JP5332258B2 - 樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた加飾シート - Google Patents

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Description

本発明は加飾シートの表面保護層形成用樹脂組成物及び該樹脂組成物を架橋硬化した表面保護層を有する加飾シート、さらには該加飾シートを用いた加飾樹脂成形品の製造方法並びに該製造方法により製造される加飾樹脂成形品に関する。
成形品の表面に加飾シートを積層することで加飾した加飾成形品が、車両内装部品等の各種用途で使用されている。このような加飾成形品の成形方法としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該成形シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法(例えば、特許文献1参照)と射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す射出成形同時加飾法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)がある。
ところで、加飾成形品は表面の耐摩耗性や耐擦傷性を向上させる目的で表面保護層が設けられる。しかしながら、上述の加飾成形品の成形方法において、インサート成形法では加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する過程、射出成形同時加飾法では加飾シートが予備成形時にあるいは溶融樹脂の射出時に、キャビティの内周面に沿うように延伸されて密着する過程で、加飾シートが真空圧空作用により、あるいは溶融樹脂の圧力、剪断応力による引っ張りなどによって、金型形状に沿うために最低必要な量以上に伸ばされるため、成形品の曲面部の表面保護層にクラックが入るという問題があった。
上記問題点に対して、表面保護層の成形性を上げるために表面保護層として熱硬化性樹脂を用いることが行われてきた(例えば、特許文献4参照)。熱硬化性樹脂は成形性については良好な結果を示し、表面保護層にクラックは入りにくいが、加飾成形品の表面の耐摩耗性や耐擦傷性は満足いくものではなかった。
また、表面保護層として紫外線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂を用い、加飾シートの表面保護層を形成する樹脂の架橋密度を高めることにより、加飾成形品の表面の耐摩耗性や耐擦傷性を向上させる試みがなされたが、成形の際に成形品曲面部にクラックが生じるという問題があった。
さらには、表面保護層として紫外線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂を用い、加飾シートの段階では半硬化状態とし、加飾成形された後に完全硬化させる方法が試みられたが(特許文献4参照)、未硬化樹脂成分を含む表面保護層は傷つきやすく、取り扱いが困難であり、また、未硬化樹脂成分が金型に付着することによる金型汚染の問題があった。この問題点を解決するために半硬化状態の表面保護層上に保護フィルムを設ける方法があるが、製造が煩雑になるとともに、コストアップの要因ともなる。また、三次元形状の成形品に紫外線を照射する必要があるため、別途三次元形状の成形品に紫外線照射可能な設備が必要である。
特開2004−322501号公報 特公昭50−19132号公報 特公昭61−17255号公報 特開平6−134859号公報
本発明者らは、上記問題点に鑑み、加飾成形品の成形に用いる加飾シートの表面保護層として、高い耐摩耗性や耐擦傷性を有し、かつ、成形性が良好でクラック等が入らない表面保護層を形成し得る樹脂組成物、該樹脂組成物を表面保護層に用いた加飾シート、さらには該加飾シートを用いた加飾樹脂成形品の製造方法並びに該製造方法により製造される加飾樹脂成形品を特願2006−100814号として出願した。本発明は、さらに表面保護層を形成するための塗工性を向上することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、電離放射線硬化性樹脂と特定の熱可塑性メタクリル系重合体を含有する樹脂組成物が、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基材上に少なくとも表面保護層を有する加飾シートであって、表面保護層が電離放射線硬化性樹脂及びメタクリル酸エステルを重合してなるポリマーを含む樹脂組成物であって、該ポリマーのゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が5万〜7.5万の範囲であり、該ポリマーの多分散度が1.1〜3.0の範囲である加飾シートの表面保護層形成用樹脂組成物を架橋硬化したものである加飾シート、
(2)JIS K 7127に準拠した以下の測定条件で測定した引張試験における引張伸度が50%以上である上記(1)に記載の加飾シート、
測定条件;幅25mm、長さ120mmの試験片を用い、引張速度1000mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離50mm、温度160℃の条件で、表面保護層にクラックが入るまでの引張伸度を測定する。
(3)前記ポリマーがメタクリル酸メチルの単独重合体である上記(1)又は(2)に記載の加飾シート、
(4)電離放射線硬化性樹脂が電子線硬化性樹脂である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の加飾シート、
