JP4585146B2 - 樹脂組成物、およびこれを用いた樹脂フィルム、樹脂被覆金属板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂組成物、およびこれを用いた樹脂フィルム、樹脂被覆金属板に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性に優れ、広く自動車部品や電気製品の部品、筐体等の成形材料として使用されている。さらに、加工時の潤滑、耐磨耗性、水蒸気や酸素などの金属腐食要因物質のガスバリア性及び金属との密着性に優れており、耐腐食性や加工性を向上したり、表面に意匠性を付与することを目的に、金属被覆材料としても広く使用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂を金属板の被覆材料に使用する場合、これらの特性をさらに向上させる方法として、特開平7-195617号公報や特開平7-290644号公報に開示されるようにポリエステル樹脂とアイオノマー樹脂とをアロイ化する方法が知られている。本法ではアイオノマー樹脂により、機械的性質、金属との密着性が改善される。さらにはWO99/27026に開示されるように、前記のポリエステル樹脂とアイオノマーのような極性基を有するビニル重合体との樹脂組成物に対してさらにゴム弾性体樹脂を添加し、ポリエステル樹脂極性基を有するビニル重合体により弾性体樹脂をカプセル化したゴム状弾性体を微分散する技術が開示され、より一層耐衝撃や熱安定性が改善されることが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、本発明者らが、上記のポリエステル樹脂とアイオノマーのような極性基を有するビニル重合体との樹脂組成物の特性をさらに解析した結果、これらの樹脂組成物では、被覆金属板を100℃以上の環境あるいは熱水に長期間曝すと、樹脂が脆化したり、熱収縮を起こして変形し、ブリスター状の凹凸、割れが発生する場合があった。特に、この傾向は熱温水に浸漬した場合に、さらに顕著な場合があった。この結果、当該樹脂組成物を被覆した金属板をユニットバス等の温熱水を長期間使用するような用途に適用すると、印刷模様の変形や色調変化により意匠性を損なったり、さらには、樹脂被膜が変形して下地金属板に腐食が発生する場合もあった。これらの原因は、ポリエステル樹脂中に水が進入し、かつ高温環境下であるため、ポリエステル樹脂の可塑化が促進されていること、並びに水の進入によりアイオノマー-ポリエステル樹脂間の相互作用が弱まり、ポリエステル樹脂とアイオノマー間の界面結合力が不十分となり、アイオノマーが十分に可塑化したポリエステル樹脂の変形応力を吸収できないことに起因していると推定される。
【0005】
本発明は、かかる環境下でのポリエステル樹脂の可塑化を抑制、あるいはポリエステル樹脂とアイオノマーのような極性基を有するビニル樹脂との界面密着力を増加し、従って、熱温水下のような過酷な環境下で使用しても、耐衝撃性、耐薬品性、成形性、耐熱性、腐食要因物質のガスバリヤ性、耐水性及び金属との密着性が良好で、脆化や収縮による変形等を起こさない樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明はかかる樹脂組成物を使用した樹脂フィルム、該樹脂フィルムを積層した樹脂被膜により被覆された樹脂被覆金属板を提供することが目的である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、本願発明を完成した。すなわち、本願第1の発明は、固有粘度0.7〜1.5dl/gを有し、結晶融解温度(Tm)が210〜265℃であり、かつ、低温結晶温度(Tc)120〜215℃であるポリエステル樹脂(A)、及び、極性基を有するユニットを1mass%以上含有し、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下、室温でのヤング率が1000MPa以下、及び、破断伸びが50%以上のビニル重合体(B)を体積比で20%以下を含む混合物に、極性を発現するポーリングの電気陰性度の差が1.0(eV) 0.5 以上である無機粒子を0.1〜50mass%添加してなり、前記ビニル重合体(B)の一部の相もしくは全相にゴム状弾性体樹脂(C)相を内包し、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ビニル重合体(B)の界面に偏在する前記無機粒子数が全無機粒子の20%以上、及び/又は、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ビニル重合体 (B)との界面層数の20%以上に偏在していることを特徴とする金属被覆用樹脂組成物である。
本願第2の発明は、本願第1の発明に記載の樹脂組成物を、単独で成形し、又は、他の樹脂又は樹脂組成物及び/又は接着剤と組み合わせて積層してなることを特徴とする金属被覆用樹脂フィルムである。
本願第3の発明は、本願第2の発明の樹脂フィルムが、本願第1の発明に記載の樹脂組成物フィルム層、印刷層およびトップ層の3層からなる本願第2の発明の金属被覆用樹脂フィルムである。
本願第4の発明は、本願第3の発明のトップ層の結晶化率が当該トップ層を構成する樹脂の飽和結晶化度の15%以上である本願第3の発明の金属被覆用樹脂フィルムである。
本願第5の発明は、本願第2〜第4の発明のいずれかに記載された発明の金属被覆用樹脂フィルムを表面に被覆してなる樹脂被覆金属板である。
本願第6の発明は、本願第1の発明に記載の金属被覆用樹脂組成物の溶融フィルムを表面に被覆・冷却してなる樹脂被覆金属板である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、固有粘度0.3dl/g以上のポリエステル樹脂(A)及び極性基を有するユニットを1mass%以上含有するビニル重合体(B)を含む混合物に、極性を有する無機成分を0.1〜50mass%添加してなることを特徴とする樹脂組成物である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ヒドロキシカルボン酸化合物残基のみを、また、ジカルボン酸残基及びジオール化合物残基を、あるいは、ヒドロキシカルボン酸化合物残基とジカルボン酸残基及びジオール化合物残基とをそれぞれ構成ユニットとする熱可塑性ポリエステルである。また、これらの混合物であっても良い。
【0012】
ヒドロキシカルボン酸化合物残基の原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシエチル安息香酸、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(4'-カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
また、ジカルボン酸残基を形成するジカルボン酸化合物を例示すると、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びアジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0013】
次に、ジオール残基を形成するジオール化合物を例示すると、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、o-ヒドロキシフェニル-p-ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4- ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4'-ビフェノール、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール、及びこれら芳香族ジオールの芳香環部位が部分的に水素添加されたもの、及びエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0014】
また、これらから得られるポリエステル樹脂を単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても良い。本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、これらの化合物又はその組み合わせにより構成されていれば良いが、中でも芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される含芳香族ポリエステル樹脂であることが、加工性、熱的安定性の観点から好ましい。
【0015】
