以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る構造体であるインクジェット記録ヘッド、及び、そのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置について説明する。
(第1の実施形態)
図1には、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置が示されている。
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、用紙Pをストックすると共に画像記録時に送り出す用紙供給部12、用紙供給部12から送り込まれた用紙Pの姿勢を制御して記録ヘッド部16に送り出すレジ調整部14、レジ調整部14から送り込まれた用紙Pに対しインク滴を吐出して画像を記録する記録ヘッド部16、及び、記録ヘッド部16のメンテナンスを行なうメンテナンス部18を備えた記録部20、記録部20で画像記録された用紙Pが排出される排出部22によって基本構成されている。
用紙供給部12には、複数枚の用紙Pが積層されてストックされるストッカ24と、ストッカ24から1枚ずつ枚葉してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とが設けられている。
レジ調整部14には、ループ形成部28と、用紙の姿勢を制御するガイド部材29とが設けられており、用紙供給部12から送り込まれた用紙Pは、これらのループ形成部28及びガイド部材29を通過することにより、用紙Pのコシを利用してスキューが矯正されると共に搬送タイミングが制御されて記録部20に送り込まれる。
記録部20では、上下に対向する記録ヘッド部16とメンテナンス部18が設けられており、それらの間には、レジ調整部14から送り込まれた用紙Pが搬送される用紙搬送路が構成されている。記録ヘッド部16には、用紙搬送路に沿って所定の間隔で配列された複数のインクジェット記録ヘッド(ヘッドバー)30が設けられており、用紙搬送路における各インクジェット記録ヘッド30の上流側と下流側には、上下に対向するスターホイール17と搬送ロール19が複数対設けられている。
用紙Pは、これらのスターホイール17と搬送ロール19に挟持されつつ用紙搬送路を連続的に(停止することなく)搬送され、記録ヘッド部16の各インクジェット記録ヘッド30からインク滴が吐出されることにより画像が記録される。そして、排出部22では、記録部20で画像記録された用紙Pが排紙ベルト23により搬送されてトレイ25に収納される。
メンテナンス部18は、複数のインクジェット記録ヘッド30の各々に対向して配置された複数のメンテナンス装置21を備えている。メンテナンス装置21は、インクジェット記録ヘッド30に対するキャッピングを行なうキャップCP(図9参照)を備えており、その他、ワイピング、さらにダミージェットやバキューム等の処理を行うことができる。
インクジェット記録装置10は以上の構成とされており、次に、このインクジェット記録装置10に搭載されたインクジェット記録ヘッド30について詳細に説明する。なお、本実施形態は、ノズルがマトリックス状に形成された特殊な平面形状の記録ヘッドユニットを、長尺基板に複数個接合固定して構成されたインクジェット記録ヘッドに関するものであり、以下、その特殊形状の記録ヘッドユニットを備える本実施形態のインクジェット記録ヘッドの構成、及び製造方法について説明する。
図2及び図3に示すように、インクジェット記録ヘッド30は、紙送り方向Xと直交する方向(紙幅方向Y)に沿って配列された、複数の記録ヘッドユニット32を備えている。図3(B)に示すように、1つの記録ヘッドユニット32は、平面視が略平行四辺形状(紙送り方向Xの中央部が平行四辺形状)で、ノズル面52Aの中央部にインクを吐出させるノズル54がマトリクス状に形成されており、1つのインクジェット記録ヘッド30では、各記録ヘッドユニット32に設けられた複数のノズル54が紙幅方向Yに沿って連続した長尺のマトリクス状に形成されている。そして各記録ヘッドユニット32は、上記の用紙搬送路を連続的に搬送される用紙Pに対し、マトリクス配列のノズル54からインク滴を吐出することで用紙P上に画像を記録し、例えば、ノズルが紙幅方向Yに沿ってライン状(1列状)に配列されて記録ヘッドユニットに比べて高画質化及び高速化が可能となる。なお、インクジェット記録装置10に搭載されたこのインクジェット記録ヘッド30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、YMCKの各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
図4に示すように、1つのインクジェット記録ヘッド30に紙幅方向Yに沿ってマトリクス状に形成されたノズル54による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ヘッド30を紙幅方向Yに移動させることなく用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている(いわゆるFull Width Array(FWA))。ここで、印字領域とは、用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、用紙が搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあること、また縁無し印字の要請が高いためである。
このインクジェット記録ヘッド30は、図2及び図3に示すように、長尺基板40、上述した複数の記録ヘッドユニット32、及び、複数のスペーサー部材42を含んで構成されている。長尺基板40は、紙幅方向Yに長尺とされ、長手方向に沿って所定の間隔で配列された複数の開口部40Aが形成されている。長尺基板40の長手方向の両端部には、インクジェット記録装置10への取り付け部材となる一対の取り付け板41が設けられており、長尺基板40は、この取り付け板41の紙幅方向Yの内側部分の下面に架け渡されるように配置されている。また、長尺基板40の紙送り方向Xの幅は、記録ヘッドユニット32の同方向の幅よりも狭幅とされており、これによって、インクジェット記録ヘッド30が小型に構成されている。
