本発明の実施形態においては、坂道での停車中にある程度のブレーキ液圧を保持する液圧保持制御を実行することにより、運転者のブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え時の車両のずり下がりを防止するブレーキ制御装置が提供される。ブレーキ制御装置は、停車時のマスタシリンダ圧を記憶しておき、その後の運転者によるブレーキペダルの操作によりマスタシリンダ圧が、記憶した停車時のマスタシリンダ圧よりも所定値以上大きくなることを開始条件として、液圧保持制御を実行する。
液圧保持制御では、停車状態を維持するために停車位置の路面状態、たとえば傾斜角にもとづいて最低目標液圧を設定し、ブレーキペダルの操作量に応じて設定した操作目標液圧が最低目標液圧を下回る場合には、目標液圧が最低目標液圧に保持される。ブレーキ制御装置は、運転者がアクセルペダルを操作したことを含む終了条件が成立した場合に液圧保持制御を終了する。なお終了条件は、運転者がブレーキペダルの操作を解除してから所定時間が経過したことを含んでもよい。
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧された作動液(以下、「ブレーキフルード」ともいう)をディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。なおマスタシリンダ32およびレギュレータ33は、それぞれマスタシリンダユニット27における第1室、第2室を構成し、したがってマスタシリンダ32を第1マスタシリンダ、レギュレータ33を第2マスタシリンダと呼んでもよい。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。なおレギュレータ33にはスプール弁が設けられており、動力液圧源30から供給されるブレーキフルードは、スプール弁を介してレギュレータ33に流入する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と、スプール弁を介して動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通可能であり、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、「レギュレータ圧」とは、本実施形態において説明の都合上の呼び名であり、上記したようにレギュレータ33を第2マスタシリンダと呼ぶ場合には、「レギュレータ圧」を、「マスタシリンダ圧」または「第2マスタシリンダ圧」と呼んでもよい。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。ポンプ36により、アキュムレータ圧は維持されるべき設定範囲に保たれる。ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の測定値に基づいて、アキュムレータ圧が設定範囲の下限を下回った場合にポンプ36をオンとしてアキュムレータ圧を加圧し、アキュムレータ圧が設定範囲の上限を超えた場合にポンプ36をオフとして加圧を終了する。
また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の実効値は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。またブレーキECU70は、分離弁60を開状態とする。これにより各ホイールシリンダ圧が共通の液圧に制御される。
リニア制御モードにおいて要求制動力を液圧制動力のみにより発生させる場合には、ブレーキECU70はレギュレータ圧あるいはマスタシリンダ圧をホイールシリンダ圧の目標圧として制御することになる。よって、この場合は必ずしもホイールシリンダ圧制御系統によってホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給しなくてもよい。運転者によるブレーキペダルの操作に応じて加圧されたマスタシリンダ圧あるいはレギュレータ圧をホイールシリンダにそのまま導入すれば自然に要求制動力を発生させることができるからである。
