以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
1.基本構成
1.1 記録システムの概要
図1は、本発明の一実施形態で適用する記録システムにおける画像データ処理の流れを説明するための図である。この記録システムJ0011は、ホスト装置J0012と、記録装置J0013とで構成される。ホスト装置J0012は、記録すべき画像を示す画像データの生成やそのデータ生成のためのUI(ユーザインタフェース)の設定等を行う画像処理装置である。そして、記録装置J0013は、そのホスト装置J0012で生成された画像データに基づいて記録媒体に記録を行う。記録装置J0013は、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)、グリーン(G)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)の10色インクにより記録を行う。また、記録ヘッドH1001は、これら10色のインクを吐出することが可能なように形成されている。これら10色のインクは、色材として顔料を含む顔料インクである。
ホスト装置J0012のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションJ0001は記録装置で記録するための画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。本実施形態のホスト装置は、まずデジタルカメラで撮像した例えばJPEG形式の画像データをCFカードによって取り込むことができる。また、スキャナで読み取った例えばTIFF形式の画像データやCD−ROMに格納される画像データをも取り込むことができる。さらには、インターネットを介してウェブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホスト装置のモニタに表示されてアプリケーションJ0001を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面において、ユーザは、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行うと共に記録指示を出す。この記録指示に応じて画像データR、G、Bがプリンタドライバに渡される。
プリンタドライバはその処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正J0004、ハーフトーニングJ0005および記録データ作成J0006を有している。以下、プリンタドライバで行われる各処理J0002〜J0006について簡単に説明する。
(A)前段処理
前段処理J0002は色域(Gamut)のマッピングを行う。本実施形態では、画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置J0013によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を行う。具体的には、R、G、Bのそれぞれが8ビットで表現された256階調の画像データR、G、Bを、3次元LUTを用いることにより、記録装置J0013の色域内の8ビットデータR、G、Bに変換する。
(B)後段処理
後段処理J0003は、上記色域のマッピングがなされた8ビットデータR、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせに対応した8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayを生成する。このように、色信号RGBで規定される色を再現するための各インクの量を定める処理を「色分解処理(色変換処理)」ともいう。なお、この処理は、前段処理と同様、3次元LUTに補間演算を併用して行う。
本発明における特徴的な部分の色分解処理は、本実施形態では、この後段処理の工程で行われる。本実施形態では、光沢紙等の比較的高い光沢度を有する記録媒体に対しては、後述するように光沢むらが軽減されるようなテーブルを用いてホスト装置が色分解処理を行っている。また、普通紙等の比較的低い光沢度の記録媒体に対しては、光沢むらについてあまり重視されないテーブルを用いてホスト装置が色分解処理を行っている。このように、本実施形態においては、二種類のテーブルが記録媒体に応じて使い分けられて色分解処理が行われている。なお、色分解処理は他の工程で行われても良い。色分解処理の詳細な説明については、後で説明する。
(C)γ処理
γ補正J0004は、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータごとにその濃度値(階調値)変換を行う。具体的には、記録装置J0013の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データがプリンタの階調特性に線形的に対応づけられるような変換を行う。
(D)ハーフトーニング
ハーフトーニングJ0005は、γ補正がなされた8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K1、K2、R、G、Grayそれぞれについて4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態では、誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、記録装置におけるドット配置のパターン化処理における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
(E)記録データの作成処理
プリンタドライバで行う処理の最後には、記録データ作成処理J0006によって、上記4ビットのインデックスデータを内容とする記録画像データに記録制御情報を加えた記録データを作成する。
図2はかかる記録データの構成例を示した図である。記録データは、記録の制御を司る記録制御情報および記録すべき画像を示す記録画像データ(上述の4ビットのインデックスデータ)で構成されている。記録制御情報は、「記録媒体情報」、「記録品位情報」、および給紙方法等のような「その他制御情報」から構成されている。記録媒体情報には、記録の対象となる記録媒体の種類が記述されており、普通紙、光沢紙、はがき、プリンタブルディスクなどのうち、いずれか1種類の記録媒体が規定されている。記録品位情報には、記録の品位が記述されており、「きれい」、「標準」、「はやい」等のうち、いずれか1種の品位が規定されている。なお、これらの記録制御情報は、ホスト装置J0012のモニタおけるUI画面にてユーザが指定した内容に基づいて形成されるものである。また、記録画像データは、前述のハーフトーン処理J0005によって生成された画像データが記述さているものとする。以上のようにして生成された記録データは、記録装置J0013へ供給される。
記録装置J0013は、ホスト装置J0012から供給された当該記録データに対して、次に述べるドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008を行う。
(F)ドット配置パターン化処理
上述したハーフトーン処理J0005では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)まで階調レベル数を下げている。しかし、実際に記録装置J0013が記録できるデータは、インクドットを記録するか否かの2値データ(1ビットデータ)である。そこで、ドット配置パターン化処理J0007では、ハーフトーン処理J0005からの出力値である階調レベル0〜8の4ビットデータで表現される各画素ごとに、その画素の階調値(レベル0〜8)に対応したドット配置パターンを割当てる。これにより1画素内の複数のエリア各々にインクドットの記録の有無(ドットのオン・オフ)を定義し、1画素内の各エリアごとに「1」または「0」の1ビットの2値データを配置する。ここで、「1」はドットの記録を示す2値データであり、「0」は非記録を示す2値データである。
図3は、本実施形態のドット配置パターン化処理で変換する、入力レベル0〜8に対する出力パターンを示している。図の左に示した各レベル値は、ホスト装置側のハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0〜レベル8に相当している。右側に配列した縦2エリア×横4エリアで構成される領域は、ハーフトーン処理で出力される1画素の領域に対応するものである。また、1画素内の各エリアは、ドットのオン・オフが定義される最小単位に相当するものである。なお、本明細書において「画素」とは、階調表現可能な最小単位のことであり、複数ビットの多値データの画像処理(上記前段、後段、γ補正、ハーフトーニング等の処理)の対象となる最小単位である。
図において、丸印を記入したエリアがドットの記録を行うエリアを示しており、レベル数が上がるに従って、記録するドット数も1つずつ増加している。本実施形態においては、最終的にこのような形でオリジナル画像の濃度情報が反映されていることになる。
(4n)〜(4n+3)は、nに1以上の整数を代入することにより、記録すべき画像データの左端からの横方向の画素位置を示している。そして、その下に示した各パターンは、同一の入力レベルにおいても画素位置に応じて互いに異なる複数のパターンが用意されていることを示している。すなわち、同一のレベルが入力された場合にも、記録媒体上では(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが巡回されて割当てられる構成となっているのである。
図3においては、縦方向を記録ヘッドの吐出口が配列する方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。このように同一レベルに対して複数の異なるドット配置で記録できる構成にしておくことは、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと下段に位置するノズルとで吐出回数を分散させたり、記録装置特有の様々なノイズを分散させるという効果がある。
以上説明したドット配置パターン化処理を終了した段階で、記録媒体に対するドットの配置パターンが全て決定される。
(G)マスクデータ変換処理
上述したドット配置パターン化処理J0007により、記録媒体上の各エリアに対するドットの有無は決定されたので、このドット配置を示す2値データを記録ヘッドH1001の駆動回路J0009に入力すれば、所望の画像を記録することが可能である。この場合、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を1回の走査によって完成させる、いわゆる1パス記録が実行される。しかし、ここでは、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を複数回の走査によって完成させる、いわゆるマルチパス記録の例をとって説明する。
