JP5318528B2 - エンジンのローラ付きカムフォロアの製造方法 - Google Patents

エンジンのローラ付きカムフォロアの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は自動車用エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるエンジンのローラ付きカムフォロアの製造方法に関し、より具体的には耐久性を高め長寿命を実現したエンジンのローラ付きカムフォロアの製造方法に関するものである。
最近の転がり軸受の中には、たとえばエンジンのローラ付きカムフォロア軸受に用いられる軸受のように、総ころタイプでありながら、高速、高荷重用途で使用されるものも多い。保持器のない総ころタイプの軸受では、ころ同士の干渉が生じたり、潤滑剤が軸受内部にうまく供給されない事態が生じる。このため、高速になるところに表面損傷が生じたり、スムーズにころ位置が制御されずスキューを起こしやすい。この結果、滑り発熱や局部的な面圧上昇が起こり、計算上は大きな負荷容量を持つにもかかわらず、表面損傷(ピーリング、スミアリング、表面起点型剥離)や内部起点型剥離が生じやすかった。
エンジンのローラ付きカムフォロアなどのように、その外輪の外径がカムと転がり接触する用途では、従来は、主に外輪の外径の改良を目的とした改良が多かった。たとえばショットピーニングなどの加工による圧縮の残留応力、高濃度浸炭窒化処理による高硬度(加工効果)による長寿命化などは主に相手カムと転動接触する外輪外径の改良のために行なわれてきた。
内輪に相当するローラ軸、ころ、また軸受全体の転がり寿命を延ばすための改良は少ないものの、次に示すように材質面からは浸炭窒化処理による耐熱性やミクロ組織安定性の付与、高硬度化などによって軸受の長寿命化を図った例がある。これまでのエンジンのローラ付きカムフォロアに関連する寿命向上に関する公知技術は次のとおりである。
(d1) エンジンの動弁機構用カムフォロワ装置用軸受において、エンジンの定格回転数での軸受の計算寿命を1000時間以上とするもの(特許文献1)。
(d2) 炭化物の比率:10〜25%、残留オーステナイトの初期値に対する分解率:1/10〜3/10、端面硬度:HV830〜960、表面粗さの平均波長:25μm以下としたカムフォロワ装置用軸受軸を実現するために軸受鋼に浸炭窒化処理とハードショットピーニングを施したもの(特許文献2)。
(d3) 軸の耐摩耗性向上のため、軸に高分子化合物などの固体潤滑膜を形成したカムフォロワ軸(特許文献3)。
(d4) 工具鋼などにより形成し、焼戻し温度よりも低い温度でイオン窒化やイオンプレーティングで高硬度にしたカムフォロワ軸(特許文献4)。
(d5) 軸に対する曲げ応力を150MPa以下にしたエンジンの動弁機構用カムフォロワ装置用軸受(特許文献5)。
(d6) 軸受構成部品の転走面に潤滑油保持性に優れたリン酸塩皮膜を付けたエンジンの動弁機構用カムフォロワ(特許文献6)。
(d7) 軸のころ転動領域にクラウニングを付けたエンジンの動弁機構用カムフォロワ(特許文献7)。
(d8) 軸の転走面表層の炭素濃度を1.2%〜1.7%Cにした高濃度浸炭処理、または浸炭窒化処理を行ない、内部硬度はHV300にした浸炭軸(特許文献8)。
ロッカーアームに付随する別の問題として、ローラ軸両端部にかしめ成形を施してローラ支持部材にかしめる場合がある。この場合、ローラ軸の転走面は高硬度を必要とするが、端部はかしめ成形が可能となるように軟質である必要がある。また、かしめ固定した後、使用中に緩みを生じないほどの強度(硬度)が必要である。ローラロッカーのローラ軸両端部に対してかしめ成形を可能にするものでは、次の開示がなされている。
(d9) ローラ軸の外周面を均一に高周波焼入れし、焼戻しをした後、両端部のみ高周波焼なましをして、両端部を軟化する方法(特許文献9)。
特開2000−38907号公報 特開平10−47334号公報 特開平10−103339号公報 特開平10−110720号公報 特開2000−38906号公報 特開2002−31212号公報 特開昭63−185917号公報 特開2002−194438号公報 特開平5−179350号公報
今後、エンジンのローラ付きカムフォロアにおいても、通常の軸受同様、使用時の高速化と大荷重化、潤滑油の低粘度化が進むと予想される。このような条件での転動寿命の長寿命化は、通常の荷重依存型の転動疲れ寿命に加えて、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命に対しても長寿命化の必要がある。しかし、両方の寿命をともに大幅に延長させる技術はこれまでになされていなかった。また、総ころ軸受特有のころの干渉やスキューによる短寿命も発生する問題がある。
これまでの公知の技術は、高硬度、高い圧縮応力により転動寿命を向上させるものや、相手部材との転動面を改良するものが主体であった。これらを実際に評価すると、外輪のような曲げが作用する用途の長寿命化には効果があるものの、総ころ軸受の内輪やころの長寿命化には、この技術だけでは必ずしも大きな効果を得ることができなかった。
本発明は、長寿命化をはかったエンジンのローラ付きカムフォロアの製造方法を提供することを目的とする。
本発明のローラ付きカムフォロアの製造方法は、エンジンのカムと転がり接触するローラと、ローラの内側に位置し、カムフォロア本体に固定されたローラ軸と、ローラとローラ軸との間に介在する軸受とを備えたローラ付きカムフォロアの製造方法である。A変態点を超える浸炭窒化処理温度で鋼を浸炭窒化処理した後、A変態点未満の温度に冷却し、その後、A変態点以上で浸炭窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なうことにより、ローラ、ローラ軸、および軸受のうち少なくとも1つの部材が製造される。上記鋼は、軸受鋼である。上記焼入れ温度域は、800℃〜830℃の範囲である。
