JP5348458B2 - Cr含有鋼管及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、Cr含有鋼管及びその製造方法に係わり、特に、自動車や2輪車の排気管、プラントの排気ダクト、熱交換器、燃料電池等、高温環境下で使用される部材用として好適な、耐熱性及び成形性を兼ね備えたCr含有鋼管並びにその製造方法に関する。
自動車の排気系環境で使用される,例えばエキゾーストマニホールド,排気パイプ,コンバータケース,マフラー等で代表される鋼製の排気部材には,高温環境で特性を保つための耐熱性と,限られたスペースに配置されるための成形性とが要求される。このことは、素材にCr含有鋼管を用いる場合も同様で,造管時に加わった歪を取り除いて加工性を回復させるために,造管後に管体焼鈍(以下、パイプ焼鈍ともいう)を行うことがある。現状では、このような用途に,室温において軟質で成形性に優れ,高温耐力も比較的高く、且つ成分上はNbとSiを含むCr含有鋼(例えば,Type429Nb鋼:14Cr―0.9Si―0.4Nb)が多く使用されている。
しかしながら,自動車排気ガスの最近の規制強化要求により,排気ガスが高温化しているので、前記したType429Nb鋼では、高温耐力が不足するという問題が生じる。そのため、Type429Nb鋼よりも合金元素の添加量を増加させたSUS444(18Cr―2Mo―Nb)等が使用されるが,それらの鋼には、Type429Nb鋼に比べて室温における加工性が低下するばかりでなく,靱性が乏しいため脆性破壊を起こし易いという問題がある。また、前述のパイプ焼鈍を不適切な条件で行うと,冷却中の結晶内に炭化物、窒化物、Laves相等が析出して、該パイプの靱性が低下するという問題もある。そこで,このようなパイプの脆化を抑制するために,造管後のパイプ焼鈍における加熱速度、均熱温度及び均熱時間をある範囲内に規定すると共に,冷却速度を水冷以上とすることで,パイプ焼鈍による炭化物、窒化物、Laves相等の析出に起因した靱性の低下を抑制する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、高温強度に優れた焼鈍パイプを得るため、パイプ焼鈍後の冷却速度を水冷以上と規定する技術も開示されている(特許文献2参照)。ところが、常に水冷以上の冷却速度が要求されるのでは、設備的に大きなコストアップが避けられず,操業面からも安定的な生産を行うことが難しい。さらに、焼鈍パイプの冷却速度を規定して焼鈍パイプの脆性破壊を防止する、すなわち2次加工性を改善しようとする技術もあるが(特許文献3参照)、この脆性破壊による割れは、1次加工では殆ど起こらず、また素材の特性(靭性等)との関係も明らかにはされていない。
特許第3533548号公報 特許第3678321号公報 特許第3501573号公報
上述のように、Cr含有鋼管の耐熱性向上のために合金元素を多量に添加する場合は,合金元素が少ない場合に比べて靱性が低下する上に,さらに造管過程でのパイプ焼鈍後の冷却速度が小さいと、その冷却で起きる炭化物、窒化物、Laves相等の析出によっても靱性が低下するという問題がある。
そこで、本発明は,かかる事情に鑑み、造管過程でのパイプ焼鈍後の冷却速度が小さくても、高温強度に優れるばかりでなく、靱性及び耐酸化性に優れたCr含有鋼管並びにその製造方法を提供することを目的としている。
なお,本発明でいう「高温強度に優れる」とは、鋼管の900℃での高温耐力が16MPa以上であることを、「靱性に優れる」とは、JIS Z 2242に記載されるVノッチシャルピー試験を実施したときの延性脆性遷移温度(鋼板の特性が延性から脆性に変わる境界温度であり、その温度が低いほど靭性に優れる)が0℃未満となることである。さらに、延性脆性遷移温度が−30℃未満では、「靭性に優れる」と考える。また、「耐酸化性に優れる」とは、大気中での950℃、400時間(記号:h)の焼鈍において異常酸化を生じないことを意味する。
発明者は、上記目的を達成するため、良好な靭性が得られるCr含有鋼について鋭意研究した。その結果、鋼の結晶粒と析出物との関係を制御することにより、造管過程でのパイプ焼鈍後の冷却速度が小さくても、靭性に優れるCr含有鋼管を得られることを見出したのである。本発明は、その知見に基づきなされたもので、その要旨は、以下のとおりである。
まず、本発明は、Cr含有鋼管の非接合部を切断して得た複数の試料の表面に出現する結晶粒及び析出物を電子顕微鏡で観察して該結晶粒の粒界長さ及び析出物の長さをそれぞれ測定し、それら測定値に基づき下記式で算出される粒界上析出物占有率の平均値が1〜50%であることを特徴とするCr含有鋼管である。