また、本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される構成単位を少量、例えば2モル%以下の量を含んでいても良い。
耐熱性や加工性の面から、これらのジカルボン酸化合物、ジオール化合物の組み合わせの中で最も好ましい組み合わせは、テレフタル酸50〜95モル%、イソフタル酸及び/又はオルソフタル酸50〜5モル%のジカルボン酸化合物と、炭素数2〜5のグリコールのジオール化合物との組み合わせである。
【0016】
本発明に使用する好ましいポリエステル樹脂(A)を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレート等が挙げられるが、中でも適度の機械特性、ガスバリア性、及び金属密着性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートが最も好ましい。
【0017】
なお、本発明の樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂(A)は、特にポリエステル製造触媒の残留物などであるゲルマニウム、アンチモン、チタン等の金属化合物を含むことがある。本発明の樹脂組成物に用いるポリエステル樹脂中の金属化合物の含有量は、特に限定されないが、一般的には、重合触媒の残渣としての金属化合物が100ppm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、25℃のo-クロロフェノール中、0.5%の濃度で測定した固有粘度が0.3dl/g以上でなければならない。0.3dl/g未満の場合は、高分子効果が発現できない。固有粘度の上限は、特に規定するものではないが、固有粘度が2.0dl/g超では成形性が不良となり、2.0dl/g以下であることが好ましい。より好ましくは、固有粘度が0.7〜1.5dl/gであり、0.7dl/g未満ではポリエステル樹脂(A)自体の材料強度が不十分で、沸騰水使用環境下で非常に長期使用した場合、割れや膨れが生じる場合がある。また、1.5dl/g超では添加する無機粒子の分散性が悪化する場合がある。
【0019】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、非晶性であっても結晶性であっても良く、結晶性である場合には、結晶融解温度(Tm)が、100℃以上であることが好ましい。100℃未満では沸騰水使用時に変形する場合がある。さらに、Tmが210〜265℃であり、好ましくは210〜245℃であり、低温結晶化温度(Tc)が、110〜220℃、好ましくは120〜215℃であることが望ましい。Tmが265℃超もしくは、Tcが220℃超の場合は、混練時にビニル重合体(B)が分解する場合がある。Tmが210℃未満もしくは、Tcが110℃未満の場合は、耐熱性が不充分で加工時にフィルム形状を保持できない場合がある。ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/ 分の示差型熱分析装置(DSC)で測定)が、50〜120℃、より好ましくは60〜100℃であることが望ましい。また、非晶質である場合は、上記のTgが100℃以上であることが望ましい。非晶質でかつTgが100℃未満の場合は、耐熱性が不充分で、熱温水使用時に割れを発生する場合がある。
【0020】
本発明の樹脂組成物では、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(B)を含有する事を必須とする。極性基を有するユニットを1質量% 以上含有するビニル重合体(B)とは、ポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上有る元素が結合した基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体である。極性基を有するユニットが1質量%未満では、耐衝撃性が低下する場合がある。ポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上有る元素が結合した基を具体的に例示すると、-C-O-、-C=O、-COO-、エポキシ基、C2O3、C2O2N-、-CN、-NH2、-NH-、-X(X: F, Cl, Br)、-SO3-、等が挙げられる。また、極性基として金属イオンで中和された酸根イオンを有していてもよい。この場合、金属イオンの例としてはNa+、K+、Li+、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+、Ti3+、Zr3+、Sc3+等の1価、2価又は3価の金属陽イオンが挙げられる。
【0021】
極性基を有するユニットを例示すると、-C-O-基を有する例としてビニルアルコール、-C=O基を有する例としてビニルクロロメチルケトン、-COO-基を有する例としてアクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル酸及びその金属塩若しくはエステル誘導体、エポキシ基を有する例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタクリル酸グリシジル等のα,β-不飽和酸のグリシジルエステル、C2O3基を有する例として無水マレイン酸、C2O2N-基を有する例として無水マレイン酸のイミド誘導体、-CN基を有する例としてアクリロニトリル、-NH2基を有する例としてアクリルアミン、-NH-基を有する例としてアクリルアミド、-X基を有する例として塩化ビニル、-SO3-基を有する例としてスチレンスルホン酸、等が挙げられ、また、これらの酸性官能基の全部または一部が、上記の金属イオンで中和された化合物が挙げられ、これらが単独でまたは複数でビニル重合体(B)に含有されていても良い。
【0022】
本発明に使用するビニル重合体(B)は、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体であり、そのようなビニル重合体を例示すると、上記の極性基含有ビニル系ユニットの単独若しくは2種類以上の重合体、及び上記極性基含有ビニル系ユニットと下記一般式(i)で示される無極性ビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
-CHR1=CR2R3- (i)
(式中、R1、R3は、各々独立に炭素数1〜12のアルキル基若しくは水素を、R2は、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基若しくは水素を示す。)
一般式(i)の無極性ビニルモノマーを具体的に示すと、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等のα-オレフィン、イソブテン、イソブチレン等の脂肪族ビニルモノマー、スチレンモノマーの他にo-、m-、p-メチルスチレン、o-、m-、p-エチルスチレン、t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。
【0023】
極性基含有ユニットの単独重合体を例示すると、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、極性基含有ユニットと無極性ビニルモノマーとの共重合体を例示すると、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部若しくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、ブテン-エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等及びそれらの酸性官能基のすべて、または一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂類が挙げられる。
【0024】
アイオノマー樹脂としては、公知のアイオノマー樹脂を広く使用することができる。具体的には、ビニルモノマーとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体で共重合体中のカルボン酸の一部若しくは全部を金属陽イオンにより中和したものである。
ビニルモノマーを例示すると、上記のα-オレフィンやスチレン系モノマー等であり、α,β-不飽和カルボン酸を例示すると炭素数3〜8のα,β-不飽和カルボン酸で、より具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル等が挙げられる。
【0025】