(5)表面保護層形成用樹脂組成物の、以下の測定条件で測定した140℃における貯蔵弾性率が7.7×10 5 〜1.2×10 8 Paの範囲であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の加飾シート、
貯蔵弾性率の測定条件:JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、樹脂組成物を架橋硬化して製膜した幅10mm、厚さ15μmのシートをクランプ間距離10mm、開始温度30℃、終了温度180℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzにて測定する。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、余分な部分をトリミングして成形シートを得る工程、該成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する工程を有する加飾樹脂成形品の製造方法、
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の該成形面に対し、前記加飾シートの基材が対面するように設置した後、該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び、可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程を順次施す加飾樹脂成形品の製造方法、及び
(8)上記(6)又は(7)に記載の製造方法により製造した加飾樹脂成形品、
を提供するものである。
本発明の樹脂組成物を架橋硬化した表面保護層を有する加飾シートは、高い耐摩耗性及び耐擦傷性を有し、かつ、成形性が良好で、インサート成形法や射出成形同時加飾法においても、表面保護層にクラック等が入らない。
本発明の表面保護層形成用樹脂組成物は、電離放射線硬化性樹脂とメタクリル酸エステルモノマーを重合してなるポリマーを含み、該ポリマーのゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が5万〜9万の範囲であることを特徴とする。
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
代表的には、重合性モノマーとして、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。単官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが挙げられる。ここで、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。
電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどが挙げられる。
また、分子中にカチオン重合性官能基を有する重合性オリゴマー等に対しては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等が挙げられる。
また、光増感剤としては、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤などを用いることができる。
本発明においては、電離放射線硬化性樹脂として電子線硬化性樹脂を用いることが好ましい。電子線硬化性樹脂は無溶剤化が可能であって、環境や健康の観点からより好ましく、かつ、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるからである。
本発明は前記電離放射線硬化性樹脂及びメタクリル酸エステルを重合してなるポリマーを含む樹脂組成物である。ポリマーは、より具体的には、メタクリル酸エステルモノマーの単独重合体、又は2種以上の異なるメタクリル酸エステルモノマーの共重合体から本質的になる。なお、共重合成分として、本発明の効果を損なわない範囲で他のモノマーを少量含有してもよい。
ここで、メタクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチルモノマー、メタクリル酸エチルモノマー、メタクリル酸プロピルモノマー、メタクリル酸ノルマルブチルモノマー、メタクリル酸イソブチルモノマー、メタクリル酸セカンダリーブチルモノマー、メタクリル酸ターシャリーブチルモノマー、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー、メタクリル酸イソボニルモノマー、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレートモノマー、2−エチル−2−アダマンチルメタクリレートモノマーなどが挙げられ、これらのうちメタクリル酸メチルモノマーが最も好ましい。
本発明におけるポリマーとしては、メタクリル酸メチルモノマーの単独重合体が最も好ましい。
次に、2種以上の異なるメタクリル酸エステルモノマーの共重合体としては、上記例示されたものから選ばれる2種以上のメタクリル酸エステルモノマーの共重合体が例示され、該共重合体においてもメタクリル酸メチルを主成分とするものが好ましい。すなわち、メタクリル酸メチルモノマーと他のメタクリル酸エステルモノマーの共重合体が好ましく、メタクリル酸メチルモノマーとメタクリル酸エチルモノマーの共重合体、メタクリル酸メチルモノマーとメタクリル酸ブチルモノマーの共重合体、メタクリル酸メチルモノマーとメタクリル酸エチルモノマー及びメタクリル酸ブチルモノマーの三元共重合体などが例示される。なお、これらの共重合体はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
