以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す機能ブロック図である。送信用振動子10は生体内へ送信波を連続的に送波し、また、受信用振動子12は生体内からの反射波を連続的に受波する。このように、送信および受信がそれぞれ異なる振動子で行われて、いわゆる連続波ドプラ法による送受信が実行される。
電力増幅器14は、送信用振動子10に対し、電力増幅されたFM連続波(FMCW)を供給する。電力増幅器14には、例えば正弦波または鋸歯状波などによるFM変調処理が施されたFM連続波(FMCW波)が入力され、このFM連続波に対応する送信波が送信用振動子10から送波される。FM変調器20は、FM連続波を電力増幅器14に出力する。FM変調器20は、RF波発振器22から供給されるRF波、および、FM変調波発振器24から供給される正弦波または鋸歯状波などの変調波に基づいてFM連続波を発生する。このFM連続波の波形については後の原理説明で詳述する。
前置増幅器16は、受信用振動子12から供給される受波信号に対して低雑音増幅等の受信処理を施し、受信RF信号を形成して受信ミキサ30へ出力する。受信ミキサ30は受信RF信号に対して直交検波を施して複素ベースバンド信号を生成する回路であり、2つのミキサ32,34で構成される。各ミキサは受信RF信号を所定の参照信号と混合する回路である。
受信ミキサ30の各ミキサに供給される参照信号は、FM変調器20から出力されFM連続波に基づいて生成される。つまり、FM変調器20から出力されるFM連続波が遅延回路25において必要に応じて遅延処理され、ミキサ32には遅延処理されたFM連続波が直接供給され、一方、ミキサ34には遅延処理されたFM連続波がπ/2シフト回路26を経由して供給される。π/2シフト回路26は遅延処理されたFM連続波の位相をπ/2だけずらす回路である。この結果、2つのミキサ32,34の一方から同相信号成分(I信号成分)が出力され、他方から直交信号成分(Q信号成分)が出力される。そして、受信ミキサ30の後段に設けられるLPF(ローパスフィルタ)36,38によって、同相信号成分および直交信号成分の各々の高周波数成分がカットされ、検波後の必要な帯域のみの復調信号が抽出される。
なお、FM変調波発振器24から供給される変調波に遅延処理を施して遅延変調波を形成し、その遅延変調波によってRF波発振器22から供給されるRF波を周波数変調することにより、参照信号を生成してもよい。
後の原理説明で詳述するが、各ミキサで実行される受信RF信号と参照信号との混合処理の結果である受信ミキサ出力信号(復調信号)には、FM変調波発振器24から供給される変調波の変調波周波数fmに関する複数の第n次波成分(nは0以上の自然数)が含まれている。つまり、第0次波成分である直流成分、第1次波成分である基本波成分、さらに、nが2以上の複数の高調波成分が含まれている。これら複数の第n次波成分を含んだ復調信号が、LPF36,38の各々から出力される。
FFT回路(高速フーリエ変換回路)40,42は、復調信号(同相信号成分および直交信号成分)の各々に対してFFT演算を実行する。その結果、FFT回路40,42において復調信号が周波数スペクトラムに変換される。なお、FFT回路40,42から出力される周波数スペクトラムは、回路の設定条件などにより周波数分解能δfの周波数スペクトラムデータとして出力される。FFT回路40,42から出力される周波数スペクトラムについては、後に図2や図4などを利用して詳述する。
ドプラ情報解析部44は、周波数スペクトラムに変換された復調信号からドプラ情報を抽出する。本実施形態においては、遅延回路25によってサンプルボリュームの位置に応じて参照信号と受信信号との間の位相関係が調整されるため、サンプルボリュームからのドプラ情報が選択的に抽出される。位相の調整とサンプルボリュームからのドプラ情報の抽出との関連については、後の原理説明において詳述する。