このため、ブレーキ制御装置20は、例えば停車中のように回生制動力を使用しないときに、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給するようにしてもよい。レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給する制御モードを以下では「レギュレータモード」と称する。つまりブレーキECU70は、停車中においてリニア制御モードからレギュレータモードに切り替えて制動力を発生させるようにしてもよい。車両の停止とともに制御モードを切り替えるようにすれば比較的簡易な制御で制御モードの切り替えを実行することができるという点で好ましい。あるいは、より実際的には、ブレーキECU70は制動により車速が充分に低下したために回生制動を中止するときにリニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替えてもよい。
レギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及び分離弁60を開弁し、マスタカット弁64を閉弁する。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、制御が停止され閉弁される。その結果、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードが供給されることとなり、レギュレータ圧によって各車輪に制動力が付与される。レギュレータ33には動力液圧源30が高圧側として接続されているので、動力液圧源30における蓄圧を活用して制動力を発生させることができるという点で好ましい。
このようにレギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への制御電流の供給を停止して閉弁し、両リニア制御弁を休止させている。このため、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の動作頻度を低減させることが可能となり、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を長期間にわたって使用することができるようになる。すなわち、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の耐用期間を向上させることができる。
リニア制御モードでの制御中に、例えばいずれかの箇所からの作動液の漏れ等の異常の発生によりホイールシリンダ圧が目標液圧から乖離してしまう場合がある。ブレーキECU70は、例えば制御圧センサ73の測定値に基づいてホイールシリンダ圧の応答異常の有無を周期的に判定している。ブレーキECU70は、例えばホイールシリンダ圧測定値の目標液圧からの乖離量が基準を超える場合にホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定する。ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、ブレーキECU70は、リニア制御モードを中止してマニュアルブレーキモードに制御モードを切り替える。また同様にブレーキECU70はレギュレータモードにおいても異常が検出された場合にマニュアルブレーキモードに制御モードを切り替える。マニュアルブレーキモードにおいては、運転者のブレーキペダル24への入力が液圧に変換され機械的にホイールシリンダ23に伝達されて車輪に制動力が付与される。マニュアルブレーキモードは、フェイルセーフの観点からバックアップ用の制御モードとしての役割を有する。
バックアップ用の制御モードの一例は、「ハイドロブースタモード」である。ハイドロブースタモードは、ブレーキ操作部材への操作入力に応じて機械的に制動力が生じるようにマスタシリンダ32からホイールシリンダ23への作動液流通経路が確保される制御モードである。ハイドロブースタモードにおいては、ブレーキECU70は、すべての電磁制御弁への制御電流の供給を停止する。よって、常開型のマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は開弁され、常閉型の分離弁60及びシミュレータカット弁68は閉弁される。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、制御が停止され閉弁される。