中和する金属陽イオンを例示すると、Na+、K+、Li+、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+、Ti3+、Zr3+、Sc3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。また、金属陽イオンで中和されていない残余の酸性官能基の一部は、低級アルコールでエステル化されていても良い。
アイオノマー樹脂を具体的に例示すると、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸との共重合体、あるいはエチレンとマレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体であって、共重合体中のカルボキシル基の一部若しくは全部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンで中和された樹脂が挙げられる。
【0026】
これらの中で、耐衝撃性向上能が高く、ポリエステル樹脂(A)と後述のゴム状弾性樹脂体(C)との相溶性を改善する目的で最も好ましいのが、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸の共重合体(カルボキシル基を有する構成単位が2〜15モル%)で、重合体中のカルボキシル基の30〜70%がNa、Zn等の金属陽イオンで中和されている樹脂である。
【0027】
ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差熱型分析装置(DSC)で測定)が50℃以下、室温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上であるビニル重合体(B)が、より耐衝撃性を向上するために好ましい。
本発明で使用する好ましいビニル重合体(B)を例示すると、メタクリル酸、アクリル酸、及びこれらの酸性官能基の一部もしくは全部が金属イオンで中和された極性オレフィン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、無水マレイン酸、酢酸ビニルとα-オレフィンの共重合体が挙げられる。
【0028】
特に、耐衝撃性が高い点で、さらに好ましくは、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部もしくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-グリシジルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-グリシジルアクリレート共重合体、エチレン-一酸化炭素-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-一酸化炭素-グリシジルアクリレート共重合体、エチレン-無水マレンイ酸共重合体、ブテン-エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、ブテン-エチレン-グリシジルアクリレート共重合体が挙げられる。
【0029】
バリア性確保の観点から、α-オレフィンと極性基を有するユニットとの共重合体が、好ましい組み合わせである。なお、本発明に使用するビニル重合体(B)は、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体であれば良く、上記の具体例に限定されるものではない。
また、ビニル重合体(B)の分子量は特に限定するものではないが、数平均分子量で2000以上500000以下が好ましい。2000未満や500000超では、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0030】
ビニル重合体(B)の分散形状、状態は特に規制するものではないが、好ましくは平均粒径が5μm以下の粒状で分散していること、さらに好ましくは、平均粒径が1μm以下の粒状に分散していることである。5μm超では、フィルム加工が困難となることがある。平均粒径が1μm以下の粒状に分散させることにより衝撃性が増大し、沸騰水環境下での変形応力緩和効果が大きくなる。
【0031】
また、ビニル重合体(B)の量は、体積比比で20%以下が好ましい。体積比で20%超では、樹脂組成物の耐熱性等の基本特性が変化する場合がある。
さらに、本発明の樹脂組成物には極性を有する無機粒子が添加されなければならないが、ポリエステル樹脂(A)+ビニル重合体(B)の全質量に対して一般に0.1〜50mass%の量添加される。極性を有する無機粒子とは、ポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上ある元素(I)-元素(II)結合を分子内に有する無機粒子であり、同成分のmass%が80mass%以上で有れば当該範囲外の無機物が混入していてもよい。本成分含有量が0.1mass%未満であれば、ポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相との界面の密着力強化効果や、熱温水下でのポリエステル樹脂(A)相の可塑化抑止効果が低下し、沸騰水などの高温多湿の環境下で使用した場合割れが発生しやすい。50mass%超では樹脂組成物が脆化する。極性を当該範囲に制御することにより、当該成分とポリエステル樹脂(A)の極性ユニットやビニル樹脂(B)間の極性基間で、水素結合、イオン相互作用、配位相互作用などの静電的相互作用、あるいは共有結合が生じる。この結果、界面の密着力が強化されたり、熱温水下でのポリエステル樹脂(A)相の可塑化を抑制できる。これらの相互作用をさらに強くするためには、ポーリングの電気陰性度の差が1.0(eV)0.5以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の無機粒子は、ポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上ある極性を有していればよく、特に化学構造を限定するものでないが、金属酸化物および金属の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、珪酸塩、クロム酸塩、水酸化物等が挙げられる。具体的に無機粒子を例示すると、本来顔料として用いられる、酸化チタン(チタン白、ルチル型およびアナターゼ型等、TiO2)、酸化亜鉛(亜鉛華、ZnO)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化鉄(Fe3O4)、シリカ(珪石粉、SiO2)、ホワイトカーボン(SiO2・nH2O)、珪藻土(SiO2・nH2O)、タルク(滑石粉、3MgO・4SiO2・H2O)、硫酸バリウム(BaSO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、石膏(CaSO4・2H2O)、クレー(例えばAl2O3・2SiO2・2H2Oなど)、炭酸マグネシウム(例えば、3MgCO3・Mg(OH)2・3H2O〜MgCO3・3Mg(OH)2・11H2Oなど)、アルミナ(Al(OH)3)、クロム酸鉛(PbCrO4)、クロム酸亜鉛(ZnCrO4)、クロム酸バリウム(BaCrO4)、酸化鉄エロー(FeO(OH)・nH2O)、オーカー(主成分Fe2O3、SiO2、Al2O3等)、鉛酸カルシウム(Ca2PbO4)、赤ロ黄鉛(PbCrO4・PbO)、紺青(Fe4[Fe(CN)6]3・nH2Oなど)、コバルトブルー(CoO・nAl2O3)、ビリジアン(Cr2O(OH)4)等が挙げられ、さらに、本来充填剤として用いられる無機粒子として、乾式シリカ、コロイダルシリカ、フッ化リチウム等を挙げることができ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することができる。
【0033】
中でも熱安定性が高く、ポーリングの電気陰性度の差が1.0(eV)0.5以上の結合を有し、ビニル重合体(B)中の極性ユニットとの相互作用が強く、界面の密着力が強化され、熱温水下でのポリエステル樹脂(A)相の可塑化を抑制できる観点から好ましいのは、金属酸化物である。具体的に当該無機粒子を例示すると、酸化チタン(チタン白、ルチル型およびアナターゼ型等、TiO2:2.0(eV)0.5)、酸化亜鉛(亜鉛華、ZnO:1.9(eV)0.5)、酸化アンチモン(Sb2O3:1.6(eV)0.5)、酸化鉄(Fe3O4:1.7(eV)0.5)、シリカ(珪石粉、SiO2:1.7(eV)0.5)、等が挙げられる。この内、後工程で印刷等の多様意匠付与の観点から白色であることが好ましく、中でも、隠蔽力が高く汎用性のある酸化チタンが特に好ましい。添加される酸化チタン種としては特に限定されず、アナターゼ型、ルチル型、ブルカライト型等いずれでも構わない。
【0034】
