JP2007022881A - 耐酸性を有するハイドロタルサイト複合材料およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、耐酸性を有するハイドロタルサイト複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 耐酸性を有する不飽和脂肪酸によってハイドロタルサイトの表面をコーティングすることにより、耐酸性ハイドロタルサイト複合体を合成する。不飽和脂肪酸の不飽和結合に由来する屈曲した分子構造による効果で、ハイドロタルサイトの外表面において陰イオン交換当量の値を超えて耐酸性の不飽和脂肪酸分子が吸着し、ハイドロタルサイトを好適に酸から保護することができる表面コーティングが実現される。
【選択図】 図2
【解決手段】 耐酸性を有する不飽和脂肪酸によってハイドロタルサイトの表面をコーティングすることにより、耐酸性ハイドロタルサイト複合体を合成する。不飽和脂肪酸の不飽和結合に由来する屈曲した分子構造による効果で、ハイドロタルサイトの外表面において陰イオン交換当量の値を超えて耐酸性の不飽和脂肪酸分子が吸着し、ハイドロタルサイトを好適に酸から保護することができる表面コーティングが実現される。
【選択図】 図2
Description
本発明は、耐酸性を有するハイドロタルサイト複合材料に関し、より詳細には、オレイン酸ナトリウムを表面に吸着させた耐酸性ハイドロタルサイト複合材料およびその製造方法に関する。
層状複水酸化物(Layerd Double Hydroxide、以下LDHという)は、M2+ xM3+ y(OH)2x+2yAy/n・zH2Oの一般式で表される不定比化合物であって、粘土鉱物同様に層状構造を持ち、M2+(OH)6八面体層(ブルーサイト層)中のM2+がM3+に同形置換することにより、正の層電荷を有する。図12に、LDHの層状構造の概略図を示す。図12に示すように、層の正電荷を補償するために、LDHの層間には陰イオン(A−)が配位しており、LDHはこの層間陰イオンの特性に起因する陰イオン交換能を示す。
また、LDHは、熱分解すると層構造が破壊され、金属酸化物となり、金属酸化物の状態で水に浸漬すると、水中の陰イオンを層間に取り込みながら層構造が再構築するという性質がある。このようなLDHの陰イオン交換能および再構築機能を用いて、層間に様々な陰イオンを取り込み、機能性を持たせたLDH複合材料の開発が多数報告されている。たとえば、LDHの層間にハロゲンを捕集する性質を利用した、Ziegler Natta重合触媒の中和剤、遊離塩素吸着剤およびハロゲン系配合剤の安定剤等のプラスチックの添加剤として、さらには、環境触媒として有効なポルフィリン、フタロシアニンなどの生体模倣触媒やポリ酸などの光触媒などの触媒担体としても利用されている。一方で、LDHは環境親和的応用の面でも注目を集めており、イオン交換や再構築過程での陰イオン取り込みを利用して、陰イオン性有害物質の除去に用いられている。たとえば、工業排水由来のクロム酸やセレン酸陰イオン、富栄養化を引き起こすリン酸イオンなどがLDHを用いて吸着除去されている。
天然に産出するLDHとしてハイドロタルサイトMg6Al2(OH)16CO3−4H2Oが知られている。ハイドロタルサイトは、Mg2+とAl3+の複水酸化物からなる層状構造を持ち、その層間の陰イオンである炭酸イオンを含む。また、ハイドロタルサイトは、種々の方法で合成が可能であり、合成ハイドロタルサイトは、樹脂フィルムの透明性、耐熱性、非帯電性の向上などを目的とした添加剤や、樹脂中の酸成分の除去を目的とした吸着剤として利用されている。
さらに、ハイドロタルサイトの医療分野への応用例として、胃酸過多の抑制を目的とした医薬用の制酸剤としての利用が知られている。この制酸剤としての作用は、ハイドロタルサイトが溶解して胃酸中の酸を中和することによって奏されるものであり、このことから分かるように、ハイドロタルサイト自体は酸に溶解する性質を持つ。ハイドロタルサイトのこの酸への溶解を制御することが可能になれば、医療分野においてさらなる応用範囲の拡張が期待できる。
一方、オレイン酸はオリーブオイルや皮脂の主成分として知られる生体に親和的な油脂であり、不飽和結合を持つため胃酸では分解されにくいが、十二脂腸から分泌される胆液で乳化されたのち膵液で分解されることが知られている。