その結果、ブレーキフルードの供給経路はマスタシリンダ側とレギュレータ側との2系統に分離される。マスタシリンダ圧が前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLへと伝達され、レギュレータ圧が後輪用のホイールシリンダ23RR及び23RLへと伝達される。マスタシリンダ32からの作動流体の送出先は、ストロークシミュレータ69から前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLに切り替えられる。また、液圧ブースタ31は機械的にペダル踏力を増幅する機構であるため、ハイドロブースタモードに移行して各電磁制御弁への制御電流が停止されても継続して機能する。ハイドロブースタモードによれば、制御系の異常により各電磁制御弁への通電がない場合であっても液圧ブースタを利用して制動力を発生させることができるという点でフェイルセーフ性に優れている。
なお便宜上、以下では適宜、ハイドロブースタモードでのマスタシリンダ側の系統をマスタ系統と称し、レギュレータ側の系統をレギュレータ系統と称する。本実施形態ではハイドロブースタモードにおいてマスタ系統により前輪側に、またレギュレータ系統により後輪側に作動液が供給されるので、マスタ系統及びレギュレータ系統をそれぞれフロント系統及びリヤ系統と称する場合もある。
また、本実施形態においては、運転者のブレーキ操作がなされていない非制動時に第1の非制動モード及び第2の非制動モードの2つの制御モードが設定されている。本実施形態では第1の非制動モードはハイドロブースタモードであり、各制御弁への制御電流がオフとされる制御モードである。ブレーキECU70は、ブレーキシステムに異常が検出された場合の非制動時に第1の非制動モードすなわちハイドロブースタモードを選択する。
ブレーキECU70は、異常が検出されないことが確認されている場合に第2の非制動モードを選択する。第2の非制動モードを以下では制御外モードと呼ぶ。ブレーキECU70は例えば、車両始動の際に実行される初期検査で異常が検出されなかった場合に非制動時に制御外モードを選択する。この初期検査では例えば各制御弁の導通確認や各センサの動作チェックなどが行われる。ブレーキECU70は、初期検査が完了していない場合の非制動時には第1の非制動モードを選択する。
このように、非制動状態において複数の制御モードが設定されることにより、制御の自由度を向上させることができる。特に開発者の設計自由度を向上させることができる。また、第1の非制動モードすなわちハイドロブースタモードでは運転者の操作入力に応じた制動力の発生が確保され、フェイルセーフが実現される。このため、制御外モードにおける各制御弁の開閉状態の設定をハイドロブースタモードとは適宜異なる設定とすることにより、フェイルセーフと設計自由度の向上との両立を図ることができる。なお、制御外モードの開閉状態をハイドロブースタモードと同じに設定することも可能である。非制動状態における制御モードを3つ以上設定してもよい。
一方、上述のように制動中の制御モードとしては、リニア制御モード、レギュレータモード、及びハイドロブースタモードの3つが設定されている。リニア制御モードは、動力液圧源30からホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給する制御モードであり、第1の制動モードに相当する。レギュレータモードも第1の制動モードに相当する。レギュレータモードは、動力液圧源30を高圧源とするレギュレータ33からホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給する制御モードであるからである。ハイドロブースタモードは第2の制動モードに相当する。
ハイドロブースタモードは、異常が検出された場合だけでなく、異常の検出が完了していない場合にも選択される。異常検出が未完の場合とは例えば、車両始動の際にブレーキECU70により実行される初期検査が完了するまでの間である。ところが状況によっては、初期検査が未完了であり異常の有無が確定されていない場合であってもリニア制御モードまたはレギュレータモードに制御モードを変更することが望ましい場合がある。例えばABS制御が実行される場合である。ABS制御の実行が想定されるのは、例えば、車両のIG−ON直後に初期検査が未完了の状態で、運転者がブレーキペダルを踏み込んだまま坂道等で発進した場合がある。
