JP5392451B2 - 抗腫瘍剤及び免疫賦活剤 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、スフィンゴ糖脂質誘導体を有効成分として含む副作用の少ない医薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、我が国の死亡原因の第一位を占める生活習慣病の一つであり、平成17年現在では約3人に1人が当該疾患によって命を失っている。がん治療法を確立し、がんを克服することは今や我が国の健康対策における最重要課題となっている。
【0003】
がん治療法の一つである化学療法には抗腫瘍剤(抗がん剤、制がん剤)を体内に投与し、腫瘍細胞を破壊する方法がある。現在、多数の抗腫瘍剤が開発されており、臨床医薬として使用され一定の効果が見られている。
【0004】
抗腫瘍剤の有効成分として、近年セラミド(N−アシルスフィンゴシン)やその関連物質が注目されている。「セラミド」は生体内に存在する脂質の一種で、スフィンゴシンと脂肪酸とが酸アミド結合をした構造を有する物質である。また、「セラミド関連物質」とは当該セラミドを基本骨格とするスフィンゴ脂質であって、セラミドに糖が結合したスフィンゴ糖脂質とリン酸と塩基が結合したスフィンゴリン脂質が知られている。最近の研究からセラミドやセラミド関連物質は、生体内に導入することで腫瘍細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導させるセカンドメッセンジャーとして機能することが明らかになってきている。
【0005】
そのような背景から現在までに様々なセラミド関連物質の同定が行われ、それらを医薬用組成物として用いる技術が多数報告されている。例えば、特許文献1は海面動物等から得られた新規スフィンゴ糖脂質を含有する抗腫瘍剤、若しくは免疫賦活剤の製造法とその使用の発明である。また、特許文献2は腫瘍細胞や病原体感染細胞の免疫原性を増強するα−グリコシルセラミド構造を有する化合物等の発明である。
【0006】
このようにセラミド関連物質は抗腫瘍剤や免疫賦活剤としてその有効性が期待されているが、一方で既知のセラミド関連物質のほとんどが正常細胞に対しても毒性(細胞傷害活性)を示すという副作用の問題を有していた(非特許文献1)。このような副作用は現在使用されている他の多くの抗腫瘍剤にも共通する不可避的な問題である。したがって、標的である腫瘍細胞の増殖を的確に抑制しながらも正常細胞に対しては少しでも副作用の少ない抗腫瘍剤が望まれていた。
【0007】
さらに、セラミドやセラミド関連物質を抗腫瘍剤として使用する場合には原料の安全性という別の問題もあった。セラミド関連物質は動植物の組織に広く存在するが、特に動物の脳や脊髄等の神経組織に比較的多く見られる。そのため従来のセラミド関連物質は牛等の家畜の脳から抽出されてきた。しかし、BSE(牛海綿状脳症)のヒトへの感染が国際問題化したことに伴い、牛の脳から得たセラミド関連物質に対する安全性が問題となってきた。さらに、動物愛護の観点からも牛の脳等に代わる人体に安全なセラミド関連物質の新たな天然原料、若しくは代替品が求められていた。
【0008】
上記原料に関する問題の解決策の一つとしてセラミド関連物質の化学合成がある。セラミド関連物質の多くはその分子構造が解明されており、それに基づいた合成方法も開発されている。したがって、近年では人工的に化学合成されたセラミド関連物質が天然物の代替品として使用され始めている。確かに化学合成されたセラミド関連物質であれば、BSEや動物愛護の問題は解決できる。しかし、そのような化学合成されたセラミド関連物質は、化学合成の際に使用された人体に有害な薬剤の残存、あるいは合成過程で発生する有害な副産物の混入等の新たな問題が発生し、人体に対する安全面で十分とは言い難かった。
【0009】
そこで、現在では人体に対して安全性の高いセラミド関連物質の原料として植物が注目されている。植物由来のセラミド関連物質を利用した発明としては保湿剤や皮膚炎治療剤等の有効成分として利用したものが既に知られている。例えば、特許文献3は、こんにゃくトビ粉等の植物から有機溶剤によって抽出された植物由来のスフィンゴ糖脂質を有効成分としたアトピー性皮膚炎治療剤の発明である。このような食用植物を原料として得られたセラミド関連物質であれば、BSEや動物愛護の問題、さらには合成過程で発生する有害な副産物の混入等の問題は解決できる。しかし、一般に植物細胞はグリセロ糖脂質を多量に含有しており、スフィンゴ糖脂質をはじめとするセラミド関連物質の存在量は動物に比べると僅かしかない。したがって、十分量のセラミド関連物質を得るには大量の原料が必要となり、製造コストの面で割高になるという新たな問題を生じていた。
【特許文献1】特許第3068910号
【特許文献2】国際公開番号 W099/15627
【特許文献3】特開2003−231640
【特許文献4】特願2005−272639
【特許文献5】特開平11−193238
【特許文献6】特願2004−135053
【非特許文献1】Osman T,Kawamura T,Naito T,Takeda K,Kaer, LV,Okumura K,Abo T(2000)Eur J Immunol,30,1919−1928.
【非特許文献2】Fujii H,Seki S,Kobayashi S,Kitada T,Kawakita N,Adachi K,et al.(2005)Virchows Arch,446,663−673.
【非特許文献3】Kobayashi E,Motoki K,Uchida T,Fukushima H,Koezuka Y(1995)Oncol Res,7,529−534.
【非特許文献4】Kronenberg M(2005)Annu Rev Immunol,26,877−900.
【非特許文献5】Taniguchi M,Harada M,Kojo S,Nakayama T,Wakao H(2003)Annu Rev Immunol,21,483−513.
【非特許文献6】Osman Y,Kawamura T,Naito T,Takeda K,Kaer LV, Okumura K,Abo T(2001)Eur J Immunol,31,1720−1727.