飽和脂肪酸及びアルキル硫酸イオンをゲストとして、上述した陰イオン交換能および再構築機能を利用したハイドロタルサイト層間へのインターカレーションについての報告は多数あり、たとえば、特許文献1は、層間に有機酸を有する層状複水酸化物について開示しており、特許文献2は、アスコルビン酸を取り込んだ層状複水酸化物について開示している。しかしながら、オレイン酸を代表とする不飽和脂肪酸をゲストとしたハイドロタルサイトに関する研究例は、非特許文献1に記載された一例しかない。非特許文献1は、再構築機能を利用して合成されたオレイン酸−ハイドロタルサイト複合体を開示するが、そのオレイン酸/Al比は、1.03であり、ほぼ陰イオン交換当量の値までしかオレイン酸が吸着されておらず、ハイドロタルサイト複合体の耐酸性を向上させた例はなかった。
特開2004−352541
特開2004−91421
小川誠ら、日本セラミックス協会、第42回基礎科学討論会、講演要旨集、456−457、(2004)
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、耐酸性を有するハイドロタルサイト複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ハイドロタルサイトの陰イオン交換能および再構築機能を利用して、ハイドロタルサイトの層間に薬剤等を保持させたのち、耐酸性を有する物質によってハイドロタルサイトの表面をコーティングすることにより、耐酸性ハイドロタルサイト複合体を合成することができれば、たとえば、十二脂腸潰瘍などの薬剤を、胃腸内で作用させることなく、十二脂腸まで送ることができるドラックデリバリーシステムへ応用することができると考えた。
そこで、本発明者らは、オレイン酸ナトリウムがその不飽和結合のため耐酸性を有すると共に、図13に示すように、その不飽和結合に由来する屈曲した分子構造を持つことに着目し、過剰のオレイン酸ナトリウムとハイドロタルサイトとを混合すれば、ハイドロタルサイト層の静電引力による吸着のみならず、オレイン酸ナトリウムの上述した屈曲した分子構造によって、オレイン酸ナトリウムの分子鎖同士が絡み合うことで、ハイドロタルサイトの外表面において陰イオン交換当量の値を超えて吸着し、ハイドロタルサイトを好適に酸から保護することができる表面コーティングが実現しうると考えるに至った。
以上のような着想の下、本発明者らは、耐酸性の不飽和脂肪酸であるオレイン酸ナトリウムをハイドロタルサイトに吸着させ、耐酸性ハイドロタルサイト複合体を合成すべく、ホストであるハイドロタルサイトの合成方法、および、オレイン酸ナトリウムとの複合化方法を含め鋭意検討を実施した。その結果、耐酸性ハイドロタルサイト複合体の合成に成功し、本発明に至ったのである。
すなわち、本発明によれば、イオン性化合物を含む層状複水酸化物であって、前記層状複水酸化物は、イオン交換能を有し、前記イオン性化合物を前記層状複水酸化物のイオン交換当量から予測されるモル比を超えて含む層状複水酸化物が提供される。前記イオン性化合物は、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸塩から選択される少なくとも一種の化合物を含むことができ、前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸を含むことができる。また、前記層状複水酸化物は、ハイドロタルサイトとすることができる。
さらに、本発明によれば、2種以上のイオン性化合物を含む層状複水酸化物の製造方法であって、第1のイオン性化合物を前記層状複水酸化物にインターカレートする工程と、前記第1のイオン性化合物がインターカレートされた前記層状複水酸化物の水溶液と第2のイオン性化合物の水溶液とを混合する工程とを含む製造方法が提供される。前記第2のイオン性化合物は、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸塩から選択される少なくとも一種の化合物を含むことができ、前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸を含むことができる。また、前記層状複水酸化物は、ハイドロタルサイトとすることができ、さらに、前記インターカレートする工程は、再構築法によって行うことができる。