本発明のエンジンのローラ付きカムフォロアは、エンジンのカム軸と転がり接触するローラと、ローラの内側に位置し、カムフォロア本体に固定されたローラ軸と、ローラとローラ軸との間に介在する軸受とを備えたローラ付きカムフォロアにおいて、ローラ、ローラ軸、および軸受の少なくとも一つの部材が窒素富化層を備え、少なくとも表層部のオーステナイト結晶粒がその粒度番号が10番を超えるほど微細化されている。
上記の部材のオーステナイト粒の粒度番号を10番を超えるほど微細化することにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト粒径の粒度番号が10番以下では、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える範囲とする。通常、11番以上とするのがよい。オーステナイト粒径は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。
上記のオーステナイト結晶粒度は、JISに規定されている通常の方法で求めてもよいし、上記結晶粒度番号に対応する平均粒径を切片法などにより求めて換算してもよい。上記のオーステナイト結晶粒径は微細なほど望ましく、オーステナイト結晶粒度番号11番以上であればより好ましい。また、平均結晶粒径を6μm以下としてもよい。上記のオーステナイト結晶粒度番号は、窒素富化層において満たされればよい。しかし、通常の場合、窒素富化層より内側の鋼材本体においても、上記のオーステナイト結晶粒微細化の基準は満たされる。
なお、オーステナイト結晶粒とは、焼入加熱中に相変態したオーステナイトの結晶粒のことであり、これは、冷却によりマルテンサイトに変態した後も、過去の履歴として残存しているものをいう。上記オーステナイト結晶粒は、対象とする部材の金相試料に対してエッチングなど、粒界を顕出する処理を施して観察することができる粒界であればよい。低温焼入れ直前の加熱された時点での粒界という意味で、旧オーステナイト粒と呼ぶ場合がある。測定は、上述のようにJIS規格の粒度番号の平均値から平均粒径に換算して求めてもよいし、切片法などにより金相組織に重ねたランダム方向の直線が粒界と会合する間の間隔長さの平均値をとり、補正係数をかけて2次元から3次元の間隔長さにしてもよい。
なお、上記窒素富化層は、あとで説明するように、浸炭窒化処理により形成されるが、上記窒素富化層に炭素が富化されていてもよいし、富化されていなくてもよい。
本発明の別のエンジンのローラ付きカムフォロアでは、ローラ、ローラ軸、および軸受のうちの少なくとも一つが窒素富化層を有し、その部材の破壊応力値が2650MPa以上である。
本願発明者らは、後で説明する熱処理方法により、浸炭窒化処理層を有する鋼の破壊応力値を、従来では得られなかった2650MPa以上にできることを見出した。これにより、強度の高い転がり軸受を得ることができ、ローラ付きカムフォロアにおける荷重形態に対して優れた耐久性を得ることができる。
本発明のさらに別のエンジンのローラ付きカムフォロアは、ローラ、ローラ軸、および軸受のうちの少なくとも一つが窒素富化層を有し、その部材の水素含有率が0.5ppm以下である。
上記の熱処理方法(低温2次焼入れ方法)、カムフォロアに組み込む前の部材が含有する水素含有率を低くすることができる。このため、鋼に侵入する水素が亀裂発生の臨界値に達するまでの時間を長くすることができ、その結果、未解明の理由と重なって、耐久性を高めることができる。
水素量は低いほうが望ましい。しかし、0.3ppm未満に減らすためには、長時間の加熱が必要になり、オーステナイト粒径が粗大化し、かえって靭性が劣化してしまう。このため、より望ましい水素水素量は0.3〜0.5ppmの範囲である。さらに望ましくは、0.35〜0.45ppmの範囲である。
なお、上記の水素含有率は、拡散性水素は測定の対象にはせず、所定温度以上で鋼から放出される非拡散性水素のみを測定の対象とするものである。拡散性水素量は、サンプルサイズが小さければ、常温でもサンプルから放出され散逸してしまうので、測定の対象から外している。非拡散性水素は、鋼中の欠陥部などにトラップされており、所定の加熱温度以上ではじめてサンプルから放出される水素である。この非拡散性水素に限定しても、水素含有率は、測定方法によって大きく変動する。上記の水素含有率範囲は熱伝導度法による測定方法による範囲である。さらに、後記するように、LECO社製DH−103型水素分析装置またはそれに準じる測定装置を用いて測定することが望ましい。
(c1)上記のカムフォロア本体は、その一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回動自由に取り付けられ、その一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、他方の端部は二股状のローラ支持部を有し、その二股状のローラ支持部にローラ軸が固定されていてもよい。
また、(c2)上記のカムフォロア本体は、その一方の端部と他方の端部との間に設けられ、2つの側壁の間にわたるローラ孔にローラ軸を固定し、一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、他方の端部にピボットが当接するようにしてもよい。
(c3)さらに、上記のカムフォロア本体は、その一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回動自由に取り付けられ、その一方の端部にエンジンの開閉用バルブの端部が当接し、他方の端部は、カム軸からの応力を伝達する連動棒のカムフォロア本体側の端部に当接し、連動棒の他方の端部であるカム側の端部にローラ軸が取り付けられ、カムと当接してもよい。
上記の(c1)、(c2)、(c3)のカムフォロア本体は、カムからの駆動力をエンジンのバルブに伝える点で共通するが、その構造が異なっており、異なるエンジンの型式にそれぞれ対応できるようになっている。
