以下、本発明の複数の実施形態および参考例を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態および参考例において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
(参考例)
以下、本発明の参考例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の参考例における燃料噴射弁10の全体構造を示す断面図である。図2は、燃料噴射弁10の要部を拡大した概略断面図である。
図1に示す燃料噴射弁10は、例えば直噴式のガソリンエンジンに搭載され、当該エンジンの燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁である。燃料噴射弁10を直噴式ガソリンエンジンに搭載する場合、燃料噴射弁10はガソリンエンジンのシリンダヘッドに搭載される。
燃料噴射弁10は、筒部材12、入口部材14、ホルダ16、ノズルボディ18、ニードル弁20、可動コア34、電磁駆動部46、およびコイルスプリング56を有している。
筒部材12は、内径が軸方向へ概ね同一となるように筒状に形成されている。筒部材12は、第一磁性部12a、非磁性部12bおよび第二磁性部12cを有している。これらの部位12a、12bおよび12cは、同軸上に連結されている。非磁性部12bは、第一磁性部12aと第二磁性部12cとの磁気的な短絡を防止する。第一磁性部12a、非磁性部12bおよび第二磁性部12cは、例えばレーザ溶接などにより接続される。なお、筒部材12を磁性材料により筒状の一体物に成形し、熱加工することにより非磁性部12bに対応する部分を非磁性化しても良い。
入口部材14は、筒部材12の軸方向の一方の端部に設けられている。入口部材14は、筒部材12の内側に圧入されている。入口部材14は、燃料入口14aを有している。燃料入口14aは、燃料ポンプ(図示しない)から燃料が供給される燃料レール(図示しない)に接続される。燃料レールから燃料入口14aに供給された燃料は、筒部材12の内側に流入する。
ホルダ16は、筒状に形成されており、筒部材12の他方の端部に設けられている。ホルダ16の内側には、ノズルボディ18が設けられている。ノズルボディ18は、ホルダ16の筒部材12とは反対側の端部に設けられている。ノズルボディ18は、有底筒状に形成されており、例えば圧入あるいは溶接などによりホルダ16に固定されている。ノズルボディ18の底部は、筒部材12とは反対側に向うにしたがい、内径が小さくなる円錐状の内壁面18aを有している。その内壁面18a上には、シート部18bが形成されている。ノズルボディ18は、シート部18bの筒部材12とは反対側に、ノズルボディ18を貫いて内壁面と外壁面とを接続する複数の噴孔18cを有する。なお、ホルダ16およびノズルボディ18は、同一の部材により一体に構成しても良い。
筒部材12、ホルダ16およびノズルボディ18のそれぞれの内壁面は、燃料が流れる燃料通路60を形成する。燃料通路60は、一方の端部が燃料入口14aに連通しており、他方の端部が噴孔18cに連通しており、燃料入口14aより取り入れた燃料を噴孔18cに供給する。
ニードル弁20は、棒状に形成されており、軸方向に往復直線運動可能となるように燃料通路60内に収容されている。ニードル弁20は、軸部22と当接部30とを有している。当接部30は、シート部18bに着座可能な部位であって、軸部22のシート部18b側の端部に設けられている。当接部30は、シート部18bに向うにつれ、直径が小さくなるような円錐形状となっている。
ニードル弁20がシート部18bとは反対側に向って移動し、当接部30がシート部18bから離座すると、当接部30とシート部18bとの間に、移動した距離に応じた円環状の隙間が形成される。燃料通路60内の燃料は、当該隙間を通って噴孔18cに供給される。これにより、噴孔18cからの燃料噴射が許容され、噴孔18cから燃料が噴射される。
ニードル弁20がシート部18bに向って移動し、当接部30がシート部18bに着座すると、上記隙間が消滅する。これにより、燃料通路60内の燃料の噴孔18cへの供給が停止する。その結果、噴孔18cからの燃料噴射が禁止され、噴孔18cから燃料の噴射が停止する。以下、ニードル弁20の当接部30がシート部18bへ向う方向を着座方向といい、当該当接部30がシート部18bから離れる方向を離座方向という。
軸部22は、可動コア34がニードル弁20の軸方向に沿って移動することにより、後述する可動コア34が有しているコア側規制機構64と係合可能なニードル弁側規制機構62を有している。本参考例では、ニードル弁側規制機構62は、軸部22の径方向側面22aからニードル弁20の中心軸に向って凹む凹部24によって形成される。この凹部24は、当接部30と当接部30とは反対側の端面26との間の部位に、軸部22の径方向側面22a全周に亘って設けられている。
ニードル弁側規制機構62は、第一係合部62aおよび第二係合部62bを有している。第一係合部62aは、凹部24における着座方向側の内面24a上に設けられ、第二係合部62bは、凹部24における離座方向側の内面24b上に設けられている。内面24aおよび内面24bは、ニードル弁20の軸方向で向い合っている。内面24aおよび内面24bは、ニードル弁20の中心軸と交差する方向に沿った面である。第一係合部62aと第二係合部62bとは、ニードル弁20の軸方向に並んで配置されている。
軸部22は、上記端面26上に、燃料通路60内の燃料圧力が作用する受圧面28を有する。なお、受圧面28は、ニードル弁20の当接部30がシート部18bに着座している状態、および当該当接部30がシート部18bから離座している状態において、当該受圧面28に作用する燃料圧力と、当該当接部30に作用する燃料圧力との差によって発生する推力の向きが着座方向となるような形状および面積となっている。
本参考例のニードル弁20では、当接部30が着座方向を向いており、受圧面28が離座方向を向いている。当接部30がシート部18bに着座している状態では、受圧面28には燃料通路60内の燃料圧力が作用するものの、当接部30においては、シート部18bとの接触部分から噴孔18c側の部位には燃料通路60内の燃料圧力が作用しない。当該部位には、燃料通路60内の燃料圧力より非常に低いほぼ大気圧と同等の燃料圧力が作用することとなる。以上のように、受圧面28に作用する燃料圧力が、当接部30における上記噴孔18c側の部位に作用する燃料圧力よりも大きくなるため、ニードル弁20に着座方向の推力が発生することとなる。
当接部30がシート部18bから離座している状態では、受圧面28には燃料通路60内の燃料圧力が作用する。一方、当接部30は、当接部30とシート部18bとの間に形成される隙間を介して燃料通路60内の燃料に触れることとなるが、当該隙間は、当該隙間の上流側の燃料通路60の通路断面積よりも小さい。このため、当該隙間よりも噴孔18c側に流れる燃料の流量が制限され、当接部30に作用する燃料圧力が燃料通路60内の燃料圧力よりも低下する。以上のように、当接部30がシート部18bから離座しても、受圧面28に作用する燃料圧力が、当接部30に作用する燃料圧力よりも大きくなるため、ニードル弁20に着座方向の推力が発生することとなる。
また、軸部22は、燃料通路60内の燃料を流す連通路32を有する。連通路32は、上記端面26から軸方向に延びる縦孔と、この孔と軸部22の径方向側面22aとを接続する横孔とによって形成されている。縦孔は、凹部24よりも当接部30側にまで延びており、端面26側が開口し、当接部30側が閉塞している。横孔は、凹部24よりも当接部30側に形成されている。
可動コア34は、ニードル弁20を離座方向および着座方向に移動させるものである。可動コア34は、例えば鉄などの磁性材料から筒状に形成され、燃料通路60内に軸方向に往復直線運動可能に収容されている。可動コア34は、ニードル弁20に対してニードル弁20の軸方向に相対運動可能となっている。可動コア34は、可動コア34の内側にニードル弁20の上記端面26と凹部24の一部が収容されるように、ニードル弁20の軸方向で重なるように、かつニードル弁20の中心軸と同軸上に配置されている。
可動コア34は、有底円筒状の本体部36と、円盤部42とからなっている。本体部36は、開口している部分が当接部30側に向っており、内側にニードル弁20の端面26が収容されるようにニードル弁20に対して配置されている。本体部36の底部38から当接部30に向って延びる側部40の内壁面40aは、本体部36とニードル弁20とが少なくともニードル弁20の軸方向に相対運動可能となるように、上記端面26と上記第二係合部62bとの間におけるニードル弁20の径方向側面22aを径方向外側から支持している。
また、この本体部36の開口部とは反対側の底部38には、当該底部38の外壁面38aと内壁面38bとを接続する連通路38cが設けられている。可動コア34の内部には、底部38の内壁面40a、側部40の内壁面40a、ニードル弁20の端面26および連通路38cにより内部空間41が形成される。この内部空間41には、受圧面28が収容されている。
これにより、可動コア34の外側の燃料通路60内の燃料が内部空間41内に流入するため、燃料通路60内の燃料の圧力が受圧面28に作用することとなる。したがって、本参考例のように、可動コア34が受圧面28を覆うような構造となっていたとしても、確実に燃料通路60内の燃料圧力を受圧面28に作用させることができる。
