JP5365157B2 - 表面処理鋼板および電子機器筐体 - Google Patents
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Description
なお、「6価クロムを含まない、いわゆるクロメートフリー」とは、不可避的不純物として存在する極微量の6価クロムまでも含まないという趣旨ではなく、また、必要に応じて3価クロムの含有を許容するものとする。
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した、部品の電磁波シールド性および耐食性に著しく優れる電子機器筐体を提供することを目的とする。
その結果、合金化溶融亜鉛めっき層が、ζ相を含まず、実質的にΓ相およびδ1相を具え、合金化溶融亜鉛めっき層中のFeおよびAlの含有量が一定範囲内であり、かつ合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に化成処理皮膜Aを所定の皮膜厚で形成した表面処理鋼板は、成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性が著しく改善され、併せて高い熱放射率も有することを見出した。
前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、ディフラクトメータ法によるX線回折で、Γ相のd(Å)=2.592(ただし、d(Å)は格子面間隔)、δ1相のd(Å)=2.136およびζ相のd(Å)=3.025のピークの強度(cps)をそれぞれ、Ia、IbおよびIcとしたとき、
Ib/Ia>50かつIc/Ia<1.2
を満足し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層の表面が、算術平均粗さ:Raで0.5〜1.5μm、かつ、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIで150〜350を満足し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下であり、
さらに、前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を下記(1)〜(6)の条件を満足するように含有し、Zr付着量が40〜1200mg/m2である、皮膜厚が0.1〜3μm厚の化成処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
(1)微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)=0.1〜1.2
(2)微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)=0.15〜1.0
(3)バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)が0.005〜0.10
(6)アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)=0.005〜0.18
(7)ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)=0.01〜0.10
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した電子機器筐体は、電磁波シールド性および耐食性に著しく優れる。
本発明の表面処理鋼板は、素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を具え、前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を下記(1)〜(6)の条件を満足するように含有し、Zr付着量が40〜1200mg/m2である、皮膜厚が0.1〜3μm厚の化成処理皮膜を有する表面処理鋼板である。
(1)微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)=0.1〜1.2
(2)微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)=0.15〜1.0
(3)バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)が0.005〜0.10
(6)アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)=0.005〜0.18
以下、素地鋼板、合金化溶融亜鉛めっき層および化成処理皮膜Aに分けて説明する。
素地鋼板の種類は、電子部品筐体を成形加工する際に割れなどが発生しない強度を有すれば特に限定されるものではないが、引張強さ(TS):270MPa相当の軟鋼板が好ましい。また、絞り比の大きい形状に成形加工する場合には、加工性の良い極低炭素IF鋼相当の鋼板が好ましい。
素地鋼板の両面には、合金化溶融亜鉛めっき層が形成される。合金化溶融亜鉛めっき層は、素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を施すことで形成されるが、本発明の表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層は、実質的にΓ相(Fe3Zn10)およびδ1相(FeZn7)からなるように合金化処理される。合金化処理が不十分であると、合金化溶融亜鉛めっき層の表面にζ相(FeZn13)が残る。表面にζ相が残った合金化溶融亜鉛めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板の成形前における導電性は充分なレベルにある。しかしながら、成形加工された後、特に成形時における摺動部の導電性が劣る。ζ相は、Γ相やδ1相に比較してZnリッチな相で柔軟であり、成形時の摺動により凸部がつぶれて変形しやすく、導通点が充分に確保できないためである。従って、かような表面処理鋼板を成形加工して製作した電子機器筐体は、電磁波シールド性に劣る。