なお、ドプラ情報解析部44は、生体内の各深さ(各位置)ごとにドプラ情報を抽出して、例えば、超音波ビーム(音線)上の各深さごとに生体内組織の速度を算出し、リアルタイムで出力してもよい。また、超音波ビームを走査させて二次元的あるいは三次元的に生体内組織の各位置の速度を算出してもよい。
断層画像形成部46は、FFT回路40,42から得られる周波数スペクトラムに基づいて断層画像を形成する。断層画像の形成にあたっては、遅延回路25における遅延処理が停止され(遅延量がゼロにされ)、これにより、送信信号と受信信号の周波数差を示す周波数差信号がLPF36,38から出力され、周波数差信号に基づいて断層画像が形成される。断層画像の形成処理については後に詳述する。
表示処理部48は、ドプラ情報解析部44において抽出されるドプラ情報に基づいて得られるドプラ波形などの速度表示と、断層画像形成部46から得られる断層画像とに基づいて表示画像を形成する。例えば、断層画像と速度表示を並べて配置した表示画像を形成する。形成された表示画像は表示部49に表示される。
図1に示す超音波診断装置内の各部は、システム制御部50によって制御される。つまり、システム制御部50は、送信制御や受信制御や表示制御などを行う。また、図示しない操作パネルなどを介して入力されるユーザ操作に応じて、システム制御部50が超音波診断装置内の各部を制御する。
以上、概説したように、本実施形態では、連続波(CW)を変調波でFM変調した超音波(FMCW波)を送受波して受信信号が得られて、目標位置(サンプルボリューム)からのドプラ情報が選択的に抽出される。そこで、目標位置からのドプラ情報が選択的に抽出される原理について詳述する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明においても図1の符号を利用する。
周波数f0のRF波(搬送波)に対して、周波数fmの正弦波によりFM変調を施したFMCW送信波は次式のように表現できる。次式において、Δfは周波数変動幅の0−P値(ゼロピーク値:最大周波数偏移)であり、最大周波数偏移Δfと変調周波数fmの比であるβはFMの変調指数である。
また、ドプラシフトを伴う場合のFMCW受信波は、生体における往復の減衰をαとすると次式で表現できる。なお、次式においてfmに対するドプラシフトは、f0のシフト分fdに比較して小さいので無視している。
数2式で表される受信波形は、受信用振動子12を介して受信される信号波形(受信RF信号)である。FMCWドプラでは、受信RF信号に対する復調処理において、FMCW送信波を参照信号として受信波と乗算を行う。図1を利用して説明したように、FM変調器20から出力されるFM連続波が遅延回路25において遅延処理され、参照信号として、ミキサ32には遅延処理されたFM連続波が直接供給され、一方、ミキサ34には遅延処理されたFM連続波がπ/2シフト回路26を経由して供給される。従って、ミキサ32へ供給される参照信号vrI(t)と、ミキサ34へ供給される参照信号vrQ(t)は、次式のように表現できる。
数3式において、φmrは、遅延回路25における遅延処理により任意に設定できる参照信号の位相を示しており、φ0rは、任意に設定した参照信号の位相に対応して決まる搬送波の位相変化量を示している。
受信ミキサ30では、復調処理として直交検波が行われる。つまり、ミキサ32において、受信RF信号vR(t)と参照信号vrI(t)の乗算に相当する処理が実行され、また、ミキサ34において、受信RF信号vR(t)と参照信号vrQ(t)の乗算に相当する処理が実行される。
ミキサ32における受信RF信号vR(t)と参照信号vrI(t)の乗算vDI(t)は次式のように表現される。なお、次式の計算途中において、周波数2f0の成分が消去されている。これは、LPF36において除去される周波数成分である。
ここで、ベッセル関数に関する次の公式を利用する。
数5式の公式を用いると、数4式はさらに次式のように計算される。
一方、ミキサ34における受信RF信号vR(t)と参照信号vrQ(t)の乗算vDQ(t)は次式のように表現される。なお、次式の計算途中において、周波数2f0の成分が消去されている。これは、LPF38において除去される周波数成分である。
