JP5325503B2 - 超音波診断装置 - Google Patents

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Description

本発明は、超音波診断装置に関し、特に、連続波を利用する超音波診断装置に関する。
超音波診断装置の連続波を利用した技術として、連続波ドプラが知られている。連続波ドプラでは、例えば、数MHzの正弦波である送信波が生体内へ連続的に放射され、生体内からの反射波が連続的に受波される。反射波には、生体内における運動体(例えば血流など)によるドプラシフト情報が含まれる。そこで、そのドプラシフト情報を抽出して周波数解析することにより、運動体の速度情報を反映させたドプラ波形などを形成することができる。
連続波を利用した連続波ドプラは、パルス波を利用したパルスドプラに比べて一般に高速の速度計測の面で優れている。こうした事情などから、本願発明者は、連続波ドプラに関する研究を重ねてきた。その成果の一つとして、特許文献1において、周波数変調処理を施した連続波ドプラ(FMCWドプラ)に関する技術を提案している。
一方、連続波ドプラでは、連続波を利用していることにより位置計測が困難である。例えば、従来の一般的な連続波ドプラの装置(FMCWドプラを利用しない装置)では、位置計測を行うことができなかった。これに対し、本願発明者は、特許文献2において、FMCWドプラにより生体内組織の速度に加えて生体内組織の位置を計測することができる技術を提案している。
特開2005−253949号公報 特開2006−14916号公報
特許文献1や特許文献2に記載されたFMCWドプラの技術は、それまでにない超音波診断の可能性を秘めた画期的な技術である。本願発明者は、この画期的な技術の改良についてさらに研究を重ねてきた。特に、デジタル変調処理された連続波を利用して目標位置からの生体内情報を抽出する技術に注目して研究を重ねてきた。
本発明は、このような背景において成されたものであり、その目的は、デジタル変調処理された連続波を利用して目標位置からの生体内情報を抽出する技術において抽出の精度を高めることにある。
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である超音波診断装置は、周期的な信号列に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して生体からの反射波を受波することにより得られる受信信号に対して、前記送信信号に実質的に等しい波形の参照信号を用いて復調処理を施すことにより復調信号を得る受信信号処理部と、復調信号から生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、を有し、前記周期的な信号列の周期を調整することにより、超音波の送受波方向に沿って周期的に変化する不要信号の周期を調整して生体内の目標位置において不要信号を低減させ、且つ、当該目標位置から得られる受信信号と参照信号との間の相関関係を調整して復調処理を施すことにより、当該目標位置からの生体内情報を選択的に抽出する、ことを特徴とする。
上記態様では、参照信号を用いて受信信号に対して復調処理を施しているため、参照信号との相関が比較的大きい信号成分を含んだ復調信号を得ることができる。そして、その復調処理にあたり、目標位置から得られる受信信号と参照信号との間の相関関係が調整され、例えば、参照信号との相関が比較的大きい信号成分として目標位置からの受信信号を抽出することができる。さらに、生体内の目標位置において不要信号を低減させているため、目標位置から抽出される受信信号に関する抽出の精度を高めることができる。
なお、上記態様において、参照信号と送信信号は、完全に等しい波形であることが望ましい。但し、参照信号と送信信号は、実質的に等しい波形とみなせる程度の対応関係でもよい。
望ましい態様において、前記不要信号には、超音波の送受波方向に沿って周期的に出現する極大成分が含まれており、前記デジタル変調処理における周期的な信号列の周期を調整して極大成分を目標位置からずらすことにより、目標位置において不要信号を低減させる、ことを特徴とする。
