本発明の一実施形態においては、坂道での停車中にある程度のブレーキ液圧を保持することにより、運転者のブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え時の車両のずり下がりを防止するブレーキ制御装置が提供される。ブレーキ制御装置は、運転者による操作液圧が停車維持の必要最低限の液圧を超える場合には操作液圧をホイールシリンダに導入する。操作液圧で停車を維持可能である間は、ホイールシリンダ圧の制御を休止する。よって、ホイールシリンダ圧は操作液圧とともに増減する。
このようにすれば、ホイールシリンダ圧を制御するための制御弁の使用頻度を少なくすることができる。特に、停車維持のための最低限の液圧を超える比較的高圧領域での使用頻度を低減することができる。作動音が生じやすい高圧領域での使用頻度が低減されることにより、異音も抑制される。また、正常時でも可能な場合には制御を休止して使用頻度を少なくすることは、制御弁の耐用期間をより長くするためにも望ましい。
一実施形態においては、制御部は、運転者のブレーキ操作に連動する操作液圧をホイールシリンダに供給する操作液圧モードと、ホイールシリンダ圧が目標液圧に追従するよう制御する制御液圧モードと、を含む複数のブレーキモードを切替可能であってもよい。制御部は、操作液圧が停車状態を維持するための設定保持圧以上である場合には操作液圧モードを選択してもよい。一方、制御部は、操作液圧が設定保持圧に満たない場合には制御液圧モードを選択してもよい。制御液圧モードにおいて制御部は、停車状態を維持するための保持圧を目標液圧としてホイールシリンダ圧を制御してもよい。
また、制御部は、停車中に、操作液圧に基づいて設定される第1目標圧と、停車状態を維持するために停車位置の傾斜に基づいて設定される第2目標圧とのうち高いほうを目標圧としてホイールシリンダ圧を制御する液圧保持制御を実行してもよい。この場合、第1目標圧が選択されるべき場合に操作液圧モードが選択され、第2目標圧が選択される場合に制御液圧モードが選択されてもよい。つまり、第2目標圧が設定保持圧に相当し、状況に応じて可変とされていてもよい。
制御部は、操作液圧が設定保持圧よりも高圧である第1のしきい値を超えたときに制御液圧モードを中止して操作液圧モードに切り替えてもよい。つまり、操作液圧が設定保持圧を超えたときに直ちに操作液圧モードに切り替える代わりに、設定保持圧に所定のマージンを加えた値よりも操作液圧が高い場合に操作液圧モードに切り替えてもよい。また、制御液圧モードにおいて第1目標圧が目標圧として選択されている場合に、操作液圧とホイールシリンダ圧との差圧が許容範囲内でありかつホイールシリンダ圧が設定保持圧よりも十分に高圧である場合に、制御部は、制御液圧モードから操作液圧モードに切り替えてもよい。
このように比較的高めの圧で操作液圧モードに切り替えることにより、しばらくの間制御液圧モードの中止状態が維持されると考えられる。操作液圧モードへの切替直後に一時的な軽度の液圧変動(液圧低下)で制御液圧モードが再開されるのを避けることができる。制御液圧モードの再開の頻発を避けることができる。また、車両のずり下がりを確実に防ぐという点でも、比較的高めの操作液圧がホイールシリンダに導入されることは好ましい。
また、制御部は、設定保持圧よりも高圧であり第1のしきい値よりも低圧である第2のしきい値を操作液圧が下回ったときに制御液圧モードを再開してもよい。第2のしきい値は例えば、操作液圧を遮断するための開閉弁の応答遅れ時間に想定される操作液圧低下量に基づいて設定される。この応答遅れ時間は例えば開閉弁の仕様として与えられ、液圧に依存しない一定値である。第2のしきい値は例えば、想定される最大の操作液圧低下量に対して該開閉弁の閉弁完了時に液圧が設定保持圧を超える状態が維持されるように設定される。あるいは、第2のしきい値は、制御液圧モードを再開しようとするときに測定された液圧に応じて異ならせてもよい。例えば、想定操作液圧低下量は高圧ほど大きいので、第2のしきい値は測定液圧が大きいほど大きい値に設定されてもよい。
制御部は、開閉弁の応答遅れ時間に想定される操作液圧変化量を、操作液圧と設定保持圧との差圧が下回ったときに開閉弁を閉弁して操作液圧を遮断し、制御液圧モードを再開してもよい。制御部は、開閉弁への閉弁指令から閉弁完了までの所要時間に想定される操作液圧の減圧量の大きさを設定保持圧に加えた値をホイールシリンダ圧が下回ったときに開閉弁に閉弁指令を与えるとともに制御液圧モードを再開してもよい。
