本発明者らは上記の課題を解決し、高画質、高耐久、高安定の電子写真装置を見い出すべく鋭意検討を行った。その結果、表面層材料として求められる重要な特性の一つである耐摩耗性に関しては、接触帯電部材やクリーニングブレード等の何らかの部材と感光体表面との摺擦による物理的な摩耗だけでなく、帯電による電気的な作用が摩耗に関与していることがわかってきた。また、帯電手段に接触帯電方式を用いる場合においては、それらの物理的な摺擦と電気的な作用が同時におこるため、特に感光体表面の材料的な特性によって、耐摩耗性は大きく影響を受けることがわかってきた。
その後、表面層材料として様々な材料を用いて種々の実験を積み重ねていった。この結果、物理的な摺擦による摩耗に対しては、ビッカース硬度や研磨テープによる耐擦試験などの公知の評価方法による、いわゆる、硬さを指標とすることで概ね相関が得られることがわかってきた。
しかしながら、物理的な摺擦による摩耗性に優れ、表面層の膜厚がどの程度の割合で減少して言うかという観点でみたマクロ的な摩耗レートは良好であっても、微視的に見た摩耗ムラに関しては、必ずしも良好であるとは限らないことがわかってきた。微視的な摩耗ムラは、上述のように接触帯電部材との接触性が変化したために発生したと推測される。そこで、そのような接触性の変化は、帯電による電気的な作用により表面層の最表面部分に何らかの変化が生じたことに起因するものではないかと考え、接触帯電方式の帯電手段との組み合わせがより最適となる表面層材料について検討を重ねた。この結果、表面層をアルミニウム原子、窒素原子、および酸素原子を主要な成分とする材料とし、さらにその組成比を所定の範囲内とした場合に、物理的な摺擦に対する摩耗と、電気的な作用が関与する摩耗との両方に優れた特性が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、本発明の電子写真装置は、導電性の基体上に、少なくとも光導電層と表面層とが順次形成された電子写真用感光体と、前記電子写真用感光体の表面を帯電させる帯電手段を有する電子写真装置であって、
前記帯電手段が、前記電子写真用感光体と当接部を形成して接触する帯電部材に電圧を印加することによって前記電子写真用感光体を帯電させる帯電装置であり、
前記光導電層が、シリコン原子を主要な成分とするアモルファス層で形成され、
前記表面層が、アルミニウム原子、窒素原子、および酸素原子を主要な成分とし、アルミニウム原子に対する酸素原子の含有比率が1原子%以上30原子%以下であり、かつ、アルミニウム原子に対する窒素原子の含有比率が80原子%以上95原子%以下であり、
前記表面層が、水素原子またはハロゲン原子を含有しない
ことを特徴とする電子写真装置である。
ここで水素原子またはハロゲン原子を含有しない(実質的に含有しない)とは表面層形成時にこれらの原子を積極的に添加せずに形成されたことを意味している。
又、光導電層と表面層の間には、シリコン原子および窒素原子、またはシリコン原子および炭素原子を主要な成分とするアモルファス材料(以下、a−SiNまたはa−SiCと表記する場合がある)からなる中間層を形成することが好ましい。中間層としてa−SiNを採用する場合は、シリコン原子に対する窒素原子の含有量を10原子%以上、55原子%以下の範囲とすることが好ましい。中間層としてa−SiCを採用する場合には、シリコン原子に対する炭素原子の含有量を10原子%以上、100原子%以下の範囲とすることが好ましい。
帯電部材が、磁性部材表面に導電性磁性粒子を保持した磁気ブラシであることが好ましい。
以下に、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
(電子写真装置)
本発明に好適に用いられる電子写真装置について、図1の概略構成図を参照して説明する。
この電子写真装置は、表面に静電潜像が形成され、この静電潜像上にトナーが付着されてトナー像が形成されるドラム型の感光体101を有している。感光体101の周りには、感光体101の表面を所定の極性・電位に一様に帯電させる帯電器として、接触式1次帯電器102と、帯電された感光体101の表面に画像露光103を行って静電潜像を形成する、不図示の画像露光装置とが配置されている。また、形成された静電潜像上にトナーを付着させて現像する現像器が配置されている。
現像器は、ブラックトナー(B)を付着させる第1現像器104aと、イエロートナー(Y)を付着させる現像器とマゼンタトナー(M)を付着させる現像器とシアントナー(C)を付着させる現像器とを内蔵した回転型の第2の現像器104bとが配置されている。
また、感光ドラム上でトナー像を形成しているトナーの電荷を均一にし、安定した転写を行うようにするための転写前帯電器105が設けられている。さらに、中間転写ベルト106にトナー像を転写した後、感光体101上をクリーニングする感光体クリーナ107および感光体101の除電を行う除電光108が設けられている。
中間転写ベルト106は、感光体101に当接ニップ部を介して駆動するように配置されており、内側には感光体101上に形成されたトナー像を中間転写ベルト106に転写するための一次転写ローラ109が配備されている。
一次転写ローラ109には、感光体101上のトナー像を中間転写ベルト106に転写するための一次転写バイアスを印加するバイアス電源(不図示)が接続されている。
中間転写ベルト106の周りには、中間転写ベルト106に転写されたトナー像を記録材112にさらに転写するための二次転写ローラ110が、中間転写ベルト106の下面部に接触するように設けられている。
二次転写ローラ110には、中間転写ベルト106上のトナー像を記録材112に転写するための二次転写バイアスを印加するバイアス電源が接続されている。また、中間転写ベルト106上のトナー像を記録材112に転写した後、中間転写ベルト106の表面上に残留した転写残トナーをクリーニングするための中間転写ベルトクリーナ111が設けられている。
また、この電子写真装置は、画像が形成される複数の記録材112を保持する給紙カセット113と、記録材112を給紙カセット113から中間転写ベルト106と二次転写ローラ110との当接ニップ部を介して搬送する搬送機構とが設けられている。記録材112の搬送経路上には、記録材112上に転写されたトナー像を記録材112上に定着させる定着器114が配置されている。
(接触式帯電器)
図2に、本発明に好適に用いることができる接触式帯電器の一例として、導電性ローラ帯電器の模式図を示す。
導電性ローラ帯電器は導電性芯金21、弾性体層22、および、表面層23を備えている。導電性芯金21は、鉄、アルミニウム、ステンレス、などが好適に使用可能である。弾性体層22は、ウレタン、シリコンゴム、EPDM(エチレンプロピレンジエンの3元共重合体)、などのソリッド又は発泡ソリッド弾性体に、カーボンや、TiO2、ZnOなどの金属酸化物を加え、体積抵抗率1×104〜1×1013Ω・cmとしたものが好適に使用できる。
表面層23は、トレジン(商品名)のようなナイロン系の樹脂又は、ポリエチレン、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリプロピレンなどを導電化した合成樹脂皮膜が好適である。抵抗値は内側の弾性体の抵抗より大きい値であることが好ましい。それにより電子写真用感光体の表面にピンホールがあっても、電流が集中して流れ込みにくく、より好ましい。具体的には、例えばウレタンにカーボンを分散し抵抗調整された弾性体層にナイロン系樹脂を導電化した合成樹脂皮膜の表面層を設けた帯電ローラが好適なものとして挙げられる。
図3に、本発明に好適に用いることができる接触式帯電器の一例として、磁気ブラシ帯電器の模式図を示す。磁気ブラシ帯電器は、微粒子の磁性粒子によって感光体に直接接触させて電荷を注入する方式を取るため、ファーブラシや導電性ローラに比べて接触点が多く取れることによる帯電の均一化や、比表面積が大きいため汚染に強いと言った利点がある。磁気ブラシ方式の注入帯電器は導電性の磁性粒子を直接マグネット、あるいは、マグネットを内包するスリーブ上に磁気的に拘束させ、停止、あるいは、回転しながら像担持体に接触させ、これに電圧を印加することによって帯電が開始される。
磁気ブラシ帯電器30は、内部に固定マグネット302が設けられ、回転自在の非磁性の帯電スリーブ303上に、磁性粒子規制手段301によって規制された帯電用磁性粒子304が磁界によってブラシ状に形成される。帯電スリーブ303の回転にともない帯電用磁性粒子304が搬送される。帯電スリーブ303は感光体と、例えば、500μmの間隔をもって設けられ、不図示の電源より、例えば、500Vpp、1kHzの交番電界に、定電圧制御された0〜800Vの直流電圧を重畳した帯電バイアスAC+DCが印加できるようになっている。帯電スリーブ303に、上記の帯電電圧を印加することにより、帯電用磁性粒子304から電荷が感光体上に与えられ、帯電電圧に対応した電位に近い値に帯電される。
