JP5322592B2 - ロッカアームアッシー - Google Patents

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この発明は、例えば、車両等の内燃機関における吸排気バルブを駆動させる動弁機構等に適用されるロッカアームアッシーに関する。
自動車等の車両におけるエンジンの不完全燃焼により、硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)を含む多くの燃料の燃焼中間生成物等、略称「PM」が発生し、エンジンオイルにはこのPMが混入する。ディーゼルエンジンや、シリンダーつまり筒に直接燃料を噴射して燃焼させる方式のガソリンエンジン、いわゆる直噴ガソリンエンジンでは、硬質異物の発生量が多く、この硬質異物が原因で転がりタイプのロッカアームアッシーの支持軸には、著しい摩耗が発生する。
この支持軸等の耐磨耗性を向上させる従来技術として、支持軸の軸端がかしめ固定された、転がりタイプのロッカアームにおいて、該支持軸は、軸中間部の軌道部外表面が焼入れにより表面硬化され、かつ、この表面硬化された軌道部外表面に耐摩耗性硬質被膜(DLC被膜)が形成された構成が開示されている(特許文献1)。
他の従来技術として、エンジン部品表面への耐摩耗性のコーティングを目的として、「機械またはエンジン用部品表面に、sp2-及びsp3-交雑炭素を含む少なくとも一つのメタルフリーアモルファス炭化水素層を有する」旨開示され、「アモルファス炭化水素層が、最大で16原子%の水素含有量を有する」旨開示されている(特許文献2)。
特開2006−144848号公報 米国特許出願公開第2006/0046060号明細書([0047]第8行〜第17行)
従来技術のロッカアームでは、ダイヤモンドライクカーボン、略称DLC等の硬質被膜を支持軸に施す場合、剥離した硬質被膜が硬質異物として作用するため、逆に摩耗を促進する場合がある。転がりタイプのロッカアームの場合、軸における負荷域が同一箇所となるので、ころや外輪よりも摩耗が顕著である。また、本件出願人は、DLCの耐摩耗性を向上するには、DLC被膜の耐摩耗性のみでなく、脆く欠け易い耐剥離性にも着目し、DLC被膜と基材との密着性向上を図ることを課題とした。
上記課題に加え、ロッカアームの特有課題として、以下の課題がある。
(1)エンジンの運転開始直後や、エンジンの急加減速に伴ってエンジンオイルの供給が追いつかない場合が生じ、ニードルの転動面と軸の一方または双方に摩耗が発生する。このような摩耗は、これらニードルと、軸の周面との接触部に十分な油膜を形成できないことに起因して発生する。また、表面損傷が軽微である場合にも、ニードルの転動面、軸の外周面には、微小な突起が形成される。この突起により、エンジンオイルの供給が行われるようになった後でも、これら各周面同士の摺動部の潤滑状態が完全な流体潤滑になりにくくなる。この結果、エンジンの急加減速時、急激な速度変動に油膜形成が追従できない場合に、局部的に著しい表面損傷を発生する可能性がある。
(2)ロッカアーム用軸受は、保持器のない総ころタイプの軸受であるので、特に、ころ同士の干渉が生じたり、スムーズにころ位置が制御されず、ころのスキューが起こりやすい。また、潤滑油が軸受内部に円滑に供給されず潤滑条件が悪い事態が生じる。この結果、滑り発熱や局部的な面圧上昇、または潤滑不足が発生する。このため、計算上は大きな負荷容量を持ち、また寿命も要求寿命に対して充分あるにも拘わらず、それより短期間の使用で表面損傷(ピーリング、スミアリング、表面起点型剥離)や内部起点型剥離が発生する。
この発明の目的は、DLC被膜と基材との密着性向上を図り、DLC被膜が基材から不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の向上を図り、エンジンの運転開始初期状態等での表面損傷を防止して、焼き付き防止を図れるだけでなく、その後の潤滑状態を良好にして、十分な耐久性の確保を図れるロッカアームアッシーを提供することである。
この発明のロッカアームアッシーは、少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化された軸と、この軸の外周に位置する外輪と、これら外輪と軸との間を転動する転動体と、前記軸を固定したロッカアーム本体とを有するロッカアームアッシーにおいて、DLC被膜が前記軸に施され、このDLC被膜は、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むアモルファス炭化水素を有する最外層の表面層と、この表面層よりも内側で且つ軸基材に臨み、少なくともクロムを含有する下地層と、これら表面層と下地層との間に介在され、クロムと炭化タングステンとを含むクロム-炭化タングステン層とを有し、前記クロム-炭化タングステン層のクロムの含有量が、前記下地層側から前記表面層側に向かって減少する傾斜構造を有し、且つ、前記クロム-炭化タングステン層における炭化タングステンの含有量を、前記下地層側から前記表面層側に向かって増加させたことを特徴とする。
この構成によると、軸に施されたDLC被膜が、最外層の表面層と、下地層と、これら表面層と下地層との間に介在されるクロム-炭化タングステン層とを有する。特に、このクロム-炭化タングステン層におけるクロムの含有量が、下地層側から表面層側に向かって減少する傾斜構造としたため、層の組成が連続的に徐々に変化し、表面層と軸基材との密着性が優れたものとなる。前記表面層の形成は、炭化タングステン(WC)のスパッタリング等をそのまま継続することで膜形成が可能であり、これら表面層とWC層との密着性が優れたものとなる。これにより、DLC被膜が基材から不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の向上を図り、エンジンの運転開始初期状態等での表面損傷を防止して、焼き付き防止を図れる。その後の潤滑状態を良好にして、十分な耐久性の確保を図ることが可能となる。
参考提案例のロッカアームアッシーは、少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化された軸と、この軸の外径面にすべり接触する外輪と、前記軸を固定したロッカアーム本体とを有するロッカアームアッシーにおいて、DLC被膜が前記軸に施され、このDLC被膜が前記の発明と同様の構成を有するものである。
参考提案例のロッカアームアッシーにおいても、軸に施されたDLC被膜のうち、クロム-炭化タングステン層におけるクロムの含有量が、下地層側から表面層側に向かって減
少する傾斜構造としたため、層の組成が連続的に徐々に変化し、表面層と軸基材との密着性が優れたものとなる。DLC被膜が基材から不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の向上を図り、エンジンの運転開始初期状態等での表面損傷を防止して、焼き付き防止を図れる。その後の潤滑状態を良好にして、十分な耐久性の確保を図ることが可能となる。
前記クロム-炭化タングステン層がスパッタ処理で形成される場合、Crからなるターゲットの印加電圧の出力と、WCからなるターゲットの印加電圧の出力とを調整することで、このCr−WC層を容易に形成することが可能となる。このような印加電圧の出力調整により、Cr−WC層中におけるクロムの含有量が減少する傾斜構造を簡単に且つ確実に作製し得る。
前記DLC被膜の前記表面層は、表面から0.3μmまでの領域における水素含有量が、10原子%以上30原子%以下であると、DLC被膜と基材との密着性の低下を防止できるうえ、膜材間の結合性が低下することを防止し得る。前記水素含有量が10原子%未満の場合、DLC被膜と基材との密着性が低下する。前記水素含有量が30原子%を越える場合、膜材間の結合性が低下し、剥離しやすくなり耐摩耗性が低下する。
前記クロム-炭化タングステン層は、クロムとタングステンとの合計含有量が、5原子%以上50原子%以下であっても良い。クロムとタングステンとの合計含有量が5原子%未満の場合、DLC被膜と基材との密着性が低下する。前記合計含有量が50原子%を超えた場合、例えばアモルファス炭化水素から成るDLC被膜の半分以上が金属となり、硬度が低下し耐磨耗性が低下する。
記軸の軸方向中間部は、転動体の転走面幅以上であっても良い。この場合、軸基材の軸方向中間部は熱処理により硬化されたうえでDLC被膜が施される。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、DLC被膜の破壊、剥離を防止することができる。
