JP5311615B2 - 化学修飾ポリオール脱水素酵素およびその製造方法 - Google Patents

化学修飾ポリオール脱水素酵素およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(本明細書中では、「PQQ依存性PDH」とも称する)をグルタルアルデヒドで化学修飾することにより、酵素活性を低下させることなく、かつ再現性よく熱安定性に優れた化学修飾PQQ依存性PDHを製造する方法、および当該PQQ依存性PDHを用いたポリオールの定量法に関するものである。
補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素は、バクテリアの細胞膜に存在しており、グルコノバクター属等から抽出、精製する方法が知られている。また、このPQQ依存性PDHは、グリセロール、ソルビトール、マンニトールなどのポリオールの定量に利用可能なことが知られている。
例えば、グリセロールに関しては、従来から下記式で示すように、グリセロールキナーゼとグリセロール−3−リン酸オキシダーゼまたはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼとを用いる方法が知られている。
Figure 0005311615
しかしながら、この方法は二種類の酵素を用いるため反応が煩雑である。さらに、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを用いた場合は溶存酸素の影響を受けるという問題点があり、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNADを添加する必要がある。また、溶存酸素の影響を受けず、一種類の酵素を用いる方法としては、下記式で示すように、NAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼを用いる方法が知られている。
Figure 0005311615
しかしながら、NAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼは、補酵素結合型酵素ではないため、高価なNADを添加しなければならない。より安価で簡便なグリセロールの定量法として、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グリセロールデヒドロゲナーゼが知られている。
Figure 0005311615
しかしながら、この酵素、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グリセロールデヒドロゲナーゼは、膜結合型酵素であるため熱安定性が極めて低い。安定性が低い酵素を用いた測定試薬では、保存中に酵素の失活が起こり測定対象物質の濃度を正確に定量することができない。そのため、該酵素の熱安定性を向上させ、保存中の酵素の失活を抑える必要がある。
酵素の熱安定性を向上させる方法として、2価性架橋試薬による酵素の架橋法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。しかしながら、一般的に2価性架橋試薬による酵素の架橋は、酵素活性の著しい低下を招く。例えば、特許文献1では、架橋処理後の酵素活性の回収率は23.4%であり(段落「0015」の表1参照)、特許文献2では、28%である(段落「0014」参照)。このような回収率の悪い架橋法では工業的規模での製造を考えた場合、製造コストのアップは避けられず非常に効率の悪い製造法としか言えない。
これらの問題を考慮して、2価性架橋試薬による酵素の架橋法において酵素活性の低下を引き起こさない方法として、架橋反応溶液中に界面活性剤を加える方法が報告されている(例えば、特許文献3参照)。当該特許文献3に記載の方法によると、界面活性剤を加えることにより酵素が凝集せず、しかも2価性架橋試薬が溶媒中に均一に分散するため、酵素活性を低下させることなく、しかも熱安定性に優れた酵素を製造することが可能である(段落「0009」参照)。特許文献3によれば、架橋処理後の酵素活性の回収率は80%であり(段落「0037」参照)、50℃、10分の熱処理における酵素の熱安定性は80%向上している(段落「0038」参照)。
特許第3143050号明細書 特開2000−262281号公報 特開2006−271257号公報
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法では、下記表1に示されるように架橋後の酵素活性の回収率および50℃、10分の熱処理における残存活性の結果にばらつきが認められ、十分な再現性を達成するには至らなかった。
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、酵素活性を低下させることなく、かつ再現性よく熱安定性に優れたポリオール脱水素酵素を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、上記ポリオール脱水素酵素を用いた正確なポリオールの定量方法を提供することである。