望ましい態様において、前記不要信号には、生体の体表近傍の組織から得られる受信信号に基づいて周期的に出現する極大成分が含まれており、当該極大成分を目標位置からずらすことにより、目標位置において不要信号を低減させる、ことを特徴とする。
望ましい態様において、前記超音波診断装置は、生体内の目標位置に応じた遅延処理により、前記相関関係を調整して、目標位置から得られる受信信号の周期的な信号列と参照信号の周期的な信号列との間の相関を強める、ことを特徴とする。
望ましい態様において、前記超音波診断装置は、目標位置の深さに応じた遅延量だけ参照信号を遅延処理することにより、目標位置から得られる受信信号の信号列パターンと参照信号の信号列パターンとを互いに一致させる、ことを特徴とする。
望ましい態様において、前記送信信号処理部は、周期的な信号列に基づいた位相シフトキーイングにより位相を変化させた連続波の送信信号を出力することを特徴とする。
望ましい態様において、前記送信信号処理部は、周期的な信号列に基づいた周波数シフトキーイングにより周波数を変化させた連続波の送信信号を出力することを特徴とする。
本発明により、デジタル変調処理された連続波を利用して目標位置からの生体内情報を抽出する技術において抽出の精度が高められる。例えば、本発明の好適な態様によれば、生体内の目標位置において不要信号が低減され、目標位置から抽出される受信信号に関する抽出の精度が高められる。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す機能ブロック図である。送信用振動子10は生体内へ送信波を連続的に送波し、また、受信用振動子12は生体内からの反射波を連続的に受波する。このように、送信および受信がそれぞれ異なる振動子で行われて、いわゆる連続波ドプラ法による送受信が実行される。本実施形態において利用される連続波は、デジタル変調された連続波であり、デジタル変調処理部20によって形成される。
デジタル変調処理部20は、パターン発生部24から供給される周期的な信号列に基づいて、RF波発振器22から供給されるRF波に対してデジタル変調処理を施して連続波を発生する。デジタル変調処理部20における変調処理としては、位相シフトキーイング(PSK)や周波数シフトキーイング(FSK)などが好適である。デジタル変調処理部20において形成される連続波の波形については後の原理説明で詳述する。デジタル変調処理部20は、デジタル変調された連続波を電力増幅器14に出力する。
電力増幅器14は、デジタル変調された連続波を電力増幅して送信用振動子10に供給する。そして、デジタル変調された連続波に対応する送信波が送信用振動子10から送波され、生体内からの反射波が連続的に受信用振動子12によって受波される。
前置増幅器16は、受信用振動子12から供給される受波信号に対して低雑音増幅等の受信処理を施し、受信RF信号を形成して受信ミキサ30へ出力する。受信ミキサ30は受信RF信号に対して直交検波を施して複素ベースバンド信号を生成する回路であり、2つのミキサ32,34で構成される。各ミキサは受信RF信号を所定の参照信号と混合する回路である。
受信ミキサ30の各ミキサに供給される参照信号は、デジタル変調された連続波(送信信号)に基づいて生成される。つまり、デジタル変調処理部20から出力される連続波が遅延回路26Iと遅延回路26Qにおいて遅延処理され、遅延回路26Iにおいて遅延処理された連続波がミキサ32に供給され、遅延回路26Qにおいて遅延処理された連続波がミキサ34に供給される。
遅延回路26Iと遅延回路26Qは、目標位置の深さに応じた遅延量だけ連続波に遅延処理を施し、遅延された参照信号を出力する。遅延回路26Iと遅延回路26Qは、各々、例えばn段のシフトレジスタによって形成することができる。この場合、シフトレジスタのn段のタップから目標位置の深さに応じた遅延量のタップが選択され、選択されたタップから目標位置の深さに応じた参照信号(遅延処理された連続波)が出力される。
なお、遅延回路26Iと遅延回路26Qは、互いに連続波の位相をπ/2だけずらして遅延処理を行う。その結果、ミキサ32から同相信号成分(I信号成分)が出力され、ミキサ34から直交信号成分(Q信号成分)が出力される。そして、受信ミキサ30の後段に設けられるLPF(ローパスフィルタ)36,38によって、同相信号成分および直交信号成分の各々の高周波数成分がカットされて検波後の必要な帯域のみの復調信号が抽出される。