長尺基板40の下面には、スペーサー部材42が取り付けられている。スペーサー部材42は、透明樹脂材料により形成されて板状とされ、各記録ヘッドユニット32毎に、図5に示すように、紙送り方向Xに互いに離間して斜め向いに2個配置されている。スペーサー部材42は、図6(A)(B)に示すように、長尺基板40に2箇所でねじ46によりねじ止めされている。これにより、スペーサー部材42は長尺基板40から取り外し可能とされている。2個のスペーサー部材42の間には、図示しないインクタンクからインクを記録ヘッドユニット32へ供給するインク供給ユニット44(図5参照)が配置される。2個のスペーサー部材42を、互いに離間して配置することにより、スペーサー部材42自体にインク供給用の流路を設ける必要はなく、離間部分にインク供給ユニット44を配置でき、インク供給経路を確保することが可能となる。更には、スペーサー部材42にインク供給経路を形成する必要が無く、耐インク性を考慮しない材料選定が可能となり、スペーサー部材42に使用する材料選定に自由度が得られる。また、ここでは各記録ヘッドユニット32毎に互いに離間した2個のスペーサー部材を使用する場合を記載したが、この形態に限られるものではなく、例えば、上記互いに離間した2個のスペーサー部材42を1個のスペーサー部材とし、インク供給経路を配置する部分にはスペーサー部材42が存在しないようにその一部が離間するような、例えば貫通孔42Bとする形態とすればよい(図13参照)。
また、本実施形態では、各記録ヘッドユニット32毎にスペーサー部材42を用いる場合を示したが、必要に応じて、複数の記録ヘッドユニット32単位に対してスペーサー部材42を用いる形態としても良い。この場合には、複数の記録ヘッドユニット32単位で交換可能となり、使用するスペーサー部材42の数を減らすことができる為、製造コストを低減させることができる(図14参照)。
記録ヘッドユニット32は、図6(A)に示すように、液体中継部材50及びヘッド基板52で構成されている。ヘッド基板52は、インクの吐出側に配置され、ノズル面52A側にはインクを吐出させるノズル54が紙幅方向Y及び紙送り方向Xの2次元平面にマトリックス状に形成されており(図3(B)参照)、このヘッド基板52には、インクを吐出させるための圧電素子、振動板、圧力室などが備えられている。
液体中継部材50は、スペーサー部材42側に配置され、インク供給ユニット44と連通されて各ノズル54へインクを供給する個別供給路50Aが形成されている。
記録ヘッドユニット32は、スペーサー部材42を挟んで、長尺基板40と逆側に配置されている。スペーサー部材42と記録ヘッドユニット32とは、ノズル面52A側からみて、紙幅方向Yに沿った長尺基板40よりも外側の端辺部が、ほぼ同一形状(矩形状)とされている。記録ヘッドユニット32は、紙幅方向Yに沿った両端辺部で、すなわち、記録ヘッドユニット32の長手方向に沿った両端辺部で、スペーサー部材42と接合固定されている。本実施形態では、記録ヘッドユニット32のスペーサー部材42への接合固定は、UV(紫外線)硬化型の接着剤Uで行なわれ、詳細については後述する記録ヘッドユニット32とスペーサー部材42との間の所定箇所に接着剤Uが介在している。
記録ヘッドユニット32とスペーサー部材42との間には、接着剤Uの厚み分のギャップGが構成され、このギャップGを調整することにより、複数の記録ヘッドユニット32のノズル面52Aの高さをそろえることができる。
図6(B)に示すように、スペーサー部材42の長尺基板40が重ねられていない部分には、電気配線用の貫通孔42Aが形成されている。図示しない電気配線は、貫通孔42Aを通って記録ヘッドユニット32と図示しないコントローラーとを接続している。
次に、本実施形態のインクジェット記録ヘッド30の製造方法を、図7(A)〜図7(D)を参照して説明する。
まず、図7(A)に示すように、長尺基板40に、すべてのスペーサー部材42を取り付ける。ここでの取り付けは、ねじ46によるねじ止めで行なう。
次に、図7(B)に示すように、長尺基板40をアライメント接合装置に設けられた接合用下降アームSAに取り付け、取り付けられた長尺基板40と平行に配置されたアライメント接合装置の位置決めステージST上に、1つのインクジェット記録ヘッド30を構成するために必要な個数の記録ヘッドユニット32を1列に並べる。このとき、記録ヘッドユニット32は、各記録ヘッドユニット32間でのノズル54の位置を正確に位置決めして並べる。記録ヘッドユニット32には、所定箇所にUV硬化型の接着剤Uを塗布しておく。
次に、図7(C)に示すように、平行状態を保ちながら、接合用下降アームSAを位置決めステージSTに近づけていき、ノズル面52Aが所定のノズル面を構成する位置で止める。このとき、記録ヘッドユニット32に塗布されていた接着剤Uは、スペーサー部材42に押し当てられ、所定の厚み以上の厚さ部分は押しつぶされる(接合)。
次に、接合用下降アームSAと位置決めステージSTとの距離を上記の状態で維持したまま接着剤UにUV光を照射して硬化処理を行ない(接合固定)、図7(D)に示すように、接合用下降アームSA及び位置決めステージSTから取り外して、インクジェット記録ヘッド30が完成する。なお、この接着剤Uに照射するUV光は、例えばフォーカス照射やマスク等を用いて、接着剤Uが塗布された所定箇所を含む所定範囲内のみに照射するよう、すなわち、接着剤Uが塗布されていない箇所には照射しないよう照射範囲を制限する。
上記製造方法によれば、スペーサー部材42はねじ止めで長尺基板40へ取り付けられるが、記録ヘッドユニット32の接合前に長尺基板40に取り付けられるので、スペーサー部材42の多少の位置ずれは記録ヘッドユニット32の位置あわせに影響しない。そして、記録ヘッドユニット32は、長尺基板40に取り付けられた状態のスペーサー部材42へ接着剤Uを用いて接合されるので、位置決めステージST上にアライメントした状態で接合固定を行なうことができ、長尺基板40と記録ヘッドユニット32を直接ねじ止めする場合と比較して、正確に位置あわせがなされたまま接合固定することができる。
