一般にマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛等のバルク状単結晶体はフラックス溶融法などの方法を用いて、千数百℃に加熱することで材料を液相にした後に除冷することで、熱力学的に平衡な固―液反応により単結晶体を形成する。このため、結晶中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素のサイト欠陥などにより生じる格子欠陥が非常に少ないと考えられる。一方で、薄膜法ではプラズマやレーザーによるエネルギーのアシストや固体粒子の噴射、原料分子の化学反応等による固―液反応以外の方法を用いて、およそ600℃程度の低温で単結晶薄膜を形成する。このため、結晶中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素の格子サイト欠陥などにより生じる欠陥は比較的多いと思われる。
リラクサ系単結晶圧電体薄膜がバルク状単結晶体から期待できる高い圧電性が報告されていない原因のひとつは、このようなバルク状単結晶体と単結晶薄膜の製法の差であると思われる。しかし、本発明者らは鋭意検討の結果、下記の条件を満たしていれば、薄膜においても高い圧電性が実現できることを発見した。圧電体が単結晶あるいは1軸配向結晶であり、圧電体の単位格子の3つの格子長さa、b、cが、それぞれ前記圧電体と同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の格子長さa0、b0、c0より小さい。さらに、前記圧電体の単位格子の体積が前記圧電体と同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さければよい。
リラクサ系単結晶圧電体薄膜の単位格子の体積が、バルク状単結晶体の単位格子の体積より小さくなるメカニズムの詳細は不明であるが、たとえば成膜温度と膜のキュリー温度Tcと基板熱膨張係数の関係に起因しているのではないかと思われる。しかしながら、従来のリラクサ系単結晶圧電体薄膜では結晶中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素の格子サイト欠陥などにより生じる欠陥などの影響が考えられる。この影響により、バルク状単結晶体の単位格子の体積より小さいリラクサ系単結晶圧電体薄膜を形成することが不可能であったのではないかと考えられる。
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図6に本実施形態の圧電素子の実施形態の一例の断面模式図を示す。本実施形態の圧電素子10は第1の電極膜6、圧電体7および第2の電極膜8を含む圧電素子(圧電体薄膜素子)である。図6に示した実施形態の圧電素子においては、圧電素子10の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形であってもよい。本実施形態の圧電素子10は基板5上に形成されるが、本実施形態の圧電素子10を構成する一対の電極膜である第1の電極膜6および第2の電極膜8はそれぞれ下部電極、上部電極どちらとしても良い。この理由はデバイス化の際の製造方法によるものであり、どちらでも本発明の効果を得る事が出来る。また基板5と下部電極膜6の間にバッファ−層9があっても良い。
本実施形態の圧電素子10は、少なくとも基板5上又は基板5上に形成されたバッファー層9上に第1の電極膜6を形成し、次に圧電体7をその上に形成し、更に第2の電極膜8を形成することによって製造することができる。
本実施形態における圧電体7は、単結晶または1軸配向結晶である。該圧電体の単位格子の3つの格子長さa、b、cはそれぞれ該圧電体と同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の格子長さa0、b0、c0より小さい。さらに、圧電体7の単位格子の体積は、同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さい。ここで本実施形態における同組成とは、組成が0.1%程度の精度で一致するものであって、1%を超える不純物を含まないことをいう。
また、本実施形態における圧電体7は、ペロブスカイト型構造を有するマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の単結晶または1軸配向結晶から成る。さらに、該マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を構成するMg、Nb、Tiの元素比をそれぞれX、Y、Zとしたとき、X+Y+Z=1かつ0.2<Z<0.8を満たし、温度300Kにおける該マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の単位格子の体積が63.5(Å3)以上であればよい。加えて、温度300Kにおける該マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の単位格子の体積が、0.2<Z<0.33では下記式(1)により求められる値V1(Å3)以下であり、0.33≦Z<0.8では下記式(2)により求められる値V2(Å3)以下であることが好ましい。
V1=−5.39×Z+66.3 (1)
V2=−1.85×Z+65.1 (2)
マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を構成するMg、Nb、Tiの元素比をそれぞれX、Y、Zとする。図1はブリッジマン法により形成されたマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積と、上述のX+Y+Z=1の関係におけるZとの関係を点で示す。図1の直線(1)は上記式(1)を示すものであり、直線(2)は上記式(2)を示すものである。
ここで、本実施形態の圧電体において、0.2<Z<0.33における単位格子の体積が上記式(1)により求められる値V1(Å3)以下であると高い圧電性が実現できる。また、0.33≦Z<0.8における圧電体の単位格子の体積が上記式(2)により求められる値V2(Å3)以下であると同様に高い圧電性が実現できる。
このように、Zが0.33前後でバルクの体積とZとの関係が異なる。これは、Zが0.33近傍にバルク体のMPBが存在しており、0.33近傍を中心に結晶相が変化しているためであると推測される。Zが0.33より小さくなるにつれて菱面体の割合が増え、Zが0.33より大きくなるにつれて立方晶の割合が増える。
Zが0.2<Z<0.8の範囲にある場合にはペロブスカイト型構造の結晶のみを有する単結晶または1軸配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を比較的容易に形成することができる。また、一般にZが0.33近傍に近い方が高い圧電性が実現できる。
また、あまりにも単位格子の体積が小さくなるとペロブスカイト型構造を有することが困難に成る為単位格子の体積は63.5(Å3)以上必要である。
