JP6604445B2 - 表面処理鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、表面に皮膜を有する表面処理鋼板に関する。
従来、亜鉛めっき鋼板は、家電製品、建材、自動車などの多様な分野で使用されている。また、亜鉛めっき鋼板の耐食性などを向上させる方法として、亜鉛めっき鋼板の表面に皮膜を形成する技術が広く用いられている(例えば、特許文献1〜特許文献6参照)。
特開2011−183307号公報 特開2003−13252号公報 特許第5642082号公報 特開2012−92444号公報 国際公開第2011/122119号 特開2011−225967号公報
無塗装で使用される表面処理鋼板の表面外観品位に関する重要な要求特性の一つとして耐結露白化性がある。結露白化(白錆)とは、表面処理鋼板の表面に発生した結露水との接触部分が、白化する現象である。しかしながら、従来の表面に皮膜を有する亜鉛めっき鋼板は、結露白化を十分に抑制できるものではなかった。また、従来の表面に皮膜を有する亜鉛めっき鋼板では、より一層耐食性を向上させることが要求されていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐結露白化性および耐食性を有する表面処理鋼板を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した。本発明者らは、まず、皮膜を構成する成分について検討を行い、P、Ti、V、Siおよびポリウレタン樹脂を含む処理薬剤を用いて形成した皮膜が耐結露白化性および耐食性を向上させることを見出した。
さらに、本発明者らは、ポリウレタン樹脂を微細な粒子状とし、皮膜中に均一に分散させることにより、V、Ti等の腐食抑制作用を有する成分を皮膜中に均一に分散させることによって、更なる耐結露白化性および耐食性を向上させる可能性に着目した。そして、本発明者らは、酢酸を処理薬剤の成分として使用する特殊な製法を採用することにより、上記の組成系において初めてポリウレタン樹脂を粒子状で均一に分散させた皮膜を確認した。さらに、驚くことに、本発明者らは、このようにして形成された皮膜が、優れた耐結露白化性および耐食性を発現することのみならず、結露白化とは全く異なる環境で生じるスタック白化に対しても高い耐性を発現することを見出した。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された亜鉛を含むめっき層と、前記めっき層上に形成された皮膜とを有し、
前記皮膜が、平均粒径20nm以上200nm以下のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子を含む樹脂成分と、PとTiとVとSiとを含み、
前記皮膜中にPをリン酸換算で2.5質量%以上7.5質量%以下含み、
前記皮膜の断面における前記樹脂成分の面積率が35%以上80%以下であり、
前記皮膜中に前記樹脂粒子が分散しており、かつ、前記樹脂粒子の重心間距離の最大値が、当該樹脂粒子の平均粒径の3.0倍以下であり、前記鋼板の表面粗さ(Ra)が0.1μm以上2μm以下である、表面処理鋼板。
(2) 前記皮膜の表面粗さ(Ra)が1nm以上10nm以下である、(1)に記載の表面処理鋼板
(3) 前記めっき層がアンチモンを含む、(1)または(2)に記載の表面処理鋼板。
) 前記樹脂成分が、オレフィン系ワックスおよび/またはフェノール樹脂を含む、(1)〜()のいずれかに記載の表面処理鋼板。
) 前記皮膜中にSiをSiO換算で10質量%以上40質量%以下、
Tiを1.7質量%以上2.4質量%以下、
Vを0.70質量%以上0.90質量%以下含み、
TiとVとの質量比(Ti/V)が2.1以上2.9以下である、(1)〜()のいずれかに記載の表面処理鋼板。
以上、本発明の表面処理鋼板は、優れた耐結露白化性および耐食性を有する。
また、本発明の表面処理鋼板は、以上の構成を備えることにより、驚くべきことにさらに優れた耐スタック白化性をも有する。ここで、「耐スタック白化性」とは表面処理鋼板のコイル等が高温高湿環境下で輸送、保管される際の耐食性を示す。スタック白化は反応速度を支配する温度が高く、反応場である水量が少ないのに対し、結露白化は常温で反応場である水量が多い点で異なっており、両者の耐性を向上させることができたのは驚くべき効果である。
本実施形態の表面処理鋼板の断面構造の一例を説明するための模式図である。 樹脂粒子の重心間距離と樹脂粒子の平均粒径との比較方法を説明するための皮膜の模式的な断面図である。 樹脂粒子の重心間距離と樹脂粒子の平均粒径との比較方法を説明するための皮膜の模式的な断面図である。 実施例4の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して得た明視野(STEM−BF)像である。 実施例4の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して得た高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像である。 実施例4の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して得た高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像である。 比較例11の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して得た明視野(STEM−BF)像である。 比較例11の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して得た明視野(STEM−BF)像である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書中、「a〜b」なる数値範囲についての記載は、aとbとの間の範囲のみならず上限値および下限値も含めることを意図した記載である。すなわち、本明細書において、「a〜b」なる記載は「a以上b以下」を意味すると解釈される。
1. 表面処理鋼板
図1は、本実施形態の表面処理鋼板の断面構造の一例を説明するための模式図である。
図1に示す表面処理鋼板10は、鋼板1と、鋼板1の表面1aに形成された亜鉛を含むめっき層2と、めっき層2上に形成された皮膜3とを有する。
図1に示す表面処理鋼板10では、鋼板1の片面の表面1a側のみにめっき層2および皮膜3が形成されている場合を例に挙げて説明するが、本発明の表面処理鋼板は、鋼板の両面にめっき層および皮膜が形成されていてもよい。また、めっき層2が、鋼板1の両面に形成されている場合、皮膜3は片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
1.1 鋼板
本実施形態において、表面1aにめっき層2の形成される鋼板1としては、特に限定されるものではない。例えば、鋼板1として、極低C型(フェライト主体組織)、Al−k型(フェライト中にパーライトを含む組織)、2相組織型(例えば、フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)等、いずれの型の鋼板を用いても良い。
鋼板1の表面粗さRa(試験長:1インチ)(以下、「Ra−S」ともいう。)は、特に限定されないが、好ましくは、0.1〜2μmである。皮膜3は、ポリウレタン樹脂が均一に分散された結果、皮膜3中の各成分の分布が均一となっており、このため皮膜3内における入射光の乱反射が比較的抑制されている。さらに、皮膜3は、比較的小さな膜厚、例えば500nmの厚さの場合であっても、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性を発現する。このように皮膜3中において均一に成分が分布し、比較的膜厚が小さい場合、皮膜3の組成等に応じて、表面処理鋼板10上に干渉模様が発生する場合がある。
これに対し、本発明者らは、鋼板1の表面の粗さを所定の範囲内とすることにより、皮膜3のめっき層2側の反射界面の形状を制御し、干渉模様を抑制することを見出した。具体的には、また、鋼板1の表面粗さ(Ra−S)(試験長:1インチ)が0.1μm以上であると、表面処理鋼板10上に干渉模様が発現することを回避でき、良好な外観が得られる。鋼板1の表面粗さ(Ra−S)は、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。
一方で、鋼板1の表面粗さ(Ra−S)(試験長:1インチ)が2μm以下であると、鋼板1の表面粗さが大きいために鋼板1の一部が皮膜3を貫通して露出することを、より確実に防止できる。したがって、優れた耐食性がより確実に得られる。鋼板1の表面粗さ(Ra−S)は、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。
なお、鋼板1の表面粗さ(Ra−S)(試験長:1インチ)とは、鋼板1の表面1aにめっき層2および皮膜3が形成されている表面処理鋼板10の皮膜3表面における表面粗さ(Ra)とする。また、本明細書において、表面粗さRaは、JIS B 0601に準拠して測定することに得られる。
1.2 めっき層
めっき層2は、亜鉛を含み、鋼板1の片面または両面の表面に形成されている。亜鉛を含むめっき層とは、純亜鉛系めっき層と、亜鉛含有量が40質量%以上の亜鉛合金めっき層とを包含する意味である。亜鉛合金めっき層としては、例えば、55%Al−Zn合金めっき層、5%Al−Zn合金めっき層、Al−Mg−Zn合金めっき層、Ni−Zn合金めっき層などが挙げられる。
めっき層2は、アンチモンを含むものであってもよい。アンチモンを含むめっき層2では、アンチモンを含まない場合と比較して、表面処理鋼板10の耐食性が低くなる傾向がある。本実施形態では、めっき層2がアンチモンを含むものであっても、めっき層2上に形成された皮膜3によって、優れた耐結露白化性、耐スタック白化性および耐食性が得られる。