また、帯電スリーブ303は感光体に対しカウンター方向に回転している。帯電スリーブ303の周速度は遅すぎると感光体表面と磁性粒子の接触確率が不十分となり、帯電ムラ等画像不良の要因となり、速すぎると磁性粒子の飛散を引き起こしてしまう。良好な帯電が行なえる周速度は、帯電スリーブ303の外径や感光ドラムとの間隔にも依存するが、感光体の周速度に対して20〜150%の範囲とするのが好ましい。
磁気ブラシ帯電器30において、感光体に対して形成される帯電用磁性粒子304の接触ニップ幅は、例えば、6mmになるよう調整されている。
磁性粒子としては、樹脂とマグネタイト等の磁性粉体を混練して粒子に成型したもの、もしくはこれに抵抗値調節のために導電カーボン等を混ぜたもの、焼結したマグネタイト、フェライト、もしくはこれらを還元または酸化処理して抵抗値を調節したもの、上記の磁性粒子を抵抗調整したコート材(フェノール樹脂にカーボンを分散したもの等)でコートまたはNi等の金属でメッキ処理して抵抗値を適当な値にしたもの等が好適に用いられる。
これら磁性粒子の抵抗値としては、高すぎると感光ドラムに電荷が均一に注入できず、微小な帯電不良によるカブリ画像となってしまう。低すぎるとピンホールリークが生じた場合、ピンホールに流れる電流により、電源が過負荷となって電圧が降下し、感光ドラム表面をすることができず、帯電ニップ状の帯電不良となる。よって磁性粒子の抵抗値(体積抵抗値)としては、1×104Ω・cm以上、1×1010Ω・cm以下が好ましい。また、帯電用磁性粒子の抵抗値は、底面積が228mm2の金属セルに帯電用磁性粒子を2g入れた後、6.6kg/cm2で加重し、100Vの電圧を印加して測定している。
磁性粒子の磁気特性としては、感光体への磁性粒子付着を防止するために磁気拘束力を高くする方がよく、飽和磁化が20〜80A・m2/kgが望ましい。
また、磁性粒子の粒径は帯電能力や帯電の均一性に影響する。つまり、粒径が大きすぎると感光ドラムとの接触割合が低下し帯電ムラの原因となる。粒径が小さいと帯電能力、均一性ともに向上する反面、一粒子に作用する磁力が低下し、感光ドラムへの付着が起きやすくなる。このため磁性粒子の粒径としては5〜100μmのものが好適に用いられる。
(アモルファスシリコン(a−Si)感光体)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体(以下、感光体と表記することがある。)の層構成について、図4の模式的構成図を参照して説明する。
図4(a)は、本出願にかかる第1の発明の層構成の一例を模式的に示した図であり、例えばアルミニウム等の円筒状で導電性の基体401と、導電性の基体401の表面に順次積層された光導電層402、表面層403とから構成される。図4(b)に示すように、基体401上に、基体側からの電荷の注入を阻止するために、下部電荷注入阻止層404を設け、下部電荷注入阻止層404上に光導電層402と、表面層403とを順次設けた層構成であってもよい。
図4(c)は、本出願にかかる第2の発明の層構成の一例を模式的に示した図であり、例えばアルミニウム等の円筒状で導電性の基体401と、導電性の基体401の表面に順次積層された光導電層402、中間層405、表面層403とから構成される。図4(d)に示すように、基体401上に、基体側からの電荷の注入を阻止するために、下部電荷注入阻止層404を設け、下部電荷注入阻止層404上に光導電層402、中間層405、および、表面層403をこの順に設けた層構成であってもよい。
また、必要に応じて、光導電層402は、基体401側から第一の層領域と第二の層領域とからなる2層構成にしてもよい。また、光導電層402と表面層403との界面に関しては、連続的に変化させ界面反射を抑制する界面制御を施してもよい。
基体および各層は、以下のように構成される。
(表面層)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体の表面層403は、アルミニウム原子(Alとも表記)、窒素原子(Nとも表記)、酸素原子(Oとも表記)を主要な構成要素とするアモルファス材料(以下AlNOと表記するが、互いの原子の組成比を表すものではない)により形成される。本発明において、NはAlと結合することによって、バンドギャップの広い化合物を形成する効果を有する。表面層として必要な光透過率を有するためにはAlに対するNの含有量(以下N含有量と表記)が80原子%以上とすることが好ましい。N含有量が80原子%未満では、バンドギャップが極端に狭くなる傾向がある。このため、画像露光として広く一般的に用いられている波長が600〜800nmの赤から近赤外の波長帯、及び、それよりもさらに短波長となる380〜450nmの波長帯の光に対して十分な感度を得ることが難しくなる。380〜450nmの短波長帯の光は、レーザスポット径を小さくすることが容易となることが知られており、スポット径を小さくすることにより、より高解像な像形成を行うことが容易となる。
一方、N含有量が多い場合には膜の硬度が次第に低下する傾向が現れる。そのため、電子写真用感光体表面にキズが発生しやすくなるなど、耐久性の低下が起こる場合がある。こうした傾向は、N含有量が95原子%を超えると顕著になる。
本来化学量論組成における窒化アルミニウム(AlNとも表記)はAlに対するNの含有量が100原子%となるが、本発明でAlに対するNの含有量が95原子%以下の範囲で最適値が得られたことは、Oが含有される効果によるものと推測される。
本発明におけるOの効果は、帯電部材との接触性が変化したことに起因する微視的な摩耗ムラの防止効果に現れる。これは、堆積膜形成過程でOがNと選択的に置換してAlと結合しやすい性質により、AlとNの結合で形成されうる膜中の欠陥を効果的に補償され、帯電における電気的な安定性が向上するためであると考えられる。
その結果、Oを含有することで膜の化学的な安定性が増し、表面の劣化を起こし難くなり、帯電部材との摺擦が長期間に渡って安定して行われるために、微視的な摩耗ムラの発生が抑制でき、掃きムラといわれる画像不良の発生を効果的に防止するものと考えられる。こうした効果は微量のOでも十分に得られ、Alに対するOの含有量(以下O含有量と表記)が1原子%以上であれば効果が見込める。
一方、O含有量が30%を超えると、逆に摩耗ムラが発生しやすくなる傾向が現れる。これはAlNに対して、酸化アルミニウム(AlOとも表記)そのものが、摩耗ムラの発生し易い傾向をもっているためと思われる。この理由に関してはすべてが明らかになったわけではないが、材料的にAlOはAlNに比べて帯電による電気的な作用に対する安定性が低く、表面変化を起こし易いのではないかと推測している。
従って、帯電部材との摺擦が長期間に渡って繰り返し行われると、帯電による何らかの表面変化が生じ、それに起因して帯電部材と感光体との接触性が変化し、微視的な摩耗ムラが発生し易くなるのではないかと推測している。このため、O含有量が30%を超えると、摩耗ムラに対するAlOの性質が顕在化するものと推測される。
上述のAl、N、Oの含有率を有するAlNOにおいて、水素原子(Hとも表記)またはハロゲン原子(Xとも表記)を実質的に含有しないことが好ましい。HまたはXが、表面層中に含有されることにより、前述のような膜中の欠陥を補償する効果が知られている。しかしながら、Alのような元素に対しては、HやXの結合力は比較的弱く、長期間に渡って画像形成を繰り返した場合、主として帯電工程の影響でその結合が切れてしまうことが起こる。その結果、長期にわたる使用では次第に膜中欠陥が増加していき、このような化学的な変化は、帯電部材との接触性の変化を引き起こす要因となり易く、このため、摩耗ムラが発生しやすくなる傾向にある。
したがって、摩耗ムラを防止するためにはAlに対するHの含有量(以下H含有量と表記)またはAlに対するXの含有量(以下X含有量と表記)が少ないほうがよく、実質的に含有しないことが望ましいものである。
本発明において、表面層403の層厚は、機械的な特性および電子写真上の電気的な特性の点から適宜所望にしたがって決定される。しかしながら、極端に薄い場合は表面保護の機能の低下、また、極端に厚い場合には残留電位の増加等の懸念が表れることから、0.1μm以上、3μm以下が好適である。
AlNOの形成方法はいずれであっても限定されず、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法など、公知の堆積膜形成方法が採用できる。
なかでも、スパッタリング法、特にAlをターゲットとして、窒素ガス(N2とも表記)および酸素ガス(O2とも表記)を導入する反応性スパッタリング法は、組成比を簡単に調整できるなどの理由から最も好ましい方法として採用できる。
また、Hおよびハロゲン原子Xを含まない表面層を作成するためにも、上記の反応性スパッタリング法が最も好ましいものと言える。
