JP5146171B2 - 有機樹脂ラミネート鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、非表面処理鋼板に樹脂フィルムを1層以上被覆した有機樹脂ラミネート鋼板に関するものである。
本発明で、非表面処理鋼板とは、亜鉛めっき、亜鉛−アルミニウム合金めっき、亜鉛−コバルト−モリブデンめっき、錫めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、ニッケル−りんめっき,ニッケル−亜鉛めっきニッケル−コバルトめっき、ニッケル−錫めっき、アルミニウムめっき、または、クロメート処理の何れの処理も施していない鋼板をいう。
有機樹脂ラミネート鋼板とは、鋼板の表面に有機樹脂フィルムをラミネート(被覆)した鋼板であり、フィルムによって、耐食性、加工性、意匠性等の向上が可能であり、飲料缶、食缶、電子材料部材、建材等に利用されている。
有機樹脂ラミネート鋼板の製造方法は、予め成形された有機樹脂フィルムをフィルムの融点以上に加熱した鋼板に圧着し、接着させる熱ラミネート法、鋼板に溶融した熱可塑性樹脂膜をTダイから流下させてラミネートする押出ラミネート法、樹脂フィルムを接着剤によりラミネートする方法などにより製造される。
ラミネート鋼板に使用される樹脂フィルムは、食品用缶用途であれば、臭気、衛生性、加工性などからポリエステル類、薬品缶用途であれば、耐薬品性の観点からポリオレフィン類、電子材料分野では、耐熱性からポリイミド、建材用途であれば、外観性、耐汚染性からふっ素系といった様に、用途に応じて種々の樹脂フィルムが利用される。また、鋼板も、耐食性、加工性、溶接性などの要求特性に応じて、ティンフリースチール、錫めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板等が使用される。
特許文献1では、しぼりしごき性に優れるラミネート鋼板用途として、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂からなる樹脂フィルムが挙げられ、耐食性、密着性の観点から、錫めっき、クロメート処理を施した鋼板が使用されている。
また、特許文献2では、耐衝撃性を改善した樹脂フィルムとして、アイオノマー樹脂を使用したアロイ樹脂のラミネートフィルムが開示されているが、金属板としては、やはり耐食性密着性に優れる錫めっき鋼板、ティンフリースチールまたはアルミニウム板などが使用されている。
特許文献3では、密着性、耐衝撃性が優れる樹脂フィルムとして、ポリエステル樹脂とエポキシ基を含有する極性相互作用樹脂との樹脂組成物に対して、更に極性相互作用樹脂を添加してポリエステル樹脂に極性相互作用樹脂を微細分散させた金属被覆用樹脂フィルムが開示されており、鋼板としては錫めっき鋼板、ティンフリースチール等が使用されている。
さらに、特許文献4では、成形性、密着性、耐衝撃性、内容物充填・レトルト殺菌処理後の耐食性を兼ね備えた容器用フィルムとして、ラミネート上層が二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム、下層がPET−G等の非晶性ポリマー樹脂フィルムからなる2層フィルムが開示され、金属板としてはアルミニウム板や軟鋼板、ティンフリースチールなどが開示され、加工後の密着性、耐食性の観点から特にティンフリースチールに関して検討されている。さらに、特許文献5では、フィルム中に錫又は錫塩の粒子を分散させることで、フィルムの防食性が向上する事が記載されている。
また、特許文献6には、貼合時の鋼板の温度が220℃でも発泡せず接着性が良好であり、沸騰水中での耐久性が良好であり、コーキング剤との接着性が良好である鋼板用化粧フィルムを提供することを目的として、鋼板との貼合面側にポリエチレンテレフタレートのジオール部であるエチレングリコールの一部を1,4−シクロヘキサンジメタノール33モル%に置き換えた、非晶性の共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする厚さ6μmの接着層(A層)を設け、その接着層の上部に、顔料を配合したポリブチレンテレフタレートを主成分とする層(B層)が設けられており、B層の上部に、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる顔料を含有しない表面層(C層)を設けた3層の厚み125μmからなる被覆鋼板が開示され、鋼板として、厚さ0.10〜0.50mmの普通鋼の冷延鋼板が好ましいことが記載されている。
特開平3−269074号公報 特開平7−195617号公報 特開2003−113292号公報 特開2003−225967号公報 特開平8−252884号公報 特開2006−181753号公報
ラミネート鋼板向けの樹脂フィルムには、耐食性、密着性、耐衝撃性、加工性、耐候性、保香性、美麗性などきわめて多様な特性が要求される。このうち、耐食性、密着性は、錫や亜鉛などのめっき、あるいはクロメートなどの、鋼材の表面処理により向上させることが出来る。すなわち、表面処理された鋼材を使用することで、フィルムへの要求特性を軽減する事が可能となり、その分、その他の特性に特化したフィルム開発が可能となり、樹脂の設計の自由度が上昇する。一方で、各種めっき鋼板や、クロメート処理などがされた表面処理鋼板は、めっきを施していない非表面処理鋼板に比して、めっきなどの表面処理に使用される金属材料表面処理材料コスト、工程コストを含むため、高価にならざるを得ない。よって、表面処理鋼板として非表面処理鋼板を使用する事ができれば、ラミネート鋼板のコストダウンが可能になるが、そのためにはめっきにより付与されていた密着性、耐食性の特性を何らかの方法により補う必要がある。
実際、従来、めっき鋼板用に開示されたフィルムを、非表面処理鋼板にラミネートして、容器材料で一般的に行われるレトルト処理を行ったところ、微小な錆(以下点食)が大量に発生することが明らかになった。これらはフィルムの剥離、外観の低下、保香性の低下など各種特性の低下につながるため、点食の発生の防止は必須である。
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題に鑑み、非表面処理鋼板を使用した際にも十分な耐食性と密着性を発現する樹脂ラミネート鋼板を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討し、以下の知見を得、本発明を完成した。具体的には、特許文献1に見られるようなポリエステルの結晶性に着目した樹脂や、特許文献2や3に見られるような、耐衝撃性改善を目的とした樹脂や、特許文献4で見られる、結晶性を制御する事で樹脂フィルムの脆化を抑制し、レトルト後の耐食性を向上させた樹脂は、いずれも、耐食性が足りずに非表面処理鋼板に使えない事、などの可能性がある。また、特許文献5に見られるような、フィルムに防食性を持たせる目的で、錫又は錫塩の粒子を分散させた有機樹脂フィルムは、樹脂の中に金属を分散させる困難さや、金属粒子が樹脂混練装置に与える摩耗等の悪影響、錫塩の内容物への溶出などの可能性がある。また、特許文献6に開示された発明は、錆の発生及び鋼板粗度に関してなんらの言及がなく、また耐食性評価も本発明の評価とは異なる耐沸騰水であるため、このような材料は、本願発明が課題としている耐食性には問題がある。
そこで、樹脂フィルムをラミネートされた非表面処理鋼板での錆の発生を詳細に検討した所、鋼板と樹脂フィルムの界面の微細な空隙で点食が発生していることが明らかになった。すなわち、鋼板と樹脂フィルムの界面の微細な空隙に、樹脂フィルムを透過した水や酸素が蓄積し、腐食発生点となり点食が発生している。よって、この点食の改善の為には、鋼板と樹脂フィルムの界面の微細な空隙を減少させる必要がある。このためには、樹脂の改善により非表面処理鋼板の表面の微細な凹凸に、樹脂が流れ込み易くすること(樹脂の「付きまわり性」向上)、及び非表面処理鋼板の凹凸その物を平滑化することにより、相対的に樹脂の付きまわり性を向上させる事が重要である。