上述したように、発明によれば、耐酸性を有するハイドロタルサイト複合材料およびその製造方法が提供される。
以下、本発明を具体的な実施に形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。まず最初に、本発明の耐酸性ハイドロタルサイト複合体の合成方法について説明する。本発明の耐酸性ハイドロタルサイト複合体の合成工程は、概ね、ハイドロタルサイトの作製の工程と、作製されたハイドロタルサイトと不飽和脂肪酸またはその塩との複合化の工程とからなる。以下、各行程について順を追って説明する。
A.ハイドロタルサイトの作製
図1は、ハイドロタルサイトの作製工程を示したブロック図である。本発明の実施形態においては、共沈法によるハイドロタルサイトの作製について説明するが、本発明の耐酸性ハイドロタルサイト複合材料の合成に用いられるハイドロタルサイトは、共沈法に限らず、均一沈澱法など他の公知の方法によって作製することもできる。
図1は、ハイドロタルサイトの作製工程を示したブロック図である。本発明の実施形態においては、共沈法によるハイドロタルサイトの作製について説明するが、本発明の耐酸性ハイドロタルサイト複合材料の合成に用いられるハイドロタルサイトは、共沈法に限らず、均一沈澱法など他の公知の方法によって作製することもできる。
まず、蒸留水の中に水酸化ナトリウム(NaOH)及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)を溶解させる。この混合溶液中に硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)と硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)を溶解させた水溶液を投入し、室温で激しく攪拌し共沈させた後、この溶液を室温で好ましくは24時間攪拌し、熟成させる。その後、熟成させた溶液を遠心分離器を用いて固液分離し、蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄する。得られた固体試料を、好ましくは80℃の恒温槽にて一晩乾燥したのち、乳鉢で解砕してハイドロタルサイトを得る。次に、本工程で得られたハイドロタルサイトとオレイン酸ナトリウムとの複合化について以下説明する。
B.不飽和脂肪酸(またはその塩)とハイドロタルサイトとの複合化
本発明においては、ハイドロタルサイトと複合化するイオン性化合物として、不飽和脂肪酸またはその塩を用いる。不飽和脂肪酸塩としては、一価の不飽和脂肪酸塩であるオレイン酸ナトリウム(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COONa)を用いることが好ましい。オレイン酸ナトリウムは、オレイン酸をNaOHによりけん化して得られる陰イオン界面活性剤であり、その分子中にひとつの不飽和結合(二重結合)を有するため、屈曲した分子鎖構造を有している。ただし、本発明においては、オレイン酸の他に、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸およびこれらの塩、またはこれらのいかなる混合物を用いることもできる。
本発明においては、ハイドロタルサイトと複合化するイオン性化合物として、不飽和脂肪酸またはその塩を用いる。不飽和脂肪酸塩としては、一価の不飽和脂肪酸塩であるオレイン酸ナトリウム(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COONa)を用いることが好ましい。オレイン酸ナトリウムは、オレイン酸をNaOHによりけん化して得られる陰イオン界面活性剤であり、その分子中にひとつの不飽和結合(二重結合)を有するため、屈曲した分子鎖構造を有している。ただし、本発明においては、オレイン酸の他に、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸およびこれらの塩、またはこれらのいかなる混合物を用いることもできる。
