例えば空調機器、給湯機、空気清浄機、複写機およびプリンタなどの電気機器に用いられる各種駆動用モータは、長寿命、高信頼性および速度制御の容易さなどの長所を活かして、ブラシレスDCモータが用いられることが多い。
このような速度制御が可能なモータにおいて、例えば、一定速度での運転状態から速度が低下するように減速した場合、モータが発電機として作用し、本来モータに電力を供給するための電源や駆動回路に対して、逆にモータが電力を供給してしまう、いわゆる回生現象が発生することが知られている。
図7は、上述したようなブラシレスDCモータを駆動する従来のモータ駆動装置の構成を含むブロック図であり、図8は、このような従来のモータ駆動装置の動作説明図である。また、図9は、このような従来のモータ駆動装置における回生現象の様子を説明するために示した図であり、図10は、このような回生現象を説明するために示した図である。
以下、これら図面を用いて、正弦波状にパルス幅変調された駆動信号を利用してブラシレスDCモータを駆動する従来のモータ駆動装置の構成および動作とともに、このような従来技術において生じる回生現象について説明する。
図7において、モータ駆動装置800には、直流電源805から電圧VDCの直流電力が供給され、モータ駆動装置800は、供給された直流電力を駆動電力に変換し、変換した駆動電力をブラシレスDCモータであるモータ810に供給する。また、モータ駆動装置800には、上位器から速度指令信号Srefが通知され、モータ810に配置された速度検出手段890から速度検出信号FGが通知される。
モータ810は、U相駆動巻線811、V相駆動巻線813およびW相駆動巻線815を有し、モータ駆動装置800は、これら各駆動巻線に対し駆動電力を供給する。
モータ駆動装置800は、インバータ820、インバータ駆動部830および速度制御部840から構成されている。速度制御部840は、速度指令信号Srefや速度検出信号FGに基づき、速度制御するための駆動制御信号VSPを生成し、インバータ駆動部830に通知する。インバータ駆動部830は、駆動制御信号VSPに基づき、インバータ820を駆動制御するための駆動信号を生成し、インバータ820を駆動する。このようにして、インバータ820は、供給された直流電力を、駆動制御信号VSPにより調整された駆動電圧に変換し、変換した駆動電圧をモータ810に供給する。
また、インバータ820は、モータ810の駆動巻線811、813および815を、正極側電源線路Vpに接続する正極側のスイッチ素子821、823および825と、負極側電源線路Vnに接続する負極側のスイッチ素子822、824および826とを備える。
また、インバータ駆動部830は、正弦波状の波形信号WFを生成する波形生成部831と、波形信号WFに応じてパルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下、適宜、「PWM」と呼ぶ)された駆動信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLを生成するパルス幅変調部832とを有している。駆動信号UH、VHおよびWHは、互いに電気角120度の位相差をもち、また、駆動信号UL、VL、WLも、互いに電気角120度の位相差をもったパルス状の信号である。このような各駆動信号が、図7に示すように、インバータ820の各スイッチ素子(以下、適宜、単に「スイッチ」と呼ぶ)にそれぞれ対応して接続され、それぞれオンまたはオフ動作させる。
次に、以上のように構成された従来のブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置の動作について説明する。なお、ここでは、インバータ820の駆動電圧U出力に接続されたU相駆動巻線(以下、適宜、単に「巻線」と呼ぶ)811に対する動作を中心に説明する。
まず、マイクロコンピュータやDSPなどで構成される上位器から、速度指令信号Srefが速度制御部840に通知される。速度指令信号Srefは、モータ810の速度を指令する信号である。
速度指令信号Srefに応じたモータ810の速度となるように制御するため、速度制御部840は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとが同じ値となるように、駆動制御信号VSPを調整する。さらに、波形生成部831は、駆動制御信号VSPに応じて調整される振幅の正弦波状の波形信号WFを生成する。
図8において、波高値WFHの正弦波状の波形信号WFは、波形生成部831がこのようにして生成した信号であり、三角波状の信号CYは、パルス幅変調部832の内部で生成したPWMキャリア信号である。波形信号WFは、パルス幅変調部832によりキャリア信号CYと比較される。その比較結果に応じてインバータ820のスイッチ821および822は相補的にオン、オフされる。その結果、図8に示す駆動電圧Uがインバータ820から出力され、巻線811に印加される。これにより、巻線811にはU相駆動電流Iuが流れるとともに、波高値UemfHの誘起電圧Uemfが生じる。なお、駆動電圧Uは、瞬時的には直流電源805の正極側電圧と負極側電圧との間を交互に変化するパルス状の電圧であるが、パルス幅変調の原理から平均値的には波形信号WFに応じた正弦波状の電圧となる。したがって、巻線811にはU相の波形信号WFと同様の正弦波状の電圧が印加されることになる。また、相補的にとは、一方のスイッチがオンしている間は他方がオフし、一方のスイッチがオフしている間は他方がオンするように動作することである。
