JP2006046173A - ロッカーアーム用軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 転動疲労寿命に加えて、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命の寿命を長寿命化したロッカーアーム用軸受を提供する。
【解決手段】 ロッカーアーム1に固定された内輪2と、内輪の外方に位置してカム6と接触する外輪4と、外輪と内輪との間に位置する複数のころ3とを備え、外輪、内輪および転動体の少なくとも一つの部材が窒素富化層を有し、その窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超え、かつ窒素富化層の残留オーステナイト量が研削後の転動面の表層部で11〜25体積%の範囲にある。
【選択図】 図1

Description

本発明は、自動車用のエンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用されるロッカーアーム用軸受に関し、より具体的には、転動疲労寿命が長く、かつ割れ疲労強度が高いロッカーアーム用軸受に関するものである。
最近の転がり軸受の中には、たとえばエンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用する軸受のように、総ころタイプでありながら、高速、高荷重用途で使用される軸受が多くなっている。これら保持器の無い総ころタイプの軸受では、とくに、ころ同士の干渉が生じたり、スムーズにころ位置が制御されず、ころのスキューが起こりやすい。また、潤滑油が軸受内部に円滑に供給されず潤滑条件が悪い事態が生じる。この結果、滑り発熱や局部的な面圧上昇、又は潤滑不足が発生する。このため、計算上は大きな負荷容量を持ち、また寿命も要求寿命に対して充分あるにもかかわらず、それより短期間の使用で表面損傷(ピーリング、スミアリング、表面起点型剥離)や内部起点型剥離が発生し、軸受として機能しなくなる場合が多い。
エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用する軸受のように、その外輪がカムと転がり接触する用途では、従来は、主に外輪の外周部の改良を目的とした開発がなされてきた。たとえばショットピーニングなどの加工による圧縮残留応力付与、高濃度浸炭による高硬度化による長寿命化などは主に相手カムと転動接触する外輪の外周部の改良のために行われてきた。これらの改良策はつぎのようにまとめられる。
(1) 転動疲労寿命向上のため、軸受部品の軌道輪にショットピーニングを適用し、強化層、残留オーステナイト含有層、焼入れ硬化層を表面から内部に順に設けた軸受部品(特許文献1)。
(2) マルテンサイト組織中の炭化物の大きさ、面積率、残留オーステナイト量および硬さを、ショットピーニングすることにより効率的に調整する技術(特許文献2)。
(3) 転動疲労寿命向上のため、ショットピーニングによる残留圧縮応力ピーク高さおよび分布を、使用時に作用する最大剪断応力および作用深さに一致させる技術(特許文献3)。
(4) 浸炭軸受において、長寿命化のためにショットピーニングを施し、最終表面仕上げ加工を施した後の表面において、残留圧縮応力σ(MPa)と残留オーステナイトγ(%)の組合せを、0.001σ+0.3γ≧1.0を満足するようにする制御方法。
(5) 外輪の外径の硬度を相手カムと同等の硬度とし、かつ外輪の内径の硬度を外径の硬度よりも高くしたロッカーアーム用軸受(特許文献4)。
(6) 対向する他の部品と転がり接触または転がりすべり接触する部品の表面から0〜50μmの深さの表層部において、最大圧縮応力:50〜110kgf/mm2、硬度:HV830〜960、残留オーステナイト:7%以上、表面粗さの平均波長:25μm以下、のすべての項目をショットピーニングにより達成したもの(特許文献5)。
上記したように、内輪に相当する軸、ころ、また軸受全体の転がり寿命を延ばすための改良は少ないものの、次に示すように材質面からは浸炭窒化による耐熱性やミクロ組織安定性の付与、高硬度化などによって軸受の長寿命化を図った例がある。
(7) エンジンの動弁機構用のロッカーアーム用軸受において、エンジンの定格回転数での上記転がり軸受の計算寿命を1000時間以上とするもの(特許文献6)。
(8) 炭化物の比率:10〜25%、残留オーステナイトの初期値に対する分解率:1/10〜3/10、端面硬度:HV830〜960、表面粗さの平均波長:25μm以下、のすべての項目を満たすロッカーアーム用軸受を実現するために、軸受鋼に浸炭窒化処理とハードショットピーニング処理を施したもの(特許文献7)。
(9) 軸の耐摩耗性向上のため、軸に高分子化合物などの固体潤滑膜を形成したロッカーアーム用軸受部品(特許文献8)。
(10) 工具鋼などにより形成し、焼戻し温度よりも低い温度でイオン窒化やイオンプレーティングで高硬度にしたロッカーアーム用軸受部品(特許文献9)。
(11) 軸に対する曲げ応力を150MPa以下にしたエンジンの動弁機構用ロッカーアーム用軸受(特許文献10)。
(12) 軸受構成部品の転走面に潤滑油保持性に優れたリン酸塩皮膜を付けたエンジンの動弁機構用転がり軸受(特許文献11)。
(13) 軸のころ転動領域にクラウニングを付けたエンジンの動弁機構用軸受(特許文献12)。
(14) 軸の転走面表層の炭素濃度を1.2%〜1.7%Cにした高濃度浸炭処理、または浸炭窒化処理を行ない、内部硬度はHV300にした浸炭軸(特許文献13)。
特開平2−168022号公報 特開2001−65576号公報 特開平3−199716号公報 実開平3−119508号公報 特許第3125434号公報 特開2000−38907号公報 特開平10−47334号公報 特開平10−103339号公報 特開平10−110720号公報 特開2000−38906号公報 特開2002−31212号公報 実開昭63−185917号公報 特開2002−194438号公報
エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられるロッカーアームに使用する軸受においても、通常の軸受同様、使用時の高速化と大荷重化、潤滑油の低粘度化が進むと予想される。このような条件での軸受の寿命を支配する要因は、通常の荷重依存型の転動疲労寿命に加えて、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命がある。よって、両方の寿命を長寿命化する必要がある。
しかし、これまで、両方の寿命を大幅に延長させる技術は確立されていない。これまでの公知の技術は、高硬度、高い圧縮応力により相手カムとの転動疲労寿命を向上させるものが主体であった。これらを実際に軸受として評価すると、外輪の疲労強度や外輪外径面の耐磨耗性に対しては効果があり、良好な結果が得られるものの、軸受の内輪に相当する軸や転動体(ころ)の転動疲労寿命を向上させるには、上記の技術だけでは良好な結果を得ることができなかった。
本発明は、エンジンのインテイクバルブやエグゾーストバルブの開閉に用いられ、高速化と大荷重化、潤滑油の低粘度化の使用条件下で、転動疲労寿命に加え、金属接触による表面損傷に対する表面損傷寿命を長寿命化したロッカーアーム用軸受を提供することを目的とする。
本発明のロッカーアーム用軸受は、エンジンのバルブとカムとの間に介在して吸排気を調節するロッカーアームに固定された内輪に相当する軸と、内輪の外方に位置してカムと接触する外輪と、外輪と内輪との間に位置する複数の転動体とを備える。そして、外輪、内輪および転動体の少なくとも一つの部材が窒素富化層を有し、その窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、かつ窒素富化層の残留オーステナイト量が研削後の転動面の表層50μmで11〜25体積%の範囲にある。
上記内輪に相当する軸は、中実の軸でも中空の軸でもよい。これら内輪に相当する軸を、内輪と表現する。
上記本発明の構成において、オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えるほど、オーステナイト結晶粒の粒径を微細とすることにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト結晶粒の粒度番号が10番以下では、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える範囲とする。通常、11番以上とする。また、平均結晶粒径を6μm以下としてもよい。オーステナイト結晶粒は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。
なお、前記外輪、内輪または転動体のオーステナイト結晶粒は、窒素富化層が存在する表層部でも、それより内側の内部でも変化しない。したがって、上記の結晶粒度番号の範囲の対象となる位置は、表層部及び/又は内部とする。ここで、オーステナイト結晶粒は、焼入れ処理を行った後も焼入れ直前のオーステナイト結晶粒界の痕跡が残っており、その痕跡に基づいた結晶粒をいう。その粒度番号は実施の形態で説明するようにJIS規格等にしたがって測定することができる。
上記本発明の構成において、残留オーステナイト量を11体積%以上にすると、局所的に損傷を生成するほどの応力及び/又はひずみが印加されても残留オーステナイトがマルテンサイトに変態して体積膨張するため損傷が発生しないように圧縮応力が生成する。このため表面損傷寿命が向上する。残留オーステナイト量が、11%未満では表面損傷寿命の向上は小さい。一方、残留オーステナイト量が25体積%より多いと、残留オーステナイト量が通常の浸炭窒化処理と差異がなくなり、上記の残留オーステナイトからマルテンサイトへの変態に伴なう体積膨張が過度になり経年寸法変化が増大するため好ましくない。このため残留オーステナイトは11体積%〜25体積%とする。より好ましい範囲は、15体積%〜25体積%である。
残留オーステナイト量11体積%〜25体積%、または15体積%〜25体積%は、研削後の転動面の表層部の値である。例えば、X線回折によるマルテンサイトα(211)と残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で測定することができる。
また、前記窒素富化層における窒素含有量が0.1重量%〜0.7重量%の範囲であることが好ましい。窒素富化層は、前記外輪、内輪または転動体の表層に形成された窒素含有量を増加した層であって、例えば浸炭窒化、窒化、浸窒などの処理によって形成することができる。窒素富化層における窒素含有量は、好ましくは0.1重量%〜0.7重量%の範囲である。窒素含有量が0.1重量%より少ないと、残留オーステナイトの生成、高硬度化などへの効果が小さく、特に表面損傷寿命が低下する。窒素含有量が0.7重量%より多いと、ボイドと呼ばれる空孔ができたり、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が出なくなったりして短寿命になる。窒素富化層の窒素含有量は、研削後の転動面の表層部における値であって、例えば、EPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)で測定することができる。なお、窒素含有量は窒素含有率と言い換えることもできる。
上記のロッカーアーム用軸受では、ロッカーアームはその一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自在に支持され、一方の端部は二股状の内輪支持部を有し、その二股状の内輪支持部に内輪が固定され、他方の端部には、エンジンのバルブの端部が当接するようにできる。
また、上記のロッカーアーム用軸受では、ロッカーアームの一方の端部にエンジンのバルブの端部が当接し、他方の端部にピボットが適合し、ロッカーアームの一方の端部と他方の端部との間の、対向する2つの側壁の内輪用孔にわたって内輪が固定されるようにしてもよい。
さらに、上記のロッカーアーム用軸受では、ロッカーアームがその一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自由に支持され、その一方の端部にエンジンのバルブの端部が当接し、他方の端部に、カム軸からの応力を伝達する連動棒の一方の端が当接し、連動棒の他方の端部にロッカーアーム用軸受の内輪が固定され、その外輪がカムと接触する構成としてもよい。