ここで、樹脂の付きまわり性を向上させるためには、樹脂の分子鎖間の相互作用を低下させる事が必要である。樹脂−樹脂相互作用が低下すれば、相対的に樹脂−鋼板表面相互作用が高まり、鋼板表面が樹脂でくまなく被覆されるようになる。樹脂の分子鎖間の相互作用を低下させる手法の一つとしては、異なる形状の分子を共存させる手法が挙げられる。例えば、シクロヘキサンジメタノール(以下CHDM)は、安定な六員環を形成した脂環式化合物で、なおかつ、1−3位のプロトンの立体障害の問題から、自由度が低い剛直な分子であり、これは、ポリエチレンテレフタレートに使用されるエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレートに使用されるブチレングリコール等が、柔軟性に富む直鎖状化合物で有るのと全く異なる特徴を有している。すなわち、これらを共存させる事で、異なる特徴の分子の相互作用の低さから、樹脂−樹脂相互作用が低下し、相対的に樹脂−鋼板表面相互作用が高まり、付きまわり性が向上して樹脂フィルム−鋼板間の微小空隙が減少し、結果として錆の発生を抑制することが可能となる。さらに、ポリエステル樹脂に対し極性相互作用樹脂を添加する事で、耐衝撃性、加工性の向上が可能である。
また、鋼板としては、鋼板の粗度を一定の低い範囲に制御することで、相対的に樹脂の付きまわり性を向上させる事も重要である。これらを見い出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)鋼板の片面又は両面に、ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂からなるエラストマー(B、以下、単にポリオレフィン系樹脂という)、及び、極性相互作用樹脂(C)からなる樹脂組成物のフィルムを1層以上被覆した有機樹脂ラミネート鋼板であって、前記鋼板は、非表面処理鋼板であり、前記鋼板の表面は、二乗平均平方根粗さRqが0.01〜2.5μmで、最大谷深さRvが0.03〜15.0μmであり、前記鋼板と接する前記樹脂組成物のフィルム中のポリエステル樹脂(A)は、全アルコールユニットのうちシクロヘキサンジメタノールユニットを10〜100モル%含有し、前記ポリオレフィン系樹脂(B)と前記極性相互作用樹脂(C)との質量比(B):(C)が1.0:10〜15:1.0であり、前記ポリオレフィン系樹脂(B)と前記極性相互作用樹脂(C)の合計量の全樹脂((A)+(B)+(C))に対する質量%が1〜30%であり、前記ポリエステル樹脂(A)中に前記極性相互作用樹脂(C)でカプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)が分散してなることを特徴とする、有機樹脂ラミネート鋼板。
(2)前記ポリエステル樹脂(A)のフィルムの合計の厚さと前記鋼板の厚みとの比(鋼板厚み/フィルム厚み)が、3〜35であることを特徴とする、(1)記載の有機樹脂ラミネート鋼板。
(3)前記鋼板と接する前記ポリエステル樹脂(A)のフィルムの層の上に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートから選ばれる樹脂からなる一層以上の樹脂フィルム層を有し、前記樹脂フィルム層の合計の厚さが200μm以下で、かつ、前記鋼板と接するフィルムとそれ以外のフィルムとの厚み比(前記鋼板と接しないフィルム厚み/前記鋼板と接するフィルム厚み)が0.5〜16であることを特徴とする、(1)又は(2)記載の有機樹脂ラミネート鋼板。
尚、本発明で、非表面処理鋼板とは、亜鉛めっき、亜鉛−アルミニウム合金めっき、亜鉛−コバルト−モリブデンめっき、錫めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、ニッケル−りんめっき,ニッケル−亜鉛めっきニッケル−コバルトめっき、ニッケル−錫めっき、アルミニウムめっき、または、クロメート処理の何れの処理も施していない鋼板をいう。
また、本発明で、アルコールユニットとは、アルコールがポリエステル分子になった場合の構成要素、例えばエチレングリコールがポリエステルになった際のオキシエチレンオキシ基を指す。また、カルボン酸ユニットとはカルボン酸がポリエステル分子になった場合の構成要素、例えばテレフタル酸がポリエステルになった際のカルボニルフェニレンカルボニル基を指す。
本発明の樹脂フィルムによれば、金属板として防錆性能の低い非表面処理鋼板を使用しても、点食などの錆の発生を抑制する事ができ、さらに、金属被覆用の樹脂フィルムに本来必要な諸特性、すなわち、金属との密着性、耐衝撃性も優れたものとできる。
前記結果として、ポリエステル本来が有する保香性、保味性、成形性、耐熱性、耐薬品性、機械強度、ガスバリア性、外観美麗性、製造性等の優れた各種特性を併せ持つ、すなわち非表面処理鋼板被覆用樹脂フィルムとして好適に使用することが可能である。
以下に、本発明について説明する。
(1)ポリエステル原料
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)とは、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物またはヒドロキシカルボン酸化合物ユニットとジカルボン酸ユニット及びジオール化合物ユニットを構成ユニットとする熱可塑性ポリエステルである。又は、前記熱可塑性ポリエステルの混合物であっても良い。
ヒドロキシカルボン酸化合物ユニットの原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシエチル安息香酸、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
また、ジカルボン酸ユニットを形成するジカルボン酸化合物を例示すると、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、及びアジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
次に、後述するように、本発明の樹脂にはシクロヘキサンジメタノールユニットが所定量含まれている事が重要であるが、それ以外のジオールユニットを形成するジオール化合物を例示すると、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、o−ヒドロキシフェニル−p−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール及びエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することもできる。
また、これらから得られるポリエステル樹脂を鋼板に直接接触する樹脂フィルムとして使用する場合は、次項に述べるようにCHDMユニットを所定量含有していれば、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても良いが、中でも芳香族ジカルボン酸ユニットとジオールユニットより構成される含芳香族ポリエステル樹脂であることが、加工性、熱的安定性の観点から好ましい。
また、本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される構成単位を少量、例えば2モル%以下の量を含んでいても良い。
本発明に使用する鋼板に直接接触するのに好ましいポリエステル樹脂(A)を例示すると、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリブチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられるが、中でも適度の機械特性、ガスバリア性、及び金属密着性を有するシクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリブチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリエチレン−2,6−ナフタレート、シクロヘキサンジメタノールユニットを所定量含有しているポリブチレン−2,6−ナフタレートが最も好ましい。