また、図8には、正極側および負極側のスイッチが相補的にオン、オフされる詳細なタイミングを示している。図8では、スイッチ821をオン、オフする駆動信号UHと、スイッチ822をオン、オフする駆動信号ULとを示している。駆動信号UHおよびULにおいて、Hレベルの間がそれぞれのスイッチのオンを意味し、Lレベルの間がオフを意味する。図8に示すように、厳密には、双方のスイッチのオンとオフとが入替わる際に、デッドタイムあるいはオンディレィと呼ばれる時間tdの期間だけ双方のスイッチがともにオフするような一瞬の時間が設けられる。これは、直流電源805の短絡を防止するためであり、周知の技術である。
また、V相駆動巻線813およびW相駆動巻線815に対しても、U、VおよびW相それぞれが互いに電気角120度の位相差を保ちながら、U相駆動巻線811と同様にして、インバータ820から駆動電圧Vおよび駆動電圧Wによって正弦波状の電圧が印加される。
以上のようにして、駆動制御信号VSPによって調整された波高値の正弦波電圧が、各相の巻線811、813および815に印加され、これにより、モータ810は、速度を制御するように各巻線への駆動電力が調整されながら、正弦波駆動される。
次に、このようなモータ駆動装置800において生じる回生現象について説明する。
図9において、波形信号WFは、インバータ820が出力する駆動電圧Uに対応しており、この駆動電圧Uの平均値(波形信号WFに対応)が、巻線811からの誘起電圧Uemfよりも小さくなった場合の動作を示している。このように、駆動電圧が誘起電圧よりも小さくなる状態は、モータを減速しようとする際など、波形信号WFの波高値を低下させた場合に起こる。
まず、図9に示す期間aにおいては、スイッチ821がオンし、スイッチ822がオフしている。その結果、巻線811は、直流電源805の正極側電源線路Vpに接続され、駆動電圧Uの瞬時値は、正極側電源線路Vpの電圧となる。この期間aでは、駆動電圧Uが誘起電圧Uemfよりも高いため、巻線811の電流Iuは増加しながら流れていく。その増加量は、駆動電圧Uから誘起電圧Uemfを差し引いた電圧(期間aのハッチングを施した部分)に依存するが、駆動電圧Uの平均値が誘起電圧Uemfよりも低い場合、その差分は小さく電流増加も僅かとなる。
次に、期間bにおいては、スイッチ821がオフし、スイッチ822がオンしている。その結果、巻線811は直流電源805の負極側電源線路Vnに接続され、駆動電圧Uの瞬時値は負極側電源線路Vnの電圧となる。この期間bでは、駆動電圧Uが誘起電圧Uemfよりも低いため、巻線811の電流Iuは減少していく。その減少量は、誘起電圧Uemfから駆動電圧Uを差し引いた電圧(期間bのハッチングを施した部分)に依存し、駆動電圧Uの平均値が誘起電圧Uemfよりも低い場合、その差分は大きく電流の減少量も大きくなる。
期間bのうち期間b1では、電流Iuは、スイッチ822またはこれに逆並列接続されるダイオードを流れて巻線811に至りつつ減少する。また、電流Iuがゼロにまで減少した以後の期間b2では、電流の方向が反転し、電流Iuは、巻線811からスイッチ822を介して負極側電源線路Vnに向けて流れ出すようになる。このときの電流Iuは、誘起電圧Uemfから供給される向きとなり、本来のモータ駆動の電流方向とは逆になる。
次に、期間cにおいては、期間aのようにスイッチ821がオンし、スイッチ822がオフしている。したがって、期間aと同様、電流Iuは増加するがその増加量は僅かで、電流方向を再び反転して元の向きに戻すほどには至らない。期間cでは、電流Iuは、巻線811からスイッチ821またはこれに逆並列接続されるダイオードを介して、正極側電源線路Vpに向けて流れ出すことになる。そして、これは誘起電圧Uemfから供給される向きとなり、期間b2と同様、本来のモータ駆動の電流方向とは逆になる。
次に、期間dにおいては、期間bのようにスイッチ821がオフし、スイッチ822がオンしている。したがって、期間bと同様、電流Iuは大きく減少を続けることになる。期間dでは、電流Iuは、巻線811からスイッチ822を介して負極側電源線路Vnに向けて流れ出すことになり、期間b2よりも増して大きな電流Iuが誘起電圧Uemfから供給されることになる。
このように、本来モータを駆動するためには、巻線811の誘起電圧Uemfに向かって電流Iuを供給しなければならないのが、逆に誘起電圧Uemfから電流Iuが供給される現象が生じる。このような現象が継続されると、スイッチ821がオンし、スイッチ822がオフするたびに、巻線811からスイッチ821またはこれに逆並列接続されるダイオードを介して、電流Iuが正極側電源線路Vpに向けて流れ出す。この現象は、他の巻線813、815においても同様に発生し、各巻線から流れ出した電流が正極側電源線路Vpを介して、直流電源805の正極側電極に向かうことになる。
つまり、モータが発電機として作用し、本来モータに電力を供給するための直流電源に対して、逆にモータが電力を供給してしまう、いわゆる回生が発生することになる。
図10は、モータ810を減速させる際に、モータ810の駆動巻線811に生じる誘起電圧Uemfの波高値UemfHに比べて、インバータ820からの駆動電圧Uの波高値WFHが低くなるような駆動モードの様子を示している。図10(a)は、モータを減速させる際の駆動制御信号VSPの時間変化を示している。また、図10(b)は、駆動制御信号VSPの変化に伴う各電圧の時間変化を示している。
