JP3990212B2 - 軸受部品および転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、減速機、ドライブピニオン、トランスミッション用軸受などに用いられる軸受部品および転がり軸受に関し、転動疲労特性が長寿命で、高度の耐割れ強度や耐経年寸法変化を有する軸受部品および転がり軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軸受部品の転動疲労に対して長寿命を与える熱処理方法として、焼入れ加熱時の雰囲気RXガス中にさらにアンモニアガスを添加するなどして、その軸受部品の表層部に浸炭窒化処理を施す方法がある(たとえば特開平8−4774号公報、特開平11−101247号公報)。この浸炭窒化処理法を用いることにより、表層部を硬化させ、ミクロ組織中に残留オーステナイトを生成させ、転動疲労寿命を向上させることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の浸炭窒化処理方法は炭素および窒素を拡散させる拡散処理であるため、長時間高温に保持する必要がある。このため、組織が粗大化する等して耐割れ強度の向上を図ることは困難である。また、残留オーステナイトの増加による経年寸法変化率の増大も問題となる。
【0004】
一方、転動疲労に対して長寿命を確保し、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率の増大を防ぐために、鋼の合金設計により組成を調整することによって対処することが可能である。しかし合金設計によると、原材料コストが高くなるなどの問題点が発生する。
【0005】
今後の軸受部品には、使用環境の高荷重化、高温化に伴い、従来よりも、大きな荷重条件でかつより高温で使用できる特性を備えることが要求される。このため、高強度で、転動疲労特性が長寿命で、高度の耐割れ強度と寸法安定性とを有する軸受部品が必要になる。
【0006】
本発明は、高度の耐割れ強度と寸法安定性とを有し、転動疲労寿命に優れた軸受部品および転がり軸受を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受は、内輪、外輪および複数の転動体を有する転がり軸受である。この転がり軸受では、内輪、外輪および転動体のうち少なくともいずれか一つの部材が浸炭窒化層を有し、その部材の水素含有率が0.5ppm以下であり、当該部材のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超え、当該部材はJIS規格SUJ2からなっている。
【0008】
この構成により、水素に起因する鋼の脆化を軽減することができる。水素が0.5ppmを超えると、割れ強度が低下して過酷な荷重が加わる部位には使用できにくくなる。水素量は低いほうが望ましい。しかし、0.3ppm未満に減らすためには、長時間の加熱が必要になり、オーステナイト粒径が粗大化し、かえって靭性が劣化してしまう。このため、より望ましい水素水素量は0.3〜0.5ppmの範囲である。さらに望ましくは、0.35〜0.45ppmの範囲である。
【0009】
なお、上記の水素含有率は、拡散性水素は測定の対象にはせず、所定温度以上で鋼から放出される非拡散性水素のみを測定の対象とするものである。拡散性水素量は、サンプルサイズが小さければ、常温でもサンプルから放出され散逸してしまうので、測定の対象から外している。非拡散性水素は、鋼中の欠陥部などにトラップされており、所定の加熱温度以上ではじめてサンプルから放出される水素である。この非拡散性水素に限定しても、水素含有率は、測定方法によって大きく変動する。上記の水素含有率範囲は熱伝導度法による測定方法による範囲である。さらに、後記するように、LECO社製DH−103型水素分析装置またはそれに準じる測定装置を用いて測定することが望ましい。
【0011】
また、オーステナイト粒径が微細であることにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト粒径の粒度番号が10番以下では、高温下での転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える粒度番号とする。オーステナイト粒径は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。なお、上記の軸受部品のオーステナイト粒は、浸炭窒化処理の影響を大きく受けている表層部でも、それより内側の内部でも変化しない。
【0012】
上記の転がり軸受における内輪、外輪および複数の転動体のうちのいずれかの部材は、転がり軸受に組み込まれる軸受部品である。その軸受部品の水素含有率が上記範囲にあるとき割れ強度が向上し、さらに加えてそのオーステナイト粒の粒度番号が上記範囲にあるとき転動疲労寿命が向上する。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態における転がり軸受を示す概略断面図である。図1において、この転がり軸受10は、外輪1と、内輪2と、転動体3とを主に有している。転動体3は、外輪1と内輪2との間に配置された保持器により転動可能に支持されている。
【0014】
次に、これら転がり軸受の外輪、内輪および転動体の少なくとも1つの軸受部品に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。図2は本発明の実施の形態における熱処理方法を示す図である。また、図3は本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を示す図である。図2は1次焼入れおよび2次焼入れを行なう方法を示す熱処理パターンであり、図3は焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンである。どちらも本発明の実施の態様例である。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。
【0015】
なお、水素量のみを本発明の範囲に入れる場合には、T2温度である2次焼入温度を浸炭窒化処理の加熱温度T1(1次焼入温度)より低くする必要はなく、2次焼入温度T2を1次焼入温度T1以上にしてもよい。すなわち、T2がT1より高くても水素含有率は本発明の範囲内に入れることができる。しかし、2次焼入温度を1次焼入温度未満とすることにより、水素量を低減した上で、さらにオーステナイト粒径が粒度番号10番を超えるようにすることができる。したがって、T2がT1未満であることが望ましい。
【0016】
また、上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上述したように、上記の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径を従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労特性が長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0017】
図4は、軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図4(a)は本発明例の軸受部品であり、図4(b)は従来の軸受部品である。すなわち、上記図2に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(b)に示す。また、図5(a)および図5(b)に、上記図4(a)および図4(b)を図解したオーステナイト結晶粒界を示す。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図4(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。
【0018】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。
【0019】
(実施例1)
JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用いて、本発明の実施例1を行なった。表1に示した各試料の製造履歴を以下に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
(試料A〜D;本発明例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。図2に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から1次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度域780℃〜830℃に加熱して2次焼入れを行なった。ただし、2次焼入温度780℃の試料Aは焼入不足のため試験の対象から外した。
(試料E、F;本発明例):浸炭窒化処理は、本発明例A〜Dと同じ履歴で行ない、2次焼入れ温度を浸炭窒素処理温度850℃以上の850℃〜870℃で行なった。
(従来浸炭窒化処理品;比較例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。浸炭窒化処理温度からそのまま焼入れを行ない、2次焼入れは行わなかった。
(普通焼入れ品;比較例):浸炭窒化処理を行なわずに、850℃に加熱して焼き入れた。2次焼入れは行わなかった。
【0022】
上記の試料に対して、(1)水素量の測定、(2)結晶粒度の測定、(3)シャルピー衝撃試験、(4)破壊応力値の測定、(5)転動疲労試験、の各試験を行なった。次にこれらの試験方法について説明する。
【0023】
I 実施例1の試験方法
(1)水素量の測定
水素量は、LECO社製DH−103型水素分析装置により、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定してない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を下記に示す。
【0024】
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大なるほう)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料重量サイズ:10mg〜35g(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO4)2 、 アスカライト NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージングガス:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40PSI(2.8kgf/cm2)である。
【0025】
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取出し抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2)結晶粒度の測定
結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行なった。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片を用いた。
(4)破壊応力値の測定
図6は静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)に用いた試験片を示す図である。図中のP方向に荷重を負荷して破壊されるまでの荷重を測定する。その後、得られた破壊荷重を、下記に示す曲がり梁の応力計算式により応力値に換算する。なお、試験片は図6に示す試験片に限られず、他の形状の試験片を用いてもよい。
【0026】
図6の試験片の凸表面における繊維応力をσ1、凹表面における繊維応力をσ2とすると、σ1およびσ2は下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40)。ここで、Nは円環状試験片の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、e1は外半径、e2は内半径を表す。また、κは曲がり梁の断面係数である。
【0027】
σ1=(N/A)+{M/(Aρo)}[1+e1/{κ(ρo+e1)}]
σ2=(N/A)+{M/(Aρo)}[1−e2/{κ(ρo−e2)}]
κ=−(1/A)∫A{η/(ρo+η)}dA
(5)転動疲労試験、
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置の略図を、表2および図7に示す。図7は転動疲労寿命試験機の概略図である。図7(a)は正面図であり、図7(b)は側面図である。図7(a)および(b)において、転動疲労寿命試験片21は、駆動ロール11によって駆動され、ボール13と接触して回転している。ボール13は、(3/4)”のボールであり、案内ロールにガイドされて、転動疲労寿命試験片21との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
【0028】
II 実施例1の試験結果
(1)水素量
浸炭窒化処理したままの従来浸炭窒化処理品は、0.72ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)が分解して水素が鋼中に侵入したためと考えられる。これに対して、本発明例のB〜Fは、水素量は0.37〜0.42ppmと半分近くにまで減少している。この水素量は普通焼入れ品と同じレベルである。
【0029】
上記の水素量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素量の低減により、本発明例の試料B〜Fのシャルピー衝撃値は大きく改善されている。
(2)結晶粒度
結晶粒度は2次焼入れ温度が、浸炭窒化処理時の焼入れ(1次焼入れ)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト粒は、結晶粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。試料EおよびFならびに従来浸炭窒化処理品および普通焼入品のオーステナイト粒は、結晶粒度番号10であり、試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3)シャルピー衝撃試験
表1によれば、従来浸炭窒化処理品のシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに比して、本発明例の試料B〜Fのシャルピー衝撃値は6.20〜6.65J/cm2と高い値が得られている。この中でも、2次焼入れ温度が低いほうがシャルピー衝撃値が高くなる傾向を示す。普通焼入品のシャルピー衝撃値は6.7J/cm2と高い。
(4)破壊応力値の測定
上記破壊応力値は、耐割れ強度に相当する。表1によれば、従来浸炭窒化処理品は2330MPaの破壊応力値となっている。これに比して、試料B〜Fの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値が得られる。普通焼入品の破壊応力値は2770MPaであり、試料B〜Fの破壊応力値と同等である。このような、試料B〜Fの改良された耐割れ強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有率の低減による効果が大きいと推定される。
(5)転動疲労試験
表1によれば、普通焼入品は浸炭窒化層を表層部に有しないことを反映して、転動疲労寿命L10は最も低い。これに比して従来浸炭窒化処理品の転動疲労寿命は3.1倍となる。試料B〜Fのうち、2次焼入れを浸炭窒化処理温度より低い温度で行なった試料B〜Dの転動疲労寿命は従来浸炭窒化処理品より大幅に向上する。本発明の試料E,Fは、従来浸炭窒化処理品と同等か、それより低い値が得られる。
【0030】
