JP5396752B2 - 靭性に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents
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まず、本発明者等が行った基礎的な実験結果について説明する。なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は全てmass%をあらわす。
得られた、冷延焼鈍板の圧延方向に垂直な任意の切断面から試料を採取し、析出物3の分布を電子顕微鏡で観察を行った。図3に走査型電子顕微鏡による結晶粒界上析出物の観察結果の一例を示す。結晶粒界長さ3mmに相当する視野を詳細に観察し、結晶粒界2の長さと結晶粒界上に析出している析出物3の長さを測定した。
冷延焼鈍板から、JISZ2242の規定に準拠して、Vノッチの方向を板幅方向とするVノッチシャルピー試験片を採取し、−80〜+20℃の範囲でシャルピー試験を実施し、延性脆性破面遷移温度を調査した。ここで、本発明に於いて「靱性に優れる」とは、延性脆性破面遷移温度が−30℃未満になることをいう。また、特に靱性に優れるものは延性脆性遷移温度が−60℃未満になることをいう。
冷延焼鈍板から、JISZ2201に規定された13号B試験片を各2本ずつ採取し、JISG0567の規定に準拠して、試験温度900℃、歪速度0.3%/minの条件で高温引張試験を実施した。900℃における0.2%耐力を測定し、2本の平均値を求めた。
本発明に係る靭性に優れたフェライト系ステンレス鋼の成分組成の限定理由は、以下の通りである。なお、成分%は、全て質量%を意味する。
Cは鋼の強度を増加させる元素であるが、0.020%以上含むと靱性および成形性の低下が顕著となるため、0.020%未満とした。成形性を考慮すると、C含有量は低いほど好ましく、より好適には0.008%以下である。
Siは本発明において重要な元素である。Siは合金元素の析出を促進する元素であり、Siを低減することで結晶粒界上析出物の占有率は減少する。Siを低減するほどその効果は大きいが、低減しすぎると耐酸化性の低下を招く。好ましくは0.01%以上0.1%未満である。
Mnは脱酸剤としての作用を有するとともに、酸化皮膜の密着性を向上させる元素である。しかしながら、過剰に添加されると粗大なMnSを形成し、成形性、耐食性を低下させる。このため、本発明では2.00%未満に限定した。より好適には1.00%未満である。
Pは成形性,靱性を低下させる元素であり,できるだけ低減するのが望ましいが,脱Pコストの観点から,0.060%未満に限定した。より好適には0.030%未満である。
Sは耐食性を低下させる元素であるであり、できるだけ低減するのが望ましいが、脱Sコストの観点から、0.008%未満に限定した。より好適には0.005%未満である。
Crは耐食性、耐酸化性を向上させる元素であり、このような効果は12.0%以上の添加で認められる。ただし、過剰に添加されると靱性を低下させるので、20.0%未満に限定した。より好適には13.0%以上、16.0%未満である。
Niは靱性を向上させる元素であるが、過剰な添加は原料コストの増大を招くので1.00%未満に限定した。より好適には0.01%以上、0.80%未満である。
NbはC、Nを固定することにより、鋼の成形性や耐食性等を向上させ、また鋼に固溶することにより、高温強度を高める効果を有する。このような効果は、10×(C+N)%以上の含有で認められる。しかしながら、過剰な添加は靱性の低下を招くため、0.80%未満に限定した。より好適には、0.20%以上、0.70%未満である。
Nは鋼の靱性および成形性を低下させる元素であり、0.020%以上含むと、靱性および成形性の低下が顕著となる。このため、0.020%未満に限定した、より好適には0.010%未満である。
Bは本発明において重要な元素である。Bは加工性、特に2次加工性を向上させる元素として知られているが、本明細書において定義する粒界上析出物占有率を低減する効果を持つ。このような効果は、0.0005%以上で顕著となるが、0.0100%以上添加するとBNが析出し、加工性が低下するため、0.0100%未満に限定する。より好適には0.0005%以上、0.0050%未満である。
Moは鋼に固溶することにより高温強度および耐食性を高める。このような効果は、0.80%以上の添加で認められるが、3.00%以上含むと成形性が低下し、原料コストの増大も招くため、3.00%未満に限定した。より好適には1.00%以上、2.50%未満である。WもMo同様の効果を有するが、好適範囲が異なる。5%以上添加で成形性が低下する。好適範囲は1.00%以上、3.00%未満である。
Ti、Zrは成形性を向上させる元素であり、NbよりC、Nとの親和力が強いため、Nbの固溶量を増加させる。このような効果は、0.02%以上で顕著となるが、0.50%以上添加すると粗大なTi(C,N)が析出し、表面性状を劣化させるため、0.50%未満に限定する。より好適には0.02%以上、0.40%未満である。
Coは、高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて含むことができる。このような効果は、0.50%以上の添加で顕著となるが、3.00%以上添加すると、鋼が脆化するため、3.00%未満に限定する。より好適には、0.80%以上、2.00%未満である。
Cuは、成形性および耐食性を向上させる元素である。このような効果は、0.05%以上の添加で顕著となるが、2.00%以上の過剰な添加により脆化するため、2.00%未満に限定する。より好適には、0.05%以上、1.5%未満である。
Vは、成形性を向上させる元素である。このような効果は、0.05%以上で顕著となるが、0.50%以上添加すると、粗大なV(C,N)が析出し、表面性状を劣化させるため、0.50%未満に限定する。より好適には、0.05%以上、0.40%未満である。