図4は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示したものである。本実施形態に適用される記録ヘッドH10001は実際には768個のノズルを有するが、ここでは簡単のため16個のノズルを有するものとして説明する。ノズルは、図のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には4つずつのノズルが含まれている。マスクパターンP0002は、第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)で構成される。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は、それぞれ、第1〜第4のノズル群が記録可能なエリアを定義している。マスクパターンにおける黒塗りエリアは記録許容エリアを示し、白塗りエリアは非記録エリアを示している。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は互いに補完の関係にあり、これら4つのマスクパターンを重ね合わせると4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものである。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分(この図では4ノズル分)ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は4回の記録走査によって初めて画像が完成される構成となっている。以上のように、記録媒体の各同一領域が複数回の走査で複数のノズル群によって形成されることは、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等を低減させる効果がある。
図5は、本実施形態で実際に適用可能なマスクパターンの一例を示したものである。本実施形態で適用する記録ヘッドH1001は768個のノズルを有しており、4つのノズル群にはそれぞれ192個ずつのノズルが属している。マスクパターン大きさは、縦方向がノズル数と同等の768エリア、横方向は256エリアとなっており、4つのノズル群それぞれに対応する4つのマスクパターンで互いに補完の関係を保つような構成となっている。
ところで、本実施形態で適用するような、多数の小液滴を高周波数で吐出するようなインクジェット記録ヘッドにおいては、記録動作時に記録部近傍に気流が生じ、この気流が特に記録ヘッドの端部に位置するノズルの吐出方向に影響を与えることが確認されている。よって、本実施形態のマスクパターンにおいては、図5からも判るように、各ノズル群また同一のノズル群の中でも、領域によって記録許容率の分布に偏りを持たせている。図5で示すように、端部のノズルの記録許容率を中央部の記録許容率よりも小さくした構成のマスクパターンを適用することにより、端部のノズルにより吐出されるインク滴の着弾位置ずれによる弊害を目立たなくすることが可能となるのである。
なお、マスクパターンで定められる記録許容率とは、マスクパターンを構成する記録許容エリアと非記録許容エリアの合計数に対する記録許容エリアの数の割合を百分率で表したものである。なお、記録許容エリアとは、図4のマスクパターンP0002の黒塗りエリアを言うものとし、非記録許容エリアとは、図4のマスクパターンP0002の白塗りエリアを言うものとする。すなわち、マスクパターンの記録許容エリアをM個、非記録許容エリアをN個とすると、そのマスクパターンの記録許容率(%)は、M÷(M+N)×100となる。
本実施形態においては、図5で示したマスクデータが記録装置本体内のメモリに格納してある。そして、マスクデータ変換処理J0008においては、当該マスクデータと上述したドット配置パターン化処理で得られた2値データとの間でAND処理をかけることにより、各記録走査での記録対象となる2値データが決定される。そして、その2値データを駆動回路J0009へ送る。これにより、記録ヘッドH1001が駆動されて2値データに従ってインクが吐出される。
なお、図1では、前段処理J0002、後段処理J0003、γ処理J0004、ハーフトーニングJ0005および記録データ作成処理J0006が、ホスト装置J0012で実行される。そして、ドット配置パターン化処理J0007およびマスクデータ変換処理J0008が、記録装置J0013で実行される形態について説明した。しかしながら、記録システムにおける画像データ処理の流れは、この形態に限られるものではない。例えば、ホスト装置J0012で実行している処理J0002〜J0005の一部を記録装置J0013にて実行する形態であってもよいし、すべてをホスト装置J0012にて実行する形態であってもよい。あるいは、処理J0002〜J0008を記録装置J0013にて実行する形態であってもよい。
1.2 機構部の構成
本実施形態で適用する記録装置における各機構部の構成を説明する。本実施形態における記録装置本体は、各機構部の役割から、概して、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、フラットパス記録部、およびクリーニング部等に分類することができ、これらは外装部に収納されている。
図6、図7、図8、図12および図13は、本実施形態で適用する記録装置の外観を示す斜視図である。ここで、図6は記録装置の非使用時における前面から見た状態、図7は記録装置の非使用時における背面から見た状態を示している。また、図8は記録装置の使用時における前面から見た状態、図12はフラットパス記録時における前面から見た状態、図13はフラットパス記録時における背面から見た状態をそれぞれ示している。また、図9〜図11および図14〜図17は、記録装置本体の内部機構を説明するための図である。ここで、図9は右上部からの斜視図、図10は左上部からの斜視図、図11は記録装置本体の側断面図、図14はフラットパス記録時の断面図を示している。また、図15はクリーニング部の斜視図、図16はクリーニング部におけるワイピング機構の構成および動作を説明するための断面図、図17はクリーニング部におけるウエット液転写部の断面図をそれぞれ示したものである。
以下、これらの図面を適宜参照しながら、各部を順次説明する。
(A)外装部(図6、図7)
外装部は、給紙部、用紙搬送部、排紙部、キャリッジ部、クリーニング部、フラットパス部およびウエット液転写部の回りを覆うように取り付けられている。外装部は主に、下ケースM7080、上ケースM7040、アクセスカバーM7030、コネクタカバーおよびフロントカバーM7010から構成されている。
下ケースM7080の下部には、不図示の排紙トレイレールが設けられており、分割された排紙トレイM3160が収納可能に構成されている。また、フロントカバーM7010は、非使用時に排紙口を塞ぐ構成になっている。
上ケースM7040には、アクセスカバーM7030が取り付けられており、回動可能に構成されている。上ケースの上面の一部は開口部を有しており、この位置で、インクタンクH1900および記録ヘッドH1001(図21)が交換可能となるように構成されている。なお、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001は、1色のインクを吐出可能な吐出部を複数色分、一体的に構成したユニットの形態であり、インクタンクH1900が色毎に独立に着脱可能な記録ヘッドカートリッジH1000として構成されている。さらに、上ケースM7040には、LEDの光を伝達・表示するLEDガイドM7060、電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004等が設けられている。また、図示してはいないが、上ケースM7040には、アクセスカバーM7030の開閉を検知するためのドアスイッチレバーが設けられている。また、多段式の給紙トレイM2060が回動可能に取り付けられており、給紙部が使われない時は、給紙トレイM2060を収納することにより、給紙部のカバーにもなるように構成されている。
上ケースM7040と下ケースM7080は、弾性を持った勘合爪で取り付けられており、その間のコネクタ部分が設けられている部分を、不図示のコネクタカバーが覆っている。
(B)給紙部(図8、図11)
図8および図11を参照するに、給紙部は、圧板M2010、給紙ローラM2080、分離ローラM2041、戻しレバーM2020等がベースM2000に取り付けられることで構成されている。ここで、圧板M2010は、記録媒体が積載されている部分である。そして、給紙ローラM2080は、圧板M2010から記録媒体を1枚ずつ給紙している。また、分離ローラM2041は、給紙ローラM2080によって給紙されている記録媒体を所定経路ごとに分離させている。また、戻しレバーM2020は、記録媒体を積載位置に戻すために配置されている。
(C)用紙搬送部(図8〜図11)
曲げ起こした板金からなるシャーシM1010には、記録媒体を搬送する搬送ローラM3060とペーパエンドセンサ(以下PEセンサと称す)E0007が回動可能に取り付けられている。搬送ローラM3060は、金属軸の表面にセラミックの微小粒がコーティングされた構成となっており、両軸の金属部分を不図示の軸受けが受ける状態で、シャーシM1010に取り付けられている。搬送ローラM3060にはローラテンションバネ(不図示)が設けられており、搬送ローラM3060を付勢することにより、回転時に適量の負荷を与えて安定した搬送が行えるようになっている。
搬送ローラM3060には、従動する複数のピンチローラM3070が当接して設けられている。ピンチローラM3070は、ピンチローラホルダM3000に保持されているが、不図示のピンチローラバネによって付勢されることで、搬送ローラM3060に圧接し、ここで記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダM3000の回転軸は、シャーシM1010の軸受けに取り付けられ、この位置を中心に回転する。
記録媒体が搬送されてくる入口には、記録媒体をガイドするためのペーパガイドフラッパM3030およびプラテンM3040が配設されている。また、ピンチローラホルダM3000には、PEセンサレバーM3021が設けられており、PEセンサレバーM3021は、記録媒体の先端および後端の検出をPEセンサE0007に伝える役割を果たす。プラテンM3040は、シャーシM1010に取り付けられ、位置決めされている。ペーパガイドフラッパM3030は、不図示の軸受け部を中心に回転可能で、シャーシM1010に当接することで位置決めされる。
搬送ローラM3060の記録媒体搬送方向における下流側には、記録ヘッドH1001(図21)が設けられている。
上記構成における搬送の過程を説明する。用紙搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラーホルダM3000およびペーパガイドフラッパM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。この時、PEセンサレバ−M3021が、記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体に対する記録位置が求められている。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。プラテンM3040には、搬送基準面となるリブが形成されており、このリブにより、記録ヘッドH1001と記録媒体表面との間のギャップが管理されている。また同時に、当該リブが、後述する排紙部と合わせて、記録媒体の波打ちを抑制する役割も果たしている。