参考提案例において、前記軸の軸方向中間部は、外輪幅以上であっても良い。
前記軸の軸方向中間部の基材硬度は、この基材表面から50μm以上の深さでHRC58以上有するものであっても良い。DLC被膜を基材表面に施した場合、最適なDLC被膜を施さないと、剥離したDLC被膜が硬質異物として作用するため、基材表面から深さ50μm以上まで摩耗が発生する場合がある。軸の軸方向中間部の基材硬度が、この基材表面から50μm以上の深さでHRC58以上有すると、軸の耐摩耗性を高めることができる。
ロッカアームアッシーは、ディーゼルエンジンに使用されるもの、または直噴ガソリンエンジンに使用されるものであっても良い。これらのエンジンでは、通常のガソリンエンジンよりも硬質異物の発生量が多く、この硬質異物が原因でロッカアームアッシーの軸に、著しい摩耗が発生する場合がある。このような硬質異物の発生量が多いエンジンに、本発明のロッカアームアッシーを使用することにより、特に耐摩耗性の向上を図ることができる。
この発明のロッカアームアッシーは、少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化された軸と、この軸の外周に位置する外輪と、これら外輪と軸との間を転動する転動体と、前記軸を固定したロッカアーム本体とを有するロッカアームアッシーにおいて、DLC被膜が前記軸に施され、このDLC被膜は、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むアモルファス炭化水素を有する最外層の表面層と、この表面層よりも内側で且つ軸基材に臨み、少なくともクロムを含有する下地層と、これら表面層と下地層との間に介在され、クロムと炭化タングステンとを含むクロム-炭化タングステン層とを有し、前記クロム-炭化タングステン層のクロムの含有量が、前記下地層側から前記表面層側に向かって減少する傾斜構造を有し、且つ、前記クロム-炭化タングステン層における炭化タングステンの含有量を、前記下地層側から前記表面層側に向かって増加させたため、DLC被膜と基材との密着性向上を図り、DLC被膜が基材から不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の向上を図り、エンジンの運転開始初期状態等での表面損傷を防止して、焼き付き防止を図れるだけでなく、その後の潤滑状態を良好にして、十分な耐久性の確保を図れる。
この発明の一実施形態を図1ないし図8と共に説明する。この実施形態に係るロッカアームアッシーは、例えば、車両等の内燃機関における吸排気バルブを駆動させる動弁機構等に適用される。
図1に示すように、ロッカアームアッシーは、ロッカアーム本体1と、軸受5とを有する。これらのうちロッカアーム本体1が前記内燃機関等に装備されて、所定の揺動軸心L1回りに揺動自在に設けられている。ロッカアーム本体1の一端に、カム4に転接するローラフォロワとなる軸受5が設けられ、ロッカアーム本体1の他端に、内燃機関のバルブを動作させる作用部3が設けられている。
ロッカアーム本体1は、例えば炭素鋼やアルミニウム合金等を鍛造または鋳造して形成される。ただし、ロッカアーム本体1は、前記炭素鋼、アルミニウム合金、鍛造、鋳造に限定されるものではなく、例えば一枚の鋼板等の板材からプレス加工された板金製のものを適用しても良い。図2に示すように、ロッカアーム本体1は、一対の対向側壁6,6と、これら対向側壁6,6の一方縁部を繋ぐ図示外の連結板壁とを有する略U字形状の断面形状とされている。図1に示すように、両側の対向側壁6,6は揺動支点孔6bを有し、この揺動支点孔6bに揺動支点軸7が嵌合する。この揺動支点軸7の軸心が上記揺動中心L1である。
軸受5について説明する。
図2、図3に示すように、軸受5は、ロッカアーム本体1に固定された軸8Mと、この軸8Mの外周に位置する外輪9と、これら外輪9と軸8Mとの間を転動する複数の転動体10とを有する。転動体10としてころが適用されている。ロッカアーム本体1の両側の対向側壁6,6に挿通孔6a,6aが形成され、これらの挿通孔6a,6aに軸8Mの両端が嵌合して固定される。
図4に示すように、ロッカアーム本体1の両側の挿通孔6a,6aは、外面側の開口縁に座繰り部11を有する。座繰り部11は、例えばテーパ形状とする。例えば、軸基材に後述するDLC被膜12が施される。このDLC被膜12が施された軸を「軸8M」と称す。DLC被膜12が施されていない軸を「軸基材8」または「基材」と称す。
軸基材8の素材として、日本工業規格(Japanese Industrial Standards;略称JIS)に規定されるSUJ2材、SKD材(中でもSKD11材)、SUS440C材、SCM材または、アメリカ鉄鋼協会規格(American Iron and Steel Institute;略称AISI)で規定されるM50材等が用いられる。ただし、これら鋼材に必ずしも限定されるものではない。
軸8Mを前記挿通孔6aに挿通し、この軸8Mの両端部8a,8aをかしめてロッカアーム本体1に固定している。すなわち軸8Mの軸端部8a,8aをかしめる。この場合、軸8Mを挿通孔6aに挿通した状態で、図示外の治具、工具を用いて、軸8Mの外径Djよりもやや小径Dmの円周方向溝8aaを軸端部8aに形成する。この円周方向溝8aaはこの軸8Mと略同一軸心で且つ軸端部8aにおける外径付近に形成される。前記円周方向溝8aaは環状に連なる溝であっても良い。円周方向溝8aaは軸8Mと略同一軸心に形成しなくても良い。
前記治具、工具により円周方向溝8aaを形成するのに伴って、軸8Mの外径面における両端付近に半径方向外方に所定小距離突出する塑性加工部8abが設けられ、これら塑性加工部8abを前記座繰り部11に係合させ、軸端部8a,8aのかしめが行われる。このように、軸端部8a,8aのかしめが行われることにより、ロッカアーム本体1からの軸8Mの抜け止めが行われている。軸8Mの塑性加工部8abは、例えば全周または略全周にわたる環状の突部とされている。
図3に示すように、複数の転動体10は、軸8Mと外輪9間の環状空間に、総ころ形式として保持器を介在させずに組み込んでいる。円周方向に隣接する転動体10同士を、転動を許す隙間つまり円周方向隙間δ1をあけて近接させてある。本実施形態に係る軸受5は、総ころ形式としているが、軸8Mと外輪9間の環状空間に保持器を設け、この保持器に複数の転動体10を保持する形式にすることも可能である。
外輪9は、軸基材8と同様の鋼材から成る。例えば、外輪9、軸基材8、および転動体10を互いに同じ材質としても良い。また、必要に応じて軸受構成部品の一部を他の構成部品とは異なる材質にしても良い。
熱処理等について説明する。
本実施形態では、軸基材8のみにDLC被膜12を形成しているが、他の実施形態として、図4に示すように、外輪9または転動体の転走面9a,10aにDLC被膜12を形成しても良い。軸基材8、外輪9、および転動体10の少なくともいずれか一つの転走面にDLC被膜12を形成すれば良い。
軸8Mの基材における、転走面部の硬度はHRC58以上としている。この軸8Mの基材の転走面部の硬度は、転動疲労寿命を十分に確保する目的で、HRC58以上の硬度が必要になる。
HRC58以上の硬度が必要な硬化層深さは、軸受使用時の接触面圧が2000MPa以下の場合は深さ50μmで十分である。ただし、DLC被膜12を軸基材8に施した場合、本発明に示している最適な被膜を施さないと、剥離したDLC被膜が硬質異物として作用するため、深さ50μm以上まで摩耗が発生する場合が多々ある。
DLC被膜を施していない基材の表面硬度を確認する方法として、通常、ロックウェル硬度計、ビッカース硬度計等を用いて、表面を直接硬度測定する。しかし、軸基材8表面にDLC被膜12を施した場合、上記測定方法は使用できない。代替の測定方法として、例えば、軸8Mの断面硬度を測定し、DLC被膜12と軸基材8の界面近傍(軸基材8側)の値を軸基材8の表面硬度として用いても良い。
下記に基材の硬化方法の種類を示すが、ここで、基材の表層を硬化する場合と、基材の表層だけでなく内部まで硬化する場合のメリットを示す。
・基材の表層を硬化する場合
接触面圧が2000MPa以下の場合、HRC58以上の硬度が必要な硬化層深さ(HRC58深さ)は、摩耗が発生する深さである50μmで十分である。ただし、DLC被膜を基材表面に施した場合、本発明に示している最適な被膜を施さないと、剥離したDLC被膜が硬質異物として作用するため、深さ50μm以上まで
摩耗が発生する場合が多々ある。
