JP2006144889A - プラネタリギア機構の転がり支持機構 - Google Patents

プラネタリギア機構の転がり支持機構 Download PDF

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Abstract

【課題】 軽量・コンパクト化の要求に対応し、かつ割れ疲労強度および転動疲労寿命を改善したプラネタリギア機構の転がり支持機構を提供する。
【解決手段】 プラネタリギア機構10は、太陽歯車12および内歯歯車15の双方に噛合う遊星歯車13と遊星歯車軸(内方部材)17との間に針状ころ18を有し、上記の遊星歯車軸17は、0.50質量%以上の炭素を含む鋼で構成され、中空の円筒形状を有し、端面においてHV200以上HV300以下の硬さを有し、かつ転動面表面から内径面までの径方向全体に硬化層17aを有している。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車のA/Tミッション(Automatic Transmission)のプラネタリギア機構の転がり支持機構に関し、より具体的には、割れ疲労強度が高く、かつ転動疲労寿命が長い転がり支持機構に関するものである。
近年、環境問題がクローズアップされ、自動車に対しても低燃費化が法的に義務付けられ、強く要求され始めている。これに伴い、A/Tミッションを構成する各部品に対し、軽量・コンパクト化が要求されており、プラネタリギア機構に使用される軸受に対しても軽量・コンパクト化が要求されている。軸受の軽量化の方法としては、内輪の中空円筒化(特許文献1参照)と幅方向のサイズダウンとが主に用いられる。
ここで、軸受の軽量・コンパクト化を実施するうえで、問題となる項目としては、外輪または内輪の割れ疲労強度の低下、ころまたは内輪の転動疲労寿命の低下がある。
米国特許第4,727,832号
上述のように、プラネタリギア機構に使用する転がり軸受に対して軽量・コンパクト化が要求されているが、中空円筒形状の内輪の割れ疲労強度の改善が確立されていない。それゆえ、本発明の目的は、中空円筒形状の内輪を有することで軽量化の要求に対応し、かつ割れ疲労強度および転動疲労寿命を改善したプラネタリギア機構の転がり支持機構を提供することにある。
本発明のプラネタリギア機構の転がり支持機構は、遊星歯車(太陽歯車とその太陽歯車の外周を取り囲む内歯歯車との双方に噛み合う)と、その遊星歯車の内側に位置する内方部材と、遊星歯車と内方部材との間に介在する複数の転動体で構成されている。上記の内方部材は、0.50質量%以上の炭素を含む鋼で構成され、中空の円筒形状を有し、その端面においてHV200以上HV300以下の硬さを有し、かつ転動体が転動する内方部材の転動面表面から内径面までの径方向全体に硬化層を有していることを特徴とする。
上記の特徴により、静的割れ強度および割れ疲労強度を向上させることができる。また内方部材が、中空円筒形状であるため中実のものに比べて、転がり支持機構を軽量化することができる。
ここで、上記の内方部材はたとえば遊星歯車軸、内輪などに該当するが、このような概念として本発明の説明では内方部材という用語を用いる。
ころ(転動体)の転動面となる内方部材の外径表面は、適度な硬さ(HV653以上)に硬化させる必要があるため高周波熱処理を行う。したがって、内方部材を構成する鋼の炭素量は、0.5質量%以上必要である。上限はとくに設けないが、軸受鋼SUJ(JIS G 4805)を用いる場合が多いので、1.10質量%程度が一つの目安となる。また、それより多くてもよい。
内方部材を遊星枠に固定すべく、内方部材の端面にかしめ加工を行えるように、内方部材の端面の硬さはHV200以上HV300以下の範囲とする。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、内方部材の転動面表層部のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、そのオーステナイト結晶粒の粒度番号が研削後の転動面の表層50μmにおける値である。
オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超え、オーステナイト結晶粒の粒径が微細であることにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番以下では、割れ疲労強度、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える範囲とする。通常、11番以上とする。オーステナイト結晶粒は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。ここで、オーステナイト結晶粒は、焼入れ処理を行った後も焼入れ直前のオーステナイト結晶粒界の痕跡が残っており、その痕跡に基づいた結晶粒をいう。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、内方部材は、表層部に窒素富化層を有する。この構成により、耐転動疲労強度や耐割れ疲労強度を高めることができる。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、内方部材の転動面表層部の残留オーステナイト量が11体積%以上40体積%以下の範囲であり、その残留オーステナイト量が研削後の転動面の表層50μmにおける値である。
残留オーステナイト量が11体積%以上であることにより、表面損傷寿命を大幅に改善することができる。残留オーステナイト量が11体積%未満では、表面損傷寿命は大きく改善されないので11体積%以上とする。しかし、残留オーステナイト量が40体積%より多いと、表面硬さの低下が起こり転動疲労寿命が悪くなるので、望ましくは11体積%以上40体積%以下の範囲とする。残留オーステナイト量は、研削後の転動面の表層50μmにおける値であって、例えば、X線回折によるマルテンサイトα(211)と残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で測定することができる。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、窒素富化層における窒素含有量が0.1質量%以上0.7質量%以下の範囲であり、その窒素含有量が研削後の転動面の表層50μmにおける値である。
窒素富化層は、内方部材の表層に形成された窒素含有量を増加した層であって、例えば浸炭窒化、窒化、浸窒などの処理によって形成することができる。窒素含有量が0.1質量%より少ないと効果が無く、特に表面損傷寿命が低下する。窒素含有量が0.7質量%より多いと、ボイドと呼ばれる空孔ができたり、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が出なくなったりして短寿命になる。窒素富化層の窒素含有量は、研削後の転動面の表層50μmにおける値であって、例えば、EPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)で測定することができる。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、内方部材の転動面の表面硬さがHV653以上である。
表面硬さがHV653以上と高いことにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。表面硬さがHV653未満では、転動疲労寿命は大きく改善せず、かえって悪くなる。通常、表面硬さの範囲はHV720以上HV800以下とする。表面硬さは高いほど望ましいが、通常、HV900を超える表面硬さを得ることは難しい。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構において好ましくは、内方部材の転動面表層部の窒素富化層における球状化炭化物の面積率が10%以上であり、その球状化炭化物の面積率が研削後の転動面の表層50μmにおける値である。
球状化炭化物の面積率が10%以上であることにより、転動疲労寿命を大幅に改善することができる。球状化炭化物の面積率が10%未満では、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10%以上とする。球状化炭化物の面積率は多いほど望ましいが、通常、25%を超える面積率を得ると炭化物の粗大化・凝集により材料の靭性が劣化するため、望ましくは10%以上25%以下の範囲とする。球状化炭化物の面積率は、研削後の転動面の表層50μmにおける値であって、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用い腐食した後に、光学顕微鏡(400倍)で観察することができる。