円盤部42は、本体部36の開口部を塞ぐ位置に配置されている。円盤部42と本体部36とは例えば溶接にて接合される。円盤部42は、可動コア34がニードル弁20の軸方向に移動し、ニードル弁側規制機構62と係合することにより、可動コア34のニードル弁20に対する着座方向および離座方向の移動を規制するコア側規制機構64を有している。本参考例では、コア側規制機構64は切欠き部44によって形成される。
この切欠き部44は、図3に示すように、円盤部42の外周縁部から径方向中央部まで延び、かつ、円盤部42の軸方向に貫通している。切欠き部44は、外周縁部側の端部が開口しており、径方向中央部側の端部が閉塞している。切欠き部44における当該閉塞している側の内壁面44aは、円盤部42とニードル弁20とが少なくともニードル弁20の軸方向に相対運動可能となるように、凹部24の底面24cを径方向外側から支持している。図2に示すように、円盤部42の軸方向に開口している切欠き部44の開口部の外側には、ニードル弁20の凹部24内に突入し、突入した状態で上記両内面24aおよび24bの間を軸方向に移動可能であり、各内面24aおよび24bと向い合う端面45aおよび46bを有する凸部45が設けられている。端面45aは、凸部45の着座方向側に設けられ、内面24aと向い合っている。端面45bは、凸部45の離座方向側に設けられ、内面24bと向い合っている。
コア側規制機構64は、第一係合部64aおよび第二係合部64bを有している。第一係合部64aは、上記端面45a上に設けられ、第二係合部64bは、上記端面45b上に設けられている。コア側規制機構64の第一係合部64aは、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aと対向しており、コア側規制機構64の第二係合部64bは、ニードル弁側規制機構62の第二係合部62bと対向している。
ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aから第二係合部62bまでの距離L1は、コア側規制機構64の第一係合部64aから第二係合部64bまでの距離L2よりも広い。本体部36における底部38の内壁面38bは、ニードル弁20の第一係合部62aと可動コア34の第一係合部64aとが係合している状態おいて、ニードル弁20の端面26から離れている。
以上のようにニードル弁20および可動コア34が、それぞれニードル弁側規制機構62およびコア側規制機構64を有し、それぞれの機構62、64が有する第一係合部62a、64aおよび第二係合部62b、64bが、上述した位置関係となっているため、可動コア34は、上記距離L1から上記距離L2を差し引いた分の距離だけ、ニードル弁20に対して軸方向に相対運動可能となる。
可動コア34が着座方向に移動して、両規制機構62、64のそれぞれの両第一係合部62a、64aが係合すると、可動コア34のニードル弁20に対する着座方向への移動が規制される。可動コア34が離座方向に移動して、両規制機構62、64のそれぞれの両第二係合部62b、64bが係合すると、可動コア34のニードル弁20に対する離座方向への移動が規制される。
燃料噴射弁10は、電磁駆動部46を有している。電磁駆動部46は、通電されることにより、磁気吸引力を発生し、可動コア34を引き付ける駆動装置である。電磁駆動部46は、コイル50、固定コア52、およびハウジング部材54を有している。
コイル50は、筒部材12の外周側に設置されている。コイル50は、筒状に形成された樹脂製のスプールと、スプールの外周側に巻回された巻線部材とからなっている。この巻線部材は、図示しないコネクタ部の端子に接続されている。筒部材12を挟んでコイル50の内周側には、固定コア52が設置されている。固定コア52は、燃料通路60内に収容されている。固定コア52は、例えば鉄などの磁性材料により筒状に形成され、筒部材12の内周側に例えば圧入などにより固定されている。
固定コア52は、可動コア34の離座方向側に設置されている。固定コア52の可動コア34側の端面52aには、磁気吸引力を発生する吸引部52bが設けられている。吸引部52bは、吸引部52bと対向する本体部36における底部38の外壁面38aと当接可能となっている。
また、固定コア52は、上記ニードル弁20の第一係合部62aと上記可動コア34の第一係合部64bとが係合しており、かつニードル弁20の当接部30がシート部18bに着座している状態において、ニードル弁20の第二係合部62bから可動コア34の第二係合部64bまでの距離が、可動コア34の外壁面38aから吸引部52bまでの距離L3よりも狭くなる位置に固定されている。本参考例では、上記可動コア34の外壁面38aから吸引部52bまでの距離L3は、上記距離L1から上記距離L2を差し引いた分の距離よりも長い。
ハウジング部材54は、例えば鉄などの磁性材料により筒状に形成され、コイル50の外周側を覆っている。図2に示すようにハウジング部材54の軸方向の一方の端部、すなわちホルダ16側の端部が筒部材12の第一磁性部12aに接している。ハウジング部材54と第一磁性部12aとは溶接などにより固定されている。また、ハウジング部材54の軸方向の他方の端部、すなわちホルダ16とは反対側の端部が筒部材12の第二磁性部12cに接している。
固定コア52の内周側には、コイルスプリング56およびアジャスティングパイプ58が収容されている。コイルスプリング56の一方の端部は可動コア34に当接しており、他方の端部は、固定コア52の内周側に圧入によって固定されているアジャスティングパイプ58に当接している。
コイルスプリング56は、軸方向に圧縮された状態で、可動コア34とアジャスティングパイプ58との間に設置される。したがって、コイルスプリング56は、常に圧縮量に応じた弾性力を可動コア34に付与する。この弾性力は、ニードル弁20の着座方向を向いた、上記磁気吸引力の向きとは逆向きの力である。アジャスティングパイプ58の固定コア52に対する圧入量を調整することにより、当該弾性力が調整される。
コイルスプリング56の外径は、連通路38cの可動コア34の外部側の端部に位置する開口部41aの内径よりも大きくなっている。このため、コイルスプリング56は、内部空間41内に挿入されることがない。よって、コイルスプリング56の弾性力は、決してニードル弁20には付与されずに、可動コア34のみに付与されることとなる。
なお、本参考例では、ニードル弁20における凹部24の内面24aおよび内面24bが特許請求の範囲に記載の凹部の内面の対に相当し、可動コア34における凸部45の端面45aおよび端面45bが特許請求の範囲に記載の凸部の外面の対に相当する。
次に、上記構成による燃料噴射弁10の作動について図4および図5を用いて説明する。図4は、燃料噴射弁10の燃料噴射停止から燃料噴射に至るまでの可動コア34およびニードル弁20の運動の様子を示す模式図である。図5は、燃料噴射弁10の燃料噴射から燃料噴射停止に至るまでの可動コア34およびニードル弁20の運動の様子を示す模式図である。なお、図4および図5は、燃料噴射弁10の模式図であって、説明に必要な部材のみを描いた図である。
図4(a)に示すように、コイル50への通電が停止されているとき、固定コア52の吸引部52bには、磁気吸引力が発生していない。そのため、コイルスプリング56の弾性力により、可動コア34は着座方向に移動する。その結果、可動コア34の第一係合部64aとニードル弁20の第一係合部62aとが係合する。このとき、図4(a)に示すように、可動コア34の第二係合部64bはニードル弁20の第二係合部62bから距離L1−距離L2分だけ離れる。第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合することにより、可動コア34に付与された着座方向の弾性力が、第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じてニードル弁20に伝わる。この力の伝達作用により、当接部30がシート部18bに着座する。これにより、燃料通路60から噴孔18cへの燃料供給が停止されるため、燃料は噴孔18cから噴射されない。なお、コイルスプリング56は、可動コア34を常に着座方向に押し付けているため、ニードル弁20の着座状態が維持される。
コイル50が通電されると、コイル50に発生した磁界により、ハウジング部材54、第一磁性部12a、可動コア34、固定コア52および第二磁性部12cに磁束が流れ、磁気回路が形成される。これにより、固定コア52の吸引部52bに磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力がコイルスプリング56の弾性力よりも大きくなると、磁気吸引力から弾性力を差し引いた力に応じて、可動コア34は離座方向に移動しようとする。第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合している状態では、可動コア34の第二係合部64bは、ニードル弁20の第二係合部62bから、距離L1−距離L2分の距離だけ離れているため、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合するまで可動コア34のみが吸引部52bに向って離座方向に移動することが可能である(図4(b)を参照)。なお、可動コア34の第二係合部64bがニードル弁20の第二係合部62bに係合するまでの間、受圧面28と当接部30に作用する燃料圧力の差圧により発生するニードル弁20の着座方向の推力により、ニードル弁20の着座状態は維持される。