上記のロッカーアームと転がり軸受との組み合わせは、カムからの駆動力をエンジンのバルブに伝える点で共通するが、その構造が異なっており、異なるエンジンの型式にそれぞれ対応できるようになっている。
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態における転がり軸受を含むロッカーアームの構成を示す概略正面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図1および図2を参照して、回動部材であるロッカーアーム1は、中央部において軸受メタル19などを介してロッカーアーム軸5に回転自在に支持されている。
このロッカーアーム1の他の端部1bには、アジャストねじ7が螺挿されている。このアジャストねじ7はロックナット8により固定され、その下端において内燃機関の給気弁もしくは排気弁のバルブ9の上端と当接している。このバルブ9はばね10の弾発力で付勢されている。
ロッカーアーム1は、一の端部1aに転がり軸受50が設けられる。転がり軸受50の内輪に相当する軸2は二股状に形成された内輪支持部14に支持されている。この二股状の内輪支持部14に、内輪に相当する軸2の両端が圧入もしくは止め輪により固定されている。この内輪2の外周面中央部には、ころ3を介して回転自在に、外輪を構成するローラ4が支持されている。内輪2と外輪4との間に介在する軸受を構成するのはころ3である。すなわち、内輪2と外輪4との間に転動体(ころ)3が介在する。ころ3の軸線方向は、内輪の軸線に平行に配置されている。外輪4の外周面は、ばね10の付勢力によりカム軸に設けられたカム6のカム面に当接されている。一方の端部と他方の端部との間にはとくに区別はなく、説明の順序で早く説明する端部を一方の端部とする意味しかない。
カム6が回転すると、カム6に押されてロッカーアーム1が上下方向に振動し、この振動がロッカーアーム軸5を支点としてバルブ9に伝わり、バルブ9が開閉動作を行なう。本実施の形態のロッカーアーム用転がり軸受50は、保持器が用いられない総ころ軸受であり、ローラ軸2と、複数のころ3と、ローラ4とにより構成されている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、ロッカーアーム1とカム6との間の摩擦を低減し、耐磨耗性を向上させる役割を果たしている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、カム6と接触しながら回転するものであるため、ローラ4にはカム6の押付け力と衝撃力とが作用する。
ここで、内輪2と、ころ3よりなる転動体と、外輪4とにより構成される転がり軸受がロッカーアーム用総ころ軸受として用いられている。一般に、保持器が用いられない場合、総ころ軸受と呼称される。上記のロッカーアーム用総ころ軸受は、カム6と接触しながら回転するので、外輪4にはカム6の押付け力と衝撃力とが作用する。本発明の実施の形態のエンジンのロッカーアームは、上記ロッカーアーム用総ころ軸受を備える部材である。
カム6が回転すると、カム6に押されてロッカーアーム1が上下方向に振動し、この振動がロッカーアーム軸5を支点としてバルブ9に伝わり、バルブ9が開閉動作を行なう。本実施の形態のロッカーアーム用転がり軸受50は、保持器が用いられない総ころ軸受であり、ローラ軸2と、複数のころ3と、ローラ4とにより構成されている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、ロッカーアーム1とカム6との間の摩擦を低減し、耐磨耗性を向上させる役割を果たしている。ロッカーアーム用転がり軸受50は、カム6と接触しながら回転するものであるため、ローラ4にはカム6の押付け力と衝撃力とが作用する。
図3は、本発明の他の実施の形態におけるエンジンのロッカーアーム用軸受を示す図である。ロッカーアーム用軸受50は、ロッカーアーム1の一方の端部1bと他方の端部1aとの間に開けられ2つの側壁の間にわたる内輪用孔(図示せず)に内輪2を固定し、一方の端にエンジンの開閉用バルブ9の端部が当接し、他方の端に図示しないピボットが適合する。ピボット孔15を設けたロッカーアームは、ピボットの周りで所定の向きにばね10によって付勢され、カム6から伝達される駆動力を外輪4で受けて、前記ばねの付勢力に抗してバルブ9を動かす。
また、図4は、本発明のさらに別の実施の形態におけるエンジンのロッカーアームを示す図である。図5は、図4のロッカーアーム転がり軸受を含む部分を拡大した図である。図4において、ロッカーアーム1の中央部に回転軸5が配置され、その周りにロッカーアーム1が回動する。ロッカーアーム1の一方の腕の端部1bは、エンジンバルブ9の端と当接し、他方の腕の端部1aは、連動棒16の端と当接する。アジャストねじ8はロッカーアームの端部1aと連動棒16との当接位置を調節する機能を有する。
連動棒16の下端に位置する中空の軸受取付部16aに、ロッカーアーム用軸受(ロッカーアーム用総ころ軸受)50が、取付部材17によって取り付けられる。カム6はこの総ころ軸受の外輪4に当接して駆動力を連結棒に伝達する。
上記エンジンのロッカーアーム用軸受を構成する部材のうち、ころ3、内輪2および外輪4のうち少なくとも1つの部材は、その製造方法の一例として例えばこれから説明する低温2次焼入れ法の熱処理を施され、微細オーステナイト粒とされている。
次に、これら転がり軸受の外輪(ローラ)、内輪(ローラ軸)および転動体の少なくとも1つの軸受部品に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。図6は、本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。また、図7は、本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。図6は1次焼入れおよび2次焼入れを行なう方法を示す熱処理パターンであり、図7は焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンである。どちらも本発明の実施の態様例である。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。
