JP5207891B2 - 軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、軸受に関し、例えば、車両等の内燃機関における給排気バルブを駆動させる動弁機構等に適用される軸受に関する。
自動車等のエンジンを構成する部品の一つである軸受は、従来、滑り軸受が多く用いられている。しかし、近年、省燃費化の要求等から転がり軸受の適用が増えてきている。エンジンの不完全燃焼により、硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)を含む多くの燃料の燃焼中間生成物等、略称「PM」が発生し、エンジンオイルにはこのPMが混入する。前記硬質異物等が混入したオイル潤滑下にて軸受は使用されることから、滑り軸受から転がり軸受が適用されるようになった結果、軸受の低トルク化による低燃費は実現可能であるが、滑り軸受に比べ転がり軸受は高面圧となる。硬質異物が混入された油潤滑下では、転がり軸受に硬質異物が入り込み、硬質異物により、軸受の例えば軸や転動体、外輪を摩耗させる等、滑りから転がり化され、高面圧となることによりエンジン部品の各部において摩耗が発生することが多くなり、且つ摩耗量も多くなった。
また、ディーゼルエンジンや直噴ガソリンエンジンでは硬質異物の発生量が多く、硬質異物が原因で転がり軸受そのものに著しい摩耗が発生する場合が多々見受けられる。
エンジン部品の一つである軸受の中で、特にローラフォロアについて、耐摩耗性の向上が求められている。自動車等のエンジンを構成する部品の一つに、インテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアーム装置(ロッカーアームアッシー)がある。この装置の中には、滑りタイプのローラフォロアまたは、転がりタイプのローラフォロアも適用されている。
このローラフォロアは、バルブの開閉に伴い回転運動を行うため、その他のエンジン部品と比較し、ローラフォロアの各部には摩耗が発生し易い。滑りタイプのローラフォロアにおいても摩耗が発生している。転がりタイプのローラフォロアも適用されるようになった結果、その他のエンジン部品の各部同様、ローラフォロアも転がり化により軸受の低トルク化を図り低燃費化される。しかし、滑りタイプのローラフォロアに比べ、転がりタイプのローラフォロアは高面圧となるため、硬質異物が混入された油潤滑下では、転がりタイプのローラフォロアに硬質異物が入り込み、転動体、外輪、特に軸も摩耗発生が多くなり、さらに摩耗量も多くなった。前記軸は中空および中実軸の場合を含む。その他のエンジン部品と比較し、摩耗が顕著である。
前記ローラフォロアは、外輪が回転する。よって、軸における負荷域は同一箇所となるため、転動体や外輪に比べ軸の摩耗が顕著である。その他のエンジン部品と比較し、摩耗発生が多く、さらに摩耗量が多くなる条件にて使用されるローラフォロアにおいても、同様に、硬質異物等が混入した油潤滑下にて使用される場合がある。勿論、硬質異物の発生量が多い、ディーゼルエンジンや直噴ガソリンエンジンにおいても使用される。よって、前述したように、エンジン部品の軸受には、カムフォロワや、カムシャフト、クランクシャフト、バランサシャフト等の支持軸受もあるが、特にローラフォロアの耐摩耗性の向上つまり摩耗に対する対策が求められている。エンジン部品の摩耗を防ぐ手段として公知のものには、例えば、支持軸の軌道部外表面が焼入れにより表面硬化され、且つ、DLC被膜が、前記表面硬化された軌道部外表面に形成されたものがある(特許文献1)。
特開2006−144848号公報 J.S.Wang et al.:Thin Solid Film,325,163(1998)
単に、硬質被膜を対象物に施すことにより耐摩耗性の向上を図る技術では、対象物に硬質被膜を施すことにより、逆に摩耗を促進する場合があり、耐摩耗性を向上するには、必ずしも最適なものとはいえないのが現状である。
上記のように、軸受は、摩耗に対するさらなる対策が求められている。特に、摩耗が促進され易い状況である硬質異物混入潤滑下での摩耗対策は、軸受において最も難しい課題の一つである。
この発明の目的は、軸受の摩耗の一形態である硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる軸受を提供することである。
この発明における、第1の発明の軸受は、軸および外輪と、これら軸と外輪との間に介在した複数の転動体とを備えた軸受であって、前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸、外輪、および転動体の少なくともいずれか一つの転走面に硬質被膜を施し、この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたことを特徴とする。
前記軸方向中間部とは、アーム本体等の対向側壁の挿通孔に嵌合する前記軸の軸方向一端側の外径面、および軸方向他端側の外径面を除く部分であって、転走面表面を含む部分である。
基材表面に形成した硬質被膜の破壊靭性値測定方法として公知の手法(非特許文献1参照)が知られている。この手法は2種類の試験からなり、表面に硬質被膜を形成した基材
の曲げ試験及び硬質被膜表面への超合金球による押し込み試験を行う。試験中の硬質被膜のクラック発生挙動及び進展挙動により破壊靭性値を求める。
この構成によると、硬質被膜の破壊靭性値の下限値を1.5MPam1/2としたため、形成された硬質被膜が繰り返し荷重に耐えることができ、硬質被膜の破壊、剥離を生じ難くすることができる。破壊靭性値の上限値を6MPam1/2としたため、この硬質被膜は耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間を得ることができる。したがって、前記転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、硬質被膜の破壊、剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。このような破壊靭性値を規定した軸受により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。硬質被膜の破壊靭性値が6MPam1/2を越えた場合、耐摩耗性が発揮するまでの間に生じる摩耗において、硬質被膜の破壊が進まないために相手部品への攻撃性が増加してしまう。硬質被膜の破壊靭性値が1.5MPam1/2未満の場合、形成された被膜は繰り返し荷重に耐えられず、破壊し、剥離が生じる可能性が高くなる。さらに剥離した膜材によって相手部品への攻撃性も増加することで耐摩耗性を維持できない。
この発明における、第2の発明の軸受は、軸と、この軸の外径面にすべり接触する外輪とを備えた軸受であって、前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸および外輪のいずれか一方または両方の転走面に硬質被膜を施し、この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたことを特徴とする。
第2の発明の軸受においても、転走面の硬質被膜の破壊靭性値を規定したことにより、第1の発明と同様の作用、効果を奏する。よって、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
第1の発明において、前記転動体がころであっても良い。
前記硬質被膜の破壊靭性値を2MPam1/2以上5MPam1/2以下とすることが望ましい。この場合、硬質被膜が繰り返し荷重により耐えることができるうえ、この硬質被膜は、耐摩耗性が発揮するまでの間に不所望に摩耗することを防止し得る。
前記硬質被膜の膜厚が1μm以上5μm以下で、且つこの膜厚が硬質被膜の軸方向中央の膜厚を基準として±2μm以下の範囲であっても良い。この場合、硬質被膜の膜厚の下限値を1μmとしたため、硬質被膜が耐摩耗性を有するまでに膜が不所望に全て剥離してしまうことがなくなり、耐摩耗性を維持できる。膜厚の上限値を5μmとしたため、膜形成時に生じ得る残留圧縮応力の低減を図ることができる。それ故、硬質被膜に衝撃荷重が加わることに起因する膜の亀裂を防止することができ、硬質被膜の剥離を防止することができる。さらに、膜厚を、硬質被膜の軸方向中央の膜厚を基準として±2μm以下の範囲に収めたため、この硬質被膜に作用する荷重が均一化する。これによって、局所的に過大な面圧が作用することを未然に防止することができる。よって、耐摩耗性を維持できる。したがって、軸受の硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)混入潤滑下での耐摩耗性を向上させることができる。
軸受のラジアルすきまが2μm以上45μm以下であり、且つ転動体1本あたりの円周方向すきまが2μm以上25μm以下であっても良い。ラジアルすきまは、外輪を軸に関して、一つの偏心極限位置から直径方向反対の極限位置に、異なる角度位置に外力を作用させないで、ラジアル方向に移動した距離の算術平均値である。これは外輪、軸相互の異なる角度位置の平均値である。
硬質被膜を施した軸受のラジアルすきまの下限値は2μmとすることができる。軸受の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。ラジアルすきまの上限値を45μmとすることにより、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、寿命の低下を防止することができる。
前記転動体1本あたりの円周方向すきまとは、総転動体軸受の転動体を、円周方向に隣合う転動体と接するように寄せたとき、円周方向にできるすきまを総転動体数で除した値と同義である。
また、硬質被膜を施した前記軸受の円周方向すきまの下限値は2μmとすることができる。軸受の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。円周方向すきまの上限値を25μmとしたため、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
前記硬質被膜はDLC膜であっても良い。
ダイヤモンドライクカーボン膜、略称DLC膜は、例えば基材温度300℃以下、好まし
くは常温で、プラズマCVD法等の化学気相成長法、またはレーザーアブレーション法、ス
パッタリング法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法によって形成される。DLC膜は高エネルギー粒子を基材上で急冷しないと生成せず、低温ほどDLCの膜質は向上する。
