以下に、本発明にかかる車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図7を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、ロックアップクラッチ付きの流体伝達装置を有する自動変速機を備えた車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置に関する。図1は、本発明にかかる車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャート、図2は、オルタ負荷処理の動作の詳細を示すフローチャート、図3は、本実施形態の車両用駆動力制御装置が適用された車両の概略構成を示す図である。
図3において、符号100は、車両を示す。車両100は、エンジン1、自動変速機2、ECU30、バッテリ40を備えている。エンジン1は、公知の内燃機関であり、図示しない吸気通路と、吸気通路を流れる吸気の流量を調節するスロットルバルブと、吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射装置と、筒内の混合気に点火する点火装置とを備える。スロットルバルブは、開閉することで吸気通路の流路面積を調整し、吸気の流量を調節する。エンジン1は、吸気通路を介して供給される空気と燃料噴射装置により供給される燃料との混合気を筒内で燃焼させ、発生する燃焼エネルギーを回転運動に変換して出力するものである。
自動変速機2は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機(CVT)であり、エンジン1の回転軸11と接続されている。自動変速機2には、自動変速機2によって変速されたエンジン1の回転が伝達されるデファレンシャルギア3が接続されている。デファレンシャルギア3は、ドライブシャフト(駆動軸)4と接続されており、デファレンシャルギア3に伝達されるエンジン1の回転は、ドライブシャフト4を介して駆動輪5に伝達される。つまり、自動変速機2は、エンジン1とドライブシャフト4との動力の伝達経路に配置されている。
図4は、自動変速機2の要部を示す概略構成図である。図4に示すように、自動変速機2は、トルクコンバータ21、クラッチ(フォワードクラッチ)22、プライマリプーリ23、セカンダリプーリ24、およびベルト25を有している。
トルクコンバータ21は、エンジン1の回転をクラッチ22に伝達するものであり、図示しない流体伝達機構およびロックアップクラッチを備える。言い換えると、トルクコンバータ21は、ロックアップクラッチ付きの流体伝達装置である。トルクコンバータ21は、ロックアップクラッチが解放された状態で、流体伝達機構により作動流体を介して回転(トルク)を伝達する流体継手として機能することができると共に、ロックアップクラッチが係合されることで、作動流体を介さずにトルクコンバータ21の入力部から出力部に機械的に回転を伝達することができる。
クラッチ22は、トルクコンバータ21から伝達される回転をプライマリプーリ23に伝達するものである。クラッチ22は、例えば、前後進切換機構の一部を構成するものであり、車両100の前進時に油圧により係合される。
プライマリプーリ23は、セカンダリプーリ24およびベルト25と共に無段変速機構部を構成している。プライマリプーリ23は、プライマリプーリ軸23a、プライマリ固定シーブ23b、プライマリ可動シーブ23c、およびプライマリ油圧室23dを有している。プライマリ固定シーブ23bは、プライマリプーリ軸23aに対して軸方向に移動不能に固定され、プライマリプーリ軸23aと一体に回転する。
プライマリ可動シーブ23cは、プライマリ固定シーブ23bと軸方向に対向して配置されている。プライマリ可動シーブ23cは、プライマリプーリ軸23aに対して軸方向に移動可能に嵌合しており、プライマリプーリ軸23aと一体に回転する。プライマリ油圧室23dは、軸方向においてプライマリ可動シーブ23cのプライマリ固定シーブ23b側と反対側に形成された油圧室である。プライマリ油圧室23dに供給される油圧により、プライマリ可動シーブ23cに軸方向の押圧力が作用し、プライマリ固定シーブ23bに対するプライマリ可動シーブ23cの軸方向の相対位置が制御される。言い換えると、プライマリ油圧室23dの油圧により、プライマリ固定シーブ23bとプライマリ可動シーブ23cとで形成されるプライマリ溝23eの溝幅(プーリ幅)が可変に制御される。
セカンダリプーリ24は、セカンダリプーリ軸24a、セカンダリ固定シーブ24b、セカンダリ可動シーブ24c、およびセカンダリ油圧室24dを有している。セカンダリプーリ軸24aは、プライマリプーリ軸23aに対して所定の間隔をあけて平行に配置されている。セカンダリ固定シーブ24bは、セカンダリプーリ軸24aに対して軸方向に移動不能に固定され、セカンダリプーリ軸24aと一体に回転する。
セカンダリ可動シーブ24cは、セカンダリ固定シーブ24bと軸方向に対向して配置されている。セカンダリ可動シーブ24cは、セカンダリプーリ軸24aに対して軸方向に移動可能に嵌合しており、セカンダリプーリ軸24aと一体に回転する。セカンダリ油圧室24dは、軸方向においてセカンダリ可動シーブ24cのセカンダリ固定シーブ24b側と反対側に形成された油圧室である。セカンダリ油圧室24dに供給される油圧により、セカンダリ可動シーブ24cに軸方向の押圧力が作用し、セカンダリ固定シーブ24bに対するセカンダリ可動シーブ24cの軸方向の相対位置が制御される。言い換えると、セカンダリ油圧室24dの油圧により、セカンダリ固定シーブ24bとセカンダリ可動シーブ24cとで形成されるセカンダリ溝24eの溝幅(プーリ幅)が可変に制御される。
プライマリ溝23eとセカンダリ溝24eには、ベルト25が巻き掛けられている。ベルト25を介して、プライマリプーリ23とセカンダリプーリ24との間で回転(動力)の伝達がなされる。クラッチ22を介して伝達されるエンジン1の回転は、プライマリプーリ23、ベルト25、セカンダリプーリ24を介してセカンダリプーリ軸24aからデファレンシャルギア3に伝達される。プライマリ溝23eのプーリ幅と、セカンダリ溝24eのプーリ幅のそれぞれが可変に制御されることで、自動変速機2の変速比が連続的に変更される。
