JP5142432B2 - 蛍光インク、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、蛍光増強方法及び蛍光の長寿命化方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光インク、これを用いたインクジェット記録方法、該記録方法によって得られた記録物、及び、かかる蛍光インクを用いた機器に関し、更に詳しくは、蛍光性の強度を向上させ、且つ、安定性、信頼性、及び見た目の発色性も含めた記録品位が良好な記録物が得られる蛍光インク、これを用いたインクジェット記録方法、該記録方法によって得られた記録物、及び、かかる蛍光インクを用いた機器に関する。また本発明は、蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の該着色部の蛍光増強方法並びに蛍光の長寿命化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、筆記具等に用いられるインクや、インクジェット記録用インク等については、様々な検討や報告が行われている。特に、蛍光強度や発色性等を含めた記録物の品位向上に対しては、下記のような様々な提案がなされている。例えば、上記した用途のインクに好適な新たな構造を有する色材等の提案、メイン色材に蛍光性を示す色材(以下、蛍光色材と呼ぶ)を用いるインクの提案、及び、インクの色材として蛍光色材を併用することの提案等がなされている。特に、蛍光色材の蛍光性に着目したインクに関する提案については、例えば、特開平8−151545号公報、同9−132729号公報、同10−193775号公報、同10−298462号公報、同10−298467号公報、特許第233038号公報等があり、新たな記録方法や蛍光性色材が提案されている。
【0003】
また、蛍光色材を用いた提案としては、例えば、特開平5−293976号公報、同6−191143号公報、同6−322307号公報、同7−009755号公報、同7−305013号公報、同8−053639号公報、同9−003375号公報、同9−001294号公報、同9−137097号公報、同9−137098号公報、同9−137099号公報、同9−165539号公報、同9−241565号公報、同9−255904号公報、同9−286939号公報、同10−007962号公報、同10−183043号公報、同11−080639号公報、同11−320921号公報、特開2000−038529公報、特許第2995853号公報等がある。
【0004】
近年、蛍光色材の用途は、従来の単に美麗な有色画像を形成することに留まらず、例えば、インクに蛍光性を持たすことで、文字、数字、記号、バーコード等の情報を記録媒体に記録し、適当な波長の紫外光を照射することにより蛍光インクを発光させて、可視情報以外の情報(例えば、セキュリティ情報等)を付与するといった技術展開が提案されている。よって、蛍光性を示すインクの用途は多方面に拡大する余地があり、安定で信頼性のある蛍光強度の高い発色性に優れたインクの開発が待望されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、被記録材上におけるインクの発色性に対しては、従来より、色の尺度として用いられる色度(L*,a*,b*)のみで考えられており、蛍光色材を用いた場合も同様に、上記従来の尺度の中で設計されている状態にあり、十分に色材の蛍光特性を生かしているとは言い難かった。即ち、上記した蛍光色材を用いた種々の提案においても、色材の発色性という観点においては、蛍光性という観点よりは、(L*,a*,b*)という観点でのみ蛍光色材を使用しているか、或いは、色材の蛍光性に着目をしているものの、蛍光の発色特性、言い換えれば、記録物における蛍光性の界面特性については着目しておらず、十分に色材の蛍光特性を生かしているものではなかった。
【0006】
従って、本発明の目的は、この蛍光特性を十分に生かすことで、得られる記録物について、例えば、自然界の色にとって重要な蛍光性を充分に記録部に付与させることができ、高い蛍光強度と、発色性を含めた印字品位に優れ、しかも記録物の安定性や信頼性を向上させることのできる蛍光インクを提供することにある。
また本発明の他の目的は、高い蛍光強度を有する蛍光性着色部を有する記録物を簡易に、且つ安定して形成することのできるインクジェット記録方法を提供する点にある。
【0007】
また本発明の他の目的は、高い蛍光強度を有する着色部を備えている記録物を提供する点にある。更には、蛍光強度が、経時的に劣化し難い蛍光性着色部を有している記録物を提供することを他の目的とする。
また本発明の他の目的は、優れた蛍光強度を示す蛍光性着色部を有している記録物を安定して得られるインクジェット記録装置、インクカートリッジ、及び記録ユニットを提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、蛍光性着色部を被記録材上に有する記録物の、該着色部の蛍光性の増強方法並びに当該蛍光の長寿命化方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一実施態様(第1の実施態様)は、
(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の少なくとも一方と、
(iii)前記(i)及び(ii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、
該(ii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である
ことを特徴とする蛍光インクを提供する。また、この蛍光インクをインクジェット用のインクに調整されたものを提供する。
【0009】
また、本発明の他の実施態様では、上記のインクジェット用に調整された蛍光インクを、記録信号に応じてオリフィスから吐出させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0010】
また、本発明の他の実施態様は、上記のインクジェット用インクを収容しているインク収容部、及び該インクを吐出させるためのヘッド部を具備していることを特徴とする記録ユニットを提供する。
また、本発明の他の実施態様は、上記の蛍光インクを収容しているインク収容部を具備していることを特徴とするインクカートリッジを提供する。
また、本発明の他の実施態様は、上記のインクジェット用インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのヘッド部と、を具備していることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0011】
また、本発明の他の実施態様は、蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の増強方法であって、該着色部は、インクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、該インクとして、
(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の少なくとも一方と、
(iii)前記(i)及び(ii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、
該(ii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である蛍光インクを用いることを特徴とする蛍光性着色部の蛍光増強方法を提供する。
【0013】
また本発明の他の実施態様は、蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の長寿命化方法であって、該着色部はインクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、該インクとして、
(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蒸気圧がジエチレングリコール以上のグリコール化合物と、
(iii)蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の少なくとも一方と、
(iv)前記(i)、(ii)及び(iii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、
該(iii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である蛍光インクを用いることを特徴とする蛍光性着色部の蛍光の長寿命化方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に好ましい発明の実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
(第1の実施態様)
本発明の第1の実施態様にかかるインクは、
(i)互いに相溶性のない2種の有機化合物(第1及び第2の有機化合物)と、
(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の少なくとも一方と、
(iii)上記(i)及び(ii)を溶解又は分散している液媒体、
とを有している点に一つの特徴を有している。
【0015】
先ず、本態様にかかるインクによって、安定性及び信頼性が良好で、しかも、使用する成分の蛍光特性を十分に生かした、蛍光強度を含む発色性の良好な記録物を得ることが可能となるメカニズムについて説明する。
本発明者等は、インクジェット記録等によって得られる記録物の安定性及び信頼性が良好で、且つ、発色性が良好となるインクを開発するために、多種多様なメカニズムを考え、多種多様な色材やインク組成について検討及び確認を行ってきた。その結果、従来では考えられてこなかった、インクの構成成分として互いに相溶性のない2種の有機化合物を用いることにより、得られる記録物の発色性を良好なものとできるという新たな事実にたどりつき、本発明に至った。
【0016】
即ち、互いに相溶性のない第1及び第2の2種の有機化合物(i)と、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材(ii)と、これらの(i)及び(ii)を溶解又は分散する液媒体(iii)とを有するインクを用いると、被記録材上にインクを付与した場合に、蛍光強度や、発色性等を含めた記録物の品位が向上し、且つ、安定性及び信頼性が良好な記録物が得られ、特に、このようなインクは、インクジェット記録に用いた場合に良好な結果を示すことがわかった。加えて、上記の構成を有する本発明のインクは、特に、記録物の蛍光強度という観点から捉えると、従来の蛍光インクを用いて形成した記録物と比べて蛍光強度が格段に向上することがわかった。
【0017】
上記した記録物の安定性及び信頼性が良好で、且つ、蛍光強度や発色性等の良好なインクに対するメカニズムを考える場合、一般的には、記録物の蛍光性及び発色性を向上させる手段としては、インク中で色材をいかに均一に良好な状態で溶解或いは分散させるかについて注目が集まる。言い換えれば、インク中における色材分子又は分散粒子の凝集をいかになくし、色材分子又は分散粒子を小さくする、例えば、インクで考えれば、インクの吸光度を高くすることができるか、及び、吸光度を高い状態に保つことができるかについて検討されて、インクの設計がなされる。このように設計することで、被記録材上に記録されたインク中の色材分子又は分散粒子を凝集しにくくさせ、色材の発色性及び蛍光性を良好にしようとすることが試みられる。
【0018】