これらの無機粒子の分散形状、状態は特に規制するものではないが、好ましくはこれらの粒子の平均粒径が5μm以下の粒状で組成物中に分散していること、さらに好ましくは、平均粒径が1μm以下の粒状に分散していることが望ましい。ポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相の界面強度を増強する観点から、これらの成分は当該界面に局在していることが好ましい。具体的には、無機粒子数(X1)の20%以上がポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相の界面に偏在するか、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)との界面層数(X2)の20%以上に前記無機粒子が存在するように分散していることが好ましい。より好ましくは、X1の50%以上が当該界面に存在するか、X2の50%以上に前記粒子が1個以上ある分散状態である。また、ポリエステル樹脂(A)相の熱温水下での可塑化を抑制する観点からは無機粒子がポリエステル樹脂(A)相にも分散していることが好ましく、特に、X1の10%以上がポリエステル樹脂(A)相に分散していることが好ましい。
【0035】
これらの分散状態は、ポリエステル樹脂(A)相、ビニル重合体(B)相、無機粒子を公知の方法で識別することにより観察できる。具体的な方法として以下の方法が例示できる。必要に応じてポリエステル樹脂(A)相と無機粒子相とを染色コントラストで識別可能にした後、ビニル重合体(B)のみを溶解する溶媒によりビニル重合体(B)相をエッチングし、電子顕微鏡で観察する。エッチングされた面(ポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相の界面)への無機粒子の偏在状態を画像処理法などを利用して数値化できる。具体的には、識別した無機粒子を無作為に任意抽出し、ポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相の界面に存在する無機粒子の個数比、あるいは、ポリエステル樹脂(A)相とビニル重合体(B)相の界面層を同様に抽出し、無機粒子が存在している界面層の個数比により偏在状態を定量的に評価できる。偏在判別対象とする無機粒子あるいは界面層の個数は特に限定しないが、統計上の有意性から10個以上が好ましく、より好ましくは20個以上である。
【0036】
さらに、ビニル重合体(B)の一部の相、好ましくは全相には、ゴム状弾性体(C)が内包されていることが、樹脂組成物の耐衝撃性や沸騰水環境下での変形応力緩和効果を増大する観点から望ましい。ゴム状弾性体(C)には、公知のゴム状弾性体樹脂を広く使用できる。中でも、発現部のガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差型熱分析装置(DSC)で測定)が50℃以下、室温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上であるゴム状弾性体樹脂が好ましい。ゴム弾性発現部のTgが50℃超、室温でのヤング率が1000MPa超、及び破断伸びが50%未満では、十分に耐衝撃性や沸騰水環境下での変形応力緩和効果を発現できない。さらに、これらの効果をより増大する観点から、Tgが10℃以下、より望ましくは-30℃以下であることが好ましい。さらには、室温でのヤング率は100MPa以下、より望ましくは10MPa以下であることが、破断伸びは100%以上、より望ましくは300%以上であることが、好ましい。
【0037】
ゴム状弾性体(C)を具体的に例示すると、山下晋三著「ゴムエラストマー活用ハンドブック」工業調査会発行(1985年)に記載されている固形ゴム、ラテックス、熱可塑性エラストマー、液状ゴム、粉末ゴムなどが挙げられる。なかでも、被膜加工性から最も好ましいのが、固形ゴムと熱可塑性エラストストマーであり、金属腐食要因物へのバリア性の観点から最も好ましいのが、ポリオレフィン系のゴム状弾性体である。具体的に好ましいポリオレフィン系のゴム状弾性体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-3-エチルペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等のエチレンと炭素数3以上のα-オレフィンの共重合体、もしくは、前記2元共重合体にブタジエン、イソプレン、5-メチリデン-2-ノルボーネン、5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等を共重合したエチレン、炭素数3以上のα-オレフィン及び非共役ジエンからなる3元共重合体である。その中でも、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体の2元共重合体、若しくは、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体に、非共役ジエンとして5-メチリデン-2-ノルボーネン、5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンを使用し、α-オレフィン量を20〜60モル%、非共役ジエンを0.5〜10モル%共重合した樹脂が、被膜加工性から最も好ましい。
【0038】
ビニル重合体(B)相にゴム状弾性体(C)を内包する方法を具体的に例示すると、ゴム状弾性体(C)の化学構造に応じてビニル重合体(B)内の極性ユニットのmass%を1mass%以上の範囲で制御し、ビニル重合体(B)相がゴム状弾性体(C)相とポリエステル樹脂(A)相との界面にぬれるように3者間の界面張力、すなわち、ぬれ性を制御することによって達成できる。
【0039】
本発明のビニル重合体(B)相にゴム状弾性体(C)を内包した分散状態とは、ゴム状弾性体樹脂(C)相の界面の80%以上、好ましくは95%以上をビニル重合体(B)が被覆し、ポリエステル樹脂(A)とゴム状弾性体樹脂(C)との直接接触面積を20%未満とした構造である。このような構造とすることにより、ビニル重合体(B)でカプセル化されたゴム状弾性体(C)の微細分散が容易となり、耐衝撃性、製膜性が向上し、また、ゴム状弾性体樹脂(C)は一般に金属板との密着性が低いが、極性基を有するビニル重合体(B)が金属板との密着性を有するため、微細分散した粒子が金属板に接しても樹脂組成物と金属板との密着性を確保できる効果を有する。内包状態は、ゴム状弾性体(C)とビニル重合体(B)とを公知の染色法などで識別し、電子顕微鏡などで観察することにより判別できる。
【0040】
ゴム状弾性体(C)の添加量は特に規定しないが、好ましい添加量はポリエステル樹脂(A)に対してビニル重合体(B)+ゴム状弾性体(C)が50mass%以下である。50mass%超では硬度が低下する場合がある。
また、本発明の樹脂組成物には、他の目的、すなわち剛性、線膨張特性、潤滑性、表面硬度、熱安定、光安定、酸化安定、離型、染色の付与、帯電防止、抗菌抗カビ等を目的に、公知のこれらの物性改質剤を適正量添加してもよい。中でも、酸化防止剤では、特にラジカル禁止剤が好ましく、フェノール系ラジカル禁止剤、スルフィド系ラジカル禁止剤、および窒素系ラジカル禁止剤から選ばれる1種または2種以上添加されることが好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物の混合には、樹脂混練法、溶媒混合法等の公知の樹脂混合方法を広く使用できる。樹脂混練法を例示すると、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー、V 型ブレンダー等によりドライブレンドで混合した後、1軸若しくは2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練する方法が挙げられる。また、溶媒混合法を例示すると、樹脂組成物に含まれる原料樹脂の共通溶媒に各樹脂を溶解した後、溶媒を蒸発させたり、共通の貧溶媒に添加して析出した混合物を回収する方法等がある。
【0042】
溶融混合により混練する場合は、必要に応じていずれか一つもしくは複数の樹脂内に無機粒子を予め混合したマスターバッチを用意し、これらのマスターバッチを一部もしくは全部に使用して溶融混合してもよい。また、逆に予め樹脂成分のみを溶融混合したのち、無機粒子を添加して溶融混合してもよい。