また、本発明のメタクリル酸エステル単独重合体及び共重合体において、ガラス転移温度(Tg)を低くすると、塗工性は向上する傾向にあるが、その反面、架橋硬化し表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも低下する傾向にある。本発明のメタクリル酸エステル単独重合体及び共重合体において、ガラス転移温度(Tg)は、55〜150℃の範囲が好ましく、60〜110℃がさらに好ましい。この範囲であると、架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも高いレベルを得ることができる。
本発明のポリマーは、GPCにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量が5万〜9万の範囲であることを必須とする。重量平均分子量がこの範囲であると、架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも高いレベルで得ることができるとともに表面保護層形成時の塗工性に優れる。
なお、ここで重量平均分子量とは、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算のものである。ここで用いる溶媒としては通常用いられるものを適宜選択して行うことができ、例えば、テトラヒドロフラン(THF)又はN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)などが挙げられる。
また、本発明のポリマーの多分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は1.1〜3.0の範囲であることが好ましい。多分散度がこの範囲内であると、やはり架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれも高いレベルで得ることができる。以上の点から、本発明のポリマーの多分散度は、さらに1.5〜2.5の範囲であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、電離放射線硬化性樹脂と本発明のポリマーの質量比が75:25〜20:80の範囲であることが好ましい。この範囲であると、架橋硬化して表面保護層を形成した後の成形性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のバランスが良好となる。以上の点から、電離放射線硬化性樹脂と本発明のポリマーの質量比は、60:40〜25:75の範囲がさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は140℃における貯蔵弾性率が7.7×105〜1.2×108の範囲であることが好ましい。貯蔵弾性率が1.2×108以下であると真空成形時に表面保護層にクラックを生じず、成形することができる。また、架橋型の樹脂の場合、ゴム状態での貯蔵弾性率が高いほど、平均架橋点間分子量が低い、すなわち、架橋密度が高いため、表面の耐摩耗性、耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染物性等は向上する。よって、貯蔵弾性率がこの範囲内であると、表面保護層を形成した後の成型性及び表面の耐摩耗性、耐擦傷性のいずれもが高いレベルで満足しうるバランスの取れた加飾シートが得られる。
貯蔵弾性率の測定条件は、JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、表面保護層を構成する樹脂組成物を架橋硬化して製膜した幅10mm、厚さ15μmのシートをクランプ間距離10mm、開始温度30℃、終了温度180℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzにて測定する。
また本発明における樹脂組成物には、得られる硬化樹脂層の所望物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤などが挙げられる。
ここで、耐候性改善剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤を用いることができる。紫外線吸収剤は、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の二酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、具体的には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコールの3−[3−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸エステルなどが挙げられる。一方、光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系、具体的には2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2’−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートなどが挙げられる。また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。また、本発明のポリマーの表面保護層としての性能(成形性及び耐擦傷性)を損なわない程度に共重合して使用することもできる。