さらに、本実施形態における圧電体7は、ペロブスカイト型構造を有するマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の単結晶または1軸配向結晶から成る。さらに、該マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を構成するMg、Nb、Tiの元素比をそれぞれX、Y、Zとしたとき、該元素比X、Y、Zが、X+Y+Z=1かつ0.33≦Z<0.5を満たすことが好ましい。これは0.33≦Z<0.5の範囲ではさらに高い圧電性が実現できる為である。
また、本実施形態における圧電体は、1μm以上10μm以下の膜厚であることが好ましい。圧電体の膜厚を1μm以上とすると圧電素子が大きな変位を有することが出来る。また10μm以下とすると圧電素子を微細化できる。
本実施形態における圧電体の単位格子の体積はX線回折を用いて確認することができる。例えばマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の<100>配向の圧電体が正方晶の場合はa=b、α=β=γ=90°の関係が成り立つ。このため逆格子空間マッピングでマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の(004)と(204)を測定することで単位格子の格子長さa、cおよび内角βを求め、単位格子の体積を算出することが出来る。同様にマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の<111>配向の圧電体が菱面体晶の場合はa=b=c、α=β=γの関係が成り立つ。このため逆格子空間マッピングでマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の(222)と(224)と(114)を測定することで単位格子の格子長さa、cおよび内角βを求め、単位格子の体積を算出することが出来る。
また、本実施形態における圧電体の結晶相もX線回折を用いて確認することができる。例えば、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の<100>配向の圧電体が正方晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)の逆格子点を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)=Qy(204)となる。また、例えば、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の<100>配向の圧電体が菱面体晶の場合、逆格子空間マッピングで(004)と(204)を測定する。その結果、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(204)との関係が Qy(004)>Qy(204)、もしくは Qy(004)<Qy(204)となる。よって、(004)逆格子点のy軸方向の大きさ Qy(004)と、(204)のx軸方向の大きさ Qx(204)との関係が Qy(004)≒2Qx(204)となるような逆格子点が得られる。この際、Qy(004)>Qy(204)、かつ、 Qy(004)<Qy(204)となるような2つの(204)逆格子点が現れても構わない。この2つの逆格子は双晶の関係にあると思われる。ここで、逆格子空間のy軸は圧電体の膜厚方向であり、x軸は圧電体の膜面内方向のある一方向である。
また、本実施形態における単結晶とは膜厚方向および膜面内方向に単一の結晶方位を持つ結晶のことを指す。例えば<100>単結晶からなる圧電体とは、膜厚方向が<100>方位のみとなり、かつ、膜面内方向のある一方向が<110>方位のみの単一の結晶または複数の結晶により構成された圧電体である。圧電体が1軸配向結晶であるかはX線回折を用いて確認することができる。例えば、ペロブスカイト型構造のペロブスカイト型酸化物材料 マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛 の<100>単結晶からなる圧電体の場合次の結果が得られる。X線回折の2θ/θ測定での圧電体に起因するピークは{100}、{200}等の{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)のピークのみが検出される。また、{110}非対称面の極点測定をした際には次の結果が得られる。すなわち、図2のように矢印で示した圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の{L00}面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する円周上の90°毎の位置に各結晶の{110}非対称面の極点が4回対称のスポット状のパターンとして測定される。
また、本実施形態における1軸配向結晶とは、圧電体の膜厚方向に単一の結晶方位をもつ結晶のことを指し、結晶の膜面内方位は特には問わない。例えば<100>1軸配向結晶とは、膜厚方向が<100>方位のみの結晶により構成された膜である。圧電体が1軸配向結晶であるかはX線回折を用いて確認することができる。例えば、ペロブスカイト型酸化物材料 マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛 の<100>1軸配向結晶からなる圧電体の場合次の結果が得られる。X線回折の2θ/θ測定での圧電体に起因するピークは{100}、{200}等の{L00}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)のピークのみが検出される。かつ、{110}非対称面の極点測定をした際には次の結果が得られる。すなわち、図3のように矢印で示した圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の{L00}面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する位置に各結晶の{110}非対称面の極点がリング状のパターンとして測定される。
また、本実施形態における、単結晶又は1軸配向結晶は次のようなものが挙げられる。例えば<100>配向のペロブスカイト型酸化物材料 マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛 で、{110}非対称面の極点測定をする。この際に、圧電体の膜厚方向(圧電体の結晶の{L00}面の法線方向)からの傾きが約45°に該当する円周上の45°毎の位置や30°毎の位置に各結晶の{110}非対称面の極点が8回対称や12回対称のパターンとして測定される結晶が挙げられる。又、パターンがスポットではなく楕円状である結晶でも本実施形態における単結晶と1軸配向結晶の中間の対称性を有する結晶であるため、広義に単結晶又は1軸配向結晶とみなす。同様に本実施形態では、例えば正方晶と菱面体晶などの複数結晶相が混在(混相)する場合や、双晶等に起因する結晶が混在する場合や、転位や欠陥等がある場合も、広義に単結晶又は1軸配向結晶とみなす。
