JP5170856B2 - 導電性摺動材組成物 - Google Patents
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これらの問題を解決する方法として、樹脂に多孔質シリカおよび潤滑剤を少なくとも配合してなり、潤滑剤を摺動部表面に継続的に供給することによって優れた低摩擦・低摩耗性を有する摺動材組成物が知られている(特許文献1参照)。
すなわち、配合された導電材が油などの潤滑成分により隠蔽され、導電性能が発現しにくくなったり、また潤滑成分が導電材/樹脂界面に保持され、摺動に必要な潤滑成分が摺動界面に供給されず、耐摩耗性や摩擦トルクが著しく悪化し短寿命となる場合がある。またアルミ等の軟質材からなる軸を摺動相手材として使用する場合、上述の油切れや、配合した導電材により相手材を損傷する場合もある。多孔質シリカと潤滑成分とを配合した特許文献1のような樹脂組成物においては帯電防止に求められる以上の十分な導電性を有する樹脂組成物は従来知られていなかった。
なお、本発明において、基材とは摺動材を形成できる物質をいい、特に樹脂材料、ゴム弾性を有する材料、塗膜を形成できる材料をいう。
また、上記多孔質体は、連通孔を有し、平均粒子径 0.5μm〜100μm であることを特徴とする。
導電性摺動材組成物に所定の特徴を有する繊維状導電材を配合することにより、次のような作用が認められた。
(1)導電材は繊維径 0.3μm 以下、繊維長 1μm 以上で、かつアスペクト比 5 以上の形状を有するので、導電性摺動材組成物全体に対し優れた導電性を付与・持続できる。これは導電材が、その形状から同じ配合量でも他の繊維状導電材に較べて非常に本数が多くなるため、導電性摺動材組成物を構成する他材料中で分散した際、導電材同士が非常に絡み合いやすく、導通路となる接点の形成能力に優れるので、極小配合量であっても他材料中に均一で微細な導電性ネットワークを形成することができる。
(2)導電材は炭素原子からなるので帯電防止に求められる以上の導電性を付与できる。
(3)導電材は繊維径 0.3μm 以下、繊維長 1μm 以上で、かつアスペクト比 5 以上の非常に微細な形状を有するので、アルミのような軟質材料を摺動相手材とした場合でも相手材を損傷することなく使用できる。
(4)導電材を所定量配合することで、導電性摺動材組成物の摺動特性を損なわずに耐摩耗性を向上させることができ、かつ導電性を付与できる。
(5)導電材は繊維状であるので基材に対し充填材としても作用し、基材の機械的強度を向上させることができる。
(1)摺動界面に継続して潤滑剤を供給できるので、優れた摩擦・摩耗特性を持続できる。
(2)潤滑剤が含浸された多孔質体を配合することで、組成物中の含油量を多くできるので、従来の潤滑剤配合量である 5 体積%〜10 体積%よりも多く配合できる。
(3)潤滑剤成分が多孔質体に保持されるので、基材が射出成形できる樹脂である場合、射出成形時等にスクリュがすべる、計量が不安定となってサイクルタイムが長くなる、寸法精度がでにくい、金型表面に潤滑剤が付着して成形面の仕上がりが悪くなるなどの不具合が生じない。
(4)基材である樹脂やエラストマー材料と潤滑剤との相溶性により、これまで混練できなかった材料の組み合わせでも、問題なく混練できる。
(5)含油基材と補強材との併用を考えた場合、潤滑剤と補強材とをそれぞれ単体で配合して混練すれば補強材と基材との界面に潤滑剤が局存化し易く、補強効果が十分発揮できない場合、もしくは摺動界面に潤滑剤が供給されなくなる場合が生じる。しかし、潤滑剤を多孔質体に含浸させた潤滑性付与材を補強材と混練すれば、補強材と基材との界面に潤滑剤が存在しないため、所定の補強効果が得られる。
導電性物質としては、金属、炭素系物質が挙げられるが、これらの中で上記微小繊維状の物質を形成しやすい炭素系物質を用いることが好ましい。炭素系物質としては、炭素繊維が挙げられる。
また、導電材を所定量配合することで、導電性摺動材組成物の摺動特性を損なわずに耐摩耗性を向上させることができ、基材に対し充填材としても作用し、基材の機械的強度を向上させることができる。
このような導電材としては、一例として気相合成法で製造される微小な炭素繊維( Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)やグラファイトウィスカ、単層や複層のカーボンナノチューブ等が挙げられる。
潤滑剤成分を多孔質体に保持することで、基材が射出成形できる樹脂である場合に、射出成形時等にスクリュがすべる、計量が不安定となってサイクルタイムが長くなる、寸法精度が出にくい、金型表面に潤滑剤が付着して成形面の仕上がりが悪くなるなどの不具合が生じない。また、基材と潤滑剤との相溶性により、これまで混練できなかった材料の組み合わせでも、問題なく混練できる。
含油基材と補強材との併用を考えた場合、潤滑剤と補強材とをそれぞれ単体で配合して混練すれば補強材と基材との界面に潤滑剤が局存化するため、補強効果が十分発揮できない場合が生じる。しかし、潤滑剤を多孔質体、特に球状多孔質体に含浸させた潤滑性付与材を補強材と混練すれば、補強材と基材との界面に潤滑剤が存在しないため、所定の補強効果が得られる。
潤滑剤の粘度が高い場合には、球状多孔質体の内部に潤滑剤が浸透し難い。その際は、潤滑剤が溶解する適当な溶媒で希釈し、その希釈液を多孔質体に浸透させ、徐々に乾燥させて溶媒を揮発させることで多孔質体の内部に潤滑剤を含浸させる方法もある。