以下、本発明の実施の形態においては、オレイン酸ナトリウムとハイドロタルサイトの複合化について説明する。複合化は、ハイドロタルサイトの陰イオン交換機能を用いた陰イオン交換法、または、再構築機能を用いた再構築法の二種類の方法により行うことができる。それぞれの方法による工程について、以下順を追って説明する。
図2(a)は、陰イオン交換法による複合化工程を示したブロック図である。まず、蒸留水中にオレイン酸ナトリウムを投入し、充分溶解させた後、所定の濃度となるように調製する。調整するオレイン酸ナトリウム溶液の初期濃度を増加させるに従って、ハイドロタルサイトへのオレイン酸ナトリウムの吸着量は増加し、一定の濃度を超えると平衡状態になる。本発明の実施の形態においては、ハイドロタルサイト0.2gを100mlのオレイン酸ナトリウム水溶液と混合して複合化する場合、オレイン酸ナトリウム水溶液の上記所定の濃度は0.01mol/l以上であることが好ましい。所定の濃度に調整したオレイン酸ナトリウム水溶液に作製したハイドロタルサイトを投入し、室温で好ましくは24時間攪拌する。その後、遠心分離器により固液分離を行い、さらに蒸留水で充分に洗浄をして、最後に好ましくは110℃の恒温槽中にて充分乾燥したのち、乳鉢で解砕して、オレイン酸ナトリウム-ハイドロタルサイト複合体(以下、複合体という)を得る。
上述した陰イオン交換法による複合化工程においては、ハイドロタルサイトの層間の炭酸イオン(CO3 2-)は、オレイン酸とほとんどイオン交換されない。ハイドロタルサイト層間における、炭酸イオン(CO3 2-)の選択性は、オレイン酸に比べ格段に高く、炭酸イオン(CO3 2-)は層間において非常に安定に存在しているからである。しかしながら、上記所定の濃度のオレイン酸ナトリウム溶液において、陰イオン交換法による複合化を行った場合、予想に反し、オレイン酸は、ハイドロタルサイトの層間ではなく、主に、ハイドロタルサイトの表面に吸着する。この詳細な吸着機構は明らかにはなっていないが、おそらく、ハイドロタルサイトの表面、および、その層の端面に、層電荷に起因する静電引力によって引き寄せられ吸着した一部のオレイン酸イオンの分子鎖に、他のオレイン酸ナトリウムの分子鎖が絡みつくような形で繋がり合い、その結果、オレイン酸ナトリウムの分子がハイドロタルサイトの表面を覆うような形になっていると考えられる。続いて、もう一つの複合化工程について説明する。
図2(b)は、再構築法による複合化工程を示したブロック図である。まず、作製したハイドロタルサイトを好ましくは500℃で12時間焼成することにより焼成ハイドロタルサイトを得る。一方、イオン交換水を用いて所定の濃度のオレイン酸ナトリウム水溶液を調製する。調整するオレイン酸ナトリウム水溶液の濃度に関しては、上述したとおりである。次に、上記焼成ハイドロタルサイトを調整したオレイン酸ナトリウム水溶液中に投入し、室温で好ましくは24時間攪拌する。その後遠心分離器により固液分離を行い、さらにイオン交換水で充分に洗浄をして、最後に好ましくは110℃の恒温槽中にて充分乾燥し、乳鉢で解砕して複合体を得る。
上述した再構築法による複合化工程においては、ハイドロタルサイトの層間の炭酸イオン(CO3 2−)は、オレイン酸と一部交換され、オレイン酸イオンの単分子または二分子鎖、あるいはオレイン酸ナトリウムの球状ミセルが、ハイドロタルサイトの層間に導入され、新たな結晶構造が形成される。
最後に、本発明の複合体によるドラックデリバリーシステムについて、以下説明する。本発明の複合体によるドラックデリバリーシステムは、消化器官において所望の場所で輸送対象、すなわち、薬剤が放出され作用することを可能にするものである。
手順としては、まず、電離して陰イオンとなるイオン性化合物である薬剤、たとえばアルカリ塩からなるものなどをイオン交換水に溶解し薬剤の水溶液を調製する。調整した水溶液に焼成ハイドロタルサイトを投入し、再構築法によるインターカレーションを行う。上記工程において、薬剤は、ハイドロタルサイトの層間に取り込まれ層構造が再構築する。その後、洗浄、乾燥工程を経て薬剤が封入されたハイドロタルサイトを得る。