自動変速機2は、プライマリプーリ23のプライマリプーリ軸23aに入力される回転速度を、車両の運転状態に応じて設定される所望の回転速度に変更して出力する。ECU30は、プライマリプーリ軸23aの回転数NINが、車両の運転状態に応じて設定された目標回転数となるような変速比γを目標変速比として設定し、自動変速機2は、その目標変速比を実現するように変速を実行する。自動変速機2は、プライマリ油圧室23d、およびセカンダリ油圧室24dに供給する油圧をそれぞれ調節することにより、プライマリ溝23eおよびセカンダリ溝24eの溝幅をそれぞれ目標変速比に対応する所望の溝幅とする。
図3に戻り、エンジン1には、オルタネータ6が設けられている。さらに、エンジン1には、車両に搭載された空調機(エアコン)のコンプレッサー7が設けられている。オルタネータ6およびコンプレッサー7は、エンジン1の動力(回転)により駆動される補機である。補機とは、間接的に車両100の走行を補助するための装置であり、エンジン1から機械的動力を受けて作動して、この機械的動力を所定の仕事に変換して出力する被駆動機械である。
エンジン1の回転軸11に設けられたクランクシャフトプーリー12と、オルタネータ6の回転軸6aに設けられたオルタネータプーリー8と、コンプレッサー7の回転軸7aに設けられたコンプレッサープーリー9とには、無端のVベルト13が巻き掛けられている。エンジン1の運転時に回転軸11が回転すると、その回転が、クランクシャフトプーリー12およびVベルト13を介してオルタネータプーリー8およびコンプレッサープーリー9にそれぞれ伝達される。これにより、オルタネータ6においては、オルタネータ6の回転軸6aが回転し、発電がなされる。また、コンプレッサー7においては、コンプレッサー7の回転軸7aが回転し、コンプレッサー7の内部で回転軸7aの回転運動が図示しないピストンの往復運動に変換される。これにより、空調機の冷媒の吸入・圧縮・吐出が行われる。
オルタネータ6は、例えば、図示しない整流器が設けられた三相交流発電機であり、交流電流で発電された電力を直流電流に変換して出力するものである。オルタネータ6は、エンジン1の頻度の高いエンジン回転数で、バッテリ40および電気負荷に電力を供給するために最適な電圧の電力を発電できるように構成されている。オルタネータ6は、その発電負荷(駆動負荷)に応じたトルクであるオルタ負荷トルクをエンジン1の回転軸11に作用させるものでもある。
オルタネータ6は、回転軸(回転子)6aと図示しない固定子により構成されている。オルタネータ6は、エンジン1の回転軸11に作用する制駆動力がクランクシャフトプーリー12からVベルト13、オルタネータプーリー8を介して回転軸6aに伝達され、回転軸6aが固定子に対して回転することで発電する。
より具体的には、オルタネータ6は、図示しない固定子に設けられ三相の捲線を有するステータコイルと、回転軸6aに設けられステータコイルの内側に位置するフィールドコイルとからなる三相交流発電機をなす。オルタネータ6は、フィールドコイルを通電状態で回転軸6aと共に回転させることにより、ステータコイルに誘起電力を発生させ、誘起電流(三相交流電流)を整流器により直流電流に変換して出力する。また、オルタネータ6は、電圧レギュレータを備えており、ECU30から入力される制御信号に従い、電圧レギュレータによってフィールドコイルに流れるフィールド電流を制御する。これにより、ステータコイルに発生する誘起電力が調整され発電量が制御される。つまり、オルタネータ6の発電負荷(駆動負荷)は、フィールド電流の制御により、可変に設定可能となっている。
オルタネータ6は、発電負荷に応じた駆動力を駆動輪5に作用させることができる。例えば、エンジン1の制駆動力が一定の状態で、現在のオルタネータ6の負荷を減少させると、変速機2、デファレンシャルギア3、およびドライブシャフト4を介して駆動輪5に作用する制駆動力が増加する。つまり、オルタネータ6は、オルタ制駆動力、ここではオルタ駆動力(車両100に対して前方に向けて作用するプラスの駆動力)を発生させることとなる。一方、エンジン1の制駆動力が一定で、現在のオルタネータ6の負荷を増加させると、変速機2、デファレンシャルギア3、およびドライブシャフト4を介して駆動輪5に作用する制駆動力が減少する。つまり、オルタネータ6は、オルタ制駆動力、ここではオルタ制動力(車両100に対して後方に向けて作用するマイナスの駆動力)を発生させることとなる。つまり、駆動輪5には、エンジン1の制駆動力からオルタネータ6が発生させるオルタ制駆動力を引いた制駆動力が作用することとなる。
オルタネータ6は、ECU30と接続されている。オルタネータ6は、ECU30によってなされるバッテリ40の充電制御により発電が制御され、ECU30によってなされる駆動負荷制御により発生させるオルタ負荷トルクが制御される。
バッテリ40は、蓄電装置であり、オルタネータ6と車両100に搭載された電気負荷とに接続されている。バッテリ40は、定格電圧の二次電池により構成されており、オルタネータ6が発電した電力を蓄電するものである。なお、バッテリ40には、図示しないバッテリ電圧センサが設けられている。バッテリ電圧センサは、バッテリ40の現在のバッテリ電圧Vr(V)を検出するものである。バッテリ電圧センサは、ECU30と接続されており、検出されたバッテリ電圧Vrは、ECU30に出力される。また、バッテリ40には、図示しないバッテリ電流センサが設けられている。バッテリ電流センサは、バッテリ40が充電される際の電流値およびバッテリ40が放電される際の電流値である充放電電流値Ix(A)を検出するものである。バッテリ電流センサは、ECU30と接続されており、検出された充放電電流値Ixは、ECU30に出力される。
