JP5244481B2 - Ni基合金と鋼材の接合方法 - Google Patents
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本発明者等は、この剥離した機械部品を詳細に調査したところ、剥離する箇所はNi基合金と鉄鋼の接合界面に形成されたいわゆる拡散層であることがわかった。なお、この拡散層は、鉄,ニッケルを主成分とする金属相である。この拡散層は、Ni基合金と鉄鋼の両者よりも強度が低いため、この部分から繰り返しの熱応力により疲労破壊するものと判断できた。
(2)上記第2の発明による方法。
(3)Ni基合金層のニッケル基合金の組成がホウ素:0.6〜3.2%、ケイ素:0.5〜8%、モリブデン:5〜37%、残部がニッケルである請求項1もしくは2記載のNi基合金と鋼材の接合方法(請求項3)。
(4)炭化タングステン層の付着が、溶射あるいは炭化タングステン粉末と有機接着剤を含んだ溶剤との混合スラリーによる塗布により行うことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載のNi基合金と鋼材の接合方法(請求項4)。
疲労強度の改善される機構については明確ではないが、接合部のNi基合金側に形成されるモリブデン、タングステン、ニッケルを含む複硼化物粒子の分散による分散強化、接合部の鉄鋼側に形成されるニッケル及び鉄を主成分とする拡散層へのモリブデン、タングステンの固溶による固溶強化が関係しているものと考えられる。図1は、鋼材1とNi基合金2の接合部3の接合状態を模式的に示している。接合部3のNi基合金側には、Mo,W,Niの複硼化物粒子が分散した層(分散層)4が形成されている。接合部3の鋼材側には、W,Moが固溶したNiと鉄からなる拡散層5が形成されている。
ホウ素(B):0.6〜3.2%
BはNi,Moと硼化物(Mo2NiB2)を成形する。この硼化物は酸などに対する耐食性やダイカストマシンのプランジャスリーブとして使用される場合、溶融アルミニウム合金に対する耐溶損性(以下、単に耐溶損性と呼ぶ)が大きく改善される。また、硼化物が多いと合金の硬さが高くなり耐摩耗性は改善されるが、靭性が低下する。
耐摩耗性は、Bの添加量が一定値(3.2%)を超えると、改善されなくなり、靭性の低下が一層大きくなる。硼化物が少ないと耐摩耗性が低下する。Bが0.6%未満では、硼化物の形成が少なくなり、プランジャスリーブとしての耐溶損性、耐摩耗性が不足する。耐溶損性、靭性、耐摩耗性がより好ましい値を示すのは、2.6〜3.2%である。
MoはNi,Bと硼化物(Mo2NiB2)を成形する。Mo含有量が多くなると、溶融アルミニウム合金に対する耐溶損性が大きく改善される。これは、硼化物がより多く形成されるばかりでなく、Niを主体とする結合相により多くのMoが固溶するためと考えられる。しかし、粉末冶金法によって本合金を製造する場合に、Moが多くなると、健全な焼結体を得るための焼結温度が高くなる。焼結温度が高くなると、本合金を鋼材(鉄鋼基材)と焼結接合(焼結と同時に鉄鋼と接合する方法)する際に、鋼材が劣化する。特に、1120℃以上の焼結温度になると、鋼材の衝撃値が大きく低下し、20J/cm2を維持できなくなる。
そのため、本合金と鋼材を接合しプランジャスリーブとして使用された場合に、繰り返しの熱応力により鋼材に割れが発生し易くなり、更にこの割れが伝播し易くなるため、プランジャスリーブの早期破損の原因となる。また、Mo含有量が少なくなり5%以下になると耐溶損性が極端に低下し、溶解損傷(溶損)が早期に発生するようになり好ましくない。従って、Mo含有量は5〜37%とする。また、特に鋼材の劣化と本Ni基合金の耐溶損性の両者を考慮した場合、Mo含有量は18〜28%がより好ましい。
Siは、Moと共にNiの結合相に固溶し、Ni基合金の強度を改善する。しかし、Si量が多くなりすぎると、合金の硬度が高くなり、靭性が低下するとともに強度も低下する。特に、Si含有量が8%を超えると、強度と靭性が大きく低下する。これは、過剰のSiがNiと反応して脆いNi−Si化合物を形成するためである。そのため、Siを必要以上に多くすることは好ましくない。また、Si含有量が少ないときには、硬度が低下して靭性が大きく改善されるが、耐摩耗性が低下する。Si含有量は最低0.5%を必要とする。ダイカスト機用プランジャスリーブとして優れた耐摩耗性と靭性とを確保するには、Ni基合金の硬度はHRC45〜53がより好ましい。このときのSi含有量は、3.5〜5.5%である。
Niは、B,Moとで耐溶損性に優れ、靭性、強度にも優れた硼化物(Mo2NiB2)を形成する。また、合金の基地(結合相)を形成する。基地のNiには、Mo,Siが固溶することによりNi基合金の強度、靭性、耐溶損性を大きく改善する。
(実施例1)
図2を参照する。図2は焼結,接合前の評価試験片の説明図である。
図中の符番11は試験片としての第1の炭素鋼(S45C)(JIS)であり、符番12は他の試験片としての第2の炭素鋼(S45C)(JIS)である。一方の炭素鋼11上には、WC粉末13、Ni−B−Si−Mo合金粉末(Ni基合金粉末)14が順次塗布されている。他方の炭素鋼12には、WC粉末15が塗布されている。Ni合金粉末の組成は、B:3.0%、Si:4.7%、Mo:21%、C:0.08%,残部Niである。