上記のエンジンのローラ付きカムフォロアにおいて、軸受が総ころ形式のニードル軸受であってもよい。また、ローラ軸の端部では中央部より硬度が低くなっていてもよい。このように、ローラ軸の中央部では転走面として必要な硬度を備え、端部では軟質にすることにより、転動疲労寿命などの耐久性を確保した上で、かしめ加工などが可能になる。この結果、上記のすべての転がり軸受において、ローラ軸の端部がかしめ成形されていてもよい。
また、カムフォロア本体がプレス成形されていてもよい。プレス成形加工により生産能率を向上することができる。
本発明の鋼部材は、ロッカーアームに当接する鋼部材であって、その鋼部材のロッカーアームと当接する表層部に窒素富化層を有し、その窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒度が11番以上である。
この構成により、上記鋼部材、たとえばカムフォロアのローラと当接するカムの表層部において、表面起点剥離などの表面損傷および内部起点剥離を抑制して長寿命を実現することができる。上記鋼部材としてはロッカーアームのどこかの部品に当接するものであれば何でもよく、たとえばアジャストねじと当接するバルブ部材などの鋼部材であってもよい。
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアの構成を示す概略正面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面に対応する図である。図1および図2を参照して、回動部材であるロッカーアーム1は、中央部において軸受メタルなどを介してロッカーアーム軸5に回転自在に支持されている。
このロッカーアーム1の他の端部1bには、アジャストねじ7が螺挿されている。このアジャストねじ7はロックナット8により固定され、その下端において内燃機関の給気弁もしくは排気弁のバルブ9の上端と当接している。このバルブ9はばね10の弾発力で付勢されている。
ロッカーアーム1は、一の端部1aにカムフォロア本体50が設けられ、カムフォロア本体50は二股状に形成されたローラ支持部14を一体に有している。この二股状のローラ支持部14に、内輪に相当するローラ軸2の両端が圧入もしくは止め輪により固定されている。このローラ軸2の外周面中央部には、ころ3を介して回転自在に、外輪を構成するローラ4が支持されている。ローラ軸2とローラ4との間に介在する軸受を構成するのはころ3である。すなわち、ローラ軸2とローラ4との間に介在する軸受はころと言い換えることができる。ころ3の軸線方向は、ローラ軸の軸線に平行に配置されている。このローラ4の外周面は、ばね10の付勢力によりカム軸に設けられたカム6のカム面に当接されている。一方と他方との間にはとくに区別はなく、説明の順序で早く説明する端部を一方の端部とする意味しかない。
ここで、ローラ軸2と、ころ3よりなる転動体と、ローラ4よりなる外輪とにより構成されるころがり軸受がロッカーアーム用総ころ軸受として用いられている。一般に、保持器が用いられない場合、総ころ軸受と呼称される。上記のロッカーアーム用総ころ軸受は、カム6と接触しながら回転するものであるため、外輪4にはカム6の押付け力と衝撃力とが作用する。本発明の実施の形態のエンジンのローラ付きカムフォロアは、上記ロッカーアーム用総ころ軸受、カムフォロア本体を備える部材である。
図3は、本発明の他の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアを示す図である。このカムフォロアでは、カムフォロア本体50は、ロッカーアーム1の一方の端部1bと他方の端部1aとの間に開けられ2つの側壁の間にわたるローラ孔(図示せず)にローラ軸2を固定し、一方の端にエンジンの開閉用バルブ9の端部が当接し、他方の端に図示しないピボットが当接する。ピボット孔15を設けたカムフォロア本体50は、ピボットの周り所定の向きにばね10によって付勢され、カム6から伝達される駆動力をローラ4で受けて、前記ばねの付勢力に抗してバルブ9を動かす。
また、図4は、本発明のさらに別の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアを示す図である。図5は、図4のロッカーアーム転がり軸受を含む部分を拡大した図である。図4において、ロッカーアーム1の中央部に回転軸5が配置され、その周りにロッカーアーム1が回動する。ロッカーアーム1の一方の腕の端部1bは、エンジンバルブ9の端と当接し、他方の腕の端部1aは、連動棒16の端と当接する。アジャストねじ8はロッカーアームの端部1aと連動棒16との当接位置を調節する機能を有する。
連動棒16の下端に位置する中空の軸受取付部16aに、カムフォロア本体50が設けられ、取付部材17によりロッカーアーム用総ころ軸受が取り付けられる。カム6はこの総ころ軸受のローラ4に当接して駆動力を連結棒に伝達する。
上記エンジンのローラ付きカムフォロアの総ころ軸受を構成する部材のうち、ころ3、ローラ軸2および外輪のローラ4のうち少なくとも1つの部材は、これから説明する低温2次焼入れ法の熱処理を施され、微細オーステナイト粒とされている。
次に、これら転がり軸受の外輪(ローラ)、内輪(ローラ軸)および転動体の少なくとも1つの軸受部品に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。図6は、本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。また、図7は、本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。図6は1次焼入れおよび2次焼入れを行なう方法を示す熱処理パターンであり、図7は焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンである。どちらも本発明の実施の態様例である。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。
上記のいずれかの熱処理を軸受部品のローラ、ローラ軸、転動体(ころ)およびカムに施すことができる。