・Fe含有量:10.5〜15質量%
Fe含有量が10.5質量%未満では、ζ相を含む合金化溶融亜鉛めっき層となり、耐フレーキング性が劣化するだけでなく、摺動不足による成形時の割れやシワの原因となる。一方、Fe含有量が15質量%を超えると、Γ相が過剰に生成した合金化溶融亜鉛めっき層となり、パウダリング性が劣化する。また、合金化処理時に、合金化温度を高くする必要があり、長い合金化時間を要することからラインスピードの低下を招き、生産性を阻害する。従って、Fe含有量は、10.5〜15質量%の範囲とする。好ましくは、11.0〜14.0質量%の範囲である。
Al含有量が0.15質量%未満の場合には、熱力学的にζ相が安定となり、ζ相が生成し易いだけでなく、合金化速度が速いためにFe含有量の制御が困難となる。一方、Al含有量が0.30質量%を超えると、合金化が極端に遅くなるため、合金化温度を高くし合金化時間を長くする必要があり生産性を阻害する。さらには、合金化を均一に行うための制御が困難となり、鋼板の一部でη相が残存する、いわゆる生焼け状態となる問題が生じる。従って、Al含有量は、0.15〜0.30質量%の範囲とする。好ましくは、0.18〜0.25質量%の範囲である。
亜鉛付着量は合金化速度に大きな影響を与える。亜鉛付着量が片面あたり25g/m2未満であると、合金化の進行が速く、めっき層中のFe含有量が過剰となり、めっき層の耐パウダリング性が劣化し、一方、片面あたり60g/m2を超えると、合金化の進行が遅く、めっき層中のFe含有量が不充分となり、耐フレーキング性が劣化する。従って、亜鉛付着量は、片面あたり25〜60g/m2の範囲とすることが好ましい。特に電子機器筐体として使用することを考慮すると、35〜50g/m2の範囲とすることが好ましい。
合金化処理温度が450℃未満では、ζ相が生成し易くなり、耐フレーキング性が劣化し、また、合金化速度が遅いことから、所望のFe含有量を得るためには、長時間の合金化処理が必要となる。また、鋼板の一部にη相が残存する問題も生じる。一方、合金化処理温度が530℃を超えると、急速な合金化により高いFe含有量になり易く、Γ相の生成量が過剰となり、耐パウダリング性が劣化する。従って、合金化処理温度は、450〜530℃の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは470〜510℃の範囲である。なお、合金化処理のために用いる熱源は、η相が生成し易い低温域での合金化時間を短くするため、急速加熱が可能な誘導加熱とすることが好ましい。
Ib/Ia>50かつIc/Ia<1.2
を満足することから確認することができる。
本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面には、化成処理皮膜Aを有する。耐食性の要求がそれほど高くない場合には、一方の面のみに化成処理膜Aを形成し、特に電磁波シールド性に優れる表面処理鋼板として提供できる。一方、耐食性の要求が非常に高い場合には、両面に化成処理膜Aを形成することによって、特に耐食性に優れる表面処理鋼板として提供することができる。
この水系クロメートフリー化成処理液は、水を溶媒とし、水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)を含み、好ましくはこれら成分(A)〜(G)を主成分として含むものである。また、この水系クロメートフリー化成処理液は、必要に応じて、さらにワックス(H)を含むことができる。
前記水溶性ジルコニウム化合物(A)としては、特に制限はないが、例えば、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウムなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。ここで、ジルコンフッ化水素酸やその塩などのような無機フッ素含有化合物を含んでいる場合も水溶性ジルコニウム化合物であり、液が相溶するかぎり使用可能であるが、本発明で用いるクロメートフリー化成処理液は必須成分としてシリカを含有するため、無機フッ素含有化合物を含むと液安定性が損なわれることが多く、したがって、ジルコンフッ化水素酸やその塩はあまり好ましくない。
水分散性微粒子シリカ(B)の配合割合は、水分散性微粒子シリカ(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(B)/(A)で0.1〜1.2とする。(B)/(A)が0.1未満では耐食性や、プレス成形時に化成処理皮膜が削られやすいことによる耐フレーキング性の低下を招き、一方、質量比(B)/(A)が1.2を超えると皮膜が適切に形成できないため耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(B)/(A)は0.2〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.8である。
バナジン酸化合物(D)の配合割合は、バナジン酸化合物(D)のV換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(D)/(A)で0.02〜0.15とする。質量比(D)/(A)が0.02未満では耐食性が低下し、一方、0.15を超えると皮膜が着色し、外観を損なう。このような観点から、より好ましい質量比(D)/(A)は0.04〜0.12であり、特に好ましくは0.05〜0.10である。
