JP5241086B2 - 圧電体、圧電素子、圧電素子を用いた液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置 - Google Patents

圧電体、圧電素子、圧電素子を用いた液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置 Download PDF

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Description

本発明は、圧電体、圧電素子、圧電体を用いた液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置に関する。
近年、圧電アクチュエーターは、モータの微細化、高密度化が可能であるという点で、電磁型モータに代わる新しいモータとして、携帯情報機器分野および化学、医療分野で注目されている。圧電アクチュエーターはその駆動に際して電磁ノイズを発生させず、またノイズの影響も受けない。さらに、圧電アクチュエーターはマイクロマシンに代表されるような、サブミリメートルクラスの大きさの機器を作る技術として注目されており、その駆動源として微小な圧電素子が求められている。
一般に圧電素子は、圧電体に熱処理を施したバルク材の焼結体や単結晶体を切削、研磨等の技術によって所望の大きさ、厚さに微細成形して製造するのが一般的である。また、微小な圧電素子を形成する上では、金属やシリコンなどの基板上の所定位置に、印刷法などの方法を用いて、グリーンシート状の圧電体を塗布・焼成し、圧電素子を直接形成する手法が一般的である。このようなグリーンシートからの成形体は、厚みが数十μm〜数百μm程度であり、圧電体の上下には電極が設けられており、電極を通じて電圧が印加されるようになっている。
従来、液体吐出ヘッドに用いるような小型の圧電素子は、バルク材の圧電体を上記のように切削、研磨等の技術によって微細成形したり、もしくはグリーンシート状の圧電体を用いて製造されたりしていた。このような圧電素子を用いた装置としては、例えばユニモルフ型の圧電素子構造を有する液体吐出ヘッドがある。液体吐出ヘッドは、インク供給室に連通した圧力室とその圧力室に連通したインク吐出口とを備え、その圧力室に圧電素子が接合もしくは直接形成された振動板が設けられて構成されている。このような構成において、圧電素子に所定の電圧を印加して圧電素子を伸縮させることにより、たわみ振動を起こさせて圧力室内のインクを圧縮することによりインク吐出口からインク液滴を吐出させる。
このような作用を利用して現在カラーのインクジェットプリンタが普及しているが、その印字性能の向上、特に高解像度化および高速印字が求められている。そのため液体吐出ヘッドを微細化したマルチノズルヘッド構造を用いて高解像度および高速印字を実現する事が試みられている。液体吐出ヘッドを微細化するためには、インクを吐出させるための圧電素子を更に小型化することが必要になる。更に、最近液体吐出ヘッドを配線直描等の工業用途に応用する試みも活発である。その際、より多様な特性をもつ液体をより高解像度にパターニングする必要があり、液体吐出ヘッドの更なる高性能化が求められる。
近年、マイクロマシン技術の発達により、圧電体を薄膜として形成し、半導体で用いられてきた微細加工技術を駆使してより高精度な超小型圧電素子を開発する研究がなされている。特にスパッタリング法、化学気相合成法、ゾルゲル法、ガスデポジション法等の薄膜法により形成される圧電体の厚みは、圧電アクチュエーター用途の場合、一般に数百nm〜数十μm程度である。圧電体には電極が設けられており、電極を通じて電圧が印加されるようになっている。
一方、圧電素子の小型化に伴い、より大きな圧電特性を示す高性能な圧電体材料の研究も活発である。近年注目されている圧電体材料としては、一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有する強誘電体材料がある。この材料は例えばPb(ZrxTi1-x)O3(チタン酸ジルコン酸鉛:PZT)に代表されるように優れた強誘電性、焦電性、圧電性を示す。
一般にスパッタリング法、化学気相合成法、ゾルゲル法、ガスデポジション法等の薄膜法によりPZTの圧電素子を形成する場合、得られる薄膜は一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を取る。そしてPb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti)が一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造の化学量論比である1以下では急激に圧電性が低下してしまう。このため、PZTの圧電素子を形成する上では、Pbを化学量論比より若干過剰に添加する場合があり、特にスパッタリング法ではその傾向が顕著である。しかしながら、Pbを化学量論比より更に過剰に添加すると一般に電圧印加時のリーク電流が増大してしまう。このため、リーク電流の増大と圧電性との影響をトレードオフの関係として、最適なPb過剰添加量を決定する必要があった。(非特許文献1)
FUJITSU.53,2,p.105−109(03,2002)
本発明の目的は、上記問題点を解決し、大きな圧電性を有し、かつ鉛過剰添加時に問題となる電圧印加時のリーク電流が抑制できる、ジルコン酸チタン酸鉛を主成分とする圧電体、これを用いた圧電素子を提供することにある。また、均一で高い吐出性能を示し、微細なパターニングを行うことが可能な液体吐出ヘッドおよびこれを有する液体吐出装置を提供することにある。
[1]上記目的は、圧電体が、
Pb(ZrxTi1-x)O3(1)
(式中、xは、Zr、Tiの元素比Zr/(Zr+Ti)を表す。)
で表されるペロブスカイト型構造を有するジルコン酸チタン酸鉛を主成分とし、かつ該圧電体のPb、Zr、Tiの元素比Pb/(Zr+Ti)が1.05以上であり、Zr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti)が0.5以上0.8以下であり、かつ該圧電体が少なくとも単斜晶系のペロブスカイト型構造を有し、格子定数a、cが1.005<c/a<1.05の関係を満たすことを特徴とする圧電体によって達成される。
[2]また、上記目的は、上記本発明の圧電体と、該圧電体に接する一対の電極とを有することを特徴とする圧電素子によって達成される。
[3]また、上記目的は、吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧電素子が上記本発明の圧電素子であることを特徴とする液体吐出ヘッドによって達成される。
[4]また、上記目的は、上記本発明の液体吐出ヘッドを有することを特徴とする液体吐出装置によって達成される。
本発明によって、大きな圧電性を有し、かつ鉛過剰含有時に問題となる電圧印加時のリーク電流を抑制できるジルコン酸チタン酸鉛を主成分とする圧電体およびこれを用いた圧電素子を得ることが出来る。更に、前記圧電素子を用いることで、均一で高い吐出性能を示し、微細なパターニングを行うことが可能な液体吐出ヘッドおよびこれを有する液体吐出装置を得ることが出来る。
本発明の圧電素子(圧電体薄膜素子)が優れた特徴を有する明確なメカニズムは以下のことが考えられる。
PZT圧電体を薄膜法で形成する際又はPZT圧電体を形成した後の加熱焼成時に、ABO3で構成されるペロブスカイト型構造のAサイト欠陥、つまりPbの欠陥、が生じ圧電性を大きく阻害する主要因になっている。一般に、例えば、スパッタリング法等の薄膜法によりPZT圧電体を形成する場合、得られる圧電体のPb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti) は一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造の化学量論比である1より大きくなっている。これは、この欠陥を生じさせないようにする為に化学量論比より過剰のPbが必要になるからと考えられる。しかしながら、この際、本来はかなり過剰にPbを添加してもPbがAサイトにすべて取り込まれることはない為、圧電体中のAサイトに取り込まれない過剰Pbがリークサイトとして働いてしまい、リーク電流を増大させてしまう。
