一体に回転中心軸X周りに回転する。そのため、スリーブ30を樹脂材料から構成しても、スリーブ30の耐摩耗性が問題になることがない。
前記した実施の形態では、耐熱性のある樹脂材料からなるスリーブを採用したが、サイドギヤと同種の金属材料からなるスリーブとし、このスリーブを、デフケース2の支持軸部22に圧入して、支持軸部22の内径側で、サイドギヤ7の軸部75に連結する構成としても良い。
このようにすることによっても、前記した実施の形態と同様の作用効果が奏されることになる。
さらに、スリーブがサイドギヤ7に連結されて、サイドギヤ7と共に回転中心軸X周りに回転する場合を例示したが、スリーブをデフケースに連結して、デフケースと共に回転中心軸X周りに回転するようにしても良い。
図5は、変形例にかかる差動装置1におけるスリーブ40とサイドギヤ7との連結部とその周囲を拡大して示す断面図である。
図5に示すように、変形例にかかるスリーブ40は、サイドギヤ7と同種の金属材料(例えば、鉄)から構成される。
このスリーブ40は、その長手方向における一端が、デフケース2の支持軸部22から突出して、デフハウジング3の挿通穴3a内に及ぶと共に、他端に位置するスリーブ側係合部41が、サイドギヤ7のギヤ部71内径側に及ぶ長さL4で形成されている。
スリーブ40を軸方向に貫通する貫通穴42では、スリーブ側係合部41側の内周面にスプライン45が形成されており、スリーブ40は、このスプライン45をドライブシャフト9のスプライン9aに嵌合させて、スリーブ40とドライブシャフト9とがスプライン嵌合されるようになっている。
スリーブ40は、サイドギヤ7のギヤ部71における内径側の段部71aに連結しており、スリーブ40とサイドギヤ7との連結部が、スリーブ40とドライブシャフト9とのスプライン嵌合部(スプライン45とスプライン9aとが実際に嵌合している部分)よりも、ドライブシャフト9の挿通方向における奥側(ドライブシャフト9の先端側)に位置する長さL4で形成されている。
これにより、スプライン嵌合部における径方向の厚みを確保して、捩り応力に対する強度が確保されている。
さらに、スリーブ40とギヤ部71との接合面(段部71a、内周面71b)には、接着剤が介在して、スリーブ40とサイドギヤ7とを強固に連結すると共に、接合面を通って、デフケース2内の潤滑油が、スリーブ40の内径側に漏出することが阻止されている。
このように、サイドギヤ7に連結されたスリーブ40とドライブシャフト9とがスプライン嵌合するように構成され、スリーブ40は、サイドギヤ7のギヤ部71との連結部を、ドライブシャフト9とのスプライン嵌合部よりも、ドライブシャフト9の挿通方向における奥側に位置させる長さL4で形成した。
このように構成することによっても、自動変速機のケース(デフハウジング3)内の作動油を挿通穴3aから外部に漏出させないようにすることができるので、作動油の漏出を阻止するためにサイドギヤ7を軸方向に延長する必要がない。
よって、サイドギヤ7をデフケース2内にセットするために、デフケース2を二部品から構成して分割可能にする必要がなく、一部品からなるデフケースの開口部からサイドギヤ7をセットすることができるので、デフケースの大型化を防ぐことができる。
さらに、スリーブ側係合部41と、サイドギヤ側係合部に相当するギヤ部71とが、ドライブシャフト9の径方向で重なる位置関係で設けられており、これらの接合面に接着剤が介在しているので、スリーブ40とサイドギヤ7を強固に連結できる。
なお、変形例においても、スリーブ側係合部41とギヤ部71に、それぞれギヤ部71側に突出する係合突部と、スリーブ側係合部41側に突出する係合突部を、それぞれ設けて、スリーブ41とサイドギヤ7(ギヤ部71)とが、互いに係合させた係合突部により、回転中心軸Xの軸方向における互いに離れる方向への移動が規制されるように構成しても良い。
1 差動装置
2 デフケース
3 デフハウジング
4 ベアリング
5 ピニオンギヤ
6 ピニオンシャフト
7 サイドギヤ
9 ドライブシャフト
10 シール
20 封止部材
21 フランジ部
22 支持軸部
30 スリーブ
31 スリーブ側係合部
31a 係合突部
32 貫通穴
33 凹溝
34 Oリング
40 スリーブ
41 スリーブ側係合部
42 貫通穴
45 スプライン
70 サイドギヤ
71 ギヤ部
73 貫通穴
73a スプライン
74 拡径部
75 軸部
75a 端面
76 サイドギヤ側係合部
76a 係合突部
B ボルト
F ファイナルギヤ
P ピン
X 回転中心軸

Claims (5)

  1. 車両における左右のドライブシャフトの挿通穴を有する自動変速機のケース内で、差動装置の一部品で構成されたデフケースが回転可能に支持されており、
    前記挿通穴を挿通させた前記左右のドライブシャフトが、前記デフケース内で左右のサイドギヤにそれぞれ嵌合するように構成された自動変速機において、
    前記デフケース内で前記ドライブシャフトの軸方向から前記サイドギヤに連結される円筒状のスリーブを、前記デフケースから突出して前記挿通穴に及ぶ長さで形成し、
    前記挿通穴に、前記スリーブの外周に圧接するシールを設け
    前記スリーブと前記サイドギヤとの連結部において、前記スリーブから前記サイドギヤ側に延びるスリーブ側の係合部と、前記サイドギヤから前記スリーブ側に延びるサイドギヤ側の係合部とを、前記ドライブシャフトの径方向で重なる位置関係で設けると共に、
    前記スリーブ側の係合部と、前記サイドギヤ側の係合部に、それぞれ、前記サイドギヤ側の係合部側に突出するスリーブ側突部と、前記スリーブ側の係合部側に突出するサイドギヤ側突部とを設けて、
    前記スリーブと前記サイドギヤの前記軸方向における互いに離れる方向への移動を、互いに係合させた前記スリーブ側突部と前記サイドギヤ側突部により規制したことを特徴とする差動装置によるシール構造。
  2. 記スリーブ側の係合部とサイドギヤ側の係合部の接合面に、接着剤を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の差動装置によるシール構造。
  3. 前記デフケースは、前記サイドギヤを回転可能に支持する筒状の支持部を備えており、
    前記支持部を、前記連結部の径方向外側に位置させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の差動装置によるシール構造。
  4. 前記ドライブシャフトと前記サイドギヤとがスプライン嵌合するように構成され、
    前記スリーブは、前記連結部を、前記ドライブシャフトと前記サイドギヤとのスプライン嵌合部よりも、前記ドライブシャフトの前記挿通方向における手前側に位置させる長さで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の差動装置によるシール構造。
  5. 前記ドライブシャフトと前記スリーブとがスプライン嵌合するように構成され、
    前記スリーブは、前記サイドギヤとの連結部を、前記ドライブシャフトとのスプライン嵌合部よりも、前記ドライブシャフトの前記挿通方向における奥側に位置させる長さで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の差動装置によるシール構造。
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