本発明者らは、上記従来の問題点に鑑みて特開2006−271257号公報に記載される架橋条件について鋭意研究した。その結果、架橋後の酵素活性の回収率および熱処理における残存活性の値に再現性が低い理由として、高濃度の2価性架橋試薬を短時間で反応させていることに原因があるのではないかと考え、さらに架橋条件について鋭意検討を行なった。その結果、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を、界面活性剤存在下、2価性架橋試薬としてグルタルアルデヒドをより低濃度で用い、さらに従来より低い反応温度及び長い反応時間となるように反応条件を設定して当該酵素の化学修飾を行なうことによって、酵素活性の回収率が高くかつ有意に高い再現性が得られることを見出した。上記知見に加えて、上記条件で化学修飾されたポリオール脱水素酵素は、金属イオンの存在下であってもその影響を受けにくいことを見出した。すなわち、このような方法を用いることにより、酵素活性を低下させることなく、さらに再現性よく熱安定性が向上したポリオール脱水素酵素を製造できることが判明した。上記知見に基づいて、本発明を完成させた。
すなわち、上記目的は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を、界面活性剤の存在下、グルタルアルデヒドで化学修飾する工程を有する化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法であって、前記ポリオール脱水素酵素の化学修飾は、終濃度が0.05〜0.9g/100mLのグルタルアルデヒドの存在下で、7.0〜9.5のpH、0〜25℃の条件で、10分〜3時間、行なわれることを特徴とする、化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法によって達成される。
本発明によれば、安価かつ簡便に酵素活性を低下させることなく、さらに再現性よく熱安定性に優れるPQQ依存性PDHを製造することができる。また、該酵素を用いることにより、再現性よく、また精度も高くポリオールを定量することができる。上記利点に加え、本発明によると、本発明に係るPQQ依存性PDHは、金属イオンによる阻害(酵素活性の低下)を受けにくい。このため、本発明に係るPQQ依存性PDHを用いれば、微量の金属または金属塩を含むサンプル(例えば、血液)であっても再現性よく、かつ高い精度でポリオールを定量することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の第一は、グルタルアルデヒドで化学修飾する工程を有する化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法であって、前記ポリオール脱水素酵素の化学修飾は、終濃度が0.05〜0.9g/100mLのグルタルアルデヒドの存在下で、7.0〜9.5のpH、0〜25℃の条件で、10分〜3時間、行なわれることを特徴とする、化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法を提供する。本発明の方法では、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を、界面活性剤の存在下、2価性架橋試薬であるグルタルアルデヒドで化学修飾する工程を必須に含むが、このような工程によりポリオール脱水素酵素にグルタルアルデヒドによって架橋構造が導入される。なお、本明細書中では、このように架橋構造が導入されたポリオール脱水素酵素を、「化学修飾ポリオール脱水素酵素」あるいは「化学修飾PQQ依存性PDH」とも称する。本発明の方法によると、酵素活性を低下させることなく、かつ再現性よく熱安定性に優れた化学修飾PQQ依存性PDHを製造することができる。
本発明において、化学修飾される補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素は、いずれのポリオールを基質としてもよく、2つ以上のヒドロキシ基(OH)を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に制限されない。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトール等の、二糖由来のアルコール;グリセロール等の、トリオール;エリスリトール等の、テトリトール;アラビトール、キシリトール、リビトール等の、ペンチトール;マンニトール、ソルビトール等の、ヘキシトール;イノシトール等の、シクリトールなどが挙げられる。これらのうち、グリセロール(ピロロキノリンキノン依存性グリセロール脱水素酵素)、アラビトール(ピロロキノリンキノン依存性アラビトール脱水素酵素)、マンニトール(ピロロキノリンキノン依存性マンニトール脱水素酵素)及びソルビトール(ピロロキノリンキノン依存性ソルビトール脱水素酵素)が基質として好ましく、グリセロールを基質とすることがより好ましい。
本発明で化学修飾させる補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素としては、従来公知の酵素をいずれも好ましく使用することができる。該酵素は例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属、アシネトバクター属など様々な細菌が生産することが知られており、これらPQQ依存性PDH生産菌が生産するいずれのPQQ依存性PDHも好適に使用することができる。これらの中でも本発明では、特にグルコノバクター属に由来するPQQ依存性PDHを好適に使用することができる。