車両用駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、特に区別して明記している場合を除き、「軸方向L」、「径方向R」、及び「周方向」は、後述する回転電機MG(具体的には、ロータRo)の回転軸心A(図2参照)を基準として定義している。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側(軸方向Lにおける軸方向第1側L1とは反対側)を「軸方向第2側L2」とする。また、径方向Rの内側(回転軸心Aに接近する側)を「径方向内側R1」とし、径方向Rの外側(回転軸心Aから離れる側)を「径方向外側R2」とする。以下の説明における各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置1に組み付けられた状態での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。
本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
また、本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。
図1に示すように、車両用駆動装置1は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材2と車輪Wに駆動連結される出力部材3とを結ぶ動力伝達経路に、入力部材2の側から順に、回転電機MGと、第1係合装置10と、変速機TMと、を備えている。本実施形態では、車両用駆動装置1は、入力部材2と回転電機MGとの間の動力伝達経路に、第2係合装置20を備えている。車両用駆動装置1は、内燃機関EG及び回転電機MGの一方又は双方の出力トルクを、出力部材3を介して車輪Wに伝達させて、車両(車両用駆動装置1が搭載された車両)を走行させる。本実施形態では、第1係合装置10が「係合装置」に相当する。
図1に示すように、本実施形態では、出力部材3は、差動歯車装置DF(出力用差動歯車装置)を介して左右2つの車輪W(例えば、左右2つの前輪)に連結されており、車両用駆動装置1は、内燃機関EG及び回転電機MGの一方又は双方の出力トルクを左右2つの車輪Wに伝達させて、車両を走行させる。なお、図1に示す例では、出力部材3と差動歯車装置DFとの間の動力伝達経路に、カウンタギヤ機構CGが設けられている。
入力部材2は、内燃機関EGの出力部材(クランクシャフト等)である内燃機関出力部材に駆動連結される。入力部材2は、例えば、内燃機関出力部材と一体的に回転するように連結され、又は、ダンパを介して内燃機関出力部材に連結される。入力部材2は、回転電機MGと同軸に配置されている。なお、内燃機関EGは、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。
入力部材2は、回転電機MGに駆動連結される。本実施形態では、入力部材2は、第2係合装置20を介して回転電機MGに連結されている。第2係合装置20は、入力部材2と回転電機MGとを選択的に連結する(すなわち、連結又は連結解除する)。具体的には、第2係合装置20は、入力部材2と、ロータRoに連結された後述する回転部材30とを選択的に連結する。第2係合装置20が係合した状態で(ここでは、直結係合した状態で)、入力部材2と回転電機MGとが一体的に回転する。本実施形態では、第2係合装置20は、回転電機MGと同軸に配置されている。図2に示すように、本実施形態では、第2係合装置20は、ロータRoに対して径方向内側R1であって径方向視でロータRoと重複する位置に配置されている。ここで、径方向視とは、径方向Rに沿った方向視を意味する。また、本実施形態では、第2係合装置20は、第1係合装置10に対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。すなわち、第1係合装置10と第2係合装置20とは、軸方向Lに並んで配置されている。
図1に示すように、回転電機MGは、車両用駆動装置1のケース等の非回転部材に固定されるステータStと、ステータStに対して回転可能なロータRoと、を備えている。本実施形態では、ロータRoは、ステータStに対して回転可能に、後述する第1ケース部51及び第2ケース部52に支持される。ロータRoは、回転部材30と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、回転電機MGは、インナロータ型の回転電機であり、ロータRoは、ステータStに対して径方向内側R1であって径方向視でステータStと重複する位置に配置されている。
第1係合装置10は、回転電機MGと変速機TMとの間の動力伝達経路に配置されており、回転電機MGと、変速機TMの入力部材である変速入力部材とを選択的に連結する(すなわち、連結又は連結解除する)。具体的には、第1係合装置10は、ロータRoに連結された回転部材30と、変速入力部材としての中間部材4とを選択的に連結する。第1係合装置10が係合した状態で(ここでは、直結係合した状態で)、回転電機MGと変速入力部材とが一体的に回転する。第1係合装置10は、回転電機MGと同軸に配置されている。図2に示すように、本実施形態では、第1係合装置10は、ロータRoに対して径方向内側R1であって径方向視でロータRoと重複する位置に配置されている。また、本実施形態では、中間部材4は、回転電機MGと同軸に配置されている。
変速機TMは、変速入力部材の回転を変速して、変速機TMの出力部材である変速出力部材に伝達する。変速入力部材は、入力部材2の側から変速機TMに回転を入力するための部材であり、変速出力部材は、出力部材3の側に変速機TMから回転を出力するための部材である。変速機TMは、変速比を変更するための変速機構(例えば、自動有段変速機構又は無段変速機構)を備える。そして、変速機TMは、変速出力部材の回転速度に対する変速入力部材の回転速度の比である変速比を、段階的に或いは無段階に変更可能に構成され、変速入力部材の回転を現時点での変速比で変速して、変速出力部材へ伝達する。本実施形態では、中間部材4が変速入力部材とされ、出力部材3が変速出力部材とされている。そして、本実施形態では、出力部材3は、回転電機MGと同軸に配置されている。