このようにすれば、操作液圧が減圧されて設定保持圧に到達する前に開閉弁の閉弁を完了するとともに制御液圧モードを再開することができる。操作液圧の設定保持圧への到達に先行して開閉弁に閉弁指令を与えかつ制御液圧モードを再開することができる。すなわち、制御液圧モードの再開時に開閉弁の応答遅れの影響により一時的に保持圧を下回るのを回避することが可能となる。
制御部は、制御液圧モードにおいて停車中に目標圧の時間変化率を制限してもよい。このようにすれば、制御弁の流量を制限することができるので異音も抑制される。しかし、例えば、制御液圧モード再開直前の操作液圧モードでの目標圧が設定保持圧をある程度下回っていると、制限された時間変化率のもとでは再開時に目標圧を設定保持圧まで増加させるのにある程度時間を要することになる。その間は既に制御液圧モードが再開されているから、制御液圧が目標圧に追従して減圧されることで設定保持圧を一時的に下回るおそれがある。制御液圧モード再開時の目標圧変動によっては、逆に、意図せざる増圧が生じることもありうる。
よって、制御部は、制御液圧モードを再開するときに一時的に時間変化率の制限を解除してもよい。このようにすれば、制御液圧モードの再開時に目標圧を設定保持圧に一致させるべく比較的大きな勾配で目標圧を変化させることができる。
一実施形態においては、ブレーキ制御装置は、ブレーキ液圧を減圧する減圧リニア制御弁と、閉弁してホイールシリンダに液圧を保持するレギュレータカット弁と、保持液圧に向けて減圧する際にレギュレータカット弁を開弁する制御部と、を備えてもよい。レギュレータカット弁は、急制動時に補助的に操作液圧をホイールシリンダに導入する経路に設けられていてもよい。そのために、レギュレータカット弁は設計上、減圧リニア制御弁よりも大流量が許容されていてもよい。この場合、保持液圧に減圧するまでの比較的高圧領域についてはレギュレータカット弁を減圧に利用することにより、減圧リニア制御弁の使用頻度が低減される。これに伴って、減圧リニア制御弁での自励振動による異音も低減される。
制御部は、保持液圧に向けて減圧する際にレギュレータカット弁を開弁するとともに減圧リニア制御弁の制御を中止してもよい。すなわち制御部は、制御液圧モードを中止し、レギュレータカット弁を開弁して操作液圧モードに移行して保持液圧へと減圧してもよい。あるいは制御部は、減圧リニア制御弁の制御を継続しつつレギュレータカット弁を開弁して保持液圧に向けて減圧してもよい。減圧リニア制御弁の制御を継続する場合には、自励振動が発生しないことが保証されている流量の範囲で制御することが異音抑制の観点からは好ましい。
図1は、本発明の各実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。ポンプ36により、アキュムレータ圧は維持されるべき設定範囲(本明細書ではこれを許容範囲という場合もある)に保たれる。ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72の測定値に基づいて、アキュムレータ圧が許容範囲の下限を下回った場合にポンプ36をオンとしてアキュムレータ圧を加圧し、アキュムレータ圧が許容範囲の上限を超えた場合にポンプ36をオフとして加圧を終了する。
また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。本実施形態においてはストロークセンサ25は2つの接点を有しており、見かけ上2つのセンサであるかのように2つの測定値をブレーキECU70に出力することができる。
また、ブレーキECU70にはストップランプスイッチが接続されている。ストップランプスイッチはブレーキペダル24が踏み込まれるとオン状態となる。これによりストップランプが点灯される。また、ブレーキペダル24の踏込が解除されるとストップランプスイッチはオフ状態となり、ストップランプは消灯される。ストップランプスイッチの点灯状態を示す信号がストップランプスイッチからブレーキECU70へと所定時間おきに入力され、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の実効値は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。またブレーキECU70は、分離弁60を開状態とする。これにより各ホイールシリンダ圧が共通の液圧に制御される。
