〔第1の実施形態〕
図1は本発明に係る第1の実施形態のプリンタ3を含む三次元レリーフ作成装置1の平面図、図2には三次元レリーフ作成装置1の正面図、図3は三次元レリーフ作成装置1の側面図、図4は制御装置18の機能を示すブロック図である。
図1〜図3において、三次元レリーフ作成装置1は、基台11、材料載置台12、走行ガイド13、彫刻走行フレーム14、プリンタ走行フレーム15、彫刻ヘッド16、プリンタヘッド17、および制御装置18などからなっている。
基台11は、4本の脚部および補強ビームなどからなり、三次元レリーフ作成装置1を床面上に安定して設置するとともに、他の部材を十分な剛性で支持するためのものである。また、適当な高さを有することにより、操作者によるレリーフ材料RZの着脱が容易に行える。
材料載置台12は、その上面の載置面にレリーフ材料RZを載置し、負圧でレリーフ材料RZを吸着することによりレリーフ材料RZを固定するためのものである。レリーフ材料RZの載置面は、平面視で矩形であり、水平に設けられている。載置面には多数の穴が設けられており、図示しない真空ポンプによってそれらの穴から空気が吸引され、レリーフ材料RZが載置された場合にはその裏面に負圧が作用してレリーフ材料RZが材料載置台12に吸着して固定されるようになっている。
なお、レリーフ材料RZは、合成樹脂材料、石膏、大理石、木材などからなる板状のものであり、材料載置台12により吸着される面とは反対側の表面が彫刻ヘッド16によって彫刻される。彫刻によって表面に凹凸が形成されるが、凹凸が形成された後の表面に、プリンタヘッド17によって印刷が行われ、これによって彫刻に応じた画像が形成される。
走行ガイド13は、材料載置台12の両辺の外側に設けられ、彫刻走行フレーム14およびプリンタ走行フレーム15がそれぞれX方向に直線状に走行するためのガイドである。
彫刻走行フレーム14は、それ自身が走行ガイド13に沿ってX方向に走行するが、彫刻ヘッド16は彫刻走行フレーム14に沿ってY方向に走行する。これによって、彫刻ヘッド16はX方向およびY方向に走行可能であり、材料載置台12に載置されたレリーフ材料RZの表面をスキャン可能となっている。
プリンタ走行フレーム15は、それ自身が走行ガイド13に沿ってX方向に走行するが、プリンタヘッド17はプリンタ走行フレーム15に沿ってY方向に走行する。これによって、プリンタヘッド17はX方向およびY方向に走行可能であり、材料載置台12に載置されたレリーフ材料RZの表面をスキャン可能となっている。
このように、彫刻ヘッド16およびプリンタヘッド17は、レリーフ材料RZの表面を互いに独立してスキャン可能である。なお、それらの一方がレリーフ材料RZの表面をスキャンしている間は、他方は走行フレームとともに待機スペースTP1,2において待機するよう制御される。
なお、彫刻走行フレーム14、プリンタ走行フレーム15、彫刻ヘッド16、およびプリンタヘッド17の走行のために、図示しないステップモータまたはサーボモータなどを含んだ公知の駆動装置が用いられ、その走行速度、加速度、停止位置などが制御装置18によって制御される。
彫刻ヘッド16は、回転ドリルなどの刃物を備えており、刃物は、Z方向つまりレリーフ材料RZの表面に対して垂直方向に移動することが可能である。刃物のZ方向の位置は彫刻の内容に対応した距離データに基づき、制御装置18によって制御される。
例えば、彫刻ヘッド16によって形成される凹凸の面は、全て、レリーフ材料RZの表面の接線方向、つまり材料載置台12の表面の方向に対してなす角度が、87度以下とされている。つまり、彫刻が行われた凹凸の面は、材料載置台12の表面に対して垂直になることはなく、また垂直以上の角度でハングオ−バーすることのないようになっている。したがって、後の工程でコーティングまたは印刷を行う際に、彫刻が行われた凹凸の面に対して、プリントヘッドから噴射されたインクを適切に付着できるように制御することが可能である。これについては後で詳しく説明する。
プリンタヘッド17は、YMCKの各色のインク、および、透明または白色の下地塗布用の紫外線硬化型インクに対応する複数のノズルを備え、ノズルからそれぞれの種類および色のインクを噴射してレリーフ材料RZの表面(印刷表面)に画像形成する。
つまり、プリンタヘッド17によって、レリーフ材料RZの印刷表面に対し、レリーフ材料RZの素材による表面の質感を低減するために透明または白色の下地塗布を行う下地塗布工程、および、下地塗布が行われたレリーフ材料(三次元レリーフ原形)RZの表面に画像の印刷を行うことによって彫刻に応じた画像を形成する画像形成工程が行われる。
このように、プリンタヘッド17は、カラー印刷を行うために複数の原色のインクをそれぞれ噴射するためのノズル(噴射口)を有しているが、本実施形態においては、各ノズルから噴射するインクの焦点(着弾点)の位置が、各ノズルから1ないし2センチメートルの範囲内となるように調整されている。これについても後で詳しく説明する。
なお、プリンタヘッド17それ自体は、Z方向には移動しない。したがって、プリンタヘッド17と材料載置台12の表面との間の距離は一定であり、レリーフ材料RZが載置された場合でもプリンタヘッド17とレリーフ材料RZとが接触することはないが、レリーフ材料RZに彫刻が施された状態では、プリンタヘッド17と印刷表面との間の距離が彫刻の形状によって変化する。つまり、プリンタヘッド17のノズルから噴射されたインクがレリーフ材料RZの表面に到達するまでの距離は、印刷表面の彫刻形状に応じて変化する。
したがって、プリンタヘッド17は、印刷表面までの距離に応じて種々の制御を行うことが可能となっている。例えば、
(1) プリンタヘッド17から印刷表面までの距離が大きくなるほどスキャンの移動速度が遅くなるように制御する。
つまり、プリンタヘッド17はスキャンのために走行しているので、ノズルから噴射されたインクは、印刷表面に到達したときは走行方向に沿ってズレたり拡散したりすることになるが、印刷表面までの距離が遠くなるほどそのズレが大きくなる。そこで、印刷表面までの距離が遠い場合にはプリンタヘッド17のスキャンの速度を遅くしてインクのズレを少なくする。これによって、画像がぼけるのをできるだけ抑える。
(2) プリンタヘッド17から印刷表面までの距離が大きくなるほど噴射するインクの速度が速くなるように制御する。
これによって、インクのズレを少なくし、画像がぼけるのをできるだけ抑える。
(3) 噴射するインクの速度を速くするために、プリンタヘッド17に印加される電圧が高くなるように制御する。つまり、プリンタヘッド17の圧電素子により高い電圧を印加することによって、インクの噴射速度が速くなる。