変速機TMの少なくとも一部は、回転電機MGと同軸に配置される。回転電機MGは、変速機TMにおける回転電機MGと同軸に配置される部分に対して、軸方向第1側L1に配置される。本実施形態では、変速機TMの全体が、回転電機MGと同軸に配置されている。例えば、回転電機MGと同軸に配置される単数又は複数の遊星歯車機構を用いて変速機TMが構成される場合に、変速機TMの全体が回転電機MGと同軸に配置される。一方、例えば、複数の平行な軸に連結された複数の歯車が相互に噛み合う平行軸歯車機構を用いて変速機TMが構成される場合や、互いに別軸に配置された2つの回転体とこれら2つの回転体に巻き掛けられた伝動部材とを備える巻掛伝動機構を用いて変速機TMが構成される場合には、変速機TMの一部のみが回転電機MGと同軸に配置される。
次に、図2~図4を参照して、本実施形態の車両用駆動装置1の一部の具体的構成について説明する。なお、図2及び図4では、ステータStの図示を省略している。図2に示すように、車両用駆動装置1は、第1ケース部51と第2ケース部52とを備えている。第1ケース部51及び第2ケース部52は、車両用駆動装置1のケースを構成している。第1ケース部51は、第2ケース部52に対して軸方向第1側L1から接合される。第1ケース部51と第2ケース部52とは、例えば締結ボルトを用いて接合される。
第1ケース部51は、回転電機MG及び第1係合装置10を支持し、第2ケース部52は、変速機TMを支持する。本実施形態では、第1ケース部51は、第2係合装置20も支持する。ここで、ケース部が支持対象部材を「支持する」とは、当該ケース部単独で支持対象部材を支持すること、或いは、当該ケース部と他のケース部とが協働して支持対象部材を支持することを意味する。すなわち、回転電機MG、第1係合装置10、及び第2係合装置20は、少なくとも第1ケース部51に支持され、変速機TMは、少なくとも第2ケース部52に支持される。
本実施形態では、第1係合装置10は、摩擦係合装置である。図2に示すように、第1係合装置10は、第1外側摩擦板13と、第1内側摩擦板14と、第1外側摩擦板13に対して径方向外側R2に配置されて第1外側摩擦板13を支持する第1外側支持部11と、第1内側摩擦板14に対して径方向内側R1に配置されて第1内側摩擦板14を支持する第1内側支持部12と、を備えている。ここでは、第1外側支持部11は、ロータRoと一体的に回転するように連結され、第1内側支持部12は、中間部材4と一体的に回転するように連結されている。
第1外側支持部11及び第1内側支持部12は、回転電機MGと同軸の筒状に形成されている。そして、第1外側支持部11の内周部に形成された係合部と第1外側摩擦板13の外周部に形成された係合部とが係合した状態(ここでは、スプライン係合した状態)で、第1外側摩擦板13は、第1外側支持部11に対する周方向の相対回転が規制され且つ第1外側支持部11に対する軸方向Lの相対移動が許容される状態で、第1外側支持部11に支持されている。また、第1内側支持部12の外周部に形成された係合部と第1内側摩擦板14の内周部に形成された係合部とが係合した状態(ここでは、スプライン係合した状態)で、第1内側摩擦板14は、第1内側支持部12に対する周方向の相対回転が規制され且つ第1内側支持部12に対する軸方向Lの相対移動が許容される状態で、第1内側支持部12に支持されている。
第1係合装置10は、第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14を軸方向Lに押圧する第1ピストン15を備えている。第1係合装置10は、第1ピストン15が第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14を軸方向Lに押圧した状態で、第1外側摩擦板13と第1内側摩擦板14との間に発生する摩擦力によりトルクの伝達を行う。本実施形態では、第1ピストン15は、第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14に対して軸方向第2側L2に配置されており、第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14を軸方向第2側L2から押圧する。また、本実施形態では、第1ピストン15は、第1外側支持部11と一体的に回転するように連結されている。
本実施形態では、第1係合装置10は、油圧駆動式の摩擦係合装置である。第1係合装置10は、当該第1係合装置10の作動油圧が供給される第1作動油室H1を備えている。第1作動油室H1に供給される作動油圧は、第1ピストン15の駆動用の油圧であり、第1係合装置10は、第1ピストン15を作動油圧による移動方向とは反対方向に付勢する第1付勢部材16(ここでは、コイルばね)を備えている。本実施形態では、第1係合装置10は、ノーマルオープン型の係合装置であり、第1作動油室H1は、第1ピストン15に対して、第1ピストン15による第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14の押圧方向側とは反対側に設けられている。ここでは、第1作動油室H1は、第1ピストン15に対して軸方向第2側L2に形成されている。本実施形態では、第1作動油室H1が「作動油室」に相当する。
本実施形態では、第1係合装置10は、第1作動油室H1で発生する遠心油圧に対向する油圧を生じさせるキャンセル油室H3を備えている。本実施形態では、キャンセル油室H3は、第1作動油室H1に対して軸方向第1側L1に配置されている。具体的には、第1ピストン15に対して第1作動油室H1側とは反対側(本実施形態では、軸方向第1側L1)にキャンセルプレート17が設けられており、キャンセル油室H3は、軸方向Lにおける第1ピストン15とキャンセルプレート17との間に形成されている。第1付勢部材16は、キャンセル油室H3に配置されている。
本実施形態では、第2係合装置20は、摩擦係合装置である。図2に示すように、第2係合装置20は、第2外側摩擦板23と、第2内側摩擦板24と、第2外側摩擦板23に対して径方向外側R2に配置されて第2外側摩擦板23を支持する第2外側支持部21と、第2内側摩擦板24に対して径方向内側R1に配置されて第2内側摩擦板24を支持する第2内側支持部22と、を備えている。ここでは、第2外側支持部21は、ロータRoと一体的に回転するように連結され、第2内側支持部22は、入力部材2と一体的に回転するように連結されている。