図1は、神野伊策、「イオンビームスパッタ法によるPb系強誘電体薄膜の形成およびその機能性デバイス応用に関する研究」、大阪大学工学論第13557号、1998年2月25日、p.35、図3−1(a)に記載されたバルクPZTの状態図を引用し示したものである。
本明細書中における、バルク状の圧電体とは、セラミックスの製造方法として一般的に用いられる、焼結法、加圧焼結法により得られる圧電体をさす。また、バインダーを加熱除去後に焼結を行う、グリーンシートを用いて得られた圧電体も広義にバルク体とみなす。
図1に示されているようにABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有するPZTは、バルク状態の場合、室温付近でZr、Tiの元素比によりZr/(Zr+Ti)が0.53未満で正方晶(領域「FT」)の結晶構造を有する。また、Zr/(Zr+Ti)が0.53以上では菱面体晶(領域「FR(LT)」および「FR(HT)」)の結晶構造を有する。しかしながら、Zr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) が0.5以上0.8以下で圧電体が少なくとも単斜晶系のペロブスカイト型構造を有する場合は、次のような現象が考えられる。つまり、圧電体のPb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti) が1.05以上であっても、過剰Pbがリークサイトとしては働かず、リーク電流が増大することがない為、より過剰にPbを含有させることが出来るようになる。その結果、PbのAサイト欠陥がより少なくなり、圧電性が向上するもの等が例えば考えられる。
更に、ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有するPZTは、バルク状態の場合、Zr、Tiの元素比によって230℃から490℃のキュリー温度Tc0を持つ。しかし、Zr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) が0.5以上0.8以下で圧電体が少なくとも単斜晶系のペロブスカイト型構造を有し、圧電体のキュリー温度Tcと該圧電体のZr、Tiの元素比に於けるバルク状態でのキュリー温度Tc0が Tc>Tc0+50℃ の関係を満たす場合は、次のような現象が考えられる。つまり、圧電体のPb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti) が1.05以上であっても、過剰Pbがリークサイトとしては働かず、リーク電流が増大することがない為、より過剰にPbを含有させることが出来るようになる。その結果、PbのAサイト欠陥がより少なくなり、圧電性が向上すもの等が例えば考えられる。本実施形態の圧電体のTcの上昇はこの過剰Pbがリークサイトとしては働かない状態になっている。
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図5に本発明の圧電素子の実施形態の一例の断面模式図を示す。本発明の圧電素子10は少なくとも第1の電極膜6、本発明に係る圧電体7および第2の電極膜8を含む圧電素子である。図5に示した実施形態の圧電素子においては、圧電素子10の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形であってもよい。本実施形態の圧電素子10は基板5上に形成されるが、本実施形態の圧電素子10を構成する第1の電極膜6および第2の電極膜8はそれぞれ下部電極、上部電極どちらとしても良い。この理由はデバイス化の際の製造方法によるものであり、どちらでも本発明の効果を得る事が出来る。また基板5と第1の電極膜6の間にバッファ−層9があっても良い。
本実施形態の圧電素子10は、少なくとも基板5上又は基板5上に形成されたバッファー層9上に第1の電極膜6を形成し、次に圧電体7をその上に形成し、更に第2の電極8を形成することによって製造することができる。
本実施形態の圧電体7は、Pb(ZrxTi1-x)O3(式中、xはZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti)を表す。)で表されるペロブスカイト型構造を有するジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を主成分とする。Pb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti)は、ペロブスカイト型構造の化学量論比である1より大きい、1.05以上である。さらに、Zr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti)が0.5以上0.8以下である。また該圧電体7は少なくとも単斜晶系のペロブスカイト型構造を有する。
Pb、Zr、Tiの元素比 Pb/(Zr+Ti)を1.05以上とするのは、Pb/(Zr+Ti)が化学量論比である1に近づくと圧電性が低下し、特にPb/(Zr+Ti)が1以下で急激に圧電性が低下してしまう為である。Pbを化学量論比より過剰にすると一般に電圧印加時のリーク電流が増大してしまう。特にPb/(Zr+Ti)が1.2以上ではその影響が特に顕著になる傾向があるが、本実施形態の圧電素子10の圧電体7は更に過剰にしてもリーク電流が抑制される。ただし、あまりにも過剰にするとペロブスカイト型構造を有する圧電体が出来にくくなる為、通常Pb/(Zr+Ti)は1.5程度以下とすることが好ましい。
また、一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有するPZTを主成分とする圧電体は、バルク状態の場合、一般には図1に示すように温度やZr、Tiの元素比によって異なる結晶系を有するものとなる。例えば、図1に示されているように、立方晶(領域「PC」)、正方晶(領域「FT」)、菱面体晶(領域「FR(HT)」および「FR(LT)」)、斜方晶(領域「AT」)のそれぞれの結晶相となる。本実施形態の圧電体7の結晶相は、単斜晶である。ここで本実施形態において単斜晶とは単位格子の格子定数が
β≠90°、α=γ=90°
である結晶相をいう。a=bでもa≠bでも構わないが一般にaとbとは近い値である。また、例えば単斜晶と正方晶、単斜晶と菱面体晶、単斜晶と正方晶と菱面体晶、その他の結晶相などの複数結晶相が混在(混相)しても良いが、好ましくは単斜晶、又は単斜晶とそれ以外の結晶相の混相である。本実施形態の圧電体7のZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) は0.5以上0.8以下であるが。これはZr/(Zr+Ti)が0.5未満であると単斜晶を得ることが難しいこと、かつ0.8を超えるとペロブスカイト型構造を有する膜が出来にくくなる為である。
また、一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有するPZT圧電体は、バルク状態の場合、一般には図1の曲線ABCに示すようにZr、Tiの元素比によって230℃から490℃のキュリー温度Tc0を持つ。本実施形態においてキュリー温度とは分極が消失する臨界温度の事をいう。一般に、ペロブスカイト型強誘電性結晶は、高温では立方晶、室温では正方晶(PZTの場合は菱面体晶や斜方晶となる)の結晶構造を持つものが多い。高温では立方晶であるために自発分極は持たないが、温度が下がると相転移点を通過して正方晶や菱面体晶や斜方晶になり、自発分極を生じる。この相転移する温度をキュリー温度という。圧電体のキュリー温度測定では、一般に、温度を徐々に昇温もしくは降温した際に相転移点付近で比誘電率が極大を示す温度をキュリー温度とする。本実施形態の圧電体のキュリー温度Tcもこのような方法により測定した。本実施形態の圧電体は、バルク状態と同一元素比としたとき、そのキュリー温度Tcは Tc>Tc0+50℃ の関係を満たすことが好ましい。特に圧電体のTcが上述の関係を満たす場合はZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) は0.2以上0.8以下であることが好ましい。これはZr/(Zr+Ti)が0.2未満であると膜の圧電性が低下してしまうこと、また0.8を超えるとペロブスカイト型構造を有する圧電体が出来にくくなる為である。ここで、本実施形態の圧電体のキュリー温度Tcとは圧電体の1kHzでの比誘電率が極大を示す温度である。
