JP5387619B2 - 溶融金属減圧精錬用ノズルおよび精錬方法 - Google Patents

溶融金属減圧精錬用ノズルおよび精錬方法 Download PDF

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Description

本発明は、鉄鋼精錬などの溶融金属精錬において、減圧下で溶融金属の表面にフラックスを吹き付けて脱硫処理を行う際に用いるノズルおよび精錬方法に関する。
鉄鋼精錬では、転炉において溶融鉄に酸素ガスを吹き付けて溶鉄中炭素を除去する処理が行われ、引き続いて、目的とする製品に応じてガス吹き込み精錬や真空脱ガスなどの二次精錬が行われる。真空脱ガスなどの二次精錬では、溶鋼中の不純物元素である硫黄濃度を効率的に低減する技術が開発されている。
例えば、RH真空脱ガス装置を用いて溶鋼表面に上方から脱硫フラックスを吹き付ける方法が知られている。脱硫フラックスの上吹きは、真空槽内に配置された上吹きランスの先端に装着されたノズルからキャリアガスとともに粉体を吹き付けることによって、行われる。
上吹きランスノズルに関する技術としては、ラバールノズルを用いる方法が知られている。しかし、ラバールノズルを用いることには制約がある。例えばスロート部断面積や出口断面積といったラバールノズルの各部の形状は、ガス流量と供給側ガス圧力、出口側雰囲気圧力によって規定される。すなわち、ラバールノズルには使用条件に即した適正な形状が存在するため、使用条件を変更する場合や使用条件が変化する場合には、形状の異なるラバールノズルに交換する必要がある。
このような課題を解決するノズルとして、特許文献1には、ラバールノズルのいわゆるスロート部に、スロットルと呼ばれる尖端部を一方に有する棒状の物体を挿設されたノズルが開示されている。このノズルは、最小限とはいえ可動部を有し、この可動部を処理中に動作させる必要があり、操作がやや煩雑である。
特許文献2には、特許文献1により開示されたノズルの課題を解決するための新たなノズルが開示されている。このノズルは、先端部内に環状スリットの空間部を形成するための気体流路形成体を挿設されており、この気体流路形成体の形状が特定の条件を満足することによって、様々な条件で使用できる。
さらに特許文献3には、特許文献2により開示されたノズルを用いて脱硫処理を行う場合における気体流路形成体の摩耗や、環状スリット部の粉体詰まりを防止する技術が提案されている。この技術によって特許文献2により開示されたノズルをさらに広範な条件で使用することが可能となり、精錬反応が安定するとともに操業作業性も大幅に改善される。
特開平2−115315号公報 特開2002−226907号公報 特許第3915701号明細書
特許文献2、3により提案されたノズルは、操業の自由度を大幅に高めることが可能であるものの、脱硫効率は従来のラバールランスと同程度である。特許文献2、3により開示されたノズルの脱硫効率をさらに高めることができれば、処理時間のいっそうの短縮による生産性の向上や、製品のさらなる極低硫化を実現することができる。
本発明の目的は、精錬効率をさらに向上することができる溶融金属減圧精錬用ノズルおよび精錬方法を提供することであり、具体的には、鉄鋼精錬などの溶融金属精錬において、減圧下で溶融金属の表面にフラックスを吹き付けて脱硫処理を行う際に好適に用いることができるノズルおよび精錬方法を提供することである。
特許文献2の図3によって示されるように、内部に流路形成体を有するノズルは、ガスが雰囲気圧力やガス流量に応じて流路形成体に沿って膨張および加速される原理によって、雰囲気圧力やガス流量によらず安定したガス噴流を得ることができる。
