本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、介護者の人力による立ち上がり支援により近い動作で、被介護者の自然な立ち上がりを実現する立ち上がり支援装置及び立ち上がり支援方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決し上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様に係るものは、着座姿勢にある被介護者の立ち上がりを支援する立ち上がり支援装置である。この立ち上がり支援装置は、前記被介護者の上体を前方斜め上方向へ持ち上げる上体持ち上げ機構と、パッド支持体と、前記パッド支持体に支持され、前記被介護者の脛(すね)上半部を支えるパッドと、を備えている。そして、前記パッド支持体は、前記被介護者の立ち上がり動作初期における前記脛の前方への傾動に追随するように、前記パッドを前方斜め下方向へ後退可能に支持しており、かつ前記パッドを前記脛側へ付勢する第1弾性部材を有している。
この構成によれば、車椅子上、ベッド上などに着座姿勢にある被介護者に、例えばスリングをあてがい、当該スリングの端部を上体持ち上げ機構に取り付けるなどして、上体持ち上げ機構を機能させることにより、被介護者の上体を前方斜め上方向へ持ち上げることができる。それにより、被介護者は立ち上がることができる。前方斜め上方向への持ち上げに伴い、立ち上がり動作の初期において被介護者の臀部が前方へ移動し、それにより脛(すね)部がくるぶしを軸として前方へ傾動し、膝が沈み込むような動きをする。パッド支持体に支持されたパッドは、脛上半部を受け止め、第1弾性部材により付勢されつつ前方斜め下方向へ後退することにより、脛上半部の動きに追随しつつ当該脛上半部を柔軟に支持することができる。その後、前方斜め上方向への持ち上げが進行するのに伴い、被介護者はパッドに自身の体重の一部を預けながら、膝を支点として上腿部を上向きに傾動させつつ、立ち上がり姿勢に移行することができる。このように、介護者の介添えによる場合に近い自然で違和感のない立ち上がりが実現する。
なお本明細書において、「立ち上がり姿勢」とは、直立した姿勢のみを言うのではなく、ある程度立ち上がった姿勢をも意味するものである。被介護者が、例えばベッドから車椅子へ、あるいは車椅子からトイレの便座へ移動する際に、本発明の装置あるいは方法を用いることができるほどに立ち上がった姿勢であれば足りる。一例として、後述する図5に例示する姿勢も、本明細書に言う「立ち上がり姿勢」である。同様に「立ち上がり」あるいは「立ち上がる」とは、座位姿勢からかかる広い意味での「立ち上がり姿勢」に移行する動作を意味する。また、本明細書において「脛上半部」とは、厳格に脛を2等分した上半分に限定されるものではなく、この上半分を幾分はみ出していても良く、また幾分足りないものであっても良い。
本発明のうち第2の態様に係るものは、第1の態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記パッド支持体が、前記脛の前記傾動に伴う前記脛の傾斜角の変化に追随するように、前記パッドを水平軸周りに揺動可能に支持しており、かつ前記パッドを所定の揺動位置に戻すように付勢する第2弾性部材をさらに有しているものである。
この構成によれば、脛の傾動に伴う脛の傾斜角の変化が、第2弾性部材で付勢され揺動可能に支持されるパッドによって柔軟に吸収される。それにより被介護者は、さらに介護者の介添えに近い、違和感のない自然な支えを脛部に受けることができる。
本発明のうち第3の態様に係るものは、第2の態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記水平軸が、前記パッドの上下方向の中心から上端部側にずれた部位に位置しているものである。
この構成によれば、パッドが脛上半部から受ける力の重心付近の部位にパッドの揺動軸である水平軸が位置するので、被介護者は、パッドから脛上半部に自然な反力を受ける。すなわち、一層違和感のない自然な支えを脛部に受けることができる。
本発明のうち第4の態様に係るものは、第1ないし第3のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記パッド支持体が、前記第1弾性部材が付勢する範囲内にある位置で、前記パッドの前記脛方向への動きを制止するパッド制止機構をさらに有するものである。
この構成によれば、パッドの脛方向への動きが、第1弾性部材が付勢する範囲内にある位置で制止されるので、脛上半部がパッドに当接したときから、被介護者はパッドから脛上半部に、ある程度の強さの反力を受ける。そして、膝が沈み込むのに従ってパッドが後退し、それに伴い反力が増して行き、パッドに預けられる被介護者の一部の重量に、反力が均衡したところで、パッドの後退が止まる。被介護者が脛上半部に受けるこのような反力は、介護者の介添えにより受ける力に相似したものであり、被介護者はより違和感のない自然な支えを脛部に受けることができる。
本発明のうち第5の態様に係るものは、第1ないし第4のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記パッドが、前記パッド支持体に支持される剛性部材と、当該剛性部材の表面を覆い前記脛に当接する緩衝部材と、を有しており、前記緩衝部材が、少なくとも上端部において前記剛性部材よりも外方にはみ出しているものである。