この基材の表層を硬化する場合における、基材の硬化の方法としては、高周波焼入、焼入後のサブゼロ処理、低温窒化処理が採用できる。前記低温窒化処理としては、例えば、550℃以下のイオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化等を適用し得る。
また、寿命に好影響を及ぼすと考えられる圧縮応力が生成できる硬化層深さ(HRC58深さ)は、最大で軸基材8の肉厚、中軸軸の場合、直径の1/3であるという実績がある。この実績から、例えば、図4に示すような中実軸の場合、直径8mm以上10mm以下の転がり軸受の軸基材8における表面焼入れ深さ(HRC58深さ)は、3.3mm以下であることが望ましい。中空軸の場合、この中空軸の外径から内径を減じた値を「2」で除し、さらに「3」で除して求められる表面焼入れ深さ、すなわち[外径−内径]/2の1/3の表面焼入れ深さとすることが望ましい。
・基材の内部まで硬化する場合
表面焼入れと比較し、軸8Mの径方向中央部(内部)までHRC58以上硬度を有するような高周波焼入れを適用するときにも熱処理条件を厳密に制御する必要がないというメリットがある。つまり、この処理では、処理時間を短時間で制御する必要がないため、比較的長時間の加熱を行うことが可能であり、これにより熱処理条件を厳密に制御する必要がなくなる。したがって、工数低減を図り、軸受の製造コストの低減を図ることができる。
この基材の内部まで硬化する場合における、基材の硬化の方法としては、一般的な全体焼入処理、表面だけでなく内部も硬化させる高周波焼入、焼入後のサブゼロ処理が採用できる。
本実施形態では、前述のように、軸8Mをロッカアーム本体1に固定するとき、軸端部8a,8aをかしめて固定している。この場合、軸8Mの両端の軸端部8a,8aの硬度をHRC10以上HRC35以下にしている。さらに、好ましくは、前記軸端部8aの硬度を満足する範囲を、軸端面から軸方向内方に1mm以上の位置に至る範囲とする。換言すれば、HRC35以下である範囲を、軸端面から軸方向内方に少なくとも1mmは確保する。
このように軸端部8aの硬度をHRC35以下とし軸8Mをかしめることにより、軸8Mとロッカアーム本体1とを確実に固定することができる。勿論、本実施形態のような転がりタイプのロッカアームアッシーの場合においては、軸8Mとロッカアーム本体1とを固定する際には、外輪9と転動体10及び軸8Mをロッカアーム本体1の所定位置にセットし、両側の軸端部8a,8aをかしめて軸8Mとロッカアーム本体1とを固定する。なお、滑りタイプのロッカアームアッシーの場合、転動体10はない。
両側の軸端部8a,8aをHRC35以下にする方法としては、軸8Mについて、両側の軸端部8a,8aを除いた高周波表面焼入れ、または、両側の軸端部8a,8aを除いた高周波焼入れであって表面だけでなく内部も硬化させる高周波焼入れ、両側の軸端部8a,8aにマスキングを施した低温窒化処理、一般的な全体焼入処理品の軸の両側の軸端部8a,8aを高周波熱処理により焼鈍する方法等が採用できる。前記低温窒化処理としては、例えば、550℃以下のイオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化等を適用し得る。
なお、ロッカアームアッシーの軸端部8a,8aをかしめて固定しない場合は、軸端部8a,8aの硬度をHRC35以下にする必要がないため、一般的な全体焼入処理も採用できる。その場合、以下の構造を適用することができる。
軸8Mの軸端付近の外周面に図示外の溝を形成し、その溝に止め輪を配置してこの軸8Mとロッカアーム本体1とを固定する構造、前記溝に止め輪を配置する代わりにピンを挿入し軸8Mとロッカアーム本体1とを固定する構造、軸端部8aをかしめる代わりに、ロッカアーム本体1をかしめて軸8Mとロッカアーム本体1とを固定する構造、ロッカアーム本体1に軸8Mを圧入する構造等。
DLC被膜12について説明する。
ダイヤモンドライクカーボン被膜、略称DLC被膜を基材の転走面に施すことにより、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。この発明の実施形態に係るDLC被膜12は、図6(A)に示すように、最外層の表面層27と、混合層26と、下地層25とを有する複数層構造である。DLC被膜12は、例えば基材温度300℃以下、好ましくは常温で、プラズマCVD法等の化学気相成長法、またはレーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法によって形成される。DLC被膜12は高エネルギー粒子を基材上で急冷しないと生成せず、低温ほどDLCの膜質は向上する。
DLCは、炭素と水素とからなり、DLC被膜12の表面層27は、炭素と水素が種々のモル比から構成されたものを含み、また、珪素、窒素および酸素等の少なくともいずれか一つが含まれても良い。また、DLC被膜12の表面層27は、ダイヤモンド構造のsp3結合と、グラファイト構造のsp2結合とが混在しているアモルファス構造であり、sp3結合は硬さを付与し、sp2結合は摺動性(潤滑性)を付与する。それ故、sp2結合とsp3結合との混在割合によって、DLC被膜12の性質が変化する。したがって、DLC被膜12は、これらsp2結合とsp3結合との混在割合を調整することにより、膜表面の硬度調整を行うことができる。
軸基材8の外周面に、スパッタリング法によりDLC被膜12を施す場合、例えば図5に概略示すスパッタ装置を用いる。このスパッタ装置は、Crからなるターゲット20と、WCからなるターゲット21と、基材支持部材22と、図示外のガス供給管と、真空ポンプと、加熱手段とを有する。これらのうちターゲット20,21、基材支持部材22およびガス供給管の先端部はチャンバー23内に収容されている。前記Crからなるターゲット20の正面とWCからなるターゲット21の正面とが所定間隔をあけて対向するように配置され、WCからなるターゲット21の背面に、マグネット24が配置されている。ターゲット20,21と基材支持部材22とは電気的に接続されている。前記ガス供給管は、例えば不活性ガスとしてのアルゴンガス、および反応性ガスとしてのアセチレンガスを、前記ターゲット20,21間に向けて供給可能に構成されている。前記基材支持部材22の表面部には、例えば、複数の軸基材8が柱状に並べて立設配置されている。また各軸基材8の一端部および他端部にはマスキングが施されている。この例では、複数の軸基材8をスパッタ処理しているが、一本の軸基材8だけをスパッタ処理しても良い。さらに他の例として、例えば基材支持部材22を、軸基材8の一端部および他端部を支持可能とし、且つこの軸基材8の軸心回りに回転可能な構成としても良い。
このスパッタ装置は、Crからなるターゲット20が取り付けられたマグネトロンスパッタ成膜装置と、WCからなるターゲット21が取り付けられたマグネトロンスパッタ成膜装置とを有する。スパッタ装置は、これら成膜装置への印加電圧の出力バランスを調整することによって、Crからなるターゲット20のみ、WCからなるターゲット21、および両者を含むターゲット20,21の少なくともいずれか一つをスパッタ処理することが可能である。
前記スパッタ装置によりDLC被膜12を形成する方法について説明する。
密着性の良いDLC被膜12を軸基材8上に形成するには、先ず軸表面をクリーニングすることが好ましい。具体的には、準備段階として、チャンバー23内に表面を清浄した軸基材8を設置し、真空ポンプによりチャンバー23内を真空度2×10−3Pa程度まで排気した後、加熱手段により軸基材8を温度150℃〜200℃まで加熱する。その後、軸に−200V〜−500V程度のバイアス電流を印加し、圧力1Paの不活性ガス雰囲気中で不活性ガスイオンを生成し、軸基材8に衝突させ、軸表面をクリーニングする。
軸表面をクリーニングした後、軸基材8の外周面にスパッタ処理を行う。最初の過程では、印加電圧の出力バランス、およびターゲット20に電力を供給する時間を適宜調整して、Crからなるターゲット20のみをスパッタ処理する。これにより、図6(A)に示すように、軸基材8の外周面にクロムを含有する下地層25を形成する。
このクロムのスパッタ処理を続けながら、タングステン及びカーボンすなわちWCをターゲットとしたスパッタ処理を開始する。このスパッタ処理において、Crからなるターゲット20の印加電圧の出力を徐々に弱めると共に、WCからなるターゲット21の印加電圧の出力を徐々に高める。これにより、クロムと炭素とタングステンとを含有するCr-WC層が、下地層25の上に形成される。前記Cr-WC層を「混合層」と称す。クロムのスパッタ効率を徐々に減少させながら、WCのスパッタ効率を徐々に増加させたので、混合層26中のWCの割合は、下地層25側から表面層27側に向かって徐々に増加していた。逆に言えば、クロムのスパッタ効率を徐々に減少させながら、WCのスパッタ効率を徐々に増加させたので、混合層26中のクロムの割合は、下地層25側から表面層27側に向かって徐々に減少していた。