これに対し、本発明者等は、被記録材上にインクが付与されて形成された記録物(印字物)について、被記録材上でのインクの状態、及び、世の中にある多種多様な記録物について再度検討し、考察を重ねた。その結果、先ず、いかなる記録物も、被記録材上に、シャープではなくとも必ず被記録材とインクとの界面が存在していること、更には、被記録材上のインクは大気に対しても界面を有した状態で存在していることに注目した。また、例えば、上質紙に記録を行った場合に、インクの浸透を高めると、見た目の色材の発色性が低下し易くなること、更に、バックコートフィルムに記録を行ったり、記録物をラミネートすると、見た目の色材の発色性が良好になることに着目した。上記したことから、被記録材上において、色材の発色性が良好となる大気に対するインクの界面状態を記録後にいかに作るか、更に、その状態をいかにして保持させるかという観点からの検討を行なった結果、本発明に至った。
【0019】
本発明者らは、本態様にかかるインクは、下記の具体的なメカニズムによって、記録物の蛍光性や発色性を格段に向上できたものと考えている。
図7に示したように、本態様にかかるインクは、インクの状態では各成分が液媒体中に十分に溶解或いは分散して一様な状態で安定に存在している。同図中、7000は、被記録材7009に着弾する前のインク滴を示し、同インク滴中、7001及び7003は、互いに相溶性のない第1及び第2の2種の有機化合物、7005は、蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の少なくとも一方(以降「色材」と略す)を示し、また7007は、有機化合物7001、7003、及び色材7005を溶解又は分散させている液媒体を示している。
【0020】
また7009は、被記録材である。このようなインク滴7000が、図8に示したように、被記録材7009上に着弾して記録された場合、記録後に、図9に示したように、インク成分の一部(特に液媒体7007)が大気中へ蒸発したり、被記録材内へ浸透し、拡散したりすることにより、被記録材上のインクの構成や成分比が変化する。すると、このことによって、インクの状態では安定に存在していた互いに相溶性のない2種の有機化合物7001及び7003が、被記録材上で層状に相分離を生じ、図10に示したように、インクと大気との間にインク構成成分同士による界面が形成されるため、あたかもインク構成成分の各々によって記録された物がラミネートされたような状態が形成される。
【0021】
図11は、図10に示した状態をわかり易くするために模式的に表現したものである。ここで、1101で表わした層は、有機化合物7003と色材7005とを含み、1103で表わした層は、有機化合物7001と色材7005とを含んでいる。そして層1101の表面は気液界面1105を構成し、層1101と1103とは、その間で液体同士の界面1107を形成している。以上の結果、本発明のインクによって形成した記録物では、液液界面1107の発現により、安定な厚みの層1101が形成されるため、光の反射を有効に発現させることができるので蛍光強度を含む発色性が良好になり、記録物の蛍光特性や発色性を格段に向上させる有効な手法となる。
【0022】
本発明者らの検討によれば、特に、互いに相溶性がない2種の有機化合物の一方に界面活性剤を用いた場合には、蛍光強度を含む発色性が良好な画像が得られることがわかった。本発明者らは、これは、界面活性剤を用いると、例えば、後述する図12に示したように、層1101と1103を被覆する表層として界面活性剤のミセル層(層1201)が形成され、この表層により、光の反射をより有効に発現させることができるので、蛍光強度を含む発色性が更に良好になったものと考えている。
【0023】
更に、本発明者らの検討によれば、本態様にかかるインクを構成する互いに相溶性のない2種の有機化合物を、インク中で均一に近い状態で共存させるには、液媒体として水を使用することが好ましいことがわかった。即ち、液媒体として水を使用すると、他の液媒体と比べて多様な化合物を用いることができるので、インクの構成材料の選択の余地が広がるだけでなく、上質紙に対しては、非水系の液媒体を用いたインクと比べて記録物の品位を低下させにくく、更に、上質紙内に対して浸透により液媒体を除去させることもでき、しかも、液媒体の蒸発に対しても安定性があり、この面からも良好であることがわかった。
また、本態様にかかるインクは、被記録材に対して間隙を介してインクが供給される方式の記録に用いることが好ましい。これに対して、例えば、ボールペンのような、被記録材に接触させて加圧させた状態で記録を行う方式に用いた場合は、インクが被記録材内に押し込められて、本発明にかかるメカニズムが発現しにくいからである。
【0024】
以下、上記したメカニズムによって優れた効果が得られる本態様にかかるインクの構成成分等について説明する。
本態様にかかるインクを構成する、互いに相溶性のない第1及び第2の2種の有機化合物(i)としては、共に液体であって、或いは共に水溶性であり、共に非極性化合物であることが好ましい。更には、併用する蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材を溶解し、分散し、又は溶解及び分散する化合物を用いることが好ましい。
ここで、互いに相溶性のない2種の有機化合物とは、該2種の有機化合物のみを混合させた状態で、例えば、水と油の如く、層状に相分離するものを指す。具体的には、互いに相溶性のない2種の有機化合物と、液媒体として水を用いた3成分を例にとって説明すると、初期状態においては、上記2種の互いに相溶性のない有機化合物は、何れも水に溶解した状態で存在しているが、例えば、50℃の環境で溶媒としての水を蒸発させていった場合に、上記2種の互いに相溶性のない有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態での分離を生じるものを意味している。本発明者らの検討によれば、このような組合せの2種の有機化合物をインク組成として用いることで、前記した本態様にかかるメカニズムが発現し易くなる。
【0025】
一方、これらの有機化合物に対する液媒体としては、多種多様な液体の中から、互いに相溶性のない2種の有機化合物の組合せと、これらとの相性とをにらみながら選択されるが、特に好ましいものは、液媒体を水にした形態である。この理由としては、インクの安定性の他に、前述したメカニズムに記載した非水系の液媒体を用いた場合の品位等の問題や、互いに相溶性のない2種の有機化合物を選択する場合の容易性が挙げられる。
【0026】
互いに相溶性のない2種の有機化合物としては、上記した様に、2種の有機化合物のみを混合させた状態で、例えば、水と油の如く層状に相分離するものであれば何れのものでもよいが、例えば、一方の有機化合物の溶解度パラメーター値が15以上で、他方の有機化合物の溶解度パラメーター値が13以下であるものが好ましい。両者の溶解度パラメーター値が近すぎると、相溶し易くなり、本発明の効果が発現しにくくなる場合がある。尚、ここで示す溶解度パラメーター値は、Fedors法によって求められた値である。
【0027】
また、互いに相溶性のない2種の有機化合物の、一方(第1の有機化合物)は、グリセリン基を有している化合物であることが好ましい。グリセリン基は水和力が強く、本態様のインクによって蛍光強度を含む優れた発色性を有する記録物が得られる理由と考えられる、先に説明した現象(メカニズム)中、具体例として述べた「水と油」のうち、水側の化合物として働き易い物質である。グリセリン基を有している化合物の中でも、例えば、グリセリン、キシリトール、エリトリトール等のモノマーとしての糖アルコール、グリセリン、ジグリセリン等の二量体、三量体としての糖アルコールが良好である。
【0028】
また、上記化合物に対し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、夫々の組合せられたものを置換基として付加してもよい。以上の中で、特に好ましくは、水酸基を3個以上有しているもの、常温で液体のものである。これらのインク中における含有量は、インク全質量に対して、1.0〜30質量%、更に、5.0〜20質量%とするのが好ましい。しかし、被記録材によっては、これらに限定されない。
【0029】
次に、本態様にかかるインクを構成する、上記第1の化合物に対して相溶性のない有機化合物(第2の有機化合物)について説明する。本発明においては、上記したような第1の有機化合物に対して、第2の有機化合物として、例えば、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、極性を有している界面活性剤等と比較して、先に説明したメカニズムがより良好に発現されるからである。
【0030】
第2の有機化合物として用いることのできるノニオン系界面活性剤は、水溶液状態で、該水溶液からそれ自身が相分離しないものであることが好ましい。これは、例えば好適な液媒体として水を用いてインク化したときに、インクが不安定化することを抑え、若しくは防ぐことができるためである。このことは、見かけ上は、水に溶けた状態や均一状に分散しているものを使用することが好ましいことを示しており、特に、水溶液に対してエマルジョン状態になるノニオン系界面活性剤を選択するとよい。更に、ノニオン系界面活性剤のインク中の含有量を、水溶液の状態でエマルジョン状態を保持できる添加量以下に選択すると、インクの安定性に対する不安がなくなるので好ましい。
【0031】
ノニオン系界面活性剤の中でも本態様に好適に用いることのできるものとしては、そのHLBが13以下のものが挙げられる。一般的に、HLBが13よりも大きくなると親水性が強くなり過ぎてしまうが、HLBが13以下のノニオン系界面活性を用いた場合には、本態様にかかるインクの構成成分である相溶性のない2種の有機化合物が、被記録材表面で相分離し、インクと大気の間にインク成分同士による界面を形成させ、これによって、記録物の蛍光強度を含む発色性を良好にするという前記したメカニズムが良好に発現する。
【0032】
更に、上記界面活性剤が、水と油の間の性質を持つもの、言い換えれば曇点を有するものを用いると、この界面活性剤の相において、蛍光強度を含む発色性が良好になるので好ましい。これは、上記したような界面活性剤の相に蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光性を示す色材が、蛍光性を含む発色性に対して最も良好な状態である単分子に近い状態に溶解及び/又は分散し、且つ、蛍光性を示す色材等の過飽和分は、界面活性剤と相溶性のない相に溶解及び/又は分散するために、蛍光性を含む発色性がより良好に発現するのではないかと推測している。
【0033】
本態様にかかるインクにおけるノニオン系界面活性剤の含有量は、水溶液の状態で水溶液界面で分離しない量でインク中に含有させることが好ましい。更に、ノニオン系界面活性剤の含有量は、先に説明した蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材(ii)を除いたインクの状態で、インク界面で分離することのない量をインク中に含有させることが好ましい。具体的には、インク全質量に対して1質量%以上、更には、1〜20質量%とすることが好ましい。この範囲とした場合、先に述べたメカニズムをより良好に発現させることができる。また、得られる記録物における印字品位のバランス、例えば、濃度や定着性やヒゲ状の滲みであるフェザリングと定着性や濃度とのバランスが悪くなることを抑えることもできる。
【0034】
以上に挙げた要件を具備するノニオン系界面活性剤の中でも、特に好ましいものとしては、下記の一般式(I)で示される化合物、及び下記(II)〜(VII)に列挙した化合物が挙げられる。