この構成によれば、パッドと脛との当接を和らげる緩衝部材が、脛からの荷重が加わり易い上端部において剛性部材よりも外方にはみ出しているので、この上端部に脛や膝が当たることを防止することができる。
本発明のうち第6の態様に係るものは、第1ないし第5のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記パッド支持体が、前記パッドの後退方向の傾斜角を調節する角度調節機構をさらに有しているものである。
この構成によれば、角度調節機構によって、パッドの後退方向の傾斜角を被介護者の個人差に応じた適切な大きさに設定することが可能となる。
本発明のうち第7の態様に係るものは、第1ないし第6のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記パッド支持体は、前記パッドの高さを調節する高さ調節機構をさらに有しているものである。
この構成によれば、高さ調節機構によって、パッドの高さを被介護者の脚部の長さ等の個人差に応じた適切な値に設定することが可能となる。
本発明のうち第8の態様に係るものは、第1ないし第7のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記被介護者が足を載せる足載せ台を、さらに備えており、当該足載せ台は、前記被介護者のかかとの後方への移動を制止するかかと止めを有している。そして、当該かかと止めは、前記足乗せ台の台面から起立した使用位置と、台面に沿うように倒伏した収納位置との間で、位置が可変であるものである。
この構成によれば、かかと止めを有する足載せ台が備わるので、被介護者が立ち上がる過程で脛が後方に逃げるのを防止することができる。かかと止めは、使用しないときには収納位置に倒伏させることが可能であるため、被介護者を乗せた車椅子を所定位置に配置する際に、車椅子が備える足乗せ台との干渉、あるいは被介護者の足部との干渉を防ぐことができる。
本発明のうち第9の態様に係るものは、第1ないし第8のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記上体持ち上げ機構が、下端部が水平軸に軸支され、被介護者の背面下部周辺及び尾てい骨周辺を包んで抱え上げるスリングを取り付ける治具を有するアームと、前記アームを傾動させるアーム駆動機構と、を有するものである。
この構成によれば、被介護者の上体を前方斜め上方向へ持ち上げる上体持ち上げ機構が、スリングを取り付ける治具を有するアームと、このアームを水平軸の周りに傾動させるアーム駆動機構とを有することにより実現する。このため、上体持ち上げ機構を簡素な構造とすることができ、製造コストを低廉なものとすることができる。
本発明のうち第10の態様に係るものは、第9の態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記上体持ち上げ機構が、前記アームに支持され、前記被介護者が握るためのハンドルをさらに有するものである。
この構成によれば、アームに支持されることによりアームと共に傾動するハンドルが備わるので、被介護者は自然な位置で手をハンドルに添えつつ立ち上がることが可能となる。手をハンドルに添えることにより、被介護者は自身の体力に応じて、体重の一部を手で支えることも可能となる。
本発明のうち第11の態様に係るものは、第9又は第10の態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記上体持ち上げ機構が、前記アームに支持され、前記アームにおおよそ沿う収納位置と前記アームから前記被介護者の方へ延びる使用位置との間で開閉可能であって、前記使用位置にあるときに、前記被介護者が肘を載せることが可能な肘置きを、さらに有するものである。
この構成によれば、被介護者が肘を載せることが可能な肘置きが備わるので、被介護者はハンドルを握る代わりに、又は握ると同時に、肘置きに自身の肘を置くことにより、身体を立ち上がり姿勢に保つ補助とすることができる。肘起きは収納位置と使用位置との間で開閉可能であるので、立ち上がり途上にあるときには収納位置にしておき、立ち上がり後に使用位置にすることにより、立ち上がり途上において被介護者の脚部等との干渉を回避することができる。
本発明のうち第12の態様に係るものは、第9ないし第11のいずれかの態様に係る立ち上がり支援装置であって、前記上体持ち上げ機構が、前記アームに支持され、前記アームにおおよそ沿う収納位置と前記アームから前記被介護者の方へ延びる使用位置との間で開閉可能であって、使用位置にあるときに、前記被介護者の身体の側面に対向する左右1対の体側ガイドを、さらに有するものである。
この構成によれば、被介護者の身体の側面に対向する左右1対の体側ガイドが備わるので、被介護者が立ち上がり姿勢にある状態で、立ち上がり支援装置を移動させたときなどに、被介護者の体が過度に左右に振れるのを抑えることができる。体側ガイドは収納位置と使用位置との間で開閉可能であるので、立ち上がり途上にあるときには収納位置にしておき、立ち上がり後に使用位置にすることにより、立ち上がり途上において被介護者の身体等との干渉を回避することができる。