ここで、本実施形態において{100}とは(100)や(010)や(001)等で一般に表される計6面を総称した表現であり、同様に本実施形態において<100>とは[100]や[010]や[001]等で一般に表される計6方位を総称した表現である。
一般に、例えば[100]と[001]は結晶系が立方晶の場合は同意であるが、正方晶や菱面体晶の場合は区別しなければならない。しかし、ペロブスカイト型酸化物材料 マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の結晶は、正方晶や菱面体晶であっても立方晶に近い格子定数を持つ。したがって、本実施形態においては正方晶の[100]と[001]や菱面体晶の[111]と[−1−1−1]も<100>や<111>で総称する。また、本実施形態において<100>配向とは、圧電体が膜厚方向に<100>単一の結晶方位をもつことを指すが、数度程度の傾きの範囲を持つもの、例えば、<100>結晶軸が膜厚方向から5°程度傾いていても<100>配向という。
上述のように圧電体の単位格子の体積や結晶相、結晶配向性はX線回折により容易に確認することが出来るが、上述のX線回折の他にも、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察等によっても確認することが出来る。この場合、例えば膜厚方向に柱状に結晶転位が存在する場合や双晶が確認できる場合も広義に単結晶とみなす。
本実施形態における圧電体の形成方法は特に限定されないが、10μm以下の薄膜では通常、ゾルゲル法、水熱合成法、ガスデポジション法、電気泳動法等の薄膜形成法を用いることができる。さらにはスパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、イオンビームデポジション法、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法等の薄膜形成法を用いることができる。これらの薄膜形成法では、基板や下部電極からのエピタキシャル成長を用いた圧電体の1軸配向化・単結晶化が可能となるため、さらに高い圧電性を有する圧電素子を形成することが容易となる。
さらに、本実施形態における圧電体7は、成膜方法として特に、図4のようなパルスMOCVD法により成膜することができる。これにより圧電体の単位格子の体積が圧電体と同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さく、高い圧電性を有する圧電素子を形成することができる。
パルスMOCVD法では、出発原料混合ガスを反応室に均一に導入させるために、導入前に各原料ガスを混合させるのが好ましい。また、配管内で単結晶成膜を阻害する酸化反応が進行しないよう出発原料供給路の温度制御を行うことが好ましい。さらに、パルスMOCVD法においては、不活性キャリアガス・出発原料混合ガスを間欠的に供給することが好ましい。この際、混合ガスの間欠時間を制御することで、混合ガスの基板上での十分な反応時間が得られ、膜のダメージ等を抑制することが出来る。これにより圧電体中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素の格子サイト欠陥などにより生じる欠陥などを抑制することが出来、バルク状単結晶体の単位格子の体積より小さく、高い圧電性を有する圧電素子を容易に形成できる。
さらに、本実施形態における圧電体7は、成膜方法として特に、図5のような方法により製造することができる。表面が400℃以上800℃以下の温度に加熱された基板を、ターゲットのスパッタリング面に対して垂直な方向においてターゲット領域を投影した領域外に配置する。マグネトロンスパッタリング法により、前記基板上に圧電膜を形成する。ペロブスカイト型構造の結晶のみを有する単結晶または1軸配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を上述のマグネトロンスパッタリング法で形成するには400℃以上800℃以下の温度が必要である。400℃より低い温度では成膜時の基板表面のエネルギー不足のためペロブスカイト型構造の結晶のみを有する単結晶または1軸配向を得ることが困難である。また800℃を超える温度では鉛不足を生じる為ペロブスカイト型構造の結晶のみを有する単結晶または1軸配向を得ることが困難である。一般に上述のマグネトロンスパッタリング法でマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を形成するには、通常のマグネトロンスパッタリング法より高い成膜温度が必要となる傾向にある。
また、上述の構成で、より好ましくは、前記マグネトロンスパッタリング法は、間隔をおいて平行に対向配置された1対のターゲットと、該ターゲット裏面にそれぞれ配置された極性の異なる磁界発生手段とを有している。磁界発生手段によって発せられた磁界によって、プラズマ中の電子(マイナスチャージ)が対向配置されたターゲットのスパッタリング面に対して垂直な方向のターゲット領域を投影した領域に強く収束される。このため、通常のマグネトロンスパッタリング法より高いプラズマ密度を上記領域に実現できる。さらに前記基板は前記1対のターゲットにより形成される空間に面するように配置することが好ましい。つまり、ターゲット面に垂直な方向と、基板面に垂直な方向とが交わるように基板配置するのが好ましい。
上記方法により、圧電体の単位格子の体積が圧電体と同温度かつ同組成のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さく、高い圧電性を有する圧電素子を形成することができる。
薄膜法の中でも特にスパッタリング法は、プラズマやγ電子による膜のダメージや、スパッタガスなどから生じる負イオンがマグネトロン磁界により基板方向に加速されることによる膜のダメージ等が大きい。このため、結晶中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素の格子サイト欠陥などにより生じる欠陥が多いと思われる。しかしながら、前述のようなスパッタリング法を用いた場合には、欠陥が抑制されると考えられる。例えば図5に示すように、ターゲット面に対して基板面を垂直に配置し、かつその基板が、向かい合うターゲット面を投影した領域に配置しないことで、プラズマやγ電子、スパッタガスによる膜のダメージ等を抑制することが出来る。このため、圧電体中の酸素欠損、鉛欠損、結晶格子を構成する各構成元素の格子サイト欠陥などにより生じる欠陥などを抑制することが出来、バルク状単結晶体の単位格子の体積より小さく、高い圧電性を有する圧電素子を容易に形成できる。