【非特許文献7】Watanabe H,Miyaji C,Seki S,Abo T(1996)J Exp Med,184,687−693.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、人体に対して安全性が高く、かつ低コストの原料を用いて、副作用の少ないセラミド関連物質を有効成分として含有する抗腫瘍剤、又は免疫賦活剤としての医薬用組成物を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る課題を解決するために本発明者らは、まず人体に対して安全性が高い原料として植物由来のセラミド関連物質を利用する事にした。当該原料コストに関する問題は、特許文献4を参考にしてビール粕からセラミド関連物質(スフィンゴ糖脂質誘導体)を得ることで解決した。
【0012】
特許文献4は目的の植物性セラミド関連物質を効率よく、かつ低コストで抽出するためにビール粕を十分に乾燥させる方法を提供している。これにより、抽出用の極性溶媒をビール粕へ効率よく浸透させ、さらにビール粕の含有する水分が極性溶媒中へ混入することを抑えることができる。また、特許文献4は得られた抽出液を再度抽出用の極性溶媒として用いるサイクルを繰り返す方法を提供している。これにより、抽出に必要な極性溶媒量を従来の約1/10にまで抑えることができる。ビール粕からセラミド関連物質を得る公知技術としては、他にも特許文献5や特許文献6が知られているが、製造コストを軽減する点においては特許文献4の方法を参考にすることが好ましいと考えられた。
【0013】
本発明者らは上記ビール粕より得られたスフィンゴ糖脂質誘導体を用いて鋭意研究を重ねた結果、当該スフィンゴ糖脂質誘導体が特定の腫瘍細胞に対してのみ強い細胞傷害活性を示し、正常細胞に対してはほとんど不活性であるという事実を見出した。これまでに知られるセラミド関連物質はα−ガラクトシルセラミド(以下、αGalCerとする。)のように全腫瘍細胞標的型で、かつ正常細胞に対しても強い細胞傷害活性を示すものがほとんどであった(非特許文献2)。本発明のような細胞選択的な細胞傷害活性を示すスフィンゴ糖脂質は、本発明者らが知る限りこれまでに報告はない。
【0014】
さらに、本発明者らは上記ビール粕より得られたスフィンゴ糖脂質誘導体が高濃度投与下でも肝傷害の誘導を伴わずにNatural Killer T細胞(以下、NKT細胞とする。)を活性化する免疫賦活作用を有する事実を見出した。これまでにもαGalCerが同様の免疫賦活作用やアポトーシス誘導作用を有することは報告されていた(非特許文献3)が、αGalCerの投与では、その強い細胞傷害活性から肝傷害等の副作用が大きな問題となっていた。したがって、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は当該副作用が少ない免疫賦活剤として、より有効であると考えられる。
【0015】
本発明は係る発見に基づいて完成されるに至ったものであり、以下(A)から(K)を提供するものである。
【0016】
(A)本発明は、下記の式(3)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体の一以上を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を提供する。
【化1】
ここで、R3はH又はOHを表し、R4は下記(a)又は(b)で定義される。
(a)R3がHの場合、R4は(CH2)13CH3、又は(CH2)6CH=CHCH2CH=CH(CH2)4CH3である。
(b)R3がOHの場合、R4は(CH2)YCH3(ここで、Yは13〜21の整数である。)、又は(CH2)Z1CH=CH(CH2)Z2CH3(ここで、Z1、及びZ2は0又は自然数であって、Z1+Z2=19である。)である。
【0017】
(B)本発明は、前記(b)が以下で定義される医薬用組成物を提供する。
(b)R3がOHの場合、R4は(CH2)YCH3(ここで、Yは13〜21の整数である。)、又は(CH2)12CH=CH(CH2)7CH3である。
【0018】
(C)本発明は、前記(a)及び(b)で定義されることを特徴とする炭素数の異なる数種のスフィンゴ糖脂質誘導体混合物を有効成分として含有することを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0019】
(D)本発明は、前記スフィンゴ糖脂質誘導体が天然のスフィンゴ糖脂質誘導体であることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0020】
(E)本発明は、前記スフィンゴ糖脂質誘導体がビール等の製造工程で得られるビール粕より抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体であることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0021】
(F)本発明は、前記スフィンゴ糖脂質誘導体は、麦芽を熱風で乾燥させて乾燥麦芽を得る乾燥麦芽製造工程と、前記乾燥麦芽を粉砕し副原料を混入させ酵素によりデンプン糖化処理を行う糖化工程と、前記糖化工程で得られた糖化液をろ過するろ過工程と、前記ろ過工程で得られたろ液を乾燥させて得られたビール糟を極性溶媒に浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程の極性溶媒からビール糟を除去して抽出液を得る抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出液を濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程で得られた脂質成分粗精製物をアルカリ溶液によって加水分解する加水分解工程と、前記加水分解後、疎水性溶媒と親水性溶媒の混合物を加えて層分離させて分解産物を除去する分解産物除去工程と、から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体であることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0022】
(G)本発明は、前記抽出工程で得られる抽出液を、前記浸漬工程で用いる極性溶媒として再度用いることを所定回数繰り返すサイクル工程をさらに有することを特徴とする医薬組成物を提供する。
【0023】
(H)本発明は、前記医薬用組成物が抗腫瘍剤として用いるための医薬用組成物であることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0024】
(I)本発明は、下記の式(1)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体の一以上を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を有効成分として、白血病細胞に対して細胞傷害性を有する医薬用組成物を提供する。
【化2】
(1)
ここで、R1はモノカルボン酸がカルボキシル基で酸アミド結合した残基を表し、またR2は(CH2)X1CH=CH(CH2)X2CH3(ここで、X1、及びX2は0又は自然数であって、X1+X2=10である。)である。
【0025】
(J)本発明は、下記の式(2)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体の一以上を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を有効成分として、白血病細胞に対して細胞傷害性を有する医薬用組成物を提供する。
【化3】
ここで、R1はモノカルボン酸がカルボキシル基で酸アミド結合した残基を表す。
【0026】
(K)本発明は、前式(3)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体の一以上を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を有効成分として、白血病細胞に対して細胞傷害性を有する医薬用組成物を提供する。
【0027】
(L)本発明は、前記医薬用組成物が免疫賦活剤として用いるための医薬用組成物であることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0028】
(M)本発明は、下記の表2で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体を一度に100μM以上投与する肝臓癌抗腫瘍剤を提供する。
【表1】
【0029】
(N)本発明は、前記表1で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体を一度に50μM以上投与することを特徴とする皮膚癌抗腫瘍剤を提供する。
【0030】
(O)本発明は、前記表1で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体を一度に75μM以上投与することを特徴とする肺腺癌抗腫瘍剤を提供する。
【0031】
(P)本発明は、前記表1で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体を一度に50μM以上投与することを特徴とする白血病抗腫瘍剤を提供する。
【0032】