後の原理説明で詳述するが、各ミキサで実行される受信RF信号と参照信号との混合処理の結果である受信ミキサ出力信号(復調信号)には、目標位置からの受信信号成分が多く含まれている。LPF36,38において、その目標位置からの受信信号成分に含まれている直流信号成分が抽出される。
FFT回路(高速フーリエ変換回路)40,42は、復調信号(同相信号成分および直交信号成分)の各々に対してFFT演算を実行する。その結果、FFT回路40,42において復調信号が周波数スペクトラムに変換される。なお、FFT回路40,42から出力される周波数スペクトラムは、回路の設定条件などにより周波数分解能δfの周波数スペクトラムデータとして出力される。
ドプラ情報解析部44は、周波数スペクトラムに変換された復調信号からドプラ情報を抽出する。その際、予め遅延回路26I,26Qによって、生体内の目標位置の深さに応じて参照信号と受信信号との間の遅延関係が調整されているため、目標位置からのドプラ情報が選択的に抽出される。遅延関係の調整と目標位置からのドプラ情報の抽出との関連については、後の原理説明において詳述する。ドプラ情報解析部44は、生体内の各深さ(各位置)ごとにドプラ情報を抽出して、例えば、超音波ビーム(音線)上の各深さごとに生体内組織の速度を算出し、リアルタイムで出力する。なお、超音波ビームを走査させて二次元的あるいは三次元的に生体内組織の各位置の速度を算出してもよい。
表示処理部46は、生体組織の深さ(位置)ごとの速度に基づいて、例えばドプラ波形や、深さ速度の情報を含むグラフなどを形成し、形成したドプラ波形やグラフなどを表示部48にリアルタイムで表示させる。なお、図1に示す超音波診断装置内の各部は、システム制御部50によって制御される。つまり、システム制御部50は、送信制御や受信制御や表示制御などを行う。
以上、概説したように、本実施形態では、デジタル変調処理された連続波に対応した超音波を送受波して受信信号を得て、生体内の目標位置の深さに応じて参照信号と受信信号との間の遅延関係を調整し、目標位置からの受信信号と参照信号との間の相関を強めて復調処理を施すことにより、目標位置からの生体内情報としてドプラ情報を選択的に抽出する。デジタル変調処理部20における変調方式としては、位相シフトキーイング(PSK)や周波数シフトキーイング(FSK)が好適である。そこで、各変調方式ごとに、目標位置からのドプラ情報が選択的に抽出される原理について詳述する。
<位相シフトキーイング(PSK)による位置選択性>
図2は、位相シフトキーイング(PSK)により形成される連続波の送信信号を説明するための図である。図2(A)には、RF波発振器(図1の符号22)から出力されるRF信号(RF波)の波形が示されている。RF信号は、一定の周波数(例えば5MHz程度)の連続波である。図2(B)には、パターン発生部(図1の符号24)から出力される周期的な信号列の一例が示されている。パターン発生部は、例えば図2(B)に示すような、ランダムに値を変化させた2値符号(擬似ランダム信号)を発生する。
図2(C)には、PSK変調器として機能するデジタル変調処理部(図1の符号20)において形成される変調された連続波(送信信号)が示されている。デジタル変調処理部は、図2(A)のRF信号に対して、図2(B)の2値符号に基づいて、位相シフトキーイング(PSK)の変調処理を施す。デジタル変調処理部は、2値符号が「1」のビット期間においてRF信号の位相をそのままとし、2値符号が「−1」のビット期間においてRF信号の位相を反転する(180度ずらす)ことにより、図2(C)の送信信号を形成する。こうして、例えば図2(C)の送信信号に対応した連続波の超音波が送信用振動子(図1の符号10)から出力され、受信用振動子(図1の符号12)を介して生体内から受信信号が得られる。
図3は、送信信号と受信信号と復調信号の周波数スペクトラムを示す図である。図3(A)には、PSK変調器として機能するデジタル変調処理部において形成される送信信号、つまりPSK変調された連続波の周波数スペクトラムが示されている。周波数fは、RF信号の周波数である。RF信号の周波数fを中心として広がっている側帯波の周波数間隔は、擬似ランダム信号(図2(B)の2値符号)の繰り返し周波数fである。また、周波数fを中心として広がっている側帯波の電力が0(ゼロ)となる、いわゆるヌル(null)点が存在する。周波数fからヌル点までの周波数間隔は、擬似ランダム信号(図2(B)の2値符号)の1ビットの時間間隔Tの逆数となる。
