JP5155575B2 - 極性溶媒中で剥離する層状複水酸化物およびその製造法 - Google Patents

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本発明は、層状複水酸化物の中間層にフェノキシ酢酸マグネシウム塩をインターカレートすることにより、アルコール系溶媒中で剥離する性質を付与した層状複水酸化物およびその製造法に関する。
層状複水酸化物(LDH)は、一般式〔M2+ 1−x3+ (OH)x+〔An− x/n・yHO〕で表される陰イオン交換能をもつ層状化合物である。その結晶構造は、2価金属イオンの一部を3価金属イオンが置換した正八面体の水酸化物層(基本層)と、陰イオンと層間水からなる中間層からできている。LDHの特徴は、基本層の金属イオンの種類とその比ならびに中間陰イオンの種類の組み合わせが多様なことである。これまで多くの種類のLDHが合成され、また無機および有機陰イオンインターカレーションによる取り込みについて多くの研究が行われている。
一般にLDHでは基本層の電荷密度が大きく、基本層と中間層との間の静電引力が強いため、多くの粘土鉱物に見られるような層間の剥離現象は起こりにくいとされている。従って水または極性有機溶媒中で容易に剥離するLDHに関する報告は少ないが、その一つとして特開2004−189671号公報がある。ここでは中間層の陰イオンとして芳香族アミノカルボン酸、特にp−アミノ安息香酸をインターカレートすることにより、水またはエタノール等の低級アルコール中で剥離した状態で分散している分散液が得られることを報告している。これは芳香族アミノカルボン酸イオンをインターカレートすることにより、CO 2−イオンをインターカレートしたLDHに比べて基本層の距離が拡大された結果であると説明されている。
本発明者らは、先にWO2006/068118においてLDHの中間層に酢酸のMg,ZnまたはCe塩をインターカレーションした水中剥離型LDHを開示した。このLDHは水中でナノサイズの微粒子として分散し、透明な分散ゾルを形成する。この分散ゾルを例えば金属基板に塗布し乾燥すると緻密な透明な膜を形成し、これを高温で焼成することにより耐スクラッチ性の硬い皮膜が得られる。このためこのLDHは水系金属保護コーティング組成物のビヒクルまたは防錆顔料として有用である。
水中で剥離するLDHは水系金属保護コーティングのビヒクルまたは防錆顔料として有用であるが、溶剤系金属保護コーティングの防錆顔料として有用な極性溶媒中で完全に剥離するLDHが求められる。
本発明は、式(I):
Mg1−xAl(OH) (I)
(式中、xは0.2ないし0.33である。)の金属複水酸化物の基本層と、フェノキシ酢酸マグネシウムおよび層間水が該基本層の中間にインタカレートされている累積物よりなる層状複水酸化物を提供する。
さらに本発明は、式(II):
〔(Mg1−xAl(OH)〕〔(COx/2・yHO〕
(式中、xは0.2ないし0.33であり、yは0より大きい実数である。)の炭酸型層状複水酸化物を熱分解するステップ;
生成する熱分解物をフェノキシ酢酸マグネシウムの水溶液へ添加し、反応させるステップ;
生成する固体の反応生成物を反応液から分離するステップ;
分離した固体を乾燥し、粉砕するステップ;を含む本発明の層状複水酸化物の製造法を提供する。式(II)の炭酸型LDHはハイドロタルサイトとして知られている。
本発明LDHはアルコール系溶媒、特にベンジルアルコール中に剥離した状態のナノサイズの微粒子として分散する。この分散液または分散ゾルは半透明で、これも脱水乾燥すれば元のLDHへ復元する。このため剥離した分散状態のLDHを公知の溶剤系塗料に配合して防錆効果を高めることができる。
本発明のLDHは炭酸型LDHと、インターカレートすべきフェノキシ酢酸マグネシウムから出発し、他のアニオンをインターカレートしたLDHの製造のための再構築法に類似した方法に従って製造することができる。
再構築法とは、炭酸型LDHを予め400℃〜800℃の温度で焼成して炭酸イオンの大部分を除去した熱分解物を水中で他のアニオンと反応させ、再構築したLDHを生成させる方法である。本発明ではフェノキシ酢酸マグネシウムの水溶液へ炭酸型LDHの熱分解物を加え、常温で反応させる。
