インクは通常、水などの湿潤成分と、溶剤、保湿剤などの保湿成分とを含んでおり、このようなインクは水の蒸気圧降下が起こっている。水の蒸気圧降下はモル分率によって決まり、インク中の水の蒸気圧、つまり水蒸気分圧は、下記(1)で算出することができる。
(1):インク中の水蒸気分圧=その温度での飽和水蒸気圧×インク中の水分モル分率(%)
一方、湿度とは一般的に相対湿度(%)のことを指し、ある温度での大気中に含まれる水蒸気分圧を、その温度の飽和水蒸気圧で割ったものである。別の表現をすると下記(2)のように表すことができる。
(2):大気中の水蒸気分圧=その温度での飽和水蒸気圧×相対湿度(%)
インクは、インク中の水蒸気分圧とその温度及び湿度における水蒸気分圧との差を埋めるように蒸発または吸湿して平衡状態になろうとし、その蒸発速度および吸湿速度は上記(1)、(2)式の差となる。つまり、下記(3)に比例することが知られている。
(3):インク中の水分モル分率(%)−相対湿度(%)
インク中の水のモル分率が相対湿度よりも高い場合には、インク中の水分が蒸発し、インク中の水分モル分率が相対湿度よりも低い場合には、インク中の水分は大気中より水分を吸湿して(3)式が0になるよう進行して平衡に達する。
上記のことから、キャップ内を高湿度にするためには、各インクの平均より高く、できるだけ相対的に水のモル分率の高い(湿潤成分を多量に含む)インクをキャップ内に滞留させることが重要である。一般に、インク中の水以外の成分は水と比較して分子量が大きい。このため、異なるインクにおいて水のモル分率がわずか数%異なるだけであっても、両者のインクに含まれる重量換算での水の量は大きく異なる。このことは、キャップ内の初期湿度がわずかに異なるだけで、ノズル内のインクからの水分蒸発は大きく異なることを意味し、水のモル分率の高いインクでキャップ内を湿潤させることが、ノズル内のインクの水分蒸発の低減に有効であることを示している。
本発明のインクジェット記録装置およびその吐出性能低下防止方法は、キャップ内を湿潤させた状態で記録ヘッドのノズル形成面を鉛直方向に下方からキャッピングする。このキャップ内を湿潤させるためにキャップ内に吐出するインクは、当該記録装置が備えるインクのうち揮発性の湿潤成分を多く含むインクである。こうして、キャップ内に吐出したインクによってキャップ内を好適に湿潤させ、揮発性の湿潤成分を多くキャップ内に存在させることで、ノズル内のインクの揮発性の湿潤成分の蒸発を低減することができる。
また、非動作時において、前記各インクの湿潤成分のモル分率に基づいて吐出条件を設定し、インク消費量に基づいて、キャップ内を湿潤させるために最適なインクを選択する。つまり、例えば、最も水のモル分率の高いインクの残量が所定量よりも少ない場合には、その次に水のモル分率の高いインクを選択してキャップ内にインク吐出を行うというようにする。このように、キャップ内の湿潤性能とインク残量とを参照し、最も好適なインクを選択してキャップ内にインク吐出することを特徴とする。
また、廃インク量の削減という課題に鑑みると、キャップ内へのインク吐出動作は、非動作時間が長期にわたる可能性が高い場合のみ実行することが望ましい。そこで、本発明のインクジェット記録装置は、キャップによって吐出口を覆った時点からの経過時間、電源供給に関するフラグを持ち、所定時間経過後にキャップ内へのインクの吐出動作を実行し、フラグをoffとすることが可能である。インクジェット記録装置の電源が正常に切られた場合には、キャップ内へのインクの吐出動作を実行し、フラグをoffとしてキャッピング動作を行う。このように、頻繁に使用する場合にはキャップ内へのインクの吐出を行わず、所定時間を経過した場合に初めて吐出する構成とすることができる。こうして、非動作時間が長期にわたる可能性が高い場合にのみキャップ内へのインクの吐出を行い、不必要なインクの吐出を防止することで廃インク量の削減を図ることができる。
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
1.記録システムの概要
図1は、本発明の一実施形態で適用する記録システムにおける画像データ処理の流れを説明するための図である。この記録システムJ0011は、画像データの生成等を行うホスト装置J0012と、このホスト装置J0012で生成された画像データに基づいて記録媒体に記録を行う記録装置J0013とで構成される。記録装置J0013は、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)、グリーン(G)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)の10色インクにより記録を行う。そのため、これら10色のインクを吐出する記録ヘッドH1001を備えている。なお、これら10色のインクは、色材として顔料を含む顔料インクである。
ホスト装置J0012のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションJ0001は記録装置で記録するための画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは種々の記憶媒体を介してPCに取り込むことができる。本実施形態のホスト装置は、例えば、デジタルカメラで撮影した画像に対応するJPEG形式の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、例えば、スキャナで読み取ったTIFF形式の画像データやCD−ROMに格納されている画像データを取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウェブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホスト装置のモニタに表示されてアプリケーションJ0001を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI(ユーザインタフェース)画面において、ユーザは、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行うと共に記録指示を出す。この記録指示に応じて画像データR、G、Bがプリンタドライバに渡される。
プリンタドライバはその画像データの処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正処理J0004、ハーフトーン処理J0005および記録データの作成処理J0006を行う。以下、プリンタドライバで行われる各処理J0002〜J0006について簡単に説明する。
1−1.前段処理
前段処理J0002では、色域(Gamut)のマッピングを行う。本実施形態では、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置J0013によって再現される色域内にマッピングするためのデータ変換を行う。具体的には、それぞれ8ビットで表現された256階調のsRGB規格の画像データR、G、Bを、3次元LUTを用いることにより、記録装置J0013の色域内の8ビットデータR、G、Bに変換する。
1−2.後段処理
後段処理J0003では、マッピングされた8ビットデータR、G、Bに基づき、これらのデータが表す色を再現するため、インクの組み合わせに対応した各々8ビットの10色の色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayを求める。本実施形態では、この処理は前段処理と同様に3次元LUTを用い、補間演算を併用して行う。
1−3.γ補正処理
γ補正処理J0004では、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータごとにその濃度値(階調値)変換を行う。具体的には、記録装置J0013の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データがプリンタの階調特性に線形的に対応づけられるような変換を行う。
1−4.ハーフトーン処理
ハーフトーン処理J0005は、γ補正処理J0004がなされた8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayのそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では、誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、記録装置におけるドット配置パターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
1−5.記録データの作成処理
プリンタドライバで行う最後の処理である記録データの作成処理J0006では、上記4ビットデータ(インデックスデータ)を内容とする記録画像データに記録制御情報を加えた記録データを作成する。
