JP4983306B2 - 塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネル - Google Patents

塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネル Download PDF

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Description

本発明は、亜鉛系めっき層およびクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に特定の皮膜構造を持つ下塗り塗膜と上塗り塗膜を形成した、バーリング加工性に優れる塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルに関するものである。本発明の塗装鋼板は、例えば液晶テレビやプラズマテレビのような薄型テレビ用パネルで代表されるAV機器などの素材として使用することができる。
近年需要が伸びているプラズマディスプレーパネルや液晶テレビなどの薄型TVは特に大型であり、その背面パネルは意匠性が必要なため、塗装鋼板に深絞り、張り出し等のプレス加工や曲げ加工を施し、パネルに形成する。深絞り、張り出しプレス加工の際、塗膜表面に加工ダメージを受け疵がつくことは商品価値を著しく低下させる。また、曲げ加工時に塗膜割れが生じることも商品価値の低下に繋がり好ましくない。このように、薄型TVの背面パネル用鋼板には、プレス加工性及び曲げ加工性を確保することが重要である。
これまでのプレス加工性を向上させる方法としては、例えば、特許文献1に示すように、ガラス転位温度と数平均分子量及び水酸基価の特定された下塗り塗膜と上塗り塗膜を形成することを特徴とするものがほとんどである。すなわち、下塗り塗膜には主にその下層の化成処理層との密着性、上塗り塗膜には主に皮膜自体が硬度を有すように設計することにより、機能分担してプレス加工性を発現させている。しかしながら、皮膜自体の硬度を発現させるためにガラス転位温度を高めると、塗膜は硬く脆くなり、曲げ加工性との両立が困難である。
また、従来の電磁波シールド技術として、所定の下地鋼板の表面粗さ及び塗膜厚を有するプレコート鋼板(特許文献2)、クロメート皮膜の上に樹脂が分散した導電性表面処理鋼板(特許文献3)、及び、片面に片面に所定の熱放射率の塗膜、他方の面に合計膜厚が3μm以下の皮膜を有する表面処理金属板(特許文献4)が開示されている。
しかし、上記の特許文献2〜4の技術では、薄型TV等の背面パネルとして用いた場合、大型化のためネジ間隔が広くなることなどが原因で電磁波が漏洩する隙間ができやすく、漏洩する電磁波を十分に防ぐことはできない。
本来、電磁波ノイズは発生源を含むFeなどの導電性物質に囲われアースが取られていれば、外部にノイズとして漏洩せず問題にならない。つまり、筐体内面が未塗装の鋼板や亜鉛めっき鋼板等で導電性を有するものであれば問題ない。しかし、筐体外面はもとより内面においても、耐食性や意匠性付与のため、非導電性皮膜を有する鋼板が多く用いられている。
そのため、導電性を必要とする筐体内面に使用される側の面に、薄膜のクロメート等の化成処理を施したもの、前記化成処理を行い導電性物質を含有させた樹脂組成物(塗料)を塗布したものなどが用いられてきた。
しかし近年、環境の観点より化成皮膜としてクロムを含有しないクロメートフリー鋼板が主流となってきており、また、クロメート皮膜は硬質であり、加工性に劣るため、図1(a)及び(b)に示すように、前記塗装鋼板にバーリング加工を施した場合、加工部分の塗膜が剥離し、その後の耐食性を維持することができないという問題があった。なお、バーリング加工とは、平板に下穴をあけて、円筒状にストレッチ、フランジングする加工であり、ネジ部を得るものである。
特開2005−82623号公報 特開昭63−7878号公報 特開昭63−114635号公報 特開2004−243310号公報
本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、鋼板の両面に、亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、特定の皮膜構造を有する下塗り塗膜と、有機樹脂皮膜である上塗り塗膜を形成することで、プレス加工性、曲げ加工性、耐食性及び電磁波シールド性を有しつつ、バーリング加工性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することにある。