ここで、簡易的に球状化炭化物と表現しているが、実際は、炭化物/窒化物を合わせたものである。
上記の残留オーステナイト量、窒素富化層における窒素含有量、硬化層の硬さおよび球状化炭化物の面積率の各特性は、内方部材の割れ強度改善より、転動疲労寿命の改善への寄与率が大きい。
上記のプラネタリギア機構の転がり支持機構は、好ましくは総ころ形式や保持器付き針状ころ形式、シェル形式のニードル軸受である。
以上説明したように、本発明のプラネタリギア機構の転がり支持機構によれば、内方部材の転動面表面からその内径までの径方向全体に硬化層を形成したことにより、静的割れ強度および割れ疲労強度を改善することができる。また内方部材が中空円筒形状であるため、転がり支持機構を軽量化することができる。
また表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で10番を超えて微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、通常の荷重依存型の転動疲労寿命と、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命との両方ともを改善することができる。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態におけるプラネタリギア機構の構成部品を組み込んだ自動変速機の構成を示す概略断面図である。また図2は、図1のP部のプラネタリギア機構の構成を概略的に示す正面図(a)、断面図(b)、斜視図(c)である。
図1および図2(a)〜(c)を参照して、このプラネタリギア機構10は、たとえば自動変速機内で、サン・ギア・シャフト(以下、太陽歯車軸という)11とリング・ギア・シャフト(以下、内歯歯車軸という)16との間に配置されている。このプラネタリギア機構は、サン・ギア(以下、太陽歯車という)12と、リング・ギア(以下、内歯歯車という)15と、複数のプラネット・ピニオン・ギア(以下、遊星歯車という)13とを主に有している。
太陽歯車12は、太陽歯車軸11の外周に設けられている。内歯歯車15は、太陽歯車12の外周を取囲み、かつ内周面にギアが刻まれており、かつ内歯歯車軸16に固定されている。複数の遊星歯車13の各々は、太陽歯車12と内歯歯車15との間に配置されており、かつ太陽歯車12および内歯歯車15の双方と噛合っている。
複数の遊星歯車13の各々は、プラネタリギア機構10の転がり支持機構20によって、遊星歯車軸17に対して回転可能に支持されている。このプラネタリギア機構10の転がり支持機構20は、たとえば、内方部材と、外方部材と、転動体とを有している。本実施の形態では、このプラネタリギア機構10の転がり支持機構20は、図3に示すようなラジアル型の保持器付き針状ころ軸受よりなっている。このため、プラネタリギア機構10の転がり支持機構20の内方部材は遊星歯車軸17であり、外方部材は遊星歯車13であり、転動体は針状ころ18である。
なお、複数の針状ころ18の各々は、保持器19により一定の間隔で正しい位置に保持されている。また、遊星歯車軸17は、プラネット・ピニオン・キャリ(以下、遊星枠という)14に軸支されている。
また、上記の内方部材は、遊星歯車軸17とは別体で設けられ、かつ遊星歯車軸17の外周に固定された内輪であってもよく、上記の外方部材は、遊星歯車13とは別体で設けられ、かつ遊星歯車13の内周に固定された外輪であってもよい。
このような構造によって、複数の遊星歯車13の各々は、太陽歯車12と内歯歯車15とに歯合して、円周に沿って自転しながら太陽歯車12の外周を公転することが可能である。
プラネタリギア機構10の各ギアは、常時、歯合しており、太陽歯車12または遊星枠14または内歯歯車15のいずれかに駆動力を与えたり、いずれかをロックしたりすることによって、太陽歯車軸11に対する内歯歯車軸16の回転数、回転方向、トルクなどを変化させることができる。
図2に示す転がり支持機構20(たとえばラジアル型の保持器付き針状ころ軸受)の内方部材(たとえば遊星歯車軸17)は、0.50質量%以上の炭素を含む鋼で構成され、中空の円筒形状を有し、端面においてHV200以上HV300以下の硬さを有している。また、図4(a)及び(b)に示すように、転がり支持機構20の内方部材(たとえば遊星歯車軸17)は、ころ(転動体)が転動する内方部材17の転動面表面(外径面)17bから内径面17cまでの径方向全体に硬化層17aを有している。このような硬化層17aが内方部材17の円周方向全周にわたって形成されていることが好ましい。