更に、特に好ましくは、本実施形態の圧電体は単斜晶、又は単斜晶とそれ以外の結晶相の混相であり、 Tc>Tc0+50℃ の関係を満たし、かつ、Zr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) は0.5以上0.8以下であることが好ましい。更にはZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) は0.5以上0.6以下であることがより好ましい。これはこのような圧電体の圧電性が最も高く、かつPbの過剰添加にもかかわらずリーク電流が増大しない為、圧電体に大電圧を印加することが可能になるとともに、寿命の長い圧電体が得られる為である。
尚、本実施形態の圧電体は上記主成分に微量の元素をドーピングした組成物から形成されるものであっても良い。例えば、LaドープPZT:PLZT[(Pb,La)(Z,Ti)O3]のようなものから形成した圧電体であってもよい。
また、本発明の圧電体の膜厚は1μm以上10μm以下であることが好ましい。圧電体の膜厚を1μm以上とすると単斜晶の相をもつ圧電体を容易に得ることができる。また、10μm以下とするとスパッタリング法等の薄膜法で容易に圧電体を形成することができる。
また、本実施形態の圧電体の格子定数a、cは 1.005<c/a<1.05 の関係を満たすことが好ましい。図2は、神野伊策、「イオンビームスパッタ法によるPb系強誘電体薄膜の形成およびその機能性デバイス応用に関する研究」、大阪大学工学論第13557号、1998年2月25日、p.35、図3−1(b)を引用し示したものである。図2に示されているように、一般式ABO3で構成されるペロブスカイト型構造を有するPZT圧電体は、バルク状態の場合、一般にはZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti)によってその格子定数が変化する。本実施形態の圧電体の格子定数a、cは 1.005<c/a<1.05の関係を満たすことが好ましく、かつ格子定数aと、そのZr、Tiの元素比におけるバルク状態の格子定数a0とは a≧a0 の関係を満たすことが更に好ましい。上記関係を満たす場合、圧電体のリーク電流がより抑えられる為である。この詳細な理由は不明であるが、前述したPbのAサイト欠陥がより少なくなりこの変化が格子定数の変化に現れているものと考えられる。
また、圧電体が1軸配向結晶又は単結晶からなる場合はより大きな圧電性を有するものとなり好ましい。同様に<100>配向である場合はさらに大きな圧電性を有するものとなり好ましい。この際、圧電体の<100>配向性は高い方が好ましく、最も好ましくは圧電体が単結晶からなり配向率が100%である場合である。
ここで、本発明における配向とは、膜厚方向に単一の結晶方位をもつことを指す。例えば<100>配向とは圧電体の膜厚方向の結晶軸が<100>方向にそろっていることである。本実施形態の圧電体が配向性を有するかはX線回折を用いて確認することができる。例えば、ペロブスカイト型構造のPZTを主成分とする圧電体からなる<100>配向の圧電体の例を次に示す。X線回折の2θ/θ測定で測定される圧電体に起因するピークは{100}、{200}等の{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に帰属されるピークのみが検出される。また、本発明において{100}とは(100)や(010)や(001)等で一般に表される計6面を総称した表現であり、同様に本発明において<100>とは [100]や[010]や[001]等で一般に表される計6方位を総称した表現である。
一般に、例えば[100]と[001]は結晶系が立方晶の場合は同じであるが、単斜晶や正方晶や菱面体晶の場合は区別しなければならない。しかし、PZTに代表されるようなペロブスカイト型構造の結晶は、単斜晶や正方晶や菱面体晶であっても立方晶に近い格子定数を持つ。したがって、本発明においては正方晶の[100]と[001]や菱面体晶の[111]と[−1−1−1]も<100>や<111>で総称する。また、本発明において<100>配向とは、圧電体が膜厚方向に<100>単一の結晶方位をもつことを指すが、数度程度の傾きの範囲を持つもの、例えば、<100>結晶軸が膜厚方向から5°程度傾いていても<100>配向という。
本実施形態の圧電体の配向率はX線回折を用いて確認することができる。例えば圧電体が<100>配向の場合、X線回折の2θ/θ測定で圧電体の{100}の回折が最も強く検出されるように圧電体をセッティングする。この際、<100>配向率は圧電体に起因するすべての反射ピーク強度の和に対する、{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因するすべての反射ピーク強度の和の割合で定義する。
また、本発明における1軸配向結晶とは、圧電体の膜厚方向に単一の結晶方位をもつ結晶のことを指し、結晶の膜面内方位は特には問わない。例えば<100>1軸配向結晶とは、膜厚方向が<100>方位のみの結晶により構成された膜である。本実施形態の圧電体が1軸配向結晶であるかはX線回折を用いて確認することができる。例えば、ペロブスカイト型構造のPZTの<100>1軸配向結晶からなる圧電体の場合、X線回折の2θ/θ測定での圧電体に起因するピークは{100}、{200}等の{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)のピークのみが検出される。かつ、{110}非対称面の極点測定をした際には、図3のように矢印で示した圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の{L00}面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する位置に各結晶の{110}非対称面の極点がリング状のパターンとして測定される。
また、本発明における単結晶とは膜厚方向および膜面内方向に単一の結晶方位を持つ結晶のことを指す。例えば<100>単結晶からなる圧電体とは、膜厚方向が<100>方位のみとなり、かつ、膜面内方向のある一方向が<110>方位のみの単一の結晶又は複数の結晶により構成された圧電体である。本実施形態の圧電体が1軸配向結晶であるかはX線回折を用いて確認することができる。例えば、ペロブスカイト型構造のPZTの<100>単結晶からなる圧電体の場合、X線回折の2θ/θ測定での圧電体に起因するピークは{100}、{200}等の{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)のピークのみが検出される。かつ、{110}非対称面の極点測定をした際には、図4に示したパターンが測定される。すなわち、矢印で示した圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の(L00)面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する円周上の90°毎の位置に各結晶(結晶)の{110}非対称面の極点が4回対称のスポット状のパターンとして測定される。
また、本実施形態における、単結晶又は1軸配向結晶は次のようなものがあげられる。例えば<100>配向のPZTペロブスカイト型構造で、{110}非対称面の極点測定をする。この際に、圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の{L00}面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する円周上の45°毎の位置や30°毎の位置に各結晶の{110}非対称面の極点が8回対称や12回対称のパターンとして測定される結晶が挙げられる。また、パターンがスポットではなく楕円状である結晶でも本実施形態における単結晶と1軸配向結晶の中間の対称性を有する結晶であるため、広義に単結晶又は1軸配向結晶とみなす。同様に本実施形態では、例えば単斜晶と正方晶、単斜晶と菱面体晶、単斜晶と正方晶と菱面体晶、単斜晶とその他の結晶相などの複数結晶相が混在(混相)する場合も広義に単結晶又は1軸配向結晶とみなす。さらに、双晶等に起因する結晶が混在する場合や、転位や欠陥等がある場合も、広義に単結晶又は1軸配向結晶とみなす。