DLCは、炭素と水素とからなり、DLC膜は、炭素と水素が種々のモル比から構成されたものを含み、また、珪素、窒素および酸素等の少なくともいずれか一つが含まれても良い。また、DLC膜は、ダイヤモンド構造のsp3結合と、グラファイト構造のsp2結合とが混在しているアモルファス構造であり、sp3結合は硬さを付与し、sp2結合は摺動性(潤滑性)を付与する。
このようなDLC膜を基材の転走面に施すことにより、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
前記硬質被膜は、セラミックス微粒子をガス中に分散してエアロゾル化し、このエアロゾルを基材表面に衝突させることにより形成したものであっても良い。エアロゾルを基材表面に噴射し、膜を形成するときは、0.01kPa以上120kPa以下の圧力で衝突させるのが良い。圧力0.01kPa未満ではエアロゾルの衝突速度が速くなり、基材がエッチングされ成膜しない。圧力120kPaを超えてエアロゾルを衝突させた場合、衝突速度が遅くなり、セラミックス粒子が基材上に堆積し、成膜しない。また、この硬質被膜の基材上への形成は室温下で行うことができる。
前記軸受は、前記軸がロッカーアームに固定され使用されるローラフォロアであっても良い。ローラフォロアの耐摩耗性の向上を図ることができ、ローラフォロアの低トルク化による自動車等の低燃費化を実現することが可能となる。
第1の発明の軸受は、軸および外輪と、これら軸と外輪との間に介在した複数の転動体とを備えた軸受であって、前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸、外輪、および転動体の少なくともいずれか一つの転走面に硬質被膜を施し、この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたため、軸受の摩耗の一形態である硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
第2の発明の軸受は、軸と、この軸の外径面にすべり接触する外輪とを備えた軸受であって、前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸および外輪のいずれか一方または両方の転走面に硬質被膜を施し、この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたため、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。この実施形態に係る軸受は、この軸受の軸がロッカーアームに固定され使用される。
先ず、ロッカーアームの一概略構成について説明し、軸受の詳細構成、この軸受の摩耗試験およびその結果について順次説明する。以下の説明は、硬質被膜の形成方法の発明の説明をも含む。
図1に示すように、このロッカーアームは、車両等の内燃機関に装備されるものであり、所定の揺動中心L1回りに揺動自在なアーム本体1に、内燃機関のバルブ2を動作させる作用部3と、カム4に転接するローラフォロアとなる軸受5とが設けられている。
図1、図2に示すように、軸受5はアーム本体1の一端に取付けられ、前記作用部3はアーム本体1の他端に設けられている。作用部3は、アーム本体1と別体の部品であって、アーム本体1の他端に設けられた油圧ラッシュアジャスタを有し、アーム本体1に出入り調整が自在に取付けられている。
アーム本体1は、例えば炭素鋼やアルミニウム合金等を鍛造または鋳造して形成される。ただし、アーム本体1は、前記炭素鋼、アルミニウム合金、鍛造、鋳造に限定されるものではなく、例えば一枚の鋼板等の板材からプレス加工された板金製のものを適用しても良い。図2に示すように、アーム本体1は、一対の対向側壁6,6と、これら対向側壁6,6の一方縁部を繋ぐ図示外の連結板壁とを有する略U字形状の断面形状とされている。両側の対向側壁6,6は揺動支点孔6bを有し、この揺動支点孔6bに揺動支点軸7が嵌合する。この揺動支点軸7の軸心が上記揺動中心L1である。
軸受5について説明する。
図2、図3に示すように、軸受5は、アーム本体1に取り付けられた軸8Mと、外輪9と、これら軸8Mおよび外輪9の間に介在した複数の転動体10とを有する。転動体10としてころが適用されている。軸8Mは、アーム本体1の両側の対向側壁6,6に形成された挿通孔6a,6aに両端が嵌合して取付けられる。
図4に示すように、アーム本体1の両側の挿通孔6a,6aは、外面側の開口縁に座繰り部11を有する。座繰り部11は、例えばテーパ形状とする。例えば、軸基材に後述する硬質被膜12が施される。この硬質被膜12が施された軸を「軸8M」と称す。硬質被膜12が施されていない軸を「軸基材8」または「基材」と称す。特に、この硬質被膜12の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下、好ましくは2MPam1/2以上5MPam1/2以下としている。硬質被膜12の膜厚δ2は1μm以上5μm以下で、且つこの膜厚δ2が硬質被膜12の軸方向中央P1の膜厚δ2を基準として±2μm以下の範囲であることが好ましい。
また、この軸受5のラジアルすきまが2μm以上45μm以下であり、且つ転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1が2μm以上25μm以下であることが好ましい。
軸基材8の素材として、日本工業規格(Japanese Industrial Standards;略称JIS
)に規定されるSUJ2材、SKD材(中でもSKD11材)、SUS440C材、SCM材または、アメリカ鉄鋼協会規格(American Iron and Steel Institute;略称AIS
I)で規定されるM50材等が用いられる。ただし、これら鋼材に必ずしも限定されるものではない。
軸8Mを前記挿通孔6aに挿通し、この軸8Mの両端の軸端部8a,8aをかしめてアーム本体1に固定している。すなわち軸8Mの軸端部8a,8aをかしめる。この場合、軸8Mを挿通孔6aに挿通した状態で、図示外の治具、工具を用いて、軸8Mの外径Djよりもやや小径Dmの円周方向溝8aaを軸端部8aに形成する。この円周方向溝8aaはこの軸8Mと略同一軸心で且つ軸端部8aにおける外径付近に形成される。前記円周方向溝8aaは環状に連なる溝であっても良い。円周方向溝8aaは軸8Mと略同一軸心に形成しなくても良い。
前記治具、工具により円周方向溝8aaを形成するのに伴って、軸8Mの外径面における両端付近に半径外方に所定小距離突出する塑性加工部8bが設けられ、これら塑性加工部8bを前記座繰り部11に係合させ、軸端部8a,8aのかしめが行われる。このように、軸端部8a,8aのかしめが行われることにより、アーム本体1からの軸8Mの抜け止めが行われている。軸8Mの塑性加工部8bは、例えば全周または略全周にわたる環状の突部とされている。
図3に示すように、複数の転動体10は、軸8Mと外輪9間の環状空間に、総ころ形式として保持器を介在させずに組み込んでいる。円周方向に隣接する転動体10同士を、転動を許す隙間つまり円周方向隙間δ1をあけて近接させてある。本実施形態に係る軸受5は、総ころ形式としているが、軸8Mと外輪9間の環状空間に保持器を設け、この保持器に複数の転動体10を保持する形式にすることも可能である。
外輪9は、軸基材8と同様の鋼材から成る。例えば、外輪9、軸基材8、および転動体10を互いに同じ材質としても良い。また、必要に応じて軸受構成部品の一部を他の構成部品とは異なる材質にしても良い。
熱処理、硬質被膜等について説明する。
本実施形態では、軸基材8のみに硬質被膜12を形成しているが、他の実施形態として、図4に示すように、外輪9または転動体10の転走面9a,10aに硬質被膜12を形成しても良い。軸基材8、外輪9、および転動体10の少なくともいずれか一つの転走面に硬質被膜12を形成すれば良い。
軸8Mの基材における、転走面部の硬度はHRC58以上としている。この軸8Mの基材の転走面部の硬度は、転動疲労寿命を十分に確保する目的で、HRC58以上の硬度が必要になる。
HRC58以上の硬度が必要な硬化層深さは、軸受使用時の接触面圧が2000MPa以下の場合は転動疲労が生じないため、摩耗が発生する深さ50μmで十分である。ただし、硬質被膜12を軸基材8に施した場合、本発明に示している最適な硬質被膜を施さないと、剥離した硬質被膜が硬質異物として作用するため、深さ50μm以上まで摩耗が発生
する場合が多々ある。接触面圧2000MPa以上5000MPa以下の場合、摩耗だけでなく転動疲労が生じるが、400μm程度の深さまで前記硬度を有すれば十分である。
硬質被膜を施していない基材の表面硬度を確認する方法として、通常、ロックウェル硬度計、ビッカース硬度計等を用いて、表面を直接硬度測定する。しかし、軸基材8表面に硬質被膜12を施した場合、上記測定方法は使用できない。代替の測定方法として、例えば、軸8Mの断面硬度を測定し、硬質被膜12と軸基材8の界面近傍(軸基材8側)の値を軸基材8の表面硬度として用いてもよい。
下記に基材の硬化方法の種類を示すが、ここで、基材の表層を硬化する場合と、基材の表層だけでなく内部まで硬化する場合のメリットを示す。
・基材の表層を硬化する場合
接触面圧が2000MPa以下の場合、転動疲労は生じないので、HRC58以上の硬度が必要な硬化層深さ(HRC58深さ)は、摩耗が発生する深さである50μmで十分である。ただし、硬質被膜を基材表面に施した場合、本発明に示している最適な硬質被膜を施さないと、剥離した硬質被膜が硬質異物として作用するため、深さ50μm以上まで
摩耗が発生する場合が多々ある。生じ得る接触面圧が2000MPa以上5000MPa以下の場合、硬化層深さ(HRC58深さ)は、最大剪断応力位置の2倍の深さである400μmで十分である。
この基材の表層を硬化する場合における、基材の硬化の方法としては、高周波焼入、焼入後のサブゼロ処理、低温窒化処理が採用できる。前記低温窒化処理としては、例えば、550℃以下のイオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化等を適用し得る。
また、寿命に好影響を及ぼすと考えられる圧縮応力が生成できる硬化層深さ(HRC58深さ)は、最大で軸基材8の肉厚、中実軸の場合、直径の1/3であるという実績がある。この実績から、例えば、図4に示すような中実軸の場合、直径8mm以上10mm以下の転がり軸受の軸基材8における表面焼入れ深さ(HRC58深さ)は、3.3mm以下であることが望ましい。中空軸の場合、この中空軸の外径から内径を減じた値を「2」で除し、さらに「3」で除して求められる表面焼入れ深さ、すなわち[外径−内径]/2の1/3の表面焼入れ深さとすることが望ましい。