例えば、速度指令信号Srefの低下、すなわち減速指令により、モータの速度は減速されるが、このとき、速度制御部840は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差に応じて、図10(a)に示すように駆動制御信号VSPを減少させる。駆動制御信号VSPの減少により、図10(b)の波高値WFHで示すように、インバータ820の出力電圧つまり巻線811、813および815の駆動電圧も減少する。これとともに、巻線に発生する誘起電圧は、図10(b)の波高値UemfHで示すように、変化する。すなわち、このとき、図10(b)に示すように、これら巻線に印加される駆動電圧は、同巻線に発生する誘起電圧よりも低くなる。巻線に印加される駆動電圧が誘起電圧よりも低くなると、図10(b)の回生領域で示す期間において、前述した回生現象が発生し、その結果、直流電源805の電圧VDCが上昇することになる。
以上説明したように、ブラシレスDCモータを含め一般的にモータは、このような回生現象が発生する。このため、従来、回生現象により発生した電力を電源側に戻すことにより電力の有効利用を図ったり、回生現象により発生した過電圧から駆動回路や電源回路を保護したりするような技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
図11は、回生現象により発生した回生電流を電源回路に電源回生するとともに、電源回生に切替える期間において、回生現象による直流回路電圧の上昇を抑制し、回生時の直流回路過電圧からインバータ装置を保護した従来の回生制御装置のブロック図である。
図11において、サイリスタ変換器92は、力行運転時に順変換器として作動し、交流電源91の交流電圧を直流電圧に変換するとともに、回生運転時には逆変換器として作動する。また、サイリスタ変換器92の直流側には、コンデンサ93が並列に接続されている。インバータ回路94は、サイリスタ変換器92からの直流電力を交流電力に変換して誘導電動機95を可変速制御する。速度制御回路914は、速度検出器98で検出された電動機速度Nfbkおよび速度指令Nref間の偏差をゼロにするような電流指令Irefを演算する。制御手段920は、電流指令Irefに基づいてインバータ回路94の出力電圧および周波数を制御する。
さらに、回生判定器912は、誘導電動機95の減速により力行運転から回生運転へと切替えられたとき、速度指令Nrefおよび電流指令Irefに基づいてそれを判定する。また、速度制御回路914と制御手段920との間に設けられた電流変化率制限回路921は、回生判定器912の判定出力に従って、サイリスタ変換器92が回生変換へと切替えを行う時間のみ、電流指令Irefの時間変化率を抑制する。
このように構成された従来の回生制御装置において、速度指令Nrefを下げることで減速すると、誘導電動機95はそれまでの電動機動作から発電機動作へと移行する。すなわち、機械系のもつエネルギーが、インバータ回路94を通してコンデンサ93を充電し、電気エネルギーとなって回生されることになる。このため、従来の回生制御装置は、まず、速度指令Nrefの絶対値の時間変化率に着目し、これが負であるか、または速度制御回路914の出力である電流指令Irefが力行から回生に切替わり増加中であるかを、回生判定器912で判断する。そして、遅延器913を用いて、サイリスタ変換器92が順逆切替えを終え回生動作となるまでの一定時間、電流変化率制限回路921の回生電流変化率を下げ、電流指令の上昇率を抑える。従来の回生制御装置は、このような動作により、コンデンサ93の充電電流を抑制し、充電電圧の上昇を抑制している。また、サイリスタ変換器92が回生運転への切替えを終えると、電圧制御回路931により、直流回路電圧が所定の電圧値へと下がる。
従来の回生制御装置は、以上のような構成とすることで、回生エネルギーを消費させるための回生放電抵抗器を設けたり、回生エネルギーを蓄積するためのコンデンサ容量を増やしたりすることなく、インバータ装置を回生運転時の直流回路過電圧から保護する手段を提供している。
特開平6−245565号公報
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置100を備えたモータ装置110の構成を含むブロック図である。
図1に示すように、モータ装置110は、モータ10と、モータ10の可動子の速度を検出する速度検出手段120と、モータ10を駆動するモータ駆動装置100と、外部の直流電源105から直流電力が供給される電源入力端子115と、外部のマイクロコンピュータあるいはDSPなどである上位器から指令情報が通知される指令情報入力端子116とを備えている。
このような上位器から、モータ装置110の速度などを指令制御するための指令情報がモータ装置110の指令情報入力端子116に通知される。本実施の形態では、指令情報入力端子116に、指令情報として、速度指令信号Srefが入力される。速度指令信号Srefは、モータ10の速度を指令する速度指令情報を示す信号である。
速度検出手段120は、モータ10の可動子の速度を検出する手段である。速度検出手段120は、ホール効果を利用したホールセンサーを用いる方法や、駆動巻線に発生する誘起電圧あるいは駆動巻線電流を利用する方法などにより実現される。速度検出手段120は、検出した可動子の速度に関する情報である速度検出情報を示す速度検出信号FGをモータ駆動装置100に出力する。
また、モータ10は、可動子(図示せず)とU相駆動巻線11、V相駆動巻線13およびW相駆動巻線15とを有している。各駆動巻線の一端は、モータ駆動装置100から、それぞれ駆動電圧U、VおよびWが供給され、各駆動巻線の他端は、互いに中性点で接続されている。
本実施の形態では、このように構成されたモータ装置110において、モータ10が、モータ駆動装置100により正弦波駆動されるブラシレスDCモータの一例を挙げて説明する。また、モータ駆動装置100の機能の一部あるいは全部は、1つまたは複数の集積回路装置により実現され、モータ駆動装置100の機能を実現する回路素子がプリント基板上に形成されるとともに、このようなプリント基板が、モータ10に内蔵または一体化されたモータ装置110であるような一例を挙げる。