ECU30は、バッテリ40の充電制御を行う。ECU30は、バッテリ40のSOC値、車両100の運転状態、電気負荷の状態等に基づいて、オルタネータ6の発電量、具体的には、オルタネータ6の出力電圧を設定する。オルタネータ6は、設定された出力電圧を実現するように、電圧レギュレータによってフィールドコイルに流れるフィールド電流を制御する。また、オルタネータ6は、出力電流に基づく運転制御が可能に構成されている。オルタネータ6は、ECU30により設定された出力電流を実現するように、電圧レギュレータによってフィールドコイルに流れるフィールド電流を制御する。
ECU30は、エンジン1を運転制御するものである。ECU30は、運転者の意思に基づいて設定、あるいは車両100の自動走行制御において算出される車両100に要求される要求制駆動力に基づいて、噴射信号、点火信号、バルブ開度信号などをエンジン1に出力する。これらの出力信号により、図示しない燃料噴射装置によりエンジン1に供給される燃料の燃料供給量や噴射タイミングなどの燃料噴射制御、図示しない点火装置の点火制御、エンジン1の図示しない吸気通路に設けられたスロットルバルブのバルブ開度制御などが行われる。
また、ECU30は、自動変速機2の変速制御を行う。ECU30は、アクセル開度や車速に基づいて自動変速機2の目標変速比を決定する。具体的には、ECU30は、アクセル開度や車速に基づいてエンジン1の目標パワーおよび目標回転数を設定し、この目標回転数に対応する変速比を自動変速機2の目標変速比として自動変速機2に出力する。
ここで、ECU30のハード構成は、主に演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、プログラムや情報を格納するメモリ(SRAMなどのRAM、EEPROMなどのROM(Read Only Memory))、入出力インターフェースなどから構成され、既知のECUと同様であるため、詳細な説明は省略する。
ECU30の入力インターフェースには、いずれも図示されていないが、車両100の車速を検出する車速センサ、エンジン1の回転数であるエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ、車両100の前後方向の加速度(前後G)を検出する加速度センサが接続されており、車速センサ、エンジン回転数センサ、加速度センサの検出結果を示す信号がECU30に入力される。
ECU30は、車両の減速時に、エンジン1への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行する。ECU30は、車両の減速時に、予め定められたフューエルカット実行条件が成立すると、フューエルカット制御を開始する。フューエルカット実行条件は、アクセル開度、エンジン回転数等に関して設定されるものであり、例えば、図示しないアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサにおいてアイドルスイッチがONとなり、かつ、エンジン回転数がフューエルカット開始可能回転数以上である条件を満たす場合にフューエルカット制御の実行が許可されるように設定されている。ECU30は、フューエルカット制御の実行中に、車速が、予め定められたフューエルカット終了車速以下となるとフューエルカット制御を終了させる。なお、フューエルカット制御の終了を判定するパラメータは、車速に代えて、エンジン回転数であってもよい。
さらに、ECU30は、車両の減速時に、自動変速機2の変速比γを徐々に増加させていく制御を実行する。これは、例えば、フューエルカット制御を実行可能な期間を延長するためになされる制御である。減速時に、エンジン回転数がフューエルカット制御の終了回転数以下とならないように、変速比γを増加させる変速制御がなされる。減速時には、エンジン1が被駆動状態となっており、かつ、トルクコンバータ21のロックアップクラッチが係合状態とされている。よって、変速比γの増加によりエンジン回転数の低下が抑制され、フューエルカット領域が低速側の領域に拡大される。
ここで、減速時に自動変速機2の変速比γを上げていく制御がなされると、以下に図5を参照して説明するように、車速が低下するにつれて減速度が増加していくこととなる。これにより、フューエルカット制御の終了時にロックアップクラッチが解放されるときに、駆動力の変動によるショックが生じやすいという問題がある。
図5は、ポンピングロス低減制御について説明するための図である。図5において、(a)は車速、(b)は車両の加速度、(c)は自動変速機2の変速比、(d)はフューエルカット(F/C)フラグ、(e)ロックアップ(L/U)フラグ、(f)はスロットル開度TAを示す。
符号202は、後述するポンピングロス低減制御を実行した場合の車両の加速度の推移、符号201は、ポンピングロス低減制御が実行されない従来の車両の加速度の推移を示す。
時刻t0において図示しないアクセルペダルがオフされると、ECU30は、スロットル開度をISC開度TAIとする。ここで、ISC開度TAIとは、エンジン1のアイドル運転時の目標回転数であるアイドル目標回転数に対応するスロットル開度として予め設定された値(所定開度)である。アイドル運転時には、スロットル開度がISC開度TAIとされ、さらに、実際のエンジン回転数をアイドル目標回転数に収束させるように、スロットル開度TAのフィードバック制御(アイドルスピード制御)による調整が実行される。なお、アイドルスピード制御は、スロットルバルブをバイパスさせるバイパス通路に設けられたアイドルスピードコントロールバルブのフィードバック制御により実行されてもよい。この場合、ISC開度TAIは、全閉とされることができる。ECU30は、アクセルペダルがオフされると、スロットル開度TAをISC開度TAIまで閉じる。
アクセルペダルの状態を含むフューエルカット実行条件が成立していると判定した場合、ECU30は、フューエルカットフラグをONとする。図5では、時刻t0において、フューエルカット実行条件が成立し、フューエルカットフラグがONとされ、フューエルカット制御が開始される。フューエルカット制御では、スロットル開度TAがISC開度TAIとされて、エンジン1への燃料の供給が停止される。