この硬化層のパターンとして特開2000−38906号公報に開示されたものは、図5に示すように内輪17の外径面17bの転動面表層部のみが硬化層17aであり、内径面17cの表層部および端面17dの表層部は未硬化層である。この硬化層17aのパターンの場合、軸受に荷重が負荷されると、硬化層17aと未硬化層とが混在する内輪17は、全体が硬化層17aとされた内方部材17と比べ、強度が小さく、変形しやすいため、内径面17cの中央部に大きな引張応力が発生する。そして、荷重が繰り返し負荷されると、内径面17cの表層部は未硬化層であり硬化層17aと比べて疲労強度が小さいため、小さい引張応力の作用でクラックが発生し、内輪破損へつながる場合が多い。
一方、図4(a)、(b)を参照して、本実施の形態の硬化層17aのパターンの場合、内方部材17の外径面17bの転動面表層部から内径面17cまで径方向全体が硬化層17aであり、未硬化層の部分は端面17dの表層部付近だけである。この硬化層17aのパターンの場合、図5に示す内輪17と比べ、硬化層17aの領域が多いため、強度が大きく、変形し難い。また、荷重が繰り返し負荷されても、内径面17cの中央部は硬化層17aであり、疲労強度が大きいため、クラックの発生を防止でき、内方部材17の破損へつながる可能性が低くなる。
望ましくは図4(a)よりも図4(b)の硬化層パターンの方が、内径面17cにおける硬化層17aの領域が広く、強度的に有利である。また、荷重が繰り返し負荷されることにより発生する引張応力に対して内径面17cの広い領域に渡ってクラックの発生を防止するものの方が、内径面17cの中央部のみで防止するものよりも、偏荷重を受けた場合にも有利である。
また硬化層17aの硬度はHV653以上であり、内方部材17の端面17dを含む未硬化層の硬度はHV200以上HV300以下である。また硬化層17aと未硬化層との間には、中間層(硬度HV300超えHV653未満)が存在する。
また、内方部材17は、表層部に窒素富化層を有し、その表層部に高周波焼入れが施されてオーステナイト結晶粒度が10番を超える範囲にあり(JIS規格による)超微細であることが好ましい。
また、内方部材17の転動面の表面硬さはHV653以上である。また内方部材17の表層部では高周波焼入れが施されたために、残留オーステナイト量が11体積%以上40体積%以下を占めることが好ましい。また窒素富化層における窒素含有量が0.1質量%以上0.7質量%以下の範囲であることが好ましい。これらの残留オーステナイト量と窒素含有量とは、研削後の転動面の表層50μmにおける値である。この結果、表層部では表面損傷および内部起点型剥離ともに発生しにくく、一方、他の部位では硬度が低いためにかしめ加工しやすい。このため、図示していないが、内方部材17の両端はかしめ加工され、内方部材支持部の面取り部にかしめ加工固定部を形成している。
次に、上記の転がり支持機構20の内方部材に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。
図6は、本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。また、図7は、本発明の実施の形態における別の熱処理方法を説明する図である。図6はA1変態点以上で浸炭窒化処理を行なった後、そのまま徐冷する熱処理パターンであり、図7はA1変態点以上で浸炭窒化処理を行なった後、急冷し、次いでA1変態点未満で調質処理すなわち焼戻し処理を行なう熱処理パターンである。図6の熱処理パターンにおける徐冷処理または図7における調質処理は、互いに対応している。図6および図7の熱処理パターンのどちらもその後で、転動面のある表層部に高周波焼入れを施し、その後、低温焼戻しを施す。
次に、図6および図7の各処理ごとにミクロ組織がどのように生成されてゆくか説明する。まず図6および図7のヒートパターンのいずれにおいても、0.50質量%以上の炭素を含む鋼で構成された中空円筒形状の鋼材に、たとえばA1変態点以上で浸炭窒化処理を行なう。この浸炭窒化処理おいて、転がり支持機構20の対象部材(内方部材)に窒素富化層を形成する。この窒素富化層では、鉄原子Feに対する侵入型元素であるC、Nが過共析に侵入し、たとえばオーステナイト中に炭化物が析出している(2相共存)。すなわち、窒素富化層では過共析鋼となっている。また、浸炭窒化処理されない内部では、素材である元々の鋼材の組成により、オーステナイト相となっている。また、素材である鋼材がフェライトとオーステナイトとの2相、またはオーステナイトとセメンタイトとの2相、が共存する温度で浸炭窒化処理を行なってもよい。