本発明のうち第13の態様に係るものは、立ち上がり支援方法であって、第9ないし第12のいずれかの立ち上がり支援装置を準備する工程と、着座姿勢にある被介護者の脛が前記パッドに対向するように前記立ち上がり支援装置と前記被介護者との位置関係を定める工程と、着座姿勢にある前記被介護者の背面下部周辺及び尾てい骨周辺をスリングで包む工程と、前記背面下部周辺よりも前記尾てい骨周辺の方に大きな遊びを有するように、前記スリングの端部を、前記立ち上がり支援装置が有する前記アームの前記治具に取り付ける工程と、前記立ち上がり支援装置が有する前記アーム駆動機構を作動させることにより、前記スリングを引張る方向に前記アームを傾動させ、それにより前記被介護者を立ち上がらせる工程と、を備えるものである。
この構成によれば、着座姿勢にある被介護者の背面下部周辺及び尾てい骨周辺をスリングで包み、このスリングの端部をアームの治具に取り付ける際に、背面下部周辺よりも尾てい骨周辺の方に大きな遊びを有するようにするので、アームを傾動させたときに、先ず被介護者の背面下部周辺がスリングにより前方へ押される。それにより、被介護者の上体は前傾姿勢を取ることとなる。それに遅れて、被介護者の尾てい骨周辺もスリングにより前方へ押される。その結果、被介護者の臀部が前方へ移動し、それに伴い体の重心が前方へ移動する。このとき、被介護者の脛が前方へ傾動し、膝が沈み込む動きをするが、立ち上がり支援装置のパッドにより、脛上半部が柔軟に受け止められる。すなわち、人が立ち上がる初期段階における自然な姿勢である前傾しつつ脚を後に引いた姿勢が実現する。続いて、アームがさらに傾動し、スリングを介して背面下部周辺及び尾てい骨周辺が抱え上げられることにより、被介護者は、自身の体重の一部をパッドに預けつつ、かつ前傾姿勢を保ちつつ、立ち上がり姿勢に移行することができる。このように被介護者は、自然で違和感なく立ち上がることが可能となる。
以上のように本発明によれば、介護者による立ち上がり支援により近い被介護者の自然な立ち上がりが実現する。
(装置の構成)
図1は、本発明の一実施の形態による立ち上がり支援装置の構成を示す全体斜視図である。この立ち上がり支援装置100は、主要部としてフレーム1、上体持ち上げ機構10、ハンドル20、手押しハンドル30、パッド支持体41、パッド42、及び足載せ台71を備えている。フレーム1は、立ち上がり支援装置100の基台として、他の各種部材を支持するものである。フレーム1にはキャスタ2が取り付けられており、それにより立ち上がり支援装置100は床面上等を移動可能となっている。
上体持ち上げ機構10は、1対の支柱11、1対のアーム12、及びアーム駆動機構5を有している。1対の支柱11は、フレーム1に固定して立設されており、その上部には1対のアーム12の下端部を軸支する水平な傾動軸15が設けられている。1対のアーム12は、傾動軸15の周りに傾動することにより、被介護者を抱え上げるスリングを引き上げるものである。各アーム12の上部には、スリングを取り付ける治具としてのリング14が取り付けられている。被介護者の身長に応じて上下2段階の使い分けができるように、リング14は上下2箇所に設けられている。
アーム駆動機構5は、動力伝達桿13、アクチュエータ16、コントローラ17、バッテリーケース18、及び操作機19を有している。動力伝達桿13は弧状に形成されており、その両端が傾動軸15付近において1対のアーム12に連結している。アクチュエータ16は、動力伝達桿13の中央部に連結されており、動力伝達桿13中央部を下方に押し下げることにより、アーム12が傾動軸15を支点としてスリングを引き上げる方向に傾動する。アクチュエータ16は、図1の例ではバッテリーで駆動可能な電動アクチュエータである。アクチュエータ16は、バッテリーケース18に着脱可能に収納される二次電池(図示略)により電力の供給を受け、コントローラ17によって伸張、収縮、停止等の制御を受ける。操作機19は、手操作によりアクチュエータ16の動作を指示するものであり、操作に応じた指示信号をコントローラ17に送信する。
ハンドル20は、被介護者が手を添えて自身の身体を補助的に支えるためのものであり、アーム12と共に傾動する。ハンドル20は、握り棒21、連結棒22、及び角度調整部材23を有している。握り棒21は、被介護者が手を添えるための水平な棒であり、連結棒22は、握り棒21をアーム12に連結するためのものである。1対の連結棒22の上端は握り棒21に連結し、下端はアーム12に軸支されている。
角度調整部材23は、細長状の板材であり、下端は連結棒22に軸支され、上端部には中心軸に沿ったスリットが形成されている。当該スリットを貫通するボルトがアーム12に締結される。このボルトを緩めることにより、スリットの長さに応じた範囲で連結棒22を傾動させることができ、握り棒21とアーム12の間の間隔を調整することができる。適切な間隔を選択した後に、ボルトを再度締め付けることにより、ハンドル20をアーム12に固定することができる。角度調整部材23は、1対のアーム12及び連結棒22の左右に1対設けても良いが、図1に例示するように一方のみでも足りる。左右の何れに取り付けるかは、例えば介護者の利き腕の操作性を考慮して定めると良い。