【0035】
[上記一般式(I)において、A及びBは夫々独立に、CnH2n+1(nは1〜10の整数)を表し、X及びYは、それぞれ開環したエチレンオキサイドユニット及び/又は開環したプロピレンオキサイドユニットを表す。]
【0036】
上記Rの例としては、ラウリル基、ステアリル基、オレイル基等の長鎖アルキル基を挙げることができる。
【0037】
また、上記一般式(I)で表されるノニオン系界面活性剤の中でも特に好ましいのは、下記の一般式(VIII)で示される化合物である。
【0038】
次に、本態様にかかるインクの構成要件(ii)の、蛍光性を示す化合物及び蛍光色材について説明する。先に説明したメカニズムによる効果は、特に、蛍光性を示す化合物や蛍光色材を用いた場合に十分に発現される。更に、先に述べた理由により本発明のインクは、液媒体を水とする水系でした場合に好ましい結果を示し易いため、本態様にかかるインクに用いられる蛍光性を示す化合物及び蛍光色材としては、水に溶解する水溶性のものや親水性のものを用いることが好ましい。
【0039】
上記で言う水溶性或いは親水性の蛍光性を示す化合物及び蛍光色材としては、例えば、化合物や色材自身が水に溶解するもの(例えば、染料)、または、化合物や色材の表面処理をすることで、本来は疎水性であるものを親水性とし、水にエマルジョン化させる等の方法であたかも水に溶解しているようにしたものも含まれる。但し、顔料分散のような、樹脂を分散剤として用いて色材を分散させる手法はあてはまらない。このタイプは、前記したメカニズムの効果を発現し難いだけでなく、インクの信頼性に対してもあまり好ましい選択とは言えないからである。以下、上記したような液媒体中での蛍光性を示す化合物及び蛍光色材の状態を、断りのない限り全て「溶解」と表現する。
【0040】
使用する蛍光性を示す化合物や蛍光色材としては、その構造中に下記の原子団を含んでいるものが特に好ましい。
【0041】
構造中に上記したような原子団を含んでいる蛍光色材としては、具体的には、以下のようなものを一例として挙げられる。
【0042】
また、蛍光性を示す化合物としては、例えば、一般的に用いられている蛍光増白剤等を用いることができる。
【0043】
上記に挙げたような蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光性色材のインク中での含有量は、1.5質量%以下とすることが好ましく、更には、1.0質量%以下であることが好ましい。蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光性色材は、インク中での含有量が、ある値を超えると蛍光強度が低下してくるという性質がある(濃度減光という)。このことより、濃度が1.5質量%を超えると前記したメカニズムでも、上記濃度減光を抑えることができないからである。また、蛍光性のみを最重要視する場合、0.5質量%以下の含有量であるのが特に好ましい。
【0044】
インクの安定性の面から、本態様にかかるインクは、更に、インク中に一価アルコールが併用されていてもよい。一価アルコールは、例えば、ガソリンの水抜きのように、水と油を混合する効果を有している。このことは、先に説明したメカニズムを発現させる際のインクの安定性の面から、一価アルコールがインクに併用されている形態が好ましいものであることを示している。更に、一価アルコールは、被記録材上にインクを付与した場合に、蒸発や、被記録材中への浸透に対して良好な効果があるため、本発明の効果をより良好に発現させるものとして有効である。一価アルコールの本発明のインク中への含有量としては、インク全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは、0.5〜10質量%である。本態様にかかるインクの成分として使用することのできる一価アルコールの具体例としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール及びn−ブタノール等が挙げられる。
【0045】
更に、本態様にかかるインクは、保水剤が併用されていてもよい。保水剤としては、尿素及び尿素誘導体から選択される化合物を用いることが好ましい。尿素及び尿素誘導体から選ばれる少なくとも一方を本態様にかかるインク中に含有させると、インクの安定性が良好になる。即ち、尿素及び尿素誘導体から選択される化合物を含有させることで、インクの状態の気液界面で、インク中の互いに相溶性のない2種の有機化合物が層状に相分離するというメカニズムが発現することがないようにさせるためである。更に、尿素及び尿素誘導体から選択される化合物は、溶剤助剤としての効果もあるので、インクの安定性に対しても好ましい。
【0046】
更に、例えば、被記録材が上質紙等であった場合、上質紙の水分保水性により本発明のメカニズムの効果を発現し易くなる。即ち、被記録材中の水分が保持されることにより、インク成分の被記録材内や大気へ放出される時間を遅くさせることで、互いに相溶性のない2種の有機化合物が層状に相分離するのを良好にするのではないかと予測している。
【0047】
尿素誘導体としては、環状化合物ではない化合物が好ましく、例えば、尿素のアルキル誘導体及び尿素のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物から選ばれた少なくとも1種、または、上記誘導基の少なくとも2個で誘導された化合物から適宜に選択して用いることが好ましい。但し、インクを構成する各成分の量や種類によって選択は変わる。また、水溶性であるものを使用することが好ましい。上記使用量については特に制限されないが、一般的には、インクの全質量に対して0.1〜15質量%の範囲で含有させることが好適であり、更には0.1〜10質量%の範囲で含有させることが好適である。
【0048】
本態様にかかるインクは、必要に応じて、更に、水溶性有機溶剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー及びpH調整剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0049】
本態様にかかるインクに使用する液媒体としては、先に述べたように水を用いることが好ましいが、更に、水と水溶性有機溶剤との混合物であることが好ましい。具体的な水溶性有機溶剤の例としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルフォキサイド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等の環状アミド化合物及びスクシンイミド等のイミド化合物等が挙げられる。
【0050】
本態様にかかるインクにおいては、更に、互いに相溶性のない2種の有機化合物に加えて、これら2種の有機化合物の夫々の溶解度パラメーター値の間に、溶解度パラメーター値を示す化合物を併用することが好ましい。このような化合物としては、特に、常温で液体であるグリコール化合物を使用することが好ましい。これらをインクに併用させると、本発明の効果を低下させることなく、インク状態での安定性が好ましい方向とすることができる。
【0051】
また、併用させる化合物として、蒸気圧がトリエチレングリコールの蒸気圧以下である化合物を使用することも、本態様にかかるインクの他の好ましい形態である。かかる化合物を併用した場合には、インク状態での気液界面を安定に保ち易くなるので好ましい。
以上、好ましい形態を示したが、一般性を考えるなら、溶解度パラメーター値が12より小さく、且つ、水溶性のものであるものを併用させる化合物として用いるのが好ましい。また、使用量については、特に限定されないが、一般的には、インク全質量に対して0.1〜15質量%の範囲が好適であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0052】
上記したような水溶性有機溶剤の含有量は、一般には、インクの全質量に対して質量%で1%〜40%が好ましく、より好ましくは3%〜30%の範囲である。また、インク中の水の含有量は、30〜95質量%の範囲で使用される。30質量%より少ないと色材の溶解性等が悪くなり、インクの粘度も高くなるため好ましくない。一方、水が95質量%より多いと蒸発成分が多過ぎて、十分な固着特性を満足することができない。
【0053】
本態様にかかるインクには、調色のために、更に蛍光性を示さない色材を含有させてもよい。この際に使用する色材としては、水に溶解する色材の方がインクの安定性の面から好ましい(蛍光色材の場合と同様に、この場合も、色材を、例えば、エマルジョン化し、あたかも色材自身が溶解しているかのようにしたものも含む)。また、本発明のインクによって形成した記録物の耐水性を考慮した場合、インクの安定性も考慮すると、被記録材に直接染着する色材(直接染料等)を用いることが好ましく、更には、構造中にアゾ基を有しているものの方が良好である。また、蛍光性を示さない色材としては、カルボキシル基又はその塩の基を有している構造の色材を用いることが好ましい。更に、色材の親水基としてカルボキシル基又はその塩の基のみを有する色材を用いることが好ましい。カルボキシル基は、スルホン基に比べて水との親和力が弱いため、本発明のインクによって形成した記録物の耐水性を向上させることができる。
【0054】
更に、本態様にかかるインク中における蛍光性を示さない色材の含有量は、先に説明した蛍光色材の含有量以上とすることが好ましい。このように構成すれば、例え蛍光色材に耐水性がなく、記録物が水に触れることによって蛍光がなくなってしまったような場合においても、記録状態が残り易く、記録内容までも完全に消失してしまうといったことが生じないため好ましい。但し、蛍光性を示さない色材の選択をする場合には、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材による記録物における蛍光性の発現状態や、発色性とのバランスにより適宜に選択することが好ましい。
【0055】
ここで、蛍光性を示さない色材としては、具体的には、例えば、ダイレクトブラック168、ダイレクトブラック154、ダイレクトイエロー142、ダイレクトイエロー86、ダイレクトレッド227、ダイレクトブルー199、及び、下記の遊離酸の形で一般式(A)〜(C)で示される色材が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
遊離酸の形で下記一般式(A)で表わされる色材:
[一般式(A)中、Pcは含金フタロシアニン核、R1、R2及びR3は各々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アルケニル基(例えば、炭素数1〜20のアルケニル基等)、置換アルケニル基(例えば、当該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルケニル基等)、アラルキル基(例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基等)、又は置換アラルキル基(例えば、当該アラルキル基を構成するアリール基が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されているアラルキル基等)を表す。Lは、2価の有機連結基(例えば、メチレン基、エチレン基等)を表す。Xは、カルボニル基、又は下記(2)〜(4)式で示される基を表す。
【0057】
【0058】