(光導電層)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体の光導電層402は、電子写真特性上の性能を満足できる光導電特性を有するシリコン原子(Siとも表記)を主要な成分とするアモルファス材料(以下a−Siと表記)で形成される。
a−Siは、硬度、安定性に優れるため、上述の表面層403と組み合わせることで、耐久性に優れた電子写真用感光体を提供することができる。
本発明では、a−Si中の未結合手を補償するため、水素原子に加えて、ハロゲン原子を含有させることができる。光導電層402においては表面層403に保護されるため、これらの原子を含有しても安定性を損なうことは無い。
水素原子およびハロゲン原子の含有量の合計は、シリコン原子と、水素原子およびハロゲン原子との和に対して10原子%以上、特に15原子%以上であることが好ましく、また、シリコン原子と、水素原子およびハロゲン原子との和に対して30原子%以下、特に25原子%以下であることが好ましい。
光導電層402には必要に応じて伝導性を制御する原子を含有させることが好ましい。伝導性を制御する原子は、光導電層402中に万偏なく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、層厚方向には不均一な分布状態で含有している部分があってもよい。
伝導性を制御する原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることがでる。周期表13族に属する原子(以後「第13族原子」と略記する)または周期表15族に属する原子(以後「第15族原子」と略記する)を用いることができる。
第13族原子としては、具体的には、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等があり、特にホウ素、アルミニウム、ガリウムが好適である。第15族原子としては、具体的にはリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等があり、特にリン、砒素が好適である。
光導電層402に含有される伝導性を制御する原子の含有量は、シリコン原子に対して1×10-2原子ppm以上、特に5×10-2原子ppm以上、さらには1×10-1原子ppm以上であることが好ましく、また、1×104原子ppm以下、特に5×103原子ppm以下、さらには1×103原子ppm以下であることが好ましい。
光導電層402の層厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果等の点から適宜所望にしたがって決定される。例えば、光導電層402の層厚は、15μm以上、特に20μm以上とすることが好ましく、また、60μm以下、特に50μm以下、さらには40μm以下とすることが好ましい。光導電層402の層厚が15μm未満であると、帯電部材への通過電流量が増大し、劣化が早まりやすい傾向がある。光導電層402の層厚が60μmを超えると、光導電層の異常成長部位が大きくなることがあり、具体的には水平方向で50〜150μm、高さ方向で5〜20μmとなり、表面を摺擦する部材へのダメージが無視できなくなったり、画像欠陥となったりする場合がある。
なお、光導電層402は上記のように単一の層から形成されても良いし、キャリア発生層とキャリア輸送層を分離した複数構成としてもよい。
(基体)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体の導電性の基体401は表面に形成される光導電層および表面層を保持し得るものであれば特に限定されずいずれのものであってもよい。例えば、Al、Cr、Mo、Au、In、Nb、Te、V、Ti、Pt、Pd、Fe等の金属、および、これらの合金、例えばAl合金、ステンレス等が挙げられる。また、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド等の合成樹脂のフィルムまたはシート、ガラス、セラミック等の電気絶縁性支持体の少なくとも光導電層を形成する側の表面を導電処理したものも、導電性の基体として用いることができる。
(中間層)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体は、光導電層402と表面層403の間にシリコン原子および窒素原子を主要な成分とするアモルファス材料(以下、a−SiNと表記)、またはシリコン原子および炭素原子を主要な成分とするアモルファス材料(以下、a−SiCと表記)で形成された中間層を形成することができる。
中間層405の効果は、光感度の向上にある。
a−Siで形成された光導電層402上に直接AlNOで形成された表面層403を積層した場、条件によっては、光導電層402と表面層403の界面で互いの構成元素が交じり合う拡散層を形成する場合がある。拡散層が形成されると、その一部に若干の光吸収を起こす領域が発生し、結果として光感度が制限を受ける場合があった。
本発明の中間層405は上記のような拡散層の形成を防止し、光感度の制限をなくして向上させる効果を有する。この効果の詳細は現時点では明確ではないが、a−SiNまたはa−SiCは、光導電層402として使用する上記の範囲のa−Siに較べて化学的安定性が高いことなどの特性により、互いの成分の拡散を防止できるものと推測される。
上記の効果を得るためには、中間層405の組成比を適宜調整することが望ましい。
具体的には、中間層405としてa−SiNを採用する場合は、シリコン原子に対する窒素原子の含有量を10原子%以上、55原子%以下の範囲とすることが好ましい。また、中間層405としてa−SiCを採用する場合には、シリコン原子に対する炭素原子の含有量を10原子%以上、100原子%以下の範囲とすることが好ましい。
また、中間層405には、導電性を制御する物質を含有させてもよい。導電性を制御する原子としては上記の光導電層402に含有させる原子が使用できる。
光導電層402上に表面層403を直接積層した場合の光感度の制限は、通常の電子写真用感光体の使用の可否を区別するような特段の影響を与えるものではない。しかし、中間層405を用いることで、光感度の向上によりさらに広いプロセス条件で寛容度の高い電子写真用感光体特性を提供するとともに、将来の更なる高速な画像形成条件に対する優位性を確保することができる。
(下部電荷注入阻止層)
本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体においては、図4(b)、図4(d)に示すように、基体の上に基体側からの電荷の注入を阻止する働きのある下部電荷注入阻止層404を設けるのが効果的である。下部電荷注入阻止層404は感光体が一定極性の帯電処理をその自由表面に受けた際、基体側より光導電層側に電荷が注入されるのを阻止する機能を有するものである。
下部電荷注入阻止層404の材質としては、シリコン原子を母材とする非単結晶材料からなり、導電性を制御する不純物を光導電層に比べて比較的多く含有させることができる。電子写真用感光体がプラス帯電用の場合、下部電荷注入阻止層に含有される不純物元素としては、周期表第13族元素を用いることができる。また、マイナス帯電用の場合は、下部電荷注入阻止層404に含有される不純物元素としては、周期表第15族元素を挙げることができる。下部電荷注入阻止層404中に含有される不純物元素の含有量率は、下部電荷注入阻止層中の構成原子の総量に対して、例えば10原子ppm以上、10000原子ppm以下、好ましくは50原子ppm以上、7000原子ppm以下、より好ましくは100原子ppm以上、5000原子ppm以下である。
更に、下部電荷注入阻止層には、窒素、炭素、及び酸素を含有することによって、下部電荷注入阻止層と基体との間の密着性を向上させることができる。
また、下部電荷注入阻止層404には層内に存在する未結合手と結合し膜質の向上を図ることができる水素原子を含有させるのが好ましい。下部電荷注入阻止層中に含有される水素原子の含有量は、下部電荷注入阻止層中の構成原子の総量に対して、例えば1原子%以上、50原子%以下、好ましくは5原子%以上、40原子%以下、より好ましくは10原子%以上、30原子%以下である。
このような下部電荷注入阻止層の層厚は、所望の電子写真特性が得られること、及び、経済的効果等の点から、例えば0.1μm以上、5μm以下、好ましくは0.3μm以上、4μm以下、より好ましくは0.5μm以上、3μm以下である。層厚を0.1μm以上、5μm以下とすることにより、基体からの電荷の注入阻止能が充分となり、充分な帯電能が得られると共に電子写真特性の向上が期待でき、残留電位の上昇などを抑制することができる。