(Q)本発明は、前記表1で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体を一度に75μM以上投与することを特徴とする大腸癌抗腫瘍剤を提供する。
【0033】
(R)本発明は、前記免疫賦活剤はNKT細胞を活性化することによることを特徴とする医薬用組成物を提供する。
【0034】
(S)本発明は、ビール糟から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を主成分とし、NKT細胞活性化状態での血中INF−γレベルをNKT細胞活性度が相対的に低い状態の血中INF−γレベルと同等に維持しながらNKT細胞を活性化することを特徴とするNKT細胞活性化剤を提供する。
【0035】
(T)本発明は、ビール糟から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を主成分とし、NKT細胞活性化状態での血中GTPをNKT細胞活性度が相対的に低い状態の血中GTPレベルと同等に維持しながらNKT細胞を活性化することを特徴とするNKT細胞活性化剤を提供する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の化合物によれば、特定の腫瘍細胞のみを標的とした強い細胞傷害活性を有し、かつ正常細胞に対する毒性は極めて弱い、すなわち副作用の少ない抗腫瘍剤としての医薬用組成物質を提供できる。
【0037】
また、本発明の化合物によれば、肝傷害等の細胞誘導を伴わない副作用の少ない免疫賦活剤としての医薬用組成物質を提供できる。
【0038】
さらに、本発明の化合物によれば低コストで、かつ人体に対して安全性が高い原料から製造される医薬用組成物質を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、各発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる様態で実施しうる。
【0040】
本発明の「スフィンゴ糖脂質誘導体」とは、スフィンゴ糖脂質であるグリコシルセラミドを基本構造とする化合物であって、脂肪酸炭素数、二重結合の位置、水酸基等の付加等のような当該スフィンゴ糖脂質の分子内の一部構造が変化した一群の物質を言う。すなわち、前記式(1)、式(2)、又は式(3)のいずれかで表される化合物である。
【0041】
ここで、式(1)のR1はモノカルボン酸がカルボキシル基で酸アミド結合した残基であって、当該モノカルボン酸残基の炭素鎖数は2〜30の整数のいずれかである。好ましくは炭素鎖数が16〜24の整数のいずれかである。また、R1の炭素鎖数が4〜30の整数の範囲内にある場合には、当該炭素鎖中に二重結合を一つ有していても良い。当該二重結合を有する場合、その位置は前記炭素鎖の範囲内にあれば特に限定しない。また、R2は炭素鎖数が13であって、当該炭素鎖中に二重結合を一つ有する。当該二重結合の位置は、(CH2)X1CH=CH(CH2)X2CH3(ここで、X1、及びX2は0又は自然数であって、X1+X2=10である。)で表される範囲内にあれば、いずれであってもよい。好ましくは、式(2)、式(3)で示す位置、即ち(CH2)5CH=CH(CH2)5CH3で表される位置である。
【0042】
さらに、式(3)のR3は水素H若しくはヒドロキシル基OHを表し、それぞれの場合に応じてR4の構造が異なる。すなわち、R3が水素の場合にはパルミチン酸、又はリノール酸のカルボキシル基が酸アミド結合した残基となり、下記の式(4)、又は式(5)で表される。
【化4】
【化5】
【0043】
R3がヒドロキシル基の場合、モノカルボン酸残基は炭素鎖数17〜24のいずれかの飽和脂肪酸の残基であるか、又は炭素鎖数24で二重結合をその炭素鎖中に一つ有する不飽和脂肪酸の残基である。
【0044】
すなわち、前者の場合は下記の式(6)で表される。
ここで、nは15〜22の整数である。
【0045】
また後者の場合は下記の式(7)で表される。
ここでn1、及びn2は0又は自然数であって、n1+n2=20である。式(7)における二重結合の位置の中で、より好ましくは下記の式(8)で表されるC15−にシス配置で二重結合を有する構造である。
(8)
【0046】
本発明の「医薬用組成物」とは、抗腫瘍剤、免疫賦活剤、アポトーシス誘導剤等、広く医薬品、若しくはその原料として使用されるものを言う。特に、本発明においては後述する抗腫瘍活性と免疫賦活作用という二つの効果を有することから抗腫瘍剤、及び免疫賦活剤としての医薬用組成物であることが好ましい。
【0047】
<スフィンゴ糖脂質誘導体の抽出>
【0048】
本発明の前記式(1)、式(2)、又は式(3)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体は、化学合成によって製造されたものであってもよい。しかし、本発明の趣旨の一つが人体に安全な原料より製造するということを考慮すると、現時点での化学合成による製造は安全面で十分とは言い難い。したがって、好ましくは天然の原料から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体、さらに好ましくは植物組織から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体である。植物組織の中でもビール等の製造工程で得られるビール粕から抽出されるものは特に好ましい。これは、後述の実施例1で示すようにビール粕には本発明のスフィンゴ糖脂質が多量に含まれているからである。
【0049】
「ビール等」とは、ビール、若しくはビール類似酒を意味する。ここで「ビール類似酒」とは、ビールに類似した外見や風味を有するアルコール飲料を言う。例えば、発泡酒が該当する。
【0050】
図1を用いて「ビール等の製造工程」について例を挙げて説明する。この図で示すように、一般的なビール製造工程における最初の工程は、麦芽製造工程(0101)である。当該工程では大麦を発芽させた後に熱風等で乾燥させて成長を止め、乾燥麦芽を得る。次は仕込み工程(0102)である。当該工程では前記乾燥麦芽を粉砕し、温水と副原料であるコーンスターチ等を加えて麦芽酵素の働きによってデンプンの糖化処理を行う。当該処理後、麦汁を濾過する。この濾過で残った残渣がビール粕(0107)である。続いて煮沸工程(0103)を行う。当該工程では前記麦汁を煮沸して苦味成分であるホップを加える。煮沸によって生じるタンパク質やホップ粕(0108)を澱(オリ)として沈殿させて除去する。次は発酵工程(0104)である。当該工程では、前記煮沸後の麦汁を冷却し、酵母を加えて1週間から2週間程度(発酵温度により異なる)発酵させる。続いて熟成工程(0105)に入る。当該工程では、発酵工程後の麦汁を0℃近くまで冷却して発酵を抑える。ここで、炭酸ガスが蓄積されるとともに、味がまろやかになる。最後が濾過工程(0106)である。当該工程では、前記熟成工程後の液から酵母(0109)を濾過して生ビールを得る。濾過後、加熱殺菌したビールが通常のビールである。以上の工程を経て一般的なビールは製造されている。なお、ビール類似酒は酒税法で定めるビールとは原材料面で相違が見られるが、製造工程の基本は上記ビールの製造工程とほぼ同様である。
【0051】
「ビール粕」(0107)とは、前記ビール等の製造工程において仕込み工程後に得られる残渣を言う。したがって、通常は麦芽の他、副原料として用いられる米、コーンスターチ、ジャガイモ等のでんぷん、若しくは糖を含有する穀物、又は芋類等の搾り粕から構成されている。もちろん、麦芽100%から成る残渣であっても構わない。また、煮沸工程(0103)後に得られるタンパク質やホップ粕(0108)や濾過工程(0106)後に得られる酵母(0109)等を当該ビール粕の一部として加えてもよい。ホップ粕や酵母等にはビール粕内で回収しきれず搾汁液や発酵工程へ移行したスフィンゴ糖脂質誘導体が混在している可能性があるからである。
【0052】
動物組織や植物組織等の天然の原料からスフィンゴ糖脂質誘導体を抽出する方法は、公知のいずれの技術を用いてもよい。特に、ビール粕からスフィンゴ糖脂質誘導体を抽出する方法は、特許文献4、又は6の技術に準じて行うと便利である。
【0053】
図2に天然の原料からスフィンゴ糖脂質誘導体を抽出する最も一般的な方法について図示して説明する。
【0054】
まず、原料を極性溶媒に浸漬して脂質成分を抽出(S0201 抽出工程)し、抽出液を濃縮する(S0202 濃縮工程)。これらの操作によって、原料中に含有する脂質成分の粗精製物が得られる。
【0055】
ここで「極性溶媒」とは、電荷の偏りを持つ極性分子からなる溶媒を言う。例えば、低級アルコール、ベンゼン、若しくはトルエン等の極性有機溶媒、水、又はそれらの組み合わせによる混合液が該当する。極性溶媒の種類や組み合わせは特に限定しないが、本発明において得られるスフィンゴ糖脂質誘導体をヒトや他の動物に使用する場合には、毒性が非常に低いエタノール、若しくはエタノールと水の混合液であることが好ましい。また、抽出効率を考慮した場合、エタノールのみの使用がより好ましい。
【0056】
次に、前記方法で得られた脂質成分からなる脂質成分粗精製物にアルカリ溶液を加え、当該脂質成分の粗精製物中に含まれるグリセロ糖脂質をアルカリ溶液によって加水分解する(S0203 加水分解工程)。その後、分解産物を除去(S0204 分解産物除去工程)する。これらの操作によってスフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物が得られる。