(上記(2)〜(4)式中の各Zは夫々独立に、NR4R5、SR6又はOR6を表し、(3)式中のYは、水素原子、塩素原子、Z、SR7又はOR7を表し、(4)式中のEは、Cl又はCN基を表す。上記のR4、R5、R6及びR7は各々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アリール基(例えば、フェニル基等)、置換アリール基(例えば、F、Cl及びBr等のハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシル基、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたフェニル基等)、アラルキル基(例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基等)、又は置換アラルキル基(例えば、当該アラルキル基を構成するアリール基が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されているアラルキル基等)を表す。また、上記R4及びR5は、窒素原子と共に5員環または6員環を形成してもよい。)
更に、一般式(A)中のGは、1又は2個のCOSH又はCOOHで置換された無色有機残基を表し、t+qは、3又は4とする。]
【0059】
上記一般式(A)で表される化合物としては、例えば、C.I.ダイレクトブルー307や以下の例示色材(1)が挙げられる。
【0060】
遊離酸の形で下記一般式(B)で表わされる色材:
[上記一般式(B)式中のJは、下記式を表す。
【0061】
一般式(B)式中、Ar1及びAr2は各々独立に、アリール基又は置換アリール基であって、Ar1及びAr2の少なくとも一方は、COOHとCOSHから選ばれる置換基を1個以上有する置換アリール基であって、R1及びR2は各々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、シュウ素原子等)や炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アルケニル基(例えば、炭素数1〜20のアルケニル基等)又は置換アルケニル基(例えば当該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルケニル基等)を表し、Lは、2価の有機連結基(例えば、−NH−φ−NH−;ここでφはフェニレン基を示す、等)を表し、nは0又は1を表す。また一般式(B)式中のXは夫々独立に、カルボニル基、又は、下記(2)、(3)又は(4)式で示される構造を表す。
【0062】
【0063】
(上記(2)〜(4)式中のZは夫々独立に、NR3R4、SR5又はOR5を表し、上記(3)式中のYは、水素原子、塩素原子、Z、SR6又はOR6を表し、上記(4)式中のEは、Cl又はCN基を表す。上記のR3、R4、R5及びR6は夫々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アルケニル基(例えば、炭素数1〜20のアルケニル基等)、置換アルケニル基(例えば、当該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルケニル基等)、アリール基(例えば、フェニル基等)、置換アリール基(例えば、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたフェニル基等)、アラルキル基(例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基等)、置換アラルキル基(例えば、当該アラルキル基を構成するアリール基が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されているアラルキル基等)を表す。また、上記のR3又はR4は、窒素原子と共に5又は6員環を形成してもよい。)
また、一般式(B)で表される化合物は、少なくともSO3Hと同数のCOOH又はCOSHから選ばれた基を有する。]
【0064】
上記の一般式(B)で示される化合物として、具体的には、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット107や以下の例示化合物(2)〜(5)ようなものが挙げられる。
【0065】
【0066】
【0067】
遊離酸の形で下記一般式(C)で表わされる色材:
[上記一般式(C)中、Ar及びAr1は夫々独立に、アリール基(例えば、フェニル基等)又は置換アリール基を示し、Ar及びAr1の少なくとも1つは、スルホン基、カルボキシル基及びチオカルボキシル基からなる群から選ばれる置換基を有する置換アリール基である。J及びJ1は夫々独立に、下記一般式(2)、(3)又は(4)で示される構造を表す。
【0068】
【0069】
(上記式(2)中、R5は、独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、CN基、ウレイド基及びNHCOR6から選択される。また該R6は、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)、アリール基(例えば、フェニル基等)、置換アリール基(例えば、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたフェニル基等)、アラルキル基(例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基等)、及び置換アラルキル基(例えば、当該アラルキル基を構成するアリール基が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されているアラルキル基等)から選択される。
【0070】
上記式(3)中、Tはアルキル基を示し、Wは、水素原子、CN基、CONR10R11、ピリジウム基及びカルボキシル基から選択される。上記のR10及びR11は夫々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)及び置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)から選択される。mは、炭素数2〜8のアルキレン鎖を示し、上記式(4)中のBは、水素原子、アルキル基及びカルボキシル基から選択される。
【0071】
また、一般式(C)中、R1、R2、R3及びR4は夫々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)及び置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)から選択される。一般式(C)中のLは、2価の有機結合基(例えば、−NH−φ−NH−(ここでφはフェニレン基を示す)等)を示し、nは0又は1を示し、Xは各々独立に、カルボニル基又は下記一般式(5)、(6)又は(7)で示される。
【0072】
【0073】
(上記式(5)〜(7)中のZは、各々独立に、OR7、SR7及びNR8R9から選択され、式(6)中のYは、水素原子、Cl、CN基及びZから選択され、式(7)中のEは、Cl及びCN基から選択される。上記のR7、R8及びR9は夫々独立に、水素原子、アルケニル基(例えば、炭素数1〜20のアルケニル基等)、置換アルケニル基(例えば、当該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルケニル基等)、アルキル基(例えば、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等)、置換アルキル基(例えば、当該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子や、炭素数1〜3のアルコキシル基等で置換されているアルキル基等)アリール基(例えば、フェニル基等)、置換アリール基(例えば、F、Cl及びBr等のハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシル基、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されたフェニル基等)、アラルキル基(例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基等)、又は置換アラルキル基(例えば、当該アラルキル基を構成するアリール基が、F、Cl及びBr等のハロゲン原子、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基等から選ばれる少なくとも1つの基で置換されているアラルキル基等)を示す。また、上記R8又はR9は、これらが結合された窒素原子と共に5又は6員環を形成してもよい。)
【0074】
且つ、一般式(C)の化合物がスルホン基をもたない場合は、少なくとも2個のカルボキシル基及びチオカルボキシル基から選ばれる基を有し、一般式(C)の化合物は、スルホン基と少なくともスルホン基と同数のカルボキシル基及びチオカルボキシル基から選ばれる基を有する。]
【0075】
上記一般式(C)で示される化合物として、具体的には、例えば、以下の例示色材(6)〜(11)が挙げられる。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
上記のような蛍光性を示さない色材の使用量については特に制限されないが、蛍光性を示さない色材のインク中での含有量が、蛍光性を示す色材のインク中での含有量以上であることが好ましい。一般的には、インクの全質量に対して0.1〜15質量%の範囲が好適で、より好適には0.1〜10質量%である。
【0080】
本態様にかかるインクは、例えば表面張力が40mN/m(dyn/cm)以下であることが好ましい。先に説明したメカニズムの発現のためには、例えば、液滴が記録後に広がりを有する方が効果を出すのは好ましいからである。また、本発明のインクのpHは、インクの安定性の面から8以上であることが好ましい。
【0081】
更に、本態様にかかるインクは、これらの色材の対イオンとして、アルカリ金属イオンとアンモニウムイオンとを併用されるようにすることが好ましい。インクジェット記録に用いた場合、両者が併用されていると、インクの安定性及びインクの吐出性が良好になる。アルカリ金属イオンとしては、Li+、Na+及びK+等を挙げることができる。本発明のインクは、このようにして、色材及び添加剤((i)2種の有機化合物)を除いた系でノニオン性となるように調整されたものであることが好ましい。
【0082】
本態様にかかるインクにおいては、インク中の蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材が、インク中に最大蛍光強度を示す含有量以上含まれていることが、画像の蛍光強度を増す点で好ましい。この理由としては、推論ではあるが、被記録材に水系インクで記録した場合には、インクの滲み、浸透等によって見かけ上の色材濃度が下がるので、このように構成されたインクで被記録材に記録すれば、選択された被記録材に対して良好な発色が保たれるためではないかと考えている。
【0083】
以上のようにして構成される本態様にかかる、蛍光を有するインクは、通常の文具用のインクとしても用いることができるが、インクジェット記録で用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させて液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するインクジェット記録方法があるが、特に、熱エネルギーによるインクの発泡現象によりインクを吐出させるタイプのインクジェット記録方法に適用する場合に好適であり、吐出が極めて安定となり、サテライトドットの発生等が生じないという特徴がある。但し、この場合には、熱的な物性値(例えば、比熱、熱膨張係数、熱伝導率等)を調整する場合もある。