第2外側支持部21及び第2内側支持部22は、回転電機MGと同軸の筒状に形成されている。そして、第2外側支持部21の内周部に形成された係合部と第2外側摩擦板23の外周部に形成された係合部とが係合した状態(ここでは、スプライン係合した状態)で、第2外側摩擦板23は、第2外側支持部21に対する周方向の相対回転が規制され且つ第2外側支持部21に対する軸方向Lの相対移動が許容される状態で、第2外側支持部21に支持されている。また、第2内側支持部22の外周部に形成された係合部と第2内側摩擦板24の内周部に形成された係合部とが係合した状態(ここでは、スプライン係合した状態)で、第2内側摩擦板24は、第2内側支持部22に対する周方向の相対回転が規制され且つ第2内側支持部22に対する軸方向Lの相対移動が許容される状態で、第2内側支持部22に支持されている。
第2係合装置20は、第2外側摩擦板23及び第2内側摩擦板24を軸方向Lに押圧する第2ピストン25を備えている。第2係合装置20は、第2ピストン25が第2外側摩擦板23及び第2内側摩擦板24を軸方向Lに押圧した状態で、第2外側摩擦板23と第2内側摩擦板24との間に発生する摩擦力によりトルクの伝達を行う。本実施形態では、第2ピストン25は、第2外側摩擦板23及び第2内側摩擦板24に対して軸方向第1側L1に配置されており、第2外側摩擦板23及び第2内側摩擦板24を軸方向第1側L1から押圧する。また、本実施形態では、第2ピストン25は、第2内側支持部22と一体的に回転するように連結されている。
本実施形態では、第2係合装置20は、油圧駆動式の摩擦係合装置である。第2係合装置20は、当該第2係合装置20の作動油圧が供給される第2作動油室H2を備えている。第2作動油室H2に供給される作動油圧は、第2ピストン25の駆動用の油圧であり、第2係合装置20は、第2ピストン25を作動油圧による移動方向とは反対方向に付勢する第2付勢部材26(ここでは、コイルばね)を備えている。本実施形態では、第2係合装置20は、ノーマルオープン型の係合装置であり、第2作動油室H2は、第2ピストン25に対して、第2ピストン25による第2外側摩擦板23及び第2内側摩擦板24の押圧方向側とは反対側に設けられている。ここでは、第2作動油室H2は、第2ピストン25に対して軸方向第1側L1に形成されている。
車両用駆動装置1は、回転電機MGのロータRoを支持するロータ支持部5を備えている。ロータ支持部5は、ロータRoを保持するロータ保持部と、径方向Rに延びるように形成されてロータ保持部を径方向内側R1から支持する径方向延在部と、を備えている。ロータ保持部は、回転電機MGと同軸の筒状に形成されており、ロータRoの内周面に接するように配置されている。ロータRoは、ロータ支持部5に対する各方向の移動が規制された状態で、ロータ支持部5に支持されている。
車両用駆動装置1は、ロータ支持部5と第1係合装置10の一部とが一体的に形成された回転部材30を備えている。本実施形態では、回転部材30は、ロータ支持部5と、第1係合装置10における第1ピストン15との間に第1作動油室H1を形成する部分(シリンダ部)とが一体的に形成された部材である。すなわち、回転部材30は、回転電機MGのロータRoを支持していると共に、第1係合装置10のシリンダ部を形成している。具体的には、回転部材30は、回転電機MGと同軸の筒状に形成された部分(ロータ支持部5のロータ保持部に相当する部分)と、径方向Rに延びるように形成された径方向延在部34(ロータ支持部5の径方向延在部に相当する部分)と、を備えている。そして、この径方向延在部34は、第1係合装置10のシリンダ部を形成している。上述したように、本実施形態では、第1ピストン15は、第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14に対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、本実施形態では、径方向延在部34は、第1ピストン15に対して軸方向第2側L2に配置されている。
本実施形態では、第1外側支持部11は、回転部材30とは別部材により構成され、回転部材30と一体的に回転するように連結(ここでは、スプライン連結)されている。具体的には、第1外側支持部11は、回転部材30における回転電機MGと同軸の筒状に形成された部分(ロータ支持部5のロータ保持部に相当する部分)の内周部に、当該内周部に形成された係合部と第1外側支持部11の外周部に形成された係合部とが係合した状態(ここでは、スプライン係合した状態)で配置されている。第1外側支持部11の回転部材30に対する軸方向第1側L1への移動は、回転部材30の上記内周部に設けられた移動規制部材18(ここでは、スナップリング)により規制され、第1外側支持部11の回転部材30に対する軸方向第2側L2への移動は、回転部材30の径方向延在部34によって規制されている。
一方、本実施形態では、第2外側支持部21は、回転部材30の一部により構成されている。具体的には、第2外側支持部21は、回転部材30における回転電機MGと同軸の筒状に形成された部分(ロータ支持部5のロータ保持部に相当する部分)の内周部に形成されている。より具体的には、第2外側支持部21は、回転部材30の当該内周部における上記移動規制部材18よりも軸方向第1側L1の部分に形成されている。本実施形態では、第1外側支持部11は回転部材30とは別部材により構成されているが、第1外側支持部11が、第2外側支持部21と同様に、回転部材30の一部により構成されてもよい。
