JP5267132B2 - 着磁パルサリングおよびセンサ付き転がり軸受装置 - Google Patents
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Description
上記着磁パルサリングは、ゴム等からなる弾性体にフェライト等の磁性体粉を混合した磁性材料からなる磁石部材を、内外輪間の環状開口部を密封する密封装置の回転輪と一体回転可能に固定される支持部材の軸方向外側面に加硫接着することで当該回転輪側に一体回転可能に取り付けられている。また、この着磁パルサリングには、複数のN・S極が周方向周りに交互に配設されている。一方、磁気センサは、磁気検出素子を備えたものであり、その検出面が着磁パルサリングの被検出面に対向するように回転輪の軸方向外側に配置されている。そして、磁気センサが、回転輪の回転に応じた着磁パルサリングからの磁界の変化を検出することにより、回転輪の回転速度を検出するように構成されている。
このため、例えば、ゴム等の弾性体を用いた磁性材料に代えて、耐傷性や耐磨耗性に優れたプラスチック磁石材料を用いることが提案されている。着磁パルサリングにおいて、このプラスチック磁石材料を用いることで、損傷や磨耗による磁気特性の劣化を抑制することができる。
その一方、プラスチック磁石材料は、フェライト等の磁性体粉と樹脂材料とを混合して形成されたものであるため、プラスチック磁石材料からなるプラスチック磁石部材が固定される支持部材との間においては、その熱膨張係数が大きく異なる。また、このプラスチック磁石は、ゴム等の弾性体と比較して耐傷性や耐磨耗性に優れる反面、脆性が高く変形によって破損を生じやすい。また、前記接着剤の劣化により、接着強度が低下することがある。
これにより、前記接着剤によりプラスチック磁石部材を支持部材に接着させ、固定した場合、温度変化に起因して、これらの両部材間に変形量の差が生じることにより、プラスチック磁石部材に過大な応力が作用して、プラスチック磁石部材に破損が生じるおそれがあり、一方、接着剤の劣化に起因して、前記両部材間の接着状態を安定して維持できなくなるおそれがある。
したがって、前記着磁パルサリングは、十分な信頼性を得ることができないという欠点があった。
前記フランジ部の一端面に固定され、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列されている環状のプラスチック磁石部材と
を備えており、
これらの両部材が、当該両部材の間に形成された接着剤からなる接着層により互いに固定されている着磁パルサリングであって、
前記プラスチック磁石部材は、磁性体粉と樹脂材料とを含むプラスチック磁石材料により形成された環状のプラスチック磁石素材に対してアニール処理を施すことにより得られた部材であることを特徴としている。
とりわけ、前記プラスチック磁石部材が、磁性体粉と、ポリアミド樹脂からなる樹脂材料とを含むプラスチック磁石材料により形成された環状のプラスチック磁石素材に対して150℃で少なくとも1時間の加熱によるアニール処理を施すことにより得られた部材であるときには、かかる作用効果をより確実に得ることができる。
これらの間に転動自在に配置された転動体と、
前記回転輪に一体回転可能に固定された着磁パルサリングと、
前記着磁パルサリングの磁極の変化を検出することによって前記回転輪の回転状態を検出する磁気センサと
を備えているセンサ付き転がり軸受装置において、
前記着磁パルサリングは、上述した着磁パルサリングであることを特徴している。
以下、本発明の一実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るセンサ付き転がり軸受装置の構成を示す断面図である。このセンサ付き転がり軸受装置1は、自動車など車両の駆動輪を懸架装置に対して回転自在に支持するものである。
内軸2に形成されたフランジ部2aには、前記車輪を当該フランジ部2aに固定するための複数のハブボルト2a1が固定されている。また、内軸2の外周面には、複列の外輪軌道3bに対向して複列の内輪軌道2bが形成されている。これら内輪軌道2bおよび外輪軌道3bとの間には、複数の玉4が転動自在に配置されている。
また、内軸2には、軸方向に貫通する貫通孔2cが設けられている。この貫通孔2cには、前記駆動輪を駆動するためのドライブシャフトDが挿入されている。
このドライブシャフトDと、内軸2とは、貫通孔2cの内周面およびドライブシャフトDの外周面それぞれに形成されたスプライン溝によってスプライン嵌合されており、当該ドライブシャフトDの先端に取り付けられたナットd1が締め付けられていることで、一体回転可能に固定されている。