リン酸化合物(E)の配合割合は、リン酸化合物(E)のP換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(E)/(A)で0.03〜0.30とする。質量比(E)/(A)が0.03未満では耐食性が低下し、一方、0.30を超えるとプレス成形部の耐フレーキング性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(E)/(A)は0.06〜0.20であり、特に好ましくは0.10〜0.18である。
ニッケル化合物(F)の配合割合は、ニッケル化合物(F)のNi換算量と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(F)/(A)で0.005〜0.10とする。質量比(F)/(A)が0.005未満では耐黒変性が低下し、一方、0.10を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい(F)/(A)は0.01〜0.08であり、特に好ましくは0.02〜0.06である。
水分散性微粒子シリカ(B)およびシランカップリング剤(C)のSi換算量の合計(SI)は、水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量との質量比(SI)/(A)で0.15〜1.0とする。質量比(SI)/(A)が0.15未満では耐食性や、プレス成形時に化成処理皮膜が削られやすいことによる、耐フレーキング性の低下を招き、一方、1.0を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(SI)/(A)は0.25〜0.85であり、特に好ましくは0.30〜0.68である。
アクリル樹脂エマルション(G)の配合割合は、アクリル樹脂エマルション(G)の固形分と水系クロメートフリー化成処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(G)/(X)で0.005〜0.18とする。質量比(G)/(X)が0.005未満では耐食性が低下し、一方、0.18を超えると有機成分の増加により化成処理皮膜が削られやすくなるため、耐フレーキング性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(G)/(X)は0.01〜0.16であり、特に好ましくは0.02〜0.14である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi) …(1)
ただし、Wi:成分iの重量分率
Tgi:成分iのTg
アクリル樹脂のTgが10℃未満であると化成処理皮膜が削られやすくなるため、耐フレーキング性が低下し、一方、Tgが30℃を超えると耐食性が低下する傾向がある。
また、加熱乾燥後の化成処理皮膜Aの皮膜厚は、Zr付着量が上記範囲内に入る条件で次のようにする。上述したように、本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層の表面には、ζ相が存在しないことから、上述したクロメートフリー化成処理液との反応性が良い。これらの処理で形成される化成処理皮膜Aの膜厚が0.1μm未満であると、耐食性に不利となり、一方、3μmを超えると、電磁波シールド性に不利となる。従って、化成処理皮膜Aの皮膜厚は、0.1〜3μmの範囲とする。好ましくは、0.2〜1.5μmの範囲、より好ましくは、0.3〜0.8μmの範囲である。
加熱乾燥を行う加熱手段としては、特に制限はないが、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱乾燥温度は到達板温で50〜250℃が好ましい。250℃を超えると皮膜にクラックが入り、耐食性を低下させることがある。一方、50℃より低い温度では皮膜中の水分残存が多くなり、やはり耐食性が低下することがある。このような観点から、より好ましい加熱乾燥温度は60〜200℃であり、特に好ましくは60〜180℃である。
この表面処理鋼板は、上述した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(g)と、アクリル樹脂(g)を含み、好ましくはこれらを主成分とする化成処理皮膜Aを有する。また、この化成処理皮膜Aには、必要に応じて、さらにワックス(h)を配合してもよい。
前記微粒子シリカ(b)は、処理液に配合した水分散性微粒子シリカ(B)に由来するものであり、この水分散性微粒子シリカ(B)の詳細はさきに述べたとおりである。
皮膜中での微粒子シリカ(b)の含有割合は、微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)で0.1〜1.2とする。(b)/(a)が0.1未満では耐食性や、化成処理皮膜が削られやすくなることによる耐フレーキング性の低下を招き、一方、質量比(b)/(a)が1.2を超えると皮膜が適切に形成できないため耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(b)/(a)は0.2〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.8である。
ここで、微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)は、ジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)で0.15〜1.0とする。質量比(Si)/(a)が0.15未満では耐食性や、化成処理皮膜が削られやすくなることによる耐フレーキング性の低下を招き、一方、1.0を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(Si)/(a)は0.25〜0.85であり、特に好ましくは0.30〜0.68である。