(4) プリンタヘッド17から印刷表面までの距離が大きくなるほど噴射するインクの粒子単位の質量が大きくなるように制御する。例えば、ノズルからインクを連続的に噴射することにより、噴射したインクの水滴粒子がつながって大きくなり、粒子の質量が大きくなる。
このように、三次元レリーフ作成装置1は、1つの材料載置台12に載置されるレリーフ材料RZの表面に対して、彫刻走行フレーム14および彫刻ヘッド16からなる彫刻装置TSと、プリンタ走行フレーム15およびプリンタヘッド17からなる印刷装置(プリンタ)PSとが、それぞれ独立してスキャンし、彫刻しまたは印刷することが可能である。したがって、材料載置台12上に板状のレリーフ材料RZをセットすることによって、その表面に彫刻を施し、彫刻された三次元レリーフ原形RGの表面にコーティングや印刷を行って画像を形成することができ、レリーフ材料RZを移動することなく三次元レリーフSRを作成することができる。
したがって、レリーフ材料RZの位置決めを最初に1回すればよいので、位置合わせが容易であり作業が簡単であるとともに、彫刻と印刷との間で位置ずれが生じることがなく、高精度の三次元レリーフSRを作成することができる。また、彫刻装置TSの刃物の制御に用いた距離データ(彫刻データ)を、そのまま印刷装置PSにおけるプリンタヘッド17と印刷表面との距離に応じた制御に用いることができ、制御データの生成が容易でありかつ高精度のものとすることができる。
図4に示すように、制御装置18は、スキャン機構SK、スキャン制御部21、領域画像制御部22、および印刷条件制御部23などを備える。
スキャン機構SKは、プリンタヘッド17を、印刷表面PHに接触しない状態で、印刷表面PHに対して相対的に直線的に移動させて印刷表面PHの全体をスキャンさせる。スキャン機構SKは、上に述べた彫刻走行フレーム14、プリンタ走行フレーム15、および、彫刻ヘッド16とプリンタヘッド17を移動駆動する部分などによって構成される。
スキャン制御部21は、プリンタヘッド17から印刷表面PHまでの距離に応じて複数の高さレベルTLに区分されたそれぞれの高さレベルTLごとにスキャンを実行するように制御する。
領域画像制御部22は、それぞれのスキャンごとに、そのスキャンにおける高さレベルTLに含まれる印刷表面PHの領域に対して、プリンタヘッド17によって画像の印刷を行う。
印刷条件制御部23は、スキャンごとに、プリンタヘッド17による印刷条件をそのスキャンの高さレベルTLに対して最適となるように設定する。
さて、三次元レリーフ作成装置1においては、上に述べたように、印刷装置PSによる印刷を行う際に、プリンタヘッド17を、レリーフ材料RZの印刷表面に接触しない状態で、印刷表面に対して相対的に直線的に移動して印刷表面の全体をスキャンすることが可能である。
そして、本実施形態においては、三次元レリーフ作成装置1は、プリンタヘッド17から印刷表面までの距離を複数の段階レベルに区分し、それぞれの段階レベルごとにスキャンを実行するとともに、それぞれのスキャンごとに、そのスキャンにおける段階レベルに含まれる印刷表面の領域に対して、プリンタヘッド17による画像の印刷を行う。つまり、画像の全体を、その高さレベルTLに応じて分割し、それぞれの画像を1回ごとのスキャンによって印刷する。
次に、三次元レリーフ作成装置1における印刷装置PSによる印刷方法について説明する。
図5は彫刻が施された後のレリーフ材料RZの上面図、図6は図5のレリーフ材料RZの正面図、図7は図6を拡大して示す図、図8はそれぞれのスキャンにおいて印刷を行う領域ERを示す図、図9は領域ERの境界部分における画像の印刷濃度の変化の例を示す図である。
図5〜図8において、レリーフ材料RZには、その表面の中央に彫刻によって円錐台EDが形成されている。円錐台EDが形成されたレリーフ材料RZの全表面に印刷装置PSによって印刷を行う。
図6および図7に示すように、プリンタヘッド17のノズルの先端からレリーフ材料RZの印刷表面PHの最遠面までの間が、その距離に応じて、3段階の高さレベル(段階レベル)TL1〜3に区分されている。
つまり、高さレベルTL1は、プリンタヘッド17のノズルに最も接近した位置KL1から所定距離だけ離れた位置KL2までである。高さレベルTL2は、位置KL2から所定距離だけ離れた位置KL3までであり、高さレベルTL3は、位置KL3から最遠面である位置KL4までである。
3段階の高さレベルTL1〜3に区分したことにより、印刷表面PHは、それぞれの高さレベルTL1〜3に含まれる3種類の領域ER1〜3に区分される。それぞれの領域ER1〜3が、図8(A)〜(C)に斜線で示されている。
つまり、図8(A)に示す領域ER1は高さレベルTL1の範囲にある領域であり、図8(B)に示す領域ER2は高さレベルTL2の範囲にある領域であり、図8(C)に示す領域ER3は高さレベルTL3の範囲にある領域である。
なお、これらTL1〜3のそれぞれの範囲(間隙の幅)は、互いに同じでもよく、また互いに異なるものでもよい。また、プリンタヘッド17のノズルに最も接近した位置KL1、および最遠面である位置KL4は、三次元レリーフ作成装置1の構造および印刷装置PSの仕様に応じて種々設定することが可能である。また、本実施形態では3段階の高さレベルTL1〜3に区分したが、2段階、または4段階以上、例えば、8段階、10段階、16段階…などであってもよい。
さて、ここでは3段階の高さレベルTL1〜3に区分したので、印刷時におけるプリンタヘッド17のスキャンは3回行われることとなる。
スキャンの1回目においては、高さレベルTL1に対応する領域ER1のみに対して画像の印刷を行う。その結果、図8(A)に斜線を付した領域ER1について印刷が行われる。スキャンの2回目においては、高さレベルTL2に対応する領域ER2のみに対して画像の印刷を行う。その結果、図8(B)に斜線を付した領域ER2について印刷が行われる。スキャンの3回目においては、高さレベルTL3に対応する領域ER3のみに対して画像の印刷を行う。その結果、図8(C)に斜線を付した領域ER3について印刷が行われる。3回のスキャンによって、印刷表面PHの全面についての画像の印刷が完了する。
なお、それぞれのスキャンにおいて印刷される画像は、それぞれの領域ER1〜3に対応した画像であり、印刷を3回に分けて行うとしても全体の画像の内容が変更される訳ではない。なお、それぞれのスキャンにおいて画像を印刷する際には、そのスキャンでは印刷しない領域ERの画像をマスクしておけばよい。マスクの方法として、画像データをマスクする方法などがある。
