本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
[構成単位(A)]
構成単位(A)は、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有する分子構造Xを含む。このような構成単位は、配向したときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性(可視光域における波長分散性)が非常に大きい。
本発明の光学フィルムは、当該フィルムを構成する樹脂に含まれる重合体の構成単位として、当該単位を有する重合体に与える固有複屈折の正負が互いに逆である構成単位(A)、(B)を有するが、双方の構成単位が同一方向に配向すると、各々の構成単位に由来して生じる複屈折が互いに打ち消し合う。ここで、構成単位(A)に由来して生じる複屈折の波長分散性が、構成単位(B)に由来して生じる複屈折の波長分散性に比べて大きいために、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なり、複屈折(例えば位相差)の逆波長分散性が生じる。なお、構成単位(A)に由来して生じる複屈折の波長分散性は非常に大きく、このため、構成単位(B)が正の固有複屈折を有していれば、逆波長分散性が得られる。
構成単位(A)、(B)は、本発明の光学フィルムを構成する樹脂中に存在していればよい。双方の構成単位(A)、(B)が同一の重合体に含まれている必要はなく、両単位は、互いに異なる重合体の構成単位であってもよい。また、光学フィルムが多層構造を有しており、構成単位(A)を有する重合体と、構成単位(B)を有する重合体とが、互いに異なる層に含まれていてもよい。
重合体に負(あるいは正)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が負(あるいは正)となる構成単位をいう。重合体自体の固有複屈折の正負は、当該単位によって生じる複屈折と、重合体が有するその他の構成単位によって生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
重合体の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する「層の屈折率n1」から、配向軸に垂直な振動成分に対する「層の屈折率n2」を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる各重合体により生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。一の重合体からなる樹脂の固有複屈折の正負は、当該重合体の固有複屈折の正負と同一である。
分子構造Xは、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有する。本明細書では、対象となる化合物(分子構造Xの場合は、分子構造Xからなる化合物)のジクロロメタン溶液(濃度0.02mmol/L)に対して紫外可視吸収スペクトルを測定したときに、250〜400nmの波長域に、モル吸光係数にして500L/(mol・cm)以上の吸収が存在する場合、その化合物は当該波長域に吸収帯を有する、とする。また、本明細書における化合物のモル吸光係数は、対象となる化合物のジクロロメタン溶液(濃度0.02mmol/L)に対して、紫外可視吸収スペクトルを測定して得られる値である。
分子構造Xは、250〜400nmの波長域に、モル吸光係数にして1000L/(mol・cm)以上の吸収を有することが好ましく、3000L/(mol・cm)以上の吸収を有することがより好ましく、5000L/(mol・cm)以上の吸収を有することが特に好ましい。この場合、当該構造を含む構成単位(A)が配向したときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性がより大きくなる。
分子構造Xは、300nm以上の波長域に吸収帯を有することが好ましい。この場合、当該構造を含む構成単位(A)が配向したときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性がより大きくなる。
分子構造Xは、典型的には芳香環を有する。芳香環は、芳香族炭化水素環であっても複素芳香環であってもよく、縮合環構造を有していてもよい。
分子構造Xは、例えば、ピリジン、アニソール、安息香酸、フェノール、アセトアニリド、サッカリン、アセトフェノン、インドール、オルトクレゾール、ニトロベンゼン、ベンゾチオフェン、1,2,3−ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、アニリン、p−ニトロ安息香酸、ジフェニルアミン、フタルイミド、キノリン、フタラゾン、ピラジン、サリチル酸メチル、サリチル酸、2−メチル−4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン(MBOO)、ピリドン、カルバゾール、フェノチアジン、t−ブチルフェニルベンゾトリアゾール、イソキノリン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンである。例示した分子構造Xを図1A、図1Bに示す。
構成単位(A)の構造は、分子構造Xを含む限り特に限定されず、例えば、分子構造Xと重合性基とを有する単量体の重合により形成された構成単位である。重合性基は、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基である。単量体において、分子構造Xと重合性基とが直接結合していることが好ましい。
構成単位(A)は、例えば、ビニルピリジン単位、ビニルフタラゾン単位およびビニルカルバゾール単位から選ばれる少なくとも1種である。
構成単位(A)が配向したときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいことを、構成単位(A)として、以下の式(1)に示すビニルピリジン単位、以下の式(2)に示すビニルフタラゾン単位ならびに以下の式(3)に示すビニルカルバゾール単位を例にとって示す。これらの構成単位における分子構造Xは、それぞれ、ピリジン、フタラゾンおよびカルバゾールである。比較例には、スチレン単位(スチレンの単量体は、重合性基であるビニル基にベンゼンが結合した構造を有する)を用いた。図2〜4に示すように、ピリジン(図2)、フタラゾン(図3)およびカルバゾール(図4)は、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有する。一方、図5に示すように、ベンゼンは、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有さない。
最初に、これらの構成単位とメタクリル酸メチル(MMA)単位とのコポリマー(MMA単位の含有率が90重量%)を公知の重合方法により作製し、得られたコポリマーをプレス成形によりフィルムとした。次に、作製したフィルムを、延伸装置を用いて自由端一軸延伸して、延伸フィルムを得た。一軸延伸の延伸温度は、作製したコポリマーのガラス転移温度(Tg)より5℃高い温度とし、延伸倍率は2倍とした。このようにして作製した延伸フィルムの波長分散性を、全自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。評価結果を以下の表1に示す。なお、表1では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の測定波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。表1に示す位相差は、延伸フィルムの面内位相差(厚さ100μmあたり)である。
表1に示すように、構成単位(A)が配向したときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性は大きく、構成単位(A)は、当該単位を含む重合体に対して、可視光域における複屈折の波長分散性を増加させる作用を有することがわかる。
ところで、表1に示す3種の構成単位(A)間には、複屈折の波長分散性を増加させる作用の強さに差がある。本発明者らは、この点についてさらに検討を続けた結果、作用の強さと、分子構造Xにおける吸収帯の立ち上がり位置との間に相関が見られることを見出した。吸収帯の立ち上がり位置とは、図6に示すように、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域において、最も長波長側に位置するとともに、モル吸光係数にして500L/(mol・cm)以上の吸収ピークを選び、当該吸収ピークの変曲点にて接線を引いたときの当該接線とx軸との交点である。なお、図6は、ニトロベンゼンの紫外可視吸収スペクトルであり、その立ち上がり位置は298nmである。
表1に示す構成単位(A)が含む分子構造Xならびにスチレン単位に含まれるベンゼンの吸収帯の立ち上がり位置を表2に示す。また、吸収帯の立ち上がり位置を横軸に、表1に示す波長447nmおよび750nmにおけるR/R0の値を縦軸にとったグラフを図7に示す。ただし、図7の横軸の単位は「波数(cm-1)」である。
表2および図7に示すように、分子構造Xにおける吸収帯の立ち上がり位置と、当該構造を含む構成単位(A)が示す、複屈折の波長分散性を増加させる作用との間には、明確な相関がある。
この観点からは、分子構造Xにおける吸収帯の立ち上がり位置は、300nm以上が好ましく、340nm以上がより好ましい。
図1A、Bに示す各分子構造Xにおける吸収帯の立ち上がり位置を、以下の表3に示す。立ち上がり位置の単位はnmである。
[構成単位(B)]
構成単位(B)は、当該単位を有する重合体に正の固有複屈折を与える作用を有するとともに、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、特に限定されない。