めっき層2のめっき付着量は特に制限されず、従来の一般的な範囲内でよい。
1.3 皮膜
皮膜3は、めっき層2上に形成されている。
皮膜3は、図1に示すように、平均粒径20〜200nmのポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子を含む第1成分31(樹脂成分)と、第1成分31を除く第2成分32とからなる。皮膜3の断面における第1成分31の面積率は35〜80%である。第2成分32は、りん(P)とチタン(Ti)とバナジウム(V)とシリコン(Si)とを含む。皮膜3中にはPがリン酸換算で2.5〜7.5質量%含まれている。皮膜3中には、第1成分31および第2成分32が略均一に分散している。
皮膜3は、皮膜3に含まれる各成分を所定の割合で含む水系表面処理薬剤を、めっき層2上に塗布し、乾燥させることにより得られる。以下に、本実施形態の皮膜3が形成されるメカニズムを説明する。
皮膜3に含まれる各成分を所定の割合で含む水系表面処理薬剤をめっき層2上に塗布すると、水系表面処理薬剤中のりん(P)がめっき層2の表面に沈着し、第1成分31(樹脂成分)が自己整合的に略均一に分散された塗膜が形成される。これは、水系表面処理薬剤と、水系表面処理薬剤中のりんが沈着しためっき層2との表面エネルギーのバランスと
、水系表面処理薬剤中に存在する第1成分31の比重のバランスとが適正であることによるものと推定される。そして、水系表面処理薬剤を塗布して得られた塗膜を乾燥させると、塗膜中における第1成分31の略均一な分散状態を維持したまま、第1成分31および隣接する第1成分31、31間に存在する第2成分32が略均一に配置された皮膜3が形成されると推定される。
なお、後述するように本実施形態において水系表面処理薬剤は、酢酸成分を含有している。酢酸成分は、pH緩衝作用により水系表面処理薬剤のpHを安定化させることができる。水系表面処理薬剤中においてシリコン(Si)の前駆体、例えばシランカップリング剤の縮合反応を抑制することで安定化させ、その結果、第1成分の樹脂粒子の凝集や会合の抑制に寄与していると考えられる。このように酢酸成分が水系表面処理薬剤の各成分を安定化させることにより、形成される皮膜3においても第1成分31が比較的均一かつ微小な樹脂粒子として存在することが可能となる。これに対し、水系表面処理薬剤が酢酸成分を含有しない場合、このような当該水系表面処理薬剤の各成分が安定せず、結果として形成される被膜中において第1成分が均一かつ微小に分散することができない。
第1成分31および第2成分32が略均一に分散している皮膜3では、第1成分31および第2成分32による耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性についての向上効果が皮膜全面において略均一に得られる。その結果、本実施形態の表面処理鋼板10では、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が得られる。このような効果の発現原理は定かではないが、推定される効果の発現機構を以下に説明する。
すなわち、まず、第1成分31と第2成分32に含まれるシリコンとによる造膜作用により、皮膜3が均一に形成され、優れたバリア性と密着性を発揮する。このため、皮膜3のいずれの場所においても、水や酸素等の侵入を抑制することができるとともに、皮膜3から表面処理鋼板10の各成分が皮膜3の表面上に浸出することが抑制される。この結果、皮膜3により耐食性が向上するとともに、耐結露白化性および耐スタック白化性が向上する。
一方で、チタン(Ti)およびバナジウム(V)は、皮膜3全面において略均一に分布していることから、表面処理鋼板10の一部において腐食が開始した場合であっても、これらの成分が素早く当該部分にアクセスすることができ、腐食を抑制することができる。さらに、チタン(Ti)およびバナジウム(V)は、皮膜3全面において略均一に分布していることから、表面処理鋼板10の一部においてチタン(Ti)およびバナジウム(V)が不足した場合であっても、素早く当該部分にチタン(Ti)およびバナジウム(V)が供給される。
そして、第1成分31と第2成分32に含まれるシリコン(Si)とによる造膜作用と、チタン(Ti)およびバナジウム(V)による腐食抑制作用との相乗効果により、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が得られる。
本実施形態において、皮膜3中の第1成分31の分散状態は、樹脂粒子の重心間距離の最大値を用いて評価する。本実施形態では、樹脂粒子の重心間距離の最大値は、平均粒径の3.0倍以下であり、より好ましくは2.5倍以下、さらに好ましくは2.0倍以下である。樹脂粒子の重心間距離の最大値が3.0倍以下であると、第1成分31および第2成分32が皮膜3中に均一に配置されていることによる効果が、高くなり、耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性に優れた表面処理鋼板10となる。一方で、第1成分31によるバリア性及び密着性向上効果と第2成分32による耐食性向上効果とを十分に優れたものとして両立させるために、樹脂粒子の重心間距離の最大値は、好ましくは平均粒径の1.0倍超、より好ましくは1.25倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上である。
皮膜3における樹脂粒子の重心間距離の最大値は、以下のようにして求めることができる。
まず、断面TEM−EDX(Transmission Electron Microscope - Energy dispersive X-ray spectrometry)の炭素元素マッピングあるいは高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF、High-angle Annular Dark Field Scanning TEM)像による皮膜3の任意の第1の成分31の3箇所の断面において、樹脂粒子を特定し、その輪郭は同樹脂粒子の最外側とする。測定対象の樹脂粒子が略真円の場合は、樹脂粒子の粒径および重心は、その粒径、重心そのものとする。また、測定対象の樹脂粒子が真円ではない場合は、樹脂粒子の最大径、最小径を計測し、樹脂粒子の断面が各々を長軸、短軸とする楕円であると見なす。そして、当該楕円の面積を算出した上で、最大径と最小径が交差する重心を持つ該面積の真円として、樹脂粒子の粒径、重心を決定する。
そして、皮膜3の断面における第1の成分31の3箇所の断面において、互いに隣接し、かつ互いに接触していない樹脂粒子の重心間距離(各樹脂粒子の断面形状を円形とみなした場合の中心間距離)の最大値を算出し、3箇所の断面から得た値の平均値を求め、樹脂粒子の重心間距離の最大値とする。
なお、樹脂粒子内の比重は一定と見なして、上記の重心等の算出を行うことができる。
図2および図3は、それぞれ、樹脂粒子の重心間距離と樹脂粒子の平均粒径との比較方法を説明するための皮膜の模式的な断面図である。なお、図2においては、樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍以下である例を、図3においては、樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超である例を、それぞれ示した。なお、めっき層および鋼板1については、記載を省略した。
図2においては、まず、皮膜3内において互いに隣接し、且つ互いに接触していない樹脂粒子311同士の重心間距離lを求める。次いで、樹脂粒子311の平均粒径と比較して、樹脂粒子311の重心間距離lの最大値の平均粒径に対する比を求める。なお、平均粒子径を有する仮想的な樹脂粒子312を破線にて示した。
図3においては、まず、皮膜3A内において互いに隣接し、且つ互いに接触していない樹脂粒子311A同士の重心間距離lAを求める。次いで、樹脂粒子311Aの平均粒径と比較して、樹脂粒子311Aの重心間距離lAの最大値の平均粒径に対する比を求める。なお、平均粒子径を有する仮想的な樹脂粒子312Aを破線にて示した。
また、皮膜3の表面33の平滑性は、皮膜3中の樹脂粒子31の分散状態と相関関係を有する。したがって、皮膜3の表面粗さ(Ra)を用いても、皮膜3中の樹脂粒子の分散状態を評価できる。また、皮膜3中の樹脂粒子の分散状態は、皮膜3の表面粗さ(Ra)とともに、または皮膜3の表面粗さ(Ra)に代えて、粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)および/または二乗平均平方根粗さ(Rq)を用いて評価してもよい。
皮膜3の表面粗さ(Ra)(以下、「Ra−F」ともいう。)は1〜10nmであることが好ましい。皮膜3の表面粗さ(Ra−F)が1nm以上であると、容易に製造でき、生産性に優れる。皮膜3の表面粗さ(Ra−F)が10nm以下であると、第1成分31および第2成分32が皮膜中に均一に配置されていることによる効果が、より一層高くなり、より耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性に優れた表面処理鋼板10となる。皮膜3の表面粗さ(Ra−F)は、5nm以下であることが好ましい。
皮膜3の表面粗さ(Ra−F)が1〜10nmであると好ましいのと同様の理由により、皮膜3の粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)は20〜200nmであることが好ましく、皮膜3の二乗平均平方根粗さ(Rq)は、1〜10nmであることがより好ましい。 なお、原子間力顕微鏡を用いて四辺が1μmの任意の矩形領域を走査し、測定データから算術平均粗さ(Ra)、最大断面高さ(Rt)二乗平均平方根粗さ(Rq)を算出することができる。