上述の光導電層、および、下部電荷注入阻止層の作製方法は、一般的に知られている真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法の如き成膜方法により、基体上に図4に示すような層構成の堆積膜を形成すればよい。それらの中でも、原料ガスにRF帯やVHF帯の高周波電力を印加してグロー放電により分解し、基体上に堆積膜を形成するプラズマCVD法を用いると、より好適に作製することができる。
次に、本発明の電子写真装置に好適な感光体の製造に使用することができる装置、および、これを用いた感光体の製造方法について、以下に説明する。図6は、電源周波数としてRF帯を用いた高周波プラズマCVD法による感光体製造装置の一例を、模式的に示した構成図である。
この装置は、大別すると、堆積装置6100、原料ガスの供給系6200、反応容器6111内を減圧するための排気装置(図示せず)から構成されている。堆積装置6100中の反応容器6111内には円筒状基体6112を載置する載置台6110、基体加熱用ヒータ6113、原料ガス導入管6114が設置されている。更に、高周波マッチングボックス6115を介して高周波電源6120が反応容器6111を兼ねるカソード電極に接続されている。
原料ガス供給装置6200は、原料ガスのボンベ6221〜6226とバルブ6231〜6236、6241〜6246、6251〜6256、及び、マスフローコントローラ6211〜6216から構成されている。各原料ガスのボンベはバルブ6260を介して反応容器6111内のガス導入管6114に接続されている。
この装置を用いた堆積膜の形成は、例えば以下のような手順によって行われる。
まず、反応容器6111内に円筒状基体6112を設置し、例えば真空ポンプなどの排気装置(図示せず)により反応容器6111内を排気する。続いて、基体加熱用ヒータ6113により円筒状基体6112の温度を200℃乃至350℃の所定の温度に制御する。
次に、堆積膜形成用の原料ガスを、ガス供給装置6200により流量制御し、反応容器6111内に導入する。そして、排気速度を調整することにより所定の圧力に設定する。
以上のようにして堆積の準備が完了した後、以下に示す手順で各層の形成を行う。
内圧が安定したところで、高周波電源6120を所望の電力に設定して、高周波マッチングボックス6115を通じてカソード電極に供給し高周波グロー放電を生起させる。放電に用いる周波数は1〜30MHzのRF帯が好適に使用できる。
この放電エネルギーによって反応容器6111内に導入された各原料ガスが分解され、円筒状基体6112上に所定のシリコン原子を主成分とする堆積膜が形成される。所望の膜厚の形成が行われた後、高周波電力の供給を止め、ガス供給装置の各バルブを閉じて反応容器6111への各原料ガスの流入を止め、堆積膜の形成を終える。
同様の操作を複数回繰り返すことによって、所望の多層構造の感光層が形成される。また、膜形成の均一化を図るために、層形成を行っている間は、円筒状基体6112を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させることも有効である。さらに、上述のガス種およびバルブ操作は各々の層の作製条件にしたがって変更が加えられることは言うまでもない。
次に本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体に好適に用いられる表面層の形成方法を、反応性ガスを用いたスパッタリング法を例として説明する。
図5は本発明本発明の電子写真装置に好適に用いることができる電子写真用感光体の表面層の形成に使用できるスパッタリング法による堆積膜形成装置の一例を模式的に示した図である。
図5の装置は、大別して、反応炉5100と、投入炉5200からなり、反応炉5100は反応容器5108、反応性ガスノズル5103、回転軸5104、スパッタガス導入管5105、カソード5102を含む。
反応容器5108はバルブ5117を通して排気装置(図示せず)に接続され、内部を真空排気可能となっている。基体122(上記の手順によって、少なくとも光導電層を形成されたもの)は、ホルダー5113を介し回転軸5104に設置され、回転軸5104は回転軸シール5119により回転可能に支持され、大気下で、モーター5118と接続される。基体122は、堆積膜形成中、モーター5118によって回転することにより、全周にわたって均一な堆積膜が形成される。
回転軸5104の外側には、ホルダー5113に内包される形状のヒータ5114が設置され、基体122を所望の温度に加熱することができる。
反応性ガスノズル5103はガス放出孔5116を備え、バルブ5115を通して、原料ガス供給手段(図示せず)に接続され、N2、O2等からなる反応性ガスを供給する。なお、原料ガス供給手段は、図6に示した原料ガス供給装置6200と同様のものが使用できる。
カソード5102は絶縁部材5107を介してそれぞれ反応容器5108に支持され、その外周はシールド5111により、プラズマから隔離されている。また、カソード5102は外部から冷却水配管5131、5132を通してスパッタリングプロセス中に冷却することができる。
また、カソード5102は反応容器5108の外部で電源5109に接続される。カソード5102は、アルミニウムからなるターゲット5106を備え、さらに磁石5129が設置される。この磁石5129は基体122の長さに対応して、配置を適宜調整することにより、基体122の母線方向に均一な膜を形成できるようになっている。
カソード5102近傍にはスパッタガス導入管5105が設置され、バルブ5110を介して、原料ガス供給手段(図示せず)に接続され、アルゴン(Ar)等のスパッタリング用のガスを導入する。
投入炉5200は、真空容器5201、アクチュエータ5203、扉5202からなり、真空容器5201は、ゲートバルブ5101によって反応容器5108と連通する。また、真空容器5201はバルブ5205を介して接続される排気装置によって、反応容器5108とは個別に真空排気可能となっている。
アクチュエータ5203はシャフト5207を真空シール5206によって真空容器5201に支持される。シャフト5207にはチャッキング機構5208が設置され、真空中で基体122を保持し、ゲートバルブ5101を開きシャフト5207を伸縮させることで基体122を反応炉5100と投入炉5200の間で搬送できる。
また、真空容器5201にはバルブ5204を介して内部をベント可能としている。
次に図5に示した装置を用いた場合の表面層403の形成手順を具体的に説明する。
まずバルブ5117を開いて排気装置により反応容器5108内部を排気しておく。同時にたとえば光導電層402を形成した基体122を扉5202より投入炉5200に投入し、チャッキング機構5208にセットする。次に扉5202を閉じ、バルブ5205を開いて真空容器5201内部を排気する。
反応容器5108、真空容器5201内部がともにたとえば0.1Pa以下の真空度になったところで、バルブ5101を開き、アクチュエータ5203を操作して、シャフト5207を伸ばし、基体122を反応容器5108内のホルダー5113に設置し、チャッキング機構5208を開いて、基体122をホルダー5113上に残置する。
その後、シャフト5207を縮めて、チャッキング機構5208を投入炉5200内に収納し、ゲートバルブ5101を閉じる。
この状態で必要に応じヒータ5114に通電し基体122を所望の温度に加熱することができる。
基体122が所望の温度になったところで、スパッタガスおよび反応性ガスを、それぞれバルブ5110、5115を開いて、原料ガス供給手段(図示せず)より反応容器5108内に供給する。その後、反応容器5108に接続された真空計(図示せず)により、所定の圧力になったところで電源よりカソード5102に電力を印加してグロー放電を生起させる。
この際、回転軸5104をモーター5118により回転させることで、基体122の周方向に均一に堆積膜を得ることができる。
所望の堆積膜が形成されたところで、電源5109より電力の供給を止め、堆積膜の形成を終える。
複数の領域からなる表面層を形成するためには、所望のガス、圧力、基板温度等の条件を設定しなおした上で、再度カソード5102に電力を印加してグロー放電を生起させればよい。
同時にバルブ5110、5115を閉じ、反応性ガス、スパッタガスの供給を終えると同時に、ヒータ5114の通電を止め、いったん反応容器5108内をたとえば0.1Pa以下の圧力まで排気し、ゲートバルブ5101を開く。
ここで、アクチュエータ5203を操作し、シャフト5207を伸ばしでチャッキング機構5208により基体122を保持した後、再びシャフト5207を縮め、基体122が投入炉5200内に収納されたところで、ゲートバルブ5101を閉じる。
ゲートバルブ5101が閉じたことを確認した後、バルブ5204を開き、真空容器5201内をベントし、扉5202を開いて、基体122を取り出し、電子写真用感光体の形成を終える。