ここで、数6式のvDI(t)と数7式のvDQ(t)とに基づいて、複素ベースバンド信号を定義する。まず、vDI(t)とvDQ(t)に含まれている直流(DC)成分、変調周波数fmの偶数次高調波成分を次式のように表現する。
次に、vDI(t)とvDQ(t)に含まれている変調周波数fmの成分、変調周波数fmの奇数次高調波成分を次式のように表現する。
数8式と数9式から、直交検波後のベースバンド信号において、ドプラシフトfdを含んだドプラ信号は、DC成分と変調周波数fmの成分と変調周波数fmの高調波成分とからなる複数の成分の各々についての両側帯波として出現することがわかる。通信工学ではこの種の信号形式を両側帯波搬送波除去変調(Double-Sideband Suppressed-Carrier, DSB-SC)と呼んでいる。
ここで、受信信号と参照信号の位相を互いに揃えた場合、つまり、遅延回路25における遅延処理によりφmrを調整してφmと一致させた場合(φmr=φm)を考える。φmrとφmを一致させた場合には、数4式におけるkが0となる。この結果を数5式のベッセル関数に適用すると、次式のように、0次のベッセル関数の値のみが1となり、それ以外のベッセル関数の値は0となる。
数10式に示す結果を数8式と数9式に適用すると次式のとおりとなる。
数11式は、参照波(参照信号)の位相φmrを送受信間の位相差φmに設定すると、圧縮変換により、直流付近のドプラ信号のみが抽出できることを示している。つまり、変調波fmとその高調波成分(2fm,3fm,・・・)の付近のドプラ信号は出現しない。
このように、ベースバンド信号は、受信波と参照波間の遅延時間が完全に一致している場合は、fmおよびその高調波成分は出現せず、数11式のように直流成分のみとなる。受信波と参照波間の遅延時間が一致していないと、両者の時間差により、変調波の高調波成分、つまりfmおよびその高調波成分が発生する。高調波成分は、受信波と参照波間の時間差が“0”からわずかでもずれると発生する。
こうした特徴から、本実施形態のFMCW方式では、受信波(受信信号)と参照波(参照信号)との間の位相関係を調整することにより、ベースバンド信号の直流および直流付近の信号成分に基づいて対象とする組織の速度情報を得ることができる。この意味において、本実施形態に係る超音波診断装置を位相シフト型FMCW超音波ドプラシステムと称することができる。
図2は、ベースバンド信号の直流および高調波成分の生体内深さ(体表からの距離)依存性を説明するための図である。図2には、複数の変調指数βについて、各変調指数βごとにベースバンド信号(復調信号)の周波数スペクトラムが示されている。なお、β=0からβ≒30までの各周波数スペクトラムは、固定組織からからの反射電力を表している。図2においては、組織における減衰の効果は省略した。なお、FM変調度の大きさは、一般的に、変調指数βにより定量化される。βは、FM変調による搬送波の最大周波数偏移Δfと変調周波数fmの比として定義され、β=Δf/fmにより定義される。
β=0の場合は無変調であるため、これは通常のCWドプラ速度計測システムと等価である。この場合は、どんな深さからの反射電力にも位置依存性は無い。また、送受信ともに無変調なので、ベースバンド信号に変調波成分が出現する余地は無い。連続超音波(CW)にFM変調をかけ、周波数偏移Δfを徐々に増加させると、FMCW送受信波はFM変調された信号となり、その電力は搬送波から側帯波に移行してゆく。送受信間の遅延時間差が無い場合はベースバンド信号に変調波の高調波成分は発生しない。直交検波器の2つの入力(つまり受信信号と参照信号)に時間差を生じさせないためには、当該深さからの反射波の遅延時間に相当する遅延時間を参照波に与えてやればよい。
図2の例は、距離d0=7.5cmにおいて、参照波に与える遅延時間を受信波の遅延時間と一致するように設定した場合を示している。したがって、距離d0からの反射電力は、直流成分のみで、変調波の高調波成分はまったく発生しない。距離がd0以外の場所では、送信波と受信波間に時間差が生じるので、両者の相関性が少なくなってくる。したがって、直流成分が減少し、同時に高調波成分が出現しはじめる。