上述のように本実施形態の圧電体の結晶配向性はX線回折により容易に確認することが出来るが、上述のX線回折の他にも、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察等によっても確認することが出来る。この場合、例えば膜厚方向に柱状に結晶転位が存在する場合や双晶が確認できる場合も広義に単結晶とみなす。
圧電体の結晶相はX線回折の逆格子空間マッピングによって特定することができる。例えば、PZTの<100>配向の圧電体が立方晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)の逆格子点を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)=Qy(204)となる。よって、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のx軸方向の大きさ Qx(204)との関係が Qy(004)=2Qx(204)となるような逆格子点が得られる。
また、例えば、PZTの<100>配向の圧電体が正方晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)の逆格子点を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)=Qy(204)となる。よって、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のx軸方向の大きさ Qx(204)との関係が Qy(004)<2Qx(204)となるような逆格子点が得られる。
また、例えば、PZTの<100>配向の圧電体が単斜晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)>Qy(204)、もしくは Qy(004)<Qy(204)となる。よって、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のx軸方向の大きさ Qx(204)との関係が Qy(004)<2Qx(204)となるような逆格子点が得られる。この際、Qy(004)>Qy(204)、かつ、 Qy(004)<Qy(204)となるような2つの(204)逆格子点が現れても構わない。この2つの逆格子は双晶の関係にあると思われる。
また、例えば、PZTの<100>配向の圧電体が菱面体晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)>Qy(204)、もしくは Qy(004)<Qy(204)となる。よって、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)のx軸方向の大きさ Qx(204)との関係が Qy(004)≒2Qx(204)となるような逆格子点が得られる。この際、Qy(004)>Qy(204)、かつ、Qy(004)<Qy(204)となるような2つの(204)逆格子点が現れても構わない。この2つの逆格子は双晶の関係にあると思われる。
同様に、別の配向や別の結晶相においても圧電体の結晶相はX線回折の逆格子空間マッピングによって簡単に特定することができる。上述の方法の他にも、例えばTEMによる断面観察等によっても確認することが出来る。ここで、逆格子空間のy軸は圧電体の膜厚方向であり、x軸は圧電体の膜面内方向のある一方向である。
本実施形態の圧電体の形成方法は特に限定されないが、10μm以下の薄膜では通常、ゾルゲル法や水熱合成法、ガスデポジション法、電気泳動法等の薄膜形成法を用いることができる。さらにはスパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、イオンビームデポジション法、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法等の薄膜形成法を用いることができる。これらの薄膜形成法では、基板や下部電極からのエピタキシャル成長を用いた圧電体の1軸配向化・単結晶化が可能となるため、さらに高い圧電性を有する圧電素子を形成することが容易となる。
本実施形態の圧電体7は、スパッタリング法によって形成することが好ましい。ターゲットとして、ジルコン酸チタン酸鉛を主成分とするターゲットが用いられる。ターゲットのPb、Zr、Tiの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Target は、圧電体の元素比 Pb/(Zr+Ti) に対し Pb/(Zr+Ti)>{Pb/(Zr+Ti)}Targetとすることが好ましい。
圧電体7を上記関係を満たすようにスパッタリング法によって形成すると、Pbの過剰添加にも関わらずリーク電流の増大を抑制することができる。また、ターゲットとして、ターゲット密度が90%以下であるジルコン酸チタン酸鉛を主成分とするターゲットを用いることが好ましい。これにより、容易に、圧電体の元素比 Pb/(Zr+Ti) がターゲットの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Target に対し Pb/(Zr+Ti)>{Pb/(Zr+Ti)}Target の関係を満たす圧電体を形成できる。なお、上記ターゲット密度(%)は、ジルコン酸チタン酸鉛の理論密度に対するターゲットの密度(%)である。
このようにして圧電体を形成すると圧電体の膜厚が1μm以上であっても単斜晶を有する圧電体を得ることが容易となる。本実施形態の単斜晶の圧電体は特にZr、Tiの元素比 Zr/(Zr+Ti) が0.5以上0.6以下で得られやすい結晶相である。この組成はバルクPZTの結晶相境界(Morphotropic Phase Boundary:MPB)組成と呼ばれ、特に大きな圧電性を期待することができる。
スパッタリング法による圧電体の形成方法としては、ペロブスカイト型構造を有するPZTを主成分とする圧電体を得るために基板を600℃程度に加熱しながら形成する加熱スパッタリング法が挙げられる。また、300℃以下の温度でアモルファスのPZTを主成分とする圧電体を形成した後に、後焼成によりペロブスカイト型の結晶にする低温スパッタリング法を挙げることができる。本実施形態における圧電体の形成方法においてはそのどちらの方法でもよい。また加熱スパッタリング法によって圧電体を形成した後に後焼成しても良い。ただし、圧電体の1軸配向化・単結晶化は加熱スパッタリング法のほうが容易である為、加熱スパッタリング法を用いて圧電体を形成することが好ましい。
本実施形態の圧電素子は、本実施形態の圧電体と、該圧電体に接する一対の電極とを有する。本実施形態の圧電素子の第1の電極(電極膜)又は第2の電極(電極膜)は、前述の圧電体と良好な密着性を有し、かつ導電性の高い材料、つまり上部電極膜又は下部電極膜の比抵抗を10-7〜10-2Ω・cmとなる材料が好ましい。このような材料は一般的に金属であることが多いが、例えば、Au、Ag、CuやRu、Rh、Pd、Os、Ir、PtなどのPt族の金属を電極材料として用いることが好ましい。また上記材料を含む銀ペーストやはんだなどの合金材料も高い導電性を有し、好ましく用いることができる。また、例えばIrO(酸化イリジウム)、SRO(ルテニウム酸ストロンチウム)、ITO(導電性酸化スズ)、BPO(鉛酸バリウム)などの導電性酸化物材料も電極材料として好ましい。また、電極膜は1層構成でもよく、多層構成でもよい。例えば基板との密着性を上げる為Pt/Tiのような構成としても良い。電極膜の膜厚は100nmから1000nm程度とすることが好ましく、500nm以下とすることがさらに好ましい。電極膜の膜厚を100nm以上とすると電極膜の抵抗が充分に小さくなり、1000nm以下とすると圧電素子の圧電性を阻害する虞もなく好ましい。
また、第1の電極膜および第2の電極膜の少なくとも一方が<100>配向したペロブスカイト型構造の酸化物電極膜を含むことが好ましい。この場合は、<100>配向した1軸配向膜又は単結晶膜の圧電体を容易に作製することができる。特に酸化物電極膜をSROとすると格子定数が4Å程度とPZTの格子定数に近い為、容易に1軸配向膜又は単結晶膜の圧電体を作製することができる。