【0084】
更に、本態様にかかるインクは、インクジェット用ヘッドに対するマッチングを良好にする面から、インク自体の物性として25℃における表面張力が30〜40mN/m(dyne/cm)、粘度が15cP以下、好ましくは10cP以下、より好ましくは5cP以下に調整されることが望ましい。従って、上記物性にインクを調整し、普通紙における問題を解決するためには、本発明のインク中に含有される水分量としては50質量%以上98質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下とするのが好適である。
【0085】
(第2の実施態様)
次に、本発明の第2の態様にかかるインクについて説明する。
第2の態様にかかるインクは、上記で説明した第1の態様にかかるインクに対して,更に蒸気圧がジエチレングリコールの蒸気圧以上のグリコール化合物を含有させている点に特徴の一つを有している。そしてこのような化合物が併用されている本態様にかかるインクによれば、蛍光強度を含む発色性が良好になり、記録物の蛍光特性や発色性を格段に向上すると共に、従来の、光に当てられた蛍光色材の蛍光強度が経時的に低下する、という蛍光性を示す記録物の欠点を有効に抑制することができるという別の優れた効果が得られる。
【0086】
ここで、第1の態様にかかるインクとの違いを構成している、蒸気圧がジエチレングリコールの蒸気圧以上のグリコール化合物に関して説明する。この化合物は、先に説明した互いに相溶性のない2種の有機化合物を溶解若しくは分散するものであることが好ましく、例えば、その溶解度パラメータが、当該2種の有機化合物の各々の溶解度パラメータ値の間にあるものを用いることが好ましい。かかる化合物を併用させることによって、従来の、記録物が光に当たる状態で放置された場合に、蛍光色材の蛍光強度が経時的に低下するという、蛍光性を示す記録物の欠点を有効に抑制することができることは上記した通りである。
【0087】
このような化合物の具体例は、インク中に併有される2種の有機化合物によっても異なるが、例えば、2種の有機化合物として、前記したグリセリン基を有している有機化合物とノニオン系界面活性剤とを用いる場合、グリコール系化合物を用いることが好ましい。このような化合物としては、例えば、ジエチレングリコールの蒸気圧以上の蒸気圧を有しているグリコール化合物、具体的には、エチレングリコール(蒸気圧:6.7Pa(20℃))や、ジエチレングリコール(蒸気圧:<1.3Pa(20℃))等を挙げることができる。
【0088】
本態様にかかるインクが、上記したような効果を奏する理由について、本発明者らは、蒸気圧がジエチレングリコール以上のグリコール化合物、例えば、エチレングリコールやジエチレングリコールの被記録材上での蒸発に起因してもたらされたものと考えている。即ち、このような化合物の蒸発は、比較的緩やかであるため、インク滴が記録媒体に付着した直後においては、当該インク中には、当該化合物が豊富に含まれている。そのため、前記した図11における層1101と層1103との間の液−液界面1107や、図12における、層1201と層1203及び層1203と層1205との間の液−液界面1107の、少なくとも一方の間に当該化合物が介在し、明確な界面の形成を阻害しているものと考えられる。即ち、本態様にかかるインクによる記録部は、記録直後においては、当該化合物を含んでいないインクによって得られる記録部が示す蛍光強度よりも弱い蛍光強度を示す。
【0089】
しかし、当該化合物は、時間の経過と共に徐々に蒸発し、その結果として上記液−液界面1107が明確になり、高い蛍光強度を得るための好ましい記録部の構成が形成されることとなる。記録物が置かれる環境によっては、蛍光性を示す化合物や蛍光性を示す色素の蛍光発光能が経時的に低下する場合があるが、本発明にかかるインクによって形成した記録部が示す見かけ上の蛍光強度は、経時的な劣化が極めて有効に抑制され、或いは殆ど劣化せず、或いは増大する場合すらある。よって、より長期の蛍光性を、記録物に期待する場合には、本態様にかかるインクを採用することが好ましい。
【0090】
上記した本発明にかかるインクを用いて記録を行うのに好適な方法及び装置としては、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーにより液滴を発生させる方法及び装置が挙げられる。
【0091】
先ず、その装置の主要部であるヘッド構成例を、図1、図2及び図3に示す。図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での断面図である。ヘッド13は、インクを通す溝14を有する、ガラス、セラミック又はプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図では薄膜ヘッドが示されているが、これに限定されるものではない。)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は、酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1及び17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、及びアルミナ等の放熱性のよい基板20より成っている。
【0092】
インク21は、吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力Pによりメニスカス23を形成している。今、アルミニウム電極17−1及び17−2に電気信号情報が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出しインク小滴24となり、吐出オリフィス22より被記録媒体25に向って飛翔する。
【0093】
図3には、図1に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドは、マルチ溝26を有するガラス板27と、図1で説明したものと同様の発熱ヘッド28を密着して作製されている。尚、図1はインク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線の切断面である。
【0094】
図4に、上記ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。62は記録ヘッド65の吐出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0095】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によってインク吐出口面の水分、塵挨等の除去が行われる。65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載してその移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0096】
51は被記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動する紙送りローラーである。これらの構成によって記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ被記録媒体が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。
上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。
【0097】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッド65のホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッド65が記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0098】
図5は、ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで、40は供給用インクを収容したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能ならしめる。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが本発明にとって好ましい。
【0099】
本発明のインクジェット記録装置は、上記の如きヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示す如きそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであって、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク保持体が収納されており、かかるインク保持体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。
【0100】
インク保持体の材料としては、ポリウレタン、セルロース又はポリビニルアセテート、ポリオレフィン、有機化合物の縮合、重合反応により形成されたポリマーを用いることが本発明にとって好ましい。更に、インク保持体が多孔質体であるものや、多層構造を有するものを使用することが好ましい。また、多層構造体の多層配列方向が、インク収容部のインク排出方向に配列しているものを使用することが好ましい。更に、上記したようなインク保持体がインク収容部と接触面を有しているものを使用することが好ましい。72は、記録ユニット内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図4で示す記録ヘッドに代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対し着脱自在になっている。
【0101】
次に、本発明に好適に使用できる記録装置および記録ヘッドの他の具体例を説明する。図13は、本発明に係る吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッドとしての液体吐出ヘッドおよびこのヘッドを用いる液体吐出装置としてのインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0102】
図13においては、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる被記録材としての用紙1028を図中に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030と、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する矢印S方向に、ガイド軸1014に沿って略平行に往復運動せしめられる記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0103】
上記搬送装置1030は、互いに略平行に対向配置されている一対のローラユニット1022a及び1022bと、一対のローラユニット1024a及び1024bと、これらの各ローラユニットを駆動させるための駆動部1020とを備えている。かかる構成により、搬送装置1030の駆動部1020が作動状態とされると、用紙1028が、夫々のローラユニット1022a及び1022bと、ローラユニット1024a及び1024bにより狭持されて、図13に示す矢印P方向に間欠送りで搬送されることとなる。
【0104】
