JP4511655B2 - ソルビトール脱水素酵素、それを産生する微生物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なソルビトール脱水素酵素、それを産生する微生物およびそれを用いたソルビトール脱水素酵素の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ソルビトールに高感度かつ特異的に作用するソルビトール脱水素酵素と、それを産生する微生物およびそれを用いたソルビトール脱水素酵素の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
D−ソルビトールは、ヒトの赤血球中及び血清中に微量に存在する化合物であるが、ある種の疾患、特に糖尿病の際にはその含有量が重要な指標となることが知られており、糖尿病の診断マーカーとして有効であることが報告されている。
【0003】
また、D−ソルビトールおよびD−フルクトースは、食品業界では古くから甘味料などとして広範囲にわたり利用されている。
【0004】
ソルビトールを測定する方法としては、ガスクロマトグラフィーによる方法、液体クロマトグラフィーによる方法、酵素を用いる方法などがある。しかし、ガスクロマトグラフィーによる方法、液体クロマトグラフィーによる方法は、いずれも操作が煩雑であるため、大量の検体を処理することが難しいという問題があった。
【0005】
酵素を用いる方法は、ソルビトール脱水素酵素(EC1.1.1.14)を用い、NAD+の存在下にD−ソルビトールを酸化してNADHに還元される量を蛍光強度で測定する方法であり、自動分析器への適用も容易であるため、現在最も多く実用化されている。
従来知られているソルビトール脱水素酵素の例を挙げると、動物肝由来の酵素では、例えばロシュ社などから販売されている羊肝由来のソルビトール脱水素酵素が、また、微生物由来の酵素としては、例えばエンザイム・マイクロバクテリア・テクノロジー〔(Enzyme Microb. Technol.)第13巻、4月号、第332〜337頁、1991年〕に記載のシュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)由来の酵素、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー〔(Journal of Biological Chemistry)第267巻、35号、第24989〜24994頁、1992年〕に記載のバチラス・サチリス(Bacillus subtilis)由来の酵素、ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング〔(Journal of Fermentation and Bioengineering)第84巻、3号、第254〜256頁、1997年〕に記載のシュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)由来の酵素、あるいはバイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー〔(Biosci. Biotechnol. Biochem.)第63巻、3号、第573〜574頁、1999年〕に記載のバチラス・フルクトサス(Bacillus fructosus)由来の酵素がある。
【0006】
しかしながら、前記のソルビトール脱水素酵素はいずれも基質特異性が低く、またソルビトールに対するKmが大きいという欠点を有していた。すなわち、前記の動物肝由来のソルビトール脱水素酵素はイヂトールに、バチラス・サチリス由来の酵素はイヂトールおよびキシリトールに、また、シュードモナス エスピー由来のソルビトール脱水素酵素は、いずれもガラクチトールに、それぞれソルビトールと同程度の反応性を示すものであった。さらに、前記のソルビトール脱水素酵素のソルビトールに対するKmはいずれも約10mM以上の値であり、ソルビトールの測定に用いるにあたり問題となっていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒトの赤血球中や血清中に微量に存在するD−ソルビトールの測定あるいは食品中に含有されるD−ソルビトールまたはD−フルクトースの測定に利用できる、基質親和性および基質特異性に優れた新規なソルビトール脱水素酵素、ならびにこの酵素を産生する微生物およびこの微生物を用いて安価に、そして容易にこの酵素を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはこのような課題を解決するために鋭意研究した結果、土壌より分離したフラビモナス属およびシュードモナス属に属する微生物が、基質親和性および基質特異性に優れたソルビトール脱水素酵素を産生するということを見い出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、第1の発明は、以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素を要旨とするものである。
(1)作用:NAD+の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD+を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは28.9付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは1.99付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:2.5mM付近である。
(4)至適PH:10〜11
(5)pH安定性:5〜10.5