Cr-WC層において、下地層25側から表面層27側へのWC(またはCr)の割合は、グロー放電発光分光法(略称GDS:Glow Discharge Spectroscopy)を用いて実施する。グロー放電発光分光法は、図6(B)に示すように、異常グロー放電を起こさせ発する光を分光することにより元素組成分析を行う。ここで、グロー放電とは、気体圧力が10−0.01Torr程度の真空内の二つの電極管に高電圧をかけたとき電子と気体との衝突によってガス成分が励起され光を発する放電メカニズムをいう。平行平板電極放電の典型的な電流−電圧特性を図6(B)に示す。同図6(B)のE−F間は、正規グロー放電領域であり、スパッタリングはほとんど起こらず放電気体の発光スペクトルのみが観測される。図6(B)のF点を過ぎると陰極全面が陰極点となるため、放電電流の増加は陰極における電流密度の増加を伴うようになり、その結果放電電圧が上昇する。図6(B)のF−G間は異常グロー放電領域と呼ばれ、この領域ではイオン化されたガス成分による陰極面のスパッタリングが起こり、放電光中に陰極材料のスペクトルが観測されるようになる。これを利用して分析材料を陰極として異常グロー放電を起こさせ発する光を分光することにより元素組成分析を行うのがグロー放電発光分光法である。
その後の過程において、クロムのスパッタ処理を終了し、WCのスパッタ処理のみとして、チャンバー23内にガス供給管からメタンガスを導入しながら、混合層26の上にアモルファス炭化水素からなる表面層27を形成した。これにより図6(A)に示すように、軸基材8の外周面に、順次、クロムを含有する下地層25、クロムと炭素とタングステンとを含有するCr-WC層26を介して、アモルファス炭化水素からなる表面層27を積層する。DLC被膜12が所定の膜厚に達した後、スパッタ源への電力供給を停止し、軸8Mが急冷した後チャンバー23から取り出す。この際に、炭化水素ガスや水素ガスを導入して水素を含む雰囲気下で表面層27を形成することにより、このDLC被膜12が所定量の水素を含有する水素含有量を得ることが可能となる。
次に、この軸受の摩耗試験およびその結果について説明する。
図7は、前記摩耗試験の試験機の断面図である。硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)の混入潤滑下での摩耗を模擬するために、以下の表1の試験条件、図7の試験機にて摩耗試験を行った。
ところで、エンジン油内に、煤(硬質炭素粒子:カーボン)が2mass%以上含まれると、軸受に著しい摩耗が発生する。前記煤の割合が増えるほど、摩耗量は多くなる。今回の試験では、エンジン油内に16mass%ものカーボンブラックを含むエンジン油にて評価しており、本発明の効果の有効性を担保している。なお、煤の量は、アナリスト社が開発したLight Extinction Measurement法、略称:LEM法にて測定する。このLEM法は、煤が光を吸収する性質を利用して、煤を含むオイルに光を投射した時の減光率(減衰率)からオイル中の煤の量を測定するものである。
評価エンジン油として、単に、油にカーボンブラックを含有した油ではなく、次のような油を採用する。すなわち、評価エンジン油として、CD級10W−30ディーゼルエンジンオイルにカーボンブラックの粉末を含有後、オイルを高温高速回転し、オイル中にカーボンブラックの粉末が沈降しないように分散させたオイルを潤滑油とする。また、表1において、「P/C」のPは負荷荷重を示し、Cは軸受の基本動定格荷重を示す。すなわち、P/Cは、軸受の基本動定格荷重に対する負荷荷重の割合を示す。
Figure 0005322592
この試験機13は、試験ハウジング内に複数の軸受14を介して駆動軸15が回転自在に支持され、この駆動軸15の長手方向一端部は図示外の駆動源に繋がっている。駆動軸15は、いわゆる段付き軸であって試験軸受5の外輪外径面9bに接する大径部15aを備えている。また、試験機13は、試験軸受5の軸8Mにラジアル荷重を負荷する荷重負荷部材16を備えている。この試験ハウジング内において、試験軸受5は油浴による油潤滑とされ、その油量レベルL2は試験軸受の回転中心まで満たされている。さらに、試験ハウジング内の両側には、油温を制御可能なカートリッジヒータ17が設けられている。
試験に供される軸受5は、滑り軸受と比べ摩耗の発生度合、摩耗量の多い転がり軸受を用い、軸基材8のみを表2、表3、表4の「DLC被膜種類」の欄にて示す各種表面処理を施して実施した。この試験において、軸表面のDLC被膜12を、パラメータ(後述する)を変化をさせて実施している。本試験において軸基材8のみDLC被膜12を施しているが、その理由は、本試験はローラフォロア使用条件を想定し、外輪回転としている。よって、軸8Mにおける負荷域は同一箇所となるため、軸8Mに摩耗が顕著に発生する。よって、摩耗対策効果を明確にするため、軸基材8のみに各種DLC被膜処理を施して試験を実施している。軸表面のDLC被膜12は、前述のDLC被膜12の例として説明した通りである。
本発明の実施例として、表2のサンプルNo.1〜12(総合評価◎)は、軸摩耗量が1μm以下となる評価基準を満たしたサンプル、表3のサンプルNo.25〜40(総合評価○)は、軸摩耗量が1μmを超えて、4μm以下となる評価基準を満たしたサンプルである。
比較例として、表4のサンプルNo.57〜70(総合評価×)は、軸摩耗量が4μmを越える評価基準を満たしたサンプルである。
ここで軸摩耗量が4μm以下のサンプルは試験初期と比較して振動、音響に変化が見られない。より好ましくは軸摩耗量が少ないものが耐摩耗性が高いことから、軸摩耗量の大小により◎○評価を分類した。×評価は、軸摩耗量が多く、初期振動よりも振動が大きくなり、相手部材への攻撃性が認められるものもある。軸は、負荷域が同一箇所となるため、一部分のみが大きく摩耗する。よって軸の摩耗は振動に大きく影響する。
軸の前記「一部分のみが大きく摩耗する」とは、図8に示すように、軸表面の一箇所A1から円周方向一方に所定小角度α至る部位Saだけが、点線白抜きのように、例えば平坦状に削り取られることを意味する。ただし、前記平坦状に限定されるものではない。
また、この摩耗試験に使用したサンプルの基材の材質として、軸、外輪、転動体ともにSUJ2を適用した。熱処理条件として、前記転動体、外輪については一般的な全体焼入、軸については高周波表面焼入を適用した。
Figure 0005322592
Figure 0005322592
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各サンプルを評価したパラメータ等について説明する。
(1)軸受の軸の転走面表面に形成したDLC被膜の破壊靭性値について
本件出願にて用いた破壊靭性値の「破壊靭性」とは、薄膜の脆性破壊に対する抵抗を表す尺度と同義であり、その数値を「破壊靭性値」とする。基材表面に形成したDLC被膜の破壊靭性値測定方法として、ジェイ エス ワン他のシィン ソリッド フィルム(J.S.Wang et al.:Thin Solid Film,325,163(1998))の手法が知られている。この手法は2種類の試験からなり、表面にDLC被膜を形成した基材の曲げ試験及びDLC被膜表面への超合金球による押し込み試験を行う。試験中のDLC被膜のクラック発生挙動及び進展挙動により破壊靭性値を求める。破壊靱性値は圧痕直径、硬質被膜表面に生じたクラック各々の長さ、クラックが生じた面積および基材と硬質被膜のヤング率から求める。
この実施形態に係るDLC被膜12の破壊靭性値測定方法として、図9に示すように、軸8Mの軸方向中央P1を、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。さらに具体的には、軸8Mの表面つまり外周面における軸方向中央P1に、直径1.6mmのタングステンカーバイト(略称WC)製圧子を径方向内方に且つ測定箇所に略垂直に押し当てた際に被膜表面に発生したクラック発生挙動により、破壊靭性値を求めた。この測定箇所に対する圧子の押し込み深さはDLC被膜表面より0.1mm(圧子直径の0.5%)とした。