ランスの先端に装着されたノズルから吹き付けられる脱硫フラックスの吹き付け速度を上昇させると、全体の処理時間を短縮することができる。差圧方式のフラックス輸送の場合、吹き付け速度を上昇するには、ランス前圧力を低下させることが必要になる。ランス前圧力を低下するためには、例えばラバールランスの場合にはノズルスロート部の断面積を拡大すればよい。しかし、これでは、溶鋼表面からの飛散溶鉄のノズル内部への差し込みが増加する。このため、ラバールランスを使用する場合、脱硫フラックスの吹き付け速度の上昇には限界があった。
これに対し、内部に流路形成体を有するノズルでは、ノズル最狭部である環状の絞り部(スリット)の断面積を拡大しても、構造上、飛散溶鉄の絞り部への差し込みが少ないため、絞り部の断面積を拡大して脱硫フラックスの吹き付け速度を上昇することができる。
また、脱硫効率を上昇させる手段として、ランスおよび湯面間の距離を短く設定することが考えられる。ランスおよび湯面間の距離を短く設定すると、脱硫フラックスが溶鋼内に深く侵入し、溶鋼中硫黄との反応効率が高まる。
しかし、ラバールランスノズルを用いた場合、ランスおよび湯面間の距離が短くなるにつれてノズル内部への差し込みが増加するため、脱硫フラックスの吹き付け速度の上昇には同様に限界があった。また、ランスおよび湯面間の距離が短くなると、輻射熱によるノズル先端部の溶損やスプラッシュによる溶損が増加するため、何らかの対策も必要になる。
本発明者らは、ランス前圧力を低下させて脱硫フラックスの吹き付け速度を上昇させ、かつ脱硫効率を従来のラバールランスより向上させ、さらにノズル先端部の溶損を抑制するため、図1に示すように、管状の本体2と、本体2の内部に配置される流動制御体3とを備えるノズル1の最適な条件について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。
本発明は、図1にその縦断面を例示されるように、溶融金属精錬用ランスの先端に配置されて、溶融金属の表面に減圧下で気体と共にフラックスを吹き付けるノズル1であって、ノズル1は、第1の開口部2aおよび第2の開口部2bを有するとともに第1の開口部2aから第2の開口部2bへ向かう軸方向へ向けて気体とフラックスを流す管状の本体2と、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間に本体2の内壁2cから離間して配置される流動制御体3とを備え、本体2は、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の内壁2cに環状に形成される突出部4を有するとともに、流動制御体3は、横断面積が第1の開口部2a側から第2の開口部2b側へ向けて対称に増加する第1の尖端部3aと、第1の尖端部3aの第2の開口部2b側に並設されて、横断面積が第1の開口部2a側から第2の開口部2b側へ向けて対称に減少する第2の尖端部3bとを有し、かつ、第2の尖端部3bの最先端部5は、突出部4から最先端部5までの軸方向への距離cと、突出部4から第2の開口部2bまでの軸方向への距離lとの比(c/l)が0.8〜2.0であるように、配置されることを特徴とする溶融金属減圧精錬用ノズル1である。
別の観点からは、本発明は、溶融金属減圧精錬用ノズル1を用いる精錬方法であって、前記した比(c/l)が0.8〜1.6になるように流動制御体3を配置し、かつ、第2の開口部2bから溶融金属の表面までの距離Aと、第2の開口部2bの径Dとの比(A/D)を45〜60に調整して、流動制御体3と本体2との間隙から精錬用粉体を溶融金属の表面に吹き付けることを特徴とする精錬方法である。
これらの本発明では、(1)式:d≧0.9×(D−2h)により規定される関係を満足することが望ましく、(1)’式:d≧(D−2h)により規定される関係を満足することがさらに望ましい。ただし、(1)式または(1)’式において、符号dは流動制御体3の最大径であり、符号Dは本体2の内径であり、符号hは突出部4の高さである。
これらの本発明では、流動制御体3における最大径dを有する部分が、突出部4よりも軸方向に関して第1の開口部2aの側に配置されることが望ましい。