リニア制御モードにおいて要求制動力を液圧制動力のみにより発生させる場合には、ブレーキECU70はレギュレータ圧あるいはマスタシリンダ圧をホイールシリンダ圧の目標圧として制御することになる。よって、この場合は必ずしもホイールシリンダ圧制御系統によってホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給しなくてもよい。運転者によるブレーキペダルの操作に応じて加圧されたマスタシリンダ圧あるいはレギュレータ圧をホイールシリンダにそのまま導入すれば自然に要求制動力を発生させることができるからである。
このため、ブレーキ制御装置20は、例えば停車中のように回生制動力を使用しないときに、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給するようにしてもよい。レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードを供給する制御モードを以下ではレギュレータモードと称する。つまりブレーキECU70は、停車中においてリニア制御モードからレギュレータモードに切り替えて制動力を発生させるようにしてもよい。車両の停止とともに制御モードを切り替えるようにすれば比較的簡易な制御で制御モードの切り替えを実行することができるという点で好ましい。あるいは、モード切替時のペダルショックの低減を考慮して、ブレーキECU70は、車両停止後にホイールシリンダ圧とレギュレータ圧との差が許容範囲内に収まったときにリニア制御モードからレギュレータモードに切り替えてもよい。
レギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及び分離弁60を開弁し、マスタカット弁64を閉弁する。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、制御が停止され閉弁される。シミュレータカット弁68は開弁される。その結果、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23にブレーキフルードが供給されることとなり、レギュレータ圧によって各車輪に制動力が付与される。レギュレータ33には動力液圧源30が高圧側として接続されているので、制動力の発生に動力液圧源30における蓄圧を活用することができるという点で好ましい。
このようにレギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67への制御電流の供給を停止して閉弁し、両リニア制御弁を休止させている。このため、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の動作頻度を低減させることが可能となり、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を長期間にわたって使用することができるようになる。すなわち、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の耐用期間を向上させることができる。
本発明の一実施形態においては、ブレーキECU70は、車速センサ(図示せず)の測定結果に基づいて走行中は走行中リニア制御モードを実行し、停車中は停車中リニア制御モードを実行してもよい。走行中リニアモード及び停車中リニア制御モードはいずれも基本的には同様であり、ホイールシリンダ圧が目標液圧に追従するよう増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の開度を制御する。停車中リニア制御モードにおいては目標液圧及び目標液圧勾配に上限値を設定するという点で、走行中リニア制御モードとは異なる。走行中は高い応答性で要求制動力を発生させることが優先されるのに対して、停車中は走行中に比べると制動力の応答性は要求されないからである。よって、停車中は目標液圧勾配制限により制御弁での流量が制限される。そうするとフルード流動音すなわち異音が抑制される。
一実施形態においては、作動液圧が比較的低圧である場合には小さい目標液圧勾配に制限され、比較的高圧である場合には大きい目標液圧勾配が許容される。低圧領域で目標液圧勾配を比較的小さくするのは、いわゆる液圧剛性を考慮しているからである。ホイールシリンダ増圧の初期段階(すなわち低圧領域)においてはホイールシリンダ23自体及び液圧経路の配管等も加圧され膨張して容積がいくらか大きくなる。このため、低圧領域では単位流量当たりの増圧量が小さくなる。よって、ある目標液圧まで増圧させるための流量は低圧領域のほうが高圧領域よりも多く必要になる。そこで、作動液圧に応じた流量変動を抑えるために、低圧領域では上述のように目標液圧勾配を小さく制限する。その結果、低圧領域での流量増大が抑制され、例えば増圧リニア制御弁66でのブレーキフルード流動音の増大も抑制される。