上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上述したように、上記の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径を従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労特性が長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
上記の2つの熱処理のいずれによっても、その中の浸炭窒化処理によって、「浸炭窒化処理層」である窒素富化層が形成される。浸炭窒化処理において素材となる鋼の炭素濃度が高いため、通常の浸炭窒化処理の雰囲気から炭素が鋼の表面に侵入しにくい場合がある。たとえば炭素濃度が高い鋼の場合(1wt%程度の鋼)、それ以上高い炭素濃度の浸炭層が生成する場合もあるし、それ以上高い炭素濃度の浸炭層は生成しにくい場合がある。しかし、窒素濃度は、Cr濃度などにも依存するが、通常の鋼では最大限0.025wt%程度以下と低いので、素材の鋼の炭素濃度によらず窒素富化層が明瞭に生成される。上記窒素富化層には炭素が富化されていてもよいことはいうまでもない。
図8は軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図8(a)は本発明例の軸受部品であり、図8(b)は従来の軸受部品である。すなわち、上記図7に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(b)に示す。また、図9(a)および図9(b)は、上記図8(a)および図8(b)を図解したオーステナイト結晶粒界を示す図である。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番以下の番号であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図8(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
表1に示す材質の軸受を用意した。これらの軸受は,エンジンのローラ付きカムフォロアに含まれる総ころ形式のニードル軸受である。内輪(ローラ軸)は外径14.64mm×幅17.3mmであり、外輪は内径18.64mm×外径24mm×幅6.9mmである。ころは外径2mm×長さ6.8mmを26本用い、保持器を用いない総ころ形式の構成とした。この軸受の基本動定格荷重は8.6kN、基本静定格荷重は12.9kNである。ここで、軸受はすべて同じ材質の組合せを基本としたが、一部の軸受ではいくつかの材質を組合せたり、加工を追加して製作したものもある。製作した軸受の一覧を表1に示す。
Figure 0005318528
表1に示すサンプルの内訳は次のとおりである。
No.1:軸受鋼に予め強冷間加工を加え、熱処理後の結晶粒を微細にしたものに浸炭窒化処理を施したもの。
No.2:軸受鋼を浸炭窒化後、浸炭窒化処理温度より低い温度で2次焼入れを施したもの。
No.3:浸炭鋼に浸炭処理後に、浸炭窒化処理を行ない、より低い温度で2次焼入れを施したもの、すなわち浸炭処理後に低温2次焼入れを適用したもの。
No.1〜3のオーステナイト結晶粒度はNo.11以上であった。これらのものをベースに表層に圧縮応力を形成するため、加工を施したものとして次のサンプルを用意した。
No.4:No.1の内外輪にショットピーニングを施し、ころにバレル加工を施したもの。
No.5:No.2の内外輪にショットピーニングを施し、ころにバレル加工を施したもの。
No.6:No.3の内外輪にショットピーニングを施し、ころにバレル加工を施したもの。
また、表層硬度を高めたサンプルとして次のものを用意した。
No.7:No.1の内外輪にサブゼロ(−196℃)処理を追加したもの。
No.8:No.1の内外輪にサブゼロ(−196℃)処理を追加した後、内外輪にショットピーニングを施し、ころにバレル加工を施したもの。
さらに、内外輪、ころの各要素、特に転動寿命が問題となる内輪ところとに上記の方法を適用したものとして、次のサンプルを用意した。
No.9:内輪およびころに浸炭窒化後、浸炭窒化処理温度より低い温度で2次焼入れを施したものを用い、外輪には標準的な熱処理を用いたものを用いた。
No.10:内外輪に対し、浸炭鋼を用い浸炭処理の後、浸炭窒化処理し冷却し、次いでより低い温度で2次焼入れを施したものを用い、ころには軸受鋼に対して浸炭窒化処理を施した。
比較例として、表1の下欄に示す5種類のサンプルNo.11〜15を製作した。
No.11:内外輪およびころ、ともに軸受鋼の標準熱処理品。
No.12:内外輪およびころ、ともに軸受鋼の浸炭窒化品。
No.13:浸炭鋼の標準浸炭品を内外輪に用い、ころは軸受鋼の標準熱処理品。
No.14:浸炭鋼の2次焼入れ品。
No.15:No.11のサンプルの内外輪ショットピーニングを施し、ころにバレル加工を施したもの。
これらのサンプルについて、結晶粒度、硬度、500℃焼戻し硬度(耐熱性の指標)を測定した。結果を表1に示す。
まず、転動寿命評価および表面損傷強度評価の各試験について説明する。
(転動寿命評価): 外輪(内径18.64mm×外径24mm×幅6.9mm)と、26本のころ(外径2mm×長さ6.8mm)と、ローラ軸(外径14.64mm×幅17.3mm)とを組合せ、荷重2.58kNで転動疲労試験を行なった。試験装置を図10に示す。また、試験条件を表2に示す。この試験は外輪回転の試験である。図10を参照して、試験機に組み込まれたローラ軸52(2)と外輪54(4)との間に複数個の針状ころ53(3)を転動可能に配置した構成のものを用い、この外輪54を部材55,56によりラジアル荷重をかけながら所定の速度で回転させることにより寿命試験を行なった。このとき、基本動定格荷重8.6kNの30%の荷重で試験を行なった。この試験結果を表3に示す。
Figure 0005318528
Figure 0005318528
表3に示す試験結果において、主にころまたは内輪が剥離したが、No.9では一部外輪剥離も認められた。表2より、本発明例のものは比較例に比べ長寿命であり、いずれも標準品の約3倍、浸炭窒化処理品の約1.5倍の長寿命を示すことが分った。