本実施形態における電極膜の形成方法は特に限定されないが、1000nm以下の電極膜は、通常、ゾルゲル法、水熱合成法、ガスデポジション法、電気泳動法等の薄膜形成法を用いて形成することができる。さらにはスパッタリング法、CVD法、MOCVD法、イオンビームデポジション法、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法等の薄膜形成法を用いて形成することができる。これらの薄膜形成法では、基板やバッファー層からのエピタキシャル成長を用いた電極膜の1軸配向化・単結晶化が可能となるため、圧電体の1軸配向化・単結晶化が容易となる。
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドについて説明する。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドである。そして前記圧電素子が本実施形態の圧電素子であることを特徴とする。詳細には、本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口と、吐出口に連通する個別液室と、個別液室に対応して設けられた圧電素子と、前記個別液室と前記圧電素子との間に設けられた振動板と、を有する。そして、前記振動板により生じる前記個別液室内の体積変化によって前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出し、前記圧電素子が本実施形態の圧電素子である。
圧電素子として本実施形態の圧電素子を用いることで、均一で高い吐出性能を示し、微細なパターニングを行うことが可能な液体吐出ヘッドを容易に得ることが出来る。本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体吐出装置やFax、複合機、複写機などの画像形成装置、あるいは、インク以外の液体を吐出する産業用吐出装置に使用されても良い。
本実施形態の液体吐出ヘッドを図6を参照しながら説明する。図6は本実施形態の液体吐出ヘッドの実施形態の一例を示す模式図である。図6に示した実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口11、吐出口11と個別液室13を連通する連通孔12、個別液室13に液を供給する共通液室14を備えており、この連通した経路に沿って液体が吐出口11に供給される。個別液室13の一部は振動板15で構成されている。振動板15に振動を付与するための圧電素子10は、個別液室13の外部に設けられている。圧電素子10が駆動されると、振動板15は圧電素子10によって振動を付与され個別液室13内の体積変化を引き起こし、これによって個別液室13内の液体が吐出口から吐出される。圧電素子10は、図6に示した実施形態においては矩形の形をしているが、この形状は楕円形、円形、平行四辺形等の形状としても良い。
図6に示した液体吐出ヘッドの幅方向の断面模式図を図7に示す。図7を参照しながら、本実施形態の液体吐出ヘッドを構成する圧電素子10を更に詳細に説明する。圧電素子10の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。また、図7中では第1の電極膜6が下部電極膜16、第2の電極膜8が上部電極膜18に相当するが、本実施形態の圧電素子10を構成する第1の電極膜6および第2の電極膜8はそれぞれ下部電極膜16、上部電極膜18のどちらになっても良い。これはデバイス化時の製造方法によるものであり、どちらでも本発明の効果を得る事が出来る。また振動板15は本実施形態の圧電素子10を構成する基板5から形成したものであってもよい。また振動板15と下部電極膜16の間にバッファ−層19があっても良い。
図8および図9は、図6に示した液体吐出ヘッドを上面側(吐出口11側)から見たときの模式図である。破線で示された領域13は、圧力が加わる個別液室13を表す。個別液室13上に圧電素子10が適宜パターニングされて形成される。例えば、図8において、下部電極膜16は圧電体7が存在しない部分まで引き出されており、上部電極膜18(不図示)は下部電極膜16と反対側に引き出され駆動源につながれている。図8および図9では下部電極膜16はパターニングされた状態を示しているが、図7に示したように圧電体7がない部分に存在するものであっても良い。圧電体7、下部電極膜16、上部電極膜18は圧電素子10を駆動する上で、駆動回路と圧電素子10間にショート、断線等の支障がなければ目的にあわせて最適にパターニングすることができる。また、個別液室13の形状が、平行四辺形に図示されているのは、基板として、Si(110)基板を用い、アルカリによるウエットエッチングを行って個別液室が作成された場合には、このような形状になるためである。個別液室13の形状は、これ以外に長方形であっても良いし、正方形であっても良い。一般に、個別液室13は、振動板15上に一定のピッチ数で複数個作成されるが、図9で示されるように、個別液室13を千鳥配列の配置としてもよいし、目的によっては1個であっても良い。
振動板15の厚みは、通常0.5〜10μmであり、好ましくは1.0〜6.0μmである。この厚みには、上記バッファー層19がある場合はバッファー層の厚みも含まれる。また、バッファー層以外の複数の層が形成されていても良い。例えば振動板と個別液室を同じ基板から形成する場合に必要なエッチストップ層などが含まれていても良い。個別液室13の幅Wa(図8参照)は、通常30〜180μmである。長さWb(図8参照)は、吐出液滴量にもよるが、通常0.3〜6.0mmである。吐出口11の形は、通常、円形又は星型であり、径は、通常7〜30μmとすることが好ましい。吐出口11の断面形状は、連通孔12方向に拡大されたテーパー形状を有するのが好ましい。連通孔12の長さは、通常0.05mmから0.5mmが好ましい。連通孔12の長さを0.5mm以下とすると、液滴の吐出スピードが充分大きくなる。また、0.05mm以上とすると各吐出口から吐出される液滴の吐出スピードのばらつきが小さくなり好ましい。また、本実施形態の液体吐出ヘッドを構成する振動板、個別液室、共通液室、連通孔等を形成する部材は、同じ材料であっても良いし、それぞれ異なっても良い。例えばSi等であれば、リソグラフィ法とエッチング法を用いることで精度良く加工することができる。また、異なる場合に選択される部材としては、それぞれの部材の熱膨張係数の差が1×10-8/℃から1×10-6/℃である材料が好ましい。例えばSi基板に対してはSUS基板、Ni基板等を選択することが好ましい。
次に本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法は、少なくとも、次の工程を有する。
(1)吐出口を形成する工程
(2)吐出口と個別液室を連通する連通孔を形成する工程
(3)個別液室を形成する工程
(4)個別液室に連通する共通液室を形成する工程
(5)個別液室に振動を付与する振動板を形成する工程
(6)個別液室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための本実施形態の圧電素子を製造する工程
具体的には、例えば、本実施形態の液体吐出ヘッドを製造する第一の方法として、次に述べる方法を挙げることができる。まず、前述の(6)の工程を適用して圧電素子10を形成した基板に(3)の工程を適用して個別液室の一部および振動板を形成する。別途(2)、(4)の工程を適用して連通孔と共通液室を形成した基体を作製し、(1)の工程を適用して吐出口を有する基体を作製し、次に、これらを積層して一体化して液体吐出ヘッドを製造する。
また、本実施形態の液体吐出ヘッドを製造する第二の方法として、次に述べる方法を挙げることができる。まず、別途、少なくとも、(3)の工程を適用して個別液室が形成される基体もしくは個別液室が形成された基体を作製する。次に、これに、(6)の工程を適用して圧電素子が形成された基板もしくは(5)と(6)の工程により振動板と圧電素子を形成した基板から圧電素子又は振動板と圧電素子を転写する。次に、圧電素子又は振動板と圧電素子が転写された基体の少なくとも圧電素子等と対向する側の基体部分を(2)の工程を適用して加工して個別液室を形成する。さらに上記第一の方法と同様にして、連通孔と共通液室を形成した基体、吐出口を形成した基体を作製し、これらの基体を積層して一体化して液体吐出ヘッドを製造する。