・基材の内部まで硬化する場合
表面焼入れと比較し、軸8Mの径方向中央部(内部)までHRC58以上硬度を有するような高周波焼入れを適用するときにも熱処理条件を厳密に制御する必要がないというメリットがある。つまり、この処理では、処理時間を短時間で制御する必要がないため、比較的長時間の加熱を行うことが可能であり、これにより熱処理条件を厳密に制御する必要がなくなる。したがって、工数低減を図り、軸受の製造コストの低減を図ることができる
この基材の内部まで硬化する場合における、基材の硬化の方法としては、一般的な全体焼入処理、表面だけでなく内部も硬化させる高周波焼入、焼入後のサブゼロ処理が採用できる。
本実施形態に係るローラフォロアでは、前述のように、軸8Mをアーム本体1に固定するとき、軸端部8a,8aをかしめて固定している。この場合、軸8Mの両端の軸端部8a,8aの硬度をHRC10以上HRC35以下にしている。さらに、好ましくは、前記軸端部8aの硬度を満足する範囲を、軸端面から軸方向内方に1mm以上の位置に至る範囲とする。換言すれば、HRC35以下である範囲を、軸端面から軸方向内方に少なくとも1mmは確保する。
このように軸端部8aの硬度をHRC35以下とし軸8Mをかしめることにより、軸8Mとアーム本体1とを確実に固定することができる。勿論、本実施形態のような転がりタイプのローラフォロアの場合においては、軸8Mとアーム本体1とを固定する際には、外輪9と転動体10及び軸8Mをアーム本体1の所定位置にセットし、両側の軸端部8a,8aをかしめて軸8Mとアーム本体1とを固定する。なお、滑りタイプのローラフォロアの場合、転動体10はない。
両側の軸端部8a,8aをHRC35以下にする方法としては、軸8Mについて、両側の軸端部8a,8aを除いた高周波表面焼入れ、または、両側の軸端部8a,8aを除いた高周波焼入れであって表面だけでなく内部も硬化させる高周波焼入れ、両側の軸端部8a,8aにマスキングを施した低温窒化処理、一般的な全体焼入処理品の軸の両側の軸端部8a,8aを高周波熱処理により焼鈍する方法等が採用できる。前記低温窒化処理としては、例えば、550℃以下のイオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化等を適用し得る。
なお、ローラフォロアの軸端部8a,8aをかしめて固定しない場合は、軸端部8a,8aの硬度をHRC35以下にする必要がないため、一般的な全体焼入処理も採用できる。その場合、以下の構造を適用することができる。
軸8Mの軸端付近の外周面に図示外の溝を形成し、その溝に止め輪を配置してこの軸8Mとアーム本体1とを固定する構造、前記溝に止め輪を配置する代わりにピンを挿入し軸8Mとアーム本体1とを固定する構造、軸端部8aをかしめる代わりに、アーム本体1をかしめて軸8Mとアーム本体1とを固定する構造、アーム本体1に軸8Mを圧入する構造等。
硬質被膜12の例として、以下のような例のものを適用可能である。
一例として、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むアモルファス炭化水素(メタルフリーアモルファス炭化水素の場合も含む)を含む硬質被膜12が挙げられる。この硬質被膜12を形成する方法として、高周波プラズマCVD法、イオン化蒸着法、カソードアーク法及びスパッタ法等が知られている。これらの方法では、形成した硬質被膜12と軸基材8との密着性や硬質被膜12の靭性値を上げるためいくつかの方法がある。
本実施形態においては、硬質被膜12と軸基材8との密着性を、被膜表面にダイヤモンド圧子を押付けて引っ掻き、被膜に割れを生じる押付け荷重(臨界荷重)を測定するスクラッチ法により規定した。具体的には、硬質被膜12のスクラッチ法での臨界荷重を40N以上110N以下、より好ましくは60N以上100N以下とした。
また、本実施形態では、硬質被膜12の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下、より好ましくは2MPam1/2以上5MPam1/2とした。硬質被膜12を施すべき基材表面硬度をHV650以上HV1000以下とした。硬質被膜12の表面粗さをRa0.25μm以下とした。この硬質被膜12を施すべき基材表面の表面粗さをRa0.15μm以下とした。
例えばスパッタ法で密着性の良い硬質被膜12を軸基材8上に形成するには、先ず軸表面をクリーニングすることが好ましい。具体的には、チャンバー内に表面を清浄した軸基材8を設置し、チャンバーを排気する。真空度2×10−3Pa程度まで排気した後、軸基材8を温度150℃〜200℃まで加熱する。その後、軸に−200V〜−500V程度のバイアス電流を印加し、圧力1Paの不活性ガス雰囲気中で不活性ガスイオンを生成し、軸基材8に衝突させ、軸表面をクリーニングする。
またスパッタ法で破壊靭性値の高い硬質被膜12を軸基材8上に形成するには、ターゲットとしてC(グラファイト)だけでなく1若しくは2種類以上の金属ターゲットを使用することが好ましい。使用するターゲットとして、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Cr(クロム)等が挙げられる。それぞれのターゲットについて、グラファイトの結合性、膜化後の傾斜機能効果から複数のターゲットを併せたもの、さらに好ましくはCr(クロム)とW(タングステン)が良い。また、ターゲットに電力を供給する時間を調節することで、硬質被膜12内に存在する金属原子の含有割合を任意に変更することが可能となる。なお、一般的に最表層部がメタルフリーであれば、下層にメタルつまり金属が混入していてもメタルフリーアモルファス炭化水素からなる硬質被膜と呼ばれる。
前述のように、軸表面をクリーニングした後、Arガス及びプロセスガスの混合ガスをチャンバー内に導入し軸にバイアス電流を印加する。印加しながらスパッタ源の電力を供給し、グロー放電を発生させる。Ar圧力0.5Pa、バイアス電圧−100V、スパッタ電力5kWで膜形成する。所定の膜厚に達した後、スパッタ源への電力供給を停止し、軸8Mが急冷した後チャンバーから取り出す。この際に、水素を含まないプロセスガスを導入した雰囲気下で硬質被膜12を形成すると、実質的に水素を含まない被膜を形成できる。一方、炭化水素ガスや水素ガスを導入して水素を含む雰囲気下で硬質被膜12を形成すれば、所定量の水素を含有する水素含有層を形成することができる。
硬質被膜12のもう一つの例として、ファインセラミックス硬質被膜を軸基材8上に形成しても良い。この膜を形成する方法としてエアロゾルデポジション法(略称;AD法)がある。AD法とは原料セラミックス微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に向けてエアロゾル噴射ノズルより噴射し、エアロゾルを基材表面に高速で衝突させ、超微粒子の構成材料から成る被膜を基材上に形成する。
エアロゾル原料セラミックスとしてアルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物系セラミックスが知られている。また、窒化珪素、炭化珪素、サイアロン等の窒化物等、炭化物系セラミックスもエアロゾル原料セラミックスとして知られている。
それぞれのセラミックスの高純度グレードにおいて、真比重の小さいほうがエアロゾル化しやすいことから、原料として使用するセラミックスはアルミナが好ましい。さらに好ましくは、使用する粒子の平均粒子径は0.01μm〜2.0μmが良い。平均粒子径0.01μm未満では凝集しやすくエアロゾル化は困難であり、平均粒子径2.0μmを超えるとAD法での膜形成は困難となる。
また、被膜形成を良好に行うため、基材等への衝突時にアルミナが容易に粉砕するように、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて原料にクラックを予め形成しておくことが好ましい。
エアロゾルを基材表面に噴射し、膜を形成するときは、0.01kPa以上120kPa以下の圧力で衝突させるのが良い。圧力0.01kPa未満では、エアロゾルの衝突速度が速くなり、基材がエッチングされ成膜しない。圧力120kPaを超えてエアロゾルを衝突させた場合、衝突速度が遅くなり、セラミックス粒子が基材上に堆積し、成膜しない。
また、AD法による硬質被膜12の基材上への形成は室温下で行うことができる。軸受5の軸基材8表面へのADセラミックス被膜の形成方法として、軸基材8を固定してエアロゾル噴射ノズルを移動させて被膜を形成する方法、及びエアロゾル噴射ノズルを固定して軸受5の軸基材8を回転・移動させて被膜を形成する方法のいずれも採用できる。
これらの方法の中で、エアロゾルを安定な状態で吹きつけることができ、位置決め用XYテーブルおよび対象物回転用モータを併用し、軸受5の軸基材8を回転させつつ軸方向に移動させることで、ADセラミックス被膜を容易に塗り重ねて形成できることから、エアロゾル噴射ノズル固定、軸回転、移動の後者の方法を用いることが好ましい。前記エアロゾル噴射ノズルは、セラミックス微粒子を、長方形等の開口部を有するノズル先端から、軸円筒部表面に噴射するものである。なお、エアロゾル噴射ノズルは、1本であっても複数本であっても良い。また、エアロゾル噴射ノズルは変位可能に構成しても良い。
次に、この軸受の摩耗試験およびその結果について説明する。
図5は、前記摩耗試験の試験機の断面図である。硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)の混入潤滑下での摩耗を模擬するために、以下の表1の試験条件、図5の試験機にて摩耗試験を行った。
ところで、エンジン油内に、煤(硬質炭素粒子:カーボン)が2mass%以上含まれると、軸受に著しい摩耗が発生する。前記煤の割合が増えるほど、摩耗量は多くなる。今回の試験では、エンジン油内に16mass%ものカーボンブラックを含むエンジン油にて評価しており、本発明の効果の有効性を担保している。なお、煤の量は、アナリスト社が開発したLight Extinction Measurement法、略称:LEM法にて測定する。このLEM法は、煤が光を吸収する性質を利用して、煤を含むオイルに光を投射した時の減光率(減衰率)からオイル中の煤の量を測定するものである。
評価エンジン油として、単に、油にカーボンブラックを含有した油ではなく、次のような油を採用する。すなわち、評価エンジン油として、CD級10W−30ディーゼルエンジンオイルにカーボンブラックの粉末を含有後、オイルを高温高速回転し、オイル中にカーボンブラックの粉末が沈降しないように分散させたオイルを潤滑油とする。また、表1において、「P/C」のPは負荷荷重を示し、Cは軸受の基本動定格荷重を示す。すなわち、P/Cは、軸受の基本動定格荷重に対する負荷荷重の割合を示す。