粒界上析出物占有率(%)=(粒界に沿った析出物の長さの合計値/結晶粒界の長さ)×100
この場合、前記Cr含有鋼管の素材である冷延鋼板が、mass%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0以上20.0未満%、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)以上0.80未満%、N<0.020%、B:0.0005以上0.0100未満%を含み、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有している。また該冷延鋼板の仕上げ焼鈍時の950℃から500℃まの平均冷却速度を30℃/秒以上であることが好ましい。また、上記組成に、Mo<3.00%、W<5.00%のうちの1種以上を含有させたり、さらに、Ti<0.5%、Zr<0.5%のうちの1種以上を含有させたり、さらに加えて、Co<3%、Cu<2.00%及びV<0.5%のうちの1種以上を含有させても良好な靭性を得ることができる。
また、本発明は、mass%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0以上20.0未満%、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)以上0.80未満%、N<0.020%、B:0.0005以上0.0100未満%を含み、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有するCr含有鋼管の非接合部を切断して得た複数の試料の表面に出現する結晶粒及び析出物を電子顕微鏡で観察して該結晶粒の粒界長さ及び析出物の長さをそれぞれ測定し、それら測定値に基づき下記式で算出される粒界上析出物占有率の平均値が1〜50%となるように、前記組成の鋼鋳片に、熱間圧延及び冷間圧延を順次施し、冷延鋼板としてから仕上げ焼鈍を行い、該焼鈍時の950℃から500℃までの平均冷却速度を30℃/秒以上として冷却し、その後焼鈍を含む造管工程で造管すると共に、該造管工程での焼鈍後に、該Cr含有鋼管を1〜13℃/sの速度で冷却することを特徴とするCr含有鋼管の製造方法である。
粒界上析出物占有率(%)=(粒界に沿った析出物の長さの合計値/結晶粒界の長さ)×100
この場合も、上記組成に、Mo<3.00%、W<5.00%のうちの1種以上を含有させたり、さらに、Ti<0.5%、Zr<0.5%のうちの1種以上を含有させたり、さらに加えて、Co<3%、Cu<2.00%及びV<0.5%のうちの1種以上を含有させても良好な靭性を得ることができる。さらに、Cuを0.8〜2.0%未満含有する冷延鋼板の仕上げ焼鈍時及びパイプ焼鈍時の700〜500℃までの冷却時間の合計が20秒以内とすることにより製品鋼管の靭性をより優れたものとすることができる。


本発明によれば、鋼の結晶粒界上における析出物の占める割合を制御することで、高温強度、靭性及び耐酸化性のいずれにも優れたCr含有鋼管が得られる。その結果、当該Cr含有鋼管は、高温強度と靭性、耐酸化性に優れるため、例えば自動車排気系部材として好適なものが安価に得られ、産業上、大きな効果をもたらす。また、本発明は、自動車排気系部材と同様の特性が要求され、主に高温環境で使用されるような種々の部材としても好適であり、工業的価値は極めて高い。
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。なお、本明細書においては、鋼の成分を示す%を全てmass%で表すことにした。
まず、本発明の基礎となった実験結果について述べる。
実験室で、0.01mass%C―0.01mass%N―0.1mass%Si―15mass%Cr―0.0010mass%B鋼をベースとし、Si及びBの含有量を種々変化させた鋼鋳片を溶製した。そして、その鋼鋳片を冷間圧延してから、電気炉で1000〜1200℃に約1分間加熱して仕上げ焼鈍を行い、焼鈍後の冷却速度を種々変更することにより、板厚が1.5〜2.5mmの冷延鋼板を得た。引き続き、この冷延鋼板は、実験室規模の電縫鋼管製造装置で外径38mmの管体(以下、パイプとかCr含有鋼管ともいう)にした。なお、パイプ焼鈍後の冷却速度は5℃/秒(以下、記号:s)(500℃まで)とした。