これらの本発明では、(2)式:θ=65〜80°により規定される関係を満足することが望ましい。ただし、(2)式において符号θは、軸方向の含む縦断面における第2の尖端部3bの最先端部5とこの縦断面における第2の尖端部3bの最大径dを有する部分の一方の外縁部f1とを結んで得られる直線Pと、この部分の両方の外縁部f1、f2を結んで得られる直線Sとがなす角度である。
これらの本発明では、突出部4が、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の所定の位置から第2の開口部2bにかけての全部または一部の領域に形成されていてもよい。
本発明により、減圧下でフラックスを吹き付けて溶融金属を精錬する際に、その精錬効率を安定して高めることができる。さらに、ノズル先端部の溶損を抑制しながら脱硫効率を安定して高めることも可能になる。
図1は、本発明に係るノズルの構成の一例を示す縦断面図である。 図2は、比(A/D)別に、比(c/l)と脱硫率ηとの関係を示すグラフである。
添付図面を参照しながら、本発明を説明する。なお、以降の説明では、溶融金属が溶鋼であるとともに減圧下で溶鋼の表面にフラックスを吹き付けて脱硫処理を行う場合を例にとる。
図1は、本発明に係るノズル1の構成の一例を示す縦断面図である。ノズル1は、本体2と流動制御体3とを有するので、これらを順次説明する。
[本体2]
本体2は管状体からなる。本体2は、一方の端部に第1の開口部2aを有するとともに他方の端部に第2の開口部2bを有し、かつ突出部4を有する。突出部4は、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の内壁2cに環状に形成される。突出部4の形状は、段差状に急激に小径化する構造でもよいが、例えば45°程度の直線勾配状あるいは放物線状に小径化する構造であることが望ましい。本体2の内径Dが急激に変化すると、思わぬ圧損を招くからである。
突出部4の軸方向への形成範囲は、図1に示すように、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の内壁2cに幅を持たせずに環状に形成してもよいし、強度確保やノズル製造容易性から幅を持たせて形成してもよい。突出部4の高さhは、低く第2の開口部2bの側では殆ど影響を生じないので、簡便のために、突出部4は、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の図1に示す所定の位置から、第2の開口部2bにかけての全域やその一部に形成されていてもよい。
本体2は、直管でよく、特許文献1に記載されるようにラバールノズルのような末広がり部を有する必要はない。ただし、第2の開口部2bの側へ向かって先細りノズル管を用いてもよい。また、ラバールのように第2の開口部2bの径がスロート形の1.5倍〜2.5倍となる大きな末広がり部ではなく、保守作業性のために第2の開口部2bの径が本体2の内径Dの1.3倍以下の小さな範囲で第2の開口部2bの径が大きくなってもよい。なお、本体2を直管としない場合、あるいは、突出部4が第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間の図1に示す所定の位置から第2の開口部2bにかけての全域やその一部に形成されており、本体2の内径Dが一様でない場合には、内径Dは流動制御体3の最大径dの部分の位置における内径とする。
本体2は、第1の開口部2aから第2の開口部2bへ向かう軸方向へ向けて、内部に脱硫フラックスを搬送するキャリアガスを流す。
[流動制御体3]
流動制御体3は、第1の開口部2aと第2の開口部2bとの間に、本体2の内壁2cから離間して、配置される。流動制御体3は、第1の尖端部3aと第2の尖端部3bとを有する。第1の尖端部3aは、その横断面積が軸方向へ対称に増加する。第2の尖端部3bは、軸方向へ第1の尖端部3aに並設されて、その横断面積が軸方向へ対称に減少する。流動制御体3は、本体2に例えば特許文献2に開示される固定手段によって適宜固定される。