手押しハンドル30は、立ち上がり支援装置100を移動させるために介護者が加える力をフレーム1に伝えるもので、支柱31、連結棒32,及び握り部33を有している。支柱31は、フレーム1の前方に固定して立設されている。支柱31の上端には連結棒32が連結しており、連結棒32の上端には介護者が握るための握り部33が連結されている。介護者の操作性を考慮して、支柱31は前方に幾分傾倒し、握り部33は直立している。双方を連結する連結棒32は、略中央部で屈曲している。前述のアーム駆動機構5を構成するアクチュエータ16、コントローラ17、及びバッテリーケース18は、支柱31に取り付けられており、操作機19は握り部33に着脱自在に取り付けられる。なお、「前方」、「後方」という表現は、立ち上がり支援装置100を使用する被介護者を基準としている。
パッド支持体41は、パッド42を支持するものであり、フレーム1に固定して左右1対が立設されている。1対のパッド42は、1対のパッド支持体41に個別に支持され、被介護者の左右の脛(すね)上半部を支えるものである。パッド支持体41は、被介護者の立ち上がり動作初期における脛の前方への傾動に追随するように、パッド42を前方斜め下方向へ後退可能なように支持している。また、パッド支持体41はパッド42を脛側に付勢するスプリング48を有している。このためパッド42は、被介護者の脛上半部の動きに追随しつつ、この脛上半部を柔軟に支持することができる。
図2は、パッド支持体41及びパッド42の構成を詳細に示す側面図である。パッド支持体41は、固定支柱43、可動支柱44、ヒンジ45、ガイド46、パッド支持棒47、スプリング48、スプリング支持体49、可動範囲調整ボルト50、ナット51、ナット52、スプリング53、及び制止板58を有している。パッド42は、揺動軸54、ヒンジ55、パッド剛性部材56及びパッド緩衝部材57を有している。
固定支柱43は、直立するようにフレーム1に固定されている。固定支柱43は、例えば断面矩形の筒状であり、内側に可動支柱44を収納する。可動支柱44も、例えば断面矩形の筒状である。可動支柱44は、上下方向に移動させることができる。可動支柱44には上下複数箇所に水平貫通孔62が形成されている。固定支柱43の上端付近に形成される水平貫通孔(図示略)と、可動支柱44の複数の水平貫通孔62のうちの1つとを位置合わせし、ボルト61を貫通させ、ナットで締結することにより、可動支柱44の高さを調整することができる。
可動支柱44の頭部にはヒンジ45が取り付けられている。ヒンジ45は、水平に挿通されナット締めされたボルト63を軸として傾動可能となっている。可動支柱44の頭部及びヒンジ45にはそれぞれ、上下複数位置(図2の例では2箇所)に水平貫通孔が形成されており、これら複数位置の水平貫通孔は、可動支柱44とヒンジ45との間で間隔がずれている。それにより、何れかの水平貫通孔を選択して位置合わせし、ボルト64を貫通させナットで締結することにより、ヒンジ45の傾斜角を段階的に変えることができる。
ヒンジ45の頭頂部にはガイド46が固定されている。ガイド46は貫通孔(図示略)を有しており、パッド支持棒47を摺動可能に案内する。ヒンジ45の傾斜角を変えることにより、パッド支持棒47の水平面との傾斜角Pを調節することができる。傾斜角Pは、例えば25度と35度の2段階に調節可能とすることができる。実験によれば、25度と35度のいずれの角度においても、目的とする自然な立ち上がりを達成することができた。
パッド支持棒47の上端部にはスプリング支持体49が固定されている。ガイド46とスプリング支持体49との間には、パッド支持棒47をらせん状に巻くようにスプリング48が配置されている。スプリング48は、パッド支持棒47がガイド46から斜め上方に延びて、スプリング支持体49が斜め上方に移動するように、スプリング支持体49を付勢する。
スプリング支持体49の上端部付近には可動範囲調整ボルト50の頭部が固定されている。可動範囲調整ボルト50は、パッド支持棒47に平行に配置され、先端部分がガイド46の頭部から突起する制止板58を貫通している。制止板58は、例えば溶接によりガイド46に固定されている。ボルト50には2個のナット51、52が螺合している。ナット51は、スプリング支持体49から見て制止板58の奥側に配置され、ナット52はスプリング支持体49と制止板58の間に配置されている。ナット51の螺合位置を調節することにより、スプリング48に付勢されてパッド支持棒47がガイド46から突出する長さを調節することができる。それにより、パッド42が初期位置にあるときのスプリング48の弾性復元力の強さを調節することができる。パッド42が初期位置にあるとき、スプリング48はある程度圧縮されるようにするのが望ましい。それにより、パッド42に被介護者の脛上半部が触れたときから、既に適度な強さの反力を脛上半部に及ぼすことができる。ボルト50、ナット51及び制止板58は、本発明のパッド制止機構を構成する。
ナット52の螺合位置を調節することにより、パッド42がスプリング48の弾性復元力に抗して前方斜め下方向に移動できる長さ、すなわちパッド42のストロークを調節することができる。通常は、脛上半部の動きを吸収するのに十分なストロークを保証するようにナット52の位置を定めるのが望ましい。ボルト50、ナット52及び制止板58は、パッド42のストロークを設定するストローク設定機構を構成する。
