JP2004003627A - シャフト,プラネタリギヤ装置,及びカムフォロア - Google Patents
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Abstract
【課題】高温下において高速回転で使用しても長寿命なシャフト、及び高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価なプラネタリギヤ装置を提供する。
【解決手段】プラネタリギヤ装置のサンギヤ1及びリングギヤ2に噛み合うピニオンギヤ3を回転自在に支持するピニオンシャフト5を、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成したうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理を施した。そして、このピニオンシャフト5をキャリヤ4にかしめによって固定した。
【選択図】 図1
【解決手段】プラネタリギヤ装置のサンギヤ1及びリングギヤ2に噛み合うピニオンギヤ3を回転自在に支持するピニオンシャフト5を、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成したうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理を施した。そして、このピニオンシャフト5をキャリヤ4にかしめによって固定した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温下において高速回転で使用しても長寿命なシャフト、及び高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価なプラネタリギヤ装置に係り、特に、自動車,工作機械等の減速機や変速機に好適なシャフト及びプラネタリギヤ装置に関する。
また、本発明は長寿命なカムフォロアに係り、特に、内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン等の各種エンジン)の動弁機構などに使用されるカムフォロアに関する。
【0002】
【従来の技術】
まず、シャフト及びプラネタリギヤ装置について説明する。
例えば自動車の自動変速機に用いられるプラネタリギヤ装置は、サンギヤ,リングギヤ,及びキャリヤを備えており、これらの回転要素は出力軸の周りに同心に配されている。また、サンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤが、キャリヤに固定されたピニオンシャフトに、軸受用ころを介して回転自在に支持されている。そして、各回転の遠心力によって各回転要素に潤滑油が供給されるように、油路が備えられている。
【0003】
しかしながら、プラネタリギヤ装置の構造は、ピニオンギヤが自転しながら公転するという複雑なものであるので、十分な潤滑油をピニオンシャフト及び軸受用ころに供給することは困難であった。また、各回転要素の中ではピニオンギヤの回転速度が最も高いので、ピニオンギヤを支持するピニオンシャフトには、ピニオンギヤに作用する遠心力を支えるために大きな荷重が負荷される傾向があった。
【0004】
したがって、従来のプラネタリギヤ装置においては、ピニオンシャフトはJIS鋼種SK5等で構成され、焼入れを施すことにより転動部材として必要な硬さ(Hv650以上)が付与されていた。そして、焼入れ法として高周波焼入れ法を採用することにより、軸受用ころが転走する部分(転走面)のみに高周波焼入れが施され、高周波焼入れが施されていない端部をかしめることによってピニオンシャフトがキャリアに固定されていた。
【0005】
次に、カムフォロアについて説明する。
近年、エンジンのクランクシャフトとともに回転するカムシャフトに固定されたカムの動きをバルブに伝達する動弁機構において、駆動時の摩擦を滑り摩擦から転がり摩擦に変換することによって、摩擦部分の摩擦損失を低く抑えるために、カムフォロアが広く用いられている。
【0006】
このカムフォロアは、実開昭60−88016号公報に開示されているように、カムのカム面に接するローラの挿入空間を挟んで対向する一対の支持壁を有するローラ保持部がカムフォロア本体に一体に形成され、前記各支持壁を貫通するローラ軸孔内には、全長にわたって等径に形成されたローラ軸の両端部外周がそれぞれ嵌合され、このローラ軸の中央部に前記ローラがニードルを介して回転自在に支持されている。
【0007】
また、特開昭62−7908号公報には、ローラ軸をカムフォロア本体に簡便且つ容易に固定するため、ローラ軸の転走面となる中央部のみに高周波焼入れを施して硬化させ、両端部は未硬化として、各支持壁の軸孔に挿入したローラ軸の端部をかしめることによりローラ軸の端部を拡径して、ローラ軸を軸孔にかしめ固定する方法が開示されていて、従来から用いられている。
【0008】
さらに、カムフォロアに使用されるローラやローラ軸のように、使用時に相手部材と転がり接触又は滑り接触する摺動部品において、表面の耐久性を向上させるための表面性状の改良に関する各種発明が従来から行われている。
例えば、特公平1−30008号公報には、表面性状を変えることにより耐久性を向上させる技術として、転動面の表面にRmaxが0.3〜1.5μmでランダム方向の擦傷を形成するとともに、表層部に0.05MPa以上の残留応力層を形成した軸受転動体に関する発明が記載されている。
【0009】
また、特開平3−117723号公報,特開平3−117724号公報,及び特開平3−117725号公報には、バレル加工により表面に多数の凹部をランダムに形成することにより、表層部の硬さを内部の硬さに比べて高くするとともに、表層部に圧縮残留応力を生じさせる技術が記載されている。
さらに、特開平3−199716号公報には、相手部材と接触する表面に表面硬化処理層を設けるとともに、圧縮残留応力のピーク値の深さとせん断応力分布のピーク値の深さとを一致させた軸受が記載されている。
【0010】
さらに、特開平4−54312号公報には、ショットピーニング加工により圧縮残留応力を表面部分で0.1MPa以上とし、表面下300μmの部分で0.04MPa以上とした軸受部品が記載されている。
さらに、特開平5−288257号公報には、表面からの深さが0〜50μmの範囲を表層部とした場合に、この表層部の最大圧縮残留応力が0.05〜0.11MPaであり、同じく表層部の硬さがHv830〜960であり、表面粗さの平均波長が25μm以下であり、且つ表層部の残留オーステナイトの割合が7体積%を超えるものとした転がり摺動部品が記載されている。
【0011】
また、この他にも特開平10−110720号公報等には、軸体の焼戻し温度よりも低い温度で、軸体の外周面をイオン窒化法又は物理蒸着法により処理する技術が記載されている。ただし、この方法は、非常に高コストである。
【0012】
【特許文献1】
実開昭60−88016号公報
【特許文献2】
特開昭62−7908号公報
【特許文献3】
特公平1−30008号公報
【特許文献4】
特開平3−117723号公報
【特許文献5】
特開平3−117724号公報
【特許文献6】
特開平3−117725号公報
【特許文献7】
特開平3−199716号公報
【特許文献8】
特開平4−54312号公報
【特許文献9】
特開平5−288257号公報
【特許文献10】
特開平10−110720号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
近年、自動車の低燃費化の要求がますます強まっており、低燃費化を目的としてトランスミッションの小型化や高効率化が行われている。そのため、ピニオンギヤの回転速度が高まっているので、ピニオンシャフトに負荷される荷重が増大し、温度が上昇し、さらに潤滑油量が減少する傾向となっている。
【0014】
その結果、前述のような従来のピニオンシャフトでは、潤滑不良等による剥離寿命が問題となる場合があった。このような場合には、ピニオンシャフトをJIS鋼種SUJ2で構成し、浸炭窒化処理等を施して寿命を確保していたが、そうすると、ピニオンシャフトをかしめによってキャリアに固定することができないので、キャリヤにねじ穴を加工してピニオンシャフトをねじで固定する必要があることから、プラネタリギヤ装置のコストが高くなるという問題点があった。
【0015】
また、前述した荷重の増大及び温度の上昇のために、変形,滑りの増大による早期剥離,焼付きがピニオンシャフトに生じて、寿命が不十分となるという問題もあった。
そこで、本発明は、上記のような従来のピニオンシャフト及びプラネタリギヤ装置が有する問題点を解決し、高温下において高速回転で使用しても長寿命なシャフト、及び高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価なプラネタリギヤ装置を提供することを第一の課題とする。
【0016】
一方、ディーゼルエンジンに組み込まれるカムフォロアの場合は、燃料の燃焼に伴って生成する硫酸イオンや硝酸イオンが、カムフォロアに供給される潤滑油中に混入している。この硫酸イオンは、軽油やディーゼルエンジンオイルに含まれる硫黄から生成するものであり、硝酸イオンは、燃料の燃焼時に生成する窒素酸化物(NOx)に起因するものである。このような硫酸イオン及び硝酸イオンは金属に腐食摩耗を生じさせるので、カムフォロアの転がり面や摺動面を損傷するという問題が生じるおそれがある。
【0017】
近年においては、燃焼時の温度を低くしてNOxの生成を抑制するために、排出ガスの一部を燃焼室に循環させる「排ガス再燃焼(EGR;Exhaust Gas Recirculation)」の導入が進められている。しかし、排出ガス中の硫黄酸化物が再度エンジン内部に吸入されるため、潤滑油に混入する硫酸イオン等が増加する傾向があり、前記腐食摩耗がより促進されるおそれがあった。
【0018】
また、供給される潤滑油中には、軽油の燃焼に伴って発生する「すす」や、その他の不溶解成分も混入している。すすその他の不溶解成分は、潤滑油を劣化させて潤滑不良を引き起こすおそれがあるので、転がり面や摺動面を損傷する原因となる。
【0019】
さらに、すすその他の不溶解成分が転がり面又は摺動面に介在した場合は、研磨材のような働きをする可能性があり、特に、相手面との接触面圧が高いローラ軸に異常摩耗が発生するおそれがある。このようにして、カムフォロアのローラ軸に発生した摩耗が進行すると、ローラ軸の外周面の一部でありカムフォロアを支持するニードルの転動面との接触面に段付摩耗が発生する。そして、ローラ軸の外周面に依存する軌道の幅方向端部でニードルの転動面の端部と接触する部分に応力集中に基づくフレーキングが発生し、カムフォロアの回転支持部分の耐久性が損なわれる。
【0020】
さらに、近年においては、自動車の排出ガスに含まれる二酸化炭素量に対する規制がますます厳しくなっており、燃焼温度が低くされ二酸化炭素量の発生が抑制されているため、すすの発生量が多くなる傾向にある。
このような潤滑油中に混入した硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすその他の不溶解成分による耐久性の劣化に対しては、前述した従来技術では必ずしも十分な耐久性向上効果が得られない。例えば、潤滑性を良好とするために表面の粗さや微細な形状に工夫を施しても、腐食摩耗を抑制する効果は乏しく、しかも潤滑油中のすすを接触面内に引き込むことになるため、かえって摩耗が大きくなるおそれがある。
【0021】
また、ショットピーニングによってローラ軸表面の圧縮残留応力を高くしたり硬さを高くしたりすると、ローラ軸の端部をかしめることが困難となるため、適用することが難しい。また、かしめを容易にするためにショットピーニング後に端部に高周波焼鈍しを施すことも考えられるが、熱の影響によってショットピーニングの効果が失われるおそれがあり、また、工程が増加するためコストが高くなるとともに生産性が低下する。
【0022】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、内燃機関等において硫酸イオン,硝酸イオン,又はすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても長寿命で且つ安価なカムフォロアを提供することを第二の課題とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
