JP5301380B2 - 回転刃具の寿命予測方法 - Google Patents
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この図において、1210回目で折損が生じ、このときの電力ピーク値は2998Wであった。この場合、確実に折損手前で刃具を交換するためには、折損時の電力ピーク値の10%程度低い、すなわち2700W程度に基準値を設定する必要がある。
しかし、この基準値に近いピーク値は1000回目で、このときの2748Wである。したがって、10%低いピーク値で交換するには、1000回転よりもさらに手前で交換せざるを得ず、実際の折損限界よりもかなり早く交換することになって、寿命ロスが大きくなる。これは各回数毎の電力ピーク値間における差が小さく、検出精度が低いため10%程度の差を設けなければならないためである。
ちなみに1回目の電力ピーク値は1990Wであり、折損時の最大電力値との差は約1100Wであって、最大電力値の約37%低い値に相当する。また、500回目の電力ピーク値は2150Wであり、折損時の最大電力値との差は約800Wであって、最大電力値の約27%低い値に相当する。
しかも、実測波形はローパスフィルタを通してAD変換するため、実際の波形に近似できる高周波数成分を除去してしまうので、AD変換されるデータは波形のピーク値がかなり平準化されてしまうため、この点でも測定波形のデータ精度が低くなり、その結果、より大きめに安全を見込んだ設定になってしまう。
そこで、回転刃具を寿命直前まで安全に使い切り、しかも寿命の直前すなわち折損の直前で確実に交換できるようにするため、正確でかつ容易に判断できる高精度な予兆波を検出できるようにした寿命予測方法が望まれていた。本願発明はこのような要請の実現を目的とする。
この実負荷電流波形の波形から、加工回数毎に最大値及び最小値を抜き出して変化量を求め、この変化量の時系列的な分散値を求める統計上処理工程と、
分散値から定められたしきい値に対して上記分散値が所定の判断条件に該当するか否かを判定し、該当した分散値の出現により回転刃具の折損予兆が出現したと判断する予兆判断工程とを備えたことを特徴とする。
そこでこの最大値と最小値から変化量を計算し、さらにこの変化量から加工回数毎に分散を計算すると、この分散値は折損直前に異常判断における十分に大きな変化を示す。
そこで、分散値から定められたしきい値に対して分散値が所定の判断条件に該当するか否かを判定し、該当した分散値の出現により回転刃具の折損予兆が出現したと判断する予兆判断工程において、しきい値を十分に大きくできるので、正確かつ容易に分散値の異常を判断でき、折損の予兆を的確に判断できる。また、折損直前で判断できるため、回転刃具の交換を可及的に遅くでき、その結果、寿命ロスを削減することができる。
この図2において、1は加工機(例えばマシニングセンター)であって、このマシニングセンターは、200V3相交流電源により駆動される主軸モータMと、コラムC上に設けた送りモータFMにより上下方向に移動可能であってコラムCの前面に取付けられた主軸ユニットHと、主軸ユニットHへ回転自在に保持され前記主軸モータMにより回転駆動される主軸SPと、この主軸SP先端に装着された回転刃具Tを備える。回転刃具Tは移動テーブル3上に載置された被削物W(ワーク)を切削(穴開)加工するものであって、この例ではドリルである。
しかし、Bが理想的な正弦波になる場合は誘導モータを用いた場合など限られており、むしろBが理想的な正弦波でない場合が多く、特にACスピンドルモータの場合は歪んだものになり、理想的な正弦波にならない。
但し、Bの実負荷電流波形を測定する際のサンプリングの周期が低いと、波形が平準化されるため、ピーク値が低くなって、誤差が拡大する傾向にあり、このような場合には予兆波検出の精度が低下してしまう。
そこで本願はBの実負荷電流波形を測定する際に高周波電流センサを用いてサンプリングするようにした。高周波電流センサの測定周波数は、測定対象の波形における周波数以上、標本化定理ではさらに2倍以上とすることで正確なピーク値を検出することができ、測定対象波形の周波数よりサンプリング周波数が低くなるほど検出するピーク値の精度が低下する。
また、40kHzを超えて例えば、市販品で現在安価に入手できる最高の周波数である500kHzもしくはこれよりも高い周波数でも理論上は可能であるが、入手の容易性を考慮すれば10〜100kHz程度が好ましい。しかし、このように高いサンプリング周波数ではデータ処理量が膨大になるので、検出精度とデータ処理量の兼ね合いでは、10〜100kHz程度、より好ましくは10〜40kHzが有利である。
例えば、回転刃具がドリルの場合、周速が20m/分のとき、ドリル径が5φであれば基準周波数は4kHz、10φであれば2kHzとなる。周速と測定周波数は比例関係にある。
そこで、実際の周速が100m/分のときの基準周波数は、ドリル径が5φで20kHz、
10φで10kHzとなり、これを標本化定理により2倍すれば、それぞれ40kHz、20kHzが測定周波数となる。なお、このサンプリング角度は概ね1°刻みを目標にする。但し、これより小さな角度を設定することは任意であるが、その場合には測定周波数がさらに大きくなる。