皮膜中でのバナジン酸化合物(d)の含有割合は、バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)で0.02〜0.15とする。質量比(d)/(a)が0.02未満では耐食性が低下し、一方、0.15を超えると皮膜が着色し、外観を損なう。このような観点から、より好ましい質量比(d)/(a)は0.04〜0.12であり、特に好ましくは0.05〜0.10である。
皮膜中でのリン酸化合物(e)の含有割合は、リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)で0.03〜0.30とする。質量比(e)/(a)が0.03未満では耐食性が低下し、一方、0.30を超えると皮膜の外観が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(e)/(a)は0.06〜0.20であり、特に好ましくは0.10〜0.18である。
皮膜中でのニッケル化合物(f)の含有割合は、ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)で0.005〜0.10とする。質量比(f)/(a)が0.005未満では皮膜の外観が低下し、一方、0.10を超えると耐食性が低下する。このような観点から、より好ましい(f)/(a)は0.01〜0.08であり、特に好ましくは0.02〜0.06である。
皮膜中でのアクリル樹脂(g)の含有割合は、アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)で0.005〜0.18とする。質量比(g)/(x)が0.005未満では耐食性が低下し、一方、0.18を超えると有機成分の増加により化成処理皮膜が削られやすくなるため、耐フレーキング性が低下する。このような観点から、より好ましい質量比(g)/(x)は0.01〜0.16であり、特に好ましくは0.02〜0.14である。
まず、水溶性ジルコニウム化合物と水分散性微粒子シリカとシランカップリング剤により皮膜の骨格が形成される。水分散性微粒子シリカは、乾燥した後の皮膜中でもその形状を維持するものと考えられる。また、シランカップリング剤は、水に溶解させると加水分解によりシラノールとアルコールを生じる。生じたシラノールは脱水縮合してポリシロキサンとなる。このポリシロキサンとなった部分をコアにし、外側にアルキル基を向けた二重構造となって水に分散しているものと考えられる。
前記ワックス(H)としては、液に相溶するものであれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ラノリン系ワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックスなどが挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。また、前記ポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが挙げられ、これらの1種以上を使用することができる。
ワックス(H)の配合割合は、ワックス(H)の固形分と水系クロメートフリー化成処理液中の固形分の合計量(X)との質量比(H)/(X)で0.01〜0.10とすることが好ましい。質量比(H)/(X)が0.01未満では潤滑性、特にプレス成形時の潤滑性の向上効果が見られず、一方、0.10を超えるとこの効果が飽和するだけでなく、逆に耐食性が低下するおそれがある。このような観点から、より好ましい質量比(H)/(X)は0.02〜0.08である。
皮膜中でのワックス(h)の含有割合は、ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)で0.01〜0.10とすることが好ましい。質量比(h)/(x)が0.01未満では潤滑性、特にプレス成形時の潤滑性の向上効果が見られず、一方、0.10を超えるとこの効果が飽和するだけでなく、逆に耐食性が低下するおそれがある。このような観点から、より好ましい質量比(h)/(x)は0.02〜0.08である。
以下、算術平均粗さ:Ra、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPI、およびの合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比の限定理由について説明する。
算術平均粗さ:Raは、JIS B 0601−1994に準拠するものとする。Raが0.5μm未満の場合、化成処理皮膜Aを塗布した状態でのめっき凸部の被膜率が高くなるため、導通点の比率が低下し導電性が劣化することが問題となる。一方、Raが1.5μmを超えると、化成処理皮膜Aを塗布した状態でのめっき凸部の露出率が高いため、導電性は良好であるが耐食性の劣化が問題となる。従って、Raは、0.5〜1.5μmの範囲とする。より好ましくは、0.7〜1.3μmの範囲である。
粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIは、ピークカウントインデックスと呼ばれるもので、米国のSAE規格で定められたものであり、この値が小さくなると1山の断面積(縦断面積)が大きくなることを意味する。なお、図1に、米国のThe Engineering Society for Advancing Mobility Land Sea Air and Space:SAE J911-JUN 86 「SURFACE TEXTURE MEASUREMENT OF COLD ROLLED SHEET STEEL」で定められたPPIを測定する際の表面粗さの粗さ曲線を示す。図1において、粗さ曲線の平均線から、正負、両方向に一定の基準レベルHを設け、負の基準レベルを超えたあと、正の基準レベルを超えたとき、1カウントする。このカウントを評価長さ:Lnに達するまで繰り返し、数えた個数で表示したものをPPIとする。なお、本発明においては、Lnを25.4mm(1インチ)、2H(ピークカウントレベル:正負の基準レベル間の幅)を1.27μm(50マイクロインチ)とする。