図3(B)には、受信信号の周波数スペクトラムが示されている。受信信号は、生体内における減衰を無視すると、送信信号と同じ波形となる。したがって、図3(B)に示す受信信号の周波数スペクトラムは、図3(A)に示す送信信号の周波数スペクトラムとほぼ同じである。但し、生体内における超音波の伝搬時間に応じて、送信信号と受信信号との間では位相が異なる。
本実施形態では、デジタル変調処理部(図1の符号20)において形成された送信信号に対して遅延処理を施して参照信号を形成し、受信ミキサ(図1の符号30)においてその参照信号を用いて受信信号に対してミキサ処理(参照信号と受信信号の乗算)が行われる。後に詳述するが、このミキサ処理において、遅延処理された参照信号の位相に対応する深さ(目標位置の深さ)からの受信信号と参照信号との間の相関が強められて最大となり、その他の深さからの受信信号と参照信号との間の相関が極端に小さくなる。
図3(C)には、ミキサ処理により得られる復調信号の周波数スペクトラムが示されている。図3(C)の復調信号は、相関が最大の場合における参照信号と受信信号の乗算結果に相当する。つまり、目標位置からの受信信号と、目標位置の深さに位相を合わせた参照信号との間の乗算結果が、図3(C)の復調信号となる。
図3(C)に示す復調信号には、直流信号成分と、RF信号の周波数fの2倍の高調波成分が含まれている。ドプラ信号は、これらの成分に付着した形で出現する。なお、LPF(図1の符号36,38)において、高調波成分がカットされて直流信号成分のみが抽出されるため、FFT回路(図1の符号40,42)においては、図3(C)に示す直流信号成分と周波数fの2倍の高調波成分のうち、直流信号成分の周波数スペクトラムのみが形成される。そして、ドプラ情報解析部(図1の符号44)において、図3(C)に示す直流信号成分の周波数スペクトラムからドプラ信号が抽出され、ドプラシフト量などに基づいて、目標位置に存在する血流の流速などが算出される。受信ミキサ(図1の符号30)において、直交検波を施しているため、流速の極性を判断することもできる。直流信号成分の周波数スペクトラムからクラッタ信号を抽出して、目標位置に存在する血管壁の位置などを算出してもよい。
図4は、本実施形態における位置選択性を説明するための図である。受信信号と参照信号の相関の鋭さは、パターン発生部(図1の符号24)において形成される周期的な信号列のシーケンスに依存する。相関性を鋭くするためには、周期的な信号列である擬似ランダム信号の符号系列として、PN(Pseudo Noise)系列、M系列、Gorey系列など、パルス圧縮などで実用化されている符号系列を用いればよい。簡単な例として、n=3のPN符号を用いた場合の位置選択性について、図4を用いて説明する。
n=3の場合のPN符号の長さは7(=2―1)ビットである。このシーケンスが際限なく繰り返すので、この擬似ランダムパターンは繰り返し周期の逆数の線スペクトラムを持っている。この信号を用いて周波数fの搬送波に0−πの2相のPSK変調をかけると、その時間波形は、先に説明した図2(C)のようになる。
受信信号は、送信信号が目標の深さに応じた遅延時間だけ遅れ、また組織によって減衰した信号である。その減衰を無視すると、例えば図4の受信信号の波形が得られる。送信信号を遅延処理して得られる参照信号の位相をφ〜φまで変化させて受信信号と乗算した結果(乗算器出力)が図4に示されている。
図4から、参照信号と受信信号の位相が一致したφの場合に、乗算器出力(ミキサ出力)の直流成分が最大になる。また、交流成分としては、搬送波およびその高調波成分のみとなるのも、参照信号と受信信号の位相が一致した場合の特徴である。この信号の周波数スペクトラムは、図3(C)に示したとおりである。また、図4から、位相がφ以外の場合には、乗算器出力として正と負の電圧がランダムに発生するので、これらの平均電圧は非常に小さくなる。