図2は、本発明の一実施形態に係る停車中のずり下がり防止のためのホイールシリンダ圧保持制御を説明するための図である。図2の縦軸は作動液圧を示し、横軸は時間を示す。停車中のホイールシリンダ圧の時間変化の一例を実線で示している。このずり下がり防止液圧制御においては、ホイールシリンダ圧を少なくとも最低保持圧(図2で一点鎖線で示す)Pbに保つよう制御する。そのために、ブレーキECU70は、レギュレータ圧(図2で破線で示す)と最低保持圧Pbとのうち高いほうを目標圧としてリニア制御モードでホイールシリンダ圧を制御する。最低保持圧Pbは例えば、停車位置の路面の傾斜量に応じて設定される。ブレーキECU70は、レギュレータ圧が最低保持圧よりも十分に高いときはレギュレータモードを選択する。
図2に示されるように、ブレーキ操作が開始されると操作量に応じてレギュレータ圧が増加していく。ブレーキECU70は、停車中にブレーキ操作量が液圧保持開始しきい値を超えたことを含む液圧保持制御開始条件が成立した場合に液圧保持制御を開始する。図2においては、レギュレータ圧センサ71の測定値が液圧保持制御開始液圧Paを超えたときに液圧保持制御が開始され、最低保持圧Pbが設定される。本実施形態では、ブレーキECU70は、レギュレータ圧が液圧保持制御開始液圧Paを超えたことを液圧保持制御開始条件としているが、これに代えてまたはこれとともに例えばストロークセンサ25の測定値が液圧保持開始しきい値を超えたことを液圧保持制御開始条件に含めてもよい。
時刻taにレギュレータ圧が液圧保持制御開始液圧Paに達して液圧保持制御が開始される。ブレーキECU70は、レギュレータ圧と最低保持圧Pbとのうち高いほうを目標圧としてリニア制御モードでホイールシリンダ圧を制御する。通常は図2に示されるように、レギュレータ圧のほうが最低保持圧Pbよりも大きいため、ホイールシリンダ圧はレギュレータ圧に一致するように制御される。この場合、ブレーキECU70は、レギュレータ圧をそのまま目標圧とするのではなく、レギュレータ圧を補正して得られる目標圧にホイールシリンダ圧を制御してもよい。また、液圧保持制御の開始以前(図2のta以前)においてはレギュレータカット弁65を開弁してレギュレータ圧をホイールシリンダ23に導入するブレーキモードとし、液圧保持制御開始条件の成立によりリニア制御モードにブレーキモードを切り替えてもよい。
ブレーキECU70は、車両に搭載されているGセンサ(図示せず)の測定値に基づいて最低保持圧Pbを決定する。すなわち、Gセンサの測定値から得られる停車位置の傾斜量が大きいほど最低保持圧Pbを大きな値とし、停車位置の傾斜量が小さいほど最低保持圧Pbを小さな値とする。最低保持圧Pbは例えば、車両のずり下がりを防ぎ停車状態を維持することを保証する最低限の液圧に所定のマージンを加えた大きさに設定される。
図2においては、時刻t1にレギュレータ圧がレギュレータモード開始液圧P1に達する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧がレギュレータモード開始液圧P1に達した場合にリニア制御モードからレギュレータモードにブレーキモードを切り替える。開始液圧P1は、最低保持圧Pbに所定のマージンを加えた値に設定される。レギュレータモード開始液圧P1は、レギュレータモードへの切替直後に一時的な軽度の液圧低下によりリニア制御モードの再開条件が成立しないように、最低保持圧Pbよりも十分に高圧に設定される。また、比較的高めのレギュレータ圧がホイールシリンダに導入されることにより、車両のずり下がりを確実に防ぐことができる。
図2においては、液圧保持制御の開始後ブレーキ操作量すなわちレギュレータ圧がある期間一定に保たれ、その後ゼロへと減少する場合が一例として示されている。時刻tbにおいてレギュレータ圧は最低保持圧Pbまで減少し、その後時刻tcにゼロとなっている。レギュレータモードを仮に継続した場合には、ホイールシリンダ圧もレギュレータ圧に連動して時刻tbに最低保持圧Pbまで減少し、その後時刻tcにゼロとなってしまう。よって、ブレーキECU70は、リニア制御モードを再開することにより、時刻tb以降のホイールシリンダ圧を最低保持圧Pbに保持する。