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下35℃で1時間処理した後も80%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は68,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は26,000付近である。
また、第2の発明は、以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素を要旨とするものである。
(1)作用:NAD + の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD + を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは36.8付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは2.78付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:5.9mM付近である。
(4)至適PH:9.5〜10.5
(5)pH安定性:5〜10
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下30℃で1時間処理した後も60%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は52,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は28,000付近である。
さらに、第3の発明は、以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素を要旨とするものである。
(1)作用:NAD + の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD + を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは31.9付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは1.55付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:3.5mM付近である。
(4)至適PH:10〜11
(5)pH安定性:7〜10
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下35℃で1時間処理した後も80%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は38,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は26,000付近である。
【0010】
また、別の発明は、上記した第1の発明であるソルビトール脱水素酵素の生産能を有することを特徴とするフラビモナス・オリジハビタンス(Flavimonas oryzihabitans)A−520株に属する微生物を要旨とするものである。
また、別の発明は、上記した第2又は第3の発明であるソルビトール脱水素酵素の生産能を有することを特徴とするシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)A−989株若しくはA−654株に属する微生物を要旨とするものである。
さらに、別の発明は、上記したフラビモナス・オリジハビタンス(Flavimonas oryzihabitans)A−520株に属する微生物又はシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)A−989株若しくはA−654株に属する微生物を培地にて培養し、培養物からソルビトール脱水素酵素を採取することを特徴とするソルビトール脱水素酵素の製造方法を要旨とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のソルビトール脱水素酵素は上述のような理化学的性質を有するものである。なお、本発明においてソルビトール脱水素酵素の活性は、50mMのD−ソルビトール、2mMのNAD+を含む80mMのトリス塩酸緩衝液(pH9.0)に酵素溶液を加え、緩やかに混和した後、分光光度計で340nmにおける吸光度変化を測定することにより行った。測定は30℃で行った。1分間に1マイクロモルのNADHを生成する酵素量を1単位(U)とした。
【0012】
このようなソルビトール脱水素酵素を産生する微生物としては、フラビモナス・オリジハビタンスA−520株、シュードモナス・フルオレッセンスA−989株、シュードモナス・フルオレッセンスA−654株が挙げられる。以下に、これらの菌株の菌学的性質を以下に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
以上の菌学的性質から、バージィのマニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bargey's mannual of Systematic Bacteriology)に基き検索した結果、A−520株はフラビモナス・オリジハビタンス、A−989株およびA−654株はシュードモナス・フルオレッセンスに属する細菌と判明し、それぞれフラビモナス・オリジハビタンスA−520、シュードモナス・フルオレッセンスA−989、シュードモナス・フルオレッセンスA−654と命名し、平成11年7月13日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。その寄託番号はそれぞれFERM P−17461、FERM P−17462、FERM P−17463である。
【0015】