(ピーリング試験): ピーリング試験を含めた試験サンプルの一覧およびその試験結果を表4に、またピーリング試験の試験条件を表5に示す。本発明例のNo.1〜3およびこれらにショットピーニングやサブゼロ処理を施したものの計8種類(No.1〜8)、比較例として5種類(No.11〜15)の計13種類についてピーリング試験を行なった。
Figure 0005318528
Figure 0005318528
13種類の試験サンプルの直径40mmの試験片(鏡面仕上げ)をSUJ製の粗面試験片を相手に一定条件で転動接触させ、一定時間後にサンプル(鏡面)試験片上に発生したピーリング(微小な剥離の集合体)の面積率を測定した。この面積率の逆数をここではピーリング強度と定義し、標準品である比較例No.11のピーリング強度を1にした場合の比率で表わした。
結果を表4中に示す。本発明例の試験体は比較例のものに比べ1.5倍以上のピーリング強度を示している。粒度番号10番を超える微細なオーステナイト結晶粒と適度の残留オーステナイトが靭性を高め、亀裂の発生および進展に対する抵抗を高めているといえる。また、サブゼロ処理や加工により圧縮の残留応力を付与したもの(No.4〜8)は、いずれも強度が向上している。高硬度や圧縮の残留応力がピーリング亀裂の発生や進展の抑制に有効に作用すると考えられる。
(スミアリング試験): ピーリング試験片と同様の材質の試験片を用い(表4参照)、スミアリング発生強度を調べた。試験条件を表6に示す。試験片も相手試験片も同一材質の組合せで試験を行なった。
Figure 0005318528
結果は表4に示すとおりである。ここで、評価は、スミアリングが発生したときの相手試験片の回転速度について、標準品(比較例No.11)との比で表わしている。スミアリングに関しても、本発明例のものは比較例の標準品に比べ1.5倍以上の発生強度(発生までの回転速度)であり、他の比較例のものよりも高めである。粒度番号11番以上の結晶粒の細かさと適度の残留オーステナイト量および微細な炭化物の存在のバランスが大きな滑り条件での表層の組成粒度を抑え、耐焼付け性を高めているといえる。加工を与えたものは加工なしのものより若干強度が向上している。
(静的割れ強度試験): 表4に示した試験体について、外輪(内径18.64mm×外径24mm×幅6.9mm)単体にアムスラー試験機で荷重をかけ割れ強度を測定した。結果を表4に示す。割れ起点はリング内径部(転走面)表面である。表4より、通常、浸炭窒化を施すと比較例のNo.12のように静的割れ強度が低下する。一方、本発明例No.1〜3は標準熱処理品と同じかやや向上しており、静的割れ強度の低下は認められない。これらに加工を加えた本発明例No.4〜6のものは一律に割れ強度が向上している。また、本発明例No.7のサブゼロ処理品では、No.1のサブゼロ処理なしに比べやや静的割れ強度が低下しているが、これに加工を加えた本発明例No.8では静的割れ強度が向上している。
比較例No.12の強度低下は、浸炭窒化処理の拡散処理における長時間の加熱の結果、オーステナイト結晶粒の粗大化が起こること、また残留オーステナイト量が増えることのために局部的に引張強度が低い組織が形成されているためと考えられる。比較例No.13も同様の理由で強度が低下している。
(割れ疲労強度試験): 割れ疲労強度を調べるために、表4の試験体の外輪に表7の条件で荷重を繰返し付加し、割れ疲労強度を求めた。すなわち、外輪に下限98N、上限3000〜5000Nの範囲内の繰返し荷重をかけ、割れが発生するまでの繰返し数を比較した。ここでは荷重条件を変えたS−N線図を求め、105回の繰返しに耐える荷重を
求めた。
Figure 0005318528
結果を表4に示す。割れ疲労強度試験の試験結果は、比較例の標準熱処理品の強度に対する比で表わしたが、本発明例のものはいずれも割れ疲労強度が比較例に比べて大幅に改善されている。割れ疲労強度に関しては、浸炭鋼をベースにした本発明例No.3やこれに圧縮の残留応力を組み合わせた本発明例No.6が良好な結果となっている。
(ローラ軸端部の軟化処理): ローラ軸の両端面の高周波焼なましは、適切な処理を施した後のローラ軸素材の一端部のみを高周波コイルの端部開口部に近接させ、またはわずかに挿入させた状態で保持して、高周波誘導電流により端部をごく短時間加熱し、次いで放冷する。また、高周波加熱後、短時間の放冷後に表面への注水または素材の水中投入により急冷する方法を用いてもよい。この方法によって得られる硬度分布を図11および表8に示す。
Figure 0005318528
図11および表8に示すように、転動体が通過する中央部であるA部およびそれより端のB部には適切な高強度が得られている。一方、かしめ成形を行なうときに重要な外周面端面側のC部および端面であるD部の硬度は、かしめ成形するために必要な軟質な硬度が確保されている。
以上の結果から、潤滑条件が悪く、またころのスキューやころ同士の干渉による短寿命が発生しやすいロッカーアーム用転がり軸受の耐久性を向上させることを確認することができた。上記の耐久性の向上は、結晶粒度が細かくかつ耐熱性のある材質とすることにより、表面損傷(ピーリング、スミアリングなどの表面起点型剥離)寿命、内部起点剥離寿命ともに向上させることによりもたらされた。具体的には、素材の加工または熱処理パターンにより、一定値以上のオーステナイト結晶粒度を確保した浸炭窒化組織にすることで、亀裂に対する発生、伸展抵抗性が非常に大きくなることによっている。これにより、滑りによる表層発熱や接線力による表面亀裂の発生を抑えることができるとともに、外部起点型剥離の亀裂に対しても、相当な長寿命化が図れることを見出した。これらをベースに、さらに加工や熱処理を加え、表層に圧縮の残留応力を与えたり、硬度上昇させることによりさらに長寿命化することができる。これらの熱処理および加工処理には、ショットピーニングやバレル加工、ローリング加工、バニッシュ加工、浸炭および浸炭窒化処理、浸炭窒化およびサブゼロ処理、浸炭窒化、2次焼入れ処理およびサブゼロ処理のような手法がある。