移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a、及び、プーリ1026bに巻きかけられるベルト1016、ローラユニット1022a、及び、ローラユニット1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0105】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図13の矢印R方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図13の矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。また、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図中に示した矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図13の矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0106】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下、単にカートリッジと記述する場合がある)1012Y、1012M、1012Cおよび1012Bが各色、例えばイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラック毎にそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0107】
図14は上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。本例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インク等の液体を収容する液体タンク1001とで主要部が構成されている。
【0108】
インクジェット記録ヘッド100は液体を吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インク等の液体は、液体タンク1001から図示しない液体供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(図15参照)へと導かれるようになっている。図14に示したカートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100と液体タンク1001とを一体的に形成し、必要に応じて液体タンク1001内に液体を補給できるようにしたものであるが、この液体吐出ヘッド100に対し、液体タンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。
【0109】
このような構成のインクジェットプリンタに搭載され得る上述の液体吐出ヘッドの具体例を以下に更に詳しく説明する。
【0110】
図15は、本発明のインクジェット記録装置に好適な液体吐出ヘッドの要部を模式的に示す概略斜視図であり、図16〜図19は図15に示した液体吐出ヘッドの吐出口形状を示す正面図である。尚、これらの図において電気熱変換素子を駆動するための電気的な配線等は省略している。
【0111】
本例の液体吐出ヘッドにおいては、例えば図15に示されるような、ガラス、セラミックス、プラスチック或いは金属等からなる基板934が用いられる。このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギー発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば特に限定されるものではない。そこで、本例では、Si基板(ウエハ)を用いた場合で説明する。このような基板934上にインク吐出口を形成するが、その方法としては、レーザー光による形成方法の他、例えば後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror Projection Aliner)等の露光装置により吐出口を形成する方法も挙げられる。
【0112】
図15において934は電気熱変換素子(以下、ヒータと記述する場合がある)931および共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933を備える基板であり、インク供給口933の長手方向の両側には、熱エネルギー発生手段であるヒータ931がそれぞれ1列ずつ千鳥状に、電気熱変換素子の間隔が、例えば、300dpiで配列されている。また、この基板934上には、インク流路を形成するためのインク流路壁936が設けられている。このインク流路壁936には、更に吐出口832を備える吐出口プレート935が設けられている。
【0113】
ここで、図15においてはインク流路壁936と吐出口プレート935とは、別部材として示されているが、このインク流路壁936を例えばスピンコート等の手法によって基板934上に形成することによりインク流路壁936と吐出口プレート935とを同一部材として同時に形成することも可能である。ここでは、更に、吐出口面(上面)935a側は撥水処理が施されている。
【0114】
例示した装置では、図13の矢印S方向に走査しながら記録を行うシリアルタイプのヘッドを用い、例えば、1,200dpiで記録を行う。駆動周波数は10kHzであり、一つの吐出口では最短時間間隔100μs毎に吐出を行うことになる。
【0115】
また、ヘッドの実例寸法の一例としては、例えば、図16に示すように、隣接するノズルを流体的に隔離する隔壁936aは、幅w=14μmである。図19に示すように、インク流路壁936により形成される発泡室1337は、N1(発泡室の幅寸法)=33μm、N2(発泡室の長さ寸法)=35μmである。ヒータ931のサイズは30μm×30μmでヒータ抵抗値は53Ωであり、駆動電圧は10.3Vである。また、インク流路壁936及び隔壁936aの高さは12μmで、吐出口プレート厚は11μmのものが使用できる。
【0116】
図15に示したように、吐出口832を含む吐出口プレートに設けられた吐出口部940の断面のうち、インクの吐出方向(オリフィスプレート935の厚み方向)に交差する方向で切断してみた断面の形状は、図17に示したように、概略星形となっており、鈍角の角を有する6つの起部832aと、これら起部832aの間に交互に配され、且つ、鋭角の角を有する6つの伏部832bとから概略構成されている。即ち、吐出口の中心Oから局所的に離れた領域としての伏部832bをその頂部、この領域に隣接する吐出口の中心Oから局所的に近い領域としての起部832aをその基部として、図15に示すオリフィスプレートの厚み方向(液体の吐出方向)に6つの溝が形成されている(溝部の位置については図20の1141a参照)。
【0117】
図示した例の液体吐出ヘッドにおいては、吐出口部940は、例えばその厚み方向に交差する方向で切断した断面が一辺27μmの二つの正三角形を60度回転させた状態で組み合わせた形状となっており、図17に示すT1は8μmである。起部832aの角度はすべて120度であり、伏部832bの角度はすべて60度である。
【0118】
従って、吐出口の中心Oと、互いに隣接する溝の中心部(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の中心(重心))を結んで形成される多角形の重心Gとが一致するようになっている。(図17参照)本例の吐出口832の開口面積は400μm2であり、溝部の開口面積(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の面積)は1つあたり約33μm2となっている。
図18は図17に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。同図中、Cは、インク付着部を示している。
【0119】
次に、上述の構成のインクジェット記録ヘッドによる液体の吐出動作について図20〜図27を用いて説明する。
図20〜図27は、図15〜図19に記載の液体吐出ヘッドの液体吐出動作を説明するための断面図であり、図19に示す発泡室1337のX−X断面図である。この断面において吐出口部940のオリフィスプレート厚み方向の端部は、溝1141の頂部1141aとなっている。
【0120】
図20はヒータ上に膜状の気泡が生成した状態を示し、図21は図20の約1μs後、図22は図20の約2μs後、図23は図20の約3μs後、図24は図20の約4μs後、図25は図20の約5μs後、図26は図20の約6μs後、図27は図20の約7μs後の状態をそれぞれ示している。尚、以下の説明において、「落下」又は「落とし込み」、「落ち込み」とは、いわゆる重力方向への落下という意味ではなく、ヘッドの取り付け方向によらず、電気熱変換素子の方向への移動をいう。
【0121】
先ず、図20に示すように、記録信号等に基づいたヒータ931への通電に伴いヒータ931上の液流路1338内に気泡101が生成されると、該気泡は約2μs間に図21および図22に示すように急激に体積膨張して成長する。気泡101の最大体積時における高さは吐出口面935aを上回るが、このとき、気泡の圧力は大気圧の数分の1から10数分の1にまで減少している。
【0122】
次に、気泡101の生成から約2μs後の時点で気泡101は上述のように最大体積から体積減少に転じるが、これとほぼ同時にメニスカス1004の形成も始まる。このメニスカス1004も図23に示すようにヒータ931側への方向に後退、すなわち落下してゆく。
【0123】
ここで、図示した例の液体吐出ヘッドにおいては、吐出口部に複数の溝1141が分散した状態で設けられていることにより、メニスカス1004が後退する際に、溝1141の部分ではメニスカス後退方向FMとは反対方向FCに毛管力が作用する。その結果、仮に何らかの原因により気泡101の状態に多少のバラツキが認められたとしても、メニスカスの後退時のメニスカス及び主液滴(以下、液体又はインクと記述する場合がある)Iaの形状が、吐出口中心に対して略対称形状となるように補正される。
【0124】
そして、図示した例の液体吐出ヘッドでは、このメニスカス1004の落下速度が気泡101の収縮速度よりも速いために、図24に示したように、気泡の生成から約4μs後の時点で気泡101が吐出口832の下面近傍で大気に連通する。このとき、吐出口832の中心軸近傍の液体(インク)はヒータ931に向かって落ち込んでゆく。これは、大気に連通する前の気泡101の負圧によってヒータ931側に引き戻された液体(インク)Iaが、気泡101の大気連通後も慣性でヒータ931面方向の速度を保持しているからである。
【0125】
ヒータ931側に向かって落ち込んでいった液体(インク)は、図25に示すように気泡101の生成から約5μs後の時点でヒータ931の表面に到達し、図26に示すようにヒータ931の表面を覆うように拡がってゆく。このようにヒータ931の表面を覆うように拡がった液体はヒータ931の表面に沿った水平方向のベクトルを有するが、ヒータ931の表面に交差する、例えば、垂直方向のベクトルは消滅し、ヒータ931の表面上に留まろうとし、それよりも上側の液体、すなわち吐出方向の速度ベクトルを保つ液体を下方向に引っ張ることになる。
【0126】
その後、ヒータ931の表面に拡がった液体と上側の液体(主液滴)との間の液体部分Ibが細くなってゆき、気泡101の生成から約7μs後の時点で図27に示すようにヒータ931の表面の中央で液体部分Ibが切断され、吐出方向の速度ベクトルを保つ主液滴Iaとヒータ931の表面上に拡がった液体Icとに分離される。このように分離の位置は液流路1338内部、より好ましくは吐出口832よりも電気熱変換素子931側が望ましい。