第一の方法としては、図10に示したように、まず、圧電素子の製造方法と同様にして基板5上に圧電素子10を設ける。次に、少なくとも、圧電素子10をパターニングした状態で基板5の一部を除去して、個別液室13の一部を形成すると共に振動板15を形成する。別途、共通液室14および連通孔12を有する基体を作製し、さらに吐出口11を形成した基体を作製する。最後に、これらを積層して一体化して液体吐出ヘッドを形成する製造方法を挙げることができる。基板5の一部を除去する方法としては、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、又はサンドミル法等の方法を挙げる事が出来る。基板5の一部をこのような方法によって除去することで振動板15と個別液室13の少なくとも一部を形成することができる。
第二の方法として、例えば、図11に示したように、まず、圧電素子の製造方法と同様にして基板5上に圧電素子10を設ける。次に、圧電素子10がパターニングされない状態で振動板15を圧電素子上に成膜した基板を作製する。さらに、個別液室13を設けた基体、連通孔12および共通液室14を設けた基体および吐出口11を設けた基体等を作製し、これらを積層した後に、上記基板から振動板、圧電素子等を転写する製造方法を挙げることができる。
又、図12に示したように、まず、基板5上に圧電素子10を形成しこれをパターニングして圧電素子を形成する。別途、振動板15を基体上に設けさらに個別液室13の一部が設けられた基体、共通液室14および連通孔12が設けられた基体、吐出口11を形成した基体を作製する。さらに、これらを積層し、これに前記基板から圧電素子10を転写して液体吐出ヘッドを形成する製造方法を挙げることができる。
転写時の接合方法としては無機接着剤又は有機接着剤を用いる方法でも良いが、無機材料による金属接合がより好ましい。金属接合に用いられる材料として、In、Au、Cu、Ni、Pb、Ti、Cr、Pd等を挙げることができる。これらを用いると、300℃以下の低温で接合出来、基板との熱膨張係数の差が小さくなるため、長尺化された場合に圧電素子の反り等による問題が回避されるとともに圧電素子に対する損傷も少ない。
第一の方法における連通孔12や共通液室14、および第二の方法における個別液室13や連通孔12や共通液室14は、例えば、形成部材(基体)をリソグラフィによりパターニングする工程とエッチングにより部材の一部を除去する工程を行うことで形成できる。例えば、第二の方法の場合、図13で示されるa)からe)の工程により、個別液室13、連通孔12、共通液室14が形成される。a)は個別液室13用のマスクの形成工程を示し、b)は上部からエッチング等により個別液室13が加工される工程(斜線部は、加工部を意味する)を示す。また、c)は個別液室13の形成に用いたマスクの除去および連通孔12、共通液室14用のマスクの形成工程を示し、d)は下部からエッチング等により連通孔12および共通液室14を加工する工程を示す。さらにe)は連通孔12および共通液室14の形成に用いたマスクを除去し、個別液室13、連通孔12および共通液室14が形成された状態を模式的に示す。吐出口11は、基体17をエッチング加工、機械加工、レーザー加工等することで形成される。f)はe)の後に、吐出口11が形成された基体17を個別液室13、連通孔12および共通液室14が形成された基体に接合した状態を示す。吐出口を設けた基体17の表面は、撥水処理がされている事が好ましい。各基体の接合方法としては転写時の接合方法と同様であるが、その他、陽極酸化接合であってもよい。
第二の方法において、基板5上の圧電素子10を転写する別の基体は、図13のe)の状態かf)の状態としたものを用いることが好ましい。ここで、基板5上の圧電体薄膜素子上に振動板を形成している場合は、図13のe)又はf)の状態の個別液室13上に直接転写する。また、基板5上の圧電素子上に振動板を形成していない場合は、図13のe)又はf)の状態の個別液室13の孔を樹脂で埋めて振動板を成膜し、その後エッチングによりこの樹脂を除去して振動板を形成した後に転写する。この際、振動板はスパッタリング法、CVD法等の薄膜形成法を用いて形成することが好ましい。また、圧電素子10のパターン形成工程は転写前後どちらであっても良い。
次に、本実施形態の液体吐出装置について説明する。本実施形態の液体吐出装置は、吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置である。そして、上記本実施形態の液体吐出ヘッドを有することを特徴とするものである。
本実施形態の液体吐出装置の一例として、図14および図15に示すインクジェット記録装置を挙げることができる。図14に示す液体吐出装置(インクジェット記録装置)81の外装82〜85および87を外した状態を図15に示す。インクジェット記録装置81は、記録媒体としての記録紙を装置本体96内へ自動給送する自動給送部97を有する。更に、自動給送部97から送られる記録紙を所定の記録位置へ導き、記録位置から排出口98へ導く搬送部99と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部91と、記録部91に対する回復処理を行う回復部90とを有する。記録部91には、本実施形態の液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送されるキャリッジ92が備えられる。
このようなインクジェット記録装置において、コンピューターから送出される電気信号によりキャリッジ92がレール上を移送され、圧電体を挟持する電極に駆動電圧が印加されると圧電体が変位する。この圧電体の変位により振動板15を介して各個別液室を加圧し、インクを吐出口11から吐出させて、印字を行なう。
本実施形態の液体吐出装置においては、均一に高速度で液体を吐出させることができ、装置の小型化を図ることができる。
上記例は、プリンターとして例示したが、本実施形態の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置の他、産業用液体吐出装置として使用することができる。
以下、本実施形態の圧電体、圧電素子、該圧電素子を用いた液体吐出ヘッドについて実施例をあげて説明する。
≪実施例1≫
実施例1の圧電体および圧電素子の製作手順は以下の通りである。
下部電極を兼ねるLaドープSrTiO3{100}基板上に圧電体PZTをスパッタリング法で基板温度600℃を保持しながら膜厚3μm成膜した。ターゲットとしてはターゲット密度が88%のPZTを主成分とするものを用いた。ターゲットのPb、Zr、Tiの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Target は 1.00、{Zr/(Zr+Ti)}Target は0.65とした。スパッタは下記の条件で行った。
スパッタガス Ar/O2=20/1
スパッタ電力 1.3W/cm2
スパッタガス圧 0.5Pa
基板温度を600℃に保持しながらスパッタ時間を調整し膜厚3μmになるように成膜した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比は誘導結合プラズマ発光分析装置による組成分析(ICP組成分析)の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.40、Zr/(Zr+Ti)が0.53であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの単結晶膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピング(図16)より、この単結晶膜の格子定数はa=4.08Å、c=4.16Å、β=89.6°であり、単斜晶であることおよびc/a=1.02であることを確認した。尚、{204}面に起因する逆格子点はピークが上下に分裂しており、単斜晶が双晶の関係になっていることが確認できた。また、圧電体のキュリー温度Tcは500℃であった。さらに前記圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタ法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し一対の電極膜を形成し、実施例1の圧電素子を作製した。
