JP5254807B2 - 慢性拒絶反応抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する慢性拒絶反応の抑制剤、およびその利用に関する。また、IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、慢性拒絶反応を抑制する方法に関する。
IL-6はB細胞刺激因子2(BSF2)あるいはインターフェロンβ2とも呼称されたサイトカインである。IL-6は、Bリンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(非特許文献1)、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかになった(非特許文献2)。IL-6は、Tリンパ球系細胞の成熟化を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
IL-6は、細胞上で二種の蛋白質を介してその生物学的活性を伝達する。一つは、IL-6が結合する分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質のIL-6受容体である(非特許文献4、5)。IL-6受容体は、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL-6受容体としても存在する。
もう一つは、非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kDの膜蛋白質gp130である。IL-6とIL-6受容体はIL-6/IL-6受容体複合体を形成し、次いでgp130と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞内に伝達される(非特許文献6)。
IL-6阻害剤は、IL-6の生物学的活性の伝達を阻害する物質である。これまでに、IL-6に対する抗体(抗IL-6抗体)、IL-6受容体に対する抗体(抗IL-6受容体抗体)、gp130に対する抗体(抗gp130抗体)、IL-6改変体、IL-6又はIL-6受容体部分ペプチド等が知られている。
抗IL-6受容体抗体に関しては、いくつかの報告がある(非特許文献7、8、特許文献1〜3)。その一つであるマウス抗体PM-1(非特許文献9)の相捕性決定領域(CDR; complementarity determining region )をヒト抗体へ移植することにより得られたヒト化PM-1抗体が知られている(特許文献4)。
様々な免疫抑制剤の臨床応用と多剤併用療法の発展により、臓器移植後の急性拒絶反応の治療戦略は現在までにほぼ確立され、各種臓器の移植後1年生存率は著しく改善した。しかしながら、移植1年以降に問題となる慢性拒絶反応は、従来の免疫抑制療法により急性拒絶反応を克服し、免疫抑制療法を長期継続した症例においても発症を認めることから、有効な予防法および治療法は確立されていない。さらに、その病態メカニズムの全容が解明されていないこと、急性拒絶反応に比し診断が難しいことなどから、レシピエントの長期予後を左右する合併症として知られている(非特許文献10、11)。
慢性拒絶反応に特徴的な病理組織所見として、移植臓器の間質の線維化と管腔組織の内膜肥厚による内腔の狭窄が知られている。特に血管狭窄は重要な病理所見であり、移植後血管病変、または移植後動脈硬化症と表現される。その病態の進展には、細胞性免疫および液性免疫の双方による拒絶反応の遷延、臓器の虚血再灌流障害、血管内皮機能の障害、レシピエントにおける一般的な動脈硬化の危険因子(糖尿病、高脂血症、高血圧症など)、免疫抑制剤の副作用、遺伝的素因、移植後サイトメガロウイルス感染症など、多岐にわたる要因が複雑に影響するとされている(非特許文献12、13)。
従来の薬剤のうち、特にシクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬は、慢性拒絶反応には無効であること、そして高血圧症、高脂血症、糖尿病などの副作用が問題とされており、特に小児のレシピエントでは、移植後長期間の免疫抑制療法が必要となるため、副作用が少なく、慢性拒絶反応に有効とされる薬剤の開発が期待されている(非特許文献13、14)。
このように、慢性拒絶反応を抑制する新たな免疫抑制療法を開発する必要性が本研究の背景である。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
国際特許出願公開番号WO 95-09873 フランス特許出願公開番号FR 2694767 米国特許番号US 5216128 国際特許出願公開番号WO 92-19759 Hirano, T. et al., Nature (1986) 324, 73-76 Akira, S. et al., Adv. in Immunology (1993) 54, 1-78 Lotz, M. et al., J. Exp. Med. (1988)167, 1253-1258 Taga, T. et al., J. Exp. Med. (1987) 166, 967-981 Yamasaki, K. et al., Science (1988) 241, 825-828 Taga, T. et al., Cell (1989) 58, 573-581 Novick, D. et al., Hybridoma (1991) 10, 137-146 Huang, Y. W. et al., Hybridoma (1993) 12, 621-630 Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906 Wong BW, et al., Cardiovasc Pathol 14:176-80, 2005 Hornick P, et al., Methods Mol Biol 333:131-44, 2006 Ramzy D, et al., Can J Surg 48:319-327, 2005 Valantine H. J Heart Lung Transplant 23(5 Suppl):S187-93, 2004 Webber SA, et al., Lancet 368:53-69, 2006 Izawa A, et al., Circ J 2007, 71 (Suppl I):392 (Annual Scientific Meeting of the Japanese Circulation Society, Kobe, Mar 15-Mar 17, 2007; Abstract PE-269) Izawa A, et al., Am J Transplant. 2007, 7 (Suppl 11):426 (American Transplant Congress, San Francisco, CA, Mar 5-Mar 9, 2007; Abstract 1084)
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する慢性拒絶反応の抑制剤を提供することにある。