式(II)の炭酸型LDHはハイドロタルサイトとして天然に存在し、または公知の方法で合成することができる。このものは、例えばDHT−6として協和化学工業(株)から発売されている。炭酸型LDHの熱分解物に対するフェノキシ酢酸マグネシウムの比は、Alに換算した熱分解物中のAl含量と少なくとも等モルであることが好ましい。反応は常温(25℃)で10〜30時間攪拌または振とうして行うことが好ましい。反応後固体の反応生成物を濾過、遠心等によって分離し、100℃以下で乾燥し、粉砕して本発明のLDHを得る。
固体生成物は、X線回折像において層状構造であるLDH特有の回折パターンが見られ、炭酸型LDHと比較してピークが低角度側にシフトしていることから、基本層間の距離が層間にフェノキシ酢酸マグネシウムが取り込まれた結果拡大したことを示唆する。
FT−IRスペクトルからは取り込まれたマグネシウム塩に対応するカルボン酸に由来する吸収スペクトルが確認された。
フェノキシ酢酸マグネシウムを取り込んだLDHのベンジルアルコール中の分散液は速かにゲル化し、極性溶媒中でデラミネーションすることを示した。
本発明のLDHは、公知の溶剤系金属保護コーティング組成物にフィラーとして添加することもできる。金属保護コーティング組成物に、マイカ、タルク、カオリンなどのフレーク状フィラーを配合し、フレークの長軸方向への配向によって腐食因子の侵入に対するバリヤー層を形成させることは公知である。これらのフレーク状フィラーを本発明のLDHで代替することにより、同じ原理で腐食因子に対するバリヤー層を形成させることができる。剥離した状態にある本発明のLDHは公知のフレーク状フィラーよりもアスペクト比が有意に大きく、かつ厚みが約6〜10nmであって、炭酸型LDHの厚み約40〜50nmよりも有意に小さい。そのため匹敵する長径を有する炭酸型LDHよりも一層長軸方向への配向が容易であるため、より有効なバリヤー層を形成する。
溶剤系コーティング組成物のビヒクル(バインダー)は常乾型および熱硬化型から選ぶことができる。その具体例は、アルキド樹脂、オイルフリーポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル(エポキシアクリレート)樹脂、フェノール樹脂、アミノプラスト樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ゴム、それらの混合物および変性樹脂を含む。
添加する場合、防錆顔料は、鉛、クロム等の有害重金属を含まない顔料が好ましく、その例はリン酸亜鉛、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウムのようなリン酸塩系、モリブデン酸亜鉛などのモリブデン酸塩系、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウムのようなホウ酸塩系、カルシウム置換シリカ系防錆顔料を含む。
第I部 極性溶媒中で剥離するLDHの製造
実施例1
フェノキシ酢酸マグネシウム0.28mol/L(91.4g/L)水溶液へ、予め700℃において20時間熱処理を行ったMg−Al系炭酸型複水酸化物(協和化学工業(株)製DHT−6;炭酸LDH)の0.28mol/L(96.3g/L)水溶液を加える。15時間室温で攪拌後、得られた固形生成物(ゲル)を濾過して分離し、90℃乾燥機中10時間乾燥し、粉砕した。このものをMg−PhCar/LDHと呼ぶ。
比較例1
フェノキシ酢酸マグネシウムを酢酸マグネシウムに変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、Mg−Ac/LDHを得た。
第II部 LDHのキャラクタリゼーション
(分散体の可視光透過率)
Mg−PhCar/LDH、Mg−Ac/LDHおよび炭酸LDHの0.5%水分散体とベンジルアルコール分散体を各々作成し、可視光線領域(400nm〜780nm)における透過率を分光光度計(ダブルビーム直接比率測光方式自記分光光度計:島津製作所製UV3100型)にて1cm石英セルを用い測定した。
水 ベンジルアルコール
Mg−PhCar/LDH ≒0% 50%以上
Mg−Ac/LDH 50%以上 ≒0%
炭酸LDH ≒0% ≒0%
炭酸LDHは、水分散体・ベンジルアルコール分散体ともに400nm〜780nmの可視光領域では、透過率が殆ど0%であった。
Mg−Ac/LDHでは、水分散体では上記波長域における透過率が、50%以上を示していたが、ベンジルアルコール分散体では透過率が殆ど0%であった。
Mg−PhCar/LDHでは、ベンジルアルコール分散体では上記波長域における透過率が、50%以上を示していたが、水分散体では透過率が殆ど0%であった。