これらの微生物から本発明のソルビトール脱水素酵素を得るには、まず、これらの微生物を培地にて培養し、培養終了後、遠心分離や濾過などの操作で培養液から菌体を回収する。次に、菌体から粗酵素液を抽出し、精製すればよい。
このような微生物を培養する際に用いられる培地中の炭素源としては、これらの微生物が資化しうる炭素源ならいかなるものでも使用できるが、通常、D−ソルビトール、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、グリセロール、コハク酸、ラクトース等が使用される。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機窒素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸、コーンスチープリカー等の有機窒素が使用できる。さらに、無機塩類としては、カリウム、ナトリウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、マンガン等の各塩類、必要に応じて微量金属塩、ビタミン類、消泡剤なども添加することができる。本発明においては、ソルビトール脱水素酵素の産生をより効率よく行うために、酵素産生促進物質として、基質であるソルビトールを培養のいずれかの時期に培養中に添加しておくことが望ましい。
【0016】
培養は、固体培養、液体培養のいずれも採用できるが、通常、通気攪拌培養又は振盪培養を行うのが好ましい。培地のpHとしては、pH6〜8付近に調整して用いるのが望ましい。培養温度としては18〜42℃、好ましくは25〜35℃で行う。培養時間としては、該酵素産生が最大となる時間とすればよいが、通常10〜100時間、好ましくは20〜70時間培養することにより、菌体内にソルビトール脱水素酵素が生成、蓄積される。
【0017】
このようにして得られた菌体から酵素を抽出する方法としては、自己消化、超音波破砕、フレンチプレス、界面活性剤処理、リゾチーム処理などいずれを用いてもよく、こうした処理後、遠心分離により細胞片を除去することにより、粗酵素液が得られる。
さらに、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを組み合わせることにより、粗酵素液から本発明のソルビトール脱水素酵素を精製することができる。イオン交換樹脂としては、Q−セファロースFF(ファルマシア社製)、DEAE−セファロース(ファルマシア社製)などが挙げられる。アフィニティークロマト用樹脂としては、ブルーセファロースCL−6B、レッドセファロースCL−6B(ファルマシア社製)や、プロシオンブルーH−ERD(ICI社製)、チバクロンイエローHE−3G(チバガイギー社製)などのトリアジン色素から作製した樹脂が挙げられる。疎水クロマト用樹脂としては、オクチル−セファロースCL−4B(ファルマシア社製)などが挙げられる。ゲル濾過用担体または樹脂としては、セファデックスG−100などが挙げられる。また、これらのカラムクロマトグラフィーに加え、硫酸ストレプトマイシンや硫酸プロタミン処理による除核酸、硫酸アンモニウム処理によるタンパク質の塩析を行ってもよい。
【0018】
このようにして製造された本発明のソルビトール脱水素酵素の理化学的性質を以下に示す。
【0019】
(1)作用:NAD+の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD+を生成する。
【0020】
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmの値を100としたときの各種基質に対するVmax/Kmは、以下の表2に示すとおりである。
【0021】
【表2】
【0022】
(3)至適pH:各pHの緩衝液中で30℃で各酵素の活性を測定した結果、図1〜3に示すとおり、フラビモナス・オリジハビタンスA−520株由来のソルビトール脱水素酵素の至適pHは10〜11であり、シュードモナス・フルオレッセンスA−989株由来のソルビトール脱水素酵素の至適pHも10〜11であり、シュードモナス・フルオレッセンスA−654株由来のソルビトール脱水素酵素由来の至適pHは9.5〜10.5であった。なお、緩衝液としては、pH4〜6は100mM酢酸緩衝液を、pH6〜8は100mMリン酸カリウム緩衝液を、pH8〜9は100mMトリス−塩酸緩衝液を、pH9〜11は100mMグリシン−水酸化カリウム緩衝液を、pH10.5〜12は100mMリン酸2ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液を用いた。
図1〜3は、本発明の酵素の酵素活性に対するpHの影響を示すグラフであり、縦軸に酵素活性を、横軸にpHを示しており、酵素活性は測定値が最高値を示したときの活性を100とした相対活性で示した。
【0023】
(4)pH安定性:各pHの緩衝液中で4℃において24時間放置した後の残存活性を測定した結果、図4〜6に示すとおり、活性が60%以上残存するpHの範囲は、フラビモナス・オリジハビタンスA−520株由来のソルビトール脱水素酵素ではpH5〜10.5であり、シュードモナス・フルオレッセンスA−989株由来のソルビトール脱水素酵素ではpH7〜10であり、シュードモナス・フルオレッセンスA−654株由来のソルビトール脱水素酵素ではpH5〜10であった。
図4〜6は、本発明の酵素の安定性に対するpHの影響を示すグラフであり、縦軸に残存活性を、横軸にpHを示しており、残存活性は測定値が最高値を示したときの活性を100とした相対活性で示した。
【0024】
(5)至適温度と熱安定性:各酵素の至適温度は40℃付近であり、フラビモナス・オリジハビタンスA−520株由来のソルビトール脱水素酵素およびシュードモナス・フルオレッセンスA−989株由来のソルビトール脱水素酵素ではpH8.0の条件下35℃で1時間処理した後も、80%以上の活性を保持した。シュードモナス・フルオレッセンスA−654株由来のソルビトール脱水素酵素は、pH8.0の条件下30℃で1時間処理した後も、60%以上の活性を保持した。