一般的に、塗装鋼板における下塗り塗膜は、下地(鋼板)との密着性の効果を有し、上塗り塗膜は、耐食性の効果を有する。前記塗装鋼板にバーリング加工を施した際、塗膜が剥離するという問題があり、バーリング加工後の塗装鋼板にセロハン粘着テープを貼り付け、これを引き剥がし、塗膜が剥離した界面について、X線分析でさらに詳しく調べた。その結果、図2に示すように、鋼板と化成皮膜との間で剥離していることがわかった。本発明者らは、上記の課題を解決して優れた性能の塗膜の塗装鋼板を得るために検討を重ねたところ、バーリング加工を施すと、上塗り塗膜に欠陥が生じ、塗膜全体に生じた応力の低減ができないため、鋼板と化成皮膜の間で剥離が生じること見出した。そして、さらに鋭意検討を行った結果、下塗り塗膜/化成皮膜の界面近傍に積極的に部分的欠陥を有することで、塗膜全体の応力を低減でき、従来の性能を維持しつつ、バーリング加工性に優れた塗装鋼板が得られることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、バーリング加工を施した塗装鋼板であって、前記バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜界面近傍に部分的な欠陥を有し、該欠陥の生成割合が5〜60%であり、かつ下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が10μm超え30μm以下であることを特徴とする塗装鋼板。
(2)前記下塗り塗膜は、該下塗り塗膜を形成する塗料中における顔料の含有量が、5〜60質量%であることを特徴とする上記(1)記載の塗装鋼板。
(3)前記顔料は、TiO2、Cブラック、Mg処理トリポリリン酸Al、Ca処理トリポリリン酸Al及びMg交換SiO2の中から選ばれる1または2種以上である上記(2)記載の塗装鋼板。
(4)前記鋼板の他方の面は、導電荷重が500g以下であることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)のいずれか1項記載の塗装鋼板。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる加工品。
(6)上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該該塗装鋼板の前記一方の面が外部に露出する凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる薄型テレビ用パネル。
本発明によれば、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成した後にバーリング加工が施され、バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜の界面近傍に、内部応力低減するための部分的な欠陥を有し、該欠陥の生成割合が5〜60%であり、かつ下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が10μm超え30μm以下であることを特徴とする、プレス加工性、曲げ加工性、耐食性及び電磁波シールド性を有しつつ、バーリング加工性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することが可能となった。
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
本発明の塗装鋼板は、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成した後にバーリング加工が施され、該バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜の界面近傍に、部分的な欠陥を有し、該欠陥の生成割合が5〜60%であり、かつ下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が10μm超え30μm以下であることを特徴とする塗装鋼板である。
(亜鉛系めっき層)
本発明の塗装鋼板の鋼板は両面に亜鉛系めっき層を有する。亜鉛系めっき層は耐食性に優れる。また、亜鉛系めっき層は化成皮膜との密着性が優れるために、本発明の塗装鋼板は加工後の耐食性に優れる。また、該めっき層は導電性を有するので、該めっき層の上に化成皮膜を形成したとき、あるいは該化成皮膜の上に有機樹脂層を形成したときに導通点として作用し、本発明の塗装鋼板の電磁波シールド性が発現される。
亜鉛系めっき層としては、亜鉛を含有するめっき層であればよく、特に限定されるものではないが、片面あたりの付着量が30〜40g/m2、Fe含有率が7〜10質量%の合金化溶融亜鉛めっき層、同付着量が10〜60g/m2の電気亜鉛めっき層、同付着量が30〜100g/m2の溶融亜鉛めっき層、同付着量が90〜150g/m2、Al含有率が4〜5質量%の溶融亜鉛−アルミニウムめっき層、黒色化処理後の電気亜鉛−ニッケル合金めっき層などが好ましい。電気亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層、溶融亜鉛−アルミニウムめっき層、黒色化処理後の同付着量が10〜40g/m2、Ni含有率が9〜13質量%の電気亜鉛−ニッケル合金めっき層などが好ましい。