また、本発明に使用する鋼板に直接接触する樹脂フィルム層の上に積層するポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられるが、中でも適度の機械特性、ガスバリア性、及び金属密着性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートが最も好ましい。
また、鋼板と接する前記ポリエステル樹脂(A)のフィルムの層(下地層)は、下記に示すように、CHDMユニットを所定量含有することを必須とするが、下地層だけでも本発明の効果を得ることができ、必要に応じ、下地層の上に設ける1層以上のポリエステル樹脂フィルムの組成は、上記に列挙したポリエステル原料からなるものであれば、特に限定するものではない。
<シクロヘキサンジメタノール(CHDM)ユニット>
本発明のポリエステル樹脂(A)は、ラミネート時に鋼板表面の凹凸に樹脂が流れ込み、鋼板とフィルム界面の微細空隙を無くすという観点から、鋼板と接する前記ポリエステル樹脂フィルムの層は、樹脂−樹脂相互作用を低下させるジオール成分として、CHDMユニットを含有していることが必要である。鋼板と接する前記ポリエステル樹脂フィルムの層は、全アルコールユニットに対しCHDMユニットを10〜100モル%含有するものとする。CHDMユニット含有率が10モル%より少ない場合には、樹脂−樹脂相互作用が上昇し、樹脂の付きまわり性が低下し、樹脂フィルムと鋼板の間に微細空隙が発生し、点食が発生しやすくなる。また、微細空隙発生をより少なくするという観点から、CHDMユニットの含有率が20モル%以上である事が好ましく、更に微小空隙を減少させるという観点からは、CHDMユニットの含有率が28モル%以上である事が好ましい。また、樹脂の剛性が下がり過ぎないようにするという観点からは、CHDMユニットの含有率は90%以下がより好ましく、さらに耐衝撃性を向上させるという観点からはCHDMユニットの含有率は60%以下が好ましい。
上記CHDMユニットの含有率は、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノールなどで樹脂を溶解した後、核磁気共鳴分析により決定することが出来る。
また、CHDMユニットの添加方法としては、CHDMユニットの総含有量が上記の範囲であれば、CHDMユニットを含有しないポリエステルとCHDMユニットを含有するポリエステルを混合しても良いし、CHDMユニットを含有するポリエステルを単独で使用しても良い。
(2)ポリエステル樹脂(A)の物性
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、0.5〜1.25dl/gであることが好ましい。前記固有粘度が0.5dl/g未満では、混練によって本発明の樹脂を製造する際に、樹脂の溶融粘度が低すぎ、製膜性が低下する場合がある。一方、前記固有粘度が1.25dl/gを越えると、製膜時に適切な樹脂溶融粘度を得る為に高温が必要となり、樹脂が熱劣化しやすくなるために好ましくない。また、耐衝撃性の観点からは、固有粘度は0.65dl/g以上が好ましい。さらに、固有粘度が高い樹脂は、固相合成により製造され、比較的高価であるため、コストの観点からは、固有粘度は0.8dl/g以下が好ましい。
上記固有粘度は、25℃のo−クロロフェノール中、0.5%の濃度で測定し、下記(i)式によって求められる。式中、Cは溶液100ml当たりの樹脂のg数で表わした濃度を、tは溶媒の流下時間を、tは溶液の流下時間を各々表す。
固有粘度= {ln(t/t)}/C (i)
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差型熱分析装置(DSC)で測定できる)が、通常30〜120℃、より好ましくは65〜100℃であることが望ましい。ガラス転移温度Tgが30℃より低いと、ポリエステル樹脂が軟質で加工性が悪化しやすくなり、一方、120℃を超えると、樹脂が硬質で耐衝撃性が低下しやすくなるからである。
(3)アロイ化
本発明の下地層の樹脂は、ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、及び、極性相互作用樹脂(C)を主成分とし、ポリオレフィン系樹脂(B)は極性相互作用樹脂(C)によりカプセル化されているポリマーアロイである。このようなポリマーアロイは、本発明のポリエステル樹脂(A)が有する、点食防止能に、耐衝撃性及び加工性を向上できる観点から好ましい。
極性相互作用樹脂(C)とポリオレフィン系樹脂(B)の質量比は(B):(C)=1.0:10〜15:1.0の範囲が好ましい。質量比(B):(C)=1.0:10よりもポリオレフィン系樹脂(B)の割合が少なくなると、エラストマーによる耐衝撃性改善が不完全となる場合がある。一方、質量比(B):(C)=15:1.0よりもポリオレフィン系樹脂(B)の割合が多くなると、カプセル化構造が不完全となる場合がある。更に、より好ましくは質量比(B):(C)=1.0:8〜10:1.0の範囲である。
全樹脂((A)+(B)+(C))に対するポリオレフィン系樹脂(B)と極性相互作用樹脂(C)を合わせた質量%(100×((B)+(C))/((A)+(B)+(C)))は、1〜30質量%が好ましい。1質量%未満では、耐衝撃性や加工性が低下する可能性がある。一方、30質量%を越えると、極性相互作用樹脂(C)とポリオレフィン系樹脂(B)の弾性率の低さにより、本発明の樹脂が過度に柔軟になり、材料強度が低下する場合がある。更に、耐衝撃性や加工性及び樹脂の適切な硬度の観点から、前記質量%は、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜25質量%である。
(4)ポリオレフィン系樹脂(B)
本発明の下地層樹脂フィルムに使用するポリオレフィン系樹脂(B)は、公知のエラストマーであるエチレンやプロピレンなどのビニル化合物と、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィンとの共重合体を広く使用できる。
(5)極性相互作用樹脂(C)
本発明に使用する極性相互作用樹脂(C)とは、ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した極性基を有するユニットを1質量%以上含有する重合体である。極性基を有するユニットは、極性相互作用樹脂(C)とポリエステル樹脂(A)の間に弱い結合を形成し、極性相互作用樹脂(C)のポリエステル樹脂(A)への分散性を向上させる。極性基を有するユニットが1質量%未満では、分散性が低下する場合がある。
ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を具体的に例示すると、−C−O−、−C=O、−COO−、CN−、−CN、−NH、−NH−、−SO−、等が挙げられる。また、極性基として金属イオンで中和された酸根を有していてもよい。この場合、金属イオンの例としてはNa、K、Li、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+、Ti3+、Zr3+、Sc3+、Al3+、Y3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。