図7〜9は、本発明の酵素の活性に対する温度の影響を示すグラフであり、縦軸に酵素活性を、横軸に温度を示しており、酵素活性は測定値が最高値を示したときの活性を100とした相対活性で示した。また、図10〜12は、本発明の酵素の安定性に対する温度の影響を示すグラフであり、縦軸に残存活性を、横軸に経過時間を示しており、残存活性は、インキュベート開始時の活性を100とした相対活性で示した。
【0025】
(6)分子量:フラビモナス・オリジハビタンスA−520株、シュードモナス・フルオレッセンスA−989株およびシュードモナス・フルオレッセンスA−654株由来のソルビトール脱水素酵素の分子量をスーパーロース(ファルマシア社製)ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた結果はそれぞれ約68,000、約38,000、約52,000であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量はそれぞれ、約26,000、約26,000、約28,000あった。
【0026】
このような本発明のソルビトール脱水素酵素を用いてD−ソルビトールを定量する際に用いる電子受容体としては、D−ソルビトールを脱水素により酸化するものであれば特に制限はなく、NAD+以外に、酸素、フェナンジンメトサルフェート、ジクロルフェノールインドフェノール、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウムなどのフェリシアン化化合物、チトクロムC、NADP+、FMNなどの補酵素が挙げられる。電子受容体としてNAD+またはNADP+を用いた場合には、生成したNADHまたはNADPHを基質としてニトロブルーテトラゾリウムなどのテトラゾリウム塩や2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを還元発色させ、可視部で測定することもできる。
【0027】
【実施例】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
実施例1
D−ソルビトール2.0%(重量%を表す。以下同様)、ペプトン0.5%、酵母エキス 0.5%、リン酸水素二カリウム0.1%、pH7.0よりなる培地18リットルを30リットル容のジャーファーメンターに仕込み、121℃で15分間滅菌した後、フラビモナス・オリジハビタンスA−520株(FERMP−17461)を接種した。30℃で70時間、200rpmで撹拌しながら、1vvmの通気条件下で培養し、遠心分離により約300gの湿菌体を得た。得られた菌体は凍結で保存した。次に、凍結菌体を、1mMフェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)、2mMEDTA、2mM2−メルカプトエタノールを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)2Lに懸濁し、フレンチプレスにより菌体を破砕後、遠心分離により細胞片を除去し、ソルビトール脱水素酵素を含む粗酵素液を得た。この粗酵素液を2mMEDTAおよび2mM2−メルカプトエタノールを含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したDEAE−セファロース−FFカラム(ファルマシア社製)に通じ、0〜0.65MKClのリニアグラジエントにより溶出せしめると、KCl濃度0.20〜0.25Mの近くでソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。続いて、得られた画分に硫酸アンモニウムを20%となるように加え、20%硫酸アンモニウム、2mMEDTA、2mM2−メルカプトエタノールを25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したブチルトヨパールカラム(東ソー社製)に通じ、同緩衝液の硫酸アンモニウムの濃度を徐々に下げて溶出したところ、硫酸アンモニウム濃度7%〜4%付近にソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。この活性画分を透析した後、2mMEDTAおよび2mM2−メルカプトエタノールを含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したDEAE−トリスアクリルカラム(ファルマシア社製)に通じ、0〜0.25MKClのリニアグラジエントにより溶出せしめると、KCl濃度0.15〜0.2Mの近くでソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。続いて、得られた画分に硫酸アンモニウムを5%となるように加え、5%硫酸アンモニウム、2mMEDTA、2mM2−メルカプトエタノールを2mMずつ含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したフェニルセルロファインカラム(ファルマシア社製)に通じ、同緩衝液の硫酸アンモニウムの濃度を徐々に下げて溶出したところ、硫酸アンモニウム濃度2%〜1%付近にソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。このようにして得られたソルビトール脱水素酵素の収率は約40%で、酵素蛋白質1mg当たり約33単位の比活性を示し、その精製度は粗酵素液を1とすると約370倍であった。得られたソルビトール脱水素酵素は、上述の理化学的性質を有していた。
【0028】
実施例2