また、後述する下塗り塗膜及び上塗り皮膜を有する一方の面の反対面である、他方の面のめっき層の表面粗さはJIS B0601−1994に規定される算術平均粗さRaが0.6〜1.3μmであることが好ましい。電磁波シールド性を必要とされる筐体内面側となる他方の面のRaを0.6μm以上とすることによって、優れた電磁波シールド性を確保することが可能となるためである。さらに、Raを1.3μm以下とすることによって優れた耐食性を保持できる。なお、めっき層の表面粗さは、めっき層が形成された後の調質圧延を行う際に、圧延ロールの表面粗さ等の調質圧延条件を適宜条件に調整することでの粗さに調整が可能となる。電気めっき層の場合には、めっき前の圧延ロールの表面粗さ等の圧延条件を適宜条件に調整することでも前述の粗さに調製できる。
(化成皮膜)
亜鉛系めっき層を有するめっき鋼板の両面に化成皮膜を形成する。前記化成皮膜は、環境の観点よりクロムを含有しない化成皮膜とする。この化成皮膜は、主としてめっき層と下塗り塗膜との密着性向上のために形成される。密着性を向上するものであればどのようなものでも支障はないが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものがより好ましい。密着性と耐食性の点からシリカ微粒子を含有し、耐食性の点からリン酸及び/又はリン酸化合物を含有することが好ましい。シリカ微粒子は、湿式シリカ、乾式シリカのいずれを用いても構わないが、密着性向上効果の大きいシリカ微粒子、特に乾式シリカが含有されることが好ましい。リン酸やリン酸化合物は、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸など、これらの金属塩や化合物などのうちから選ばれる1種以上を含有すれば良い。さらに、アクリル樹脂などの樹脂、シランカップリング剤などの1種以上を添加してもよい。
なお、化成皮膜の膜厚は、膜厚が薄いと密着性及び耐食性に不利となる傾向にあり、膜厚が厚いと電磁波シールド性に不利となる傾向にあるので、0.02〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
上記のような化成皮膜を有することにより、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性、密着性を有することが可能となる。
(下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上であって、上塗り塗膜の下層として形成される。バーリング加工後の前記下塗り塗膜は、バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜の界面近傍に、内部応力低減するための部分的な欠陥を生成させ、該欠陥の生成割合が5〜60%となる必要がある。本発明者らは、塗装鋼板にバーリング加工を行うと、図2に示すように、加工部分の塗膜が剥離するという問題について、バーリング加工によって塗膜全体に生じる応力が塗膜の剥離と関係していることに着目し、問題の解決策について鋭意検討を行った。その結果、バーリング加工時に前記下塗り塗膜中に積極的に欠陥を生成させ、生成した前記欠陥の割合が5〜60%となるように制御することで、バーリング加工時に発生する塗膜/化成皮膜の部分的欠陥の発生により、バーリング加工時に塗膜にかかる応力を低減し、塗膜の剥離を抑止することができることを見出した。
ここで、図3は、本発明による塗装鋼板1のバーリング加工した部分の塗膜/化成皮膜界面を断面より観察した図である。下塗り塗膜2/化成皮膜3の界面4近傍に生じる欠陥5の生成割合とは、バーリング加工部の長さLに対する部分的な欠陥の発生長さ(a+b+c)の割合((a+b+c)/L×100%)であり、この割合((a+b+c)/L×100%)が5〜60%の範囲内となる必要がある。5%未満では、バーリング加工時に塗膜に生じる応力を十分に低減することができないため、塗膜が剥離する恐れがあり、60%超えでは、欠陥長が長すぎるため、密着性が劣化するためである。
前記欠陥の生成割合の測定方法としては塗膜/化成皮膜近傍の部分的欠陥を特定できる方法であれば限定はなく、例えば、図4 (a)及び(b)に示すように、走査型分析電子顕微鏡(SEM-EDX)により測定する方法が挙げられる。図中の黒色の部分が欠陥であり、その部分の長さを測定することで欠陥の生成割合を得ることができる。その他の測定方法としては、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による測定等がある。