【0057】
「アルカリ溶液」は、アルカリ性物質を極性溶媒で溶解した溶液である。本発明におけるアルカリ溶液は、例えば水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液等を用いることができる。また極性溶媒としては、例えば、水、若しくはメタノールやエタノール等の低級アルコールを用いることができる。アルカリ溶液のアルカリ濃度、及び添加する容量は溶液中のアルカリの量が前記脂質成分の粗精製物中に含まれるグリセロ糖脂質を加水分解できるケン化価を有していればよい。
【0058】
加水分解反応を促進するために、脂質成分の粗精製物とアルカリ溶液の混合液を加熱してもよい。加熱温度は30℃から50℃の範囲が好ましい。加水分解反応の時間は温度に依存する。すなわち、低温ほど長くする。例えば、37℃であれば2時間、50℃であれば1時間のように適宜調整すればよい。
【0059】
加水分解処理後、クロロホルム等の疎水性溶媒と水若しくはメタノール等の親水性溶媒からなる混合液を加えて混合した後、静置するなどして2層に分離する。疎水性溶媒としてクロロホルムを用いた場合には目的のスフィンゴ糖脂質を含有する下層のクロロホルム層を回収することにより、水(親水性溶媒)層に移行したグリセロ糖脂質の分解産物である脂肪酸とグリセリンは除去される。クロロホルム層の溶液からクロロホルムを風乾等により除去することでスフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物を得ることができる。
【0060】
必要に応じて前記スフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物をさらに精製してもよい。その場合は、得られたスフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物を分画することで達成できる(S0205 分画工程)。
【0061】
分画方法は公知技術に準ずればよい。例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の方法で分画し、溶出する方法がある。クロマトグラフィーの具体例としては、カラムクロマトグラフィー等が該当する。当該カラムクロマトグラフィーは、スフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物をシリカゲル等の固定相に流載後、クロロホルム等の疎水性溶媒とメタノール等の親水性溶媒、及びそれらの複数種の溶媒を適当な容量比で混合した溶出液によって溶出する。
【0062】
溶出の際には、溶出液の組成、溶出時間等を適宜調整する。スフィンゴ糖脂質誘導体の溶媒に対する溶解度差やイオン結合力の差異によって、さらには必要に応じて同様の操作を数回繰り返すことによって目的とするスフィンゴ糖脂質誘導体を分離精製することができる。なお、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の調製方法については実施例1で詳述する。
【0063】
この他に、特許文献4に記載された「浸漬工程」に先立ちビール粕に含まれる水分を除去する「乾燥工程」や、「浸漬工程」後にビール粕を除去して得られる抽出液を浸漬工程の極性溶媒として再度用いることを所定回数繰り返す「サイクル工程」を有していてもよい。これらの工程を有することで、原料コストの軽減を図れ、本発明の目的に資する。乾燥方法やサイクル方法については特許文献4に記載された技術に準ずればよい。
【0064】
上述の方法により得られたスフィンゴ糖脂質誘導体は、必ずしも単一物質にまで精製する必要はない。例えば、ビール粕を原料とする場合であれば極性溶媒抽出後にアルカリ分解処理を行っただけのスフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製物として用いてもよい。また、当該粗精製物をさらに精製した場合であっても、通常炭素数の異なる数種の誘導体が混合した混合物として得られる場合が多い。このような炭素数の異なる誘導体をそれぞれ分離精製する必要もない。なぜなら、当該混合物には本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が含有されおり、実際に実施例2から6に示すように、本発明の効果を十分に果たし得ているからである。
【0065】
<スフィンゴ糖脂質誘導体の抗腫瘍活性>
【0066】
本発明の式(1)から(3)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体は、実施例2で示すようにαGalCer等と同様に腫瘍細胞由来の培養細胞に対して強い細胞傷害活性を有する。ここで興味深いのは、当該スフィンゴ糖脂質誘導体は所定の投与量範囲内においては特定の腫瘍細胞に対してのみ細胞傷害活性を示し、他の腫瘍細胞に対してはほとんど活性を示さないという選択的な細胞傷害活性を有している点である。さらに、重要な点は所定の投与量範囲内では正常細胞に対してほとんど細胞傷害活性を示さないことである。これは当該スフィンゴ糖脂質誘導体の副作用が少ないことを示している。このように特定の腫瘍細胞に対してのみ選択的に細胞傷害活性を示すスフィンゴ糖脂質誘導体は、本発明者の調べた限りでは報告がない。したがって、当該スフィンゴ糖脂質誘導体は正常細胞に対する副作用が少なく、かつ標的である特定の腫瘍のみを攻撃する上で医薬用組成物、特には抗腫瘍剤として有用である。
【0067】
ここで「特定の腫瘍細胞」とは、例えば、大腸癌細胞、肝臓癌細胞、皮膚癌細胞、肺腺癌細胞、白血病細胞等が該当する。これに対して、スフィンゴ糖脂質誘導体が細胞傷害活性を示さない、すなわち抗腫瘍活性を示さない腫瘍細胞としては、例えばリンパ腫細胞、胃癌細胞、膵臓癌細胞、肺扁平上皮癌が挙げられる。また、前記「所定の投与量」は標的とする腫瘍細胞の種類や後述する患者等の状況によって勘案される。なお、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の抗腫瘍活性等については、実施例2で詳述する。
【0068】
<スフィンゴ糖脂質誘導体の免疫賦活作用>
【0069】
αGalCer等のスフィンゴ糖脂質は、NKT細胞をアポトーシス誘導に伴って活性化することが知られている(非特許文献4〜6)。本発明の式(1)から(3)で示されるスフィンゴ糖脂質誘導体も、実施例3、及び6で示すようにαGalCerと同様にアポトーシス誘導に伴いNKT細胞を活性化する免疫賦活作用を有する。しかし、当該スフィンゴ糖脂質誘導体の免疫賦活作用がαGalCerのそれと異なる点として、実施例3で示すように免疫賦活作用を有しながら、実施例5で示すように血中のINF−γレベルの上昇がほとんど認められないこと、さらに実施例4で示すような高濃度の投与であっても肝傷害等の副作用をほとんど示さないこと等が挙げられる。つまり、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、従来から知られるαGalCer等と同属のスフィンゴ糖脂質ではあるが、生体への作用機序や効果は異なると考えられる。以上のように本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は肝細胞への副作用が少なく、かつNKT細胞等を活性化することから医薬用組成物、特には免疫賦活剤として有用であると言える。
【0070】
<医薬用組成物としての使用法>
【0071】
本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を有効成分とする医薬用組成物は、当該スフィンゴ糖脂質誘導体をそのまま、又は適当な担体と共に製剤化した医薬製剤とすることでヒト、又は動物に投与することができる。
【0072】
投与方法は、合目的的な投与経路であれば特に制限はしない。例えば、ヒトの場合であれば注射等による局所投与、静脈または動脈への血管内投与、腹腔内投与、胸腔内投与、筋肉内投与、直腸投与、皮下投与、経皮吸収、経口投与、又は舌下投与等の方法によって投与することができる。また、動物の場合であれば注射等による局所投与、静脈または動脈への血管内投与、腹腔内投与、皮下投下等の方法によって投与することができる。
【0073】
医薬製剤の剤型は、投与方法や投与目的等に応じて適宜選択すればよい。例えば、経口剤であれば錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、口中剤、ドライシロップ等が、また非経口剤であれば注射剤、懸濁剤、乳化剤、軟膏剤、座剤、貼布剤等が挙げられる。医薬製剤への製剤化に用いる担体は、製薬上許容される添加剤を投与方法や投与目的等に応じて適宜選択すればよい。添加剤としては、例えば、溶剤や可溶化剤等の希釈剤、pH調整剤、粘稠化剤、等張化剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、保存剤、抗酸化剤、界面活性剤等が該当する。
【0074】
本発明の有効成分であるスフィンゴ糖脂質誘導体の投与量は、動物実験の結果及び個々の状況を勘案し、連続的又は間欠的に投与した際に一定量を超えないように定めればよい。具体的な投与量は投与方法、患者等の状況等によって異なる。ここで「状況」とは、例えば、年令、性別、体重、食餌、投与時間、併用する薬剤、薬剤感受性、疾患の程度等が該当する。適量と投与量と投与回数は、前記指針に基づいて専門家の適量決定試験によって決定されなければならない。