図2はかかる記録データの構成例を示した図である。記録データは、記録の制御を司る記録制御情報および記録すべき画像を示す記録画像データ(上記インデックスデータ)で構成されている。記録制御情報は、「記録媒体情報」、「記録品位情報」、給紙方法などの「その他制御情報」から構成されている。記録媒体情報には、記録の対象となる記録媒体の種類が記述されており、「普通紙」、「光沢紙」、「はがき」、「プリンタブルディスク」などのうちのいずれか1種類の記録媒体が選択されている。記録品位情報には、記録品位に対応する記録モードが記述されており、「きれい」、「標準」、「はやい」などのうちのいずれか1種の記録モードが選択されている。なお、これらの記録制御情報は、ホスト装置J0012のモニタおけるUI画面にてユーザが選択した内容に基づいて記述される。また、記録画像データは、前述のハーフトーン処理J0005によって生成された画像データが記述されているものとする。以上のようにして生成された記録データは、記録装置J0013へ供給される。
記録装置J0013は、ホスト装置J0012から供給されたその記録データに対して、次に述べるドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008を行う。
1−6.ドット配置パターン化処理
上述したハーフトーン処理J0005では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)まで階調数を下げている。しかし、実際に記録装置J0013で記録するために使用されるデータは、インクドットを記録するか否かの2値データ(1ビットデータ)である。そこで、ドット配置パターン化処理J0007では、ハーフトーン処理J0005で処理された階調レベル0〜8の4ビットデータで表現される8画素ごとに、階調レベルに対応したドット配置パターンを割当てる。こうして、その8画素において1画素ごとにインクドットを記録させるか否か(ドットのオンまたはオフ)を決定する。つまり、1画素ごとに、ドットのオンを示す「1」またはドットのオフを示す「0」で表される1ビットの2値データを配置する。
図3は、本実施形態のドット配置パターン化処理で変換する、階調レベル0〜8に対応する出力パターンを示している。図3中の左側に示した各レベル値は、ホスト装置におけるハーフトーン処理された4ビットデータの階調レベル0〜8に対応している。右側に配列した縦2画素×横4画素で構成される領域は、ハーフトーン処理された4ビットデータが表現する8画素分の領域に対応する。また、この領域の各画素は、ドットのオンまたはオフ(ドットの有無)が決定される最小単位に相当する。なお、本明細書において「画素」とは、階調表現可能な最小単位のことであり、複数ビットの多値データの画像処理(上記前段処理、後段処理、γ補正処理、ハーフトーン処理など)において処理が行われる領域の最小単位である。
図3において、丸印が記入された画素はドットが記録される画素を示しており、レベル数が1つずつ上がるに従って記録されるドット数も1つずつ増加している。本実施形態においては、このようにしてオリジナル画像の濃度情報が反映されている。
また、図3において、(4n)〜(4n+3)は、対応する画像データの、記録領域における左端からの、横方向の画素の位置(記録位置)を示している。なお、nは1以上の整数であり、例えば、(4n)においてnが1の場合、対応する画像データは、記録領域において左端から横方向に1〜4画素(縦方向に2画素分)の領域に対応する画像データであることを示している。(4n)〜(4n+3)に応じて、各階調レベルで異なるドット配置パターンが用意されている。すなわち、同一の階調レベルの画像データが記録装置J0013に入力された場合にも、記録媒体上では(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが横方向に巡回されて割当てられる構成となっている。
本実施形態では、後述するように、ノズルが配列した記録ヘッドをノズルの配列方向と直交する方向に走査しながら記録を行う記録装置を用いている。図3においては、縦方向を記録ヘッドのノズルが配列する方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。このように同一の階調レベルに対して複数の異なるドット配置で記録できる構成とすることで、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと下段に位置するノズルとで吐出を分散すること、記録装置特有の様々なノイズを分散することなどができる。
以上説明したドット配置パターン化処理を終了した段階で、記録媒体に対するドットの配置パターンが全て決定される。
1−7.マスクデータ変換処理
上述したドット配置パターン化処理J0007により、記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定される。このため、このドット配置を示す2値データを記録ヘッドH1001の駆動回路(ヘッド駆動回路J0009)に入力すれば、所望の画像を記録することが可能である。この場合、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を1回の走査によって完成させる、いわゆる1パス記録により実行されうる。しかし、ここでは、記録媒体上の同一の走査領域に対して複数回の走査によって記録を完成させる、いわゆるマルチパス記録の例をとって説明する。
図4は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示したものである。本実施形態に適用される記録ヘッドH1001は実際には768個のノズルを有するが、ここでは簡単のため16個のノズルを有するものとして説明する。ノズルは、図のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つずつのノズルが含まれている。マスクパターンP0002は、第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)で構成される。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は、それぞれ、第1〜第4のノズル群が記録可能なエリアを定義している。マスクパターンにおける黒塗りエリアは記録許容エリアを示し、白塗りエリアは非記録エリアを示している。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は互いに補完の関係にあり、これら4つのマスクパターンを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。
P0003〜P0006で示した各パターンは、ある記録領域に重ねて記録走査を行うことによって記録画像を形成していく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分(この図では4ノズル分)ずつ搬送される。このように、この記録領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の記録走査によって記録画像が形成される。以上のように、記録媒体のある記録領域において画像が複数回の走査で複数のノズル群によって形成されることは、ノズルのばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつきなどを低減させる効果がある。
図5は、本実施形態に適用可能なマスクパターンの一例を示したものである。本実施形態で適用する記録ヘッドH1001は768個のノズルを有しており、4つのノズル群にはそれぞれ192個ずつのノズルが属している。マスクパターン大きさは、縦方向がノズル数と同等の768画素分、横方向は256画素分となっており、4つのノズル群それぞれに対応する4つのマスクパターンで互いに補完の関係を保つような構成となっている。
ところで、本実施形態で適用するような、多数の小液滴を高周波数で吐出するようなインクジェット記録ヘッドにおいては、記録動作時に記録部近傍に気流が生じ、この気流が特にノズル列端部のノズルの吐出方向に影響を与えることが確認されている。このため、本実施形態のマスクパターンにおいては、図5からも判るように、各ノズル群また同一のノズル群の中でも、領域によって記録許容率の分布に偏りを持たせている。図5で示すように、ノズル列端部のノズルの記録許容率を中央部の記録許容率よりも小さくした構成のマスクパターンを適用することにより、端部のノズルにより吐出されるインク滴の着弾位置ずれによる弊害を目立たなくすることが可能となる。