また、かしめ加工が行なわれる場合、軸受要素である内輪の役割をするローラ軸においては、ローラ軸端の外周縁部および端面外周面の端縁部とがともにかしめの際に塑性変形可能な限度に軟質であることが要求される。一方、ローラ支持部材にかしめ固定されたローラ軸が、カムフォロワの長期間使用中に緩み、がたつきにより軸穴から抜け落ちるおそれがあるので、ローラ軸端部は一定以上の硬度が要求される。上記の熱処理および加工処理で得た特性のローラ軸に、ローラ軸両端面のみ高周波焼なましの加熱条件および冷却条件を調節し、端面硬さを調整することにより、かしめ成形の可能な耐久性に優れたローラ軸が可能になる。すなわち、上記の熱処理および加工処理は、従来の浸炭窒化のように割れ強度を損なうことはないので、高強度、長寿命の総ころ転がり軸受にすることができ、さらに、その軸受要素であるローラ軸に両端面に高周波焼なましを施し、硬度を調整することにより、かしめ成形が可能となる。
この結果、自動車エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアーム用軸受で、たとえば軸受幅寸法5mm〜12mmの範囲の小サイズの総ころ仕様の軸受に対して耐久性を高めた上で、かしめ成形が可能となる。
(実施例2)
JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用いて、本発明の実施例2を行なった。表9に示した各試料の製造履歴を以下に示す。
Figure 0005318528
(試料A〜D;本発明例): 浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。図6に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から1次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度域780℃〜830℃に加熱して2次焼入れを行なった。ただし、2次焼入温度780℃の試料Aは焼入不足のため試験の対象から外した。
(試料E、F;比較例): 浸炭窒化処理は、本発明例A〜Dと同じ履歴で行ない、2次焼入れ温度を浸炭窒素処理温度850℃以上の850℃〜870℃で行なった。
(従来浸炭窒化処理品;比較例): 浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。浸炭窒化処理温度からそのまま焼入れを行ない、2次焼入れは行わなかった。
(普通焼入れ品;比較例): 浸炭窒化処理を行なわずに、850℃に加熱して焼き入れた。2次焼入れは行わなかった。
上記の試料に対して、(1)水素量の測定、(2)結晶粒度の測定、(3)シャルピー衝撃試験、(4)破壊応力値の測定、(5)転動疲労試験、の各試験を行なった。次にこれらの試験方法について説明する。
I 実施例2の試験方法
(1)水素量の測定
水素量は、LECO社製DH−103型水素分析装置により、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定してない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を下記に示す。
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大なるほう)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料重量サイス゛:10mg〜35g(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO42 、 アスカライト NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージングガス:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40PSI(2.8kgf/cm2)である。
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取出し抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2)結晶粒度の測定
結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行なった。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片(JIS3号試験片)を用いた。
(4)破壊応力値の測定
図12は、静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。図中のP方向に荷重を負荷して破壊されるまでの荷重を測定する。その後、得られた破壊荷重を、下記に示す曲がり梁の応力計算式により応力値に換算する。なお、試験片は図12に示す試験片に限られず、他の形状の試験片を用いてもよい。
図12の試験片の凸表面における繊維応力をσ1、凹表面における繊維応力をσ2とすると、σ1およびσ2は下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40)。ここで、Nは円環状試験片の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、e1は外半径、e2は内半径を表す。また、κは曲がり梁の断面係数である。
σ1=(N/A)+{M/(Aρo)}[1+e1/{κ(ρo+e1)}]
σ2=(N/A)+{M/(Aρo)}[1−e2/{κ(ρo−e2)}]
κ=−(1/A)∫A{η/(ρo+η)}dA
(5)転動疲労試験
転動疲労寿命試験の試験条件を表10に示す。また、図13は、転動疲労寿命試験機の概略図である。図13(a)は正面図であり、図13(b)は側面図である。図13(a)および(b)において、転動疲労寿命試験片31は、駆動ロール21によって駆動され、ボール23と接触して回転している。ボール23は、(3/4)”のボールであり、案内ロールにガイドされて、転動疲労寿命試験片31との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