なお、構成単位(B)についても、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有する分子構造Xを含むことは可能である。分子構造Xを含む構成単位に由来して生じる複屈折の波長分散性は、当該構造によって異なり、構成単位(A)に由来して生じる波長分散性が、分子構造Xを含む構成単位(B)に由来して生じる波長分散性よりもある程度以上大きければ、逆波長分散性が得られるためである。ただし、より確実に逆波長分散性を示す光学フィルムを得るためには、構成単位(B)が、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有する分子構造Xを含まないことが好ましい。
構成単位(B)は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位、シクロオレフィン単位、セルロース誘導体単位である。
構成単位(B)は、その主鎖に(即ち、構成単位(B)を有する重合体の主鎖に)環構造を有していてもよい。環構造は、典型的には脂肪族環構造である。脂肪族環構造は、紫外可視吸収スペクトルにおける250〜400nmの波長域に吸収帯を有さない。構成単位(B)が主鎖に環構造を有することにより、当該単位を有する重合体のガラス転移温度(Tg)が向上し、当該重合体を含む本発明の光学フィルムの耐熱性が向上する。高耐熱性の光学フィルムは、後加工時(例えばコーティングなどの表面処理時)の加工温度を高くできるため、生産性が高い。また、画像表示装置などの機器において、光源などの発熱部に近接して配置できる。
構成単位(B)が主鎖に有する環構造は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体であってもよい。環構造が(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である場合、このような環構造を主鎖に有する構成単位(B)に由来して生じる複屈折の波長分散性は非常に小さい。このため、複屈折の波長分散性を増加させる作用を有する構成単位(A)との組み合わせにより、本発明の光学フィルムにおける逆波長分散性の制御の自由度が向上し、例えば、強い逆波長分散性を示す光学フィルムを実現できる。
具体的な環構造は、例えば、シクロオレフィン構造、環状エーテル構造、ラクトン環構造、ラクタム環構造、環状イミド構造および環状無水酸構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造を主鎖に有する構成単位(B)は、正の固有複屈折を重合体に与える強い作用を有する。このため、構成単位(A)との組み合わせにより、本発明の光学フィルムにおける逆波長分散性の制御の自由度が向上し、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性を示す光学フィルムを実現できる。なお、シクロオレフィン単位およびセルロース誘導体単位は、その主鎖に、環構造としてそれぞれシクロオレフィン構造および環状エーテル構造を有する。
ラクトン環構造、環状イミド構造および環状無水酸構造には、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造が含まれる。当該環構造は、例えば、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造である。なかでも、構成単位(B)に含まれたときに、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性が特に小さくなることから、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造が特に好ましい。
構成単位(B)が有していてもよいラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(4)に示す構造である。
式(4)のR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでもよい。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
式(4)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2およびR3はCH3である。
以下の式(5)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
式(5)のR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X1が窒素原子のとき、式(5)に示す環構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
X1が酸素原子のとき、式(5)に示す環構造は無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
以下の式(6)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
式(6)のR7およびR8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR9は存在せず、X2が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X2が窒素原子のとき、式(6)に示す環構造はN−置換マレイミド構造であり、X2が酸素原子のとき、式(6)に示す環構造は無水マレイン酸構造である。
[樹脂(D)]
本発明の光学フィルムを構成する樹脂(以下、樹脂(D))の組成は、当該樹脂に含まれる重合体の構成単位として構成単位(A)、(B)が含まれるとともに、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、特に限定されない。
樹脂(D)は、例えばアクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂またはセルロース誘導体である。なかでも、アクリル樹脂およびシクロオレフィン樹脂は、高い透明性および機械的特性を有しており、このような樹脂(D)からなる光学フィルムは、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置に用いる光学フィルムとして好適である。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル重合体を50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む樹脂である。シクロオレフィン樹脂は、シクロオレフィン重合体を50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む樹脂である。
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する場合、(メタ)アクリル酸エステル単位ならびに当該環構造を主鎖に有する構成単位の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体である。
樹脂(D)は、2種以上の構成単位(A)または2種以上の構成単位(B)を有していてもよい。
樹脂(D)は、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、構成単位(A)および/または構成単位(B)を有する重合体以外の重合体、あるいは添加剤を含んでいてもよい。
[光学フィルム]
以下、本発明の光学フィルムの具体例について説明する。
(実施の形態1)
図8に、本発明の光学フィルムの一例を示す。図8に示す光学フィルム1は1つの層2からなる。層2は、構成単位(A)を有するとともに、固有複屈折が負である重合体(C−1)と、構成単位(B)を有するとともに、固有複屈折が正である重合体(C−2)とを含む樹脂(D−1)からなる。樹脂(D−1)は、重合体(C−1)と(C−2)とを含む組成物である。
樹脂(D−1)は、固有複屈折の符号が互いに逆の重合体(C−1)、(C−2)を含むが、双方の重合体に対して同一方向に配向が加えられた場合、各々の重合体の遅相軸(あるいは進相軸)が直交するために、互いの複屈折が打ち消しあう。ここで、構成単位(A)が、当該単位を有する重合体(C−1)における複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有するため、複屈折が打ち消しあう程度が波長によって異なり、複屈折(例えば位相差)の逆波長分散性が生じる。なお、特開2001-337222号公報に例示されている重合体の組み合わせでは、双方の重合体における複屈折の波長分散性の差がそれほど大きくないため、本発明の光学フィルムのような逆波長分散性を得ることができない。
光学フィルム1は、単層でありながら逆波長分散性を示す。このため、薄膜化しながら望む光学特性を実現でき、光学フィルム1を備える画像表示装置のさらなる小型化、軽量化が可能となる。また、光学フィルム1は、複数の層の積層によって逆波長分散性を実現した光学フィルムに比べて、各層の接合角度の調整が不要であるため生産性が高い。
重合体(C−1)、(C−2)の配向に着目すると、光学フィルム1は、重合体(C−1)および(C−2)を含む樹脂(D−1)に配向を与えて形成した部材である。樹脂(D−1)に配向を与えるには、フィルムに成形した樹脂(D−1)を延伸すればよい。
重合体(C−1)は、構成単位(A)を有するとともに、その固有複屈折が負である限り、特に限定されない。
構成単位(A)が重合体(C−1)における複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有することから、重合体(C−1)の全構成単位に占める構成単位(A)の割合(重合体(C−1)における構成単位(A)の含有率)が低い場合にも、重合体(C−1)は大きな複屈折の波長分散性を示す。なお、ポリカーボネート、ポリスチレンなど、従来の光学部材に用いられている重合体は、このような大きな波長分散性を示さない。