本発明のフィルムは、本発明の樹脂組成物を単独で成形し、又は他の樹脂または樹脂組成物及び/又は接着剤と組み合わせて積層してなる樹脂フィルムである。単独成形する場合は、公知の製法を広く適用できる。具体的には、溶媒キャスト法、熱圧縮法、カレンダー法、Tダイスキャスト法、Tダイス1軸もしくは2軸延伸法、インフレーション法などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、単独成形したフィルム上に他の樹脂または樹脂組成物フィルムを積層する場合も公知の積層方法が使用できる。具体的には、多層Tダイス法により成形時に積層する方法や、単独成形したフィルムに熱圧着もしくは接着剤を介して積層する方法などが挙げられる。単独成形したフィルムに熱圧着もしくは接着剤を介して積層する場合は、単独成形したフィルムの表面張力を増大して密着性を増強するため、コロナ放電処理やプラズマ処理などの公知のフィルム処理し、表面張力を500μN/cm以上に制御することが好ましい。特にコロナ放電処理をする場合は、装置に応じて放電量(ワット密度)を調整し、低放電量下、具体的には10〜40W/m2/minで処理することが好ましい。処理放電量が高いと、表面で局部的に加熱され、表面が変形してシワなどの欠陥が発生し、意匠性が低下する場合がある。さらに接着剤を介する場合は、公知のグラビア法もしくはロールコーター法などでより接着剤を塗布できる。塗布法は用途により選択できるが、非常に高鮮映な意匠が必要な場合は、接着剤むらが少ないので、ロールコーター法がより好ましい。また、接着剤には、特公昭60-12233号公報に開示されるポリエステル樹脂系の水系分散剤、特公昭63-13829号公報に開示されるエポキシ系接着剤、特開昭61-149341号公報に開示される各種官能基を有する重合体等公知の接着剤を広く使用できる。接着する層、本発明の樹脂組成物層の主成分に応じて主成分樹脂に有効な接着剤を選択することが好ましい。さらに、本発明フィルムの上下層に、表面硬度付与や導電性付与などの目的で、公知の有機物層もしくは無機物層を積層してもよい。
【0043】
特に、建材や家電製品の筐体などのように高度な意匠が要求される分野に本発明フィルムを適用する場合には、本樹脂組成物のフィルム上に印刷層、トップ層を積層したフィルムが好適に使用できる。
本樹脂組成物フィルムを下地層にすることにより、耐熱性、衝撃性や熱温水下で使用しても変形を防止でき、金属板との密着性や耐腐食性が確保できる。また、印刷層を設けることにより、生産性を損なうことなく多様な意匠を容易に付与できる。印刷層は、ここでの印刷方法は、グラビア印刷、オフセット印刷、シルク印刷等、特に方法は限定しないが、より鮮明な印刷が必要な場合にはシルク印刷が好ましい。なお、本樹脂組成物のフィルム上に印刷層を設ける場合は、フィルムの表面張力を増大して印刷性を向上させる目的で、必要に応じ前記コロナ放電処理やプラズマ処理などの公知のフィルム処理しても構わない。この際も、適正な処理条件にて表面張力を500μN/cm以上に制御することが好ましい。さらに、トップ層を設けることにより、長期使用しても意匠性を保持できる。印刷層を設ける位置は、本発明樹脂組成物フィルムの上面でも上層フィルム層の下面でもよい。トップ層と本発明樹脂組成物フィルム層間に接着剤層が必要であり、かつ非常に高鮮映な意匠が必要な場合は、接着剤層の屈折による鮮映性低下を回避するためトップ層下面に印刷することが好ましい。
【0044】
トップ層の樹脂は、特に制限するものではないが、長期使用しても印刷層を保護できることが望ましい。印刷層を明瞭にするためには、全光線透過率が60%以上であることが望ましい。トップ層の厚みとしては、5〜200μm、好ましくは13〜150μm程度が、形成性、コスト等の観点から好ましい。トップ層の樹脂を例示すると、具体的には透明樹脂フィルム、ニスなどの透明塗料などが挙げられる。中でも、下地の本発明樹脂組成物フィルムとの物性が非常に近いという観点から、透明ポリエステル樹脂が最も好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレート、ポリアリレートなどが挙げることができ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することができる。さらにトップ層が透明樹脂である場合は、温熱水下でも当該構成フィルムの意匠性を変化させないために、結晶化温度(Tc)もしくは融解温度(Tm)が100℃以上であることが好ましい。より好ましくはTcもしくはTmが110℃以上である。前記ポリエステル樹脂で、TcもしくはTmが100℃以下の場合、100℃で変形したり、再結晶して意匠性が変化する場合がある。温熱水中では水の可塑化効果により、通常の条件で測定したTcもしくはTmよりも低下し、100℃近傍でも十分に可塑化している場合がある。そのため、TcもしくはTmが100℃以上でかつ全光線透過率が60%以上の透明性を保持し、結晶化率を予め高めるべく延伸操作あるいは造核剤添加などにより飽和結晶化度を15%以上とすることが、構成フィルムトータルの意匠性を保持するために好ましい。これらの樹脂フィルムも必要に応じ、密着性を増強するため、前記コロナ放電処理やプラズマ処理などの公知のフィルム処理し、表面張力を500μN/cm以上に制御することが好ましい。
【0045】
なお、本樹脂組成物のフィルム上に印刷層、トップ層を積層する工程は、後述する本樹脂組成物フィルムを金属板に積層する工程での熱による意匠損失を回避する必要が有る場合、本樹脂組成物フィルムを金属板に積層する工程後に行っても良い。この場合の印刷方法は、シルク印刷が好ましい。
本構成フィルムにエンボス加工などで意匠をさらに付与する場合、トップ層は無延伸化した上述のポリエステルフィルムであることが好ましい。延伸したフィルムでは、エンボス加工時に収縮し、寸法が安定しない。また、フィルム層厚みも特に制限は無いが、構成フィルムトータル厚みがエンボス溝の2倍以上であることが望ましい。2倍未満では、金属板にラミネートするような場合に、エンボス溝が変化する場合がある。なお、エンボス加工は、フィルムの段階で行ってもよく、また、後述する金属板に積層した後に、エンボスロール等を用いた公知の方法にて行っても良い。また、ワイピング印刷によって、エンボス調の外観を有する内部エンボスを当該積層フィルムに付与してもかまわない。
【0046】
本発明の金属板は、本発明の樹脂組成物フィルムが表面を被覆した金属板である。金属板は特に限定するものではないが、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等、また溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛-鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコン合金めっき鋼板、溶融アルミニウム-シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛-錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛-ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛-鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛-クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、冷延鋼板やアルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、マグネシウム等の金属板等が挙げられる。また、金属板への被覆も片面又は両面の何れであっても良い。また、本発明の樹脂組成物を金属板へ被覆した際の被覆膜厚みは、特に制限するものではないが、1〜300μmであることが好ましい。1μm 未満では被膜の耐衝撃性が十分でない場合があり、300μm超では経済性が悪い。
【0047】
金属板への被覆には、公知の方法が使用できる。具体的には、(1) あらかじめ混練機により原料樹脂を溶融混練することで調製した本樹脂組成物をTダイス付の押出機でフィルム化し、これを金属板に熱圧着する方法(この場合、フィルムは無延伸でも、1方向若しくは2方向に延伸してあっても良い)、(2) Tダイスから出たフィルムを直接熱圧着する方法、が挙げられる。さらにフィルムを直接熱圧着する別の方法としては、(3) Tダイス付の押出機のホッパに本樹脂組成物の代わりに、本樹脂組成物の原料となる樹脂及び無機粒子を投入し、押出機内で本樹脂組成物に混練し、それを直接熱圧着する方法が挙げられる。更に、本発明の樹脂組成物は、被覆後の膜内部に結晶化度を傾斜させなくても十分な耐衝撃性を発現できる。従って、(4) 樹脂組成物を溶融してバーコーターやロールでコーティングする方法、(5) 溶融した樹脂組成物に金属板を漬ける方法、(6) 樹脂組成物を溶媒に溶解してスピンコートする方法、(7) 接着剤等により金属板に被覆することも可能であり、被覆方法は特に限定されるものではない。
【0048】