また、第1の尖端部3aと第2の尖端部3bとは、図1に示すように直結した構造であってもよいし、第1の尖端部3aと第2の尖端部3bとの間に適当な長さの円筒部を介在させてもよい。これらの構造は、本体2への流動制御体3の固定方法に応じて選択すればよい。
本発明の目的は、フラックス吹付けを伴う溶融金属減圧精錬において、ラバールノズルを用いるよりも精錬効率を向上することができるノズルと、そのノズルを用いる精錬方法を提供することである。そのために、上記した本体2と流動制御体3とを備えるノズル1を利用することに着目した。このノズル1は、前記したように、ガスが雰囲気圧力やガス流量に応じて流路形成体に沿って膨張および加速される原理によって、雰囲気圧力やガス流量によらず安定したガス噴流を得ることができる。さらに、ノズル最狭部である環状の絞り部(スリット)の断面積を拡大しても、構造上、飛散溶鉄の絞り部への差し込みが少ないため、絞り部の断面積を拡大して脱硫フラックスの吹き付け速度を上昇することができるという特徴がある。しかし、それらの特徴を実際に溶融金属減圧精錬において、ラバールノズルを用いるよりも精錬効率が向上するように活用した例は、未だ知られていない。
そこで、上吹きランスを備えるRH真空脱ガス装置を用いて約300tonの溶鋼を脱硫処理し、そのランス先端に装着するノズル1の形状やノズル先端から溶鋼湯面までの距離などと、脱硫効率やノズル溶損状況との関係を調査検討した。
調査した溶鋼の脱硫処理前成分は、C:0.04〜0.07%(本明細書では化学組成または濃度に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.5〜1.3%、P:0.005〜0.013%、S:20〜24ppm、sol.Al:0.03〜0.07%とし、脱硫処理後の溶鋼中S成分を2〜10ppmに低減させた。その際、キャリアガスの流量を0.04Nm/min・tonとするとともに、雰囲気圧力を8000〜12000Paとして脱硫フラックス(CaO粉にCaを3質量%混合した粉体)を5〜7kg/t吹き付けた。脱硫効率の指標には、(3)式で定義される脱硫率を採用した。
脱硫率η(%)=(脱硫フラックス吹付け前S(ppm)−脱硫フラックス吹付け後S(ppm))/脱硫フラックス吹付け前S(ppm)×100・・・(3)
また、図1において、本体2に直管を用い、第2の開口部2bの内径Dは80mmとし、突出部4から最先端部5までの軸方向への距離cは110mmとし、突出部4の高さhは6mmとした。さらに、流動制御体3の最大径dは64〜70mmとした。
実験条件は、突出部4から最先端部5までの軸方向への距離cと、突出部4から第2の開口部2bまでの軸方向への距離lとの比(c/l)を0.2〜2.0の範囲において8水準で変化させると共に、第2の開口部2bから湯面までの距離A(mm)と、第2の開口部2bの径D(mm)との比(A/D)を15、30、45、60、および75の5水準で変化させて、比(c/l)および比(A/D)と脱硫率ηとの関係を調査した。なお、試験は、それぞれの条件で20チャージずつ実施し、平均脱硫率η、ノズル先端部の溶損、およびスプラッシュによる溶損を評価した。
図2に、比(A/D)別に、比(c/l)と脱硫率ηとの関係をグラフで示し、表1に、比(A/D)、比(c/l)毎の溶損状況を示す。溶損状況は○、△、×で評価した。○は溶損なしであることを示し、△は溶損はあるが連続使用は問題無いレベルであることを示し、さらに×は溶損があり連続使用には適さないが、10チャージ程度の脱硫処理には差し支えないレベルであることを示す。
Figure 0005387619