あるいは多孔質体を潤滑剤中に浸し、真空引きを行なって強制的に多孔質体の内部に潤滑剤を浸透させる方法、常温で固体の潤滑剤の場合、適当な温度に加熱し、潤滑剤を溶融させて含浸させる方法、常温で液体の潤滑剤でも、粘度が高い場合、適当な温度に加熱し、潤滑剤の粘度を低下させて含浸させる方法等が有効な手法である。また、不飽和ポリエステル樹脂などの液状樹脂に球状多孔質シリカ等の油含有物を混合した上で各種織布に含浸させ、それを積層して潤滑性付与材として使用することも可能である。
ここで、球状とは長径に対する短径の比が 0.8〜1.0 の球をいい、真球状とは球状よりもより真球に近い球をいう。
これらのなかで、連通孔を有し、潤滑剤を含浸・保持でき、摺動界面のせん断力で破壊する性質があり相手材を傷つけることのない真球状多孔質シリカを用いることが好ましい。好ましい多孔質シリカは非晶質の二酸化ケイ素を主成分とする粉末である。例えば、一次粒子径が 15 nm 以上の微粒子の集合体である沈降性シリカ、あるいはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有したケイ酸アルカリ水溶液を有機溶媒中で乳化し、炭酸ガスでゲル化させることにより得られる粒子径が 3〜8 nm の一次微粒子の集合体である真球状多孔質シリカ(特開2000−143228号公報等)等が挙げられる。
また、多孔質シリカとして(株)東海化学工業所製:マイクロイドがある。
ここで、比表面積および細孔体積は窒素吸着法により、吸油量はJIS K5101に準じて測定した値である。また、上記真球状シリカ粒子の内部と外表面はシラノール基(Si−OH)で覆われていることが、潤滑剤を内部に保持しやすくなるため好ましい。さらに、多孔質シリカは、母材に適した有機系、無機系などの表面処理を行なうことができる。
潤滑油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、ポリブテン、ポリ-α-オレフィン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂とポリオールとのエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、潤滑油として汎用されているものであれば使用できる。これらの中で、低摩擦が要求される本発明の導電性摺動材組成物には、シリコーン油などを用いることで好ましい結果が得られる。シリコーン油は上記真球状多孔質体表面に残存するシラノール基と親和性があるため特に好ましい。シリコーン油としては、官能基を有さないシリコーン油、官能基を有するシリコーン油のいずれも使用できる。
アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド類、3)ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸とアルカリ金属およびアルカリ土類金属との塩類等が挙げられる。
樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等、摺動材として使用できる形態を形成できる合成樹脂であれば特に限定されない。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、水架橋ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、PTFE樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリケトン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリオキサゾリン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等を例示できる。また、上記合成樹脂から選ばれた2種以上の材料の混合物、すなわちポリマーアロイなどを例示できる。
潤滑性付与材を得る工程は、少なくとも多孔質シリカ等の多孔質体と潤滑剤とをあらかじめ混練等することにより、多孔質体の有する連通孔に潤滑剤を含浸させる工程である。多孔質体の有する連通孔に潤滑剤を含浸させておくことによって、次の工程で潤滑剤が遊離することなく多孔質体の連通孔に保持されたまま、繊維状導電材とともに基材に配合され導電性摺動材に成形されるので、摺動界面において潤滑剤を少量ずつ供給できる潤滑性付与性能を発揮することができる。
なお、多孔質シリカ等の多孔質体は吸湿や吸水しやすいので、潤滑油を含浸する前に乾燥しておくことが好ましい。乾燥手段としては特に制限なく、電気炉での乾燥、真空乾燥などを採用できる。混練以外の多孔質体に潤滑剤を含浸する方法は、上述のとおりである。
多孔質体として球状多孔質シリカ、旭硝子社製:サンスフェアH53(平均粒子径 5μm )を、潤滑剤としてシリコーン油、信越シリコーン社製:KF96Hを、基材としてポリエチレン樹脂、三井石油化学社製:リュブマーL5000を、それぞれ用意した。球状多孔質シリカの体積を 1 として、その 6 倍の体積のシリコーン油を球状多孔質シリカに含浸して、潤滑性付与材を作製した。得られた潤滑性付与材と、表1に示す導電材とを、表2に示す割合でポリエチレン樹脂に添加して、2軸押出し装置を用いて溶融混練し、ペレットを得た。
<摩擦摩耗試験>
試験機:ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機
相手材:アルミニウム合金A5056(Ra=0.8μm )
面圧: 3 MPa
周速: 4.2 m/min.