なお、マスクパターンで定められる記録許容率とは、マスクパターンを構成する記録許容エリアと非記録許容エリアの合計数に対する記録許容エリアの数の割合を百分率で表したものである。例えば、図4のマスクパターンP0002の黒塗りエリアは記録許容エリアに相当し、図4のマスクパターンP0002の白塗りエリアは非記録許容エリアに相当する。すなわち、マスクパターンの記録許容エリアをM個、非記録許容エリアをN個とすると、そのマスクパターンの記録許容率(%)は、M÷(M+N)×100となる。
本実施形態においては、図5で示したマスクデータが記録装置本体内のメモリに格納されている。そして、マスクデータ変換処理J0008においては、当該マスクデータと上述したドット配置パターン化処理で得られた2値データとの論理積を演算することにより、各記録走査での2値データが決定され、その2値データを駆動回路J0009へ送る。これにより、記録ヘッドH1001が駆動されて2値データに従ってインクが吐出される。
なお、図1の記録システムは、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正処理J0004、ハーフトーン処理J0005および記録データ作成処理J0006がホスト装置J0012で実行される。そして、ドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008が記録装置J0013で実行される。しかしながら、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、ホスト装置J0012で実行しているJ0002〜J0005の処理の一部を記録装置J0013にて実行する形態であってもよいし、すべての処理をホスト装置J0012にて実行する形態であってもよい。あるいは、J0002〜J0008の処理を記録装置J0013にて実行する形態であってもよい。
2.記録装置の各機構部の構成
次に、本実施形態で適用する記録装置における各機構部の構成を説明する。本実施形態の記録装置は、各機構部の役割から、概して、給紙部、搬送部、排紙部、キャリッジ部、フラットパス記録部、およびクリーニング部等に分類することができ、これらは外装部に収納されている。
図6、図7、図8、図12および図13は、本実施形態で適用する記録装置の外観を示す斜視図である。ここで、図6は非使用時の記録装置を前面から見た状態である。図7は非使用時の記録装置を背面から見た状態である。図8は使用時の記録装置を前面から見た状態である。図12はフラットパス記録時の記録装置を前面から見た状態である。図13はフラットパス記録時の記録装置を背面から見た状態である。また、図9〜図11および図14〜図16は、記録装置本体の内部機構を説明するための図である。ここで、図9は記録装置本体の内部機構の右上部からの斜視図である。図10は記録装置本体の内部機構の左上部からの斜視図である。図11は記録装置本体の側断面図である。図14はフラットパス記録時における記録装置本体の内部機構の断面図である。図15はクリーニング部の斜視図である。図16はクリーニング部におけるワイピング機構の構成および動作を説明するための断面図である。
以下、これらの図面を適宜参照しながら、各部を順次説明する。
2−1.外装部(図6、図7)
外装部は、給紙部、搬送部、排紙部、キャリッジ部、クリーニング部、フラットパス部およびウエット液転写部の周りを覆うように取り付けられている。外装部は主に、下ケースM7080、上ケースM7040、アクセスカバーM7030、コネクタカバーおよびフロントトレイM7010から構成されている。
下ケースM7080の下部には、不図示の排紙トレイレールが設けられており、分割された排紙トレイM3160が収納可能に構成されている。また、フロントトレイM7010は、非使用時に排紙口を塞ぐ構成になっている。
上ケースM7040には、アクセスカバーM7030が取り付けられており、回動可能に構成されている。上ケースの上面の一部は開口部を有しており、この位置で、インクタンクH1900および記録ヘッドH1001(図21)が交換可能となるように構成されている。なお、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001は、1色のインクを吐出可能な吐出部を複数色分、一体的に構成したユニットの形態であり、インクタンクH1900が色毎に独立に着脱可能なヘッドカートリッジになっている。上ケースM7040には、アクセスカバーM7030の開閉を検知するための不図示のドアスイッチレバー、LEDの光を伝達し表示するLEDガイドM7060が設けられている。さらに、上ケースM7040には、電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004などが設けられている。また、多段式の給紙トレイM2060が回動可能に取り付けられており、給紙部が使われない時は、給紙トレイM2060を収納することにより、給紙部のカバーにもなるように構成されている。
上ケースM7040と下ケースM7080は、弾性を持った勘合爪で取り付けられており、その間のコネクタ部分が設けられている部分を、不図示のコネクタカバーが覆っている。
2−2.給紙部(図8、図11)
給紙部は、記録媒体を積載する圧板M2010、記録媒体を1枚ずつ給紙する給紙ローラM2080、記録媒体を分離する分離ローラM2041、記録媒体を積載位置に戻すための戻しレバーM2020などがベースM2000に取り付けられている。
2−3.搬送部(図8〜図11)
曲げ起こした板金からなるシャーシM1010には、記録媒体を搬送する搬送ローラM3060とペーパエンドセンサ(以下PEセンサと称す)E0007が回動可能に取り付けられている。搬送ローラM3060は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされており、金属軸を不図示の軸受けが受ける状態で、シャーシM1010に取り付けられている。搬送ローラM3060にはローラテンションバネ(不図示)が設けられており、これが搬送ローラM3060を付勢することにより、回転時に適量の負荷を与えて安定した搬送が行えるようになっている。
搬送ローラM3060には、従動する複数のピンチローラM3070が当接して設けられている。ピンチローラM3070は、ピンチローラホルダM3000に保持されているが、不図示のピンチローラバネによって付勢されることで、搬送ローラM3060に圧接し、ここで記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダM3000の回転軸は、シャーシM1010の軸受けに取り付けられ、この位置を中心に回転する。
記録媒体が搬送されてくる搬送部の入口には、記録媒体をガイドするためのペーパガイドフラッパM3030およびプラテンM3040が設けられている。また、ピンチローラホルダM3000にはPEセンサレバーM3021が設けられており、PEセンサレバーM3021は記録媒体の先端および後端の検出をPEセンサE0007に伝える役割を果たす。プラテンM3040は、シャーシM1010に取り付けられ、位置決めされている。ペーパガイドフラッパM3030は、不図示の軸受け部を中心に回転可能で、シャーシM1010に当接することで位置決めされる。
搬送ローラM3060の記録媒体搬送方向における下流側には、図21で示される記録ヘッドH1001が設けられている。
上記構成における搬送の過程を説明する。搬送部に送られてきた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000およびペーパガイドフラッパM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。この時、PEセンサレバーM3021が、記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体に対する記録位置が求められる。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。プラテンM3040には、搬送基準面となるリブが形成されており、このリブにより、記録ヘッドH1001と記録媒体表面との間のギャップが管理されている。また同時に、当該リブが、後述する排紙部と合わせて、記録媒体の波打ちを抑制する役割も果たしている。
搬送ローラM3060が回転するための駆動力は、例えばDCモータからなるLFモータE0002の回転力が、不図示のタイミングベルトを介して、搬送ローラM3060の軸上に配設されたプーリM3061に伝達されることによって得られている。また、搬送ローラM3060の軸上には、搬送ローラM3060による搬送量を検出するためのコードホイールM3062が設けられている。シャーシM1010には、コードホイールM3062に形成されたマーキングを読み取るためのエンコードセンサM3090が設けられている。なお、コードホイールM3062に形成されたマーキングは、150〜300lpi(ライン/インチ)のピッチで形成されているものとする。
2−4.排紙部(図8〜図11)