極性基を有するユニットを例示すると、−C−O−基を有する例としてビニルアルコール、−C=O基を有する例としてビニルクロロメチルケトン、−COO−基を有する例としてアクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル酸及びその金属塩若しくはエステル誘導体、−CN基を有する例としてアクリロニトリル、−NH基を有する例としてアクリルアミン、−NH−基を有する例としてアクリルアミド、−X基を有する例として塩化ビニル、−SO−基を有する例としてスチレンスルホン酸、等が挙げられ、またこれらの酸性官能基の全部または一部が上記の金属イオンで中和された化合物が挙げられ、これらが単独でまたは複数で極性相互作用樹脂(C)に含有されていても良い。極性相互作用樹脂(C)に含有される極性基を有するユニットは、ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を有するユニットであれば良く、上記の具体例に限定されるものではない。これらの極性相互作用樹脂は、ポリエステル分子と弱い相互作用を形成するため、応力に対して分子間で滑りが生じるなどにより、高い加工性を発現すると考えられる。よって、エポキシ基や、酸無水物基は、ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基であるが、これらはポリエステル分子と強い相互作用である共有結合を形成する可能性が有るため好ましくない。
本発明に使用する極性相互作用樹脂(C)は、極性基を有するユニットを1質量%以上含有する極性相互作用樹脂であり、そのような極性相互作用樹脂を例示すると、上記の極性基含有ビニル系ユニットの単独若しくは2種類以上の重合体、及び上記極性基含有ビニル系ユニットと下記一般式(ii)で示される無極性ビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
CHR=CR (ii)
(式中、R、Rは各々独立に炭素数1〜12のアルキル基若しくは水素を、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基若しくは水素を示す。)
一般式(ii)の無極性ビニルモノマーを具体的に示すと、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィン、イソブテン、イソブチレン等の脂肪族ビニルモノマー、スチレンモノマーの他に、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、t−ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーの付加重合体単位等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。
極性基含有ユニットの単独重合体を例示すると、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、極性基含有ユニットと無極性ビニルモノマーとの共重合体を例示すると、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部又は全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、及びそれらの酸性官能基の全部又は一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂類が挙げられる。
アイオノマー樹脂としては、公知のアイオノマー樹脂を広く使用することができる。具体的には、ビニルモノマーとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体で共重合体中のカルボン酸の一部若しくは全部を金属陽イオンにより中和したものである。
ビニルモノマーを例示すると、上記のα−オレフィンやスチレン系モノマー等であり、α,β−不飽和カルボン酸を例示すると炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸でより具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル等が挙げられる。
中和する金属陽イオンを例示すると、Na、K、Li、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+、Ti3+、Zr3+、Sc3+、Al3+、Y3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。また、金属陽イオンで中和されていない残余の酸性官能基の一部は低級アルコールでエステル化されていても良い。
アイオノマー樹脂を具体的に例示すると、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸との共重合体、あるいはエチレンとマレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体であって、共重合体中のカルボキシル基の一部若しくは全部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンで中和された樹脂が挙げられる。
これらの中で、耐衝撃性、加工性向上能が高く、ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶性を改善する目的で最も好ましいのが、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸の共重合体(カルボキシル基を有する構成単位が2〜15モル%)で、重合体中のカルボキシル基の30〜70モル%がNa、Zn等の金属陽イオンで中和されている樹脂である。
耐衝撃性を向上する性能が高い点で、ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差熱型分析装置(DSC)で測定できる)が50℃以下、常温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上である極性相互作用樹脂(C)が好ましい。なお、ヤング率は、JIS Z 2254 付属書JA(圧縮方向ヤング率)に準じて測定でき、破断伸びは、JIS Z 2241に準じて測定できる。
本発明で使用する好ましい極性相互作用樹脂(C)を例示すると、メタクリル酸、アクリル酸、及びこれらの酸性官能基の一部若しくは全部が金属イオンで中和された極性オレフィン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニルとα−オレフィンの共重合体が挙げられる。
特に、耐衝撃性が高い点でさらに好ましくは、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部若しくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体が挙げられる。
(6)三元系樹脂フィルムの高次構造:微細分散したカプセル化構造
本発明の下地層樹脂フィルムは、ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、極性相互作用樹脂(C)を少なくとも含むが、さらに、ポリエステル樹脂(A)中に極性相互作用樹脂(B)が微細分散し、かつ、ポリオレフィン系樹脂(B)が極性相互作用樹脂(C)でカプセル化された構造を有している樹脂をフィルムとして金属板に被覆するので、耐衝撃性、加工性がより高くなる。
このようなカプセル化した微細分散の高次構造を有することにより、従来のように結晶層と多結晶層の二層構造を形成した二軸延伸フィルムを厳密な温度制御をしてラミネートするという複雑面倒でかつ高価なプロセスと異なり、無延伸フィルムでも、厳格な温度制御の必要なしで、従来品を凌ぐ高い耐衝撃性と金属との高い密着性を実現することが可能になる。
このように、高耐衝撃性と加工性との実現により、高品質化、薄膜化でき、コストダウンや、従来より過酷な製缶(軽量缶)が可能になる。また、延伸工程が不要であるので、金属板への直接ラミネーションによるフィルム成形工程の省略が可能になり、延伸すればさらに高い耐衝撃性が実現できる。また、厳密な温度制御が不要であるので、薄膜化、高速製造によるコストダウン、若しくは、膜厚、性能の安定化による品質向上が可能になり、又は、前記コストダウンと前記品質向上の両方とも可能となる。
(7)三元系高次構造:分散の定義