図2においては、時刻t2にレギュレータ圧及びホイールシリンダ圧がリニア制御モード再開液圧P2まで低下する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧がリニア制御モード再開液圧P2まで低下したときにレギュレータモードからリニア制御モードにブレーキモードを切り替える。液圧保持制御中は最低保持圧Pbとレギュレータ圧のうち高いほうを目標圧としてホイールシリンダ圧が制御されるから、ホイールシリンダ圧は最低保持圧Pbに保たれる。再開液圧P2は、レギュレータモード開始液圧P1より小さく最低保持圧Pbより大きい値に設定される。レギュレータモード開始液圧P1より再開液圧P2を小さくすることにより、レギュレータモードをより長く継続することができる。なお、リニア制御モード再開液圧P2は、最低保持圧Pbに等しい値に設定されてもよい。
ブレーキECU70は、液圧保持制御終了条件が成立したときに減圧リニア制御弁67を通じてホイールシリンダ23を減圧する。液圧保持制御終了条件は例えば、ブレーキ操作の解除から所定の待ち時間が経過したことを含む。図2においては、時刻tdに待ち時間が経過して最低保持圧Pbが解除されている。つまり、待ち時間は時間tc−tdの長さに設定されている。液圧保持制御終了条件は、運転者がアクセルペダルを操作したことを含んでもよい。この場合、ブレーキECU70は例えば、アクセルペダルのストロークセンサからの出力に基づいてアクセルペダルの操作の有無を判定してもよい。アクセルペダルの操作がなされていると判定された場合には、ブレーキECU70は、上述の待ち時間の経過を待つことなく減圧する。
なおブレーキECU70は、最低保持圧Pbを解除する際には減圧リニア制御弁67での自励振動を防止するよう設定された減圧プロファイルで減圧してもよい。減圧プロファイルは、減圧完了目標時間Tで減圧が完了するよう最低保持圧Pbに応じて決定されてもよい。例えば、減圧当初は比較的緩やかな減圧勾配で減圧し、後半は比較的大きな減圧勾配で減圧する2段階の減圧勾配でホイールシリンダ圧を減圧してもよい。当初の減圧勾配は減圧開始時点のホイールシリンダ圧(図2においては最低保持圧Pb)に応じて設定され、例えば減圧完了目標時間Tを一定の減圧勾配としたときの勾配Pb/Tよりも小さい値に設定される。
図3は、本発明の一実施形態に係り、リニア制御モード再開時のホイールシリンダ圧の変動をより詳細に示す図である。図3の上部には、図2における時刻tb付近のホイールシリンダ圧(実線で示す)及びレギュレータ圧(破線で示す)の変化が示されている。また、図3の下部には、レギュレータカット弁65の開閉タイミングが示されている。
ここで、本実施形態においては、レギュレータカット弁65が応答遅れ時間Δtを有するものとする。すなわち、ブレーキECU70がレギュレータカット弁65に閉弁指令を送信してから閉弁動作が完了するまでに時間Δtを要するということである。理想的にはブレーキECU70が閉弁指令を送信すると同時にレギュレータカット弁65が開弁されることが好ましいが、実際にはある程度の遅れがある。このため、リニア制御モードの再開時にブレーキECU70がレギュレータカット弁65に閉弁指令を送信してから応答遅れ時間Δtが経過するまでは、レギュレータカット弁65の開弁状態が継続される。
図3に示されるように、リニア制御モード再開液圧が最低保持圧Pbに比較的近い値P3に設定されている場合を一例として考える。この場合、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が液圧P3に達した時刻t3においてリニア制御モードを再開するとともにレギュレータカット弁65に閉弁指令を与える。その結果、応答遅れ時間Δtが経過した時刻t3+Δtにおいてレギュレータカット弁65は閉弁を完了する。そうすると、図において一点鎖線で示されるように、低下し続けるレギュレータ圧に引きずられるようにしてホイールシリンダ圧は最低保持圧Pbよりもいくらか低い値まで一旦減圧されてしまうおそれがある。リニア制御モードは既に再開されているものの、レギュレータカット弁65が開弁されているからである。
これに対して、本実施形態においては、リニア制御モード再開液圧P2は応答遅れ時間Δtに想定されるホイールシリンダ圧低下量に基づいて設定されている。リニア制御モード再開液圧P2は、リニア制御モード再開液圧P2と最低保持圧Pbとの差圧P2−Pbがレギュレータカット弁65の応答遅れ時間Δtにおける想定ホイールシリンダ圧低下量以上となるように設定されている。よって、リニア制御モードの再開時にホイールシリンダ圧が最低保持圧Pbを下回らないようにすることができる。なお図3においては、差圧P2−Pbが想定ホイールシリンダ圧低下量に等しい場合が示されている。このため、レギュレータカット弁65の閉弁完了タイミングがちょうど時刻tbに一致している。