温度: 30 ℃
時間: 20 h
雰囲気:大気中
測定項目および評価基準を以下に示す。
比摩耗量:試験前のピン試験片長さと試験後のピン試験片長さとの差から比摩耗量を計算し、500×10-8mm/(N・m)以下を可と評価して「○」を、それ以外を不可と評価して「×」を、それぞれ表2に併記した。
摩擦係数:試験終了前 1 時間における平均値を測定した。0.1 以下を可と評価して「○」を、それ以外を不可と評価して「×」を、それぞれ表2に併記した。
相手材表面の損傷状態:試験前後の相手材の状態を目視により観察し損傷がなければ可と評価して「○」を、損傷があれば不可と評価して「×」を、それぞれ表2に併記した。
<成形性試験>
成形性:摺動材試験片を作製するための射出成形時に、問題なく成形できれば可と評価して「○」を、成形できない場合は不可と評価して「×」を、それぞれ表2に併記した。
また、上記ペレットを用いて圧縮成形を行ない、直径Φ30 mm ×厚さ 1 mm の導電性試験片を成形した。得られた導電性試験片を、直径Φ20 mm ×高さ 10 mm のステンレス鋼SUS303製で、直径Φ20 mm 面の面粗さRa 0.04μm 以下の鏡面仕上げの 2 個の電極で挟み、面圧 3 MPa で加圧し、5 分後の抵抗値をデジタルマルチメータにて測定した。測定された抵抗値から体積抵抗値を求め、109Ω・cm 以下を導電性に優れると評価して「○」を、それ以外を導電性に劣ると評価して「×」を、それぞれ表2に併記した。
<総合評価>
上記摩擦摩耗試験、成形性試験および導電性試験におけるすべての評価が「○」であるものを、総合評価「○」とし、少なくともいずれかが「×」であるものを総合評価「×」とした。
比較例1は摩擦摩耗特性に優れたが、導電材を配合していないため絶縁体であった。
比較例2は導電材を所定量含んでいるため導電性に優れたが、潤滑性付与材が所定量配合されていないため摩擦係数が 0.1 以上と高く摩擦摩耗特性が劣った。
比較例3は潤滑性付与材が所定量の範囲をこえて配合されており樹脂分が少ないので、ペレットは得られたが射出成形できなかった。
比較例4は導電材が所定量をこえていたため摩擦摩耗特性が著しく悪化した。また、軟質材である相手材の損傷も発生した。射出成形は可能であったが、流動性が悪く成形性に劣った。
比較例5は導電材が、本発明で開示した特性を有しない導電材であったため、組成物が 109Ω・cm 以下の導電性を有しなかった。また、摩擦摩耗試験において、軟質材である相手材を損傷しており、摩擦係数が高く、耐摩耗性も著しく悪化した。
比較例6は使用した導電材がほぼ球状であり、粒子径は 0.055μm である。この導電材を仮に繊維径 0.055μm の繊維とみなした場合、アスペクト比は 1 であり、本発明で開示した特性を有していない。実際、この組成物は 109Ω・cm 以下の導電性を保有せず、また、耐摩耗性も悪化した。
Claims (3)
- 樹脂基材に、多孔質体に潤滑油を含浸保持して作製される潤滑性付与材と、繊維状導電材とを少なくとも混合して得られる導電性摺動材組成物であって、
前記導電性摺動材組成物中に占める配合割合は、前記潤滑性付与材が 5 体積%以上、60 体積%未満であり、前記繊維状導電材が 0.1 体積%以上、5 体積%未満であり、かつ前記樹脂基材が 40 体積%以上であり、
前記繊維状導電材は、炭素原子からなり、繊維径 0.3μm 以下、繊維長 1μm 以上で、かつアスペクト比 5 以上の形状を有することを特徴とする導電性摺動材組成物。 - 前記多孔質体は、連通孔を有し、平均粒子径 0.5μm〜100μm であることを特徴とする請求項1記載の導電性摺動材組成物。
- 前記樹脂基材がポリエチレン樹脂であり、前記潤滑油がシリコーン油であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の導電性摺動材組成物。
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