画像としては、例えば、円錐台EDが例えば地形図における山であった場合には、その山の画像、またはその画像をモディファイした画像である。
そして、スキャンごとに、プリンタヘッド17による印刷条件をそのスキャンの高さレベルTLに対して最適となるように設定して印刷を行う。例えば、それぞれのスキャンごとに、高さレベルTL1〜3に応じて、上の(1)〜(4)に記載したように印刷装置PSを制御する。
例えば、高さレベルTL1では通常の設定で印刷を行い、高さレベルTL2では上の(1)の制御、または(1)と(2)と(3)とを組み合わせた制御を行い、高さレベルTL3では上の(1)の制御、または(1)と(2)と(3)とを組み合わせた制御、または(1)〜(4)を組み合わせた制御を行う。
なお、スキャンを行う順番は、距離の近い領域ER1から順に、または距離の遠い領域ER3から順に、またはランダムに行うことでもよい。
また、各スキャンにおいてそれぞれの領域ERに対する印刷を行う場合に、それぞれの領域ERの境界の近辺において、当該境界の両側の所定範囲において、それぞれのスキャンにおいて画像の印刷を行って画像を合成するようにしてもよい。その合成に際して、各スキャンにおいて、画像の濃度が領域の外側へいくにしたがって低下するように変化させればよい。
例えば図9に示すように、領域ER1および領域ER2のそれぞれの境界の近辺において、YMCKの各色についてそれぞれの画像の濃度を100%から徐々に低下させていき、他の領域ER2,1に入った後の近辺において画像の濃度が0%となるように制御する。こうすると、境界の近辺における画像が滑らかに合成され、印刷の繋ぎ目が目立たない。
なお、上の説明では、領域ERの境界の近辺において濃度を徐々に低下させてグラデーション(ぼかし)を入れていったが、これに代えて、色彩を徐々に淡いものに低下させてもよい。
また、画像または彫刻の内容によっては、印刷表面PHに高さレベルTLに対応した領域ERがない場合がある。そのような場合には、その高さレベルTLに対応するスキャンを行わないように制御することによって、印刷に要する時間を短縮することができる。
さて、上に述べたように、本実施形態において、彫刻が行われたレリーフ材料RZの凹凸の面は、材料載置台12の表面に対してハングオ−バーすることなく87度以下の角度となっている。また、レリーフ材料RZの印刷表面に印刷を行う前に、透明または白色の下地塗布が行われる。また、プリンタヘッド17の各ノズルは、噴射するインクの焦点の位置が各ノズルの先端から1ないし2センチメートルの範囲内となるように調整されている。これらについて、以下に順次説明する。
図10〜図12は彫刻が行われたレリーフ材料RZの凹凸の面の一部を断面して示す図である。
図10に示すように、レリーフ材料RZの表面において、面SF1,SF2,SF3によって凹凸が構成されている。面SF3は、例えば底面であり、材料載置台12の表面と平行である。なお、本実施形態において、レリーフ材料RZは板状のものであるので、面SF3は彫刻を行う前のレリーフ材料RZの表面と平行である。これら面SF3と面SF1との間に、傾斜した面SF2が形成されている。傾斜した面SF2は、面SF3とのなす角度αが87度以下とされている。つまり、傾斜した面SF2はオーバーハングすることがなく、角度αが90度になることもない。
このように、インクジェットによるインクの付着精度を上げるために、全ての面SFについて、角度αが87度以下となっている。このように角度αを87度以下にして傾斜を緩やかにするために、元の面SF3と面SF1との両方に対して切り込むようにする。例えば、図10に破線で示すように、元の彫刻のデータにおいて面SFj2が垂直であった場合に、面SF3の一部と面SF1の一部とにそれぞれ入り込むように面SFj2を傾斜させて面SF2とする。この場合には、面SF1のエッジの一部が削り取られ、面SF3の一部には垂直に彫り込まずに斜面を作って加えることとなる。
また、図11に示すように、面SF1の一部に入り込むように面SFj2を傾斜させて面SF2とする。この場合には、面SF1のエッジの一部が削り取られることとなる。つまり、背景画像に対応する奥側の面SF3と背景画像以外の画像に対応する手前側の面SFj2とによって凹凸が構成される場合に、手前側の面を、奥側の面SF3との境界部分から傾斜するように立ち上げた傾斜面SF2に形成する。
このようにすると、彫刻の形状と画像の内容とが一致し易い。例えば、面SF3に背景画像が印刷され、面SF2に人物の画像が印刷される場合に、背景画像と人物の画像とが面SF3と面SF2との境界線で別れ、それぞれの画像が相手方に入り込んでしまうことがなくなる。
また、図12に示すように、面SF3に傾斜の緩やかな部分を設け、これを面SF2Bとしておく。面SF2Bは、断面が下方に凸となる円弧状の曲面である。この場合には、面SF2Bは、面SF1のエッジの一部を削り取って形成された面SF2Aとその下部において連続する。つまり、奥側の面SF3において、傾斜面SF2Aよりも傾斜の緩い第2の傾斜面SF2Bを形成することとなる。面SF2Bの角度は全体として10〜40度程度である。このような傾斜が緩やかな面SF2Bを設けると、面SF2B内で2つの異なる画像が別れ、それら2つの画像の色ずれなどが分かり難くなる。
なお、面SF2や面SF2Aの角度αを87度とするか、またはそれ以下、例えば87〜30度程度の範囲のどの角度とするかは、原画のグレースケールの濃淡の変化の状態などに応じて決定することが可能である。
また、レリーフ材料RZの厚さには限度があるので、限られた厚さの中で立体効果を上げる必要がある。そのため、元の彫刻のデータと実際に彫刻を行うときのデータとでは、掘る高さ(深さ)を異ならせることがある。つまり、例えば、低い面から高い面に変化する箇所は、低い面を元の彫刻データよりなだらかに切削し、彫刻された表面の凹凸とインクジェットによる描画とのズレをできるだけ解消するようにする。
図13は完成した三次元レリーフSRの一部を断面して示す図である。
図13に示すように、三次元レリーフSRは、レリーフ材料RZを彫刻してできた三次元レリーフ原形RGと、三次元レリーフ原形RGの表面に透明または白色の下地塗布(コーティング、アンカーコーティング)が行われて形成されたコーティング層(受像層)RCと、コーティング層RCの表面に印刷によって形成された画像層LGとからなる。