ところで、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を上昇させる。従って、光学特性に優れる光学フィルム、特に画像表示装置に好適な光学フィルム、を得るためには、当該フィルムにおける芳香環の含有量をできるだけ小さくすることが望まれる。構成単位(A)の種類によっては、当該単位内に芳香環が存在する。しかし、構成単位(A)を有する重合体(C−1)では、当該重合体における構成単位(A)の含有率が小さい場合にも大きな波長分散性が得られることから、重合体(C−1)における芳香環の含有量を抑えながら、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる。即ち、構成単位(A)を有する本発明の光学フィルムは、複屈折に関する優れた光学特性を有しながら光弾性係数の上昇が抑制されており、当該フィルムは画像表示装置への使用に好適である。
重合体(C−1)は、2種以上の構成単位(A)を有していてもよい。
重合体(C−1)は、その固有複屈折が負である限り、構成単位(A)以外の構成単位を有していてもよい。即ち、重合体(C−1)は、重合により構成単位(A)となる単量体と、その他の単量体との共重合体であってもよい。このとき、重合体(C−1)における構成単位(A)の含有率は、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。
例えば重合体(C−1)は、構成単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位とを構成単位として有していてもよい。この場合、重合体(C−2)が(メタ)アクリル重合体であるときに、重合体(C−2)との相溶性が向上し、透明性に優れる光学フィルム1となる。
重合体(C−1)は、構成単位(B)の説明において上述した環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、重合体(C−1)ならびに重合体(C−1)を含む樹脂(D−1)のTgが向上し、より耐熱性に優れる光学フィルム1となる。
具体的な例として、重合体(C−1)は、以下の単量体の重合により形成された構成単位を有していてもよい:アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル(例えばメチルアクリルレート、エチルアクリレート、カルバゾイルエチルアクリレート)、メタクリル酸アルキルエステル(例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、カルバゾイルエチルメタクリレート)、アクリル酸アミノアルキルエステル(例えばジエチルアミノエチルアクリレート)、メタクリル酸アミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(例えばヒドロキシエチルメタクリレート)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸アミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸アミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル。
重合体(C−1)の重量平均分子量は、例えば5万〜150万であり、8万〜120万が好ましく、10万〜90万がより好ましい。
重合体(C−1)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造できる。例えば、重合により構成単位(A)となる単量体を含む単量体群を、公知の方法により重合すればよい。
重合により構成単位(A)となる単量体は、例えば、以下の式(7)〜(9)に示す単量体である。
式(7)に示す単量体はビニルピリジンであり、式(8)に示す単量体はビニルフタラゾンであり、式(9)に示す単量体はビニルカルバゾールである。式(7)、(8)、(9)に示す単量体は、分子構造Xに、重合性基であるビニル基が直接結合している。
主鎖に環構造を有する重合体(C−1)は、主鎖に環構造を有する重合体(C−2)と同様に製造できる。
重合体(C−1)の重合時には、重合開始剤として、過酸化水素と金属塩との混合物、アゾ化合物および有機過酸化物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
アゾ化合物は、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)である。重合開始剤として2種以上のアゾ化合物を用いてもよい。
これらのアゾ化合物のうち、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩が好ましい。
有機過酸化物は、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1’−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチレンシクロヘキサン、1,3−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルヒドロペルオキシドである。重合開始剤として2種以上の有機過酸化物を用いてもよい。
これらの有機過酸化物のうち、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが好ましく、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが特に好ましい。
重合体(C−1)の重合系における重合開始剤の濃度は、重合する単量体の種類、濃度に応じて調整すればよく、特に限定されないが、例えば、単量体100重量部に対して0.001重量部〜3重量部であり、0.005重量部〜2重量部が好ましい。
重合系には、必要に応じ、連鎖移動剤、pH調整剤、緩衝材などを添加できる。
重合溶媒は特に限定されず、例えば、ケトン含有溶媒(アセトンとトルエンとの混合溶媒など)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)およびこれらの混合溶媒である。
重合温度は、重合する単量体の種類に応じて調整すればよく、特に限定されないが、例えば40℃〜100℃であり、50℃〜95℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましい。
重合体(C−2)は、構成単位(B)を有するとともに、その固有複屈折が正である限り、特に限定されない。
重合体(C−2)は、主鎖に環構造を有することが好ましい。主鎖に環構造を有することにより、重合体(C−2)ならびに重合体(C−2)を含む樹脂(D−1)のTgが向上し、より耐熱性に優れる光学フィルム1となる。環構造は、構成単位(B)の説明において上述した環構造であり、例えば、シクロアルカン構造、環状エーテル構造、ラクトン環構造、ラクタム環構造、環状イミド構造および環状無水酸構造から選ばれる少なくとも1種である。光学フィルム1における耐熱性の向上の観点からは、重合体(C−1)、(C−2)の双方が、主鎖に環構造を有することが好ましい。
主鎖に環構造を有する重合体(C−2)ならびに当該重合体を含む樹脂(D−1)のTgは、例えば110℃以上である。環構造の種類、重合体(C−2)における環構造の含有率および樹脂(D−1)における重合体(C−2)の含有率によっては、当該Tgは、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。Tgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
主鎖に環構造を有する重合体(C−2)は、例えば、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種である。
重合体(C−2)は、(メタ)アクリル重合体であってもよく、この場合、光学特性ならびに機械的強度、成形加工性および表面強度などの諸特性が向上した光学フィルム1となる。
重合体(C−2)が(メタ)アクリル重合体である場合、光学フィルム1における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。構成単位(A)を有する重合体(C−1)が示す複屈折の波長分散性は、(メタ)アクリル重合体である重合体(C−2)が示す複屈折の波長分散性に比べて、かなり大きい。このように、複屈折の波長分散性が大きく異なる重合体(C−1)、(C−2)を組み合わせることで、逆波長分散性の制御の自由度が向上する。
重合体(C−2)は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体であってもよい。環構造は、例えば、構成単位(B)の説明において上述した、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造を主鎖に有する重合体(C−2)は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、重合体(C−1)との組み合わせにより、逆波長分散性の制御の自由度がより向上する。
環構造は、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。ラクトン環構造またはグルタルイミド構造、特にラクトン環構造を有する重合体(C−2)は、複屈折の波長分散性が非常に小さい。このため、重合体(C−1)との組み合わせにより、逆波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
重合体(C−2)が主鎖に環構造を有する場合、重合体(C−2)における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。環構造の含有率は、特開2001-151814号公報に記載の方法により求めることができる。
重合体(C−2)は、2種以上の構成単位(B)を有していてもよい。
重合体(C−2)は、その固有複屈折が正である限り、構成単位(B)以外の構成単位を有していてもよい。例えば、重合体(C−2)が構成単位(A)を有していてもよく、この場合、重合体(C−1)と(C−2)との相溶性が向上し、透明性に優れる光学フィルム1となる。
重合体(C−2)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造できる。例えば、重合により構成単位(B)となる単量体を含む単量体群を、公知の方法により重合すればよい。
一例として、主鎖にラクトン環構造を有する重合体(C−2)は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて得ることができる。
