以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示したものである。本実施形態では、このブレーキ制御システム1によって、横転抑制制御を含む車両運動制御を行う場合について説明する。
図1において、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
ここで、M/C13は、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eを備える。
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。
第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16と対応する第2差圧制御弁36、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、リザーバ20と対応するリザーバ40、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図2は、ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
図2に示すように、ブレーキECU70は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度センサ77からの検出信号を受け取り、各種物理量の演算や横転抑制制御等の車両運動制御を実行する。
例えば、ブレーキECU70は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、各車輪のスリップ率、舵角、ヨーレート、横加速度などを求めている。また、これらに基づいて横転抑制制御を実行するか否かを判定すると共に、横転抑制制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行する。
例えば、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、第1差圧制御弁16を差圧状態にしてモータ60を駆動することによってポンプ19を作動させる。これにより、第1差圧制御弁16の下流側(W/C側)のブレーキ液圧は第1差圧制御弁16で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪RRに対応する第2増圧制御弁18を遮断状態とすることで、W/C15が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17と第1減圧制御弁21を制御することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。
具体的には、第1増圧制御弁17を遮断状態にしつつ第1減圧制御弁21の連通遮断をデューティ制御することでW/C圧の減圧を行う減圧モードと、第1増圧制御弁17および第1減圧制御弁21を共に遮断状態にしてW/C圧を保持する保持モードと、第1減圧制御弁21を遮断状態にしつつ第1増圧制御弁17の連通遮断をデューティ制御することでW/C圧を増圧する増圧モードとを適宜切り替え、W/C圧を調整する。これにより、所望の目標W/C圧が得られるようにW/C圧が調整され、制動力が制御される。
なお、モータ60によりポンプ39も駆動されるが、第2差圧制御弁36を差圧状態にしていなければ、ブレーキ液が循環するだけでW/C34、35は加圧されない。
続いて、上記のように構成されるブレーキ制御システム1に備えられたブレーキECU70が実行する車両運動制御の詳細について説明する。なお、ブレーキECU70で実行可能な車両運動制御としては、トラクション制御等もあるが、ここでは本発明の特徴とする横転抑制制御についてのみ説明する。
図3は、ブレーキECU70が実行する横転抑制制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示される横転抑制制御処理は、例えば、図示しないイグニッションスイッチがオンされたときに所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100で、横加速度センサ77の検出信号に基づいて横加速度Gyを取得したのち、ステップ105に進み、ステップ100で取得した横加速度Gyが制御開始閾値Gsを超えているか否かを判定する。制御開始閾値Gsとは、横転抑制制御の開始条件を設定する基準値であり、車両状態が横転傾向にあると想定される値に設定される。この制御開始閾値Gsは、後述するように車両状態が真に横転抑制制御を実行すべきであるほど横転傾向にあるか否か等に応じて、第1値G1と第2値G2のいずれかとされる。第1値G1は、通常時に制御開始閾値Gsとして設定される値であり、横転抑制制御を最初に実行するときなどに設定される基準値である。第2値G2は、横転抑制制御を一旦開始したものの、その後横転抑制制御を継続する必要が無くなって制御を中断したときに、直ぐに横転抑制制御が再開されてしまわないように、制御開始閾値Gsを第1値G1よりも大きな値とするために設けられている。これら第1値G1および第2値G2が設定されるタイミングに関しては、後で詳細に説明する。