本発明において、ポリエステル樹脂(A)中に極性相互作用樹脂(B)が「分散」するとは、ポリオレフィン系樹脂(B)の全粒子の内、70体積%以上の粒子が100μm以下の投影面積円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径であり、顕微鏡法で計測できる)の平均粒径(数平均粒子径)でポリエステル樹脂(A)中に分散している状態である。カプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)の投影面積円相当径の平均径が100μm超では、耐衝撃性が低下し、また本発明の樹脂フィルムの製膜性が低下する場合がある。好ましくは1μm以下、より好ましくは9.5μm以下の投影面積円相当径の平均粒径であることが望ましい。1μm超では、十分な耐衝撃性を発揮できない場合がある。
(8)三元系高次構造:カプセル化の定義
また、極性相互作用樹脂(C)で「カプセル化」したポリオレフィン系樹脂(B)とは、ポリオレフィン系樹脂(B)界面の80%以上、好ましくは95%以上を極性相互作用樹脂(C)が被覆し、ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との直接接触面積を20%未満とした構造である。このような構造とすることにより、極性相互作用樹脂(C)でカプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)の微細分散が容易となり、耐衝撃性、製膜性が向上する。また、ポリオレフィン系樹脂(B)は一般に金属板との密着性が低いが、極性基を有する極性相互作用樹脂(C)が金属板との密着性を有するため、微細分散した粒子が金属板に接しても樹脂フィルムと金属板との十分な密着性を確保できる効果を有する。
ポリオレフィン系樹脂(B)の全ての粒子が極性相互作用樹脂(C)でカプセル化されている必要はなく、少なくとも体積比で70%以上のポリオレフィン系樹脂(B)が極性相互作用樹脂(C)でカプセル化されていれば良い。カプセル化されていないポリオレフィン系樹脂(B)が体積比で30%超存在する場合は、微細分散が困難になり、耐衝撃性が低く、また、樹脂フィルムを金属板に被覆する場合は、金属板に直接接触するポリオレフィン系樹脂(B)の比率が増加してしまい、樹脂フィルムと金属板との密着性を確保できなくなる場合がある。
カプセル化されていないポリオレフィン系樹脂(B)の投影面積円相当径の平均径は、特に規定するものではないが、耐衝撃性、加工性の観点から1.0μm以下が望ましい。
また、過剰量の極性相互作用樹脂(C)が、ポリオレフィン系樹脂(B)をカプセル化しないで、単独でポリエステル樹脂(A)中に分散していても良い。カプセル化しない極性相互作用樹脂(C)の量及び径は、特に制限するものではないが、全極性相互作用樹脂(C)の体積比で20%以下、投影面積円相当径の平均径で1.0μm以下であることが望ましい。体積比で20%超では、樹脂フィルムの耐熱性等の基本特性が変化する場合がある。また、投影面積円相当径の平均径が1.0μm超では、加工性が低下する場合がある。
なお、ポリオレフィン樹脂(B)が含エポキシ樹脂(C)でカプセル化された構造を有しているか否かは、以下のようにして確認することができる。すなわち、樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸等で染色し、透過型電子顕微鏡で観察することにより、カプセル構造を観察することが可能である。
(9)混合によるカプセル化の原理
上記のような三元系樹脂組成物を混合してポリエステル樹脂(A)中に極性相互作用樹脂(C)でカプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)を微細分散させるには、極性相互作用樹脂(C)とポリエステル樹脂(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)との界面張力のバランスを適切にすることが重要である。
好ましくは極性相互作用樹脂(C)のポリオレフィン系樹脂(B)に対するSpread Parameter(λ(Resin C)/(Resin B))が正になるように極性基を有するユニットの含有量を制御することが望ましい。λ(Resin C)/(Resin B)を正にすることにより、極性相互作用樹脂(C)でポリオレフィン系樹脂(B)をカプセルしても熱力学的な安定性が確保できる。異種高分子間のSpread Parameterとは、S. Y. Hobbs; Polym., Vol.29, p1598(1988)で定義されているパラメータであって、下記の式(iv)で与えられる。
λ(Resin C)/(Resin B) = Υ(Resin C)/(Resin A) − Υ(Resin C)/(Resin B) − Υ(Resin B)/(Resin A) (iv)
〔但し、式中、Resin A はポリエステル樹脂(A)を、Resin B はポリオレフィン系樹脂(B)を、またResin C は極性相互作用樹脂(C)をそれぞれ示し、またΥi/jは樹脂iと樹脂j間の界面張力であり、近似的には樹脂iと樹脂j間の相溶性を示すパラメータΧi/j(相溶性が良好なほど小さな値を示す。)の0.5乗に比例する。〕
ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との相溶性は低く、Υ(Resin B)/(Resin A)>0となるので、極性相互作用樹脂(C)の無極性ビニルモノマー(Monomer V)と極性基含有ユニット(Monomer U)の配合比を調整して、下記の式(v)、(vi)で与えられるポリオレフィン系樹脂(B)と極性相互作用樹脂(C)との相溶性を示すcB/C、及び、ポリエステル樹脂(A)と極性相互作用樹脂(C)との相溶性を示すcA/Bを0に近付けるようにすれば、λ(Resin C)/(Resin B)を正にすることが可能となる。
A/C=φc(Resin A)/(Monomer V) + (1−φ)c(Resin A)/(Monomer U) − φ(1−φ)c(Monomer V)/(Monomer U) (v)
B/C=φc(Resin C)/(Monomer V) +(1−φ)c(Resin C)/(Monomer U) − φ(1−φ)c(Monomer V)/(Monomer U) (vi)
〔但し、φは無極性ビニルモノマーの配合比(体積比)を示す。〕
したがって、好ましい極性相互作用樹脂(C)は、ポリエステル樹脂(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)の種類に応じて、これらの樹脂との相溶性を考慮して決定される。
好ましい組み合わせを具体的に例示すると、ポリエステル樹脂(A)が芳香族ジカルボン酸ユニットとジオールユニットより構成される芳香族ポリエステル樹脂で、ポリオレフィン系樹脂(B)がエチレンと1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンとの共重合体である場合、極性相互作用樹脂(C)としてエチレンとメタクリル酸の共重合体及びその共重合体に含まれるカルボン酸の一部が金属塩で置換されたアイオノマー類が好ましく、エチレンと極性基を有するユニット間の配合比を適切に制御することにより、λ(Resin C)/(Resin B)を正に制御し易い。より好ましくは、エチレンと極性基を有するユニットとの共重合体にポリエステル樹脂(A)と共有結合、配位結合、水素結合、イオン結合等の化学作用を有する官能基が導入されていると、カプセル化した際にポリエステル樹脂(A)と極性相互作用樹脂(C)との界面を熱力学的により安定化できることから望ましい。
(10)カプセル化された三元系樹脂フィルムの製造方法
本発明のフィルムがポリマーアロイの場合ポリエステル樹脂(A)、極性相互作用樹脂(C)及びポリオレフィン系樹脂(B)を含有する樹脂フィルムをカプセル化した構造にすることは、公知の混合法により製造することができる。具体的には、適切な界面張力の差を有するポリエステル樹脂(A)、極性相互作用樹脂(C)及びポリオレフィン系樹脂(B)を選択した後は、所定の温度、例えば200〜350℃で公知の各種混合機を用いて溶融混練すれば、界面張力差を利用してカプセル構造を形成して製造することができる。