続いて、上記得られたハイドロタルサイトを、上述した陰イオン交換法によるオレイン酸ナトリウム-ハイドロタルサイト複合化工程を経て複合化する。上記工程により、薬剤が封入されたハイドロタルサイトは、オレイン酸ナトリウムによってその表面に好適に耐酸性のコーティングが施される。たとえば、上記工程において、調整するオレイン酸ナトリウム水溶液の濃度を調整することで、ハイドロタルサイトへのオレイン酸ナトリウムの吸着量を制御することで、耐酸性を薬剤の用途に応じて好適に設計することもできる。すなわち、耐酸性を設計することで、薬剤が体内に放出されるタイミングを制御しうる。たとえば、薬剤が胃腸のような酸性の環境下では全く作用せず、十二指腸内で主に作用するように設計することすることもでき、あるいは、胃腸内で徐々に作用したのち十二指腸内でも作用するように設計することもできる。
以下、本発明の耐酸性ハイドロタルサイト複合体について、実施例を用いてより具体的に説明する。
(実施例1)
A.炭酸型ハイドロタルサイトの作製
共沈法により以下の手順で炭酸型ハイドロタルサイトを作製した。ビーカー中に蒸留水を100ml加え、これに水酸化ナトリウム(NaOH)約2g及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)を溶解させた。この溶液中に硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)と硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)を溶解させた水溶液を投入し、室温で激しく攪拌し共沈させた。本実施例においては、MgとAlのモル比(Mg/Al)が、2、3、4および5となるように4種類の溶液を調整した。調整したそれぞれの溶液について用いた試料の質量およびモル数を表1に示す。
A.炭酸型ハイドロタルサイトの作製
共沈法により以下の手順で炭酸型ハイドロタルサイトを作製した。ビーカー中に蒸留水を100ml加え、これに水酸化ナトリウム(NaOH)約2g及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)を溶解させた。この溶液中に硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)と硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)を溶解させた水溶液を投入し、室温で激しく攪拌し共沈させた。本実施例においては、MgとAlのモル比(Mg/Al)が、2、3、4および5となるように4種類の溶液を調整した。調整したそれぞれの溶液について用いた試料の質量およびモル数を表1に示す。
上記4種類の溶液につき、それぞれ室温で24時間攪拌し、熟成させた。その後、遠心分離器(コクサン(株)製H−200N)を用いて8000rpm、20分の条件で固液分離し、蒸留水で2回洗浄後、エタノールで1回洗浄した。得られた固体試料を80℃恒温槽にて乾燥し、乳鉢で解砕してハイドロタルサイトを得た。
次に、上記4種類の溶液から作製された各ハイドロタルサイト試料について粉末X線回析(XRD)を行った。粉末X線回析装置は、XRD−6100(島津製作所(株)製)を用い、表2に示す条件で測定した。
図3は、作製されたハイドロタルサイトの粉末X線回析の結果を示した図である。図3の線は、上から順番に、MgとAlのモル比(Mg/Al)を5、4、3、2となるように調整した溶液から作製されたハイドロタルサイト試料の測定値を示す。どの組成(Mg/Al)のハイドロタルサイトおいても炭酸型ハイドロタルサイトの特徴的なパターンを示しており、底面間隔003面のピークが2θ=11°付近にはっきりと確認できることから、高い結晶性の層状構造を有していることがわかった。
B.オレイン酸ナトリウムとハイドロタルサイトとの複合化
オレイン酸ナトリウムとハイドロタルサイトとの複合化は、ハイドロタルサイトの陰イオン交換機能を用いた交換法および再構築機能を用いた再構築法の二種類の方法により行った。試料には、上述した手順で作製したハイドロタルサイトとオレイン酸ナトリウム(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COONa)(化学用、和光純薬工業(株)製)を用いた。
オレイン酸ナトリウムとハイドロタルサイトとの複合化は、ハイドロタルサイトの陰イオン交換機能を用いた交換法および再構築機能を用いた再構築法の二種類の方法により行った。試料には、上述した手順で作製したハイドロタルサイトとオレイン酸ナトリウム(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COONa)(化学用、和光純薬工業(株)製)を用いた。