実施例1と同様の培地、条件により、シュードモナス・フルオレッセンスA−989株(FERM P−17462)を培養し、約210gの湿菌体を得た。得られた菌体は、凍結で保存した。次に、これらの菌体から実施例1と同様にして粗抽出液を得た。この粗酵素液を2mMEDTAおよび2mM2−メルカプトエタノールを含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したDEAE−セファロース−FFカラム(ファルマシア社製)に通じたところ、一部を除いた殆どのソルビトール脱水素酵素画分はカラムに吸着しなかった。非吸着画分のソルビトール脱水素酵素を回収し、硫酸アンモニウムを10%となるように加え、10%硫酸アンモニウム、2mMEDTA、2mM2−メルカプトエタノールを2mMずつ含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したブチルトヨパールカラム(東ソー社製)に通じ、同緩衝液の硫酸アンモニウムの濃度を段階的に下げて溶出したところ、硫酸アンモニウム濃度4%〜3%付近にソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。緩衝液(pH8.0)で平衡化したブチルトヨパールカラム(東ソー社製)に通じ、同緩衝液の硫酸アンモニウムの濃度を段階的に下げて溶出したところ、硫酸アンモニウム濃度4%〜3%付近にソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。このようにして得られたソルビトール脱水素酵素の収率は約56%で、酵素蛋白質1mg当たり約4単位の比活性を示し、その精製度は粗酵素液を1とすると約110倍であった。得られたソルビトール脱水素酵素は、上述の理化学的性質を有していた。
【0029】
実施例3
実施例1と同様の培地、条件により、シュードモナス・フルオレッセンスA−654株(FERM P−17463)を培養し、約300gの湿菌体を得た。得られた菌体は、凍結で保存した。次に、これらの菌体から実施例1と同様にして粗抽出液を得た。この粗酵素液を2mMEDTAおよび2mM2−メルカプトエタノールを含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したDEAE−セファロース−FFカラム(ファルマシア社製)に通じ、0〜0.6MKClのリニアグラジエントにより溶出せしめると、KCl濃度0.20〜0.25Mの近くでソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。続いて、得られた画分に硫酸アンモニウムを20%となるように加え、20%硫酸アンモニウム、2mMEDTA、2mM2−メルカプトエタノールを2mMずつ含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したブチルトヨパールカラム(東ソー社製)に通じ、同緩衝液の硫酸アンモニウムの濃度を徐々に下げて溶出したところ、硫酸アンモニウム濃度2%〜1%付近にソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。この活性画分を透析した後、2mMEDTAおよび2mM2−メルカプトエタノールを含む25mMリン酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したレッドセファロースカラム(ファルマシア社製)に通じ、2mMNADHにより段階的に溶出して、ソルビトール脱水素酵素活性画分を得た。このようにして得られたソルビトール脱水素酵素の収率は約17%で、酵素蛋白質1mg当たり約25単位の比活性を示し、その精製度は粗酵素液を1とすると約1,130倍であった。また、得られたソルビトール脱水素酵素は、上述の理化学的性質を有していた。
【0030】
参考例1
実施例1で精製したフラビモナス・オリジハビタンスA−520株由来のソルビトール脱水素酵素を用いて、以下の成分のソルビトール定量用試薬を調製した。
トリス−塩酸緩衝液(pH9.0) 100mM
NAD+(オリエンタル酵母工業(株)製) 2.5mM
本酵素 2.5U/ml
このソルビトール定量用試薬0.8mlを、37℃で5分間プレインキュベーションした後、D−ソルビトール標品(ナカライ(株)製、1級)を用いて5、25、40、125、250、400、750μMに調整した試料各0.2mlを添加し、島津社製分光光度計(UV−265型)内で37℃で30分間反応を行い、30分後の340nmの吸光度を求め、試料の代わりに蒸留水を用いたブランク値を差し引いた、該吸光度変化量(ΔOD)を求めた。この吸光度変化量とNAD+の分子吸光係数(6220M-1cm-1)から計算された濃度と、D−ソルビトール含有量との間には直線的な相関があった。図13に、実際のD−ソルビトール濃度と、上記試薬により測定されたD−ソルビトール濃度の相関を表した散布図を示す。最小二乗法により線形近似した回帰曲線の式は、y=−0.98x+2.1(r=0.998)となり、xの係数および相関係数(r)がほぼ1に等しいことから、上記試薬により試料中のD−ソルビトールを正確に定量できることがわかる。
【0031】
【発明の効果】
本発明のソルビトール脱水素酵素は、基質特異性および基質親和性に優れており、ソルビトールの測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】A−520株由来のソルビトール脱水素酵素の30℃における至適pHを示すグラフである。
【図2】A−654株由来のソルビトール脱水素酵素の30℃における至適pHを示すグラフである。
【図3】A−989株由来のソルビトール脱水素酵素の30℃における至適pHを示すグラフである。
【図4】A−520株由来のソルビトール脱水素酵素の4℃における安定pH範囲を示すグラフである。