なお、上記製造方法では、位置決めステージST上に、長尺基板40を構成するために必要なすべての記録ヘッドユニット32を並べて一度に接合固定を行なったが、記録ヘッドユニット32の接合固定は、必ずしも1度で行なう必要はない。例えば、図8に示すように、1個、2個など、一部の記録ヘッドユニット32のみを並べて接合固定を行ない(図8(A)では2個ずつ)、同様の処理を複数回繰り返すことにより、インクジェット記録ヘッド30を完成させてもよい。
次に本実施形態のインクジェット記録装置10の動作について説明する。
インクジェット記録装置10に印字ジョブが入力されて印字(画像記録)動作が開始されると、ストッカ24から用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により、記録部20へ搬送される。
一方、インクジェット記録ヘッド30には、すでにインクタンクからインク供給ポートを介して記録ヘッドユニット32の個別供給路50Aにインクが注入(充填)されている。このとき、ノズル54の先端(吐出口)では、インクの表面が僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
用紙Pを所定の搬送速度で搬送しつつ、記録ヘッドユニット32の複数のノズル54から選択的にインク滴を吐出することにより、用紙Pに、画像データに基づく画像を記録する。
記録ヘッドユニット32をメンテナンスする際には、図9に示すように、キャップCPをメンテナンス位置M1に配置し、キャップCPで記録ヘッドユニット32をキャップする。このとき、記録ヘッドユニット32の長手方向(紙幅方向Yと同方向)に沿った端辺部TにはキャップCPが押し当てられる。これにより、インクジェット記録ヘッド30のノズル面52A側がキャップCPに覆われて密閉空間Hが構成される。この状態で、メンテナンス装置21の図示しないポンプが作動されて密閉空間Hが負圧とされ、ノズル54を吸引することにより、ノズル54を詰まらせているインク塊などを排出させることができる。
本実施形態のインクジェット記録ヘッド30は、スペーサー部材42と記録ヘッドユニット32との接合が、上記メンテナンス時にキャップCPにより押圧される端辺部T部分で行なわれているので、押圧により作用される力を接合部で適切に受けることができ、インクジェット記録ヘッド30の変形などを防止することができる。
また、インクジェット記録ヘッド30は、図10に示すように、長尺基板40及び記録ヘッドユニット32の両方を、スペーサー部材42の下側に配置することもできるが、本実施形態のように配置することにより、メンテナンス時にキャップCPによる押圧力を、長尺基板40とスペーサー部材42の両方で受けることができ、強度を向上させることができる。
また、本実施形態では、長尺基板40の紙送り方向Xの幅を、記録ヘッドユニット32の幅よりも狭くしたが、長尺基板40の紙送り方向Xの幅は、図11に示すように、記録ヘッドユニット32の幅と同程度にしてもよい。この場合には、電気配線用の貫通孔42Aは必要なく、離間されたスペーサー部材42の間で長尺基板40の開口部40Aに連通する位置に、電気配線を行なえばよい。
また、本実施形態のスペーサー部材42は透明樹脂製であるため、接着剤Uの硬化処理では、図12に示すように、接着剤Uへ向けて出射されたUV光がスペーサー部材42を透過して、接着剤U全体に照射される。そしてこの場合には、図12(A)のように、長尺基板40の紙送り方向Xの幅を、記録ヘッドユニット32の幅よりも狭くした構成の方が、図12(B)のように、長尺基板40の紙送り方向の幅を、記録ヘッドユニット32の幅と同幅とした構成よりも光照射領域が広くなり、照射効率が向上する。
次に、上述したインクジェット記録ヘッド30の製造方法における記録ヘッドユニット32への接着剤Uの塗布箇所と硬化処理(接合固定工程)について説明する。
本実施形態の記録ヘッドユニット32は、ノズル面52Aの反対側の面(液体中継部材50の上面)が、スペーサー部材42に接合固定される接合面とされ、図15に示す接合面32A側から見た平面形状、又は、図3(B)に示すノズル面52A側から見た平面形状が略平行四辺形である。また、その平面形状は、図15に示す記録ヘッドユニット32の重心CGを通る紙幅方向Yと平行な直線YL、及び、重心CGを通る紙幅方向Xと平行な直線XLの何れに対しても非線対称な形状とされている。そのため、重心CGを挟んで対向する各辺部(縁部)や対角に位置する各角部は、直線YL及び直線XLの何れに対しても非線対称に配置されている。ただし、対角同士の各角部は、重心CGに対して略点対称に配置されている。
この接合面32Aに塗布される前述の接着剤Uは、略平行四辺形とされた接合面32Aの4つの角部のうち、距離が短い側の対角となる2つの角部32Bの近傍に、ディスペンサー等の自動塗布装置を用いてそれぞれ1点ずつほぼ同量塗布される(計2点)。接着剤Uの塗布形状は、図示のように点状(円形状)とされ、自動塗布装置を用いることで、塗布位置、塗布量、及び塗布形状のばらつきが抑えられている。したがって、接合面32Aに塗布された2点の接着剤Uは、記録ヘッドユニット32の重心CGを通る直線YL及び直線XLの何れに対しても非線対称に配置され、重心CGに対して略点対称に配置される。
この接合面32Aの上記2箇所(2つの角部32B近傍)に2点の接着剤Uが塗布された複数の記録ヘッドユニット32は、図3(A)、(B)に示すように紙幅方向Yに沿って一列に配列された状態で、前述した製造方法により各スペーサー部材42に接合固定される。
製造過程で、前述した接着剤UへのUV照射で硬化処理する接合固定工程では、各記録ヘッドユニット32の接合面32Aに塗布された2点の接着剤Uに向けてUV光を同時に照射する(一括照射)。またこのUV照射では、照射領域が必要以上に大きくならないよう、接着剤Uが塗布された2つの角部32B近傍のみにスポット照射する。このUV照射で2つの角部32B付近は昇温・熱膨張し、その後、降温・収縮(復元)する。その熱歪の途中で、2点の接着剤Uは硬化し、記録ヘッドユニット32をスペーサー部材42に接合固定する2つの接合固定点となる。