【0127】
主液滴Iaは吐出方向に偏りがなく、吐出ヨレすることなく、吐出口832の中央部分から吐出され、記録媒体の被記録面の所定位置に着弾される。また、ヒータ931の表面上に拡がった液体Icは、従来であれば主液滴の後続としてサテライト滴となって飛翔するものであるが、ヒータ931の表面上に留まり、吐出されない。
【0128】
このようにサテライト滴の吐出を抑制することができるため、サテライト滴の吐出により発生し易いスプラッシュを防止することができ、霧状に浮遊するミストにより記録媒体の被記録面が汚れるのを確実に防止することが可能となる。尚、図24〜27において、Idは溝部に付着したインク(溝内のインク)を、また、Ieは液流路内に残存しているインクを表している。
【0129】
このように、図示した例の液体吐出ヘッドでは、気泡が最大体積に成長した後の体積減少段階で液体を吐出する際に、吐出口の中心に対して分散した複数の溝により、吐出時の主液滴の方向を安定化させることができる。その結果、吐出方向のヨレのない、着弾精度の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。また、高い駆動周波数での発泡ばらつきに対しても吐出を安定して行うことができることによる、高速高精細印字を実現することができる。
【0130】
特に、図示した例の液体吐出ヘッドでは、気泡の体積減少段階でこの気泡を始めて大気と連通させることで液体を吐出することにより、気泡を大気に連通させて液滴を吐出する際に発生するミストを防止できるので、所謂、突然不吐出の要因となる、吐出口面に液滴が付着する状態を抑制することもできる。
【0131】
本発明に好適に使用できる、上記したような吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の記録ヘッドの他の実施態様として、例えば特許第2783647号公報に記載のように、いわゆるエッジシュータータイプが挙げられる。
【0132】
本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも熱エネルギーを利用して飛翔的液滴を形成し、記録を行うインクジェット方式の記録ヘッドや記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0133】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。
この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて膜沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長及び収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行なわれるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
【0134】
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書及び同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行なうことができる。
【0135】
本発明のインクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置を構成する記録ヘッドの構成としては、上記に挙げた各明細書に開示されているような吐出口、液路及び電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に、熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成のものを使用することも好ましい。
【0136】
加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
【0137】
更に、記録装置が記録できる最大範囲の被記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0138】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0139】
また、本発明のインクジェット記録装置の構成に設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
【0140】
更に、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでもよいが、異なる色の複色カラー、又は混色によるフルカラーの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0141】
以上の説明においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化するもの、若しくは液体であるもの、或いは上述のインクジェット方式においては、インク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであれば何れのものでもよい。
【0142】
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで防止するか、又はインクの蒸発防止を目的として放置状態で固化するインクを用いるかして、何れにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクとして吐出するものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーによって初めて液化する性質のインクの使用も本発明には適用可能である。このような場合インクは、特開昭54−056847号公報或いは特開昭60−071260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部又は貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0143】
更に加えて、本発明のインクジェット記録装置の形態としては、ワードプロセッサやコンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体、又は別体に設けられるものの他、リーダと組み合せた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
【0144】
次に、上述した液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置の概略について説明する。
図28は、上記構成を有する液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図である。
【0145】
図28において、インクジェットヘッドカートリッジ601は、上述した液体吐出ヘッドとこの液体吐出ヘッドに供給するインクを保持するインクタンクとが一体となったものである。このインクジェットヘッドカートリッジ601は、駆動モータ602の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア603、604を介して回転するリードスクリュ605の螺旋溝606に対して係合するキャリッジ607上に搭載されており、駆動モータ602の動力によってキャリッジ607とともにガイド608に沿って矢印a,b方向に往復移動される。被記録媒体P’は、図示しない被記録媒体搬送手段によってプラテンローラ609上を搬送され、紙押え板610によりキャリッジ607の移動方向にわたってプラテンローラ609に対して押圧される。
【0146】
リードスクリュ605の一端の近傍には、フォトカプラ611及び612が配設されている。これらはキャリッジ607のレバー607aのこの領域での存在を確認し、駆動モータ602の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知手段である。
【0147】
支持部材613は、上述のインクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口のある前面(吐出口面)を覆うキャップ部材614を支持するものである。また、インク吸引手段615は、キャップ部材614の内部にインクジェットヘッドカートリッジ601から空吐出等されて溜まったインクを吸引するものである。このインク吸引手段615によりキャップ内開口部(不図示)を介してインクジェットヘッドカートリッジ601の吸引回復が行われる。インクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口面を払拭するためのクリーニングブレード617は、移動部材618により前後方向(上記キャリッジ607の移動方向に直交する方向)に移動可能に設けられている。これらクリーニングブレード617及び移動部材618は、本体支持体619に支持されている。クリーニングブレード617は、この形態に限らず、他の周知のクリーニングブレードであってもよい。
【0148】
液体吐出ヘッドの吸引回復操作にあたって、吸引を開始させるためのレバー620は、キャリッジ607と係合するカム621の移動に伴って移動し、駆動モータ602からの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達手段で移動制御される。インクジェットヘッドカートリッジ601の液体吐出ヘッドに設けられた発熱体に信号を付与したり、前述した各機構の駆動制御を司ったりするインクジェット記録制御部は装置本体側に設けられており、ここには図示しない。
【0149】
上述の構成を有するインクジェット記録装置600は、図示しない被記録媒体搬送手段によりプラテンローラ609上を搬送される被記録媒体P’に対し、インクジェットヘッドカートリッジ601は被記録媒体P’の全幅にわたって往復移動しながら記録を行う。
【0150】
以上、説明した本発明にかかるインクの好ましい形態、及び、これらのインクを用いるインクジェット記録方法、該方法によって形成した記録物、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置の好ましい形態について、以下にまとめて示す。
【0151】
先ず、本発明の一実施態様にかかるインクは、先に説明した通りの、互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物(i)と、蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方(ii)と、前記(i)及び(ii)を溶解又は分散する液媒体(iii)、とを有することに一つの特徴を有しているが、特には、水系インクであることが好ましい。また、インクジェット記録に用いるためのインクであることが好ましい。また、被記録材に対して間隙を介して供給されるインクであることが好ましい。また、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材のインク中での含有量が、1.5質量%以下とすることが好ましく、更には、1.0質量%以下とすることが好ましい。使用する蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材が、水溶性或いは親水性であることが好ましい。また、蛍光色材のインク中での含有量は、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材のインク中での含有量が、インク中での最大蛍光強度を示す濃度以上であること、特に、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材のインク中での含有量が、水に溶解された状態で最大蛍光強度を示す濃度以上である形態のインクであることが好ましい。