図5は、乗算器出力の電圧と参照信号の位相との関係を説明するための図である。図5には、受信信号のPNパターンと、位相の異なる複数の参照信号(参照波1から参照波16)の各々のPNパターンと、各参照信号と受信信号を乗算した結果(出力1から出力16)と、乗算結果の合計値が示されている。
図5においては、PNパターンの繰り返し周期ごとに合計値のピークが出現し、ピーク以外の位相では、電圧(合計値)は極端に小さくなっている。この例におけるPNパターンの長さは7ビットであり、右端欄の集計は約3周期分、すなわち20ビットの合計である“20”が最大値となっている。一方、ピーク以外の位相では、合計は−2または−4であり、“20”に比べて極端に小さい。
このように、目標位置からの受信信号に対応するように参照信号の位相を調整することにより、その目標の深さからの反射波電力とドプラ情報を選択的に検出する位置選択性が実現される。但し、図5に示すように、その位置選択性は、深さ方向に周期性を伴っている。
図6は、位置選択の周期性を説明するための図である。図6の上段に示す乗算器出力(信号電力)は、乗算器(受信ミキサ30)から出力されるドプラ信号成分の電力を示しており、図5を用いて説明したように深さ方向に沿って周期性を持っている。したがって、例えば、目標位置(選択位置)からの受信信号と参照信号の位相を一致させると、当該目標位置からの受信信号を抽出すると同時に、当該目標位置と周期的な対応関係にある他の位置からの受信信号も抽出してしまう。その周期的な対応関係は、パターン発生部(図1の符号24)から出力される周期的な信号列(擬似ランダム信号)の周期1/fp1に伴うものである。例えば、図6の上段に示すように、深さdを目標位置として設定した場合に、擬似ランダム信号の周期1/fp1に対応した距離だけ離れた表面付近の受信信号も抽出されてしまう。
表面付近からの信号は、周波数依存減衰(FDA)の影響をほとんど受けないため、固定組織からの反射電力が極端に大きい。そのため、表面付近からの信号が抽出されてしまうと、表面付近からの反射電力が目標位置からの微小信号に覆いかぶさる状態となり、当該微小信号の検出感度を劣化させてしまう可能性がある。図6の下段は、その検出感度の劣化を説明するための図である。
図6の下段に示す乗算器出力(クラッタ積算電力)は、体表からの深さとクラッタ積算電力との対応関係を示している。横軸の各深さ(体表からの深さ)に対応する縦軸の値(クラッタ積算電力)は、各深さに対応するように参照信号の位相を設定した場合に、その設定条件の参照信号を用いて得られる復調信号に含まれるクラッタ電力を積算したものである。例えば、参照信号の位相をτに設定すると、位相τに対応した目標位置(選択位置)からの受信信号が選択的に抽出される。ところが、通常は深さ方向のほぼ全域に亘って固定組織が存在するため、目標位置以外の深さからの固定組織成分(クラッタ成分)も選択性は低いが抽出されてしまう。そこで、位相をτに設定した参照信号を用いて得られる復調信号に含まれるクラッタ電力を超音波ビーム方向に沿って合計した値がクラッタ積算電力Pとなる。同様に、参照信号の位相をτに設定した場合のクラッタ積算電力がPである。
図6の下段において、参照信号の位相がτの場合は、τの場合に比べて、目標位置(選択位置)が組織表面に近いため、FDAの影響をほとんど受けない表面に近い固定組織からの反射電力が選択的に抽出されてしまい、クラッタ積算電力の値が大きくなっている。クラッタ積算電力の値が最大値Pmaxとなるのは、選択位置を表面あるいは表面近傍に設定した場合である。さらに、先に説明した位置選択の周期性により、クラッタ積算電力も深さ方向に沿って周期的に変化する。そのため、表面近傍の固定組織に伴うクラッタ積算電力の極大成分が深さ方向に沿って周期的に出現する。
例えば、深さdを目標位置として設定すると、擬似ランダム信号の周期1/fp1に対応した距離だけ離れた表面付近の受信信号が抽出されてしまい、深さdにおいてもクラッタ積算電力の値が最大値Pmaxとなってしまう。したがって、図6の条件のままで目標位置を深さdに設定してしまうと、目標位置からの微弱なドプラ信号が大きなクラッタ積算電力に埋もれてしまい、ドプラ信号の検出感度を低下させてしまう可能性がある。本実施形態においては、擬似ランダム信号の周期を変化させて、検出感度の低下などの問題を回避している。