この接合固定工程を経て接着剤Uが硬化完了し、スペーサー部材42に接合固定された記録ヘッドユニット32が常温状態にて形状復元すると、2つの接合固定点(接着剤U)を介し記録ヘッドユニット32の2つの角部32Bの接合界面近傍には、図15の矢印F1、F2で示すような残留応力が生じる。この残留応力F1、F2は、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F1=F2)で反対向きに作用する。これにより、記録ヘッドユニット32には熱歪によるモーメントが発生せず、したがって、記録ヘッドユニット32は、長尺基板40に取り付けられたスペーサー部材42にモーメントの総和が略ゼロとなるようにして接合固定される。
このようにして、複数の記録ヘッドユニット32が各スペーサー部材42を介して長尺基板40に保持され、これら複数の記録ヘッドユニット32、複数のスペーサー部材42、及び長尺基板40を備えたインクジェット記録ヘッド30は一つの構造体として構成される。
以上説明したように、本実施形態のインクジェット記録ヘッド30の製造方法では、記録ヘッドユニット32の接合固定工程(第1の接合固定工程)にて、接合面32Aに塗布した2点の接着剤UをUV光の一括照射によって硬化させ、接合固定点を形成して接合固定する際に、熱歪で記録ヘッドユニット32に発生するモーメントの総和が略ゼロ化して接合固定されるため、記録ヘッドユニット32の回転方向の位置ずれが抑えられる。これにより、記録ヘッドユニット32の回転位置ずれが抑制され高精度に位置決め固定されたインクジェット記録ヘッド30を製造することができる。
また、本実施形態では、UV硬化型(光硬化型)の接着剤を用いていることにより、例えば熱硬化型接着剤を用いた場合の高温加熱処理で生じる記録ヘッドユニット32の熱膨張/収縮や、記録ヘッドユニット32とスペーサー部材42及び長尺基板40の間での熱膨張差による位置ずれが抑えられるとともに、UV光の照射処理によって迅速に硬化できるため、常温硬化型等に比べて硬化時間の短縮化が図られ生産性が向上する。
また、本実施形態では、長尺基板40に対して着脱可能とされたスペーサー部材42に記録ヘッドユニット32を接合固定して、長尺基板40に保持していることにより、製造過程、あるいはインクジェット記録装置10の使用中に一部の記録ヘッドユニット32のみに不具合が生じた場合でも、長尺基板40とスペーサー部材42を固定しているねじ46を緩めることで、その不具合が生じた記録ヘッドユニット32だけを簡単に取り外し、新しい記録ヘッドユニット32と交換することができる。
以下、本発明の第2〜第5の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法について説明するが、第2〜第5の実施形態は、第1実施形態の記録ヘッドユニット32において、接合面32Aに塗布する接着剤Uのパターンを変更したものであり、図面を参照してその接着剤パターンと硬化処理(接合固定工程)について説明する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、図16に示すように、記録ヘッドユニット32の接合面32Aにおける2つの角部32B近傍に、接着剤Uが3点ずつ塗布される(計6点)。また、各角部32では、3点の接着剤Uが記録ヘッドユニット32の紙幅方向Yと平行な辺部32Cに沿って略等間隔で1列に配列されており、さらに、重心CGを挟んで対向する各接着剤U同士が重心CGに対してそれぞれ略点対称に配置されている。
このような接着剤パターンに対し、本実施形態の接合固定工程では、記録ヘッドユニット32の接合面32Aに塗布された6点の接着剤Uに向けてUV光を同時に照射する(一括照射)。またこのUV照射も、照射領域が必要以上に大きくならないよう、接着剤Uが塗布された2つの角部32B近傍と辺部32Cの所定領域のみにスポット照射する。これにより、UV照射領域が熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で6点の接着剤Uが硬化し、記録ヘッドユニット32はスペーサー部材42に接合固定される。また、常温状態にて形状復元した記録ヘッドユニット32には、6つの接合固定点(接着剤U)を介して2つの角部32B付近の接合界面近傍に、図16の矢印F3、F4で示すような残留応力が生じる。そしてこの残留応力F3、F4は、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F3=F4)で反対向きに作用し、これによって、記録ヘッドユニット32は、熱歪による回転モーメントが発生しない、モーメントの総和が略ゼロとされた状態で接合固定される。
したがって、本実施形態も第1の実施形態と同様に、記録ヘッドユニット32の回転方向の位置ずれを抑えた高精度の位置決め固定を実現できる。また、本実施形態では、第1の実施形態に比べて接合固定点を増やしていることにより、固定強度が高められる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、図17に示すように、記録ヘッドユニット32の接合面32Aにおける2つの角部32B近傍に、接着剤Uが6点ずつ塗布される(計12点)。また、各角部32では、6点の接着剤Uが記録ヘッドユニット32の辺部32Cに沿って略等間隔で2列に配列されており、さらに、重心CGを挟んで対向する各接着剤U同士が重心CGに対してそれぞれ略点対称に配置されている。
このような接着剤パターンに対し、本実施形態の接合固定工程においても、上記12点の接着剤Uに向けてUV光を同時に照射する(一括照射)。またこのUV照射も、照射領域が必要以上に大きくならないよう、接着剤Uが塗布された2つの角部32B近傍と辺部32Cの所定領域のみにスポット照射する。これにより、UV照射領域が熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で12点の接着剤Uが硬化し、記録ヘッドユニット32はスペーサー部材42に接合固定される。また、常温状態にて形状復元した記録ヘッドユニット32には、12個の接合固定点(接着剤U)を介して2つの角部32B付近の接合界面近傍に、図17の矢印F5、F6で示すような、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F5=F6)で反対向きに作用する残留応力が生じる。