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この試験機13は、試験ハウジング内に複数の軸受14を介して駆動軸15が回転自在に支持され、この駆動軸15の長手方向一端部は図示外の駆動源に繋がっている。駆動軸15は、いわゆる段付き軸であって試験軸受5の外輪外径面9bに接する大径部15aを備えている。また、試験機13は、試験軸受5の軸8Mにラジアル荷重を負荷する荷重負荷部材16を備えている。この試験ハウジング内において、試験軸受5は油浴による油潤滑とされ、その油量レベルL2は試験軸受の回転中心まで満たされている。さらに、試験ハウジング内の両側には、油温を制御可能なカートリッジヒータ17が設けられている。
試験に供される軸受5は、滑り軸受と比べ摩耗の発生度合、摩耗量の多い転がり軸受を用い、軸基材8のみを表2〜表5の「硬質被膜種類」の欄にて示す各種表面処理を施して実施した。その摩耗試験の結果も併せて表2〜表5に示す。この試験において、軸表面の硬質被膜12を、表2〜表5に示すパラメータ(後述する)を変化をさせて実施している。本試験において軸基材8のみ硬質被膜12を施しているが、その理由は、本試験はローラフォロア使用条件を想定し、外輪回転としている。よって、軸8Mにおける負荷域は同一箇所となるため、軸8Mに摩耗が顕著に発生する。よって、摩耗対策効果を明確にするため、軸基材8のみに各種硬質被膜処理を施して試験を実施している。軸表面の硬質被膜12は、前述の硬質被膜12の例として説明した通りである。
表2〜表7において、総合評価◎は、軸摩耗量が1μm以下となる評価基準を満たしたサンプル、総合評価○は、軸摩耗量が1μmを越えて、4μm以下となる評価基準を満たしたサンプルである。また、総合評価×は、軸摩耗量が4μmを越える評価基準を満たしたサンプルである。
ここで軸摩耗量が4μm以下のサンプルは試験初期と比較して振動、音響に変化が見られない。より好ましくは軸摩耗量が少ないものが耐摩耗性が高いことから、軸摩耗量の大小により◎○評価を分類した。×評価は、軸摩耗量が多く、初期振動よりも振動が大きくなり、相手部材への攻撃性が認められるものもある。軸は、負荷域が同一箇所となるため、一部分のみが大きく摩耗する。よって軸の摩耗は振動に大きく影響する。
軸の前記「一部分のみが大きく摩耗する」とは、図6に示すように、軸表面の一箇所A1から円周方向一方に所定小角度α至る部位Saだけが、点線白抜きのように、例えば平坦状に削り取られることを意味する。ただし、前記平坦状に限定されるものではない。
また、この摩耗試験における実施例、比較例に使用したサンプルの基材の材質として、軸、外輪、転動体ともにSUJ2を適用した。熱処理条件として、前記転動体、外輪については一般的な全体焼入、軸については高周波表面焼入を適用した。
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次に、各サンプルを評価したパラメータ及び結果について説明する。
(1)軸受の軸の転走面表面に形成した硬質被膜の破壊靭性値について
本件出願にて用いた破壊靭性値の「破壊靭性」とは、薄膜の脆性破壊に対する抵抗を表す尺度と同義であり、その数値を「破壊靭性値」とする。基材表面に形成した硬質被膜の破壊靭性値測定方法として、ジェイ エス ワン他のシィン ソリッド フィルム(J.S.Wang et al.:Thin Solid Film,325,163(1998))の手法が知られている。この手法は2種類の試験からなり、表面に硬質被膜を形成した基材の曲げ試験及び硬質被膜表面への超合金球による押し込み試験を行う。試験中の硬質被膜のクラック発生挙動及び進展挙動により破壊靭性値を求める。破壊靱性値は圧痕直径、硬質被膜表面に生じたクラック各々の長さ、クラックが生じた面積および基材と硬質被膜のヤング率から求める。
この実施形態に係る硬質被膜12の破壊靭性値測定方法として、図7に示すように、軸8Mの軸方向中央P1を、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。さらに具体的には、軸8Mの表面つまり外周面における軸方向中央P1に、直径1.6mmのタングステンカーバイト(略称WC)製圧子を径方向内方に且つ測定箇所に略垂直に押し当てた際に被膜表面に発生したクラック発生挙動により、破壊靭性値を求めた。この測定箇所に対する圧子の押し込み深さは硬質被膜表面より0.1mm(圧子直径の0.5%)とした。
なお、前記試験では軸8Mの軸方向中央P1を10箇所測定したが、軸8Mの軸方向中央P1のうち適当間隔おきの任意の複数箇所を測定し、それらの平均値を求めてもよい。また、一般的に、上記硬質被膜は部位によるばらつきが少ないため、例えば、軸方向中央P1における任意の1箇所を測定して破壊靭性値を求めてもよい。
前記圧子は、直径1.6mm以外のものを適用することも可能であり、またWC製に必ずしも限定されるものではない。このような場合であっても、硬質被膜12の破壊靭性値を測定可能である。本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜の破壊靭性値は表2〜表5のサンプルNo.1〜No.56に示すように1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下、より好ましくは表2のサンプルNo.1〜24に示すように2MPam1/2以上5MPam1/2以下必要であった。
硬質被膜12の破壊靭性値の下限値を例えば表2〜表5のサンプルNo.1〜No.56に示すように1.5MPam1/2とした場合、形成された硬質被膜12が繰り返し荷重に耐えることができ、硬質被膜12の破壊、剥離を生じ難くすることができる。破壊靭性値の上限値を6MPam1/2とした場合、この硬質被膜12は耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間を得ることができる。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、硬質被膜12の破壊、剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。このような破壊靭性値を規定した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。硬質被膜12の破壊靭性値が6MPam1/2を越えた場合、耐摩耗性が発揮するまでの間に生じる摩耗において、硬質被膜12の破壊が進まないために相手部品への攻撃性が増加してしまう。硬質被膜12の破壊靭性値が1.5MPam1/2未満の場合、形成された被膜は繰り返し荷重に耐えられず、破壊し、剥離が生じる可能性が高くなる。さらに剥離した膜材によって相手部品への攻撃性も増加することで耐摩耗性を維持できない。
具体的に、表2のサンプルNo.1の軸受5は硬質被膜12の破壊靭性値を2.0MPam1/2とした。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量を0.5μm以下に抑え、転動体10の摩耗量を1.0μmに抑え、外輪9の摩耗量を2.0μmに抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
これに対して、表6のサンプルNo.57の比較例に係る試験軸受は、破壊靭性値を1.4MPam1/2とした。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量が22.5μm、転動体10の摩耗量が11.5μm、外輪9の摩耗量が10μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。
(2)軸受の軸の転走面表面に形成した硬質被膜の密着性について
基材表面に形成した硬質被膜の密着性は円柱基材の端面に被膜を形成し、その表面に相対する円柱を接着して両者を引張って剥離する限界荷重(臨界荷重)を測定する方法や、被膜表面にダイヤモンド圧子を押付けて引っ掻き、被膜に割れを生じる押付け荷重(臨界荷重)を測定するスクラッチ法等が知られている。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜12のスクラッチ法での臨界荷重は40N以上110N以下、より好ましくは60N以上100N以下必要であった。この臨界荷重は、CSM製REVETESTスクラッチ試験機を用い、国際標準化機構により策定された
国際規格ISO20502:2005に準拠した方法で測定した。このスクラッチ法での測定方法では、図8に示すように、軸8Mの軸方向中央P1付近に、測定子を矢符AA1にて表記する軸方向に沿ってP1を含む(AA1の開始点と終了点に挟まれた中にP1が含まれている)ように10mm移動させて測定した。これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔おきに10箇所繰り返し、この10箇所の平均値を求めた。各測定において、最大圧子荷重を100Nまたは200Nとし、荷重増加速度を100N/minまたは200N/minとし、圧子移動速度を10mm/minとした。また測定子の移動距離は10mmでなくてもよい。
例えば、表2のサンプルNo.5に示す試験軸受では、硬質被膜12のスクラッチ法での臨界荷重を85Nとした。試験後、この試験軸受は、軸8Mの摩耗量を0.5μm以下、転動体10の摩耗量を1μm、外輪9の摩耗量を1μmと軸受全体として低く抑え得る。
これに対して、表6のサンプルNo.64に示す比較例に係る試験軸受では、硬質被膜12の前記臨界荷重を25Nとした。試験後、軸8Mの摩耗量が26μm、転動体10の摩耗量が12.5μm、外輪9の摩耗量が10.5μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。
なお、前記試験では、軸8Mの外周面を10箇所測定したが、軸8Mの外周面のうち周方向適当間隔おきの任意の複数箇所を測定し、それらの平均値を求めてもよい。また、一般的に、上記硬質被膜は部位によるばらつきが少ないため、例えば、軸8Mの外周面の任意の1箇所を測定した値を採用してもよい。
硬質被膜12のスクラッチ法測定による臨界荷重の下限値を40Nとした場合、硬質被膜12が剥離することを防止し、耐摩耗性を発揮することができる。また、硬質被膜12の剥離に起因する相手部品への攻撃を未然に防止し得る。この臨界荷重の上限値を110Nとした場合、硬質被膜12が耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間中に、被膜表面の一部分のみ摩耗することを防止し、これにより硬質被膜表面粗さが不所望に大きくなることを防止することができる。このようなスクラッチ法測定による臨界荷重を規定した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