そして、ステップ105で肯定判定されれば、ステップ110に進み、横転抑制制御が実行中であるか否かを判定する。この判定は、後述するステップ115において横転抑制制御の実行が開始されたときにセットされる横転抑制制御実行中を示すフラグを確認することにより行われる。ここで否定判定されればステップ115に進んで横転抑制制御を開始すると同時に、横転抑制制御開始からの時間を計測し始める。ここで実行される横転抑制制御の詳細に関しては、従来と同様であり、上述したように制御対象輪を決定し、例えばその制御対象輪が左前輪FLであれば、左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17と第1減圧制御弁21を制御することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。そして、減圧モード、保持モード、増圧モードを適宜切り替えることにより、目標W/C圧が得られるようにする。
また、ステップ110で既に横転抑制制御が実行中であると判定されたとき、および、ステップ115で横転抑制制御を開始したら、その後ステップ120に進む。そして、ステップ120で横転抑制制御開始からの経過時間が待ち時間T1に至ったか否かを判定する。待ち時間T1とは、車両状態が横転傾向と判定されたときに、真に横転抑制制御を実行すべき状況であるか否かを判定するための基準時間である。すなわち、横転抑制制御開始からの経過時間が待ち時間T1に至った時に、真に横転抑制制御を実行すべきであったか否かを判定できるように、本ステップの判定処理を行っている。
ここで肯定判定されれば、ステップ125に進み、ステップ100で取得した横加速度Gyが横転抑制制御の中断閾値Gd未満であるか否かを判定する。中断閾値Gdとは、横加速度Gyが横転抑制制御を中断すべきと考えられるほど小さい値であることを示す基準値である。すなわち、車両状態が横転傾向にあったために横転抑制制御を開始したものの、制御開始後に横転抑制制御を継続するほど横転傾向が大きくない状態になっていれば、横転抑制制御を行う必要がないのに横転抑制制御が行われてしまった状況であると言える。このため、このような状況であるか否かをステップ125で判定している。
そして、ステップ125で肯定判定されればステップ130に進み、横転抑制制御が中断中であるか否かを判定する。この処理は、後述するステップ135において横転抑制制御を中断したときにセットされる横転抑制制御の中断中を示すフラグを確認することにより行われる。このとき、否定判定されれば、横転抑制制御を継続する必要が無いと判定されたものの、まだ横転抑制制御を中断していない状況であるため、ステップ135に進み、横転抑制制御を中断すると共に、中断中であることを示すフラグをセットする。また、横転抑制制御の中断を開始してからの経過時間を計測し始める。
この後、ステップ140に進み、制御開始閾値Gsを第2値G2に設定する。このように、横転抑制制御の中断が開始されるときをタイミングとして、制御開始閾値Gsを第2値G2に変更している。これにより、横転抑制制御を一旦開始したものの、その後横転抑制制御を継続する必要が無くなって制御を中断したときに、直ぐに横転抑制制御が再開されてしまわないように制御開始閾値Gsを通常時に設定される第1値G1よりも大きな値にすることが可能となる。したがって、横転抑制制御を中断した後に直ぐに横転抑制制御が再開され、さらに再び横転抑制制御が中断されるような制御開始と中断が繰り返されるハンチングが発生することを防止することが可能となる。
一方、ステップ130で肯定判定されればステップ145に進み、横転抑制制御の中断開始からの経過時間が閾値変更時間T2に至ったか否かを判定する。閾値変更時間T2とは、横転抑制制御を中断したときに制御開始閾値Gsとして第2値G2を設定したが、それを再び第1値G1に戻すために設定された時間である。横転抑制制御が中断された後、ハンチングの発生を抑制するために制御開始閾値Gsとして第2値G2を設定することで横転抑制制御が再開され難くなるようにしたが、前回横転抑制制御が開始されてからある程度時間が経過すると、車両状態の横転傾向に変化が生じていて、再び横転抑制制御を開始すべき状態になっている可能性もある。このような状況において、横転抑制制御が開始され難くなったままにしておくのは好ましくない。このため、横転抑制制御の中断開始からの経過時間が閾値変更時間T2に至った場合に、制御開始閾値Gsとして第2値G2を設定すべき時間が経過したと判定するようにしている。
したがって、ステップ145で肯定判定されたときにはステップ150に進んで制御開始閾値Gsを第1値G1に戻して処理を終了し、否定判定されたときには制御開始閾値Gsを第2値G2にしたまま処理を終了する。これにより、ハンチング防止を行うべき期間中には制御開始閾値Gsとして第2値G2が設定され、その期間を過ぎれば再び制御開始閾値Gsが第1値G1に戻るようにすることができる。
一方、上述したステップ120もしくはステップ125で否定判定されたときには、ステップ155に進み、ステップ100で取得した横加速度Gyが制御終了閾値Ge未満に低下しているか否かを判定する。制御終了閾値Geは、横転傾向が収まって車両状態が横転抑制制御を継続する必要がない程度まで安定したことを判定するための基準値である。このステップで肯定判定された場合には、横転抑制制御を継続する必要がないことから、ステップ160に進んで横転抑制制御を終了し、続けてステップ165に進み、否定判定された場合には、まだ横転抑制制御を継続する必要があることから、そのままステップ165に進む。