図4(b)に示すように、可動コア34が離座方向に移動すると、可動コア34の第二係合部64bがニードル弁20の第二係合部62bに係合する。第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合すると、可動コア34のニードル弁20に対する離座方向への移動が規制される。このとき、可動コア34の外壁面38aと固定コア52の吸引部52bとは、距離L3−(距離L1−距離L2)分の距離だけ離れているため、コイル50が通電され、吸引部52bに磁気吸引力が発生していれば、ニードル弁20は、可動コア34とともに吸引部52bに向って、すなわち離座方向に移動する(図4(c))。
ここで、可動コア34の第二係合部64bがニードル弁20の第二係合部62bに係合する際、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合するときの可動コア34がもつ運動量に基づく力と可動コア34に作用している磁気吸引力から弾性力を差し引いた力とが、第二係合部62bおよび第二係合部64bを通じてニードル弁20に伝わる。ニードル弁20は、可動コア34より伝わった力から差圧によりニードル弁20に発生する着座方向の推力を差し引いた力に応じて離座方向に移動する。これにより、当接部30がシート部18bから離座する。
当接部30がシート部18bから離座すると、当接部30とシート部18bとの間に隙間が形成される。燃料通路60内の燃料は、形成された隙間を介して噴孔18cに供給され、噴孔18cから燃料が噴射される。
ここで、一般的な電磁駆動式の燃料噴射弁について説明する。当該燃料噴射弁では、可動コアとニードル弁とは、軸方向に相対運動が不能となるように一体的に結合されている。このように一般的な燃料噴射弁では可動コアとニードル弁とが一体的に結合されているため、ニードル弁は、磁気吸引力からニードル弁を着座方向に押さえ付ける力を差し引いた力に応じた速度で離座方向に移動する。
一方、本参考例の燃料噴射弁では、上述したように可動コア34とニードル弁20とが軸方向に相対運動可能に組み付けられ、さらに、ニードル弁20および可動コア34とにそれぞれニードル弁側規制機構62およびコア側規制機構64が設けられ、加えて、これらの規制機構62、64および電磁駆動部46が上述した位置関係で配置されているため、磁気吸引力からコイルスプリング56の弾性力を差し引いた力だけでなく、可動コア34がもつ運動量に基づいた力が、両第二係合部62b、64bを通じてニードル弁20に伝わる。このことによれば、ニードル弁20の離座方向への移動速度を、上述した一般的な燃料噴射弁のニードル弁の離座方向への移動速度よりも高めることができる。
ここで、ニードル弁がシート部から離座した直後の燃料噴射の状態について説明する。上述したように、当接部30がシート部18bより離座した直後は、当接部30とシート部18bとにより形成される燃料通路60と噴孔18cとを連通する隙間が非常に小さく、十分な燃料が噴孔18cに供給されない。十分な燃料が噴孔18cに供給されないと、噴孔18cに流入する燃料の圧力が低下する。噴孔18cから流出する燃料の速度が低下するため、当接部30がシート部18bから最も離れた場合に比べ、噴孔18cから噴射される燃料の粒径が大きくなる。
上述したように本参考例の燃料噴射弁10によれば、ニードル弁20の離座方向への移動速度を高めることができるので、特に、当接部30とシート部18bとの間に形成される隙間が小さく、十分な燃料が噴孔18cに供給されない期間を短縮することができる。当該期間を短縮することができるので、噴孔18cから噴射される燃料のうち、比較的大きな粒径をもつ燃料の割合を小さくすることができる。
上述したように、ニードル弁20の離座方向への移動速度を高めることができるものの、ニードル弁20がシート部18bから離座している状態では、図4(b)に示すように、第一係合部62aおよび第一係合部64aの係合状態は解除されている。すなわち、この状態では、ニードル弁20は、第一係合部62aおよび第一係合部64a間の距離を縮める方向に移動が可能となる。例えば、第二係合部64bが第二係合部62bに衝突したときの反動により、ニードル弁20が可動コア34よりも離座方向側に移動し、第二係合部62bおよび第二係合部64bの係合状態が解除される。このようにニードル弁20が移動すると、ニードル弁20の動作は、可動コア34の動作に追従したものとならず、噴孔18cへの燃料の流入が安定せず、精確な燃料噴射が行えない。
本参考例では、ニードル弁20に受圧面28を設け、この受圧面28に燃料通路60内の燃料圧力を作用させることにより、ニードル弁20に着座方向への推力を発生させている。このことによれば、当接部30がシート部18bから離座している状態にあっても、ニードル弁20の第二係合部62bと可動コア34の第二係合部64bとの係合状態を極力維持することができる。これによれば、ニードル弁20の離座方向への移動中の動作を可動コア34の動作に追従させることができるので、精確な燃料噴射が行える。
第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合して、図4(c)に示すように、可動コア34が、距離L3−(距離L1−距離L2)だけ移動すると、可動コア34の外壁面38aが吸引部52bに衝突する。可動コア34が吸引部52bに衝突すると、可動コア34は着座方向へ跳ね返る。本参考例では、可動コア34とニードル弁20とが相対運動可能となっているため、ニードル弁20は離座方向への慣性力により移動を継続できる。このように、可動コア34とニードル弁20とが相反する方向に移動することができるので、ニードル弁20は可動コア34の固定コア52での跳ね返りの現象の影響を受け難くなる。このため、ニードル弁20が最大リフトに至ったときの噴射率の変動を極力抑えることができる。
図5(a)に示すように、可動コア34が固定コア52に当接している状態で、コイル50への通電が停止されると、固定コア52の吸引部52bに発生していた磁気吸引力が消滅する。これにより、可動コア34は、コイルスプリング56の弾性力により着座方向に移動する。磁気吸引力が消滅したとき、ニードル弁20の第一係合部62aと可動コア34の第一係合部64aとは離れているため、実質的に可動コア34のみが着座方向に移動する。ニードル弁20は慣性力によりその場にとどまろうとするからである。なお、ニードル弁20の受圧面28と当接部30とに作用する燃料圧力の差圧によっては、ニードル弁20に発生する着座方向の推力により、可動コア34の移動とともにニードル弁20も着座方向に移動することもある。本参考例では、可動コア34のみが移動する場合で説明する。
図5(b)に示すように、可動コア34が着座方向に移動すると、ニードル弁20の第二係合部62bと可動コア34の第二係合部64bとの係合が解除される。その後、更に可動コア34が着座方向に移動すると、可動コア34の第一係合部64aがニードル弁20の第一係合部62aに係合する。このとき、ニードル弁20の当接部30はシート部18bから離座している。
第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合するため、可動コア34のニードル弁20に対する着座方向への移動が規制される。そのため、ニードル弁20には、第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じて、可動コア34に付与されたコイルスプリング56の弾性力が伝わる。これにより、ニードル弁20は、可動コア34とともに着座方向に移動する。
そして、図5(c)に示すように、ニードル弁20の当接部30はシート部18bに再び着座し、当接部30とシート部18bとの間に形成されていた隙間が消滅する。これにより、噴孔18cへの燃料通路60からの燃料の供給が停止するので、噴孔18cからの燃料噴射が停止する。コイルスプリング56は、可動コア34を常に着座方向に押し付けているため、ニードル弁20がシート部18bに着座した後でも、当該弾性力は第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じてニードル弁20に伝わる。これにより、ニードル弁20の着座状態が維持される。また、同時に、このコイルスプリング56によれば、第一係合部62aおよび第一係合部64aを係合させ、かつ第二係合部62bおよび第二係合部64bを離間させる位置に可動コア34を保持させておくことができる。
本参考例では、以上説明したように、一つのコイルスプリング56だけで、ニードル弁20のシート部18bへの着座状態を維持させておくことができ、かつ可動コア34を第二係合部62bおよび第二係合部64bが離間した予め定められた位置に保持させることができる。すなわち、本参考例では、可動コア34を上記予め定められた位置に保持するのに、従来技術の燃料噴射弁が有していたストッパや、可動コアをストッパに押し付けるためだけに用いられる弾性部材を必要としない。本参考例では、コイルスプリング56は、ニードル弁20のシート部18bへの着座状態を維持させる機能と、可動コア34を上記予め定められた位置に保持するための機能を兼ね備えている。以上説明したように、本参考例によれば、ニードル弁の離座方向への移動速度を高める機能を簡単な構造で実現できる。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。第1実施形態は、参考例の変形例である。図6は、第1実施形態における燃料噴射弁110の要部を拡大した概略断面図である。第1実施形態では、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aから第二係合部62bまでの距離L1がコア側規制機構64の第一係合部64aから第二係合部64bまでの距離L2よりも狭くなっていることが特徴となっている。