さらに前記硬質被膜12の臨界荷重を60N以上100N以下とした場合、硬質被膜12が耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間中、もしくは耐摩耗性の発揮以後に不所望に剥離することをより確実に防止し得る。
(3)軸受の軸の転走面表面に形成した硬質被膜の硬度について
基材表面に形成した硬質被膜12の硬度は、ダイナミック超微小硬度計DUH-201W(株
式会社島津製作所製)で測定する。この硬度計で測定する値はダイナミック硬度HDで以下の式で定義する。この硬質被膜12の硬度は膜表面の硬さを表している。
HD=3.8584×P/h2
上記式においてPは試験荷重(mN)、hは三角すい圧子の押し込み量(μm)を示している。この実施形態に係る硬質被膜12の硬度の測定方法として、図9に示すように、軸8Mの軸方向中央P1を、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。各測定箇所において、115°の三角すい圧子に試験荷重5gfを与え、同三角すい圧子の負荷速度0.135gf/secで且つ、三角すい圧子の保持時間10secとしている。なお、ダイナミック硬度「HD」は、試験機に依存した値で表す場合、「DH」や「DHT115」と表している場合もあるが、上記「HD」で表すダイナミック硬度は、試験機に依存しない値である。
この硬度計では、圧子を対象物に試験荷重に達するまで押し込み、押し込み量を測定するため、目視による圧痕測定がない。従って、設定荷重を小さくでき、圧子の侵入深さを浅くすることができる。例えば115°の三角すい圧子に試験荷重5gfを与えて測定した場合、ビッカース硬度よりも正確な膜硬度を求めることができる。
具体的に、表2のサンプルNo.2の軸受5の、硬質被膜12のダイナミック硬度はHD1188である。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量を0.5μm以下に抑え、転動体10の摩耗量を1.5μmに抑え、外輪9の摩耗量を1.5μmに抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
これに対して、表6のサンプルNo.58の比較例に係る試験軸受の、硬質被膜12のダイナミック硬度はHD572である。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量が24.5μm、転動体10の摩耗量が17μm、外輪9の摩耗量が14μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜12のダイナミック硬度はHD800以上HD2000以下である。
硬質被膜12のダイナミック硬度の下限値をHD800とした場合、転走面は必要十分な被膜強度となり膜部材間の結合力を強くして膜損傷を防止し、耐摩耗性を維持する。上限値をHD2000とした場合、硬質被膜12と軸基材8との軸表面硬度差を小さくし得る。これにより、硬質被膜12の割れを防止し耐摩耗性を維持することができる。このようなダイナミック硬度がHD800以上HD2000以下の硬質被膜12を施した軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
(4)軸受の軸の転走面表面に形成した硬質被膜の膜厚、表面粗さ及び膜形成範囲について
軸円筒部全表面に硬質被膜12を形成した場合、カロテスター(CSM製 簡易精密膜厚測定機CAROTEST)でこの硬質被膜12の膜厚を測定する。
軸円筒部表面の中間部のみに硬質被膜12を形成した場合、カロテスター(CSM製 簡易精密膜厚測定機CAROTEST)を用いて欧州規格EN1071-2:2002に準拠した方法またはフォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製)でこの硬質被膜12の膜厚を測定する。この場合において、前記軸円筒部表面の中間部とは、軸8Mの外径面における長手方向中間部つまり軸方向中間部であって、アーム本体1の対向側壁6,6の挿通孔6a,6aに嵌合する軸8Mの長手方向一端側の外径面、および長手方向他端側の外径面を除く、転走面表面を含む部分である。換言すれば、軸円筒部表面の中間部は、転動体10の転走幅10W以上である。
この実施形態に係る硬質被膜12の膜厚測定方法として、例えば軸円筒部表面の中間部のみに硬質被膜12を形成した場合、フォームタリサーフ(テーラーホブソン(株)製FormTalysurf-120L)を用いて測定する。図10に示すように、軸8Mの片側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面から、他側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面まで測定子を矢符AA2にて表記する軸方向に沿って移動させて測定した。これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔置きに10箇所繰返し、この10箇所の平均値を求めた。
基材表面に形成した硬質被膜12の表面粗さ及び膜形成範囲は、フォームタリサーフ(テーラーホブソン株式会社製)で測定する。本実施形態に係る硬質被膜12の「表面粗さ」の測定方法では、フォームタリサーフ(テーラーホブソン(株)製FormTalysurf-120L)を用いて、図11に示すように軸8Mの軸方向中央P1付近を、測定子を矢符A3にて表記する軸方向に沿って移動させ、評価長さ1.25mmで、周方向一定間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。軸8Mの測定箇所は、この軸方向中央P1の周方向適当間隔おきであっても良い。評価長さは1.25mmでなくても良い。
また、本実施形態に係る硬質被膜12の「膜形成範囲」の測定方法でも、同フォームタリサーフ(テーラーホブソン(株)製)を用いて測定した。具体的には、図12に示すように軸8Mの片側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面から、他側の軸端部8aと膜端部8bに挟まれた軸8表面まで測定子を矢符AA2にて表記する軸方向に沿って移動させて測定した。図12に示すように、これを軸8Mの外周面における周方向一定間隔置きに10箇所繰返し、この10箇所の平均値を求めた。この測定方法によると、以下の図13に示すような形状Maが得られる。図13は膜形成範囲測定後の被膜の形状を表す図である。図13において、軸8の表面より径方向外方にやや盛り上がった箇所を、被膜が形成された一端P3から他端P4に至る範囲すなわち「膜形成範囲」としている。一端P3付近の被膜は、一端P3から矢符A2に示す軸方向一方に向かうに従って急峻に立ち上がり、他端P4付近まで以後平坦に形成される。他端P4付近の被膜は、他端P4から軸方向他方に向かうに従って急峻に立ち上がる。この両側の立ち上がり開始位置間の範囲を「膜形成範囲」とする。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜12の表面粗さは、Ra0.25μm以下であった。具体的に、表2のサンプルNo.18の軸受5の、硬質被膜12の表面粗さはRa0.049μmである。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量を1μm以下に抑え、転動体10の摩耗量を2μmに抑え、外輪9の摩耗量を3μmに抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
硬質被膜12の表面粗さがRa0.25μmを超えた場合、相手部品への攻撃性が認められるため、耐摩耗性を維持できない。また同時に硬質被膜12の表面粗さをRa0.25μm以下としたい場合、下地である軸表面つまり硬質被膜12を施していない軸基材8の表面の表面粗さがRa0.15μm以下であることが好ましい。このRa0.15μmを越えた場合、形成した膜の表面粗さがRa0.25μmを越える場合がある。
換言すれば、硬質被膜12を施すべき基材表面の表面粗さをRa0.15μm以下とすることで、硬質被膜12の表面粗さをRa0.25μm以下とし、耐摩耗性を維持することができる。また、相手部品への攻撃を未然に防止することができる。
次に、本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜12の膜厚δ2は1μm以上5μm以下である。形成した硬質被膜12は、耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間が必要となる。膜厚1μmに満たない場合、硬質被膜12が耐摩耗性を有するまでに膜が全て剥離してしまうため耐摩耗性を維持できない。
硬質被膜の膜厚δ2が1μmに満たない場合、耐摩耗性を発揮できない理由について説明する。硬質被膜形成時には必ず残留圧縮応力が発生しているが、膜部材の結合力や、密着力によって残留圧縮応力に起因する膜の剥離を防止している。硬質被膜の摩耗により膜厚δ2が薄くなると、残留圧縮応力は減少するが、膜部材の結合力や密着力は、残留圧縮応力以上に減少する。そして硬質被膜の膜厚δ2が0.5μm以下になると、膜部材の結合力や密着力に抗して残留圧縮応力が強くなり膜が剥離してしまう。従って、硬質被膜が潤滑油と馴染み耐摩耗性を発揮するまでに摩耗する0.5μmを加えて、必要な耐摩耗性を有する硬質被膜に必要な最小膜厚は1.0μmとなる。
膜厚5μmを超える場合、各硬質被膜12が膜形成時に生じた残留圧縮応力が大きくなりすぎてしまい、衝撃荷重が加わることによって容易に膜に亀裂が生じ、剥離してしまうことによって耐摩耗性を維持できない。
硬質被膜12の膜厚δ2の下限値を、例えば表2〜表5のサンプルNo.1〜No.56に示すように1μmとした場合、硬質被膜12が耐摩耗性を有するまで膜が残存し、耐摩耗性を維持できる。この硬質被膜12の膜厚δ2の上限値を、例えば表2〜表5のサンプルNo.1〜No.56に示すように5μmとした場合、硬質被膜形成時に生じ得る残留圧縮応力が大きくなることを抑制し、衝撃荷重が加わることに起因して膜に亀裂が生じることを防止することができる。よって、硬質被膜12の剥離を防止し、耐摩耗性を維持することができる。