そして、上述したステップ105やステップ155で否定判定された場合、および、ステップ160で横転抑制制御を終了した場合には、次回横転抑制制御が開始されるときの制御開始閾値Gsを通常時のものにしておくために、改めて制御開始閾値Gsとして第1値G1を設定し、処理を終了する。
このようにして、本実施形態のブレーキECU70が実行する横転抑制制御処理が完了する。図4は、上記のような横転抑制制御処理を行った場合のタイミングチャートであり、図4(a)は横加速度Gyのタイミングチャート、図4(b)は、横転抑制制御時の制動力のタイミングチャートである。なお、図4(a)、(b)中実線は、横転抑制制御を開始したものの横転抑制制御を継続するほど横転傾向が大きくならなかった場合を示しており、図中破線は、横転抑制制御を開始したのち横転抑制制御を継続する必要がある程度に横転傾向が大きくなった場合を示している。
図4に示されるように、旋回時などにおいて横加速度Gyが増大し、時点t1において制御開始閾値Gsに至ると、横転抑制制御が開始される(ステップ105〜115参照)。このときには、まだ横転抑制制御開始前であるため、制御開始閾値Gsとして第1値G1が設定されている
その後、時点t2において待ち時間T1が経過したときに、横加速度Gyが中断閾値Gd未満であるか否かが判定される(ステップ120、125参照)。そして、横加速度Gyがあまり増加しておらず、横転抑制制御を継続する必要がなくなっていれば、横転抑制制御が中断されると共に制御開始閾値Gsが第1値G1よりも大きな第2値G2に変更される(ステップ135、140参照)。
これにより、横転抑制制御の中断中に横加速度Gyが第1値G1を超えていたとしても、第2値G2を超えない限りは、不必要に横転抑制制御が再開されないようにすることができる。このため、横転抑制制御により制御対象輪に発生させられていた制動力が徐々に低下させられる。そして、さらに時点t3において閾値変更時間T2を経過すると、再び制御開始閾値Gsが第2値G2から第1値G1に戻され、時点t4において横転抑制制御により制御対象輪に発生させられていた制動力が0になる。
一方、時点t2において待ち時間T1が経過した時に、横加速度Gyが中断閾値Gd以上であれば、横転抑制制御が中断されることなく継続される。このため、横転抑制制御によって制御対象輪のW/C圧が増減させられ、継続的に制動力が発生させられる。なお、この場合には、制御開始閾値Gsが第1値G1のままとなり、第2値G1に変更されない。
以上説明したように、本実施形態の車両用のブレーキ制御システム1において実行される横転抑制制御処理では、横転抑制制御の開始条件(Gy>Gs)が満たされることによって一旦横転抑制制御が開始されたとしても、横転抑制制御開始から待ち時間T1が経過した時点で横転抑制制御を継続するべきか中断すべきかを判定するようにしている。そして、横転抑制制御を中断すべきと判定されたときに、横転抑制制御の開始条件を満たしていてもそれを継続しないようにしている。これにより、本来横転に至らない状況まで横転抑制制御が継続されてしまうことを抑制することができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に対して、積載重量に基づいて制御開始閾値Gsや閾値変更時間T2および待ち時間T1を設定するようにしたものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態では、第1実施形態で説明した横転抑制制御処理とは別フローとして、各種値変更処理を行うことで、横転抑制制御処理で用いている制御開始閾値Gsや閾値変更時間T2および待ち時間T1を設定している。なお、横転抑制制御処理自体については、第1実施形態と同様であるため、ここでは各種値変更処理について説明する。
図5は、各種値変更処理の詳細を示したフローチャートである。この処理は、例えばイグニッションスイッチがオフからオンに投入されたとき、もしくは、車両が所定時間停車して積載重量が変動した可能性がある場合に、ブレーキECU70により所定の演算周期毎に実行される。
まず、ステップ200では、積載重量推定処理を実行する。この積載重量推定処理は、以下の説明する積載重量推定の考え方に基づいて行われる。
まず、車両が旋回運動するときの挙動について検討してみると、ドライバがステアリングを操作することにより操舵が為されると、それに伴ってラックおよびピニオンを介してタイヤ角度、すなわち車両前後方向に対するタイヤの角度である舵角が調整される。このタイヤ角の調整に伴ってヨーが発生するため、ヨーレートが発生する。つまり、操舵→舵角調整→ヨーレート発生の順に挙動が生じる。
そして、舵角が発生してからヨーレートが発生する際に、操舵が緩やかに行われたときには舵角の調整後、直ぐに追従してヨーレートが発生するが、操舵が速やかに行われたときには舵角の調整後に遅れてヨーレートが発生することになる。このため、操舵の速度を表す舵角速度と、舵角の調整からヨーレートが発生するまでの時間との間に相関関係があることになる。舵角の調整からヨーレートが発生するまでの時間は、舵角とヨーレートとの位相差にて表されるため、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係をマップもしくは関数式にて設定することができる。