本実施形態の圧電素子の第1の電極膜又は第2の電極膜は、前述の圧電体と良好な密着性を有し、かつ導電性の高い材料、つまり上部電極膜又は下部電極膜の比抵抗を10-7〜10-2Ω・cmとすることのできる材料からなることが好ましい。このような材料は一般的に金属であることが多いが、例えば、Au、Ag、CuやRu、Rh、Pd、Os、Ir、PtなどのPt族の金属を電極材料として用いることが好ましい。また上記材料を含む銀ペーストやはんだなどの合金材料も高い導電性を有し、好ましく用いることができる。また、例えば IrO(酸化イリジウム)、SRO(ルテニウム酸ストロンチウム)、ITO(導電性酸化スズ)、BPO(鉛酸バリウム)などの導電性酸化物材料も電極材料として好ましい。また、電極膜は1層構成でもよく、多層構成でもよい。例えば基板との密着性を上げる為Pt/Tiのような構成としても良い。電極膜の膜厚は100nmから1000nm程度とすることが好ましく、500nm以下とすることがさらに好ましい。電極膜の膜厚を100nm以上とすると電極膜の抵抗が充分に小さくなり、1000nm以下とすると圧電素子の圧電性を阻害する虞もなく好ましい。
また、第1の電極膜が少なくともペロブスカイト型構造の酸化物電極膜を含む場合は、1軸配向膜又は単結晶膜を容易に作製することができる。特にSROは格子定数が4Å程度とペロブスカイト型構造を有するマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の格子定数に近い為、容易に1軸配向膜又は単結晶膜を作製することができる。
本実施形態における電極膜の形成方法は特に限定されないが、1000nm以下の電極膜は、通常、ゾルゲル法、水熱合成法、ガスデポジション法、電気泳動法等の薄膜形成法、さらにはスパッタリング法、CVD法、MOCVD法、イオンビームデポジション法、分子線エピタキシー法、レーザーアブレーション法等の薄膜形成法を用いて形成することができる。これらの薄膜形成法では、基板やバッファー層からのエピタキシャル成長を用いた電極膜の1軸配向化・単結晶化が可能となるため、圧電体の1軸配向化・単結晶化が容易となる。
<液体吐出ヘッド>
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドについて説明する。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口に連通する個別液室と、該個別液室に対応して設けられた圧電素子を有し、前記個別液室内の液体を前記吐出口から吐出する液体吐出ヘッドであり、前記圧電素子が前記本実施形態の圧電素子であることを特徴とする。より詳細には、本実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口と、吐出口に連通する個別液室と、個別液室の一部を構成する振動板と、個別液室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための圧電素子とを有する。上述の振動板により生じる個別液室内の体積変化によって個別液室内の液体を吐出口から吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧電素子が本実施形態の圧電素子である。
圧電素子として本実施形態の圧電素子を用いることで、均一で高い吐出性能を示し、微細なパターニングを行うことが可能な液体吐出ヘッドを容易に得ることが出来る。本実施形態の液体吐出ヘッドは、インクジェットプリンタやFax、複合機、複写機などの画像形成装置、あるいは、インク以外の液体を吐出する産業用吐出装置に使用されても良い。
本実施形態の液体吐出ヘッドを図7を参照しながら説明する。図7は本実施形態の液体吐出ヘッドの実施形態の一例を示す模式図である。図7に示した実施形態の液体吐出ヘッドは、吐出口11、吐出口11と個別液室13を連通する連通孔12、個別液室13に液を供給する共通液室14を備えており、この連通した経路に沿って液体が吐出口11に供給される。個別液室13の一部は振動板15で構成されている。振動板15に振動を付与するための圧電素子10は、個別液室13の外部に設けられている。圧電素子10が駆動されると、振動板15は圧電素子10によって振動を付与され個別液室13内の体積変化を引き起こし、これによって個別液室13内の液体が吐出口から吐出される。圧電素子10は、図8に示した実施形態においては、矩形の形をしているが、この形状は楕円形、円形、平行四辺形等の形状としても良い。
図7に示した液体吐出ヘッドの幅方向の断面模式図を図8に示す。図8を参照しながら、本実施形態の液体吐出ヘッドを構成する圧電素子10を更に詳細に説明する。圧電素子10の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。また、図8中では第1の電極膜6が下部電極膜16、第2の電極膜8が上部電極膜18に相当するが、本実施形態の圧電素子10を構成する第1の電極膜6および第2の電極膜8はそれぞれ下部電極膜16、上部電極膜18のどちらになっても良い。これはデバイス化時の製造方法によるものであり、どちらでも本発明の効果を得る事が出来る。また振動板15は本実施形態の圧電素子10を構成する基板5から形成したものであってもよい。また振動板15と下部電極膜16の間にバッファ−層19があっても良い。
図9および図10は、図7に示した液体吐出ヘッドを上面側(吐出口11側)から見たときの模式図である。破線で示された領域13は、圧力が加わる個別液室13を表す。個別液室13上に圧電素子10が適宜パターニングされて形成される。例えば、図9において、下部電極膜16は圧電体7が存在しない部分まで引き出されており、上部電極膜18(不図示)は下部電極膜16と反対側に引き出され駆動源につながれている。図9および図10では下部電極膜16はパターニングされた状態を示しているが、図8に示したように圧電体7がない部分に存在するものであっても良い。圧電体7、下部電極膜16、上部電極膜18は圧電素子10を駆動する上で、駆動回路と圧電素子10間にショート、断線等の支障がなければ目的にあわせて最適にパターニングすることができる。また、個別液室13の形状が、平行四辺形に図示されているのは、基板として、Si(110)基板を用い、アルカリによるウエットエッチングを行って個別液室が作製された場合には、このような形状になるためである。個別液室13の形状は、これ以外に長方形であっても良いし、正方形であっても良い。一般に、個別液室13は、振動板15上に一定のピッチ数で複数個作製されるが、図10で示されるように、個別液室13を千鳥配列の配置としてもよいし、目的によっては1個であっても良い。
振動板15の厚みは、通常0.5〜10μmであり、好ましくは1.0〜6.0μmである。この厚みには、上記バッファー層19がある場合はバッファー層の厚みも含まれる。また、バッファー層以外の複数の層が形成されていても良い。例えば振動板と個別液室を同じ基板から形成する場合に必要なエッチストップ層などが含まれていても良い。個別液室13の幅Wa(図9参照)は、通常30〜180μmである。長さWb(図9参照)は、吐出液滴量にもよるが、通常0.3〜6.0mmである。吐出口11の形は、通常、円形又は星型であり、径は、通常7〜30μmとすることが好ましい。吐出口11の断面形状は、連通孔12方向に拡大されたテーパー形状を有するのが好ましい。連通孔12の長さは、通常0.05mmから0.5mmが好ましい。連通孔12の長さを0.5mm以下とすると、液滴の吐出スピードが充分大きくなる。また、0.05mm以上とすると各吐出口から吐出される液滴の吐出スピードのばらつきが小さくなり好ましい。また、本実施形態の液体吐出ヘッドを構成する振動板、個別液室、共通液室、連通孔等を形成する部材は、同じ材料であっても良いし、それぞれ異なっても良い。例えばSi等であれば、リソグラフィ法とエッチング法を用いることで精度良く加工することができる。また、異なる場合に選択される部材としては、それぞれの部材の熱膨張係数の差が1×10-8/℃から1×10-6/℃である材料が好ましい。例えばSi基板に対してはSUS基板、Ni基板等を選択することが好ましい。