ABS制御が実行される場合、各車輪の制動力を最適に制御して停止距離を最小化するためにホイールシリンダ23への供給可能作動液量に充分に余裕があることが望ましい。ハイドロブースタモードでは、フロント系統に関してはマスタシリンダ32からの供給可能液量がマスタシリンダ32の収容液量に制限される。これに対してリニアモード及びレギュレータモードにおいては動力液圧源30からブレーキフルードが供給されるため、ハイドロブースタモードに比べて多量のブレーキフルードを円滑に供給することができる。本実施形態ではABS制御の実行中はレギュレータモードが選択される。
ハイドロブースタモードでは、マスタシリンダ32の収容液量を制動に有効に活用するために、シミュレータカット弁68を閉弁してストロークシミュレータ69をマスタシリンダ32から分離する。一方リニア制御モード及びレギュレータモードでは、適切なブレーキフィーリングを実現するためにストロークシミュレータ69をマスタシリンダ32に接続することが望ましい。よって、各制御モードにおけるシミュレータカット弁68の開閉状態を、通常想定される使用環境に合わせて制御モードごとに一意的に設定した場合には、ハイドロブースタモードでは閉弁し、リニア制御モード及びレギュレータモードでは開弁するよう設定することになる。
この設定の下でブレーキ操作中にハイドロブースタモードからリニア制御モードまたはレギュレータモードに制御モードが変更される場合を考える。制御モードごとに一意的にシミュレータカット弁68の開閉状態が設定されている場合には、変更後の制御モードにおいてシミュレータカット弁68が開弁されるよう設定されていれば、変更前の開閉状態とは無関係に開弁されることになる。よってシミュレータカット弁68は、設定に従って制御モード変更とともに開弁される。その結果、リニア制御モードまたはレギュレータモードへの変更を契機としてマスタシリンダ32からストロークシミュレータ69へとブレーキフルードが流出を開始する。ストロークシミュレータ69の収容可能液量に応じて相当量のブレーキフルードがマスタシリンダ32から流出する。その結果、ブレーキペダル24が大きく変位し、ブレーキペダル24の入り込みが引き起こされるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、ブレーキECU70は、ブレーキ操作入力がなされている間に制御モードを変更する場合に、変更前の制御モードでマスタシリンダから作動液が供給されていない送出先には変更後の制御モードでも継続して作動液が供給されないように制御する。そのために、単に制御モードごとに一意的に制御弁の開閉状態を設定するのではなく、変更前の制御モードに応じて変更後の制御モードにおける制御弁の開閉状態を異ならせる。
具体的には、ハイドロブースタモードはシミュレータカット弁68が閉弁されるよう設定される。リニア制御モード及びレギュレータモードは、ブレーキ操作中における制御モードの変更において変更前の制御モードが少なくともハイドロブースタモードである場合に、シミュレータカット弁68の閉弁状態が継続されるよう設定される。これにより、ブレーキ操作中における制御モード変更を契機とするストロークシミュレータ69への作動液流出を防ぐことができる。よってブレーキペダル24の入り込みも防ぐことができる。
図2は、本実施形態に係る各制御弁の開閉状態の設定の一例を示す図である。図2には、レギュレータカット弁65、マスタカット弁64、分離弁60、及びシミュレータカット弁68の各制御モードでの開閉状態が示されている。理解を容易にするために開閉状態とともに各制御弁への通電状態がONまたはOFFと付記されている。また、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の各制御モードでの制御状態が示されている。シミュレータカット弁68以外の制御弁の開閉状態については既に述べているので、以下の説明ではシミュレータカット弁68の開閉状態を中心に説明する。
図2に示されるように、シミュレータカット弁68は、リニア制御モードではリニア制御モードへの変更前の制御モードでの開閉状態を継続するよう設定されている。同様にレギュレータモードでも、シミュレータカット弁68はレギュレータモードへの変更前の制御モードの開閉状態を継続するよう設定されている。なお例えばシステムの始動当初などのように変更前の開閉状態が存在しない場合には、シミュレータカット弁68が開弁されるよう設定されていてもよい。