スプリング支持体49には、パッド42のヒンジ55が取り付けられている。ヒンジ55は、水平に挿通されナット締めされたボルト54を軸として揺動可能となっている。揺動軸として機能するボルト54は、パッド支持棒47の中心軸の延長上に設けられている。それにより、脛上半部からパッド42に加わるパッド支持棒47に沿った荷重により、曲げモーメントがパッド支持棒47に作用して、パッド支持棒47とガイド46との間の摩擦が増し、パッド支持棒47の円滑な摺動が妨げられるのを回避することができる。
ヒンジ55には、鋼、アルミニウムなどの剛性材料による板材であるパッド剛性部材56が固定されている。スプリング支持体49とパッド剛性部材56との間には、2個のスプリング53が配置されている。一方のスプリング53は揺動軸としてのボルト54の上側に配置され、他方は下側に配置されている。それにより、上側のスプリング53はパッド42を俯(うつむ)けるように付勢し、下側のスプリング53は仰向けるように付勢する。両者の弾性復元力が均衡する位置に、初期の揺動位置が定まる。このようにパッド42がパッド支持体41に揺動可能に支持され、しかも揺動位置のずれに対して弾性復元力が作用するので、被介護者の脛の傾動に伴う脛の傾斜角の変化がパッド42によって柔軟に吸収される。
図2に例示するように、パッド42の初期の揺動位置は、パッド支持棒47の延長方向を向くよりも、幾分俯(うつむ)き加減に設定するのが望ましい。すなわち、図2に示すパッド支持棒47の方向とパッド42の表面とのなす角度Qは、90度よりも幾分小さ目に設定される。この位置にあるパッド42は、脛上半部に接触し始めるときに脛上半部に沿ったものとなる。また、揺動軸としてのボルト54は、パッド42の上下方向の中心から上端部側にずれた部位に位置するのが望ましい。それにより、パッド42が脛上半部から受ける力の重心付近の部位にボルト54が位置することになるので、被介護者は、パッド42から脛上半部に違和感のない自然な反力を受けることができる。
被介護者の脛に当接する側のパッド剛性部材56の表面には、ゴム、ウレタンなどの緩衝材料による板材であるパッド緩衝部材57が固着されている。それにより被介護者の脛とパッド42との当接がさらに和らげられる。パッド緩衝部材57は、パッド剛性部材56の表面を覆い、さらにパッド剛性部材56の周囲から外方にはみ出している。このため、パッド剛性部材56の周辺部に脛や膝が当たるのを防止することができる。パッド剛性部材56の周辺部のうち上端部が、脛から加わる荷重が最も大きいため、上端部においてのみパッド緩衝部材57がパッド剛性部材56から外方にはみ出すようにしても良い。
図1に例示するように、被介護者の脛に当接するパッド42の表面は、脛上半部に沿うように湾曲させるのが望ましい。それにより、脛上半部の幅広い面がパッド42に当接するので、脛上半部がパッド42から受ける当たりがさらに和らげられる。さらに脛上半部がパッド42から横ずれするのを防止することが可能となる。パッド42の表面を湾曲させるためには、例えば図2の側面図に表されるように、パッド剛性部材56とパッド緩衝部材57との双方を、湾曲した板状に形成すると良い。
図1に再び戻って、立ち上がり支援装置100は足載せ台71を有している。足載せ台71は、被介護者が足を載せるためのものである。足載せ台71には、フレーム1とともに床面上等を移動可能にするためにキャスタ72が設けられている。また、足載せ台71の台面には、被介護者の足の滑りを防ぐように、例えば表面に凹凸を有するゴムシートが固着される。図1の例では、ゴムシートの上面に左右方向の細溝が複数設けられている。
足載せ台71にはさらに、立ち上がるときに脚力の弱い被介護者のかかとが後方へ移動するのを制止するために、かかと止め73が設けられている。かかと止め73は、足載せ台71の台面から起立した使用位置と、台面に沿うように倒伏した収納位置との間で、位置が可変であり、しかもそれぞれの位置にロックすることが可能となっている。かかと止め73は、収納位置にあるときに、足載せ台71の台面と面一(つらいち)となるのが望ましいが、多少の凹凸があっても良い。かかと止め73を開閉可能にするヒンジとして、例えば図6を参照しつつ後述する肘置きに用いられるものと同様のロック機能付きヒンジを使用することができる。かかと止め73は、使用しないときには収納位置に倒伏させることが可能であるため、被介護者を乗せた車椅子を所定位置に配置する際に、車椅子が備える足乗せ台との干渉、あるいは被介護者の足部との干渉を回避することができる。
足載せ台71は、フレーム1に着脱可能に取り付けることも可能である。それにより、必要に応じて足載せ台71を使用することなく、被介護者は床面等に直接に足を置いた状態で立ち上がり支援装置100を使用して立ち上がることも可能となる。このときに、立ち上がり支援装置100が被介護者から逃げないように、複数のキャスタ2のうちの少なくとも2個(例えば前方の左右2個)については、回転と旋回のいずれをも制止可能なキャスタを使用するのが望ましい。かかるキャスタは市場にて容易に入手可能である。
(装置の使用方法)