上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上述したように、上記の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径を従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労特性が長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
図8は軸受部品のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図8(a)は本発明例の軸受部品であり、図8(b)は従来の軸受部品である。すなわち、上記図7に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図8(b)に示す。また、図9(a)および図9(b)は、上記図8(a)および図8(b)を図解したオーステナイト結晶粒界を示す図である。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番以下の番号であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図9(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。次に、本発明の実施例について説明する。
JIS規格SUJ2を用いて、転動疲労試験用の軸受を製作した。軸受はロッカーアームに使用する総ころタイプのニードル軸受である。内輪は、外径φ14.64mm×幅L17.3mmであり、外輪は内径φ18.64mm×外径φ24mm×幅L6.9mmである。ころは外径φ2mm×長さL6.8mmを26本用い、保持器を用いない総ころタイプの構成とした。この軸受の基本動定格荷重は8.6kN、基本静定格荷重は12.9kNである。各試験軸受の製造履歴は次の通りである。
試験体No.1〜3(本発明例): 浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。その際、試験軸受1〜3でRXガスとアンモニアガスとの混合比を変更して処理を行った。その後、図6に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から一次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で20分間加熱して二次焼入を行ない、次いで、180℃で90分間焼戻を行った。
試験体No.4は標準熱処理を行った。(RXガス雰囲気中で、加熱温度840℃、保持時間20分で加熱後、焼入れを行い、次いで180℃で90分間焼戻を行った。)
試験体No.5,6は浸炭窒化処理を行った。(RXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中で、加熱温度850℃、保持時間150分間で加熱した。その際、試験体No.5,6でRXガスとアンモニアガスとの混合比を変更して処理を行った。その後、850℃から焼入れを行い、次いで180℃で90分間焼戻を行った。)前記製造方法で製作した試験軸受の内輪の材質調査結果および機能評価試験結果を表1に示す。
Figure 2006046173
次に材質調査方法および機能評価試験方法について説明する。
(1) オーステナイト結晶粒度:オーステナイト結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行った。
(2) 残留オーステナイト量:残留オーステナイト量の測定は、X線回折によるマルテンサイトα(211)と残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で行った。残留オーステナイト量は研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(3) 窒素含有量:窒素含有量の測定は、EPMAを用いて行った。窒素含有量は研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(4) 表面硬さ:表面硬さの測定は、ビッカース硬度計(1kgf)を用いて行った。
(5) 球状化炭化物の面積率:球状化炭化物の面積率は、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラール)を用い腐食した後、光学顕微鏡(400倍)で観察し測定を行った。球状化炭化物の面積率は研削後の転動面の表層50μmにおける値を採用した。
(6) 転動疲労寿命:試験装置を図10に、また試験条件を表2に示す。この試験装置は外輪回転の試験装置である。試験機に組み込まれた内輪52(2)と外輪54(4)との間に複数個の針状ころ53(3)を転動可能に配置した構成のものを用い、この外輪54を部材55によりラジアル荷重をかけながら所定の速度で回転させることにより転動疲労試験を行った。
Figure 2006046173
(7) 静的割れ強度:試験軸受の外輪を用いて、単体にてアムスラー試験機で荷重をかけ静的割れ強度試験を行った。
(8) 割れ疲労強度:試験軸受の外輪を用いて、表3に示す試験条件で割れ疲労強度試験を行った。
Figure 2006046173
転動疲労寿命試験,静的割れ強度試験,及び割れ疲労強度試験結果は、標準熱処理品No.4を1として各試験軸受の結果を比率で表した。表1に示した試験結果を説明する。
(1) オーステナイト結晶粒度:本発明例の試験体No.1〜3は結晶粒度番号が11〜12と顕著に微細化されている。標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品の試験体No.4〜6は、結晶粒度番号が8〜9と本発明品より粗大なオーステナイト結晶粒となっている。