搬送ローラM3060が回転するための駆動力は、例えばDCモータからなるLFモータE0002の回転力が、不図示のタイミングベルトを介して、搬送ローラM3060の軸上に配設されたプーリM3061に伝達されることによって得られている。また、搬送ローラM3060の軸上には、搬送ローラM3060による搬送量を検出するためのコードホイールM3062が設けられている。また、そこに隣接するシャーシM1010には、コードホイールM3062に形成されたマーキングを読み取るためのエンコードセンサM3090が配設されている。なお、コードホイールM3062に形成されたマーキングは、150〜300lpi(ライン/インチ;参考値)のピッチで形成されているものとする。
(D)排紙部(図8〜図11)
排紙部は、第1の排紙ローラM3100および第2の排紙ローラM3110、複数の拍車M3120およびギア列などから構成されている。
第1の排紙ローラM3100は、金属軸に複数のゴム部を設けて構成されている。第1の排紙ローラM3100の駆動は、搬送ローラM3060の駆動が、アイドラギアを介して第1の排紙ローラM3100まで伝達されることによって行われている。
第2の排紙ローラM3110は、樹脂の軸にエラストマの弾性体M3111を複数取り付けた構成になっている。第2の排紙ローラM3110の駆動は、第1の排紙ローラM3100の駆動が、アイドラギアを介して伝達することで行われる。
拍車M3120は、周囲に凸形状を複数設けた例えばSUSでなる円形の薄板を樹脂部と一体としたもので、拍車ホルダM3130に複数取り付けられている。この取り付けは、コイルバネを棒状に設けた拍車バネによって行われているが、同時に拍車バネのばね力は、拍車M3120を排紙ローラM3100およびM3110に対し所定圧で当接させている。この構成によって拍車M3120は、2つの排紙ローラM3100およびM3110に従動して回転可能となっている。拍車M3120のいくつかは、第1の排紙ローラM3100のゴム部、あるいは第2の排紙ローラM3110の弾性体M3111の位置に設けられており、主に記録媒体の搬送力を生み出す役割を果たしている。また、その他のいくつかは、ゴム部あるいは弾性体M3111が無い位置に設けられ、主に記録時の記録媒体の浮き上がりを抑える役割を果たしている。
また、ギア列は、搬送ローラM3060の駆動を排紙ローラM3100およびM3110に伝達する役割を果たしている。
以上の構成によって、画像形成された記録媒体は、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。排紙トレイM3160は、複数に分割され、後述する下ケースM7080の下部に収納できる構成になっている。使用時は、引出して使用する。また、排紙トレイM3160は、先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高い位置に保持されるよう設計されており、排出された記録媒体の積載性を向上し、記録面の擦れなどを防止している。
(E)キャリッジ部(図9〜図11)
キャリッジ部は、記録ヘッドH1001を取り付けるためのキャリッジM4000を有しており、キャリッジM4000は、ガイドシャフトM4020およびガイドレールM1011によって支持されている。ガイドシャフトM4020は、シャーシM1010に取り付けられており、記録媒体の搬送方向に対して直角方向にキャリッジM4000を往復走査させるように案内支持している。ガイドレールM1011は、シャーシM1010に一体に形成されており、キャリッジM4000の後端を保持して記録ヘッドH1001と記録媒体との隙間を維持する役割を果たしている。また、ガイドレールM1011のキャリッジM4000との摺動側には、ステンレス等の薄板からなる摺動シートM4030が張設され、記録装置の摺動音の低減化を図っている。
キャリッジM4000は、シャーシM1010に取り付けられたキャリッジモータE0001によりタイミングベルトM4041を介して駆動される。また、タイミングベルトM4041は、アイドルプーリM4042によって張設、支持されている。さらに、タイミングベルトM4041は、キャリッジM4000とゴム等からなるキャリッジダンパを介して結合されており、キャリッジモータE0001等の振動を減衰することで、記録される画像のむら等を低減している。
キャリッジM4000の位置を検出するためのエンコーダスケールE0005(図18について後述)が、タイミングベルトM4041と平行に設けられている。エンコーダスケールE0005上には、150lpi〜300lpiのピッチでマーキングが形成されている。そして、そのマーキングを読み取るためのエンコーダセンサE0004(図18について後述)が、キャリッジM4000に搭載されたキャリッジ基板E0013(図18について後述)に設けられている。キャリッジ基板E0013には、記録ヘッドH1001と電気的な接続を行うためのヘッドコンタクトE0101も設けられている。また、キャリッジM4000には、電気基板E0014から記録ヘッドH1001へ、駆動信号を伝えるための不図示のフレキシブルケーブルE0012(図18について後述)が接続されている。
記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に固定するための構成として、記録ヘッドH1001をキャリッジM4000に押し付けながら位置決めするための不図示の突き当て部がキャリッジM4000上に設けられている。また、記録ヘッドH1001を所定の位置に固定するための不図示の押圧手段が、キャリッジM4000上に設けられている。押圧手段は、ヘッドセットレバーM4010に搭載され、記録ヘッドH1001をセットする際に、ヘッドセットレバーM4010を回転支点を中心に回して、記録ヘッドH1001に作用する構成になっている。
さらに、キャリッジM4000には、CD−R等の特殊メディアへ記録を行う際や、記録結果や用紙端部等の位置検出用として、反射型の光センサからなる位置検出センサM4090が取り付けられている。位置検出センサM4090は、発光素子より発光し、その反射光を受光することで、キャリッジM4000の現在位置を検出することができる。
上記構成において記録媒体に画像形成する場合、行位置に対しては、搬送ローラM3060およびピンチローラM3070からなるローラ対が、記録媒体を搬送して位置決めする。また、列位置に対しては、キャリッジモータE0001によりキャリッジM4000を上記搬送方向と垂直な方向に移動させて、記録ヘッドH1001を目的の画像形成位置に配置させる。位置決めされた記録ヘッドH1001は、電気基板E0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001により記録を行いながら、キャリッジM4000が記録主走査と、副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。ここで、記録主走査とは、吐出口列の列方向に走査することを言うものとし、副走査とは、搬送ローラM3060により記録媒体が搬送される方向に走査することを言うものとする。なお、記録ヘッドH1001についての詳細な構成および記録システムについては後述する。
(F)フラットパス記録部(図12〜図14)
給紙部からの給紙は、図11に示したように記録媒体が通る経路がピンチローラに達するまで曲がっているため、記録媒体を曲げた状態で行われることになる。従って、例えば0.5mm程度以上の厚い記録媒体等を給紙部から給紙しようとすると、曲げられた記録媒体の反力が発生し、給紙抵抗が増えて給紙が行えない場合がある。また、給紙が可能であっても、排紙後の記録媒体が曲がったままとなったり、折れたりすることもある。
厚い記録媒体等、曲げたくない記録媒体や、CD−R等、曲げることのできない記録媒体に対して記録を行うのがフラットパス記録である。
ここで、フラットパス記録には本体背面のスリット上の開口部から(給紙装置の下)、手差し給紙の態様で記録媒体を本体のピンチローラにニップさせ、記録を行うタイプがある。しかし本実施形態のフラットパス記録は、記録媒体を本体手前の排紙口から記録位置まで給紙し、スイッチバックしてから記録を行う形態のものである。
フロントカバーM7010は、通常記録した記録媒体を数十枚程度積載しておくためのトレイを兼ねるために排紙部より下方にある(図8)。フラットパス記録時には、記録媒体を排紙口から水平に、通常の搬送方向とは反対方向に給紙するために、フロントトレイM7010を排紙口の位置まで上げる(図12)。フロントトレイM7010には不図示のフック等が設けられており、フラットパス給紙位置にフロントトレイを固定可能である。フロントトレイM7010がフラットパス記録位置にあることはセンサで検知可能であり、当該検知に応じてフラットパス記録モードと判断することができる。
フラットパス記録モードでは、記録媒体をフロントトレイM7010に載せて排紙口から記録媒体を挿入するために、フラットパスキーE3004を操作する。これにより、想定している記録媒体の厚みより高い位置まで、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを不図示の機構により持ち上げる。またリアトレイボタンM7110を押すことによってリアトレイM7090を開き、さらにリアサブトレイM7091をV字に開くことも可能である(図13)。リアトレイM7090およびリアサブトレイM7091は、長い記録媒体を本体前面から挿入した場合は本体背面から突出するので、長い記録媒体を本体背面でも支えるためのトレイである。厚い記録媒体は記録中にフラットな姿勢を保たないとヘッドフェイス面と擦れたり、搬送負荷が変化したりすることから記録品位に影響を及ぼすおそれがあるので、これらのトレイの配設は有効である。しかし本体背面からはみ出ない程度の長さの記録媒体であれば、リアトレイM7090等を開く必要はない。
以上によって、記録媒体を排紙口から本体内に挿入可能となる。記録媒体の後端部(ユーザに最も近く位置する手前側の端部)と右端部とをフロントトレイM7010のマーカ位置に揃えて、フロントトレイM7010に載せる。
ここで再度フラットパスキーE3004を操作すると、拍車ホルダ3130が降りて排紙ローラM3100およびM3110と拍車3120とで記録媒体をニップする。その後、排紙ローラM3100,M3110で記録媒体を所定量本体内に引き込む(通常記録時の搬送方向とは逆方向)。最初に記録媒体をセットした際に記録媒体の手前側の端部(後端部)を揃えているので、短い記録媒体の前端部(ユーザから見て最も奥側の端部)は搬送ローラM3060まで届いていないことがある。従って所定量とは、想定している一番短い記録媒体の後端が搬送ローラM3060に届くまでの距離とする。所定量送られた記録媒体は搬送ローラM3060に届いているので、その位置でピンチローラホルダM3000を降ろして、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とで記録媒体をニップさせる。そして記録媒体をさらに送り、その後端部が搬送ローラM3060とピンチローラM3070とでニップされるようにする。これで記録媒体のフラットパス記録のための給紙が終了したことになる(記録待機位置)。
排紙ローラM3100およびM3110と拍車M3120とのニップ力は、通常記録時の排紙時に形成画像に影響を与えないよう、比較的低く設定されている。従って、フラットパス記録時には記録を行うまでに記録媒体の位置がずれてしまうおそれがある。しかし本実施形態では、ニップ力が比較的高い搬送ローラM3060とピンチローラM3070とによって記録媒体をニップさせるので、記録媒体のセット位置が確保されたことになる。また、記録媒体を上記所定量だけ本体内に送るとき、プラテンM3040と拍車ホルダM3130の間にあるフラットパス紙検知センサM3170で記録媒体の後端位置(記録時の前端位置となる)を検知することができる。