このように開閉状態が設定されることにより、例えばハイドロブースタモードからリニア制御モードまたはレギュレータモードに制御モードが変更された場合には、ハイドロブースタモードではシミュレータカット弁68は閉弁されているからリニア制御モードまたはレギュレータモードにおいても継続してシミュレータカット弁68は閉弁される。よって、制御モード変更時のマスタシリンダ32からストロークシミュレータ69への作動液の流出が防止される。このためブレーキペダルの入り込みを防ぐことができる。特にハイドロブースタモードにおいてABS制御の実行が開始されてレギュレータモードに移行する場合に生じ得るブレーキペダルの入り込みを防ぐことができる。
また、回生協調制御中の通常の停車時のようにリニア制御モードからレギュレータモードに制御モードが切り替えられる場合にも、変更前の制御モードでのシミュレータカット弁68の開閉状態が継続される。よって、制御モードが切り替えられてもマスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との接続状態が継続され、ブレーキフィーリングが維持される。このようにして、制動中のハイドロブースタモードからの制御モード変更時のペダル入り込み防止と、正常時のブレーキフィーリングの確保とを両立することができる。
図2に示されるように、正常時の非制動状態における制御モードである制御外モードではシミュレータカット弁68が開弁されるよう設定されている。正常時においてブレーキECU70は、制動時にリニア制御モードまたはレギュレータモードを選択し、非制動時に制御外モードを選択する。このため、シミュレータカット弁68は開弁状態を継続することになる。よって、本実施形態によればシミュレータカット弁68の開閉動作頻度を低減することができる。シミュレータカット弁68の動作頻度低減により、作動音の発生頻度を低下させるとともに弁の耐用期間を長くすることもできる。
本実施形態のブレーキ制御装置20は、既述した制御モードの切替制御に加えて、停車中の運転者によるブレーキペダル24の踏み増し操作を契機として、車両のずり下がりを防止する液圧保持制御を実行する。この液圧保持制御においては、ブレーキECU70が、停車時からレギュレータ圧が所定値(TH)以上上昇したことによって、踏み増し操作があったことを判定する。以下、図3を用いて本実施形態の液圧保持制御について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る停車中のずり下がり防止のための液圧保持制御における基本制御を説明するための図である。この液圧保持制御は、リニア制御モードやレギュレータモードなどの第1の制動モードで実行されてよい。図3(a)はレギュレータ圧と時間の関係を示す。図3(a)において、縦軸はレギュレータ圧を示し、横軸は時間を示す。レギュレータ圧は、運転者によるブレーキペダル24の操作量に応じて変化する。
図3(b)は、アクセルペダルの操作量と時間の関係を示す。図3(b)において、縦軸はアクセルペダルの操作量を示し、横軸は時間を示す。図3(c)は、液圧保持制御の開始条件成立フラグと時間の関係を示す。開始条件は、停車後のブレーキペダル24の踏み増し操作により、レギュレータ圧が停車時のレギュレータ圧よりも所定値(TH)以上大きくなったことに設定される。開始条件成立フラグONは、開始条件が成立していることを示し、開始条件成立フラグOFFは、開始条件が成立していないこと、または踏み増し操作により開始条件が成立した後に踏み増し操作が解除されたことを示す。
図3(d)は、液圧保持制御の制御フラグと時間の関係を示す。縦軸の制御フラグONは、液圧保持制御が実行されていることを示し、縦軸の制御フラグOFFは、液圧保持制御が実行されていないことを示す。液圧保持制御は、開始条件成立フラグがONになったことを契機として実行される。
図3(e)は、ホイールシリンダ23の目標液圧と時間の関係を示す。図3(e)において、縦軸は目標液圧を示し、横軸は時間を示す。車両ずり下がりを防止するための液圧保持制御においては、ホイールシリンダの目標液圧が、少なくとも最低目標液圧Pa(図3(e)で一点鎖線で示す)を維持するように制御される。そのためブレーキECU70は、ブレーキペダル24の操作量にもとづいて設定される操作目標液圧(図3(e)で破線で示す)と最低目標液圧Paとのうち高い方を目標液圧(図3(e)で実線で示す)として、ホイールシリンダ圧を制御する。なお、図示の都合上、実線は、破線および一点鎖線にそれぞれ重ならないように示されているが、実際には、時間t0から時間t5までは破線に重なり、時間t5から時間t7までは一点鎖線に重なることになる。