(1)陰イオン交換法による複合化
蒸留水中にオレイン酸ナトリウムを投入し、充分溶解させた後、濃度が0.1Mとなるように調整した。調整したオレイン酸ナトリウム水溶液100ml中に上述した手順で作製したハイドロタルサイト0.2gを投入し、室温で24時間撹拌した。その後、遠心分離器により固液分離を行い、さらに3回蒸留水で洗浄をして、最後に110℃の恒温槽中にて充分乾燥した後、乳鉢で解粉砕して複合体試料を得た。
蒸留水中にオレイン酸ナトリウムを投入し、充分溶解させた後、濃度が0.1Mとなるように調整した。調整したオレイン酸ナトリウム水溶液100ml中に上述した手順で作製したハイドロタルサイト0.2gを投入し、室温で24時間撹拌した。その後、遠心分離器により固液分離を行い、さらに3回蒸留水で洗浄をして、最後に110℃の恒温槽中にて充分乾燥した後、乳鉢で解粉砕して複合体試料を得た。
(2)再構築法による複合化
上述した手順で作製したハイドロタルサイトを500℃、12時間焼成することにより焼成ハイドロタルサイトを得た。次に、イオン交換水を用いて、オレイン酸ナトリウム水溶液0.1Mを調製した。得られた焼成ハイドロタルサイト0.2gを上記オレイン酸ナトリウム水溶液100ml中に投入し、室温で24時間攪拌した。その後、遠心分離器により固液分離を行い、さらに3回イオン交換水で洗浄をして、最後に110℃の恒温槽中にて充分乾燥し、乳鉢で解砕して複合体試料を得た。
上述した手順で作製したハイドロタルサイトを500℃、12時間焼成することにより焼成ハイドロタルサイトを得た。次に、イオン交換水を用いて、オレイン酸ナトリウム水溶液0.1Mを調製した。得られた焼成ハイドロタルサイト0.2gを上記オレイン酸ナトリウム水溶液100ml中に投入し、室温で24時間攪拌した。その後、遠心分離器により固液分離を行い、さらに3回イオン交換水で洗浄をして、最後に110℃の恒温槽中にて充分乾燥し、乳鉢で解砕して複合体試料を得た。
C.複合体試料のキャラクタリゼーション
陰イオン交換法および再構築法によって合成された複合体試料の複合状態を解析するために、粉末X線回析(XRD)を行った。粉末X線回析装置にはXRD−6100(島津製作所(株)製)を用い、表3に示す条件で測定した。
陰イオン交換法および再構築法によって合成された複合体試料の複合状態を解析するために、粉末X線回析(XRD)を行った。粉末X線回析装置にはXRD−6100(島津製作所(株)製)を用い、表3に示す条件で測定した。
図4は、オレイン酸ナトリウムの赤外吸収スペクトルを示す。図中の☆印で示したオレイン酸ナトリウムの2920cm−1(1cm-1=11.963J/molとして換算し、MKS単位系とすることができる、以下同じ)付近の吸収ピークは、オレイン酸の鎖状構造中の−CH2−結合による吸収である。そこで、この吸収強度を複合体試料におけるオレイン酸ナトリウムの定量分析に用いた。測定はKBr錠剤法で行い、オレイン酸ナトリウムの中のKBr濃度を変えて赤外吸収スペクトルを測定した。
図5は、上記測定結果に基づき、KBr中のオレイン酸量に対して吸収ピーク面積をプロットしたグラフを示す。このプロットを最小二乗法により直線近似し、数1に示す検量線を得た。数式中のxはオレイン酸ナトリウムの量(mg)、yはピーク面積(a.u.)である。
図6は、陰イオン交換法により合成された複合体試料のXRDパターンを、組成比(Mg/Al)ごとに並べて示す。図中の▼はハイドロタルサイトのピークを示し、図中の◆はオレイン酸ナトリウムのピークを示す(以下、図8および図9においても同じ)。複合化後のXRDパターンにおいては2θ=20°付近にオレイン酸ナトリウムのピークが検出され、オレイン酸ナトリウムの吸着が確認された。同時に、複合化前後のXRDパターンを対比すると、ハイドロタルサイトの層構造に由来する2θ=11°、22.5°のピークのシフトが見られなかったため、層間隔は変化していないと考えられ、この結果から、陰イオン交換法においては、オレイン酸ナトリウムはハイドロタルサイトの層間へ導入されていないことが示唆された。