また、詳細については以下で説明するが、本実施の形態のモータ駆動装置100は、モータ10を減速したときに生じる回生現象を防止する機能を有していることを特徴としており、これによって、直流電源105に返還される回生エネルギーも抑制される。このため、図1に示すように、モータ装置110の電源側には回生電力に対する回路素子など必要なく、また、直流電源105も返還される回生電力を考慮する必要はなく、単に、直流電源105を接続するのみでモータ装置110を動作させることができる。
次に、本実施の形態におけるモータ駆動装置100の構成について説明する。
図1に示すように、モータ駆動装置100は、直流電力を交流電力に変換するインバータ20と、モータ10の速度を制御するための速度制御部40と、安定速度に達したことを検知する速度到達検知部48と、減速の指令がなされたことを検知する減速検知部51と、減速検知部51からの指示に応じて、以下で説明する駆動制御信号の時間あたり変化量である時間変化量を抑制する変化量抑制部50と、インバータ20を駆動するためのインバータ駆動部30とを備える。
インバータ20は、直流電源105から供給された電圧VDCの直流電力を、モータ10を駆動するための駆動電力に変換し、変換した駆動電力をモータ10に供給する。
速度制御部40は、速度指令信号Srefおよび速度検出手段120からの速度検出信号FGに基づき、モータ10への駆動電力を調整するための第1の駆動制御信号VSP1(以下、単に「駆動制御信号VSP1」と呼ぶ)を含めた速度制御信号群を生成する。さらに、速度制御部40は、駆動制御信号VSP1を変化量抑制部50に通知する。
速度到達検知部48は、速度検出信号FGと速度指令信号Srefとを比較し、速度検出信号FGが示す速度が速度指令信号Srefが示す速度に到達したことを検知し、速度到達の検知を示す速度到達情報としての速度到達検知信号LSoffを出力する。さらに、速度到達検知部48は、速度到達検知信号LSoffを減速検知部51に通知する。
減速検知部51は、速度指令信号Srefにおいて減速の指令、すなわち、高速度指令から低速度指令への変更がなされたことを検知し、検知したことを示すとともに、減速処理期間中であることを示す減速検知信号LSを出力する。さらに、減速検知部51は、モータ10の速度が安定速度に達するまでの期間、減速処理期間中であることを示す減速検知信号LSを継続して出力し、モータ10の速度が安定速度に達した時点で、減速検知信号LSを解除する。
このような、減速検知信号LSを生成するため、減速検知部51には、速度到達検知部48から速度到達検知信号LSoffが通知される。すなわち、減速検知部51は、速度到達検知信号LSoffにより速度到達を検知したとする通知を受け取ると減速検知信号LSを解除する。これにより、減速検知部51は、速度指令信号Srefにおいて減速の指令がなされたことを検知した時点から、速度到達検知信号LSoffにおいて速度到達を検知した時点までの期間を減速処理期間中の期間とし、このような減速処理期間中の期間を示す減速検知信号LSを出力する。
変化量抑制部50は、減速検知信号LSにおいて、減速の指令の検知が示されたとき、駆動制御信号VSP1に対して、時間あたりの変化量の抑制を開始し、安定速度に達するまでの期間、このように抑制した信号を第2の駆動制御信号VSP2(以下、単に「駆動制御信号VSP2」と呼ぶ)として出力する。すなわち、変化量抑制部50には、減速検知部51から減速検知信号LSが通知される。変化量抑制部50は、通知された減速検知信号LSにおいて減速処理期間中とする期間、駆動制御信号VSP1の時間あたりの変化量を抑制するような処理を行い、駆動制御信号VSP2として出力する。なお、詳細については以下で説明するが、変化量抑制部50によるこのような処理は、回生現象を抑制するために行っている。また、変化量抑制部50は、通知された減速検知信号LSにおいて減速処理期間中とする期間以外では、駆動制御信号VSP1に等しい駆動制御信号VSP2を出力する。
インバータ駆動部30は、変化量抑制部50からの駆動制御信号VSP2に基づき、インバータ20を駆動制御するための駆動信号を生成し、生成した駆動信号をインバータ20に出力する。
このようにして、インバータ20は、供給された直流電力を、駆動制御信号VSP2により調整される駆動電圧に変換し、変換した駆動電圧をモータ10に供給する。また、特に、インバータ20は、モータ10に対する速度指令に応じて時間あたりの変化量が抑制された駆動制御信号VSP2に従って、駆動電圧に変換することになり、これによって、直流電源105に返還される回生エネルギーも抑制される。
次に、モータ駆動装置100のさらに詳細な構成について説明する。
まず、速度制御部40は、速度指令信号Srefと速度検出手段120からの速度検出信号FGとを比較し、その差に所定の制御ゲインを乗じるような処理を行う。このような処理を行うため、速度制御部40は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差分を算出する差分演算部41と、この差分に対して所定のゲインを乗算し、駆動制御信号VSP1として出力するゲイン設定部42とを有している。速度制御部40は、このような処理により生成した信号を駆動制御信号VSP1として出力する。