また、前記下塗り塗膜は、従来から用いられている組成のものを用いればよいが、例えば、変性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂の中から選択される少なくとも1種の有機樹脂で構成することが、下地鋼板との密着性、耐食性などを確保する上で好ましい。
さらに、前記下塗り塗膜は、該下塗り塗膜を形成する塗料中における顔料の含有量が、5〜60質量%であることが好ましい。5質量%未満では、前記下塗り塗膜が強靭なため、バーリング加工された際の塗膜全体にかかる応力の低減を十分に行うことができず、上塗り塗膜の破壊が生じる恐れがあり、60質量%超えでは、前記下塗り塗膜が破壊し、塗膜剥離が発生するためである。さらにまた、前記顔料は、TiO2、Cブラック、Mg処理トリポリリン酸Al、Ca処理トリポリリン酸Al及びMg交換SiO2の中から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。これら顔料の種類は要求される特性に応じて、防錆顔料、着色顔料のうちから選択すればよい。
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜は、前記下塗り塗膜上に、形成する有機樹脂皮膜である。この有機樹脂皮膜としては、ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などが挙げられるが、特に、主として耐汚染性、耐傷付き性、バリア性などを付与する点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などを使用することが好ましい。
下塗り塗膜と上塗り塗膜の総膜厚は、密着性を確保し、かつ優れた外観を確保するために、10μm超え30μm以下の必要がある。
なお、下塗り塗膜の膜厚は、1〜10μmの範囲であることが好ましい。下塗り塗膜の膜厚が1μm未満だと、耐食性及び化成皮膜との密着性が不十分となるからであり、前記膜厚が10μm超えだと、塗装作業の合理化や省資源化の観点から不利となるからである。
また、上塗り塗膜の膜厚は7〜18μmの範囲であることが好ましい。上塗り塗膜の膜厚が7μm未満だと、プレス加工性に不利となり、前記膜厚が18μm超えだと、外観不良が発生する恐れがあるからである。
上塗り塗膜、下塗り塗膜および後述する有機樹脂層の膜厚は、断面を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、1視野につき任意の3箇所の膜厚を求め、少なくとも5視野を観察し、合計15箇所以上の平均値とする。
また、前記上塗り塗膜は、優れたプレス加工性と曲げ加工性を確保するために、ガラス転移温度が10℃〜50℃のポリエステル樹脂に平均粒子径が3〜40μmで、かつガラス転移温度が70℃〜120℃の樹脂粒子を含有することが好ましい。
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度として10℃〜50℃が好ましいのは、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が10〜50℃の範囲で、プレス加工性、曲げ加工性共に良好となるためであり、10℃未満では曲げ加工性に優れるが塗膜の硬度不足によってプレス加工性が劣り、転移温度が50℃超では曲げ加工性が劣化するためである。
また、平均粒子径が3〜40μmで、かつガラス転移温度が70℃〜120℃の樹脂粒子を含有させるのは、曲げ加工性を確保しつつ、プレス加工性を向上させるためである。前記樹脂粒子の平均粒子径とガラス転移温度を上記のように規定したのは、前記平均粒子径が3μm未満の場合は潤滑剤としての効果及び金型と下地化成皮膜の接触抑制効果が不十分であるためプレス加工性が劣り、40μm超えの場合は樹脂粒子自体が塗膜から剥離し、摺動抵抗が大きくなり深絞り加工性が劣化する傾向にあるためであり、また、前記ガラス転移温度が70℃未満の場合は樹脂粒子の硬度が不足してプレス加工性が劣り、120℃超えの場合は樹脂粒子自体が加工により凝集破壊してプレス加工性が劣る傾向にあるためである。ここで、前記樹脂粒子の平均粒子径は、塗膜断面を光学顕微鏡で観察し、各樹脂粒子の最大径とそれに直交する径との平均径を各粒径とし、少なくとも3視野を観察し、観察視野内で求めた粒径の平均値とする。なお、前記樹脂粒子の樹脂種は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
さらに、特に優れたプレス加工性向上効果を発現させるには、前記上塗り塗膜中の樹脂粒子の含有量は、5〜20質量%であることが好ましい。