本実施形態では、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aと第二係合部62bとが、コア側規制機構64の第一係合部64aと第二係合部64bとの内側でニードル弁120の軸方向に移動可能となっている。また、本実施形態では、参考例と同様に、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aとコア側規制機構64の第一係合部64aとが係合しており、かつニードル弁120の当接部30がシート部18bに着座している状態において、ニードル弁側規制機構62の第二係合部62bとコア側規制機構64から第二係合部64bまでの距離が、可動コア134の外壁面138aから吸引部52bまでの距離間隔L3よりも狭くなっている。
以下、第1実施形態における燃料噴射弁110のニードル弁120と可動コア134の構造を図6を用いて詳細に説明する。
ニードル弁120は、参考例と同様に、軸部122と当接部30とを有している。シート部18b側に設けられている当接部30は、シート部18bに向うにつれ、直径が小さくなるような円錐形状となっている。
軸部122は、ニードル弁側規制機構62を有する。本実施形態では、ニードル弁側規制機構62は、軸部122の径方向側面122aより径方向外側に突出する円環状の凸部124によって形成される。この凸部124は、軸部122の当接部30とは反対側の端部に設けられ、離座方向側に端面124aを有し、着座方向側に端面124bを有する。
ニードル弁側規制機構62は、第一係合部62aおよび第二係合部62bを有している。第一係合部62aは、凸部124の端面124a上に設けられ、第二係合部62bは、凸部124の端面124b上に設けられている。端面124aおよび端面124bは、ニードル弁20の中心軸と交差する方向に沿った面である。図6に示すように、第一係合部62aと第二係合部62bとは、ニードル弁20の軸方向に並んで配置されている。
加えて、軸部122は、上記端面124a上に、燃料通路60内の燃料圧力が作用する受圧面126を有する。なお、受圧面126は、ニードル弁120の当接部30がシート部18bに着座している状態、および当該当接部30がシート部18bから離座している状態において、当該受圧面126に作用する燃料圧力と、当該当接部30に作用する燃料圧力との差によって発生する推力の向きが着座方向となるような形状および面積となっている。
ニードル弁120の受圧面126および当接部30に燃料通路60内の燃料圧力が作用したときニードル弁120に発生する推力の向きが着座方向となる原理についての説明は、参考例と同じであるため、省略する。
可動コア134は、筒状に形成され、ニードル弁120に対してニードル弁120の軸方向に相対運動可能となっており、ニードル弁120の凸部124を内部に収容するように、ニードル弁120の軸方向で重なるように、かつニードル弁120の中心軸と同軸上に配置されている。
可動コア134は、有底円筒状の第一部材136と、有底円筒状の第二部材140とからなっている。第一部材136の内径は、第二部材140の外径とほぼ同じとなっている。図6に示すように、第一部材136および第二部材140は、第一部材136の内側の空間に第二部材140が収容されるように形成されている。第二部材140は、第二部材140の開口部側の端部が第一部材136の底部138の内壁面138bに当接するように第一部材136の内側の空間に収容されている。また、第一部材136と第二部材140とは溶接等により接合されている。
このように組み合わされた可動コア134は、第一部材136における底部138の外壁面138aが当接部30とは反対側を向き、第二部材140における底部142の外壁面142aが当接部30側を向くように燃料通路60内に配置されている。また、図6に示すように、第二部材140における底部142の内壁面142b、当該底部142から当接部30とは反対側に延びる側部146の内壁面146a、および第一部材136における底部138の内壁面138bにて形成される空間内にニードル弁120の凸部124が収容されている。また、第二部材140の底部142には、当該底部142の外壁面142aと内壁面142bとを接続する、軸部122が貫通可能な孔144が設けられている。
本実施形態では、第二部材140における側部146の内壁面146aは、第二部材140とニードル弁120とが少なくともニードル弁120の軸方向に相対運動可能となるように、ニードル弁120における凸部124の径方向側面124cを径方向外側から支持している。また、孔144の内壁面144aは、第二部材140とニードル弁120とが少なくともニードル弁120の軸方向に相対運動可能となるように、凸部124よりも当接部30側の径方向側面122aを径方向外側から支持している。
可動コア134は、可動コア134がニードル弁120の軸方向に移動し、ニードル弁側規制機構62と係合することにより、可動コア134のニードル弁120に対する着座方向および離座方向の移動を規制するコア側規制機構64を有する。コア側規制機構64は、第一係合部64aおよび第二係合部64bを有している。
なお、本実施形態では、第一部材136の底部138、第二部材140の底部142および側部146によって、孔144の内壁面144aよりも径方向外側に凹んだ凹部150が形成される。これらの部位138、142、146によって形成される凹部150には、図6に示すように、凸部124が軸方向に移動可能に突入されている。第一係合部64aは、第一部材136における底部138の内壁面138b上に設けられ、第二係合部64bは、第二部材140における底部142の内壁面142b上に設けられている。
コア側規制機構64の第一係合部64aは、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aと対向しており、コア側規制機構64の第二係合部64bは、ニードル弁側規制機構62の第二係合部62bと対向している。
本実施形態では、参考例と異なり、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aから第二係合部62bまでの距離間隔L1は、コア側規制機構64の第一係合部64aから第二係合部64bまでの距離間隔L2よりも狭い。
このように、ニードル弁120および可動コア34が、それぞれニードル弁側規制機構62およびコア側規制機構64を有し、それぞれの機構62、64が有する第一係合部62aおよび第一係合部64a、ならびに第二係合部62bおよび第二係合部64bが、上述した位置関係となっているため、可動コア134は、上記距離L2から上記距離L1を差し引いた分の距離だけ、ニードル弁120に対して軸方向に相対運動可能となる。
固定コア52は、上記ニードル弁120の第一係合部62aと上記可動コア134の第一係合部64aとが係合しており、かつニードル弁120の当接部30がシート部18bに着座している状態において、ニードル弁120の第二係合部62bから可動コア134の第二係合部64bまでの距離が、可動コア134における第一部材136の底部138の外壁面138aから吸引部52bまでの距離L3よりも狭くなる位置に固定されている。すなわち、本実施形態では、上記可動コア134の当該外壁面138aから吸引部52bまでの距離L3は、上記距離L2から上記距離L1を差し引いた分の距離よりも長い。
これにより、参考例と同様、可動コア134が固定コア52に向って、離座方向に移動し、ニードル弁120の第二係合部62bが可動コア134の第二係合部64bに係合した後、この係合状態を維持したまま、可動コア134およびニードル弁120が離座方向に移動可能となる。
また、可動コア134の第一部材136における底部138には、当該底部138の外壁面138aと内壁面138bとを接続する連通路138cが設けられている。可動コア134の内部には、第一部材136における底部138の内壁面138b、第二部材140における側部146の内壁面146a、ニードル弁120の端面124aおよび連通路138cにより内部空間148が形成される。この内部空間148には、受圧面126が収容されている。
これにより、可動コア134の外側の燃料通路60内の燃料が内部空間148内に流入するため、燃料通路60内の燃料の圧力が受圧面126に作用することとなる。したがって、本実施形態のように、可動コア134が受圧面126を覆うような構造となっていたとしても、確実に燃料通路60内の燃料圧力を受圧面126に作用させることができる。
また、コイルスプリング56の外径は、連通路138cの可動コア134の外部側の端部に位置する開口部148aの内径よりも大きくなっている。このため、コイルスプリング56は、内部空間148内に挿入されることがない。よって、コイルスプリング56の弾性力は、決してニードル弁120には付与されずに、可動コア134のみに付与されることとなる。
本実施形態では、ニードル弁120における凸部124の端面124aおよび端面124bが特許請求の範囲に記載の凸部の外面の対に相当し、第一部材136における底部138の内壁面138bおよびが第二部材140の底部142の内壁面142bが特許請求の範囲に記載の凹部の内面の対に相当する。また、本実施形態では、当該内壁面138bが特許請求の範囲に記載の凹部の離座方向側の内面に相当し、底部142の内壁面142bが特許請求の範囲に記載の凹部の着座方向側の内面に相当する。
次に、上記構成による燃料噴射弁110の作動について図7および図8を用いて説明する。図7は、燃料噴射弁110の燃料噴射停止から燃料噴射に至るまでの可動コア134およびニードル弁120の運動の様子を示す模式図である。図8は、燃料噴射弁110の燃料噴射から燃料噴射停止に至るまでの可動コア134およびニードル弁120の運動の様子を示す模式図である。