(2) 残留オーステナイト量:本発明例の試験体No.1〜3は12〜24体積%であり、適度なオーステナイトが存在する。標準熱処理品の試験体No.4は8体積%であり、本発明例より少ない。また、従来の浸炭窒化処理品の試験体No.5,6は29〜36体積%であり、発明品より多い。発明品のオーステナイト量は標準熱処理品と従来の浸炭窒化処理品の間の残留オーステナイト量である。
(3) 窒素含有量:本発明例の試験体No.1〜3は0.12〜0.62重量%である。標準熱処理品の試験体No.4は浸炭窒化処理を行っていないため窒素含有量は0%であった。また、従来の浸炭窒化処理品の試験体No.5,6は0.31〜0.70重量%であった。本発明例の窒素含有量は、従来の浸炭窒化処理品と比べ、若干低い傾向であった。これは、本発明例が従来の浸炭窒化処理後に浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で2次焼入れを行うためと考えられる。
(4) 表面硬さ:本発明例の試験体No.1〜3はHV730〜780である。標準熱処理品の試験体No.4はHV740である。また、従来の浸炭窒化処理品の試験体No.5,6はHV760,HV650であり、試験体No.6に関しては、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が出なくなっている。
(5) 球状化炭化物の面積率:本発明例の試験体No.1〜3は、11.4〜13.6%である。標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品の試験体No.4〜6は7.9〜9.6%である。本発明例は標準熱処理品及び従来の浸炭窒化処理品と比べると、球状化炭化物の面積率が多く、微細化されており、量も多い。これは、本発明例が従来の浸炭窒化処理後に浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で2次焼入れを行うためと考えられる。
(6) 転動疲労寿命試験:本発明例の試験体No.1〜3は、標準熱処理品の試験体No.4と比べ、3倍以上の転動疲労寿命を有しており、浸炭窒化処理品の試験体No.5,6と比べても1.5倍以上の転動疲労寿命を有している。また、浸炭窒化処理品の試験体No.5,6は標準熱処理品の試験体No.4と比べ2倍弱の転動疲労寿命を有している。
(7) 静的割れ強度試験:本発明例の試験体No.1〜3は、標準熱処理品の試験体No.4と比べ、同等もしくはやや改善している。また、浸炭窒化処理品の試験体No.5,6は、標準熱処理品の試験体No.4と比べ静的割れ強度が低下している。これは、表層部の窒素富化層とオーステナイト結晶粒の粗大化に原因があると考える。
(8) 割れ疲労強度試験:本発明例の試験体No.1〜3は、標準熱処理品の試験体No.4と比べ、20%以上改善している。また、浸炭窒化処理品の試験体No.5,6も、標準熱処理品の試験体No.4と比べ20%以上改善している。これは、表面への窒素の浸入により、表層部に圧縮残留応力が形成したことが原因であると考える。
上記をまとめると、本発明例の試験体No.1〜3は、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、通常の荷重依存型の転動疲労寿命、割れ疲労強度が改善する。
つぎに本発明の実施例2について説明する。実施例2では、JIS規格SUJ2を用いて、ピーリング、スミアリング試験片を製作した。試験片は外径φ40mm×幅L12の寸法である。各試験軸受の製造履歴は次の通りである。
試験体No.1(本発明例): 浸炭窒化処理温度850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。その後、図6に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から一次焼入れを行い、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度800℃で30分間加熱して二次焼入を行い、次いで、180℃で90分間焼戻を行った。
試験体No.2は標準熱処理を行った。(RXガス雰囲気中で、加熱温度840℃、保持時間30分で加熱後、焼入れを行い、次いで180℃で90分間焼戻を行った。)
試験体No.3は浸炭窒化処理を行った。(RXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中で、加熱温度850℃、保持時間150分間で加熱した後、850℃から焼入れを行い、次いで180℃で90分間焼戻を行った。)
前記製造方法で製作した試験体の材質調査結果およびピーリング試験,スミアリング試験結果を表4に示す。
Figure 2006046173
次に機能評価試験方法について説明する。
(1) ピーリング試験:表5に示す試験条件で、面粗さの粗いJIS規格SUJ2の標準熱処理品を相手試験片として、試験片と相手試験片を転動接触させた場合に試験片上に発生するピーリング(微細な剥離の集合体)の面積率を測定し、ピーリング強度とした。ピーリング強度比は標準熱処理品No.2を1として各試験軸受の結果を比率の逆数で表した。
Figure 2006046173
(2) スミアリング試験:表6に示す試験条件で、試験片も相手試験片も同一材質の組合せで、試験片同士を転動接触させ、試験片のみ回転数を一定の割合で増速させた場合に、発生する音がある値より大きくなった瞬間の試験片同士の相対回転速度をスミアリング強度とした。スミアリング強度比は標準熱処理品No.2を1として各試験軸受の結果を比率で表した。
Figure 2006046173
以下に表4に示した試験結果を説明する。
(1) ピーリング試験:本発明例の試験体No.1は、標準熱処理を施した比較例の試験体No.2と比べ、1.5倍以上のピーリング強度を有しており、浸炭窒化処理品の試験体No.3と比べて同じかやや改善している。これは、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いことが、靭性を高め、亀裂の発生および進展に対する抵抗力を高めたと考える。