したがって、本実施形態も第1及び第2の実施形態と同様に、記録ヘッドユニット32を熱歪によるモーメントの総和が略ゼロとなる状態で接合固定することができ、回転方向の位置ずれを抑えて高精度に位置決め固定することができる。また、本実施形態では、第1及び第2の実施形態に比べて接合固定点を増やしていることにより、固定強度が更に高められる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、1つの記録ヘッドユニット32を上述した2分割のスペーサー部材42ではなく、図13に示すような単一のスペーサー部材42に接合固定する場合、あるいは、スペーサー部材42を介さずに、光透過性材料で図18の二点鎖線で示すような紙送り方向Xの寸法が記録ヘッドユニット32と略同寸法に形成された長尺基板61に直接接合固定する場合の例である。
図18に示すように、本実施形態の記録ヘッドユニット32の接合面32Aには、2つの角部32B付近において、角部32Bを挟む辺部32C、32Dに沿って接着剤Uが10点ずつ塗布される(計20点)。この各10点の接着剤Uは、角部32を含め辺部32C、32Dに沿って略等間隔で1列に配列されており、記録ヘッドユニット32の重心CGを通る直線YL、XLに対して非線対称に配置されている。ただし、重心CGを挟んで対向する各接着剤U同士は、重心CGに対してそれぞれ略点対称に配置されている。
このような接着剤パターンに対し、本実施形態の接合固定工程においても、上記20点の接着剤Uに向けてUV光を同時に照射する(一括照射)。またこのUV照射も、照射領域が必要以上に大きくならないよう、接着剤Uが塗布された各角部32Bを含む各辺部32C、32Dの所定領域のみに照射する。これにより、UV照射された角部32Bと辺部32C、32Dの角部32B側領域とが熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で20点の接着剤Uが硬化し、記録ヘッドユニット32は単一のスペーサー部材42に、又は、長尺基板40に直接、接合固定される。
そして、常温状態にて形状復元した記録ヘッドユニット32には、各角部32B近傍の接合固定点(接着剤U)を介してその接合界面近傍に、矢印F7、F8で示すような、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F7=F8)で反対向きに作用するモーメントを発生しない残留応力が生じる。また、各辺部32Cの角部32B側領域では、その領域を接合固定する接合固定点を介して接合界面近傍に、矢印F9、F10で示すような残留応力が生じる。この残留応力F9、F10は、重心CGを通る同一直線上には存在しないが、辺部32Cと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F9=F10)で反対向きに作用する偶力となる。これにより、記録ヘッドユニット32には図の右回りに回転するモーメントMRが発生する。一方、各辺部32Dの角部32B側領域では、その領域を接合固定する接合固定点を介して接合界面近傍に、矢印F11、F12で示すような残留応力が生じる。この残留応力F11、F12も、重心CGを通る同一直線上には存在しないが、辺部32Dと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F11=F12)で反対向きに作用する偶力となる。これにより、記録ヘッドユニット32には図の左回りに回転するモーメントMLが発生する。
そして、この右回りのモーメントMRと左回りのモーメントMLが相殺されることにより、記録ヘッドユニット32は熱歪によって発生するモーメントの総和が略ゼロとされた状態で接合固定される。
したがって、本実施形態のように記録ヘッドユニット32に多数の接合固定点を形成して単一のスペーサー部材42に接合固定する、又は、長尺基板61に直接接合固定する場合でも、高い接合固定強度を確保しつつ、記録ヘッドユニット32の回転方向の位置ずれが抑えられた高精度な位置決め固定を実現することができる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態も第4の実施形態と同様に、1つの記録ヘッドユニット32を単一のスペーサー部材42に接合固定する、あるいは、スペーサー部材42を介さずに長尺基板61に直接接合固定する場合の例である。
図19に示すように、本実施形態の記録ヘッドユニット32の接合面32Aには、距離が短い側の対角となる2つの角部32B近傍と、距離が長い側の対角となる2つの角部32E近傍とに、すなわち、略平行四辺形とされた接合面32Aの4つの角部全てに、接着剤Uが4点ずつ塗布され、さらに、2つの辺部32Dにおける角部32E側に、辺部32Dに沿って略等間隔で1列に接着剤Uが3点ずつ塗布される(計22点)。また、この接着剤パターンの場合も、第4の実施形態と同様に、記録ヘッドユニット32の重心CGを通る直線YL、XLに対しては非線対称となり、重心CGを挟んで対向する各接着剤U同士では、重心CGに対してそれぞれ略点対称に配置されている。
このような接着剤パターンに対し、本実施形態の接合固定工程においても、上記22点の接着剤Uに向けてUV光を同時に照射する(一括照射)。またこのUV照射も、照射領域が必要以上に大きくならないよう、接着剤Uが塗布された各角部32B、各角部32E、及び、各辺部32Dの所定領域のみにスポット的に照射する。これにより、UV照射された角部32B、32Eと辺部32Dの角部32E側領域とが熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で22点の接着剤Uが硬化し、記録ヘッドユニット32は単一のスペーサー部材42に、又は、長尺基板61に直接、接合固定される。
そして、常温状態にて形状復元した記録ヘッドユニット32には、各角部32B近傍の接合固定点(接着剤U)を介してその接合界面近傍に、矢印F13、F14で示すような、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F13=F14)で反対向きに作用するモーメントを発生しない残留応力が生じる。また、各角部32E近傍では、各角部32E近傍を接合固定する接合固定点を介して接合界面近傍に、矢印F15、F16で示すような残留応力が生じる。この残留応力F15、F16は、辺部32Cと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F15=F16)で反対向きに作用する偶力となる。これにより、記録ヘッドユニット32には図の右回りに回転するモーメントMRが発生する。また、各辺部32Dの角部32E側領域では、その領域を接合固定する接合固定点を介して接合界面近傍に、矢印F17、F18で示すような残留応力が生じる。この残留応力F17、F18は、辺部32Dと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F17=F18)で反対向きに作用する偶力となる。これにより、記録ヘッドユニット32には図の左回りに回転するモーメントMLが発生する。