前記第一の課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のシャフトは、プラネタリギヤ装置において使用され、同心に配されたサンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤを回転自在に支持するシャフトであって、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る請求項2のプラネタリギヤ装置は、サンギヤと、該サンギヤと同心に配されたリングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛み合う1個以上のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤに対応するピニオンシャフトを有し、前記サンギヤ及び前記リングギヤと同心に配されたキャリヤと、前記ピニオンギヤの内周面と前記ピニオンシャフトの外周面との間に転動自在に配設された複数のころと、を備えていて、前記ピニオンギヤが前記ピニオンシャフトを軸として回転自在とされているプラネタリギヤ装置において、前記ピニオンシャフトを請求項1に記載のシャフトとし、このシャフトを前記キャリヤにかしめによって固定したことを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明に係る請求項3のシャフトは、内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備えるカムフォロアにおいて前記ローラ軸として使用され、前記針状ころを介して前記ローラを回転自在に支持するシャフトであって、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0026】
焼入れには高周波焼入れを採用し、ピニオンシャフトの外周面のうちの前記ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れを施す必要がある。そうすると、ピニオンシャフトの端部には高周波焼入れが施されず硬化されていないから、端部をかしめてキャリヤに固定することができる。よって、プラネタリギヤ装置を安価に製造することができる。
【0027】
また、同様に、カムフォロアのローラ軸として使用されるシャフトの外周面のうちの前記針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れを施すと、硬化されていない端部をかしめることによりシャフトを固定することができるから、カムフォロアを安価に製造することができる。
【0028】
使用条件の高温化,高速化に伴う滑りの発生や潤滑不良による早期剥離を防止するためには、クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼でシャフトを構成することが効果的であることが分かった。これは、クロムが鋼の組織の安定性を向上させ高温での変形を防止するのに有効に働き、さらに安定な酸化膜を形成するため潤滑不良による摩耗等の表面損傷を低減するのに有効に働くためであると推測される。ただし、18質量%を超えてクロムを含有させても上記添加効果は飽和し、さらに、コストの上昇を招くばかりか粗大な炭化物を形成しやすくなる。よって、クロムの含有量は8〜18質量%とする必要がある。
【0029】
このような鋼においては、転動疲労寿命を確保するために必要な硬さを得るためには、焼入れ時のマルテンサイト変態に必要な侵入型元素である炭素及び/又は窒素を合計で0.5質量%以上含有させる必要がある。高周波焼入れを行う場合に粒径20μmを超える粗大な炭化物が存在すると、オーバーヒートと呼ばれる現象が発生して局部的な硬さの低下が生じ寿命が低下するおそれがあるため、炭素及び窒素の合計の含有量は1.2質量%を上限とする必要がある。ただし、粗大な共晶炭化物の析出を防止するためには、炭素及び窒素の合計の含有量は0.7質量%を上限とすることがより好ましい。
【0030】
また、炭化物の粒径は、熱処理生産性の点から平均値で3μm以下とすることが好ましく、オーバーヒートを防止して安定的に生産するためには1.5μm以下とすることがより好ましい。
さらに、窒素は粗大な炭化物の析出を防止するのに有効な元素であり、積極的に添加することが好ましいが、0.2質量%を超えると製鋼時にブローホールと呼ばれる欠陥の発生を防止するための加圧が必要となり、コストが非常に高くなる。よって、窒素の含有量は0.2質量%以下とすることが好ましい。上記のような問題がより生じにくくするためには、窒素の含有量は0.1〜0.15質量%とすることがより好ましい。したがって、炭素の好ましい含有量の下限値は0.35質量%となる。
【0031】
さらに、シャフトを構成する合金鋼には、他の合金元素を含有させてもよい。例えば、ケイ素は製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼戻し軟化抵抗性を向上させて高温における寿命を向上させる効果があるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、多量に含有させても寿命向上効果が飽和するばかりでなく、鋼の被削性が低下してコストの上昇を招くため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、マンガンは製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼入れ性の向上に有効であるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、あまり多量に含有させると非金属介在物が多くなってかえって寿命が低下するおそれがあり、また、鋼の鍛造性,被削性等の機械加工性が低下するため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
さらに、耐摩耗性の向上に有効なモリブデン,バナジウム,タングステンはコストが許す限り添加することができる。その他、リン,イオウ,ニッケル,銅,チタン,酸素等の不可避の不純物元素を含有する場合があるが、転動疲労寿命に有害な酸化物系の非金属介在物を低減するためには、酸素の含有量は15ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
さらに、本発明に係る請求項4のシャフトは、請求項3に記載のシャフトにおいて、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、表面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする。
クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜とビッカース硬さとについては、後述するカムフォロアのローラ軸の場合と全く同様であるので、ここでの説明は省略して後に詳述する。
【0035】
さらに、前記第二の課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項5のカムフォロアは、内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備え、前記ローラが前記針状ころを介して前記ローラ軸により回転自在に支持されてなるカムフォロアにおいて、前記ローラ軸は、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、少なくとも前記軌道面に高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0036】
このような構成であれば、耐摩耗性や耐食性が優れているので、内燃機関等においてすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても、転がり面や摺動面に摩耗による損傷が生じにくく長寿命である。
また、本発明に係る請求項6のカムフォロアは、請求項5に記載のカムフォロアにおいて、前記ローラ軸は、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、前記軌道面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする。
【0037】
このような構成であれば、酸化被膜によって耐摩耗性や耐食性がより優れているので、内燃機関等において硫酸イオンや硝酸イオンが混入するような環境下で使用されても、転がり面や摺動面に腐食摩耗による損傷が生じにくく長寿命である。
さらに、本発明に係る請求項7のカムフォロアは、請求項5又は請求項6に記載のカムフォロアにおいて、前記軌道面のみに高周波焼入れ処理が施されていて、前記ローラ軸はその両端部をかしめることによりローラ軸支持部材に固定されていることを特徴とする。
【0038】
このような構成のカムフォロアは、製造コストが安価である。
以下に、本発明のカムフォロアについて、特に前述の各臨界値について詳細に説明する。
〔合金鋼におけるクロムの含有量について〕
本発明者らが鋭意検討した結果、クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼でローラ軸を構成すれば、すす等の不溶解成分が混入してもローラ軸の摩耗が抑制され、カムフォロアが長寿命となることが分かった。これは、クロムがマトリックスに固溶して高温強度を向上させる他、多量に添加することによって生成する炭化物が硬くて粒成長の遅いM7C3型又はM23C6型に変わり、耐摩耗性が向上するためであると考えられる。また、クロムは組織の安定性を向上させるために有効な元素であり、転動疲労寿命を向上させる。
【0039】
さらに、ローラ軸の表面に不動態被膜処理を施せば、硫酸イオンや硝酸イオンが混入してもローラ軸の腐食摩耗が抑制され、カムフォロアが長寿命となることが分かった。
クロムの含有量が8質量%未満である合金鋼に不動態被膜処理を施しても、十分な耐食性と寿命を有するカムフォロアとするに必要な不動態被膜が形成されない。クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼であれば、表面に安定且つ強固な不動態被膜が形成されるので、硫酸イオンや硝酸イオンによる腐食摩耗が抑制され、しかも相手材との金属接触による凝着力が弱まり耐摩耗性が向上する。
ただし、18質量%を超えてクロムを含有させても上記添加効果は飽和し、さらに、コストの上昇を招くばかりか粗大な炭化物を形成しやすくなる。よって、クロムの含有量は8〜18質量%とする必要がある。
【0040】
〔合金鋼における炭素及び窒素の合計の含有量について〕
前述のような鋼においては、転動疲労寿命を確保するために必要な表面硬さを得るためには、焼入れ時のマルテンサイト変態に必要な侵入型元素である炭素及び/又は窒素を合計で0.5質量%以上含有させる必要がある。粗大な共晶炭化物が鋼中に存在すると転動疲労寿命が低下するおそれがあり、また、高周波焼入れを行う場合に粒径20μmを超える粗大な炭化物が焼入れ硬化層部分に存在すると、オーバーヒートと呼ばれる現象が発生して局部的な硬さの低下が生じ転動疲労寿命が低下するおそれがある。よって、炭素及び窒素の合計の含有量は1.2質量%を上限とする必要がある。ただし、粗大な共晶炭化物の析出を防止するためには、炭素及び窒素の合計の含有量は0.7質量%を上限とすることがより好ましい。
【0041】
また、窒素は粗大な炭化物の析出を防止するのに有効な元素であり、積極的に添加することが好ましいが、0.2質量%を超えると製鋼時にブローホールと呼ばれる欠陥の発生を防止するための加圧が必要となり、コストが非常に高くなる。よって、窒素の含有量は0.2質量%以下とすることが好ましい。上記のような問題がより生じにくくするためには、窒素の含有量は0.15質量%以下とすることがより好ましい。したがって、炭素の好ましい含有量の下限値は0.35質量%となる。
【0042】
〔合金鋼に含まれる他の元素について〕
ローラ軸を構成する合金鋼には、前述の元素以外の他の合金元素を含有させてもよい。例えば、ケイ素は製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼戻し軟化抵抗性を向上させて高温における寿命を向上させる効果があるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、多量に含有させても寿命向上効果が飽和するばかりでなく、鋼の被削性が低下してコストの上昇を招くため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
また、マンガンは製鋼時の脱酸剤及び脱硫剤として必要な元素であり、さらに、焼入れ性の向上に有効であるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、あまり多量に含有させると非金属介在物が多くなってかえって寿命が低下するおそれがあり、また、鋼の鍛造性,被削性等の機械加工性が低下するため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
さらに、耐摩耗性の向上に有効なモリブデン,バナジウム,タングステンはコストが許す限り添加することができる。なお、リン,イオウ,ニッケル,銅,アルミニウム,チタン,ニオブ,鉛,カルシウム,ジルコニウム,テルル,アンチモン等の不可避の不純物元素を含有していても差し支えない。ただし、酸素の含有量が多くなると、転動疲労寿命に有害な(疲労破壊の起点となる)粗大な酸化物系介在物が多くなって、寿命が低下する。よって、鋼中の酸素の含有量はできるだけ低く抑えることが好ましく、15ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