なお、前記試験では軸8Mの軸方向中央P1を10箇所測定したが、軸8Mの軸方向中央P1のうち適当間隔おきの任意の複数箇所を測定し、それらの平均値を求めてもよい。また、一般的に、上記DLC被膜は部位によるばらつきが少ないため、例えば、軸方向中央P1における任意の1箇所を測定して破壊靭性値を求めてもよい。
前記圧子は、直径1.6mm以外のものを適用することも可能であり、またWC製に必ずしも限定されるものではない。このような場合であっても、DLC被膜12の破壊靭性値を測定可能である。本発明において必要な耐摩耗性を有していたDLC被膜の破壊靭性値は1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下、より好ましくは2MPam1/2以上5MPam1/2以下必要であった。
DLC被膜12の破壊靭性値の下限値を1.5MPam1/2とした場合、形成されたDLC被膜12が繰り返し荷重に耐えることができ、DLC被膜12の破壊、剥離を生じ難くすることができる。破壊靭性値の上限値を6MPam1/2とした場合、このDLC被膜12は耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間を得ることができる。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、DLC被膜12の破壊、剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。このような破壊靭性値を規定した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
(2)軸受の軸の転走面表面に形成したDLC被膜の密着性について
基材表面に形成したDLC被膜の密着性は円柱基材の端面に被膜を形成し、その表面に相対する円柱を接着して両者を引張って剥離する限界荷重(臨界荷重)を測定する方法や、被膜表面にダイヤモンド圧子を押付けて引っ掻き、被膜に割れを生じる押付け荷重(臨界荷重)を測定するスクラッチ法等が知られている。
本発明において必要な耐摩耗性を有していたDLC被膜12のスクラッチ法での臨界荷重は40N以上110N以下、より好ましくは60N以上100N以下必要であった。この臨界荷重は、例えばCSM製REVETESTスクラッチ試験機を用い、国際標準化機構により策定された国際規格ISO20502:2005に準拠した方法で測定した。このスクラッチ法での測定方法では、図10に示すように、軸8Mの軸方向中央P1付近に、測定子を矢符AA1にて標記する軸方向に沿ってP1を含む(AA1の開始点と終了点に挟まれた中にP1が含まれている)ように10mm移動させて測定した。これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔おきに10箇所繰り返し、この10箇所の平均値を求めた。各測定において、最大圧子荷重を100Nまたは200Nとし、荷重増加速度を100N/minまたは200N/minとし、圧子移動速度を10mm/minとした。また測定子の移動距離は10mmでなくてもよい。
なお、前記試験では、軸8Mの外周面を10箇所測定したが、軸8Mの外周面のうち周方向適当間隔おきの任意の複数箇所を測定し、それらの平均値を求めてもよい。また、一般的に、上記DLC被膜は部位によるばらつきが少ないため、例えば、軸8Mの外周面の任意の1箇所を測定した値を採用してもよい。
DLC被膜12のスクラッチ法測定による臨界荷重の下限値を40Nとした場合、DLC被膜12が剥離することを防止し、耐摩耗性を発揮することができる。また、DLC被膜12の剥離に起因する相手部品への攻撃を未然に防止し得る。この臨界荷重の上限値を110Nとした場合、DLC被膜12が耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間中に、被膜表面の一部分のみ摩耗することを防止し、これにより被膜表面粗さが不所望に大きくなることを防止することができる。このようなスクラッチ法測定による臨界荷重を規定した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
さらに前記DLC被膜12の臨界荷重を60N以上100N以下とした場合、DLC被膜12が耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間中、もしくは耐摩耗性の発揮以後に不所望に剥離することをより確実に防止し得る。
(3)軸受の軸の転走面表面に形成したDLC被膜の硬度について
基材表面に形成したDLC被膜12の硬度は、例えばダイナミック超微小硬度計DUH-201W (株式会社島津製作所製)で測定する。この硬度計で測定する値はダイナミック硬度HDで以下の式で定義する。このDLC被膜12の硬度は膜表面の硬さを表している。
HD=3.8584×P/h2
上記式においてPは試験荷重(mN)、hは三角すい圧子の押し込み量(μm)を示している。この実施形態に係るDLC被膜12の硬度の測定方法として、図11に示すように、軸8Mの軸方向中央P1を、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。各測定箇所において、115°の三角すい圧子に試験荷重5gfを与え、同三角すい圧子の負荷速度0.135gf/secで且つ、三角すい圧子の保持時間10secとしている。なお、ダイナミック硬度「HD」は、試験機に依存した値で表す場合、「DH」や「DHT115」と表している場合もあるが、上記「HD」で表すダイナミック硬度は、試験機に依存しない値である。
この硬度計では、圧子を対象物に試験荷重に達するまで押し込み、押し込み量を測定するため、目視による圧痕測定がない。従って、設定荷重を小さくでき、圧子の侵入深さを浅くすることができる。例えば115°の三角すい圧子に試験荷重5gfを与えて測定した場合、ビッカース硬度よりも正確な膜硬度を求めることができる。
本発明において必要な耐磨耗性を有していたDLC被膜12のダイナミック硬度はHD800以上HD2000以下である。DLC被膜12のダイナミック硬度の下限値をHD800とした場合、転走面は必要十分な被膜強度となり膜部材間の結合力を強くして膜損傷を防止し、耐摩耗性を維持する。上限値をHD2000とした場合、DLC被膜12と軸基材8との軸表面硬度差を小さくし得る。これにより、DLC被膜12の割れを防止し耐摩耗性を維持することができる。このようなダイナミック硬度がHD800以上HD2000以下のDLC被膜12を施した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
(4)軸の転走面表面に形成したDLC被膜の膜厚、表面粗さ及び膜形成範囲について
軸円筒部全表面にDLC被膜12を形成した場合、例えばカロテスター(CSM製 簡易精密膜厚測定機CAROTEST)でこのDLC被膜12の膜厚を測定する。
軸円筒部表面の中間部のみにDLC被膜12を形成した場合、例えばカロテスター(CSM製 簡易精密膜厚測定機CAROTEST)を用いて欧州規格EN1071-2:2002に準拠した方法またはフォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製)でこのDLC被膜12の膜厚を測定する。この場合において、前記軸円筒部表面の中間部とは、軸8Mの外径面における長手方向中間部つまり軸方向中間部であって、ロッカアーム本体1の対向側壁6,6の挿通孔6a,6aに嵌合する軸8Mの長手方向一端側の外径面、および長手方向他端側の外径面を除く、転走面表面を含む部分である。
この実施形態に係るDLC被膜12の膜厚測定方法として、例えば軸円筒部表面の中間部のみにDLC被膜12を形成した場合、例えばフォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製FormTalysurf-120L)を用いて測定する。図12に示すように、軸8Mの片側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面から、他側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面まで測定子を矢符AA2にて表記する軸方向に沿って移動させて測定した。これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔置きに10箇所繰返し、この10箇所の平均値を求めた。