この管体を多数箇所で切断し、シーム部を除いた部分(非接合部という)から試料を採取し、金属組織の電子顕微鏡観察を行った。観察結果の一例をSEM像で図2に示す。図2によれば、結晶粒1同志の境界、つまり結晶粒界2に析出物3(炭化物、窒化物、Laves相等)が出現し、粒界2の長さ及び析出物3の長さが測定可能であることが明らかである。ここで、粒界2の長さは、図2に示したように、顕微鏡の視野に出現した全粒界長さの合計値(A)+(B)+(C)である。
また、電子顕微鏡観察を行うに際しての各管体から採取する試料の数は、3〜5個である。各管体の代表データとするには、再現性の観点より最小で3個は必要であり、また6個以上では多過ぎて観察が無駄になるからである。
この電子顕微鏡観察の結果、前記した多種の管体は、異なった組成及び製造条件に応じて、下記式で定義する結晶粒界の長さと結晶粒界上の析出物の長さの合計との比率(粒界上析出物占有率という)が種々異なっていることが判明した。
粒界上析出物占有率(%)=(粒界に沿った析出物の長さの合計値/結晶粒界の長さ)×100
なお、結晶粒界の長さには析出物の長さも含まれている。
次に、多種の管体からシャルピー試験片(ノッチは円周方向)を採取し、Vノッチシャルピー試験を−80〜+80℃の範囲で実施し、それら試料についての靭性脆性遷移温度(記号:DBTT)を調べた。なお、シャルピー試験片は、管体の長手方向に平行に溶接部以外(前記非接合部)から採取し,約300℃に加熱した後,プレスにより平らにしたものである。シャルピー試験の結果を、対応する管体の前記した粒界上析出物占有率(%)の調査結果との関係で整理し、図1に示す。
図1は、パイプ焼鈍後の靭性に及ぽす粒界上析出物占有率の影響を示すものであるが、それによれば、管体の素材である冷延鋼板の粒界上析出物占有率を50%以下に制御すると、管体の延性脆性遷移温度(記号:DBTT)は0℃未満となり、良好な靭性を得られることがわかる。発明者らは、さらに詳細な調査を行い、理由は定かでないが、冷延鋼板の段階での焼鈍後に、冷却速度を種々変更することで、冷延鋼板の粒界上析出物占有率を1 〜 50%の範囲にすれば、以降の工程である造管過程でのパイプ焼鈍後の冷却速度が小さくても、得られるCr含有鋼管の靭性が良好であることを見出したのである。
そこで、発明者は、以上の知見に基づき、電縫管体の素材である冷延鋼板を以下に示す成分組成に制御し、かつ冷延鋼板を仕上げ焼鈍した後の冷却速度を制御することで、粒界上析出物占有率を1〜50%の範囲にしたCr含有鋼管を、本発明として提案することにしたのである。
本発明に係るCr含有鋼管の成分組成の限定理由は、以下の通りである。
(1)C<0.020mass%
Cは、鋼の強度を増加させる元素であるが,0.020mass%以上含むと、靱性及び成形性の低下が顕著となるため,0.020mass%未満とした。成形性を考慮すると,C含有量は低いほど好ましく,より好適には、0.008mass%以下とするのが良い。
(2)Si≦0.25mass%
Siは、本発明において重要な元素である。Siは、合金元素の析出を促進する元素であり、Siを低減することで,粒界上析出物占有率は減少する。Siを低減するほど,その減少効果は大きいが、低減し過ぎると、管の耐酸化性の低下を招く。好ましくは、0.01mass%以上0.1mass%未満である。
(3)Mn<2.00mass%
Mnは、脱酸剤としての作用を有すると共に,酸化皮膜の密着性を向上させる元素である。しかしながら,過剰に添加されると、粗大なMnSを形成し,成形性,耐食性を低下させる。そのため,本発明では、2.00mass%未満に限定した。より好適には、1.00mass%未満である。
(4)P<0.060mass%
Pは、成形性及び靱性を低下させる元素であり,できるだけ低減するのが望ましいが,製鋼工程での脱Pコストの観点から,0.060mass%未満に限定した。より好適には、0.030mass%未満である。
(5)S<0.008mass%
Sは、耐食性を低下させる元素であるであり,できるだけ低減するのが望ましいが,製鋼工程での脱Sコストの観点から,0.008mass%未満に限定した。より好適には、0.005mass%未満である。
(6)Cr:12.0以上20.0未満mass%
Crは、耐食性及び耐酸化性を向上させる元素であり,このような向上効果は、12.0mass%以上の添加で認められる。ただし,過剰に添加されると、靱性を低下させるので,20mass%未満に限定した。より好適には、13.0mass%以上16.0mass%未満である。
(7)Ni<1.00mass%
Niは、靱性を向上させる元素であるが,過剰な添加は原料コストの増大を招くので、1.00mass%未満に限定した。より好適には、0.01mass%以上0.80mass%未満である。