入手の容易さから、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3171、3172、3189、3244、3250、3253、3255、3256、3257、3258、3285、3287、3289、3290、3291、3292、3293、3294、3462、3990、12467、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3251、3254、3260、3264、3265、3268、3270、3271、3272、3273、3274、3286、16669;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3262、3263、3266、3267、3269、3275、3276等を使用することができる。また、PQQ依存性PDHを生産することができれば、これらの自然突然変異株または人為突然変異株を使用してもよい。人為突然変異処理方法は、当業者に周知の方法によって、同様にしてあるいは適宜修飾してあるいはこれらの方法を適宜組合わせて適用することができる。このような微生物の代表菌株として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、特にグルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3291が好ましく使用される。
架橋構造を導入するPQQ依存性PDHを調製するためには、具体的には、上記PQQ依存性PDH生産菌を栄養培地に培養し、該培養物からPQQ依存性PDHを採取すればよい。PQQ依存性PDH生産菌を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地、天然培地いずれも好適に使用できる。炭素源としては、例えばグルコース、グリセロール、ソルビトール等が使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキス等の窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の無機窒素含有物等が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が使用される。その他、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培養は通常、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行う。培養温度は20〜50℃、好ましくは20〜40℃、最も好ましくは25〜35℃である。培養pHは5〜10の範囲、好ましくは5〜9である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。なお、これらのPQQ依存性PDHは、上記培養によって得られた酵素でも、PQQ依存性PDH遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
次いで、得られたPQQ依存性PDHを抽出する。抽出法は一般に使用される抽出法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法等が例示される。抽出したPQQ依存性PDHの精製法は、硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、さらにはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などにより精製することができる。
本発明では、グルタルアルデヒドを2価性架橋試薬として使用することを必須とする。
本発明では、2価性架橋試薬であるグルタルアルデヒドによる化学修飾を行なうが、得られる化学修飾PQQ依存性PDHは、酵素同士を相互に架橋するものではなく、酵素の立体構造を強固にすることで熱安定性を向上させるものである。したがって、酵素同士の架橋を防止するため、一般には上記酵素濃度を、0.1〜50mg/mL、より好ましくは0.1〜40mg/mL、さらにより好ましくは0.1〜30mg/mL、特に好ましくは0.2〜30mg/mLに調整することが好ましい。
架橋反応液中のグルタルアルデヒドの濃度は、終濃度として、0.05〜0.9g/100mLとなるように調整される。このように比較的低い終濃度となるようにグルタルアルデヒドを添加することによって、所望の化学修飾PQQ依存性PDHを、高い酵素活性の回収率でかつ優れた再現性で回収できる。好ましくは、架橋反応液中のグルタルアルヒドの濃度は、終濃度として、0.1〜0.7g/100mL、特に好ましくは0.1〜0.5g/100mL、最も好ましくは0.1〜0.3g/100mLである。この際、架橋反応液中のグルタルアルヒドの濃度が0.05g/100mL未満の場合には、グルタルアルデヒド濃度が薄すぎるため、反応時間が長くなりすぎる可能性があり、一方、0.9g/100mLを越えるとグルタルアルデヒド濃度が濃すぎるために反応時間を短くする必要があるが、濃いグルタルアルデヒド濃度において短い時間で反応させるため、架橋後の酵素活性の回収率および熱処理における酵素の残存活性の結果に再現性が得られなくなる可能性がある。
架橋反応液のpH(即ち、化学修飾反応中のpH)は、7.0〜9.5であり、より好ましくは7.5〜9.0である。架橋反応液のpHが上記範囲を外れると、酵素のpH安定域から外れる場合があるため、酵素の失活が起こる可能性がある。本発明に係る架橋反応(化学修飾)は、酵素の安定性などを考慮すると、上記pHの緩衝液中で行なわれることが好ましい。この際、当該反応を行なう緩衝液は、上記pH範囲となるような緩衝液を使用すればよく、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、及びMOPS、HEPESのようなGOOD緩衝液などを用いることができるが、トリス−塩酸緩衝液やグリシン−NaOH緩衝液のようなアミノ基を有する緩衝液は使用することができない。