コーティング層RCは、本実施形態においては、透明または白色の紫外線硬化型インクを印刷により塗布することによって形成される。したがって、プリンタヘッド17は、本発明における第2の手段および第3の手段の両方に相当する。コーティング層RCは、透明であってもよく、また白く色が付いていてもよい。白色として、青系または黄系などがある。
三次元レリーフ原形RGの表面にコーティング層RCが形成されることによって、レリーフ材料RZの素材の持つ柄や質感による影響が低減し、印刷による表現の精度の低下するのが防止される。例えば、レリーフ材料RZが木材であった場合に、その木目のはっきりした表面に人の顔を彫刻し印刷した場合に、その木目が顔にそのまま出てしまい、顔の皺か木目か分からなくなってしまう。これに対して、白色のコーティング層RCを設けた場合には、コーティング層RCによって木目が消され、木目が顔に出てしまうことが防止される。
また、コーティング層RCの存在によって、画像用のインクの色素の接着度が向上し、画像用のインクが大きく流れて画像の質が低下することが防止される。
図14はプリンタヘッド17のノズルからインクが噴射される様子を示す図である。
従来においては、図14(B)に示すように、プリンタヘッド17のノズルから噴射されるインクは、プリンタヘッド17の先端から約1mm程度の位置が焦点となるように調整されている。これに対して、本実施形態においては、図14(A)に示すように、プリンタヘッド17のノズルから噴射されるインクがプリンタヘッド17の先端から約10〜20mm程度の位置の範囲で焦点となるように調整されている。本実施形態では、これによって、印刷表面がプリンタヘッド17から大きく離れている場合であっても、プリンタヘッド17によって正確な位置に印刷を行うことができる。
すなわち、インクジェット方式のプリンタヘッドでは、近年においてインクの粒子が益々微細になっている。微細になったインクの粒子は、霧のように細かくなり、より繊細な環境が必要となってきている。例えば、プリンタヘッド17のスキャン速度によって、インクの軌道が影響を受け、そのため軌道の制御が難しくなっている。また、静電気によってインクの粒子の飛行方向が阻害されたり、僅かの温度差があっても微妙な空気の対流が発生してその空気流がインクの焦点(着弾点)に影響を与える。また、色数が増加することによって、プリンタヘッド17の個数が増え、各色のへッドの焦点の誤差も生じる。従来においては、これらの影響を軽減するために、印刷表面とプリンタヘッド17との間隔を限りなく小さくしている。例えば、従来において、各色のへッドの焦点位置はプリンタヘッド17の先端から1mm程度であり、印刷表面とプリンタヘッド17との間隔を0.5〜1mm程度としている。
しかし、三次元レリーフ原形RGの表面には凹凸が多数あり、その印刷表面とプリンタヘッド17との間隔は従来と比べて極めて大きい。そこで、本実施形態では、プリンタヘッド17のノズルから噴射されるインクが先端から約5〜10mm程度の範囲で焦点となるように調整する。このように、焦点距離を長くしておくことによって、プリンタヘッド17から離れた位置にも正確にインクを飛ばして印刷の許容範囲を拡げることができ、凹凸の表面に精密な画像を印刷することが可能となる。例えば、印刷表面とプリンタヘッド17との間隔が20mm程度であっても正確な画像を印刷することが可能である。なお、1つのプリンタヘッド17には多数のノズルがあるので、これらのノズルから噴射されるインクの焦点が遠くになるように、ノズルの加工精度を上げておく。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bについて説明する。
第2の実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bは、基本的には上に述べた第1の実施形態の三次元レリーフ作成装置1と同じ構成と機能を有する。第2の実施形態では、三次元レリーフ作成装置1Bによって原画像GFに基づいて彫刻を行って三次元レリーフを作成する方法の例について説明する。
図15は本発明に係る第2の実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bの全体の構成を示す図、図16は原画像GFの構成を示す図、図17は高さ画像TFの構成を示す図、図18は高さ変化データHFの構成を示す図、図19は原画像GFを区画した領域ARに高さレベルTLを設定した例を示す図、図20はパターンPTの例を示す図、図21はパターンPTについての濃淡画像NFの例を示す図、図22は三次元レリーフ原形RGとプリンタヘッド17との関係の例を示す図、図23は三次元レリーフ原形RGとプリンタヘッド17との関係の例を示す図、図24は高さ変化データHFを説明する図である。
図15において、三次元レリーフ作成装置1Bは、画像処理のためのコンピュータ110、制御データ生成部121、数値制御方式の彫刻装置TS、およびインクジェット方式の印刷装置PSなどからなる。
コンピュータ110は、CPUやDSPなどによる処理装置、半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶装置、キーボードやマウスなどの入力装置、表示装置、および種々のインタフェース回路などを含んで構成されている。それらによって、ソフトウエア的にまたはハードウエア的に、コンピュータ110内に、原画像格納部111、高さ画像生成部112、高さ画像格納部113、高さ変化データ生成部114、高さ変化データ格納部115、およびデータ出力部116が、機能的に形成されている。
原画像格納部111は、原画像GFを格納する。なお、原画像GFは画像データであるが、画像データの元になった画像を指すこともある。また、特に視覚可能な画像と画像データとを区別する際には、「原画像データGF」「原画像GFのデータ」「画像データ」などと記載することがある。他の画像についても同様である。
さて、原画像GFとして、人物、動物、建築物、風景など、また、山や谷などの自然の地形の鳥瞰図や航空写真など、種々の画像が用いられる。
原画像GFは、図16に示すように、X方向およびX方向に直交するY方向にマトリックス状に配列された多数の画素GSからなる2次元画像である。各画素GSは、色情報CDを持つ。色情報CDは濃度情報を含む。例えば、各画素GSが、RGBまたはCMYKなどで表現されている場合は、各原色の濃度情報によって各画素GSの色、つまり、色相、彩度、および明度が決定される。画素GSは他の表色系のデータによって表現されていてもよい。