<液体吐出ヘッドの製造方法>
次に本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法は、少なくとも、次の工程を有する。
(1)吐出口を形成する工程
(2)吐出口と個別液室を連通する連通孔を形成する工程
(3)個別液室を形成する工程
(4)個別液室に連通する共通液室を形成する工程
(5)個別液室に振動を付与する振動板を形成する工程
(6)個別液室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための圧電素子を製造する工程
具体的には、例えば、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法は、前述の(6)の工程を適用して圧電素子10を形成した基板に(3)の工程を適用して個別液室の一部および振動板を形成する。別途(2)、(4)の工程を適用して連通孔と共通液室を形成した基体を作製し、(1)の工程を適用して吐出口を有する基体を形成し、次に、これらを積層して一体化して液体吐出ヘッドを製造する第一の方法を挙げることができる。また別途、少なくとも、(3)の工程を適用して個別液室が形成される基体もしくは個別液室が形成された基体を作製する。次に、これに、(6)の工程を適用して圧電素子が形成された基板もしくは(5)と(6)の工程により振動板と圧電素子を形成した基板から圧電素子又は振動板と圧電素子を転写する。次に、圧電素子又は振動板と圧電素子が転写された基体の少なくとも圧電素子等と対向する側の基体部分を(2)の工程を適用して加工して個別液室を形成する。さらに上記第一の方法と同様にして、連通孔と共通液室を形成した基体、吐出口を形成した基体を作製し、これらの基体を積層して一体化して液体吐出ヘッドを製造する第二の方法の二つの方法を挙げることができる。
第一の方法としては、図11に示したように、まず、圧電素子の製造方法と同様にして基板5上に圧電素子10を設ける。次に、少なくとも、圧電素子10をパターニングした状態で基板5の一部を除去して、個別液室13の一部を形成すると共に振動板15を形成する。別途、共通液室14および連通孔12を有する基体を作製し、さらに吐出口11を形成した基体を作製する。最後に、これらを積層して一体化して液体吐出ヘッドを形成する製造方法を挙げることができる。基板5の一部を除去する方法としては、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、又はサンドミル法等の方法を挙げる事が出来る。基板5の一部をこのような方法によって除去することで振動板15と個別液室13の少なくとも一部を形成することができる。
第二の方法としては、例えば、図12に示したように、まず、圧電素子の製造方法と同様にして基板5上に圧電素子10を設ける。次に、圧電素子10がパターニングされない状態で振動板15を圧電素子上に成膜した基板を作製する。さらに、個別液室13を設けた基体、連通孔12および共通液室14を設けた基体および吐出口11を設けた基体等を作製しこれらを積層した後に、上記基板から振動板、圧電素子等を転写する製造方法を挙げることができる。
又、図13に示したように、まず、基板5上に圧電素子10を形成しこれをパターニングして圧電素子を形成する。別途、振動板15を基体上に設けさらに個別液室13の一部が設けられた基体、共通液室14および連通孔12が設けられた基体、吐出口11を形成した基体を作製する。さらに、これらを積層し、これに前記基板から圧電素子10を転写して液体吐出ヘッドを形成する製造方法を挙げることができる。
転写時の接合方法としては無機接着剤又は有機接着剤を用いる方法でも良いが、無機材料による金属接合がより好ましい。金属接合に用いられる材料は、In、Au、Cu、Ni、Pb、Ti、Cr、Pd等を挙げることができる。これらを用いると300℃以下の低温で接合出来、基板との熱膨張係数の差が小さくなるため、長尺化された場合に圧電素子の反り等による問題が回避されるとともに圧電素子に対する損傷も少ない。
第一の方法における連通孔12や共通液室14、及び第二の方法における個別液室13や連通孔12や共通液室14は、例えば、形成部材(基体)をリソグラフィによりパターニングする工程とエッチングにより部材の一部を除去する工程を行うことで形成できる。例えば、第二の方法の場合、図14で示されるa)からe)の工程により、個別液室13、連通孔12、共通液室14が形成される。a)は個別液室13用のマスクの形成工程を示し、b)は上部からエッチング等により個別液室13が加工される工程(斜線部は、加工部を意味する)を示す。また、c)は個別液室13の形成に用いたマスクの除去および連通孔12、共通液室14用のマスクの形成工程を示し、d)は下部からエッチング等により連通孔12および共通液室14を加工する工程を示す。さらに、e)は連通孔12および共通液室14の形成に用いたマスクを除去し、個別液室13、連通孔12および共通液室14が形成された状態を模式的に示す。吐出口11は、基体17をエッチング加工、機械加工、レーザー加工等することで形成される。f)はe)の後に、吐出口11が形成された基体17を個別液室13、連通孔12および共通液室14が形成された基体に接合した状態を示す。吐出口を設けた基体17の表面は、撥水処理がされている事が好ましい。各基体の接合方法としては転写時の接合方法と同様であるが、その他、陽極酸化接合であってもよい。
第二の方法において、基板5上の圧電素子10を転写する別の基体は、図14のe)の状態かf)の状態としたものを用いることが好ましい。ここで、基板5上の圧電素子上に振動板を形成している場合は、図14のe)又はf)の状態の個別液室13上に直接転写する。また、基板5上の圧電素子上に振動板を形成していない場合は、図14のe)又はf)の状態の個別液室13の孔を樹脂で埋めて振動板を成膜し、その後エッチングによりこの樹脂を除去して振動板を形成した後に転写する。この際、振動板はスパッタリング法、CVD法等の薄膜形成法を用いて形成することが好ましい。また、圧電素子10のパターン形成工程は転写前後どちらであっても良い。
<圧電特性の評価>
本実施形態の圧電素子の圧電特性の評価はユニモルフ型カンチレバー方式を用いたd31測定法によりおこなった。測定方法・構成概略を図15−1、図15−2、図15−3に示す。