次に、インバータ駆動部30は、駆動制御信号VSP2により調整される正弦波状の波形信号WFを生成する波形生成部31と、波形信号WFに応じてパルス幅変調された駆動信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLを生成するパルス幅変調部32とを有している。駆動信号UH、VHおよびWHは、互いに電気角120度の位相差をもち、また、駆動信号UL、VLおよびWLも、互いに電気角120度の位相差をもったパルス状の信号である。また、UHとULとは、図8で示したような互いにほぼ相補的な関係となる信号であり、また、VHとVL、およびWHとWLも同様である。このような各駆動信号が、インバータ20の各スイッチ素子にそれぞれ対応して接続され、それぞれオンまたはオフ動作させる。
波形生成部31により生成される正弦波状の波形信号WFにおいて、その振幅は、駆動制御信号VSP2により調整される波高値が設定される。すなわち、波形生成部31は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差分に基づく振幅の波形信号WFを生成する。
また、パルス幅変調部32は、内部で三角波状のPWMキャリア信号を生成し、波形信号WFをこのPWMキャリア信号と比較することによりパルス幅変調する。パルス幅変調部32は、このようにして生成した駆動信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLをインバータ20に供給する。
次に、インバータ20は、直流電源105の正極側電源線路Vpに一方の端子が電気的に接続される正極側のスイッチ素子21、23および25と、負極側電源線路Vnに一方の端子が電気的に接続される負極側のスイッチ素子22、24および26とを備える。また、スイッチ素子21とスイッチ素子22との他方の端子どうしが接続され、この接続部からU相駆動巻線11を駆動する駆動電圧Uが出力される。また、スイッチ素子23とスイッチ素子24、およびスイッチ素子25とスイッチ素子26も同様にして、V相駆動巻線13を駆動する駆動電圧V、およびW相駆動巻線15を駆動する駆動電圧Wが出力される。さらに、正極側のスイッチ素子21、23および25は、それぞれ駆動信号UH、VHおよびWHによりオンまたはオフとに切替えるよう制御される。負極側のスイッチ素子22、24および26は、それぞれ駆動信号UL、VLおよびWLにより、オンまたはオフに切替えるよう制御される。このような構成により、インバータ20は、駆動信号に応じて、正極側電圧と負極側電圧との間を交互に変化するパルス状の駆動電圧U、VおよびWを、それぞれ駆動巻線11、13および15に供給する。
また、各駆動信号は、波形信号WFによりパルス幅変調した信号である。このため、パルス幅変調の原理から、平均値的には、波形信号WFに応じた正弦波状の電圧となる駆動電圧U、VおよびWが、それぞれ駆動巻線11、13および15に供給されることになる。
本実施の形態におけるモータ駆動装置100、およびこれを備えたモータ装置110は以上のように構成される。
このような構成により、例えば、速度を上げるため、速度指令信号Srefが増加するよう加速指令されると、速度制御部40において、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差分に対応した駆動制御信号VSP1も増加する。また、この場合、速度指令信号Srefが増加する方向であるため、減速検知部51は、減速するように指令されたとは判定しない。このため、変化量抑制部50において、駆動制御信号VSP1の変化量を抑制するような処理は実行されず、インバータ駆動部30には、駆動制御信号VSP1に等しい駆動制御信号VSP2が通知される。さらに、駆動制御信号VSP2の増加に伴って、波形生成部31により生成される正弦波状の波形信号WFの振幅も増加する。その結果、各駆動巻線を駆動する波形信号WFに対応した駆動電圧も大きくなり、モータ10を加速するように動作する。また、このように加速された速度の情報が、速度検出信号FGとして速度制御部40に通知される。本モータ駆動装置100は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとが等しくなるように、このようなフィードバックループ制御を実行する。
また、速度を下げるため、速度指令信号Srefが減少するよう減速指令されると、減速検知部51は、減速の指令を検知し、減速処理期間中であることを示す減速検知信号LSを変化量抑制部50に通知する。これによって、駆動制御信号VSP1の変化量が抑制された信号である駆動制御信号VSP2がインバータ駆動部30に通知される。これにより、例えば、速度指令信号Srefにより減速指令を行った場合には、上述のような加速指令の場合と比べて、各駆動巻線を駆動する波形信号WFに対応した駆動電圧が緩やかに変化するように制御しながら、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとが等しくなるように、フィードバックループ制御が実行される。また、本モータ駆動装置100は、減速時において、このような駆動電圧を緩やかに変化するように制御することで、回生現象を防止している。
以上のように構成された本実施の形態のモータ駆動装置100、およびこれを備えたモータ装置110について、次にその動作を説明する。
図2は、本実施の形態におけるモータ装置110の動作説明図である。以下、図2を参照しながら本モータ駆動装置100およびモータ装置110の動作について説明する。なお、以下、インバータ20の駆動電圧U出力に接続されるU相駆動巻線11に対する動作を中心に説明するが、V相およびW相においても同様である。
図2は、横軸に時間経過を示しており、モータ10が減速する際の減速検知信号LS、駆動制御信号VSP1、駆動制御信号VSP2、駆動電圧Uの波高値WFHおよび誘起電圧Uemfの波高値UemfHを示している。