【図5】A−654株由来のソルビトール脱水素酵素の4℃における安定pH範囲を示すグラフである。
【図6】A−989株由来のソルビトール脱水素酵素の4℃における安定pH範囲を示すグラフである。
【図7】A−520株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における作用適温の範囲を示すグラフである。
【図8】A−654株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における作用適温の範囲を示すグラフである。
【図9】A−989株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における作用適温の範囲を示すグラフである。
【図10】A−520株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における熱安定性を示すグラフである。
【図11】A−654株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における熱安定性を示すグラフである。
【図12】A−989株由来のソルビトール脱水素酵素のpH8.0における熱安定性を示すグラフである。
【図13】本発明のソルビトール脱水素酵素を用いて作製したD−ソルビトール定量用試薬による、D−ソルビトール濃度の測定結果を示す図である。
Claims (6)
- 以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素。
(1)作用:NAD+の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD+を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは28.9付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは1.99付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:2.5mM付近である。
(4)至適PH:10〜11
(5)pH安定性:5〜10.5
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下35℃で1時間処理した後も80%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は68,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は26,000付近である。 - 以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素。
(1)作用:NAD+の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD+を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは36.8付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは2.78付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:5.9mM付近である。
(4)至適PH:9.5〜10.5
(5)pH安定性:5〜10
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下30℃で1時間処理した後も60%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は52,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は28,000付近である。 - 以下の理化学的性質を有するソルビトール脱水素酵素。
(1)作用:NAD+の存在下、D−ソルビトールを脱水素的に酸化し、D−フルクトースを生成する。また、本反応の逆反応によって、NADHの存在下、D−フルクトースを還元してD−ソルビトールとNAD+を生成する。
(2)基質特異性:D−ソルビトールに対するVmax/Kmを100としたときの、ガラクチトールに対するVmax/Kmは31.9付近で、L−イジトールに対するVmax/Kmは1.55付近であり、D−アラビトール、D−マンニトール、キシリトール、D−グルコースには反応しない。
(3)ソルビトールに対するKm:3.5mM付近である。
(4)至適PH:10〜11
(5)pH安定性:7〜10
(6)至適温度:40℃付近
(7)熱安定性:pH8.0の条件下35℃で1時間処理した後も80%以上の活性を保持。
(8)分子量:ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めた分子量は38,000付近であり、SDS−PAGE法によって求めたサブユニットの分子量は26,000付近である。 - 請求項1に記載したソルビトール脱水素酵素の生産能を有することを特徴とするフラビモナス・オリジハビタンス(Flavimonas oryzihabitans)A−520株に属する微生物。
- 請求項2又は3に記載したソルビトール脱水素酵素の生産能を有することを特徴とするシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)A−989株若しくはA−654株に属する微生物。
- 請求項4又は5に記載したソルビトール脱水素酵素生産能を有する微生物を培地にて培養し、培養物からソルビトール脱水素酵素を採取することを特徴とするソルビトール脱水素酵素の製造方法。
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