図7は、擬似ランダム信号の周期の変化に伴うクラッタ積算電力の変化を説明するための図である。図7においては、擬似ランダム信号の繰り返し周波数がfp2の場合に、つまり擬似ランダム信号の周期が1/fp2の場合に、深さdでクラッタ積算電力が最大となっている。そこで、例えば、擬似ランダム信号の繰り返し周波数を遅く(小さく)してfp1に変化させると、クラッタ積算電力の極大成分が深さdよりも深い方向へ移動する。つまり目標位置である深さdからクラッタ積算電力の極大成分をずらすことができる。したがって、クラッタ積算電力の極大成分による影響を回避しつつ、目標位置である深さdからドプラ信号を選択的に抽出することが可能になる。図7に示すように、擬似ランダム信号の繰り返し周波数を速く(大きく)して、繰り返し周波数をfp3,fp4などに変化させても、目標位置である深さdからクラッタ積算電力の極大成分をずらすことができる。
なお、先に説明した位置選択の周期性により、目標位置よりも手前の位置(浅い位置)における信号も選択的に抽出される場合がある。この場合には、その手前の位置にノイズとなる大きな信号成分が存在しないことが望ましい。例えば、Bモード画像などを利用して目標位置の手間の組織状態などを確認してから、本実施形態により目標位置のドプラ信号を抽出すればよい。
図8は、擬似ランダム信号の周期の制御例を説明するための図である。図8の横軸は、擬似ランダム信号(擬似ランダムパターン)の周期であり、擬似ランダム信号の繰り返し周波数も併記されている。図8の縦軸は、体表からの深さ(目標位置の深さ)である。図8は、擬似ランダムパターンの各周期ごとに、その周期におけるクラッタ積算電力の深さ方向の周期性を縦軸方向に示したものである。
先に説明したように(図6,7参照)、クラッタ積算電力は深さ方向に沿って周期的に繰り返し出現する極大成分を含んでいる。図8において、点描パターンで塗りつぶされた領域が極大成分の領域である。この領域においては、クラッタ積算電力の極大成分の影響によりドプラ信号を高感度に検出することが困難となる。つまり、点描パターンで塗りつぶされた極大成分の領域がドプラ信号を検出する際のブラインドゾーンとなる。
例えば、擬似ランダムパターンの周波数を10kHzとし、参照信号の位相を調整して深さ7.5cmの位置を目標位置とした場合、その目標位置が点描パターンで塗りつぶされた極大成分の領域(ブラインドゾーン)となるためドプラ信号を高感度に検出することが難しい。
そこで、例えば、目標位置が深さ7.5cmの近傍の場合に、擬似ランダムパターンの周波数を8kHzに変更する。擬似ランダムパターンの周波数が8kHzの場合には、深さ7.5cmの近傍からブランドゾーンがずれるため、ドプラ信号を高感度に検出することが可能になる。なお、擬似ランダムパターンの周波数が8kHzの場合には深さ9.5cmの近傍にブラインドゾーンが位置するため、深さ9.5cmの近傍においては擬似ランダムパターンの周波数を10kHzに戻せばよい。
さらに、擬似ランダムパターンの周波数が10kHzの場合には、深さ15cmの近傍にもブラインドゾーンが存在するため、深さ15cmの近傍においては、擬似ランダムパターンの周波数を8kHzに変更し、深さ18.8cmの近傍において擬似ランダムパターンの周波数を10kHzに戻す。
このように、擬似ランダムパターンの周波数を適宜変更することにより、深さ方向の広い領域に亘って、望ましくは深さ方向の全領域に亘って、ブラインドゾーンを避けつつドプラ信号を検出することが可能になる。
以上、デジタル変調処理部20において位相シフトキーイング(PSK)を用いた実施形態について説明したが、位相シフトキーイング(PSK)に換えて周波数シフトキーイング(FSK)を利用しても位置選択性を実現することができる。そこで、次に、周波数シフトキーイング(FSK)を利用した位置選択性について説明する。
<周波数シフトキーイング(FSK)による位置選択性>
図9は、周波数シフトキーイング(FSK)により形成される連続波の超音波送信信号を説明するための図である。図9(I)には、パターン発生部(図1の符号24)から出力される周期的な信号列の一例が示されている。パターン発生部は、例えば図9(I)に示すような、ランダムに値を変化させた2値符号(擬似ランダム信号)を発生する。周期的な信号列である擬似ランダム信号の符号系列としては、PN(Pseudo Noise)系列、M系列、Gorey系列などパルス圧縮などで実用化されている符号系列を用いればよい。