そして本実施形態の場合も、この右回りのモーメントMRと左回りのモーメントMLが相殺されることで、記録ヘッドユニット32は熱歪によるモーメントの総和が略ゼロ化され、回転位置ずれが抑制された状態で接合固定される。したがって、記録ヘッドユニット32を高い接合固定強度で高い精度に位置決め固定することができる。
また、本実施形態では、接合面32Aにおける4つの角部32B、32E近傍を含んで接合固定していることにより、接合面32Aと平行な方向(X−Y方向)でのユニット全体の位置ずれやノズル面52Aの傾きもより確実に抑えられるようになり、更に高精度な位置決め固定を実現することができる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態は、第1の実施形態で説明した記録ヘッドユニット32の接合固定点に対して接合固定強度を補強する場合の例である。
図20(A)に示すように、本実施形態の記録ヘッドユニット32の接合面32Aには、第1の実施形態と同じく2つの角部32B近傍にUV硬化型の接着剤Uを1点ずつ塗布し、さらに2つの辺部32Cに、接着剤Uによる接合固定強度を補強するための補強部となる常温硬化型の接着剤Vを辺縁に沿って点状に複数塗布する(補強部形成工程)。
この接着剤U、Vの塗布後に、アライメント接合装置にて記録ヘッドユニット32の接合面32Aをスペーサー部材42に接合し、第1の実施形態と同じ方法で2点のUV硬化型接着剤UをUV光の一括照射により同時に硬化させる(接合固定工程)。
前述したように、同時に硬化した上記2点の接着剤Uによってスペーサー部材42に接合固定された記録ヘッドユニット32は、UV照射による熱歪が起きても回転モーメントは発生しないため、回転方向の位置ずれが抑えられた状態で、接合面32Aの各角部32Bがスペーサー部材42に接合固定される。この接合固定後(接着剤Uの硬化後)、アライメント装置からインクジェット記録ヘッド30を取り外して、常温硬化型接着剤Vを常温下で硬化させる。接着剤Vが硬化完了すると、接合面32Aの各辺部32Cがスペーサー部材42に接合固定され、図20(B)に示すように、接着剤Uによって形成された2つの接合固定点は、接着剤Vによって形成された多数の補強部によって補強される。
上記のように、接合固定点をUV硬化型の接着剤Uで形成する場合、本実施形態のように大型で特殊な平面形状とされた記録ヘッドユニット32に対して高い接合固定強度(接着強度)を得るには、1点当たりの接着剤Uの塗布量を多くしたり、塗布点数を多くして接着剤Uの総塗布量を多くしたりすることが望ましいが、その場合、接着剤Uの硬化収縮による記録ヘッドユニット32の位置ずれや傾斜が発生しやすくなる問題がある。
これに対し、本実施形態では、接合固定工程(第1の接合固定工程)の前に行う補強部形成工程で、記録ヘッドユニット32の接合面32Aに常温硬化型の接着剤Vを塗布して補強部を形成することにより、接合固定点(接着剤U)の接合固定強度が補強部(接着剤V)によって補強されるため、上記のような位置ずれを防止するために接着剤Uの塗布量を少なくするような場合でも、接着剤Uの少量化に伴って低下する接合固定強度を簡単に補うことができる。
また、熱加工を必要としない常温硬化型の接着剤Vによって補強部を形成することにより、熱歪によるモーメントが発生せず記録ヘッドユニット32の回転ずれが起こらない補強を行うことができる。
また、本実施形態の製造方法では、長尺基板40に取り付けられたスペーサー部材42と記録ヘッドユニット32とを接合する前に、記録ヘッドユニット32の接合面32Aへの2種類の接着剤U、Vの塗布が完了する。これにより、前述のアライメント接合装置を用いて接合する際に、前工程で予め接着剤U、Vが塗布された記録ヘッドユニット32と、スペーサー部材42を取り付けた長尺基板40とを装置にセットし、それらを装置上で接合し、UV硬化型の接着剤Uを硬化させるだけとなり、接着剤塗布から接合固定までの装置占有時間が短縮されて、生産性の向上や設備投資の削減を図ることができる。
なお、このような補強部(常温硬化型接着剤V)を用いた接合固定点(UV硬化型接着剤U)の補強は、本実施形態のように2つの接合固定点が配置されたものに限らず、3つ以上の接合固定点に対して適用してよく、第2〜第5の実施形態で説明した多数の接合固定点に対して適用してもよい。例えば、図19に示す第5の実施形態ように、接合面32Aの4つの角部32B、角部32E近傍に接合固定点(接着剤U)を配置した場合には、角部32Bと角部32Eの間の空きスペースに、すなわち、辺部32Cの中央部付近に補強部(接着剤V)を形成することが可能であり、このような補強によって、回転ずれを起こすことなく簡単に固定強度を高めることができる。
(第7の実施形態)
第7の実施形態は、上述した接合固定点の補強のために記録ヘッドユニット32の接合面32Aに塗布する常温硬化型接着剤の塗布パターンの変形例であり、以下、第1の実施形態で説明した記録ヘッドユニット32の接合固定点に対して接合固定強度を補強する場合の2種類のパターンと、第4の実施形態で説明した記録ヘッドユニット32の接合固定点に対して接合固定強度を補強する場合の4種類のパターンとについて説明する。
図21(A)に示す例では、第1の実施形態で説明したように、記録ヘッドユニット32の接合面32Aにおける2つの角部32B近傍にUV硬化型の接着剤Uが1点ずつ塗布され、さらに2つの辺部32Cの端縁部となる接着剤Uの外側には、接着剤Uから少し離間して、接着剤Uによる接合固定強度を補強するための補強部となる常温硬化型の接着剤Vが一様に塗布され、この接着剤Vは、辺部32Cの端部となる角部32B、32Eまで及んでいる。