重合体(a)は、例えば、以下の式(10)に示す単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
式(10)のR10およびR11は、互いに独立して、水素原子または式(4)における有機残基として例示した基である。
式(10)に示す単量体の具体例は、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する光学フィルム1が得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
なお、これらの単量体の重合により形成された構成単位は、環化により、当該単位を有する重合体に対して正の固有複屈折を与える作用を有する。即ち、構成単位(B)となる。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、式(10)に示す単量体を2種以上含んでもよい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、式(10)に示す単量体以外の単量体を含んでもよい。このような単量体は、式(10)に示す単量体と共重合可能な単量体である限り特に限定されず、例えば、式(10)に示す単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである。
このような(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する光学フィルム1が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これら(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでもよい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、その他、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体を、1種または2種以上含んでもよい。
なお、重合体(C−1)は(メタ)アクリル重合体であってもよいが、(メタ)アクリル重合体である重合体(C−1)は、上に列記した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、重合により構成単位(A)となる単量体とを含む単量体群を重合して製造できる。ただし、単量体群に含まれる各単量体の含有率を、重合体(C−1)の固有複屈折が負となるように調整する必要がある。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることによって、構成単位(A)を有するとともに、主鎖に環構造を有する重合体(C−1)としてもよい。
一方、重合体(C−2)は構成単位(A)を有する(メタ)アクリル重合体であってもよいが、このような重合体(C−2)は、上に列記した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、重合により構成単位(A)となる単量体とを含む単量体群を重合して製造できる。ただし、単量体群に含まれる各単量体の含有率を、重合体(C−2)の固有複屈折が正となるように調整する必要がある。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることによって、構成単位(A)を有するとともに、主鎖に環構造を有する重合体(C−2)としてもよい。
樹脂(D−1)における重合体(C−1)、(C−2)の混合比は、各重合体の固有複屈折の絶対値、あるいは光学フィルム1として望まれる逆波長分散性の程度などに応じて異なるために一概に述べることができないが、例えば重量比にして、(C−1):(C−2)=1:99〜99:1の範囲であり、(C−1):(C−2)=10:90〜90:10の範囲が好ましく、(C−1):(C−2)=20:80〜80:20の範囲がより好ましい。この範囲において逆波長分散性の制御の自由度を向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する光学フィルム1とすることができる。
樹脂(D−1)は、2種以上の重合体(C−1)あるいは2種以上の重合体(C−2)を含んでいてもよい。重合体(C−2)が(メタ)アクリル重合体である場合、樹脂(D−1)における(メタ)アクリル重合体の含有率の合計は、50重量%以上であることが好ましい。
樹脂(D−1)は、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、重合体(C−1)、(C−2)以外の重合体を含んでもよい。
樹脂(D−1)に含まれる重合体の含有率ならびに重合体における構成単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)または赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
光学フィルム1は、必要に応じ、層2以外の任意の層を有していてもよい。
光学フィルム1の製造方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。例えば、重合体(C−1)および(C−2)を含む樹脂(D−1)をフィルムに成形し、得られたフィルムを所定の方向に延伸(典型的には一軸延伸または逐次二軸延伸)することで、樹脂(D−1)が含む重合体の分子鎖を配向させて層2を形成し、光学フィルム1とすればよい。
樹脂(D−1)は、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法により、フィルムに成形できる。
(実施の形態2)
図9に、本発明の光学フィルムの別の一例を示す。図9に示す光学フィルム11は1つの層12からなり、層12は、構成単位(A)および(B)を有する重合体(C−3)を含む樹脂(D−2)からなる。
樹脂(D−2)は、固有複屈折の符号が互いに逆である構成単位(A)、(B)を有する重合体(C−3)を含むが、重合体(C−3)に配向が加えられると、構成単位(A)および(B)の各々に由来して生じる複屈折が互いに打ち消しあう。ここで、構成単位(A)に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいため、複屈折が打ち消しあう程度が波長によって異なり、複屈折(例えば位相差)の逆波長分散性が生じる。なお、特開2001-235622号公報に開示されている分子鎖の組み合わせでは、双方の分子鎖に由来して生じる複屈折の波長分散性の差がそれほど大きくないため、本発明の光学フィルムのような逆波長分散性を得ることができない。
光学フィルム11は、単層でありながら逆波長分散性を示す。このため、薄膜化しながら望む光学特性を実現でき、光学フィルム11を備える画像表示装置のさらなる小型化、軽量化が可能となる。また、光学フィルム11は、複数の層の積層によって逆波長分散性を実現した光学フィルムに比べて、各層の接合角度の調整が不要であるため生産性が高い。
重合体(C−3)の配向に着目すると、光学フィルム11は、重合体(C−3)を含む樹脂(D−2)に配向を与えて形成した部材である。樹脂(D−2)に配向を与えるにはフィルムに成形した樹脂(D−2)を延伸すればよい。
重合体(C−3)は、構成単位(A)および(B)を有する限り特に限定されない。
構成単位(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位、シクロオレフィン単位およびセルロース誘導体単位から選ばれる少なくとも1種である。構成単位(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する構成単位であってもよい。構成単位(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位ならびに(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する構成単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、この場合、光学フィルム11における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。
重合体(C−3)における(メタ)アクリル酸エステル単位ならびに(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を主鎖に有する構成単位の含有率の合計が50重量%以上である場合、重合体(C−3)は(メタ)アクリル重合体となる。このとき、光学特性ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度などの諸特性に優れる光学フィルム11となる。
重合体(C−3)は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体であることが好ましい。主鎖に環構造を含む構成単位は、当該単位を有する重合体(C−3)に対して、その配向時に大きな正の固有複屈折を与える作用を有する。このため、構成単位(A)との組み合わせによって、光学フィルム11における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。
また、重合体(C−3)が主鎖に環構造を有することにより、重合体(C−3)および当該重合体を含む樹脂(D−2)のTgが向上し、高耐熱性の光学フィルム11となる。
主鎖に環構造を有する重合体(C−3)および当該重合体を含む樹脂(D−2)のTgは、例えば110℃以上である。環構造の種類、重合体(C−3)における環構造の含有率ならびに樹脂(D−3)における重合体(C−3)の含有率によっては、当該Tgは、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
環構造は、構成単位(B)の説明において上述したように、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造は、重合体(C−3)に正の固有複屈折を与える作用を有するが、当該構造に由来して生じる複屈折の波長分散性が非常に小さい。このため、構成単位(A)との組み合わせによって、光学フィルム11の逆波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