皮膜3の断面における第1成分31(樹脂成分)の面積率は35〜80%である。本実施形態では、皮膜3の第1成分31の面積率が、35%以上であるので、第1成分31による皮膜形成機能が十分に得られ、バリア性および密着性に優れる皮膜3となる。このため、耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性に優れた表面処理鋼板10が得られる。第1成分31の面積率は、第1成分31によるバリア性および密着性向上効果をより一層向上させるため、40%以上であることが好ましい。また、本実施形態では、皮膜3の第1成分31の面積率が80%以下であるので、第2成分32による耐食性向上効果が十分に得られ、優れた耐食性が得られる。第1成分31の面積率は、第2成分32による耐食性向上効果をより一層向上させるため、60%以下であることが好ましい。
皮膜3の断面における第1成分31(樹脂成分)の面積率は、以下のようにして得ることができる。
まず、表面処理鋼板10の表面に保護膜として炭素膜を蒸着し、さらにFIB(集束イオンビーム加工装置)を用いて、数μmの炭素膜を成膜する。その後、FIBを用いて加速電圧30kV(仕上げ加工;5kV)でマイクロサンプリングを実施し、これを薄膜化して皮膜3断面の試料とする。得られた試料を、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を有するTEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、各表面処理鋼板10の皮膜3について、3箇所の断面のEDS分析(元素マッピング)を行って、C、P、Ti、V、Siの各元素マップを得る。得られた元素マップを100マス(10×10)に分割し、Cとそれ以外の元素について二値化して、皮膜の断面における樹脂成分の面積率を算出する。
皮膜3の厚みは、150〜900nmであることが好ましいがこれに限定されるものではない。皮膜3の厚みが150〜900nmであると、皮膜3による耐食性向上効果が顕著となり、より一層優れた耐食性が得られる。
以下、皮膜3を構成する第1成分31と第2成分32とについて詳細に説明する。
(i) 第1成分
第1成分31は、平均粒径20〜200nmのポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子を含む。ポリウレタン樹脂は、抗張力と伸びのバランスが良好な皮膜を形成する。このため、ポリウレタン樹脂を含む第1成分31を含む皮膜3は、バリア性および密着性に優れる。よって、本実施形態の表面処理鋼板10は、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性を有する。
皮膜3中のポリウレタン樹脂の含有量は25〜45質量%であることが好ましい。ポリウレタン樹脂の含有量が25質量%以上、より好ましくは30質量%以上であると、ポリウレタン樹脂によるバリア性および着性向上効果が、より効果的に得られる皮膜3となる。ポリウレタン樹脂の含有量が45質量%以下、より好ましくは40質量%以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
ポリウレタン樹脂の平均粒径が20nm未満であると、ポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子が凝集しやすくなり、樹脂粒子が皮膜3中に均一に分散しにくくなる。その結果、樹脂粒子が偏在して配置された皮膜3となり、表面処理鋼板10の耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が不十分となる恐れがある。本実施形態では、ポリウレタン樹脂の平均粒径が20nm以上であるので、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が得られる。ポリウレタン樹脂の平均粒径が50nm以上であると、より一層、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が得られる。また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂の平均粒径が200nm以下であるので、後述する方法により皮膜3を形成することで、樹脂粒子が略均一に分散された皮膜3が形成される。ポリウレタン樹脂の平均粒径は、100nm以下であることが、より好ましい。
皮膜中のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径は、以下に示す皮膜断面を観察する方法により算出できる。まず、鋼板の表面に保護膜として炭素膜を蒸着する。続いて、FIB(集束イオンビーム加工装置、SMI3050SE:日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、数μmの炭素膜を成膜する。その後、FIBを用いて加速電圧30kV(仕上げ加工;5kV)でマイクロサンプリングを実施し、これを薄膜化して皮膜断面の試料とする。得られた試料を、TEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察する。観察された樹脂粒子から円相当径の大きい樹脂粒子を10個選択し、その平均値をポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径とする。
本発明者が検討した結果、上記の方法により算出したポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径の結果は、本実施形態においては、水系表面処理薬剤の材料として用いたポリウレタン樹脂の平均粒径と略一致することが確認できた。したがって、皮膜中のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径は、水系表面処理薬剤の材料として用いたポリウレタン樹脂の平均粒径と同じと見なすことができる。
第1成分31(樹脂成分)は、ポリウレタン樹脂粒子だけでなく、オレフィン系ワックスおよび/またはフェノール樹脂を含んでもよい。
オレフィン系ワックスは、必要に応じて含有され、含まれていなくてもよい。オレフィン系ワックスは、皮膜3に潤滑性を付与するために、樹脂成分中に含まれていることが好ましい。オレフィン系ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等が挙げられる。オレフィン系ワックスは、平均粒径20〜200nmの樹脂粒子であることが好ましい。
第1成分31がオレフィン系ワックスを含む場合、皮膜3中のオレフィン系ワックスの含有量は3.5〜6.0質量%であることが好ましい。オレフィン系ワックスの含有量が3.5質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上であると、オレフィン系ワックスによる潤滑性向上効果が十分に得られる皮膜3となり、優れた加工性を有する表面処理鋼板10となる。オレフィン系ワックスの含有量が6.0質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
第1成分31は、必要に応じてフェノール樹脂を含有していてもよい。皮膜3中にフェノール樹脂が含まれていると、皮膜3の密着性がより一層向上する。
(ii) 第2成分
第2成分32は、PとTiとVとSiとを含む。
第2成分32に含まれるりん(P)は、皮膜3中で白錆原因となる亜鉛がめっき層2から溶出するのを抑制し、白錆の発生を抑制する。
皮膜3中のP含有量はリン酸換算で2.5〜7.5質量%である。皮膜3中のP含有量がリン酸換算で2.5質量%以上である皮膜3は、十分にりんを含む水系表面処理薬剤を用いて形成される。このため、めっき層2上に水系表面処理薬剤を塗布した段階で、水系表面処理薬剤中のりんがめっき層2の表面に沈着し、めっき層2の表面エネルギーが適正となって、第1成分31が自己整合的に略均一に分散された塗膜が形成される。その結果、塗膜を乾燥させることにより、第1成分31および第2成分32が略均一に配置された皮膜3が形成される。また、本実施形態では、皮膜3中のP含有量が2.5質量%以上であるので、良好な耐スタック白化性および耐フィラメントテープ性が得られる。皮膜3中のP含有量は、耐スタック白化性および耐フィラメントテープ性を向上させるとともに、第1成分31および第2成分32がより均一に配置された皮膜3とするために、リン酸換算で3.0質量%以上であることが好ましい。皮膜3中のP含有量がリン酸換算で7.5質量%以下、好ましくは7.0質量%以下であると、良好な耐黒変性が得られるとともに、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
チタン(Ti)およびバナジウム(V)は、腐食抑制作用を有する成分であり、表面処理鋼板10の耐食性を向上させる。TiとVは、それぞれ腐食抑制剤としての機能が効果的に発揮される腐食環境が異なる。このため、腐食抑制剤として、TiとVの2種を含有することで、TiとVとの相乗効果により様々な腐食環境下での腐食を抑制でき、より優れた耐食性が得られる。
皮膜3中のTi含有量は1.7〜2.4質量%であることが好ましい。Ti含有量が1.7質量%以上、より好ましくは1.9質量%以上であると、Tiを含有することによる耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となり、より耐食性に優れた表面処理鋼板10となる。Ti含有量が2.4質量%以下、より好ましくは2.3質量%以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
皮膜3中のV含有量は0.70〜0.90質量%であることが好ましい。V含有量が0.70質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上であると、バナジウムによる耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となり、より耐食性に優れた表面処理鋼板10となる。V含有量が0.90質量%以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