次いで、冷却する際に、図6のヒートパターン(ヒートパターンH1とする)では、浸炭窒化処理温度から徐冷する。この徐冷の目的は、組織を軟化し加工性を向上するためである。この徐冷中に、内部では上記のオーステナイトから、フェライトとセメンタイトとで構成されるパーライトが生成するが、パーライト中のセメンタイトを層状化させずに凝集粗大化させることにより、軟化を推進する。したがって、徐冷する温度域は浸炭窒化処理温度〜(A1変態点−100℃)程度まででよい。これより低い温度まで徐冷してもセメンタイトの凝集粗大化は期待できず、時間ばかりかかり能率を低下させる。目安としては620℃程度まででよい。その後は、時間短縮のために空冷してもよいし、水冷や油冷を行なってもよい。
窒素富化層では、炭化物+オーステナイトのオーステナイトからパーライトが生成し、その中の炭化物が凝集粗大化する。
また、図7のヒートパターン(ヒートパターンH2とする)では、浸炭窒化処理温度から、たとえば油冷などして焼き入れる。この場合、内部では、もともとの鋼材の組成によりオーステナイトからマルテンサイトなどが生成する。このマルテンサイト組織は硬い。このままでは、かしめ加工は困難なので、上記焼戻処理(調質処理)を行なう。焼戻しはA1変態点直下でA1変態点にできるだけ近い温度で急速に進行する。すなわち、高温焼戻しを行なう。したがって、焼戻しはA1変態点〜650℃の範囲、またより好ましくはA1変態点〜680℃の範囲で行なうことが望ましい。この焼戻しにより、マルテンサイト組織における高い転位密度は消失し、転位密度の低いフェライトと凝集粗大化したセメンタイトとの組織が得られる。
また、浸炭窒化層では、油冷などの焼入れによって(炭化物+オーステナイト)のオーステナイトからマルテンサイトが生成する。マルテンサイトは、上記の焼戻しにより、内部に生成したマルテンサイトと同様に軟化される。元々あった炭化物は凝集する。
なお、上記のミクロ組織の説明は、分りやすさを優先させているので、上述したように、窒素や、より複雑な実際のミクロ組織における副次的な要因は無視している。
次に、ヒートパターンH1およびH2の双方に、高周波焼入れを行なう。この高周波焼入れの前段階では、窒素富化層は、凝集した炭化物(比率大)と、フェライトとが混在した組織である。高周波焼入れでは急速加熱され、このとき、炭化物が固溶しながらオーステナイトを核発生させる。分散している炭化物の密度は非常に高いために、オーステナイト核発生密度は非常に高く、発生したオーステナイトが互いに会合して形成されるオーステナイト組織の結晶粒は超微細である。また、窒素富化層は過共析鋼なので、炭化物が共存し、この炭化物ができたばかりで超微細なオーステナイト粒の成長を阻止する。このため、窒素富化層において、超微細なオーステナイト粒を得ることができる。急速加熱の温度が高くなるにつれ炭化物は固溶し、超微細オーステナイトに多くの炭素が固溶される。
次に、急速加熱した後に焼入れを行なうと、超微細オーステナイトはマルテンサイトに変態する。このとき炭素を多く固溶しているためにオーステナイトが安定化され、マルテンサイトの間の微細な領域に未変態のオーステナイトが取り残される。これが残留オーステナイトである。この残留オーステナイトはマルテンサイトの間に形成されるため非常に微細である。体積率にして残留オーステナイトは11〜40体積%となる。
この後、180℃程度で硬度をあまり落とさない程度の焼戻しを行なう。この180℃程度の焼戻しでは、高密度の転位はほとんど消失しないで維持される。この焼戻しは組織を安定化するために行なう。この焼戻しでは、セメンタイトの凝集は生じないし、軟化もほとんど生じない。鋼材によっては、この焼戻しは省略してもよい。
上記の残留オーステナイトを含んだ高周波焼入れ組織は、強靭であり、苛酷な使用条件下で長寿命を実現することができる。
上記の熱処理を行なうことにより、表層部のオーステナイト粒度を11番以上(10番を超える範囲)の超細粒にし、また内部のミクロ組織をフェライトと炭化物との混合組織にすることができる。また、表層部の硬度をHV635以上とし、残留オーステナイトを11〜40体積%とすることができる。また図4(a)または(b)に示すように硬化層(硬度HV635以上)を内方部材の転動面表面から内径面までの径方向全体に形成することができる。