耐摩耗性向上剤としては、例えば無機物ではα−アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の球状粒子が挙げられる。粒子形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形等が挙げられ、特に制限はないが、球状が好ましい。有機物では架橋アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂ビーズが挙げられる。粒径は、通常膜厚の30〜200%程度とする。これらの中でも球状のα−アルミナは、硬度が高く、耐摩耗性の向上に対する効果が大きいこと、また、球状の粒子を比較的得やすい点で特に好ましいものである。
他の耐摩耗性向上剤として、シリコーンオイル、電離放射線硬化性を有するシリコーン(メタ)アクリレート、フッ素樹脂等が挙げられ、これらは、耐摩耗性を向上すると共に滑性を付与できる。
重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、t−ブチルカテコールなどが、架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物などが用いられる。
充填剤としては、例えば硫酸バリウム、タルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどが用いられる。
着色剤としては、例えばキナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、酸化チタン、カーボンブラックなどの公知の着色用顔料などが用いられる。
赤外線吸収剤としては、例えば、ジチオール系金属錯体、フタロシアニン系化合物、ジインモニウム化合物等が用いられる。
また、本発明は上記樹脂組成物を架橋硬化した表面保護層を有する加飾シートをも提供するものである。すなわち、本発明の加飾シートは、基材上に少なくとも表面保護層を有する加飾シートであって、表面保護層が上記樹脂組成物を架橋硬化したものである加飾シートである。
本発明の加飾シートは、JIS K 7127に準拠した引張試験における引張伸度が50%以上であることが好ましい。引張伸度は高いほど成形性は良好となるが、引張伸度が50%以上であれば、通常用いられる真空成形型での真空成形時に表面保護層にクラックが発生しない。また、引張伸度は150%以上であることがさらに好ましい。引張伸度が150%以上であると複雑な形状や変形の大きい形状に対しても追従し、表面保護層にクラックが発生しない。
なお、測定条件としては、幅25mm、長さ120mmの試験片を用い、引張速度1000mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離50mm、温度160℃の条件であり、表面保護層にクラックが入る際の引張伸度で評価するものである。
また、本発明の加飾シートは、基材上に装飾の目的で絵柄層などを有していてもよい。
以下、基材上に絵柄層及び表面保護層を有する加飾シートを例に図1を用いて詳細に説明する。
図1はインサート成形に用いる場合の本発明の加飾シート10の断面を示す模式図である。図1に示す例では、基材11上に絵柄層12、隠蔽層13及び接着剤層14を有し、かつ、基材11の絵柄層12の反対側に表面保護層15を有するものである。ここで、表面保護層15は本発明の樹脂組成物を架橋硬化して形成されるものである。
基材11としては、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリル樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」という)、塩化ビニル樹脂等が使用される。また、基材11は、これら樹脂の単層シート、あるいは同種又は異種樹脂による複層シートとして使用することができる。
基材の厚さは、用途に応じて選定されるが、通常、0.03〜1.0mm程度であり、コスト等を考慮すると0.03〜0.2mm程度が一般的である。
これらの基材はその上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面または両面に酸化法や凹凸化法などの物理的または化学的表面処理を施すことができる。
上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法などが挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましく用いられる。
また該基材はプライマー層を形成する等の処理を施してもよいし、色彩を整えるための塗装や、デザイン的な観点での模様があらかじめ形成されていてもよい。
図1に示される絵柄層12は樹脂成形品に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
絵柄層12に用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などの中から任意のものが、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
着色剤としては、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等が用いられる。
隠蔽層13は所望により設けられる層であり、バッカーフィルム表面の色の変化、ばらつきにより、加飾シートの柄の色に影響を及ぼさないようにする目的で設けられる。通常不透明色で形成することが多く、その厚さは1〜20μm程度の、いわゆるベタ印刷層が好適に用いられる。
加飾シート10は射出樹脂との密着性を向上させるため、所望により、接着剤層14を設けることができる。接着剤層14には、射出樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