次に立ち上がり支援装置100の使用方法について説明する。図3〜図5は、立ち上がり支援装置100を用いて被介護者の立ち上がりを支援する方法を示す工程図である。立ち上がり支援装置100を使用するには、先ず図3に示すように、ベッド上、車椅子上等に着座姿勢にある被介護者90と立ち上がり支援装置100との位置関係を、着座姿勢にある被介護者90の脛がパッド42に対向する所定の関係に定める。被介護者90がベッド上に仰臥している場合には、例えば被介護者90をベッドの横端にて座らせ、床面81上を立ち上がり支援装置100を移動させてベッド横に配置すると良い。被介護者90が車椅子上に座している場合には、例えば車椅子を立ち上がり支援装置100へ移動させると良い。所定の位置に着座する被介護者90は、自身の手前に位置するハンドル20の握り棒21に手を添えることができる。
次に、着座姿勢にある被介護者90の腰に近い背面下部周辺と、尾てい骨周辺とをスリングで包む。図3の例では、2本のスリング91、92が使用される。スリング91は、被介護者の腰に近い背面下部周辺を包むのに用いられ、スリング92は尾てい骨周辺を包むのに用いられる。スリング92が、大腿部や臀部ではなく尾てい骨ないしその周辺を包むのに用いられるので、被介護者90はトイレの便座に着座する前、あるいは便座から立ち上がった後に、ズボン等の穿(は)き物の上げ下げを妨げられない。
スリング91の両端からは1対のベルト93が延びており、同様にスリング92の両端からは1対のベルト94が延びている。これらのベルト93、94の端部にはフック(図示略)が取り付けられている。これら4個のフックをアーム12上部のリング14に引掛けることによって、ベルト93、94を介してスリング91及び92の端部をアーム12に取り付けることができる。スリング91及び92をアーム12に取り付ける時期は、これらのスリング91、92で被介護者90の身体を包む前、同時、後の何れであっても良い。
被介護者90が普通に着座姿勢を取っているときに、スリング91よりもスリング92の方が、大きな遊びを有するように、ベルト93及び94の長さが調節されている。スリング91及び92を取り付けるとき、アーム12は被介護者90に近い初期位置に設定されている。リング14の取り付け位置は、被介護者が着座姿勢にある初期位置から立ち上がり姿勢となる最終位置に至るまでアーム12が傾動する過程で、スリング92が当てられる被介護者90の尾てい骨周辺よりも高くなるように定められている。すなわちリング14は、スリング92を常に前方斜め上方向に引き上げることができ、それにより被介護者90の上体を前方斜め上方向に持ち上げることができる位置に取り付けられる。
次に図4に示すように、アクチュエータ16を起動することにより、アーム12を被介護者90から遠ざかる方向へゆっくりと傾動させる。それにより、スリング91及び92が前方斜め上方向へ引き上げられる。このときスリング91と92のうち、スリング91の方が先に引き上げられるので、先ず被介護者90の背面下部周辺がスリング91により前方へ押される。それにより、被介護者90の上体は前傾姿勢を取ることとなる。それに遅れて、被介護者90の尾てい骨周辺もスリング92により前方へ押される。その結果、被介護者90の臀部が前方へ移動し、それに伴い体の重心が前方へ移動する。このとき、被介護者90の脛が前方へ傾動し、膝が沈み込む動きをするが、それに合わせてスプリング48で付勢されているパッド42が沈み込むように後退する。それにより、パッド42によって脛上半部が柔軟に受け止められる。すなわち、人が立ち上がる初期段階における自然な姿勢である前傾しつつ脚を後に引いた姿勢が実現する。
特に、パッド42が初期位置にあるときにスプリング48が復元力を発揮するように、ナット51(図2)を調整することにより、脛上半部がパッド42に当接したときから、被介護者90がパッド42から脛上半部に、ある程度の強さの反力を受けるようにすることができる。この場合、膝が沈み込むのに従ってパッド42が後退し、それに伴い反力が増して行き、パッド42に一部預けられる被介護者90の重量に、反力が均衡したところで、パッド42の後退が止まる。既に述べたように、被介護者90が脛上半部に受けるこのような反力は、介護者の介添えにより受ける力に相似したものであり、被介護者90はより違和感のない自然な支えを脛部に受けることができる。
なお既に述べたように、パッド42が当接する「脛上半部」は、厳格に脛を2等分した上半分に限定されるものではなく、この上半分を幾分はみ出していても良く、また幾分足りないものであっても良い。好ましくは、パッド42が当接する部分である「脛上半部」は、脛の上側60〜70%くらいをカバーし、膝と脛のつなぎ目付近をもカバーするものである。
次に図5に示すように、アーム12がさらに傾動する。それにより、スリング91及び92を介して被介護者90の背面下部周辺及び尾てい骨周辺が抱え上げられる。それに伴い被介護者90は、自身の体重の一部をパッド42に預けつつ、かつ前傾姿勢を保ちつつ、立ち上がり姿勢に移行することができる。このように被介護者90は、自然で違和感なく立ち上がることが可能となる。立ち上がり支援装置100によって支援される被介護者90の立ち上がり動作は、通常において人が自力で立ち上がる時の動作に近似しており、被介護者90はあたかも自力で立ち上がるときと同様の自然さを体感することができる。またハンドル20の握り棒21が、アーム12と一体となって傾動するので、被介護者90は終始自然な位置で握り棒21に手を添えつつ立ち上がることが可能である。被介護者90は握り棒21に手を添えることにより、自身の体力に応じて、体重の一部を手で支えることも可能となる。