排紙部は、第1の排紙ローラM3100および第2の排紙ローラM3110、複数の拍車M3120およびギア列などから構成されている。第1の排紙ローラM3100は、金属軸に複数のゴム部を設けて構成されている。第1の排紙ローラM3100の駆動は、搬送ローラM3060の駆動がアイドラギアを介して第1の排紙ローラM3100まで伝達されることによって行われる。第2の排紙ローラM3110は、樹脂の軸にエラストマの弾性体M3111を複数取り付けた構成になっている。第2の排紙ローラM3110の駆動は、第1の排紙ローラM3100の駆動が、アイドラギアを介して伝達することによって行われる。
拍車M3120は、周囲に凸形状を複数設けた例えばSUSからなる円形の薄板を樹脂部と一体としたもので、コイルバネを棒状に設けた拍車バネによって拍車ホルダM3130に複数取り付けられている。また、拍車バネは、拍車M3120を排紙ローラM3100およびM3110に対し所定圧で当接させている。このような構成によって、拍車M3120は2つの排紙ローラM3100およびM3110に従動して回転可能となっている。拍車M3120のいくつかは、第1の排紙ローラM3100のゴム部或いは第2の排紙ローラM3110の弾性体M3111の位置に設けられており、主に記録媒体の搬送力を生み出す役割を果たしている。また、その他のいくつかは、ゴム部あるいは弾性体M3111が無い位置に設けられ、主に記録時の記録媒体の浮き上がりを抑える役割を果たしている。
また、ギア列は、搬送ローラM3060の駆動を排紙ローラM3100およびM3110に伝達する役割を果たしている。
以上の構成によって、画像が記録された記録媒体は、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。排紙トレイM3160は、複数に分割され、後述する下ケースM7080の下部に収納できる構成になっている。排紙トレイM3160の使用時はこれを引出して使用する。また、排紙トレイM3160は、先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高い位置に保持されるよう設計されており、排出された記録媒体の積載性を向上し、記録面の擦れなどを防止している。
2−5.キャリッジ部(図9〜図11)
キャリッジ部は、記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており、キャリッジM4000は、ガイドシャフトM4020およびガイドレールM1011によって支持されている。ガイドシャフトM4020は、シャーシM1010に取り付けられており、記録媒体の搬送方向と直交する方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。ガイドレールM1011は、シャーシM1010に一体に形成されており、キャリッジM4000の後端を保持して記録ヘッドH1001と記録媒体との隙間を維持する役割を果たしている。また、ガイドレールM1011のキャリッジM4000との摺動側には、ステンレス等の薄板からなる摺動シートM4030が張設され、記録装置の摺動音の低減化を図っている。
キャリッジM4000は、シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。また、タイミングベルトM4041は、アイドルプーリM4042によって張られた状態で支持されている。さらに、タイミングベルトM4041は、キャリッジM4000とゴム等からなるキャリッジダンパを介して結合されており、キャリッジモータE0001等の振動を減衰することで、記録される画像のむら等を低減している。
また、キャリッジM4000の位置を検出するためのエンコーダスケールE0005(図18参照)が、タイミングベルトM4041と平行に設けられている。エンコーダスケールE0005上には、150lpi〜300lpiのピッチでマーキングが形成されている。そして、このマーキングを読み取るためのエンコーダセンサE0004(図18参照)が、キャリッジM4000に搭載されたキャリッジ基板E0013(図18参照)に設けられている。キャリッジ基板E0013には、記録ヘッドH1001と電気的な接続を行うためのヘッドコネクタE0101も設けられている。また、キャリッジM4000には、メイン基板E0014から記録ヘッドH1001へ駆動信号を伝えるためのフレキシブルケーブルE0012(図18参照)が接続されている。
記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に固定するため、記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に押し付けながら位置決めするための不図示の突き当て部と所定の位置に固定するための不図示の押圧手段とがキャリッジ上に設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバーM4010に搭載され、記録ヘッドH1001をセットする際に、ヘッドセットレバーM4010が回転支点を中心に回されることで記録ヘッドH1001の位置を固定する構成になっている。
さらに、キャリッジM4000には、CD−Rなどへ記録を行う際や記録媒体の端部を検出する際などにおける記録媒体の位置検出用として、反射型の光センサからなる位置検出センサが取り付けられている。位置検出センサは、発光素子が発光して照射された照射光の反射光を受光することで、キャリッジM4000の現在位置を検出することができる。
上記構成のキャリッジ部により、記録媒体に画像形成する際、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が、記録媒体を搬送して記録媒体の搬送方向の位置決めをする。また、キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と直交する方向に移動させて、記録ヘッドH1001を目的の画像形成位置に配置させる。位置決めされた記録ヘッドH1001は、メイン基板E0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。本実施形態の記録装置は、キャリッジM4000を移動させて記録ヘッドH1001による記録走査(主走査)と、搬送ローラM3060により記録媒体を走査方向と直交する方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより記録媒体上に画像を形成する。
2−6.フラットパス記録部(図12〜図14)
給紙部からの給紙は、図11に示したように記録媒体が通る経路がピンチローラに達するまで曲がっているため、記録媒体を曲げた状態で行われることになる。従って、例えば0.5mm以上の厚い記録媒体を給紙部から給紙しようとすると、曲げられた記録媒体の反力による給紙抵抗が増えて給紙が行えない場合がある。また、給紙が可能であっても、排紙後の記録媒体が曲がったままとなったり、折れたりすることもある。
厚い記録媒体などの曲げたくない記録媒体や、CD−Rなどの曲げることのできない記録媒体に対して記録を行うのがフラットパス記録である。ここで、フラットパス記録を行う記録装置には本体背面のスリット上の開口部から手差し給紙で記録媒体を本体のピンチローラにニップさせて記録を行う形態のものがある。しかし、本実施形態のフラットパス記録は、記録媒体を本体手前の開口部(排紙口)から記録位置まで給紙してスイッチバックしてから記録を行う形態のものである。
フロントトレイM7010は、通常記録した記録媒体を数十枚程度積載しておくためのトレイを兼ねるため、排紙部より下方にある(図8)。フラットパス記録時には、記録媒体を排紙口から水平に、通常の搬送方向とは反対方向に給紙するために、フロントトレイM7010を排紙口の位置まで上げる(図12)。フロントトレイM7010には不図示のフック等が設けられており、フラットパス給紙位置にフロントトレイを固定可能である。フロントトレイM7010がフラットパス記録位置にあることはセンサで検知可能であり、この検知に応じてフラットパス記録モードと判断することができる。
フラットパス記録モードでは、記録媒体をフロントトレイM7010に載せて排紙口から記録媒体を挿入する。このため、まずフラットパスキーE3004を操作することによって、想定している記録媒体の厚みより高い位置まで、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを不図示の機構により持ち上げる。またリアトレイボタンM7110を押すことによってリアトレイM7090を開き、さらにリアサブトレイM7091をV字に開くことも可能である(図13)。リアトレイM7090およびリアサブトレイM7091は、長い記録媒体を本体前面から挿入した場合は本体背面から突出するので、長い記録媒体を本体背面でも支えるためのトレイである。厚い記録媒体は記録中にフラットな姿勢を保たないとヘッドフェイス面と擦れたり、搬送負荷が変化したりすることから記録品位に影響を及ぼすおそれがあるので、これらのトレイを設けることは有効である。しかし本体背面からはみ出ない程度の長さの記録媒体であれば、リアトレイM7090等を開く必要はない。