上記構成によって、センサ付き転がり軸受装置1は、内軸2を外輪3に対して回転自在に支持しており、内軸2に固定される駆動輪を回転自在に支持している。
つぎに、本発明の一実施形態に係る着磁パルサリング(以下、「第1の着磁パルサリング」ともいう)について添付図面を参照しながら説明する。図2は、図1に示されるセンサ付き転がり軸受装置に採用された着磁パルサリングの構成を示す要部拡大断面図である。
着磁パルサリング11は、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列された環状のプラスチック磁石部材12と、環状の支持部材20とを備えている。
プラスチック磁石部材12は、支持部材20に対して一体回転可能に固定されている。
したがって、この支持部材20に一体回転可能に固定されているプラスチック磁石部材12も、内軸2に対して一体回転可能となっている。
また、支持部材20の外周面は、シールリング10aが摺接するように構成されている(図1参照)。この支持部材20は、シール部材7におけるスリンガとしての機能を兼ね備えている。
磁気センサSは、磁極の変化を検出するセンサである。この磁気センサSは、センサ付き転がり軸受装置1が搭載される車両の制御装置に接続されており、検出した磁極の変化に基づく検出信号を前記制御装置に出力するように構成されている。磁気センサSは、内軸2の回転に応じて変化する着磁パルサリング11の磁極の変化を検出し、その検出信号を前記車両の制御装置に出力する。前記制御装置は、磁気センサSの検出信号に基づいて、内軸2の回転速度を認識し、前記車両のアンチロックブレーキシステムなどの制御に反映することができる。
支持部材20は上述のように冷延鋼板等の磁性材料によって形成されており、フランジ部22は、プラスチック磁石部材12に対するバックヨークとして機能し、磁気センサSに向かう磁束ループの磁束密度が高められるように構成されている。
プラスチック磁石部材12とフランジ部22との間には、両者を接着し、密封している接着剤からなる接着層30が形成されている。この接着層30によって、プラスチック磁石部材12とフランジ部22との間への水分や異物の混入を防止することができる。
また、接着層30は、プラスチック磁石部材12がフランジ部22に対する磁気吸着とともに、プラスチック磁石部材12とフランジ部22とをより強固に固定することができる。
なお、本明細書において、前記吸水率は、接着剤を乾燥・硬化させて得られた厚さ100μmのフィルム状の硬化物の初期質量(A)と、室温(25℃)で水中に飽和状態になるまで浸漬させた後の当該硬化物の質量(B)とから、下記式(I):
吸水率(質量%)=[〔(B)−(A)〕/(A)]×100・・・(I)
に基づいて算出したものである。
これにより、プラスチック磁石部材12と支持部材20のフランジ部22との間の線膨張係数の差の発生が抑制されるため、接着層30における応力の負荷が抑制される。したがって、着磁パルサリング11では、割れの発生が抑制されるため、着磁パルサリング11に基づくセンサ出力の信頼性が高いものとなる。
図3は、接着層の厚さと、接着層におけるせん断接着強度との関係を示すグラフである。接着層におけるせん断接着強度は、JIS K6850にしたがって調べた。図3に示される結果から、接着層の厚さが、0.1mm以上であれば、せん断接着強さが2.5MPa以上となっており、十分なせん断接着強さが得られることがわかる。なお、通常、着磁パルサリングの小型軽量化に適した製品寸法を確保するためには、接着層の厚さの上限は、0.3mm以下とすることができる。
また、図4は、接着層の厚さと、接着層におけるせん断剥離強度との関係を示すグラフである。接着層におけるせん断剥離強度は、実際の製品である着磁パルサリングを用い、芯金を固定し、この着磁パルサリングを径方向に押すことで接着層にせん断応力を加える方法で調べた。図4に示される結果から、接着層の厚さが0.1〜0.3mmの範囲の場合では、せん断剥離強度が約550〜650Nとなり、十分なせん断剥離強度が得られることがわかる。
図5は、接着層の厚さと、接着層における凝集破壊率との関係を示すグラフである。JIS K6866により、図5に示される結果から、接着層の厚さが0.1〜0.3mmの範囲の場合では、凝集破壊率が約50%以上であり、十分な凝集破壊率が得られることがわかる。