【0075】
以下の実施例をもって本発明をより具体的に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の調製方法>
【0077】
前記ビール粕由来の「スフィンゴ糖脂質誘導体の抽出」に関する実施例を以下で説明する。
【0078】
ビール粕を原料として、本発明の化合物であるスフィンゴ糖脂質誘導体を調製した。まず、ビール粕からセラミド関連物質であるスフィンゴ糖脂質誘導体を粗精製する方法は、特許文献4に記載された濃縮工程を含む実施例1の方法に従った。前記方法で得られた粗スフィンゴ糖脂質誘導体残渣2gを4mlのクロロホルムで溶解した。次に、メタノールを溶媒とする0.6N水酸化ナトリウム溶液を4ml加えて混合後、50℃で30分保温した。当該操作によって前記粗スフィンゴ糖脂質誘導体中に混在するグリセロ糖脂質はアルカリ加水分解される。続いて、1N塩酸2.6mlと水1mlを加えて溶液を中和させた後、室温に3時間放置することで層分離を行った。分離層のうちアルカリ分解したグリセロ糖脂質が含まれるメタノール層を除去し、スフィンゴ糖脂質誘導体が含まれるクロロホルム層を得た。
【0079】
次に、前記工程で得たクロロホルム層の溶液をオープンシリカゲルカラム(メルク社 1.5cm×30cmID)に流載した後、クロロホルム:メタノール:水(容量比65:15:2)の混合液で3時間溶出し、溶出時間60分後の主として脂肪酸、脂肪アルコール、ステロールからなる非極性脂質画分、及び溶出時間110分後のステロールエーテル画分を分離・除去し、溶出時間120分後のスフィンゴ糖脂質誘導体の画分を得た。この工程でスフィンゴ糖脂質誘導体の粗精製がなされている。
【0080】
続いて、前記工程で得られたスフィンゴ糖脂質誘導体画分を、高速液体クロマトグラフィーシリカ充填カラム(Develosil社 Develosil60−3, 8mm×250nmID)に流載した。カラムからの溶出はクロロホルム:メタノール(容量比87:3)の混合液を40℃の下で流速率2.5ml/分で流して行い、20分の溶出時間で精製されたスフィンゴ糖脂質誘導体を得た。なお、以上の実験において特に指定していない手順に関しては、全て室温(約28℃)で行っている。
【0081】
<精製スフィンゴ糖脂質誘導体分析方法>
前記最終精製物として得られたスフィンゴ糖脂質誘導体のスペクトルデータを以下に示す。
【0082】
(1H)
NMR:500MHz、CDCl3、23.9℃
δ(ppm) 5.35(m)、5.35(m)、5.35(m)、5.35(m)、4.27(d、J=7.9)、4.24(d、J=7.4)、4.08(m)、4.02、3.96(m)、3.80(dd、J=10.5、3.8)、3.79(dd、J=3.8、10.0)、3.66(m)、3.35(m)、3.30(m)、3.29(m)、3.28(m)、2.06−2.00、1.28−1.401.28(m)、1.28(m)、1.28(m)、1.28(m)、1.28(m)、1.28(m)、1.24−1.24、1.24−1.24、0.89(t)、0.89(t)。
【0083】
(13C)
NMR:500MHz、CDCl3、23.9℃
δ(ppm) 177.1、130.8 or 130.7、130.8 or 130.7、130.1 or 130.8、130.1 or 130.8、104.7、77.9、77.9、75.5、72.9、71.6、71.6、69.1、62.6、54.6、35.9、33.7、32.9、31.0−30.3、31.0−30.3、31.0−30.1、26.1、23.8、23.8、14.5。
【0084】
当該スペクトルデータの結果、最終精製物として得られたスフィンゴ糖脂質誘導体は、式(3)のR3、及びR4が表1で示す構造を有するスフィンゴ糖脂質誘導体であることが明らかとなった。
【表1】
【実施例2】
【0085】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の細胞選択的抗腫瘍活性>
【0086】
(目的)
本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が各種培養細胞に及ぼす細胞傷害活性について検証する。
【0087】
(実験方法)
実験方法について以下で説明する。なお、本実施例では細胞培養に用いる器具や試薬、水等は特に断りのない限りは原則として全て滅菌処理済みのものを使用し、操作はクリーンベンチ、又は無菌室にて行うことを前提とする。
【0088】
培養細胞株の種類:
本実施例においては、以下のヒト腫瘍細胞由来の培養細胞株、及び入手可能な範囲の各腫瘍細胞と同組織由来の正常培養細胞株を用いた。
Hep−G2(肝臓癌細胞)、CS−HC(正常肝細胞)、A431(扁平上皮癌細胞)、TIG(正常皮膚細胞)、A549(肺腺癌細胞)、WI38(正常肺細胞)、WI38 VBA sub2RA(正常肺細胞)、OUMS36(正常繊維芽細胞)、MOLT−4(T細胞性白血病細胞)、COLO201(大腸癌細胞)、Raji(リンパ腫細胞)、MIA Paca(膵臓癌細胞)、VMRC−LCP(肺扁平上皮癌細胞)、KATO−3(胃癌細胞)。
【0089】
培養試薬:
上記各細胞を培養するために、以下の培地を用いた。
・Hep−G2、A431、A549、OUMS36用:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:ナカライテスク社)/10% 牛胎児血清(FCS:Fetal Calf Serum:Sigma社)
・MOLT−4、COLO201、Raji、MIA Paca用:RPMI1640(Sigma社)/10% 牛胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum:Sigma社)
・TIG、WI38、VMRC−LCP用:イーグル最少必須培地(E−MEM:Gibco社)/10% FCS(Sigma社)
・KATOIII用:McCoy's 5a(Sigma社)/10% FCS(Sigma社)
・WI38 VBA sub2RA用:E−MEM+NEAA(非必須アミノ酸:Gibco社)+ピルビン酸(Gibco社)/10% FBS(Sigma社)
・CS−HC用:CS−C complete medium(大日本製薬)/10% FBS(Sigma社)
【0090】
培養方法とスフィンゴ糖脂質誘導体の添加:
培養細胞の培養条件、及びスフィンゴ糖脂質誘導体の添加条件について説明する。96ウェルプレートを用いて、株化された上記の各培養細胞3.0×105 cellsをそれぞれの株に適した培地100μl/ウェル×5ウェルに播いた。当該プレートを37℃、5%CO2濃度下で24時間培養した後、実施例1で精製した表1で表されるスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を異なる濃度でそれぞれのウェルに添加した。添加したスフィンゴ糖脂質誘導体の濃度は、無添加、50μM、100μM、150μM、200μMの5点、又は25μM、50μM、75μM、100μMの5点のいずれかである。濃度調製は0.8%Tween80を含むリン酸緩衝液によって行った。いずれのサンプルも添加前に0.22μmフィルターで濾過滅菌されたものを使用した。添加後、再び37℃、5%CO2濃度下で24時間インキュベートした。なお、前記培養の間にウェル内の培地の交換は行っていない。
【0091】
生細胞数の測定(MTSアッセイ):
前記インキュベート後、各ウェルにアポトーシス検出試薬であるCellTiter 96(R) AQueous Non−Radioactive Cell Proliferation Assay(プロメガ社)を添付のプロトコルに従って添加し、37℃、5%CO2濃度下で1時間から4時間インキュベートした。生細胞は当該キット試薬中のテトラゾリウム塩MTSを還元し、490nmで検出できる発色性のフォルマザン産物を生じさせる。したがって、インキュベート後に490nmにおける吸光度を測定することで本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体によりアポトーシスが誘導された細胞の率を知ることができる。測定には予め無処理のコントロールを平行して培養しておき、スフィンゴ糖脂質誘導体で処理されたウェルから得られる吸光度値とコントロールの値と比較することで各ウェルの細胞の細胞生存率(%)を得ることができる。無処理のコントロールは前記スフィンゴ糖脂質誘導体無添加のサンプルでもよいし、それとは別に用意しておいたものでもよい。数点のスフィンゴ糖脂質誘導体濃度で行う事で添加した濃度に対する生存曲線の変化を見た。なお、本実施例では一の培養細胞に関して細胞生存率を同一濃度で5回以上とり、それらの平均値をその濃度における細胞生存率とした。
【0092】
(結果)
図3〜12に前記実験における各培養細胞の細胞生存率の測定結果とそれに基づいた生存曲線を示す。いずれの図のグラフも横軸に添加したスフィンゴ糖脂質誘導体の濃度(μM)、縦軸に細胞生存率(%)を示している。各図で示す細胞は以下の通りである。
図3:Hep−G2(0301)、CS−HC(0302)
図4:A431(0401)、TIG(0402)
図5:A549(0501)、WI38(0502)、WI38 VBA subR A2(0503)
図6:MOLT−4
図7:COLO201