図9(II)には、FSK変調器として機能するデジタル変調処理部(図1の符号20)において形成される変調された連続波(超音波送信信号)が示されている。デジタル変調処理部は、図9(I)の2値符号に基づいた周波数シフトキーイングにより、RF波(搬送波)に対してデジタル変調処理を施して連続波の送信信号を形成する。デジタル変調処理部は、例えば2値符号が「1」のビット期間において周波数fとし2値符号が「0」のビット期間において周波数fとすることにより、図9(II)の超音波送信信号を形成する。
こうして、例えば図9(II)の超音波送信信号に対応した連続波の超音波が送信用振動子(図1の符号10)から出力され、受信用振動子(図1の符号12)を介して生体内から受信信号が得られる。そして、周波数シフトキーイング(FSK)の場合においてもデジタル変調処理部(図1の符号20)で形成された送信信号に対して遅延処理を施して参照信号を形成し、受信ミキサ(図1の符号30)においてその参照信号を用いて受信信号に対してミキサ処理(参照信号と受信信号の乗算)が行われる。このミキサ処理において、遅延処理された参照信号の位相に対応する深さ(目標位置の深さ)からの受信信号と参照信号との間の相関が強められて最大となり、その他の深さからの受信信号と参照信号との間の相関が極端に小さくなる。
図10は、FSKにおける参照波(参照信号)の位相と乗算器出力との関係を示す図である。図10に示すグラフは、7ビットの周期で変化する擬似ランダムパターンを用いた例に対応しており、図10に示すグラフの縦軸は、7ビットの期間内において得られる乗算器出力の合計値である。また、図10に示すグラフの横軸は、受信信号に対する参照波(参照信号)の位相、つまり、受信信号と参照信号の位相差を示している。なお、図10の横軸は、1ビットの時間であるTを基準単位とした場合の位相の相対的な大きさを示している。
参照信号と受信信号の位相差が0(ゼロ)の場合には、その受信信号と参照信号の擬似ランダムパターンが互いに一致するため、7ビットの期間内において得られる乗算器出力の合計値は「+7」となる。したがって、図10において、参照波の位相が0の場合における乗算器出力値が「+7」となっている。これに対して、参照信号と受信信号の間に位相差が生じると、その受信信号と参照信号の擬似ランダムパターンが互いにずれるため、7ビットの期間内において得られる乗算器出力の合計値が「+1,0,−1」程度と極端に小さくなる。なお、参照波の位相が相対値で7だけずれると、7ビットの周期の擬似ランダム信号が1周期分だけずれるため、乗算器出力値は、位相差が0の場合と同じく極端に大きな値「+7」を示す。
このように、FSKの場合においても、PSKの場合(図5参照)と同様に、参照信号の位相に応じた位置選択性があり、さらにその位置選択性が擬似ランダムパターンの周期に応じた周囲性を備えている。そのため、PSKの場合(図6,7参照)と同様に、FSKの場合においても体表近傍の固定組織に伴う極大成分が深さ方向に周期的に出現する。そして、やはりPSKの場合(図8参照)と同様に、FSKの場合においても、擬似ランダムパターンの周期(周波数)を適宜制御することにより、極大成分の影響によるブラインドゾーンを避けつつ、ドプラ信号を検出することが可能になる。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態によれば、擬似ランダムパターンの周波数を適宜変更することにより、深さ方向の広い領域に亘って、望ましくは深さ方向の全領域に亘って、ブラインドゾーンを避けつつドプラ信号を検出することが可能になる。これにより、例えば、通常のCWドプラの場合と比較して、クラッタ電力が20dB程度少ない状態で、目標位置から選択的にドプラ信号を抽出することなどが可能になる。
なお、上述した本発明の好適な実施形態等は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。例えば、デジタル変調された連続波のデータをメモリなどに記憶しておきこのメモリから読み出されるデータに基づいて、当該連続波を生成してもよい。