なお、上記の電子写真用感光体の形成手順の例では、図6に示したプラズマCVD法による堆積膜形成装置を用いて形成した電子写真用感光体をいったん大気中に取り出し、図5に示したスパッタリング法による堆積膜形成装置に投入した。しかしながら、この手順には特に規定は無く、たとえば両装置を結ぶ真空搬送可能な搬送装置を設置し、真空中で電子写真用感光体の移送を行ってもよい。
以下、実施例、及び、比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例6の感光体20、感光体21及び感光体22並びに実施例7の感光体24、感光体25及び感光体26は参考例である。
(実施例1、及び、比較例1)
電子写真用感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を6種類(感光体1〜6)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。
感光体1に関しては、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を図6に示した装置を用いてプラズマCVD法によって、表1に示した条件で形成した。プラズマCVDに用いた高周波電力は周波数13.56MHzを使用した。
感光体2〜6に関しては、下部電荷注入阻止層、および、光導電層を図6に示した装置を用いてプラズマCVD法によって、表2に示した条件で形成した。表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表3、4に示した条件でAlNOからなる層を形成した。プラズマCVDに用いた高周波電力は周波数13.56MHzを使用した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、O2、N2の流量を変化させることで、N含有量を変化させるとともに、O含有量をほぼ一定となるように調整した。
また、表4中のN含有量とO含有量は、同一条件で形成した感光体をおよそ12mm×12mmの大きさに切り出したサンプルを形成し、ESCA(PHI Quantum 2000 Scaning ESCA)により、2mm×2mmの範囲を4kVで5分間スパッタして表面付着物の影響を取り除いた上で測定し、それぞれの値をアルミニウム原子に対する原子%として示したものである。なお、感光体2〜6では、H、Xは工程上添加していないため、これらは実質的に含有しないとして扱っている。
また、電子写真装置として、図1に示した構成の電子写真装置を準備した。より具体的には、カラー複合機であるキヤノン製電子写真装置iRC−6800をベースとした。実験用として、一次帯電器を図2に示したような導電性ローラ帯電器に改造し、帯電器に印加する高圧条件を任意に設定できるように外部電源から供給するように改造した。
本実施例に用いた導電性ローラ帯電器の材質は、芯金としてはステンレスを用いた。弾性体層としては、ウレタンなどを主に用いた発泡ソリッド弾性体に、カーボン、TiO2、ZnOなどの金属酸化物を加えて、体積抵抗率を1×104〜1×1013Ω・cmとしたものを用いた。用意した帯電器は、ニップ幅5mmで感光体表面に当接させた。
準備した電子写真装置に、感光体1〜6を順次搭載し、以下に示すような評価を行った。
評価1、電位特性評価
まず、評価に先立ち帯電及び露光の条件設定を行った。
導電性ローラ帯電器への印加条件を調整して、第2現像器104b位置の電位が400Vとなるように設定した。
次に、画像露光の条件は、先に設定した帯電条件で帯電させ、その状態で画像露光を行った場合における第2現像器104b位置の電位が100Vとなるようにレーザパワーを設定した。
本実施例に用いた電子写真装置の画像露光光源は、発振波長が655nmの半導体レーザである。したがって、設定したレーザパワーにおける照射エネルギー量によって655nm光に対する光感度の評価を行った。その結果を、表5および図7に示す。なお、表5および図7においては、感光体1を搭載した場合の光感度を1.00とした相対比較で示した。
この評価においては、数値が小さいほど光感度が優れていることを表しており、光感度は1.15以下であれば、実用上問題なく、1.10以下であれば幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性と判断することができる。
評価2、画像特性評価
帯電条件は評価1で設定した条件とし、画像露光条件に関しては、より厳しい条件で評価を行うため、評価1で設定した照射エネルギー量の2倍のエネルギー量となるようにレーザパワーを調整した。その状態において、まずレーザオフで帯電オンさせて、帯電電位Vd1を測定し、その後、感光体1回転分の時間だけレーザオンさせて、その翌周の帯電電位Vd2を測定し、Vd1とVd2の差分値をゴースト電位として算出した。その結果を、表5に示す。なお、表5においては、感光体1を搭載した場合のゴースト電位を1.00とした相対比較で示した。
この評価においては、数値が小さいほど画像特性が優れていることを表しており、ゴースト電位の相対比較値が0.9以下であれば有意に画像特性が改善されていると判断することができる。
評価3、耐久評価
評価1で設定したプロセス条件にて、A4コピー用紙50万枚の画像形成を繰り返す通紙耐久試験を行った。耐久試験の終了後に次に示す要領で、摩耗レート、摩耗ムラ(掃きムラ)の評価を行った。
3−1 摩耗レート
耐久試験のスタート前、及び、10万枚耐久経過毎に、軸方向5個所、周方向4箇所の20箇所に対して表面層の膜厚を測定し、耐久試験スタート前の膜厚との差分から摩耗した膜厚を求めた。膜厚は、マルチチャンネル分光光度計(大塚電子製、MCPD−2000)を使用して反射スペクトルを測定し、表面層材料の屈折率等から表面層厚を算出した。そして耐久枚数と摩耗量との関係をプロットしたグラフを作成し、その近似直線の傾きから1万枚あたりの摩耗レートを算出した。その結果を、表5に示す。なお、表5においては、感光体1を搭載した場合の摩耗レートを1.00とした相対比較で示した。
この評価においては、数値が小さいほど耐磨耗性に優れていることを示し、1.00±0.05の範囲内であれば、概ねリファレンスとして示した感光体1と同等に優れた耐磨耗性を有していると考えることができる。
3−2 摩耗ムラ(掃きムラ)
耐久試験のスタート前、及び、1万枚耐久経過毎に、評価用の画像サンプリングを行い、サンプリングした画像で摩耗ムラ(掃きムラ)の評価を行った。より具体的には、
(1)各色の画素密度が20%のブラック単色、シアン単色、4色のハーフトーン画像
(2)各色の画素密度が40%のブラック単色、シアン単色、4色のハーフトーン画像
(3)各色の画素密度が60%のブラック単色、シアン単色、4色のハーフトーン画像
をA3用紙に出力し、それらの画像を用いて、画像濃度ムラや帯状スジなどの画像不良の発生有無について評価を行った。
感光体に起因した濃度ムラが発生した場合、各色の濃度ムラを重ね合ねると色味の違いとして、濃度ムラが強調されるので、4色ハーフトーンでは、単色ハーフトーンよりより厳しい評価となる。評価結果は、初期、及び、耐久終了後の画像に関して、以下の基準により判定した。
A:まったく画像不良が確認できず、非常に優れている。
B:注視して見ると僅かに画像不良が確認できる程度であり、優れている。
C:ごく軽微な画像不良が確認できるが、実用上は問題なし。
D:画像不良が確認でき、実用上問題となる場合あり。
評価4、分光感度特性(405nm光の透過性)
より短波な波長帯の光に対する適応性を評価するため、分光感度特性を評価し、405nm光の分光感度によって405nm光の透過性の評価を行った。
ここでいう分光感度とは、感光体の表面を一定電位、例えば450Vに帯電させ、その後さまざまな波長の光を当てたとき、単位光量(単位面積)あたりの表面電位減衰分(単位はV・cm2/μJ)を指している。即ち、光の単位エネルギー量当たりの電位減衰量をその露光波長に対する分光感度とし、露光波長を変化させた時の各波長における分光感度を測定して、分光感度が最大になる波長の分光感度(分光感度のピーク値)によって規格化した数値によって評価を行った。図8は、測定の一例として、横軸に波長、縦軸に電位減衰分の最大値で規格化した値でプロットしたものである。
この表面電位減衰分の測定は、梶田ら(電子写真学会誌、第22巻、第1号、1983)の方法と同様の方法で行った。表面電位減衰分の測定は、電子写真装置内での挙動を再現するため、感光体表面にITO電極など透明な電極を密着させ、電子写真装置内のシーケンスを模して露光や電圧印加を行い、表面の電位変化を測定した。
その結果を、図7に示したような分光感度のピーク値で規格化した値で、表5および図9に示す。