基板5上に下部電極膜16、圧電体7、上部電極膜18の順で構成された圧電素子10は、クランプ冶具502により片側が固定されたユニモルフ型カンチレバーの構成となっている。クランプ冶具502の上側部分502−aは、導電性材料で構成されており、圧電体7の下部電極膜16と電気的に接触されており、交流電源503の出力端子の一方(不図示)に電気ケーブル504−aで繋がっている。交流電源503の出力端子のもう一方(不図示)は電気ケーブル504−bを通じ上部電極膜18に繋がっており、圧電体7に交流電圧を印加できる構成となっている。
交流電源503によって印加された電圧によって、圧電素子10は伸縮する。それに伴って、基板5が歪み、ユニモルフ型カンチレバーはクランプ冶具502によって固定された端の部分を支点として上下振動する。このとき圧電素子10のクランプされていない端部の振動をレーザドップラー速度計(LDV)505でモニターし、入力電圧に対するユニモルフ型カンチレバーの変位量を計測する構成となっている。
このときの、入力電圧Vと、該入力電圧Vに対するユニモルフ型カンチレバーの変位量は、近似的に下記式1の関係にある(J.G.Smith、W.Choi、”The constituent equations of piezoelectric heterogeneous bimorph”、IEEE trans. Ultrason. Ferro.Freq.Control”,1991年、第38巻、p.256−270参照。)。
式1中には、下部電極膜、上部電極膜、その他バッファ層などの物性値項が入っていないが、基板厚みhsがそれらの厚みに対して、充分に厚い時それらの層の物性値・膜厚は無視でき、式1は実用上充分な近似式となっている。
ユニモルフ型カンチレバーの入力電圧に対する変位量を測定し、この式1から、圧電素子のd31を決定することができる。
<液体吐出装置>
次に、上述の液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置について説明を行う。
本実施形態の液体吐出装置の一例として、液体吐出装置の外装を外した状態を図18に示す。図18に示すように、液体吐出装置であるインクジェット記録装置は記録媒体としての記録紙を装置本体96内へ自動給送する自動給送部97を有する。更に、自動給送部97から送られる記録紙を所定の記録位置へ導き、記録位置から排出口98へ導く搬送部99と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部91と、記録部91に対する回復処理を行う回復部90とを有する。記録部91には、本実施形態の液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送されるキャリッジ92が備えられる。
このようなインクジェット記録装置において、コンピューターから送出される電気信号によりキャリッジ92がレール上を移送され、圧電体を挟持する電極に駆動電圧が印加されると圧電体が変位する。この圧電体の変位により振動板15を介して各圧電室を加圧し、インクを吐出口11から吐出させて、印字を行なう。
本実施形態の液体吐出装置においては、均一に高速度で液体を吐出させることができ、装置の小型化を図ることができる。
上記例は、プリンターとして例示したが、本実施形態の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置の他、産業用液体吐出装置として使用することができる。
以下、本実施形態の圧電素子およびこれを用いた液体吐出ヘッドとその製造方法について実施例を挙げて説明する。
≪実施例1≫
実施例1の圧電素子の製作手順は以下の通りである。
SrTiO3{100}基板上にスパッタリング法でSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜を有する基板を得た。
次に、この基板上に圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を原料供給を間欠的に行うパルスMOCVD法を用いて成膜した。成膜方法は以下に詳細に説明する。
出発原料として次に記載するものを用いた。
(a)ビス(ヘキサメチルアセチルアセトネート)鉛(Pb(thd)2)
(b)ビス[6−エチル−2,2−ジメチル−3,5−デカンジオネート]マグネシウム(Mg [6−C2H5−2,2−(CH3)2−C10H15O2]2)
(c)プロピルテトラエチルニオブ(NbC3H7(C2H5)4)
(d)テトライソプロポキシチタン(Ti(C3H7O)4)
まず、上記出発原料を加熱し、不活性キャリアガスとして用いた窒素ガスとの混合ガスをおのおの形成した。不活性キャリアガス・出発原料混合ガスの供給路での各原料ガスのモル比は、原料ガスのMg、Nb、Tiの元素比 {Mg/(Mg+Nb)}が0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.42となるように調整した。酸素原料に関しては、成膜後の膜組成に対して過剰な供給量とした。
パルスMOCVD法は、不活性キャリアガス・出発原料混合ガスと酸素ガスとを混合したガスを成膜用基板にノズルから吹き付け成膜する時間t1と、不活性キャリアガス・出発原料混合ガスの供給を止める時間t2を交互に設定することで、合成・成膜を行う。本実施例においては、不活性キャリアガス・出発原料混合ガスと酸素ガスとを混合したガスを成膜用基板にノズルから吹き付け成膜する時間t1とt2について各々2つの水準t11、t12及びt21、t22を設定した。本実施例においては、図16に示す時間シーケンスを採用し、合成・成膜を行った。それぞれの時間はt11=10[s]、t12=25[s]、t21=15[s]、t22=20[s]、とした。
原料供給をおこなっている時間t11、及びt12において、反応室圧力は、1130[Pa]であり、そのときの酸素分圧は800[Pa]とし、基板温度を650℃に保持しながら成膜時間を調整し膜厚2.2μmになるように成膜した。
圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は誘導結合プラズマ発光分析装置により測定した。組成分析(ICP組成分析)の結果、圧電体のMg、Nb、Tiの元素比の和を1としたとき、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.42であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の単結晶膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピング(図17)より、圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は正方晶と菱面体晶の混相であることを確認した。また、単位格子の体積は菱面体晶が64.29(Å3)、正方晶が63.93(Å3)、体積分率から平均した単位格子の体積は64.17(Å3)であった。これは、温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.42のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、実施例1の圧電素子を作製した。