このような原画像GFを得るために、それらの実物をデジタルカメラやビデオカメラなどによって撮影してもよい。また、既に撮影された写真や印刷物などをスキャナなどで読み取ってデジタル化してもよい。また、既にデジタル化されて画像データとなった原画像GFを、CD−ROMやメモリチップなどの記憶媒体を介して、またはネットワークからダウンロードして取得することも可能である。また、コンピュータ110の内部において、種々のアプリケーションを用いて原画像GFを生成してもよい。
なお、原画像GFは、図16に示すようなビットマップ状のデータとして格納しておいてもよいが、適当な圧縮方法によって圧縮された圧縮データとして格納しておいてもよい。原画像GFは、通常、フルカラー画像であるが、モノクロ画像でもよい。
高さ画像生成部112は、原画像GFに基づいて、原画像GF内の各部の高さを示す高さ画像TFを生成する。生成された高さ画像TFは、高さ画像格納部113に格納される。
高さ画像TFは、図17に示すように、X方向およびY方向にマトリックス状に配列された多数の各画素GSについて、X方向およびY方向に直交するZ方向のデータである高さデータTDを記録したものである。高さ画像TFの画素GSのピッチまたは個数は、原画像GFの画素GSのピッチまたは個数と同じであってもよく、また原画像GFの画素GSを間引いたものであってもよい。
高さデータTDとして、例えば、256階調(8ビット)、64階調(6ビット)などのデータが用いられる。高さデータTDは、例えば、最も低い位置(例えば背景位置)から最も高い位置までの間における位置を示す。また、高さデータTDが、最も低い位置からの距離を直接的に示すようにしてもよい。図23において、高さデータTDは、TD2、TD3、TD4などで示されている。なお、図23において、高さデータTDを、プリンタヘッド17からの距離PD2、PD3、PD4で示してもよい。高さデータTDは、原画像GFにおいては高さを示すものであるが、プリンタヘッド17や切削工具からから見れば奥行きまたは深さを示すものとも言えるので、奥行きデータまたは深さデータと言うこともできる。
このような高さ画像TFを得るために、例えば、図19に示すように、原画像GFを複数の領域ARに区画し、区画された各領域ARに対して高さレベルTLを付与する。高さレベルTLの付与は、ユーザが手動で行ってもよく、または画像内における領域ARの状態をコンピュータ110で認識させることにより自動で行ってもよい。
図19に示す例では、高さレベルTLは、例えば1〜10の10段階に設定されており、領域AR1〜5には、高さレベルTLとして、それぞれ「3」「1」「2」「4」「6」が設定されている。この場合に、高さレベルTLは、その領域ARにおける最大の高さを規定するものであり、「1」が最も高く、「10」が最も低い。したがって、例えば、背景領域(背景部、背景位置)は、高さレベルTLが「10」である。
なお、高さレベルTLの段階の個数、高さレベルTLとして付与する符号または記号、それら符号または記号に与える意味付けなどは、種々のものを採用することができる。
また、領域ARの区画に仕方については、輪郭線を領域ARの境界線として設定し、また濃度や色が大きく変化している部分を領域ARの境界線として設定する。また、ユーザによって手動で区画してもよい。
各領域ARにおいて付与された高さレベルTLに応じて、各領域AR内における各部(各画素GS)の高さを決定する。
その場合に、例えば、図20に示すように、高さレベルTLが付与された領域ARにおける高さデータTDの生成のパターンに関して複数のパターンPT1〜6を予め登録しておく。そして、それぞれの領域ARについて、登録された複数のパターンPT1〜6の中から、ユーザにより手動でまたは自動的に、1つのパターンPTを選択する。選択されたパターンPTに基づいて、各部(各画素GS)の高さを決定する。
例えば、図20のパターンPT1が選択された場合は、その領域ARにおける中央位置を高さレベルTLで指定される最大の高さとし、その周辺に向かうにしたがって、パターンPT1で示されるように円弧状に高さが低下していく。また、図20のパターンPT2が選択された場合は、その領域ARの中央位置から周辺に向かうにしたがってパターンPT2で示されるように直線状に高さが低下していく。また、図20のパターンPT6が選択された場合は、その領域ARの中央位置は平であり、周辺において直線状に高さが低下していく。
ところで、本実施形態において、高さ画像TFは、各部の高さをグレースケールを用いて示す濃淡画像である。例えば、上に述べた図20のパターンPT6について、その濃淡画像の例が図21に示されている。
すなわち、図21において、パターンPT6(図21C)に対応する濃淡画像NF(図21B)およびグレースケールGS(図21A)が示されている。最も高い位置は白、最も低い位置は黒、その中間の高さは高さに応じたグレーとなっている。つまり、濃淡画像NFは、背景部からの高さが高い部分ほど濃度が低くなっている。図21のパターンPT6では、10段階であるが、実際には、例えば64段階、256段階などとすればよい。
図21において、最も高い位置は高さレベルTLが「1」に対応し、最も低い位置は高さレベルTLが「10」に対応する。しかし、パターンPTの高さは、相対的なものであり、パターンPTの最も高い位置と最も低い位置とが指定された任意の高さ位置となるように合わせられる。つまり、高さレベルTLが例えば「3」の領域ARについてパターンPT6を適用する場合に、パターンPT6の最も高い位置の白の部分が高さレベル「3」となり、かつ、パターンPT6の最も低い位置の黒の部分がその領域ARの周縁部の高さレベルとなる。
なお、図21においては、高さをグレースケールGSで示しているが、各部の高さを互いに異なる色相によって示してもよい。例えば、最も高い位置を茶、最も低い位置を青、その中間の高さを緑とし、高さに応じてそれぞれの色の濃淡が変化するようにする。
なお、図21に示す濃淡画像NFから分かるように、濃淡画像NFのZ軸に沿った断面はどの位置でも同じではない。つまり、図20に示す種々のパターンPTについて、X軸方向およびY軸方向のサイズの比は種々のものが存在する。
ここで、各領域ARにおいて、高さレベルTLとパターンPTが設定された後で、各画素GSにどのような高さデータTDが割り当てられるかについて、その例を説明する。