重合体(C−3)は、構成単位(A)および(B)が主鎖にランダムに配置されたランダム共重合体であってもよいし、構成単位(A)からなるブロックと構成単位(B)からなるブロックとが存在するブロック共重合体であってもよい。また、構成単位(A)および(B)から選ばれる一方の構成単位(例えば構成単位(B))を有する主鎖に、他方の構成単位(例えば構成単位(A))を有する側鎖が結合したグラフト共重合体であってもよい。
重合体(C−3)は、2種以上の構成単位(A)、(B)を有していてもよい。
重合体(C−3)は、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる限り、構成単位(A)および(B)以外の構成単位を有していてもよい。
重合体(C−3)は、公知の方法により製造できる。
重合体(C−3)における構成単位(A)および(B)の含有率の比は、重合体(C−3)の固有複屈折に対して各構成単位が作用する程度、あるいは光学フィルム11として望まれる逆波長分散性の程度などに応じて異なるために一概に述べることができないが、例えば重量比にして、構成単位(A):構成単位(B)=1:99〜38:62の範囲である。この範囲において、逆波長分散性の制御の自由度を向上でき、用途に応じた良好な波長分散性を有する光学フィルム11が得られる。
樹脂(D−2)における重合体(C−3)の含有率は特に限定されないが、本発明の効果が確実に得られることから、通常50重量%以上であり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。
樹脂(D−2)は、2種以上の重合体(C−3)を含んでいてもよい。
光学フィルム11は、必要に応じ、層12以外の任意の層を有していてもよい。
光学フィルム11の製造方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。例えば、重合体(C−3)を含む樹脂(D−2)をフィルムに成形し、得られたフィルムを所定の方向に延伸(典型的には一軸延伸または逐次二軸延伸)することで、樹脂(D−2)が含む重合体の分子鎖を配向させて層12を形成し、光学フィルム11とすればよい。
樹脂(D−2)は、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法により、フィルムに成形できる。
(実施の形態3)
図10に、本発明の光学フィルムの別の一例を示す。図10に示す光学フィルム21は、2つの層22、23が積層された構造を有する。第1の層22は、構成単位(A)を有するとともに固有複屈折が負の重合体(C−1)を含む第1の樹脂(D−3)からなる。第2の層23は、構成単位(B)を有するとともに固有複屈折が正の重合体(C−2)を含む第2の樹脂(D−4)からなる。
光学フィルム21は、それぞれ、固有複屈折の符号が互いに逆である2種類の樹脂(D−3)、(D−4)からなる2種類の層(層22、23)が積層された構造を有するが、このような積層構造では、入射した光に対する両層の複屈折が互いに打ち消しあう現象が生じる。ここで、一方の層22が有する構成単位(A)に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいため、複屈折が打ち消しあう程度が波長によって異なり、複屈折(例えば位相差)の逆波長分散性が生じる。
なお、特開2001-337222号公報に例示されている重合体の組み合わせに基づいて層22、23を形成したとしても(例えば、正の固有複屈折を示すポリノルボルネンにより層23を形成し、負の固有複屈折を示すスチレン系重合体により層22を形成したとしても)、それぞれの層が示す複屈折の波長分散性の差がそれほど大きくないために、本発明の光学フィルムのような逆波長分散性を得ることができない。
光学フィルム21では、層22および23が互いに独立して配置されており、固有複屈折の符号が互いに逆である重合体間の相容性、あるいは重合体に与える固有複屈折の符号が互いに逆である構成単位間の相溶性を考慮する必要がないため、それぞれの層がとりうる組成範囲が広い。これにより、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い光学フィルムとなる。
層22、23では、各層に含まれる重合体の配向により複屈折が生じる。この観点からは、層22は、樹脂(D−3)に配向を与えて形成した層であり、層23は、樹脂(D−4)に配向を与えて形成した層である。樹脂(D−3)、(D−4)に配向を与えるには、フィルムに成形した樹脂(D−3)、(D−4)を延伸すればよい。
重合体(C−1)は、実施の形態1において説明した重合体(C−1)と同様である。
樹脂(D−3)は、重合体(C−1)を含むとともに、負の固有複屈折を有する限り特に限定されない。樹脂(D−3)は、2種以上の重合体(C−1)を含んでもよいし、重合体(C−1)以外の重合体を含んでもよい。
重合体(C−2)は、実施の形態1において説明した重合体(C−2)と同様である。
重合体(C−2)は(メタ)アクリル重合体であることが好ましく、この場合、光学フィルム21における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。層22は、構成単位(A)を有する重合体(C−1)を含む樹脂(D−3)からなるが、このような層が示す複屈折の波長分散性は、(メタ)アクリル重合体である重合体(C−2)を含む樹脂(D−4)からなる層23が示す複屈折の波長分散性に比べてかなり大きい。このように、複屈折の波長分散性が大きく異なる2種類の独立した層を組み合わせることで、光学フィルム21における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。
重合体(C−2)は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体であることが好ましい。重合体(C−2)が主鎖に環構造を有することにより、層23の固有複屈折の絶対値が大きくなる。このため、層22との組み合わせによって、光学フィルム21における逆波長分散性の制御の自由度が向上する。
また、実施の形態1で説明したように、重合体(C−2)が主鎖に環構造を有することによって、重合体(C−2)および当該重合体を含む樹脂(D−4)のTgが上昇し、層23および光学フィルム21の耐熱性が向上する。環構造によってTgが高くなる程度は、上述したとおりである。
環構造は、構成単位(B)の説明において上述したように、ラクトン環構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造は、重合体(C−2)に正の固有複屈折を与える作用を有するが、その波長分散性が非常に小さい。このため、重合体(C−1)を含む層22との組み合わせにより、光学フィルム21の逆波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
重合体(C−2)のその他の好ましい条件は、実施の形態1において説明した重合体(C−2)の好ましい条件と同じである。
樹脂(D−4)は、正の固有複屈折を有する限り、2種以上の重合体(C−2)を含んでもよいし、重合体(C−2)以外の重合体を含んでもよい。
光学フィルム21の製造方法は特に限定されない。製造方法の一例は、個別に作成した層22および層23を互いに接合する方法である。例えば、重合体(C−1)を含む樹脂(D−3)をフィルムとし、得られたフィルムを所定の方向に延伸(典型的には一軸延伸または逐次二軸延伸)することで、樹脂(D−3)が含む重合体の分子鎖を配向させて層22を形成する。これとは別に、重合体(C−2)を含む樹脂(D−4)をフィルムとし、得られたフィルムを所定の方向に延伸することで、樹脂(D−4)が含む重合体の分子鎖を配向させて層23を形成する。次に、形成した双方の層を積層して、図10に示す光学フィルム21を形成できる。層22と層23との接合は公知の手法に従えばよく、双方の層は、アクリル系接着剤などにより互いに接着してもよい。樹脂(D−3)、(D−4)は、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法により、フィルムに成形できる。
製造方法の別の一例は、層22の前駆体となる延伸前のフィルム(未延伸フィルムあるいは暫定的に延伸を加えたフィルム)と、層23の前駆体となる延伸前のフィルムとの積層体を所定の方向に延伸する方法である。当該延伸によって、それぞれの前駆体に含まれる重合体(C−1)、(C−2)の分子鎖が配向し、層22と層23との積層体である光学フィルム21となる。前駆体の積層体は、例えば、樹脂(D−3)からなるフィルムと樹脂(D−4)からなるフィルムとの積層によって形成してもよいし、樹脂(D−3)と樹脂(D−4)とを共押出成形することで形成してもよい。また、層22または層23の一方の層の前駆体であるフィルムに、他方の層の前駆体となる樹脂が溶解した溶液を塗布し、塗布膜を乾燥させて形成してもよい。具体的な例として、(メタ)アクリル重合体、シクロオレフィン重合体またはセルロース誘導体からなるベースフィルム上に、構成単位(A)を有する重合体(C−1)を含む溶液を塗布した後に全体を乾燥させ、得られた積層体を所定の方向に延伸する方法がある。
層22、23の積層状態(例えば、層22、23の積層パターンあるいは光学フィルム21の表面に垂直な方向から見た、層22の配向軸と層23の配向軸とがなす角度など)は特に限定されず、光学的な設計事項に合わせて適宜選択できる。なお、層22、23を、それぞれの延伸方向がほぼ一致するように積層した場合に、光学フィルム21が示す逆波長分散性が最も強くなる。
光学フィルム21が有する層22、23の数は特に限定されない。また、層22と層23とは接していてもいなくてもよい。
光学フィルム21は、必要に応じ、層22、23以外の層を有していてもよい。
(光学フィルムの用途)