さらにまた、前記上塗り塗膜中にポリオレフォン系、フッ素系ワックスを添加することで、プレス加工性をさらに向上させることができる。前記ポリオレフォン系ワックスを用いた場合、軟化点が70℃〜140℃のものを使用することが好ましい。軟化点が70℃未満であるとコイル保管時や背面パネルとして使用時にワックスが軟化して溶け出す恐れがあり、140℃超えではプレス時の摺動性が劣るためである。また、前記ワックスの添加量は、0.4〜2.0質量%が好ましい。添加量が0.4質量%未満ではプレス加工性が十分でなく、2.0質量%を超えではプレス加工性向上の効果が飽和状態に近づき、コスト的にも不利なためである。
また、前記上塗り塗膜には、着色のために酸化チタンやカーボンブラック、また外観の意匠性の点からアルミ片などを適宜添加しても構わない。
また、本発明の塗装鋼板を、例えば薄型テレビ用パネルとして使用する場合には、プレス加工したパネルの内面になる塗装鋼板の裏面は、溶接や電磁波シールド等の必要性から導電性を有することが必要となる。
かかる場合には、鋼板の他方の面にも、上述のクロムを含有しない化成皮膜を有することで、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性と密着性を有するとともに、優れた導電性も有すること、具体的には、導電荷重を500g以下とすることが、電磁波シールド性の点で好ましい。さらに好ましいのは300g以下とすることである。導電荷重は表面抵抗が10−4Ω以下となる最小荷重である。
耐食性の要求度がそれほど高くない用途には、この他方の面はクロムを含有しない化成皮膜だけを形成し、特に電磁波シールド性に優れた塗装鋼板として提供できる。
また、耐食性の要求度が高い用途には、この他方の面は、化成皮膜の上に有機樹脂層を設けて耐食性を向上させることが好ましい。有機樹脂層の有機樹脂種としてはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。有機樹脂層はCaイオン交換シリカを含有することがさらに優れた耐食性を得るために好ましい。
有機樹脂層の膜厚が0.1μm未満では耐食性に不利となり、また1μm超えでは電磁波シールド性に不利となるので、0.1〜1μmが好ましい。
上述の塗装鋼板は、深絞り加工、張り出し加工、曲げ加工のうちのいずれか1以上のプレス加工が施され、さらに電磁波シールド性が要求される電子機器及び家電製品等の用途で使用される部材、特にバーリング加工によりネジ加工される部材に好適である。例えばプラズマディスプレーパネルや液晶テレビなどの薄型TVの背面パネルに使用すると、大型のパネルであっても優れた電磁波シールド性が発現される。
次に、本発明の塗装鋼板の製造方法について説明すると、本発明の塗装鋼板は、被塗装鋼板である亜鉛系めっき鋼板の両面に先に述べた化成処理を施した後、下塗り塗膜用の塗料を、片面、または必要に応じて他方の面には有機樹脂層用の塗料を、塗布、加熱して、下塗り塗膜を形成した後、前記鋼板の一方の面のみに、上塗り塗膜用の塗料を塗布、加熱することにより製造される。
上塗り塗料、下塗り塗料の塗布方法は特に限定しないが、好ましくはロールコーター塗装で塗布するのがよい。塗料の塗布後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により加熱処理を施し、樹脂を架橋させて硬化させた上塗り塗膜、下塗り塗膜を得る。加熱条件は温度170〜250℃(到達板温)で、時間20〜90秒の処理を行うことが好ましく、これによって上塗り塗膜、下塗り塗膜を形成し、塗装鋼板を製造する。
ここで、加熱温度が170℃未満では架橋反応が十分に進まないため、十分な塗膜性能が得られない。一方、加熱温度が250℃を超えると熱による塗膜の劣化が起こり、意匠性が低下し、さらに塗装作業の合理化や省資源化の観点から好ましくない。また、処理時間が20秒未満では架橋反応が十分に進まないため、十分な塗膜性能が得られない。一方、処理時間が90秒を超えると製造コスト面で不利となる。本発明の塗装鋼板は、さらに塗装鋼板裏面の耐食性を高める目的で、前記した有機樹脂層用の塗料を鋼板裏面にも同様の方法で塗装するのが好ましい。
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
本発明の実施例について説明する。
(本発明例1〜10及び比較例1〜2)
塗装用亜鉛系めっき鋼板として、各々板厚0.5mmの電気亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:EG)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Fe含有量:10質量%、めっき種記号:GA)、溶融亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:GI)、溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有量:4.5質量%、めっき種記号:GF)、黒色化電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板(Ni含有量:12質量%、めっき種記号:EZNB)および溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有量:55質量%、めっき種記号:GL)を準備した。めっき鋼板のめっき付着量を表1に示す。なお、鋼板の一方の面(オモテ面)と他方の面(ウラ面)のめっき付着量、およびめっき組成は同一とした。さらに、ウラ面のめっき層のRa(算術平均粗さ)は0.8μmとなるようにした。準備しためっき鋼板に脱脂処理を行った後、以下の(i)〜(iV)の処理工程を行い、塗装鋼板を作製した。