図2において、期間aは、モータが高い速度で駆動されている期間を示し、期間aから期間bへの移行時間において、速度指令信号Srefにより減速が指令されたときの各信号や電圧に様子を示している。また、期間bは、速度指令信号Srefにおいて減速の指令がなされたことを検知した時点から、速度到達検知信号LSoffにおいて速度到達を検知した時点までの減速処理期間を示している。このように、図2では、モータ10が高い速度で駆動されている状態、つまり駆動電圧Uと誘起電圧Uemfとが高い状態から、減速され低い速度で駆動されている状態、つまり駆動電圧Uと誘起電圧Uemfとが低い状態に移行する動作を示している。
このような速度指令信号Srefによる減速指令が実行されると、減速検知部51が減速の指令を検知し、図2に示すような減速検知信号LSを変化量抑制部50に通知する。なお、図2の減速検知信号LSでは、Hレベルの期間が減速処理期間中であることを示し、Lレベルの期間がそれ以外の期間であることを示している。これによって、変化量抑制部50は、図2に示すような駆動制御信号VSP1の変化量を抑制した信号である駆動制御信号VSP2を出力する。
まず、モータ10が高い速度で駆動されている期間aの状態について説明する。期間aでは、このように、モータ10が一定の高い速度で駆動されており、このとき速度制御部40は、モータ10の実際の速度を示す速度検出信号FGが速度指令信号Srefと同じになるように、駆動制御信号VSP1を俊敏かつ適切に制御している。
また、このとき、減速検知部51が出力する減速検知信号LSはLレベルであり、変化量抑制部50において変化量を抑制するような処理は行われていない。したがって、変化量抑制部50は、駆動制御信号VSP1をそのまま駆動制御信号VSP2として出力し、これによって、モータ駆動装置100はモータ10の駆動電圧Uを俊敏かつ適切に制御する。その結果、モータ10の速度は一定に保たれる。
次に、モータ10を高い速度から低い速度へ移行、すなわち減速させるとき、この変化により速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの間に差が生じる。速度制御部40は、その差に応じて駆動制御信号VSP1を調整する。また、この速度指令信号Srefの変化は減速検知部51により検知され、減速処理期間中であることを示す減速検知信号LSが変化量抑制部50に通知される。これによって、変化量抑制部50は、駆動制御信号VSP1の時間あたり変化量を抑制するような処理を実行し、駆動制御信号VSP2をインバータ駆動部30に通知する。
ところで、上述した従来のモータ駆動装置のように、インバータ駆動部に駆動制御信号VSP1を直接通知するような構成の場合、減速時において、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差が急激に変化するような駆動制御信号VSP1がインバータ駆動部に通知される。このため、波形生成部は、波高値WFHが急激に減少するような波形信号WFを生成する。これによって、図10で示したように、インバータからの駆動電圧の波高値WFHは、急激に減少し、駆動巻線に生じる誘起電圧の波高値UemfHよりも低くなり、回生領域の期間が生じることになる。
これに対し、本実施の形態のモータ駆動装置100は、減速時において、駆動制御信号VSP1の時間あたり変化量を抑制した駆動制御信号VSP2をインバータ駆動部30に通知する。駆動制御信号VSP2は時間あたり変化量が抑制されているため、駆動制御信号VSP2に応じて波形生成部31が生成する波形信号WFの波高値WFHも緩やかに減少する。このため、図2に示すように、インバータ20からの駆動電圧Uの波高値WFHも緩やかに減少し、駆動巻線に生じる誘起電圧Uemfの波高値UemfHよりも低くならない。すなわち、本実施の形態のモータ駆動装置100においては、インバータからの駆動電圧が駆動巻線に生じる誘起電圧よりも低くなることで生じる回生現象は発生しないことになる。
また、本実施の形態のモータ駆動装置100においては、減速検知信号LSにより減速処理期間中であることが示される期間、すなわち、減速指令によりモータの減速処理が開始され、モータの速度が速度指令信号Srefに対応した速度となるような安定速度に達するまでの期間は、変化量抑制部50により、駆動制御信号VSP1の時間あたりの変化量が抑制され続ける。このため、減速処理期間中は継続して、モータ10からモータ駆動装置100や直流電源105への回生エネルギーの返還が抑制され続け、直流電源105の電圧VDCが異常に上昇するような過電圧の発生などを防止できる。したがって、回生現象による電圧増加を検出する回路、電源装置に回生電力を戻す回路、あるいは回生電力を吸収する電源装置などをモータ周辺に備える必要はなくなり、これによって、モータ駆動装置やそれを備えたモータ装置の高い信頼性の確保とともに、利便性を向上させることが可能となる。
また、減速処理期間が終了した後は、駆動制御信号VSP1に等しい駆動制御信号VSP2で速度制御することになるため、モータ10の駆動電圧が俊敏かつ適切に制御される。
なお、減速検知信号LSにより減速処理期間中であることが示される期間として、例えば、減速指令後からモータの速度が所望の速度となった時点までの期間や、減速指令後からモータの速度が所望の速度や安定速度となり、さらに所定時間を経過した時点までの期間など、回生現象の発生が懸念されるような期間として、適宜変更してもよい。すなわち、変化量抑制部50が、モータ10の速度が少なくとも安定速度に達するまでの期間、駆動制御信号VSP1に対する時間変化量を抑制すればよい。
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2におけるモータ駆動装置100を備えたモータ装置110の構成を含むブロック図である。