この評価においては、数値が大きいほど光感度が良いことを表す。電子写真プロセスにおいて必要とされる光感度の値に関しては、使用するレーザ素子や光学系の性能に依存するものであり、一概にその絶対値を言及することは難しい。光感度について本発明者らのさまざまな検討の結果、ある波長の光に対して光感度を有し、その波長の光を画像形成光とする電子写真装置に搭載するためには、図9に示したような指標で、30%以上の感度を有することが好ましく、40%以上の感度を有することがより好ましい。
表5および図7から明らかなように、655nmの光に対する感度が1.10以下になるN含有量はおおよそ80原子%以上であることがわかる。即ち、N含有量を80原子%以上とすることで、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ感光体の表面層が得られることが確認できる。
また、表5および図9から明らかなように、N含有量を80原子%以上とすることで、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られるようになり、405nm付近の波長帯の光に対する適応性が向上することがわかる。このような短波長の光は、スポット径を小さく絞ることが容易であることが知られている。このため、N含有量が80原子%以上の表面層は、レーザスポット径をより小さく絞った更なる高解像な画像が得られる電子写真装置への適用が容易になる。
また、本実施例の感光体は摩耗レートに関しても優れた耐磨耗性を有することが確認でき、さらに、摩耗ムラに関しては、非常に優れていることが確認できる。この結果より、本実施例に示した表面層は、物理的な摺擦による摩耗性に優れるだけなく、帯電による電気的な作用に起因する微視的な摩耗ムラに対しても非常に優れた特性を示し、総合的に優れた耐磨耗性を有していることが確認できる。このため、接触式帯電器との適応性が非常に優れていることがわかる。
(実施例2、及び、比較例2)
電子写真装置として、図1に示した構成の電子写真装置を準備した。より具体的には、カラー複合機であるキヤノン製電子写真装置iRC−6800をベースとした。実験用として、一次帯電器を図3に示したような磁気ブラシ帯電器に改造し、帯電器に印加する高圧条件を任意に設定できるように外部電源から供給するように改造した。
本実施例に用いた磁気ブラシ帯電器に用いた帯電用磁性粒子は、フェライト表面を酸化、還元処理して抵抗調整を行ったものに対して、表面にチタンカップリング処理を施したものを用い、平均粒径25μm、飽和磁化60A・m2/kg、抵抗が5×106Ω・cmの帯電用磁性粒子を用いた。また、帯電スリーブと感光体との感覚は、500μmとし、接触ニップ幅は6mmになるよう調整し、感光体の周速度に対して120%の周速度でカウンター方向に帯電スリーブを回転させた。
準備した電子写真装置に、実施例1および比較例1で示した、感光体1〜6を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価2の画像特性評価、および、評価3の耐久評価を行った。それらの結果を表6に示す。なお、表6では、評価1の電位特性と評価3の耐久評価は、本実施例の電子写真装置、即ち、磁気ブラシ帯電器を用いた電子写真装置に感光体1を搭載した時の評価値を1.00とした相対比較で表した。評価2の画像特性評価(ゴースト)に関しては、比較例1の電子写真装置、即ち、導電ローラ帯電器を用いた電子写真装置に感光体1を搭載した時の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表6から明らかなように、655nm光感度や摩耗レート、摩耗ムラに関しては、実施例1とほぼ同等の結果であった。即ち、本実施例に示したような接触帯電器に磁気ブラシ方式の帯電器を用いた場合においても、本発明のAlNO系の表面層を有する感光体を用いることで実施例1と同様の効果が得られることが確認できる。
さらに、画像特性(ゴースト電位)に関しては、磁気ブラシ帯電器を用いた本実施例では、リファレンスとして示した導電ローラ帯電器を用いた電子写真装置に感光体1を搭載した時の評価値に対して有意に画像特性が改善されている。実施例1と比較しても画像特性が改善されていることが確認できる。
この結果、本発明のAlNO系の表面層と磁気ブラシ方式の帯電器とを組み合わせた場合、画像特性が改善されるという更なる効果を有していることがわかった。この理由に関しては、すべてが明らかになったわけではないが、概ね次のように考えている。ゴースト現象とは、前周の露光履歴が翌周に現れる現象であり、露光によって生成された光キャリア翌周になっても消滅されずに膜中のどこかに残っているために発生するものと考えられる。光キャリアの消滅過程は、非常に複雑でそのメカニズムを解明することは難しいが、帯電による電界によってもいくらかは消滅されるものと推察できる。このため、電気的な作用に対する安定性に優れる本発明のAlNO系の表面層と、より接触点を多く有する磁気ブラシ帯電と組み合わせた場合、光キャリアの消滅が行われ易い構成になっているのではないかと考えられ、この効果によって画像特性が改善されたのではないかと推測している。
(実施例3、及び、比較例3)
感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を4種類(感光体7〜10)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。
下部電荷注入阻止層、および、光導電層は、感光体2〜6と同様の条件にて形成し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表7、8に示した条件でAlNOからなる層を形成した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、O2、N2の流量を変化させることで、N含有量を変化させるとともに、O含有量をほぼ一定となるように調整した。
また、表8中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。また、感光体7〜10では、H、Xは工程上添加していないため、これらは実質的に含有しないとして扱っている。
また、電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体7〜10を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。それらの結果を表9に示す。なお、表9においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表9から明らかなように、655nm光に対する感度に関しては、リファレンスとして示した感光体1とほぼ同等であることが確認でき、本実施例に示したAlNO表面層は、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ表面層であることが確認できる。また、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られており、405nm付近の波長帯の光に対する適応性にも優れていることが確認できる。
また、N含有量が95原子%以下であれば、摩耗レートに関しては優れた耐磨耗性を有しており、さらに、摩耗ムラに関しても非常に優れていることが確認できる。この結果から、N含有量が95原子%以下となるAlNO表面層は、物理的な摺擦による摩耗性に優れるだけなく、帯電による電気的な作用に起因する微視的な摩耗ムラに対しても非常に優れた特性を示し、総合的に優れた耐磨耗性を有していることが確認できる。このため、接触式帯電器との適応性が非常に優れていることがわかる。
以上、実施例1〜3および比較例1〜3の結果から、N含有量は、80原子%以上、95原子%以下の範囲が好適であることがわかった。
(実施例4、及び、比較例4)
感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を4種類(感光体11〜14)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。下部電荷注入阻止層、および、光導電層は、感光体2〜6と同様の条件にて製作し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表10、11に示した条件でAlNOからなる層を形成した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、O2、N2の流量を変化させることで、N含有量をほぼ一定に保ちながら、O含有量を変化させた。
また、表11中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。また、感光体11〜14では、H、Xは工程上添加していないため、これらは実質的に含有しないとして扱っている。