記録媒体が上記記録待機位置に設定されると、記録コマンドを実行する。すなわち、記録ヘッドH1001による記録位置まで搬送ローラM3060で記録媒体を搬送し、後は通常の記録動作と同じように記録を行い、記録後フロントトレイM7010に排紙することになる。
フラットパス記録をさらに行いたい場合は、記録した記録媒体をフロントトレイM7010から取り出し、次の記録媒体をセットして、後は前述した処理を繰り返せばよい。具体的には、フラットパスキーE3004を押すことによって、拍車ホルダM3130とピンチローラホルダM3000とを持ち上げて、記録媒体をセットすることから始まる。
一方、フラットパス記録を終了する場合は、フロントトレイM7010を通常記録位置に戻すことによって通常記録モードに戻すことができる。
(G)クリーニング部(図15、図16)
クリーニング部は記録ヘッドH1001のクリーニングを行うための機構である。そして、クリーニング部は、ポンプM5000、記録ヘッドH1001の乾燥を抑えるためのキャップM5010、記録ヘッドH1001の吐出口形成面をクリーニングするためのブレードM5020等から構成されている。
クリーニング部には、専用のクリーニングモータE0003が配されている。クリーニングモータE0003には、不図示のワンウェイクラッチが設けられており、一方向の回転でポンプM5000を作動させ、もう一方向の回転ではブレードM5020の移動およびキャップM5010の昇降を行わせるようになっている。
キャップM5010はモータE0003から不図示の昇降機構を介して昇降可能に駆動される。その上昇位置では、記録ヘッドH1500に設けた数個の吐出部のフェイス面毎にキャッピングを施し、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行うことが可能である。また、記録動作時には記録ヘッド9との干渉を避ける下降位置に設定され、またフェイス面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。例えば記録ヘッドH1001に10個の吐出部が設けられ、5個の吐出部のフェイス面毎に一括してキャッピングを施すことが可能となるよう、図示の例ではキャップM5010は2つ設けられている。
ゴム等の弾性部材でなるワイパ部H5020はワイパホルダH5021に固定されている。ワイパホルダH5021は図16の+Yおよび−Y方向(吐出部における吐出口の配列方向)に移動可能である。そして、記録ヘッドH1001がホームポジションに到達したときに、矢印−Y方向にワイパホルダ25が移動することによって、ワイピングが可能である。ワイピング動作が終了すると、キャリッジをワイピング領域の外に退避させてから、ワイパがフェイス面等と干渉しない位置に戻す。なお、本例のワイパ部M5020には、記録ヘッドH1001の面全体をワイピングするワイパブレードM5020Aと、5つの吐出部のフェイス面毎に、ノズル近傍をするワイピングする2つのワイパブレードM5020B,M5020Cとが設けられている。
そして、ワイピング後には、ワイパ部M5020がブレードクリーナM5060に当接することにより、ワイパブレードM5020A〜M5020C自身へ付着したインクなども除去することができる構成になっている。また、ワイピングに先立ってワイパブレードM5020A〜M5020Cにウエット液を転写させておくことによりワイピングによるクリーニング性を向上する構成(ウエット液転写部)が設けられている。このウエット液転写部の構成およびワイピング動作については後述する。
吸引ポンプM5000は、キャップM5010をフェイス面に接合させてその内部に密閉空間を形成した状態で負圧を発生させることが可能である。これにより、インクタンクH1900から吐出部内にインクを充填させたり、吐出口もしくはその内方のインク路に存在する塵埃、固着物、気泡等を吸引除去したりすることができる。
吸引ポンプM5000としては、例えばチューブポンプ形態のものが用いられる。これは、可撓性を有するものとしたチューブの少なくとも一部を沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。これに伴い、キャップM5010が形成する密閉空間に負圧が生じてインクが吐出口より吸引される。そして、キャップM5010からチューブないし吸引ポンプにインクが引き込まれる一方、引き込まれているインクはさらに下ケースM7080に設けた適宜の部材(廃インク吸収体)に向けて移送される。
なお、キャップM5010の内側部分には、吸引後の記録ヘッドH1001のフェイス面に残るインクを削減するために、吸収体M5011が設けられている。また、キャップM5010を開放した状態で、キャップM5010ないし吸収体M5011に残っているインクを吸引することにより、残インクによる固着およびその後の弊害が起こらないように配慮されている。ここで、インク吸引経路の途中に大気開放弁(不図示)を設け、キャップM5010をフェイス面から離脱させる際に予めこれを開放しておくことで、フェイス面に急激な負圧が作用しないようにしておくことが好ましい。
また、吸引ポンプM5000は、吸引回復だけでなく、キャップM5010がフェイス面に対向した状態で行われる予備吐出動作によってキャップM5010に受容されたインクを排出するためにも作動させることができる。すなわち、予備吐出されてキャップM5010に保持されたインクが所定量に達したときに吸引ポンプM5000を作動させることで、キャップM5010内に保持されていたインクをチューブを介して廃インク吸収体に移送することができる。
以上のワイパ部M5020の動作、キャップM5010の昇降および弁の開閉など、連続して行われる一連の動作は、モータE0003の出力軸上に設けた不図示のメインカムおよびこれに従動する複数のカム,アーム等によって制御可能である。すなわち、モータE0003の回転方向に応じたメインカムの回動によってそれぞれの部位のカム部,アーム等が作動することで、所定の動作を行うことが可能である。メインカムの位置はフォトインタラプタ等の位置検出センサで検出することができる。
(H)ウエット液転写部(図17、図16)
最近では、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料成分を含有するインク(以下、顔料インクという)が使用されることが多くなってきている。顔料インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。従って、フェイス面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、フェイス面に与えるダメージが大きい。また、また顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的でインクに反応液を添加する結果インク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料インク以外でも生じる問題である。
この課題に対し、本実施形態では、ブレードM5020に液体を転写・付着させ、これによって濡れたブレードM5020でワイピングを行う。これにより、顔料インクによるフェイス面の劣化を防ぎ、かつワイパの磨耗を軽減し、さらにはフェイス面に蓄積したインク残渣を溶解させることによって蓄積物を除去するようにしている。かかる液体をその機能から本明細書ではウエット液と称し、これを用いるワイピングをウエットワイピングと称する。
本実施形態では、ウエット液を記録装置本体内部に貯蔵する構成がとられている。M5090はウエット液タンクであり、ウエット液としてグリセリン溶液等を収納している。M5100はウエット液保持部材で、ウエット液がウエット液タンクM5090から漏れないように適度な表面張力を有する繊維質部材等であり、ウエット液を含浸保持している。M5080はウエット液転写部材であり、例えば、多孔質であって適度な毛管力を備えた材質でなり、ワイパブレードと接触するウエット液転写部M5081を有している。ウエット液転写部材M5080はウエット液が染み込んだウエット液保持部材M5090とも接しており、従ってウエット液転写部材M5080もウエット液が染み込むことになる。ウエット液転写部材M5080は、ウエット液が残り少なくなってもウエット液転写部M5081へウエット液を供給できるだけの毛管力を有した材質である。
かかるウエット液転写部およびワイパ部の動作を説明する。
まず、キャップM5010を下降位置に設定し、キャリッジM4000がブレードM5020A〜M5020Cに触れない位置に退避させる。この状態で、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させ、ブレードクリーナM5060の部位を通過させて、ウエット液転写部M5081に接触させる(図17)。適切な時間だけ接触状態を維持することで、ブレードM5020にウエット液が適量転写される。
次にワイパ部M5020を+Y方向に移動させるが、ブレードがブレードクリーナM5060に触れるのはウエット液が付着していない面であるので、ウエット液はブレードに保持されたままになる。
ブレードをワイピング開始位置まで戻した後、キャリッジM4000をワイピング位置まで移動させる。再度、ワイパ部M5020を−Y方向に移動させることによって、ウエット液が付いた面で記録ヘッドH1001のフェイス面をワイピングすることが可能となる。
1.3 電気回路構成
次に本実施形態における電気的回路の構成を説明する。
図18は、記録装置J0013における電気的回路の全体構成を概略的に説明するためのブロック図である。本実施形態で適用する記録装置では、主にキャリッジ基板E0013、メイン基板E0014、電源ユニットE0015およびフロントパネルE0106等によって構成されている。
ここで、電源ユニットE0015は、メイン基板E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4000に搭載されたプリント基板ユニットであり、ヘッドコネクタE0101を通じて記録ヘッドH1001との信号の授受、ヘッド駆動電源の供給を行うインターフェースとして機能する。ヘッド駆動電源の制御に供する部分としては、記録ヘッドH1001の各色吐出部に対する複数チャネルのヘッド駆動電圧変調回路E3001を有している。ヘッド駆動電圧変調回路E3001は、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014から指定された条件に従ってヘッド駆動電源電圧を発生させている。また、キャリッジM4000の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づいて、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出する。そして更に、その出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力する。
キャリッジ基板E0013には、図20に示すように、光学センサおよび周囲温度を検出するためのサーミスタが接続されている(以下、これらのセンサをマルチセンサE3000として参照する)。マルチセンサE3000により得られる情報は、フレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメイン基板E0014へと出力される。