〔合金鋼中の炭化物の平均粒径について〕
鋼中に粗大な炭化物が存在すると、そこに応力が集中し、剥離の起点となって転がり寿命が低下する。また、高周波焼入れを行う場合においては、粗大な炭化物はマトリックスへの溶解が十分に行われず、焼入れ硬さの低下を招くおそれがあり、さらに場合によってはオーバーヒートが発生する場合がある。そのため、炭化物の粒径は極力小さくすることが望ましい。鋼の生産上の不安定要因を除きオーバーヒートを防止するためには、炭化物の平均粒径は3μm以下とすることが好ましく、1.5μm以下とすることがより好ましい。
【0046】
〔高周波焼入れ処理について〕
硬化熱処理である焼入れとしては高周波焼入れ処理を採用し、ローラ軸の外周面のうちの針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理を施すことが好ましい。そうすると、ローラ軸の端部には高周波焼入れ処理が施されず硬化されていないから、両端部をかしめてローラ軸支持部材に固定することができる。よって、カムフォロアを安価に製造することができる。
【0047】
〔クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜について〕
使用により劣化したディーゼルエンジンオイルは、燃料やエンジンオイルの燃焼により生成した硫酸イオンや硝酸イオンを含有するため、腐食作用を有する。そのため、少なくともローラ軸は耐食性に優れた材料で形成し、不動態処理等により酸化被膜を形成しておくことが必要である。
【0048】
クロムを添加した合金鋼の表面に酸化被膜を形成した場合には、該酸化被膜は鉄の酸化物やCr2O3等の酸化物が主体となって形成される。このクロム酸化物は鉄の酸化物と比較して耐食性に優れるため、合金鋼の表面はクロム酸化物を主体として形成されている必要がある。
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に形成したローラ軸を用いれば、耐食性に優れ、より長寿命なディーゼルエンジン用カムフォロアを得ることができることを見出した。
【0049】
クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さは、劣化したエンジンオイルに含まれるすす等の不溶解成分による摩耗を考慮して、極力厚い方が好ましい。好ましくは10Å以上であり、より好ましくは50Å以上である。ただし、膜厚が5000Åを超えると耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、コストアップにもつながるため、膜厚は5000Å以下であることが好ましい。
【0050】
また、一般に鉄鋼材料からなる素材を加工すると、加工面には加工変質層が生じる。この加工変質層を除去しないで、不動態被膜処理等により酸化被膜を形成すると、不動態被膜の回復効果が不十分となって、腐食環境下で局部的な腐食が生じてしまう場合がある。そのため、不動態被膜処理を行う前には、加工変質層の除去を行うことが好ましい。加工変質層の除去と酸化被膜の形成とは、例えば以下の方法により行われる。
【0051】
まず、表面に付着している切削液,研削液,防錆油等の除去を、有機溶剤又はアルカリ洗浄液等を用いて行う。
次に、電解エッチングで加工変質層の除去を行う。電解エッチングの方法としては、例えば、被加工物を陽極とし、硫酸,リン酸,硝酸,及びこれらの酸のナトリウム塩又はカリウム塩のうちの少なくとも1種を含有する水溶液を電解液として用い、周波数20〜100kHzの超音波中にて行う方法が好ましい。なお、電解エッチングに使用する電解液の好ましい濃度は以下の通りである。
【0052】
硫酸の場合 :50g/リットル以上150g/リットル以下
リン酸の場合:50g/リットル以上150g/リットル以下
硝酸の場合 :50g/リットル以上500g/リットル以下
ナトリウム塩及びカリウム塩の場合:60g/リットル以上800g/リットル以下
また、電解エッチングの好ましい条件は以下に示す通りである。
【0053】
電圧 :2V以上50V以下
電流 :0.1A/dm2以上50A/dm2以下
電解時間:10秒以上120秒以下
電解エッチングで加工変質層を除去した後に、酸化被膜を形成する。酸化被膜は、クロム酸と、硫酸又は硝酸とを含有する処理液に所定時間浸漬することにより形成される。酸化被膜形成に使用する処理液の好ましい濃度は、以下に示す通りである。
【0054】
クロム酸 :15g/リットル以上300g/リットル以下
硫酸の場合:30g/リットル以上850g/リットル以下
硝酸の場合:40g/リットル以上850g/リットル以下
また、この処理液の温度と浸漬時間により、酸化被膜の厚さを調整することができる。好ましい処理条件は以下に示す通りである。
【0055】
浸漬時間:10分以上120分以下
処理温度:室温以上120℃以下
酸化被膜形成後には、この酸化被膜の耐食性をさらに向上させるための電解処理を行うとよい。電解処理は、被加工物を陰極とし、電解液としてクロム酸とリン酸及び/又は硫酸とにマグネシウム,カルシウム,及びバリウムの炭酸塩又は硫酸塩から選択された少なくとも1種を過飽和量で添加し、界面活性剤を添加した水溶液を使用して行うことが好ましい。好ましい電解液濃度及び処理条件を以下に示す。
【0056】
クロム酸 :50g/リットル以上150g/リットル以下
リン酸の場合:0.1g/リットル以上10g/リットル以下
硫酸の場合 :0.1g/リットル以上100g/リットル以下
電圧 ;0.1V以上20V以下
電流 :0.5A/dm2以上2A/dm2以下
電解時間 :10分以上300分以下
以上のような電解処理を行えば、電解処理時に陰極である被加工物に極めて強い水素雰囲気が形成される。これにより、この電解処理が行われた被加工物は、電解処理を行わなかった被加工物の表面と比較して、より耐食性に優れたものとなる。
【0057】
〔ビッカース硬さについて〕
ローラ軸に十分な転動疲労寿命を付与するためには、表面のうち少なくとも軌道面においては、表面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることが好ましく、700以上であることがより好ましい。なお、これ以降は、針状ころの直径の2%に相当する長さを「2%Da」と称す。
【0058】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す各実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は下記の各実施形態に限定されるものではない。
〔第一実施形態〕
図1に示すプラネタリギヤ装置は、本発明の請求項1のシャフト及び請求項2のプラネタリギヤ装置の実施形態であって、図示しない軸が挿通されたサンギヤ1と、該サンギヤ1と同心に配されたリングギヤ2と、サンギヤ1及びリングギヤ2に噛み合う複数(図1においては3個)のピニオンギヤ3と、サンギヤ1及びリングギヤ2と同心に配されピニオンギヤ3を回転自在に支持するキャリヤ4と、を備えている。
【0059】
ピニオンギヤ3は、キャリヤ4に固定されたピニオンシャフト5を介してキャリヤ4に支持されており、ピニオンシャフト5の外周面とピニオンギヤ3の内周面との間に配設された図示されない複数の針状ころによって、ピニオンシャフト5を軸として回転自在とされている。
【0060】
ピニオンシャフト5は、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されている。そして、ピニオンシャフト5の外周面のうち針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施され、その後に焼戻し処理が施されている。ピニオンシャフト5の端部には高周波焼入れ処理が施されておらず、硬化されていないので、ピニオンシャフト5は、その端部をかしめることによってキャリヤ4に固定されている。よって、このプラネタリギヤ装置は安価に製造することができる。
【0061】
次に、表1に示すような組成を有する種々の鋼で構成されたピニオンシャフト(外径8mm、長さ24mm)を用意して、耐久試験を行った。なお、鋼種1−Iは、JIS鋼種SK5である。
【0062】
【表1】
【0063】
ピニオンシャフトの製造方法は以下の通りである。鋼材を所定の寸法に旋削加工し、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理を施した後に、さらに仕上げ研削を行った。
次に、耐久試験の方法について、図2を参照しながら説明する。
【0064】
外輪11にピニオンシャフト10が挿通されており、両者10,11の間に転動自在に介装された複数のニードルローラー12(外径2mm、長さ15mm)によって、ピニオンシャフト10が回転可能となっている。このピニオンシャフト10には図示のように潤滑油の給油孔10aが設けてあり、端面の開口部10bに注入された潤滑油が円筒面に開口する給油孔10aから転走面に給油されるようになっている。
【0065】
ラジアル荷重4200N、回転速度10000min−1、潤滑油の温度150℃の条件でピニオンシャフト10を回転させ、剥離が生じるまでの時間を寿命として評価した。なお、ラジアル荷重は、図示しないサポート軸受を介して外輪11に負荷した。
耐久試験の結果を表2に示す。なお、表2中の寿命の数値は、SK5を用いた比較例4のL10寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から分かるように、実施例1〜5のピニオンシャフトは、比較例4と比べて3倍以上の優れた寿命を有していた。それに対して、比較例1はクロムの含有量が低いため、寿命の向上効果が十分に得られていない。また、比較例2はクロムの含有量は十分であるが、炭素及び窒素の合計の含有量が低いため、十分な硬さが得られず寿命の向上効果が不十分であった。さらに、比較例3は炭素及び窒素の合計の含有量が高すぎるため、オーバーヒートによる局部的な硬さの低下や、粗大な共晶炭化物の存在により、寿命の向上効果が十分に得られていない。
【0068】
〔第二実施形態〕
次に、本発明のカムフォロアの一実施形態である内燃機関(ディーゼルエンジン等の各種エンジン)の動弁機構などに使用されるカムフォロアについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図3は4サイクル内燃機関の動弁装置に使用されるカムフォロアの正面図であり、図4は図3のカムフォロアのA−A線断面図である
カムフォロア30の本体としてのロッカーアーム31は、その長手方向中間部に軸孔32が形成されており、軸孔32に貫通されたロッカー軸33によって内燃機関の本体(図示せず)に回転自在に支持されている。
【0069】
ロッカーアーム31の基部にはアジャストボルト41がねじ込まれており、そのねじ込み位置はロックナット42によって固定されている。このアジャストボルト41の下端には、内燃機関の本体に上下摺動可能に支持された機関弁43としての吸気弁又は排気弁の上端が当接されている。その機関弁43は、弁バネ44によって常に閉弁方向に(アジャストボルト41との当接箇所に向けて)付勢されている。
【0070】
ロッカーアーム31の先端部にはローラ51がローラ軸50を介して回転自在に取り付けられており、ローラ51の外周面は弁バネ44の付勢力によってカム46に圧接されている。カム46は、図示しないクランク軸に連動して回転するカム軸47に一体に形成されていて、内燃機関の本体に回転自在に支持されている。そして、カム46が回転することによって、ローラ51を介してカム46に当接するロッカーアーム31がロッカー軸33を軸として揺動し、機関弁43の開閉動作を行うようになっている。なお、本実施形態のおいては、上記のようなロッカーアーム31の先端部にローラ51が取り付けられている構造のカムフォロアを例示して説明したが、本発明は、この構造に限らず他のいかなる構造のカムフォロア(例えば、バルブリフター等の構造を有するカムフォロア)にも適用可能である。
【0071】
次に、図4を参照しながら、ローラ51及びローラ軸50の取付構造を説明する。ロッカーアーム31の一部であるローラ軸支持部材35は断面略コ字状をなしており、平行に伸びて対向する2つの支持壁35a,35aを有している。両支持壁35a,35aには軸孔36,36が設けられており、ローラ軸50の両端面50b,50bが両支持壁35a,35aの両外面35b,35bと概ね同一面となるように、ローラ軸50の両端部が各軸孔36,36にはめ込まれている。
【0072】
このローラ軸50は、外周面のうち軌道面50aとなる部分、すなわち後述する針状ころ52と接触する部分のみに高周波焼入れ処理が施され硬化されていて、針状ころ52の直径の2%以上の深さまでHv650以上の硬さとされている(両端部は硬化されていない)。
【0073】