ECU30は、フューエルカット制御の実行中に係合状態とされていたロックアップクラッチをフューエルカット制御の終了時に解放するクラッチ制御を実行する。図5では、時刻t2において車速がロックアップクラッチを解放する車速まで低下し、ロックアップフラグがOFFとされてロックアップクラッチが解放される。このロックアップクラッチが解放される時点を、ロックアップ解除点t2とする。ロックアップ解除点t2は、フューエルカット制御が終了されるタイミングと対応しており、ロックアップクラッチの解放後にフューエルカット制御が終了され、エンジン1の自立運転が開始される。
また、ECU30は、減速中に変速比γを上げていく。ECU30は、減速時にロックアップクラッチを解放する車速に近づくにつれて変速比γを低ギア側にもっていく。ロックアップ解除点t2に近づくにつれて変速比γが変速比の最大値γmaxへ向けて低速側の値に変化していくことで、図示しないエンジン回転数が、フューエルカット制御を実行可能な領域の値(例えば、ほぼ1,000rpm)に維持される。その結果、減速時にフューエルカット制御を実行可能な期間が延長され、燃費の向上が可能となる。
しかしながら、ロックアップ解除点t2に近づくにつれて変速比γが増加される場合、図5に符号201aで示すように、変速比γの増加に連れて、車両の減速度(減速G)が大きくなっていくこととなる。ロックアップ解除点t2に到達してロックアップクラッチが急に切り離されると、被駆動状態であったエンジン1によるブレーキ作用が低減するため、加速度が増加して減速Gに変動が生じる。なお、ロックアップクラッチの解放による加速度の変動は、ロックアップ解除点t2に近づくにつれて変速比γが増加される変速制御がなされない場合であっても発生するものである。この加速度の変動によるショックを抑制するため、本実施形態では、ロックアップ解除点t2の手前でスロットルバルブを開き、ポンピングロスを低減させるポンピングロス低減制御を実行する。
ECU30は、ロックアップ解除点t2よりも前の時刻t1において、スロットルバルブを開く制御を行う。このときのスロットル開度TAの設定値は、ISC開度TAIよりも大きな値であり、ポンピングロスを低減させ、変速比γの増加に伴う減速度の増大を抑制する観点から設定された開度である。ポンピングロス低減制御の終了時には、ロックアップクラッチの解放後にスロットルバルブが閉じられる。ECU30は、例えば、ロックアップクラッチの解放から短い所定時間が経過した後にスロットルバルブを閉じ、スロットル開度TAをISC開度TAIとする。ポンピングロス低減制御が行われることにより、符号202aに示すように、ポンピングロス低減制御が行われない場合(符号201a)と比較して、ロックアップ解除点t2の前における減速度の増加が抑制される。このため、ロックアップ解除点t2前後の加速度の変動によるショックの低減を狙うことが可能となる。
ここで、ポンピングロス低減制御により、加速度の変動によるショックの低減は可能となるものの、フューエルカット制御の終了後に期待しない駆動トルクの増加が生じることとなる。ポンピングロス低減制御においてスロットルバルブが開かれていたため、エンジン1のインテークマニホルド内に余剰の空気が残った状態でエンジン1において燃焼が再開されてしまう。ロックアップ解除点t2においてスロットルバルブが閉じられてから、フューエルカットフラグがOFFとされて点火が再開されるまでの間に、インテークマニホルド内の余剰の空気が完全に抜け切らないため、エンジン1の筒内に供給される吸気量は、ポンピングロス低減制御がなされなかった場合の吸気量よりも多くなる。インテークマニホルド内の空気量に応じて燃料の噴射量が設定されるエンジン1では、インテークマニホルド内に余剰の空気があることで、多目の燃料噴射が行われてしまう。
このため、燃焼再開時において、ポンピングロス低減制御が行われたときのエンジン1の出力は、ポンピングロス低減制御がなされなかった場合のエンジン1の出力と比較して大きなものとなり、符号A0で示す期待しない加速度の増加(駆動トルクの増加)が生じてしまう。以下、この期待しない駆動トルクの増加分を「余剰トルク」と記述する。
本実施形態のECU30は、余剰トルクによる加速度の増加を低減する駆動負荷制御を実行する。具体的には、ECU30は、オルタ負荷トルクを調節することにより、余剰トルクを取り除く。オルタネータ6は、その発電負荷に応じたトルクであるオルタ負荷トルクをエンジン1の回転軸11に作用させるものである。このため、オルタネータ6の発電負荷を増加させることにより、回転軸11に作用する制動トルクを増加させ、エンジン1の余剰トルクを回転軸11で打ち消すことができる。ECU30は、フューエルカット制御の終了後に、フューエルカット制御の終了前と比較してオルタ負荷トルクを増加させることで、余剰トルクを打ち消す。その結果、余剰トルクによる加速度の増加が抑制され、ロックアップクラッチの解放前後の車両100の加速度の変動が抑制される。
次に、図1、図2、図6および図7を参照して本実施形態の駆動力制御について説明する。図1および図2に示す制御フローは、車両100の減速時に定期的に実行される。また、図6は、車両100の時定数について説明するためのステップ応答の一例を示す図、図7は、本実施形態の駆動力制御がなされた場合のタイムチャートである。
まず、ステップS10では、ECU30により、変速比γが一定値より大きいか否かが判定される。ここで、一定値とは、ポンピングロス低減制御の開始を判定するための閾値であり、例えば、車速、あるいは減速時の変速比γと加速度との関係に基づいて設定される。上記一定値は、例えば、車速が予め定められた所定車速となる変速比γの値として設定される。なお、上記一定値は、減速時に変速比γを増加させていく制御がなされる場合の減速度の大きさに基づいて設定されてもよく、減速度の増加割合に基づいて設定されてもよい。ステップS10の判定の結果、変速比γが上記一定値より大きいと判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローは終了される。