以上によって、記録媒体を排紙口から本体内に挿入可能となる。記録媒体の後端部(ユーザに最も近く位置する手前側の端部)と右端部とをフロントトレイM7010のマーカ位置に揃えて、フロントトレイM7010に載せる。
ここで再度フラットパスキーE3004を操作すると、拍車ホルダM3130が降りて排紙ローラM3100およびM3110と拍車M3120とで記録媒体をニップする。その後、排紙ローラM3100およびM3110で記録媒体を所定量本体内に引き込む(通常記録時の搬送方向とは逆方向)。最初に記録媒体をセットした際に記録媒体の手前側の端部(後端部)を揃えているので、短い記録媒体の前端部(ユーザから見て最も奥側の端部)は搬送ローラM3060まで届いていないことがある。従って所定量とは、想定している一番短い記録媒体の後端が搬送ローラM3060に届くまでの距離とする。所定量送られた記録媒体は搬送ローラM3060に届いているので、その位置でピンチローラホルダM3000を降ろして、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とで記録媒体をニップさせる。そして記録媒体をさらに送り、その後端部が搬送ローラM3060とピンチローラM3070とでニップされるようにする。これで記録媒体のフラットパス記録のための給紙が終了したことになる(記録待機位置)。
排紙ローラM3100およびM3110と拍車M3120とのニップ力は、通常記録時の排紙時に形成画像に影響を与えないよう、比較的低く設定されている。従って、フラットパス記録時には記録を行うまでに記録媒体の位置がずれてしまうおそれがある。しかし本実施形態では、ニップ力が比較的高い搬送ローラM3060とピンチローラM3070とによって記録媒体をニップさせるので、記録媒体のセット位置が確保される。また、記録媒体を上記所定量だけ本体内に送るとき、プラテンM3040と拍車ホルダM3130の間にあるフラットパス紙検知センサM3170で記録媒体の後端位置(記録時の前端位置となる)を検知することができる。
記録媒体が上記記録待機位置に設定されると、記録コマンドを実行する。すなわち、記録ヘッドH1001による記録位置まで搬送ローラM3060で記録媒体を搬送し、後は通常の記録動作と同じように記録を行い、記録後フロントトレイM7010に排紙することになる。
フラットパス記録をさらに行いたい場合は、記録した記録媒体をフロントトレイM7010から取り出し、次の記録媒体をセットして、前述の処理を繰り返せばよい。一方、フラットパス記録を終了する場合は、フロントトレイM7010を通常記録位置に戻すことによって通常記録モードに戻すことができる。
2−7.クリーニング部(図15、図16)
クリーニング部は記録ヘッドH1001のクリーニングを行うための機構である。ポンプM5000、記録ヘッドH1001内のインクの乾燥を抑えるためのキャップM5010、記録ヘッドH1001のノズル形成面をクリーニングするためのブレードM5020などから構成されている。
クリーニング部には、専用のクリーニングモータE0003が配されている。クリーニングモータE0003には、不図示のワンウェイクラッチが設けられており、一方向の回転でポンプM5000を作動させ、もう一方向の回転ではブレードM5020の移動およびキャップM5010の昇降を行わせるようになっている。
キャップM5010はモータE0003から不図示の昇降機構を介して昇降可能に駆動される。上昇した位置では、記録ヘッドH1001のノズル形成面に設けられた数個の吐出部ごとにキャッピングを施し、非記録動作時等において記録ヘッドH1001の保護、または吸引回復などを行うことが可能である。また、記録動作時には記録ヘッドH1001との干渉を避けるため下降した位置に移動され、またノズル形成面と対向させることによって予備吐出を受けることが可能である。例えば記録ヘッドH1001に10個の吐出部が設けられ、5個の吐出部ごとに一括してキャッピングを施すことが可能となるよう、図15の例ではキャップM5010は2つ設けられている。
ゴム等の弾性部材でなるワイパ部M5020はワイパホルダH5021に固定されている。ワイパホルダH5021は、吐出部におけるノズルの配列方向である図16のY方向(+Y方向)および逆方向(−Y方向)に移動可能である。そして、記録ヘッドH1001がホームポジションに到達したときに、−Y方向にワイパホルダ25が移動することによって、ワイピングが可能である。ワイピング動作が終了すると、キャリッジをワイピング領域の外に退避させてから、ワイパがノズル形成面などと干渉しない位置に戻す。なお、本例のワイパ部M5020には、全吐出部のノズル形成面を含む記録ヘッドH1001のノズル形成面全体をワイピングするワイパブレードM5020Aが設けられている。さらに、5つの吐出部のノズル形成面ごとにノズル近傍をワイピングする2つのワイパブレードM5020BおよびM5020Cが設けられている。
そして、ワイピング後には、ワイパ部M5020がブレードクリーナM5060に当接することにより、ワイパブレードM5020A〜M5020Cに付着したインクなどを除去することができる構成になっている。また、ワイピングに先立ってワイパブレードM5020A〜M5020Cにウエット液を転写させておくことによりワイピングによるクリーニング性を向上する構成(ウエット液転写部)が設けられている。このウエット液転写部の構成およびワイピング動作については後述する。
吸引ポンプM5000は、キャップM5010をノズル形成面に接合させてその内部に密閉空間を形成し、その状態でキャップ内に負圧を発生させることが可能である。これにより、インクタンクH1900から吐出部にインクを充填させること、ノズルもしくはその内側のインク供給路などに存在する塵埃、固着物、気泡等を吸引して除去することができる。
吸引ポンプM5000としては、例えばチューブポンプが用いられる。これは、例えば、可撓性チューブの少なくとも一部に沿って曲面が形成された曲面形成部材と、この部材に可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持する回転可能なローラ支持部とを有する。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら回転する。これに伴い、キャップM5010が形成する密閉空間に負圧が生じてインクが吐出口より吸引され、キャップM5010からチューブないし吸引ポンプに引き込まれる。その一方で、引き込まれているインクはさらに下ケースM7080に設けられた廃インク吸収体に向けて移送される。
なお、キャップM5010の内側部分には、吸引後の記録ヘッドH1001のノズル形成面に残るインクを少なくするために、吸収体M5011が設けられている。また、キャップM5010を開放した状態で、キャップM5010ないし吸収体M5011に残っているインクを吸引する。こうすることにより、ノズル形成面に残るインクが固着することによる弊害が起こらないように配慮されている。ここで、インク吸引経路の途中に大気開放弁(不図示)を設け、キャップM5010をノズル形成面から離脱させる際に予めこれを開放しておくことで、ノズル形成面に急激な負圧が発生しないようにしておくことが好ましい。
また、吸引ポンプM5000は、吸引回復だけでなく、キャップM5010がノズル形成面に対向した状態で行われる予備吐出動作によってキャップM5010に受容されたインクを排出するためにも作動させることができる。すなわち、予備吐出されてキャップM5010に保持されたインクが所定量に達したときに吸引ポンプM5000を作動させることで、キャップM5010内に保持されていたインクを、チューブを介して廃インク吸収体に送ることができる。
以上のワイパ部M5020の動作、キャップM5010の昇降および弁の開閉などの連続して行われる一連の動作は、モータE0003の出力軸上に設けた不図示のメインカム、これに従動する複数のカムおよびアーム等によって制御可能である。すなわち、モータE0003の回転方向に応じたメインカムの回動によってそれぞれの部位のカム部やアーム等が作動することで、所定の動作を行うことが可能である。メインカムの位置はフォトインタラプタ等の位置検出センサで検出することができる。
2−8.ウエット液転写部(図17、図16)
最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料を含有するインク(以下、顔料インクという)が使用されることが多くなってきている。顔料インクは、分散剤を吸着させることや顔料表面に官能基を導入することなどにより、一定範囲の粒子径の顔料を溶媒中に分散させている。従って、ノズル形成面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、染料が分子レベルで溶解している染料インクの乾燥物と比べ、ノズル形成面に与えるダメージが大きい。また、顔料を溶媒中に分散させるための分散剤などの高分子化合物がノズル形成面に吸着されやすいという性質がある。なお、このことは、インクの粘度調整や耐光性向上などの目的で高分子化合物をインクに含有させる場合、顔料インク以外でも生じる課題である。