さらに、操舵の速度や路面状態が同じであると仮定した場合、車両挙動は車両総重量が大きいほど位相遅れが生じる。そして、車両総重量は、一定重量である空車時の車両重量に対して変動重量である積載重量を加算した値であるため、車両挙動の位相遅れは、積載重量に依存していると言える。したがって、積載重量に応じて舵角とヨーレートとの位相差も変化し、積載重量が大きくなればなるほど舵角とヨーレートとの位相差も大きくなる関係となる。よって、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係を積載重量別に予め実験などによって求めておけば、その関係と舵角センサ75やヨーレートセンサ76の検出信号から得られる舵角速度や舵角およびヨーレートの位相差に基づいて、つまり車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を推定することができる。
次に、車両の重心位置について検討してみる。図6は、車両への積載重量Wと重心位置Xとの関係を調べたものであり、図6(a)は、トラックなどの貨物車両への積載重量Wと重心位置Xとの関係を示した模式図、図6(b)は、その関係を示したグラフである。
図6(a)に示されるように、貨物車両に対して荷物を載せる場合、車室の後方に位置している荷台に載せまた、過去に載せた荷物の上方位置に載せることになるため、荷物を載せれば載せるほど、重心位置が後方へ移動する。このため、例えば、荷物の積載がない空車時の重心位置を初期の重心位置X0とすると、荷物を積載重量W1だけ載せたときの重心位置X1は、重心位置X0よりも後方に移動する。さらに、荷物を積載重量W1よりも大きい積載重量W2だけ乗せたときの重心位置X2は、さらに重心位置X1よりも後方に移動する。このため、図6(b)に示すように、重心位置Xと積載重量Wとの間には、積載重量Wが大きくなるほど重心位置Xの車両後方への移動量も大きくなるという関係が成り立つ。このため、重心位置Xを検出することで、積載重量Xを推定することができる。
重心位置Xについては、サスペンションなどに備えられる荷重センサにて検出することもできるが、例えば、ヨーレートと横加速度との関係に基づいて検出することもできる。すなわち、重心位置Xが移動した場合、車両に発生するヨーモーメントはあまり影響を受けないため、ヨーレートに変化は無い。しかしながら、横加速度については、重心位置Xの移動に伴って影響を受ける。一般的に、横加速度センサは、空車時の重心位置X0の近傍に設置されるため、ヨーモーメントの影響を受けず、検出信号にヨー成分が含まれないが、重心位置Xが移動すると、横加速度センサが重心位置Xから離れて配置された状態になるため、ヨーモーメントの影響を受けることになり、検出信号にヨー成分が重畳される。
このため、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係が重心位置Xの移動、つまり積載重量Wの変動に伴って変化する。よって、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を積載重量別に予め実験などによって求めておけば、その関係とヨーレートセンサ76および横加速度センサ77の検出信号から得られるヨーレートやその微分値から得られるヨー角加速度および横加速度Gyとに基づいて、つまり重心位置Xに基づいて積載重量Wを推定することができる。
以上の知見に基づいて、積載重量推定を行うことができる。続いて、上記のような考え方に基づく積載重量推定処理について説明する。図7は、積載重量推定処理の詳細を示したフローチャートである。
まず、ステップ300では、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度センサ77の検出信号に基づいて舵角、ヨーレートおよび横加速度Gyを演算する。具体的には、舵角を時間微分することにより舵角の微分値で表される舵角速度を演算する。また、ヨーレートを時間微分することによりヨーレートの微分値で表されるヨー角加速度を演算する。さらに、舵角とヨーレートとの位相差やヨーレートと横加速度Gyとの位相差を演算する。舵角とヨーレートとの位相差は、例えば舵角の検出波形とヨーレートの検出波形、例えばピーク値同士を比較し、その遅れ時間を演算することにより求められる。同様に、ヨーレートと横加速度Gyとの位相差は、例えばヨーレートの検出波形と横加速度Gyの検出波形、例えばピーク値同士を比較し、その遅れ時間を演算することにより求められる。
次に、ステップ310に進み、車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を推定する。具体的には、ステップ300で演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差と、予め実験などによって求めて記憶しておいた舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係に基づいて、積載重量を推定する。ここでは、図7中に示したように、予め実験などによって、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係を示すマップ(MAP1)を求めて記憶してある。このため、ステップ300で演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差が図中に記載したマップのどの位置(舵角速度をX軸、舵角とヨーレートとの位相差をY軸と見立てたときの演算値のXY座標)に対応するかを判別することにより、積載重量を推定する。