本発明では、PQQ依存性PDHの化学修飾は、界面活性剤の存在下で行われる。界面活性剤が存在することにより、2価性架橋試薬(グルタルアルデヒド)によって酵素を凝集させることなく架橋でき、酵素の立体構造が安定に保持され熱安定性が向上するとともに、2価性架橋試薬が溶媒中に均一に分散するため、酵素活性を低下させることなく架橋することが可能となる。このような界面活性剤としては、一般的に膜タンパク質の可溶化に用いられているものであればよく、トライトン(Triton)X−100、オクチルグルコシド、コール酸ナトリウム等がある。また、界面活性剤の濃度は、終濃度として、0.01〜10g/100mLであることが好ましく、より好ましくは0.02〜5g/100mL、特に好ましくは0.05〜2g/100mLである。0.01g/100mL未満では界面活性剤濃度が薄すぎるために酵素の失活を招く可能性がある。
上記架橋反応溶液中または、下記停止反応中および停止反応後に、酵素の安定性を向上させることを目的として、2価の金属イオン、PQQ、または還元剤を加えてもよい。2価の金属イオンとしては、特に限定されるものではないが、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが好ましい。2価の金属イオンの濃度は、酵素の失活および変性が起こらない程度であれば特に限定されないが、反応溶液に対して、終濃度で0.1〜100mMであることが好ましく、より好ましくは0.5〜50mMである。還元剤としては、特に限定されるものではないが、2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールが挙げられる。還元剤の濃度は、酵素の失活および変性が起こらない程度であれば特に限定されないが、反応溶液に対して、終濃度で0.1〜20mMであることが好ましい。
架橋反応時の温度は、0〜25℃であり、好ましくは4〜25℃、より好ましくは10〜25℃であり、最も好ましくは10〜20℃付近である。化学修飾反応時間は、PQQ依存性PDHを十分化学修飾(架橋反応)できる時間であれば特に制限されない。具体的には、化学修飾反応時間は、10分〜3時間、好ましくは10分〜2時間、より好ましくは30〜90分、最も好ましくは60〜90分である。このように、比較的低い反応温度でかつ比較的長い反応時間でPQQ依存性PDHの化学修飾を行なうことによって、酵素活性の回収率および再現性を有意に向上することができる。なお、10分未満では、反応時間が短すぎるため再現性が乏しくなる可能性があり、一方、化学修飾時間が長すぎる場合には、架橋反応による酵素活性の回収率が低下する可能性がある。
このようにして行なわれた架橋反応(化学修飾)は、停止させるが、この際の停止方法は、特に限定されることなく、公知の停止反応が同様にして適用できる。具体的には、架橋反応は、グリシン(グリシン−NaOH緩衝液)溶液またはトリス溶液(トリス−HCl緩衝液)、エタノールアミン溶液のようなアミノ基を有する停止剤を加えることにより反応を停止させることができる。したがって、本発明の方法は、ポリオール脱水素酵素の化学修飾後の架橋反応液に、アミノ基を有する停止剤を添加して、4〜40℃で30〜60分間、反応させることにより、前記化学修飾を停止させる工程をさらに有することが好ましい。
上記実施形態において、停止剤の量は、架橋反応が停止できる量であれば特に制限されないが、架橋反応液に対し、終濃度で0.01〜5M、好ましくは0.02〜4M、特に好ましくは0.05〜3Mとなるように、上記停止剤を加えることによって、架橋反応(化学修飾)を停止することができる。また、停止反応中のpHは、6.0〜10.5、より好ましくは7.0〜10.0、特に好ましくは7.5〜9.5である。この際、pHが6未満であるまたは10.5を超える場合には、酵素のpH安定域から外れるため、酵素の失活を招くおそれがある。なお、逆反応を起こさせないため、上記架橋反応液中にまたは、停止反応中にもしくは停止反応後に水素化シアノホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤を加えてもよい。このような還元剤を添加する場合の、還元剤の添加量は、逆反応を抑制・防止できる量であれば特に制限されず、還元剤は公知と同様の量で添加されうる。
上記架橋反応(化学修飾)の停止反応条件は、架橋反応(化学修飾)が停止できる条件であれば特に制限されない。停止反応温度は、好ましくは4〜50℃、より好ましくは4〜40℃、特に好ましくは4〜30℃である。ここで、停止反応温度が50℃を超える場合には、酵素の失活が起こる可能性があり、4℃未満では、停止反応が十分進行しない場合があり、また、必要以上に停止反応時間が長くなる可能性がある。また、停止反応時間は、停止反応時の温度によって異なるが、一般的には、好ましくは5〜180分、より好ましくは5〜120分、特に好ましくは10〜90分、最も好ましくは30〜90分間である。ここで、停止反応時間が5分未満では、反応時間が短すぎるため、架橋反応が完全に停止しない場合があり、一方、180分を越えると、酵素の失活を招く場合がある。
停止反応終了後、未反応のグルタルアルデヒド、未反応の停止剤、及び低分子量のものを取り除くため、透析、クロマトグラフィー、限外ろ過等を、単独であるいは適宜組合わせて行なうことが望ましい。