図7(a)に示すように、コイル50への通電が停止されているとき、固定コア52の吸引部52bには、磁気吸引力が発生していない。そのため、コイルスプリング56の弾性力により、可動コア134は着座方向に移動する。その結果、可動コア134の第一係合部64aとニードル弁120の第一係合部62aとが係合する。このとき、図7(a)に示すように、可動コア134の第二係合部64bはニードル弁120の第二係合部62bから距離L1−距離L2分だけ離れる。第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合することにより、可動コア134に付与された着座方向の弾性力が、第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じてニードル弁120に伝わる。この力の伝達作用により、当接部30がシート部18bに着座する。これにより、燃料通路60から噴孔18cへの燃料供給が停止されるため、燃料は噴孔18cから噴射されない。なお、コイルスプリング56は、可動コア134を常に着座方向に押し付けているため、ニードル弁120の着座状態が維持される。
コイル50が通電されると、コイル50に発生した磁界により、ハウジング部材54、第一磁性部12a、可動コア34、固定コア52および第二磁性部12cに磁束が流れ、磁気回路が形成される。これにより、固定コア52の吸引部52bに磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力がコイルスプリング56の弾性力よりも大きくなると、磁気吸引力から弾性力を差し引いた力に応じて、可動コア134は離座方向に移動しようとする。第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合している状態では、可動コア134の第二係合部64bは、ニードル弁120の第二係合部62bから、距離L1−距離L2分の距離だけ離れているため、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合するまで可動コア134のみが吸引部52bに向って離座方向に移動することが可能である(図7(b)を参照)。なお、可動コア134の第二係合部64bがニードル弁120の第二係合部62bに係合するまでの間、受圧面126と当接部30に作用する燃料圧力の差圧により発生するニードル弁20の着座方向の推力により、ニードル弁20の着座状態は維持される。
図7(b)に示すように、可動コア134が離座方向に移動すると、可動コア134の第二係合部64bがニードル弁120の第二係合部62bに係合する。第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合すると、可動コア134のニードル弁120に対する離座方向への移動が規制される。このとき、可動コア134の外壁面138aと固定コア52の吸引部52bとは、距離L3−(距離L2−距離L1)分の距離だけ離れているため、コイル50が通電され、吸引部52bに磁気吸引力が発生していれば、ニードル弁120は、可動コア134とともに吸引部52bに向って、すなわち離座方向に移動する(図7(c))。
ここで、参考例と同様に、可動コア134の第二係合部64bがニードル弁120の第二係合部62bに係合する際、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合するときの可動コア134がもつ運動量に基づく力と可動コア134に作用している磁気吸引力から弾性力を差し引いた力とが、第二係合部62bおよび第二係合部64bを通じてニードル弁120に伝わる。ニードル弁120は、可動コア134より伝わった力から差圧によりニードル弁120に発生する着座方向の推力を差し引いた力に応じて離座方向に移動する。これにより、当接部30がシート部18bから離座する。
当接部30がシート部18bから離座すると、当接部30とシート部18bとの間に隙間が形成される。燃料通路60内の燃料は、形成された隙間を介して噴孔18cに供給され、噴孔18cから燃料が噴射される。
本実施形態では、ニードル弁120を離座方向に移動させる際、磁気吸引力に加え、可動コア134のもつ運動量に基づいた力をニードル弁120に作用させることができるので、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62a、第二係合部62bおよびコア側規制機構64の第一係合部64a、第二係合部62bの位置関係が参考例の当該位置関係と異なっていても、可動コアとニードル弁とが軸方向に相対運動不能に結合された一般的な燃料噴射弁のニードル弁の離座方向への移動速度を高めることができる。よって、本実施形態によっても、参考例と同様、噴孔18cから噴射される燃料のうち、比較的大きな粒径をもつ燃料の割合を小さくすることができる。
また、本実施形態でも、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合すると、第一係合部62aおよび第一係合部64aの係合状態が解除されるので、参考例と同様、第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合した後のニードル弁120の動作が可動コア134の動作に追従したものとならず、精確な燃料噴射が行えない。
本実施形態でも、参考例と同様、ニードル弁120に受圧面126を設け、この受圧面126に燃料通路60内の燃料圧力を作用させる構成を採用しているため、当接部30がシート部18bから離座している状態にあっても、ニードル弁120の第二係合部62bと可動コア134の第二係合部64bとの係合状態を極力維持することができる。これによれば、ニードル弁120の離座方向への移動中の動作を可動コア134の動作に追従させることができるので、精確な燃料噴射が行える。
第二係合部62bおよび第二係合部64bが係合して、図7(c)に示すように、可動コア134が、距離L3−(距離L2−距離L1)だけ移動すると、可動コア134の外壁面138aが吸引部52bに衝突する。この実施形態においても、可動コア134とニードル弁120とが相対運動可能となっているため、可動コア134が吸引部52bより着座方向に跳ね返ったとき、ニードル弁120は離座方向への慣性力により移動を継続できる。すなわち、ニードル弁120は、可動コア134の固定コア52での跳ね返りの現象の影響を受け難くなる。このため、ニードル弁120が最大リフトに至ったときの噴射率の変動を極力抑えることができる。
図8(a)に示すように、可動コア134が固定コア52に当接している状態で、コイル50への通電が停止されると、固定コア52の吸引部52bに発生していた磁気吸引力が消滅する。これにより、可動コア134は、コイルスプリング56の弾性力により着座方向に移動する。磁気吸引力が消滅したとき、ニードル弁120の第一係合部62aと可動コア134の第一係合部64aとは離れているため、実質的に可動コア134のみが着座方向に移動する。ニードル弁120は慣性力によりその場にとどまろうとするからである。なお、ニードル弁120の受圧面126と当接部30とに作用する燃料圧力の差圧によっては、ニードル弁120に発生する着座方向の推力により、可動コア134の移動とともにニードル弁120も着座方向に移動することもある。本実施形態では、可動コア134のみが移動する場合で説明する。
図8(b)に示すように、可動コア134が着座方向に移動すると、ニードル弁120の第二係合部62aと可動コア134の第二係合部64aとの係合が解除される。その後、更に可動コア134が着座方向に移動すると、可動コア134の第一係合部64aがニードル弁120の第一係合部62aに係合する。このとき、ニードル弁120の当接部30はシート部18bから離座している。
第一係合部62aおよび第一係合部64aが係合するため、可動コア134のニードル弁120に対する着座方向への移動が規制される。そのため、ニードル弁120には、第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じて、可動コア134に付与されたコイルスプリング56の弾性力が伝わる。これにより、ニードル弁120は、可動コア134とともに着座方向に移動する。
そして、図8(c)に示すように、ニードル弁120の当接部30はシート部18bに再び着座し、当接部30とシート部18bとの間に形成されていた隙間が消滅する。これにより、噴孔18cへの燃料通路60からの燃料の供給が停止するので、噴孔18cからの燃料噴射が停止する。コイルスプリング56は、可動コア34を常に着座方向に押し付けているため、ニードル弁120がシート部18bに着座した後でも、当該弾性力は第一係合部62aおよび第一係合部64aを通じてニードル弁120に伝わる。これにより、ニードル弁120の着座状態が維持される。また、同時に、このコイルスプリング56によれば、第一係合部62aおよび第一係合部64aを係合させ、かつ第二係合部62bおよび第二係合部64bを離間させる位置に可動コア134を保持させておくことができる。
本実施形態であっても、参考例と同様、一つのコイルスプリング56だけで、ニードル弁120のシート部18bへの着座状態を維持させておくことができ、かつ可動コア134を第二係合部62bおよび第二係合部64bが離間した予め定められた位置に保持させることができる。すなわち、本実施形態では、可動コア134を上記予め定められた位置に保持するのに、従来技術の燃料噴射弁が有していたストッパや、可動コアをストッパに押し付けるためだけに用いられる弾性部材を必要としない。本実施形態では、コイルスプリング56は、ニードル弁120のシート部18bへの着座状態を維持させる機能と、可動コア134を上記予め定められた位置に保持するための機能を兼ね備えている。以上説明したように、本実施形態によれば、ニードル弁の離座方向への移動速度を高める機能を簡単な構造で実現できる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。図9は、第2実施形態における燃料噴射弁210の要部を拡大した概略断面図である。