メイン基板E0014は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットである。そして、メイン基板E0014はその基板上にホストインタフェース(ホストI/F)E0017を有しており、不図示のホストコンピュータからの受信データをもとに記録動作の制御を行う。また、メイン基板E0014は、キャリッジモータE0001、LFモータE0002、APモータE3005、PRモータE3006等、各種モータと接続されて各機能の駆動を制御している。ここで、キャリッジモータE0001は、キャリッジM4000を主走査させるための駆動源となっている。また、LFモータE0002は、記録媒体を搬送するための駆動源となっている。APモータE3005は、記録ヘッドH1001の回復動作および記録媒体の給紙動作の駆動源となっている。また、PRモータE3006は、フラットパス記録動作の駆動源となっている。さらに、PEセンサ、CRリフトセンサ、LFエンコーダセンサ、PGセンサのような、プリンタ各部の動作状態を検出する様々なセンサに対して、制御信号および検出信号の送受信を行うためのセンサ信号E0104に接続される。また、メイン基板E0014は、CRFFC E0012および電源ユニットE0015にそれぞれ接続されるとともに、さらにパネル信号E0107を介してフロントパネルE0106と情報の授受を行うためのインターフェースを有している。
フロントパネルE0106は、ユーザ操作の利便性のために、記録装置本体の正面に設けたユニットである。フロントパネルE0106は、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018およびフラットパスキーE3004を有するほか(図6)、さらにデジタルカメラ等の周辺デバイスとの接続に用いるデバイスI/F E0100を有している。
図19は、メイン基板E1004の内部構成を示すブロック図である。
図において、E1102はASIC(Application Specific Integrated Circuit)であり、制御バスE1014を通じてROM E1004に接続されている。そして、ASIC E1102は、ROM E1004に格納されたプログラムに従って、各種制御を行っている。ASIC E1102の行う制御としては、例えば、各種センサに関連するセンサ信号E0104や、マルチセンサE3000に関連するマルチセンサ信号E4003の送受信を行う。また、エンコーダ信号E1020、フロントパネルE0106上の電源キーE0018、リジュームキーE0019およびフラットパスキーE3004からの出力の状態を検出している。また、ホストI/F E0017、フロントパネル上のデバイスI/F E0100の接続およびデータ入力状態に応じて、各種論理演算や条件判断等を行い、各構成要素を制御し、インクジェット記録装置の駆動制御を司っている。
E1103はドライバ・リセット回路であって、ASIC E1102からのモータ制御信号E1106に従って、CRモータ駆動信号E1037、LFモータ駆動信号E1035、APモータ駆動信号E4001およびPRモータ駆動信号E4002を生成する。そして、各種の駆動信号に従って、各モータを駆動させる。さらに、ドライバ・リセット回路E1103は、電源回路を有している。そして、ドライバ・リセット回路E1103は、メイン基板E0014、キャリッジ基板E0013、フロントパネルE0106など各部に必要な電源を供給し、さらには電源電圧の低下を検出して、リセット信号E1015を発生および初期化を行う。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1102からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。
ホストI/F E0017は、ASIC E1102からのホストI/F信号E1028を、外部に接続されるホストI/FケーブルE1029に伝達し、またこのケーブルE1029からの信号をASIC E1102に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは電力が供給される。供給された電力は、メイン基板E0014内外の各部へ、必要に応じて電圧変換された上で供給される。また、ASIC E1102からの電源ユニット制御信号E4000が電源ユニットE0015に接続され、記録装置本体の低消費電力モード等を制御する。
ASIC E1102は1チップの演算処理装置内蔵半導体集積回路であり、前述したモータ制御信号E1106、電源制御信号E1024および電源ユニット制御信号E4000等を出力する。そして、ホストI/F E0017との信号の授受を行うとともに、パネル信号E0107を通じて、フロントパネル上のデバイスI/F E0100との信号の授受を行う。さらに、センサ信号E0104を通じてPEセンサ、ASFセンサ等各部センサ類を、およびマルチセンサ信号E4003を通じてマルチセンサE3000を制御する。また、それとともにASIC E1102は各種の状態を検知し、またパネル信号E0107の状態を検知して、パネル信号E0107の駆動を制御してフロントパネル上のLED E0020の点滅を行う。
さらにASIC E1102は、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドH1001とのインターフェースをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はCRFFC E0012を通じて入力されるエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012を通じてキャリッジ基板E0013に接続され、前述のヘッド駆動電圧変調回路E3001およびヘッドコネクタE0101を経て記録ヘッドH1001に供給されている。また、ヘッド制御信号E1021は、記録ヘッドH1001からの各種情報をASIC E1102に伝達する。このうち吐出部毎のヘッド温度情報については、メイン基板上のヘッド温度検出回路E3002で信号増幅された後、ASIC E1102に入力され、各種制御判断に用いられる。
図中、E3007はDRAMであり、記録用のデータバッファ、ホストコンピュータからの受信データバッファ等として、また各種制御動作に必要なワーク領域しても使用されている。
1.4 記録ヘッド構成
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。 本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクタンクH1900を搭載する手段およびインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有している。また、ヘッドカートリッジH1000は、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
図21は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000に対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、レッド(R)、グリーン(G)およびグレー(Gray)によって画像を形成している。従って、インクタンクT0001も10色分が独立に用意されている。これら10色のインクは、顔料インクである。そして、図に示すように、インクタンクそれぞれがヘッドカートリッジH1000に対して着脱自在となっている。なお、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行えるようになっている。
1.5 インク構成
以下に本発明で使用する10色のインクについて説明する。
本発明に用いられる10色とは、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ、イエロー、第一ブラック、第二ブラック、グレー、レッドおよびグリーンである。各色に用いられる着色剤は全てが顔料であることが好ましい。本発明の主旨にあえば、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が染料であってもよい。また、少なくとも一部の色に用いられる着色剤が顔料と染料を調色した形でもよく、顔料を複数種ふくんでもよい。また本発明に用いられる10色インクには、本発明の主旨にある範疇で、水溶性有機溶剤・添加剤・界面活性剤・バインダー・防腐剤から選ばれる少なくとも1種以上が含まれてもよい。
本実施形態において、第1ブラック(K1)と第2ブラック(K2)およびグレー(Gray)は、共に無彩色であるが、インク中の顔料濃度や溶剤成分および比率を適切に調整することによって、記録媒体への浸透性や発色性を互いに異ならせている。第1ブラックは浸透性が低く、記録媒体の表面に残り易いことから、高濃度領域で積極的に使用される。第2ブラックは浸透性が高く、他色と同時に付与されても記録媒体の表面で混色することも無く、記録媒体にすばやく吸収される。よって、微妙なグレーバランスを保つために有彩色による補正が必要な、中間濃度から高濃度にかけて使用される。グレー(淡ブラック)は、顔料濃度が他のブラックよりも低く抑えられており、粒状感が目立ちやすい低濃度領域から中間濃度領域にかけて使用される。
本実施形態のインクジェット記録装置においては、記録に使用するインクを記録媒体の種類によって異ならせている。例えば、普通紙やアート紙など、光沢性を有さない記録媒体では、第1ブラック(K1)、グレー(Gray)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)及びグリーン(G)が用いられる。また、光沢紙や写真専用紙など、光沢性を有する記録媒体では、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)及びグリーン(G)が用いられる。更に、記録媒体としては、第1ブラック(K1)と第2ブラック(K2)の浸透性の差が濃度差となって現れる高品位専用紙が用いられることがある。このような高品位専用紙では、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、グレー(Gray)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、レッド(R)及びグリーン(G)が用いられる。
次に本発明で使用する10色のインクを構成する好ましい材料について、下記に具体的に説明する。
(顔料について)
カラー顔料としては、有機顔料が挙げられる。具体的には、酸性染料系レーキ、塩基性染料系レーキのような染付けレーキ系顔料が挙げられる。また、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、β−ナフトール系、ナフトールAS系、ピラゾロン系、ベンズイミダゾロン系のような不溶性アゾ顔料が挙げられる。さらに、縮合アゾ顔料、アゾレーキ顔料、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、インジゴ系、ジオキサジン系、キノフタロン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系のような縮合多環系顔料などが挙げられる。しかしながら、勿論、これらに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