(8)Nb:10×(C+N)以上0.80未満mass%
Nbは、C,Nを固定することにより成形性及び耐食性等を向上させ,また鋼に固溶することにより高温強度を高める効果を有する。このような向上効果は、10×(C+N)以上の含有で認められる。しかしながら,過剰な添加は、靱性の低下を招くため、0.80mass%未満に限定した。より好適には、0.20mass〜0.70mass%である。
(9)N<0.020mass%
Nは、鋼の靱性及び成形性を低下させる元素であり,0.020mass%以上含むと靱性および成形性の低下が顕著となる。このため,0.020mass%未満に限定した。より好適には、0.010mass%未満である。
(10)B:0.0005以上0.0100未満mass%
Bは、本発明において重要な元素である。Bは、加工性,特に2次加工性を向上させる元素として知られているが、本発明において定義した粒界上析出物占有率を低減する効果を持つ。このような効果は、0.0005mass%以上で顕著となるが,0.0100mass%以上添加するとBNが析出し,加工性が低下するため,0.100mass%未満に限定する。より好適には、0.0005mass%以上0.0050mass%未満である。
(11)Mo<3.00mass%、W<5.00mass%
Moは、鋼に固溶することにより、高温強度および耐食性を高める効果を有する。このような向上効果は、0.80mass%以上の添加で認められる。しかしながら,3.00mass%以上含むと、成形性が低下し,原料コストの増大も招くため,3.00mass%未満に限定した。より好適には、1.00mass%以上2.50mass%未満である。Wも、Mo同様の効果を有するが、好適範囲が異なる。5mass%以上添加で成形性が低下する。好適範囲は1.00mass%以上3.00mass%未満である。
(12)Ti<0.5mass%、Zr<0.5mass%
Ti、Zrは、成形性を向上させる元素である。このような向上効果は0.02mass%以上で顕著となるが,0.5mass%以上添加すると、粗大なTi(C,N)が析出し,表面性状を劣化させるため,0.5mass%未満に限定する。より好適には、0.02mass%以上0.40mass%未満である。
(13)Co<3mass%、Cu<2.00mass%、V<0.5mass%
Coは、高温強度を向上させる元素であり,必要に応じて含むことができる。このような向上効果は、0.50mass%以上の添加で顕著となるが,3mass%以上添加すると鋼が脆化するため、3mass%未満に限定する。より好適には,0.80mass%以上2.00mass%未満である。
Cuは、成形性及び耐食性を向上させる元素である。このような効果は、0.05mass%以上の添加で顕著となるが,2.00mass%以上添加すると、ε―Cu相が多量に析出し、脆化が顕著になるため,2.00mass%未満に限定する。より好適には、0.05mass%以上1.5mass%未満である。
Vは、成形性を向上させる元素である。このような効果は、0.05mass%以上で顕著となるが,0.5mass%以上添加すると,粗大なV(C,N)が析出し,表面性状を劣化させるため,0.5mass%未満に限定する。より好適には、0.05mass%以上0.4mass%未満である。
引き続き、上記した本発明に係るCr含有鋼管の製造方法について説明する
本発明に係る鋼管の製造方法は,含有成分を上述の範囲に限定し、冷延板仕上げ焼鈍後の冷却速度を制御し点以外に関しては、特に限定されるものではなく,通常の電縫鋼管の製造プロセスとして公知の方法がすべて適用できる(以下、各製造プロセスで使用する装置については、公知につき図示しない)。
例えば、製鋼工程は、転炉、電気炉等で上記した適正組成範囲に調整した溶鋼を溶製し、強撹拌・真空酸素脱炭処理(SS−VOD法という)により2次精錬を行って、溶鋼を溶製するのが好適である。鋳造工程は、生産性、品質の面から連続鋳造が好ましい。鋳造により得られた鋼鋳片(スラブ等)の圧延工程は、必要により再加熱し、熱間圧延し、800〜1100℃で熱延鋼板を焼鈍した後、酸洗するのが良い。場合によっては、熱延鋼板の焼鈍は省略しても良い。酸洗された熱延鋼板は、冷間圧延して冷延鋼板とする。その際、仕上げ焼鈍及び酸洗の各工程を順次経て、冷延焼鈍板とするのが好適である。また、冷間圧延は、1回又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延としても良い。冷間圧延、仕上げ焼鈍、酸洗の各工程は、繰り返し行っても良い。ただし、中間焼鈍後の冷却速度に関して特に限定しないが、最後の仕上げ焼鈍後の冷却が、本発明の重要な点である。