図7は、陰イオン交換法により合成された複合体試料の赤外吸収スペクトルを示す。赤外吸収スペクトルにおいては1560cm-1に−COONa、1440cm-1にCH2シザリング、2920cm-1にオレイン酸の鎖状構造中の−CH2−結合による吸収が見られ、オレイン酸ナトリウムの吸着が確認された。赤外吸収スペクトルにおいては、オレイン酸として存在しているときは、およそ1710cm-1付近に−COO-の非対称伸縮振動による吸収ピークが見られ、それがオレイン酸塩の−COONaになると1560cm-1付近にシフトすることが知られており、図7の赤外吸収スペクトルにおいては、1710cm-1の吸収ピークが観察されていないことから、上述したXRDの結果が示唆した点と併せると、陰イオン交換法によって合成された複合体試料においては、オレイン酸ナトリウムとしてハイドロタルサイトの表面に吸着していることがわかった。
図8は、再構築法により合成された複合体試料のXRDパターンを、組成(Mg/Al)ごとに並べて示す。再構築法による複合化後のXRDパターンのピークは交換法に比べ全体的にブロードであり、複合前は最も強かった底面間隔(003)、(006)のピークが複合後は弱くなり、特に(006)についてはオレイン酸ナトリウムによるピークがハイドロタルサイトのピークより強く現れた。この結果から、再構築法においては、オレイン酸ナトリウムがハイドロタルサイトの層間に入り、ハイドロタルサイトの層間隔が広がったことがわかった。
図9は、再構築法により合成した複合体試料に関して詳細に測定したXRDパターンを示す。複合後には、2θ=2.3、5.1°付近に☆で示した新たなピークが現れ、これらのピークの底面間隔を計算したところ、2θ=2.3、5.1°においてそれぞれd=39、18Åであった。もとの(003)ピークの底面間隔は約8Åであったことから、オレイン酸イオンの単分子または二分子鎖、あるいはオレイン酸ナトリウムの球状ミセルが、ハイドロタルサイトの層間に導入されたことがわかった。
図10は、再構築法により合成された複合体試料の赤外吸収スペクトルを示す。図中赤外吸収のスペクトルにおいては、1710cm-1付近にオレイン酸由来のCOO-のピークが現れ、層間CO3 2-のピークが極端に弱くなっていた。以上のことから、複合前に層間に存在していたCO3 2-が複合化工程においてオレイン酸(−COO-)と一部入れ替わったことがわかった。
以上の結果から、再構築法で合成した複合体試料においては、ハイドロタルサイトの層構造が変化して、新たな積層構造が形成されたことがわかった。
図11は、再構築法および陰イオン交換法によって合成した複合体について、上述した検量線から算出したオレイン酸ナトリウムの吸着量を組成(Mg/Al)に対してプロットしたグラフを示す。図11は、Al置換量が減少するにつれて、すなわち、陰イオン交換能が小さくなるにつれて、Al1モル当たりのオレイン酸ナトリウムの吸着量が増大するという、予想に反した傾向を示す。また、再構築法により合成した複合体はもとより、陰イオン交換法によって合成した複合体においても、陰イオン交換能の値以上のオレイン酸ナトリウムが吸着しうることがわかった。これらの結果は、本発明の複合体における、オレイン酸ナトリウムのハイドロタルサイトへの吸着は、オレイン酸イオンとハイドロタルサイトの層電荷間の静電引力に依存するものだけでなく、オレイン酸ナトリウムの屈曲構造による分子鎖の絡まりあいによって生じていることを示唆している。
(実施例2)
D.複合体試料の耐酸性実験
陰イオン交換法および再構築法によって合成した複合体試料(Mg/Al=2、3、4、5)についてそれぞれ耐酸性実験を行った。pH=2.1に調製した希塩酸100mlを約37℃の温浴中で保温し、その希塩酸中にそれぞれ試料50mgを投入して37℃で6時間保持したのち、ろ過した。上記保温温度は、人間の体温を、保持時間は、食物が胃の中に留まる時間をそれぞれ想定して設定した。上記ろ過溶液の化学組成をICP発光分析によって分析した。ICP発光分析装置は、ICP−OES Prodigy(リーマン社製)を用い、表5に示す測定条件で行った。
D.複合体試料の耐酸性実験