第1ケース部51は、径方向R及び周方向に延びる壁状に形成されている。図2に示すように、第1ケース部51は、回転電機MG及び第1係合装置10に対して軸方向第1側L1に配置されている。更に、第1ケース部51は、第2係合装置20に対して軸方向第1側L1に配置されている。第1ケース部51の径方向Rの中心部(径方向内側R1の端部)には、第1ケース部51を軸方向Lに貫通する貫通孔が形成されており、入力部材2はこの貫通孔に挿通されている。入力部材2の外周面と第1ケース部51に形成された軸受支持部(ここでは、径方向Rに隣接する部分に対して軸方向第2側L2に突出する筒状部)の内周面との間に、入力部材2を第1ケース部51に対して回転可能に支持する第3軸受B3が配置されている。本実施形態では、第3軸受B3はボールベアリングである。第2係合装置20の第2内側支持部22は、当該第2内側支持部22から径方向内側R1に延びるように形成された径方向延在部を介して、入力部材2(具体的には、フランジ部)に連結(ここでは、溶接により接合)されている。このフランジ部は、入力部材2における第1ケース部51に対して軸方向第2側L2に配置される部分に形成されている。
第2ケース部52は、回転部材30に対して軸方向第2側L2に配置される支持部53を備えている。支持部53は、回転電機MG及び第1係合装置10に対して軸方向第2側L2に配置されている。更に、支持部53は、第2係合装置20に対して軸方向第2側L2に配置されている。支持部53は、径方向R及び周方向に延びる壁状に形成されている。支持部53の径方向Rの中心部(径方向内側R1の端部)には、支持部53を軸方向Lに貫通する貫通孔が形成されており、中間部材4はこの貫通孔に挿通されている。第1係合装置10の第1内側支持部12は、当該第1内側支持部12から径方向内側R1に延びるように形成された径方向延在部を介して、中間部材4に連結(ここでは、スプライン連結)されている。
第2ケース部52は、支持部53に加えて筒状支持部54を備えている。筒状支持部54は、支持部53から軸方向第1側L1に向かって突出する筒状に形成され、回転電機MGと同軸に配置されている。筒状支持部54の内周面に囲まれて形成される孔部は、支持部53の上記貫通孔(中間部材4が挿通される貫通孔)と連通しており、中間部材4は、筒状支持部54の内周面に囲まれて形成される孔部に挿通されている。
車両用駆動装置1は、回転部材30を第1ケース部51に対して回転可能に支持する第2軸受B2を備えている。本実施形態では、回転部材30は、ロータRoに対して軸方向第1側L1に突出する突出部を備えている。この突出部は、回転部材30における回転電機MGと同軸の筒状に形成された部分(ロータ支持部5のロータ保持部に相当する部分)における、軸方向第1側L1の端部に形成されている。そして、回転部材30の当該突出部の外周面と、第1ケース部51に形成された軸受支持部(ここでは、径方向Rに隣接する部分に対して軸方向第2側L2に突出する筒状部)の内周面との間に、第2軸受B2が配置されている。本実施形態では、第2軸受B2はボールベアリングである。
車両用駆動装置1は、回転部材30を第2ケース部52に対して回転可能に支持する第1軸受B1を備えている。具体的には、図3に示すように、回転部材30は、筒状支持部54に対して径方向外側R2であって径方向視で筒状支持部54と重複する位置に、回転電機MGと同軸の筒状に形成された筒状内周面32を備えている。回転部材30は、回転電機MGと同軸の筒状に形成された筒状部31を備えており、筒状部31の内周面が筒状内周面32である。筒状部31は、径方向延在部34における径方向内側R1の端部に連結されている。そして、第1軸受B1は、筒状内周面32と筒状支持部54の外周面である筒状外周面55との間に配置されている。本実施形態では、第1軸受B1はボールベアリングである。そして、第1軸受B1の外輪が筒状内周面32に嵌合し、第1軸受B1の内輪が筒状外周面55に嵌合している。本実施形態では、第1軸受B1が「軸受」に相当する。
第1軸受B1に対して軸方向第1側L1には、筒状内周面32に嵌合する筒状の嵌合部材40が設けられている。嵌合部材40は、筒状内周面32に対して軸方向第1側L1から嵌合されている。本実施形態では、嵌合部材40は、筒状内周面32に圧入されている。そして、嵌合部材40は、第1軸受B1に対して軸方向第1側L1から接するように配置されている。図3に示すように、本実施形態では、嵌合部材40は、筒状内周面32に嵌合する筒状の第1部分41と、第1部分41に対して軸方向第2側L2に配置される筒状の第2部分42と、を備えており、第2部分42が、第1軸受B1に対して軸方向第1側L1から接するように配置されている。第2部分42は、第1部分41よりも外径が小さい筒状に形成されており、第2部分42の外周面と筒状内周面32との間には隙間が形成されている。嵌合部材40がこのように第1部分41と第2部分42とを備える構成とすることで、嵌合部材40における筒状内周面32との嵌合面積(ここでは、圧入面積)を調整することが可能となっている。また、本実施形態では、第2部分42は、第1部分41よりも内径が大きい筒状に形成されている。すなわち、本実施形態では、第2部分42は、第1部分41よりも外径が小さく且つ第1部分41よりも内径が大きい筒状に形成されている。
図3に示すように、回転部材30は、筒状内周面32とキャンセル油室H3とを連通させるキャンセル油路75を備えている。キャンセル油路75は、筒状内周面32と、筒状部31の外周面におけるキャンセル油室H3に面する部分とを連通するように設けられている。本実施形態では、キャンセル油路75は、筒状部31を貫通する貫通孔(ここでは、径方向Rに沿って筒状部31を貫通する貫通孔)によって形成されている。そして、本実施形態では、嵌合部材40は、当該嵌合部材40に対して径方向内側R1から供給された油を、キャンセル油路75に供給する第1供給油路71を備えている。本実施形態では、油圧制御装置(図示せず)から供給される油が、筒状支持部54に形成された第3供給油路73と、筒状支持部54に形成された貫通孔54aとを順に流通して、嵌合部材40に対して径方向内側R1から供給されるように構成されている。
