JP2004010967A - 二次加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼管 - Google Patents

二次加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼管 Download PDF

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Hiroki Tomimura
冨村 宏紀
Yasutoshi Hideshima
秀嶋 保利
Naoto Hiramatsu
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Abstract

【目的】合金成分及び素材成形性を規制することにより、二次加工割れが確実に防止されるフェライト系ステンレス鋼管を提供する。
【構成】このフェライト系ステンレス鋼管は、C:0.015質量%以下,Si:0.5質量%以下,Cr:11.0〜25.0質量%,N:0.020質量%以下,Ti:0.05〜0.50質量%,Nb:0.10〜0.50質量%,必要に応じMo:3.0質量%以下,残部が実質的にFeの組成をもち、最小ランクフォード値rminが≧1.2以上のステンレス鋼板から造管されている。
【選択図】    なし

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、製品形状に加工した際に割れ等の加工欠陥が発生しない二次加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比較して熱膨張係数が小さいことを活用し、加熱・冷却が繰り返される用途に使用されている。高価なNiを含まない安価な鋼材であることから、自動車排ガス経路部材,各種プラントの構造材等、種々の分野でも使用され始めている。フェライト系ステンレス鋼の普及に伴い、フェライト系ステンレス鋼管の需要も伸びている。
ステンレス鋼管の製造では、製造コストの高いシームレスパイプを除き、鋼板又は鋼帯をオープンパイプに成形した後で幅方向端部を溶接する造管法が一般的である。溶接法には、TIG溶接,高周波溶接,レーザ溶接等がある。何れの溶接法で製造されたステンレス鋼管も造管時に塑性歪みが加わるため、素材・ステンレス鋼板に比較して鋼管全体の延性が若干低下している。また、溶接金属や溶接熱影響部は母材部よりも結晶粒が大きな組織になっており、鋼管全体としての加工性,低温靭性等も低下している。
【0003】
フェライト系ステンレス鋼管は用途に応じて受ける加工度が異なるが、自動車排ガス経路部材にあっては過酷な加工度でステンレス鋼管を製品形状に加工するため、優れた加工性,低温靭性が素材・ステンレス鋼板に要求される。ところが、自動車排ガス経路部材のように高温雰囲気に曝される部材には、高温強度や耐酸化性の改善に有効なNb,Ti,Si,Mo等の強化元素を添加したステンレス鋼板が従来から素材として一部で使用されている。しかし、素材・ステンレス鋼板の加工性や低温靭性は、Nb,Ti,Si,Mo等の添加により却って低下しやすい。
【0004】
ステンレス鋼管の加工性を改善するため、造管時に生じる塑性歪みを極力少なくなる造管法が提案されている。しかし、造管法の改良だけでは、素材・ステンレス鋼板に匹敵する良好な加工性が必ずしも得られない。ステンレス鋼管の加工性は、材料の軟化を狙った造管後の焼鈍によって更に改善される。具体的には、600〜800℃の温度域で焼鈍することにより、フェライト系ステンレス鋼管が軟化される。軟化焼鈍されたフェライト系ステンレス鋼管は、造管ままのステンレス鋼管に比較して加工性が改善されているので、自動車の排ガス経路部材等に多用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
自動車排ガス経路部材は、省スペースや排気効率向上のため構造が一層複雑化する傾向にある。構造の複雑化に伴い自動車排ガス経路部材に組み込まれる鋼管の形状も複雑になるため、過酷な加工条件下でステンレス鋼管を製品形状に加工することが余儀なくされる。具体的には、扁平化,縮管,拡管等の二次加工がステンレス鋼管に施される頻度が高くなる。二次加工は被加工材の延性破断限界に近い条件下での加工であり、一次加工に比較して加工割れが極めて発生しやすい。
【0006】