一方、硬化層以外の未硬化層の部分(内方部材の端面を含む)の硬度をHv200以上HV300以下とすることができる。したがって、上記の熱処理を受けた内方部材は、転動疲労特性が長寿命であり、かしめ加工が容易である。
また窒素富化層における窒素含有量を0.1質量%以上0.7質量%以下にでき、窒素富化層における球状化炭化物の面積率を10%以上にすることができる。
次に、図6および図7に示したヒートパターンH1、H2の各々の具体的な条件について説明する。
図8は図6のヒートパターンH1に具体的な条件を付記した図であり、図9は図7のヒートパターンH2に具体的な条件を付記した図である。図8を参照して、浸炭窒化処理はたとえば850℃×90分の条件で行なわれる。浸炭窒化処理後の徐冷はたとえば浸炭窒化処理温度から650℃まで炉冷した後に、650℃から500℃まで炉冷し、その後に空冷することにより行なわれる。高周波焼入れは、たとえば800〜1000℃の温度まで急速加熱した後に水冷することにより行なわれる。焼戻しはたとえば180℃×120分の条件で行なわれ、その後に空冷される。
図9を参照して、浸炭窒化処理はたとえば850℃×90分の条件で行なわれる。浸炭窒化処理後にたとえば油冷により100℃まで冷却される。焼戻処理(調質処理)はたとえば700℃×120分の条件で行なわれ、その後に空冷される。高周波焼入れは、たとえば800〜1000℃の温度まで急速加熱した後に水冷することにより行なわれる。焼戻しはたとえば180℃×120分の条件で行なわれ、その後に空冷される。
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
JIS規格SUJ2を用いて、転動疲労試験用の軸受を製作した。軸受はプラネタリギア機構に使用する総ころタイプのニードル軸受である。内輪は、内径φ10mm×外径φ14.64mm×幅L15mmであり、外輪は内径φ18.64mm×外径φ24mm×幅L7mmである。ころは外径φ2mm×長さL6.8mmを26本用い、保持器を用いない総ころタイプの構成とした。この軸受の基本動定格荷重は8.6kN、基本静定格荷重は12.9kNである。
各試験軸受の内輪の製造履歴は次の通りである。
試験軸受No.1(本発明例1):硬化層パターンが図4(b)に示すようなパターンになるよう高周波熱処理を行った。
試験軸受No.2、3(本発明例2、3):図8に示すヒートパターンH1の工程の熱処理を行った。また、硬化層パターンが図4(b)に示すようなパターンになるよう高周波熱処理を行った。
試験軸受No.4(比較例1):硬化層パターンが図5に示すようなパターンになるよう高周波熱処理を行った。
試験軸受No.5(比較例2):図8に示すヒートパターンH1の工程の熱処理を行った。また、硬化層パターンが図5に示すようなパターンになるよう高周波熱処理を行った。
各試験軸受の外輪は、標準熱処理品(焼入・焼戻)を使用した。各試験軸受のころの製造履歴は次の通りである。
試験軸受No.1、4:標準熱処理品(焼入・焼戻)
試験軸受No.2、3、5:浸炭窒化処理品
上記の製造方法で製作した試験軸受の内輪の材質調査結果および機能評価試験結果を表1に示す。
Figure 2006144889
次に材質調査方法および機能評価試験方法について説明する。
(1)オーステナイト結晶粒度
オーステナイト結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行った。オーステナイト結晶粒度は研削後の転動面中央部の表層50μmにおける値を採用した。
(2)残留オーステナイト量
残留オーステナイト量の測定は、X線回折によるマルテンサイトα(211)と残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で行った。残留オーステナイト量は研削後の転動面中央部の表層50μmにおける値を採用した。
(3)窒素含有量
窒素含有量の測定は、EPMAを用いて行った。窒素含有量は研削後の転動面中央部の表層50μmにおける値を採用した。
(4)表面硬さ
研削後の転動面中央部の表面硬さを測定した。その測定は、ビッカース硬度計(1kgf)を用いて行った。
(5)球状化炭化物の面積率