本発明の光学フィルムは逆波長分散性を示す。即ち、本発明の光学フィルムは、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは位相差もしくはリターデーション)が小さくなる光学特性を示す。このような広帯域の光学フィルムを用いることによって、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
本発明の光学フィルムは、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4とすることで、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、本発明の光学フィルムを、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
本発明の光学フィルムは偏光子保護フィルムとしてもよい。
本発明の光学フィルムは、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
本発明の光学フィルムの用途は特に限定されず、従来の光学部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用できる。
(新規重合体)
本発明の新規重合体は、構成単位として、ビニルフタラゾン単位と、主鎖にラクトン環構造を有する単位とを有する共重合体である。この重合体の用途は特に限定されないが、ビニルフタラゾン単位は上述した構成単位(A)であり、主鎖にラクトン環構造を有する単位が、当該単位を有する重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する場合(上述した構成単位(B)である場合)、逆波長分散性を示す本発明の光学フィルムに使用できる。
ラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、上述した式(4)に示す構造である。
ビニルフタラゾン単位は、上述した式(2)に示す単位である。
ビニルフタラゾン単位と、式(4)に示すラクトン環構造を主鎖に有する単位とを有する共重合体は、例えば、ビニルフタラゾンと、メタクリル酸メチル(MMA)などの第1の(メタ)アクリル酸エステルと、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)などの水酸基を分子内に有する第2の(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合った第1の(メタ)アクリル酸エステル単位と第2の(メタ)アクリル酸エステル単位との間に、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて得ることができる。この場合、主鎖にラクトン環構造を有する単位は、(メタ)アクリル酸エステル誘導体単位である。
第1の(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;である。
第2の(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。
本発明の重合体におけるビニルフタラゾン単位の含有率、ラクトン環構造を主鎖に有する単位の含有率は特に限定されない。
脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応は、公知の方法に従えばよい。
本発明の重合体は、ビニルフタラゾン単位と、主鎖にラクトン環構造を有する単位以外の構成単位を有していてもよい。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、35重量部のメタクリル酸メチル(MMA)および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(C−2A)を形成した。
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、25重量部のMMA、10重量部のメタクリル酸ベンジルおよび重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(C−2B)を形成した。
形成した重合体(C−2B)の固有複屈折の正負を、比較例1と同様に形成した当該重合体からなる延伸フィルムの配向角を求めることで評価したところ、正であった。
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、10重量部のビニルカルバゾール、18重量部のMHMA、72重量部のMMAおよび重合溶媒として80重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に10重量部のトルエンに溶解させた0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、還流下において2時間、上記重合により形成した重合体中のMHMA単位とMMA単位との間に環化縮合反応を進行させた。
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を主鎖に有する透明な重合体(C−1A)を形成した。なお、得られた重合体(C−1A)は、その主鎖にラクトン環構造を有するが、この環構造は、重合体(C−1A)と、重合体(C−2A)または(C−2B)との相容性を向上させることを目的として導入した。
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(C−2A)10重量部と、製造例3で作製した重合体(C−1A)20重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させ、得られた溶液を攪拌して、重合体(C−2A)および(C−1A)を均一に混合した。次に、得られた混合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、固形の樹脂30重量部を得た。
次に、得られた樹脂を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムの位相差(フィルム面内の位相差)の波長分散性ならびに配向角を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表4に示す。なお、表4ならびに以降の実施例・比較例における各表では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、各表に示す面内位相差は、膜厚100μmあたりの値である。
表4に示すように、実施例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
実施例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(実施例2)
重合体(C−2A)の代わりに、製造例2で作製した重合体(C−2B)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを作製し、作製した延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表5に示す。
表5に示すように、実施例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
実施例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は0.6°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(実施例3)
重合体(C−2A)の代わりにアクリルイミド重合体(ロームアンドハース製、KAMAX T−240)10重量部を用い、製造例3で作製した重合体(C−1A)の使用量を25重量部とした以外は、実施例1と同様にして、固形の樹脂35重量部を得た。なお、用いたアクリルイミド重合体は、以下の式(11)に示すように、その構成単位としてN−メチル−ジメチルグルタルイミド単位およびメチルメタクリレート単位を有する。
次に、得られた樹脂を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記二軸延伸装置により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。
次に、得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表6に示す。
表6に示すように、実施例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
実施例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−2.1°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例1)
製造例1で作製した重合体(C−2A)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(C−2A)の延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表7に示す。
表7に示すように、比較例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
比較例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例2)
実施例3で用いたアクリルイミド重合体のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表8に示す。
表8に示すように、比較例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示した。
比較例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例3)
製造例3で作製した重合体(C−1A)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(C−1A)の延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表9に示す。