皮膜3中のTiとVとの質量比(Ti/V)は2.1〜2.9であることが好ましい。(Ti/V)が2.1以上、より好ましくは2.2以上であると、チタンによる耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となり、優れた加工性を有する表面処理鋼板10となる。(Ti/V)が2.9以下、より好ましくは2.8以下であると、バナジウムによる耐食性向上効果が十分に得られるため、より優れた耐食性が得られる。
シリコン(Si)は、造膜作用を有し、バリア性および密着性を発揮することにより、耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性を向上させる。
皮膜3中のSi含有量は、SiO換算で10〜40質量%であることが好ましい。皮膜3中のSi含有量が、SiO換算で10質量%以上、好ましくは20質量%以上である皮膜3は、十分にSiを含む水系表面処理薬剤を用いて形成される。このため、水系表面処理薬剤を塗布して乾燥させることにより、シロキサン結合による三次元架橋が形成されたバリア性に優れる皮膜3となる。その結果、より一層優れた耐食性向上効果を有する皮膜3か得られる。皮膜3中のSi含有量が、SiO換算で40質量%以下、好ましくは30質量%以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、より優れた耐食性が得られる。
皮膜3中のP、Ti、V、Siの含有量は、皮膜3を蛍光X線分析し、皮膜3中のP、Ti、V、Siが酸化物として存在するとみなして算出できる。本発明者が検討した結果、上記の方法により算出した皮膜中のP(リン酸換算)、Ti、V、Si(SiO換算)の各成分は、水系表面処理薬剤の全固形分に対する質量比(リン酸、Ti、V、Si(SiO換算))と対応することが確認できた。したがって、皮膜3中のP(リン酸換算)、Ti、V、Si(SiO換算)の含有量(質量%)は、水系表面処理薬剤の全固形分に対する質量比を百分率で示したものと見なすことができる。
皮膜3は、フッ化物イオンを含有していてもよい。皮膜3中のフッ化物イオンは、例えば、皮膜3を形成する際に使用する水系表面処理薬剤中に、必要に応じて含有されるフッ化物イオンを含む成分に由来する。フッ化物イオンを含む成分は、皮膜3となる各成分を、水系表面処理薬剤中に水溶性化または可溶化するために使用される場合がある。皮膜3中のフッ化物イオンの含有量は、特に限定されないが、例えば0.3mg・m−2未満であると、フッ化物イオンを含むことに起因する結露白化の発生をより確実に防止できる。より詳細には、フッ化物イオンの含有量が0.3mg・m−2未満であると、結露水中に溶出するフッ化物イオン量が僅かとなる。このため、結露水の乾燥過程で皮膜3上にフッ化物イオンが濃縮・析出しても、結露白化として現れない微量にとどまる。したがって、結露白化による外観の悪化(白錆発生)を防止できる。
2. 表面処理鋼板の製造方法
次に、本実施形態の表面処理鋼板を製造する方法について、例を挙げて説明する。
まず、鋼板1を用意し、鋼板1の片面または両面の表面に従来公知の方法により、亜鉛を含むめっき層2を形成する。
次に、本実施形態では、上記の皮膜3に含まれる各成分を所定の割合で含む水系表面処理薬剤を、めっき層2上に塗布して乾燥させることにより、めっき層2上に皮膜3を形成する方法について説明する。
2.1 水系表面処理薬剤
本実施形態では、例えば、水系表面処理薬剤として、ポリウレタン樹脂(A)と、フェノール樹脂(B)と、シランカップリング剤(C)と、チタンのアセチルアセトン錯体(D)と、バナジウム化合物(E)と、オレフィン系ワックス(F)と、酢酸成分(G)と、りん酸成分(H)と、水とを含むものを用いる。
<ポリウレタン樹脂(A)>
水系表面処理薬剤に含まれるポリウレタン樹脂(A)は、水に分散された平均粒径20〜200nmの水分散性樹脂粒子(ディスパージョン)として存在している。ポリウレタン樹脂(A)としては、カチオン性ポリウレタン樹脂が好ましい。カチオン性ポリウレタン樹脂としては、樹脂粒子の表面をアミン変性したものが好ましい。アミンによる変性は、3級以下のアミンによる変性であることが好ましい。4級アミンによる変性の場合、水系表面処理薬剤を塗布して乾燥することにより形成した皮膜3中に存在するプラス電荷に
よって、耐水性が劣化する。アミンによる変性は、皮膜3中における樹脂粒子の分散性と皮膜3の耐水性との両立の観点から、3級アミンによる変性であることが好ましい。
カチオン性ポリウレタン樹脂としては、下記一般式(1)で示される構造単位を含むポリカーボネート系のカチオン性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。カチオン性ポリウレタン樹脂が下記一般式(1)で示される構造単位を含む場合、水系表面処理薬剤を塗布して乾燥することにより形成した皮膜3に、より優れたバリア性が付与されるため、耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性が向上する。
上記一般式(1)中、Rは炭素数4〜9の脂肪族アルキレン基であり、nは、上記ポリカーボネート系のカチオン性ポリウレタン樹脂の原料であるカーボネート系ポリオールの数平均分子量が500〜5000の範囲となるのに相当する整数である。
<フェノール樹脂(B)>
フェノール樹脂(B)は、必要に応じて水系表面処理薬剤中に含有されるものであり、含まれていなくてもよい。水系表面処理薬剤中に、フェノール樹脂(B)が含まれていると、水系表面処理薬剤の安定性が向上する。
フェノール樹脂(B)としては、カチオン性フェノール樹脂(B)が好ましい。カチオン性フェノール樹脂は、下記一般式(2)で示される反復単位を有するものであることが好ましい。カチオン性フェノール樹脂は、下記一般式(2)で示される反復単位の平均重合度が2〜50である重合体分子であることがより好ましい。平均重合度が上記範囲内であると、優れた耐水性を有する皮膜3が得られるため、より優れた耐食性が得られる。なお、一般式(2)の反復単位の平均重合度は、H−NMRにより積分比から求めることができる。
上記一般式(2)中、X、及びYは、それぞれ独立して水素または一般式(3)または一般式(4)で示されるZ基を表し、各ベンゼン環当たりのZ基の平均置換数は0.2〜1.0である。なお、Z基の平均置換数は、H−NMRにより積分比から求めるこ
とができる。
上記一般式(3)及び一般式(4)における、R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を表し、Aは水酸化物イオン又はオキソ酸(例えば、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、カルボン酸等)イオンを表す。
水系表面処理薬剤には、カチオン性ポリウレタン樹脂およびカチオン性フェノール樹脂のカウンターアニオンとして、乾燥造膜中に揮発するアニオンを用いることが好ましい。乾燥造膜中に揮発するアニオンとしては、具体的には、ギ酸又は酢酸イオンが好ましい。
<シランカップリング剤(C)>
シランカップリング剤(C)は、水系表面処理薬剤を塗布して形成した塗膜を乾燥(焼付け)させる過程で、加水分解によりシラノール化し、シロキサン結合により三次元架橋したシロキサン型の皮膜を形成する。
シランカップリング剤(C)としては、2以上、好ましくは3以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランを用いることが好ましい。シランカップリング剤(C)としては、上記アルコキシシランの部分加水分解物を使用してもよい。
シランカップリング剤(C)のアルコキシ基は、水系表面処理薬剤中で加水分解し、シラノール(−Si−OH)となる。水系表面処理薬剤のpHが6.5以下であると、水系表面処理薬剤中でのシラノールの分散安定性が良好となる。
シランカップリング剤(C)としては、例えば、N−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
シランカップリング剤(C)としては、上記の中でも、ポリウレタン樹脂(A)及びフェノール樹脂(B)と反応性の官能基を有するものを用いることが好ましい。このようなシランカップリング剤(C)としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好ましく、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
ポリウレタン樹脂(A)及びフェノール樹脂(B)とシランカップリング剤(C)との反応の種類は、重合反応、縮合反応、付加反応等でよく、特に制限されない。
<チタンのアセチルアセトン錯体(D)>
水系表面処理薬剤中のチタンのアセチルアセトン錯体(D)は、水系表面処理薬剤を塗布して形成した塗膜を乾燥(焼付け)させる過程でめっき層2と反応し、チタン化合物として皮膜3中に析出する。なお、皮膜3中にチタンのアセチルアセトン錯体(D)に起因するアセチルアセトナトおよびアセチルアセトンが存在していても、これらはイオン性が弱いため、結露白化性に悪影響を与えない。チタンのアセチルアセトン錯体(D)としては、例えば、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラキスアセチルアセトネートなどが挙げられる。
<バナジウム化合物(E)>