金属板への被覆方法として作業能率から最も好ましいのは、上記(1)、(2)及び(3)の方法である。(2)の方法を使用して被覆する場合は、フィルム厚みは上記と同様の理由により、1〜300μmであることが好ましい。さらに、膜の表面粗度は、フィルム表面粗度を任意に1mm長測定した結果が、Rmaxで500nm以下であることが好ましい。 Rmaxが500nm超では、熱圧着で被覆する際に気泡を巻き込む場合がある。また、本樹脂組成物の高い衝撃性のため、延伸をすることなく使用しても高い衝撃性を発揮する。そのため、延伸することなく金属被覆材料として使用可能であり、省工程化が可能である。また、無延伸で金属被覆材料として使用する場合には、温度、通板速度などの制御で薄膜内の結晶化度を制御する必要が無いため、プロセスウィンドウの拡大、高速製造が可能となる。さらに、製膜時、被覆時の結晶化度を制御するための成形温度制御が容易であるため、性能の安定した製品の製造が可能となる。
【0049】
また、本発明の樹脂フィルムを金属板に被覆する際には、金属板の片面及び/又は両面に、少なくとも上記樹脂フィルムを用いて単一層状に又は多層状に積層して被覆することができる。この際に、1種類又は2種類以上の樹脂フィルムを用いて金属板の片面及び/又は両面に単一層状にあるいは多層状に積層しても良く、また、必要に応じて、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のポリエステルフィルムや、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルムや、6-ナイロンフィルム等のポリアミドフィルムや、アイオノマーフィルム等の他の公知の樹脂フィルム、あるいは、結晶/非結晶ポリエステル組成物フィルム、ポリエステル/アイオノマー組成物フィルム、ポリエステル/ポリカーボネート組成物フィルム等の公知の樹脂組成物フィルムを、その下層及び/又は上層に積層して被覆しても良い。具体的な積層方法としては、上述の(1)、(2)及び(3)の方法を使用する場合、多層のTダイスを使用して本発明の樹脂フィルムと他の樹脂フィルムや樹脂組成物フィルムとの多層膜を製造し、これを熱圧着する方法がある。また、上述の(4)〜(6)の方法を使用する場合、他の樹脂組成物を被覆した後に本発明の樹脂組成物を被覆したり、逆に本発明の樹脂組成物を被覆した後に他の樹脂組成物を被覆することにより、多層に積層することが可能である。
【0050】
本発明の樹脂被覆金属板は、本発明の樹脂フィルムが被覆された金属板であり、被覆は片面であっても両面であっても良い。金属板の厚みは特に制限するものではないが、0.01〜5mmであることが好ましい。0.01mm未満では強度が発現し難く、5mm超では加工が困難である。
本発明の樹脂組成物は固有粘度0.3dl/g以上のポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1mass%以上含有するビニル重合体(B)からなる混合物に、極性を有する無機粒子を0.1〜50mass%添加することを特徴とする。添加する無機粒子にポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上の極性があるので、当該成分とポリエステル樹脂(A)のカルボニル基や末端の官能基などの極性ユニットやビニル重合体(B)の極性ユニット間で共有結合や静電的な相互作用を及ぼすことができる。この結果、ポリエステル樹脂(A)相とビニル共重合体(B)相間の界面の接着力を増強したり、熱温水下でのポリエステル樹脂(A)の可塑化を抑制できる。さらに本効果は、無機粒子の極性、分散状態、ポリエステル樹脂(A)の固有粘度を特定したり、ゴム状弾性体を特定の分散状態にして添加することにより顕著に発現させることができる。
【0051】
この結果、沸騰水下で長期間使用するような過酷な使用条件下でも、割れ変形したり意匠を損なわない。さらにポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1mass%以上含有するビニル重合体(B)が元来有する耐衝撃性、耐薬品性、成形性、耐熱性、腐食要因物質のガスバリヤ性、耐水性及び金属との密着性をも兼備するので、樹脂成形物としても好適に使用できる。具体的にはバンパー、ボンネット、ドア材、ホイールカバー、オイルタンク、インストゥルメンタルパネルなどの自動車内外部品、バスルーム、ボイラー、給湯機、エレベーター等壁材、タイル、タイルカーペット等床材、ドア材、天井、間仕切り、パイプ、サッシ等の内装建材、玩具、家電・弱電(冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機、冷凍ショーケース、コンピュータ、携帯電話)などの筐体、フィルム・シート成形物、配管成形物などに使用できる。特に本樹脂組成物をフィルム用材料は上記の特性故に金属板被覆用のフィルム材料として好適に使用できる。さらに本発明樹脂組成物を表面に被覆した金属板は、高意匠、良好な加工性、耐腐食性などの特性を兼備でき、建築用内外装材、家電製品の筐体などに好適に使用できる。
【0052】
【実施例】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、ポリエステル樹脂(A)としてポリエチレンテレフタレート(PET)[ユニチカ(株)製SA-1346P、SA-1235P、MA-1344、MA-1340]、ポリブチレンテレフタレート(PBT)[ポリプラスチックス(株)製ジュラネックス2001] 、極性基を有するユニットを1質量%以上有するビニル重合体(B) としてエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合物[住友化学工業(株)製ボンドファースト2C]、エチレン-アクリル酸アルキル-メタクリル酸グリシジル共重合物[住友化学工業(株)製ボンドファースト7L]、エチレン系アイオノマー[三井デュポン(株)製ハイミラン1706]、ゴム状弾性体樹脂(C)としてエチレン-プロピレンゴム(EPR)[JSR(株)製EP07P]、エチレン-ブテンゴム(EBM)[JSR(株)製EBM2041P]を使用した。また、溶融混練に際しては、フェノール系抗酸化剤[旭電化(株)製アデカスタブAO-60]を用いた。
【0053】
(実施例1〜20)
各樹脂と各種無機粒子とを表1に示す各組成比で、V型ブレンダーを使用してドライブレンドした。各樹脂の組成は表1に示すとおりで、フェノール系抗酸化剤AO-60は、いずれの場合も樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部を添加した。この混合物を2軸押出機で260℃で溶融混練して、各種無機粒子を含有する樹脂組成物ペレットを得た。なお、各無機粒子ポーリングの電気陰性度の差は、二酸化チタン:2.0(eV)0.5、酸化亜鉛:1.9(eV)0.5、硫酸バリウム:2.6(eV)0.5、シリカ:1.7(eV)0.5、フッ化リチウム:3.0(eV)0.5、アルミナ:2.0(eV)0.5であり、また、添加した各無機粒子の平均粒径は、二酸化チタン:0.5μm、酸化亜鉛:0.6μm、硫酸バリウム:0.8μm、シリカ:1.0μm、フッ化リチウム:0.5μm、アルミナ:1.2μmであった。
【0054】
本樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析した。この結果、何れもゴム状弾性体樹脂(C)は、ビニル重合体(B)でほぼ100%カプセル化されており、ゴム状弾性体樹脂(C)の等価球換算径は1μm以下でポリエステル樹脂(A)中に微細分散していた。また、いずれも添加した各種無機粒子数の20%以上がポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)の界面に偏在していた。
【0055】
【表1】
【0056】
本ペレットを使用して、押出しTダイスで50μm厚みのフィルムを得た(押出温度:280℃)。本フィルムを250℃に加熱した450μm厚みの亜鉛メッキ鋼板の片面に張り合わせ、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷した。このようにして得られた常温の樹脂被覆金属板について、下記に示す評価方法により、密着性、耐熱性、耐沸騰水性、加工性、耐汚染性、耐溶剤性、常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性の各項目の評価を行った。
【0057】
<密着性>
上記の樹脂被覆金属板にクロスカットを入れ、蒸留水に50℃で10日間浸漬した後、クロスカット部のフィルムの剥離幅(mm)(10サンプルの平均)を評価した。評価は、◎:0.0mm、○:0.0〜0.5mm、△:0.5〜2.0mm、及び×:2.0mm超とした。密着試験の結果を表2に示す。