すなわち、例えば、高さレベルTLが「3」と設定され、パターンPT6が選択された場合には、パターンPT6の最も高い位置が高さレベル「3」となり、最も低い位置がその領域ARの周縁部の高さレベルとなる。パターンPT6の周辺が領域ARの周縁部と一致するように相似変形される。その結果、高さレベルTLが例えば10段階である場合に、パターンPT6の最も高い位置が最大高さの10分の3の高さとなり、そこから最も低い位置まで、パターンPT6の変化と比例するように、各画素GSに高さデータTDが割り当てられる。そして、その領域ARについて、割り当てられた高さデータTDが、濃淡画像として、例えば表示装置の画面や印刷された用紙に表示される。ユーザは、その濃淡画像を見て、必要に応じて濃淡画像を修正する。例えば、ある部分と他の部分との遠近の関係、ある部分の凹凸状態、ある部分の立体形状などについて、原画像GFの内容に合うように修正する。
さて次に、高さ変化データ生成部14は、高さ画像TFに基づいて、各部についての原画像GFの単位長さLX当たりの高さの変化分LZを示す高さ変化データHFを生成する(図24を参照)。生成された高さ変化データHFは、高さ変化データ格納部115に格納される。
高さ変化データHFは、図18に示すように、X方向およびY方向にマトリックス状に配列された多数の各画素GSについて、X方向およびY方向に直交するZ方向のデータの変化量である傾斜データKDを記録したものである。高さ変化データHFの画素GSのピッチまたは個数は、高さ画像TFの画素GSのピッチまたは個数と同じであってもよく、また高さ画像TFの画素GSを間引いたものであってもよい。
傾斜データKDとして、例えば、256階調(8ビット)、64階調(6ビット)などのデータが用いられる。傾斜データKDは、例えば、水平な面の傾斜角を0度とし、高さ画像TFに基づいて各画素GSの位置において得られる面の水平な面からの傾斜角θの絶対値を示すようにしてもよい。この場合には、傾斜データKDは、0〜90度を示すことになる。図23において、傾斜データKDは、θ1、θ2、θ3、θ4などで示されている。また、傾斜データKDとして、どの方向に傾斜しているかを示すデータを付加してもよい。
このような高さ変化データHFを得るためには、例えば次のようにすればよい。
すなわち、ある画素GSを注目画素GSTとし、注目画素GSTについて、その高さデータTDとその周囲の8個の画素GSの高さデータTDとの差をそれぞれ求め、差の最大値をその注目画素GSTの傾斜データKDとする。またはそれを必要に応じて規格化する。
また、注目画素GSTについて、その周囲の8個の画素GSの高さデータTDの間における差の最大値を求め、それを注目画素GSTの傾斜データKDとする。必要に応じて規格化する。このようにして全ての画素GSについての傾斜データKDを得る。
また、例えば、隣接する3×3個つまり9個の画素GSからなる面の傾斜を求め、それを9個の画素GSについての傾斜データKDとする。これを、2×2個、4×4個などとしてもよい。
データ出力部16は、三次元レリーフ原形において高さ画像TFで示される高さに応じた凹凸を形成するために、高さ画像TFを数値制御加工装置22の制御のために出力する。データ出力部16は、データの入出力のための適当なインタフェースであってもよい。また、適当な記録媒体に対してデータの書き込みを行うための媒体ドライブ装置であってもよい。
制御データ生成部121は、データ出力部116から出力された高さ画像TFに基づいて、彫刻装置TSを制御するための制御データを生成する。なお、そのような制御データを生成するに際して、原画像GFのデータをも用いてもよい。また、制御データの生成をコンピュータ110の内部で行い、制御データを適当なインタフェースを介して彫刻装置TSに出力するようにしてもよい。
彫刻装置(ルーター)TSは、制御データに基づいて、レリーフ材料RZに対して加工を施し、原画像GFについての三次元レリーフ原形RGを作成する。彫刻装置TSとして、種々のNC旋盤、マシニングセンター、レーザ加工機、サンドブラスト、ルーターなどと同様の機構を用いることが可能である。なお、レリーフ材料RZには、材木、石膏、合成樹脂、または金属など、種々の材料が用いられ、また、その形状として、直方体状、板状、円柱状、各柱状、球状など、種々の形状のものが用いられる。三次元レリーフ原形RGは、レリーフ材料RZに加工を施したものであるから、加工された表面は、通常、レリーフ材料RZと同じ色である。
印刷装置PSは、三次元レリーフ原形RGの表面に、コーティングを行った後に、原画像GFに基づく画像印刷を行うことによって着色を行う。印刷装置PSは、例えば、Y,M,C,Kの各色のインクを保持し、原画像GFの色データに応じて、高速でパルス状に微量のそれぞれのインクを噴射し、三次元レリーフ原形RGの凹凸の表面にフルカラーの画像を生成する。印刷装置PSの基本的な機能としては、上に述べた特許文献2の装置を始めとして、従来から存在する種々の公知のインクジェットプリンタの機能を備えることができる。
さて、第2の実施形態の印刷装置PSには、制御装置18Bが設けられている。
制御装置18Bは、印刷装置PSに対して、高さ変化データHFに基づいて、原画像GFの濃度が均一であると仮定した場合に三次元レリーフ原形RGの表面における濃度が均一となるようにインクの吐出量の制御を行う。
すなわち、三次元レリーフ原形RGの表面に凹凸があることによって、プリンタヘッド17の主走査方向(X方向)の直線移動距離に対して、それに沿った三次元レリーフ原形RGの表面距離の方が長くなる。背景技術の項でも説明したように、インクによる着色ムラまたは印刷ムラを低減して鮮明な画像を得るために、この距離の相違を修正する必要がある。制御装置18Bにおいては、着色ムラがなくなるように濃度制御を行う。しかも、その濃度制御のために、彫刻装置TSの制御に用いた高さ画像TFをここでも用いる。
プリンタヘッド17の主走査方向の直線移動距離は、印刷装置PSの設計値によって決まる。例えば、図22に示す距離L1が直線移動距離である。これに対して、三次元レリーフ原形RGの表面距離は、図22に示す三次元レリーフ原形RGの表面凹凸HT(印刷表面PH)に沿った長さL2である。三次元レリーフ原形RGの表面距離は、例えば彫刻装置TSの工具先端の移動距離であり、高さ画像TFから、または高さ画像TFに基づいて生成した制御データから読み取ることができる。また、濃度制御のために、高さ変化データHFを用いてもよい。例えば、高さ変化データHFの大きさに応じてプリンタヘッド17による濃度が高くなるように制御すればよい。
さて、濃度制御において、高さ変化データHFの大きい部分または画素GSにおいて、より多くのインクが吐出されるように制御する。
そのための方法として、例えば次の方法がある。