(i)オモテ面に化成処理液を塗布し、加熱20秒後に到達板温100℃となるように加熱し、表3に示す組成のオモテ面の化成皮膜を形成した。
(ii)次に、ウラ面に化成処理液を塗布して表3に示す組成のウラ面の化成皮膜を形成した後、オモテ面に表1に示す含有量の顔料を有する下塗り塗料を塗布し、加熱30秒後に到達板温が210℃になる加熱処理を行い、表4に示すオモテ面の下塗り塗膜を形成した。
(iii)その後、オモテ面に上塗り塗膜として表1に示す組成となる上塗り塗膜用塗料を、表1に示す乾燥膜厚となるように塗布した後、ウラ面に、必要に応じて表5の組成となるように防錆顔料を添加した有機樹脂塗料を塗布した後、加熱開始から50秒後に到達板温が230℃となる加熱処理を行い、表1と表2に示すオモテ面の上塗り塗膜とウラ面の有機樹脂層を形成した。
(iV)その後、エリクセン押し出し装置を用いて、試験用鋼板に後述するバーリング加工を施し、バーリング加工部の端面近傍50μm長さの範囲の塗膜/化成皮膜界面近傍の断面を観察し、欠陥生成率をSEM−EDXにより測定した。
作製した塗装鋼板のオモテ面、ウラ面の化成皮膜、下塗り塗膜、上塗り塗膜および有機樹脂層の構成を表1および表2に示す。
以上のようにして得られた塗装鋼板について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
<オモテ面の評価>
(1)バーリング加工後塗膜密着性
バーリング加工後塗膜密着性は、バーリング加工を施した各塗装鋼板に粘着テープを貼り付け、これを引き剥がした後の塗膜の剥離状態を観察し、以下の評価基準に従って評価した。バーリング加工は、5.5mmφの下穴をあけた後、オモテ面を上方とし、図1(b)に示すように、下方から13mmφのパンチで、10mm高さ円筒押し出した。
○:バーリング加工立ち上がり部mにのみわずかな剥離あり
×:連続的な剥離あり
(2)バーリング加工後耐食性
バーリング加工後耐食性は、上記のようにバーリング加工を施した各塗装鋼板にSST試験(塩水噴霧試験:JIS Z 2371−2000)に供し、塗膜の剥離状態を観察し、以下の評価基準に従って評価した。
○:穴端面n側から立ち上がり部mに至らない剥離のみ発生
×:穴端面n側から立ち上がり部mに至る剥離が発生
(3)深絞り加工性
深絞り加工性は、試験片をポンチ径33mmφ、ポンチ肩R:2mm、絞り比2.0、ポンチ速度:250mm/秒、オモテ面がポンチ側となるようにして成形し、破断時のシワ押さえ荷重で以下のように評価した。
シワ押さえ荷重
○:4t以上
△:2t以上4t未満
×:2t未満
(4)張り出し加工性
張り出し加工性は、試験片を100mmφで打ち技き、ポンチ径50mmφ、ポンチ肩R:4mm、ダイ径:70mmφ、ダイ肩R:4mm、シワ押さえ厚を5ton、オモテ面がポンチ側となるようにして円錐台成形を行った。破断時の成形高さで以下のように評価した。
破断時成形高さ
○:16mm以上
△:14mm超16mm
×:14mm以下
(5)曲げ加工性
曲げ加工性は、試験片のオモテ面を外側、ウラ面を内側にしてウラ面どうしを合わせるように曲げ加工する。その際、ウラ面間に試験片と同板厚の鋼板を1枚、2枚、3枚・・・と全板厚を変化させて挟み曲げ径Rを変化させて密着曲げ加工する。曲げられた試験片のオモテ面側にクラックが入らない最大板厚枚数で以下のように評価した。
オモテ面側にクラックが入らない最大板厚枚数
○:0〜1枚
△:2〜3枚
×:4枚以上
<ウラ面の評価>
(6)導電性
低抵抗測定装置(ロレスタGP:三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、塗装板のウラ面の表面抵抗値を測定した。その時、プローブ先端にかかる荷重を20g/sで増加させ、表面抵抗が10−4Ω以下になった時の荷重値で以下のように評価した。
表面抵抗が10−4Ω以下になった時の荷重値
○:10点測定の平均荷重が300g以下
△:10点測定の平均荷重が300g超700g以下
×:10点測定の平均荷重が700g超
(7)電磁波シールド性