図8:OUMS−36
図9:Raji
図10:MIA Paca
図11:VMRC−LCP
図12:KATO−3
【0093】
生存曲線の結果から、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は肝臓癌細胞Hep−G2(図3:0301)、皮膚癌細胞A431(図4:0401)、肺腺癌細胞A549(図5:0501)、白血病細胞MOLT−4(図6)、大腸癌細胞COLO201(図7)に対しては100μM、若しくは200μMの濃度下で顕著な細胞細胞傷害活性を示すことが明らかとなった。ところが、同組織の正常細胞に対しては同一条件下でほとんど不活性であった。具体的に説明すると、例えば、図3のCS−HC(0302)は当該スフィンゴ糖脂質誘導体の200μMまでの投与では細胞生存率の変化はほとんどない。一方、Hep−G2(0301)は100μM以上の投与で急速に細胞生存率が減少し、200μMでは30%弱にまで下がる。また、図4では100μM以上の投与では正常皮膚細胞のTIG(0402)にも細胞傷害活性が見られるが、150μMの濃度ではTIGが80%強の細胞生存率を示すのに対して皮膚癌細胞のA431(0401)では30%強と、両者の差は約50%もあった。このように本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、所定の範囲内で前述の腫瘍細胞に対して濃度依存的な強い抗腫瘍活性を示すと共に正常細胞に対してはほとんどその活性を示さないか、又は活性が見られるものであっても腫瘍細胞に対する活性と大きな差異が見られた。したがって、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は少なくともこれらの腫瘍細胞に対しては副作用が少ない抗腫瘍剤としての利用が可能であることが明らかとなった。
【0094】
一方、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、正常繊維芽細胞(図8)やリンパ腫細胞(図9)、膵臓癌細胞(図10)、肺扁平上皮癌細胞(図11)、そして胃癌細胞(図12)に対しては本実施例の条件下では細胞傷害活性は不活性であった。つまり、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体では、これらの腫瘍に対しては抗腫瘍剤としての効果は期待できないと考えられる。しかし、当該性質は抗腫瘍剤としての効果を何ら減じるものではない。本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が特定の特定の腫瘍細胞に対してのみ強い細胞傷害活性を示すという事実は、標的を的確に攻撃しながら正常細胞や他の細胞に対しては副作用が少ないことを意味している。したがって、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体はむしろ全腫瘍に対して細胞傷害活性を示すことが多かった従来のスフィンゴ糖脂質誘導体よりも有用であることを示唆している
【実施例3】
【0095】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与による免疫賦活作用>
【0096】
(目的)
本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体がαGalCerと同様に、生体内においてNKT細胞を活性化する機能を有するかについて検証した。
【0097】
(実験方法)
マウスは8週目のC57BL/6系統を使用した。実施例1で精製したスフィンゴ糖脂質誘導体を上記マウスの腹腔内に20μg、100μg、及び200μg/mouseでそれぞれ投与した。また、αGalCerを2μg/mouseで投与した個体を陽性コントロールとした。投与後、各マウスの肝臓よりリンパ球を経時的に分離し、NKT細胞(CD3+NK1.1+)の検出用としてFITC標識−抗CD3抗体(Pharmingen社)及びPE標識−抗NK1.1抗体(Pharmingen社)の二種類の蛍光標識されたモノクローナル抗体で二重免疫染色を行った後、NKT細胞の動態をフローサイトメトリー(FACSCalibur、Becton−Dickinson社)によって解析した。なお、肝臓からのリンパ球分離法と免疫染色法は非特許文献7の方法に従った。
【0098】
(結果)
図13に上記フローサイトメトリーによる解析結果のサイトグラムを示す。この図においてA、Bは陽性コントロールであるαGalCerを、C、Dは100μgのスフィンゴ糖脂質誘導体を、そしてE、Fは200μgのスフィンゴ糖脂質誘導体を、それぞれ投与したマウスのリンパ球のサイトグラムを示す。また、A、C、Eは未投与対照マウス、Bは投与後12時間、そしてD、Fは投与後24時間の結果である。各サイトグラムは、いずれも横軸がFITC標識抗CD3抗体の、また縦軸がPE標識抗NK1.1抗体の蛍光強度をそれぞれログスケールで示している。FITCの蛍光強度が大きいほど測定した細胞表面のCD3分子数が多いことを意味し、またPEの蛍光強度が大きいほど測定した細胞表面のNK1.1分子数が多いことを意味する。各サイトグラムにおける4つの分画は、2種類の蛍光強度に基づいてaをNK細胞のフラクション(CD3−NK1.1+)、b(ドットと重なるため一部のサイトグラムでは示さず。)をB細胞やマクロファージ等のフラクション(CD3−NK1.1−)、cをNKT細胞のフラクション(CD3+NK1.1+)(図中矢印で示した。)、dをT細胞のフラクション(CD3+NK1.1−)としてそれぞれ区分けしている。また、各分画内の数値は測定した全細胞における当該分画に含まれる細胞の割合(%)を表す。
【0099】
まず、陽性コントロールであるαGalCerを投与したマウスでは、投与後12時間(B)で肝臓のNKT細胞のほとんどが消失した。図示していないが投与後24時間でもこの傾向に変化はない。NKT細胞は、NK細胞と同様に標的細胞を直接攻撃する細胞傷害活性と、活性化により誘導された細胞内のサイトカインを放出する二つの機能を有する(非特許文献1)。即ち、肝臓のNKT細胞の消失はαGalCerにより活性化したNKT細胞がアポトーシスを起こし、消失したことを示している。
【0100】
一方、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、20μg/mouseの投与(図示せず)では24時間後でもαGalCerのような効果は見られなかった。また、100μg/mouse、及び200μg/mouseの投与も、12時間後(図示せず)では顕著な効果は見られなかった。しかしながら、24時間後ではこれらはD、Fに示すように肝臓のNKT細胞の消失が観察された。このように本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は高濃度下において緩やかにNKT細胞を活性化する機能を有することが明らかとなった。なお、NKT細胞の活性化に伴うアポトーシスに関しては実施例6で詳述する。
【実施例4】
【0101】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与による血中INF−γレベルの検証>
【0102】
(目的)
NKT細胞はαGalCerによる活性化でINF−γを産生することが知られている(非特許文献4及び5)。つまり、αGalCerの投与により血中のINF−γは増大する。そこで本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体においても、その投与により血中のINF−γレベルに変化が生じるかについて検証した。
【0103】
(実験方法)
実施例3で調製したマウスを用いた。経時的に各マウスより約1mlの血液を採取した後、血清を分離し、当該血清中のINF−γレベルをELISA法により測定した。ELISA測定にはBD OptEIA set(Pharmingen社)を用い、方法は添付のプロトコルに従った。
【0104】
(結果)
図14に結果を示す。αGalCerの投与によって血中INF−γレベルは、コントロールである正常マウスの値約40pg/mlから約3000pg/mlへと増大した。これに対して、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与では正常マウスとほぼ同様の値を示した。すなわち、実施例3で示したように本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体はNKT細胞の活性化を有するにもかかわらず、血中INF−γレベルは上昇しないことが明らかとなった。これは、おそらく本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体とαGalCerではNKT細胞に対する活性化の作用機序が異なっていることに起因するものと考えられる。
【実施例5】
【0105】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与による肝傷害の検証>
【0106】
(目的)