バッカーフィルム20は、成形樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、成形樹脂と同じ又は類似の樹脂を用いることが接着性の観点から好ましい。成形樹脂としては、一般にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PPとPEの混合物などのポリオレフィン系樹脂;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂(ABS樹脂);ポリカーボネート(PC);ABS樹脂とPCの混合物;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、及びこれらの混合物を使用することが多く、従って、これと同一の樹脂を用いることが好ましい。これらのうち特に、ポリオレフィン、ABS樹脂、ポリカーボネート、及びポリエステルが好ましく、特にポリオレフィン及びABS樹脂が好ましい。
表面保護層15の形成は上述の本発明の樹脂組成物を含有する塗工液を調製し、これを塗布し、架橋硬化することで得ることができる。なお、塗工液の粘度は、後述の塗工方式により、基材の表面に未硬化樹脂層を形成し得る粘度であればよく、特に制限はない。
塗工液の調製において、表面保護層形成用樹脂組成物の溶剤(インキ溶剤)としては、少なくとも、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤のいずれか又はこれらの2種以上を含む溶剤が、電離放射線硬化性樹脂と該ポリマーとの相溶性、塗工性及び乾燥速度の観点から好ましい。
本発明においては、調製された塗工液を、基材11の表面に、硬化後の厚さが1〜1000μmになるように、グラビアコート、グラビアリバースコート、ワイヤーバーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ナイフコート、ブレードコート、コンマコート、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、スリットコート、スプレー塗装などの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗工し、未硬化樹脂層を形成させる。硬化後の厚さが1μm以上であると所望の機能を有する硬化樹脂層が得られる。硬化後の表面保護層の厚さは、好ましくは1〜20μm程度である。
また、表面保護層形成用樹脂組成物は、塗工による表面保護層の形成性の観点から、溶剤に溶解してインキを調製しコートする上で、空気に触れたインキが溶剤の蒸発により皮膜化し難く、再溶解性に優れるものが好ましい。
インキの乾燥性が速く皮膜化したり、再溶解性に乏しいと版やノズルにインキが詰まりインキの転移不良が生じ、また、皮膜塊がドクターブレードや印刷物に付着すると印刷、塗工面不良を招く問題があった。蒸気圧の低い溶剤を添加し溶剤の蒸発を抑え、皮膜形成を遅くすることにより改善は可能だが、長い乾燥装置、高い温度の熱風が必要となり生産性が悪いという問題が発生しやすい。
例えば
(i)グラビアコートの場合
グラビア版に目詰りを起こし、基材への転移時、転移量の低下、筋やかすれ、ムラ、レベリング不足等による塗工面不良を招く。また、ドクターに皮膜が出来ると、インキの掻き取り状態に異常を来たし、塗工面不良を生じさせる。ドクターに出来た皮膜が塗工基材に付着した場合には、スジ状のインキ抜け、皮膜塊が塗工面に転移することによる塗工面状態の悪化を生じさせる。
(ii)ロールコート法の場合
ロールに皮膜が出来ると、転移量の低下、筋やかすれ、ムラ、レベリング不足等による塗工面不良を招く。ロールに生じた皮膜物の一部が剥離し、ロール伝えに基材に転移し、塗工面状態の平滑性を低下させ、また、皮膜塊が基材に転移することにより塗工膜の外観を悪化させる。
(iii)ダイコート法及びコンマコート法の場合
ダイコート法では、リップが皮膜により詰まると、液が基材に均一に転移せず、インキ抜けを生じ、更に悪化すると塗工できなくなる。
コンマコート法では、コンマ形状ギャップ調整部が皮膜化すると、塗工面状態の平滑性を悪化させ、皮膜塊が基材に転移することにより外観を阻害する。
(iv)その他のコート法の場合
カーテンフローコート法においては、皮膜の生成によりスリット状ノズルからの塗工液の膜切れ、塗工膜厚の低下を招き、スプレーコート法においては、皮膜によりスプレーノズルの詰りが生じ、同様に均一な面形成を阻害する。
また、ナイフコート法では、ナイフドクターに皮膜が形成されると、塗工面状態の平滑性を悪化させ、皮膜塊が基材に転移することにより外観を阻害する。
本発明においては、このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させる。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
なお、電子線の照射においては、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、基材11として電子線により劣化する基材を使用する場合には、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材11への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材の劣化を最小限にとどめることができる。
また、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