本実施形態では、第1供給油路71は、嵌合部材40を貫通する貫通孔と、嵌合部材40の外周面に形成された凹部(径方向内側R1に窪む凹部)と、嵌合部材40の内周面に形成された凹部(径方向外側R2に窪む凹部)とにより形成されている。具体的には、第1供給油路71は、第2部分42を貫通する貫通孔(ここでは、径方向Rに沿って第2部分42を貫通する貫通孔)と、第1部分41と第2部分42との外径の差により嵌合部材40の外周面に形成された凹部(第2部分42の外周面が底部となる凹部)と、第1部分41と第2部分42との内径の差により嵌合部材40の内周面に形成された凹部(第2部分42の内周面が底部となる凹部)とにより形成されている。本実施形態では、嵌合部材40の内周面に形成された凹部の開口部が、第1供給油路71における径方向内側R1の端部である内側端部71aとなっている。すなわち、本実施形態では、第1部分41の内周面の径方向Rの位置が、内側端部71aの径方向Rの位置となっている。なお、本実施形態では、嵌合部材40の外周面や内周面に形成される凹部の軸方向第1側L1の側面は、嵌合部材40における第1部分41と第2部分42との連結部により形成され、嵌合部材40の外周面や内周面に形成される凹部の軸方向第2側L2の側面は、第1軸受B1によって形成されている。
図3に示すように、回転部材30は、筒状内周面32と第1作動油室H1とを連通させる作動油路74を備えている。作動油路74は、筒状内周面32と、筒状部31の外周面における第1作動油室H1に面する部分とを連通するように設けられている。本実施形態では、作動油路74は、筒状部31を貫通する貫通孔(ここでは、径方向Rに対して傾斜した方向に沿って筒状部31を貫通する貫通孔)によって形成されている。筒状支持部54は、作動油路74に油を供給する第2供給油路72を備えている。そして、油圧制御装置による制御後の油圧が、第2供給油路72及び作動油路74を順に流通して第1作動油室H1に供給されるように構成されている。
上述したように、本実施形態では、キャンセル油室H3は、第1作動油室H1に対して軸方向第1側L1に配置されている。これに対応して、図3に示すように、筒状内周面32における作動油路74の開口部である第1開口部74aは、筒状内周面32におけるキャンセル油路75の開口部である第2開口部75aに対して軸方向第2側L2に配置されている。そして、本実施形態では、第1軸受B1は、軸方向Lにおける第1開口部74aと第2開口部75aとの間に配置されている。また、本実施形態では、嵌合部材40は、第2開口部75aと軸方向Lの配置領域が重複するように配置されている。言い換えれば、嵌合部材40は、径方向視で第2開口部75aと重複する位置に配置されている。そして、嵌合部材40が備える第1供給油路71は、嵌合部材40の外周面における第2開口部75aが対向する部分に開口するように形成されている。
図3に示すように、本実施形態では、筒状内周面32に、軸方向第2側L2の部分に対して軸方向第1側L1の部分が大径となる第1段差部33が形成されている。第1段差部33には、軸方向第1側L1を向く第1段差面33a(円環状の面)が形成されている。そして、第1軸受B1は、第1段差面33aに対して軸方向第1側L1に配置されている。ここでは、第1軸受B1は、第1段差面33aに対して軸方向第1側L1から接するように配置されている。そして、第1開口部74aは、第1段差面33aに対して軸方向第2側L2に配置されている。一方、第2開口部75aは、第1段差面33aに対して軸方向第1側L1に配置されている。そのため、第2開口部75aは、第1開口部74aよりも径方向外側R2に配置されるが、本実施形態では、筒状内周面32に嵌合された嵌合部材40が第1供給油路71を備えている。これにより、キャンセル油室H3の実質的な内径を、第2開口部75aの径方向Rの位置から第1供給油路71の内側端部71aの径方向Rの位置まで径方向内側R1に移動させることができ、キャンセル油室H3の実質的な内径を小さくすることができる分、キャンセル油室H3で発生させることが要求される大きさの遠心油圧を確保しやすくなっている。本実施形態では、第1段差部33が「段差部」に相当し、第1段差面33aが「段差面」に相当する。
図3に示すように、本実施形態では、第1供給油路71の内側端部71aは、第1開口部74aよりも径方向内側R1に配置されている。これにより、第1供給油路71の内側端部71aが、第1開口部74aと径方向Rの同じ位置或いは第1開口部74aよりも径方向外側R2に配置される場合に比べて、キャンセル油室H3で発生させることが可能な遠心油圧を高く確保しやすくなっている。なお、キャンセル油室H3の外径を大きくすることで、キャンセル油室H3で発生させることが可能な遠心油圧を高くすることも可能である。しかし、キャンセル油室H3の外径を大きくすると、第1ピストン15による第1外側摩擦板13及び第1内側摩擦板14の押圧位置が径方向外側R2にずれるため、キャンセル油室H3の外径は維持できることが望ましい。この点に関して、この車両用駆動装置1では、筒状内周面32に嵌合された嵌合部材40を用いてキャンセル油室H3の実質的な内径を小さくすることができるため、キャンセル油室H3の外径を維持しつつ(ここでは、第1作動油室H1の外径と同程度に維持しつつ)、キャンセル油室H3で発生させることが要求される大きさの遠心油圧を確保することが可能となっている。
図3に示すように、筒状内周面32には、筒状外周面55に対向する筒状の第1対向面32aが形成されている。第1軸受B1は、第1対向面32aに対して軸方向第1側L1に配置されている。第1対向面32aは、筒状内周面32における嵌合部材40が嵌合している部分である嵌合面32bよりも小径に形成されている。また、第1対向面32aは、内径が軸方向Lに沿って均一に形成されている。筒状内周面32における作動油路74の開口部である第1開口部74aは、第1対向面32aに形成されている。一方、第2供給油路72は、筒状外周面55における第1対向面32aが対向する部分に開口する第3開口部72aを備えている。ここで、筒状外周面55における第1対向面32aが対向する部分を、第3対向面55dとする。本実施形態では、第1開口部74aと第3開口部72aとは、軸方向Lの互いに同じ位置に配置されている。
筒状支持部54は、第1開口部74a及び第3開口部72aに対して軸方向第1側L1に隣接する位置に、第1対向面32aに対して径方向内側R1から接する第1シール部材61を備えている。また、筒状支持部54は、第1開口部74a及び第3開口部72aに対して軸方向第2側L2に隣接する位置に、第1対向面32aに対して径方向内側R1から接する第2シール部材62を備えている。これにより、筒状内周面32(具体的には、第1対向面32a)と筒状外周面55(具体的には、第3対向面55d)との隙間を油が軸方向Lに流通することを規制した状態で、第2供給油路72から作動油路74に油を供給することが可能となっている。本実施形態では、第1シール部材61が「シール部材」に相当する。