αGalCerはその細胞傷害活性により生体内投与では強い抗腫瘍活性を示すが、同時に肝臓に対しても細胞傷害性を引き起こす問題を有することが知られている(非特許文献1)。実施例3で示したように本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、NKT細胞の活性化のためにαGalCerよりも遥かに高濃度で投与する必要がある。ゆえにαGalCerと同様、あるいはそれ以上の肝傷害を誘導する可能性が考えられる。そこで、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の生体内投与による肝傷害誘導について検証した。
【0107】
(実験方法)
実施例3で調製したマウスを用いた。経時的に各マウスより約1mlの血液を採取した後、血清を分離し、各血清中のトランスアミナーゼ(GPT)値を体外用診断キットであるトランスアミナーゼCII―テストワコー(和光純薬)を用いて測定した。測定方法はキット添付のプロトコルに従った。なお、マウスは一般に赤血球が溶血しやすい。そのためGOT値は測定結果にエラーが発生しやすいため、ここでは示していない。
【0108】
(結果)
図15にGPT値の測定結果を示す。ここで、まず血清中のGPTについて簡単に説明をする。GPTは通常肝細胞中で機能しているが、肝炎等の肝傷害により幹細胞が破壊されることで血液中に漏出する。そのため血液中のGPT値の上昇は肝傷害の指標となる。一般に100IU(国際単位)/L(リットル)以上では肝炎等の肝傷害を引き起こしていると解される。
【0109】
図15で示すように、正常マウスのGPT値は約11IU/Lであった。αGalCerの投与によるGPT値は、12時間後で116IU/L、24時間後には約183IU/Lと100を越える高い値を示し、これまでの報告通り肝傷害を引き起こしていることが認められた。一方、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与によるGPT値は、驚くべきことに200μgという極めて高濃度な投与であっても、20IU/L以下という正常マウスのそれを僅かに上回る程度の低い値であった。これは、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が肝細胞に対する細胞傷害性がほとんどない、即ち副作用が極めて少ないことを示唆している。
【実施例6】
【0110】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体によるNKT細胞のアポトーシス誘導の検証>
【0111】
(目的)
NKT細胞は、αGalCerによる活性化に伴い、自らアポトーシスを生じることが知られている(非特許文献1)。そこで、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体による活性化においてもNKT細胞のアポトーシス誘導が生じているかについて検証した。
【0112】
(実験方法)
基本的な実験方法は実施例3と同様である。マウスは8週目のC57BL/6系統を使用し、実施例1で精製したスフィンゴ糖脂質誘導体を当該マウスの腹腔内に200μg/mouseまた、αGalCerを2μg/mouseで投与した。投与後24時間で各マウスの肝臓よりリンパ球を分離し、NKT細胞(CD3+NK1.1+)の検出用としてPerCP標識−抗CD3抗体(Pharmingen社)及びPE標識−抗NK1.1抗体(Pharmingen社)の二種類の蛍光標識されたモノクローナル抗体とアポトーシス細胞検出用としてFITC標識−アネキシンV(Pharmingen社)により三重免疫染色を行った。免疫染色法は非特許文献1の方法に従った。次に、フローサイトメトリー(FACSCalibur、Becton−Dickinson社)によりPerCP及びPEを検出し、それらの蛍光強度に基づいてNKT細胞のフラクション(図13のcで示されるエリア)を得た。ここまでは検出する蛍光物質の種類以外は実施例3と同様である。本実施例では、さらに当該フラクションに対してFITCの蛍光強度を測定することでフラクション内でアポトーシスを生じた細胞を検出した。なお、コントロールとしてT細胞のフラクション(図13のdで示されるエリア)についても同様の操作を行った。
【0113】
(結果)
図16にその結果を示す。A、Dは未操作正常マウス細胞の、B、Eは2μg/mouseのαGalCerを投与したマウス細胞の、C、Fは200μg/mouseの本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したマウスNKT細胞分画とT細胞分画のヒストグラムを示している。また、A、B、CはNKT細胞のフラクションを、D、E、FはT細胞のフラクションを示す。各プロファイルの横軸は蛍光物質Cの蛍光強度を、縦軸は細胞数(単位:個)を表す。アネキシンVは初期のアポトーシスに陥っている細胞を検出する。したがって、FITC蛍光強度の強い細胞が多い場合、つまりアネキシンV陽性の場合にはアポトーシスが陽性であることを意味する。アネキシンV陽性の細胞は、やがてネクローシスに陥り、完全な死(PI陽性)に至る。
【0114】
Aの正常マウスでは、NKT細胞は弱い蛍光強度10付近でピーク(1601)を有するのに対して、BのαGalCerを投与したマウスでは、このピークが完全に消失し、比較的強い蛍光強度200付近の位置にわずかなピーク(1602)が見られるのみである。コントロールであるT細胞ではDとEのヒストグラムのパターンにほとんど違いが見られず、アポトーシスの誘導は認められない。したがって、これはαGalCerの投与によりNKT細胞が活性化され、さらにアポトーシスの進行によって細胞膜が崩壊したことを示している。一方、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体では、やはりAに見られる弱い蛍光強度のピークは消失し、代わって600付近の強い蛍光強度の位置にピーク(1603)を生じている。コントロールであるT細胞のDとFにおいてヒストグラムのパターンにほとんど違いが見られず、アポトーシスの誘導は認められない。したがって、当該スフィンゴ糖脂質誘導体においてもαGalCerと同様に、その投与によってNKT細胞が活性化され、NKT細胞のアポトーシスが誘導されていることが明らかとなった。しかし、当該スフィンゴ糖脂質誘導体によるNKT細胞のアポトーシス誘導は、強い蛍光強度の位置にピークが残っていることからαGalCerのそれと比較して比較的穏やかに進行すると考えられる。
【実施例7】
【0115】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体よる癌細胞への抗腫瘍活性およびそれに伴う肝障害の検証>
【0116】
(目的)
本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が生体内において癌細胞の増殖を抑制する機能を有するかについて検証した。
【0117】
(実験方法)
マウスは4週目のC3H/HeJJcl系統を使用した。当該マウスの皮内にマウス肝臓癌細胞(MH134−TC)を約1×104個移植した。その2週間後にマウスを2群に分け、一群についてのみ実施例1で精製したスフィンゴ糖脂質誘導体0.2mgをマウスの腹腔内に毎日投与した。癌細胞の増殖率は、皮内の癌組織面積増加率として求めた。副作用の指標として血清中のGPT値を計測した。なお、コントロールとしてスフィンゴ糖脂質誘導体を投与しない一群についても同様の計測をした。
【0118】
(結果)
図17にスフィンゴ糖脂質誘導体の投与による癌細胞の増殖抑制効果の結果を示す。横軸はスフィンゴ糖脂質誘導体の投与後の経過日数を、また縦軸はスフィンゴ糖脂質誘導体投与開始時の癌組織面積に対する相対値を示している。Aはスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した一群のマウスの結果であり、Bはコントロールとしての一群のマウスの結果である。また、表2にGPT値の測定結果を示す。
【表2】
【0119】
図17よりスフィンゴ糖脂質誘導体の投与後2日目から癌組織面積の増加率にわずかながらも差異が見られた。6日目にはコントロールの一群(B)が約6.8倍に増加したのに対して、スフィンゴ糖脂質誘導体を投与した一群(A)は約4.9倍の増加であった(p<0.01)。これにより、スフィンゴ糖脂質誘導体が生体内においても癌細胞の増殖を有意に抑制することが示された。
【0120】
また表2より、スフィンゴ糖脂質誘導体を投与した一群とコントロールの一群において、GPT値に大きな差は見られなかった。これは、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体が肝細胞に対して細胞傷害性をほとんど有さない、つまり副作用の少ないことを示している。
【0121】
即ち、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は正常な細胞に対してはほとんど作用せず、腫瘍細胞である癌細胞に対して選択的に細胞傷害性を有していることが示された。
【実施例8】
【0122】
<本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体による生体内での癌細胞の転移抑制、及び個体生存率の検証>
【0123】
(目的)
本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体の投与による生体内での癌細胞の転移抑制、及び生存率の変化について検証した。
【0124】
(実験方法)