さらに、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が用いられる。
このようにして、形成された硬化樹脂層には、各種の添加剤を添加して各種の機能、例えば、高硬度で耐擦傷性を有する、いわゆるハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能などを付与することもできる。
本発明の加飾シートは、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法などの各種射出成形法に用いることができ、特にインサート成形法及び射出成形同時加飾法に好適に用いられる。
インサート成形法では、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
射出樹脂は用途に応じた樹脂が使用され、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂が代表的である。また、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等も用途に応じ用いることができる。
次に、射出成形同時加飾法においては、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させ、加飾樹脂成形品を製造する。
なお、射出成形同時加飾法では、射出樹脂による熱圧を加飾シートが受けるため、平板に近く、加飾シートの絞りが小さい場合には、加飾シートは予熱してもしなくてもよい。
なお、ここで用いる射出樹脂としてはインサート成形法で説明したものと同様のものを用いることができる。
以上のようにして製造された加飾樹脂成形体は、その表面保護層に成形過程でクラックが入ることがなく、その表面は高い耐摩耗性や耐擦傷性を有する。また、従来表面保護層として用いられていたアクリルフィルムに対して、耐溶剤性及び耐薬品性が高い。さらに本発明の製造方法では、加飾シートの製造段階で表面保護層が完全硬化されるので、加飾樹脂成形体を製造した後に表面保護層を架橋硬化する工程が不要である。
本発明の加飾樹脂成形体は、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体、容器などの用途に適している。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「%」は特記しない限り「質量%」である。
評価方法
(1)塗工液の皮膜形成性(塗工適性)
表面保護層形成のため第2表に示す各実施例及び比較例の樹脂組成物を含む塗工液を調製し、該塗工液の連続塗工性の簡易評価方法として、塗工液(インキ)の表面に皮膜が形成される迄の時間を以下に示す方法で測定し、評価した。
i)塗工液の調製
固形分(溶剤以外の樹脂組成物重量/インキ全体の重量)濃度が約30%となるように、各実施例及び比較例の樹脂組成物に関し、酢酸エチル/MIBK=1/1の溶剤組成にて塗工液を調製した。なお、比較例5の電離放射線硬化性樹脂のみによる樹脂組成は、常温で液体であるので、そのまま評価した。
ii)試験方法
時計皿にインキ(固形分:約30%)を2g滴下し、室温環境下(25℃、湿度50RH%程度)で、皮膜が確認されるまでの時間を測定した。
iii)評価
○:10分以上の時間で皮膜形成
△:5〜10分で皮膜形成
×:5分以内で皮膜形成
(2)成形性(真空成形)
各実施例及び比較例で得た加飾シートについて以下に示す方法で真空成形を行い、成形後の外観にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;外観上異常なし
○;3次元形状部又は200%延伸部の一部に軽微な艶変化又はクラックがあるが実用上問題なし
△;3次元形状部又は200%延伸部の大部分で軽微な艶変化又はクラック発生
×;延伸部分全体に著しい艶変化又はクラック発生
<真空成形>
加飾シートを赤外線ヒーターで140〜160℃に加熱し、軟化させる。次いで、射出成形用雌型と同形状の型を用いて真空成形を行い、型の内部形状に成形する。型より加飾シートを離型し、不要部分をトリミングして成形品を得る。
(3)成形性(射出成形同時加飾)
各実施例及び比較例で得た加飾シートについて以下に示す方法で射出成形同時加飾を行い、成形後の外観にて評価した。評価基準は上記真空成形における評価基準と同様である。
<射出成形同時加飾>
加飾シートを可動金型内に設置し、赤外線輻射面ヒーターで加飾シートを130℃まで加熱して軟化させた後、射出成形型で真空成形により予備成形した。その後、雌雄両型を型締めした後、耐熱ABS樹脂を雄型のゲートから射出し、射出成形物の成形と同時に加飾シートをその表面に積層一体化して、加飾成形品を成形した。射出成形条件としては、射出樹脂温度230℃、ホットランナはマニホールド部温度240℃、ゲート部温度235℃、金型は雌型が45℃、雄型が50℃、射出時間5秒、冷却時間20秒で行った。型開き後、加飾成形品を型より取り出して射出成形同時加飾品を得た。
(4)耐擦傷性
各実施例及び比較例で製造した加飾シートについて、JIS L0849(摩耗試験機II型(学振型))に準拠して試験を行い、以下の基準で評価した。試験に用いた装置は、(テスター産業(株)製「学振型摩耗試験機」)であり、摩擦用白綿布としてカナキン3号を用い500g荷重で50往復後の試験片で評価した。評価基準は以下のとおりである。
◎;傷付きなし
○;外観上著しい傷付きなし
△;傷付き又は艶変化が試験面の1/4以上1/2以下の面で発生
×;傷付き又は艶変化が試験面の1/2以上で発生
(5)引張伸度