基材表面に形成したDLC被膜12の表面粗さ及び膜形成範囲は、例えばフォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製)で測定する。本実施形態に係るDLC被膜12の「表面粗さ」の測定方法では、例えばフォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製FormTalysurf-120L)を用いて、図13に示すように軸8Mの軸方向中央P1付近を、測定子を矢符A3にて表記する軸方向に沿って移動させ、評価長さ1.25mmで、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。軸8Mの測定箇所は、この軸方向中央P1の周方向適当間隔おきであっても良い。評価長さは1.25mmでなくても良い。
また、本実施形態に係るDLC被膜12の「膜形成範囲」の測定方法でも、同フォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製)を用いて測定した。具体的には、図14に示すように軸8Mの片側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面から、他側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面まで測定子を矢符AA2にて表記する軸方向に沿って移動させて測定した。図14に示すように、これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔おきに10箇所繰返し、この10箇所の平均値を求めた。この測定方法によると、以下の図15に示すような形状Maが得られる。図15は膜形成範囲測定後の被膜の形状を表す図であり、図15において、軸8の表面より径方向外方にやや盛り上がった箇所を、被膜が形成された一端P3から他端P4に至る範囲すなわち「膜形成範囲」としている。一端P3付近の被膜は、一端P3から矢符A2に示す軸方向一方に向かうに従って急峻に立ち上がり、他端P4付近まで以後平坦に形成される。他端P4付近の被膜は、他端P4から軸方向他方に向かうに従って急峻に立ち上がる。この両側の立ち上がり開始位置間の範囲を「膜形成範囲」とする。
本発明において必要な耐摩耗性を有していたDLC被膜12の表面粗さは、Ra0.25μm以下であった。DLC被膜12の表面粗さがRa0.25μmを超えた場合、相手部品への攻撃性が認められるため、耐摩耗性を維持できない。また同時にDLC被膜12の表面粗さをRa0.25μm以下としたい場合、下地である軸表面つまりDLC被膜12を施していない軸基材8の表面の表面粗さがRa0.15μm以下であることが好ましい。このRa0.15μmを越えた場合、形成した膜の表面粗さがRa0.25μmを越える場合がある。
換言すれば、DLC被膜12を施すべき基材表面の表面粗さをRa0.15μm以下とすることで、DLC被膜12の表面粗さをRa0.25μm以下とし、耐摩耗性を維持することができる。また、相手部品への攻撃を未然に防止することができる。
次に、本発明において必要な耐摩耗性を有していたDLC被膜12の膜厚δ2は1μm以上5μm以下である。形成したDLC被膜12は、耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間が必要となる。膜厚1μmに満たない場合、DLC被膜12が耐摩耗性を有するまでに膜が全て剥離してしまうため耐摩耗性を維持できない。
DLC被膜の膜厚δ2が1μmに満たない場合、耐摩耗性を発揮できない理由について説明する。DLC被膜形成時には必ず残留圧縮応力が発生しているが、膜部材の結合力や、密着力によって残留圧縮応力に起因する膜の剥離を防止している。DLC被膜の摩耗により膜厚δ2が薄くなると、残留圧縮応力は減少するが、膜部材の結合力や密着力は、残留圧縮応力以上に減少する。そしてDLC被膜の膜厚δ2が0.5μm以下になると、膜部材の結合力や密着力に抗して残留圧縮応力が強くなり膜が剥離してしまう。従って、DLC被膜が潤滑油と馴染み耐摩耗性を発揮するまでに摩耗する0.5μmを加えて、必要な耐摩耗性を有するDLC被膜に必要な最小膜厚は1.0μmとなる。
膜厚5μmを超える場合、各DLC被膜12が膜形成時に生じた残留圧縮応力が大きくなりすぎてしまい、衝撃荷重が加わることによって容易に膜に亀裂が生じ、剥離してしまうことによって耐摩耗性を維持できない。
また、本発明において必要な耐摩耗性を有していた軸8Mに施されたDLC被膜12の膜厚は、軸方向中央P1(図2)の膜厚δ2(図4)を基準として±2μm以下の範囲である。この軸方向中央P1の膜厚δ2を基準としたDLC被膜12の膜厚のばらつきを、「厚さバラツキ」と称す。この「厚さバラツキ」とは、軸方向中央P1の膜厚δ2を基準とした場合において、DLC被膜12が形成された膜厚のうち最も厚い箇所の膜厚と前記膜厚δ2との差、または最も薄い箇所の膜厚と前記膜厚δ2との差のうち、大きい値を示す。
例えば、図16(a)に示すように、DLC被膜12の膜厚のうち軸方向中央P1が最も薄い場合、最も厚い箇所の膜厚δmax(δmaxは例えば4μm)と、軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば2μm)との差(δmax−δ2)を求めることで、厚さバラツキが得られる。
図16(b)に示すように、DLC被膜12の膜厚のうち軸方向中央P1が最も厚い場合、この軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば3μm)と、最も薄い箇所の膜厚δmin(δminは例えば2μm)との差(δ2−δmin)を求めることで、厚さバラツキが得られる。
図16(c)に示すように、軸方向中央P1の膜厚δ2が中間値の場合、最も厚い箇所の膜厚δmax(δmaxは例えば3μm)と、軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば1.5μm)との差(δmax−δ2)を求める。また膜厚δ2(δ2は例えば1.5μm)と、最も薄い箇所の膜厚δmin(δminは例えば0.5μm)との差(δ2−δmin)を求める。これらの差(δmax−δ2)、(δ2−δmin)のうち、大きい値(今回δmax−δ2)を採用することで、厚さバラツキが得られる。形成されたDLC被膜12が場所によって膜厚δ2が変化すると、膜に作用する荷重が不均一となり、局所的に過大な接触面圧が作用する。前記の通り、軸8Mに施されたDLC被膜12の膜厚δ2を、軸方向中央P1の膜厚δ2を基準として±2μm以下の範囲に収めた場合、このDLC被膜12に作用する荷重が均一化する。これによって、局所的に過大な接触面圧が作用することを未然に防止することができる。よって、耐摩耗性の低下だけでなく、DLC被膜12の剥離を防止し得る。剥離したDLC被膜によって相手部材へ攻撃することもない。
また、本発明において必要な耐摩耗性を有していたDLC被膜12の軸方向の形成範囲は、ころ長から、ころ面取の軸方向寸法に「2」を乗じた値を減じて求められる値、すなわち、ころ(転動体)長−ころ(転動体)面取の軸方向寸法×2(両端)により求められる値より広いことが好ましい。より好ましくは転走面以上とする。
ローラフォロワの軸8Mをかしめてロッカアームと固定し使用される場合における、軸8MのDLC被膜12の形成範囲はかしめ後の変形量が、かしめ前の軸径(かしめ後の軸8Mの軸方向中央P1における軸径)に対し+0.1mm以下の領域である。ローラフォロアは組立時に膜形成した軸8Mの両端部をかしめることから、かしめ前の軸径+0.1mmを超える変形部に膜形成すると、DLC被膜が剥離し、耐摩耗性を発揮できなくなるだけでなく、相手部品を攻撃してしまう。つまり剥離した被膜が異物となる。
(5)軸受の軸(基材)における表面硬度について
通常、DLC被膜を施していない基材の表面硬度(転走面部硬度)を確認する方法は、ロックウェル硬度計やビッカース硬度計を用いて、基材表面を直接硬度測定する。しかし、表面にDLC被膜12を施した基材の場合、上記測定方法は使用できない。そこで基材の断面硬度をビッカース硬度計で測定し、DLC被膜との界面から0.03mm地点の値を基材表面硬度として用いている。基材表面にDLC被膜12を施すため、基材表面硬度がDLC被膜硬度に近いことが好ましい。