さらに本発明は、IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、慢性拒絶反応を抑制する方法の提供も課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、抗IL-6受容体抗体の、慢性拒絶反応の抑制効果について検討を行った。
発明者らは、マウス心移植慢性拒絶モデルを用いて、抗マウスIL-6受容体抗体(MR16-1)の投与による慢性拒絶反応の抑制効果を検討した。移植後60日で摘出した移植心を病理組織学的に解析した結果、MR16-1治療群では、慢性拒絶反応に特徴的な病態である心筋の線維化と血管狭窄病変が対照群に比し有意に抑制されたことから、MR16-1投与による慢性拒絶反応の抑制効果が確認された。
即ち、本発明者らは、抗IL-6受容体抗体を投与することにより、臓器移植後慢性期の拒絶反応を抑制することを初めて見出し、これにより本発明を完成するに至った。
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕 IL-6阻害剤を有効成分として含有する、慢性拒絶反応の抑制剤。
〔2〕 IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔1〕に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔3〕 IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔1〕に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔4〕 抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔5〕 抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔6〕 抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔7〕 抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする、〔2〕〜〔6〕のいずれかに記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔8〕 心移植における慢性拒絶反応の抑制に用いられる、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
〔9〕 IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、慢性拒絶反応を抑制する方法。
〔10〕 IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔9〕に記載の方法。
〔11〕 IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔9〕に記載の方法。
〔12〕 抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔10〕または〔11〕に記載の方法。
〔13〕 抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔10〕または〔11〕記載の方法。
〔14〕 抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔10〕または〔11〕に記載の方法。
〔15〕 抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする、〔10〕〜〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕 心移植における慢性拒絶反応を抑制することを特徴とする、〔9〕〜〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕 慢性拒絶反応の抑制剤を製造するための、IL-6阻害剤の使用。
〔18〕 IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔17〕に記載の使用。
〔19〕 IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔17〕に記載の使用。
〔20〕 抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔21〕 抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔22〕 抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔23〕 抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする、〔18〕〜〔22〕のいずれかに記載の使用。
〔24〕 慢性拒絶反応の抑制に使用するためのIL-6阻害剤。
〔発明の実施の形態〕
本発明者らは、抗IL-6受容体抗体を投与することにより、慢性拒絶反応を抑制することが可能であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する、慢性拒絶反応の抑制剤に関する。
本発明において「IL-6阻害剤」とは、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害する物質である。IL-6阻害剤は、好ましくはIL-6、IL-6受容体及びgp130のいずれかの結合に対する阻害作用を有する物質である。
本発明のIL-6阻害剤としては、例えば抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体あるいはIL-6又はIL-6受容体の部分ペプチドおよび、これらと同様の活性を示す蛋白質(例えば、C326 Avimer (Nature Biotechnology 23: 1556-61, 2005))や低分子物質が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明のIL-6阻害剤としては、好ましくはIL-6受容体を認識する抗体を挙げることが出来る。
本発明における抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
本発明で使用される抗IL-6抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MH166(Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1988) 18, 951-956)やSK2抗体(Sato, K. et al., 第21回 日本免疫学会総会、学術記録(1991)21, 166)等が挙げられる。