≪実施例2≫
実施例2の圧電体および圧電素子の製作手順は以下の通りである。
テトラブトキシジルコニウムとテトラ−i−プロポキシチタンを目的とするZr/Tiの組成比に合わせブタノール、アセチルアセトン、水混合液に溶かした。塩基触媒として、ジベンジルメチルアミンを金属原料に対して、1モル%加え、50℃12時間加熱熟成処理した後、鉛原料液を鉛過剰になるよう加え、スピンコート法で下部電極を兼ねるLaドープSrTiO3{100}基板上に塗布した。鉛原料としては、酢酸鉛のブタノール、i−プロパノール混合液の溶液を用いた。
塗布後、400℃で30分、600℃で30分加熱した後、さらにスピンコートを繰り返し膜厚が3μmになるまで成膜した。その後、700℃で1時間加熱を行い圧電体を形成した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比はICP組成分析の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.50、Zr/(Zr+Ti)が0.55であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの単結晶膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、この単結晶膜の格子定数はa=4.08Å、c=4.11Å、β=89.6°であり、単斜晶であることおよびc/a=1.01であることを確認した。また、圧電体のキュリー温度Tcは410℃であった。さらに前記圧電体に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し一対の電極膜を形成し、実施例2の圧電素子を作製した。
≪比較例1≫
比較例1の圧電体および圧電素子を以下の手順で作製した。
ターゲットとしてターゲット密度が98%、ターゲットのPb、Zr、Tiの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Target が1.40、{Zr/(Zr+Ti)}Target が0.55のPZTを主成分とするものを用いた。前記ターゲットを用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例1の圧電体および圧電素子を作製した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比はICP組成分析の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.30、Zr/(Zr+Ti)が0.55であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの単結晶膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、この単結晶膜の格子定数はa=4.07Å、c=4.15Å、β=90.0°であり、正方晶であることおよびc/a=1.02であることを確認した。尚、{204}面に起因する逆格子点は実施例1と違い、ピークが上下に分裂していないことが確認できた。また、圧電体のキュリー温度Tcは390℃であった。
≪実施例3≫
実施例3の圧電体および圧電素子の製作手順は以下の通りである。
Si(100)基板表面をフッ酸処理した後、YがドープされたZrO2膜をスパッタリング法で基板温度800℃で100nm成膜し、続いてCeO2膜を基板温度600℃で60nm成膜した。どちらも<100>配向の単結晶膜であった。更にこの上に下部電極膜としてスパッタリング法によりLaNiO3(LNO)膜を100nm厚で基板温度300℃で成膜した。さらにこのLNO膜上にSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜等を有する基板を得た。電極膜もSRO膜も<100>配向の単結晶膜であった。
LaドープSrTiO3{100}基板に替えて前記基板を用い、ターゲットとして下記のものを用いた。ターゲット密度が88%のPZTで、Pb、Zr、Tiの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Targetが1.00、{Zr/(Zr+Ti)}Target が0.75のPZTを主成分とするものを用いた。これらを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例3の圧電体および圧電素子を作製した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比はICP組成分析の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.45、Zr/(Zr+Ti)が0.65であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの単結晶膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、この単結晶膜の格子定数はa=4.09Å、c=4.13Å、β=89.5°であり、単斜晶であることおよびc/a=1.01であることを確認した。尚、{204}面に起因する逆格子点はピークが上下に分裂しており、単斜晶が双晶の関係になっていることが確認できた。また、圧電体のキュリー温度Tcは520℃であった。
≪実施例4≫
実施例4の圧電体および圧電素子の製作手順は以下の通りである。
熱酸化膜のSiO2層が100nm厚で形成されているSi基板上にTiO2膜を4nm成膜後、Pt膜を基板温度200℃で100nm厚にスパッタリング法で成膜した。Pt膜は<111>配向膜であった。更にこの上に下部電極膜としてスパッタリング法によりLaNiO3(LNO)膜を100nm厚で基板温度300℃で成膜した。さらにこのLNO膜上にSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜等を有する基板を得た。電極膜もSRO膜も<100>配向の1軸結晶膜であった。
次に、上記の下部電極膜等を有する基板を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4の圧電体および圧電素子を作製した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比はICP組成分析の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.35、Zr/(Zr+Ti)が0.63であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、リング状のピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの1軸配向膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、この1軸配向膜の格子定数はa=4.08Å、c=4.14Å、β=89.0°であり、単斜晶であることおよびc/a=1.01であることを確認した。また、圧電体のキュリー温度Tcは520℃であった。
≪比較例2≫
比較例2の圧電体および圧電素子を以下の手順で作製した。
ターゲットとして、ターゲット密度が98%、Pb、Zr、Tiの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Target が1.05、{Zr/(Zr+Ti)}Target が0.45であるPZTを主成分とするものを用いた。前記ターゲットを用いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例2の圧電体および圧電素子を作製した。