ステップS20では、ECU30により、スロットルバルブが一定の開度に開かれる。スロットル開度TAの指令値は、それまでのISC開度TAIから、予め定められた所定の開度に変更(増加)される。スロットルバルブが開かれることにより、ポンピングロスが低減され、減速度の増加が抑制される。
次に、ステップS30では、ECU30により、ロックアップ解除が実行される。ECU30は、予め記憶されているロックアップ解除マップを参照してステップS30の処理を実行する。ECU30のROMには、車速と変速比γとの関係に基づくロックアップ作動領域のマップが記憶されている。ECU30は、このロックアップ解除マップを参照し、現在の車速と変速比γとの組合せがロックアップ領域にない場合には、ロックアップフラグをOFFにする。
次に、ステップS40では、ECU30により、ロックアップフラグがOFFとされ、ロックアップクラッチが解放されたか否かが判定される。その判定の結果、ロックアップクラッチが解放されたと判定された場合(ステップS40−Y)には、ステップS50に進み、そうでない場合(ステップS40−N)には、本制御フローは終了される。
ステップS50では、ECU30により、スロットル閉じ制御がなされる。ECU30は、スロットル開度TAの指令値をISC開度TAIに設定し、スロットルバルブを閉じる。これにより、ポンピングロス低減制御が終了する。
次に、ステップS60では、ECU30により、ロックアップクラッチの解放後一定時間が経過したか否かが判定される。その判定の結果、ロックアップクラッチの解放後一定時間が経過したと判定された場合(ステップS60−Y)にはステップS70に進み、そうでない場合(ステップS60−N)には本制御フローは終了される。
ステップS70では、ECU30により、点火(燃料噴射)制御が実行される。ECU30は、燃料噴射装置に対して燃料の噴射指令を出力し、点火装置に対して点火指令を出力する。それぞれの指令値に応じて、燃料噴射装置は、設定されたタイミングで設定された量の燃料を噴射し、点火装置は、設定されたタイミングで筒内の混合気に点火する。ここで、ECU30は、インテークマニホルドの空気量に基づいて燃料の噴射量の指令値を設定するため、ポンピングロス低減制御がなされなかった場合と比較して、インテークマニホルド内に余剰の空気が残っている間は、その余剰の空気の量に応じて燃料の噴射量の指令値は、大きな値に設定されている。
次に、ステップS80では、ECU30により、正トルクが発生したか否かが判定される。ステップS80では、燃焼再開によりエンジン1が被駆動状態から駆動状態となり、車両100に加速側のトルクが作用し始めたか否かが判定される。ECU30は、例えば、加速度センサの検出結果に基づいてステップS80の判定を行う。その判定の結果、正トルクが発生したと判定された場合(ステップS80−Y)にはステップS90に進み、そうでない場合(ステップS80−N)には本制御フローは終了される。
ステップS90では、ECU30により、オルタ(電圧)負荷処理が実行される。オルタ負荷処理は、オルタネータ6の発電負荷に応じたトルクであるオルタ負荷トルクにより、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御である。以下、図2を参照してオルタ負荷処理の詳細について説明する。
まず、ステップS91では、ECU30により、点火開始時の車両Gが読み取られる。ECU30は、加速度センサにより検出された点火開始時の車両100の前後Gを読み取る。
次に、ステップS92では、ECU30により、駆動トルクが推定される。ECU30は、ステップS91で読み取った点火開始時の前後Gに基づいて、車両100に作用している駆動トルクを推定する。ECU30は、ステップS91で読み取られた点火開始時の前後Gと、車両100の質量とに基づいて、ステップS92の推定を行う。
次に、ステップS93では、ECU30により、駆動達成時間が推定される。駆動達成時間とは、エンジン1で発生する余剰トルクが、実際に車両100に駆動力として作用するまでの遅れ時間に相当する。駆動達成時間は、以下に図6を参照して説明する車両100の時定数に基づいて推定されるものである。
図6に示すように、時定数とは、ステップ状の指令値が入力された場合に、出力値が入力値(指令値)に対して所定の割合まで到達するまでの経過時間(一次遅れ成分)である。時定数は、車両100に固有の値であり、ECU30は、予め車両100の時定数を記憶している。ECU30は、ステップS91で読み取った点火開始時の前後G(前後Gの出かた)と、車両100の時定数とに基づいて、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御(駆動負荷制御)がなされない場合の点火開始後の車両100の駆動力の推移を推定する。
図7において、符号202は、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御がなされない場合の点火開始後の車両100の加速度の推移を示す。また、符号203は、後述する指示オルタ電圧の設定値を示す。符号204は、本実施形態の余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御がなされた場合の加速度の推移を示す。
ECU30は、点火再開時に、余剰トルクによる加速度の増加の低減がなされない場合の加速度の推移(例えば、加速度のピーク値A1およびピーク達成までの時間T1、ピーク達成から余剰トルクがなくなるまでの時間等)を予め推定する。ECU30は、例えば、点火再開時刻と前後Gの検出時刻t3との関係と、ステップS92で推定された駆動トルクと、車両100の時定数とに基づいて、本実施形態の余剰トルクを低減する制御がなされなかった場合の加速度の推移202を推定する。