抗IL-6抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL-6抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550 、J. Immunol.(1988)140, 1534-1541 、あるいはAgr. Biol. Chem. (1990)54, 2685-2688に開示されたIL-6遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
IL-6の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられる。
抗IL-6受容体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL-6受容体抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
本発明で使用される抗gp130抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗gp130抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はgp130と結合することにより、IL-6/IL-6受容体複合体のgp130への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、AM64抗体(特開平3-219894)、4B11抗体および2H4抗体(US 5571513)B-S12抗体およびB-P8抗体(特開平8-291199)などが挙げられる。
抗gp130モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、gp130を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるgp130は、欧州特許出願公開番号EP 411946に開示されたgp130遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
gp130の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のgp130蛋白質を公知の方法で精製し、この精製gp130蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、gp130を発現している細胞やgp130蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270 )、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C. 、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNA を調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、両者はヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。
具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56 )を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93 、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367 、WO 96-18648 、WO96-17869に開示されている。
本発明で使用されるIL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、各々IL-6受容体あるいはIL-6との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体又はIL-6に結合し、これらを捕捉することによりIL-6のIL-6受容体への結合を特異的に阻害する。その結果、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
IL-6部分ペプチド及びIL-6受容体部分ペプチドの具体例は、特開平2-188600、特開平7-324097、特開平8-311098及び米国特許公報US5210075に開示されている。
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
本発明のIL-6阻害剤を有効成分として含有する慢性拒絶反応の抑制剤は、慢性拒絶反応の治療において使用することが可能である。また、本発明はIL-6阻害剤を有効成分として含有する、心移植における慢性拒絶反応の抑制剤を提供する。
本発明の抑制剤が抑制する拒絶反応は、好ましくは、実際の移植医療において問題となる慢性拒絶反応である。この慢性拒絶反応とは、移植1年以降に問題となる、血管内膜肥厚と間質の線維化を特徴とするレシピエントの長期予後を左右する合併症であり、急性拒絶反応が臨床的に克服された後も緩徐に進行する。
本発明者らは既に、マウス心移植急性拒絶モデルにおけるIL-6阻害剤の治療効果を発見しているが(WO2007/058194)、主に細胞障害性T細胞を介する急性拒絶反応と、慢性拒絶反応の病態メカニズムは異なるとされている。具体的に慢性拒絶反応が急性拒絶反応と異なる根拠として、
1)移植臓器の間質の線維化と管腔組織の内膜肥厚による狭窄病変といった、細胞増殖を伴う特有の病態を呈する、
2)急性拒絶反応の抑制に有効な従来の免疫抑制療法では、発症を抑制できない、
3)臨床的に急性拒絶を克服した後にも潜在的に進行する免疫反応である、
4)慢性拒絶反応の発症に特徴的な危険因子がある、
が挙げられる。
1)慢性拒絶反応に特徴的な病理組織学的所見として、血管内皮障害に起因し、血管平滑筋細胞の増殖を伴う血管狭窄病変が知られている。これは移植後血管病変、または移植後動脈硬化症とも表現され、移植臓器の血流低下から循環障害を来たし、移植臓器が機能不全に陥ることから、慢性期の深刻な合併症として問題となっている。移植臓器の血管障害の原因として、移植手術時の虚血再灌流障害、酸化ストレス、急性拒絶反応が含まれることから、確かに急性拒絶反応の抑制、または急性期の臓器保存技術等の進歩が、慢性拒絶反応の抑制に一定の成果を認めてはいるが、未だ決定的な予防法はなく、また2)慢性拒絶反応に有効な免疫抑制療法は確立されていない。3)潜在的に進行する拒絶反応には、同種抗体による液性免疫と、マクロファージの浸潤や各種サイトカインを介した様々な細胞性免疫の遷延が含まれる。4)慢性拒絶反応の危険因子としては、レシピエントにおける一般的な動脈硬化の危険因子(糖尿病、高脂血症、高血圧症)の他、免疫抑制剤の副作用、遺伝的素因、移植後感染症(サイトメガロウイルスなど)、組織への抗体沈着など、多岐にわたる要因が知られている。このように、様々な要因が複雑に関与することによって、移植臓器が機能障害を来すと考えられている。
本発明において「移植後の慢性拒絶反応の抑制」とは、移植された臓器の間質の線維化や、管腔組織の内膜肥厚による狭窄を抑制するなど、上述の慢性拒絶反応による諸症状を抑制することを意味する。