圧電体のPb、Zr、Tiの元素比はICP組成分析の結果、Pb/(Zr+Ti)が1.02、Zr/(Zr+Ti)が0.45であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、PZTのペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のペロブスカイト型構造を有するPZTの単結晶膜であることを確認した。同様にX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、この単結晶膜の格子定数はa=4.04Å、c=4.17Å、β=90°であり、正方晶であることおよびc/a=1.03であることを確認した。また、圧電体のキュリー温度Tcは410℃であった。
≪上述の例における圧電定数およびリーク電流の測定結果の比較≫
表1に、実施例1〜4並びに比較例1および2の圧電素子の圧電定数およびリーク電流の測定結果を示す。ここで、圧電定数は、上部電極をφ100μmパターンに加工し、上下電極に電圧を印加した際の微小変位を走査型プローブ顕微鏡(SPM)により測定するd33モードの圧電定数を測定することで評価した。また、リーク電流は、圧電定数測定と同様に上部電極をφ100μmパターンに加工し、上下電極間にDC電圧を100V印加した際の上下電極間のリーク電流を測定することで評価した。
Figure 0005241086
表1に示されているように、実施例1、2は比較例1と比較して圧電定数が同等以上にもかかわらずリーク電流が低く抑えられている。また、実施例3、4は比較例2と比較して大きな圧電定数をもち、かつリーク電流も抑えられていることが確認できる。
≪実施例5、比較例3≫
実施例5と比較例3の液体吐出ヘッドを以下の手順で作製した。
エピタキシャルSi膜が500nm厚、SiO2層が500nm厚で成膜されたSOI基板を用いたこと以外は実施例3又は比較例2と同様にして圧電素子を作製した。アクチュエーター部をパターニングした後、ハンドル層のSi基板を誘導結合プラズマ法(ICP法)でドライエッチングして振動板と個別液室を形成した。次に、これに共通液室、連通孔を形成した別のSi基板を張り合わせた。さらに吐出口の形成された基板を共通液室、連通孔が形成されている前記Si基板に張り合わせる事により、振動板がSiO2層、Si膜、YがドープされたZrO2膜、CeO2膜となる液体吐出ヘッドを作製した。実施例3と同様にして圧電素子を作製した液体吐出ヘッドを実施例5の液体吐出ヘッド、比較例2と同様にして圧電素子を作製した液体吐出ヘッドを比較例3の液体吐出ヘッドとした。これらの液体吐出ヘッドに駆動信号を印加して駆動し、液体吐出ヘッドの個別液室中心部に上部電極側からφ20μmのレーザーを照射し、レーザードップラー変位系により液体吐出ヘッドの変位量を評価した。実施例5の液体吐出ヘッドは108回の駆動信号に対しても追随性の良い変位を示したが、比較例3の液体吐出ヘッドは変位量が小さいとともに105回で変位の減衰が見られた。
≪実施例6≫
実施例6の圧電体および圧電素子の作製手順は以下のとおりである。但し、実施例1と同じ部分の説明は省略した。
下部電極を兼ねるLaドープSrTiO3{100}基板上に圧電体PZTをスパッタリング法で基板温度600℃を保持しながら膜厚3μm成膜した。ターゲットとしてはターゲット密度が88%のPZTを主成分とするものを用いた。ターゲットの元素比 {Pb/(Zr+Ti)}Targetは0.85、{Zr/(Zr+Ti)}Targetは0.85とした。スパッタは下記条件のもとで行った。
スパッタガス Ar/O2=20/1
スパッタ電力 1.6W/cm2
スパッタガス圧 0.1Pa
基板温度を620℃に保持しながら3μmの膜を成膜した。
圧電体のPb/(Zr+Ti)は1.10、Zr/(Zr+Ti)は0.75であった。また、圧電体は<100>配向のPZTペロブスカイト型構造の単結晶膜であり、格子定数はa=4.09Å、c=4.12Å、β=89.0°であり、単斜晶であること、c/a=1.007であることを確認した。また、圧電体の比誘電率の温度依存性は540℃で極大を示し、キュリー温度Tcは540℃であった。また、実施例1の圧電体に比べて鉛を少なくした本実施例の圧電体も、好適に利用可能であった。
バルクPZTの状態図である。 バルクPZTのZr、Ti元素比の変化による格子定数の変化を示す図である。 本実施形態における1軸配向結晶の一例の模式図およびそのX線回折による正極点図模式図である。 本実施形態における単結晶の一例の模式図およびそのX線回折による正極点図模式図である。 本実施形態の圧電素子の実施形態の一例を示す模式図である。 本実施形態の液体吐出ヘッドの実施形態の一例を示す模式図である。 図6の液体吐出ヘッドの幅方向の断面模式図である。 図6の液体吐出ヘッドを上面側(吐出口側)から見た模式図である。 図6の液体吐出ヘッドを上面側(吐出口側)から見た模式図である。 本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程の一例を示す概略図である。 本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程の一例を示す概略図である。 本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程の一例を示す概略図である。 本実施形態の液体吐出ヘッドの製造工程の一例を示す概略図である。 本実施形態の液体吐出装置の一実施形態を示す斜視図である。 本実施形態の液体吐出装置の一実施形態を示す斜視図である。 実施例1の圧電体のX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピング図である。
符号の説明
5 基板
6 第1の電極膜
7 圧電体
8 第2の電極膜
9 バッファー層
10 圧電素子
11 吐出口
12 連通孔
13 個別液室
14 共通液室
15 振動板
16 下部電極膜
17 吐出口を設けた基板
18 上部電極膜
19 バッファー層
81 液体吐出装置(インクジェット記録装置)
82 外装
83 外装
84 外装
85 外装
87 外装
90 回復部
91 記録部
92 キャリッジ
96 装置本体
97 自動給送部
98 排出口
99 搬送部

Claims (9)

  1. 圧電体が、
    Pb(ZrxTi1-x)O3(1)
    (式中、xは、Zr、Tiの元素比Zr/(Zr+Ti)を表す。)
    で表されるペロブスカイト型構造を有するジルコン酸チタン酸鉛を主成分とし、かつ該圧電体のPb、Zr、Tiの元素比Pb/(Zr+Ti)が1.05以上であり、Zr、Tiの元素比Zr/(Zr+Ti)が0.5以上0.8以下であり、かつ該圧電体が少なくとも単斜晶系のペロブスカイト型構造を有し、格子定数a、cが1.005<c/a<1.05の関係を満たすことを特徴とする圧電体。
  2. 前記圧電体のキュリー温度Tcと該圧電体のZr、Tiの元素比に於けるバルク状態でのキュリー温度Tc0がTc>Tc0+50℃の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の圧電体。
  3. 前記圧電体の膜厚が1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電体。
  4. 前記圧電体が1軸配向結晶又は単結晶であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電体。
  5. 前記圧電体が<100>配向であることを特徴とする請求項に記載の圧電体。
  6. 請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電体と、該圧電体に接する一対の電極とを有することを特徴とする圧電素子。
  7. 前記電極の少なくとも一方が<100>配向したペロブスカイト型構造の酸化物電極を含むことを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
  8. 吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧電素子が請求項又はに記載の圧電素子であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
  9. 吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置であって、請求項に記載の液体吐出ヘッドを有することを特徴とする液体吐出装置。
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