バナジウム化合物(E)としては、強電解質が含まれない化合物または揮発性酸との塩を用いることが好ましい。強電解質が含まれないバナジウム化合物(E)としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸及びその塩(例えば、メタバナジン酸アンモニウム)、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトナト、バナジウムアセチルアセトナト等が挙げられる。揮発性酸との塩としては、酢酸バナジウム等が挙げられる。耐食性向上効果を考慮すると、上記のバナジウム化合物(E)の中でも特に、バナジウムアセチルアセトナト、バナジウムオキシアセチルアセトナト等のバナジウムのアセチルアセトン錯体を用いることが好ましい。
<オレフィン系ワックス(F)>
オレフィン系ワックス(F)は、必要に応じて水系表面処理薬剤中に含有されるものであり、含まれていなくてもよい。オレフィン系ワックス(F)は、皮膜3に潤滑性を付与するために、水系表面処理薬剤中に含まれていることが好ましい。
オレフィン系ワックス(F)としては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等が挙げられる。
オレフィン系ワックス(F)からなる樹脂粒子は、シランカップリング剤(I)により表面修飾されていることが好ましい。オレフィン系ワックス(F)が、シランカップリング剤(I)に表面修飾されているものである場合、水系表面処理薬剤中でのオレフィン系ワックス(F)の濡れ性が増す。このため、水系表面処理薬剤を塗布して乾燥することにより得られた皮膜3は、より一層均一に、オレフィン系ワックス(F)からなる樹脂粒子が分散しているものとなる。
オレフィン系ワックス(F)の表面修飾に用いられるシランカップリング剤(I)としては、反応性官能基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤(I)により表面修飾されたオレフィン系ワックス(F)としては、カルボキシル基を有するポリエチレンワックスエマルジョンを、エポキシ基を含有するシランカップリング剤(例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)で表面修飾したものであることが好ましい。
オレフィン系ワックス(F)の質量に対するシランカップリング剤(I)の質量の比(I/F)は0.025〜0.035であることが好ましい。シランカップリング剤(I)の添加量は、水系表面処理薬剤に用いるオレフィン系ワックス(F)のディスパージョンの酸価と等モル以上であることが好ましい。
<酢酸成分(G)>
酢酸成分(G)は、水系表面処理薬剤の安定性を向上させる。この効果は、酢酸成分(G)のpH緩衝作用によって水系表面処理薬剤のpHが3.5〜4.0で安定し、シラノール化したシランカップリング剤(C)の分散安定性が高まって、シランカップリング剤(C)の縮合反応が遅くなることによるものと推測される。なお、本発明者らの検討により、シランカップリング剤(C)の縮合反応が最も遅くなるpHは3.5〜4.0であることがわかっている。
そして、酢酸成分(G)は、上述したように、シランカップリング剤(C)の分散安定性を高めることにより、ひいては、第1成分の樹脂粒子の凝集や会合を抑制する。これに対し、水系表面処理薬剤が酢酸成分(G)を含有しない場合、このような当該水系表面処理薬剤の各成分が安定せず、結果として形成される被膜中において第1成分が均一かつ微小に分散することができない。
酢酸成分(G)としては、例えば、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。水系表面処理薬剤の薬剤安定性を考慮すると、酢酸が特に好ましい。また、酢酸の沸点は118℃であり、緩衝作用を有する有機酸の中では沸点が低く、皮膜3中に残存しにくい。このため、酢酸は、水系表面処理薬剤に含有させる酢酸成分(G)として好適である。
<りん酸成分(H)>
りん酸成分(H)としては、例えば、りん酸、りん酸アンモニウム、りん酸カリウム、りん酸ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム等の無機りん酸化合物が挙げられる。これらの中でも特に、耐スタック白化性および耐フィラメントテープ性を向上させるとともに、第1成分31および第2成分32がより均一に配置された皮膜3が得られる効果を考慮すると、りん酸成分(H)として、りん酸を用いることが好ましい。
水系表面処理薬剤中に含まれるりん酸成分(H)は、めっき層2と反応して、めっき層2の表面にりん酸亜鉛皮膜を生成する。りん酸亜鉛皮膜は、めっき層2からの亜鉛の溶出を抑制し、白錆の発生を抑制する。また、りん酸成分(H)は、皮膜3中に残存する酢酸成分(G)の量を低減させる。その結果、表面処理鋼板10からなるコイルの端部を仮止めするために用いるフィラメンテープの粘着層が、酢酸成分(G)に侵されることを防止でき、フィラメンテープの密着性低下を抑制できる。また、皮膜3中に残存する酢酸成分(G)による耐結露白化性の低下を防止できる。
なお、リン酸成分(H)として、薬剤中での安定性から好ましくは無機リン酸がよい。
本実施形態で用いる水系表面処理薬剤に含まれる各成分の好ましい配合比は、以下の通りである。
(1)水系表面処理薬剤の固形分(V)の質量に対する、前記シランカップリング剤(C)のSiO換算による質量との比(NC)/(NV)が0.10〜0.40
(2)固形分(V)の質量に対する、前記チタンのアセチルアセトン錯体(D)のTi換算による質量(ND)との比(ND)/(NV)が0.017〜0.024
(3)固形分(V)の質量に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算による質量(NE)との比(NE)/(NV)が0.007〜0.009
(4)固形分(V)の質量に対する、前記オレフィン系ワックス(F)の質量との比(NF)/(NV)が0.035〜0.060
(5)固形分(V)の質量に対する、前記酢酸成分(G)の質量との比(NG)/(NV)が0.04〜0.14
(6)固形分(V)の質量に対する、前記りん酸成分(H)の質量との比(NH)/(NV)が0.025〜0.075
(7)バナジウム化合物(E)のV換算による質量に対する、前記チタンのアセチルアセトン錯体(D)のTi換算による質量との比(ND)/(NE)が2.1〜2.9
(8)酢酸成分(G)の質量に対する、前記りん酸成分(H)の質量との比(NH)/(NG)が0.25〜1.1
<(NC)/(NV)>
水系表面処理薬剤の固形分(V)の質量に対する、シランカップリング剤(C)のSiO換算による質量との比(NC)/(NV)は、0.10〜0.40であることが好ましく、より好ましくは0.16〜0.19である。(NC)/(NV)が0.40以下で
あると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、その他の成分による耐食性向上効果が十分に得られる。(NC)/(NV)が0.10以上であると、シロキサン結合による三次元架橋が十分に形成され、優れた耐食性、耐結露白化性および耐スタック白化性を有する皮膜3が得られる。
<(ND)/(NV)>
上記固形分(V)の質量に対する、チタンのアセチルアセトン錯体(D)のTi換算による質量(ND)との比(ND)/(NV)は、0.017〜0.024であり、好ましくは0.019〜0.023である。(ND)/(NV)が0.017以上であると、チタン化合物(D)による耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となる。(ND)/(NV)が0.024以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、その他の成分による耐食性向上効果が十分に得られる。
<(NE)/(NV)>
上記固形分(V)の質量に対する、バナジウム化合物(E)のV換算による質量(NE)との比(NE)/(NV)は、0.0070〜0.0090であり、好ましくは0.0075〜0.0090である。(NE)/(NV)が0.0070以上であると、バナジウム化合物(E)による耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となる。(NE)/(NV)が0.0090以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、その他の成分による耐食性向上効果が十分に得られる。
<(NF)/(NV)>
上記固形分(V)の質量に対する、オレフィン系ワックス(F)の質量との比(NF)/(NV)は、0.035〜0.060であり、好ましくは0.040〜0.055である。(NF)/(NV)が0.035以上であると、十分な潤滑性を有する皮膜3が得られ、加工性の良好な表面処理鋼板10が得られる。また、(NF)/(NV)が0.060以下であると、取扱い性の良好な表面処理鋼板10が得られる。
<(NG)/(NV)>
上記固形分(V)の質量に対する、酢酸成分(G)の質量との比(NG)/(NV)は、0.04〜0.14であり、好ましくは0.05〜0.13であり、より好ましくは0.06〜0.12である。(NG)/(NV)が0.04以上であると、水系表面処理薬剤の安定性がより一層良好となる。(NG)/(NV)が0.14以下であると、皮膜3中に酢酸成分(G)が残留することによる耐結露白化性の低下を防止できる。
<(NH)/(NV)>
上記固形分(V)の質量に対する、りん酸成分(H)の質量との比(NH)/(NV)は、0.025〜0.075であり、好ましくは0.030〜0.070であり、より好ましくは0.035〜0.065である。(NH)/(NV)が0.025以上であるので、めっき層2からの亜鉛の溶出を抑制できる。また、めっき層2上に水系表面処理薬剤を塗布した段階で、水系表面処理薬剤中のりん酸成分(H)がめっき層2の表面に沈着して、めっき層2の表面エネルギーが適正となり、第1成分31が自己整合的に略均一に分散された塗膜が形成される。(NH)/(NV)が0.075以下であると、その他の成分の含有量を十分に確保できるため、その他の成分による耐食性向上効果が十分に得られる。