図2のグラフから、脱硫率ηは比(c/l)が大きくなるにつれて高まることがわかる。脱硫率ηは、比(c/l)が0.8以上になると、比(A/D)の条件に関係なく向上していた。比(c/l)が1より小さい場合(すなわちlがcより長い場合であって、流動形成体3の最先端部5が第2の開口部2bよりも内部の側に存在する場合)には、ガス膨張が適正にならず噴流が広がっているため、フラックス吹付けを伴う脱硫処理において脱硫率ηを高めるのに、この比(c/l)が0.8以上であることを要すると考えられる。
この脱硫率ηの向上効果は、この調査においてc/lの上限とした2.0まで同程度であった。このc/lの上限値は、c/lが2.0を超えて大きくすると流動制御体3の先端部分が諸々の要因により損傷され易くなり、実際操業に困難が生じる場合があり得るので、実際操業上2.0以下としておくことが適当である。
比(c/l)は、脱硫率の向上という観点からは0.8〜2.0の範囲で効果が確認された。しかし、脱硫率が向上するだけでなく、ノズル先端部の溶損が少ない方が脱硫処理の安定性や生産性の向上の観点から好ましいことは当然である。その観点から本発明に係る調査結果を纏めて示した表1によると、脱硫効率が良かった比(c/l)が0.8〜2.0の中でも、比(A/D)が15や30の条件ではノズル溶損が大きく、比(A/D)が45〜75では溶損が小さかったことが分かる。但し、比(A/D)が45〜75であっても、比(c/l)が1.8や2.0ではノズル溶損の防止が十分ではなかった。
したがって、脱硫効率が高く、かつ、ノズル溶損が少ない条件は、図2と表1とを合わせて考えると、比(c/l)が0.8〜1.6であって、かつ、比(A/D)が45〜75であると言える。さらに、脱硫率ηが80%という値以上という条件では、比(c/l)が0.8〜1.6であって、かつ、比(A/D)が45〜60であると言える。
ここで、脱硫効率を高めながらノズル溶損を防ぐためのノズル1の形状の詳細を説明する。ガス膨張に伴う噴流加速を考慮するには、ガス膨張を規定する条件、すなわち、流動制御体3の最大径d(図1に示すノズル1では第1の尖端部3aおよび第2の尖端部3bの接続部の外径)と、突出部4の高さh(内壁面2cからの突出部4の高さ)と、本体2の内径Dとの関係を調査検討すればよい。
そこで、突出部4の設置位置における本体2の内径は(D−2×h)として定義されるので、(D−2h)との関係を動圧測定結果から検討した。その結果、(1)式:d≧0.9×(D−2h)により規定される関係を満足することによって噴流の直進性が向上することが確認され、さらに(1)’式:d≧D−2hにより規定される関係を満足することによって噴流の直進性がさらに向上することが確認された。
噴流の直進性を向上させることは、脱硫効率の向上に効果があり、非常に重要な因子である。(1)式もしくは(1)’式により規定される関係を満足することによって、ガスの圧縮が流動制御体3の第1の尖端部3aで完了し、第2の尖端部3bでの圧縮が起こらない結果、噴流の直進性が向上すると考えられる。
特許文献1により開示されたノズルでは、特許文献1の第1図に示されるように、スロットルがスロート内に挿入される場合があるため、スロットルは突出部より十分に細い必要がある。これは特許文献1が適正なガス膨張を意図しているためである。これに対し、ノズル1は、反応効率の向上を目的とするため、流動制御体3が、突出部4の設置位置における本体2の内径(D−2h)に近い径、あるいはこの内径(D−2h)よりも大きな径を有することが望ましい。この違いは、ガス膨張に対する技術思想が相違することに起因する。
以上のように、ノズル1は、その目的や技術思想の相違から、ノズル性能を支配する最狭部の構造が公知技術と相違する。
また、ノズル1において、流動制御体3と突出部4との関係が(1)式を満足することによって、ガス圧縮を第1の尖端部3aで行うためには、流動制御体3における最大径を有する部分(図1に示すノズル1では第1の尖端部3aおよび第2の尖端部3bの接続部)が、突出部4よりも軸方向に関して第1の開口部2aの側に配置されること、すなわち流動制御体3の最も太い部分が突出部4よりも第1の開口部2aの側に存在することが望ましい。