変調度(変調指数β)が大きくなるにつれて、距離d0における反射電力の位置ずれに対する変化は敏感になってくる。すなわち、距離d0における反射電力の選択性が増加する。この傾向はβが増加するにしたがってますます顕著になる。図2では、その様子をβが0から30の場合について示している。そして、βが30以上になると、この選択性はPW(パルス波)ドプラにおけるレンジゲートの役割と類似の機能に近づいてくる。本実施形態においては、反射電力が選択的に抽出される領域をサンプルボリュームと称する。
次に、距離d0からの反射電力が、ドプラシフトfdを伴っていると仮定する。この場合は、固定物と相似形の距離依存性が出現するが、ドプラ周波数fdだけ、直流成分からシフトしてあらわれる。ドプラスペクトラムは、変調波あるいはその高調波の両側帯波にも同時に出現するが、距離d0からのドプラエコーは直流からfdだけシフトした周波数成分のみとなる。この様子を図2(DP)に示す。
図2(DP)に示すように、距離d0からのドプラエコーが直流からfdだけシフトした周波数成分のみとなるのは、搬送波周波数f0からfdだけずれた周波数において、参照信号とドプラ信号との相関が最も強くなるからである。このドプラ信号は、直流付近にのみ出現し、変調波fmとその高調波成分(2fm,3fm,・・・)の付近には出現しない。したがって、直流付近のこの成分だけをローパスフィルタ(低域濾波器)によって抽出することにより、通常のCWと同様のSNR(信号体ノイズ比)を保った状態で、位置情報の特定されたドプラ情報を得ることができる。
具体的には、例えば、図1の遅延回路25によって、目標となる深さ(位置)dに対応した遅延時間τ(τ=2d/c:音速c,深さd)で参照信号に対して遅延処理が施されることにより、サンプルボリュームの位置が決定され、図1のFFT回路40,42から図2(DP)に相当するドプラ周波数スペクトラム情報が出力され、図1のドプラ情報解析部44によって、図2(DP)の直流付近のドプラ信号が抽出される。また、FM変調器20における変調指数βの大きさに応じて、サンプルボリュームの幅を調整することができる。
さらに、本実施形態においては、変調波として例えば鋸歯状波を利用して、生体内の断層画像を形成することができる。断層画像の形成にあたっては、遅延回路25における遅延処理が停止される。つまり、遅延回路25における遅延時間τがゼロに固定される。受信ミキサ30に供給される参照信号は、FM変調器20で生成されたFM連続波である。そして、受信ミキサ30において、受信RF信号に対して送信用のFM連続波による検波が行われ、LPF36,38から送受信信号間における周波数差信号が抽出される。
図3は、周波数差信号を説明するための図である。図3は、一つの対象組織から受信信号を取得した場合の例を示している。そして、図3(A)には、送信周波数60および受信周波数62の時間変化の様子が示されており、図3(B)には、送受信信号の周波数差(周波数差信号64)の時間変化の様子が示されている。送信周波数60は、送信用振動子10から送波される超音波の周波数変化に相当し、受信周波数62は、受信用振動子12で受波される組織からの反射波の周波数変化に相当する。また、周波数差信号64は、LPF36,38によって抽出される信号である。
送信周波数60は、FM変調波発振器24で生成される。送信周波数60は、時間Tmの間に−ΔωからΔωまで周波数が変化し、これが繰り返される鋸歯状の周波数変化をするFM変調波である。この、鋸歯状波で変調された送信波は、生体内を伝播して組織によって反射される。このため、往復伝播距離に応じた遅延を伴って受波される。この様子を示すのが受信周波数62である。つまり、受信周波数62は、送信周波数60から遅延時間τだけずれて取得される。なお、鋸歯状波に換えて対称三角波を用いて変調された送信波を利用してもよい。
図4は、周波数差信号から断層画像を形成する原理を説明するための図であり、図4は、複数の対象組織から受信信号を取得した場合の例を示している。