ブラック顔料に使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックをいずれも使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックをいずれも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
ここで、顔料の分散を行うためには、公知一般の分散剤を用いてもよいし、また公知一般の方法で顔料表面を改質し、自己分散性を付与してもよい。
また、インクには水溶性有機溶剤、添加剤、界面活性剤、防腐剤を添加することができ、それらの材料としては、公知一般の材料をそれぞれ用いることができる。
(インク組成)
ここで、本発明で適用可能な10色顔料インクの組成の一例を示す。なお、これら顔料インクの光沢特性は図23に示した通りである。
(イ)水性キャリア媒体(Aqueous Carrier Medium)
水性キャリア媒体は、水、あるいは水と少なくとも一種類の水溶性有機溶媒との混合物である。適当な混合物は、特定の用途に応じて選択されるもので、例えば所望の表面張力および粘性、選択された着色剤、インクの乾燥時間、さらにインクが印刷される被記録媒体の種類に応じて選択される。選択可能な水溶性有機溶媒の例は、米国特許第5,085,698号に開示されている。水と多価アルコール、例えばジエチレングリコールとの混合物が水溶性キャリア媒体として好ましい。もし水と水溶性溶媒との混合物を用いるならば、水溶性溶媒の含有量(すなわち、70ないし5%)とのバランスから水の含有量を約30ないし約95%とする。さらに、水性キャリア媒体は選択された着色剤の種類に応じてインク組成物の全重量で70ないし99.8%を成す。好ましくは、水性キャリア媒体は、有機顔料が選択された場合は94ないし99.8%、無機顔料が選択された場合は70ないし99.8%を成す。
(ロ)顔料(Pigments)
顔料は、幅広い範囲の有機顔料および無機顔料を単独で、あるいは組み合わせたものである。顔料の粒子はインクジェットプリンタ内、特に直径が10μmないし50μmである吐出口内をインクが自由に流れるほどに十分に小さい。また、粒径はインクの寿命全体にわたって重要である顔料分散安定性に影響を与える。微粒子であることによって生ずるブラウン運動は、粒子の沈殿を防ぐことに貢献するであろう。また、小さな粒子を用いることで色の濃さを最大とすることが求められている。本発明に有用な粒径は、約0.005μmないし15μm、好ましくは0.005ないし0.5μm、さらに好ましくは0.01μmないし0.3μmである。
選択された顔料を、乾燥した状態で、あるいは湿った状態(すなわち、圧縮した塊)で使用することができる。圧縮した塊の状態では、顔料はそれが乾燥した状態にある限りにおいて凝集しない。したがって、インクを調製するプロセスでの脱凝集を必要としてはいない。本発明を実施する上で使用される代表的な乾燥およびプレスケーク顔料は、1992年2月4日発行の米国特許第5,085,698号に開示されている。
金属または金属酸化物の微粒子もまた本発明を実施する上で使用することができる。例えば、金属および金属酸化物は磁気性のインクジェットインクを調製するのに適している。微粒子サイズの酸化物、例えばシリカ、アルミナ、二酸化チタン等を選択してもよい。さらに、微細金属粒子、例えば銅、鉄、スチール、アルミニウム、および合金を適当な用途に対して選択することができる。
有機顔料の場合、ほとんどのインクジェット印刷の用途に対してインク全体の重量でインクは約30重量%の顔料を含むことができる。しかし、一般にはインク全体の重量で1ないし15重量%、好ましくは約1ないし8重量%である。無機顔料を選択する場合、無機顔料は有機顔料に比べて比重が大きいので、有機顔料を用いるインクと比較して無機顔料を用いるインクは顔料含有率が高くなる傾向にあり、重量百分率で約50%相当とすることができる。
(ハ)分散剤(Dispersant)
重合分散剤としては、ランダム重合体および構造重合分散剤、例えばブロック共重合体、枝分かれ重合体、またはグラフト重合体が挙げられる。重合体は、アニオン系、カチオン系、または非イオン系である。ランダム重合体は、構造重合体として着色剤分散を安定化させる効果を示さないので、好ましくはない。しかし、水安定性のための親水性部分と着色剤と相互作用するための疎水性部分との両方を有し、また分散安定性に貢献する平均分子量を有するランダム重合体は、本発明を実施する上で効果的に使用することができる。そのような重合分散剤は米国特許第4,597,794号に開示されている。
上記のようなブロック重合体は、AB、BAB、およびABC型構造である。疎水性のブロックと親水性のブロックとを有し、また分散安定性に貢献する均衡のとれたブロックサイズを有するブロック重合体は、本発明を実施する上で有利である。官能基を疎水性ブロック(着色剤が結合するブロック)に組み込むことができ、それによって分散安定性を改善するために重合分散剤と着色剤との間の特異的相互作用をよりいっそう強化される。これらの重合体の詳細は、米国特許第5,085,698号および第5,272,201号、さらに1993年8月25日に発行された欧州特許出願第0 556 649 A1号に開示されている。有用なグラフト重合体のいくつかは、米国特許第5,231,131号に開示されている。
重合体の量は、該重合体の構造、分子量、および他の特性、さらにインク組成物の他の成分に依存する。本発明を実施する上で選択される分散剤重合体の平均分子量は、40,000未満、好ましくは20,000未満、より好ましくは2,000ないし10,000の範囲内である。
重合分散剤の含有量は、インク組成物の全重量にもとづいて0.1ないし25重量%、好ましくは0.1ないし8重量%である。もし重合分散剤の含有量がこの範囲よりも高い場合、所望のインク粘度を維持するのが困難となろう。分散安定性は、十分な重合体が存在する場合、悪影響を受けるであろう。
(ニ)界面活性剤混合物(Surfactant Mixture)
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、シロキサン界面活性剤、フッ素化界面活性剤等を用いることができる。界面活性剤混合物は、インク組成物の全重量にもとづいて0.5ないし5重量%、好ましくは1.0ないし3重量%の量で存在する。
(ホ)インク配合物
インクの調製は、選択された不溶性の着色剤、例えば顔料および分散体を水性キャリア媒体に予混合し、続いて該着色剤を分散または脱凝集することによって行う。この工程は、水平小型ミル(horizontal mini mill)、ボールミル(ballmill)、磨砕機で行うことができる。あるいは、混合物を、水性キャリア媒体中の着色剤の均一分散体を作るために、少なくとも100psiの液圧で液体ジェットインタラクションチャンバーにある複数のノズルに通過させることで達成することができよう。
2.特徴構成
(第1の実施形態)
以下、本発明を実施するための第1の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
第1の実施形態による記録システムは、光沢記録媒体に対して記録を行うための記録モード(以下、光沢記録媒体モード)と、非光沢記録媒体に対して記録を行うための記録モード(以下、非光沢記録媒体モード)とを有する記録システムである。ここで、光沢記録媒体とは、光沢紙等の、比較的高い光沢度を有する記録媒体であるものとする。また、非光沢記録媒体とは、普通紙等の比較的低い光沢度を有する記録媒体のことを言うものとする。そして、これらの記録モードから、予め設定された記録媒体の種類に応じて記録モードが選択され、選択された記録モードによって記録が行われるものである。ここで、本発明で言う光沢記録媒体及び非光沢記録媒体を判別するための、記録媒体の有する光沢度の高低については、相対的な高低を言うものとする。
本実施形態において、光沢記録媒体モードと非光沢記録媒体モードでは、異なるテーブルが用いられる。すなわち、光沢記録媒体モードでは光沢記録媒体用テーブルが用いられ、非光沢記録媒体モードでは非光沢記録媒体用テーブルが用いられるものとする。
なお、光沢記録媒体モードで用いられる光沢記録媒体用テーブルは、後述するように、「光沢むら」を抑制するために記録媒体上における光沢度の差が抑えられることを重視して設計されている。一方、非光沢記録媒体に関しては、記録媒体自体の表面が粗く、インクを付与しても記録部と非記録部の表面性に顕著な差は現れないので、光沢むらはあまり発生しない。そこで、非光沢記録媒体用テーブルは、光沢記録媒体用テーブルよりも粒状性に対しての効果を重視した設計になっている。特に、濃度の高いインクが階調値の低い領域で使用されると、ドットの形状が目立ってしまい、粒状感が増してしまう。そのため、非光沢記録媒体用テーブルでは、図27(a)に示されるように、濃度の高いインクについてなるべく階調値の高い領域で用いることにより、ドットの粒状感を低減している。
以下、光沢記録媒体と比べて光沢度が比較的低い、非光沢記録媒体に適した記録モードについて説明する。
図27(a)には、非光沢記録媒体モードにより、グレーインクと第2ブラックインクとを用いてグレーラインを表現する例における記録媒体への両者のインクの使用量のテーブルが示されている。そして、そのときの光沢記録媒体上における光沢度の変化が図27(b)に示されている。図27(a)、(b)の横軸は、後段処理J0003において用いられる色分解テーブルを概念的に示す図26のW(ホワイト)とK(ブラック)を結ぶラインに相当する。図27(a)に示されるテーブルを非光沢記録媒体用テーブルとする。通常、非光沢記録媒体用テーブルは、非光沢記録媒体に対して記録を行う際に用いられるのであるが、図27(b)では、比較のために、光沢記録媒体に対して記録を行った際の光沢度について示すものとする。
ここで、図25を用いて、グレーインクと第2ブラックインクを用いて打ち込み量を一定としたまま、それぞれのインクの割合のみを変えた場合の光沢度の変化について説明する。図23のグラフに示されているように、グレーインクの光沢度は相対的に高く、第2ブラックインクの光沢度は相対的に低いことが示されている。そして、この図25では、グレーインクと第2ブラックインクとの両者を記録媒体上で混色させると、それぞれを単独で使用した場合より光沢度が低くなることが示されている。これは、光沢度が異なる、つまりインク滴の高さが異なる二種類のインクが記録媒体上に混在するため、それぞれを単独で使用した場合と比較して記録媒体の表面の高さが一定でなくなることによる。これにより、記録媒体上における表面が粗くなり、光沢度が低下することになる。
以上から、図27(a)に示すW(ホワイト)に近い領域のように、グレーのインクを単独で使用している領域では、高さの低いインク滴が記録媒体上で多くの領域を占めることとなる。従って、そのような領域では、光沢記録媒体上では記録部の表面が一様に低くなる。そのため、記録媒体における記録部の光沢度は上昇していく。そして、そこから濃度を上げ、階調値をW(ホワイト)からK(ブラック)に近づけるために、所定の階調値から第2ブラックインクを使用し始める。これにより、記録部には異なる高さのインク滴が混在することになり、記録媒体表面におけるインク滴の高さが一様でなくなる。従って、光沢記録媒体上におけるインク滴の光沢度が低下し、図27(b)に示される光沢度の曲線が、グレーインクと第2ブラックインクとの両者による使用が始まった階調の領域で下降に転じている。さらに、黒の濃度を増加させるために第2ブラックインクの配分を増加させてグレーインクを徐々に減少させていくと、グレーよりも第2ブラックインクの方が光沢度が低いことから光沢度はさらに低下していく。