また、電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体11〜14を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。それらの結果を表12に示す。なお、表12においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表12から明らかなように、655nm光に対する感度に関しては、リファレンスとして示した感光体1とほぼ同等であることが確認でき、本実施例に示したAlNO表面層は、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ表面層であることが確認できる。また、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られており、405nm付近の波長帯の光に対する適応性にも優れていることが確認できる。
また、感光体12〜14の結果から、O含有量が1原子%以上であれば、摩耗レートに関しても、摩耗ムラに関しても非常に優れていることが確認できる。
(実施例5、及び、比較例5)
感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を4種類(感光体15〜18)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。下部電荷注入阻止層、および、光導電層は、感光体2〜6と同様の条件にて製作し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表13、14に示した条件でAlNOからなる層を形成した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、O2、N2の流量を変化させることで、N含有量をほぼ一定に保ちながら、O含有量を変化させた。
また、表14中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。また、感光体15〜18では、H、Xは工程上添加していないため、これらは実質的に含有しないとして扱っている。
また、電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体15〜18を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。それらの結果を表15に示す。なお、表15においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表15から明らかなように、655nm光に対する感度に関しては、リファレンスとして示した感光体1とほぼ同等であることが確認でき、本実施例に示したAlNO表面層は、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ表面層であることが確認できる。また、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られており、405nm付近の波長帯の光に対する適応性にも優れていることが確認できる。
また、感光体15〜17の結果より、O含有量が30原子%以下であれば、摩耗レートに関しても、摩耗ムラに関しても非常に優れていることが確認できる。
以上、実施例4、5および比較例4、5の結果より、O含有量が1原子%以上、30原子%以下となるAlNO表面層は、物理的な摺擦による摩耗性に優れるだけなく、帯電による電気的な作用に起因する微視的な摩耗ムラに対しても非常に優れた特性を示し、総合的に優れた耐磨耗性を有していることが確認できる。このため、接触式帯電器との適応性が非常に優れていることがわかる。
(実施例6)
感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を4種類(感光体19〜22)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。下部電荷注入阻止層、および、光導電層は、感光体2〜6と同様の条件にて製作し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表16、17に示した条件でAlNOからなる層を形成した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、さらに、H2を添加してAlNOにHを含有させた。その際、O2、N2、H2の流量を変化させることで、Alに対するHの含有量(以降、H含有量と表記する。)を変化させながら、N含有量とO含有量はほぼ一定となるように調整した。
表17中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。X含有量はAlに対するハロゲン原子の含有量の総和を原子%で記載したものであり、N含有量、O含有量と同様の手法で測定した。しかしながら、実際の測定では、含有量として有意な数値が得られなかったため、実質的に含有しないものとして扱い、数値は記載していない。また、H含有量は、各々の感光体と同一の成膜条件でコーニング社製7059(商品名)上に膜厚約0.3μmを形成したサンプルを作製し、ラザフォード後方散乱分析(RBS)法により、表面より約0.2μmの深さの部分のH含有量を計測して採用した。なお、感光体19については、有意な数値が得られなかったため、実質的に含有しないものとして扱い、含有量を0.0と表記した。
また、電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体19〜22を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った後、更に、次に示すような条件で追加耐久を行い、耐摩耗性に対する加速的評価を行った。
まず、プロセス条件としては、帯電条件を、通常条件の耐久評価を行ったときの帯電設定に対し、帯電器に流れる電流値が3倍になるように変更した。露光条件に関しては、通常条件の耐久評価を行ったときと同じ設定とした。これに伴い、帯電電位、および、露光電位は、ともに高くなるが、その設定に応じて現像におけるバイアス電位も高く設定した。このような条件において、A4コピー用紙50万枚の画像形成を繰り返す通紙を行った。耐久が終了したら、帯電、露光、現像の条件を、通常条件の耐久評価を行ったときの設定に戻し、その状態で、通常条件の耐久評価と同様の方法にて、摩耗レートおよび摩耗ムラの評価を行った。
このように帯電時における電流値を通常の設定よりも多くして耐久を行うことで、特に帯電による電気的な作用に対する安定性に関してはより厳しい評価条件となるため、加速的に評価することが可能となる。
それらの結果を表18に示す。なお、表18においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表18から明らかなように、655nm光に対する感度に関しては、リファレンスとして示した感光体1とほぼ同等であることが確認でき、本実施例に示したAlNO表面層は、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ表面層であることが確認できる。また、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られており、405nm付近の波長帯の光に対する適応性にも優れていることが確認できる。
また、何れの感光体も、50万枚耐久後においては、摩耗レートと摩耗ムラともに優れた結果が得られており、総合的に優れた耐磨耗性を有していることがわかる。一方、Hを実質的に含有していない感光体19に関しては、100万枚耐久後においても、50万枚耐久後と同等の耐磨耗性を示したのに対し、他の感光体は何れも摩耗ムラ特性がやや劣る傾向があった。
これは長期に渡り画像形成を繰り返すに従い、次第に水素の結合が切れることにより欠陥を発生させ、このため、電気的な安定性に関しても何らかの変化が生じてしまい、表面層の最表面部分と帯電部材との接触性が変化し、帯電部材による摺擦が均一に行われ難くなっていく様子を示しているのではないかと考えられる。
なお、本実施例においては、表面層の形成をスパッタリング法で行ったため、N2、O2に加え、H2を添加することでH含有量を調整し、総合的な耐磨耗性におけるH含有量の効果の検証を行ったが、他の成膜方法でも同様の結果が得られると推測される。
(実施例7)