このようなローラ軸50の両端面50b,50bを軸孔36,36にはめ込まれた状態で強く叩くと両端部が拡径し、ローラ軸50は軸孔36,36に強固にかしめ固定される。なお、ローラ軸50は軽量化のため又はかしめ加工を容易にするために、中心部を肉抜き状としてもよいし中空軸としてもよい。また、かしめ以外の方法でローラ軸50を容易に固定できる場合は、ローラ軸50の全体に高周波焼入れを施してもよい。また、十分な硬度を得るために、必要に応じて焼入れ処理の後にサブゼロ処理(深冷処理)を施してもよい。
【0074】
次に、このローラ軸50に、目的の寸法となるまで研削等の仕上げ加工を施す。仕上げ加工が完了したローラ軸50には、耐食性向上のため、前述したような方法により不動態化処理を施して、酸化被膜を形成してもよい。
ローラ軸50はローラ51に挿通された状態でローラ軸支持部材35に固定されており、ローラ軸50の外周面に備えられた軌道面50aとローラ51の内周面に備えられた軌道面51aとの間に転動自在に配設された複数の針状ころ52によって、ローラ51がローラ軸50に回転自在に支持されている。
【0075】
次に、表3に示すような組成を有する種々の鋼で構成されたローラ軸(外径8mm、長さ19mm)を用意して、耐久試験を行った。なお、鋼種2−Lは、JIS鋼種SUJ2である。
【0076】
【表3】
【0077】
耐久試験に用いたローラ軸は、以下のようにして製造した。鋼材を所定の寸法に旋削加工し、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理(50〜500℃で2時間保持する)を施した後に、さらに仕上げ研削を行った。
次に、耐久試験の方法について、図5を参照しながら説明する。
【0078】
図5に示した試験装置は、図示しないモータにより回転する主軸に取り付けられた駆動ローラの外周面に、支持部材に取り付けられたローラの外周面を押し当てる構造となっている。そのローラは、上記のようにして作製した試験片であるローラ軸によって、針状ころ(外径2.5mm、長さ12mm)を介して支持部材に回転自在に支持されている。このように試験装置は、実際のカムフォロアと概略同様の構造をなしている。そして、支持部材より荷重を加えながら主軸を回転させることにより、駆動ローラの回転に伴ってローラが回転し、そのローラを支持するローラ軸の耐久試験を行うことができるようになっている。
【0079】
耐久試験は、ラジアル荷重3700Nを負荷し、すすを混入した120℃のエンジンオイルを跳ねかけることにより供給しながら、主軸を回転速度8000min−1で200時間回転させて行った。試験終了後に、ローラ軸,針状ころ,及びローラから構成される試験部のラジアル方向の隙間を摩耗量として測定し、さらにローラ軸の目視検査を行った。
【0080】
試験結果を表4に示す。なお、表4中の摩耗量の数値は、SUJ2を用いた比較例14の摩耗量を1とした場合の相対値で示してある。また、目視検査の結果については、ローラ軸の表面に剥離が認められなかったものは○、剥離が認められたものは×で示している。
【0081】
【表4】
【0082】
表4から分かるように、実施例11〜18のローラ軸は、試験時間200時間を経過しても摩耗量は少なく、また、目視検査の結果からも何ら異常は認められなかった。それに対して、比較例11はクロムの含有量が低いため、耐摩耗性が十分ではなく剥離が認められた。また、比較例12はクロムの含有量は十分であるが、炭素及び窒素の合計の含有量が低いため、耐摩耗性が不十分であった。さらに、比較例13は耐摩耗性は良好であったが、目視検査で微小な剥離が認められた。これは、炭素及び窒素の合計の含有量が高すぎるため、オーバーヒートによる局部的な硬さの低下や、粗大な共晶炭化物の存在により、寿命の向上効果が十分に得られていないことが原因であると考えられる。
【0083】
このように、本実施形態のローラ軸は、すす等の不溶解成分が混入した厳しい潤滑条件下においても優れた耐摩耗性及び寿命を有している。
次に、表5に示すような組成を有する種々の鋼で構成され、且つ不動態被膜処理により表面に酸化被膜が形成されたローラ軸(外径8mm、長さ19mm)を用意して、耐久試験を行った。
【0084】
【表5】
【0085】
耐久試験に用いたローラ軸は、以下のようにして製造した。鋼材を旋削加工及び研削加工して所定の寸法とし、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理(50〜500℃で2時間保持する)を施した後、仕上げ加工を施し、さらに不動態被膜処理を施して酸化被膜を設けた。このようにして製造した24種(実施例21〜35,比較例21〜29)のローラ軸について、その素材(鋼種),不動態被膜処理の方法,及び各種物性等を表6にまとめて示す。
【0086】
【表6】
【0087】
表6に記載の「炭化物の平均粒径」は、転走面から2%Da内方までの部分からなる表層部分のうちの任意の部分について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定した。観察の倍率は5000倍とし、40視野について観察した。そして、画像解析により、円相当径で0.2μm以上のものを抽出し、平均粒径を計算した。なお、本発明においては、円相当径とは、画像解析等によって求めた炭化物の断面積Sから、D=√(4S/π)なる式によって求めた直径Dを意味するものである。
【0088】
また、表6に記載の「2%Da深さ部分の硬さHv」は、転走面から2%Daだけ内方の部分のビッカース硬さHvである。
さらに、「不動態被膜処理の方法」の「▲1▼の方法」は、「課題を解決するための手段」の項において詳述した「クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の形成方法」である。すなわち、有機溶剤又はアルカリ洗浄液等を用いて表面に付着している切削液,研削液,防錆油等を除去し、電解エッチングで加工変質層の除去を行った後に、クロム酸と硫酸又は硝酸とを含有する処理液に所定時間浸漬することにより酸化被膜を形成し、さらに酸化被膜の耐食性をさらに向上させるための電解処理を行うという方法である。そして、「▲2▼の方法」は、「▲1▼の方法」において加工変質層の除去を行わない方法である。
【0089】
さらに、表6に記載の「Cr原子の存在率」及び「O原子の存在率」は、不動態被膜処理により形成された酸化被膜の表面における前記両原子の存在率(原子%)を、X線光電子分光分析装置(ESCA)を用いて測定したものである。酸化被膜の表面を1nm/minの速度で深さ方向にエッチングして元素分析を行い、表面から0.5〜1nm内方の位置に存在するクロム原子及び酸素原子のみを存在率の算出に使用した。最表面に存在するクロム原子及び酸素原子を存在率の算出に使用しないのは、コンタミネーションの影響が大きいからである。
【0090】
さらに、表6に記載の「酸化被膜の厚さ」は、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さを、上記のようなESCAを用いた深さ方向の元素分析により測定したものである。
次に、ローラ軸の耐久試験の方法について説明する。図5の試験装置(装置の構成は前述と同様であるので、その説明は省略する)にローラ軸を取り付け、ラジアル荷重1500Nを負荷し、硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすを混入した120℃のエンジンオイル(pHは2〜4)を跳ねかけることにより供給しながら、主軸を回転速度9000min−1で100時間回転させた。
【0091】
試験終了後に、ローラ軸の最大荷重負荷位置における摩耗深さを表面形状測定機により測定し、転走面の摩耗面積を求めた。剥離が生じていた場合は、剥離部以外の部分における最大摩耗面積を求めた。また、ローラ軸の表面を金属顕微鏡で観察し(目視検査)、剥離等の損傷の有無を確認した。
【0092】
試験結果を表6に併せて示す。耐久試験は1種のローラ軸について3個ずつ行い、摩耗面積については3個の平均値を算出して表6に示した。また、目視検査の結果については、3個のローラ軸全てにおいて表面に剥離等の損傷が認められなかったものは○、1個でも剥離が認められたものは×で示している。なお、表6中の摩耗面積の数値は、SUJ2を用いた比較例29の摩耗面積を1とした場合の相対値で示してある。
【0093】
また、表6に示した結果をグラフ化したものを図6,7に示す。図6のグラフは、ローラ軸の表面におけるクロム原子の存在率と摩耗面積との相関を示すものであり、図7のグラフは、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さと摩耗面積との相関を示すものである。
【0094】
以下に、耐久試験の結果について、表6及び図6,7を参照しながら考察する。まず、比較例29は従来の鋼材であるSUJ2で構成されており、しかも酸化被膜を有していないので、荷重負荷部分において激しい摩耗が発生し、剥離も生じた。一方、実施例21〜35は、従来の鋼材で構成されている比較例29と比べて摩耗面積が格段に小さく、しかも剥離等の損傷も生じなかった。したがって、硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすが混入するような厳しい潤滑条件下においても、優れた耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を有していると言える。
【0095】
図6のグラフから、表面におけるクロム原子の存在率が20%以上であると摩耗面積が小さく、耐摩耗性が優れていることが分かる。また、図7のグラフから、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さが10Å以上であると摩耗面積が小さく、膜厚が大きいほど耐摩耗性が優れていることが分かる。これらのことは、表面の不動態が強固であるほど腐食摩耗を抑制する効果が優れていることを示している。
【0096】
比較例21は、鋼材の炭素の含有量が1.2質量%超過で、炭化物の平均粒径が3.0μmを超えているため、粗大な炭化物が多いことにより早期に剥離に至ったものと考えられる。また、比較例22,23は、鋼材のクロムの含有量が8.0質量%未満で不動態被膜が形成され難いため、各実施例と比べると腐食摩耗を抑制する効果が低かった。
【0097】
さらに、比較例24,25は、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5質量%未満で、2%Da深さ部分の硬さHvが650未満であるため、転がり疲れ寿命が不十分であった(剥離等の損傷が生じた)。さらに、比較例26〜28は、不動態被膜処理を行う際に加工変質層の除去を行わなかったことが原因で不動態被膜が形成されにくかったため、各実施例と比べると腐食摩耗を抑制する効果が低かった。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のシャフトは高温下において高速回転で使用しても長寿命であり、本発明のプラネタリギヤ装置は高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価である。
また、本発明のカムフォロアは、内燃機関等において硫酸イオン,硝酸イオン,又はすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るプラネタリギヤ装置の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】ピニオンシャフトの耐久試験の方法を説明する断面図である。
【図3】第二実施形態のカムフォロアの構成を示す正面図である。
【図4】図3のカムフォロアのA−A線断面図である。
【図5】ローラ軸の耐久試験の方法を説明する断面図である。
【図6】ローラ軸の表面におけるクロム原子の存在率と摩耗面積との相関を示すグラフである。
【図7】クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さと摩耗面積との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 サンギヤ
2 リングギヤ
3 ピニオンギヤ
4 キャリヤ
5,10 ピニオンシャフト
30 カムフォロア
35 ローラ軸支持部材
50 ローラ軸
50a,51a 軌道面
51 ローラ
52 針状ころ
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温下において高速回転で使用しても長寿命なシャフト、及び高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価なプラネタリギヤ装置に係り、特に、自動車,工作機械等の減速機や変速機に好適なシャフト及びプラネタリギヤ装置に関する。
また、本発明は長寿命なカムフォロアに係り、特に、内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン等の各種エンジン)の動弁機構などに使用されるカムフォロアに関する。
【0002】