以下、第2実施形態における燃料噴射弁210のニードル弁220と可動コア234の構造を図9を用いて詳細に説明する。
ニードル弁220は、第1実施形態と同様に、軸部222と当接部30を有している。当接部30は、シート部18bに向うにつれ、直径が小さくなるような円錐形状となっている。
軸部222は、その中間部に軸部222の径方向側面222aより径方向外側に突出する環状の凸部224を有する。凸部224は、外面の対としての端面224a、224bを有する。端面224a、224bは、可動コア234の凹部250に近づくほど間隔が狭くなるようなテーパ面を構成する。すなわち、端面224a、224bはともに、軸方向と直交する方向に沿った面に対して傾斜した面となる。また、端面224a、224b間の径方向端面224cは凹部250に触れていない。
この凸部224には、ニードル弁側規制機構62が形成されている。離座方向に位置する端面224aはニードル弁側規制機構62の第一係合部62aを形成し、着座方向に位置する端面224bは第二係合部62bを形成する。第一係合部62aおよび第二係合部62bはニードル弁220の軸方向に並んで配置されている。
軸部222は、離座方向の端部に受圧面226を有する。受圧面226は、当接部30がシート部18bに着座している状態、および当該当接部30がシート部18bから離座している状態において、当該受圧面226に作用する燃料圧力と、当該当接部30に作用する燃料圧力との差によって発生する推力の向きが着座方向となるような形状および面積となっている。
軸部222は、凸部224と当接部30との間に、ノズルボディ18の内壁面18aに支持される支持部224dを有する。内壁面18aは、軸方向と交差する方向(径方向)への移動を規制するとともに軸方向への移動を許容するように支持部224dを支持する。図10に示すように、支持部224dの断面は、円形とはなっておらず、略四角形状となっている。四角形状の角部が内壁面18aに支持されるのである。その他の部分と内壁面18aとの間には、燃料が噴孔18cに向って流通可能な燃料通路18dが形成される。
可動コア234は、円筒状の第一部材236と、有底円筒状の第二部材240とからなっている。筒部材12の内壁面12dは、第一部材236の側面238bを径方向外側から支持することにより、可動コア234の軸方向と交差する方向(径方向)への移動を規制するとともに、側面238bを摺動させることにより、当該側面238bの軸方向への移動を許容する。
第一部材236は、着座方向の端面238hより離座方向に向って凹む穴部238dを有する。図9に示すように、穴部238dには、ニードル弁220の軸部222において凸部224よりも離座方向の部位が挿入される。さらに、第一部材236は、穴部238dの底と離座方向の端面238aとを連通する連通路238cを有する。穴部238dの内壁面238eは、軸部222の径方向側面222aにおいて凸部224よりも離座方向に位置する部分を径方向外側から支持することにより、当該部分の軸方向と交差する方向(径方向)への移動を規制するとともに、当該部分を摺動させることにより軸方向への移動を許容する。
第一部材236は、穴部238dの開口部の周囲に位置する端面238hの外周側から着座方向に向って延伸することにより、当該端面238hおよび第二部材240を包囲する円筒状の包囲部238gを有する。穴部238dの内壁面238eには、端面238hよりも着座方向の燃料空間250aと連通路238cとを連通する連通路238fが凹設されている。本実施形態では、図11に示すように、連通路238fは周方向に四つ設けられている。なお、図11は、第一部材236の断面のみを示す。
第二部材240は、有底筒状に形成されており、包囲部238gの内側に収容される。第二部材240の底部242は着座方向に配置され、底部242から軸方向に延伸される円筒状の側部246の端面246aは第一部材236の包囲部238gに包囲された端面238hに突き当てられている。第二部材240は、側部246の角部に、包囲部238gの基端部とは反対方向に向って凹むような逃がし部246bを有している。
側部246の内径は、穴部238dの内径よりも大きくなっている。これにより、底部242の内壁面242aは第一部材236の端面238hと向い合うこととなる。
また、底部242には、ニードル弁220の軸部222において凸部224よりも着座方向の部位を挿通することができる孔244が形成されている。さらに、この孔244の内壁面244aには、底部242の内壁面242aと第一部材236の端面238hとの間に形成される燃料空間250aと、可動コア234の外部にある燃料通路60とを連通する連通路244bが凹設されている。本実施形態では、図12に示すように、連通路244bは周方向に四つ設けられている。なお、図12は、第二部材240の断面のみを示す。
第二部材240の軸方向長さは、包囲部238gの軸方向長さとほぼ同じとなっている。少なくとも包囲部238gの長さは、包囲部238gが第二部材240を収容したとき、包囲部238gの端部が底部242の内壁面242aよりも着座方向に位置するような長さとなっている。第一部材236と第二部材240とは、互いに溶接されている。図9に示すように、溶接箇所252は、底部242の内壁面242aよりも着座方向の位置となっている。
図9に示すように第一部材236および第二部材240が組み合わせられることにより、第一部材236と第二部材240との間に凹部250が形成される。凹部250は、内面の対としての第一部材236の端面238h、および底部242の内壁面242aを有する。端面238hおよび内壁面242aは、軸方向に対して直交する方向に沿った面となっている。この凹部250には、コア側規制機構64が形成される。凹部250の離座方向に位置する端面238hは、コア側規制機構64の第一係合部64aを形成し、着座方向に位置する内壁面242aは、第二係合部64bを形成している。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aから第二係合部62bまでの距離L1が、コア側規制機構64の第一係合部64aから第二係合部64bまでの距離L2よりも狭くなっている。このため、可動コア234は、上記距離L2から上記距離L1を差し引いた分だけ、ニードル弁220に対して軸方向に相対移動可能となる。
また、本実施形態では、第1実施形態と同様、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aとコア側規制機構64の第一係合部64aとが係合しており、かつニードル弁220の当接部30がシート部18bに着座している状態において、ニードル弁側規制機構62の第二係合部62bとコア側規制機構64から第二係合部64bまでの距離が、可動コア234の端面238a(第1実施形態では可動コア134の外壁面138a)から吸引部52bまでの距離L3よりも狭くなっている。このため、ニードル弁220は、可動コア234とともに固定コア52に向って移動可能となる。
このように、本実施形態の燃料噴射弁210における上記三つの距離L1、L2、L3の大小関係は、第1実施形態と同じであるため、ニードル弁220および可動コア234の開閉動作は第1実施形態のニードル弁120および可動コア134と同じとなる。よって、ここでは、両部材220、234の動作の説明を省略する。
次に、軸方向で向い合う凸部224の端面224aの軸方向に対する角度は、凹部250の端面238hの軸方向に対する角度と異なっており、端面224bの軸方向に対する角度は、内壁面242aの軸方向に対する角度と異なっていることによる効果について説明する。
図6に示すように、先の第1実施形態のニードル弁120の凸部124において、ニードル弁側規制機構62の第一係合部62aを形成する端面124a、第二係合部62bを形成する端面124bは、軸方向と直交する方向に沿った面に対してほぼ平行となっている。そして、可動コア134の凹部150において、コア側規制機構64の第一係合部64aを形成する内壁面138b、第二係合部64bを形成する142bは、軸方向と直交する方向に沿った面に対してほぼ平行となっている。
このため、可動コア134が着座方向へ移動することにより、第一係合部62a、64a同士が係合したとき、および可動コア134が離座方向へ移動することにより、第二係合部62b、64b同士が係合したとき、これらの係合部の係合部分は面接触となる。
これでは、第一係合部62a、64a同士が係合する際に、第一係合部62a、64a間の微小隙間に凹部150内に満たされている燃料が流入すると、流入燃料の表面張力により係合部62a、64a同士を吸着させる現象が発生する。なお、接触面積が大きいほど、係合部分に流入する燃料の量が多くなるため、この吸着現象による吸着力は大きくなる。
例えば、第一係合部62a、64a同士が係合している状態で、可動コア134の移動方向が離座方向に転じ、可動コア134が離座方向に移動しようとするとき、吸着現象による吸着作用により、可動コア134の移動が妨げられることとなり、可動コア134の応答性が低下することが懸念される。また、第二係合部62b、64b同士が係合している状態で、可動コア134の移動方向が着座方向に転じ、可動コア134が着座方向に移動しようとするとき、吸着現象による吸着作用により、可動コア134の移動が妨げられることとなり、可動コア134の応答性が低下することが懸念される。これらの結果、ニードル弁120の応答性が低下することとなる。この可動コア134の応答性は、吸着力が大きいほど低下する可能性がある。