II 実施例2の試験結果
(1)水素量の測定
浸炭窒化処理したままの従来浸炭窒化処理品は、0.72ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)が分解して水素が鋼中に侵入したためと考えられる。これに対して、試料B〜Dは、水素量は0.37〜0.40ppmと半分近くにまで減少している。この水素量は普通焼入れ品と同じレベルである。
上記の水素量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素量の低減により、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は大きく改善されている。
(2)結晶粒度の測定
結晶粒度は2次焼入れ温度が、浸炭窒化処理時の焼入れ(1次焼入れ)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト粒は、結晶粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。試料EおよびFならびに従来浸炭窒化処理品および普通焼入品のオーステナイト粒は、結晶粒度番号10であり、本発明例の試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3)シャルピー衝撃試験
表9によれば、従来浸炭窒化処理品のシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに比して、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は6.30〜6.65J/cm2と高い値が得られている。この中でも、2次焼入れ温度が低いほうがシャルピー衝撃値が高くなる傾向を示す。普通焼入品のシャルピー衝撃値は6.70J/cm2と高い。
(4)破壊応力値の測定
上記破壊応力値は、耐割れ強度に相当する。表9によれば、従来浸炭窒化処理品は2330MPaの破壊応力値となっている。これに比して、試料B〜Dの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値が得られる。普通焼入品の破壊応力値は2770MPaであり、試料B〜Fの破壊応力値と同等である。このような、試料B〜Dの改良された耐割れ強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有率の低減による効果が大きいと推定される。
(5)転動疲労試験
表9によれば、普通焼入品は窒素富化層を表層部に有しないことを反映して、転動疲労寿命L10は最も低い。これに比して従来浸炭窒化処理品の転動疲労寿命は3.1倍となる。試料B〜Dの転動疲労寿命は従来浸炭窒化処理品より大幅に向上する。本発明の試料E,Fは、従来浸炭窒化処理品とほぼ同等である。
上記をまとめると、本発明例の試料B〜Dは、水素含有率が低下し、オーステナイト結晶粒度が11番以上に微細化され、シャルピー衝撃値、耐割れ強度および転動疲労寿命も改善される。
(実施例3)
次に本発明の実施例3について説明する。下記のA材、B材およびC材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、A材〜C材に共通とした。A材〜C材の製造履歴は次のとおりである。
(A材:比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
(B材:比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
(C材:本発明例):図6の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
(1)転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置は、上述したように、表10および図13に示すとおりである。この転動疲労寿命試験結果を表11に示す。
Figure 0005318528
Figure 0005318528
表11によれば、比較例のB材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したA材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のC材は、B材の1.74倍、またA材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
(2)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、上述のJISZ2242に準じた方法により行なった。試験結果を表12に示す。
Figure 0005318528
浸炭窒化処理を行なったB材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのA材(比較例)より高くないが、C材はA材と同等の値が得られた。
(3)静的破壊靭性値の試験
図14は、静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。この試験片のノッチ部に、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表13に示す。
KIc=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
Figure 0005318528
予き亀裂深さが窒素富化層深さよりも大きくなったため、比較例のA材とB材とには違いはない。しかし、本発明例のC材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