すなわち、図中に示したように、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係を積載重量別に三本の線で示すことで、積載重量が無(空車時)、小、中、大の4つの領域に区画してある。したがって、ステップ300で演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差がマップのどの領域に位置しているかにより、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別する。このとき判別された積載重量をMAP1の積載重量として記憶する。
なお、ここでは三本の線しか示していないが、更に複数の線を示しておくことで、より具体的な積載重量の絶対値を求めることもできる。勿論、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係を示す関数式に対して、舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差を代入することで、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別することもできるし、積載重量の絶対値を求めることも可能である。
続いて、ステップ320に進み、重心位置に基づいて積載重量を推定する。具体的には、ステップ300で演算したヨー角加速度およびヨーレートと横加速度との位相差と、予め実験などによって求めて車両の重心位置別に記憶しておいたヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係に基づいて、積載重量を推定する。ここでは、図7中に示したように、予め実験などによって、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を車両の重心位置別に示すマップが作成され、前述のようにこのマップは車両の積載重量別に示したマップであるとみなされることより、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を車両重量別に示すマップ(MAP2)を求めて記憶してある。このため、ステップ300で演算したヨー角加速度およびヨーレートと横加速度との位相差が図中に記載したマップのどの位置(ヨー角加速度をX軸、ヨーレートと横加速度との位相差をY軸と見立てたときの演算値のXY座標が積載重量別に区画されたどの範囲内)に対応するかを判別することにより、積載重量を推定する。
すなわち、図中に示したように、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を積載重量別に三本の線で示すことで、積載重量が無(空車時)、小、中、大の4つの領域に区画してある。したがって、ステップ300で演算したヨー角加速度およびヨーレートと横加速度との位相差がマップのどの領域に位置しているかにより、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別する。このとき判別された積載重量をMAP2の積載重量として記憶する。
なお、ここでは三本の線しか示していないが、更に複数の線を示しておくことで、より具体的な積載重量の絶対値を求めることもできる。勿論、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を示す関数式に対して、ステップ300で演算したヨー角加速度およびヨーレートと横加速度との位相差を代入することで、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別することもできるし、積載重量の絶対値を求めることも可能である。
そして、ステップ330に進み、ステップ310で記憶したMAP1の積載重量とステップ320で記憶したMAP2の積載重量とを比較し、いずれか小さい方を最終的な積載重量として決定する(積載重量=MIN(MAP1,MAP2))。このとき、MAP1とMAP2の積載重量のいずれか小さい方ではなく、それらの平均値やいずれか大きい方を採用する等のように、MAP1とMAP2の積載重量に基づく他の手法によって最終的な積載重量を決定することもできる。しかし、積載重量が推定されるたびに積載重量が更新され、最終的には、実際の積載重量に近い値に更新されていくことになるため、最初からMAP1とMAP2の積載重量いずれか大きい方の積載重量を選択するのではなく、いずれか小さい方を選択することで、ノイズ的に積載重量が大きく変化する場合などを除外できるようにしている。
このように、車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を推定している。すなわち、予め求めておいた舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係と、各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差に基づいて、積載重量を推定している。これら各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差は、制動トルクが加わったり、4輪にスリップが発生した時、さらには振動発生時や微小時間に路面変化が生じる場合などの外乱要因が発生した場合であっても、その外乱要因が加味された値となっている。このため、外乱要因が発生しても正確な積載重量を推定することができる。