球状化炭化物の面積率は、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用い腐食した後、光学顕微鏡(400倍)で観察し測定を行った。球状化炭化物の面積率は研削後の転動面中央部の表層50μmにおける値を採用した。
(6)静的割れ強度試験
試験軸受の内輪を用いて、単体にてアムスラー試験機で荷重をかけ静的割れ強度試験を行った。
(7)割れ疲労強度試験
試験軸受の内輪を用いて、表2に示す試験条件で割れ疲労強度試験を行った。
Figure 2006144889
(8)転動疲労寿命
転動疲労寿命は、図10に示す試験試験装置を用いて、表3に示す試験条件で行なった。図10に示す試験装置は外輪回転の試験装置である。図10を参照して、試験機に組み込まれた内輪52(2)と外輪54(4)との間に複数個の針状ころ53(3)を転動可能に配置した構成のものを用い、この外輪54を部材55、56によりラジアル荷重をかけながら所定の速度で回転させることにより転動疲労試験を行った。
Figure 2006144889
なお、表1には、転動疲労寿命試験、静的割れ強度試験、および割れ疲労強度試験結果は、標準熱処理品No.4の値を1として各試験軸受の結果を比率で表した。
表1に示した試験結果を説明する。
(1)オーステナイト結晶粒度
本発明品No.1〜3は結晶粒度番号が11〜12と顕著に微細化されている。標準熱処理品および浸炭窒化処理品No.4、5は、結晶粒度番号が9と本発明品より粗大なオーステナイト結晶粒となっている。
(2)残留オーステナイト量
本発明品No.2、3の残留オーステナイト量は20〜35体積%であり、これらの試料では適度なオーステナイトが存在する。
(3)窒素含有量
本発明品No.2、3の窒素含有量は0.12〜0.28質量%で窒素が含有されている。
(4)表面硬さ
本発明品No.2、3の表面硬さはHV770〜780である。
(5)球状化炭化物の面積率
本発明品No.2、3における球状化炭化物の面積率は、13.0〜13.6%である。
(6)静的割れ強度試験
本発明品No.1〜3の静的割れ強度は、比較品No.4、5と比べて高く、改善している。これは、軸受に荷重が負荷されると、図5に示すように硬化層と未硬化層とが混在する内輪(比較品)は、図4(a)、(b)に示すように外径面から内径面までの全体が硬化層とされた内輪(本発明品)と比べ、強度が小さく、変形しやすいため、内径面の中央部に大きな引張応力が発生するからであると考える。
(7)割れ疲労強度試験
本発明品No.1の割れ疲労強度は、比較品No.4と比べ、2倍以上に改善している。また、本発明品No.2、3の割れ疲労強度も比較品No.5と比べ3倍程度に改善している。これは、軸受に荷重が負荷されると、図5に示すように硬化層と未硬化層とが混在する内輪(比較品)は、図4(a)、(b)に示すように外径面から内径面までの全体が硬化層とされた内方部材(本発明品)と比べ、強度が小さく、変形しやすいため、内径中央部に大きな引張応力が発生するからであると考える。
(8)転動疲労寿命試験
本発明品No.1の転動疲労寿命は、比較品No.4と比べ若干改善している。また、本発明品No.2、3の転動疲労寿命も、比較品No.5と比べ若干改善している。試料No.1、4と比べて試料No.2、3、5の転動疲労寿命が良いのは窒素富化層によるものと考える。窒素富化層が転動疲労寿命に効く要因としては、残留オーステナイト量、窒素含有量、球状化炭化物の面積率などが考えられる。
上記をまとめると、本発明品No.1〜3のように、硬化層パターンが図4(a)、(b)に示すように内輪外径の転動面表層部から内径面まで硬化層であることにより、静的割れ強度、割れ疲労強度を改善することができる。また、本発明品No.2、3のように、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で10番を超えて微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、通常の荷重依存型の転動疲労寿命、割れ疲労強度が改善する。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、プラネタリギア機構に使用する転がり軸受に特に有利に適用され得る。