(11)樹脂フィルムの製造方法
本発明の樹脂フィルムを製造する方法としては、樹脂原料が複数からなる場合は、1軸若しくは2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練した後、Tダイなどから押し出す方法が挙げられる。樹脂混合物が複数樹脂から成る場合は、樹脂混練法、溶媒混練法等の公知の樹脂混練方法を広く使用できる。また、樹脂原料が単数からなる場合、或いは複数からなる場合でも、Tダイを設置した1軸若しくは2軸押出機を使用して直接押し出す方法が挙げられる。
樹脂混練法を例示すると、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等によりドライブレンドで混合した後、1軸若しくは2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練する方法が挙げられる。また、溶媒混合法を例示すると、樹脂フィルムに含まれる原料樹脂の共通溶媒に各樹脂を溶解した後、溶媒を蒸発させたり、共通の貧溶媒に添加して析出した混合物を回収する方法等がある。
本発明の樹脂フィルムの製造温度は、所望のフィルム厚み、厚み精度で成膜ができればよく、特に限定されない。通常はポリエステル類が溶融状態になる170℃以上300℃以下にて製造できる。
(12)強化剤
また、本発明の樹脂フィルムには、剛性や線膨張特性の改善等を目的に、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウィスカー、炭素繊維のような繊維強化剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末のようなフィラー類を混入させても良い。これらの充填剤の内、ガラス繊維、炭素繊維の形状としては、6〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有することが望ましい。また、これらの添加量としては、全樹脂組成物質量に対して0.5〜50質量部であることが望ましい。
(13)添加剤
更に、本樹脂フィルムには、目的に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、滑剤、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤等を適正量添加することも可能である。
(14)多層化
また、フレーバー性の向上、耐衝撃性の向上などの目的で、本樹脂フィルムとともに、他の樹脂フィルム若しくは接着剤、又は他の樹脂フィルムと接着剤の両方と組み合わせて使用しても差し支えない。
(15)被覆使用時の金属板の例
本発明の樹脂フィルムは非表面処理鋼板の被覆材として使用することができる。非表面処理鋼板としては、鋼種は特に限定するものではないが、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、錫めっき鋼板などの原板として使用されている冷延鋼板が上げられる。
また、本発明の樹脂フィルムは、鋼板への付きまわり性が高く、密着性が高い事から、めっき鋼板へも利用可能である。めっき鋼板としては、金属板は特に限定するものではないが、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛−錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛−鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛−クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、冷延鋼板やアルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、マグネシウム等の金属板等が挙げられる。
また、金属板への被覆は用途に応じて、片面又は両面の何れであっても良い。
(16)鋼板の表面粗さ
樹脂の付きまわり性を向上させて点食を防止する為には、鋼板の表面粗さに起因する凸凹を適切に制御することが必要である。鋼板表面粗さの深さ方向の高さが大きい場合、樹脂が溶融時に完全に流れ込むことができず、鋼板と有機樹脂界面に微細な空隙ができる可能性がある。したがって、鋼板の局所的な鋼板表面粗さを制御するために、鋼板表面全体の表面粗さを制御するために、二乗平均平方根粗さRqが0.01〜2.5μmであることが必要である。0.01μm未満の場合、樹脂が鋼板隙間に侵入して接着力を発現する、所謂「アンカー効果」が得られず、密着性が低下する可能性がある。また、2.5μm超の場合は、樹脂が溶融時に鋼板表面粗さに起因する凸凹に完全に流れ込むことができず、鋼板と樹脂間に微小空隙が発生する場合がある。特に、湿潤条件での点食抑制の観点からは、Rqが0.03〜1.6μmであることが好ましい。
また、微小空隙の発生の抑制には、粗さに起因する凸凹の平均的な値であるRqを一定値に保つだけでは不十分であり、粗さ曲線の最大谷深さRvも一定値に保つ必要がある。これはすなわち、特異的に谷深さが深い場合は、樹脂の付きまわり性が悪化し、浅い場合はアンカー効果が特異的に低下する部位が生じて、剥離原因になる可能性があるからである。
よって、最大谷深さRvは0.03〜15.0μmであることが必要である。特に、湿潤条件での点食抑制の観点からは、Rvが0.08〜7.0μmであることが好ましく、更に0.10〜6.0μmであることが好適である。
このように、非表面処理鋼板を使用した有機樹脂積層鋼板のレトルト殺菌処理後の点食数を抑制するためには、有機樹脂に屈曲した分子構造を持つCHDMを含有することと、鋼板表面粗さを最大谷深さRvと二乗平均平方根粗さRqで制御することにより、鋼板と有機樹脂界面の微小空隙の発生を抑制することにより達成できる。
尚、Rq,Rzの測定方法は、JIS B0601に記載されている。
(17)樹脂フィルム厚み
樹脂と鋼板の間の微小空隙をなくすためには、樹脂の付きまわり性を改善することが重要であるが、一旦、鋼板を被覆した樹脂が剥離して、微小空隙が生じる事を防止する必要がある。点食の起点となる様な微小空隙の発生は、主として樹脂が冷却される際に、鋼材と樹脂の熱膨張係数の差に起因して生じる応力が原因であるため、これの抑制の為には、ポリエステル樹脂フィルムの合計の厚みと鋼板の厚みとの比率は、35≧(鋼材厚み/フィルム厚み)≧3であることが好ましい。厚み比率が35超の場合は、残留応力が強くなり、微小空隙が発生する可能性がある。また、厚み比率が3未満の場合は、鋼板を通じてのフィルム冷却速度が遅くなり、結晶化不均一化が生じ、やはり微小空隙が発生する可能性がある。
(18)樹脂フィルム層の合計の厚み
鋼板と接するポリエステル樹脂(A)のフィルムの層の上に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートから選ばれる樹脂からなる一層以上の樹脂フィルム層を有し、この樹脂フィルム層の合計の厚さが200μm以下であることが好ましい。樹脂フィルム層の合計の厚さが200μmを超えると、フィルムが剥離しやすくなるため好ましくない。
(19)フィルム厚み比
鋼板と接するフィルムとそれ以外のフィルムとの厚み比(鋼板と接しないフィルム厚み/鋼板と接するフィルム厚み)が0.5〜16であることが好ましい。(鋼板と接しないフィルム厚み/鋼板と接するフィルム厚み)が0.5未満では、鋼材厚み=重量となる条件に対し、フィルム厚みが薄くなり過ぎ、材料同士がぶつかった場合などに容易にフィルムが破けるようになるため好ましくない。一方、(鋼板と接しないフィルム厚み/鋼板と接するフィルム厚み)が16超では、鋼板と比して線膨張係数が大きなフィルムの厚みが厚すぎるため、温度変化の際に発生する応力が大きくなり、フィルム剥離しやすくなるため好ましくない。