【従来の技術】
まず、シャフト及びプラネタリギヤ装置について説明する。
例えば自動車の自動変速機に用いられるプラネタリギヤ装置は、サンギヤ,リングギヤ,及びキャリヤを備えており、これらの回転要素は出力軸の周りに同心に配されている。また、サンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤが、キャリヤに固定されたピニオンシャフトに、軸受用ころを介して回転自在に支持されている。そして、各回転の遠心力によって各回転要素に潤滑油が供給されるように、油路が備えられている。
【0003】
しかしながら、プラネタリギヤ装置の構造は、ピニオンギヤが自転しながら公転するという複雑なものであるので、十分な潤滑油をピニオンシャフト及び軸受用ころに供給することは困難であった。また、各回転要素の中ではピニオンギヤの回転速度が最も高いので、ピニオンギヤを支持するピニオンシャフトには、ピニオンギヤに作用する遠心力を支えるために大きな荷重が負荷される傾向があった。
【0004】
したがって、従来のプラネタリギヤ装置においては、ピニオンシャフトはJIS鋼種SK5等で構成され、焼入れを施すことにより転動部材として必要な硬さ(Hv650以上)が付与されていた。そして、焼入れ法として高周波焼入れ法を採用することにより、軸受用ころが転走する部分(転走面)のみに高周波焼入れが施され、高周波焼入れが施されていない端部をかしめることによってピニオンシャフトがキャリアに固定されていた。
【0005】
次に、カムフォロアについて説明する。
近年、エンジンのクランクシャフトとともに回転するカムシャフトに固定されたカムの動きをバルブに伝達する動弁機構において、駆動時の摩擦を滑り摩擦から転がり摩擦に変換することによって、摩擦部分の摩擦損失を低く抑えるために、カムフォロアが広く用いられている。
【0006】
このカムフォロアは、実開昭60−88016号公報に開示されているように、カムのカム面に接するローラの挿入空間を挟んで対向する一対の支持壁を有するローラ保持部がカムフォロア本体に一体に形成され、前記各支持壁を貫通するローラ軸孔内には、全長にわたって等径に形成されたローラ軸の両端部外周がそれぞれ嵌合され、このローラ軸の中央部に前記ローラがニードルを介して回転自在に支持されている。
【0007】
また、特開昭62−7908号公報には、ローラ軸をカムフォロア本体に簡便且つ容易に固定するため、ローラ軸の転走面となる中央部のみに高周波焼入れを施して硬化させ、両端部は未硬化として、各支持壁の軸孔に挿入したローラ軸の端部をかしめることによりローラ軸の端部を拡径して、ローラ軸を軸孔にかしめ固定する方法が開示されていて、従来から用いられている。
【0008】
さらに、カムフォロアに使用されるローラやローラ軸のように、使用時に相手部材と転がり接触又は滑り接触する摺動部品において、表面の耐久性を向上させるための表面性状の改良に関する各種発明が従来から行われている。
例えば、特公平1−30008号公報には、表面性状を変えることにより耐久性を向上させる技術として、転動面の表面にRmaxが0.3〜1.5μmでランダム方向の擦傷を形成するとともに、表層部に0.05MPa以上の残留応力層を形成した軸受転動体に関する発明が記載されている。
【0009】
また、特開平3−117723号公報,特開平3−117724号公報,及び特開平3−117725号公報には、バレル加工により表面に多数の凹部をランダムに形成することにより、表層部の硬さを内部の硬さに比べて高くするとともに、表層部に圧縮残留応力を生じさせる技術が記載されている。
さらに、特開平3−199716号公報には、相手部材と接触する表面に表面硬化処理層を設けるとともに、圧縮残留応力のピーク値の深さとせん断応力分布のピーク値の深さとを一致させた軸受が記載されている。
【0010】
さらに、特開平4−54312号公報には、ショットピーニング加工により圧縮残留応力を表面部分で0.1MPa以上とし、表面下300μmの部分で0.04MPa以上とした軸受部品が記載されている。
さらに、特開平5−288257号公報には、表面からの深さが0〜50μmの範囲を表層部とした場合に、この表層部の最大圧縮残留応力が0.05〜0.11MPaであり、同じく表層部の硬さがHv830〜960であり、表面粗さの平均波長が25μm以下であり、且つ表層部の残留オーステナイトの割合が7体積%を超えるものとした転がり摺動部品が記載されている。
【0011】
また、この他にも特開平10−110720号公報等には、軸体の焼戻し温度よりも低い温度で、軸体の外周面をイオン窒化法又は物理蒸着法により処理する技術が記載されている。ただし、この方法は、非常に高コストである。
【0012】
【特許文献1】
実開昭60−88016号公報
【特許文献2】
特開昭62−7908号公報
【特許文献3】
特公平1−30008号公報
【特許文献4】
特開平3−117723号公報
【特許文献5】
特開平3−117724号公報
【特許文献6】
特開平3−117725号公報
【特許文献7】
特開平3−199716号公報
【特許文献8】
特開平4−54312号公報
【特許文献9】
特開平5−288257号公報
【特許文献10】
特開平10−110720号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
近年、自動車の低燃費化の要求がますます強まっており、低燃費化を目的としてトランスミッションの小型化や高効率化が行われている。そのため、ピニオンギヤの回転速度が高まっているので、ピニオンシャフトに負荷される荷重が増大し、温度が上昇し、さらに潤滑油量が減少する傾向となっている。
【0014】
その結果、前述のような従来のピニオンシャフトでは、潤滑不良等による剥離寿命が問題となる場合があった。このような場合には、ピニオンシャフトをJIS鋼種SUJ2で構成し、浸炭窒化処理等を施して寿命を確保していたが、そうすると、ピニオンシャフトをかしめによってキャリアに固定することができないので、キャリヤにねじ穴を加工してピニオンシャフトをねじで固定する必要があることから、プラネタリギヤ装置のコストが高くなるという問題点があった。
【0015】
また、前述した荷重の増大及び温度の上昇のために、変形,滑りの増大による早期剥離,焼付きがピニオンシャフトに生じて、寿命が不十分となるという問題もあった。
そこで、本発明は、上記のような従来のピニオンシャフト及びプラネタリギヤ装置が有する問題点を解決し、高温下において高速回転で使用しても長寿命なシャフト、及び高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価なプラネタリギヤ装置を提供することを第一の課題とする。
【0016】
一方、ディーゼルエンジンに組み込まれるカムフォロアの場合は、燃料の燃焼に伴って生成する硫酸イオンや硝酸イオンが、カムフォロアに供給される潤滑油中に混入している。この硫酸イオンは、軽油やディーゼルエンジンオイルに含まれる硫黄から生成するものであり、硝酸イオンは、燃料の燃焼時に生成する窒素酸化物(NOx)に起因するものである。このような硫酸イオン及び硝酸イオンは金属に腐食摩耗を生じさせるので、カムフォロアの転がり面や摺動面を損傷するという問題が生じるおそれがある。
【0017】
近年においては、燃焼時の温度を低くしてNOxの生成を抑制するために、排出ガスの一部を燃焼室に循環させる「排ガス再燃焼(EGR;Exhaust Gas Recirculation)」の導入が進められている。しかし、排出ガス中の硫黄酸化物が再度エンジン内部に吸入されるため、潤滑油に混入する硫酸イオン等が増加する傾向があり、前記腐食摩耗がより促進されるおそれがあった。
【0018】
また、供給される潤滑油中には、軽油の燃焼に伴って発生する「すす」や、その他の不溶解成分も混入している。すすその他の不溶解成分は、潤滑油を劣化させて潤滑不良を引き起こすおそれがあるので、転がり面や摺動面を損傷する原因となる。
【0019】
さらに、すすその他の不溶解成分が転がり面又は摺動面に介在した場合は、研磨材のような働きをする可能性があり、特に、相手面との接触面圧が高いローラ軸に異常摩耗が発生するおそれがある。このようにして、カムフォロアのローラ軸に発生した摩耗が進行すると、ローラ軸の外周面の一部でありカムフォロアを支持するニードルの転動面との接触面に段付摩耗が発生する。そして、ローラ軸の外周面に依存する軌道の幅方向端部でニードルの転動面の端部と接触する部分に応力集中に基づくフレーキングが発生し、カムフォロアの回転支持部分の耐久性が損なわれる。
【0020】
さらに、近年においては、自動車の排出ガスに含まれる二酸化炭素量に対する規制がますます厳しくなっており、燃焼温度が低くされ二酸化炭素量の発生が抑制されているため、すすの発生量が多くなる傾向にある。
このような潤滑油中に混入した硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすその他の不溶解成分による耐久性の劣化に対しては、前述した従来技術では必ずしも十分な耐久性向上効果が得られない。例えば、潤滑性を良好とするために表面の粗さや微細な形状に工夫を施しても、腐食摩耗を抑制する効果は乏しく、しかも潤滑油中のすすを接触面内に引き込むことになるため、かえって摩耗が大きくなるおそれがある。
【0021】
また、ショットピーニングによってローラ軸表面の圧縮残留応力を高くしたり硬さを高くしたりすると、ローラ軸の端部をかしめることが困難となるため、適用することが難しい。また、かしめを容易にするためにショットピーニング後に端部に高周波焼鈍しを施すことも考えられるが、熱の影響によってショットピーニングの効果が失われるおそれがあり、また、工程が増加するためコストが高くなるとともに生産性が低下する。
【0022】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、内燃機関等において硫酸イオン,硝酸イオン,又はすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても長寿命で且つ安価なカムフォロアを提供することを第二の課題とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
前記第一の課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のシャフトは、プラネタリギヤ装置において使用され、同心に配されたサンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤを回転自在に支持するシャフトであって、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る請求項2のプラネタリギヤ装置は、サンギヤと、該サンギヤと同心に配されたリングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛み合う1個以上のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤに対応するピニオンシャフトを有し、前記サンギヤ及び前記リングギヤと同心に配されたキャリヤと、前記ピニオンギヤの内周面と前記ピニオンシャフトの外周面との間に転動自在に配設された複数のころと、を備えていて、前記ピニオンギヤが前記ピニオンシャフトを軸として回転自在とされているプラネタリギヤ装置において、前記ピニオンシャフトを請求項1に記載のシャフトとし、このシャフトを前記キャリヤにかしめによって固定したことを特徴とする。
【0025】
さらに、本発明に係る請求項3のシャフトは、内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備えるカムフォロアにおいて前記ローラ軸として使用され、前記針状ころを介して前記ローラを回転自在に支持するシャフトであって、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0026】
焼入れには高周波焼入れを採用し、ピニオンシャフトの外周面のうちの前記ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れを施す必要がある。そうすると、ピニオンシャフトの端部には高周波焼入れが施されず硬化されていないから、端部をかしめてキャリヤに固定することができる。よって、プラネタリギヤ装置を安価に製造することができる。
【0027】
また、同様に、カムフォロアのローラ軸として使用されるシャフトの外周面のうちの前記針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れを施すと、硬化されていない端部をかしめることによりシャフトを固定することができるから、カムフォロアを安価に製造することができる。
【0028】