厚さ75μmの透明アクリル樹脂フィルムの裏面に、グラビア印刷により木目柄の絵柄層を形成した。次に、絵柄層を施していない表面に、各実施例及び比較例で製造した加飾シートの表面保護層の作製に用いた電子線硬化性樹脂組成物を、硬化後の厚さが5μmになるように塗工した。この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させ、次に該シートの絵柄層に膜厚10μmのウレタン系接着剤を施し、バッカーフィルムである膜厚400μmの隠蔽着色ABS樹脂シートとラミネートして加飾シートを得た。試験片として幅25mm、長さ120mmの試験片を切り出し、引張速度1000mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離50mm、温度160℃の条件で引張試験を行い、伸度200%まで測定した。硬化膜にクラックが入る引張伸度(%)で評価し、伸度200%まででクラックが入らなかったものは >200と表記した。
(6)分子量の測定
東ソー(株)製高速GPC装置(製品名:HLC−8220GPC)を用いた。カラムは、東ソー(株)製TSKgel SuperMultiporeHZ−M(商品名)を3本、溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を用い、カラム温度40℃、流速0.35mL/minで測定を行なった。なお、本発明における分子量及び分子量分布はポリスチレン換算を行った。
(7)貯蔵弾性率
表面処理をしていないPETフィルムの上に各実施例及び比較例で製造した樹脂組成物を架橋硬化後の膜厚が約15μmになるように塗布した。この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させた。硬化膜をPETフィルムから剥がして、幅10mm、長さ20mmの試験片を切り出した。該試験片を用いて、JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、動的粘弾性測定装置(レオメトリック・サイエンス・エフ・イー(株)製「RSA II」を用い、140℃の貯蔵弾性率を測定した。測定は、クランプ間距離10mm、開始温度30℃、終了温度180℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzにて測定した。
実施例1
電子線硬化性樹脂(以下「EB樹脂」という)である4官能のウレタンアクリレート(以下「EB−1」という)25質量部に、メタクリル酸メチル(以下「MMA」という)モノマーの重合体であるポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA−A」という)を75質量部混合し、電子線硬化性樹脂組成物を得た。EB樹脂:PMMA−Aの質量比は25:75である。このPMMA−Aは、重量平均分子量(Mw)0.62×105、数平均分子量(Mn)0.37×105、多分散度(Mw/Mn)1.70であった。分子量に関連する数値を第1表に示す。
次に基材として厚さ75μmの透明アクリル樹脂フィルムを用い、該フィルムの裏面に、グラビア印刷により木目柄の絵柄層を形成した。次いで、絵柄層を施していない表面に、上記電子線硬化性樹脂組成物を硬化後の厚さが5μmとなるように塗工した。この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させ、次に該シートの絵柄層側に膜厚10μmのウレタン系樹脂接着剤を施し、バッカーフィルムである膜厚400μmの隠蔽着色ABS樹脂シートとラミネートして加飾シートを得た。
該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
実施例2
EB樹脂とPMMA−Aの質量比を第2表に記載するように変化させたこと以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
実施例3
実施例1のEB樹脂を4官能のウレタンアクリレートEB−1に代えて、3官能のウレタンアクリレート(以下「EB−2」という)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
実施例4及び5
実施例1のPMMA−Aに代えてPMMA−Bを用い、EB樹脂とPMMA−Bの質量比を第2表に記載するように変化させたこと以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
実施例6
EB樹脂として2官能のウレタンアクリレート(以下「EB−3」という)45質量部に、PMMA−Aを55質量部混合した、EB樹脂:PMMA(質量比)が45:55の電子線硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
実施例7
EB樹脂として2官能のウレタンアクリレート(以下「EB−3」という)45質量部および耐摩耗性向上剤として単官能のシリコーンアクリレート(以下「EB−4」という)1質量部に、PMMA−Aを54質量部混合した、EB樹脂:PMMA(質量比)が46:54の電子線硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
比較例1〜4
PMMA−Aに代えて、それぞれ第1表に示す重量平均分子量3万7千のPMMA−C、重量平均分子量28万のPMMA−D、MMAとアクリル酸メチル(MA)の共重合体(MMAとMAのモル比100:5)で重量平均分子量10万のPMMA−Eを第2表に示すEB樹脂との比率で用いたこと以外は実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
比較例5〜9
EB樹脂として4官能のウレタンアクリレートであるEB−1のみを用いた場合、及び