合金化溶融亜鉛めっき層表面に存在する結晶のうち、垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したときに、アスペクト比(最長辺長さ/最短辺長さ)の大きい方から10個の結晶を選択し、この10個の結晶のアスペクト比の平均値を平均アスペクト比とする。図2は、化成処理皮膜Aを形成する前の合金化溶融亜鉛めっき層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で観察した結果を示す写真であって、(a)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下である一例を、(b)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3を超える一例を示す図である。
素地鋼板として準備した、板厚:1.0mmの極低炭素IF鋼板を、溶融亜鉛めっき浴中に浸入させ、ガスワイピングで亜鉛付着量を片面あたり40g/m2に調整した。めっき浴中の溶解Al量は、合金化溶融亜鉛めっき層中のAl含有量が表1に示す0.10〜0.40質量%の範囲となるように、0.110〜0.150質量%の範囲で変化させた。また、めっき浴の温度は、500℃とした。
亜鉛付着量を、鋼板No.S13は片面あたり70g/m2に、鋼板No.S14は片面あたり30g/m2に調整した以外は、鋼板No.S1と同様の方法でサンプルを作製した。
合金化溶融亜鉛めっき層がζ相を有するようにしたこと以外は、鋼板No.S1と同様の方法で鋼板No.S15を作製した。
参考例として、素地鋼板の両面に合金化溶融亜鉛めっき層以外の亜鉛系めっきを形成した。なお、鋼板No.S16〜S20に形成した亜鉛系めっき層の種類は、表1の「合金化溶融亜鉛めっき」の欄に記載した。
合金化処理の完了した各サンプルを、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前にディフラクトメータ法によるX線回折で、合金化溶融亜鉛めっき層中の合金相を同定した。X線回折条件は次のとおりである。
装置:理学電機社製RU−300
X線源:Co−Kα
管球電圧:30kV
管球電流:100mA
照射時間:30分
速度:2deg/分
ステップ:0.05
スリット:DS=SS=1°、RS=0.3°
回転:なし
ピーク強度:最大値
バックグラウンド処理:スムージング
合金化処理を完了し、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前の各サンプルから試料を切り出し、JIS H 0401:2007、5.付着量試験方法、5.2間接法に規定される試験液を用いて合金化溶融亜鉛めっき層を溶解した溶液の湿式化学分析(ICP分析)を行い合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量およびAl含有量を測定した。
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、JIS B 0601−1994に準拠して、算術平均粗さ:Raを測定した。
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、上述したSAE規格に準拠して、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIを測定した。
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、次の要領で平均アスペクト比を求めた。
合金化溶融亜鉛めっき層表面に存在する結晶のうち、垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で観察したときに、アスペクト比(最長辺長さ/最短辺長さ)の大きい方から10個の結晶を選択し、この10個の結晶のアスペクト比の平均値を平均アスペクト比とした。
表2に示す水溶性ジルコニウム化合物、表3に示す水分散微粒子シリカ、表4に示すシランカップリング剤、表5に示すバナジン酸化合物、表6に示すリン酸化合物、表7に示すニッケル化合物、表8に示すアクリル樹脂エマルション(ノニオン性アクリル樹脂エマルション)、表9に示すワックスを用い、これらの成分を水に適宜配合して表10〜表13に示す水系クロメートフリー化成処理液を作製した。処理液のpHはアンモニアとリン酸で適宜調整した。
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルの両面の表面抵抗値をそれぞれ測定し、各面の表面抵抗値の平均値で各サンプルの導電性を評価した。具体的には、低抵抗測定装置(ロレスタGP:三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、各サンプル表面の表面抵抗値を測定した。その際、プローブ先端にかける荷重を変化させ、導通時の荷重を測定した。さらに加圧力:196kPa(2kgf/cm2)、摺動速度:20mm/sで平面金型にて摺動後、同様に表面抵抗を測定した。評価基準は次のとおりである。
◎:2.9N(300gf)以下
○:2.9N(300gf)を超え4.9N(500gf)以下
△:4.9N(500gf)を超え6.9N(700gf)以下
×:6.9N(700gf)を超える。
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルの一方の面について、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、240時間後の耐白錆性で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、パンチ径:33mm、しわ押さえ荷重:19.6kN(2tf)、ダイス径:66mm、成形速度:300mm/sにて円筒カップ絞り試験を行い、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を施し、48時間後の耐白錆性を評価した。