また、本発明において必要な耐摩耗性を有していた軸8Mに施された硬質被膜12の膜厚は、軸方向中央P1(図2)の膜厚δ2(図4)を基準として±2μm以下の範囲である。この軸方向中央P1の膜厚δ2を基準とした硬質被膜12の膜厚のばらつきを、表2〜表7において、「厚さバラツキ」と表記する。つまり、表2〜表7の「厚さバラツキ」とは、軸方向中央P1の膜厚δ2を基準とした場合において、硬質被膜12が形成された膜厚のうち最も厚い箇所の膜厚と前記膜厚δ2との差、または最も薄い箇所の膜厚と前記膜厚δ2との差のうち、大きい値を示す。
例えば、図14(a)に示すように、硬質被膜12の膜厚のうち軸方向中央P1が最も薄い場合、最も厚い箇所の膜厚δmax(δmaxは例えば4μm)と、軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば2μm)との差(δmax−δ2)を求めることで、厚さバラツキが得られる。
図14(b)に示すように、硬質被膜12の膜厚のうち軸方向中央P1が最も厚い場合、この軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば3μm)と、最も薄い箇所の膜厚δmin(δminは例えば2μm)との差(δ2−δmin)を求めることで、厚さバラツキが得られる。
図14(c)に示すように、軸方向中央P1の膜厚δ2が中間値の場合、最も厚い箇所の膜厚δmax(δmaxは例えば3μm)と、軸方向中央P1の膜厚δ2(δ2は例えば1.5μm)との差(δmax−δ2)を求める。また膜厚δ2(δ2は例えば1.5μm)と、最も薄い箇所の膜厚δmin(δminは例えば0.5μm)との差(δ2−δmin)を求める。これらの差(δmax−δ2)、(δ2−δmin)のうち、大きい値(今回δmax−δ2)を採用することで、厚さバラツキが得られる。形成された硬質被膜12が場所によって膜厚δ2が変化すると、膜に作用する荷重が不均一となり、局所的に過大な接触面圧が作用する。前記の通り、軸8Mに施された硬質被膜12の膜厚δ2を、軸方向中央P1の膜厚δ2を基準として±2μm以下の範囲に収めた場合、この硬質被膜12に作用する荷重が均一化する。これによって、局所的に過大な接触面圧が作用することを未然に防止することができる。よって、耐摩耗性の低下だけでなく、硬質被膜12の剥離を防止し得る。剥離した硬質被膜によって相手部材へ攻撃することもない。
例えば、表2のサンプルNo.7に示すように、硬質被膜12の膜厚が2μmで且つ厚さバラツキを1μmと上記範囲に収めた試験軸受では、試験後、軸8Mの摩耗量を0.5μm以下、転動体10の摩耗量を1μm、外輪9の摩耗量を2μmと軸受全体として低く抑え得る。
具体的に、表2、表3のサンプルNo.12の軸受5は、軸基材8の基材表面粗さRa0.085μm、硬質被膜12の膜厚4.5μm、膜厚δ2の厚さバラツキ1μmのものを適用した。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量を1μmに抑え、転動体10の摩耗量を2μmに抑え、外輪9の摩耗量を1μmに抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
これに対して、表6、表7のサンプルNo.68の比較例に係る試験軸受での、軸基材8の基材表面粗さRa0.222μm、硬質被膜12の膜厚7μm、膜厚δ2の厚さバラツキ3.5μmのものを適用した。この試験軸受では、試験後、軸8Mの摩耗量が11μm、転動体10の摩耗量が13.5μm、外輪9の摩耗量が27μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。これは、膜厚δ2の厚さバラツキが3.5μmと大きいため、硬質被膜12に作用する荷重が不均一化し、局所的に過大な面圧が作用したためと考えられる。
また、本発明において必要な耐摩耗性を有していた硬質被膜12の軸方向の形成範囲は、ころ長から、ころ面取の軸方向寸法に「2」を乗じた値を減じて求められる値、すなわち、ころ(転動体)長−ころ(転動体)面取の軸方向寸法×2(両端)により求められる値より広いことが好ましい。より好ましくは転走面以上とする。
ローラフォロアの軸8Mをかしめてロッカーアームと固定し使用される場合における、軸8Mの硬質被膜12の形成範囲はかしめ後の変形量が、かしめ前の軸径(かしめ後の軸8Mの軸方向中央P1におけるの軸径)に対し+0.1mm以下の領域である。ローラフォロアは組立時に膜形成した軸8Mの両端部をかしめることから、かしめ前の軸径+0.1mmを超える変形部に膜形成すると、硬質被膜が剥離し、耐摩耗性を発揮できなくなるだけでなく、相手部品を攻撃してしまう。つまり剥離した被膜が異物となる。
(5)軸受の軸(基材)における表面硬度について
通常、硬質被膜を施していない基材の表面硬度(転走面部硬度)を確認する方法は、ロックウェル硬度計やビッカース硬度計を用いて、基材表面を直接硬度測定する。しかし、表面に硬質被膜12を施した基材の場合、上記測定方法は使用できない。そこで基材の断面硬度をビッカース硬度計で測定し、硬質被膜との界面から0.03mm地点の値を基材表面硬度として用いている。基材表面に硬質被膜12を施すため、基材表面硬度が硬質被膜硬度に近いことが好ましい。
本実施形態に係る軸表面硬度の測定方法では、マイクロビッカース硬度計(株式会社島津製作所製HMV-1)を用いて、軸8Mの軸方向中央を、周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。具体的に、硬質被膜との界面から0.03mm地点の表面硬度を求めるには、図15に示すように、軸8Mの軸方向中央を、軸方向に略垂直な仮想平面khに沿って切断する。図16に示すように、この切断面表面shにおける、軸8Mの表面つまり外周縁部8Maから軸中心L3を結ぶ直線L4上の点P2を、前記マイクロビッカース硬度計で試験荷重300gで測定する。すなわち被膜12と軸8との界面から、軸中心方向へL5(L5=0.03mm)の地点の硬度を測定する。このように周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を、基材表面硬度とする。
本発明で耐摩耗性を確認した、硬質被膜12を施した基材表面硬度はHV650以上HV1000以下である。具体的に、表3のサンプルNo.19の軸受5の、基材表面硬度はHV813である。この場合、試験後、軸8Mの摩耗量を1μm以下に抑え、転動体10の摩耗量を1.5μmに抑え、外輪9の摩耗量を1.5μmに抑え、軸受全体の摩耗を低減することができた。
これに対して、表7のサンプルNo.77の比較例に係る試験軸受での、基材表面硬度はHV633である。この試験軸受では、試験後、軸8Mの摩耗量が73μm、転動体10の摩耗量が23.5μm、外輪9の摩耗量が22μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。これは基材の強度不足に起因して、この基材が塑性変形して特に軸8Mの摩耗が進展したこと等による。
基材表面硬度の下限値をHV650とした場合、基材の必要強度を満たし、基材の変形量を所定量以下に抑えることができる。そのため基材表面と、この基材表面に形成された硬質被膜12との密着性を向上させることができる。基材表面硬度の上限値をHV1000とした場合、基材の必要な靭性値を満たし、基材に亀裂が発生することがなく硬質被膜12との密着性を向上させることができる。
熱処理した後でも、例えば、硬質被膜12として、ダイヤモンドライクカーボン膜である、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなる硬質被膜12を採用した場合、膜形成前に軸表面にショットピーニング加工を施すことによって表面硬度をHV1000近くにすることができる。AD法で形成した膜の場合、原料粉末中には平均粒子径を越えた大きさの粒子がある。粒径の大きな粒子は膜形成に寄与せずに基材表面に衝突することでピーニング処理が施され、基材表面硬度はHV1000近くにすることができる。
(6)軸受の軸の転走面表面に硬質被膜を形成した後の真円度について
円筒状基材表面に硬質被膜12を形成した後の真円度は、例えばタリロンド(テーラーホブソン株式会社製Talyrond262)で測定する。前記「真円度」とは、円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさを言う幾何公差である。この真円度は、円形形体を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心2円の間隔が最小となる場合の2円の半径差で表し、真円度XXμm、または真円度XXmmと表示する。本実施形態に係る硬質被膜12を形成した後の「真円度」の測定方法では、図17に示すように、前記タリロンドを用いて、軸8Mの膜形成範囲を矢符A4にて表記する周方向に軸方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、硬質被膜形成後の軸8Mの真円度は4μm以下であった。この真円度が4μmを超えた場合、膜厚δ2が場所によって変化し、膜にかかる荷重が不均一となり、局所的に過大な接触面圧となる。よって、耐摩耗性が低下するだけでなく、硬質被膜12の剥離を誘発する可能性が高くなる。さらに、硬質被膜12の剥離により、相手部品への攻撃性も増加する。
軸8Mの真円度を4μm以下とするためには、軸基材8の真円度を2μm以下とする必要がある。
したがって、軸基材8における転走面の真円度が2μm以下、および軸8Mの転走面の真円度が4μm以下のいずれか一方または両方を満足することにより、前記転走面は必要十分な耐摩耗性を有する。軸8Mの転走面の真円度が4μm以下としたため、膜厚δ2が場所によって変化することなく、硬質被膜12にかかる荷重が均一化し、局所的な過大な接触面圧を防止することができる。したがって、前記転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、硬質被膜12の剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。軸基材8における転走面の真円度を2μm以下とすることで、軸8Mの真円度を4μm以下とすることができる。このような軸受5により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
(7)転がり軸受の軸、転動体、外輪のすきまについて