(2) スミアリング試験:本発明例の試験体No.1は、標準熱処理品の試験体No.2と比べ、1.5倍以上のスミアリング強度を有しており、浸炭窒化処理品の試験体No.3と比べて同じかやや改善している。これは、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いことが、大きなすべり条件での表層の塑性流動を抑え、耐焼き付き性を高めたと考える。上記をまとめると、本発明例の試験体No.1はピーリング試験,スミアリング試験ともに従来の軸受材質よりも良好である。潤滑条件が悪く、ころ同士の干渉が生じたり、スムーズにころ位置が制御されず、ころのスキューが発生することによる表面損傷寿命も改善する。
本発明例は、表層部に窒素富化層を有し、オーステナイト結晶が粒度番号で11番以上に微細化され、残留オーステナイト量が適度に有り、適正な表面硬さを有し、球状化炭化物の面積率が多いため、亀裂の発生、進展に対する抵抗力が非常に大きく、すべりによる表面発熱や接線力による表面亀裂の発生を抑えることができる。
本発明の実施例3では、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用いて、(1)水素量の測定、(2)結晶粒度の測定、(3)シャルピー衝撃試験、(4)破壊応力値の測定、(5)転動疲労試験、の各試験を行った。表7にその結果を示す。
Figure 2006046173
各試料の製造履歴は次のとおりである。
試料A〜D(本発明例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。図6に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から一次焼入れをおこない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度域780℃〜830℃に加熱して二次焼入れを行なった。ただし、二次焼入れ温度780℃の試料Aは焼入れ不足のため試験の対象から外した。
試料E、F(比較例):浸炭窒化処理は、本発明例A〜Dと同じ履歴で行ない、二次焼入れ温度を浸炭窒化処理温度850℃以上の850℃〜870℃で行なった。
従来浸炭窒化処理品(比較例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。浸炭窒化処理温度からそのまま焼入れを行ない、二次焼入れは行なわなかった。
普通焼入れ品(比較例):浸炭窒化処理を行なわずに、850℃に加熱して焼入れした。二次焼入れは行なわなかった。
次に、試験方法について説明する。
(1) 水素量の測定
水素量は、LECO社製DH−103型水素分析装置により、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定していない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を以下に示す。
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大なるほう)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料重量サイズ:10mg〜35mg(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO42、アスカライト NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージング:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40psi(2.8kgf/cm2)である。
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取り出し、抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2) 結晶粒度の測定
結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3) シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行った。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片(JIS3号試験片)を用いた。
(4) 破壊応力値の測定
図11は、静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。図中のP方向に荷重を負荷して破壊されるまでの荷重を測定する。その後、得られる破壊荷重を、下記に示す曲がり梁の応力計算式により応力値に換算する。なお、試験片は図11に示す試験片に限られず、他の形状の試験片を用いてもよい。
図11の試験片の凸表面における繊維応力をσ1、凹表面における繊維応力をσ2とすると、σ1およびσ2は下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40)。ここで、Nは円環状試験片の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、e1は外半径、e2は内半径を表す。また、κは曲がり梁の断面係数である。
σ1=(N/A)+{M/(Aρo)}[1+e1/{κ(ρo+e1)}]
σ2=(N/A)+{M/(Aρo)}[1−e2/{κ(ρo−e2)}]
κ=−(1/A)∫A{η/(ρo+η)}dA
(5) 転動疲労試験
転動疲労寿命試験の試験条件を表8に示す。また、図12は、転動疲労寿命試験機の概略図である。図12(a)は正面図であり、図12(b)は側面図である。図12(a)および図12(b)において、転動疲労寿命試験片21は、駆動ロール11によって駆動され、ボール13と接触して回転している。ボール13は、(3/4)インチのボールであり、案内ロール12にガイドされて、転動疲労寿命試験片21との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