二次加工に先立って造管後のステンレス鋼管を600〜800℃で軟化焼鈍しても、二次加工されたステンレス鋼管に発生する割れを完全には防止できない。二次加工割れは、延性破断限界を超えた加工が施されたときに発生する割れであり、完全に防止する手段はこれまでのところ提案されておらず、耐二次加工割れ性に適した鋼管の金属組織,成分系,素材の加工特性等は依然として不明のままである。しかも、二次加工割れの発生率予測が困難な現状では、操業中に突如として二次加工割れが多発し始める事態も生じる。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、二次加工割れの発生メカニズムを金属組織,成分系及び素材の加工特性から調査・検討する過程で得られた知見をベースに完成されたものであり、合金設計に加え素材段階の成形性を規制することにより、過酷な条件下で二次加工しても割れの発生がなく良好な製品形状に加工できるフェライト系ステンレス鋼管を提供することを目的とする。
【0008】
本発明のフェライト系ステンレス鋼管は、その目的を達成するため、C:0.015質量%以下,Si:0.5質量%以下,Cr:11.0〜25.0質量%,N:0.020質量%以下,Ti:0.05〜0.50質量%,Nb:0.10〜0.50質量%,必要に応じMo:3.0質量%以下,残部が実質的にFeの組成をもち、最小ランクフォード値rminが≧1.2以上のステンレス鋼板から造管されていることを特徴とする。
更にNi:2.0質量%以下,Cu:2.0質量%以下,Al:4.0質量%以下,B:0.0100質量%以下の1種又は2種以上を含むステンレス鋼も、使用可能である。
【0009】
【作用】
二次加工されたフェライト系ステンレス鋼管に生じる加工割れの発生状況を調査・検討した結果、低い温度環境下で二次加工割れが発生しやすく、割れの形態が脆性的な劈開破壊又は粒界破壊であることを見出した。この種の割れは、一次加工ではほとんど生じない。また、フェライト結晶粒を微細化するとき、二次加工脆化、ひいては二次加工割れが生じがたくなることを解明した。本発明は、これらの知見をベースにしている。
【0010】
フェライト系ステンレス鋼は、普通鋼に比較してCr含有量が高いため硬質化しており、伸びも低い。硬質で低い伸びのため、素材の延性に由来する張出し要素による加工性の向上を期待できない。そこで、板厚収縮又は板幅方向に沿った材料流入の指標としてランクフォード値(r値)に着目し、ステンレス鋼管への成形に及び造管されたステンレス鋼管の加工に耐え得るフェライト系ステンレス鋼を調査した。ランクフォード値(r値)の中でも、圧延方向(L方向),圧延方向に対して45度の方向(D方向),圧延方向に直交する方向(T方向)の最小ランクフォード値rminが二次加工脆化に大きな影響を及ぼす。
【0011】
最小ランクフォード値rminと二次加工脆化との関係を更に調査・検討した結果、最小ランクフォード値rmin≧1.2のフェライト系ステンレス鋼を使用すると、絞り成形や二次加工時に割れ等の欠陥発生がなく、ステンレス鋼管を良好な製品形状に加工できることが判った。
最小ランクフォード値rminは、L,T,Dの各方向における[111]面の方位優先度を表す指標であり、rmin≧1.2は再結晶フェライトの[111]面が各方向で優先的に生成していることを示す。このような結晶方位は、熱延板の析出処理及び中間焼鈍に際し再結晶完了直上の温度で焼鈍して微細なフェライト粒を形成することにより作り込まれる。
【0012】
次いで、本発明が対象とするフェライト系ステンレス鋼の合金成分,含有量等を説明する。
C:0.015質量%以下
最終焼鈍段階で再結晶フェライトがランダム成長する際の再結晶核として有効な炭化物となり、二次加工割れを抑制する作用を呈する。このような作用は、0.004質量%以上のC含有で顕著になる。しかし、冷延焼鈍された鋼板の強度を上げる成分であり、過剰量のCは延性を低下させるので、C含有量の上限を0.015質量%以下に設定した。
【0013】
Si:0.5質量%以下
製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であるが、固溶強化能が高い。そのため、Siによる硬質化,延性低下が発現しないように、Si含有量の条件を0.5質量%以下に設定した。
Cr:11.0〜25.0質量%