(4)静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)
静圧壊強度試験片は、上述のように図12に示す形状のものを用いた。図中、P方向に荷重を付加して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表14に示す。
Figure 0005318528
浸炭窒化処理を行なっているB材は普通焼入れのA材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のC材は、B材よりも静圧壊強度が向上し、A材と遜色ないレベルが得られている。
(5)経年寸法変化率
保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表15に示す。
Figure 0005318528
残留オーステナイト量の多いB材の寸法変化率に比べて、本発明例のC材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
(6)異物混入潤滑下における寿命試験
玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表16に、また試験結果を表17に示す。
Figure 0005318528
Figure 0005318528
A材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したB材は約2.5倍になり、また、本発明例のC材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のC材は、比較例のB材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でほぼ同等の長寿命が得られている。
上記の結果より、本発明例のC材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造された軸受部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。たとえば、軸受は総ころ形式のニードル軸受に限るものではなく、リング状のすべり軸受であってもよい。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明のエンジンのローラ付きカムフォロアおよび鋼部材を用いることにより、浸炭窒化処理層と、軸受部品のオーステナイト粒径を粒度番号で10番を超える範囲に微細化されたミクロ組織を有し、転動疲労寿命が大きく改善され、優れた耐割れ強度や耐経年寸法変化を得ることができる。さらに、両端部を軟質にすることによりかしめ成形が可能になり、また、破壊強度または水素含有率が従来から離れた範囲とされた部材を含む軸受についても同様の効果を得ることができる。このため、この分野の部品に広く用いられることが期待される。
本発明の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアを示す図である。 図1におけるII−II線に沿う断面図である。 本発明の別の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアを示す図である。 本発明のさらに別の実施の形態におけるエンジンのローラ付きカムフォロアを示す図である。 図4のエンジンのローラ付きカムフォロアのカムと接触する総ころ軸受の部分の拡大図である。 本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。 本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。 軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。(a)は本発明例の軸受部品であり、(b)は従来の軸受部品である。 (a)は図8(a)を図解したオーステナイト粒界を示し、(b)は図8(b)を図解したオーステナイト粒界を示す。 外輪回転の転動疲労試験機を示す図である。 高周波加熱によりローラ軸の両端部を軟化させた場合の硬度分布を示す図である。 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。 転動疲労寿命試験機の概略図である。(a)は正面図であり、(b)は側面図である。 静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。
符号の説明
1 ロッカーアーム、1a,1b カムフォロア本体の端部、2 ローラ軸(内輪)、3 ころ(転動体)、4 ローラ(外輪)、5 カムフォロア軸、6 カム、7 アジャストねじ、8 ロックナット、9 バルブ、10 ばね、14 ローラ支持部、15 ピボット、16 連動棒、16a 軸受取付部、17 取付部材、21 駆動ロール、22 案内ロール、23 (3/4)”ボール、31 転動疲労寿命試験片、50 カムフォロア本体、52 ローラ軸、53 転動体、54 外輪、55,56 試験機部材、T1 浸炭窒化処理温度、T2 焼入れ加熱温度。

Claims (1)

  1. エンジンのカムと転がり接触するローラと、
    前記ローラの内側に位置し、カムフォロア本体に固定されたローラ軸と、
    前記ローラと前記ローラ軸との間に介在する軸受とを備えたローラ付きカムフォロアの製造方法であって、
    変態点を超える浸炭窒化処理温度で鋼を浸炭窒化処理した後、前記A変態点未満の温度に冷却し、その後、前記A変態点以上で前記浸炭窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なうことにより、前記ローラ、前記ローラ軸、および前記軸受のうち少なくとも1つの部材が製造され、
    前記鋼は軸受鋼であり、
    前記焼入れ温度域は、800℃〜830℃の範囲である、ローラ付きカムフォロアの製造方法。
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