【0058】
<耐熱性>
上記の樹脂被覆金属板を、200℃で30分間加熱した後、外観変化(凹凸、収縮、剥離等)を目視で確認した。評価は、◎:異常なし、○:若干の変化、△:表面がかなり変化する、及び×:下地が露出とした。耐熱試験の結果を表2に示す。
<耐沸騰水性>
上記の樹脂被覆金属板を、沸騰水に連続48時間浸漬しフィルムの剥離状況、外観変化(凹凸、収縮、剥離等)を目視で確認した。評価は、◎:異常なし、○:若干の変化、△:表面がかなり変化する、及び×:下地が露出とした。耐沸騰水試験の結果を表2に示す。
【0059】
<加工性>
上記の樹脂被覆金属板を、25℃で0T曲げを行い、割れ、白化等、加工性の良否を目視で確認した。評価は、◎:異常なし、○:若干の変化、△:表面がかなり変化する、及び×:下地が露出とした。加工性試験の結果を表2に示す。
<耐汚染性>
上記の樹脂被覆金属板のフィルム面に、黒色の油性マジックインキで描画し24時間放置した後、エタノールを含浸させた布で清拭し、フィルム面に残存するマジックインキの程度を目視で確認した。評価は、◎:マジックインキは全く認められない、○:実用上問題のない程度の極わずかなマジックインキの残存が認められる、△: 実用上問題となる程度のわずかなマジックインキの残存が認められる、及び×:かなりの程度にマジックインキの残存が認められる、とした。耐汚染性試験の結果を表2に示す。
【0060】
<耐溶剤性>
上記の樹脂被覆金属板のフィルム面に、メチルエチルケトンを含浸させたスポンジを載せ、24時間放置した後、フィルム表面の変色および膨れの発生の程度を目視で観察した。評価は、◎:変色および膨れの発生は全く認められない、○:実用上問題のない程度の極わずかな変色および膨れの発生が認められる、△:実用上問題となる程度のわずかな変色および膨れの発生が認められる、及び×:かなりの程度に変色および膨れの発生が認められる、とした。耐溶剤性試験の結果を表2に示す。
【0061】
<常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性>
本樹脂被覆金属板の耐衝撃性評価をデュポン式の落垂衝撃試験で行なった。上記の樹脂被覆金属板を60mm×60mmの大きさに切り出し、室温(約25℃)で50cmの高さから金属板に1kgの鉄球を落とし、衝撃を負荷した。衝撃を負荷した後のフィルム表面の状態を目視で評価した。また、樹脂被覆金属板を0℃の恒温槽に24時間入れた後、同様の耐衝撃性評価を行い、低温での耐衝撃性を評価した。評価は、◎:フィルムに割れが認められない、○:フィルムの一部に細かい割れが認められる 、△: フィルムの全体に細かい割れが認められる、×: フィルムの全体に大きな割れが認められる、の基準で行なった。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例1〜20では、耐熱性および耐沸騰水性でフィルム表面の外観変化(凹凸、収縮、剥離等)は無く、有っても問題にならない程度であった。当処理後の実施例の樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析したところ、何れもポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)との界面を中心に添加した無機粒子が偏在しており、処理前と比較して分散状態に変化が無い、あるいは有っても極わずかであることを確認した。
【0064】
(比較例1〜4)
上記実施例と同様な方法にて、各種無機粒子を含まない樹脂組成物を表3に示す各組成比で、V型ブレンダーを使用してドライブレンドした。各樹脂の組成は表3に示すとおりで、フェノール系抗酸化剤AO-60はいずれの場合も樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部を添加した。この混合物を2軸押出機で260℃で溶融混練して、各種無機粒子を含有しない樹脂組成物ペレットを得た。
【0065】
本樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析した。この結果、何れもゴム状弾性体樹脂(C)はビニル重合体(B)でほぼ100%カプセル化されており、ゴム状弾性体樹脂(C)の等価球換算径は1μm以下でポリエステル樹脂(A)中に微細分散していた。
【0066】
【表3】
【0067】
実施例1〜20と同様に、本ペレットを使用して押出しTダイスで50μm厚みのフィルムを得た(押出温度:280℃)。本フィルムを250℃に加熱した450μm厚みの亜鉛メッキ鋼板の片面に張り合わせ、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷した。このようにして得られた常温の樹脂被覆金属板について、実施例1〜20と同様の評価方法により、密着性、耐熱性、耐沸騰水性、加工性、耐汚染性、耐溶剤性、常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性の各項目の評価を行った。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
比較例1及び2は、諸物性を満足するものの、耐沸騰水性でフィルム表面の外観変化(凹凸、収縮、剥離、等)が若干観測された。また、比較例3及び4は、耐熱性及び耐沸騰水性で変化が顕著であった。当処理後の比較例3及び4の樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析したところ、何れもポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)との界面が剥離し、分散状態が変化していることを確認した。
【0070】
(実施例21、22)
ポリエステル樹脂(A)としてポリエチレンテレフタレート(PET)[ユニチカ(株)製SA-1346P、MA-1344]、及びそれぞれに二酸化チタン(平均粒径0.2〜0.3μm)を50mass%含有するマスターバッチポリエチレンテレフタレートをあらかじめ調製した。表5に示すように、それそれのポリエチレンテレフタレート(PET)を40質量%、対応するそれぞれ二酸化チタンを50mass%含有するマスターバッチを40質量%、極性基を有するユニットを1質量%以上有するビニル重合体(B)としてハイミラン1706を10質量%、ゴム状弾性体樹脂(C)としてエチレン-ブテンゴム(EBM)を10質量%、及びフェノール系抗酸化剤としてアデカスタブAO-60を0.1質量%用い、V型ブレンダーを使用してドライブレンドした。この混合物を2軸押出機で260℃で溶融混練して二酸化チタン粒子を含有(最終濃度20%)する樹脂組成物ペレット2種を得た。
【0071】
【表5】
【0072】
これら2種の樹脂組成物からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析した。この結果、実施例1〜20と同様に、何れもゴム状弾性体樹脂(C)は、ビニル重合体(B)でほぼ100%カプセル化されており、ゴム状弾性体樹脂(C)の等価球換算径は1μm以下で、ポリエステル樹脂(A)中に微細分散していた。また、マスターバッチにて添加した二酸化チタン粒子は、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)の界面を中心に分散していた。
【0073】
実施例1〜20と同様に、本ペレットを使用して押出しTダイスで50μm厚みのフィルムを得た(押出温度:280℃)。本フィルムを250℃に加熱した450μm厚みの亜鉛メッキ鋼板の片面に張り合わせ、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷した。このようにして得られた常温の樹脂被覆金属板について、実施例1〜20と同様の評価方法により、密着性、耐熱性、耐沸騰水性、加工性、耐汚染性、耐溶剤性、常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性の各項目の評価を行った。結果を、表5に示す。実施例21は実施例5と、また、実施例22は実施例7と、それぞれ同様の結果を得た。
【0074】
上記実施例1〜22及び比較例1〜4で明らかなように、ポリエステル樹脂(A)、ビニル重合体(B)、ゴム状弾性体(C)に、各種無機粒子を所定量添加することにより、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)からなる樹脂組成物の耐衝撃性、金属との密着性等の優れた物理特性を損なうことなく、これら樹脂組成物を用いた場合の被覆金属板でも、長時間熱あるいは熱水に曝しても、当該被覆樹脂の変形、割れを起こすことなく、すなわち印刷面の美観等、意匠性を保持あるいは向上させることが可能であることが分かった。