つまり、仕上げ焼鈍後に冷延鋼板を30℃/s以上の冷却速度で500℃まで冷却のが、本発明での必須事項である。これによって、パイプ焼鈍前の組織(粒径、析出物など)が制御され、その後の造管工程で冷却速度の小さいパイプ焼鈍を施しても、Cr含有鋼管の粒界上析出物占有率が小さくなって鋼管の靱性を良好に保つことが可能となるからである。なお、仕上げ焼鈍時の冷延鋼板の冷却速度の上限としては、特に限定せず、大きいほど好ましい。また、造管工程で冷却速度の小さいパイプ焼鈍とは、前記冷延鋼板でCr含有電縫鋼管を製造してから、800〜1100℃でそのCr含有鋼管の焼鈍を施し、その
焼鈍後の冷却速度を、1〜13℃/sで冷却するものである。冷却速度を1〜13℃/sとしたのは、1℃/s未満では、小さ過ぎて粒界上析出物占有率を十分低減できず、靭性を確保できないし、13℃/s超えでは、冷却速度を低く抑えられる本発明の有利な点が損なわれるからである。Cuを0.8〜2.0%未満含有する場合、冷延鋼板の仕上げ焼鈍時及びパイプ焼鈍時の700〜500℃までの合計冷却時間を20秒以内とすることで、焼鈍後の鋼管の靭性をより優れたものにすることが可能となる。すなわち、950〜700℃の範囲で冷却速度を遅くしても、700℃以下の冷却速度を速めることにより優れた靭性を確保することが可能となる。700℃以下で保持される時間は小さいほど好ましい。
最終的にCr含有鋼管とする工程は、前述の各工程を経た冷延鋼板を、円筒状に成形し、突き合わされた鋼板の幅方向両端を互いに溶接することにより,鋼管とする。その溶接方法は、特に限定されるものではなく,TIG溶接,抵抗溶接,レーザー溶接等,通常公知の方法がすべて適用できる。また、冷延鋼管の成形方法は、該鋼管をスパイラル状に巻いて円筒状としても良い。なお、パイプ焼鈍後の冷却方法については特に限定されるものではなく,自然冷却、高速での通管,回転,空気の吹き付け,水の吹き付けあるいは水靱といった方法を単独,あるいは組み合わせても良い。
表1に示す成分組成を有する種々のCr含有鋼片(重量:100kg)をアルゴン雰囲気で溶製した。得られた鋼鋳片を1000〜1200℃に加熱後、熱間圧延により板厚5mmの熱延板とし、800〜1100℃の焼鈍及び酸洗処理を施した。次いで、冷問圧延により、板厚1.5〜2.5mmの冷延鋼板とし、800℃〜1100℃の仕上げ焼鈍を行った。この仕上げ焼鈍では、焼鈍後の冷却速度を20〜340℃/s(500℃まで)とした。焼鈍後に得た冷延鋼板を電縫鋼管の製造装置で外径38mmの管体に成形、突き合わせた両端を溶接して電縫鋼管となし、800〜1100℃で造管工程における所謂「パイプ焼鈍」を施した。パイプ焼鈍後の冷却速度は、1〜13℃/s(500℃まで)とした。
Figure 0005348458
このようにして得られたCr含有鋼管について、300℃程度に加熱した後,プレスにより平らにし、試験用のサンプルを鋼管の長手方向に平行に溶接部以外から採取し、以下に記載の評価方法に基づき、試験用サンプルで、その靭性、高温強度及び耐酸化性を以下に示す方法で調査し、評価した。
(1)靭性:JISZ2242の規定に準拠して、−80〜+80℃の範囲でシャルピー試験を実施した。シャルピー試験のノッチは、鋼管の円周方向となるようにした。試験片の破面を観察し、延性脆性遷移温度が−30℃未満になるものを特に優れる(◎)、−40℃以上0℃未満になるものを良好(○)、0℃以上になるものを不良(×)とした。なお、表1で下線を施した数値は、本発明の要件から外れるものである。
(2)高温強度:JISZ2201に規定された13号B試験片を各2本づつ採取(鋼管の軸方向を引っ張り方向とした)し、JIS G 0567の規定に準拠して、試験温度900℃、歪速度0.3%/minの条件で高温引張り試験を実施した。900℃における0.2%耐力を測定し、2本の平均値を求め、その値が16MPa以上を良好(○)、16MPa未満を不良(×)と判断した。
(3)耐酸化牲:20mm×30mmの試験片を採取し、大気中950℃の炉内に400h曝した。その後異常酸化していないものを良好(○)、異常酸化したものを不良(×)とした。
調査結果を表2及び表3に示す。表2より、適正成分とし、冷延板仕上げ焼鈍後の冷却速度を50℃/s以上とすることで粒界上析出物占有率を50%以下に制御した本発明例では、パイプ焼鈍後冷却速度が小さくても良好な靭性とすることが可能であることが確認できる。また、表3より、Cuを0.8〜2.0mass%含有していても、冷延鋼板の仕上げ焼鈍時及びパイプ焼鈍時の700℃から500℃までの合計冷却時間を20秒以内とすれば、粒界上析出物占有率は低下し、より優れた靭性を有する焼鈍後鋼管の得られることが明らかである。