本実施形態に係る軸表面硬度の測定方法では、例えばマイクロビッカース硬度計(株式会社島津製作所製HMV-1)を用いて、軸8Mの軸方向中央を、周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。具体的に、DLC被膜との界面から0.03mm地点の表面硬度を求めるには、図17に示すように、軸8Mの軸方向中央を、軸方向に略垂直な仮想平面khに沿って切断する。図18に示すように、この切断面表面shにおける、軸8Mの表面つまり外周縁部8Maから軸中心L3を結ぶ直線L4上の点P2を、前記マイクロビッカース硬度計で試験荷重300gで測定する。すなわち被膜12と軸8との界面から、軸中心方向へL5(L5=0.03mm)の地点の硬度を測定する。このように周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を、基材表面硬度とする。
本発明で耐摩耗性を確認した、DLC被膜12を施した基材表面硬度はHV650以上HV1000以下である。具体的に、上記基材表面硬度の範囲内に入る表2の軸受5各部の摩耗量を確認したところ、軸8M、転動体10、外輪9共に所定の摩耗量以下に抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
これに対して、表4の試験軸受では、試験後、軸8M、転動体10、外輪9共に所定の摩耗量よりも大きくなり軸受全体の摩耗量が大きくなった。これは基材の強度不足に起因して、この基材が塑性変形して特に軸8Mの摩耗が進展したこと等による。
基材表面硬度の下限値をHV650とした場合、基材の必要強度を満たし、基材の変形量を所定量以下に抑えることができる。そのため基材表面と、この基材表面に形成されたDLC被膜12との密着性を向上させることができる。基材表面硬度の上限値をHV1000とした場合、基材の必要な靭性値を満たし、基材に亀裂が発生することがなくDLC被膜12との密着性を向上させることができる。
熱処理した後でも、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなるDLC被膜12を採用した場合、膜形成前に軸表面にショットピーニング加工を施すことによって表面硬度をHV1000近くにすることができる。AD法(エアロゾルデポジションメソッド)で形成した膜の場合、原料粉末中には平均粒子径を越えた大きさの粒子がある。粒径の大きな粒子は膜形成に寄与せずに基材表面に衝突することでピーニング処理が施され、基材表面硬度はHV1000近くにすることができる。
(6)軸受の軸の転走面表面にDLC被膜を形成した後の真円度について
円筒状基材表面にDLC被膜12を形成した後の真円度は、例えばタリロンド(テーラーホブソン株式会社製Talyrond262)で測定する。前記「真円度」とは、円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさを言う幾何公差である。この真円度は、円形形体を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心2円の間隔が最小となる場合の2円の半径差で表し、真円度XXμm、または真円度XXmmと表示する。本実施形態に係るDLC被膜12を形成した後の「真円度」の測定方法では、図19に示すように、前記タリロンドを用いて、軸8Mの膜形成範囲を矢符A4にて表記する周方向に軸方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、DLC被膜形成後の軸8Mの真円度は4μm以下であった。この真円度が4μmを超えた場合、膜厚δ2が場所によって変化し、膜にかかる荷重が不均一となり、局部的に過大な接触面圧となる。よって、耐摩耗性が低下するだけでなく、DLC被膜12の剥離を誘発する可能性が高くなる。さらに、DLC被膜12の剥離により、相手部品への攻撃性も増加する。
軸8Mの真円度を4μm以下とするためには、軸基材8の真円度を2μm以下とする必要がある。
したがって、軸基材8における転走面の真円度が2μm以下、および軸8Mの転走面の真円度が4μm以下のいずれか一方または両方を満足することにより、前記転走面は必要十分な耐摩耗性を有する。軸8Mの転走面の真円度が4μm以下としたため、膜厚δ2が場所によって変化することなく、DLC被膜12にかかる荷重が均一化し、局所的な過大な接触面圧を防止することができる。したがって、前記転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、DLC被膜12の剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。軸基材8における転走面の真円度を2μm以下とすることで、軸8Mの真円度を4μm以下とすることができる。このような軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
(7)転がり軸受の軸、転動体、外輪のすきまについて
軸表面にDLC被膜12を形成することで、軸受5を構成する部品、つまり軸8M、転動体10、外輪9のすきまが変化する。転がり軸受のすきまはラジアルすきまと、転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1とで規定する。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた軸受5のラジアルすきまは2μm以上45μm以下であった。
DLC被膜を施した軸受のラジアルすきまの下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、DLC被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。ラジアルすきまの上限値を45μmとすることにより、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
一方、必要な耐摩耗性を有していた軸受5の転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1は2μm以上25μm以下であった。
(DLC被膜を施した)前記軸受の円周方向すきまδ1の下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、DLC被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。円周方向すきまδ1の上限値を25μmとしたため、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
軸の転走面表面に形成したsp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなるDLC被膜の水素含有量について
軸8Mの表面に形成したDLC被膜12の水素含有量は、例えば、ERDA(Elastic Recoil Detection Analysis:神戸製鋼所製HRBS500)で分析する。この実施形態に係るDLC被膜12の水素含有量の測定方法として、軸8Mの軸方向中央を、図20に示すように周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求め、膜表面から膜厚0.3μmまでの領域を分析した。ERDAによる水素含有量の測定は、深さ方向の組成分布を評価するため、膜表面から観察する。測定結果から深さ方向0.3μmまでの領域の水素含有量を読み取ることで足りる。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、DLC被膜12の表面つまり最外層の表面層27から0.3μmまでの領域の水素含有量は10原子%以上30原子%以下、好ましくは16原子%以上25原子%以下であった。水素含有量が10原子%未満の場合、密着性が低下する。水素含有量が30原子%を越える場合、膜材間の結合性が低下し、剥離しやすくなり耐摩耗性が低下する。
(9)軸受の軸の転走面表面に形成したsp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなるDLC被膜の金属含有量について
軸8Mの表面に形成したDLC被膜12の金属含有量は、例えばSIMS(Secondary Ion Mass Spectromety:アルバック・ファイ株式会社製ADEPT-1010)で分析する。特にDLC被膜12と基材との密着性をよくするためにはCr(クロム)を、(メタルフリーアモルファス炭化水素層を含む)アモルファス炭化水素層とCr(クロム)層との密着性をよくするためにはW(タングステン)を含有させる。この実施形態に係るDLC被膜12の金属含有量の測定方法として、図21に示すように軸8Mの軸方向中央を、周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、DLC被膜12のCr(クロム)+W(タングステン)の含有量は5原子%以上50原子%以下であった。Cr(クロム)+W(タングステン)の含有量が5原子%未満の場合、DLC被膜12と基材との密着性が低下する。50原子%を越えた場合、アモルファス炭化水素膜を構成しているDLC被膜12の半分以上が金属となり、硬度が低下し耐摩耗性が低下する。