この課題に対し、本実施形態では、ブレードM5020に液体を付着させ、これによって濡れたブレードM5020でワイピングを行うことで、顔料インクによるノズル形成面の劣化、ワイパの磨耗を軽減させている。つまり、ノズル形成面に蓄積したインクの乾燥物を溶解させることによってこの乾燥物を除去するようにしている。この液体をその機能から本明細書ではウエット液と称し、これを用いて行うワイピングをウエットワイピングと称する。
本実施形態では、ウエット液を記録装置に収容する構成がとられている。M5090はウエット液タンクであり、ウエット液としてグリセリン溶液等を収容している。M5100はウエット液保持部材であり、ウエット液がウエット液タンクM5090から漏れないように適度な表面張力を有する繊維質部材等から構成されており、ウエット液を含浸保持している。M5080はウエット液転写部材であり、例えば、多孔質であって適度な毛管力を備えた材質から構成されており、ワイパブレードと接触するウエット液転写部M5081を有している。ウエット液転写部材M5080はウエット液が染み込んだウエット液タンクM5090とも接しており、従ってウエット液転写部材M5080もウエット液が染み込むことになる。ウエット液転写部材M5080は、ウエット液が残り少なくなってもウエット液転写部M5081へウエット液を供給できるだけの毛管力を有した材質である。
ウエット液転写部およびワイパ部の動作を説明する。
まず、キャップM5010を下降位置に設定し、キャリッジM4000がブレードM5020A〜M5020Cに触れない位置に退避させる。この状態で、ワイパ部M5020をY方向に移動させ、ブレードクリーナM5060の部位を通過させて、ウエット液転写部M5081に接触させる(図17)。適切な時間だけ接触状態を維持することで、ブレードM5020にウエット液が適量転写される。次に、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させる。この移動中にブレードはブレードクリーナM5060に触れるが、触れる面はウエット液が付着していない面であるので、ウエット液はブレードに保持されたままになる。ブレードをワイピング開始位置まで戻した後、キャリッジM4000をワイピング位置まで移動させる。再度、ワイパ部M5020をY方向に移動させることによって、ウエット液が付いた面で記録ヘッドH1001のノズル形成面をワイピングすることが可能となる。
3.電気回路構成
次に、本実施形態における電気的回路の構成を説明する。
図18は、記録装置J0013における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。本実施形態で適用する記録装置では、主にキャリッジ基板E0013、メイン基板E0014、電源ユニットE0015およびフロントパネルE0106等によって構成されている。
電源ユニットE0015は、メイン基板E0014と接続され、各種駆動電源を供給している。
キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4000に搭載されたプリント基板ユニットであり、ヘッドコネクタE0101を通じて記録ヘッドH1001との信号の授受、ヘッド駆動電源の供給を行うインタフェースとして機能する。ヘッド駆動電源の制御に供する部分として、記録ヘッドH1001の各色吐出部に対する複数チャネルのヘッド駆動電圧変調回路E3001を有する。ヘッド駆動電圧変調回路E3001は、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014から指定された条件に従ってヘッド駆動電源電圧を発生する。また、キャリッジM4000の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づいて、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化が検出される。そのエンコーダセンサE0004からの出力信号はCRFFC E0012を通じてメイン基板E0014へと出力される。
キャリッジ基板E0013には、図20に示すように、光学センサおよび周囲温度を検出するためのサーミスタが接続されている(以下、これらのセンサをマルチセンサE3000とする)。マルチセンサE3000により得られる情報は、CRFFC E0012を通じてメイン基板E0014へと出力される。
メイン基板E0014は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットであり、その基板上にホストインタフェース(ホストI/F)E0017を有している。そして、不図示のホストコンピュータから受信したデータをもとに記録動作の制御を行う。また、メイン基板E0014は、キャリッジM4000を主走査させるための駆動源となるキャリッジモータE0001、記録媒体を搬送するための駆動源となるLFモータE0002の駆動を制御している。さらに、記録ヘッドH1001の回復動作および記録媒体の給紙動作の駆動源となるAPモータE3005、フラットパス記録動作の駆動源となるPRモータE3006など、各種モータと接続されて各機能の駆動を制御している。
また、メイン基板E0014は、PEセンサ、CRリフトセンサ、LFエンコーダセンサ、PGセンサなどのプリンタ各部の動作状態を検出する様々なセンサに対して、制御信号および検出信号の送受信を行うためのセンサ信号E0104の線に接続される。また、メイン基板E0014は、CRFFC E0012および電源ユニットE0015にそれぞれ接続されるとともに、さらにパネル信号E0107を介してフロントパネルE0106と情報の授受を行うためのインタフェースを有している。
フロントパネルE0106は、ユーザ操作の利便性のために、記録装置本体の正面に設けられたユニットであり、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018およびフラットパスキーE3004を有している。さらに、デジタルカメラ等の周辺デバイスとの接続に用いるデバイスI/F E0100を有している。
図19は、メイン基板E0014の内部構成を示すブロック図である。
図19において、E1102はASIC(Application Specific Integrated Circuit)である。ASIC E1102は、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続され、ROM E1004に格納されたプログラムに従って各種制御を行っている。例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104やマルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003の送受信を行っている。また、エンコーダ信号E1020、フロントパネルE0106上の電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004からの出力の状態を検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/F E0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、インクジェット記録装置の駆動制御を司っている。
E1103はドライバ・リセット回路であり、ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従って、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、APモータ駆動信号E4001およびPRモータ駆動信号E4002を生成する。そして、各信号に基づいて各モータを駆動する。また、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有しており、メイン基板E0014、キャリッジ基板E0013、フロントパネルE0106など各部に必要な電源を供給する。さらに、電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015を発生および初期化を行う。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。