上記したような本発明の方法による化学修飾PQQ依存性PDHの回収率は、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%という高い回収率が達成できる。また、化学修飾PQQ依存性PDHの回収率の再現性に関しても、好ましくは平均回収率±10%以内、より好ましくは平均回収率±5%以内という、優れた再現性が達成できるため、大量生産など、工業的な面で非常に有利である。さらに、酵素の熱安定性に関しても、50℃、10分間のインキュベート後の当該酵素の残存活性は、好ましくは65〜85%、より好ましくは75〜85%である。
したがって、本発明の方法によれば、所望の化学修飾ポリオール脱水素酵素を、高い回収率でかつ再現性よく製造できる。また、このようにして本発明の方法によって得られた化学修飾PQQ依存性PDHは、酵素活性を低下させることなく、熱安定性に優れるため、貯蔵・保存中であっても経時的な酵素の失活を有意に抑える。特に、このようにして本発明の方法によって得られた化学修飾PQQ依存性PDHは、金属イオンによる阻害(酵素活性の低下)を受けにくい。一般的に、血液中には、正常値で、およそ60〜120μg/dl(9.2〜18.4μM)濃度の亜鉛、およそ80〜150μg/dl(12.6〜23.6μM)濃度の銅など、微量ではあるが金属が存在している。これらの金属は、必ずしもすべてがイオンの形態で存在しているわけではないが、一部はイオンの形態で存在している。一方、上記金属イオンによっては、酸化作用を有し、酵素の失活を誘発することがある。このため、従来、PQQ依存性PDHは、金属イオンの影響を受け、酵素活性が低下し、その結果、以下で詳述するような中性脂肪濃度の測定時などの精度の低下をもたらしていた。しかしながら、本発明に係る化学修飾PQQ依存性PDHは、金属イオンによる阻害(酵素活性の低下)を受けにくいため、金属や金属塩を含む血液サンプルなどを用いる場合であっても、正確に中性脂肪濃度を測定することができる。
すなわち、本発明に係る化学修飾PQQ依存性PDHの金属イオン存在下での阻害抑制効果に関しては、20μM(0.02mM)の銅イオン(硫酸銅)の存在下で4℃で2時間、インキュベートした後の、当該酵素の残存活性は、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%である。また、20μM(0.02mM)の亜鉛イオン(塩化亜鉛)の存在下で4℃で2時間、インキュベートした後の、当該酵素の残存活性は、好ましくは80〜100%、より好ましくは90〜100%である。なお、上記銅イオン及び亜鉛イオン存在下での酵素の残存活性は、具体的には、下記実施例5で記載された方法に従って測定した値である。
本発明の第二は、本発明の方法によって得られる化学修飾ポリオール脱水素酵素を含むポリオール測定試薬である。
本発明の第二のポリオール測定試薬は、本発明の第一の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHを含み、ポリオールを測定するために使用する試薬である。ポリオール脱水素酵素として本発明の第一の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHを使用する点に特徴があり、例えば特許公報第3041840号、特許公報第3450911号、特許公報第3494398号などに記載されるポリオール測定で使用するポリオール脱水素酵素として本発明の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHを使用することができる。
本発明の第二で測定するポリオールは、いずれのポリオールであってもよく、2つ以上のヒドロキシ基(OH)を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に制限されない。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトール等の、二糖由来のアルコール;グリセロール等の、トリオール;エリスリトール等の、テトリトール;アラビトール、キシリトール、リビトール等の、ペンチトール;マンニトール、ソルビトール等の、ヘキシトール;イノシトール等の、シクリトールなどが挙げられる。これらのうち、グリセロール、アラビトール、マンニトール及びソルビトールが好ましく、グリセロールがより好ましい。
本発明の第三は、本発明の第一の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHをポリオールと反応させることを特徴とする、ポリオールの定量法である。本発明の第一の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHは、例えば、ポリオールがグリセロールである場合には、下記式に示されるように、グリセロールと酸化型電子受容体とを、対応する脱水素物と還元型電子受容体とに変換することができる。
Figure 0005311615
上記式において、酸化型電子受容体の減少、還元型電子受容体の増加、ジヒドロキシアセトンの量を測定することによって、簡便にグリセロールを定量することができる。なお、本発明に係る化学修飾PQQ依存性PDHは、アポ化しないため、あえてPQQを反応系に添加することなく、ポリオールを定量することができる。
本発明の化学修飾PQQ依存性PDHは、ポリオールと電子受容体とを、対応する脱水素物と還元型電子受容体とに変換することができる。本発明の化学修飾PQQ依存性PDHが好適に使用できる電子受容体としては、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)、Wurster’s blue、ニトロテトラゾリウムブルー等がある。