耐食性の向上に有効な合金成分であり、ステンレス鋼に要求される耐食性を確保する上で少なくとも11.0質量%のCrが必要である。しかし、Cr含有量の増加に伴い靭性や加工性が低下するので、上限を25.0質量%に設定した。
【0014】
N:0.020質量%以下
最終焼鈍段階で再結晶フェライトがランダム成長する際の再結晶核として有効な窒化物となり、二次加工割れを抑制する作用を呈する。このような作用は、0.005質量%以上のN含有で顕著になる。しかし、冷延焼鈍材の強度を上げる成分であり、過剰量のN含有は延性の低下を招く。したがって、N含有量の上限を0.020質量%に設定した。
Ti:0.05〜0.50質量%
C,Nを固定し加工性,耐食性を向上させる合金成分であり、0.05質量%以上でTi添加の効果がみられる。しかし、過剰量のTi添加は鋼材コストの上昇は勿論、Ti系介在物起因の表面欠陥を発生させやすくするので、0.50質量%にTi含有量の上限を設定した。
【0015】
Nb:0.10〜0.50質量%
C,Nの固定,フェライト結晶粒の微細化,耐衝撃特性や二次加工性の向上に有効な合金成分であり、0.10質量%以上の添加量でNbの効果がみられる。しかし、0.50質量%を超える過剰量のNbを添加すると、鋼材が硬質化して加工性が低下し、再結晶温度も高くなる。
Mo:3.0質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、耐食性を改善する作用を呈する。しかし、過剰量のMoを添加すると高温での固溶強化や動的再結晶の遅滞が生じて熱間加工性が低下するので、添加する場合にはMo含有量を3.0質量%以下に抑える。
【0016】
Ni:2.0質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、オーステナイト形成元素として働く。Niの過剰添加は鋼材の硬質化やコスト上昇の原因となるので、添加する場合にはNi含有量を2.0質量%以下に抑える。
Cu:2.0質量%以下
溶製段階でスクラップ等の溶解減量から混入してくる不純物であり、過剰量のCuが含まれると熱間加工性,耐食性が劣化するので、Cu含有量の上限を2.0質量%に設定することが好ましい。
【0017】
Al:4.0質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、製鋼段階で脱酸剤として添加され、耐酸化性を向上させる作用を呈する。しかし、Alを過剰添加すると表面欠陥が発生しやすくなるので、添加する場合にはAl含有量の上限を4.0質量%に設定する。
B:0.0100質量%以下
必要に応じて添加される合金成分であり、Nを固定し、耐食性,加工性を改善する作用を呈する。このような効果は、0.0005質量%以上のB添加でみられる。しかし、Bの過剰添加は熱間加工性,溶接性を低下させる原因となるので、添加する場合には0.0100質量%以下の範囲でB含有量を選定する。
【0018】
フェライト系ステンレス鋼は、更に以下に掲げる合金成分を含み、また不純物元素を規制しても良い。
Mn:2.0質量%以下
オーステナイト形成元素であり、固溶強化能が小さく材質への悪影響も少ない。しかし、過剰量のMn含有は溶製時にMnヒュームを発生させ、製造性低下の原因になるので、上限を2.0質量%に規制することが好ましい。
P:0.050質量%以下
熱間加工性に有害な成分であり、Pを0.050質量%以下に規制することにより悪影響を抑制することが好ましい。
【0019】
S:0.020質量%以下
結晶粒界に偏析しやすく、粒界脆化によって熱間加工性を低下させる作用を呈する。S起因の悪影響を抑制するため、S含有量の上限を0.020質量%に規制することが好ましい。
V,Zr:0.01〜0.30質量%
共に固溶Cを炭化物として析出させて加工性を改善する合金成分であり、Zrは鋼中のOを酸化物として捕捉することにより加工性,靭性向上の面からも有効な成分である。しかし、過剰添加すると製造性が低下するので、共に0.01〜0.30質量%の範囲で含有量を選定することが好ましい。
【0020】
Ca,Mg,Co,REM:
何れもスクラップ等の溶解原料から混入してくる成分であるが、過剰含有を除き成形品の二次加工性に大きな影響を及ぼさない。
以上に特定した組成をもつ素材・ステンレス鋼板に、造管前又は造管後にカチオン電着塗装,Zn又はZn合金めっき,Al又はAl合金めっき,Znリッチペイント塗布等を施しても良い。