以上のパラメータが転走面にDLC被膜12を形成した軸受5の耐摩耗性に影響を及ぼす。各パラメータは単独で耐摩耗性に影響を及ぼすだけでなく、耐摩耗性を維持する領域を組み合わせることで、さらに耐摩耗性が向上する。
以上説明した本発明の実施形態に係るロッカアームアッシーによれば、DLC被膜12が軸基材8上に施され、このDLC被膜12は、最外層の表面層27と、下地層25と、これら表面層27と下地層25との間に介在されるクロム-炭化タングステン層26とを有する。特に、このクロム-炭化タングステン層26におけるクロムの含有量が、下地層25側から表面層27側に向かって減少する傾斜構造としたため、層の組成が連続的に徐々に変化し、表面層27と軸基材8との密着性が優れたものとなる。前記表面層27の形成は、炭化タングステン(WC)のスパッタリング等をそのまま継続することで膜形成が可能であり、これら表面層27とWC層との密着性が優れたものとなる。これにより、DLC被膜12が基材から不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の向上を図り、エンジンの運転開始初期状態等での表面損傷を防止して、焼き付き防止を図れる。その後の潤滑状態を良好にして、十分な耐久性の確保を図ることが可能となる。
前記クロム-炭化タングステン層26をスパッタ処理で形成するため、Crからなるターゲット20の印加電圧の出力と、WCからなるターゲット21の印加電圧の出力とを調整することで、このCr−WC層26を容易に形成することが可能となる。このような印加電圧の出力調整により、Cr−WC層26中におけるクロムの含有量の傾斜構造を簡単に且つ確実に作製し得る。
軸の軸方向中間部は、転動体10の転走面幅以上であっても良い。この場合、軸基材8の軸方向中間部は熱処理により硬化されたうえでDLC被膜12が施される。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、DLC被膜12の破壊、剥離を防止することができる。
軸の軸方向中間部の基材硬度は、この基材表面から50μm以上の深さでHRC58以上有するものであっても良い。DLC被膜12を基材表面に施した場合、最適なDLC被膜を施さないと、剥離したDLC被膜が硬質異物として作用するため、基材表面から深さ50μm以上まで摩耗が発生する場合がある。軸の軸方向中間部の基材硬度が、この基材表面から50μm以上の深さでHRC58以上有すると、軸の耐摩耗性を高めることができる。
ロッカアームアッシーは、車両等の内燃機関のうちディーゼルエンジンに使用されるもの、または直噴ガソリンエンジンに使用されるものであっても良い。これらのエンジンでは、通常のガソリンエンジンよりも硬質異物の発生量が多く、この硬質異物が原因でロッカアームアッシーの軸に、著しい摩耗が発生する場合がある。このような硬質異物の発生量が多いエンジンに、本発明のロッカアームアッシーを使用することにより、特に耐摩耗性の向上を図ることができる。
本実施形態では、転がり軸受にDLC被膜を施しているが、滑り軸受に前述のDLC被膜を施し、転がり軸受で適用したパラメータにしても良い。この場合において、軸の軸方向中間部は、外輪幅以上であっても良い。この場合、軸基材の軸方向中間部は熱処理により硬化されたうえでDLC被膜が施される。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、DLC被膜の破壊、剥離を防止することができる。滑り軸受にDLC被膜を施した場合であっても本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
なお前記転がり軸受は転動体がボールのものを適用することも可能である。
この発明の一実施形態に係るロッカアームアッシーの正面図である。 同ロッカアームアッシーにおける軸受部分の断面図である。 同軸受の破断正面図である。 同軸受の要部の拡大断面図である。 同軸受の要部にDLC被膜を形成するスパッタ装置を概略表す図である。 (A)は軸基材とDLC被膜との関係を拡大して示す要部断面図、(B)は下地層側から表面層側へのWCまたはCrの割合を分析する方法を説明するための図である。 同軸受の試験機の断面図である。 軸の一部分のみが大きく摩耗した場合の軸断面を模式的に示す断面図である。 この発明の実施形態にかかるDLC被膜の破壊靭性値測定方法を概略表す斜視図である。 同DLC被膜の密着性(スクラッチ法)測定方法を概略表す斜視図である。 同DLC被膜の硬度の測定方法を概略表す斜視図である。 同DLC被膜の膜厚の測定方法を概略表す斜視図である。 同DLC被膜の表面粗さの測定方法を概略表す斜視図である。 同DLC被膜の膜形成範囲の測定方法を概略表す斜視図である。 膜形成範囲測定後のDLC被膜の形状を表す図である。 DLC被膜の厚さバラツキを表す図であり、図16(a)は軸方向中央が最も薄膜の場合の図、図16(b)は軸方向中央が最も厚膜の場合の図、図16(c)は軸方向中央の膜厚が中間値の場合の図である。 DLC被膜との界面から0.03mm地点の表面硬度を求める前段階の状態を表す斜視図である。 軸の切断面表面における、軸の外周縁部から軸中心を結ぶ直線上の点を測定する状態を示す側面図である。 DLC被膜を形成した後の真円度の測定方法を概略示す斜視図である。 DLC被膜に含まれる水素含有量の測定箇所を概略示す斜視図である。 DLC被膜に含まれる金属含有量の測定箇所を概略示す斜視図である。
符号の説明
1…ロッカアーム本体
5…軸受
8M…軸
9…外輪
10…転動体
12…DLC被膜

Claims (8)

  1. 少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化された軸と、この軸の外周に位置する外輪と、これら外輪と軸との間を転動する転動体と、前記軸を固定したロッカアーム本体とを有するロッカアームアッシーにおいて、
    DLC被膜が前記軸に施され、
    このDLC被膜は、
    sp2-及びsp3-交雑炭素を含むアモルファス炭化水素を有する最外層の表面層と、
    この表面層よりも内側で且つ軸基材に臨み、少なくともクロムを含有する下地層と、
    これら表面層と下地層との間に介在され、クロムと炭化タングステンとを含むクロム-炭化タングステン層とを有し、
    前記クロム-炭化タングステン層のクロムの含有量が、前記下地層側から前記表面層側に向かって減少する傾斜構造を有し、且つ、前記クロム-炭化タングステン層における炭化タングステンの含有量を、前記下地層側から前記表面層側に向かって増加させたことを特徴とするロッカアームアッシー。
  2. 請求項において、前記クロム-炭化タングステン層は、スパッタ処理で形成されるロッカアームアッシー。
  3. 請求項1または請求項2において、前記DLC被膜の前記表面層は、表面から0.3μmまでの領域における水素含有量が、10原子%以上30原子%以下であるロッカアームアッシー。
  4. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記クロム-炭化タングステン層は、クロムとタングステンとの合計含有量が、5原子%以上50原子%以下であるロッカアーム
    アッシー。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記軸の軸方向中間部は、転動体の転走面幅以上であるロッカアームアッシー。
  6. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記軸の軸方向中間部の基材硬度は、この基材表面から50μm以上の深さでHRC58以上有するロッカアームアッシー。
  7. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、ディーゼルエンジンに使用されるロッカアームアッシー。
  8. 請求項1ないし請求項のいずれか1項において、直噴ガソリンエンジンに使用されるロッカアームアッシー。
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