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上
d)耐フレーキング性
耐フレーキング性は、限界絞り比で評価した。合金化溶融亜鉛めっき層中に、Γ相やδ1相に比べてFe含有量の低いζ相が多く含有すると、成形時に金型ダイスと合金化溶融亜鉛めっき層表面との摩擦係数が高くなりフレーキングが発生するため限界絞り比が低下する。
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、パンチ径:33mm、しわ押さえ荷重:19.6kN(2tf)および成形速度300mm/sにて同筒カップ絞り試験を行い、限界絞り比を調査した。評価基準は以下のとおりである。
◎:2.0以上
○:1.9以上2.0未満
△:1.8以上1.9未満
×:1.7以上1.8未満
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、幅:40mmのセロハン粘着テープを貼り、先端Rが0.5mmの90度曲げ金型(凹凸)を使用し、セロハン粘着テープを貼った面が凹部となるように曲げ加工した後、セロハン粘着テープを剥離し、セロハン粘着テープに付着した付着物を、蛍光X線分析装置を用いて測定し、ZnのKα線強度(cps)を25倍してパウダリング指数とし、耐パウダリング性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎:3000以上4000未満
○:4000以上5000未満
△:5000以上6000未満
×:6000以上
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、ブルカーオプティクス社製の赤外吸収スペクトル測定装置(IFS66/S)を使用して、2.5〜25μmの波長領域の分光反射スペクトル(R(λ))を測定した。なお、測定には積分球を使用した。この分光反射スペクトル(R(λ))を次式に代入して熱放射率とした。
これに対し、比較例および参考例では、導電性、耐食性、耐フレーキング性、耐パウダリング性および熱放射率の少なくとも1つが劣ることを確認できた。
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した電子機器筐体は、電磁波シールド性および耐食性に著しく優れる。
Claims (3)
- 素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を具え、
前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、ディフラクトメータ法によるX線回折で、Γ相のd(Å)=2.592(ただし、d(Å)は格子面間隔)、δ1相のd(Å)=2.136およびζ相のd(Å)=3.025のピークの強度(cps)をそれぞれ、Ia、IbおよびIcとしたとき、
Ib/Ia>50かつIc/Ia<1.2
を満足し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層の表面が、算術平均粗さ:Raで0.5〜1.5μm、かつ、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIで150〜350を満足し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下であり、
さらに、前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)を下記(1)〜(6)の条件を満足するように含有し、Zr付着量が40〜1200mg/m2である、皮膜厚が0.1〜3μm厚の化成処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
(1)微粒子シリカ(b)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(b)/(a)=0.1〜1.2
(2)微粒子シリカ(b)およびシランカップリング剤由来成分(c)のSi換算量の合計(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(Si)/(a)=0.15〜1.0
(3)バナジン酸化合物(d)のV換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(d)/(a)=0.02〜0.15
(4)リン酸化合物(e)のP換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(e)/(a)=0.03〜0.30
(5)ニッケル化合物(f)のNi換算量とジルコニウム化合物(a)のZr換算量との質量比(f)/(a)が0.005〜0.10
(6)アクリル樹脂(g)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(g)/(x)=0.005〜0.18 - 前記化成処理皮膜が、さらに、ワックス(h)を下記(7)の条件を満足するように含有することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼板。
(7)ワックス(h)と皮膜固形分の合計量(x)との質量比(h)/(x)=0.01〜0.10 - 請求項1または2に記載の表面処理鋼板を用いて成形加工したことを特徴とする電子機器筐体。
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