軸表面に硬質被膜12を形成することで、軸受5を構成する部品、つまり軸8M、転動体10、外輪9のすきまが変化する。転がり軸受のすきまはラジアルすきまと、転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1とで規定する。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた軸受5のラジアルすきまは2μm以上45μm以下であった。
硬質被膜を施した軸受のラジアルすきまの下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。ラジアルすきまの上限値を45μmとすることにより、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
一方、必要な耐摩耗性を有していた軸受5の転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1は2μm以上25μm以下であった。
(硬質被膜を施した)前記軸受の円周方向すきまδ1の下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。円周方向すきまδ1の上限値を25μmとしたため、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
例えば、表3のサンプルNo.16に示すように、ラジアルすきまが34μmであり、且つ転動体一本あたりの円周方向すきまδ1が7μmとした試験軸受では、試験後、軸8Mの摩耗量を1μm以下、転動体10の摩耗量を2.5μm、外輪9の摩耗量を1μmと軸受全体として低く抑え得る。
これに対して、表7のサンプルNo.70に示すように、ラジアルすきまが1μmであり、且つ円周方向すきまδ1が1μmとした比較例に係る試験軸受では、試験後、軸8Mの摩耗量が59μm、転動体10の摩耗量が29μm、外輪9の摩耗量が11μmと軸受全体の摩耗量が大きくなった。これは熱膨張に起因してこれらすきまがより小さくなり潤滑不良により摩耗が進展したこと等による。
(8)軸受の軸の転走面表面に形成したsp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなる硬質被膜の水素含有量について
軸8Mの表面に形成した硬質被膜12の水素含有量は、例えばERDA(Elastic Recoil Detection Analysis:神戸製鋼所製HRBS500)で分析する。この実施形態に係る硬質被膜12の水素含有量の測定方法として、軸8Mの軸方向中央を、図18に示すように周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求め、膜表面から膜厚0.3μmまでの領域を分析した。ERDAによる水素含有量の測定は、深さ方向の組成分布を評価するため、膜表面から観察する。測定結果から深さ方向0.3μmまでの領域の水素含有量を読み取ることで足りる。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、硬質被膜12の表面から0.3μmまでの領域の水素含有量は10原子%以上30原子%以下、好ましくは16原子%以上25原子%以下であった。水素含有量が10原子%未満の場合、密着性が低下する。水素含有量が30原子%を越える場合、膜材間の結合性が低下し、剥離しやすくなり耐摩耗性が低下する。
(9)軸受の軸の転走面表面に形成したsp2-及びsp3-交雑炭素を含むメタルフリーアモルファス炭化水素からなる硬質被膜の金属含有量について
軸8Mの表面に形成した硬質被膜12の金属含有量は、例えばSIMS(Secondary Ion Mass Spectromety:アルバック・ファイ(株)製ADEPT-1010)で分析する。特に硬質被膜12と基材との密着性をよくするためにはCr(クロム)を、(メタルフリーアモルファス炭化水素層を含む)アモルファス炭化水素層とCr(クロム)層との密着性をよくするためにはW(タングステン)を含有させる。この実施形態に係る硬質被膜12の金属含有量の測定方法として、図19に示すように軸8Mの軸方向中央を、周方向適当間隔おきに10箇所測定した測定値の平均値を求めた。
本発明において必要な耐摩耗性を有していた、硬質被膜12のCr(クロム)+W(タングステン)の含有量は5原子%以上50原子%以下であった。Cr(クロム)+W(タングステン)の含有量が5原子%未満の場合、硬質被膜12と基材との密着性が低下する。50原子%を越えた場合、アモルファス炭化水素膜を構成している硬質被膜12の半分以上が金属となり、硬度が低下し耐摩耗性が低下する。
以上のパラメータが転走面に硬質被膜12を形成した軸受5の耐摩耗性に影響を及ぼす。各パラメータは単独で耐摩耗性に影響を及ぼすだけでなく、耐摩耗性を維持する領域を組み合わせることで、さらに耐摩耗性が向上する。
以上説明した本発明の実施形態に係る軸受によれば、軸8Mの少なくとも軸基材8の軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸基材8の転走面に硬質被膜12を施し、この硬質被膜12の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下、具体的には例えば表2〜表5のサンプルNo.1〜No.56に示すような値とした。特に、硬質被膜12の破壊靭性値の下限値を1.5MPam1/2としたため、形成された硬質被膜12が繰り返し荷重に耐えることができ、硬質被膜12の破壊、剥離を生じ難くすることができる。破壊靭性値の上限値を6MPam1/2としたため、この硬質被膜12は耐摩耗性を発揮するまで潤滑油と馴染む時間を得ることができる。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、硬質被膜12の破壊、剥離を防止することができる。これにより、相手部品への攻撃性が増加することも防止できる。このような破壊靭性値を規定した軸受により、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。
硬質被膜12の破壊靭性値を2MPam1/2以上5MPam1/2以下、具体的には例えば表2のサンプルNo.1〜No.24に示す値とすることが望ましい。この場合、硬質被膜12が繰り返し荷重により耐えることができるうえ、この硬質被膜12は、耐摩耗性が発揮するまでの間に不所望に摩耗することを防止し得る。
この発明において、前記硬質被膜12の膜厚δ2が1μm以上5μm以下で、且つこの膜厚δ2が硬質被膜12の軸方向中央P1の膜厚δ2を基準として±2μm以下の範囲、具体的には例えば表2,表4のサンプルNo.1〜No.56に示すような値であっても良い。この場合、軸受5の硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)混入潤滑下での耐摩耗性を向上させることができる。
軸受5のラジアルすきまが2μm以上45μm以下であり、且つ転動体10一本あたりの円周方向すきまδ1が2μm以上25μm以下であっても良い。硬質被膜を施した軸受のラジアルすきまの下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。ラジアルすきまの上限値を45μmとすることにより、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
また、(硬質被膜を施した)前記軸受の円周方向すきまδ1の下限値は2μmとすることができる。軸受5の組立を容易化することができるうえ、硬質被膜を施すことで基材の熱膨張による寸法変化を抑制することができ、潤滑不良による焼付きや摩耗等の不具合を未然に防止することができる。円周方向すきまδ1の上限値を25μmとしたため、転動体のスキューに起因する振動、音響を抑制し、軸受寿命の低下を防止することができる。
前記硬質被膜12はダイヤモンドライクカーボン膜、略称DLC膜であっても良い。このDLC膜を基材の転走面に施すことにより、硬質異物混入潤滑下での摩耗を低減することができる。DLC膜は、例えば基材温度300℃以下、好ましくは常温で、プラズマCVD法等の化学気相成長法、またはレーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法によって形成される。DLC膜は高エネルギー粒子を基材上で急冷しないと生成せず、低温ほどDLCの膜質は向上する。
DLCは、炭素と水素とからなり、DLC膜は、炭素と水素が種々のモル比から構成されたものを含み、また、珪素、窒素および酸素等の少なくともいずれか一つが含まれても良い。また、DLC膜は、ダイヤモンド構造のsp3結合と、グラファイト構造のsp2結合とが混在しているアモルファス構造であり、sp3結合は硬さを付与し、sp2結合は摺動性(潤滑性)を付与する。それ故、sp2結合とsp3結合との混在割合によって、DLC膜の性質が変化する。したがって、DLC膜は、これらsp2結合とsp3結合との混在割合を調整することにより、膜表面の硬度調整を行うことができる。
前記硬質被膜12は、セラミックス微粒子をガス中に分散してエアロゾル化し、このエアロゾルを基材表面に衝突させることにより形成したものであっても良い。エアロゾルを基材表面に噴射し、膜を形成するときは、0.01kPa以上120kPa以下の圧力で衝突させるのが良い。圧力0.01kPa未満ではエアロゾルの衝突速度が速くなり、基材がエッチングされ成膜しない。圧力120kPaを超えてエアロゾルを衝突させた場合、衝突速度が遅くなり、セラミックス粒子が基材上に堆積し、成膜しない。また、この硬質被膜12の基材上への形成は室温下で行うことができる。
アーム本体1には軸8Mを挿通する挿通孔6aが形成され、軸8Mを前記挿通孔6aに挿通し、この軸8Mの軸端部8aをかしめてロッカーアームに固定するものであり、軸8Mの硬質被膜形成範囲における、かしめ後の径方向の変形量がかしめ前の軸径+0.1mm以下の範囲内としても良い。ローラフォロアは組立時に膜形成した軸8Mの両端部をかしめることから、硬質被膜12の形成範囲を、かしめ後の変形量が、かしめ前の軸径(かしめ後の軸8Mの軸方向中央P1の軸径)に対し+0.1mm以下の範囲内とすることで、かしめ加工に伴って硬質被膜12が不所望に剥離することを防止できる。したがって、硬質被膜12による耐摩耗性を確実に発揮することができる。硬質被膜12が剥離して異物となることも未然に防止し得る。