図1で示した実施の形態1との比較において、実施の形態2におけるモータ駆動装置100は、変化量抑制部として、駆動制御信号VSP1に対しての時間あたりの変化量を調整可能とした変化量抑制部250を備える。さらに、実施の形態2におけるモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110は、指令情報入力端子として、速度指令信号Srefの端子に加えて変化量設定信号YSの端子を含む指令情報入力端子216を備えている。変化量設定信号YSは、変化量抑制部250における変化量を調整するための信号である。実施の形態2におけるモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110は、このような構成であり、例えば、上位器などから、変化量抑制部250の時間あたりの変化量が任意に設定できることを特徴としている。
以下、このように構成された実施の形態2におけるモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110について説明する。なお、図3において、実施の形態1と同一の構成要素については同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
変化量抑制部250には、指令情報入力端子216から、変化量を調整するための変化量設定信号YSが通知される。また、変化量抑制部250は、減速検知信号LSにおいて、減速の指令の検知が示されたとき、駆動制御信号VSP1に対して、時間変化量の抑制を開始し、少なくとも安定速度に達するまでの減速処理期間、このように抑制した信号を第2の駆動制御信号VSP2として出力する。このとき、変化量抑制部250は、変化量設定信号YSにより調整される時間変化量で、駆動制御信号VSP1に対する変化量の抑制を行い、駆動制御信号VSP2として出力する。また、変化量抑制部250は、通知された減速検知信号LSにおいて減速処理期間中とする期間以外では、駆動制御信号VSP1に等しい駆動制御信号VSP2を出力する。
以上のように構成された本実施の形態のモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110について、次にその動作を説明する。
図4は、本実施の形態におけるモータ装置110の動作説明図である。図4において、図2で示した場合と同じ信号や電圧の時間変化の様子を示している。図4では、図2で示した場合と比較して、例えばイナーシャが小さく回転速度が比較的早く落ちるようなモータ10の場合を示している。すなわち、図4で示すモータは、図2で示したモータよりも急速に速度が低下するような特性を有している。
このように、モータの減速時間は、モータそのもののイナーシャや、また取り付く負荷によっても異なる。このため、例えば、図4に示すように図2に示した場合よりも急速にモータの速度が低下する場合や、また、逆に図2に示した場合よりも緩やかにモータの速度が低下する場合もある。よって、より早く所望のモータ速度へと速度を収束させたい場合や、確実に駆動巻線に生じる誘起電圧よりも駆動電圧を低くさせないためには、実際のモータが有する速度変化の特性や環境などに合わせて駆動電圧を最適化する必要がある。
すなわち、変化量抑制部による駆動電圧の緩やかな減少は、モータの速度の低下を妨げるように作用する。このため、例えば、駆動電圧の低下によって急速にモータの速度も低下するような環境において、迅速に所望のモータ速度へと速度を収束させたい場合、変化量抑制部による緩やかなモータ速度の低下が、迅速な収束に対する妨げとなる。一方、駆動電圧が低下しても、イナーシャによってモータの速度が緩やかに低下するような環境の場合、回生現象を抑制するため、駆動巻線に生じる誘起電圧よりも駆動電圧が低くならないように、駆動電圧のより緩やかな減少が求められる。
これに対して、本実施の形態のモータ駆動装置100は、駆動制御信号VSP1に対する時間変化量の抑制において、変化量設定信号YSにより時間変化量が調整できる変化量抑制部250を備えている。このため、変化量設定信号YSを用いて、駆動電圧の低下によって急速にモータの速度が低下するような場合は、駆動電圧の大きさが減少する時間変化量を比較的大きくし、また、イナーシャなどによりモータの速度が緩やかに低下するような場合は、駆動電圧の大きさが減少する時間変化量を比較的小さくするということが可能となる。このように、本実施の形態のモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110によれば、駆動巻線に生じる誘起電圧よりも駆動電圧を低くさせずに、より短い時間で所望のモータの速度へと導くことが可能となる。
(実施の形態3)
図5は本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置100を備えたモータ装置110の構成を含むブロック図である。
図3で示した実施の形態2との比較において、実施の形態3におけるモータ駆動装置100は、速度制御部40のゲイン設定部として、ゲインの選択を可能としたゲイン設定部342を備える。また、ゲイン設定部342には、減速検知部51から減速検知信号LSが通知され、減速検知信号LSに応じてゲイン設定部342のゲインが選択される。
以下、このように構成された実施の形態3におけるモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110について説明する。なお、図5において、実施の形態2と同一の構成要素については同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