陰イオン交換法および再構築法によって合成した複合体試料(Mg/Al=2、3、4、5)についてそれぞれ耐酸性実験を行った。pH=2.1に調製した希塩酸100mlを約37℃の温浴中で保温し、その希塩酸中にそれぞれ試料50mgを投入して37℃で6時間保持したのち、ろ過した。上記保温温度は、人間の体温を、保持時間は、食物が胃の中に留まる時間をそれぞれ想定して設定した。上記ろ過溶液の化学組成をICP発光分析によって分析した。ICP発光分析装置は、ICP−OES Prodigy(リーマン社製)を用い、表5に示す測定条件で行った。
ICP発光分析の結果、複合化前のハイドロタルサイトを希塩酸中に投入した場合、ハイドロタルサイト中のMgおよびAlの塩酸溶液への溶解量は、Mgは77質量%、Alは44質量%だったのに対し、陰イオン交換法によって合成した複合体試料(Mg/Al=3)を希塩酸中に投入した場合では、Mgが6.8質量%、Alが7.5質量%まで減少し、再構築法によって合成した複合体試料(Mg/Al=3)を希塩酸中に投入した場合では、Mgが4.8質量%、Alが2.5質量%と減少した。他の組成比(Mg/Al=2、4、5)の複合体試料についても同様の分析を行ったが、MgおよびAlの塩酸溶液への溶出を抑制する傾向に、組成比(Mg/Al)の違いによる顕著な差は見られず、いずれの複合体試料においても、MgおよびAlが塩酸溶液に溶け出した量は、複合化前のハイドロタルサイトの溶出量の約1/16であった。また、6時間保持後のpHは、ハイドロタルサイトでは4.1まで上昇したが、陰イオン交換法および再構築法によって合成した複合体試料のいずれにおいてもpHは2.2に留まり、pH上昇も抑えられた。以上のことから、オレイン酸ナトリウムを吸着させることによりハイドロタルサイトの耐酸性が格段に向上し、本発明の複合材料が人体の胃腸内のような酸性環境を前提としたドラックデリバリーとして機能しうるに充分な耐酸性を備えていることがわかった。
以上説明した様に、本発明によれば、層状複水酸化物と、生体に親和的な材料である不飽和脂肪酸とを複合化して層状複水酸化物に耐酸性を付与することによって、医療分野におけるドラッグデリバリーシステムの構築など、層状複水酸化物のパッケージング材料としての用途のさらなる応用範囲の拡張が期待できる。
Claims (9)
- イオン性化合物を含む層状複水酸化物であって、前記層状複水酸化物は、イオン交換能を有し、前記イオン性化合物を前記層状複水酸化物のイオン交換当量から予測されるモル比を超えて含む層状複水酸化物。
- 前記イオン性化合物は、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸塩から選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項1に記載の層状複水酸化物。
- 前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸を含む、請求項2に記載の層状複水酸化物。
- 前記層状複水酸化物は、ハイドロタルサイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の層状複水酸化物。
- 2種以上のイオン性化合物を含む層状複水酸化物の製造方法であって、第1のイオン性化合物を前記層状複水酸化物にインターカレートする工程と、前記第1のイオン性化合物がインターカレートされた前記層状複水酸化物の水溶液と第2のイオン性化合物の水溶液とを混合する工程とを含む製造方法。
- 前記第2のイオン性化合物は、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸塩から選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項5に記載の製造方法。
- 前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸を含む、請求項6に記載の製造方法。
- 前記層状複水酸化物は、ハイドロタルサイトである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記インターカレートする工程は、再構築法によって行われる、請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
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