(1)プリンタヘッド17の走行速度は一定とし、高さ変化データHFの大きさに応じてインクの噴射一回当たりの吐出量を制御する。その場合に、例えば、プリンタヘッド17に印加する電圧を制御する。つまり高さ変化データHFが大きい場合に、プリンタヘッド17に印加する電圧を高くして吐出量を多くする。一回当たりの吐出量を多くすると、インクの吐出速度が速くなるので、三次元レリーフ原形RGの表面にインクが速く到達し、そのため印刷位置の誤差が低減して画像の鮮明度の低下が抑えられる。
(2)プリンタヘッド17の走行速度は一定とし、高さ変化データHFの大きさに応じて単位時間当たりのインクの吐出回数を制御する。単位時間当たりのインクの吐出回数をふ増やすと、例えば、複数回のインクの噴射されたインク滴が連続するとともに、僅かな間隔で次のインクが噴射されるので、先に噴射されたインク滴に後で噴射されたインク滴が追いついて合体することが生じる。これによっても、インクの吐出速度が速くなりまたはインク滴の質量が大きくなり、インク的によるスポットの精度が高くなって印刷位置の誤差が低減し、画像の鮮明度の低下が抑えられる。
(3)プリンタヘッド17によるインクの噴射一回当たりの吐出量および単位時間当たりのインクの吐出回数を一定とし、高さ変化データHFの大きさに応じてプリンタヘッド17の移動速度を制御する。この場合に、プリンタヘッド17の三次元レリーフ原形RGの表面に沿った移動速度が均一となるように制御する。
このように濃度制御を行うことによって、図23に示す傾斜角θの大きな部分においてより多くのインクが付着することとなり、その結果、三次元レリーフ原形RGの表面凹凸HTの全体について、画像濃度が同じであると仮定した場合の単位面積当たりのインクの付着量が均一となる。
なお、図23において、三次元レリーフ原形RGの背景部分については、プリンタヘッドPHからの距離が大きくなり、プリンタヘッドPHからのインクが周辺に拡がり易いが、インクの初速を速くしたりインク滴の質量を大きくすることによってある程度補うことができる。
なお、印刷装置PSにおいては、制御装置18Bによる制御のために必要な機構および回路が設けられている。また、制御装置18Bにおける制御のための処理はコンピュータ110において行い、印刷装置PSにおいてはそれを実行するだけにしてもよい。
次に、三次元レリーフ作成装置1Bの全体的な動作について、フローチャートを参照して説明する。
図25は三次元レリーフ作成装置1Bの全体の動作の流れを示すフローチャート、図26は高さ画像作成処理の手順を示すフローチャート、図27は加工処理の手順を示すフローチャート、図28は印刷処理の手順を示すフローチャートである。
図25において、原画像GFを取得し(#1)、原画像GFに基づいて高さ画像TFを生成する(#2)。高さ画像TFに基づく制御データを用いて彫刻装置TSを制御し、レリーフ材料RZを加工して三次元レリーフ原形RGを作成する(#3)。三次元レリーフ原形RGに対して、その表面にコーティングを行ってコーティング層RCを形成する(#4)。高さ画像TFに基づくデータである高さ変化データHFまたは高さデータTDを用いて印刷装置PSを制御し、三次元レリーフ原形RGにコーティング層RCの上から印刷を行って着色する(#5)。
図26において、高さ画像作成処理においては、原画像GFを領域ARに区画し、区画されたそれぞれの領域ARに対して高さレベルTLを付与する(#11)。このとき、それぞれの領域ARについて適用すべきパターンPTを指定する。それぞれの領域ARについて濃淡画像を生成し、それを表示する(#12)。ユーザは、濃淡画像に対し、必要に応じて修正を行う(#13)。そのようにして得られた濃淡画像は、高さ画像TFを示すことになる。または、得られた濃淡画像を階調データに変換して高さ画像TFとする(#14)。
図27において、高さ画像TFを制御用データとして出力する(#21)。高さ画像TFに基づいて、制御データを生成する(#22)。制御データを用いて彫刻装置TSを運転し、レリーフ材料RZを加工して三次元レリーフ原形RGを作成する(#23)。
図28において、プリンタヘッド17から印刷表面PHまでの距離を複数の高さレベルTLに区分する(#31)。1つの高さレベルTLについてスキャンを実行し、それに対応する領域ERに対して対応する画像を印刷する(#32)。その際に、上に述べたように、プリンタヘッド17による印刷条件をそのスキャンの高さレベルTLに対して最適となるように設定して印刷を行う。印刷表面PHの全ての領域ERに印刷が行われるまでスキャンを行い、印刷表面PHの全ての領域ERに印刷が行われると終了する(#33)。これによって三次元レリーフRRが完成する。
第2の実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bによると、高さ画像TFに基づく数値制御を行ってレリーフ材料RZに対して加工を施して三次元レリーフ原形RGを作成するとともに、三次元レリーフ原形RGに対して、高さ画像TFに基づく濃度制御を行いながら、原画像GFに基づく画像印刷を行うことによって着色を行うので、濃度制御が正確に行われ、着色ムラや画像の鮮明さが従来よりも良好である。濃度制御のための制御データを別途作成する必要がない。これらのことから、印刷速度をあげることができて、原画像GFにより忠実な三次元レリーフを早く作成することができる。
上に述べた実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bにおいて、パターンPT1〜6の個数はもっと多くても少なくてもよい。パターンPTを種々変形するようにしてもよい。パターンPTを用いることなく各画素GSの高さを決定してもよい。
第2の実施形態の三次元レリーフ作成装置1Bにおいては、原画像GFを区画した各領域ARに対して高さレベルTLを付与したが、ここで付与した高さレベルTLを、印刷装置PSにおける各スキャンの際の高さレベルTLとして用いて制御を行ってもよい。
第2の実施形態において、彫刻装置TSと印刷装置PSとを一体化したものを用いてもよい。
第1の実施形態においては、彫刻装置TSと印刷装置PSとが一体化された三次元レリーフ作成装置1を用いたが、それぞれ別体で構成されたものを用いてもよい。
第1の実施形態と第2の実施形態とを任意に組み合わせた構成または制御を行うようにすることが可能である。
上に述べた実施形態では、レリーフ材料RZまたは三次元レリーフ原形RGを固定しておき、プリンタヘッド17を移動させたが、これとは逆に、プリンタヘッド17を移動させることなく固定しておき、レリーフ材料RZまたは三次元レリーフ原形RGを移動させることによって、プリンタヘッド17が三次元レリーフ原形RGの表面を相対的にスキャンするようにして印刷を行ってもよい。