図6(b)は、接着層の厚さと、温度を120℃から−40℃に変化させたときのプラスチック磁石部材および接着層の界面における最大せん断応力との関係を示すグラフである。プラスチック磁石部材および接着層の界面における最大せん断応力は、CAE解析によって調べた。図6(b)に示される結果から、接着層の厚さが0.1〜0.3mmの範囲の場合の前記界面における最大せん断応力は、破線で示される使用可能な接着剤のせん断接着強さよりも小さくなっていることがわかる。
図6(c)は、接着層の厚さと、温度を120℃から−40℃に変化させたときの接着層における最大歪みとの関係を示すグラフである。接着層における最大歪みは、CAE解析によって調べた。図6(c)に示される結果から、接着層の厚さが0.1〜0.3mmの範囲の場合の前記最大歪みは、破線で示される接着層における最大許容歪みよりも小さくなっていることがわかる。
以上のように、図6(a)〜(c)に示される結果から、前記範囲の厚さの接着層を有する着磁パルサリングでは、温度変化による割れの発生が抑制されることが示唆される。
つぎに、本発明の一実施形態に係る着磁パルサリング(第1の着磁パルサリング)の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。図7は、着磁パルサリングの製造方法の工程図である。
アニール処理工程における加熱温度は、前記プラスチック磁石材料に用いられる磁性体粉および樹脂材料の種類に応じて、適宜設定することができるが、通常、150℃とすることができる。
これにより、プラスチック磁石素材の一端面(プラスチック磁石部材12の接触面12aに対応)と、フランジ部22の端面22aとの間に接着層30が形成される。この接着層30によって、プラスチック磁石素材がフランジ部22に固定される。
図8は、プラスチック磁石素材を150℃で加熱したときの加熱時間と、プラスチック磁石素材の外径の収縮率との関係を示すグラフである。なお、収縮率(%)は、〔加熱後のプラスチック磁石素材の外径/加熱前のプラスチック磁石素材の外径〕により求めた値である。図8に示される結果から、プラスチック磁石素材を150℃で1時間以上加熱した場合、プラスチック磁石素材の収縮率の変化が少なくなることがわかる。
また、図9は、プラスチック磁石素材のアニーリング処理の有無と、着磁パルサリングの接着層におけるせん断剥離強度との関係を示すグラフである。図9に示される結果から、プラスチック磁石素材に対して150℃で1時間加熱するアニーリング処理を施した場合、着磁パルサリングの接着層におけるせん断剥離強度は、プラスチック磁石素材に対してアニーリング処理を施していない場合に比べて、高くなっていることがわかる。
以上のように、図8および9に示される結果から、接着工程に先立って、プラスチック磁石素材に対してアニーリング処理を施すことにより、プラスチック磁石部材の寸法の変化の発生を抑制することができ、着磁パルサリングの接着層におけるせん断剥離強度を向上させることができることが示唆される。
(1)着磁パルサリングの変形例
着磁パルサリング11において、プラスチック磁石部材12は、磁性体粉とポリアミド樹脂材料とを含んだ溶融流動性(以下、「MFR」という)が80〜300g/10分であるプラスチック磁石材料を磁場成形することにより形成されていてもよい。
かかるプラスチック磁石部材12を備えた着磁パルサリング(第2の着磁パルサリング)は、前記プラスチック磁石材料を磁場成形することにより形成されているので、磁石部材中の磁性体粉の磁化容易軸の方向が一定方向に揃っている状態となっており、所定の方向への磁束密度が高められている。
したがって、第2の着磁パルサリングによれば、高い磁力を確保することができ、優れた磁気特性を発現することができる。
つぎに、前記第2の着磁パルサリングの製造方法(「製造方法2」ともいう)について、添付図面を参照しながら説明する。図10は、着磁パルサリングの製造方法の工程図である。
なお、プラスチック磁石材料中の磁性体粉の量が多ければ、プラスチック磁石部材の磁力の強さを高めることができるが、前記MFRが低下することがある。そのため、前記MFRの上限は、プラスチック磁石材料中の磁性体粉の量及び着磁パルサリングに要求される磁力の強さから、適宜設定することができる。前記MFRの上限は、例えば、300g/10分以下である。
なお、前記MFRは、ASTM D1238に準拠して270℃で、10kgの荷重で、測定されたものである。
加えて、本製造方法2によれば、前記MFRが80〜300g/10分であるプラスチック磁石材料が用いられているので、このプラスチック磁石材料中における磁性体粉を容易に動かすことができる。これにより、例えば、高い磁界中で成形を行うことなく、通常の磁場成形で用いられる程度の強さの低い磁界中で、前記磁性体粉の磁化容易軸の方向を一定方向に容易に揃えることができる。