図4(A)は、送信用振動子10へ供給される送信波形(FM連続波:FMCW波)を示している。図4(B)は、送信周波数60および複数の受信周波数62a〜62dの時間変化の様子を示している。複数の受信周波数62a〜62dは、それぞれ、異なる深さに存在する対象組織からの受信信号に相当する。複数の受信周波数62a〜62dは、それぞれ、対応する組織の深さに応じて送信周波数60に対して遅延を伴って受波される。
図4(C)は、複数の受信周波数62a〜62dの各々について、送信周波数60との差である周波数差信号64a〜64dの時間変化の様子を示している。周波数差信号64a〜64dは、LPF36,38によって一括して抽出される信号である。つまり、LPF36,38は、周波数差信号64a〜64dが重ね合わされた信号を出力する。
FFT回路40,42は、この重ね合わされた信号から、各深さごとの周波数差信号を抽出する。このため、FFT回路40,42は、例えば図4(C)に示す信号処理時間帯68にウィンドウを設定し、設定したウィンドウ内でLPF36,38からの出力信号を周波数解析し、図4(D)に示す周波数電力スペクトラムを取得する。
図4(D)に示す周波数電力スペクトラムは、周波数差信号64a〜64dが重ね合わされた信号の周波数スペクトラムに相当する。したがって、各周波数差信号64a〜64dの周波数位置で、スペクトラム成分70a〜70dを含む波形となる。
断層画像形成部46は、FFT回路40,42において得られる図4(D)の周波数電力スペクトラムに基づいて、断層画像を形成する。例えば、スペクトラム成分70a〜70dの各々の電力に応じて輝度値を設定することにより、超音波ビームに沿った一次元の画像が得られる。さらに、超音波ビームを二次元平面内においてステアリングさせることにより、Bモード画像に相当する断層画像が形成される。
そして、本実施形態においては、断層画像形成部46によって形成される断層画像を利用して、ドプラ信号が抽出されるサンプルボリュームの位置やサンプルボリュームの幅が設定される。
図5は、サンプルボリュームの設定手順を説明するためのフローチャートである。また、図6は、サンプルボリュームの設定において利用される表示画像例を示す図である。図6に示す表示画像例を適宜参照しつつ、図5のフローチャートの各ステップにおける処理について説明する。
まず、図1に示す本実施形態の超音波診断装置が断層画像モードに設定される(S701)。例えば操作パネルなどを介してユーザ操作が入力されて、システム制御部50が超音波診断装置内の各部を断層画像モードに設定する。この設定により、FM変調波発振器24から鋸歯状波の変調波が出力され、また、遅延回路25における遅延量がゼロにされる。そして、図3および図4などを利用して説明した原理により、断層画像形成部46によって断層画像が形成され、その断層画像の動画が表示部49に表示される(S702)。ユーザは、目的の画像が得られると断層画像をフリーズさせる(S703)。
図6(A)は、サンプルボリュームの設定において表示部49に表示される断層画像80を示している。断層画像80内には、固定目標82と移動目標84が含まれている。移動目標84は、例えば、血管内の血流などである。もちろん、本実施形態の計測対象は血流に限定されない。断層画像80内に測定対象となる移動目標84が映し出されると、ユーザによってフリーズが指示され、例えば図6(A)に示すような断層画像80の静止画となる。
図5に戻り、断層画像がフリーズされると、図1に示す本実施形態の超音波診断装置が速度計測モードに設定される(S704)。例えば操作パネルなどを介してユーザ操作が入力されて、システム制御部50が超音波診断装置内の各部を速度計測モード(ドプラモード)に設定する。この設定により、FM変調波発振器24から正弦波の変調波が出力される。そして、ユーザは、操作パネルなどを用いて、速度計測用の超音波ビーム方向を設定する(S705)。
図6(B)は、超音波ビーム方向の設定において表示部49に表示される画像を示している。つまり、フリーズされた断層画像80内に、血流速度測定用の超音波ビーム90が表示される。ユーザは、図6(B)の表示画像を見ながら、操作デバイスなどを利用して超音波ビーム90をステアリングさせ、所望の方向に超音波ビーム90を傾ける。