感光体として、図4(b)に示した層構成の感光体を4種類(感光体23〜26)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、及び、表面層を順次積層して図4(b)に示した層構成の感光体を製作した。下部電荷注入阻止層、および、光導電層は、感光体2〜6と同様の条件にて製作し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表19、20に示した条件でAlNOからなる層を形成した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用い、さらに、フッ素ガス(F2とも表記)を添加してAlNOにフッ素原子(Fとも表記)を含有させた。その際、O2、N2、F2の流量を変化させることで、Alに対するFの含有量(以降、F含有量と表記する。)を変化させながら、N含有量とO含有量はほぼ一定となるように調整した。
表20中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。X含有量はAlに対するハロゲン原子の含有量の総和を原子%で記載したものであり、N含有量、O含有量と同様の手法で測定した。なお、F以外のハロゲン原子の含有量は有意な値が得られず、実質的にはX含有量とF含有量は同一値である。また、感光体23については、有意な数値が得られなかったため、実質的に含有しないものとして扱い、含有量を0.0と表記した。
また、電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体23〜26を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。その後、更に、実施例6で示した方法と同様の方法にて、追加耐久を行い、耐磨耗性に対する加速的評価を行った。それらの結果を表21に示す。なお、表21においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。
表21から明らかなように、655nm光に対する感度に関しては、リファレンスとして示した感光体1とほぼ同等であることが確認でき、本実施例に示したAlNO表面層は、幅広いプロセス条件に適応可能な良好な特性をもつ表面層であることが確認できる。また、405nmの光に対しても十分な分光感度が得られており、405nm付近の波長帯の光に対する適応性にも優れていることが確認できる。
また、何れの感光体も、50万枚耐久後においては、摩耗レートと摩耗ムラともに優れた結果が得られており、総合的に優れた耐磨耗性を有していることがわかる。一方、Xを実質的に含有していない感光体23に関しては、100万枚耐久後においても、50万枚耐久後と同等の耐磨耗性を示したのに対し、他の感光体は何れも摩耗ムラ特性がやや劣る傾向があった。
これは長期に渡り画像形成を繰り返すに従い、次第にハロゲン原子の結合が切れることにより欠陥を発生させ、このため、電気的な安定性に関しても何らかの変化が生じてしまい、表面層の最表面部分と帯電部材との接触性が変化し、帯電部材による摺擦が均一に行われ難くなっていく様子を示しているのではないかと考えられる。
なお、本実施例においては、表面層の形成をスパッタリング法で行ったため、N2、O2に加え、F2を添加することでF含有量を調整し、総合的な耐磨耗性におけるF含有量の効果の検証を行ったが、他の成膜方法でも同様の結果が得られると推測される。
以上、実施例6、7の結果から、H、Xを実質的に含有しないことが総合的な耐磨耗性に優れ、安定した画像が長期間にわたってが得られる電子写真用感光体の提供を可能にすることが確かめられた。
なお、どのような含有量の数値を実質的に含有しないとして扱うかは、そのときの分析技術、手段により異なるが、本発明で検証した通り、H、X含有量はそれぞれ少ない方が、総合的な耐磨耗性に対してして優位であることは明らかであり、どのような分析手段を用いたとしてもより少ないほうが望ましいことは変わらないと推測される。
一方、本発明のN含有量、O含有量の範囲の電子写真用感光体においては、H、Xを含有したものであっても、総合的な耐摩耗特性が向上するという効果が得られることに変わりはない。
(実施例8)
感光体として、図4(d)に示した層構成の感光体を6種類(感光体27〜32)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、中間層、及び、表面層を順次積層して図4(d)に示した層構成の感光体を製作した。
本実施例では、中間層としてa−SiNからなる堆積膜を用い、成膜時のN2流量によって、中間層中のSiに対するNの含有量(以降、Nt含有量と表記する。)を変化させた。
下部電荷注入阻止層、光導電層、および、中間層は、図6に示した装置を用いてプラズマCVD法によって、表22、および、表23に示した条件で形成し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表24に示した条件でAlNOからなる層を形成した。プラズマCVDに用いた高周波電力は周波数13.56MHzを使用した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用いた。
また、本実施例では、光導電層と表面層との間に、中間層を形成しないものも製作し、感光体32とした。
電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体27〜32を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。それらの結果を表25に示す。
なお、表25においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。また、表25中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。Nt含有量は、Siに対する値であり、各感光体の中間層と同一条件でコーニング社7059ガラス(商品名)上に厚さ約1μmの堆積膜を形成し、これを、実施例1と同様にの手法でESCAにより測定した
表25から明らかなように、中間層を形成した感光体27〜31では、何れも中間層を形成しい感光体32に対して、655nm光に対する感度の向上が認められた。
図10に、中間層中におけるNt含有量と655nm光に対する感度の関係についてプロットしたグラフを示す。本実施例においては、655nm光に対する感度が0.92以下であれば、評価に用いた電子写真装置に対して20%程度の高速化を行っても十分な光感度が得られると予想される。図10によれば、Nt含有量のおおよそ10原子%以上、55原子%以下の範囲で光感度が0.92以下まで向上し、特に良好な特性が得られることが分かった。
(実施例9)
感光体として、図4(d)に示した層構成の感光体を6種類(感光体33〜38)製作した。より具体的には、導電性の基体として直径84mm、長さ381mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、下部電荷注入阻止層、光導電層、中間層、及び、表面層を順次積層して図4(d)に示した層構成の感光体を製作した。
本実施例では、中間層としてa−SiCかならる堆積膜を用い、成膜時のCH4流量によって、中間層中のSiに対するCの含有量(以降、C含有量と表記する。)を変化させた。
下部電荷注入阻止層、光導電層、および、中間層は、図6に示した装置を用いてプラズマCVD法によって、表26、および、表27に示した条件で形成し、表面層は図5に示した装置を用いてスパッタリング法によって、表24に示した条件でAlNOからなる層を形成した。プラズマCVDに用いた高周波電力は周波数13.56MHzを使用した。なお、本実施例では、ターゲットにアルミニウム、反応性ガスにO2、N2を用いた。
また、本実施例では、光導電層と表面層との間に、中間層を形成しないものも製作し、感光体38とした。
電子写真装置としては、実施例2に示した装置と同様の構成の磁気ブラシ帯電器を有する装置を用意した。用意した電子写真装置に、感光体33〜38を順次搭載し、実施例1と同様の手法により、評価1の電位特性評価、評価3の耐久評価、及び、評価4の分光感度特性評価を行った。それらの結果を表28に示す。
なお、表28においては、比較例1の評価値を1.00とした相対比較で表した。また、表28中のN含有量とO含有量は、Alに対する値であり、実施例1と同様の手法で測定した。C含有量は、Siに対する値であり、各感光体の中間層と同一条件でコーニング社7059ガラス(商品名)上に厚さ約1μmの堆積膜を形成し、これを、実施例1と同様にの手法でESCAにより測定した
表28から明らかなように、中間層を形成した感光体33〜37では、何れも中間層を形成しい感光体32に対して、655nm光に対する感度の向上が認められた。
図11に、中間層中におけるC含有量と655nm光に対する感度の関係についてプロットしたグラフを示す。本実施例においては、655nm光に対する感度が0.92以下であれば、評価に用いた電子写真装置に対して20%程度の高速化を行っても十分な光感度が得られると予想される。図11によれば、C含有量のおおよそ10原子%以上、100原子%以下の範囲で光感度が0.92以下まで向上し、特に良好な特性が得られることが分かった。