したがって、強磁界を形成させるために多くのエネルギーを消費しなくてもよいので、低コストで、着磁パルサリングを製造することができる。
充填工程後のプラスチック磁石材料においては、図12(a)に示されるように、金型50のゲート51から射出されたプラスチック磁石材料100中の磁性体粉101の磁気容易軸102は、まちまちの方向に向いている。
ところが、磁場成形工程において、金型50の外側に配置された電磁石60により形成された磁界中でプラスチック磁石材料100を成形することによって、図12(b)に示されるように、磁性体粉101の磁気容易軸102が一定方向に揃えることができる。
本磁場成形工程で形成される成形体は、磁性体粉101の磁気容易軸102が一定方向に揃っている。
接着剤としては、例えば、ポリイミド系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤等が挙げられる。
着磁工程では、磁性体粉101の磁気容易軸102が一定方向に揃っている成形体を着磁するため、所定方向への磁束密度を高めることができる。
したがって、優れた磁気特性を発現する着磁パルサリングを得ることができる。
(実施例1〜3)
ポリアミド樹脂材料に対して、磁性粉体含有量が、91.35体積%(実施例1)、91.50体積%(実施例2)又は91.90体積%(実施例3)となるように、Srフェライトからなる磁性体粉(粒径1.62〜1.95μm)を混合し、実施例1〜3のプラスチック磁石材料を得た。
つぎに、実施例により、MFRを上記値の範囲とすることによる作用効果を説明する。
実施例1〜3のプラスチック磁石材料を、磁場配向用磁石を備えた射出成形機により金型の空隙に射出し、励磁コイルに30Aの電流を流して生じさせた磁界中で、磁場成形し、成形体を得た。つぎに、得られた成形体を、着磁装置〔東洋電気工業(株)製〕により着磁電圧800Vで着磁させ、実施例1〜3のプラスチック磁石部材(内径58mm、外径67mm、厚さ0.9mm)を得た。
さらに、図14に示される結果から、磁性体粉含有量及びプラスチック磁石材料のMFRが上記値以上である場合、ギャップ1mmの場合のN極最小磁束密度は、20.0mTを超えており、着磁パルサリングのプラスチック磁石部材に要求されるN極最小磁束密度(8.5mT)以上であることがわかる。
以上の結果より、プラスチック磁石材料のMFRが上記値以上である場合、着磁パルサリングの部材として用いるのに十分な性能を有するプラスチック磁石部材を得ることができることが示唆される。
2 内軸(回転輪)
3 外輪(固定輪)
4 玉(転動体)
11 着磁パルサリング
12 プラスチック磁石部材
20 支持部材
22 フランジ部
30 接着層
Claims (5)
- 環状のフランジ部を有し、回転体に一体回転可能に固定される支持部材と、
前記フランジ部の一端面に固定され、多数の磁極が周方向に所定間隔で配列されている環状のプラスチック磁石部材と
を備えており、
これらの両部材が、当該両部材間に形成された接着剤からなる接着層により互いに固定されている着磁パルサリングであって、
前記プラスチック磁石部材は、磁性体粉と樹脂材料とを含むプラスチック磁石材料により形成された環状のプラスチック磁石素材に対してアニール処理を施すことにより得られた部材であることを特徴とする着磁パルサリング。 - 前記プラスチック磁石部材が、磁性体粉と、ポリアミド樹脂からなる樹脂材料とを含むプラスチック磁石材料により形成された環状のプラスチック磁石素材に対して150℃で少なくとも1時間の加熱によるアニール処理を施すことにより得られた部材である請求項1に記載の着磁パルサリング。
- 前記接着剤の吸水率が0.05質量%以下である請求項1または2に記載の着磁パルサリング。
- 前記接着層の厚さが0.1mm〜0.3mmである請求項1〜3のいずれかに記載の着磁パルサリング。
- 固定輪及び回転輪と、
これらの間に転動自在に配置された転動体と、
前記回転輪に一体回転可能に固定された着磁パルサリングと、
前記着磁パルサリングの磁極の変化を検出することによって前記回転輪の回転状態を検出する磁気センサと
を備えているセンサ付き転がり軸受装置において、
前記着磁パルサリングは、請求項1〜4のいずれかに記載の着磁パルサリングであることを特徴するセンサ付き転がり軸受装置。
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