なお、本発明におけるフィルム厚みの測定方法としては、鋼板を塩酸などで溶解し、フィルムを単離してマイクロメーターで測定する、または、ラミネート鋼板のまま、渦電流式膜厚計で測定する等により、フィルムの膜厚を測定することができる。
(20)金属板の被覆方法
フィルム圧着(間接/直接)、直接ラミネーションなど、金属板への被覆には、公知の方法が使用できる。具体的には、(1)あらかじめ混練機により原料樹脂を溶融混練することで調製した樹脂組成物をTダイス付の押出機で本樹脂フィルムに成型し、これを金属板に熱圧着する方法(この場合、フィルムは無延伸でも、1方向若しくは2方向に延伸してあっても良い)、(2)Tダイスから出たフィルムを直接熱圧着する方法、が挙げられる。さらに、フィルムを直接熱圧着する別の方法としては、(3)Tダイス付の押出機のホッパにあらかじめ混練機により原料樹脂を溶融混練することで調製した樹脂組成物の代わりに、本樹脂組成物の原料となる樹脂を投入し、押出機内で樹脂組成物に混練し、それを直接熱圧着する方法が挙げられ、被覆方法は特に限定されるものではない。
(21)滑剤の使用
金属板への被覆工程や金属板加工時の潤滑性を向上する目的で、特開平5−186613号公報に開示されているような公知の滑剤が添加されていても良い。滑剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機系、架橋ポリスチレン粒子、シリコーン粒子などの有機系のいずれでもよいが、無機系が好ましい。
滑剤の平均粒径は2.5μm以下が好ましい。2.5μm超では樹脂フィルムの機械特性が低下する。滑剤の添加量は、金属板の巻取性や深絞り加工性に応じて決定されるが、0.05〜20質量%が好ましい。
特に、平均粒径(1次粒子の数平均粒子径)が2.5μm以下であると共に、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤が耐ピンホールの点で好適であり、例えば、真球状シリカ、真球状酸化チタン、真球状シリコーンなどを挙げることができる。滑剤の平均粒径(数平均粒子径)、粒径比は粒子を電子顕微鏡観察により求めることができる。滑剤の粒径分布は鋭く、標準偏差は0.5以下が好ましい。
滑剤の添加量は、フィルム製造工程における巻取り性と関係するので、一般に粒径が大きいときは少量、小さいときは多量に用いるとよい。例えば、滑剤の種類にもよるが、平均粒径0.2〜2.0μmで0.02〜0.5質量%程度である。
(22)顔料の使用
本発明の樹脂フィルムは、顔料を含んでもよい。例えば、白色顔料として、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、などの無機系顔料を挙げることができる。顔料の平均粒径(数平均粒子径)は、滑剤の粒径と同じ理由から、2.5μm以下が好ましい。顔料の添加量は、着色の機能を達成するために必要な量であり、3〜50質量%程度の範囲内で使用される。顔料の添加方法は公知の方法によることができる。
(23)可塑剤、帯電防止剤、抗菌剤などの使用
ポリエステル樹脂の可塑剤としては、例えば、炭素数2〜20の脂肪酸多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体に対する炭素数8〜20の芳香族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体のモル比が0〜2.0であるこれらの多塩基酸成分と、炭素数2〜20の脂肪族アルコールとを縮重合したものを、炭素数2〜20の一塩基酸又はそのエステル形成性誘導体及び/又は炭素数1〜18の一価アルコールで末端エステル化したポリエステルからなるポリエステル樹脂用可塑剤を挙げることができる。
成膜工程におけるフィルムのロールへの巻き付きや、フィルム表面への汚れ付着等の静電気障害を防止することを目的として、特開平5−222357号公報に開示される帯電防止剤等の樹脂組成物中に練り込む方法や、フィルム表面に特開平5−1164号公報に記載されている帯電防止剤を塗布する方法などを必要に応じて適用することができる。
また、特開平11−48431号公報、特開平11−138702号公報等に開示されている従来公知の抗菌剤を必要に応じて使用することができる。
(24)積層方法(多層/単層、片面/両面、金属厚み)
また、本発明の樹脂フィルムを金属板に被覆する際には、金属板の片面又は両面に、少なくとも上記樹脂フィルムを用いて単一層状に又は多層状に1層又は2層以上積層して被覆することができる。この際に、1又は2種類以上の樹脂フィルムを用いて金属板の片面又は両面に単一層状にあるいは多層状に積層しても良く、また、必要に応じてPETフィルム、ポリカーボネートフィルム等のポリエステルフィルムや、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルムや、6−ナイロンフィルム等のポリアミドフィルムや、アイオノマーフィルム等の他の公知の樹脂フィルム、あるいは、結晶/非結晶ポリエステル組成物フィルム、ポリエステル/アイオノマー組成物フィルム、ポリエステル/ポリカーボネート組成物フィルム等の公知の樹脂組成物フィルムをその上層に積層して被覆しても良い。特に、食品用途などでは、従来から利用されているポリエステルフィルムを本発明のフィルムの上に積層することは、耐疵付き性、耐熱性、フレーバー性の向上などの観点から好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらのブレンド物が、特に耐疵付き性向上の観点から好ましい。具体的な積層方法としては、すでに述べた方法を使用する場合、多層のTダイスを使用して本発明の樹脂フィルムと他の樹脂フィルムや樹脂組成物フィルムとの多層膜を製造し、これを熱圧着する方法がある。本発明の樹脂被覆金属板は本発明の樹脂フィルムが被覆された金属板であり、被覆は片面であっても両面であっても良い。金属板の厚みは特に制限するものではないが、0.01〜5mmであることが好ましい。0.01mm未満では強度が発現し難くなる場合がある。5mm超では加工が困難である場合がある。
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
以下の実施例および比較例において、ポリエステル樹脂(A)として、三菱化学(株)製IG189Z(189と略す)、ユニチカ(株)製SA1346P(1346と略す)、帝人(株)製TR3000H(3000Hと略す)、イーストマンケミカル(株)製イースター6763(CHDM比率33%、6763と略す)、AN004(CHDM比率100%),DN011(CHDM比率54%),9921(CHDM比率20%)、東レ(株)製トレコン1200S(1200Sと略す)、帝人化成(株)製テオネックスTN8756(8756と略す)、ポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン系樹脂(B)として、住友化学(株)製エスプレンN0391(0391と略す)、N0394(0394と略す)、N0410(0410と略す)、N0415(0415と略す)、極性相互作用樹脂(C)として、三井デュポン(株)製ハイミラン1706(1706と略す)、1650(1650と略す)、1652(1652と略す)、1554(1554と略す)、1702(1702と略す)、ニュクレルN1108C(1108と略す)、AN4213C(4213と略す)、AN4214C(4214と略す)、N1525(1525と略す)を使用した。金属板として、厚さ0.1〜0.7mmのブリキ用冷延鋼板を使用した。なお、本実施例におけるカプセル構造の確認は、ポリオレフィン樹脂(B)が含エポキシ樹脂(C)でカプセル化された構造を有しているか否かは、樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸等で染色し、透過型電子顕微鏡で観察することにより、カプセル構造を観察することにより行った。
(実施例1〜39)