図5に戻り、超音波ビーム方向が設定されると、超音波ビーム上にサンプルボリュームが設けられ、そのサンプルボリュームの幅が設定される(S706)。さらに、超音波ビーム上においてサンプルボリュームの位置が設定される(S707)。
図6(C)は、サンプルボリューム幅の設定において表示部49に表示される画像を示している。血流速度測定用の超音波ビーム90の方向が設定されると、超音波ビーム90上にサンプルボリュームアイコン92が表示される。ユーザは、図6(C)の表示画像を見ながら、サンプルボリュームアイコン92を所望の幅に調整する。その調整に基づいて、FM変調器20における変調指数βの大きさが調整され、図2などを利用して説明したように、サンプルボリュームの幅が設定される。
図6(D)は、サンプルボリューム位置の設定において表示部49に表示される画像を示している。サンプルボリュームアイコン92の幅が設定されると、ユーザは、図6(D)の表示画像を見ながら、サンプルボリュームアイコン92を超音波ビーム90に沿って移動させて所望の位置に設定する。例えば、図6(D)に示すように、移動目標84である血流の位置にサンプルボリュームアイコン92が設定される。その設定に基づいて、遅延回路25における遅延量が調整され、図2などを利用して説明したように、サンプルボリュームの位置が設定される。なお、サンプルボリューム位置を設定してから、サンプルボリューム幅を設定するようにしてもよい。
図5に戻り、サンプルボリュームの幅と位置が設定されると、表示モードが確認され(S708)、その表示モードに応じて表示処理部48が測定結果の表示画像を形成し、その表示画像が表示部49に表示される。
表示モードが速度表示のみを表示させるモードの場合には、速度表示のみが表示部49に表示される(S709)。速度表示の一例は、ドプラ情報解析部44において抽出されるドプラ情報に基づいて形成されるドプラ波形である。図6(D)に示すように、移動目標84である血流の位置にサンプルボリュームアイコン92が設定されている場合には、その血流からのドプラ情報が選択的に抽出されるため、速度表示として、血流についてのドプラ波形が形成される。ドプラ波形は、例えば従来の通常の連続波ドプラの場合と同様に、リアルタイム表示される。
一方、表示モードが断層画像と速度表示を表示させるモードの場合には、例えば、断層画像と、ドプラ波形などの速度表示を並べた表示画像が表示部49に表示される(S710)。断層画像はフリーズ画像であるが、ドプラ波形などの速度表示はリアルタイム表示されることが望ましい。
このように、本実施形態においては、断層画像を利用してドプラ信号が抽出されるサンプルボリュームの位置やサンプルボリュームの幅を比較的容易に且つ適切に設定することが可能になる。なお、断層画像として、パルス波の超音波を送波することにより得られる受信信号に基づいて形成されるBモード画像を利用してもよい。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した本発明の好適な実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
例えば、上述した実施形態においては、周波数を周期的に変化させる連続波の送信信号を形成するにあたって、搬送波信号(RF波発振器22から供給されるRF波)に対して周波数変調処理を施している。この周波数変調処理に換えて、周波数変調処理と同じ角度変調の方式として当業者において明らかな位相変調処理(PM処理)を利用してもよい。つまり、搬送波信号に対して位相変調処理を施すことにより、FM変調器20から出力されるFM連続波と同じ波形あるいは同等な波形を形成してもよい。なお、周波数を周期的に変化させる連続波のデータをメモリなどに記憶しておき、このメモリから読み出されるデータに基づいて、当該連続波を生成してもよい。
20 FM変調器、22 RF波発振器、24 FM変調波発振器、25 遅延回路、40,42 FFT回路、44 ドプラ情報解析部、46 断層画像形成部。