<(ND)/(NE)>
バナジウム化合物(E)のV換算による質量に対する、チタンのアセチルアセトン錯体(D)のTi換算による質量との比(ND)/(NE)は、2.1〜2.9であり、好ましくは2.2〜2.8であり、より好ましくは2.3〜2.7である。(ND)/(NE)が2.1以上であると、チタン化合物(D)による耐食性向上効果が十分に得られる皮
膜3となる。(ND)/(NE)が2.9以下であると、バナジウム化合物(E)による耐食性向上効果が十分に得られる皮膜3となる。(ND)/(NE)が2.1〜2.9であると、TiとVとの相乗効果により様々な腐食環境下での腐食を抑制でき、より優れた耐食性を有する皮膜3となる。
<(NH)/(NG)>
酢酸成分(G)の質量に対する、りん酸成分(H)の質量との比(NH)/(NG)は、0.25〜1.1であり、0.30〜1.0であることが好ましく、0.35〜0.9であることがより好ましい。(NH)/(NG)が0.25〜1.1であると、酢酸成分(G)による水系表面処理薬剤の安定性向上効果が十分に得られるとともに、皮膜3中に酢酸成分(G)が残留することによる耐結露白化性低下およびフィラメンテープの密着性低下を抑制できる。
水系表面処理薬剤は、上記の成分を上記の配合比で水系溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。各成分は皮膜3中で所定の割合となるように、溶媒及び揮発性成分を除外した不揮発分(固形分(V))の質量(皮膜の質量)に対して所定の割合となるように調整する。
水系表面処理薬剤に使用する水系溶媒は、水のみとすることができる。水系表面処理薬剤に使用する水系溶媒には、水系表面処理薬剤を塗布して形成した塗膜の乾燥性を改善するなどの目的で、強電解質が含まれない水溶性有機溶媒(例えば、アルコール類)を、例えば、水系溶媒全体の30質量%以下の含有量で含有させてもよい。
<pH>
水系表面処理薬剤のpHは、2.0〜6.5であることが好ましい。水系表面処理薬剤のpHが6.5以下であると、シランカップリング剤(C)の分散安定性が良好となる。水系表面処理薬剤のpHが2.0以上であると、水系表面処理薬剤の取扱いが容易であるとともに、水系表面処理薬剤が設備にダメージを与えることを防止でき、好ましい。水系表面処理薬剤のpHは、例えば、酢酸、ギ酸等の揮発性の酸を水系表面処理薬剤に添加することにより、調整できる。
<フッ化物イオンを含む成分>
水系表面処理薬剤には、必要に応じて、フッ化物イオンを含む成分が含まれていてもよい。フッ化物イオンを含む成分は、皮膜3となる各成分を、水系表面処理薬剤中に水溶性化または可溶化させるために使用される。
水系表面処理薬剤に含有されるフッ化物イオンを含む成分としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸などが挙げられる。
水系表面処理薬剤には、レベリング剤、消泡剤等の塗布用処理液に慣用されている添加剤を添加してもよい。
2.2 皮膜の形成方法
本実施形態では、このようにして得られた水系表面処理薬剤を、めっき層2上に塗布することにより塗膜を形成する。めっき層2上に水系表面処理薬剤を塗布する方法としては、ロールコータを用いることが好ましい。ロールコータを用いて塗布する場合、周速比を調節することで膜厚を容易に制御できるとともに、優れた生産性が得られる。
本実施形態では、水系表面処理薬剤をめっき層上に塗布して塗膜を形成してから乾燥を開始するまで、0.1〜10秒間保持する。塗膜の状態で0.1秒間以上、より好ましくは0.2秒間以上保持することにより、塗膜中の第1成分31が自己整合的に略均一に安定して分散する。なお、塗膜を形成してから乾燥を開始するまでの時間を10秒間超えにしても塗膜中の第1成分31が均一に分散する効果は向上せず、生産性が低下する。また、塗膜を形成してから開始するまでの時間が長時間にわたると第1成分31同士の凝集、偏在が起こる傾向にある。したがって、塗膜の状態で保持する時間を10秒間以下とすることが好ましく、5秒間以下とすることがより好ましい。
次に、所定の時間保持した塗膜を乾燥させる。塗膜を乾燥させる際の温度は、水系表面処理薬剤中の揮発性成分であるカチオン性ポリウレタン樹脂およびカチオン性フェノール樹脂のカウンターアニオンおよび酢酸成分(G)が揮発する温度となるように選択する。具体的には、塗膜を乾燥させる際の最高到達板温(PMT)が60〜150℃の範囲内となるようにすることが好ましい。塗膜を乾燥させる際の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、誘導加熱または炉内乾燥が挙げられる。
塗膜を乾燥させることにより塗膜中の揮発性成分が揮発すると、塗膜中のpHが上昇する。これにより、第1成分31が略均一に分散している状態を維持したまま、めっき層2と、チタンのアセチルアセトン錯体(D)と、加水分解によりシラノール化したシランカップリング剤(C)と、カチオン性ポリウレタン樹脂と、カチオン性フェノール樹脂とが反応する。その結果、めっき層2の表面と、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、シロキサン化合物、チタン化合物が、アイオノマ結合、メタロキサン結合又はシロキサン結合による強固なネットワークを形成し、そこにバナジウム化合物とオレフィン系ワックスとが固定され、第1成分31および第2成分32が略均一に分散している皮膜3が形成される。
以上の工程により、本実施形態の表面処理鋼板が得られる。
なお、本実施形態では、皮膜3を形成する際に、フェノール樹脂(B)およびオレフィン系ワックス(F)を含む水系表面処理薬剤を用いる場合を例に挙げて説明したが、フェノール樹脂(B)および/またはオレフィン系ワックス(F)を含まない水系表面処理薬剤を用いて皮膜3を形成してもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
1.表面処理鋼板の製造
表1および以下に示す各成分を表2に示す含有量で含む水系表面処理薬剤X1〜X46を調製した。なお、水系表面処理薬剤中の固形分は11質量%になるように調整した。
(水系表面処理薬剤の成分)
[ポリウレタン樹脂(A)]
A1:ポリウレタン樹脂(平均粒径60nm)
A2:ポリウレタン樹脂(平均粒径10nm)
A3:ポリウレタン樹脂(平均粒径300nm)
[フェノール樹脂(B)]
B1:カチオン性フェノール樹脂
一般式(2)の反復単位の平均重合度n=5、一般式(2)のX=−CHN(CH、一般式(2)のY=H、一般式(2)のZ置換度=0.5
[シランカップリング剤(C)]
C1:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
C2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
C3:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
[チタンのアセチルアセトン錯体(D)]
D1:チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート
D2:チタンテトラキスアセチルアセトネート
D3:チタンフッ化水素酸(フッ化物イオンを含む成分)
[バナジウム化合物(E)]
E1:バナジウムアセチルアセトナト
[オレフィン系ワックス(F)]
F1:平均粒径0.05μmのオレフィン系ワックス
F2:平均粒径0.05μmであり、シランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)で表面修飾されたオレフィン系ワックス。オレフィン系ワックス中に含まれるシランカップリング剤の含有量[シランカップリング剤の質量/オレフィン系ワックスの質量]=0.030
[酢酸成分(G)]
G1:酢酸
[りん酸成分(H)]
H1:りん酸
表3、表4に示す表面粗さ(Ra−S)の以下に示す両面にめっき層を有する鋼板を用意した。いずれの両面にめっき層を有する鋼板も、亜鉛含有量が40質量%以上のめっき層を有する。なお、表3、表4に示す鋼板の表面粗さ(Ra−S)は、後述する方法により皮膜を形成して得た表面処理鋼板において、皮膜表面の任意の場所で1インチの測定長での表面粗さ(Ra)を、接触式粗度計を用いて測定することにより求めた。
(両面にめっき層を有する鋼板)
− EG
NSジンコート(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、電気亜鉛めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量20g/m
− GI
NSシルバージンク(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、溶融亜鉛めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量60g/m
− GI(Sb)
NSシルバージンク(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、アンチモン含有溶融亜鉛めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量60g/m
− GA
NSシルバーアロイ(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量60g/m
− SD
スーパーダイマ(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量60g/m
− ZL
NSジンクライト(登録商標)、新日鐵住金株式会社製、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、板厚0.8mm、片面のめっき付着量20g/m、めっき層中のニッケル含有量12質量%