実施例1〜39(表1)は、CHDMユニットを10〜100%含有する例である。何れも表1の組成に混合したペレットを使用して、フィルムとして押し出しTダイスで所定厚みのフィルムを得た(押出温度:250〜265℃、リップ幅=310mm、巻き取り速度=5.5〜6.8m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。PETを二種類使用する場合は表1にある割合で混合し、使用した。表1中、(B)、(C)は全樹脂100質量%に対する質量%を示す(以下の表2、表5、表6にて同じ)。得られたフィルムを250℃に加熱した所定厚み、5cm角の非表面処理鋼板の片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。
上記の製造により、極性相互作用樹脂(C)でポリオレフィン系樹脂(B)界面の95%を被覆した、カプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)が得られた。また、ポリオレフィン系樹脂(B)の全粒子の内、70体積%以上の粒子が1μm以下の投影面積円相当径の平均径(数平均径)でポリエステル樹脂(A)中に分散していた(以下の実施例についても同じ)。
Rq,Rvはオリンパス社製走査型共焦点レーザー顕微鏡LS1100を使用して測定した。
(比較例1〜13)
比較例1〜13(表2)は、CHDMユニットが10%未満の例、又は、Rq、Rv,フィルム厚みが不適切な例である。フィルムの製造、分析は、実施例と同様である。
上記の製造により、極性相互作用樹脂(C)でポリオレフィン系樹脂(B)界面の95%を被覆した、カプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)が得られた。また、ポリオレフィン系樹脂(B)の全粒子の内、70体積%以上の粒子が1μm以下の投影面積円相当径の平均径(数平均径)でポリエステル樹脂(A)中に分散していた(以下の比較例についても同じ)。
このようにして得られた樹脂被覆金属板について、下記に示す評価方法により、各種評価を行った。
<耐食性評価>
上記の樹脂被覆金属板をオートクレーブ中で121℃、30分の水熱殺菌処理を施した後、25cm辺りの点食数で評価した。評価は、◎:0〜5個、○:6〜20個、△:21〜30個、×:31個以上とした。サンプル数は1水準に付き3枚にて実施した。なお、サンプルによって評価の異なるものがある場合には、「◎〜○」のように示した(実施例3〜7)。
<耐衝撃性評価>
更に、本樹脂被覆金属板の耐衝撃性評価をデュポン式の落垂衝撃試験で行った。30cmの高さから金属板に0.5kgの鉄球を落とした後、1.0%食塩水中でサンプルを陽極とし、銅板を陰極として+6Vの電圧をかけた際のERV値(mA)を測定した。ERV値は以下の指標により評価した。◎:全サンプルが0.01mA未満、○:1〜3サンプルが0.01mA以上、△:4〜6サンプルが0.01mA以上、×:7サンプル以上が0.01mA以上、の基準で評価した。サンプル数は1水準に付き10枚にて実施した。
<加工性評価>
本樹脂被覆金属板の加工性評価をエリクセン加工試験で行った。エリクセン加工機により5.5mmの張り出し加工を施した後、1.0質量%食塩水中でサンプルを陽極とし、銅板を陰極として+6Vの電圧をかけた際のERV値(mA)を測定した。ERV値は以下の指標により評価した。◎:全サンプルが0.01mA未満、○:1〜3サンプルが0.01mA以上、△:4〜6サンプルが0.01mA以上、×:7サンプル以上が0.01mA以上、の基準で評価した。サンプル数は1水準に付き10枚にて実施した。
各種評価の結果を表3及び4に示す。
表3の結果より、本発明の樹脂組成物は、いずれも耐食性が良好で、水熱殺菌処理を受けた後でも、点食の発生が少なく耐食性が高く、且つ耐衝撃性及び加工性が高いことがわかる。また、鋼板/フィルム厚み比が3〜35であると、耐食性および加工性に特に優れるということがわかる。一方、表4の結果より、CHDMユニットの含有量、Rq、Rvの少なくともいずれか1つが本発明の範囲を外れていると、耐食性に劣ることがわかる。
(実施例38〜40)
実施例38〜40は、下層が(A)、(B)、(C)のアロイ樹脂フィルムで、上層が非アロイである、複数の樹脂層からなる例である。いずれも表5の樹脂をフィルムとして押し出しTダイスで厚さ25μmのフィルムを得た(押出温度:250〜265℃(8756の場合は275〜285℃)、リップ幅=310mm、巻き取り速度=5.5〜6.8m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。得られたフィルムを表5の構成となるように重ねた後、250℃に加熱した所定厚み、5cm角の非表面処理鋼板の片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。表5の中の「下層」とは金属板に直接接触する樹脂フィルム層、「上層」とは、鋼板に直接接触しない層を表す。
(比較例14)
比較例14は、実施例38〜40と同様にして、樹脂被覆金属板を作製した。ただし、下層は、PET1とPET2を混合して使用する事で、CHDMユニットを5モル%含有する樹脂とした。
これらの樹脂被覆鋼板に対し、実施例1〜37と同様の耐食性評価、耐衝撃性評価及び加工性評価、さらには下記のようにして耐熱性評価を実施した。
<耐熱性評価>
樹脂被覆金属板の樹脂フィルム側を上にして、分銅(重さ20g、直径10mm)を置き、70℃にて10分保持した。目視にて、押し疵が無いものを○、ある物を×とした。耐食性評価(点食数)、耐衝撃性評価、加工性評価、及び耐熱性評価の結果を表7,8に示す。
表7及び8の結果より、比較例14は依然として耐食性が低いものの、二層化された本発明の樹脂組成物は、耐熱性が高いことがわかる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

Claims (3)

  1. 鋼板の片面又は両面に、ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン系樹脂からなるエラストマー(B、以下、単にポリオレフィン系樹脂という)、及び、極性相互作用樹脂(C)からなる樹脂組成物のフィルムを1層以上被覆した有機樹脂ラミネート鋼板であって、
    前記鋼板は、非表面処理鋼板であり、
    前記鋼板の表面は、二乗平均平方根粗さRqが0.01〜2.5μmで、最大谷深さRvが0.03〜15.0μmであり、
    前記鋼板と接する前記樹脂組成物のフィルム中のポリエステル樹脂(A)は、全アルコールユニットのうちシクロヘキサンジメタノールユニットを10〜100モル%含有し、
    前記ポリオレフィン系樹脂(B)と前記極性相互作用樹脂(C)との質量比(B):(C)が1.0:10〜15:1.0であり、
    前記ポリオレフィン系樹脂(B)と前記極性相互作用樹脂(C)の合計量の全樹脂((A)+(B)+(C))に対する質量%が1〜30%であり、
    前記ポリエステル樹脂(A)中に前記極性相互作用樹脂(C)でカプセル化したポリオレフィン系樹脂(B)が分散してなることを特徴とする、有機樹脂ラミネート鋼板。
  2. 前記ポリエステル樹脂(A)のフィルムの合計の厚さと前記鋼板の厚みとの比(鋼板厚み/フィルム厚み)が、3〜35であることを特徴とする、請求項1記載の有機樹脂ラミネート鋼板。
  3. 前記鋼板と接する前記ポリエステル樹脂(A)のフィルムの層の上に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートから選ばれる樹脂からなる一層以上の樹脂フィルム層を有し、
    前記樹脂フィルム層の合計の厚さが200μm以下で、かつ、前記鋼板と接するフィルムとそれ以外のフィルムとの厚み比(前記鋼板と接しないフィルム厚み/前記鋼板と接するフィルム厚み)が0.5〜16であることを特徴とする、請求項1又は2記載の有機樹脂ラミネート鋼板。
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