軸8Mの軸端部8aの硬度がHRC10以上HRC35以下であっても良い。この場合、軸8Mとロッカーアームとを確実に固定することができる。この軸端部8aをHRC10以上HRC35以下にする方法としては、例えば、軸端部8aを除いた高周波表面焼入れ、または、軸端部8aを除いた高周波焼入れ(表面だけでなく内部も硬化)、軸端部8aにマスキングを施した低温窒化処理(550℃以下のイオン窒化、ガス窒化、塩浴窒化等)、一般的な全体焼入れ処理品の軸端部8aを高周波熱処理により焼鈍する方法が採用できる。なお、ローラフォロアの軸端部8aをかしめて固定しない場合は、軸端部8aの硬度をHRC10以上HRC35以下にする必要がないため、一般的な全体焼入処理も採用できる。軸端部8aの硬度を満足する範囲を、軸端面から軸方向に1mm以上の位置に至る範囲とすることが好ましい。この場合、軸8Mとロッカーアームとをより確実に固定することができる。
硬質被膜12の例として、sp2-及びsp3-交雑炭素を含むアモルファス炭化水素(メタルフリーアモルファス炭化水素の場合も含む)を含む硬質被膜12を適用した場合、膜形成前に軸表面にショットピーニング加工を施すことによって表面硬度をHV1000近くにすることができる。AD法で形成した膜の場合、原料粉末中には平均粒子径を越えた大きさの粒子がある。粒径の大きな粒子は膜形成に寄与せずに基材表面に衝突することでピーニング処理が施され、基材表面硬度はHV1000近くにすることができる。このように基材表面硬度をHV1000近くにすることで、基材の必要な靭性値を満たし、基材に亀裂が発生することがなく硬質被膜12との密着性を向上させることができる。
硬質被膜12のCr(クロム)+W(タングステン)の含有量を5原子%以上50原子%以下とした場合、硬質被膜12と基材との密着性が良くなるうえ、硬度が低下することを防止し得る。よって耐摩耗性の低下を防止することができる。
硬質被膜12の表面から0.3μmまでの領域の水素含有量が10原子%以上30原子%以下、好ましくは16原子%以上25原子%以下である場合、硬質被膜12と基材との密着性の低下を防止できるうえ、膜材間の結合性が低下することを防止し得る。これにより、硬質被膜12が不所望に剥離することを防止でき、耐摩耗性の低下を防止することができる。
硬質被膜12のエアロゾル原料セラミックスとしてアルミナを適用しても良い。アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物系セラミックスのうち特に、アルミナを原料として使用することで、真比重を小さくしてエアロゾル化し易くすることができる。この場合において、使用する粒子の平均粒子径は0.01μm以上2.0μm以下であっても良い。このような平均粒子径とすることにより、エアロゾル化を容易化し、AD法での膜形成を容易に実施することができる。
エアロゾルを基材表面に噴射し、0.01kPa以上120kPa以下の圧力で衝突させ硬質被膜12を形成しても良い。この場合、基材がエッチングされることなく成膜し得る。しかも粒子の衝突速度が遅くなることがなく、よってセラミックス粒子が基材上に堆積することも防止し得る。したがって硬質被膜12をより確実に成膜することができる。
前記エアロゾルを基材に衝突させ室温で硬質被膜12を形成しても良い。したがって、AD法による硬質被膜12を形成する場合、温度制御する必要がなくなり、その分、設備コストの低減を図ることができる。
転がり軸受としては、転動体と外輪と内輪とを有する軸受を適用することも可能である。この場合において、内輪外径面の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、内外輪および転動体の少なくともいずれか一つの転走面に硬質被膜12を施す。この場合であっても、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
軸8Mの外径面における軸方向中間部は、転動体10の転走幅10W以上である場合、軸基材8の軸方向中間部は熱処理により硬化されたうえで硬質被膜12が施される。したがって、転走面を必要十分な耐摩耗性に維持し、硬質被膜12の破壊、剥離を防止することができる。
軸8Mの外径面における軸方向中間部は、外輪9の幅寸法以上であっても良い。
軸8M、外輪9、および転動体10の少なくともいずれか一つの基材における、転走面部の硬度が深さ50μmまでHRC58以上有することが好ましい。軸受使用時の接触面圧に基づいて摩耗だけでなく転動疲労が生じるが、この場合、転動疲労寿命を十分に確保することができる。
基材の表層を硬化する場合において、転走面部の硬度が50μm以上の深さでHRC35以下である部分を有しても良い。また、軸8Mは中実軸であっても中空軸であっても良い。
ローラフォロアにおける軸8Mの硬質被膜12の形成範囲を、かしめ後の変形量が、かしめ前の軸径(かしめ後の軸8Mの軸方向中央P1における軸径)に対し+0.1mm以下の範囲内としても良い。ローラフォロアは組立時に膜形成した軸8Mの両端部をかしめることから、硬質被膜12の形成範囲を、かしめ後の変形量が、かしめ前の軸径(かしめ後の軸8Mの軸方向中央P1における軸径)に対し+0.1mm以下の範囲内とすることで、かしめ加工に伴って硬質被膜12が不所望に剥離することを防止できる。したがって、耐摩耗性を発揮でき、相手部品を攻撃することも防止できる。
軸8Mの軸端部8aをかしめる代わりに、アーム本体1をかしめて軸8Mとアーム本体1とを固定する構造、またはアーム本体1に軸8Mを圧入する構造を採用しても良い。例えば、アーム本体1に軸8Mを圧入する場合、かしめ用の治具、工具を不要することが可能となり、加工工数の低減を図ることができる。アーム本体1をかしめて軸8Mとアーム本体1とを固定する場合、軸基材8について一般的な全体焼入処理を採用できる。
硬質異物である煤(硬質炭素粒子:カーボン)を含む燃料の燃焼中間生成物等、略称「PM」が混入されたエンジン油潤滑下にて、この軸受を使用し得る。この場合、エンジン部品の各部において摩耗の低減を図り、且つ摩耗量の低減を図ることができる。
また、硬質炭素粒子つまりカーボンが2mass%以上含まれているエンジン油内においても、この軸受を使用し得る。カーボンの割合が増えるほど、軸受の摩耗量は多くなり得るが、このようなエンジン油内にて本発明の実施形態に係る軸受を使用することで、軸受の摩耗量の低減を図り、軸受寿命の低下を防止することができる。
また、この軸受を、硬質異物の発生量が多いディーゼルエンジンや直噴ガソリンエンジンに使用しても良い。これらの場合において、軸受に著しい摩耗が発生することを未然に防止することができる。
本実施形態では、硬質被膜をローラフォロアへ適用した場合を示したが、これに限らずカムフォロワ、クランクシャフト、バランサシャフト等の支持軸受等への適用も可能である。これら支持軸受等の耐摩耗性の向上を図ることができる。
本実施形態では、転がり軸受に硬質被膜を施しているが、滑り軸受に前述の硬質被膜を施し、転がり軸受で適用したパラメータにしても良い。この場合であっても本実施形態と同様の作用、効果を奏する。転がり軸受は転動体がボールのものを適用することも可能である。
この発明の一実施形態に係るロッカーアームの正面図である。 同ロッカーアームにおける軸受部分の断面図である。 同軸受の破断正面図である。 同軸受の要部の拡大断面図である。 同軸受の試験機の断面図である。 軸の一部分のみが大きく摩耗した場合の軸断面を模式的に示す断面図である。 この発明の実施形態にかかる硬質被膜の破壊靭性値測定方法を概略表す斜視図である。 同硬質被膜の密着性(スクラッチ法)測定方法を概略表す斜視図である。 同硬質被膜の硬度の測定方法を概略表す斜視図である。 同硬質被膜の膜厚の測定方法を概略表す斜視図である。 同硬質被膜の表面粗さの測定方法を概略表す斜視図である。 同硬質被膜の膜形成範囲の測定方法を概略表す斜視図である。 膜形成範囲測定後の被膜の形状を表す図である。 硬質被膜の厚さバラツキを表す図であり、図14(a)は軸方向中央が最も薄膜の場合の図、図14(b)は軸方向中央が最も厚膜の場合の図、図14(c)は軸方向中央の膜厚が中間値の場合の図である。 硬質被膜との界面から0.03mm地点の表面硬度を求める前段階の状態を表す斜視図である。 軸の切断面表面における、軸の外周縁部から軸中心を結ぶ直線上の点を測定する状態を示す側面図である。 硬質被膜を形成した後の真円度の測定方法を概略示す斜視図である。 硬質被膜に含まれる水素含有量の測定箇所を概略示す斜視図である。 硬質被膜に含まれる金属含有量の測定箇所を概略示す斜視図である。
符号の説明
5…軸受
8M…軸
9…外輪
10…転動体
12…硬質被膜

Claims (9)

  1. 軸および外輪と、これら軸と外輪との間に介在した複数の転動体とを備えた軸受であって、
    前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸、外輪、および転動体の少なくともいずれか一つの転走面に硬質被膜を施し、
    この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたことを特徴とする軸受。
  2. 軸と、この軸の外径面にすべり接触する外輪とを備えた軸受であって、
    前記軸の少なくとも軸方向中間部が熱処理により硬化され、軸および外輪のいずれか一方または両方の転走面に硬質被膜を施し、
    この硬質被膜の破壊靭性値を1.5MPam1/2以上6MPam1/2以下としたことを特徴とする軸受。
  3. 請求項1において、前記転動体がころである軸受。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記硬質被膜の破壊靭性値を2MPam1/2以上5MPam1/2以下とした軸受。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記硬質被膜の膜厚が1μm以上5μm以下で、且つこの膜厚が硬質被膜の軸方向中間の膜厚を基準として±2μm以下の範囲である軸受。
  6. 請求項1または請求項3において、軸受のラジアルすきまが2μm以上45μm以下であり、且つ転動体1本あたりの円周方向すきまが2μm以上25μm以下である軸受。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記硬質被膜はDLC膜である軸受。
  8. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記硬質被膜は、セラミックス微粒子をガス中に分散してエアロゾル化し、このエアロゾルを基材表面に衝突させることにより形成したものである軸受。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記軸受は、前記軸がロッカーアームに固定され使用されるローラフォロアである軸受。
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