上記をまとめると、本発明例の試料B〜Fは水素量が低くなり、シャルピー衝撃値や耐割れ強度が向上する。しかし、転動疲労寿命まで含めて改良しうるのは、さらにオーステナイト結晶粒度を粒度番号で11番程度以上に微細化した試料B〜Dである。したがって、本発明例に該当するのは試料B〜Fであるが、より望ましい本発明の範囲は、2次焼入れ温度を浸炭窒化処理温度より低くして結晶粒の微細化をさらに図った試料B〜Dの範囲である。
【0031】
(実施例2)
次に実施例2について説明する。下記のA材、B材およびC材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、A材〜C材に共通とした。A材〜C材の製造履歴は次のとおりである。
(A材:比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
(B材:比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
(C材:本発明例):図2の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
【0032】
(1) 転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置は、上述したように、表2および図7に示すとおりである。この転動疲労寿命試験結果を表3に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
表3によれば、比較例のB材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したA材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のC材は、B材の1.74倍、またA材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
【0036】
(2) シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、上述のJISZ2242に準じた方法により行なった。試験結果を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
浸炭窒化処理を行なったB材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのA材(比較例)より高くないが、C材はA材と同等の値が得られた。
【0039】
(3) 静的破壊靭性値の試験
図8は静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。同図に示す試験体を用い、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表5に示す。
KIc=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
【0040】
【表5】
【0041】
予き亀裂深さが浸炭窒化層深さよりも大きくなったため、比較例のA材とB材とには違いはない。しかし、本発明例のC材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
【0042】
(4) 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)
静圧壊強度試験片は、上述のように図6に示す形状のものを用いた。図中、P方向に荷重を付加して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
浸炭窒化処理を行なっているB材は普通焼入れのA材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のC材は、B材よりも静圧壊強度が向上し、A材と遜色ないレベルが得られている。
【0045】
(5) 経年寸法変化率
保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表7に示す。
【0046】
【表7】
【0047】
残留オーステナイト量の多いB材の寸法変化率に比べて、本発明例のC材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
【0048】
(6) 異物混入潤滑下における寿命試験
玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表8に、また試験結果を表9に示す。
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
A材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したB材は約2.5倍になり、また、本発明例のC材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のC材は、比較例のB材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でほぼ同等の長寿命が得られている。
【0052】
上記の結果より、本発明例のC材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造された軸受部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0054】
【発明の効果】
本発明の軸受部品および転がり軸受を用いることにより、浸炭窒化処理層を形成した上で、軸受部品の水素含有率を低減させ、耐割れ強度を向上させることができる。さらに、オーステナイト粒径を粒度番号で10番を超える細粒とすることにより、転動疲労寿命を大きく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態における転がり軸受を示す概略断面図である。
【図2】 本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。
【図3】 本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。
【図4】 軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。(a)は本発明例の軸受部品であり、(b)は従来の軸受部品である。
【図5】 (a)は図4(a)を図解したオーステナイト粒界を示し、(b)は図4(b)を図解したオーステナイト粒界を示す。
【図6】 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。
【図7】 転動疲労寿命試験機の概略図である。(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
【図8】 静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。
【符号の説明】
1 外輪、2 内輪、3 転動体、10 転がり軸受、11 駆動ロール、12 案内ロール、13 (3/4)”ボール、21 転動疲労寿命試験片、T1 浸炭窒化処理温度、T2 焼入れ加熱温度。
Claims (2)
- 内輪、外輪および複数の転動体を有する転がり軸受において、
前記内輪、外輪および転動体のうち少なくともいずれか一つの部材が浸炭窒化層を有し、
前記部材の水素含有率が0.5ppm以下であり、
前記部材のオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超え、
前記部材はJIS規格SUJ2からなっている、転がり軸受。 - 転がり軸受に組み込まれる軸受部品であって、
浸炭窒化処理層を有し、
水素含有率が0.5ppm以下であり、
オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超え、
JIS規格SUJ2からなっている、軸受部品。
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