Aにおいて、グラフは高周波電流センサDで検出された実負荷電流波形のうち任意の3つの山(ピークという)Pm−1、Pm、Pm+1と2つの谷(ボトムという)Bm−1、Bmを示す拡大図であり、横軸は時間、縦軸は高周波電流センサの検出した電流値(実際の電流値に比例する読み取り値で単位なし:以下同)である。
(X0+X1+・・・+Xn)/n
を求めてピーク平均値avXを求める。nは切削加工1回(ドリル加工であればドリルによる1回の穴明け加工)毎における後述する分散区間内で発生するピークの数である。
これにより、切削加工1回毎の分散値δが求まるので、これを切削加工数毎にプロットすると図5のグラフになる。
この例では、1回目、2回目及び3回目からなる連続する3つのピークがいずれもしきい値を超えているので、これらの1〜3回目のピークからなる波形が予兆波となる。この予兆波の出現後において回転刃具は折損に至る。
まず、初期設定として、予めドリルの破損までのテストを行い、ドリル加工に伴って発生する実負荷電流波形を高周波電流センサで測定し、ドリル加工数毎のピーク値の最大値とボトム値の最小値で変化量を求め、この変化量より分散値を求め、さらにこの分散値の70%をしきい値として設定する(ST11)。
次に、一回のドリル加工毎に、高周波電流センサで実負荷電流波形を測定して分散値を計算する(ST12)。
YESであれば、予兆波が発生したと判断してドリルを交換し(ST14)、終了する。
ST13でNOであれば、ST13を反復する。
図6は連続する2回の切削工程における高周波電流センサの測定した負荷電流の実波形を示す。横軸は時間、縦軸は電流である。
この加工1回分の測定波形において、Aは加工前後における加工場所変更に伴うノイズであり、Bは加工開始から所定時間経過までの不安定範囲であり、Cは安定した加工範囲である。統計処理による分散を計算する分散区間は、A及びBを除き、B後の安定した所定時間Cの範囲にある波形のみを検出する。但し、Bは設備や切削条件によって異なる。
また、しきい値及び後述する予兆波の判断条件は、予め、ドリル折損までの加工を各種の条件でテスして適正値を求めておき、実際の量産において、材質、ドリル径、送り速度、回転数などにより、予めテストで求めた値で補正すればよい。
図7は上記の統計処理で得られたドリル加工回数毎の分散値を示すグラフであり、ドリルの破損までの全ドリル加工回数についてプロットして時系列的に示し、横軸に加工回数、縦軸に分散値を示す(ST12)。
なお、このしきい値及び判断条件を、実際の量産内容に即して適宜に設定できることは前述の通りである。
すなわち、ドリルの交換は、実際に破損する限界である5309回目の直前となる5100回目まで延ばすことができる。この加工において、本願発明の予兆波に基づかず安全を見込んで早めに交換していた従来の方法による場合は、図中に破損限界zで示したように、約4000回目で交換していた。したがって、本願発明によれば約1000回以上も長く使用することが可能になる。
これは、本願発明において、折損限界直前で容易かつ正確に判別できる明瞭な予兆検出波を検出できることによって可能になったものであり、しかも、この予兆波検出も高周波電流センサの採用と統計処理により比較的容易かつ高精度に行えるようになった。
また、加工機はマシニングセンター以外に、旋盤、ボール盤、縦型フライス盤、横型フライス盤などが適用できる。
Claims (5)
- モータで駆動される回転刃具の寿命予測方法において、
回転刃具により被削物を切削加工する際に、モータの駆動電流を高周波電流センサでサンプリングして実負荷電流波形を測定する負荷電流測定工程と、
この実負荷電流波形の波形から、加工回数毎に最大値及び最小値を抜き出して変化量を求め、この変化量の時系列的な分散値を求める統計上処理工程と、
分散値から定められたしきい値に対して上記分散値が所定の判断条件に該当するか否かを判定し、該当した分散値の出現により回転刃具の折損予兆が出現したと判断する予兆判断工程とを備えたことを特徴とする回転刃具の寿命予測方法。 - 前記高周波電流センサは回転刃具の1回転より小さな角度でサンプリングできるものであることを特徴とする請求項1に記載した回転刃具の寿命予測方法。
- 前記高周波電流センサの最高測定周波数が10kHz以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載した回転刃具の寿命予測方法。
- 前記所定の判断条件は、連続する所定数のピーク値のうち過半数が前記しきい値を越えることであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載した回転刃具の寿命予測方法。
- 前記しきい値は、分散値に対して所定係数を乗じたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載した回転刃具の寿命予測方法。
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