ホストI/F E0017は、ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に伝達し、またこのホストI/FケーブルE1029からの信号をASIC E1102に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは電力が供給される。供給された電力は、メイン基板E0014内外の各部へ、必要に応じて電圧変換された上で供給される。また、ASIC E1102からの電源ユニット制御信号E4000が電源ユニットE0015に入力され、記録装置本体の低消費電力モード等を制御する。
ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。また、センサ信号E0104を通じてPEセンサやASFセンサ等各部センサ類を制御するとともに状態を検知する。さらに、マルチセンサ信号E4003を通じてマルチセンサE3000を制御するとともに状態を検知する。また、パネル信号E0107の状態を検知して、パネル信号E0107の駆動を制御してフロントパネル上のLED E0020の点滅を行う。
さらにASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021により記録ヘッドH1001とのインタフェースを介して記録動作を制御する。ここで、ENC E1020は、CRFFC E0012を通じて入力されるエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、CRFFC E0012を通じてキャリッジ基板E0013に接続され、前述のヘッド駆動電圧変調回路E3001およびヘッドコネクタE0101を経て記録ヘッドH1001に供給される。また、それととともに、記録ヘッドH1001からの各種情報をASIC E1102に伝達する。このうち吐出部毎のヘッド温度情報については、メイン基板上のヘッド温度検出回路E3002で信号増幅された後、ASIC E1102に入力され、各種制御判断に用いられる。
図19中、E3007はDRAMであり、記録用のデータバッファやホストコンピュータからの受信データバッファ等として、また各種制御動作に必要なワーク領域としても使用されている。
4.記録ヘッド構成
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジの構成について説明する。
本実施形態におけるヘッドカートリッジは、記録ヘッドH1001とインクタンクH1900とを搭載する手段およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
図21は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジに対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、C、Lc、M、Lm、Y、K1、K2、R、GおよびGrayの10色の顔料インクによって画像を形成し、従ってインクタンクH1900も10色分が独立に用意されている。そして、図に示すように、インクタンクそれぞれがヘッドカートリッジに対して着脱自在となっている。なお、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジが搭載された状態で行えるようになっている。
5.インク構成
以下に、本発明で使用する10色のインクについて説明する。
本発明に用いられる10色とは、C、Lc、M、Lm、Y、K1、K2、R、GおよびGrayである。各色に用いられる色材は全てが顔料であることが好ましい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる色材が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる色材が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種ふくんでもよい。また本発明に用いられる10色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤、添加剤、界面活性剤、バインダー、防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
次に本発明で使用する10色のインクを構成する好ましい材料について、下記に具体的に説明する。
(顔料について)
カラー顔料としては、有機顔料が挙げられる。具体的には、例えば、酸性染料系レーキ、塩基性染料系レーキのような染付けレーキ系顔料や、モノアゾイエロー、ジスアゾイエローが挙げられる。また、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系、ベンズイミダゾロン系のような不溶性アゾ顔料や、縮合アゾ顔料、アゾレーキ顔料が挙げられる。また、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、インジゴ系、ジオキサジン系、キノフタロン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系のような縮合多環系顔料などが挙げられる。しかし、勿論、これらに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
ブラック顔料に使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックをいずれも使用することができる。また、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックをいずれも使用することができる。また、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
ここで、顔料の分散を行うためには、公知の一般の分散剤を用いてもよいし、また公知の一般の方法で顔料表面を改質して自己分散性を付与してもよい。
また、インクには水溶性有機溶剤、添加剤、界面活性剤、防腐剤を添加することができ、それらの材料としては、公知の一般の材料をそれぞれ用いることができる。
(第1の実施形態)
図22は、非動作時に記録ヘッドのノズル形成面をキャッピングするキャップクローズ時の動作を示すフローチャートである。
本実施形態の記録装置は、非動作時においてキャップクローズシーケンスを実行する。まず記録ヘッドのノズル形成面のワイピングを実行する(ステップS110)。このワイピングで記録ヘッドのノズル形成面に付着したインク液滴やごみ、蓄積物等の除去を行う。一方、このワイピングによってノズル形成面のインク液滴等が各ノズル内に押し込まれ、ノズル内でインクが混色してしまう。このため、ステップS120の予備吐出動作Aで、キャップ内に予備吐出を行ってノズル内の混色インクを排出する。
次に、この予備吐出動作Aによりキャップ内に溜まったインクを、ステップS130のキャップ内吸引により、廃インク吸収体に送る。キャップ内に溜まったインクは水のモル分率が低下している可能性が高い。このため、これらのインクはキャッピング時にノズル内のインクから水分を奪うように作用してしまう可能性がある。ステップS130の動作は、キャップ内に溜まった水のモル分率の低いインクをキャップ内から排出する役割も兼ねている。
次に、ステップS140で、各インクの水のモル分率に基づいて(ここでは図23の優先順位を参照して)キャップ内に予備吐出動作B(以下、キャップ内予備吐出と記載する)を行う。そして、ステップS180で、キャッピングされる。なお、本実施例ではキャップ1個に対して5色のインクに対応する吐出部がキャッピングされる。図23の優先順位は水のモル分率の高い順によって決められ、例えばキャップ内予備吐出を行う最も優先順位の高いインク種はインクAである。このときに吐出するインク量Lは、ある一定期間、キャップ内の湿度がノズルの吐出不良発生の可能性が高まる湿度許容下限値を下回らないような適切な量として設定することができる。この一定期間と後述の自動回復シーケンスにおける所定経過時間を一致させれば、キャップ内湿度が湿度許容下限値を下回らない経過時間において吸引による回復動作は行われず、下回る可能性の高い経過時間において吸引回復動作が行われることとなる。こうすることにより、実際の記録動作における吐出不良の発生を、廃インク量を抑制しつつ防止することができる。
上記の図22のフローチャートに従って行われるキャップクローズ動作を実行した後の次の記録動作時には、図24に示す自動回復シーケンスを行う。
記録動作の前には、まずステップS210で、不揮発性メモリに記憶されている前回の回復動作実行時刻と現在の時刻から経過時間を算出する。所定値を越えていれば図25に従って所定の吸引回復フラグをonとする(ステップS220)。その後、ステップS230で、吸引回復フラグに従って吸引による回復動作を行う。図25に示すように、キャップクローズ時に実行したキャップ内予備吐出動作と前記経過時間に応じて強度(インクの吸引量または吸引圧)の異なる回復動作が用意され、所定の回復フラグが立てられる(強度は吸引回復B>吸引回復A>予備吐出Cの順)。