次のステップS94からステップS96では、ECU30により、指示オルタ電圧Veの設定がなされる。指示オルタ電圧Veとは、余剰トルクを打ち消すために発生させるオルタ負荷トルクに対応するオルタネータ6の出力電圧の調整量(増分)である。ECU30は、指示オルタ電圧Veとオルタ負荷トルクとの関係を示すマップを予め記憶している。ECU30は、余剰トルクの大きさに応じてオルタネータ6で発生させるオルタ負荷トルクの大きさを決定し、このマップを参照して指示オルタ電圧Veを設定する。
ECU30は、余剰トルクの増加に応じて、指示オルタ電圧Veを増加させていき(図7の期間P1)、余剰トルクがピークを過ぎた後は指示オルタ電圧Veを減少させていく(図7の期間P2)。ここで、指示オルタ電圧Veの大きさは、例えば、実際の車両100の加速度をポンピングロス低減制御が実行されない場合の車両100の加速度の推移(図5の符号201参照)に収束させる値として算出される。この場合、ポンピングロス低減制御が実行されない場合の車両100の加速度の推移201は、車速と変速比γ等に基づいて算出されることができる。あるいは、指示オルタ電圧Veの大きさは、実際の車両100の加速度を予め設定された加速度の推移に収束させる値として設定されてもよい。この加速度の推移は、例えば、ロックアップクラッチの解放前後の加速度の変動の度合いを所定以下とし、ドライバビリティを向上させるように設定されることができる。
なお、本実施形態では、オルタ負荷トルクにより余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御において、指示オルタ電圧Veは、加速度のピーク値A1(余剰トルクのピーク値)に対応する目標電圧Vdを上回らない範囲で設定される。これにより、余剰トルクを打ち消しつつ、余剰トルク分を超えるオルタ負荷トルクを作用させてしまうことが抑制される。
ECU30は、指示オルタ電圧Veが算出されると、バッテリ40の充電制御において設定されるオルタネータ6の目標電圧に、指示オルタ電圧Veを加算した電圧をオルタネータ6の出力電圧の指令値として出力する。オルタネータ6は、ECU30から入力された出力電圧の指令値を実現するように、フィールド電流を制御する。
図2に戻り、ステップS94では、ECU30により、指示オルタ電圧Veが、目標電圧Vd未満であるか否かが判定される。ECU30は、現在の指示オルタ電圧Veが、加速度のピーク値A1に対応する目標電圧Vd未満であるか否かを判定する。その判定の結果、指示オルタ電圧Veが、目標電圧Vd未満である場合(ステップS94−Y)にはステップS95に進み、そうでない場合(ステップS94−N)にはステップS97に進む。
ステップS95では、ECU30により、刻み時間Δtが経過したか否かが判定される。ECU30は、予め定められた刻み時間Δtが経過するごとに指示オルタ電圧Veを更新する。ECU30は、ステップS93で推定された駆動達成時間と、目標電圧Vdと、車両100の時定数とに基づいて、各時刻における指示オルタ電圧Veの目標値、すなわち、指示オルタ電圧Veの目標値の時間的な推移を設定する。この各時刻における指示オルタ電圧Veの目標値に実際の指示オルタ電圧Veを近づけるように、刻み時間Δtが経過するごとに、指示オルタ電圧Veが更新される。ステップS95の判定の結果、刻み時間Δtが経過したと判定された場合(ステップS95−Y)にはステップS96に進み、そうでない場合(ステップS95−N)にはステップS97に進む。
ステップS96では、ECU30により、指示オルタ電圧Veに対して、一定の電圧ΔVだけ電圧が増減される。車両100の時定数等に基づく指示オルタ電圧Veの目標値に対して、指示オルタ電圧Veの設定値が下回っている場合には、指示オルタ電圧Veが一定の電圧ΔVだけ増加される。一方、指示オルタ電圧Veの目標値に対して、指示オルタ電圧Veの設定値が上回っている場合には、指示オルタ電圧Veが一定の電圧ΔVだけ減少される。
次に、ステップS97では、ECU30により、受入電流制限の処理がなされる。ECU30は、バッテリ40に流入する電流量が、予め定められた電流量の上限を超えないように、オルタネータ6の発電量を規制する。ステップS97が実行されると、本制御フローは終了する。
本実施形態では、まず、ポンピングロス低減制御によりロックアップクラッチ解放前(フューエルカット終了前)の減速度の増大が抑制される。さらに、ポンピングロス低減制御に伴う吸気量の増加により発生する余剰トルクによる加速度の増加が、オルタネータ6の発電制御(駆動負荷制御)により低減される。これにより、ロックアップクラッチが係合状態から解放されるときの解放前後の加速度の変動を抑制することができる。よって、駆動力が変動してショックが発生したり、運転者に違和感を与えたりすることを抑制することができる。余剰トルクを利用してオルタネータ6の発電量を増加させ、バッテリ40に充電する回生制御を行うことで、エネルギー損失を少なくしつつ、余剰トルクによる加速度の増加を抑えることができる。
なお、本実施形態では、推定された余剰トルクの大きさに応じてオルタ負荷トルクの大きさが設定されたが、オルタ負荷トルクの大きさの決定方法はこれには限定されない。例えば、余剰トルクの大きさを推定することなく、予めオルタ負荷トルクの大きさを決めておき、余剰トルクが発生する時期に合わせてオルタ負荷トルクを発生させるようにしてもよい。この場合のオルタ負荷トルクの大きさは、一定値で推移させてもよく、時間の経過に応じて大きさを変化させてもよい。例えば、余剰トルクによる加速度の増加を適切に抑制するためのオルタ負荷トルクの推移を予め適合実験等に基づいて設定しておくことができる。
(第2実施形態)
図8から図10を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図8は、本実施形態のオルタ負荷処理の動作の詳細を示すフローチャート、図9は、エンジントルク推定マップを示す図、図10は、本実施形態の駆動力制御がなされた場合のタイムチャートである。