応答遅れ時間Δtは液圧によらずほぼ一定である。ところが想定ホイールシリンダ圧低下量は、上述の液圧剛性のために液圧によって異なる。高圧であるほど想定ホイールシリンダ圧低下量は大きくなる。よって、ブレーキECU70は、リニア制御モード再開液圧P2を想定ホイールシリンダ圧低下量に連動させて変化させてもよい。あるいは、処理を簡単にするために、差圧P2−Pbを予め設定された固定値としてもよい。この場合、最低保持圧Pbが定まるとともに、対応するリニア制御モード再開液圧P2も定まる。
図4は、本発明の一実施形態に係り、リニア制御モード再開時のホイールシリンダ圧の変動をより詳細に示す図である。図4には、図2における時刻tb付近のホイールシリンダ圧(実線で示す)及び目標液圧(破線で示す)の変化が示されている。上述のように本実施形態においては、異音抑制のためにリニア制御モードにおいては停車中は目標液圧勾配が制限されている。レギュレータモードにおいてはレギュレータ圧がホイールシリンダ23に導入されるので、ホイールシリンダ圧の制御には目標液圧は使用されない。しかし、ブレーキECU70はリニア制御モードと同様にレギュレータモードにおいても形式的にいわば仮想的な目標液圧を演算している。
図4に示されるように、リニア制御モードの再開直前においてレギュレータモードの仮想目標液圧は比較的大きな減少率で減少している。仮想目標液圧は運転者のブレーキペダルストロークの低下に対応して減少するからである。一方、リニア制御モードの再開後には上述のように最低保持圧Pbが目標液圧に設定される。しかし、目標液圧勾配に上限値が設定されていると、目標液圧が最低保持圧Pbに達するまでにある程度の時間を要してしまう。図4においては時刻tdに目標液圧が最低保持圧Pbに達しているので、リニア制御モードの再開から時間td−tbを要していることになる。そうすると、図4に実線で示されるように、リニア制御モード再開当初のホイールシリンダ圧は目標液圧に追従して最低保持圧Pbよりもいくらか低い値まで一旦減圧されてしまうおそれがある。逆にリニア制御モードの再開直前の仮想目標液圧が最低保持圧Pbよりある程度大きければ、目標液圧が最低保持圧Pbに減少するまでに時間を要するおそれもある。この場合、意図せざる増圧が生じ得る。
これに対して、本実施形態においては一点鎖線で示されるように、ブレーキECU70は、リニア制御モードの再開時において少なくとも1制御周期の間、目標液圧勾配の制限を一時的に解除している。ブレーキECU70は、目標液圧が最低保持圧Pbに一致するまで、または最低保持圧Pbを含む許容範囲内に目標液圧が到達するまで目標液圧勾配の制限を解除する。すなわち、ブレーキECU70は、リニア制御モードの再開時に目標液圧勾配上限値を超える目標液圧勾配を一時的に許容している。このようにすれば、図4に示されるようにリニア制御モードの再開時に目標液圧を最低保持圧Pbにすみやかに一致させることができる。
図5及び図6は、本発明の一実施形態に係るブレーキモードの選択処理を説明するためのフローチャートである。図5に示されるレギュレータモード移行処理は、リニア制御モードにおいて停車中かつ液圧保持制御中にブレーキECU70により周期的に実行される。停車中かつ液圧保持制御中にレギュレータモード移行条件が成立した場合に、ブレーキECU70は、リニア制御モードからレギュレータモードに移行する。図6に示されるリニア制御モード再開処理は、レギュレータモードにおいて停車中かつ液圧保持制御中にブレーキECU70により周期的に実行される。停車中かつ液圧保持制御中にリニア制御モード再開条件が成立した場合に、ブレーキECU70は、レギュレータモードを中止してリニア制御モードを再開する。
図5に示されるように、ブレーキECU70はまず、制御液圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの差の大きさが第1しきい値αより小さいか否かを判定する(S10)。制御液圧Pfrは制御圧センサ73の測定値であり、ホイールシリンダ圧を示す。レギュレータ圧Pregはレギュレータ圧センサ71の測定値から得られる。レギュレータカット弁65の開弁時のペダルショックを小さくするために、制御液圧Pfrとレギュレータ圧Pregとが乖離している場合にはレギュレータモードへの移行を禁止する。第1しきい値は、レギュレータカット弁65の開弁時に許容できる制御液圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの液圧差として設定される。