最低目標液圧Paは、車両のずり下がりが発生しない値に設定され、停車位置の路面の傾斜角に応じて設定されてよい。本実施形態においてブレーキECU70は、操作目標液圧をレギュレータ圧と同期するように設定するが、たとえば、操作目標液圧は、レギュレータ圧とストロークセンサ25の検知量の双方を用いて設定されてよい。
図3(a)において、走行中の車両において運転者によりブレーキペダル24が踏み込み操作されると、操作量に応じてレギュレータ圧がP1まで上昇し、時間t1で、車両が停止する。ブレーキECU70は、車両停止時のレギュレータ圧P1を記憶する。なお、この例ではブレーキペダル24が踏み込まれて、レギュレータ圧がP1に維持されたときに車両が停止しているが、レギュレータ圧の上昇中に車両が停止してもよい。
停車後、運転者によりブレーキペダル24が踏み増し操作され、レギュレータ圧が再び上昇する。ブレーキECU70は、レギュレータ圧を監視し、所定の演算周期で、レギュレータ圧センサ71で検知されたレギュレータ圧と、記憶したレギュレータ圧P1との差分を計算する。時間t2で、差分(レギュレータ圧P2−レギュレータ圧P1)がTH以上の値になると、液圧保持制御の開始条件が成立し、開始条件成立フラグをオフからオンに設定する(図3(c)参照))。これによりブレーキECU70は、液圧保持制御フラグをオフからオンに変更して(図3(d)参照)、液圧保持制御を実行する(図3(e)参照)。
ブレーキペダル24の踏み増し操作は、液圧保持制御を実行するための契機であり、運転者は、液圧保持制御の実行を希望するときに、この踏み増し操作を行う。運転者は、踏み増し操作を行って、時間t2で液圧保持制御の実行指令を生成した後、時間t3で、元のストローク位置付近までブレーキペダル24を戻す。これにより操作目標液圧は、踏み増し操作以前のPbに設定され、開始条件成立フラグがオンからオフに設定される。液圧保持制御の実行中は、車両のずり下がりを防止するために、ホイールシリンダ23の液圧が、少なくとも最低目標液圧Paに維持される。
時間t4で、運転者のペダル踏力が緩められ、踏み込み操作量が減少し始める。時間t6で、ブレーキペダル24の踏み込み操作量がゼロになると、レギュレータ圧がゼロまで減少する。このとき、図3(e)を参照して、破線で示すホイールシリンダの操作目標液圧は、時間t4からt6までの間に、Pbからゼロまで減少することになり、図示の例では、時間t5で、操作目標液圧が最低目標液圧Paを下回る。したがって液圧保持制御下においては、時間t5以降、ブレーキECU70が、目標液圧を最低目標液圧Paに設定する。これにより、車両のずり下がりが抑制される。その後、時間t7で、アクセルペダルが操作されると、液圧保持制御の終了条件が成立し、液圧保持制御が終了して、目標液圧が、操作目標液圧(この場合はゼロ)に切り替えられる。なお、ブレーキペダル24の踏み込み操作量がゼロになってから所定時間(たとえば2秒)経過することが、液圧保持制御の終了条件として設定されていてもよく、この場合は、時間t6の2秒以内にアクセルペダル操作がなければ、アクセルペダル操作を待たずに液圧保持制御は終了する。以上が、液圧保持制御における基本制御である。
図1および図2に関して説明したように、ブレーキ制御装置20は、制御モードを切り替える機能を有し、たとえばハイドロブースタモードからリニア制御モードまたはレギュレータモードに制御モードを変更した場合には、変更後のリニア制御モードまたはレギュレータモードにおいてシミュレータカット弁68は閉弁状態を維持する。シミュレータカット弁68が閉弁されると、開弁されている状態と比べて、ブレーキフルードを収容する容量が減るために、ペダルストローク剛性が非常に高くなる。そのため、シミュレータカット弁68の閉弁時には、ブレーキペダル24の操作制御性が悪くなり、僅かな踏み込みによりレギュレータ圧は急激に上昇する。そのため、停車後にブレーキペダル24を軽く踏み込んだ場合であっても、レギュレータ圧が急上昇して開始条件が成立することがあり、運転者の意図に反して、液圧保持制御が実行されることがある。
そこでブレーキ制御装置20は、開始条件の成立判定に用いる所定値THを、シミュレータカット弁68の開閉状態に応じて設定する。具体的には、シミュレータカット弁68が閉弁状態のときには、開弁状態のときよりも所定値THを高く設定して、ブレーキペダル24の僅かな踏み込み操作を、液圧保持制御の実行指令と判断しないようにする。