≪実施例2≫
実施例2の圧電素子の製作手順は以下の通りである。
SrTiO3{100}基板上にスパッタリング法でSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜を有する基板を得た。
次に、この基板上にマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を、実施例1と同様のパルスMOCVD法を用いて膜厚2.2μmになるように成膜した。不活性キャリアガス・出発原料混合ガスの供給路での各原料ガスのモル比は、原料ガスのMg、Nb、Tiの元素比 {Mg/(Mg+Nb)}が0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.27となるように調整した。酸素原料に関しては、成膜後の膜組成に対して過剰な供給量とした。
圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は実施例1と同様にして測定した。組成分析(ICP組成分析)の結果、圧電体のMg、Nb、Tiの元素比の和を1としたとき、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.26であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の単結晶膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は菱面体晶であることを確認した。また単位格子の体積は64.74(Å3)であり、温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.26のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、実施例2の圧電素子を作製した。
≪実施例3≫
実施例3の圧電素子の製作手順は以下の通りである。
熱酸化膜のSiO2層が100nm厚で形成されているSi{100}基板上にTiO2膜を4nm成膜後、Pt膜を基板温度200℃で100nm厚にスパッタリング法で成膜した。Pt膜は<111>配向膜であった。更にこの上に下部電極膜としてスパッタリング法によりLaNiO3(LNO)膜を100nm厚で基板温度300℃で成膜した。さらにこのLNO膜上にSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜等を有する基板を得た。電極膜もSRO膜も<100>配向の1軸結晶膜であった。
次に、この基板上にマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を、実施例1と同様のパルスMOCVD法を用いて膜厚4.7μmになるように成膜した。不活性キャリアガス・出発原料混合ガスの供給路での各原料ガスのモル比は、原料ガスのMg、Nb、Tiの元素比 {Mg/(Mg+Nb)}が0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.75となるように調整した。酸素原料に関しては、成膜後の膜組成に対して過剰な供給量とした。
圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は、実施例1と同様にして測定した。組成分析(ICP組成分析)の結果、圧電体のMg、Nb、Tiの元素比の和を1としたとき、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.75であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、リング状のピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の1軸配向膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は正方晶であることを確認した。また、単位格子の体積は63.56(Å3)であり、温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.75のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、実施例3の圧電素子を作製した。
≪実施例4≫
実施例4の圧電素子の製作手順は以下の通りである。
Si{100}基板表面をフッ酸処理した後、YがドープされたZrO2膜をスパッタリング法で基板温度800℃で100nm成膜し、続いてCeO2膜を基板温度600℃で60nm成膜した。どちらも<100>配向の単結晶膜であった。更にこの上に下部電極膜としてスパッタリング法によりLaNiO3(LNO)膜を100nm厚で基板温度300℃で成膜した。さらにこのLNO膜上にSrRuO3(SRO)膜を基板温度600℃で200nm成膜し下部電極膜等を有する基板を得た。電極膜もSRO膜も<100>配向の単結晶膜であった。
次に、上記の下部電極膜等を有する基板を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の圧電素子を作製した。
圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は実施例1と同様にして測定した。組成分析(ICP組成分析)の結果、圧電体のMg、Nb、Tiの元素比の和を1としたとき、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.42であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の単結晶膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は正方晶と菱面体晶の混相であることを確認した。また、単位格子の体積は菱面体晶が64.29(Å3)、正方晶が63.93(Å3)、体積分率から平均した単位格子の体積は64.17(Å3)であった。これは温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.42のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積より小さいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、実施例1の圧電素子を作製した。
≪実施例5≫
実施例5の圧電素子の製作手順は以下の通りである。
下部電極を兼ねるLaドープSrTiO3{100}基板上に圧電体としてマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を図4のような方式のRFスパッタリング法で基板温度600℃を保持しながら膜厚3μm成膜した。ターゲットのMg、Nb、Tiの元素比 {Mg/(Mg+Nb)}Targetは0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}Targetは0.46とした。スパッタはスパッタガスAr/O2=20/1、スパッタ電力8.6W/cm2、スパッタガス圧0.5Pa、基板温度を600℃に保持しながらスパッタ時間を調整し膜厚3.6μmになるように成膜した。
圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は実施例1と同様にして測定した。組成分析(ICP組成分析)の結果、圧電体のMg、Nb、Tiの元素比の和を1としたとき、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.46であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出された。非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電体は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の単結晶膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、圧電体のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は正方晶と菱面体晶の混相であることを確認した。また、単位格子の体積は菱面体晶が63.92(Å3)、正方晶が63.97(Å3)、体積分率から平均した単位格子の体積は63.93(Å3)であった。これは、温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.46のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶の単位格子の体積より小さいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、実施例5の圧電素子を作製した。
<比較例1>
比較例1の圧電体薄膜素子の製作手順は以下の通りである。
下部電極を兼ねるLaドープSrTiO3{100}基板上に圧電膜としてマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛を通常のRFスパッタリング法で基板温度600℃を保持しながら膜厚3.0μm成膜した。ターゲットのMg、Nb、Tiの元素比 {Mg/(Mg+Nb)}Targetは0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}Targetは0.36とした。スパッタはスパッタガスAr/O2=20/1、スパッタ電力8.5W/cm2、スパッタガス圧1.0Paである。
圧電膜のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛の元素比は誘導結合プラズマ発光分析装置による組成分析(ICP組成分析)の結果、{Mg/(Mg+Nb)}は0.33、{Ti/(Mg+Nb+Ti)}は0.35であった。また、X線回折の2θ/θ測定の結果、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のペロブスカイト構造の{00L}面(L=1、2、3、・・・、n:nは整数)に起因する反射ピークのみが検出され、非対称面{202}の正極点測定を行ったところ、4回対称で反射ピークが現れた。この結果、圧電膜は<100>配向のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛ペロブスカイト型構造の単結晶膜であることを確認した。同様に温度300KにおけるX線回折による{004}、{204}の逆格子マッピングより、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛は正方晶であることを確認した。また、単位格子の体積は65.32(Å3)であった。これは温度300Kにおける{Ti/(Mg+Nb+Ti)}が0.35のマグネシウム酸ニオブ酸チタン酸鉛のバルク状単結晶体の単位格子の体積より大きいことを確認した。さらに圧電体上に電極膜としてTi、Ptの順でスパッタリング法によりそれぞれ4nm、150nm成膜し、比較例1の圧電素子を作製した。
表1に、実施例1、2、3、4、5、及び比較例1の圧電素子の圧電定数の測定結果を示す。圧電定数の測定はユニモルフ型カンチレバー方式を用いたd31測定法によりおこなった。d31測定用サンプルは、圧電素子の上部電極18を12mm×3mmの矩形パターンに加工した後、ダイサーにより図15−3に示す形状に切断して作製した。このとき上部電極18は、実施例1および2のSrTiO3{100}基板上の圧電素子では、その矩形の各辺がSrTiO3{100}基板の<100>方向と平行となるような配置とした。また、実施例3および4のSi{100}基板上の圧電素子では、その矩形の各辺がSi{100}基板の<100>方向と平行となるような配置とした。また、実施例5のLaドープSrTiO3{100}基板上の圧電素子では、その矩形の各辺がSrTiO3{100}基板の<100>方向と平行となるような配置とした。
本実施例のd31の決定においては、サンプルへの入力信号電圧として、圧電素子10に0〜150[kV/cm] の電界(圧電体膜厚 3μmに対して0〜45Vの電圧を印加)が加わるよう500Hzの正弦波を与えた。入力信号電圧に対してカンチレバー先端の変位量δを測定することで、d31を決定した。電圧の極性については、同一電界において変位が最大となる極性を選んだ。入力信号電圧として正弦波を採用した理由は、カンチレバーの質量が大きいので、カンチレバー先端の変位δが、振動運動の慣性項を排除することを目的としている。
式1中に使用した物性値は、実施例1、2および5では
S11 S=3.8×10-12[m2/N]
S11 P=59.5×10-12[m2/N]
実施例3および4では
S11 S=7.7×10-12[m2/N]
S11 P=59.5×10-12[m2/N]
を用いた。
表1に示されているように、実施例1〜5の薄膜の圧電素子は、比較例に比べて高い圧電性が実現できた。
≪実施例6≫ 液体吐出ヘッド
次に実施例6の液体吐出ヘッドを以下の手順で作製した。
基板として、エピタキシャルSi膜が500nm厚、SiO2層が500nm厚で成膜されたSOI基板を用いた。この基板を用いたこと以外は実施例4と同様にして圧電素子を作製し、アクチュエーター部をパターニングした後、ハンドル層のSi基板を誘導結合プラズマ法(ICP法)でドライエッチングして振動板と個別液室を形成した。次に、これに共通液室、連通孔を形成した別のSi基板を張り合わせた。さらに吐出口の形成された基板を共通液室、連通孔が形成されている前記Si基板に張り合わせる事により、振動板がSiO2層、Si膜、YがドープされたZrO2膜、CeO2膜となる液体吐出ヘッドを作製した。この液体吐出ヘッドに駆動信号を印加して駆動した。そして液体吐出ヘッドの個別液室中心部に上部電極側からφ20μmのレーザーを照射し、レーザードップラー変位系により液体吐出ヘッドの変位量を評価したところ、実施例6の液体吐出ヘッドは0.15μmと大きい変位であった。