これに対し、本実施形態では、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、ニードル弁220の凸部224の端面224aは傾斜しており、第一部材236の端面238hはほぼ平行となっている。このため、これら端面224aおよび端面238hは、軸方向に対する角度が異なることとなる。したがって、可動コア234が着座方向へ移動することにより、第一係合部62a、64a同士が係合したとき、これらの係合部62a、64aの係合部分は、線接触となる。
また、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、ニードル弁220の凸部224の端面224bは傾斜しており、第二部材240の底部242の内壁面242aはほぼ平行となっている。このため、これらの端面224bおよび内壁面242aは、軸方向に対する角度が異なることとなる。したがって、可動コア234が離座方向へ移動することにより、第二係合部62b、64b同士が係合したとき、これらの係合部62b、64bの係合部分は、線接触となる。
このように、第一係合部62a、64aの係合部分、および第二係合部62b、64bの係合部分が線接触となっていると、当該係合部分に流入する燃料量が面接触の場合に比べ少なくなる。このため、係合部分に発生する吸着力は小さくなる。よって、第1実施形態のような第一係合部62a、64aの係合部分、および第二係合部62b、64bの係合部分が面接触となっている場合に比べ、可動コア234の応答性の低下を抑制させることができ、ニードル弁220の応答性の低下を抑制させることができる。
なお、ニードル弁220の凸部224の端面224a、224bを軸方向と直交する方向に沿った面に対してほぼ平行とし、可動コア234の凹部250の端面238h、内壁面242aを軸方向と直交する方向に沿った面に対して傾斜するテーパ面としてもよい。この場合、端面238h、内壁面242aは、凸部224に近づくほど両面238h、242aの間隔が広がるようにすることができる。このような場合であっても、上述した効果を得ることができる。
次に、第一部材236の連通路238fおよび第二部材240の連通路244bを可動コア234が有することによる効果を説明する。
最初に、端面238hと内壁面242aとの間に形成される凹部250内の燃料空間250aにおける燃料圧力について説明する。可動コア234は、燃料が流通する筒部材12内に収容されているため、凹部250内の燃料空間250aは燃料で満たされることとなる。
例えば、先の第1実施形態の燃料噴射弁110において、凹部250内に突入された凸部224が可動コア134の移動により燃料空間250aで移動すると、燃料空間250aに存在する燃料が凸部224によって掻き乱され、燃料空間250aの圧力が不安定となる。このように燃料空間250aの圧力が不安定となると、可動コア134やニードル弁120の動作が不安定となるおそれがある。
本実施形態では、第1実施形態の燃料噴射弁110とは異なり、可動コア234に連通路238cおよび連通路238f、ならびに連通路244bが設けられている。凹部250内の燃料空間250aは、連通路238cおよび連通路238fによって可動コア234の外部にある燃料通路60と連通する。そして、上記凹部250内の燃料空間250aは、連通路244bによって可動コア234の外部にある燃料通路60と連通する。このように連通路238cおよび連通路238fならびに連通路244bが可動コア234に設けられることによれば、燃料空間250aの燃料を可動コア234の外部に排出したり、燃料空間250aに可動コア234の外部の燃料を流入させたりすることが容易となる。
例えば、第二係合部62b、64b同士が係合している状態で、可動コア234の移動方向が転じ、可動コア234が着座方向へ移動するとき、上述したように凸部224によって燃料空間250aの燃料は掻き乱される。このとき、燃料空間250aにおいて、第一部材236の端面238hとニードル弁220の端面224aとの間に形成される燃料空間は徐々に小さくなり、第二部材240の内壁面242aとニードル弁220の端面224bとの間に形成される燃料空間は徐々に大きくなる。燃料空間250aにおいて上記各燃料空間の体積変化が発生すると、端面224a側の燃料空間に存在する燃料が、連通路238fおよび連通路238cを通じて燃料通路60に排出され、燃料通路60内の存在する燃料が、連通路244bを通じて端面224b側の燃料空間に流入されるため、凸部224が移動することによる燃料空間250aの圧力が不安定となるのが抑制される。このように、連通路238cおよび連通路238f、ならびに連通路244bが設けられることにより、可動コア234の移動時の凹部250の燃料空間250aの圧力が不安定となるのを抑制することができるのである。このため、可動コア234やニードル弁220の動作が不安定となるのを抑制することができる。なお、本実施形態のように可動コア234は、連通路238cおよび連通路238fからなる通路と、連通路244bからなる通路とを有しているが、いずれか一つでもニードル弁220を安定して動作させる効果を有する。
また、本実施形態では、第一係合部62a、64aの係合部分の接触面積、および第二係合部62b、64bの係合部分の接触面積をさらに小さくすることができるような位置に上記連通路238f、244bの凹部250側の開口位置を設定している。
凹部250内の燃料空間250aと燃料通路60とを連通する連通路238fにおいて、凹部250側の端部は、第一係合部62a、64a同士が係合する際に、第一係合部64aにおいて第一係合部62aと接触する部位に開口している。このような部位に連通路238fが開口していると、図11に示すように、第一係合部62a、64aの係合部分の接触面積が、上記部位以外に連通路238fが開口している場合に比べ減少する。このため、第一係合部62a、64a同士が係合する際に第一係合部62a、64aの係合部分の間に燃料が流入することにより発生する吸着力がさらに小さくなる。よって、可動コア234の離座方向への応答性がさらに向上する。
一方、凹部250内の燃料空間250aと燃料通路60とを連通する連通路244bにおいて、凹部250側の端部は、第二係合部62b、64b同士が係合する際に、第二係合部64bにおいて第二係合部62bと接触する部位に開口している。このような部位に連通路244bが開口していると、図12に示すように、第二係合部62b、64bの係合部分の接触面積が、上記部位以外の位置に連通路244bが開口している場合に比べ減少する。このため、第二係合部62b、64b同士が係合する際に第二係合部62b、64bの係合部分の間に燃料が流入することにより発生する吸着力がさらに小さくなる。よって、可動コア234の着座方向への応答性がさらに向上する。
また、連通路238f、244bの凹部250側の開口位置がそれぞれ、上述した部位となっていると、連通路238fが第一係合部62a、64aの係合部分と隣接し、連通路244bが第二係合部62b、64bと隣接することとなる。このため、第一係合部62a、64a同士、および第二係合部62b、64b同士が離間しようとする際に、連通路238f、244bより各係合部分へ燃料をいち早く流入させ、燃料の表面張力効果をいち早く減らすことができ、係合部分における吸着力をいち早く減らすことができる。その結果、可動コア234の着座方向および離座方向への応答性が向上することとなる。
また、本実施形態では、図9に示すように、第一部材236の側面238bは、可動コア234の径方向への移動が規制されるとともに軸方向への移動が許容されるように筒部材12の内壁面12dに支持されている。これによれば、可動コア234は、径方向への移動することなく、軸方向に沿って移動することとなる。このため、第一部材236の穴部238dの内壁面238eも、径方向へ移動することなく、軸方向に沿って移動することとなる。そして、第一部材236の穴部238dの内壁面238eは、軸部222の径方向側面222aのうち、凸部224よりも離座方向に位置する部分を径方向外側から支持することにより、当該部分の径方向への移動を規制するとともに、当該部分を摺動させることにより、当該部分の軸方向への移動を許容している。これらのことにより、当該部分は、径方向へ移動することなく、軸方向に沿って移動することとなる。
また、本実施形態では、ノズルボディ18の内壁面18aは、可動コア234の穴部238dよりも着座方向に位置する支持部224dを径方向外側から支持することにより、支持部224dの径方向への移動を規制するとともに、支持部224dを摺動させることにより、支持部224dの軸方向への移動を許容している。このため、当該支持部224dは、径方向へ移動することなく、軸方向に沿って移動することとなる。
ニードル弁220は、軸方向に沿って複数箇所で支持されるため、軸方向に対して傾くことなく軸方向に沿って移動することが可能となる。よって、ニードル弁220の開閉動作が安定する。
ここで、二つの部材を溶接する際、溶接時の熱によって部材が歪む場合がある。例えば、可動コアが、二つの部材からなり、各部材の向い合う端部にコア側の第一、第二係合部が形成されており、各部材の向い合う端部の突合せた部分を溶接する場合、溶接箇所と第一、第二係合部との距離が短く、溶接時の熱による歪みが発生しやすくなる。溶接時の熱により第一、第二係合部に歪みが発生すると、ニードル弁側の第一係合部や第二係合部との隙間が予め定められたものからずれてしまい、所望の噴射特性が得られなくなるおそれがある。