使用条件の高温化,高速化に伴う滑りの発生や潤滑不良による早期剥離を防止するためには、クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼でシャフトを構成することが効果的であることが分かった。これは、クロムが鋼の組織の安定性を向上させ高温での変形を防止するのに有効に働き、さらに安定な酸化膜を形成するため潤滑不良による摩耗等の表面損傷を低減するのに有効に働くためであると推測される。ただし、18質量%を超えてクロムを含有させても上記添加効果は飽和し、さらに、コストの上昇を招くばかりか粗大な炭化物を形成しやすくなる。よって、クロムの含有量は8〜18質量%とする必要がある。
【0029】
このような鋼においては、転動疲労寿命を確保するために必要な硬さを得るためには、焼入れ時のマルテンサイト変態に必要な侵入型元素である炭素及び/又は窒素を合計で0.5質量%以上含有させる必要がある。高周波焼入れを行う場合に粒径20μmを超える粗大な炭化物が存在すると、オーバーヒートと呼ばれる現象が発生して局部的な硬さの低下が生じ寿命が低下するおそれがあるため、炭素及び窒素の合計の含有量は1.2質量%を上限とする必要がある。ただし、粗大な共晶炭化物の析出を防止するためには、炭素及び窒素の合計の含有量は0.7質量%を上限とすることがより好ましい。
【0030】
また、炭化物の粒径は、熱処理生産性の点から平均値で3μm以下とすることが好ましく、オーバーヒートを防止して安定的に生産するためには1.5μm以下とすることがより好ましい。
さらに、窒素は粗大な炭化物の析出を防止するのに有効な元素であり、積極的に添加することが好ましいが、0.2質量%を超えると製鋼時にブローホールと呼ばれる欠陥の発生を防止するための加圧が必要となり、コストが非常に高くなる。よって、窒素の含有量は0.2質量%以下とすることが好ましい。上記のような問題がより生じにくくするためには、窒素の含有量は0.1〜0.15質量%とすることがより好ましい。したがって、炭素の好ましい含有量の下限値は0.35質量%となる。
【0031】
さらに、シャフトを構成する合金鋼には、他の合金元素を含有させてもよい。例えば、ケイ素は製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼戻し軟化抵抗性を向上させて高温における寿命を向上させる効果があるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、多量に含有させても寿命向上効果が飽和するばかりでなく、鋼の被削性が低下してコストの上昇を招くため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、マンガンは製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼入れ性の向上に有効であるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、あまり多量に含有させると非金属介在物が多くなってかえって寿命が低下するおそれがあり、また、鋼の鍛造性,被削性等の機械加工性が低下するため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
さらに、耐摩耗性の向上に有効なモリブデン,バナジウム,タングステンはコストが許す限り添加することができる。その他、リン,イオウ,ニッケル,銅,チタン,酸素等の不可避の不純物元素を含有する場合があるが、転動疲労寿命に有害な酸化物系の非金属介在物を低減するためには、酸素の含有量は15ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
さらに、本発明に係る請求項4のシャフトは、請求項3に記載のシャフトにおいて、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、表面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする。
クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜とビッカース硬さとについては、後述するカムフォロアのローラ軸の場合と全く同様であるので、ここでの説明は省略して後に詳述する。
【0035】
さらに、前記第二の課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項5のカムフォロアは、内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備え、前記ローラが前記針状ころを介して前記ローラ軸により回転自在に支持されてなるカムフォロアにおいて、前記ローラ軸は、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、少なくとも前記軌道面に高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とする。
【0036】
このような構成であれば、耐摩耗性や耐食性が優れているので、内燃機関等においてすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても、転がり面や摺動面に摩耗による損傷が生じにくく長寿命である。
また、本発明に係る請求項6のカムフォロアは、請求項5に記載のカムフォロアにおいて、前記ローラ軸は、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、前記軌道面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする。
【0037】
このような構成であれば、酸化被膜によって耐摩耗性や耐食性がより優れているので、内燃機関等において硫酸イオンや硝酸イオンが混入するような環境下で使用されても、転がり面や摺動面に腐食摩耗による損傷が生じにくく長寿命である。
さらに、本発明に係る請求項7のカムフォロアは、請求項5又は請求項6に記載のカムフォロアにおいて、前記軌道面のみに高周波焼入れ処理が施されていて、前記ローラ軸はその両端部をかしめることによりローラ軸支持部材に固定されていることを特徴とする。
【0038】
このような構成のカムフォロアは、製造コストが安価である。
以下に、本発明のカムフォロアについて、特に前述の各臨界値について詳細に説明する。
〔合金鋼におけるクロムの含有量について〕
本発明者らが鋭意検討した結果、クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼でローラ軸を構成すれば、すす等の不溶解成分が混入してもローラ軸の摩耗が抑制され、カムフォロアが長寿命となることが分かった。これは、クロムがマトリックスに固溶して高温強度を向上させる他、多量に添加することによって生成する炭化物が硬くて粒成長の遅いM7C3型又はM23C6型に変わり、耐摩耗性が向上するためであると考えられる。また、クロムは組織の安定性を向上させるために有効な元素であり、転動疲労寿命を向上させる。
【0039】
さらに、ローラ軸の表面に不動態被膜処理を施せば、硫酸イオンや硝酸イオンが混入してもローラ軸の腐食摩耗が抑制され、カムフォロアが長寿命となることが分かった。
クロムの含有量が8質量%未満である合金鋼に不動態被膜処理を施しても、十分な耐食性と寿命を有するカムフォロアとするに必要な不動態被膜が形成されない。クロムの含有量が8質量%以上である合金鋼であれば、表面に安定且つ強固な不動態被膜が形成されるので、硫酸イオンや硝酸イオンによる腐食摩耗が抑制され、しかも相手材との金属接触による凝着力が弱まり耐摩耗性が向上する。
ただし、18質量%を超えてクロムを含有させても上記添加効果は飽和し、さらに、コストの上昇を招くばかりか粗大な炭化物を形成しやすくなる。よって、クロムの含有量は8〜18質量%とする必要がある。
【0040】
〔合金鋼における炭素及び窒素の合計の含有量について〕
前述のような鋼においては、転動疲労寿命を確保するために必要な表面硬さを得るためには、焼入れ時のマルテンサイト変態に必要な侵入型元素である炭素及び/又は窒素を合計で0.5質量%以上含有させる必要がある。粗大な共晶炭化物が鋼中に存在すると転動疲労寿命が低下するおそれがあり、また、高周波焼入れを行う場合に粒径20μmを超える粗大な炭化物が焼入れ硬化層部分に存在すると、オーバーヒートと呼ばれる現象が発生して局部的な硬さの低下が生じ転動疲労寿命が低下するおそれがある。よって、炭素及び窒素の合計の含有量は1.2質量%を上限とする必要がある。ただし、粗大な共晶炭化物の析出を防止するためには、炭素及び窒素の合計の含有量は0.7質量%を上限とすることがより好ましい。
【0041】
また、窒素は粗大な炭化物の析出を防止するのに有効な元素であり、積極的に添加することが好ましいが、0.2質量%を超えると製鋼時にブローホールと呼ばれる欠陥の発生を防止するための加圧が必要となり、コストが非常に高くなる。よって、窒素の含有量は0.2質量%以下とすることが好ましい。上記のような問題がより生じにくくするためには、窒素の含有量は0.15質量%以下とすることがより好ましい。したがって、炭素の好ましい含有量の下限値は0.35質量%となる。
【0042】
〔合金鋼に含まれる他の元素について〕
ローラ軸を構成する合金鋼には、前述の元素以外の他の合金元素を含有させてもよい。例えば、ケイ素は製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、さらに、焼戻し軟化抵抗性を向上させて高温における寿命を向上させる効果があるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、多量に含有させても寿命向上効果が飽和するばかりでなく、鋼の被削性が低下してコストの上昇を招くため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
また、マンガンは製鋼時の脱酸剤及び脱硫剤として必要な元素であり、さらに、焼入れ性の向上に有効であるので、0.15質量%以上含有させることが好ましい。ただし、あまり多量に含有させると非金属介在物が多くなってかえって寿命が低下するおそれがあり、また、鋼の鍛造性,被削性等の機械加工性が低下するため、1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
さらに、耐摩耗性の向上に有効なモリブデン,バナジウム,タングステンはコストが許す限り添加することができる。なお、リン,イオウ,ニッケル,銅,アルミニウム,チタン,ニオブ,鉛,カルシウム,ジルコニウム,テルル,アンチモン等の不可避の不純物元素を含有していても差し支えない。ただし、酸素の含有量が多くなると、転動疲労寿命に有害な(疲労破壊の起点となる)粗大な酸化物系介在物が多くなって、寿命が低下する。よって、鋼中の酸素の含有量はできるだけ低く抑えることが好ましく、15ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
〔合金鋼中の炭化物の平均粒径について〕
鋼中に粗大な炭化物が存在すると、そこに応力が集中し、剥離の起点となって転がり寿命が低下する。また、高周波焼入れを行う場合においては、粗大な炭化物はマトリックスへの溶解が十分に行われず、焼入れ硬さの低下を招くおそれがあり、さらに場合によってはオーバーヒートが発生する場合がある。そのため、炭化物の粒径は極力小さくすることが望ましい。鋼の生産上の不安定要因を除きオーバーヒートを防止するためには、炭化物の平均粒径は3μm以下とすることが好ましく、1.5μm以下とすることがより好ましい。
【0046】
〔高周波焼入れ処理について〕
硬化熱処理である焼入れとしては高周波焼入れ処理を採用し、ローラ軸の外周面のうちの針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理を施すことが好ましい。そうすると、ローラ軸の端部には高周波焼入れ処理が施されず硬化されていないから、両端部をかしめてローラ軸支持部材に固定することができる。よって、カムフォロアを安価に製造することができる。
【0047】
〔クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜について〕
使用により劣化したディーゼルエンジンオイルは、燃料やエンジンオイルの燃焼により生成した硫酸イオンや硝酸イオンを含有するため、腐食作用を有する。そのため、少なくともローラ軸は耐食性に優れた材料で形成し、不動態処理等により酸化被膜を形成しておくことが必要である。
【0048】
クロムを添加した合金鋼の表面に酸化被膜を形成した場合には、該酸化被膜は鉄の酸化物やCr2O3等の酸化物が主体となって形成される。このクロム酸化物は鉄の酸化物と比較して耐食性に優れるため、合金鋼の表面はクロム酸化物を主体として形成されている必要がある。
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に形成したローラ軸を用いれば、耐食性に優れ、より長寿命なディーゼルエンジン用カムフォロアを得ることができることを見出した。
【0049】
クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さは、劣化したエンジンオイルに含まれるすす等の不溶解成分による摩耗を考慮して、極力厚い方が好ましい。好ましくは10Å以上であり、より好ましくは50Å以上である。ただし、膜厚が5000Åを超えると耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、コストアップにもつながるため、膜厚は5000Å以下であることが好ましい。
【0050】
また、一般に鉄鋼材料からなる素材を加工すると、加工面には加工変質層が生じる。この加工変質層を除去しないで、不動態被膜処理等により酸化被膜を形成すると、不動態被膜の回復効果が不十分となって、腐食環境下で局部的な腐食が生じてしまう場合がある。そのため、不動態被膜処理を行う前には、加工変質層の除去を行うことが好ましい。加工変質層の除去と酸化被膜の形成とは、例えば以下の方法により行われる。
【0051】
まず、表面に付着している切削液,研削液,防錆油等の除去を、有機溶剤又はアルカリ洗浄液等を用いて行う。
次に、電解エッチングで加工変質層の除去を行う。電解エッチングの方法としては、例えば、被加工物を陽極とし、硫酸,リン酸,硝酸,及びこれらの酸のナトリウム塩又はカリウム塩のうちの少なくとも1種を含有する水溶液を電解液として用い、周波数20〜100kHzの超音波中にて行う方法が好ましい。なお、電解エッチングに使用する電解液の好ましい濃度は以下の通りである。
【0052】
硫酸の場合 :50g/リットル以上150g/リットル以下
リン酸の場合:50g/リットル以上150g/リットル以下
硝酸の場合 :50g/リットル以上500g/リットル以下
ナトリウム塩及びカリウム塩の場合:60g/リットル以上800g/リットル以下
また、電解エッチングの好ましい条件は以下に示す通りである。
【0053】
電圧 :2V以上50V以下
電流 :0.1A/dm2以上50A/dm2以下
電解時間:10秒以上120秒以下
電解エッチングで加工変質層を除去した後に、酸化被膜を形成する。酸化被膜は、クロム酸と、硫酸又は硝酸とを含有する処理液に所定時間浸漬することにより形成される。酸化被膜形成に使用する処理液の好ましい濃度は、以下に示す通りである。
【0054】
クロム酸 :15g/リットル以上300g/リットル以下
硫酸の場合:30g/リットル以上850g/リットル以下
硝酸の場合:40g/リットル以上850g/リットル以下
また、この処理液の温度と浸漬時間により、酸化被膜の厚さを調整することができる。好ましい処理条件は以下に示す通りである。
【0055】
浸漬時間:10分以上120分以下
処理温度:室温以上120℃以下
酸化被膜形成後には、この酸化被膜の耐食性をさらに向上させるための電解処理を行うとよい。電解処理は、被加工物を陰極とし、電解液としてクロム酸とリン酸及び/又は硫酸とにマグネシウム,カルシウム,及びバリウムの炭酸塩又は硫酸塩から選択された少なくとも1種を過飽和量で添加し、界面活性剤を添加した水溶液を使用して行うことが好ましい。好ましい電解液濃度及び処理条件を以下に示す。
【0056】
クロム酸 :50g/リットル以上150g/リットル以下
リン酸の場合:0.1g/リットル以上10g/リットル以下
硫酸の場合 :0.1g/リットル以上100g/リットル以下
電圧 ;0.1V以上20V以下
電流 :0.5A/dm2以上2A/dm2以下
電解時間 :10分以上300分以下
以上のような電解処理を行えば、電解処理時に陰極である被加工物に極めて強い水素雰囲気が形成される。これにより、この電解処理が行われた被加工物は、電解処理を行わなかった被加工物の表面と比較して、より耐食性に優れたものとなる。
【0057】
〔ビッカース硬さについて〕
ローラ軸に十分な転動疲労寿命を付与するためには、表面のうち少なくとも軌道面においては、表面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることが好ましく、700以上であることがより好ましい。なお、これ以降は、針状ころの直径の2%に相当する長さを「2%Da」と称す。
【0058】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す各実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は下記の各実施形態に限定されるものではない。
〔第一実施形態〕
図1に示すプラネタリギヤ装置は、本発明の請求項1のシャフト及び請求項2のプラネタリギヤ装置の実施形態であって、図示しない軸が挿通されたサンギヤ1と、該サンギヤ1と同心に配されたリングギヤ2と、サンギヤ1及びリングギヤ2に噛み合う複数(図1においては3個)のピニオンギヤ3と、サンギヤ1及びリングギヤ2と同心に配されピニオンギヤ3を回転自在に支持するキャリヤ4と、を備えている。
【0059】
ピニオンギヤ3は、キャリヤ4に固定されたピニオンシャフト5を介してキャリヤ4に支持されており、ピニオンシャフト5の外周面とピニオンギヤ3の内周面との間に配設された図示されない複数の針状ころによって、ピニオンシャフト5を軸として回転自在とされている。
【0060】
ピニオンシャフト5は、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されている。そして、ピニオンシャフト5の外周面のうち針状ころの転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施され、その後に焼戻し処理が施されている。ピニオンシャフト5の端部には高周波焼入れ処理が施されておらず、硬化されていないので、ピニオンシャフト5は、その端部をかしめることによってキャリヤ4に固定されている。よって、このプラネタリギヤ装置は安価に製造することができる。
【0061】
次に、表1に示すような組成を有する種々の鋼で構成されたピニオンシャフト(外径8mm、長さ24mm)を用意して、耐久試験を行った。なお、鋼種1−Iは、JIS鋼種SK5である。
【0062】
【表1】
【0063】
ピニオンシャフトの製造方法は以下の通りである。鋼材を所定の寸法に旋削加工し、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理を施した後に、さらに仕上げ研削を行った。
次に、耐久試験の方法について、図2を参照しながら説明する。
【0064】
外輪11にピニオンシャフト10が挿通されており、両者10,11の間に転動自在に介装された複数のニードルローラー12(外径2mm、長さ15mm)によって、ピニオンシャフト10が回転可能となっている。このピニオンシャフト10には図示のように潤滑油の給油孔10aが設けてあり、端面の開口部10bに注入された潤滑油が円筒面に開口する給油孔10aから転走面に給油されるようになっている。
【0065】
ラジアル荷重4200N、回転速度10000min−1、潤滑油の温度150℃の条件でピニオンシャフト10を回転させ、剥離が生じるまでの時間を寿命として評価した。なお、ラジアル荷重は、図示しないサポート軸受を介して外輪11に負荷した。
耐久試験の結果を表2に示す。なお、表2中の寿命の数値は、SK5を用いた比較例4のL10寿命を1とした場合の相対値で示してある。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から分かるように、実施例1〜5のピニオンシャフトは、比較例4と比べて3倍以上の優れた寿命を有していた。それに対して、比較例1はクロムの含有量が低いため、寿命の向上効果が十分に得られていない。また、比較例2はクロムの含有量は十分であるが、炭素及び窒素の合計の含有量が低いため、十分な硬さが得られず寿命の向上効果が不十分であった。さらに、比較例3は炭素及び窒素の合計の含有量が高すぎるため、オーバーヒートによる局部的な硬さの低下や、粗大な共晶炭化物の存在により、寿命の向上効果が十分に得られていない。
【0068】
〔第二実施形態〕
次に、本発明のカムフォロアの一実施形態である内燃機関(ディーゼルエンジン等の各種エンジン)の動弁機構などに使用されるカムフォロアについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図3は4サイクル内燃機関の動弁装置に使用されるカムフォロアの正面図であり、図4は図3のカムフォロアのA−A線断面図である
カムフォロア30の本体としてのロッカーアーム31は、その長手方向中間部に軸孔32が形成されており、軸孔32に貫通されたロッカー軸33によって内燃機関の本体(図示せず)に回転自在に支持されている。
【0069】
ロッカーアーム31の基部にはアジャストボルト41がねじ込まれており、そのねじ込み位置はロックナット42によって固定されている。このアジャストボルト41の下端には、内燃機関の本体に上下摺動可能に支持された機関弁43としての吸気弁又は排気弁の上端が当接されている。その機関弁43は、弁バネ44によって常に閉弁方向に(アジャストボルト41との当接箇所に向けて)付勢されている。
【0070】
ロッカーアーム31の先端部にはローラ51がローラ軸50を介して回転自在に取り付けられており、ローラ51の外周面は弁バネ44の付勢力によってカム46に圧接されている。カム46は、図示しないクランク軸に連動して回転するカム軸47に一体に形成されていて、内燃機関の本体に回転自在に支持されている。そして、カム46が回転することによって、ローラ51を介してカム46に当接するロッカーアーム31がロッカー軸33を軸として揺動し、機関弁43の開閉動作を行うようになっている。なお、本実施形態のおいては、上記のようなロッカーアーム31の先端部にローラ51が取り付けられている構造のカムフォロアを例示して説明したが、本発明は、この構造に限らず他のいかなる構造のカムフォロア(例えば、バルブリフター等の構造を有するカムフォロア)にも適用可能である。
【0071】
次に、図4を参照しながら、ローラ51及びローラ軸50の取付構造を説明する。ロッカーアーム31の一部であるローラ軸支持部材35は断面略コ字状をなしており、平行に伸びて対向する2つの支持壁35a,35aを有している。両支持壁35a,35aには軸孔36,36が設けられており、ローラ軸50の両端面50b,50bが両支持壁35a,35aの両外面35b,35bと概ね同一面となるように、ローラ軸50の両端部が各軸孔36,36にはめ込まれている。
【0072】
このローラ軸50は、外周面のうち軌道面50aとなる部分、すなわち後述する針状ころ52と接触する部分のみに高周波焼入れ処理が施され硬化されていて、針状ころ52の直径の2%以上の深さまでHv650以上の硬さとされている(両端部は硬化されていない)。
【0073】
このようなローラ軸50の両端面50b,50bを軸孔36,36にはめ込まれた状態で強く叩くと両端部が拡径し、ローラ軸50は軸孔36,36に強固にかしめ固定される。なお、ローラ軸50は軽量化のため又はかしめ加工を容易にするために、中心部を肉抜き状としてもよいし中空軸としてもよい。また、かしめ以外の方法でローラ軸50を容易に固定できる場合は、ローラ軸50の全体に高周波焼入れを施してもよい。また、十分な硬度を得るために、必要に応じて焼入れ処理の後にサブゼロ処理(深冷処理)を施してもよい。
【0074】
次に、このローラ軸50に、目的の寸法となるまで研削等の仕上げ加工を施す。仕上げ加工が完了したローラ軸50には、耐食性向上のため、前述したような方法により不動態化処理を施して、酸化被膜を形成してもよい。
ローラ軸50はローラ51に挿通された状態でローラ軸支持部材35に固定されており、ローラ軸50の外周面に備えられた軌道面50aとローラ51の内周面に備えられた軌道面51aとの間に転動自在に配設された複数の針状ころ52によって、ローラ51がローラ軸50に回転自在に支持されている。
【0075】
次に、表3に示すような組成を有する種々の鋼で構成されたローラ軸(外径8mm、長さ19mm)を用意して、耐久試験を行った。なお、鋼種2−Lは、JIS鋼種SUJ2である。
【0076】
【表3】
【0077】
耐久試験に用いたローラ軸は、以下のようにして製造した。鋼材を所定の寸法に旋削加工し、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理(50〜500℃で2時間保持する)を施した後に、さらに仕上げ研削を行った。
次に、耐久試験の方法について、図5を参照しながら説明する。
【0078】
図5に示した試験装置は、図示しないモータにより回転する主軸に取り付けられた駆動ローラの外周面に、支持部材に取り付けられたローラの外周面を押し当てる構造となっている。そのローラは、上記のようにして作製した試験片であるローラ軸によって、針状ころ(外径2.5mm、長さ12mm)を介して支持部材に回転自在に支持されている。このように試験装置は、実際のカムフォロアと概略同様の構造をなしている。そして、支持部材より荷重を加えながら主軸を回転させることにより、駆動ローラの回転に伴ってローラが回転し、そのローラを支持するローラ軸の耐久試験を行うことができるようになっている。
【0079】