そして、第2ブラックインクが単色になった領域で再び記録媒体における表面のインク滴の高さが一様になり、ここから光沢度が再び上昇することになる。この結果、記録されているインクが切り替わる部分で光沢度の曲線が上昇・下降の傾向を変える変局点となり、この前後で光沢度が大きく変わる場合がある。しかしながら、このテーブルを用いた記録モードは非光沢記録媒体に対して記録が行われる場合に用いられ、非光沢記録媒体に対して記録を行った際には光沢度にそれ程差が生じず、実際には問題となる虞が少ない。
これに対して、光沢度の比較的高い光沢記録媒体に対して記録する場合には、光沢記録媒体用テーブルを用いて記録を行う、光沢記録媒体モードが用いられる。以下、光沢記録媒体用テーブルを用いて記録が行われる光沢記録媒体モードについて説明する。なお、このとき、記録媒体としては光沢記録媒体が用いられており、インクとしては、異なる光沢を有する二種類の顔料インクが用いられている。この例においては、異なる光沢を有する二種類の顔料インクとしてはグレーインク及び第2ブラックインクが用いられている。
図28(a)、(b)には、光沢記録媒体に適した色分解処理における、図26に示すW(ホワイト)とK(ブラック)を結んだラインの色相に対するインクの使用の割合及び光沢度の推移が示されている。図28(a)の横軸は、本実施形態の図26におけるW(ホワイト)からK(ブラック)に至るまでの色相における階調値である。また、図28(a)の縦軸は、横軸の階調値に対するグレーインク及び第2ブラックインクのそれぞれのインクの単位面積当たりの使用量である。また、図28(b)の縦軸には、横軸の階調値に対する光沢記録媒体用テーブルが用いられて光沢記録媒体に対して記録が行われる場合の光沢度が示されている。
ここで、非光沢記録媒体用テーブルについての説明の際に、図23を用いて説明したように、グレーインクと第2ブラックインクとでは、グレーインクの光沢度の方が相対的に高い。また、図24を用いて説明したように、一種類のインクのみが記録媒体上に記録されている場合と、光沢度の異なる二種類のインクが記録媒体上で混色させられる場合とを比較すると、一種類のインクのみが記録媒体上に記録されている場合の方が光沢度は高い。また、図25に示されるように、二種類のインクが記録媒体上で混色させられる場合には、混色の割合としては、相対的に光沢度が高いインクを多量に使用した方が光沢度は高くなる。これは、インク滴の高さが低いインクの割合が多い方が、表面が全体的に低くなり、光沢度が高くなるからである。
ここで、非光沢記録媒体用テーブルを用いて記録が行われた際の図27(a)、(b)に示されるように、横軸の階調値における黒の濃度が最も高い領域を第2ブラックインクのみで記録しようとしたとする。その場合、混色領域で第2ブラックをグレーインクよりも多量に使用する部分が現れる。もし、このような領域が現れると、その領域で光沢度の顕著な低下が引き起こされることになる。非光沢記録媒体に対してこのように記録が行われた場合には、光沢度に差があまり生じないので問題となる虞は少ない。しかし、図27(b)に示されるように、光沢記録媒体に対してこのように記録が行われると、光沢度における最大点と最小点との差が大きくなってしまい、光沢むらが生じる虞がある。
これに対して、光沢記録媒体用テーブルを用いて光沢記録媒体に記録を行う場合には、図28(a)に示されるように、途中でグレーインクを減少させずにインクの量を全体に亘って増やし続けることとする。つまり、黒の階調値が最大となる点まで第2ブラックインクよりも多くの量のグレーインクを使用し続けることとする。これにより、グレーインクに対して第2ブラックインクを混合していく過程において、グレーインクよりも第2ブラックインクの方が多く混合される領域が存在しなくなる。従って、第2ブラックインクがグレーインクよりも多く用いられる領域が存在することによる光沢度の低下を抑えることができる。
また、グレーインクのみで表現される比較的濃度の低い領域においては、図28(a)に示されるように、第2ブラックインクを混合させ始める階調値を、黒の濃度が小さい方へ移動させることとする。これにより、光沢記録媒体用テーブルにおいては、非光沢記録媒体用テーブルよりも、第2ブラックインクが混合される階調値が小さくなることとなる。例えば、この例におけるラインの光沢記録媒体用テーブル及び非光沢記録媒体用テーブルが8ビット、256階調で表されるとする。このとき、非光沢記録媒体用テーブルにおいては、階調値がおよそ128であるところで第2ブラックインクが混合されることとする。そして、このときの光沢記録媒体用テーブルにおいては、128よりも小さい階調値であるおよそ96で第2ブラックインクが混合されることとする。これにより、グレーインクが単独で用いられる領域が狭くなり、光沢度が上昇から下降へと切り替わる変局点の階調値が小さくなる。従って、光沢度が上昇する領域が狭くなるので光沢度の増加が抑えられる。このように、光沢記録媒体用テーブルにおいては、W(ホワイト)に近い階調の領域において、光沢度の上昇が抑制されている。
以上から、光沢記録媒体に対して、光沢記録媒体用テーブルに基づいて記録を行うことにより、光沢記録媒体上に付与されるインク滴において、W(ホワイト)−K(ブラック)に至る過程の全体に亘って光沢度の増減が低減される。これにより、光沢度における最高点と最低点との間の差を減少させることができる。従って、光沢記録媒体上で全体的に光沢度の差が抑えられ、光沢記録媒体において光沢むらが抑えられる。
このとき、記録媒体上におけるドットの粒状性を考慮し、第2ブラックインクの代わりに、ライトシアン、ライトマゼンタ、イエローを用いて記録媒体における表面を粗くし、光沢度の上昇を抑制してもよい。以上のような画像処理方法により、ブラックとなる手前の階調の領域における光沢度の低下と、濃度の低い階調の領域における光沢度の上昇を減少させることにより、この間の光沢度の差を小さくすることで光沢むらが生じることを抑えることができる。
記録が行われる際には、まずユーザが、記録装置に載置された記録媒体の種類が光沢記録媒体であるか非光沢記録媒体であるかについて、記録媒体の種類を設定する。このとき、記録装置が記録媒体の種類を検知し、検知された記録媒体の種類が記録装置に設定されることとしても良い。そして、設定された記録媒体の種類に応じて使用される記録モードが選択される。設定された記録媒体が光沢記録媒体であるときは光沢記録媒体用テーブルが用いられる記録モードが選択され、設定された記録媒体が非光沢記録媒体であるときは、非光沢記録媒体用テーブルが用いられる記録モードが設定される。このように、光沢記録媒体用テーブルと非光沢記録媒体用テーブルとから記録媒体の種類に応じてテーブルが選択されることになる。本実施形態では、光沢記録媒体用テーブルと非光沢記録媒体用テーブルとの二つのテーブルを有するものとしているが、これに限定されず、他の記録媒体に適するような他のテーブルが用意されていても良い。そして、選択されたテーブルに基づいて記録媒体に対して打ち込まれるインクの量が決定され、決定された量のインクが記録媒体に打ち込まれて記録が行われる。
なお、上述した例では、光沢度の異なる二種類の無彩色インクであるグレーインクと第2ブラックインクとを用いてグレーラインを表現する場合について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、相対的に光沢度の高いインクを、黒を示す高階調の領域まで第2ブラックインクよりも多く使用しているのであれば、濃度の異なる三種類以上のグレーインクを用いても良い。このとき、濃度の異なるグレーインクとして、例えば、濃・中・淡の三種類のグレーインクを用いてグレーラインを表現するようにしても良い。また、グレーインクは三種類でなくとも良く、それ以上のグレーインクが用いられてもよい。この場合、それぞれの種類のインク全てにおいて、非光沢記録媒体用テーブルよりも光沢記録媒体用テーブルの方が、濃度の高いインクを小さな階調値の段階で入れ始めることとしても良い。
(他のラインの例)
次に、図面を参照して他のラインの例について説明する。上述の例ではW(ホワイト)と第2ブラックとの間の色相について説明したが、ここでは図26に示される別のラインであるW(ホワイト)とC(シアン)との間の色相について説明する。すなわち、図26に示すW(ホワイト)からカラー(有彩色)としてのC(シアン)に至るまでのライン上の格子点に対する記録システムについて説明する。なお、W(ホワイト)からC(シアン)までの色相においても、以下に説明する特徴部を除き、W(ホワイト)とK(第2ブラック)との間の色相を例に説明した構成と同様の記録モードを有する記録システムが用いられる。図30(a)には、横軸としてW(ホワイト)からC(シアン)に至るまでのラインの色相における階調値を取り、縦軸として、それぞれのインクの単位面積当たりの使用量を取ったグラフが示されている。また、図30(b)には、横軸として図30(a)と同様にW(ホワイト)からC(シアン)に至るまでのラインの色相における階調値を取り、縦軸として光沢度を取ったものが示されている。
また、図29(a)には、図26に示すRGB空間において、非光沢記録媒体用テーブルが用いられて記録が行われる際の、W(ホワイト)とC(シアン)を結んだラインにおけるインクの単位面積当たりの使用量が示されている。また、図29(b)には、同じラインの色相における、非光沢記録媒体用テーブルが用いられて光沢記録媒体に対して記録が行われる際の光沢度の推移が示されている。以下、W(ホワイト)−C(シアン)ラインにおける非光沢記録媒体用テーブルが用いられて光沢記録媒体に対して記録を行う場合について説明する。W(ホワイト)−C(シアン)ラインにおいても、非光沢記録媒体用テーブルが用いられるのは通常非光沢記録媒体に対して記録を行うときであるが、ここでも比較のために、図29(b)には光沢記録媒体に対して記録を行う際の光沢度が示されるものとする。
このW(ホワイト)−C(シアン)のラインでは、ライトシアンインクとシアンインクとが用いられて画像が記録される。図23に示されるように、この例で用いられるライトシアンインクの光沢とシアンインクの光沢とを比較すると、ライトシアンインクの光沢の方がシアンインクのそれに比べて相対的に高い。図29(a)のように、W(ホワイト)に近い領域でライトシアンのみを単独で使用していくと、比較的低いインク滴のライトシアンインクによって記録媒体上の多くの領域が占められるので、記録媒体の光沢度が上昇する。そして、記録媒体上でのインクの色をW(ホワイト)からC(シアン)に近づけるために、途中からシアンインクを混合させることで、異なる高さのインク滴が混在するようになる。従って、記録媒体表面の高さが一様でなくなって粗くなり、光沢度の曲線が下降に転じる。そこからさらにシアンインクを増加させて、途中からライトシアンを減少させていくと、シアンインクが支配的となる領域で再び記録媒体上の表面が一様になり、光沢度が上昇する。この結果、記録媒体上における支配的なインクが切り替わる部分で光沢度の曲線が上昇・下降を行うことで、光沢度の曲線に変局点が存在することになり、これらの前後で光沢度が大きく変化する。このように、光沢記録媒体に非光沢記録媒体用テーブルが用いられて記録が行われた場合、記録媒体上で光沢度が大きく変化することから、この光沢度の差異により鑑賞者に違和感を与える場合がある。
しかしながら、非光沢記録媒体用テーブルが用いられるのは、非光沢記録媒体が設定されているときなので、非光沢記録媒体に対して記録されても、それ程光沢度に差が生じない。従って、このときには、光沢むらはそれ程問題にならない。