図21(B)に示す例では、図21(A)に示した接着剤パターンに加え、接着剤Uの内側にも、接着剤Uから少し離間して常温硬化型の接着剤Vが直線状に一様に塗布される。
図21(C)に示す例では、記録ヘッドユニット32の接合面32Aに第4の実施形態で説明した塗布パターンでUV硬化型の接着剤Uが塗布され(計20点)、さらに、接合面32Aにおける接着剤Uの未塗布領域に、すなわち、2つの角部32E付近に、角部32Eを挟む辺部32C、32Dに沿って常温硬化型の接着剤Vが10点ずつ塗布される(計20点)。
図21(D)に示す例では、第4の実施形態で説明した接着剤Uの塗布パターンに加え、接合面32Aの2つの辺部32Cにおける接着剤Uの未塗布領域に、常温硬化型の接着剤Vが接着剤Uと同列に直線状に一列に塗布される。
図21(E)に示す例では、第4の実施形態で説明した接着剤Uの塗布パターンに加え、辺部32Cの端縁部となる接着剤Uの外側に、接着剤Uから少し離間して常温硬化型の接着剤Vが直線状に一様に塗布される。
図21(F)に示す例では、第4の実施形態で説明した接着剤Uの塗布パターンに加え、接合面32Aの2つの辺部32Cにおける接着剤Uの未塗布領域に、辺部32Cの端縁部及び少し内側に常温硬化型の接着剤Vが直線状に二列に塗布される。
これら6パターンの接着剤Vの塗布・硬化手順については、前述の製造方法において、接合前に接着剤Uを塗布してから、接着剤Uの塗布パターンを崩さないように接着剤Vを塗布し、接合・硬化させるようにしてもよく、また図21(A)、(E)の場合は、接合前に接着剤Uのみを塗布して接合し、接着剤Uを硬化させた後に、記録ヘッドユニット32とスペーサー部材42又は長尺基板61との隙間に接着剤Vを注入するようにして塗布し硬化させるようにしてもよく、また図21(B)、(F)の場合は、接合前に先ず接着剤Uを塗布し、次に接着剤Uの塗布パターンを崩さないよう、接着剤Uの内側又は側方に接着剤Vを塗布してから接合・硬化させ、最後に、記録ヘッドユニット32とスペーサー部材42又は長尺基板61との隙間から接着剤Vを注入するようにして辺部32Cの端縁部に塗布し硬化させるようにしてもよい。
このように、接合面32Aの各辺部32C又は各辺部32Dに沿って一様又は点状に塗布した常温硬化型接着剤Vにより形成される補強部によっても、補強部形成に伴い記録ヘッドユニット32に回転ずれを起こすことなく、接合固定点(接着剤U)をより高い強度で補強することができる。
また、接着剤Uの硬化後に接着剤Vを注入して塗布する場合は、アライメント接合装置を用いる接合及び接着剤Uの硬化処理後に、装置からインクジェット記録ヘッド30を取り外して接着剤Vを塗布することができるため、この製造方法によっても、接合固定から補強に掛かる装置占有時間を短縮又は削除することができて、生産性向上や設備投資削減などの効果が得られる。またこの場合は、接着剤Vの塗布によって、硬化済みの接着剤Uが形状変化するなどの影響を受けないため、接着剤Uは、接着剤Vに対する塗布位置や形状等を考慮することなく塗布できるようになる。これにより、接着剤Uの塗布パターンの自由度が高まり、記録ヘッドユニット32の重心位置や接合面形状等の応じた位置ずれ抑制効果の高い塗布パターンを選択できるようになる。
(第8の実施形態)
第8の実施形態は、第5の実施形態で説明した記録ヘッドユニット32の接合固定点(接着剤U)に対し、接合固定工程(硬化処理)を複数回に分けて行う場合の例である。
本実施形態の製造方法では、記録ヘッドユニット32の接合面32Aに、第5の実施形態で説明した計22点の接着剤Uを塗布して単一のスペーサー部材42又は長尺基板61に接合した後に、先ず、図22(A)に示すように、2つの角部32B近傍に4点ずつ塗布された接着剤Uに向けてUV光を同時にスポット照射する(第1の接合固定工程)。これにより、UV照射された各角部32B近傍が熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で各4点の接着剤Uが同時に硬化する。そして、記録ヘッドユニット32の各角部32B近傍では、各4点の接合固定点(接着剤U)を介して接合界面近傍に、矢印F13、F14で示すような、重心CGを通る略同一直線上に大きさが同じ(F13=F14)で反対向きに作用するモーメントを発生しない残留応力が生じる。
次に、図22(B)に示すように、2つの角部32E近傍に4点ずつ塗布された接着剤Uに向けてUV光を同時にスポット照射する(第2の接合固定工程〔1/2〕)。これにより、UV照射された各角部32E近傍が熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で各4点の接着剤Uが同時に硬化する。そして、記録ヘッドユニット32の各角部32E近傍では、各4点の接合固定点(接着剤U)を介して接合界面近傍に、矢印F15、F16で示すような、辺部32Cと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F15=F16)で反対向きに作用する残留応力(偶力)が生じ、記録ヘッドユニット32には右回りに回転するモーメントMRが発生する。
最後に、図22(C)に示すように、2つの辺部32Dの角部32E側領域に3点ずつ塗布された接着剤Uに向けてUV光を同時にスポット照射する(第2の接合固定工程〔2/2〕)。これにより、UV照射された各辺部32Dの所定領域が熱膨張/収縮し、その熱歪の途中で各3点の接着剤Uが同時に硬化する。そして、記録ヘッドユニット32の各辺部32Dの所定領域では、各3点の接合固定点(接着剤U)を介して接合界面近傍に、矢印F17、F18で示すような、辺部32Dと略直交し重心CGを中心とする平行な2つの直線上に大きさが同じ(F17=F18)で反対向きに作用する残留応力(偶力)が生じ、記録ヘッドユニット32には左回りに回転するモーメントMLが発生する。