図4は、本実施形態の液圧保持制御を実行するブレーキ制御装置20の構成を示す。ブレーキ制御装置20は、制御部として機能するブレーキECU70を備え、ブレーキECU70は、マスタ圧記憶処理部100および実行部120を備える。
マスタ圧記憶処理部100は、液圧保持制御の開始条件を判定するための基準となるマスタ圧の記憶処理を実行し、マスタ圧取得部102、記憶値設定部104およびマスタ圧記憶部106を備える。マスタ圧取得部102は、レギュレータ圧センサ71からレギュレータ圧を取得する。記憶値設定部104は、マスタ圧記憶部106に記憶させる値を設定する。なお、以下では、マスタ圧記憶部106に記憶したレギュレータ圧を、「マスタ圧記憶値」とも呼ぶ。
実行部120は、液圧保持制御を実行し、開始条件判定部122、液圧制御部124および終了条件判定部126を備える。開始条件判定部122は、液圧保持制御の開始条件の成立の有無を判定する。本実施形態において開始条件は、マスタ圧取得部102で所定の周期で取得されるレギュレータ圧が、マスタ圧記憶部106に記憶されたレギュレータ圧(マスタ圧記憶値)よりも所定値TH以上大きいことに設定される。開始条件判定部122は、シミュレータカット弁68の開閉状態に応じて、所定値THを設定する。具体的には、シミュレータカット弁68が閉弁されている場合には、シミュレータカット弁68が開弁されているときよりも所定値THを大きく設定する。終了条件判定部126は、液圧保持制御の終了条件の成立の有無を判定する。本実施形態において終了条件は、アクセルペダルが操作されること、またはブレーキペダル24の踏み込みが解除されてから所定時間経過したことに設定される。液圧制御部124は、開始条件成立フラグがONに設定され、液圧保持制御フラグがONに設定されると、Gセンサ82の検知値から路面の傾斜角を取得し、最低目標液圧を設定して液圧保持制御を実行し、終了条件が成立すると液圧保持制御を終了する。
図5は、本実施形態の液圧保持制御を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、所定の周期で実行される。マスタ圧記憶処理部100は、液圧保持制御フラグがオンであるか判定する(S10)。液圧保持制御フラグオンは、液圧保持制御が実行されていることを示し、液圧保持制御フラグオフは、液圧保持制御が実行されていないことを示す。液圧保持制御フラグがオンの場合(S10のY)、液圧保持制御は実行中であり、引き続き液圧制御部124が、液圧保持制御を実行する(S18)。
液圧保持制御フラグがオフの場合(S10のN)、マスタ圧記憶処理部100は、マスタ圧記憶処理を実行する(S12)。マスタ圧記憶処理においては、マスタ圧記憶部106が、停車時のレギュレータ圧センサ71により検知された液圧値を記憶する。
図6は、図5のS12のマスタ圧記憶処理を示すフローチャートである。マスタ圧取得部102が、車輪速センサ80の検知値から、車両が停止しているか判定する(S40)。マスタ圧取得部102は、全ての車輪に設けられた車輪速センサ80の検知値がゼロを示す場合に、車両が停止していることを判定する(S40のY)。このときマスタ圧取得部102は、レギュレータ圧センサ71で検知されるレギュレータ圧を取得する。記憶値設定部104は、マスタ圧記憶部106にレギュレータ圧が記憶されているか判定する(S42)。マスタ圧記憶部106がレギュレータ圧を記憶していなければ(S42のN)、記憶値設定部104が、マスタ圧記憶値を設定する。このとき記憶値設定部104は、マスタ圧記憶値を、以下に示すように、マスタ圧取得部102で取得されたレギュレータ圧、または所定の記憶下限値(たとえば3MPa)のいずれか大きい方に設定する。
マスタ圧記憶値=MAX(レギュレータ圧、記憶下限値)
マスタ圧記憶部106は、記憶値設定部104により設定されたマスタ圧記憶値を記憶する(S44)。
停車中でない場合(S40のN)、マスタ圧記憶値が既に記憶されている場合(S42のY)、マスタ圧記憶処理が終了する。マスタ圧記憶処理部100は、マスタ圧記憶処理を、所定の周期で実行する。
図5に戻り、液圧制御部124は、開始条件成立フラグがオンであるか判定する(S14)。開始条件判定部122は、開始条件が成立したか判定し、開始条件が成立していれば開始条件成立フラグをオンに設定し、成立していなければ開始条件成立フラグをオフに設定する。