このようにすると、プリンタヘッド17が移動しないので、プリンタヘッド17から噴射されたインクが空気流などの影響を受けることなく、印刷表面の正確な位置に付着することになるので、印刷表面とプリンタヘッド17との間隔が離れていても、画像を正確に綺麗に印刷することができる。
上に述べた実施形態では、スキャン制御部21が、プリンタヘッド17から印刷表面PHまでの距離に応じて複数の高さレベルTLに区分されたそれぞれの高さレベルTLごとにスキャンを実行するように制御したが、高さレベルTLごとに区分することなく、1回のスキャンによって画像の全体を印刷するようにしてもよい。特に、彫刻された凹凸の面を垂直ではない角度として柔らかい角度としたり、プリンタヘッド17のノズルから噴射されるインクの焦点が遠くになるようにしたりすることにより、印刷表面PHの全ての高さに対して1回の印刷で実用上差し支えのない鮮明な印刷を行うことが可能である。
〔その他〕
上に述べた実施形態においては、垂直の面SFj2が形成されないように傾斜角度を持たせるようにした。
例えば図10において、破線で示す垂直の面SFj2を、実線で示す傾斜した面SF2となるように修正した。これによって、高さに段差がある境界部分においても、適当量のインクが付着して画像が連続して形成される。角度αの決定に当たっては、グレースケールの濃淡の変化に応じて、急角度が適切かまたは低角度が適切かを決定すればよい。
因みに、図10に破線で示すような垂直の面SFj2が形成された場合には、その面SFj2にはプリンタヘッド17のノズルから噴射するインクが付着しないか、または定着したとしても極僅かである。特に、奥深く垂直に掘られた部分の垂直な面であってプリンタヘッド17の進行方向と同じ方向を向く面については、インクが全く付着しない。
これに対して、元の彫刻のデータが垂直の面を形成するものであっても、上に述べた実施形態のように、その垂直な面を傾斜させるように修正することにより、その面にインクがより多く付着することとなる。なお、垂直な面に傾斜を持たせる場合に、その面を境界とする両側の部分またはいずれか一方の部分に傾斜面が入り込んでくるので、そのような傾斜面の勾配用に提供することが許容される限りにおいて傾斜させることとなる。
また、このように面に傾斜を持たせることに代えて、またはそれとともに、プリンタヘッド17のノズルから噴射するインクの量を制御してもよい。例えば、面の傾斜の角度αが大きい場合に、プリンタヘッド17の進行方向と同じ方向を向く面に対しては、単位時間当たりでインクを付着させる必要のある面積が大きくなるので、通常よりもより多くのインクを噴射するように制御する。
また、そのような傾斜面に対応する画像上の部分に対して、元の画像よりも濃度を高くするように制御してもよい。これによって、プリンタヘッド17が傾斜面に対応する位置にきたときには元の画像よりも濃度の高い画像を印刷すべく多くのインクを噴射し、その結果、傾斜面が本来の濃度となるように制御される。プリンタヘッド17のノズルの噴射するインクの量の制御には、このような制御も含まれる。
その場合に、凹凸の高さを示すグレースケールのデータから、それぞれの面の傾斜角度を読み取って反映させるようにしてもよい。
また、立体形状を検出するためのセンサをプリンタヘッド17に装着しておき、プリンタヘッド17の走行とともにセンサによって三次元レリーフ原形RGの表面の凹凸を走査してその立体形状を検出し、得られた傾斜角度に基づいて必要量のインクを噴射するようにしてもよい。
また、そのようなセンサによって立体形状のデータを取得し、その数値から三次元レリーフ原形RGの位置決めを行ってもよい。これによって、位置決めが正確に行われる。
いずれにしても、インクの付着精度を上げるためには、角度αが87度以下でできるだけ緩くなるようにすることが好ましい。
また、レリーフ材料RZの限られた厚さの範囲内で立体効果を上げるために、原画像GFに示された実体物の奥行き寸法と三次元レリーフRRにおける奥行き寸法(高さ寸法)とで、高さの基準となる位置、または縮尺度合いなどを可変することが好ましい。
例えば、高さレベルTLや高さデータTDなどとして、原画像GFの全体の中での決定される値ではなく、ある限られた部分部分の各内部での相対的な高さに応じて付与することである。つまり、原画像GFの全体の中の適当に区切られた部分部分において、その中での相対的な高さに応じて高さレベルTLや高さデータTDなどを付与し、これによってその部分における凹凸または立体感を強調する。
その一例として、例えば、低い位置から高い位置に変化する部分について、低い位置の面については実体物よりも低く(深く)彫刻し、高い位置の面については実体物よりも高く(浅く)彫刻する。
これは、隆起した立体物と最も奥側にある平面との境界における違和感を減少させるための手法として用いることも可能である。
なお、角度αについては、87度以下であると説明したが、場合によっては88度以下であってもよい。例えば88〜30度程度の範囲であってもよい。角度αは、原画のグレースケールの濃淡の変化の状態などに応じて決定すればよい。
ところで、上の実施形態の図10において、垂直な面SFj2を傾斜させた面SF2を、面SF3の一部と面SF1の一部とにそれぞれ入り込むようにした。このようにすると、画像を印刷したときに、面SF2の中央部が画像の境界となり、面SF1または面SF3に画像の境界がくるといったことがない。なお、画像の境界が、面SF2の中央部にあっても、面SF2の下方部または上方部にあってもよい。
また、図11においては、面SF1の一部に入り込むように面SFj2を傾斜させて面SF2とした。この場合においても、画像の境界が、面SF2と面SF3との境界部にあっても、面SF2の中央部にあっても、または面SF2の下方部または上方部にあってもよい。
上の実施形態において、彫刻走行フレーム14、プリンタ走行フレーム15、彫刻ヘッド16、およびプリンタヘッド17の走行のための装置または機構として、上に述べた以外の種々の公知のものを採用することが可能である。
その他、印刷装置PS、彫刻装置TS、制御装置18,18B、コンピュータ110、または三次元レリーフ作成装置1,1Bの全体または各部の構成、形状、寸法、個数、材質、画像の内容、制御装置18,18Bおよびコンピュータ110における処理内容、処理順序などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。