図3に示すように、筒状外周面55には、第1軸受B1に対向する筒状の第2対向面55aと、第2対向面55aを同径のまま軸方向第1側L1に延長した延長面55bとが形成されている。第2対向面55aは、筒状外周面55における第1軸受B1が嵌合している部分である。第2対向面55a及び延長面55bは、外径が軸方向Lに沿って均一に形成されている。本実施形態では、筒状外周面55に、軸方向第2側L2の部分に対して軸方向第1側L1の部分が小径となる第2段差部56が形成されている。第2段差部56には、軸方向第1側L1を向く第2段差面56a(円環状の面)が形成されている。そして、第1軸受B1は、第2段差面56aに対して軸方向第1側L1に配置されている。ここでは、第1軸受B1は、第2段差面56aに対して軸方向第1側L1から接するように配置されている。本実施形態では、筒状外周面55における第2段差面56aに対して軸方向第2側L2の部分に、第3対向面55dが形成されている。また、筒状外周面55における第2段差面56aに対して軸方向第1側L1の部分に、第2対向面55a及び延長面55bが形成されている。
そして、図3に示すように、延長面55bにおける軸方向第1側L1の端部から第2対向面55aにおける軸方向第2側L2の端部までの軸方向Lの距離(第1距離D1)が、第1シール部材61における軸方向第1側L1の端部から第1対向面32aにおける軸方向第2側L2の端部までの軸方向Lの距離(第2距離D2)よりも長くなっている。本実施形態では、第1距離D1は、延長面55bにおける軸方向第1側L1の端部から第2段差面56aまでの軸方向Lの距離と一致する。また、本実施形態では、第1段差面33aと第2段差面56aとは、軸方向Lの互いに同じ位置に配置される。よって、第2距離D2は、第1段差面33a(言い換えれば、第1対向面32aにおける軸方向第1側L1の端部)から第1対向面32aにおける軸方向第2側L2の端部までの軸方向Lの距離から、第2段差面56aから第1シール部材61における軸方向第1側L1の端部までの距離を減算した距離と一致する。
上記のように第1距離D1が第2距離D2よりも長いため、第1軸受B1及び嵌合部材40が筒状内周面32に装着された状態の回転部材30を、筒状支持部54に対して軸方向第1側L1から組み付けて、第1ケース部51に支持された状態の回転電機MGを第2ケース部52に対して軸方向第1側L1から組み付ける場合に、図4に示すように、第1対向面32a(図3参照)における軸方向第2側L2の端部が第1シール部材61の配設位置に到達する前に、第1軸受B1を延長面55b(図3参照)に嵌合させることができる。これにより、第1軸受B1によって筒状内周面32と筒状外周面55との相対位置が調整されて、筒状内周面32と筒状外周面55とが互いに芯出しされた状態(言い換えれば、筒状内周面32と筒状外周面55との同心度が高い状態)で、第1対向面32aを第1シール部材61に嵌合させることができ、この結果、第1シール部材61が損傷を受ける可能性を低く抑えつつ回転電機MGを組み付けることが可能となっている。
なお、図3に示すように、本実施形態では、筒状内周面32における第1対向面32aに対して軸方向第2側L2の部分に、軸方向第2側L2に向かうに従って径方向外側R2へ向かう第1傾斜面32cが形成されており、第1対向面32aにおける軸方向第2側L2の端部は、この第1傾斜面32cにおける軸方向第1側L1の端部と一致する。また、本実施形態では、筒状外周面55における延長面55bに対して軸方向第1側L1の部分に、軸方向第1側L1に向かうに従って径方向内側R1へ向かう第2傾斜面55cが形成されており、延長面55bにおける軸方向第1側L1の端部は、この第2傾斜面55cにおける軸方向第2側L2の端部と一致する。
〔その他の実施形態〕
次に、車両用駆動装置のその他の実施形態について説明する。
(1)上記の実施形態では、第1供給油路71の内側端部71aが、第1開口部74aよりも径方向内側R1に配置される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1供給油路71の内側端部71aが、第1開口部74aと径方向Rの同じ位置或いは第1開口部74aよりも径方向外側R2に配置される構成とすることもできる。
(2)上記の実施形態では、嵌合部材40が、キャンセル油路75に油を供給する第1供給油路71を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、嵌合部材40が第1供給油路71を備えない構成とすることもできる。例えば、嵌合部材40が第2開口部75aと軸方向Lの配置領域が重複しないように配置される場合、言い換えれば、嵌合部材40が径方向視で第2開口部75aと重複しない位置に配置される場合に、嵌合部材40が第1供給油路71を備えない構成とすることができる。
(3)上記の実施形態では、第1軸受B1が、軸方向Lにおける第1開口部74aと第2開口部75aとの間に配置される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1軸受B1が、第1開口部74aに対して軸方向第2側L2に配置される構成や、第1軸受B1が、第2開口部75aに対して軸方向第1側L1に配置される構成とすることもできる。
(4)上記の実施形態では、嵌合部材40が、筒状内周面32に嵌合する筒状の第1部分41と、第1部分41に対して軸方向第2側L2に配置される筒状の第2部分42と、を備え、第2部分42が、第1部分41よりも外径が小さく且つ第1部分41よりも内径が大きい筒状に形成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第2部分42が、第1部分41よりも外径が小さく且つ第1部分41と内径が等しい筒状に形成される構成や、第2部分42が、第1部分41と外径が等しく且つ第1部分41よりも内径が大きい筒状に形成される構成とすることもできる。また、嵌合部材40が、外径及び内径が軸方向Lに沿って均一の筒状に形成される構成とすることもできる。