流動制御体3における最大径を有する部分が突出部4よりも第2の開口部2bの側に存在すると、流動制御体の第1の尖端部3aの途中が最狭部となるため、流動制御体3の第1の尖端部3aからガス膨張が進行してしまい、噴流の直進性が損なわれる場合があるからである。なお、(1)’式を満足する場合は、この条件が必須である。
また、第2の尖端部3bの形状を説明する。尖端部の形状を与える指標を定義するために、図1に示す縦断面において、流動制御体3の最も太い部分の外縁部f1、f2のうちの一方f1と第2の尖端部3bの最先端部5とを結ぶ直線をPとする。そして、流動制御体3の最も太い部分の外縁部f1、f2を結んだ直径を示す直線Sと、直線Pとがなす角度θを用いて、適正形状を動圧測定により検討する。すなわち、角度θは、本体2の軸方向の含む縦断面における第2の尖端部3bの最先端部5とこの縦断面における第2の尖端部3bの最大断面積部の一方の外縁部f1とを結んで得られる直線Pと、この縦断面における最大面積部の両方の外縁部f1、f2を結んで得られる直線Sとがなす角度である。
その結果、角度θが65°未満ならびに80°を超えて大きいと、動圧が低下した。これは、第2の尖端部3bの傾斜が過剰であれば不足膨張が発生し、一方過小であるとガス膨張が本発明に係るノズル1の内部で進行しないためと考えられる。よって、角度θは65°以上80°以下であることが望ましい。
そして第2の尖端部3bの形状は直線Pによって規定される円錐形でもよい。また、先行技術のように、第2の尖端部3bを曲面状に構成してもよいが、直線Pで構成される円錐形よりも外側にはみ出さないことが望ましい。この曲面は、角度θが65°で構成される円錐の外側にあり、かつ、θが80°で構成される円錐の内側にあることが最も望ましい。
次に、ノズル1の具体的仕様の決定方法を説明する。
ノズルの設計には供給ガス圧力や必要流量、設備大きさや処理溶鋼量などさまざまな前提条件や制約条件が存在し、その有無や優先順位は使用者によって異なる。このため、全ての条件で本発明に係るノズル1の設計手法を詳細に説明することは不可能であるため、ノズルの具体的仕様の決定方法の一例を説明する。
以降の説明では、工場のガス供給圧力とランス外径に制約がある条件で、RH真空槽内にキャリアガスとともに脱硫フラックスを上吹きして溶鋼を精錬する例として、ノズル1の最適な仕様決定手順を説明する。
はじめに、ランスの外径が制約条件に基づいて決定される。ランスの外径が制約条件に基づいて決定されると、ランスの冷却構造や耐火構造を考慮してノズル1の本体2の内径Dが決定される。この内径Dと(1)式とにより、流動制御体3の最大径dと、ノズル最狭部となる突設部4の高さhとの関係が得られる。そして、最大径dまたは高さhのいずれか一方の値を適宜決定することにより他方の値を決定する。
最大径dおよび高さhは、比(h/d)が0.027以上0.14以下となるように決定することが望ましい。比(h/d)が0.027未満であると小径化の効果が小さくなり、一方0.14を超えると急激な小径化により圧損が大きくなるからである。
突出部4が決定したら流動制御体3の仕様を以下の手順で決定する。上述した手順で決定された最大径dと、角度θ:65〜80°とに基づいて、第2の尖端部3bの軸方向長さを決定する。適正範囲や側面形状については上述した通りである。もちろん、第2の尖端部3bを円錐形ではなく、放物線状の曲面とする場合には特許文献2に記載された流体力学的手法を用いればよい。
流動制御体3の第1の尖端部3aの形状が性能に与える影響は小さいため、第1の尖端部3aは、その先端断面の広がり角θ2が30〜60°の円錐形に設定すればよい。第1の尖端部3aの形状は、その他に紡錘形なども選択可能である。
比(d/D)は0.75以上0.95以下であることが望ましい。比(d/D)が0.75未満であると流動制御体3の効果が減殺され、反応効率が不安定になる場合がある。一方、比(d/D)が0.95を超えて大きいと、角度θ:65〜80°を満足するためにはノズル全長が長くなり、冷却が難しくなる。