表9に示すように、比較例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示したが、その分散性は、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの樹脂に比べて非常に大きかった。
比較例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は89.4°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。
(参考例1)
製造例1で作製した重合体(C−2A)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記二軸延伸装置により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度145℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(F1)を得た。
これとは別に、重合体(C−2A)の代わりに製造例3で作製した重合体(C−1A)を用いた以外は上記と同様にして、厚さ100μmの延伸フィルム(F2)を得た。
次に、作製した延伸フィルム(F1)を第1の層、延伸フィルム(F2)を第2の層として、各々のフィルムの延伸方向(延伸軸)を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表10に示す。
表10に示すように、参考例1で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
参考例1で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(参考例2)
製造例2で作製した重合体(C−2B)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(F3)を得た。
これとは別に、製造例3で作製した重合体(C−1A)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約210μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ150μmの延伸フィルム(F4)を得た。
次に、作製した延伸フィルム(F3)を第1の層、延伸フィルム(F4)を第2の層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表11に示す。
表11に示すように、参考例2で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
参考例2で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.6°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(参考例3)
実施例3で用いたアクリルイミド樹脂を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム(F5)を得た。
これとは別に、製造例3で作製した重合体(C−1A)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ125μmの延伸フィルム(F6)を得た。
次に、作製した延伸フィルム(F5)を第1の層、延伸フィルム(F6)2枚の積層体を第2の層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表12に示す。
表12に示すように、参考例3で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
参考例3で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.3°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例4)
参考例1で作製した延伸フィルム(F1)における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表13に示す。
表13に示すように、延伸フィルム(F1)は、光の波長が短くなるほど位相差が少し大きくなる波長分散性を示した。
延伸フィルム(F1)の配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例5)
参考例2で作製した延伸フィルム(F3)における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表14に示す。
表14に示すように、延伸フィルム(F3)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示した。
延伸フィルム(F3)の配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(比較例6)
製造例3で作製した重合体(C−1A)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(F7)を得た。
延伸フィルム(F7)における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表15に示す。
表15に示すように、延伸フィルム(F7)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示したが、その分散性は、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの樹脂に比べて非常に大きかった。
延伸フィルム(F7)の配向角(φ)は89.8°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。
(比較例7)
実施例3で用いたアクリルイミド樹脂を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約140μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ100μmの延伸フィルム(F8)を得た。
延伸フィルム(F8)における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表16に示す。
表16に示すように、延伸フィルム(F8)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示した。
延伸フィルム(F8)の配向角(φ)は−0.9°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
(製造例4)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、18重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、72重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに3時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を有するとともに主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(C−1B)を得た。
(製造例5)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、35重量部のMMA、および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.3重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(C−2C)を得た。
(製造例6)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、6重量部のMHMA、74重量部のMMA、20重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を4時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに3時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を有するとともに主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(C−1C)を得た。
(参考例4)
製造例4で作製した重合体(C−1B)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所製)により、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ45μmの延伸フィルム(F9)を得た。
これとは別に、セルロースアセテートプロピオネート(アルドリッチ製、Mn=15000)の塩化メチレン溶液(濃度15重量%)をガラス板上に流延し、乾燥させて、厚さ70μmのフィルムを得た。得られたフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が1.8倍となるように延伸温度160℃で自由端一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルム(F10)を得た。
次に、1枚の延伸フィルム(F9)と2枚の延伸フィルム(F10)とを、F10によってF9を狭持するように、各々のフィルムの延伸方向(延伸軸)を合わせながら積層した。得られた延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表17に示す。
表17に示すように、参考例4で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
(比較例8)
参考例4で作製した延伸フィルム(F10)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表18に示す。
表18に示すように、延伸フィルム(F10)は、光の波長が短くなるほど位相差がわずかに大きくなる波長分散性を示した。