(5)上記の実施形態では、車両用駆動装置1が、入力部材2と回転電機MGとの間の動力伝達経路に、第2係合装置20を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、車両用駆動装置1が第2係合装置20を備えず、入力部材2と回転電機MGとが常時連動して回転する構成(例えば、入力部材2と回転電機MGとが一体的に回転するように連結される構成)とすることもできる。
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の概要について説明する。
内燃機関(EG)に駆動連結される入力部材(2)と車輪(W)に駆動連結される出力部材(3)とを結ぶ動力伝達経路に、前記入力部材(2)の側から順に、回転電機(MG)と、前記回転電機(MG)と同軸に配置される係合装置(10)と、少なくとも一部が前記回転電機(MG)と同軸に配置される変速機(TM)と、を備えた車両用駆動装置(1)であって、前記回転電機(MG)のロータ(Ro)を支持するロータ支持部(5)と前記係合装置(10)の一部とが一体的に形成された回転部材(30)と、前記回転電機(MG)及び前記係合装置(10)を支持する第1ケース部(51)と、前記変速機(TM)を支持する第2ケース部(52)と、前記回転部材(30)を前記第2ケース部(52)に対して回転可能に支持する軸受(B1)と、を備え、前記回転電機(MG)は、前記変速機(TM)における前記回転電機(MG)と同軸に配置される部分に対して、軸方向(L)の一方側である軸方向第1側(L1)に配置され、前記第2ケース部(52)は、前記回転部材(30)に対して前記軸方向(L)の他方側である軸方向第2側(L2)に配置される支持部(53)と、前記支持部(53)から前記軸方向第1側(L1)に向かって突出する筒状に形成され、前記回転電機(MG)と同軸に配置される筒状支持部(54)と、を備え、前記回転部材(30)は、前記筒状支持部(54)に対して径方向(R)の外側であって径方向視で前記筒状支持部(54)と重複する位置に、前記回転電機(MG)と同軸の筒状に形成された筒状内周面(32)を備え、前記軸受(B1)は、前記筒状内周面(32)と前記筒状支持部(54)の外周面である筒状外周面(55)との間に配置され、前記軸受(B1)に対して前記軸方向第1側(L1)に、前記筒状内周面(32)に嵌合する筒状の嵌合部材(40)が設けられ、前記嵌合部材(40)は、前記軸受(B1)に対して前記軸方向第1側(L1)から接するように配置されている。
上記の構成では、回転電機(MG)のロータ(Ro)を支持するロータ支持部(5)と係合装置(10)の一部とが一体的に形成された回転部材(30)が、第2ケース部(52)に支持されている。このような構成では、車両用駆動装置(1)の製造時において、回転電機(MG)及び係合装置(10)を支持した状態の第1ケース部(51)が第2ケース部(52)に接合される前の状態では、回転部材(30)が第2ケース部(52)に支持されていない分、ロータ(Ro)の軸心が不安定となりやすい。よって、ステータ(St)に対してロータ(Ro)が芯出しされていない状態で回転電機(MG)を第2ケース部(52)に組み付けることが必要となり得る。
この点に関して、上記の構成によれば、車両用駆動装置(1)が、回転部材(30)を第2ケース部(52)に対して回転可能に支持する軸受(B1)を備え、この軸受(B1)は、回転部材(30)が備える筒状内周面(32)と、第2ケース部(52)が備える筒状支持部(54)の筒状外周面(55)との間に配置されている。そして、軸受(B1)に対して軸方向第1側(L1)には、筒状内周面(32)に嵌合する筒状の嵌合部材(40)が、軸受(B1)に対して軸方向第1側(L1)から接するように設けられる。よって、軸受(B1)及び嵌合部材(40)が筒状内周面(32)に装着された状態の回転部材(30)を、筒状支持部(54)に対して軸方向第1側(L1)から組み付けて、第1ケース部(51)に支持された状態の回転電機(MG)を第2ケース部(52)に対して軸方向第1側(L1)から組み付ける際に、軸受(B1)が軸方向第1側(L1)に移動することを規制しつつ、当該軸受(B1)の筒状外周面(55)に対する嵌合によって筒状内周面(32)と筒状外周面(55)との相対位置を調整して、ステータ(St)に対するロータ(Ro)の芯出しを行うことができる。
以上のように、上記の構成によれば、ステータ(St)に対してロータ(Ro)が芯出しされていない状態から回転電機(MG)を組み付けて車両用駆動装置(1)を製造する場合に、ステータ(St)に対するロータ(Ro)の芯出しを適切に行うことが可能となっている。
ここで、前記係合装置(10)は、当該係合装置(10)の作動油圧が供給される作動油室(H1)と、前記作動油室(H1)で発生する遠心油圧に対向する油圧を生じさせるキャンセル油室(H3)と、を備え、前記回転部材(30)は、前記筒状内周面(32)と前記キャンセル油室(H3)とを連通させるキャンセル油路(75)を備え、前記嵌合部材(40)は、当該嵌合部材(40)に対して前記径方向(R)の内側から供給された油を、前記キャンセル油路(75)に供給する第1供給油路(71)を備えていると好適である。
この構成によれば、嵌合部材(40)がキャンセル油路(75)に油を供給する第1供給油路(71)を備えない場合に比べて、キャンセル油室(H3)の実質的な内径、言い換えれば、キャンセル油室(H3)における遠心油圧の発生径(遠心油圧が発生する最内径)を、小さくすることができる。よって、キャンセル油室(H3)で発生させることが要求される大きさの遠心油圧を確保しやすくなっている。
また、前記キャンセル油室(H3)は、前記作動油室(H1)に対して前記軸方向第1側(L1)に配置され、前記回転部材(30)は、前記筒状内周面(32)と前記作動油室(H1)とを連通させる作動油路(74)を備え、前記筒状内周面(32)における前記作動油路(74)の開口部である第1開口部(74a)は、前記筒状内周面(32)における前記キャンセル油路(75)の開口部である第2開口部(75a)に対して前記軸方向第2側(L2)に配置され、前記軸受(B1)は、前記軸方向(L)における前記第1開口部(74a)と前記第2開口部(75a)との間に配置されていると好適である。