EB樹脂を用いることなく、PMMA−A、PMMA−B、PMMA−C、PMMA−Eをそれぞれ100%とした以外は、実施例1と同様にして加飾シートを得た。該加飾シートについて上記方法にて評価した。評価結果を第2表に示す。
Figure 0005332258
Figure 0005332258
*1 EB−1;4官能のウレタンアクリレート
*2 EB−2;3官能のウレタンアクリレート
*3 EB−3;2官能のウレタンアクリレート
*4 EB−4;単官能のシリコーンアクリレート
*5 不可;インキ化できず不可
*6 測定不可;貯蔵弾性率測定中にサンプルが液状化して測定不可能
第2表に示すように本発明の樹脂組成物を用いた塗工液は、空気に触れても表面に皮膜が形成されにくく、連続塗工性に優れ、安定して表面保護層を形成することができる。
本発明の樹脂組成物を用いた表面保護層を形成した加飾シートは、通常のインサート成形法や射出成形同時加飾法において、160℃程度の加熱温度から金型に接触時の温度まで急激な温度低下と急激な伸張速度、高伸張度の条件であってもクラックや割れが発生することがない。
さらに、このように成形性が良好な上、製造された加飾樹脂成形品の表面は高い耐摩耗性及び耐擦傷性を有することが確認された。
本発明の樹脂組成物は、これを用いた塗工液が、空気に触れても表面に皮膜が形成されにくく、連続塗工性に優れ、安定して表面保護層を形成することができるので加飾シートの表面保護層として有効に利用できる。
本発明の樹脂組成物を加飾シートの表面保護層として施すことにより、加飾シートの表面が、高い耐摩耗性及び耐擦傷性を有し、かつ、成形性が良好でクラック等が入らない。
従って、本発明の加飾シートを用いて製造した加飾樹脂成形体は、その表面保護層に成形過程でクラックが入ることがなく、その表面は高い耐摩耗性や耐擦傷性を有する。また、本発明の製造方法によれば、加飾シートの製造段階で表面保護層が完全硬化されるので、加飾樹脂成形体を製造した後に表面保護層を架橋硬化する工程が不要である。
本発明の加飾シートの断面を示す模式図である。
符号の説明
10.加飾シート
11.基材
12.絵柄層
13.隠蔽層
14.接着剤層
15.表面保護層
20.バッカーフィルム

Claims (8)

  1. 基材上に少なくとも表面保護層を有する加飾シートであって、表面保護層が電離放射線硬化性樹脂及びメタクリル酸エステルを重合してなるポリマーを含む樹脂組成物であって、該ポリマーのゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量が5万〜7.5万の範囲であり、該ポリマーの多分散度が1.1〜3.0の範囲である加飾シートの表面保護層形成用樹脂組成物を架橋硬化したものである加飾シート。
  2. JIS K 7127に準拠した以下の測定条件で測定した引張試験における引張伸度が50%以上である請求項1に記載の加飾シート。
    測定条件;幅25mm、長さ120mmの試験片を用い、引張速度1000mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離50mm、温度160℃の条件で、表面保護層にクラックが入るまでの引張伸度を測定する。
  3. 前記ポリマーがメタクリル酸メチルの単独重合体である請求項1又は2に記載の加飾シート。
  4. 電離放射線硬化性樹脂が電子線硬化性樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シート。
  5. 表面保護層形成用樹脂組成物の、以下の測定条件で測定した140℃における貯蔵弾性率が7.7×10 5 〜1.2×10 8 Paの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加飾シート。
    貯蔵弾性率の測定条件:JIS K7244−1及び7244−4に準拠し、樹脂組成物を架橋硬化して製膜した幅10mm、厚さ15μmのシートをクランプ間距離10mm、開始温度30℃、終了温度180℃、昇温速度5℃/分、測定周波数1Hzにて測定する。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の加飾シートを、真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、余分な部分をトリミングして成形シートを得る工程、該成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する工程を有する加飾樹脂成形品の製造方法。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の該成形面に対し、前記加飾シートの基材が対面するように設置した後、該加飾シートを加熱、軟化させると共に、前記可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する工程、成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂成形材料を射出、充填して固化させることにより、形成された樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる射出成形工程、及び、可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す工程を順次施す加飾樹脂成形品の製造方法。
  8. 請求項6又は7に記載の製造方法により製造した加飾樹脂成形品。
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