【0021】
【実施例】
表1に示す組成をもつフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延,焼鈍,冷間圧延を経て板厚1.2mmの冷延板とした。次いで、1050℃で1分間焼鈍した後、酸洗することにより造管用の鋼帯を得た。各鋼帯をレーザ溶接で外径35mmの鋼管に造管した後、種々の温度で1分間焼鈍した。
【0022】
Figure 2004010967
【0023】
製造された各鋼管を長さ500mmの加工試験用鋼管に切断し、低温曲げ扁平試験で二次加工性を調査した。低温曲げ扁平試験では、中心軸の直径35mmで加工試験用鋼管を90度曲げした後(一次加工)、JIS−G0202−No.2021に準拠して各試験温度で直径の1/3まで扁平化した(二次加工)。
扁平化された加工試験用鋼管を観察して割れの有無を調査し、割れが発生しない最低温度(以下、”割れ限界温度”という)で二次加工を評価した。調査結果を、造管前の素材・ステンレス鋼板の引張試験片から求めた最小ランクフォード値rminと併せて表2に示す。
【0024】
本発明に従った鋼種No.1〜6のフェライト系ステンレス鋼管は、二次加工の試験温度が−50℃に至っても割れの発生なく扁平化できた。他方、過剰量のCを含む鋼種番号7では、一次加工の段階から加工割れが発生した。Nbが不足する試験番号8では、二次加工試験で加工割れが発生した。Tiが不足する試験番号9では、加工性の指標である最小ランクフォード値rminが1.2を下回り二次加工が劣っていた。
この対比から、成分を特定すると共に最小ランクフォード値rminを1.2以上に規制することにより、過酷な条件下で扁平化しても二次加工割れの発生がなく、良好な製品形状に二次加工できることが確認された。
【0025】
Figure 2004010967
【0026】
【発明の効果】
以上に説明したように、合金成分及び素材成形性からフェライト系ステンレス鋼管を規制することにより、従来不明確であったフェライト系ステンレス溶接鋼管の二次加工割れが確実に防止される。そのため、フェライト系ステンレス鋼から複雑形状の鋼管を高い歩留で製造でき、フェライト系ステンレス鋼本来の耐食性,低熱膨張特性を活用して自動車排ガス経路部材,自動車・二輪車等の給油管,屋内・屋外配管等の用途に適した材料が提供される。

Claims (3)

  1. C:0.015質量%以下,Si:0.5質量%以下,Cr:11.0〜25.0質量%,N:0.020質量%以下,Ti:0.05〜0.50質量%,Nb:0.10〜0.50質量%,残部が実質的にFeの組成をもち、最小ランクフォード値rminが≧1.2以上のステンレス鋼板から造管されていることを特徴とする二次加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼管。
  2. 更にMo:3.0質量%以下を含む請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼管。
  3. 更にNi:2.0質量%以下,Cu:2.0質量%以下,Al:4.0質量%以下,B:0.0100質量%以下の1種又は2種以上を含む請求項1又は2記載のフェライト系ステンレス鋼管。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2006176824A (ja) * 2004-12-22 2006-07-06 Nippon Steel & Sumikin Stainless Steel Corp 拡管加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接管
JP2006274419A (ja) * 2005-03-30 2006-10-12 Nisshin Steel Co Ltd 高拡管用ステンレス鋼管及びその製造方法
JP2009142827A (ja) * 2007-12-11 2009-07-02 Nippon Steel & Sumikin Stainless Steel Corp 拡管加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼溶接管及びその製造方法

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