図7は、開始条件成立フラグの設定処理を示すフローチャートである。開始条件判定部122は、開始条件成立フラグがオンであるか判定する(S60)。初期状態において、開始条件成立フラグはオフに設定されている。開始条件判定部122は、開始条件成立フラグがオフであることを判定すると(S60のN)、マスタ圧記憶部106にマスタ圧記憶値が記憶されているか判定する(S62)。マスタ圧記憶部106がマスタ圧記憶値を記憶していなければ(S62のN)、開始条件成立フラグの設定処理は終了する。マスタ圧記憶部106がマスタ圧記憶値を記憶していれば(S62のY)、開始条件判定部122は、マスタ圧取得部102で取得されるレギュレータ圧と、(マスタ圧記憶値+TH)とを比較する(S64)。レギュレータ圧が、(マスタ圧記憶値+TH)より低ければ(S64のN)、開始条件成立フラグの設定処理は終了する。一方、レギュレータ圧が、(マスタ圧記憶値+TH)以上であれば(S64のY)、開始条件判定部122は、開始条件が成立したことを判定し、開始条件成立フラグをオンに設定する(S66)。
S60において、開始条件判定部122が、開始条件成立フラグがオンであることを判定すると(S60のY)、マスタ圧取得部102で取得されるレギュレータ圧と、(マスタ圧記憶値+α)とを比較する(S68)。たとえばαは、0.5MPa程度の値に設定される。レギュレータ圧が、(マスタ圧記憶値+α)以上であれば(S68のN)、開始条件成立フラグはオンに維持されて、開始条件成立フラグの設定処理は終了する。一方、レギュレータ圧が、(マスタ圧記憶値+α)よりも低ければ(S68のY)、開始条件判定部122は、開始条件成立フラグをオフに設定する(S70)。開始条件判定部122は、開始条件成立フラグの設定処理を、所定の周期で実行する。
図8は、所定値THの設定処理を示すフローチャートである。開始条件判定部122は、実行中の制御モードにおいて、シミュレータカット弁68が閉弁状態であるか判定する(S80)。開始条件判定部122は、たとえばシミュレータカット弁68に通電が行われているか否かに応じて、シミュレータカット弁68が閉弁状態であるか判定してもよい。また開始条件判定部122は、実行中の制御モードがシミュレータカット弁68を閉弁させるものであるか否かに応じて、シミュレータカット弁68が閉弁状態であるか判定してもよい。シミュレータカット弁68が閉弁状態にあれば(S80のY)、開始条件判定部122は、所定値THを値Aに設定する(S82)。一方、シミュレータカット弁68が開弁状態にあれば(S80のN)、開始条件判定部122は、所定値THを値Bに設定する(S84)。なお、A>Bである。
図9は、制御モードと所定値THとの関係を定めるテーブルを示す。本実施形態のブレーキ制御装置20は、複数の制御モードから1つを選択して、選択した制御モードにしたがってシミュレータカット弁68の開閉を制御する。そこで開始条件判定部122は、選択した制御モードをもとに、図9に示すテーブルを参照して、所定値THを設定してもよい。
以上のように開始条件判定部122は、所定値THを、AまたはBに設定する。たとえばAは、8MPaに設定され、Bは2MPaに設定される。図7のS64は、液圧保持制御の開始条件を示すが、シミュレータカット弁68が閉弁状態にあるときには所定値THをAに設定することで、Bに設定した場合よりも開始条件を成立しにくくする。これにより、運転者が踏み増し操作の意図がなくブレーキペダル24を踏んでも、レギュレータ圧が(マスタ圧記憶値+A)以上とならなければ、開始条件は成立しないこととなり、運転者の意図に反して液圧保持制御が実行される事態を回避できる。
図5に戻り、開始条件成立フラグがオフであれば(S14のN)、液圧保持制御フラグはオフに維持されて、図5に示すフローが終了する。一方、開始条件成立フラグがオンであれば(S14のY)、液圧制御部124は、液圧保持制御フラグをオンに設定し(S16)、液圧保持制御を開始する(S18)。終了条件判定部126は、液圧保持制御の終了条件が成立したか判定する(S20)。終了条件が成立していなければ(S20のN)、液圧保持制御フラグはオンに維持されて、本フローが終了する。一方、終了条件が成立すると(S20のY)、終了条件判定部126は、液圧保持制御フラグをオフに設定し(S22)、液圧制御部124が液圧保持制御を終了して、本フローが終了する。以上の処理は所定の周期で実行される。
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施の形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。