本発明に係る超音波診断装置の全体構成を示す機能ブロック図である。 PSKにより形成される連続波の送信信号を説明するための図である。 送信信号と受信信号と復調信号の周波数スペクトラムを示す図である。 本実施形態における位置選択性を説明するための図である。 乗算器出力の電圧と参照信号の位相との関係を説明するための図である。 位置選択の周期性を説明するための図である。 擬似ランダム信号の周期の変化に伴うクラッタ積算電力の変化を説明するための図である。 擬似ランダム信号の周期の制御例を説明するための図である。 FSKにより形成される連続波の送信信号を説明するための図である。 FSKにおける参照波の位相と乗算器出力との関係を示す図である。
符号の説明
20 デジタル変調処理部、22 RF波発振器、24 パターン発生部、26I,26Q 遅延回路、40,42 FFT回路、44 ドプラ情報解析部。

Claims (7)

  1. 周期的な信号列に基づいてデジタル変調処理された連続波の送信信号を出力する送信信号処理部と、
    前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して生体からの反射波を受波することにより得られる受信信号に対して、前記送信信号に実質的に等しい波形の参照信号を用いて復調処理を施すことにより復調信号を得る受信信号処理部と、
    復調信号から生体内情報を抽出する生体内情報抽出部と、
    を有し、
    前記周期的な信号列の周期を調整することにより、超音波の送受波方向に沿って周期的に変化する不要信号の周期を調整して生体内の目標位置において不要信号を低減させ、且つ、当該目標位置から得られる受信信号と参照信号との間の相関関係を調整して復調処理を施すことにより、当該目標位置からの生体内情報を選択的に抽出する、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  2. 請求項1に記載の超音波診断装置において、
    前記不要信号には、超音波の送受波方向に沿って周期的に出現する極大成分が含まれており、
    前記デジタル変調処理における周期的な信号列の周期を調整して極大成分を目標位置からずらすことにより、目標位置において不要信号を低減させる、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  3. 請求項2に記載の超音波診断装置において、
    前記不要信号には、生体の体表近傍の組織から得られる受信信号に基づいて周期的に出現する極大成分が含まれており、
    当該極大成分を目標位置からずらすことにより、目標位置において不要信号を低減させる、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
    生体内の目標位置に応じた遅延処理により、前記相関関係を調整して、目標位置から得られる受信信号の周期的な信号列と参照信号の周期的な信号列との間の相関を強める、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  5. 請求項4に記載の超音波診断装置において、
    目標位置の深さに応じた遅延量だけ参照信号を遅延処理することにより、目標位置から得られる受信信号の信号列パターンと参照信号の信号列パターンとを互いに一致させる、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
    前記送信信号処理部は、周期的な信号列に基づいた位相シフトキーイングにより位相を変化させた連続波の送信信号を出力する、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
  7. 請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
    前記送信信号処理部は、周期的な信号列に基づいた周波数シフトキーイングにより周波数を変化させた連続波の送信信号を出力する、
    ことを特徴とする超音波診断装置。
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