延伸フィルム(F10)の配向角を全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて評価したところ、配向角(φ)は1.4°であり、即ち、セルロースアセテートプロピオネートの固有複屈折は正であった。
(比較例9)
参考例4で作製した延伸フィルム(F9)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表19に示す。
表19に示すように、延伸フィルム(F9)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示し、その波長分散性は非常に大きかった。
延伸フィルム(F9)の配向角を全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて評価したところ、配向角(φ)は−86.4°であり、即ち、重合体(C−1B)の固有複屈折は負であった。
(実施例4)
製造例4で作製した重合体(C−1B)20重量部と製造例5で作製した重合体(C−2C)10重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させ、全体を攪拌して、均一に混合した。次に、得られた混合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、固形の樹脂を得た。
次に、得られた樹脂をプレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約90μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度143℃で自由端一軸延伸して、厚さ49μmの延伸フィルム(F11)を得た。
得られた延伸フィルム(F11)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表20に示す。
表20に示すように、延伸フィルム(F11)は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その波長分散性は大きかった。
(参考例5)
製造例5で作製した重合体(C−2C)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約80μmのフィルム(F12)とした。次に、得られたフィルム(F12)の表面に、バーコーター#58により、製造例6で作製した重合体(C−1C)のトルエン溶液(濃度30重量%)を均一に塗布した。次に、全体を60℃で1時間、および120℃で15分乾燥させて、フィルム(F12)と重合体(C−1C)からなる層との積層構造を有する積層体を得た。次に、作製した積層体を、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、フィルム(F12)の延伸体と重合体(C−1C)の延伸体との積層構造を有する厚さ70μmの延伸フィルム(F13)を得た。
得られた延伸フィルム(F13)に対して、その位相差(面内位相差)の波長分散性を実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表21に示す。
表21に示すように、延伸フィルム(F13)は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その波長分散性は大きかった。
これとは別に、重合体(C−1C)の溶液を塗布することなく、フィルム(F12)のみを同様に延伸して得た延伸フィルムの位相差(面内位相差)の波長分散性を評価したところ、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性であった。また、その配向角(φ)は0°近傍であり、即ち、重合体(C−2C)の固有複屈折は正であった。
また、重合体(C−1C)からなる延伸フィルムを、参考例4の延伸フィルム(F9)と同様に作製し、その位相差(面内位相差)の波長分散性を評価したところ、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示し、その波長分散性は非常に大きかった。さらに、その配向角(φ)は−90°近傍であり、即ち、重合体(C−1C)の固有複屈折は負であった。
(参考例6)
製造例4で作製した重合体(C−1B)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ45μmの延伸フィルム(F14)を得た。
これとは別に、シクロオレフィン重合体フィルム(日本ゼオン製、ゼオノアZF14)を、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ63μmの延伸フィルム(F15)を得た。
次に、作製した延伸フィルム(F14)を第1の層、延伸フィルム(F15)を第2の層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表22に示す。
表22に示すように、延伸フィルム(F14)と(F15)との積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
(比較例10)
参考例6で作製した延伸フィルム(F15)における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表23に示す。
表23に示すように、延伸フィルム(F15)は、光の波長が短くなるほど位相差がわずかに大きくなる波長分散性を示した。
なお、延伸フィルム(F15)における固有複屈折の正負を、当該フィルムの配向角を求めることで評価したところ、正であった。
(製造例7)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、25重量部のMHMA、68重量部のMMA、7重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、透明な共重合体(C−3A)を得た。共重合体(C−3A)は、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を、構成単位(B)として、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体であるラクトン環構造を主鎖に有する構成単位を有する。
(参考例7)
製造例7で作製した共重合体(C−3A)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約190μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように、延伸温度148℃で自由端一軸延伸して、厚さ130μmの延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を、以下の表24に示す。
表24に示すように、参考例7で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
(製造例8)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、25重量部のMHMA、63重量部のMMA、5重量部のメタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)、7重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、透明な共重合体(C−3B)を得た。共重合体(C−3B)は、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を、構成単位(B)として、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体であるラクトン環構造を主鎖に有する構成単位を有する。
(参考例8)
製造例8で作製した共重合体(C−3B)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約190μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように、延伸温度147℃で自由端一軸延伸して、厚さ130μmの延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を、以下の表25に示す。
表25に示すように、参考例8で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示し、その変化は大きかった。
(製造例9)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、10.7重量部のMHMA、68.3重量部のMMA、21重量部のスチレンおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、透明な共重合体(E)を得た。共重合体(E)は、スチレン単位およびMMA単位と、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体であるラクトン環構造を主鎖に有する構成単位とを有する。
(比較例11)
製造例9で作製した共重合体(E)を、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸して、延伸フィルムを得た。
得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を、以下の表26に示す。
表26に示すように、比較例11で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示した。しかし、その波長分散性は、構成単位(A)としてビニルカルバゾール単位を主鎖に有する重合体からなる延伸フィルム(比較例3)に比べて、スチレンを過剰量用いたにもかかわらず非常に小さかった。比較例11で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は90.5°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。