これに対し、本実施形態では、可動コア234が二つの部材236、240からなり、各部材236、240の向い合う端部にコア側規制部材64の第一、第二係合部64a、64bが形成されるものにおいて、第一部材236は第一、第二部材236、240を互いに溶接するための包囲部238gを有している。この包囲部238gは、上述したように第一部材236の第一係合部64aよりも着座方向に向って延伸することにより、第一係合部64aおよび第二部材240を包囲する部材である。そして、本実施形態では、包囲部238gにおいて第二部材240の第二係合部64bよりも着座方向の部位を第一部材236と第二部材240との溶接箇所252としている。
このような構造および位置で第一、第二部材236、240を溶接することによれば、溶接箇所252を第一係合部64aから確実に遠ざけることが可能となる。よって、溶接時の熱による第一係合部64aの歪みの発生を抑制することが可能となる。また、包囲部238gは、第二部材240を包囲する構造となっているため、第二部材240の存在に係わらず、包囲部238gを着座方向に向って延伸させることが可能である。そして、延伸させた包囲部238gに合わせて第二部材240の底部242の厚さを大きくし、第二係合部64bから着座方向に極力離れた部位を溶接する。このことによれば、溶接箇所252を第二係合部64bからも遠ざけることが可能となる。よって、溶接時の熱による第二係合部64bの歪みの発生を抑制することが可能となる。以上説明したように、第一部材236の第一係合部64aよりさらに着座方向に向って延伸する包囲部238gを第一部材236に設けるとともに、第一部材236と第二部材240との溶接箇所252を第二係合部64bよりも着座方向の部位とすることによれば、溶接時の熱による第一、第二係合部64a、64bの歪みの発生を抑制することが可能となる。よって、両部材236、240を溶接することによって、所望の噴射特性が得られなくなるという問題を回避することが可能となる。
本実施形態では、第二部材240の底部242から軸方向に延伸される円筒状の側部246の端面246aを第一部材236において包囲部238gによって包囲される端面238hに突き当てることにより、第二部材240は包囲部238gの内側に収容される。このため、底部242の内壁面242aと、端面238hとの距離は、側部246の長さによって決定されることとなる。本実施形態では、側部246の端面246aを削ることによって、第一、第二係合部64a、64b間の距離を調整して、第一係合部62a、64a間の距離、および第二係合部62b、64b間の距離を調整するようにしている。このことにより、これらの距離がばらつくことによる、噴射特性のばらつきを抑制し、均質な製品を製造することができる。
ところが、包囲部238gが、第一部材236の第一係合部64aよりもさらに着座方向に向って延伸するように第一部材236に設けられ、第二係合部64bより第一部材236に向って延伸する側部246の端面246aを端面238hに突き当てて第一、第二係合部64a、64b間の距離を確定させる構造を採用した場合、側部246の端面246aを第一部材236の当該端面238hに突き当てる際に、包囲部238gの基端部に形成されることの多いR部に、側部246が乗り上がることがある。側部246がR部に乗り上がると、側部246の端面246aを包囲部238gの端面238hに確実に突き当てることができず、たとえ、第一、第二係合部64a、64b間の距離を調整するために、当該端面246aを削ったとしても、当該距離を適切に調整することができないおそれがある。
そこで、本実施形態では、包囲部238gの基端部と対向する側部246の角部に、包囲部238gの基端部とは反対方向に向って凹むような逃がし部246bが形成されている。この構成によれば、側部246の端面246aを端面238hに突き当てる際に、側部246がR部に乗り上がってしまうことを回避することができる。このため、側部246の端面246aを端面238hに確実に突き当てることが可能となる。よって、コア側規制機構64の第一、第二係合部64a、64b間の距離の調整を精度良く行うことができる。
特に、本実施形態では、穴部238dの内壁面238eが特許請求の範囲に記載の第一ガイド部に相当し、ノズルボディ18の内壁面18aが特許請求の範囲に記載の第二ガイド部に相当する。また、第二部材240の側部246が特許請求の範囲に記載の延伸部に相当する。連通路238cおよび連通路238fから構成される通路が特許請求の範囲に記載の貫通孔に相当する。また連通路244bが特許請求の範囲に記載の貫通孔に相当する。
(第2実施形態の変形例)
図13は、第2実施形態の変形例における燃料噴射弁310の要部を拡大した概略断面図である。第2実施形態の変形例における燃料噴射弁310は、第2実施形態における燃料噴射弁210が有していた連通路238f、244bを有していない。
第一、第二部材236、240が連通路238f、244bを有していない構成であっても、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、凸部224の端面224aは傾斜しており、第一部材236の端面238hはほぼ平行となっている。そして、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、凸部224の端面224bは傾斜しており、第二部材240の内壁面242aはほぼ平行となっている。よって、この変形例でも第2実施形態と同様に、第一係合部62a、64a同士が係合したとき、および第二係合部62b、64b同士が係合したときの各係合部分は線接触となるので、係合部間の隙間に燃料が流入することにより発生する吸着力の影響を極力小さくすることができ、ニードル弁220の応答性の低下を抑制させることができる。
(第3実施形態)
図14は、第3実施形態における燃料噴射弁410の要部を拡大した概略断面図である。上記第2実施形態およびその変形例における燃料噴射弁210、310は、軸部222の中間部に凸部224を有するニードル弁220を用いていたが、この第3実施形態における燃料噴射弁410は、軸部322の離座方向の端部に凸部224を有するニードル弁320が用いられている。ニードル弁320の凸部224よりも離座方向には、軸部322が存在しない。よって、第一部材236の穴部238dには、軸部322が挿入されていない。ニードル弁320以外の部品については、第2実施形態と同じである。ここでは、第2実施形態と相違している部分を中心に説明する。
このようなニードル弁320を採用すると、ニードル弁320は軸方向に1箇所でしか支持されなくなる。具体的には、ニードル弁320の支持部224dのみがノズルボディ18に支持されるだけである。このため、ニードル弁320は軸方向に対して傾くおそれがある。
これに対し、本実施形態では、このようなことを抑制するために、軸部322の径方向側面322aにおいて支持部224dと凸部224との間に位置する部分を径方向外側から支持することにより、当該部分の径方向への移動を規制するとともに、当該部分を摺動させることにより、当該部分の軸方向への移動を許容するガイド部318を、特許請求の範囲に記載のボディの一部としての円筒部材12またはホルダ16の内周側に設けている。このため、当該径方向側面322aにおいてガイド部318に支持される部分は、径方向へ移動することなく、軸方向に沿って移動することとなる。なお、このガイド部318に支持される当該部分は、ニードル弁320において第一部材236の穴部238dの内壁面238eよりも着座方向に位置する。本実施形態では、ガイド部318が特許請求の範囲に記載の第二ガイド部に相当する。
このことによれば、ニードル弁320は、軸方向に沿って2箇所で支持されることとなるため、ニードル弁320が軸方向に対して傾くことなく軸方向に沿って移動することが可能となる。よって、ニードル弁320の開閉動作が安定する。
(第3実施形態の変形例)
図15は、第3実施形態の変形例における燃料噴射弁510の要部を拡大した概略断面図である。上記第3実施形態の変形例における燃料噴射弁510は、第3実施形態における燃料噴射弁410が有していた連通路238f、244bを有していない。
第一、第二部材236、240が連通路238f、244bを有していない構成であっても、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、凸部224の端面224aは傾斜しており、第一部材236の端面238hはほぼ平行となっている。そして、軸方向と直交する方向に沿った面に対して、凸部224の端面224bは傾斜しており、第二部材240の内壁面242aはほぼ平行となっている。よって、この変形例でも第2実施形態と同様に、第一係合部62a、64a同士が係合したとき、および第二係合部62b、64b同士が係合したときの各係合部分は線接触となるので、係合部間の隙間に燃料が流入することにより発生する吸着力の影響を極力小さくすることができ、ニードル弁320の応答性の低下を抑制させることができる。
(その他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
第1実施形態では、可動コア134を構成する第一部材136と第二部材140とは溶接にて固定されているが、第一部材136に第二部材140を圧入することにより、第一部材136および第二部材140を固定するようにしても良い。加えて、上記先の実施形態では、燃料噴射弁10は、直噴式ガソリンエンジンに搭載されるものとしていたが、直噴式ガソリンエンジンに限るものではなく、ポート噴射式のガソリンエンジン、またはディーゼルエンジンなどに搭載させても良い。