Figure 2006046173
表7に示した試験結果は次のようにまとめられる。
(1) 水素量
浸炭窒化処理したままの従来浸炭窒化処理品は、0.72ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)が分解して水素が鋼中に侵入したためと考えられる。これに対して、試料B〜Dは、水素量は0.37〜0.40ppmと半分近くにまで減少している。この水素量は普通焼入れ品と同じレベルである。
上記の水素量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素量の低減により、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は大きく改善されている。
(2) 結晶粒度
結晶粒度は2次焼入れ温度が、浸炭窒化処理時の焼入れ(1次焼入れ)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト粒は、結晶粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。試料EおよびFならびに従来浸炭窒化処理品および普通焼入品のオーステナイト粒は、結晶粒度番号10であり、本発明例の試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3) シャルピー衝撃試験
表7によれば、従来浸炭窒化処理品のシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに比して、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は6.30〜6.65J/cm2と高い値が得られている。この中でも、2次焼入れ温度が低いほうがシャルピー衝撃値が高くなる傾向を示す。普通焼入品のシャルピー衝撃値は6.70J/cm2と高い。
(4) 破壊応力値の測定
上記破壊応力値は、耐割れ強度に相当する。表7によれば、従来浸炭窒化処理品は2330MPaの破壊応力値となっている。これに比して、試料B〜Dの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値が得られる。普通焼入品の破壊応力値は2770MPaであり、試料B〜Fの破壊応力値と同等である。このような、試料B〜Dの改良された耐割れ強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有率の低減による効果が大きいと推定される。
(5) 転動疲労試験
表7によれば、普通焼入品は浸炭窒化層を表層部に有しないことを反映して、転動疲労寿命L10は最も低い。これに比して従来浸炭窒化処理品の転動疲労寿命は3.1倍となる。試料B〜Dの転動疲労寿命は従来浸炭窒化処理品より大幅に向上する。本発明の試料E,Fは、従来浸炭窒化処理品とほぼ同等である。
上記をまとめると、本発明例の試料B〜Dは、水素含有率が低下し、オーステナイト結晶粒度が11番以上に微細化され、シャルピー衝撃値、耐割れ強度および転動疲労寿命も改善される。
次に本発明の実施例4について説明する。下記のX材、Y材およびZ材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、X材〜Z材に共通とした。X材〜Z材の製造履歴は次のとおりである。
X材(比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
Y材(比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
Z材(本発明例):図6の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
(1) 転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置は、上述したように、表8および図12に示すとおりである。この転動疲労寿命試験結果を表9に示す。
Figure 2006046173
表9によれば、比較例のY材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したX材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のZ材は、Y材の1.74倍、またX材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
(2) シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、上述のJISZ2242に準じた方法により行なった。試験結果を表10に示す。
Figure 2006046173
浸炭窒化処理を行なったY材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのX材(比較例)より高くないが、Z材はX材と同等の値が得られた。
(3) 静的破壊靭性値の試験
図13は、静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。この試験片のノッチ部に、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表11に示す。
Ic=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
Figure 2006046173
予き亀裂深さが浸炭窒化層深さよりも大きくなったため、比較例のA材とB材とには違いはない。しかし、本発明例のC材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
(4) 静圧壊強度試験
静圧壊強度試験片は、上述のように図11に示す形状のものを用いた。図中、P方向に荷重を付加して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表12に示す。