作動油室(H1)には比較的高圧の油圧が供給されるため、筒状外周面(55)における第1開口部(74a)に対向する部分に対して軸方向(L)に隣接する位置に、筒状内周面(32)と筒状外周面(55)との隙間を油が軸方向(L)に流通することを規制するためのシール構造が設けられる場合がある。上記の構成によれば、軸受(B1)が第1開口部(74a)よりも軸方向第1側(L1)に配置されるため、このようなシール構造が設けられる場合に、回転電機(MG)を第2ケース部(52)に対して軸方向第1側(L1)から組み付ける際の軸受(B1)の筒状外周面(55)における軸方向(L)の移動範囲に、シール構造の配置位置が含まれないようにすることができる。これにより、シール構造が損傷を受ける可能性を低く抑えつつ回転電機(MG)を組み付けることが可能となっている。
また、上記の構成によれば、軸受(B1)が第2開口部(75a)よりも軸方向第2側(L2)に配置されるため、軸受(B1)が第2開口部(75a)よりも軸方向第1側(L1)に配置される場合に比べて、回転部材(30)における第1ケース部(51)に支持される部分と軸受(B1)との軸方向(L)の距離である支持スパンを、大きく確保することができる。よって、上記の構成によれば、上記のようなシール構造が筒状外周面(55)に設けられる場合に、回転電機(MG)の組み付け時にシール構造が損傷を受ける可能性を低く抑えつつ、回転部材(30)の支持スパンを大きく確保することができる。
また、前記筒状内周面(32)に、前記軸方向第2側(L2)の部分に対して前記軸方向第1側(L1)の部分が大径となる段差部(33)が形成され、前記軸受(B1)は、前記段差部(33)に形成される前記軸方向第1側(L1)を向く段差面(33a)に対して、前記軸方向第1側(L1)に配置され、前記第1開口部(74a)は、前記段差面(33a)に対して前記軸方向第2側(L2)に配置され、前記第1供給油路(71)における前記径方向(R)の内側の端部(71a)は、前記第1開口部(74a)よりも前記径方向(R)の内側に配置されていると好適である。
この構成によれば、軸受(B1)に対して軸方向第2側(L2)に、軸方向第1側(L1)を向く段差面(33a)が配置されるため、段差面(33a)と嵌合部材(40)とにより、軸受(B1)の筒状内周面(32)に対する軸方向(L)の両側への移動を規制することができる。よって、軸受(B1)の筒状内周面(32)に対する軸方向(L)の両側への移動が規制された状態で、回転電機(MG)を第2ケース部(52)に対して組み付けることができ、ステータ(St)に対するロータ(Ro)の芯出しを適切に行いやすい。
ところで、段差部(33)が筒状内周面(32)に形成される場合、筒状内周面(32)におけるキャンセル油路(75)の開口部である第2開口部(75a)は、段差部(33)に対して軸方向第1側(L1)に配置されるため、段差部(33)が筒状内周面(32)に形成されない場合に比べて、キャンセル油室(H3)の内径が大きくなりやすい。この点に関して、上記の構成によれば、段差部(33)が筒状内周面(32)に形成される場合であっても、第1供給油路(71)における径方向(R)の内側の端部(71a)の径方向の位置に応じて、キャンセル油室(H3)の実質的な内径を適切に設定することができる。これにより、キャンセル油室(H3)で発生させることが要求される大きさの遠心油圧を確保しやすくなっている。
前記係合装置(10)は、当該係合装置(10)の作動油圧が供給される作動油室(H1)を備え、前記回転部材(30)は、前記筒状内周面(32)と前記作動油室(H1)とを連通させる作動油路(74)を備え、前記筒状支持部(54)は、前記作動油路(74)に油を供給する第2供給油路(72)を備え、前記筒状内周面(32)に、前記筒状外周面(55)に対向する筒状の第1対向面(32a)が形成され、前記軸受(B1)は、前記第1対向面(32a)に対して前記軸方向第1側(L1)に配置され、前記筒状外周面(55)に、前記軸受(B1)に対向する筒状の第2対向面(55a)と、前記第2対向面(55a)を同径のまま前記軸方向第1側(L1)に延長した延長面(55b)とが形成され、前記筒状内周面(32)における前記作動油路(74)の開口部である第1開口部(74a)は、前記第1対向面(32a)に形成され、前記第2供給油路(72)は、前記筒状外周面(55)における前記第1対向面(32a)が対向する部分に開口する第3開口部(72a)を備え、前記筒状支持部(54)は、前記第1開口部(74a)及び前記第3開口部(72a)に対して前記軸方向第1側(L1)に隣接する位置に、前記第1対向面(32a)に対して前記径方向(R)の内側から接するシール部材(61)を備え、前記延長面(55b)における前記軸方向第1側(L1)の端部から前記第2対向面(55a)における前記軸方向第2側(L2)の端部までの前記軸方向(L)の距離(D1)が、前記シール部材(61)における前記軸方向第1側(L1)の端部から前記第1対向面(32a)における前記軸方向第2側(L2)の端部までの前記軸方向(L)の距離(D2)よりも長いと好適である。
この構成によれば、軸受(B1)及び嵌合部材(40)が筒状内周面(32)に装着された状態の回転部材(30)を、筒状支持部(54)に対して軸方向第1側(L1)から組み付けて、回転電機(MG)を第2ケース部(52)に対して軸方向第1側(L1)から組み付ける場合に、第1対向面(32a)における軸方向第2側(L2)の端部がシール部材(61)の配設位置に到達する前に、軸受(B1)を延長面(55b)に嵌合させることができる。よって、軸受(B1)によって筒状内周面(32)と筒状外周面(55)との相対位置が調整されて、筒状内周面(32)と筒状外周面(55)とが互いに芯出しされた状態(言い換えれば、筒状内周面(32)と筒状外周面(55)との同心度が高い状態)で、第1対向面(32a)をシール部材(61)に嵌合させることができる。よって、シール部材(61)が損傷を受ける可能性を低く抑えつつ回転電機(MG)を組み付けることができる。
本開示に係る車両用駆動装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。