接合強度を評価するため、第1の炭素鋼11にWC粉末13を約10μm厚さに塗布し、その上にNi−B−Si−Mo合金粉末14を約1.5mmにスプレー塗布するとともに、第2の炭素鋼12にWC粉末15をスプレー塗布した。次に、第1の炭素鋼11上に、WC粉末15が塗布された第2の炭素鋼12を載せた(図2参照)。次に、図3に示すように、中央部に開口部16aが形成された台座16とこの台座16の上部に設けられた支持具17からなる焼結・接合装置18を用い、第1・第2炭素鋼をセットした。ひきつづき、真空中で1100℃に加熱して焼結と接合を同じ工程で接合した。なお、Ni−B−Si−Mo合金粉末14のスプレー方法は、同粉末を有機接着剤を含む溶剤と混合してスラリーを作り、このスラリーをスプレーする方法で行う。スプレー後は、十分に乾燥して溶剤を除去する。WC粉末を塗布する方法も同様にスラリーをスプレーや筆で塗布する方法による。
実施例1で述べた方法により製作した実機部品の耐剥離性が従来に比較してどの程度向上しているか調査した。アルミニウム合金の溶湯をダイカストするダイカストマシンの鉄鋼製のプランジャスリーブは、アルミニウム合金溶湯を射出するシリンダーである。このプランジャスリーブは、以前から長く使用されてきたSKD61(JIS)製に比べて耐溶存性、耐摩耗性に優れている。しかし、アルミニウム合金溶湯温度の高い場合や、プランジャスリーブが水冷されている場合、また水溶性離型剤を使用するなど、プランジャスリーブの加熱冷却による熱応力が大きくなる場合には、プランジャスリーブの注湯口下の部分に剥離を生じたり、水冷部に近いスリーブの金型側先端部に剥離を生じる場合があった。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]ニッケル,モリブデン複硼化物を含むNi基合金と鋼材とを接合する方法であって、Ni基合金又は鋼材の表面に炭化タングステン層を付着させた後、Ni基合金と鋼材を炭化タングステン層を介して接触させる工程と、Ni基合金から液相が出現する温度まで加熱保持した後に冷却してNi基合金と鋼材を金属結合する工程とを具備することを特徴とするNi基合金と鋼材の接合方法。
[2]ニッケル,モリブデン複硼化物を含むNi基合金と鋼材とを接合する方法であって、鋼材の表面に炭化タングステン層を付着させる工程と、Ni基合金の粉末あるいはその成形体を鋼材の炭化タングステン層を付着した面に接触させる工程と、Ni基合金の焼結温度まで加熱保持した後に冷却してNi基合金を焼結するとともに,Ni基合金と鋼材とを金属結合させる工程とを具備することを特徴とするNi基合金と鋼材の接合方法。
[3]Ni基合金の組成がホウ素:0.6〜3.2%、ケイ素:0.5〜8%、モリブデン:5〜37%、残部がニッケルである[1]もしくは[2]記載のNi基合金と鋼材の接合方法。
[4]炭化タングステン層の付着が、溶射あるいは炭化タングステン粉末と有機接着剤を含んだ溶剤との混合スラリーによる塗布により行うことを特徴とする[1]乃至[3]いずれか一記載のNi基合金と鋼材の接合方法。
[5]ニッケル,モリブデン複硼化物を含むNi基合金と鋼材の接合体であって、Ni基合金と鋼材との界面のNi基合金側に形成された、モリブデン,タングステン,ニッケルの複硼化物粒子が分散した分散層と、前記界面の鋼材側に形成された、タングステン,モリブデンが固溶したニッケルと鉄からなる拡散層を具備することを特徴とするNi基合金と鋼材の接合体。
Claims (4)
- ニッケル,モリブデン複硼化物を含むNi基合金と鋼材とを接合する方法であって、Ni基合金又は鋼材の表面にWCからなる炭化タングステン層を付着させた後、Ni基合金と鋼材を炭化タングステン層を介して接触させる工程と、Ni基合金から液相が出現する温度まで加熱保持した後に冷却してNi基合金と鋼材を金属結合する工程とを具備することを特徴とするNi基合金と鋼材の接合方法。
- ニッケル,モリブデン複硼化物を含むNi基合金と鋼材とを接合する方法であって、鋼材の表面にWCからなる炭化タングステン層を付着させる工程と、Ni基合金の粉末あるいはその成形体を鋼材の炭化タングステン層を付着した面に接触させる工程と、Ni基合金の焼結温度まで加熱保持した後に冷却してNi基合金を焼結するとともに,Ni基合金と鋼材とを金属結合させる工程とを具備することを特徴とするNi基合金と鋼材の接合方法。
- Ni基合金の組成がホウ素:0.6〜3.2%、ケイ素:0.5〜8%、モリブデン:5〜37%、残部がニッケルである請求項1もしくは2記載のNi基合金と鋼材の接合方法。
- 炭化タングステン層の付着が、溶射あるいは炭化タングステン粉末と有機接着剤を含んだ溶剤との混合スラリーによる塗布により行うことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載のNi基合金と鋼材の接合方法。
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