Figure 2006046173
浸炭窒化処理を行なっているY材は普通焼入れのX材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のZ材は、Y材よりも静圧壊強度が向上し、X材と遜色ないレベルが得られている。
(5) 経年寸法変化率
保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表13に示す。
Figure 2006046173
残留オーステナイト量の多いY材の寸法変化率に比べて、本発明例のZ材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
(6) 異物混入潤滑下における寿命試験
玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表14に、また試験結果を表15に示す。
Figure 2006046173
Figure 2006046173
X材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したY材は約2.5倍になり、また、本発明例のZ材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のZ材は、比較例のY材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でほぼ同等の長寿命が得られている。
上記の結果より、本発明例のZ材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造された軸受部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明のロッカーアーム用軸受を用いることにより、転動疲労寿命の改善に加えて、滑りや油膜切れが原因で生じる金属接触による表面損傷寿命をも改善するので、希薄潤滑条件においてもまた高速化、高荷重化条件においてもロッカーアーム等の長寿命化を得ることができる。このため、自動車のエンジンを主対象に広範に利用されることが期待される。
本発明の実施の形態における転がり軸受を含むロッカーアームを示す図である。 図1のII-II線に沿う断面図である。 本発明の実施の形態における転がり軸受を含む別の形式のロッカーアームを示す図である。 本発明の実施の形態における転がり軸受を含むさらに異なる形式のロッカーアームを示す図である。 図4に示す転がり軸受の部分の拡大図である。 本発明の転がり軸受の内輪、外輪および転動体の少なくとも1つに適用される熱処理パターンを示す図である。 本発明の転がり軸受の内輪、外輪および転動体の少なくとも1つに適用される、図6の変形例の熱処理パターンを示す図である。 (a)は本発明の転がり軸受の部品のオーステナイト粒(ミクロ組織)を示す図であり、(b)は従来の転がり軸受の部品のオーステナイト粒(ミクロ組織)を示す図である。 (a)は図8(a)を図解したオーステナイト結晶粒界を示し、(b)は図8(b)を図解したオーステナイト粒界を示す図である。 転動疲労寿命試験装置を示す図である。 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。 (a)は転動疲労寿命試験機の正面図であり、(b)は側面図である。 静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。
符号の説明
ロッカーアーム、1a,1b ロッカーアームの端部、2 ローラ軸(内輪)、3 ころ(転動体)、4 ローラ(外輪)、5 ロッカーアーム軸、6 カム、7 アジャストねじ、8 ロックナット、9 バルブ、10 ばね、14 内輪支持部、15 ピボット、16 連動棒、16a 軸受取付部、17 取付部材、19 軸受メタル、50 ロッカーアーム用軸受、T1 浸炭窒化処理温度、T2 焼入れ加熱温度。

Claims (6)

  1. エンジンのバルブとカムとの間に介在して吸排気を調節するロッカーアームに固定された内輪と、前記内輪の外方に位置して前記カムと接触する外輪と、前記外輪と内輪との間に位置する複数の転動体とを備えたロッカーアーム用軸受において、
    前記外輪、内輪および転動体の少なくとも一つの部材が窒素富化層を有し、その窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあり、かつ前記窒素富化層の残留オーステナイト量が研削後の転動面の表層部で11体積%〜25体積%の範囲にある、ロッカーアーム用軸受。
  2. 前記窒素富化層の窒素含有量が研削後の転動面の表層部で0.1重量%〜0.7重量%の範囲にある、請求項1に記載のロッカーアーム用軸受。
  3. 前記ロッカーアームはその一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自在に支持され、前記一方の端部は二股状の内輪支持部を有し、その二股状の内輪支持部に前記内輪が固定され、前記他方の端部には、前記エンジンのバルブの端部が当接する、請求項1または2に記載のロッカーアーム用軸受。
  4. 前記ロッカーアームの一方の端部に前記エンジンのバルブの端部が当接し、前記他方の端部にピボットが適合し、前記ロッカーアームの一方の端部と他方の端部との間の、対向する2つの側壁の内輪用孔にわたって前記内輪が固定される、請求項1または2に記載のロッカーアーム用軸受。
  5. ロッカーアームがその一方の端部と他方の端部との間に位置する回転軸に回転自由に支持され、その一方の端部に前記エンジンのバルブの端部が当接し、前記他方の端部に、前記カム軸からの応力を伝達する連動棒の一方の端が当接し、前記連動棒の他方の端部に前記ロッカーアーム用軸受の内輪が固定され、その外輪が前記カムと接触する、請求項1または2に記載のロッカーアーム用軸受。
  6. 前記ロッカーアーム用軸受が総ころ形式のニードル軸受である、請求項1〜5のいずれかに記載のロッカーアーム用軸受。
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