表3、表4に示すめっき層を有する鋼板の両面に、めっき層形成後直ちに表2に示す水系表面処理薬剤X1〜X46を、ロールコータを用いて塗布した。皮膜が700(mg/m)の付着量(形成後の重量)および150〜900nmの膜厚となるようにロールコータの周速比を調整した。皮膜の厚みは、TEMまたはSEMを用いて表面処理鋼板の断面を観察し、任意の5箇所で皮膜の膜厚を測定し、その平均値を算出することにより求めた。また、塗布してから乾燥を開始するまで、塗膜の状態で表3、表4に示す時間(塗膜保持時間)保持した。塗膜保持時間は、ロールコータから加熱炉までの鋼板の搬送速度を制御することにより調整した。塗膜の乾燥は、誘導加熱炉を用いて表3、表4に示す最高到達板温(PMT)で行った。なお、比較例15においては、皮膜の形成を行わなかった。
以上の工程により、実施例および比較例の表面処理鋼板を得た。
2.評価
このようにして得られた実施例および比較例の表面処理鋼板について、以下の各項目を以下の方法により評価した。
2.1 皮膜性状評価
(皮膜中のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径)
実施例4と、比較例1と、比較例2について、上述した皮膜断面を観察する方法を用いて皮膜中のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子の平均粒径を測定した。その結果は、水系表面処理薬剤の材料として用いたポリウレタン樹脂の平均粒径(実施例4:60nm、比較例1:10nm、比較例2:200nm)と同等であった。したがって、実施例1〜3、実施例5〜47、比較例3〜15のポリウレタン樹脂の平均粒径も、水系表面処理薬剤の材料として用いたポリウレタン樹脂の平均粒径と同等とみなした。
(皮膜中のP、Ti、V、Si(SiO換算)の含有量)
皮膜中のP(リン酸換算)、Ti、V、Si(SiO換算)の含有量(質量%)は、表2に示す水系表面処理薬剤の全固形分に対する質量比を百分率で示したものとみなした。
(皮膜中のフッ化物イオンの含有量)
各表面処理鋼板から切り出した100mm×200mmのサンプルを20組用意した。次に、各サンプルをそれぞれ、60℃、100mLの水に10分間浸漬した。次いで、サンプルを浸漬した水2000mLを回収し、エバポレータで濃縮して、イオンクロマトグラフにより分析した。その結果を用いて、皮膜中のフッ化物イオンの含有量(mg・m−2)を算出した。その結果を表2に示す。
(1)皮膜の断面における樹脂成分の面積率
鋼板の表面に保護膜として炭素膜を蒸着し、さらにFIB(集束イオンビーム加工装置、SMI3050SE:日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、数μmの炭素膜を成膜した。その後、FIBを用いて加速電圧30kV(仕上げ加工;5kV)でマイクロサンプリングを実施し、これを薄膜化して皮膜断面の試料とした。得られた試料を、EDS(エネルギー分散型X線分光器)を有するTEMまたはSEMを用いて観察した。各鋼板の皮膜について、3箇所の断面のEDS分析(元素マッピング)を行って、C、P、Ti、V、Siの各元素マップを得た。得られた元素マップを100マス(10×10)に分割し、Cとそれ以外の元素について二値化して、皮膜の断面における樹脂成分(C)の面積率を算出し、以下のように評価した。
1:35%未満、80%超
2:35%以上80%以下
3:40%以上60%以下
また、各鋼板上から酸処理により皮膜を剥離し、赤外線分光分析と、熱分解GC−MS(ガスクロマトグラフ−質量分析計)分析とを行った。そして、赤外線分光分析により得られた皮膜の赤外吸収スペクトルにおける樹脂成分由来の観測吸収の帰属から解析した結果と、熱分解GC−MSの結果とから、皮膜中にウレタン樹脂、フェノール樹脂、オレフィン系ワックスが含まれていることを確認した。
その結果、表2に示す水系表面処理薬剤X1〜X46の含有量に対応する結果が得られた。
(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値
断面TEM−EDXの炭素元素マッピングによる皮膜の断面における樹脂成分の面積率で観察した各皮膜の3箇所の断面において、互いに隣接し、かつ互いに接触していない樹脂粒子の重心間距離(各樹脂粒子の断面形状を円形とみなした場合の中心間距離)の最大値を算出し、3箇所の断面から得た値の平均値を求め、樹脂粒子の重心間距離の最大値とした。得られた樹脂粒子の重心間距離の最大値を、平均粒径の倍数を用いて下記のように評価した。なお、樹脂粒子内の比重は、一定と見なした。また、樹脂粒子の特定、樹脂粒子の平均粒径および重心の測定は、上述した方法で行った。
1:3.0倍超
2:2.0倍超3.0倍以下
3:2.0倍以下
(3)皮膜の表面粗さ(Ra−F)
原子間力顕微鏡(AFM)により、めっき層を有する鋼板上に形成した皮膜表面の任意の場所において、1μm×1μmの測定範囲で表面粗さ(Ra)を測定し、以下のように評価した。
1:10nm超
2:1nm以上、10nm以下
2.2 耐食性評価
(4)耐食性
試験板に、無加工のもの(平面部)、NTカッターで素地到達までクロスカットしたもの(クロスカット部)、エリクセン7mm押し出し加工したもの(加工部)について、耐食性試験を行った。評価方法は次の通りである。
(4)−1:平面部耐食性
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき、塩水噴霧から72時間後の白錆発生面積率を求め評価した。評価基準を以下に示す(A〜Cが実用性能である。)。
A:白錆発生面積率が10%未満
B:白錆発生面積率が10%以上、30%未満
C:白錆発生面積率が30%以上、60%未満
D:白錆発生面積率が60%以上
(4)−2:クロスカット部耐食性
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき、塩水噴霧から72時間後の白錆発生状況を肉眼で評価した。評価基準を以下に示す(A〜Cが実用性能である。)。
A:錆発生がほとんどなし
B:錆発生が僅かに認められる
C:錆発生が認められる
D:錆発生が著しい
(4)−3:加工部耐食性
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき、塩水噴霧から72時間後の白錆発生状況を肉眼で評価した。評価基準を以下に示す(A〜Cが実用性能である。)。
A:錆発生がほとんどなし
B:錆発生が僅かに認められる
C:錆発生が認められる
D:錆発生が著しい
(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)
ファインクリーナーE6406(日本パーカライジング(株)製)を20g/Lに建浴し、65℃に調整した脱脂剤水溶液に試験板を2分間浸漬し、水洗した後、80℃で乾燥した。この板について、上記(4)−1に記載した平面部耐食性の条件及び評価方法で、耐食性を評価した。
2.3 外観評価
(6)耐結露白化性
試験板の表面にイオン交換水を1滴滴下し、滴下面側に別の試験片を皮膜同士が対向するように重ね合せて2枚の試験片で水を挟んだ状態とした。次いで、試験片をラッピングし、四隅をクリップで留め、50℃の乾燥機に72時間保管した後の水滴滴下部分の白化
有無を目視評価した。評価基準は次の通りである(A、Bが実用性能である。)。
A:目視にて白化なし、つやびけ(光沢低下)もなし
B:目視にて白化ないが、つやびけ(光沢低下)あり
C:目視にて白化あり、つやびけ(光沢低下)もあり
(7)耐スタック白化性
2つの試験板の塗装面が向き合うように対面させ1対としたものを、5〜10対重ねて、角の4箇所をボルト締めにして、トルクレンチで、5.7N・mの目盛りまで荷重をかけた。そして、70℃の温度で、かつ80%の相対湿度の湿潤箱内に6日間保持した後、取り出して、重ね合わせ部の白変状況を目視にて判定した。なお、評価基準は次の通りである(A〜Dが実用性能である。)。
A :白変した箇所の面積率が1%未満(白変なし)
B :白変した箇所の面積率が1%以上、5%未満
C :白変した箇所の面積率が5%以上、25%未満
D :白変した箇所の面積率が25%以上、50%未満
E :白変した箇所の面積率が50%以上
(8)耐黒変性
試験板を、70℃の温度で、かつ80%の相対湿度の湿潤箱内に6日間保持した後、取り出して、試験板の黒変状況を目視にて判定した。なお、評価基準は次の通りである(A−Dが実用性能である。)。
A :黒変した箇所の面積率が1%未満(黒変なし)
B :黒変した箇所の面積率が1%以上、5%未満
C :黒変した箇所の面積率が5%以上、25%未満
D :黒変した箇所の面積率が25%以上、50%未満
E :黒変した箇所の面積率が50%以上
(9)干渉模様
鋼板外観を十分に明るい蛍光灯の下で目視確認し、以下のように評価した。
A:正面から見て干渉模様がはっきり見える。
B:正面から見て干渉模様が見えない。
C:斜めから見て干渉模様が見えない。
(10)耐フィラメントテープ性
試験板に、日立マクセル製フィラメンテープ(登録商標)No.9514を貼り付け後、40℃の温度で、かつ80%の相対湿度の湿潤箱内に7日間保持した後に剥離し、外観評価を実施した。評価基準は次の通りである(A〜Dが実用性能である。)。
A :剥離箇所が、斜めから見ても全くわからない
B :剥離箇所が、斜めから見て僅かにわかる
C :剥離箇所が、斜めから見て明確にわかる
D :剥離箇所が、正面から見て僅かにわかる
E :剥離箇所が、正面から見て明確にわかる
以上の結果を表5、表6に示す。
表5、表6に示すように、本発明の実施例である実施例1〜45にかかる表面処理鋼板は、いずれも、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)に加え、(6)耐結露白化性、(7)耐スタック白化性、(8)耐黒変性、(9)干渉模様における評価が良好であった。また、本発明の実施例である実施例1〜45にかかる表面処理鋼板は、いずれも、(10)耐フィラメントテープ性にも優れていた。