本発明の定量法において、ポリオールを含む試料としては、食品、血清、血漿や全血等がある。ここで、一般的に、血液中には、正常値で、およそ60〜120μg/dl(9.2〜18.4μM)濃度の亜鉛、およそ80〜150μg/dl(12.6〜23.6μM)濃度の銅など、微量ではあるが金属が存在している。これらの金属は、必ずしもすべてがイオンの形態で存在しているわけではないが、一部はイオンの形態で存在する。このイオン形態の金属(金属イオン)は、その理由は明らかではないが、PQQ依存性PDHを阻害し、酵素活性を低下させる要因となっている。これに対して、本発明の方法によって得られた化学修飾PQQ依存性PDHは、金属イオンによる阻害(酵素活性の低下)を受けにくい。このため、本発明に係る化学修飾PQQ依存性PDHは、微量の金属を含むサンプル(例えば、血清、血漿や全血等の血液由来のサンプル)であっても再現性よく、また精度も高くポリオールを定量する(ゆえに正確に中性脂肪濃度を測定する)ことができる。このように、本発明の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHは、血清や血漿、全血等の中性脂肪測定にも使用することができる。すなわち、これらの試料に含まれる中性脂肪は、例えばリポプロテインリパーゼにより遊離脂肪酸とグリセロールに分解されるが、ここで生じたグリセロールを、本発明の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHを使用することにより、定量することができる。中性脂肪測定時には精神病治療患者、透析患者では遊離グリセロールが問題になるが、本発明の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHを用いてグリセロールを予め消去するか、もしくはその量を測定しておくことで真の中性脂肪値を求めることが可能である。なお、本発明の方法によって得られる化学修飾PQQ依存性PDHは溶液中に界面活性剤を含んでいてもポリオールを正確に定量することができる。
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例及び比較例は何ら本発明を制限するものではない。なお、本発明において、PQQ依存性PDHの酵素活性は、下記方法により測定した。
(PQQ依存性PDHの酵素活性の測定方法)
PQQ依存性PDHの酵素活性は、50μM DCIP、0.2mM 5−メチルフェナジニウムメチルスルファート(PMS)、450mM グリセロールを含んだ0.1% トライトンX−100を含む10mM リン酸緩衝液pH 7.0中に、酵素溶液を加え、酵素と基質との反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。ここで、1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.0におけるミリモル吸光係数は16.3mM−1とした。
実施例1
ソルビトール 2g/100mL、酵母エキス 0.3g/100mL、肉エキス 0.3g/100mL、コーンスティープリカー 0.3g/100mL、ポリペプトン 1g/100mL、尿素 0.1g/100mL、KHPO 0.1g/100mL、MgSO・7HO 0.02g/100mL、CaCl・2HO 0.1g/100mL、pH 7.0からなる培地100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。
次に、上記と同じ組成で調製した培地5Lを8L容ジャーファーメンターに移し、121℃で50分間オートクレーブを行い、放冷後、種培養液240mLを移した。これを、400rpm、通気量5L/min、30℃で26時間培養した。
所定時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、緩衝液で懸濁後、フレンチプレスにより菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)し、得られた上清を超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)して、膜画分を沈殿物として得た。
この膜画分を10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し、終濃度が1g/100mLとなるようにトライトンX−100を加え、4℃で2時間撹拌した。超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)し、上清を0.1g/100mL トライトンX−100を含む10mM MOPS緩衝液(pH7.5)で一晩透析し、これを可溶化膜画分とした。
この可溶化膜画分をFPLCにてResourceQ 6mLで夾雑するグルコース脱水素酵素を除いたポリオール脱水素酵素活性画分を得た。この画分を0.1g/100mL トライトンX−100、5mM MgSO・7HO及び5mM CaCl・2HOを含む10mM MOPS緩衝液(pH7.5)で一晩透析することにより、比活性17U/mg蛋白の酵素標品を得た。これをグルコノバクター・オキシダンス由来PDHと称する。
ついで、該グルコノバクター・オキシダンス由来PDH(比活性17.0U/mg蛋白、蛋白濃度:0.625mg/mL)40mLに、終濃度0.2g/100mLになるように1g/100mLグルタルアルデヒド水溶液 10mLを加え、20℃で60分穏やかに撹拌した。