本実施形態の駆動力制御が、上記第1実施形態の駆動力制御と異なる点は、余剰トルクを含むエンジン1の実際の出力トルクの推定値(エンジン推定トルク)と、エンジン1がアイドル運転された場合に回転軸11に作用するトルクの推定値(アイドル推定トルク)とに基づいて、オルタ負荷トルクが設定される点である。本実施形態では、オルタ負荷トルクにより、駆動軸11に作用するトルクをアイドル推定トルクに収束させることで、余剰トルクによる加速度の増加を抑制させる。
図8は、オルタ負荷処理の動作を示すフローチャートである。ECU30は、正トルクが発生したと判定された場合(図1のステップS80−Y)、上記第1実施形態のオルタ負荷処理(図2参照)に代えて、図8に示すオルタ負荷処理を実行する。
ステップS191では、ECU30により、エンジン推定トルクが算出される。エンジン推定トルクは、エンジン1により回転軸11に出力されるトルクの推定値であり、例えば、図9に示すエンジントルク推定マップが参照されて推定される。図9は、エンジン回転数と、空気負荷率と、エンジン1の出力トルクの大きさとの関係を示すマップである。図9に示すように、空気負荷率が大きくなるにつれて、出力トルクが大きな値として推定される。空気負荷率は、例えば、吸気の流量を検出するエアフローセンサの検出結果に基づいて算出される。なお、エンジントルク推定マップにおいて、空気負荷率に代えて、インテークマニホルド内の圧力であるインマニ圧が用いられてもよい。
次に、ステップS192では、ECU30により、アイドル推定トルクが計算される。アイドル推定トルクは、ポンピングロス低減制御がなされずにフューエルカット制御から復帰したときの、エンジン1がアイドル運転されるときのエンジン1の出力トルクであり、例えば、アクセルOFF時のスロットル開度に基づいて算出される。アクセルOFF時のスロットル開度とは、ISC開度TAIであり、概ね決められている値である。このISC開度TAIからアイドル推定トルクが算出される。ECU30は、ポンピングロス低減制御がなされずにフューエルカット制御から復帰したときのスロットル開度とエンジン1の出力トルクとの関係を示すマップを予め記憶しており、このマップを参照してアイドル推定トルクを算出する。
次に、ステップS193では、ECU30により、補機発生トルクが算出される。補機発生トルクとは、オルタネータ6を含むエンジン1の補機において発生させるトルクの総和の目標値である。補機発生トルクは、車両100に対して負の駆動力を作用させるトルクであり、補機発生トルクが大きくなると、車両100の駆動力が低減する。補機発生トルクは、ステップS191で算出されたエンジン推定トルクから、ステップS192で算出されたアイドル推定トルクを減じた値に設定される。
次に、ステップS194では、ECU30により、オルタトルク指令が生成される。ECU30は、補機発生トルクを満たすようにオルタ負荷トルクを調節することで、余剰トルクを低減させる。ECU30は、ステップS193で設定された補機発生トルクを実現するように、オルタ負荷トルクの指示量である指示オルタトルク量を設定し、設定された指示オルタトルク量に応じたオルタトルク指令を生成する。
ここで、オルタトルク指令とは、オルタネータ6で発電される電流量の指令値である。ECU30は、オルタ負荷トルクの大きさとオルタネータ6の出力電流値の増分との関係を示すマップを予め記憶しており、そのマップを参照してオルタトルク指令を設定する。ECU30は、バッテリ40の充電制御において設定されるオルタネータ6の目標電流値に、指示オルタトルク量に対応する電流値を加算した値をオルタトルク指令としてオルタネータ6に出力する。オルタネータ6は、オルタトルク指令に基づいて、発電する電流量をオルタトルク指令とするようにフィールド電流を制御する。ステップS194が実行されると、本制御フローは終了する。
本実施形態の駆動力制御により、図10を参照して説明するように、余剰トルクが低減される。図10において、符号202は、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御がなされない場合の点火開始後の車両100の加速度の推移を示す。符号205は、指示オルタトルク量を示す。符号206は、本実施形態の駆動力制御がなされた場合の車両100の加速度の推移を示す。余剰トルクの大きさに応じた指示オルタトルク量205が設定されることで、本実施形態の駆動力制御がなされた場合の加速度の推移206では、余剰トルクによる加速度の増加が抑制される。オルタネータ6の出力電流値とオルタ負荷トルクとの関係は、線形に近い特性を有する。このため、オルタネータ6の電流制御では、出力電圧が制御される場合と比較して、精度良くオルタ負荷トルクを所望の値に調節することが可能である。
(第3実施形態)
図11から図14を参照して第3実施形態について説明する。第3実施形態については、上記各実施形態と異なる点についてのみ説明する。
図11は、本実施形態の動作を示すフローチャート、図12は、A/C負荷処理の動作の詳細を示すフローチャート、図13は、A/Cトルク推定マップを示す図、図14は、本実施形態の駆動力制御がなされた場合のタイムチャートである。
本実施形態では、オルタネータ6に代えて、エアコンのコンプレッサー7で発生するトルクによりエンジン1の余剰トルクが打ち消される。本実施形態のエアコンのコンプレッサー7は、可変容量コンプレッサーであり、容量の大きさに応じて、コンプレッサープーリー9に作用するトルク(A/Cトルク)が変化する。ECU30は、余剰トルクを低減するときには、余剰トルクの大きさに応じたA/Cトルクを発生させるように、コンプレッサー7の容量を制御する。
以下に、図11および図12を参照して、本実施形態の動作について説明する。
図11において、ステップS210からステップS250までは、上記各実施形態(図1のステップS10からステップS50まで)と同様であることができる。すなわち、変速比γが一定値より大きいと判定された場合(ステップS210−Y)、スロットルバルブが一定の開度に開かれ(ステップS220)、ロックアップ解除が実行される(ステップS230)。次に、ロックアップクラッチが解放されたと判定される(ステップS240−Y)と、スロットル閉じ制御がなされる(ステップS250)。