本実施の形態の速度制御部40は、速度指令信号Srefと速度検出信号FGとの差分を算出する差分演算部41と、差分に対して選択可能な所定のゲインを乗算し、駆動制御信号VSP1として出力するゲイン設定部342とを有している。ゲイン設定部342には減速検知信号LSが通知され、ゲイン設定部342は、減速検知信号LSが減速の指令の検知を示すとき、第1のゲインを設定し、減速検知信号LSが速度の到達の検知を示すとき、第1のゲインよりも大きい第2のゲインを設定する。
本実施の形態のモータ駆動装置100およびこれを備えたモータ装置110はこのような構成であるため、減速指令によりモータの減速処理が開始され、少なくともモータの速度が速度指令情報に対応した速度となるような安定速度に達するまでの減速処理期間は、例えばモータの速度が安定している期間での第2のゲインに比べて、より低い第1のゲインが設定される。このため、これによっても、駆動制御信号VSP1に対しての時間あたりの変化量を抑制できる。また、減速処理期間以外の期間においては、第1のゲインよりも大きい第2のゲインが設定されるため、定速状態では大きなゲインで制御性が確保され、モータ10は俊敏かつ適切に制御されながら、その速度は一定に保たれる。
なお、本実施の形態では、図4で示した実施の形態2のゲイン設定部42に代えてゲイン設定部342を備えた構成例を挙げて説明したが、図1で示した実施の形態1のゲイン設定部42に代えてゲイン設定部342を備えたような構成であってもよい。
また、上述したように、ゲイン設定部342のみでも駆動制御信号VSP1に対しての時間変化量を抑制できる。このため、図5に示すゲイン設定部342および変化量抑制部250を備えたような構成に代えて、変化量抑制部250を設けず、ゲイン設定部342から出力する駆動制御信号VSP1を直接に波形生成部31に供給するような構成であってもよい。
以上説明したように、本発明のモータ駆動装置は、直流電力を駆動電圧に変換しモータに供給するインバータと、速度指令情報と速度検出情報とに基づき駆動制御信号VSP1を生成する速度制御部と、速度指令情報において減速の指令がなされたことを検知する減速検知部と、減速指令の検知が示されたとき、駆動制御信号VSP1に対して、時間あたりの変化量の抑制を開始し、安定速度に達するまでの期間、抑制した信号を駆動制御信号VSP2として出力する変化量抑制部と、駆動制御信号VSP2に応じてインバータが出力する駆動電圧を調整し、モータの速度を制御するインバータ駆動部とを備えた構成である。
本発明のモータ駆動装置は、このような構成としており、減速指令によりモータの減速処理が開始され、モータの速度が速度指令情報に対応した速度となるような安定速度に達するまでの期間は、変化量抑制部によって、駆動制御信号の時間あたりの変化量が抑制される。このため、モータの駆動巻線に生じる誘起電圧よりも駆動電圧が低くなることを防止でき、モータ減速時におけるモータ駆動装置や電源装置に戻る回生電力の発生を抑制できる。すなわち、減速処理期間中は継続して、モータからモータ駆動装置や電源装置への回生エネルギーの返還が抑制され続けるため、例えば直流回路の電圧が異常に上昇するような過電圧の発生などを防止できる。このため、回生現象による電圧増加を検出する回路、電源装置に回生電力を戻す回路、あるいは回生電力を吸収する電源装置などをモータ周辺に備える必要はなくなる。
したがって、本発明によれば、モータ駆動装置や電源装置の破壊を防ぎ、これによって、高い信頼性の確保とともに、利便性を向上させたモータ駆動装置およびモータ装置を提供することができる。また、特に、回生現象が発生する駆動方式を用いることが一般的な正弦波駆動方式のモータ駆動装置や電源装置においても、直流電源の出力電圧を上昇させて機器を破壊することはないので、安全性に優れた、低振動、低騒音なモータ駆動を実現できる。
また、このようなモータ駆動装置をモータ装置に内蔵または一体化することで、これを搭載する上位機器は、低トルクリップル、低騒音、低振動を実現する正弦波駆動によるモータを容易に、かつ回生現象に気を配ることなく安全に構築することできる。また、モータ駆動装置の一部あるいは全部を集積回路装置として集積化することで、モータ駆動装置を小型化できるため、これにより、より容易に内蔵または一体化できる。その結果、上位機器の設計および制御負担を軽減でき、優れた性能を有する正弦波駆動によるモータの使用拡大、普及を促すという効果も奏する。
なお、以上の説明では速度フィードバック制御を基本とした、モータ駆動装置の例を挙げて説明したが、例えば、速度指令信号Srefに応じて駆動制御信号VSP1が調整され、それに伴い波形信号WFの波高値が調整され、モータの駆動電圧が調整されることで、厳密ではないまでもモータの速度を制御することができる。図6は、このような簡易な構成によるモータ駆動装置200およびそれを備えたモータ装置210の構成例を示したブロック図である。このような構成においても、上述した実施の形態と同様の効果を有する。つまり、モータ10の減速時は、速度指令信号Srefの変化を減速検知部51により検出し、変化量抑制部50により、減速処理期間中は速度指令信号Srefに対して時間変化量を抑制した信号である駆動制御信号VSP2を出力することで回生現象の発生を防止できる。また、例えば、上位器から速度到達検知信号LSoffに対応した解除信号を通知することなどにより、減速の完了時に変化量抑制部50の動作を解除し、減速完了後のモータ10の制御性を良好とすればよい。また、実施の形態2のように変化量抑制部50に変化量設定信号YSを通知し、駆動制御信号VSP2の時間変化量の抑制量を任意に設定できるような構成としてもよい。