制御液圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの差の大きさが第1しきい値αより小さいと判定された場合には(S10のY)、ブレーキECU70は、制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第2しきい値βよりも大きいか否かを判定する(S12)。すなわち、ブレーキECU70は、制御液圧Pfrが第2しきい値βを超えて保持圧Pbを上回るか否かを判定する。一実施例においては保持圧Pbと第2しきい値βとの和がレギュレータモード開始液圧P1(図2参照)に相当する。第2しきい値βは、リニア制御モードを早期に休止させることを重視する場合にはより小さい値に設定すればよいし、一時的な軽度の液圧低下で制御液圧Pfrが保持圧Pbを下回ってリニア制御モードが再開されるのを防ぐことを重視する場合にはより大きい値に設定すればよい。
制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第2しきい値βよりも大きいと判定された場合には(S12のY)、ブレーキECU70は、リニア制御モードを中止してレギュレータモードに移行する(S14)。すなわち、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67、及びレギュレータカット弁65への制御電流供給を停止する。その結果、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は閉弁され、レギュレータカット弁65は開弁され、レギュレータ圧がホイールシリンダ23に与えられる。
一方、制御液圧Pfrとレギュレータ圧Pregとの差の大きさが第1しきい値α以上であると判定された場合(S10のN)、及び、制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第2しきい値β以下であると判定された場合には(S12のN)、ブレーキECU70は、そのままリニア制御モードを継続する。
レギュレータモードに移行した場合には、ブレーキECU70は、図6に示されるリニア制御モード再開処理を実行する。ブレーキECU70は、制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第3しきい値γよりも小さいか否かを判定する(S20)。すなわち、一実施例においては保持圧Pbと第3しきい値γとの和がリニア制御モード再開液圧P2(図2参照)に相当する。第3しきい値γは例えば上述のように、レギュレータカット弁65の閉弁動作の応答遅れ時間に基づいて設定される。
制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第3しきい値γ以上であると判定された場合には(S20のN)、ブレーキECU70は、レギュレータモードを継続する。一方、制御液圧Pfrと液圧保持制御の保持圧Pbとの差が第3しきい値γよりも小さいと判定された場合には(S20のY)、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65に閉弁指令を送信する(S22)。これにより、所定の応答遅れ時間経過後にはレギュレータカット弁65は閉弁される。さらにブレーキECU70は、レギュレータモードからリニア制御モードに移行する(S24)。すなわち、ブレーキECU70は、目標液圧と制御液圧Pfrとの差圧が許容範囲に収まるよう増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の制御を再開する。このとき、ブレーキECU70は上述のように、少なくとも1制御周期の間、目標液圧勾配の制限を解除する。これにより、目標液圧がすみやかに保持圧Pbに設定され、ホイールシリンダ圧はレギュレータ圧から保持圧へとスムーズに変化する。
以上のように本実施形態によれば、坂道停車中のペダル踏み替え時に停車を維持すべくブレーキ液圧を保持する場合に、運転者の操作液圧をホイールシリンダに導入してホイールシリンダ圧制御を休止することができる。よって、比較的高圧領域でのリニア制御弁の使用頻度を少なくして異音発生を抑えることができる。