耐久試験は、ラジアル荷重3700Nを負荷し、すすを混入した120℃のエンジンオイルを跳ねかけることにより供給しながら、主軸を回転速度8000min−1で200時間回転させて行った。試験終了後に、ローラ軸,針状ころ,及びローラから構成される試験部のラジアル方向の隙間を摩耗量として測定し、さらにローラ軸の目視検査を行った。
【0080】
試験結果を表4に示す。なお、表4中の摩耗量の数値は、SUJ2を用いた比較例14の摩耗量を1とした場合の相対値で示してある。また、目視検査の結果については、ローラ軸の表面に剥離が認められなかったものは○、剥離が認められたものは×で示している。
【0081】
【表4】
【0082】
表4から分かるように、実施例11〜18のローラ軸は、試験時間200時間を経過しても摩耗量は少なく、また、目視検査の結果からも何ら異常は認められなかった。それに対して、比較例11はクロムの含有量が低いため、耐摩耗性が十分ではなく剥離が認められた。また、比較例12はクロムの含有量は十分であるが、炭素及び窒素の合計の含有量が低いため、耐摩耗性が不十分であった。さらに、比較例13は耐摩耗性は良好であったが、目視検査で微小な剥離が認められた。これは、炭素及び窒素の合計の含有量が高すぎるため、オーバーヒートによる局部的な硬さの低下や、粗大な共晶炭化物の存在により、寿命の向上効果が十分に得られていないことが原因であると考えられる。
【0083】
このように、本実施形態のローラ軸は、すす等の不溶解成分が混入した厳しい潤滑条件下においても優れた耐摩耗性及び寿命を有している。
次に、表5に示すような組成を有する種々の鋼で構成され、且つ不動態被膜処理により表面に酸化被膜が形成されたローラ軸(外径8mm、長さ19mm)を用意して、耐久試験を行った。
【0084】
【表5】
【0085】
耐久試験に用いたローラ軸は、以下のようにして製造した。鋼材を旋削加工及び研削加工して所定の寸法とし、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理(周波数30kHz、電圧10kV、電流10A)を施した。そして、焼戻し処理(50〜500℃で2時間保持する)を施した後、仕上げ加工を施し、さらに不動態被膜処理を施して酸化被膜を設けた。このようにして製造した24種(実施例21〜35,比較例21〜29)のローラ軸について、その素材(鋼種),不動態被膜処理の方法,及び各種物性等を表6にまとめて示す。
【0086】
【表6】
【0087】
表6に記載の「炭化物の平均粒径」は、転走面から2%Da内方までの部分からなる表層部分のうちの任意の部分について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定した。観察の倍率は5000倍とし、40視野について観察した。そして、画像解析により、円相当径で0.2μm以上のものを抽出し、平均粒径を計算した。なお、本発明においては、円相当径とは、画像解析等によって求めた炭化物の断面積Sから、D=√(4S/π)なる式によって求めた直径Dを意味するものである。
【0088】
また、表6に記載の「2%Da深さ部分の硬さHv」は、転走面から2%Daだけ内方の部分のビッカース硬さHvである。
さらに、「不動態被膜処理の方法」の「▲1▼の方法」は、「課題を解決するための手段」の項において詳述した「クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の形成方法」である。すなわち、有機溶剤又はアルカリ洗浄液等を用いて表面に付着している切削液,研削液,防錆油等を除去し、電解エッチングで加工変質層の除去を行った後に、クロム酸と硫酸又は硝酸とを含有する処理液に所定時間浸漬することにより酸化被膜を形成し、さらに酸化被膜の耐食性をさらに向上させるための電解処理を行うという方法である。そして、「▲2▼の方法」は、「▲1▼の方法」において加工変質層の除去を行わない方法である。
【0089】
さらに、表6に記載の「Cr原子の存在率」及び「O原子の存在率」は、不動態被膜処理により形成された酸化被膜の表面における前記両原子の存在率(原子%)を、X線光電子分光分析装置(ESCA)を用いて測定したものである。酸化被膜の表面を1nm/minの速度で深さ方向にエッチングして元素分析を行い、表面から0.5〜1nm内方の位置に存在するクロム原子及び酸素原子のみを存在率の算出に使用した。最表面に存在するクロム原子及び酸素原子を存在率の算出に使用しないのは、コンタミネーションの影響が大きいからである。
【0090】
さらに、表6に記載の「酸化被膜の厚さ」は、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さを、上記のようなESCAを用いた深さ方向の元素分析により測定したものである。
次に、ローラ軸の耐久試験の方法について説明する。図5の試験装置(装置の構成は前述と同様であるので、その説明は省略する)にローラ軸を取り付け、ラジアル荷重1500Nを負荷し、硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすを混入した120℃のエンジンオイル(pHは2〜4)を跳ねかけることにより供給しながら、主軸を回転速度9000min−1で100時間回転させた。
【0091】
試験終了後に、ローラ軸の最大荷重負荷位置における摩耗深さを表面形状測定機により測定し、転走面の摩耗面積を求めた。剥離が生じていた場合は、剥離部以外の部分における最大摩耗面積を求めた。また、ローラ軸の表面を金属顕微鏡で観察し(目視検査)、剥離等の損傷の有無を確認した。
【0092】
試験結果を表6に併せて示す。耐久試験は1種のローラ軸について3個ずつ行い、摩耗面積については3個の平均値を算出して表6に示した。また、目視検査の結果については、3個のローラ軸全てにおいて表面に剥離等の損傷が認められなかったものは○、1個でも剥離が認められたものは×で示している。なお、表6中の摩耗面積の数値は、SUJ2を用いた比較例29の摩耗面積を1とした場合の相対値で示してある。
【0093】
また、表6に示した結果をグラフ化したものを図6,7に示す。図6のグラフは、ローラ軸の表面におけるクロム原子の存在率と摩耗面積との相関を示すものであり、図7のグラフは、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さと摩耗面積との相関を示すものである。
【0094】
以下に、耐久試験の結果について、表6及び図6,7を参照しながら考察する。まず、比較例29は従来の鋼材であるSUJ2で構成されており、しかも酸化被膜を有していないので、荷重負荷部分において激しい摩耗が発生し、剥離も生じた。一方、実施例21〜35は、従来の鋼材で構成されている比較例29と比べて摩耗面積が格段に小さく、しかも剥離等の損傷も生じなかった。したがって、硫酸イオン,硝酸イオン,及びすすが混入するような厳しい潤滑条件下においても、優れた耐摩耗性及び転がり疲れ寿命を有していると言える。
【0095】
図6のグラフから、表面におけるクロム原子の存在率が20%以上であると摩耗面積が小さく、耐摩耗性が優れていることが分かる。また、図7のグラフから、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さが10Å以上であると摩耗面積が小さく、膜厚が大きいほど耐摩耗性が優れていることが分かる。これらのことは、表面の不動態が強固であるほど腐食摩耗を抑制する効果が優れていることを示している。
【0096】
比較例21は、鋼材の炭素の含有量が1.2質量%超過で、炭化物の平均粒径が3.0μmを超えているため、粗大な炭化物が多いことにより早期に剥離に至ったものと考えられる。また、比較例22,23は、鋼材のクロムの含有量が8.0質量%未満で不動態被膜が形成され難いため、各実施例と比べると腐食摩耗を抑制する効果が低かった。
【0097】
さらに、比較例24,25は、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5質量%未満で、2%Da深さ部分の硬さHvが650未満であるため、転がり疲れ寿命が不十分であった(剥離等の損傷が生じた)。さらに、比較例26〜28は、不動態被膜処理を行う際に加工変質層の除去を行わなかったことが原因で不動態被膜が形成されにくかったため、各実施例と比べると腐食摩耗を抑制する効果が低かった。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のシャフトは高温下において高速回転で使用しても長寿命であり、本発明のプラネタリギヤ装置は高温下において高速回転で使用しても長寿命で安価である。
また、本発明のカムフォロアは、内燃機関等において硫酸イオン,硝酸イオン,又はすすその他の不溶解成分が混入するような環境下で使用されても長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るプラネタリギヤ装置の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】ピニオンシャフトの耐久試験の方法を説明する断面図である。
【図3】第二実施形態のカムフォロアの構成を示す正面図である。
【図4】図3のカムフォロアのA−A線断面図である。
【図5】ローラ軸の耐久試験の方法を説明する断面図である。
【図6】ローラ軸の表面におけるクロム原子の存在率と摩耗面積との相関を示すグラフである。
【図7】クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜の厚さと摩耗面積との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1 サンギヤ
2 リングギヤ
3 ピニオンギヤ
4 キャリヤ
5,10 ピニオンシャフト
30 カムフォロア
35 ローラ軸支持部材
50 ローラ軸
50a,51a 軌道面
51 ローラ
52 針状ころ
Claims (7)
- プラネタリギヤ装置において使用され、同心に配されたサンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤを回転自在に支持するシャフトであって、
クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とするシャフト。 - サンギヤと、該サンギヤと同心に配されたリングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛み合う1個以上のピニオンギヤと、前記ピニオンギヤに対応するピニオンシャフトを有し、前記サンギヤ及び前記リングギヤと同心に配されたキャリヤと、前記ピニオンギヤの内周面と前記ピニオンシャフトの外周面との間に転動自在に配設された複数のころと、を備えていて、前記ピニオンギヤが前記ピニオンシャフトを軸として回転自在とされているプラネタリギヤ装置において、
前記ピニオンシャフトを請求項1に記載のシャフトとし、このシャフトを前記キャリヤにかしめによって固定したことを特徴とするプラネタリギヤ装置。 - 内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備えるカムフォロアにおいて前記ローラ軸として使用され、前記針状ころを介して前記ローラを回転自在に支持するシャフトであって、
クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、転走面となる部分のみに高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とするシャフト。 - クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、表面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする請求項3に記載のシャフト。
- 内周面に軌道面を有するローラと、外周面に軌道面を有するローラ軸と、前記両軌道面の間に転動自在に配設された複数の針状ころと、を備え、前記ローラが前記針状ころを介して前記ローラ軸により回転自在に支持されてなるカムフォロアにおいて、
前記ローラ軸は、クロムの含有量が8〜18質量%で、炭素及び窒素の合計の含有量が0.5〜1.2質量%である合金鋼で構成されたうえ、少なくとも前記軌道面に高周波焼入れ処理が施されていることを特徴とするカムフォロア。 - 前記ローラ軸は、クロム原子の存在率が20%以上である酸化被膜を表面に有するとともに、前記軌道面から前記針状ころの直径の2%だけ内方の部分のビッカース硬さHvが650以上であることを特徴とする請求項5に記載のカムフォロア。
- 前記軌道面のみに高周波焼入れ処理が施されていて、前記ローラ軸はその両端部をかしめることによりローラ軸支持部材に固定されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のカムフォロア。
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