図5に示すような、五面をAl板52、一面を幅20mmのフランジ55を有し、開口部を100×100×100mmとしたAl製筐体53の中に20MHzのデジタル発信器54を内蔵させ、開口部にウラ面51bを下面としてフランジ55上に設置したガスケット56に接触させるように試験片(140×140mm)51を乗せ、荷重を39.2N(4Kgf)としてガスケット56と塗装鋼板51の合わせ面から外部に漏洩する20MHz〜1GHzの電磁波ノイズをプリアンプ58で増幅したのち、スペクトラムアナライザー59を用いて測定した。受信用アンテナ57は筐体フランジ部から50mmとし、フランジ55と試験片51の間には厚さ1mmのガスケット56を用いた。なお、ガスケット56はウレタンスポンジに導電布(銅とニッケルをめっきした繊維)を巻き付けたものである。また、電磁波シールド性の評価としては、最大ノイズ強度を用い評価した。めっきのままの原板での最大ノイズ強度は40dB、導電性の無い塗膜を5μm塗布したものでは50dBであり、電磁波シールド性の評価は以下とした。
最大ノイズ強度
○:43dB以下
△:43dB超45dB以下
△:45dB超
上記各試験の評価結果を表6に示す。
これによれば、実施例1〜10の塗装鋼板は、いずれも優れたバーリング加工性及びバーリング加工後耐食性を有し、さらに、深絞り加工性、張り出し加工性、曲げ加工性、導電性及び電磁波シールド性を有していることがわかる。また、短時間で加熱処理を行っても十分な性能が得られており、製造の際の高速操業に非常に適していることが判る。
本発明によれば、鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成した後にバーリング加工が施され、該バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜の界面近傍に、内部応力低減するための部分的な欠陥を有し、該欠陥の生成割合が5〜60%であり、かつ下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が10μm超え30μm以下であることを特徴とする、プレス加工性、曲げ加工性、耐食性及び電磁波シールド性を有しつつ、バーリング加工性に優れた塗装鋼板、加工品及び薄型テレビ用パネルを提供することが可能である。
バーリング加工を施した従来の塗装鋼板の加工部分を模式的に示したものであり、(a)が斜視図、(b)が(a)のI−I断面図である。 バーリング加工を施した塗装鋼板の剥離部分の状態を示した図であって、(a)は剥離状態を模式的に示した斜視図であり、(b)は(a)中の剥離面(X面及びY面)をX線分析した結果を示す図である。 バーリング加工した塗装鋼板の加工部分の塗膜/化成皮膜界面近傍の断面を模式的に示した断面図である。 バーリング加工を施した従来の塗装鋼板の加工部分を観察した断面写真である。 電磁波シールド性を評価するための漏洩ノイズ測定装置の模式図である。
符号の説明
1 塗装鋼板
2 下塗り塗膜
3 化成皮膜
4 下塗り塗膜/化成皮膜界面
5 欠陥
6 上塗り塗膜
7 めっき鋼板
a、b、c 欠陥の発生長さ
L バーリング加工部の長さ
m バーリング加工の立ち上がり部
n バーリング加工の穴端面
51 試験片
51b ウラ面
52 Al板
53 Al製筐体
54 デジタル発信器
55 フランジ
56 ガスケット
57 アンテナ
58 プリアンプ
59 スペクトラムアナライザー

Claims (6)

  1. 鋼板の両面に亜鉛系めっき層及びクロムを含有しない化成皮膜を順次形成し、前記鋼板の一方の面の化成皮膜上に、下塗り塗膜を形成し、該下塗り塗膜上に、上塗り塗膜を形成し、バーリング加工を施した塗装鋼板であって、
    前記バーリング加工後の下塗り塗膜/化成皮膜界面近傍に部分的な欠陥を有し、該欠陥の生成割合が5〜60%であり、かつ下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計膜厚が10μm超え30μm以下であることを特徴とする塗装鋼板。
  2. 前記下塗り塗膜は、顔料の含有量が、5〜60質量%であることを特徴とする請求項1記載の塗装鋼板。
  3. 前記顔料は、TiO2、Cブラック、Mg処理トリポリリン酸Al、Ca処理トリポリリン酸Al及びMg交換SiO2の中から選ばれる1または2種以上であることを特徴とする請求項2記載の塗装鋼板。
  4. 前記鋼板の他方の面は、導電荷重が500g以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の塗装鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる加工品。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項記載の塗装鋼板を用い、該塗装鋼板の前記一方の面が外部に露出する凸表面になるようにプレス加工を施して形成してなる薄型テレビ用パネル。
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