キャップクローズ時における(1)キャップ内予備吐出を行わなかった場合、(2)インクA〜E全てを用いキャップ内予備吐出を行った場合(インク総量はL)、(3)インクAを用いキャップ内予備吐出を行った場合で吐出回復に必要な回復動作は異なる。次回の記録動作時の回復動作は、図25に示すように、例えば(2)の場合では経過時間が2.5日を越えてしまうと吸引動作を行わないとノズルの吐出性能は回復しない。しかし、(3)の場合では経過時間が5日までは吸引動作を行わずに予備吐出のみで吐出回復させることができる。つまり、(3)の場合であるインクAを用いて予備吐出を行うことが最もインク乾燥を低減し、必要となる吸引回復頻度や強度を抑えることができる。その結果、廃インク量を削減することができる。
本実施形態では、キャップ内に吐出するインクAはYインクとし、その量Lは0.05gである。キャップ内に吐出された0.05gのインクは、インクの蒸発しやすい高温低湿環境であれば、放置後120時間程度で約0.02g蒸発する。一方、インクA〜E(Y、M、G、R、C)を用いて総量Lのインクをキャップ内に予備吐出した場合でも、0.02g蒸発するのは放置後120時間程度とほぼ変わらないが、蒸発量から算出できるキャップ内インクの水のモル分率には差が出てくる。
図26は、予備吐出したキャップ内インクの水のモル分率と放置時間との関係を示している。図26から、インクAを用いて予備吐出した場合とインクA〜Eを用いて予備吐出した場合とで、水のモル分率の差が放置後120時間で3%程度生じることがわかる。縦軸の水のモル分率はほぼキャップ内相対湿度と一致すると考えると、図25に示した所定経過時間と対応させて、湿度の許容下限値は約93.2%と推測される。この値を下回るとノズルの吐出回復には吸引動作が必要となる可能性が高くなる。
図27は、前記インクA(Y)とインクA〜E(Y、M、G、R、C)の水のモル分率、水分重量%を示している。両者で水のモル分率では1.5%程度しか差はないが、水分重量としてはその差が14.5%あり、3%の水のモル分率の違いは、水分重量としては大きな差になることがわかる。
ステップS230を実行した後、キャップ内を吸引し、ワイピングおよび予備吐出Aを実行し、吸引フラグをoffにして記録動作に至る(S240〜270)。また、吸引回復を実行したので、回復動作実行時刻を更新する。一方、ステップS210で、経過時間が所定値未満であれば、インク乾燥による吐出不良の可能性が低いと判断できる。このため、予備吐出動作Cのみを実行して記録動作へと移行する(ステップS280)。ここで、前記経過時間は最終のキャップクローズ時刻と現在の時刻からの差分として算出することができる。
キャップ内予備吐出を行うインク種は、図23の優先順位に加えてインク消費量を参照しながら設定すれば、インク残量が少ない場合にも好適に対応することができる。インク残量が少ないと判定する閾値をインク残量15%とした場合の実施例を図28に示す。インクAの残量が15%未満の場合には、図23の優先順位に従ってインクBの残量を参照し、インク残量が15%以上であればインクBを用いてキャップ内予備吐出を実行する。あるいはインクAおよびBともに15%未満の場合にはインクEの残量を参照し、15%以上であればインクEを用いてキャップ内予備吐出を実行する。インクA、B、Eともに残量が15%未満であれば、キャップ内予備吐出は行わない。実施の形態によって、キャップ内予備吐出を行う条件はこの例に限らず、インク種は単一でも複数種の組み合わせでもよく、またインク量Lや自動回復における所定経過時間値もそれぞれ適宜調整してもよい。
(第2の実施形態)
キャップ内予備吐出は記録装置の長期不使用時におけるノズル内インク乾燥対策であるので、長期不使用時以外の場合には予備吐出を行わないほうが廃インク量の削減にとって望ましい。しかし、図22のシーケンスはキャップクローズ時には毎回キャップ内予備吐出を行ってしまう。ユーザが長期間記録装置を使用しないかどうかは事前に予見することは難しいが、長期間不使用の可能性が高い場合にのみキャップ内予備吐出を実行するような制御を行えば、さらなる廃インク量の削減を行うことができる。
本実施形態の記録装置は、キャッピングした時点からの経過時間と電源供給で管理されるキャップ内予備吐出フラグを持つ。本実施形態の記録装置のキャップクローズのシーケンスは図29のようになり、キャップ内吸引の後にキャップ内予備吐出(予備吐出動作B)を行わない点のみが図22のシーケンスと異なっている。
図30にキャップクローズ後のシーケンスのフローチャートを示す。まず、ステップS310で、キャップ内予備吐出フラグをonにセットする。その後、予め定められた所定の時間が経過したら、キャップ内予備吐出を実行し、フラグをoffとする(ステップS330〜S350)。
これはユーザが電源onのまま長期放置した場合のシーケンスである。また、キャップクローズ後の所定経過時間は適宜設定してよい。
非動作時にユーザが電源offを実行した場合には、長期間不使用かどうかの判断ができないため、図31のシーケンスに従ってキャップ内予備吐出を行うこととする。
まず、キャッピング状態であるかどうかを判定し(ステップS105)、キャッピング状態であればキャップ内予備吐出フラグを参照してキャップ内予備吐出が実行済かどうかを判定する(ステップS150)。キャップ内予備吐出が未実行であれば実行し(ステップS160)、実行済であればそのままキャッピングして電源offとする(ステップS180、190)。一方、ステップS105でキャッピング状態でない場合は、図22と同様のシーケンスによりキャップ内予備吐出を実行して電源offとする(ステップS110〜190)。
強制的に電源が切られた場合には、図29〜31のシーケンスを正常に実行することはできない。そこで、図32に、キャップクローズ動作、キャップ内予備吐出動作を正常に実行できなかった場合の動作のフローチャートを示す。
ステップS410で、電源on時に不揮発性メモリのキャップ内予備吐出フラグがonかどうかを確認する。キャップ内予備吐出フラグがonであれば、キャップ内予備吐出が未実行であると判断できるので、インク中の水分の蒸発が進んでいるとして吸引回復動作を行う(ステップS450)。キャップ内予備吐出フラグがoffであった場合、ステップS420で、キャッピングされていたかどうかを判断する。ここで、キャッピングされていた場合、ステップS440で、キャップ内予備吐を実行済と判断してそのまま処理を終了するする。一方、キャッピングされていなかった場合、ステップS430で、吸引回復動作を行ってノズルの吐出性能を回復させる。
なお、キャップ内予備吐出は、その実施形態によって、第1の実施形態と同様に吐出するインクの種類、量、消費量による使い分け等を調整してよく、フラグ参照後の予備吐出動作、回復動作もこれに限定されない。
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態は、1個のキャップで5色のインクに対応する吐出部をキャッピングする形態の例であり、キャップ内予備吐出もキャッピングする吐出部に対応するインクの中から選択して行っている。水のモル分率の高いインクをキャップ内に吐出することは、これらの形態に限定されることなく有効である。例えば、キャップA、B、・・・とキャップを複数備える形態において、キャップクローズ前に水のモル分率の高い、ある1つのインクをそれぞれのキャップ内に予備吐出する。このような方法であれば、あるキャップがキャッピングを行う吐出部に対応するインクの中に水のモル分率の高いインクがない場合でも、水のモル分率の高いインクを用いて吐出部を湿潤させることができる。例えば、各色のインクに対応したノズルがそれぞれ独立に別のキャップによりキャッピングされる構成の記録装置においても実施可能である。
(第4の実施形態)
第1の実施形態の説明において、キャップ内吐出によるキャップ内の湿度許容下限値と自動回復シーケンスとの対応について説明した。温湿度センサ等の検知手段によりキャップ内の温度および湿度を検知して温度および湿度の値または履歴の管理を行えば、さらに最適に廃インク量を抑制する制御を行うことができる。例えば、図22のキャップクローズシーケンスにおいて、キャップ内予備吐出を行うインク種、吐出インク量は、検知した温度および湿度の値によって調整することができる。あるいは温湿度値の履歴情報を蓄積しておき、キャップ内予備吐出を行うインク種、吐出インク量を制御してもよい。また、温湿度値を常時あるいは定期的にモニタしながら、不使用時でもキャップ内の湿度がある一定値以上を保つように、適切なタイミングでキャップ内予備吐出をインク種、吐出インク量を制御して行うことも有効である。モニタする温湿度値は、プリンタ筐体内外でもキャップ内でもよい。同様に、図24の自動回復シーケンスにおいて、温度および湿度の履歴情報から、吸引回復動作の強度や予備吐出発数を適正に調整して設定することができ、廃インク量の削減とともに吐出性能の信頼性も高めることができる。