このことはMg−PhCar/LDHが、ベンジルアルコール中で実質上完全に剥離してコロイド溶液を生成するのに対し、水中では剥離しないことを意味する。
また、水中では完全に剥離するMg−Ac/LDHは、ベンジルアルコール中では剥離しないことを意味している。
(原子間力顕微鏡観察)
Mg−PhCar/LDH、Mg−Ac/LDHおよび炭酸LDHをベンジルアルコールに分散し、原子間力顕微鏡(日本ビーコ製ナノプローブ顕微鏡ナノスコープIII)で厚さを観察すると、それぞれ6.7nm、114.0nm、49.6nmとなっていた。
このことからも、Mg−PhCar/LDHがベンジルアルコールに分散することによって、Mg−Ac/LDH、炭酸LDHと異なり、ベンジルアルコール中で層間剥離することを証明している。
第III部 防錆コーティングとしての使用
塗料組成物の作成
エピクロン9055−40AX(大日本インキ化学工業製エポキシ樹脂:不揮発分40%)21.6gにJR−603(テイカ製酸化チタン)18.7g、キシレン5g、ベンジルアルコール25g、Mg−PhCar/LDH2.5g、1mm径ガラスビーズを140gを添加し、ペイントコンディショナーで30分間分散した。これにエピクロン9055−40AX−43.2g、スーパーベッカミンL−105−60(大日本インキ化学工業製エポキシ樹脂:不揮発分60%)4.8gを追加し、さらに15分間分散した。これを吉野紙で濾過し、Mg−PhCar/LDH配合塗料組成物―(III―1)を得た。(乾燥塗膜中5%)
Mg−PhCar/LDHをMg−Ac/LDHに変更する以外は同様の操作を行い、Mg−Ac/LDH配合塗料組成物―(III―2)を得た。
Mg−PhCar/LDHを炭酸LDHに変更する以外は同様の操作を行い、炭酸LDH配合塗料組成物―(III―3)を得た。
塩水噴霧用テストパネルの作成
塗料組成物III−1〜3を亜鉛メッキ鋼板(SGCC)に硬化塗膜が10μmなるようにバーコーターを用いて塗布し、これをパネル温度が220℃になるように乾燥させ、テストパネルとした。
塩水噴霧試験
評価方法
各テストパネルにカッターナイフでクロスカットを入れ、機内温度35℃に保った塩水噴霧試験機に入れ、5%塩化ナトリウム水溶液を1kg/cm
で所定時間噴霧し、平面からのブリスター・錆の発生・クロスカット部からの腐食幅を観察した。結果を以下に示す。
これにより本発明に基づくMg−PhCar/LDH配合塗料組成物の防錆性の効果は確認された。より薄膜にすることにより、一次防錆処理剤としての利用も期待できる。
評価結果
試験板 試験時間 平面部 カット部
III―1 SGCC 240h ◎ ◎
III―2 SGCC 240h ○ △
III―3 SGCC 240h ○ △
評価:
平面部
◎:ブリスター、錆ほとんどなし
○:ブリスター、錆が少し発生
△:ブリスター、錆がやや多い
×:ブリスター、錆が全面に発生

カット部
◎:腐食幅0.5mm未満
○:腐食幅0.5〜1mm未満
△:腐食幅1mm〜3mm
×:腐食幅3mm以上

Claims (7)

  1. 式(I):
    Mg1−xAl(OH) (I)
    (式中、xは0.2ないし0.33である。)の金属複水酸化物の基本層と、フェノキシ酢酸マグネシウムおよび層間水が該基本層の中間にインタカレートされている累積物よりなる層状複水酸化物。
  2. Alに換算した基本層に対し、少なくとも等モルのフェノキシ酢酸マグネシウムがインターカレートされている請求項1の複水酸化物。
  3. 極性溶媒中でナノサイズの粒子に剥離させてなる請求項1または2の複水酸化物。
  4. 極性溶媒はアルコール溶媒である請求項3の複水酸化物。
  5. 式(II):
    〔(Mg1−xAl(OH)〕〔(COx/2・yHO〕
    (式中、xは0.2ないし0.33であり、yは0より大きい実数である。)の炭酸型層状複水酸化物を熱分解するステップ;
    生成する熱分解物をフェノキシ酢酸マグネシウムの水溶液へ加えるステップ;
    反応した固体生成物を反応液から分離するステップ;および
    分離した固体を乾燥し、粉砕するステップ;
    を含む請求項1の層状複水酸化物の製造法。
  6. 炭酸型層状複水酸化物の熱分解は400℃〜800℃の温度で行われる請求項5の方法。
  7. Alに換算した熱分解した炭酸型層状複水酸化物に対し、少なくとも等モルのフェノキシ酢酸マグネシウムを反応させる請求項5の方法。
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