これに対して、図30(a)には、同じラインの色相において、光沢記録媒体用テーブルが用いられて記録が行われた場合のそれぞれのインクの単位面積当たりの使用量が示されている。また、図30(b)には、光沢記録媒体用テーブルを用いて光沢記録媒体に対して記録が行われたときの光沢度の推移が示されている。以下、光沢記録媒体用テーブルが用いられて光沢記録媒体に対して記録が行われる場合の記録モードについて説明する。この例では、W(ホワイト)−C(シアン)の色相のラインにおいて、非光沢記録媒体用テーブルと比較して低い階調値でライトシアンインクに対してシアンインクを混合させ始めている。図25により既に説明したように、複数のインクを混色させた場合の光沢度は、相対的に光沢度の高いインクを単独で使用した場合の光沢度よりも低くなる。従って、光沢記録媒体用テーブルでは、ライトシアンインクに対してシアンインクを濃度の小さい階調値で混合させることとする。これにより、記録媒体上の表面を低い階調値の段階から粗くする。こうすることで、相対的に光沢度の高いインクであるライトシアンインクのみが記録媒体上で単独で色を表現する階調の領域を狭くする。このようにして、光沢度の高いW(ホワイト)に近い階調の領域で光沢度の上昇を抑制し、光沢度における最高点と最低点との差を小さくしている。従って、色相の全体の領域に亘って、光沢の差を小さくすることで光沢むらを抑制している。結果的に、W(ホワイト)−C(シアン)の色相全体に亘って光沢度曲線の増減が低減されるので、記録媒体において全体的に光沢むらが抑えられる。従って、光沢記録媒体用テーブルに基づいて光沢記録媒体に記録を行ったときの光沢度における最高点と最低点との差は、非光沢記録媒体用テーブルに基づいて光沢記録媒体に記録を行ったときのそれよりも小さくなるようにされている。
なお、この例においては、ライトシアンインクとシアンインクを用いて、ホワイト−シアンの色相を表現する場合について説明した。しかし、他の同一色相における有彩色インク同士であって、淡インクが濃インクより相対的に光沢度の高い組み合わせにも適用可能である。また、この例では同色相の二種類のインク間のインク使用方法を示したが、同色相の三種類以上のインク間に適用してもよい。
(さらに他のラインの例)
次に、図面を参照してさらに他の色相におけるラインの例について説明する。ここでは、図26に示すテーブルのRGB空間において、さらに別の部分であるW(ホワイト)とカラー(有彩色)としてのB(ブルー)を結んだラインの格子点に対する色相の画像処理方法について説明する。なお、以下に説明する特徴部を除き、既に説明した他の色相のラインにおける構成と同様の記録モードを有する記録システムが用いられる。図31(a)には、W(ホワイト)とB(ブルー)との間のラインにおける非光沢記録媒体用テーブルが用いられて記録が行われた場合のそれぞれのインクの単位面積当たりの使用量が示されている。また、図31(b)には、W(ホワイト)とB(ブルー)との間のラインにおける格子点に対して非光沢記録媒体用テーブルが用いられて、光沢記録媒体に対して記録が行われた場合の光沢度が示されている。W(ホワイト)−B(ブルー)ラインにおいても、非光沢記録媒体用テーブルが用いられるのは通常非光沢記録媒体に対して記録を行うときであるが、ここでも比較のために、図31(b)には光沢記録媒体に対して記録を行う際の光沢度が示されるものとする。
この例では、このW(ホワイト)−B(ブルー)のラインは、有彩色インクとしてシアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタの4色が用いられて表現されている。図31(a)より、W(ホワイト)に近い階調の領域では、ライトシアン、ライトマゼンタの二色のみで表現されており、B(ブルー)に近い階調の領域に比べて比較的光沢度が高い。これは、ライトシアン、ライトマゼンタのインク滴の高さが、シアン、マゼンタのインク滴の高さよりも比較的低いことによる。ライトシアン及びライトマゼンタのみが用いられている階調の領域では、記録部の表面が一様に低くなり、その結果、記録部の表面が滑らかになる。このように、光沢度の異なるインクが用いられると、階調値によって光沢度に差異のある領域が存在することになり、鑑賞者に違和感を与える虞がある。ただし、非光沢記録媒体用テーブルが用いられるのは、通常、非光沢記録媒体に対してであるので、光沢の差はそれ程問題にはならない。
これに対して、図32(a)にはW(ホワイト)とB(ブルー)との間のラインに対して、光沢記録媒体用テーブルが用いられて記録が行われた場合のそれぞれのインクの単位面積当たりの使用量が示されている。また、図32(b)には、W(ホワイト)とB(ブルー)との間のラインに対して、光沢記録媒体用テーブルが用いられて光沢記録媒体に対して記録が行われた場合の光沢度が示されている。この例では、ライトシアン及びライトマゼンタに対して、ブルーの濃度の小さい低階調の段階で、シアン及びマゼンタを混合させることとする。これにより、ライトシアン、ライトマゼンタの二色のインクのみで表現される階調の領域を狭くしている。そして、ブルーの濃度の小さい低階調の領域での記録媒体の表面を粗くすることによって、記録媒体の表面上における光沢度の上昇が抑制される。そして、シアン、マゼンタのみで記録される比較的高階調の領域における低い光沢度との差を小さくしている。これにより、光沢記録媒体上における光沢度の最高点と最低点との差を小さく抑え、光沢むらを抑制している。従って、光沢記録媒体用テーブルに基づいて光沢記録媒体に対して記録を行ったときの光沢度の最高点と最低点との差は、非光沢記録媒体用テーブルに基づいて光沢記録媒体に対して記録を行ったときのそれよりも小さくなるようにされている。
なお、図32(a)、(b)に示される例では、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、およびマゼンタを用いて、ホワイト−ブルーの色相を表現する場合について示した。しかし、本発明はこれに限定されず、光沢度の異なる複数種類のインクが混合されて記録されるのであれば、他の色相のラインにおいて本発明が適用されても良い。このとき、用いられるインクの種類の数も限定されず、五種類以上であっても良いし二種類または三種類であっても良い。
(第2の実施形態)
上述した第1実施形態では、図28、図30、図32のように、光沢記録媒体に対して記録を行ったときに、光沢記録媒体用テーブルにおける相対的に光沢度の高い領域の光沢度を非光沢記録媒体用テーブルにおけるそれよりも小さく抑えた。また、図28のように、光沢記録媒体に対して記録を行ったときに、光沢記録媒体用テーブルにおける相対的に光沢度の低い領域の光沢度を上昇させることによって全体の光沢度の差を少なくした。以上のような方法により、光沢記録媒体上におけるインクの光沢度の差による光沢むらを抑制する方法について説明した。しかしながら、光沢記録媒体には、それ自体に様々な光沢度を有するものが存在する。このような光沢記録媒体自体の有する光沢度に対して、インクの光沢度との間に差が生じてしまうことで、光沢記録媒体とインクとの間にさらに大きな光沢むらが生じることがある。このような場合には、光沢記録媒体用テーブルを用いて記録を行う際に、非光沢記録媒体用テーブルを用いたときよりも光沢の差を抑えることに加え、さらに記録媒体の有する光沢度に応じて記録媒体に付与されるドットの光沢度を制御することが有効となる。記録媒体自体の光沢度と記録部の光沢度との差を小さくする観点から、本実施形態では、記録媒体に応じて光沢度を制御するような、光沢記録媒体用テーブルを用いるものとする。以下、図33(a)、(b)、(c)を参照して、記録媒体に応じて光沢度を制御するように設計される光沢記録媒体用テーブルについて説明する。
図33(a)、(b)、(c)は、ある色相間のラインに対して、非光沢記録媒体用テーブルを用いて複数種類のインクを光沢記録媒体に対して記録を行う場合の光沢度が示されている。なお、各図において、点線は光沢記録媒体の光沢度を示している。図33(a)に示されるように、非光沢記録媒体用テーブルを用いた場合、複数のインクが混在した領域における記録媒体表面上で、光沢の低下が生じている。特に、同図では、階調値の高い領域でインクが相対的に低い光沢度を有し、インクと記録媒体自体との光沢度の差が他の領域に比較して大きくなっている。そこで、光沢が低下している階調の領域における記録媒体の表面上のインク滴の高さを揃えるようにインクを混合させて記録することによって、記録部における光沢度を記録媒体の光沢度に近づける。これにより、記録部分における光沢度が図33(a)に示される矢印の方向に移動して記録媒体における光沢度に近づき、記録部分と記録媒体との間の光沢度の差異を小さくさせることで光沢むらが抑制される。
また、図33(b)の場合には、濃度の小さい低階調の領域における光沢度の上昇と、複数のインクが混在した高階調の領域における光沢度の低下との両方がインクと記録媒体自体との光沢度の差に影響を及ぼしている。記録媒体自身のW(ホワイト)に近い領域におけるインクの光沢度の上昇は、その領域で光沢度の高いインクが単独で用いられることにより記録媒体上におけるインク滴の高さが一様に低く揃えられて表面が滑らかになることによって生じる。また、複数のインクが混在した領域における光沢度の低下は、その領域でインクが混在していることによって、記録媒体表面上におけるインク滴の高さが一様ではなくなって粗くなることに起因している。このように、同図においては、上記の両方の階調の領域において記録媒体とインクとの間の光沢度の差が生じているので、記録媒体自体のW(ホワイト)に近い領域で光沢度を下げ、複数のインクが混在した領域で光沢度を上昇させることが好ましい。従って、記録媒体のW(ホワイト)に近い領域で異なるインクを混合させることにより、記録部の表面を粗くして一様でないようにする。そして、複数のインクが混在する高階調の領域では、記録媒体表面上のインク滴の高さをできるだけ整えるようにインクを使用する。このように設計された光沢記録媒体用テーブルによれば、記録媒体における記録部のインク滴の光沢度が図33(b)に示される矢印の方向に移動して、記録媒体自身の光沢度に近づく。従って、記録媒体自身の光沢度と記録部におけるインク滴の光沢度との間の光沢度の差が抑えられ、記録媒体自身と記録部との間の光沢むらを抑制することが可能となる。
また、図33(c)の場合には、記録媒体自身のW(ホワイト)に近い領域におけるインクの光沢度が上昇しており、これによって記録媒体自身の光沢度と記録部におけるインクの光沢度との間に大きな差が生じている。これは、記録媒体自身のW(ホワイト)に近い領域で、光沢度の高いインクが単独で用いられることによって記録媒体上におけるインク滴の高さが一様に低く揃えられていることに起因する。このように、記録媒体自身のW(ホワイト)に近い領域でインクの光沢度が過度に上昇することにより、その領域における記録媒体と記録部との間の光沢度の差によって光沢むらが生じている。従って、記録媒体自身のW(ホワイト)に近い領域で光沢度が上昇しないように、記録媒体表面を一様でなくして粗くし、これによって、インクの光沢度が過度に高い領域における光沢度を低減させる。つまり、記録部におけるインクの光沢度を図33(c)に示す矢印の方向に移動させて、インクの光沢度を記録媒体の光沢度に近づけている。このように設計された光沢媒体用テーブルによれば、記録媒体自身の光沢度と記録部におけるインクの光沢度の差が抑えられ、記録媒体上の光沢むらを抑制することが可能となる。