なお、表6に示すように、鋼板の表面粗さ(Ra−S)が0.1μm未満である実施例46では、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)に加え、(6)耐結露白化性、(7)耐スタック白化性も優れていたが、(9)干渉模様が観察された。また、鋼板の表面粗さ(Ra−S)が2μmを超える実施例47では、(9)干渉模様が観察された。
ポリウレタン樹脂の平均粒径が20nm未満である比較例1では、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、また、(3)皮膜の表面粗さ(Ra−F)が10nm超であり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、(4)耐食性が不十分となった。
また、ポリウレタン樹脂の平均粒径が200nmを超える比較例2では、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、また(3)皮膜の表面粗さ(Ra−F)が10nm超であり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、(4)耐食性が不十分となった。
(1)皮膜の断面における樹脂成分の面積率が35%未満である比較例3では、(4)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一となり、(4)耐食性が不十分となった。
(1)皮膜の断面における樹脂成分の面積率が80%超である比較例4では、TiとVとSiによる耐食性向上効果が十分に得られず、(4)耐食性が不十分となった。
Siを含まない比較例5では、(4)耐食性が不十分となった。
Tiを含まない比較例6では、(4)耐食性が不十分となった。
Vを含まない比較例7では、(4)耐食性が不十分となった。
Pを含まない比較例8では、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。また、比較例8では、(7)耐スタック白化性、(6)耐結露白化性、(10)耐フィラメントテープ性が実用性能を満足していなかった。
P含有量が少ない比較例9では、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が低くなった。また、比較例9では、(7)耐スタック白化性および(10)耐フィラメントテープ性が実用性能を満足していなかった。
P含有量が多い比較例10では、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が低く、さらに(8)耐黒変性が実用性能を満足していなかった。
表面処理薬剤において酢酸成分(G)およびリン酸成分(H)を用いなかった比較例11においては、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。また、比較例11では、(7)耐スタック白化性、(10)耐フィラメントテープ性が実用性能を満足していなかった。
表面処理薬剤においてチタン化合物(D)およびリン酸成分(H)を用いなかった比較例12においては、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、またチタン化合物(D)が含まれないことから、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。また、比較例12では、(7)耐スタック白化性、(10)耐フィラメントテープ性が実用性能を満足していなかった。
表面処理薬剤においてチタン化合物(D)および酢酸成分(G)を用いなかった比較例13においては、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。
処理薬剤においてチタン化合物(D)、酢酸成分(G)およびリン酸成分(H)を用いなかった比較例14においては、(2)樹脂粒子の重心間距離の最大値が平均粒径の3.0倍超となり、樹脂粒子の分散が不均一であるため、またチタン化合物(D)が含まれないことから、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。また、比較例14では、その(7)耐スタック白化性、(10)耐フィラメントテープ性が実用性能を満足していなかった。
皮膜を形成しなかった比較例15においては、(4)耐食性および(5)耐アルカリ性(脱脂後耐食性)が不十分となった。さらに、比較例15に係る鋼板は、(8)耐黒変性について実用性能を有していなかった。
また、実施例4の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、明視野(STEM−BF)像と高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像とを得た。図4は、実施例4の明視野像である。図5は、実施例4の高角散乱環状暗視野像である。
図4に示す実施例4の明視野(STEM−BF)像では、灰色の部分と複数の略球状の白色部分とからなる皮膜が観察され、白色部分が皮膜内に略均一に配置されていることがわかる。また、図5に示す実施例4の高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像では、図4における白色部分が黒色になっている。高角散乱環状暗視野像では、軽元素が黒色となるため、図4に示す白色部分は樹脂粒子である。このことから、実施例4の表面処理鋼板では、皮膜中に樹脂粒子が略均一に分散していることが確認できた。
さらに、実施例4の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察した高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像を示す。なお、樹脂粒子の模式的な疑似形状を実線の縁で示した。また、平均粒子径を有する仮想的な樹脂粒子を破線にて示した。
図6に示す実施例4の高角散乱環状暗視野(STEM−HAADF)像では、実施例4の表面処理鋼板では、皮膜中に樹脂粒子が略均一に分散していることが確認できた。また、樹脂粒子の重心間の距離が粒径の3倍以下であることが確認できた。
また、比較例11の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、明視野(STEM−BF)像を得た。図7および図8は、比較例11の明視野像である。なお、樹脂粒子の模式的な疑似形状を実線の縁で示した。また、平均粒子径を有する仮想的な樹脂粒子を破線にて示した。
図7に示す比較例11の明視野(STEM−BF)像では、灰色の部分と複数の略球状の白色部分とからなる皮膜が観察され、白色部分が皮膜内に偏在して配置されていた。このことから、比較例11の表面処理鋼板では、皮膜中の樹脂粒子が偏在していることが確認できた。また、図8は、図7の枠で囲まれた部分の拡大像であるが、樹脂粒子の重心間の距離が粒径の3倍超であることが確認できた。
また、樹脂粒子がアクリル樹脂粒子である皮膜を形成したこと以外は、実施例4と同じである比較例の表面処理鋼板を作製した。そして、比較例の表面処理鋼板の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察し、実施例4と同様にして、明視野(STEM−BF)像を得た。その結果、比較例の明視野(STEM−BF)像では、灰色の部分と複数の略球状の白色部分とからなる皮膜が観察され、白色部分が皮膜内に偏在して配置されていた。このことから、比較例の表面処理鋼板では、皮膜中の樹脂粒子が偏在していることが確認できた。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
1 鋼板、2 めっき層、3、3A 皮膜、10 表面処理鋼板、31 第1成分、 311、311A 樹脂粒子、 32 第2成分

Claims (5)

  1. 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された亜鉛を含むめっき層と、前記めっき層上に形成された皮膜とを有し、
    前記皮膜が、平均粒径20nm以上200nm以下のポリウレタン樹脂からなる樹脂粒子を含む樹脂成分と、PとTiとVとSiとを含み、
    前記皮膜中にPをリン酸換算で2.5質量%以上7.5質量%以下含み、
    前記皮膜の断面における前記樹脂成分の面積率が35%以上80%以下であり、
    前記皮膜中に前記樹脂粒子が分散しており、かつ、前記樹脂粒子の重心間距離の最大値が、当該樹脂粒子の平均粒径の3.0倍以下であり、
    前記鋼板の表面粗さ(Ra)が0.1μm以上2μm以下である、表面処理鋼板。
  2. 前記皮膜の表面粗さ(Ra)が1nm以上10nm以下である、請求項1に記載の表面処理鋼板。
  3. 前記めっき層がアンチモンを含む、請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
  4. 前記樹脂成分が、オレフィン系ワックスおよび/またはフェノール樹脂を含む、請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
  5. 前記皮膜中にSiをSiO換算で10質量%以上40質量%以下、
    Tiを1.7質量%以上2.4質量%以下、
    Vを0.70質量%以上0.90質量%以下含み、
    TiとVとの質量比(Ti/V)が2.1以上2.9以下である、請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
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