本発明の抑制剤が使用される臓器移植において、臓器移植は特に限定されるものではない。本発明が対象とする臓器移植の好ましい例としては、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、肺、小腸などの実質臓器が挙げられ、さらに、心臓弁、血管、皮膚、骨、角膜などの組織移植へも応用可能である。
本発明で使用されるIL-6阻害剤のIL-6シグナル伝達阻害活性は、通常用いられる方法により評価することができる。具体的には、IL-6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45,KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3、あるいはIL-6依存性細胞MH60.BSF2を培養し、これにIL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を共存させることによりIL-6依存性細胞の3H-チミジン取込みを測定すればよい。また、IL-6受容体発現細胞であるU266を培養し、125I標識IL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を加えることにより、IL-6受容体発現細胞に結合した125I標識IL-6を測定する。上記アッセイ系において、IL-6阻害剤を存在させる群に加えIL-6阻害剤を含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL-6阻害剤のIL-6阻害活性を評価することができる。
また移植後の拒絶反応が抑制されたか否かの確認は、結果として臓器の生着が向上した場合にも、臓器移植において「移植障害が抑制された」とみなすことが出来る。臓器の生着は各臓器の機能が移植後に正常になるかどうかで判定することが出来る。
後述の実施例に示されるように、抗IL-6受容体抗体の投与により、心移植に対する慢性拒絶反応を抑制することが認められたことから、抗IL-6受容体抗体等のIL-6阻害剤は慢性拒絶反応抑制剤として有用であることが示唆された。
本発明の抑制剤が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
本発明の抑制剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり1〜1000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、たとえば抗IL-6受容体抗体の場合には、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、移植後の状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
本発明において抑制剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の慢性拒絶反応の抑制効果を有する材料であってもよいし、当該抑制効果を有さない材料であってもよく、上記の抑制剤とともに投与可能な材料を意味する。また、慢性拒絶反応抑制効果を有さない材料であるが、IL-6阻害剤と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
本発明の抑制剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.003〜50mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2mg/mLである。
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。
また、本発明の抑制剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
本発明の薬剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる。また該水溶液は適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
本発明は、IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、慢性拒絶反応を抑制する方法に関する。
また、本発明は、IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、心移植における慢性拒絶反応を抑制する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明のIL-6阻害剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。上記の「生物体の体内の一部分」については特に限定されない。
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、静脈注射剤、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明のペプチドをコードするDNAの標的化遺伝子送達により投与することも可能である。
本発明の抑制剤の対象への投与は、臓器移植の前であってもよいし、臓器移植と同時、または臓器移植の後であってもよい。また抑制剤の投与は一回であってもよいし、連続して投与することもできる。
また、生物体より摘出または排出された生物体の一部分に投与を行う際には、本発明の抑制剤を生物体の一部に「接触」させてもよい。
また、本発明において「接触」は、生物体の状態に応じて行う。例えば、生物体の一部への本抑制剤の散布、あるいは、生物体の一部の破砕物への本抑制剤の添加等を挙げることができるが、これらの方法に制限されない。生物体の一部が培養細胞の場合には、該細胞の培養液への本抑制剤の添加あるいは、本発明のオリゴヌクレオチドを含むDNAを、生物体の一部を構成する細胞へ導入することにより、上記「接触」を行うことも可能である。
本発明の方法を実践する際に、本発明の薬剤は、少なくとも1つの既知の化学療法剤と共に薬学的組成物の一部として投与されてもよい。または、本発明の薬剤は、少なくとも1つの既知の免疫抑制剤と同時に投与されてもよい。一つの態様において、本発明の抑制剤および既知の化学療法剤は、実質的に同時に投与されてもよい。
また、本発明の慢性拒絶反応抑制剤は、臓器移植の後、全身投与されることが好ましいが、臓器が移植された部位に対して投与されてもよいし、臓器と同時に標的に対して投与されてもよい。また、移植を行う前の臓器に対して、ex vivoにおいて投与されていてもよい。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
移植60日後の移植心の病理組織切片における、拒絶スコアによる比較検討結果および線維化領域の割合を示す写真および図である。 移植心血管病変における、血管の狭窄率を解析した結果を示す写真および図である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