以上の手順により、流動制御体3の形状が決定する。次に、本体2への流動制御体3の設置位置を決定する。
前提条件としての単位時間当たりの脱硫フラックス吹き込み速度の要求値が設定されると、必要なランス前圧力が決定され、ラバールノズルで用いられるスロート断面積が算出できる。この計算は一般的な教科書に記載されているとともに特許文献2にも記載されており、当業者にとっては周知の事項である。
ノズル1においても、このランス前圧力とガス流量との関係は成立するので、ノズル1の絞り部(スリット)の面積、すなわち流動制御体3と突出部4との間に形成されるランス軸方向に垂直な部分(図1におけるW部分)の断面積が算出される。必要な脱硫フラックスの吹き込み速度を得るためのランス前圧力となるように、流動制御体3を設置する。
このとき、突出部4から最先端部5までの軸方向への距離cと、突出部4から第2の開口部2bまでの軸方向への距離lとの比(c/l)が0.2以上であることにより、脱硫効率が上昇する。ただし、比(c/l)が2.0を超えるとノズル先端部が溶損するため、比(c/l)が2.0以下であることが望ましい。
以上の手順により、ノズル1の最適仕様が決定される。
次に、ノズル1を用いる精錬方法を説明する。本発明を、転炉とRHを用いて実施する場合を例に、最良の形態を説明する。
転炉処理終了後に溶鋼を取鍋へ出鋼する。所定のAl濃度に調整するためのAlを添加し、生成するAl生成量に対し、CaOを投入すればよい。RH真空脱ガス処理では処理開始直後からフラックス上吹きを開始してもよい。また溶鋼処理昇温処理あるいは脱ガス、成分調整等の処理を行ってもよい。
フラックス上吹き量は処理前硫黄濃度、目標処理後硫黄濃度から求まるが、CaO粉にCaを3%混合した粉体で3kg/t以上8kg/t以下が望ましい。3kg/t未満であると脱硫量が少なく、8kg/tを越えて多いと総スラグ量が増加してしまう。
フラックスに混合するCaは金属Ca、Ca合金などいかなるものでもよい。
キャリアガス流量は0.03Nm/(min・溶鋼ton)以上0.2Nm/(min・溶鋼ton)以下が望ましい。
ノズル1は、幅広い雰囲気圧力に対応できるので、ラバールノズルの様に雰囲気圧力を厳格に管理する必要はないが、雰囲気圧力は800Pa以上12000Pa以下とすることが望ましい。800Pa未満では噴流が強くなると同時に静圧が低下するため、溶鋼飛散量が増加する。一方、12000Paを超えて高いとRH環流速度が遅くなるため、脱硫効率が低下する。
ノズル1の第2の開口部2bと溶鋼湯面との鉛直距離Aは、第2の開口部2bの径Dとの比(A/D)で45以上60以下であることが望ましい。比(A/D)が45未満では溶鋼の輻射熱とスプラッシュによるノズル先端部の溶損が大きくなる。一方、比(A/D)が60を越えるとフラックスが排気されてしまうため、単位脱硫フラックス当りの効率が低下する。比(A/D)が45以上60以下であれば、ノズル溶損を生じることなく80%以上の脱硫効率を得られる。
予め、必要に応じて溶銑脱硫および溶銑脱燐処理を行った溶銑を、300トン規模の上底吹き転炉に装入し、溶鉄中C含有率が0.03〜0.07%になるまで粗脱炭吹錬を行い、終点温度を1630〜1690℃として粗脱炭溶鋼を取鍋に出鋼し、出鋼時に各種脱酸剤および合金を添加して取鍋内溶鋼成分を、C:0.04〜0.07%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.5〜1.3%、P:0.005〜0.013%、S:20〜24ppm、sol.Al:0.03〜0.07%とした。