ついで、0.5M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を50mL加え、20℃で30分反応させることにより架橋反応を停止した。反応終了後、0.1g/100mLトライトンX−100を含む10mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)で一晩透析することにより低分子量の夾雑物を取り除きこれを修飾PDHとした。架橋処理における酵素活性の回収率は95%であった。
実施例2
実施例1で得た修飾PDHの熱安定性を検討するため、10分間、ウォーターバスにより各温度でインキュベートした後、残存する酵素活性を測定した。結果を図1に示す(架橋PDH)。また、実施例1で使用したグルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC3291を用いて同様に残存する酵素活性を測定した結果(未架橋PDH)を併せて図1に示す。図1において、架橋処理により50℃での残存活性は0%から80%にまで向上した。
実施例3
実施例1の架橋法の再現性を確認するため、同条件で5回同じ実験を行った。また、上記実験により得られた修飾PDHの熱安定性を、実施例2と同様にして評価した。結果を下記表1に示す。
比較例1
特開2006−271257号公報の実施例1に記載の方法と同様にして、比較用修飾PDHを得た。当該比較例1の架橋法の再現性を確認するため、同条件で5回同じ実験を行った。また、これらの実験で得られた各比較用修飾PDHの熱安定性を、実施例2と同様にして評価した。結果を下記表1に示す。
Figure 0005311615
上記表1の結果から、本発明の方法によれば、再現性よく酵素活性を低下させることなく熱安定性に優れた化学修飾(架橋)PDHが得られることが分かる。
実施例4
50μM DCIP、0.2mM PMS、酵素溶液(0.3U)を含んだ0.1g/100mL トライトンX−100を含む10mMリン酸緩衝液(pH 7.0)中に、終濃度が100、200、300、400、500μLになるようにグリセロールを加えDCIPの600nmにおける吸光度の減少を測定した。結果を図2に示す。
図2から、100〜500μMグリセロールまで直線性がよく、定量可能であることが示唆された。
実施例5
実施例1で得た修飾PDH(比活性16.2U/mg蛋白)の金属イオンによる影響を以下のようにして検討した。なお、比較対照としては、実施例1で使用したグルコノバクター・オキシダンス由来PDH(比活性17.0U/mg蛋白、蛋白濃度:0.625mg/mL;以下、「未架橋PDH」と称する)を使用した。
すなわち、修飾PDH及び未架橋PDHを、酵素濃度が1.9U/mlとなるように、それぞれ、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)+0.1% トライトンX−100に溶解した。このようにして得られた修飾PDH及び未架橋PDHの溶液 180μlに、0.2mM(最終金属イオン濃度:0.02mM)または10mM(最終金属イオン濃度:1mM)の下記表2に示される各種金属塩をそれぞれ20μlづつ添加し、4℃で2時間、インキュベートした。所定時間インキュベートした後、残存する酵素活性を測定した。結果を下記表2に示す。
Figure 0005311615
上記表2の結果から、本発明に係る修飾PDHは、金属塩(金属イオン)の存在下であっても、酵素活性の低下を有意に抑制できることが示される。
本発明によれば、再現性よく簡便に熱安定性に優れる化学修飾ポリオール脱水素酵素を製造することができ、該酵素を用いて正確にポリオールを測定でき有用である。
実施例2の結果であり、本発明の架橋PDHの熱安定性が向上したことを示す図である。 実施例4の結果であり、本発明の架橋PDHを用いてグリセロールの検量線が作成できることを示す図である。

Claims (5)

  1. 補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を、界面活性剤の存在下、グルタルアルデヒドで化学修飾する工程を有する化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法であって、
    前記ポリオール脱水素酵素の化学修飾は、終濃度が0.1〜0.7g/100mLのグルタルアルデヒドの存在下で、7.0〜9.5のpH、0〜25℃の条件で、10分〜3時間、行ない、
    前記ポリオール脱水素酵素の化学修飾後の架橋反応液に、7.5〜9.5のpHで、終濃度で0.01〜5Mとなるようにアミノ基を有する停止剤を添加して、4〜40℃で5〜180分、反応させることにより、前記化学修飾を停止させることを特徴とする、化学修飾ポリオール脱水素酵素の製造方法。
  2. 前記ポリオール脱水素酵素の化学修飾は、終濃度が0.1〜0.5g/100mLのグルタルアルデヒドの存在下で、7.5〜9.0のpH、4〜25℃の条件で、10分〜2時間、行なわれる、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記化学修飾されるポリオール脱水素酵素は、グリセロールを基質とする、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載の方法で得られる化学修飾ポリオール脱水素酵素を用いた、ポリオール測定試薬。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の方法で得られる化学修飾ポリオール脱水素酵素をポリオールと反応させることを特徴とする、ポリオールの定量法。
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