被介護者90が立ち上がった姿勢で、介護者は立ち上がり支援装置100の握り部33を掴んで立ち上がり支援装置100を移動させることができる。目的の位置に移動した後には、図3〜図5の工程とは逆の工程を実行することにより、被介護者90は、所定位置に着座することが可能である。それにより被介護者90は、例えばベッドから車椅子、車椅子からトイレの便座などへ移ることができる。立ち上がり支援装置100を用いることにより、立ち上がり姿勢から着座姿勢への移行の過程も、被介護者90には自然で違和感のないものとなる。すなわち立ち上がり支援装置100は、立ち上がり支援と共に、着座支援をも行う装置である。アクチュエータ16はその目的のために、アーム12を正逆双方向に傾動可能となっている。
(別の実施の形態)
(A) 図6の側面図に示すように、立ち上がり支援装置100には、被介護者90が肘を置くための肘置き130を設けても良い。肘置き130は、ハンドル20の連結棒22に開閉可能に取り付けられる。肘置き130は、連結棒22を通じてアーム12に接続されるので、傾動するアーム12と一緒に傾動する。肘置き130は、被介護者90が立ち上がっている途中までは、身体と緩衝しないように収納位置に閉じておき、図6に示すように立ち上がりが完了した後に、使用位置に開いて使用することができる。被介護者90は、ハンドル20の握り部21を握る代わりに、あるいは握ると同時に、肘置きに自身の肘を置くことにより、スリング91、92による支援とともに、身体を立ち上がり姿勢に保つ助けとすることができる。
図7は、肘置き130の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図、そして(c)は(b)のB−B切断線に沿ったヒンジ部の断面図である。図7(a)に示すように、肘置き130の台面は平面視略馬蹄形をなしている。このため被介護者90は、図6に示すように肘を前後に延ばすように台上に置くこともでき、一方の肘の自由が効かない被介護者90であれば、他方の肘のみを左右に延ばすように台上中央部に置いて、この肘で身体の重心を支える補助とし、体のバランスを図るようにすることも可能となる。肘置き130の台板は、鉄板などの剛性部材131と、その表面に固着されたゴム板などの緩衝部材132とを有している。台板の手前側は起立しており、それにより、肘の力の弱い被介護者90が肘を手前にずれ落とすのを防ぐことができる。
肘置き130の台板は、ヒンジ133,134を介して、ハンドル20の左右1対の連結棒22に両端が固定された上下2本の水平な肘置き台支持棒24に接続されている。図7(b)に示すように、ヒンジ133は剛性部材131の底面に固定され、ヒンジ134は2本の肘置き台支持棒24に溶接等により固定されている。ヒンジ133,134は、ロック機能付きのヒンジを構成しており、回動軸135を中心として開閉可能であり、ロック棒136により、開状態、閉状態の何れの回動位置においても、ロックすることが可能となっている。このロック機能付きヒンジは、テーブルの開閉等の用途に広く市販されている周知の構造を利用したものである。ヒンジ133には回動軸135を中心として弧状の孔138が形成されており、この孔138は両端が広く、その間が狭くなっている。この孔138にロック棒136が挿通されている。
図7(c)にヒンジ133、134の断面構造を示すように、ロック棒136は、局部的に太くなっており、その一端に付けられたボタン137をスプリング139の弾性復元力に抗して押し込むことにより、ヒンジ133,134は開閉可能となる。一方、押し込む力を除去して、ヒンジ133,134を開状態、閉状態のいずれかにすると、ヒンジ133,134はその状態にロックされる。回動軸135とロック棒136との間の距離を適切に設定することにより、被介護者90の肘により肘置き130の台面に印加される重量を、十分な強度を持って支えることが可能となる。なお言うまでもなく、ヒンジ133,134は、何れが内側であっても外側であっても良い。また2個に分離した回動軸135に代えて、それらが一本に連結した回動軸を用いることも当然に可能である。
(B) 立ち上がり支援装置100には、図7に示したものとは異なる別の肘起きを用いることも可能である。図8は、その一例を示す斜視図である。この肘置き140は、ハンドル20の左右の連結棒22に個別に設けられており、双方で略「ハ」字型をなすように取り付けられている。図8には、一方(左側)のみを示している。肘置き140の台板も、肘置き130の台板と同様に、鉄板などの剛性部材141と、その表面に固着されたゴム板などの緩衝部材142とを有しており、台板の手前側は起立している。肘置き140の台板は、ロック機構付きのヒンジ143,144を介して、連結棒22に接続されている。
(C) 図9の側面図に示すように、立ち上がり支援装置100には、被介護者90の身体の側面に対向する左右1対の体側ガイド160を設けても良い。体側ガイド160は、肘置き130に取り付けられ、肘置き130と一緒に開閉する。このため、体側ガイド160は肘置き130とともに、被介護者90が立ち上がっている途中までは、身体と緩衝しないように収納位置に閉じておき、図9に示すように立ち上がりが完了した後に、使用位置に開いて使用することができる。それにより、被介護者90が立ち上がり姿勢にある状態で、立ち上がり支援装置100を移動させたときに、被介護者90の身体が過度に左右に振れるのを抑えることができる。また被介護者90には、左右に支えがあることによる心理的安心感がもたらされる、という効果も得られる。