次に、ステップS260では、ECU30により、エアコンのコンプレッサー7の準備がなされる。ECU30は、コンプレッサー7の容量の変更指令がなされた場合にその変更指令に応じて速やかに容量の変更が実行されるように、コンプレッサー7の準備を行う。なお、ステップS260において、予め余剰トルクの大きさを推測してコンプレッサー7の容量を固定しておくようにしてもよい。つまり、ポンピングロス低減制御が実行された場合に、その後に発生する余剰トルクの大きさを予測しておき、その予測された余剰トルクの大きさに応じたA/C負荷トルクを発生させることができる容量にコンプレッサー7の容量を固定しておくことができる。このように、事前にコンプレッサー7の容量を固定しておけば、実際に余剰トルクが発生したときにコンプレッサー7の作動を開始させるだけでその余剰トルクを低減させることができる。
コンプレッサー7の容量は、例えば、図13に示すA/Cトルク推定マップに基づいて設定される。A/Cトルク推定マップは、作動時にコンプレッサー7内で発生する圧力と、エンジン回転数と、A/C負荷トルクとの関係を示すものである。ECU30は、余剰トルクに応じて必要となるA/C負荷トルクを設定する。設定されたA/C負荷トルクと、エンジン回転数とに基づいて、コンプレッサー7の必要圧力が決まり、必要圧力からコンプレッサー7の容量が決定される。ECU30は、決定された容量を実現するように、コンプレッサー7を制御する。ステップS260が実行されると、ステップS270に進む。
ステップS270でロックアップクラッチの解放後一定時間が経過したと判定され(ステップS270−Y)、燃料噴射制御および点火制御が実行され(ステップS280)、正トルクが発生したと判定された場合(ステップS290−Y)には、ステップS300に進む。
ステップS300では、ECU30により、A/C負荷処理が実行される。A/C負荷処理は、コンプレッサー7の容量に応じて発生するトルクであるA/C負荷トルクにより余剰トルクを打ち消す制御である。以下、図12を参照してA/C負荷処理の詳細について説明する。
まず、ステップS301では、ECU30により、エンジン推定トルクが算出される。エンジン推定トルクは、上記第2実施形態(図8のステップS191)で算出されるエンジン推定トルクと同様であることができ、例えば、図9に示すエンジントルク推定マップが参照されて推定される。
次に、ステップS302では、ECU30により、アイドル推定トルクが計算される。アイドル推定トルクは、上記第2実施形態(図8のステップS192)で算出されるアイドル推定トルクと同様であることができ、例えば、アクセルOFF時のスロットル開度TAに基づいて算出される。
次に、ステップS303では、ECU30により、A/C発生トルクが算出される。A/C発生トルクとは、エアコンのコンプレッサー7で発生させるべきトルク(A/C負荷トルク)の目標値である。A/C発生トルクは、ステップS301で算出されたエンジン推定トルクから、ステップS302で算出されたアイドル推定トルクを減じた値に設定される。なお、A/C発生トルクは、他の補機で発生する負荷トルクが考慮されて設定されてもよい。例えば、エンジン推定トルクから、アイドル推定トルクおよび他の補機の負荷トルクを減じた値がA/C発生トルクとして設定されてもよい。
次に、ステップS304では、ECU30により、一定時間が経過したか否かが判定される。この一定時間は、以下に図14を参照して説明するように、コンプレッサー7に対する動作指令(容量を変更するときの変更指令、あるいは、既に容量が固定されているときの運転開始指令)が出力されてから、実際にA/Cトルクが発生するまでの遅れ時間等が考慮されて設定されるものである。図14において、符号202は、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御がなされない場合の点火開始後の車両100の加速度の推移を示す。符号207は、コンプレッサー7に対する動作指示信号を示す。符号208は、コンプレッサー7で実際に発生するA/C負荷トルクを示す。動作指示信号207が出されてからコンプレッサー7の容量が変化し、あるいは運転が開始され、実際にA/C負荷トルク208が発生するまでには、所定の時間を要する。
ECU30は、例えば、実際のA/C負荷トルク208のピーク208aと、余剰トルクによる加速度の増加を低減させる制御がなされない場合の加速度のピーク202aとを同期させるように、ステップS304の一定時間を設定する。なお、ここで計測される経過時間は、例えば、ステップS290で正トルクが発生したと判定されてからの経過時間とすることができる。ステップS304の判定の結果、一定時間が経過したと判定された場合(ステップS304−Y)にはステップS305に進み、そうでない場合(ステップS304−N)には本制御フローは終了される。
ステップS305では、ECU30により、A/Cトルク指令がなされる。ECU30は、動作指示信号207を出力し、コンプレッサー7の容量を変化させ、あるいは、既に容量が固定されている場合にはコンプレッサー7の動作を開始させる。これにより、A/C負荷トルク208が発生し、余剰トルクが低減される。図14において、符号209は、本実施形態の駆動力制御がなされた場合の加速度の推移を示す。余剰トルクに応じたA/C負荷トルク208が作用することで、余剰トルクによる加速度の増加が抑制されている。
上記の各実施形態は、適宜組み合わせて実行することができる。また、余剰トルクを打ち消すための補機負荷トルクを発生させる補機は、上記のオルタネータ6やコンプレッサー7には限られず、他の公知の補機が用いられてもよい。なお、上記各実施形態の余剰トルクによる加速度の増加の低減方法に加えて、エンジン1の出力を低下させることで余剰トルクの発生自体を抑制する公知の方法を実施するようにしてもよい。例えば、エンジン1の点火時期を遅角させる点火遅角制御により余剰トルクを低減させるようにしてもよい。