このように、本実施形態の製造方法では、複数の接着剤U(接合固定点)をUV照射(熱加工)によって硬化する接合固定工程について、先ず、複数のうちの所定(角部32B近傍)の接着剤Uのみに対して最初にUV照射を行う第1の接合固定工程で、UV照射による熱歪で記録ヘッドユニット32に発生するモーメントの総和が略ゼロとなるように接合固定する。続いて、未硬化の各接着剤Uに対し、第2の接合固定工程で複数回(本実施形態では2回)に分けてUV照射を行い各接着剤Uを硬化する際に、UV照射の度に熱歪で記録ヘッドユニット32に発生する各々のモーメントの総和が略ゼロとなるように、例えば、右回りモーメント→左回りモーメント(→右回りモーメント→左回りモーメント・・・)等のように、逆方向のモーメントを交互に発生させつつ最終的には各モーメントが相殺されるように、接合固定する。これにより、最初のUV照射(第1の接合固定工程)以降に行う複数回のUV照射(第2の接合固定工程)においても、記録ヘッドユニット32の回転位置ずれが抑制されるようになり、完成品となるインクジェット記録ヘッド30においては、記録ヘッドユニット32のモーメントの総和が略ゼロ化されて回転方向の残留応力が発生せず、回転方向の位置ずれ、特に経時的な回転ずれを抑制することができる。
また、UV照射を複数回の分けて行うことにより、加工手順の自由度が増して製造性が高められ、特に、接合固定点(接着剤U)を多数設けられるような大型の記録ヘッドユニット、あるいはユニット各部の熱歪方向(モーメントの方向)がランダムとなり、熱歪量(モーメントの大きさ)の差異が大きくなりやすい複雑な形状の記録ヘッドユニットに対しては、完成状態でモーメントの総和を略ゼロ化するため適切な加工手順が容易に選択できるようになり、回転方向の位置ずれを効果的に抑制することができる。
また、特に本実施形態では、記録ヘッドユニット32の重心CGに対して略点対称に配置された接合固定点毎に硬化させていることにより、記録ヘッドユニット32の重心CGを中心とした回転方向の位置ずれが抑制され、さらに、重心CGに対して熱歪がバランス化されるため、接合面32Aに沿った方向(X−Y方向)の位置ずれも効果的に抑制することができる。
また、本実施形態のような製造方法においても、記録ヘッドユニット32の接合前に、図22(D)に示すように、接合面32Aの角部32Bと角部32Eの間の空きスペース(辺部32Cの中央部付近)等に予め接着剤Vを塗布しておくことにより、第6の実施形態で説明したような回転ずれの生じない補強を簡単に行うことができる。
(第9の実施形態)
第9の実施形態は、上述した記録ヘッドユニット32を、長尺基板に対してスペーサー部材を介さずに直接、接合固定して構成されたインクジェット記録ヘッドに関するものであり、以下、その第9の実施形態のインクジェット記録ヘッドについて説明する。
図23に示すように、本実施形態のインクジェット記録ヘッド60は、長尺基板61及び上述した複数の記録ヘッドユニット32を含んで構成されている。長尺基板61は、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、及びポリエチレンテレフタレートといった透明樹脂材料、又は、透明ガラスにより形成されて紙幅方向Yに長尺とされ、長手方向に沿って所定の間隔で配列された複数の開口部61Aが形成されている。長尺基板61の長手方向の両端部には、インクジェット記録装置10への取り付け部材としての一対の取り付け板62が設けられており、長尺基板61は、この一対の取り付け板62の紙幅方向Yの内側部分の下面に架け渡されるように配置されている。
長尺基板61の下面には、複数の記録ヘッドユニット32が長尺基板61の長手方向に沿って配列され、長尺基板61と各記録ヘッドユニット32との間に介在された前述のUV硬化型接着剤Uによって接合固定されている。これにより、本実施形態のインクジェット記録ヘッド60も、第1実施形態のインクジェット記録ヘッド30と同様に長尺ヘッド(FWAヘッド)として構成されている。
このように構成された本実施形態のインクジェット記録ヘッド60では、記録ヘッドユニット32と長尺基板61の接合固定において、接着剤の種類、塗布位置、及び硬化処理(接合固定工程)等は、上述した第1〜第8の実施形態で説明した方法がすべて適用可能であり、ここでは、その詳細説明を省略する。
このように、長尺基板61に対して記録ヘッドユニット32が直接、接合固定されて保持された本実施形態のインクジェット記録ヘッド60においても、第1〜第8の実施形態で説明した製造方法によって、各記録ヘッドユニット32の回転方向の位置ずれが抑えられ、高精度に位置決め固定することができる。
以上、本発明を上述した第1〜第9の実施形態により詳細に説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の形態が実施可能である。
例えば、上述の実施形態においては、平面形状が略平行四辺形とされた非線対称形状の記録ヘッドユニット32の場合で説明したが、ユニットの平面形状はこれに限らず、正方形、長方形、円形、楕円形等の線対称形状であっても、接合面に形成する複数の接合固定点が非線対称に配置されるユニットであれば本発明を適用することができる。
また、上述の実施形態においては、フルカラー画像を記録する為に、YMCKの各色に対応して、インクジェット記録ヘッド30を少なくとも4つ配置される例について説明したが、本発明のインクジェット記録ヘッドは、これに限定されない。
例えば、1つの長尺基板40に対し、紙幅方向Yと紙送り方向Xへ2次元配列させた複数の記録ヘッドユニット32へ、紙幅方向Y方向に配列させた複数の記録ヘッドユニットの列毎に各々YMCKの各色を対応させ、記録ヘッドユニット32C、32M、32Y、32K、とすることにも適用できる。
また、上述の実施形態においては、紙幅対応のFWAの例について説明したが、本発明のインクジェット記録ヘッドは、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)の装置にも適用することができる。
その他、上記実施例のインクジェット記録装置10では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクジェット記録ヘッド30、60から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が用紙Pに記録されるようになっているが、本発明におけるインクジェット記録は、用紙P上への文字や画像の記録に限定されるものではない。
すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴吐出(噴射)装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を適用することができる。