次に、RH真空脱ガス装置を用いてこの溶鋼表面に、真空槽内に配置された上吹きランスの先端に装着された表1に示す各種ノズル(出口径を本発明例と同一としたストレートノズル(比較例)、スロート径26mmで出口径80mmのラバールノズル(従来例)、図1に示すノズル1(本発明例))からキャリアガスとともに脱硫剤(CaO粉にCaを3%混合した粉体)を5〜7kg/tを吹き付けることによって、脱硫処理を行った。ここで図1に示すノズルの突出部4から最先端部5までの軸方向までの距離cを110mm、ノズル内径Dを80mm、流動制御体3の最大径dを68mm、角度θを75°とした。結果を表2にまとめて示す。
Figure 0005387619
表2に示すうち、No.1〜No.18が本発明例であり、No.19〜No.22は比較例であって、その比(c/l)が本発明に係る技術的範囲から外れているものである。また、No.23は従来のラバールノズルを用いて、本発明例同様に脱硫処理した従来例である。
表2に示したように、本発明例のノズル溶損状況は、いずれも実際操業に適用可能なレベルにあったが、一部には10チャージを超える連続操業での使用に支障が生じる可能性があるレベルのものもあった。但し、先に図2に示した比(c/l)と脱硫率ηとの関係から、比(c/l)を0.8以上としたことによって、ランス操作条件が同じ比(A/D)においては、相対的に高い脱硫率が得られていたものと考えられる。
このことは、本発明例における脱硫率が68%〜91%であったことに比べ、比(c/l)を0.5としたNo.19とNo.20では、ランス操作条件が脱硫処理に好適な比(A/D)においても、脱硫率が58%及び64%と低かったこと、また、従来例であるNo.23でも、その脱硫率が71%と比較的に低位にあったことと整合する。
この比(c/l)を0.1〜1.6の範囲内とし、かつ、比(A/D)を45〜60の範囲で脱硫処理した場合には、本発明例として示したNo.13〜No.18のように、ノズル溶損を実際上無くし、かつ、脱硫率80%以上を安定して達成することができることが確認された。
1 本発明に係るノズル
2 本体
2a 第1の開口部
2b 第2の開口部
2c 内壁
3 流動制御体
3a 第1の尖端部
3b 第2の尖端部
4、4−1 突出部
5 最先端部

Claims (2)

  1. 溶融金属精錬用ランスの先端に配置されて、溶融金属の表面に減圧下で気体と共にフラックスを吹き付けるノズルであって、
    該ノズルは、第1の開口部および第2の開口部を有するとともに前記第1の開口部から前記第2の開口部へ向かう軸方向へ向けて前記気体とフラックスを流す管状の本体と、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間に前記本体の内壁から離間して配置される流動制御体とを備え、
    前記本体は、前記第1の開口部と前記第2の開口部との間の内壁に環状に形成される突出部を有するとともに、
    前記流動制御体は、横断面積が前記第1の開口部側から前記第2の開口部側へ向けて前記軸対称に増加する第1の尖端部と、前記第1の尖端部の前記第2の開口部側に並設されて、横断面積が前記第1の開口部側から前記第2の開口部側へ向けて前記軸対称に減少する第2の尖端部とを有し、かつ
    前記第2の尖端部の最先端部は、前記突出部から前記最先端部までの前記軸方向への距離cと、前記突出部から前記第2の開口部までの前記軸方向への距離lとの比(c/l)が0.8〜2.0であるように、配置されること
    を特徴とする溶融金属減圧精錬用ノズル。
  2. 請求項1に記載された溶融金属減圧精錬用ノズルを用いる精錬方法であって、
    前記した比(c/l)が0.8〜1.6になるように流動制御体を配置し、かつ、前記第2の開口部から前記溶融金属の表面までの距離Aと、前記第2の開口部の径Dとの比(A/D)を45〜60に調整して、前記流動制御体と前記本体との間隙から精錬用粉体を前記溶融金属の表面に吹き付けることを特徴とする精錬方法。
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