ドナーに用いるB6.C-H2bm12マウスは、日本チャールズ・リバー株式会社を介して米国 The Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から購入し、レシピエントのC57BL/6マウスは日本SLC株式会社から購入した。それぞれのマウスMHC抗原はマイナーミスマッチ(クラスIIミスマッチ)であるため、移植心は急性拒絶反応を来さず、移植後約2ヶ月で人の慢性拒絶反応に一致する病理組織所見を呈することから、慢性拒絶反応の動物モデルとして確立されている。マウスは信州大学動物実験施設(正式名称:信州大学ヒト環境科学研究支援センター生命科学分野動物実験部門)で飼育し、当施設の動物実験プロトコールに従って飼育した。6から8週齢のマウスを用いて、過去に報告されているマウス異所性心移植モデル(Corry RJ, et al., Transplantation 16: 343-350, 1973)を若干改変し、以下の手順で顕微鏡下手術によりマウス心移植を施行した。
ドナーとレシピエントのマウスはともにPentobarbital sodium (Nembutal (登録商標)) 70 mg/kgの腹腔内注射により麻酔した。移植心は、吻合に用いる上行大動脈と肺動脈の2本を残し、その他の血管は一括に結紮して摘出した。移植心は氷上の7.5%ヘパリン添加冷生理食塩水中で保存した。レシピエントは正中で開腹し、腸管を脱転して腹部大動脈と下大静脈を露出し、微小血管用マイクロクリップで血流を遮断した後に、それぞれの表面を約1 mm切開して吻合口を作成した。移植心の大動脈とレシピエントの腹部大動脈、移植心の肺動脈とレシピエントの下大静脈をそれぞれ10-0ナイロン糸の連続縫合により吻合した。マイクロクリップを徐々に解除し、血流を再開して移植心の拍動の再開を確認した。止血を確認した後に腹壁と皮膚を縫合して閉腹した。1件の手術時間は約45分であり、成功率は95%以上であった。
治療群には、0.5 mg/マウス/回の投与量で、週2回MR16-1を腹腔内に注射した。対照治療群にはラットIgG (コントロールIg)を同様に投与した。移植60日後にレシピエントから移植心を摘出し、慢性拒絶反応を次の3つの病理組織学的指標を用いて評価した。
(1)ヘマトキシリン・エオジン染色標本における拒絶反応の程度を、細胞浸潤と心筋の壊死や脱落を指標とした0-4の5段階の基準(Billingham ME, et al., J Heart Transplant 9: 587-593, 1990 ; Rodriguez ER, J Heart Lung Transplant 22: 3-15, 2003)に従って点数化した拒絶スコアにより比較検討した。
移植60日後に移植心の病理組織切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った(図1)。対照治療群(図1a)では、広範な炎症細胞浸潤と心筋壊死の所見を認めた。MR16-1治療群(図1b)では、炎症細胞浸潤は軽度にとどまり、心筋組織構造は比較的保たれていた。また、MR16-1投与群の拒絶スコアは、対照治療群に比し有意に抑制された(図1c:対照治療群 3.1±0.3, MR16-1投与群 1.4±0.3, p=0.0013)。
(2)慢性拒絶に特徴的とされる心筋間質の線維化をマッソン・トリクローム染色により同定し、各視野あたりの線維化領域の割合(%)を画像解析ソフト(NIH image, version 1.62)で計測した。
その結果、対照治療群(図1d)に比し、MR16-1治療群(図1e)では、線維化領域が有意に抑制された(図1f: 対照治療群 46.5±4.1%, MR16-1投与群 19.0±2.1%, p=0.0001)。
(3)内膜肥厚による血管狭窄を特徴とする移植後血管病変を解析するため、内弾性板を本来の血管腔と近似し、同様の画像解析ソフトを用いて、Suzuki J, et al., Nat Med 3: 900-903, 1997の方法に従って次式により血管の狭窄率を測定した。
狭窄率(%)=(内弾性板領域‐内腔)/内弾性板領域x100.
移植心血管病変を解析した結果、対照治療群(図2a)に比し、MR16-1治療群(図2b)では、内膜肥厚が抑制され、血管内腔狭窄は有意に抑制された(図2c: 対照治療群 59.6±6.0%, MR16-1投与群 23.7±4.2%, p=0.0019)。
以上より、マウス心移植モデルにおいて、レシピエントに対するMR16-1投与は移植心の慢性拒絶反応を抑制し、特徴的な病理組織所見とされる移植心の線維化と血管内膜肥厚を有意に抑制した。慢性拒絶反応はレシピエントの長期予後を左右する合併症であり、本薬剤の臨床応用による新たな免疫抑制療法の開発が期待される。
本発明により、IL-6阻害剤を有効成分として含有する慢性拒絶反応の抑制剤、およびIL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、慢性拒絶反応を抑制する方法が提供された。
各種免疫抑制剤により急性期の拒絶反応が克服された後も慢性拒絶反応は緩徐に進行し、その病態は複雑で急性拒絶反応と異なる点が多い。既存の薬剤による慢性拒絶反応の予防および治療効果は確立されておらず、本発明は、IL-6阻害剤の慢性拒絶抑制効果による新たな治療上の有用性を提供するものである。さらに炎症性サイトカインであるIL-6の作用を選択的に阻害することから、既存の薬剤より副作用の少ない免疫抑制剤として優位性が期待できるものである。

Claims (11)

  1. 抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する、慢性拒絶反応の抑制剤。
  2. 抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
  3. 抗体が抗ヒトIL-6受容体抗体であることを特徴とする請求項1に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
  4. 抗体が組換え型抗体であることを特徴とする請求項1に記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
  5. 抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
  6. 心移植における慢性拒絶反応の抑制に用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載の慢性拒絶反応の抑制剤。
  7. 慢性拒絶反応の抑制剤を製造するための、抗IL-6受容体抗体の使用。
  8. 抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
  9. 抗体が抗ヒトIL-6受容体抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
  10. 抗体が組換え型抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
  11. 抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の使用。
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