また、ここでは、重心位置に基づいて積載重量を推定している。すなわち、予め求めておいたヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係と、各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角とヨーレートとの位相差に基づいて、積載重量を推定している。この場合にも、各センサ75〜77の検出信号から演算したヨー角加速度およびヨーレートと横加速度との位相差は、制動トルクが加わったり、4輪にスリップが発生した時、さらには振動発生時や微小時間に路面変化が生じる場合などの外乱要因が発生した場合であっても、その外乱要因が加味された値となっている。このため、外乱要因が発生しても正確な積載重量を推定することができる。さらに、回運動するときの挙動に基づく積載重量の推定と、重心位置に基づく積載重量の推定の双方を行っているため、より正確な積載重量を推定することが可能となる。
このようにして、積載重量推定が完了するとステップ210〜230に進み、ステップ200で推定した積載重量に基づいて制御開始閾値Gsの設定に用いられる第2値G2や閾値変更時間T2および待ち時間T1を設定する。
まず、ステップ210では、制御開始閾値設定処理を行う。具体的には、推定した積算重量に基づいて制御開始閾値Gsの設定に用いられる第2値G2を設定する。すなわち、積載重量が大きくなるほど横転し易くなるため、一旦横転抑制制御を中断したとしても、その後に車両の横転傾向が増大した場合には、それを応答性良く検知して、中断されていた横転抑制制御を開始させられるようにすることが望まれる。したがって、図中のマップに示したように、ステップ200で推定した積算重量が大きくなるほど第2値G2が小さくなるように設定することで次の横転抑制制御に備えるようにしている。なお、積載重量に対する第2値G2の関係としては、予め実験などによって求めることができる。
次に、ステップ220では、実行時間変更処理を行う。具体的には、推定した積算重量に基づいて閾値変更時間T2を設定する。上記したように、積載重量が大きくなるほど横転し易くなるため、一旦横転抑制制御を中断したとしても、その後に車両の横転傾向が増大した場合には、それを応答性良く検知して、中断されていた横転抑制制御を開始させられるようにすることが望まれる。そして、車載重量が大きければ、短時間しか経過していなかったとしても大きな横加速度Gyが発生し得る。したがって、図中のマップに示したように、ステップ200で推定した積載重量が大きくなるほど閾値変更時間T2が短くなるように設定するようにしている。この積載重量に対する閾値変更時間T2の関係も、予め実験などによって求めることができる。
そして、ステップ230では、待ち時間変更処理を行う。具体的には、推定した積算重量に基づいて待ち時間T1を設定する。具体的には、ステップ330で検出された積載重量に基づいて待ち時間T1を設定している。待ち時間T1の変更に対しても、車載重量が大きければ、短時間しか経過していなかったとしても大きな横加速度Gyが発生し得る。したがって、図中のマップに示したように、ステップ200で推定した積載重量が大きくなるほど待ち時間T1が短くなるように設定することで、次の横転抑制制御に備えるようにしている。この積載重量に対する待ち時間T1の関係も、予め実験などによって求めることができる。
以上説明したように、車載重量を推定し、推定した車載重量に基づいて制御開始閾値Gsの設定に用いられる第2値G2や閾値変更時間T2および待ち時間T1を変更するようにしている。このため、車載重量に応じた横転抑制制御を行うことが可能になると共に、横転抑制制御の継続の必要性がないと判定されて一旦中断されたとしても、横転抑制制御を再開する必要が生じたときには、それを応答性良く検知し、早期に横転抑制制御を再開することが可能となる。これにより、車載重量が大きい場合であっても、車両の横転傾向が大きくなり過ぎる前に横転抑制制御を再開でき、車両が不安定になることをより抑制することが可能となる。
(他の実施形態)
上記各実施形態では、横加速度Gyを車両の横転傾向を表す物理量として用いているが、車両の横転傾向を示す物理量として他のものを用いてもかまわない。例えば、ロール角センサを用いて、ロール角を直接検出し、横方向運動量としてロール角を用いるようにしても良い。また、舵角やヨーレートおよび横加速度のいずれかに基づいて、横転傾向を検出することもできる。例えば、舵角と横加速度Gyとから周知の手法によって推定した目標ヨーレートとヨーレートセンサ76で検出される実際のヨーレートとの差も横転傾向を表す物理量として用いることができる。
上記第2実施形態では、積載重量に基づいて制御開始閾値Gsの設定に用いられる第2値G2や閾値変更時間T2および待ち時間T1を変更する場合について説明したが、必ずしもこれらすべてを車載重量に基づいて変更する必要は無い。すなわち、これらのうち少なくとも1つを車載重量に基づいて変更すれば、横転抑制制御を再開する必要が生じたときに、それを応答性良く検知し、早期に横転抑制制御を再開することが可能になるという効果を得ることができる。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、ブレーキECU70のうちステップ100の処理を実行する部分が横転傾向取得手段、ステップ125〜135の処理を実行する部分が制御中断手段、ステップ140の処理を実行する部分が制御開始閾値変更手段、ステップ210の処理を実行する部分が閾値設定手段、ステップ220の処理を実行する部分が実行時間変更手段、ステップ230の処理を実行する部分が待ち時間変更手段に相当する。