本発明に係る靭性に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、含有成分を上述した成分組成の範囲に限定し、熱延板、冷延板の焼鈍条件、冷延圧下率、熱間仕上圧延における温度範囲を制御する点以外に関しては、特に限定されるものではなく、通常公知の方法がすべて適用できる(以下、各製造プロセスで使用する装置については、公知につき図示しない)。
冷間圧延に於いて、あまり大きな歪を導入すると、最終焼鈍における析出量が増加したり、大きすぎる圧下率は鋼板の異方性を大きくする。また圧下率が低いと十分な再結晶組織を得られない。従って、好ましい冷間圧下率は40〜75%である。
熱延板焼鈍および冷延板焼鈍に於いて、高温に曝される時間が長いと、結晶粒の粗大化を招き、靭性を低下させる恐れがある。従って、1000℃以上に曝される時間は短いほど良く、好ましくは300秒以下である。
冷延焼鈍板から、JISZ2242の規定に準拠して、Vノッチの方向を板幅方向とするVノッチシャルピー試験片を採取し、−80〜+20℃の範囲でシャルピー試験を実施し、延性脆性破面遷移温度を判定した。延性脆性波面遷移温度は−30℃未満を本発明の範囲と判断した。
冷延焼鈍板から、JISZ2201に規定された13号B試験片を各2本ずつ採取し、JISG0567の規定に準拠して、試験温度900℃、歪速度0.3%/minの条件で高温引張試験を実施した。900℃における0.2%耐力を測定し、2本の平均値を求めた。高温強度は、25MPa以上の強度を本発明の範囲と判断した。
冷延焼鈍板の圧延方向に垂直な任意の切断面から試料を採取し、析出物の分布を電子顕微鏡で観察を行った。図3に示した実験結果と同様に、結晶粒界長さ3mmに相当する視野を詳細に観察し、結晶粒界の長さと結晶粒界上に析出している析出物の長さを測定した。
なお、表1及び表2の分類区分中、HR+HA+CAは、熱間圧延、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍において900〜700℃に曝された時間(秒)を、HA↓+CA↓は、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍における900℃から700℃への冷却時間(秒)および700℃から500℃への冷却時間(秒)を、HA+CAは、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍において1000℃以上に曝された時間(秒)を、Σ/Σは、結晶粒界上析出物の占有率を、DBTTは延性脆性破面遷移温度を意味している。
2 結晶粒界
3 析出物
Claims (6)
- 質量%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0%以上、20.0%未満、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)%以上、0.80%未満、N<0.020%、B:0.0005%以上、0.0100%未満を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、冷延鋼板の任意の切断面に出現する結晶粒及び析出物を電子顕微鏡で観察して、結晶粒界上析出物の占有率を、結晶粒界上において各析出物の占める長さと結晶粒界長さとの比として、式(1)で算出し、該占有率を0.4以下としたことを特徴とする靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
占有率=Σ(結晶粒界上において各析出物の占める長さ)/Σ(結晶粒界長さ)・・・(1) - さらに、質量%で、Mo<3.00%、W<5.00%、Ti<0.5%、Zr<0.5%、Co<3%、Cu<2.00%、V<0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
- 質量%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0%以上、20.0%未満、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)%以上、0.80%未満、N<0.020%、B:0.0005%以上、0.0100%未満を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を用いた、熱間圧延、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍工程において、900〜700℃に曝される時間の合計を150秒以下、且つ熱延板焼鈍および冷延板焼鈍後の900℃から700℃への冷却時間の合計を20秒以下として製造することを特徴とする靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- さらに、質量%で、Mo<3.00%、W<5.00%、Ti<0.5%、Zr<0.5%、Co<3%、Cu<2.00%、V<0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3記載の靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- さらに、質量%で、Cu:0.8〜2.0%を含む鋼素材の熱延板焼鈍および冷延板焼鈍後の700℃から500℃への冷却時間の合計を20秒以下とすることを特徴とする請求項3記載の靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- さらに、質量%で、Cu:0.8〜2.0%を含み、且つMo<3.00%、W<5.00%、Ti<0.5%、Zr<0.5%、Co<3%、V<0.5%の1種または2種以上を含有する鋼素材の熱延板焼鈍および冷延板焼鈍後の700℃から500℃への冷却時間の合計を20秒以下とすることを特徴とする請求項3記載の靱性に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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