Figure 0005348458
Figure 0005348458
粒界上析出物占有率と靭性(延性脆性遷移温度)との関係を示す図である。 粒界上析出物のSEMによる観察例を示す図である。
符号の説明
1 結晶粒
2 結晶粒界
3 析出物

Claims (10)

  1. 素材である冷延鋼板が、mass%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0以上20.0未満%、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)以上0.80未満%、N<0.020%、B:0.0005以上0.0100未満%を含み、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有するCr含有鋼管の非接合部を切断して得た複数の試料の表面に出現する結晶粒及び析出物を電子顕微鏡で観察して該結晶粒の粒界長さ及び析出物の長さをそれぞれ測定し、それら測定値に基づき下記式で算出される粒界上析出物占有率の平均値が1〜50%であることを特徴とするCr含有鋼管。
    粒界上析出物占有率(%)=(粒界に沿った析出物の長さの合計値/結晶粒界の長さ)×100
  2. 前記Cr含有鋼管の素材である冷延鋼板の仕上げ焼鈍時の950℃から500℃までの平均冷却速度を30℃/秒以上としてなることを特徴とする請求項1に記載のCr含有鋼管。
  3. さらに、Mo<3.00%、W<5.00%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項2記載のCr含有鋼管。
  4. さらに、Ti<0.5%、Zr<0.5%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項2又は3記載のCr含有鋼管。
  5. さらに、Co<3%、Cu<2.00%及びV<0.5%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のCr含有鋼管。
  6. mass%で、C<0.020%、Si≦0.25%、Mn<2.00%、P<0.060%、S<0.008%、Cr:12.0以上20.0未満%、Ni<1.00%、Nb:10×(C+N)以上0.80未満%、N<0.020%、B:0.0005以上0.0100未満%を含み、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有するCr含有鋼管の非接合部を切断して得た複数の試料の表面に出現する結晶粒及び析出物を電子顕微鏡で観察して該結晶粒の粒界長さ及び析出物の長さをそれぞれ測定し、それら測定値に基づき下記式で算出される粒界上析出物占有率の平均値が1〜50%となるように、
    前記組成の鋼鋳片に、熱間圧延及び冷間圧延を順次施し、冷延鋼板としてから仕上げ焼鈍を行い、該焼鈍時の950℃から500℃までの平均冷却速度を30℃/秒以上として冷却し、その後焼鈍を含む造管工程で造管すると共に、該造管工程での焼鈍後に、該Cr含有鋼管を1〜13℃/sの速度で冷却することを特徴とするCr含有鋼管の製造方法。
    粒界上析出物占有率(%)=(粒界に沿った析出物の長さの合計値/結晶粒界の長さ)×100
  7. さらに、Mo<3.00%、W<5.00%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項6記載のCr含有鋼管の製造方法。
  8. さらに、Ti<0.5%、Zr<0.5%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項6又は7記載のCr含有鋼管の製造方法。
  9. さらに、Co<3%、Cu<2.00%及びV<0.5%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のCr含有鋼管の製造方法。
  10. さらに、Cuを0.8〜2.0%未満含有する冷延鋼板の仕上げ焼鈍時及びパイプ焼鈍時の700〜500℃までの冷却時間の合計が20秒以内とすることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のCr含有鋼管の製造方法。
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