【0075】
(実施例23)
表5の実施例21に示す組成、すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET、SA-1346P)を40質量%、対応する50%二酸化チタンを含有するマスターバッチを40質量%、極性基を有するユニットを1質量%以上有するビニル重合体(B)としてハイミラン1706を10質量%、ゴム状弾性体樹脂(C)としてエチレン-ブテンゴム(EBM)を10質量%、及びフェノール系抗酸化剤としてアデカスタブAO-60を0.1質量%用い、V型ブレンダーを使用してドライブレンドした。この混合物を直接使用して、押出しTダイスで50μm厚みのフィルムを得た(押出温度:280℃)。この樹脂組成物フィルムからミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂(A)中のビニル重合体(B)及びゴム状弾性体樹脂(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析した。この結果、実施例1〜22と同様に、ゴム状弾性体樹脂(C)は、ビニル重合体(B)でほぼ100%カプセル化されており、ゴム状弾性体樹脂(C)の等価球換算径は1μm以下でポリエステル樹脂(A)中に微細分散していた。また、マスターバッチにて添加した二酸化チタン粒子(最終濃度20%)は、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)の界面を中心に分散していた。隠蔽性を色差計にて評価したところ、市販20%TiO2含有白色二軸延伸PETフィルム(白色、膜厚50μm)と同等であった。
【0076】
得られた、前記白色樹脂組成物フィルムの表面張力は380μN/cmであり、片面に放電量(ワット密度)20W/m2/min条件にてコロナ放電処理を行い、表面張力を540μN/cmとした。当フィルムのコロナ放電処理面に、アクリル系インクを用い、乾燥後のインキ膜厚2〜3μmとなるようにグラビア印刷方法によってベタ印刷、幾何学模様印刷を行った。
【0077】
前記白色樹脂組成物の印刷フィルムと、トップ層として市販透明二軸延伸PET(透明易接着タイプ、膜厚50μm、Tm:240℃、結晶化度約45%)とを、二液タイプのウレタン系接着剤を用い(乾燥後の接着剤塗布厚み6μm)、定法にてドライラミネートし、樹脂組成物フィルム層、印刷層、トップ層の3層からなるフィルムを得た。
【0078】
この3層フィルムの樹脂組成物フィルム層側を、二液タイプのポリエステル系接着剤(塩化ビニル樹脂用、乾燥後接着剤塗布厚み4μm)を用い、200℃以上に加熱した450μm厚みの亜鉛メッキ鋼板の片面に、ゴムロールを用いて張り合わせ、水冷により5秒以内に100℃以下まで急冷した。このようにして得られた樹脂被覆金属板について、実施例1〜22と同様の評価方法により、密着性、耐熱性、耐沸騰水性、加工性、耐汚染性、耐溶剤性、常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性の各項目の評価を行った。結果を表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
実施例23の結果から明らかなように、ポリエステル樹脂(A)、ビニル重合体(B)、ゴム状弾性体(C)に、各種無機粒子として酸化チタンを所定量添加することにより、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(B)からなる樹脂組成物の耐衝撃性、金属との密着性等の優れた物理特性を損なうことなく、これら樹脂組成物をベース層とし、印刷層、トップ層を積層させたフィルムの被覆金属板でも、長時間熱あるいは熱水に曝しても、当該被覆樹脂の変形、割れを起こすことなく、すなわち印刷面の美観等、意匠性を保持あるいは向上させることが可能であり、特に、本樹脂組成物フィルムは、上記の特性故に金属板被覆用のフィルム材料として好適に使用でき、さらに本発明樹脂組成物を表面に被覆した金属板は、高意匠、良好な加工性、耐腐食性などの特性を兼備でき、建築用内外装材、家電製品の筐体などに好適に使用できることが分かった。
【0081】
【発明の効果】
本発明の樹脂組成物は固有粘度0.3dl/g以上のポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1mass%以上含有するビニル重合体(B)からなる混合物に、ポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上の極性を有する無機粒子を0.1〜50mass%添加することを特徴とする。添加する無機粒子の極性、すなわちポーリングの電気陰性度の差が0.45(eV)0.5以上であるので、当該成分とポリエステル樹脂(A)のカルボニル基や末端の官能基などの極性ユニットやビニル重合体(B)の極性ユニット間で共有結合や静電的な相互作用を及ぼすことができる。この結果、ポリエステル樹脂(A)相とビニル共重合体(B)相間の界面の接着力を増強したり、熱温水下でのポリエステル樹脂(A)の可塑化を抑制できる。さらに、本効果は、無機粒子の極性、表面張力、分散状態、ポリエステル樹脂(A)の固有粘度を特定したり、ゴム状弾性体を特定の分散状態にして添加することにより顕著に発現させることができる。
【0082】
この結果、沸騰水下で長期間使用するような過酷な使用条件下でも、割れ変形したり意匠を損なわない。さらに、ポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1mass%以上含有するビニル重合体(B)が、元来有する耐衝撃性、耐薬品性、成形性、耐熱性、腐食要因物質のガスバリヤ性、耐水性及び金属との密着性をも兼備するので、樹脂成形物としても好適に使用できる。具体的にはバンパー、ボンネット、ドア材、ホイールカバー、オイルタンク、インストゥルメンタルパネルなどの自動車内外部品、バスルーム、ボイラー、給湯機、エレベーター等壁材、タイル、タイルカーペット等床材、ドア材、天井、間仕切り、パイプ、サッシ等の内装建材、玩具、家電・弱電(冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機、冷凍ショーケース、コンピュータ、携帯電話)などの筐体、フィルム・シート成形物、配管成形物などに使用できる。特に、本樹脂組成物フィルムは、上記の特性故に金属板被覆用のフィルム材料として好適に使用できる。さらに、本発明樹脂組成物を表面に被覆した金属板は、高意匠、良好な加工性、耐腐食性などの特性を兼備でき、建築用内外装材、家電製品の筐体などに好適に使用できる。
Claims (6)
- 固有粘度0.7〜1.5dl/gを有し、結晶融解温度(Tm)が210〜265℃であり、かつ、低温結晶温度(Tc)120〜215℃であるポリエステル樹脂(A)、及び、極性基を有するユニットを1mass%以上含有し、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下、室温でのヤング率が1000MPa以下、及び、破断伸びが50%以上のビニル重合体(B)を体積比で20%以下を含む混合物に、極性を発現するポーリングの電気陰性度の差が1.0(eV) 0.5 以上である無機粒子を0.1〜50mass%添加してなり、
前記ビニル重合体(B)の一部の相もしくは全相にゴム状弾性体樹脂(C)相を内包し、
前記ポリエステル樹脂(A)と前記ビニル重合体(B)の界面に偏在する前記無機粒子数が全無機粒子の20%以上、及び/又は、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ビニル重合体 (B)との界面層数の20%以上に偏在していることを特徴とする金属被覆用樹脂組成物。 - 請求項1に記載の樹脂組成物を、単独で成形し、又は、他の樹脂又は樹脂組成物及び/又は接着剤と組み合わせて積層してなることを特徴とする金属被覆用樹脂フィルム。
- 前記樹脂フィルムが、請求項1に記載の樹脂組成物フィルム層、印刷層およびトップ層の3層からなる請求項2記載の金属被覆用樹脂フィルム。
- 前記トップ層の結晶化率が当該トップ層を構成する樹脂の飽和結晶化度の15%以上である請求項3記載の金属被覆用樹脂フィルム。
- 請求項2〜4のいずれかに記載の金属被覆用樹脂フィルムを表面に被覆してなる樹脂被覆金属板。
- 請求項1に記載の金属被覆用樹脂組成物の溶融フィルムを表面に被覆・冷却してなる樹脂被覆金属板。
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