図10は、体側ガイド160の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。図10(a)に示すように体側ガイド160は、肘置き130の左右から、使用状態にある時の被介護者90の側に延びるように、左右1対が肘置き130の台板に取り付けられている。体側ガイド160は、鉄などの剛性材料による棒状の芯部材161と、その側面を覆うゴムなどの緩衝部材162とを有している。図10(b)に示すように、芯部材161の一端は、腕置き130の剛性部材131にボルト締めされている。すなわち、剛性部材131の底面に環状体165及びナット166が溶接等により固定されており、芯部材161の一端に形成された貫通孔(図示略)を貫通するボルト167がナット166に締結されている。それにより、芯部材161が腕置き130に固定されている。ボルト167を緩めることにより、体側ガイド160の取り付け角度を調節することができ、それにより、体側ガイド160と被介護者90との距離を調節したり、体側ガイド160の位置を被介護者90の体型に合わせたりすることができる。なお、体側ガイド160は、図8に例示した肘置き140に取り付けることも可能である。
図9及び図10の例では、体側ガイド160は、肘置き130と一緒に開閉するように肘置き130に取り付けられた。それにより、被介護者90が立ち上がった後に必要となる肘置き130と体側ガイド160とを、一つの操作で使用位置に配置することができた。これに対して体側ガイド160を、肘置き130を介することなく、ハンドル20の連結棒22に開閉可能に取り付けても良い。この場合には、肘置き130なしで体側ガイド160のみを設けることも可能となる。体側ガイド160を連結棒22に開閉可能に取り付けるには、例えば肘置き130に用いたものと同様のロック機能付きヒンジを用いることができる。連結棒22を介することなく、体側ガイド160を直接にアーム12に開閉可能に取り付けても良い。体側ガイド160は、肘置き130や連結棒22を介する場合も、あるいは介しない場合も、アーム12に開閉可能に支持される点に変わりはない。いずれの場合においても体側ガイド160は、収納位置にあるときには、肘置き130と同様にアーム12におおよそ沿うこととなる。
(D) 立ち上がり支援装置100では、左右1対の脛に対応した1対のパッド支持体41及び1対のパッド42が用いられた。それにより、左右の脛の動きに個別に追従した自然な支持が実現した。これに対して、左右の脛を受ける単一のパッド及び単一のパッド支持体を用いることも可能である。
(E) 立ち上がり支援装置100では、アクチュエータ16を用いてアーム12を駆動した。特にアクチュエータ16の一例として、電動アクチュエータを例示した。これに対して、アクチュエータ16として油圧、空気圧等を利用したものを使用することも可能である。また、動力を利用するのではなく、人力によりアーム12を駆動するように立ち上がり支援装置100を構成しても良い。例えば、介護者がペダルを繰り返し踏むことにより空気圧を高めて、当該空気圧によりアーム12を駆動するようにしても良い。バルブを開くことにより空気圧を徐々に下げ、それによってアーム12を初期位置に戻す、という構成を取ることも可能である。空気圧の代わりに油圧を利用することも可能である。あるいは、人力でハンドルを回転させ、この回転を減速歯車を介してアーム12に伝えることにより、アーム12を傾動させるようにしても良い。
(F) 図3〜図6に示した例では、着座姿勢にある被介護者90の腰に近い背面下部周辺と、尾てい骨周辺とをスリングで包むのに、2本のスリング91、92が使用された。これに対して、1本のスリングで双方を包むようにしても良い。この場合にも、例えば被介護者90の背面下部周辺を引き上げるベルト93と、尾てい骨周辺を引き上げるベルト94とを使用し、これらのベルト93、94をアーム12に取り付けたときに、背面下部周辺を包むスリングの部分よりも尾てい骨周辺を包むスリングの部分の方が、大きな遊びを有するようにするのが望ましい。
(G) 立ち上がり支援装置100では、上体持ち上げ機構10がアーム12を備えており、当該アーム12を傾動軸15の周りに傾動させることによって、スリング91、92を前方斜め上方向へ引き上げ、それにより被介護者90の上体を前方斜め上方向へ持ち上げるようにした。これに対して、アーム12以外の機構、例えばスリング91、92のベルト93、94をリールに巻き取る機構を用いて、スリング91、92を前方斜め上方向へ引き上げるようにしても良い。また、アーム12にリールを取り付け、被介護者90の立ち上がり初期において、リールによってベルト93を幾分巻き上げることにより、前傾姿勢を取らせるようにしても良い。さらに、スリング91、92を使用することなく、被介護者90の上体を前方斜め上方向へ持ち上げる構成を採っても良い。例えば、特許文献1又は2に開示される機構を、上体持ち上げ機構10として用いても良い。