マウスは8週目のC57BL/6系統を使用した。実施例1で精製したスフィンゴ糖脂質誘導体を当該マウスの腹腔内に0.2mg/mouseで投与し、その3日後に再び腹腔内に200μg/mouseで投与すると同時にマウスリンパ腫細胞EL4を尾静脈から約1×105個を移入して、生存率を計測した。また、これと同条件で処理したマウスにおいて、EL4細胞約5×105個を注入後21日目に肝臓を摘出し、当該肝臓へ転移したEL4細胞塊の個数を目視にて計測した。なお、コントロールとしてスフィンゴ糖脂質誘導体を投与しないマウスについても同様の計測をした。
【0125】
(結果)
図18にスフィンゴ糖脂質誘導体投与マウスと未投与マウスのそれぞれにおける生存率を示す。横軸はEL4細胞を注入した日からの経過日数を示し、縦軸はマウスの生存率(%)(n=6)を示す。また、図19はEL4細胞移入後21日目のスフィンゴ糖脂質誘導体投与マウスと未投与マウスのそれぞれの肝臓に転移した当該細胞塊数の結果を示す。縦軸はEL4細胞の転移細胞塊数(個)を示す。また、図20は、EL4細胞注入後21日目のスフィンゴ糖脂質誘導体未投与マウス(A)、スフィンゴ糖脂質誘導体投与マウス(B)のそれぞれから摘出した肝臓を示している。破線円内の斑状痕が転移したEL4細胞塊である。
【0126】
図18において、スフィンゴ糖脂質誘導体を投与されたマウス(A)はEL4細胞を移入した日から20日経過後から生存率が下がり始めてはいるが、35日を経過しても約30%(p<0.05)が生存している。これに対してコントロール(B)はEL4細胞移入20日目に急激に生存率が低下し、25日目には全てのマウスが死亡した。これにより、スフィンゴ糖脂質誘導体が浸潤性の癌細胞を有する個体の生存率を有意に上昇させることが示された。
【0127】
図19において、スフィンゴ糖脂質誘導体を投与されたマウスにおけるEL4細胞の肝臓への転移細胞塊数は約15個であった。これに対してコントロールでは約65個の転移細胞塊を示した(p<0.05)。また図20により、投与マウス(B)においてはEL4細胞の肝臓への転移はほとんど見られなかった。これにより、スフィンゴ糖脂質誘導体が当該細胞の転移を有意に抑制していることが示された。
【0128】
即ち、本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体は、生体内においても免疫賦活性剤としてNKT細胞を活性化し、腫瘍細胞の転移を抑制し、生存率を上昇させると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】ビールの抽出工程を説明するための概念図
【図2】天然の原料からスフィンゴ糖脂質誘導体等を抽出する方法の流れ図の一例
【図3】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した肝細胞(Hep G2、CS−HC)の生存曲線
【図4】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した皮膚細胞(A431、TIG)の生存曲線
【図5】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した肺細胞(A549、W38、WI38 Sub)の生存曲線
【図6】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した白血病細胞Molt−4の生存曲線
【図7】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した大腸癌細胞COLO201の生存曲線
【図8】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した正常繊維芽細胞OUMS36の生存曲線
【図9】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したリンパ腫細胞Rajiの生存曲線
【図10】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した膵臓癌細胞MIA Pacaの生存曲線
【図11】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した肺扁平上皮癌細胞VMRC−LCPの生存曲線
【図12】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与した胃癌細胞KATO−3の生存曲線
【図13】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体又はαGalCerの投与による肝臓NKT細胞の経時的動態を示すサイトグラム
【図14】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体又はαGalCerを投与したマウスの血中INF−γレベル
【図15】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体又はαGalCerを投与したマウスの血中GPT値
【図16】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体又はαGalCerの投与による肝臓NKT細胞及びT細胞に対するアポトーシス誘導を示すヒストグラム
【図17】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したマウスの癌組織面積の増加曲線
【図18】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したマウスと未投与マウスのマウスリンパ腫による生存率を示すグラフ
【図19】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したマウスと未投与マウスの癌細胞転移細胞塊数を示すグラフ
【図20】本発明のスフィンゴ糖脂質誘導体を投与したマウスと未投与マウスの癌細胞の肝臓への転移を表す図
【符号の説明】
【0130】
0301:Hep G2の生存曲線
0302:CS−HCの生存曲線
Claims (19)
- 前記(b)は以下で定義される請求項1に記載の医薬用組成物。
(b)R3がOHの場合、R4は(CH2)YCH3(ここで、Yは14〜21の整数である。)、又は(CH2)12CH=CH(CH2)7CH3である。 - 炭素数の異なる数種のスフィンゴ糖脂質誘導体混合物を有効成分として含有する請求項 1又は2に記載の医薬用組成物。
- 前記スフィンゴ糖脂質誘導体は天然のスフィンゴ糖脂質誘導体である請求項1から3のいずれか一に記載の医薬用組成物。
- 前記スフィンゴ糖脂質誘導体はビール等の製造工程で得られるビール粕より抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体である請求項1から4のいずれか一に記載の医薬用組成物。
- 前記スフィンゴ糖脂質誘導体は、
麦芽を熱風で乾燥させて乾燥麦芽を得る乾燥麦芽製造工程と、
前記乾燥麦芽を粉砕し副原料を混入させ酵素によりデンプン糖化処理を行う糖化工程と、
前記糖化工程で得られた糖化液をろ過するろ過工程と、
前記ろ過工程で得られたろ液を乾燥させて得られたビール糟を極性溶媒に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の極性溶媒からビール糟を除去して抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出工程で得られた抽出液を濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程で得られた脂質成分粗精製物をアルカリ溶液によって加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解後、疎水性溶媒と親水性溶媒の混合物を加えて層分離させて分解産物を除去する分解産物除去工程と、
から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体である請求項1から5のいずれか一に記載の医薬用組成物。 - 前記抽出工程で得られる抽出液を、前記浸漬工程で用いる極性溶媒として再度用いることを所定回数繰り返すサイクル工程をさらに有する請求項6に記載の医薬組成物。
- 前記医薬用組成物は抗腫瘍剤として用いるための医薬用組成物である請求項1から7のいずれか一に記載の医薬用組成物。
- 前記医薬用組成物は免疫賦活剤として用いるための医薬用組成物である請求項1から7のいずれか一に記載の医薬用組成物。
- 前記免疫賦活剤はNKT細胞を活性化することによる請求項11に記載の医薬用組成物。
- 請求項5から7のいずれか一の方法によりビール糟から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を主成分とし、NKT細胞活性化状態での血中INF−γレベルをNKT細胞活性度が相対的に低い状態の血中INF−γレベルと同等に維持しながらNKT細胞を活性化するNKT細胞活性化剤。
- 請求項5から7のいずれか一の方法によりビール糟から抽出されるスフィンゴ糖脂質誘導体を含有するスフィンゴ糖脂質誘導体の混合物を主成分とし、NKT細胞活性化状態での血中GTPをNKT細胞活性度が相対的に低い状態の血中GTPレベルと同等に維持しながらNKT細胞を活性化するNKT細胞活性化剤。
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