本発明の一実施の形態におけるプラネタリギア機構の構成部品を組み込んだ自動変速機の構成を示す概略断面図である。 図1のP部のプラネタリギア機構の構成を概略的に示す正面図(a)、断面図(b)、斜視図(c)である。 図1のプラネタリギア機構の転がり支持機構として転がり軸受の構成を概略的に示す一部破断斜視図である。 本発明の実施の形態における硬化層のパターンを説明するための断面斜視図である。(a)は内径面の硬化層領域が転動面の硬化層領域より相当小さい場合、(b)は内径面の硬化層領域が転動面の硬化層領域に近い大きさを有する場合を示す。 従来の硬化層のパターンを説明するための断面斜視図である。 本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。 本発明の実施の形態における別の熱処理方法を説明する図である。 図6のヒートパターンH1に具体的な条件を付記した図である。 図7のヒートパターンH2に具体的な条件を付記した図である。 外輪回転の転動疲労試験機を示す図である。
符号の説明
10 プラネタリギア機構、11 太陽歯車軸、12 太陽歯車、13 遊星歯車、14 遊星枠、15 内歯歯車、16 内歯歯車軸、17 遊星歯車軸、17a 硬化層、17b 外径面、17c 内径面、17d 端面、18 針状ころ、19 保持器、20 転がり支持機構、52 内輪、53 針状ころ、54 外輪、55,56 部材。

Claims (11)

  1. 遊星歯車と、前記遊星歯車の内側に位置する内方部材と、前記遊星歯車と前記内方部材との間に介在する複数の転動体とを備えたプラネタリギア機構の転がり支持機構において、
    前記内方部材は、0.50質量%以上の炭素を含む鋼で構成され、中空の円筒形状を有し、端面においてHV200以上HV300以下の硬さを有し、かつ前記転動体が転動する前記内方部材の転動面表面から内径面までの径方向全体に硬化層を有していることを特徴とする、プラネタリギア機構の転がり支持機構。
  2. 前記内方部材の転動面表層部のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、前記オーステナイト結晶粒の粒度番号が研削後の転動面の表層50μmにおける値であることを特徴とする、請求項1に記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  3. 前記内方部材は、表層部に窒素富化層を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  4. 前記内方部材の転動面表層部の残留オーステナイト量が11体積%以上40体積%以下の範囲であり、前記残留オーステナイト量が研削後の転動面の表層50μmにおける値であることを特徴とする、請求項3に記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  5. 前記窒素富化層における窒素含有量が0.1質量%以上0.7質量%以下の範囲であり、前記窒素含有量が研削後の転動面の表層50μmにおける値であることを特徴とする、請求項3または4に記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  6. 前記内方部材の転動面の表面硬さがHV653以上であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  7. 前記内方部材の転動面表層部の窒素富化層における球状化炭化物の面積率が10%以上であり、前記球状化炭化物の面積率が研削後の転動面の表層50μmにおける値であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  8. 前記転がり支持機構が保持器付き針状ころ軸受である、請求項1〜7のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  9. 前記転がり支持機構が総ころタイプの針状ころ軸受である、請求項1〜7のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  10. 前記転がり支持機構がシェルタイプの針状ころ軸受である、請求項1〜7のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
  11. 前記内方部材が遊星歯車軸である、請求項1〜10のいずれかに記載のプラネタリギア機構の転がり支持機構。
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