【0152】
本発明にかかるインクを構成する互いに相溶性のない2種の有機化合物(以下、「2種の有機化合物」と略す)としては、2種の有機化合物の一方は、溶解度パラメーターが15以上、他方は、溶解度パラメーターが13以下であるもの、また、2種の有機化合物が非極性化合物であるもの、2種の有機化合物が共に水溶性であるもの、2種の有機化合物が共に液体であるもの、2種の有機化合物の一方が、グリセリン基を有しているもの、該グリセリン基を有している有機化合物が、水酸基を3個以上有するものであるものが好ましい。また、常温で液体であるインクが好ましい。
【0153】
また、互い相溶性のない2種の有機化合物の他方としては、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましく、特に、ノニオン系界面活性剤が、常温で液状であるもの、或いは、ノニオン系界面活性剤のHLBが13以下である形態のインクであることが好ましい。また、ノニオン系界面活性剤が、曇点を有しているものであることが好ましい。更に、ノニオン系界面活性剤をインクに含有させる場合に、ノニオン系界面活性剤が、水溶液の状態で水溶液界面で分離しない量でインク中に含有されているもの、また、ノニオン系界面活性剤が、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材を除いたインク状態で、インク界面で分離することのない量をインク中に含有しているものが好ましい。
【0154】
また、本発明にかかるインクの好ましい形態としては、インクを構成するノニオン系界面活性剤がアセチレン基を有しているインク、特に、ノニオン系界面活性剤が、下記一般式(I)で示される構造を有するものであるインクが挙げられる。
【0155】
[上記一般式(I)において、A及びBは夫々独立に、CnH2n+1(nは1〜10の整数)を表し、X及びYは、それぞれ開環したエチレンオキサイドユニット及び/又は開環したプロピレンオキサイドユニットを表す。]
更に、上記したようなノニオン系界面活性剤をインク中に含有させる場合には、その含有量をインクに対して1質量%以上含有させることが好ましい。
【0156】
更に、本発明にかかるインクの好ましい形態としては、上記した基本となる構成成分の他に、インク中に一価アルコールが含有されているインク、インク中に蛍光性を示さない色材が更に含有されているインクが挙げられる。この場合に使用する蛍光性を示さない色材は、水溶性を有する色材であることが好ましく、また、蛍光性を示さない色材が、被記録材に直接染着する色材、更には、アゾ染料であることが好ましい。また、蛍光性を示さない色材のインク中での含有量が、蛍光色材のインク中での含有量以上であるインク、蛍光性を示さない色材が、カルボキシル基又はその塩の基を有しているインク、蛍光性を示さない色材の親水基の対イオンとして、アンモニウムイオンを少なくとも1種含んでいるインクが好ましい形態として挙げられる。
【0157】
また、本発明にかかるインクの好ましい形態としては、上記した必須の構成成分の他に、更に、尿素及び尿素誘導体から選ばれた少なくとも1種が含有されているインク、該尿素誘導体が、環状化合物ではないインク、尿素誘導体が、尿素のアルキル誘導体及び尿素のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物から選ばれた少なくとも1種であるインクが挙げられる。
更に、本発明にかかるインクの好ましい形態としては、上記した必須の構成成分の他に、更に、その化合物の溶解度パラメーター値が、2種の有機化合物の夫々の溶解度パラメーター値の間にある化合物を併用するインク、また、蛍光性を示す化合物及び/又は蛍光色材、添加剤及びその他の色材を除いた系の極性がノニオン性であるインクが挙げられる。
【0158】
上記のような形成成分からなる本発明にかかるインクとしては、インクの表面張力が40mN/m(dyn/cm)以下であるもの、インクのpHが8以上であるものが好ましい。更に、インク中の色材の対イオンとして、アンモニウムイオンとアルカリ金属イオンとが併用されているインクが好ましい。また、インクの励起極大波長が、インクの蛍光極大波長よりも小さいインクであることも好ましい。
【0159】
また、本発明の他の実施態様にかかるインクとして、上記した構成に加えて更に、蒸気圧がジエチレングリコール以上のグリコール化合物を含有させることで、着色部の蛍光を長期間に亘って、維持させることが可能となる。上記グリコール化合物としては互いに相溶性のない2種の有機化合物(i)の溶解度パラメータの間の溶解度パラメータを有しているものが挙げられる。そのメカニズムは、先に説明したとおりである。ここで、蒸気圧がジエチレングリコール以上の化合物の例は、例えば、上記2種の有機化合物の一方が、グリセリン基を有している化合物であって、他方がノニオン系界面活性剤である形態のインクの場合には、ジエチレングリコールの蒸気圧以上のグリコール化合物を挙げることができる。このようなグリコール化合物のとしては、例えば、ジエチレングリコールやエチレングリコール等が挙げられる。
【0160】
本発明にかかるインクを記録信号に応じてオリフィスより吐出させて被記録材に記録を行って記録物を得るインクジェット記録方法は、インクとして、上記に挙げた好ましい形態を有する本発明のインクを用いることを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法は、オリフィスより吐出させるためのインクに熱エネルギーを作用させて、インク滴を吐出させるタイプのものが好ましい。また、本発明の好ましい形態としては、上記のインクジェット記録方法によって得られた記録物であって、上質紙に記録された記録物の蛍光強度が、該上質紙の含水率と相対的に比例関係にある記録物、更には、励起極大波長が蛍光極大波長より小さい記録物が挙げられる。また、蛍光を示す着色部を記録媒体上に有している記録物であって、該着色部は、蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方を含み、且つ該着色部は、その最外表面と該記録媒体表面との間に、外部からの該着色部への入射光が反射する界面を有している記録物が挙げられる。
【0161】
また、本発明の好ましい別の形態としては、本発明にかかる、インクジェット用の蛍光インクを収容しているインク収容部、該インクを吐出させるためのヘッド部を備えた記録ユニットが挙げられる。本発明にかかる記録ユニットの好ましいものとしては、ヘッド部が、熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させる構成を有する形態のもの、インク収容部が、ポリオレフィンで形成されている形態のもの、インク収容部が、内部にインク保持体を有している形態のもの、該インク保持体が、ポリウレタン、セルロース、ポリビニルアセテート及びポリオレフィンからなる群から選択された少なくとも1種で形成されている形態のもの、インク保持体が、有機化合物の縮合、重合反応により形成されるポリマーで構成されている形態のものが挙げられる。
【0162】
更に、本発明にかかる記録ユニットの好ましいものとしては、インク保持体が、多孔質体である形態のもの、インク保持体が、多層構造体を有する形態のもの、該多層構造体の多層配列方向が、インク収容部のインク排出方向に配列している形態のもの、インク保持体が、繊維集合体である形態のもの、該繊維集合体が、インク収容部のインク排出方向に配列されている、また、これらのインク保持体が、インク収容部と接触面を有している形態のものが挙げられる。
【0163】
また、本発明の好ましい別の形態としては、本発明にかかる蛍光インクを収容しているインク収容部を備えたインクカートリッジが挙げられる。その好ましいものとしては、インク収容部が、ポリオレフィンで形成されている形態のもの、インク収容部が、内部にインク保持体を有している形態のもの、該インク保持体が、ポリウレタン、セルロース、ポリビニルアセテート及びポリオレフィンからなる群から選択された少なくとも1種で形成されている形態のもの、インク保持体が、有機化合物の縮合、重合反応により形成される形態のものが挙げられる。
【0164】
更に、本発明にかかるインクカートリッジの好ましいものとしては、インク保持体が、多孔質体である形態のもの、インク保持体が、多層構造体を有する形態のもの、該多層構造体の多層配列方向が、インク収容部のインク排出方向に配列している形態のもの、インク保持体が、繊維集合体である形態のもの、該繊維集合体が、インク収容部のインク排出方向に配列されている、また、これらのインク保持体が、インク収容部と接触面を有している形態のものが挙げられる。
【0165】
また、本発明の好ましい別の形態としては、本発明にかかるインクジェット用の蛍光インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのヘッド部とを備えたインクジェット記録装置が挙げられる。その好ましいものとしては、上記に挙げた本発明にかかる記録ユニットを備えているインクジェット記録装置が挙げられる。
【0166】
更に、本発明の好ましい別の形態のインクジェット記録装置としては、上記に挙げた本発明にかかるインクカートリッジを備えているインクジェット記録装置が挙げられる。
【0167】
また、本発明の好ましい別の形態としては、蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の増強方法であって、該着色部は、インクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、該インクとして、(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方と、(iii)前記(i)及び(ii)を溶解又は分散する液媒体、とを有するインクを用いる蛍光性着色部の蛍光増強方法或いは、蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の長寿命化方法であって、該着色部はインクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、該インクとして、(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、(ii)蒸気圧がジエチレングリコール以上のグリコール化合物と、(iii)蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方と、(iv)前記(i)、(ii)及び(iii)を溶解又は分散する液媒体、とを有するインクを用いる蛍光性着色部の蛍光の長寿命化方法が挙げられる。
【0168】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、部及び%とあるものは、特に断りない限り質量基準である。
(第1の態様にかかるインク)
<実施例1〜8、比較例1〜5>
下記表1−1及び表1−2に示す各成分を混合し、十分に攪拌して溶解及び/又は分散させた後、ポアサイズ0.1μmのフロロポアフィルター(商品名:住友電工(株)製)にて加圧濾過し、実施例及び比較例のインクを夫々調製した。
【0169】
【0170】
【0171】
<評価>
得られた実施例及び比較例のインクを、市販のインクジェットプリンターBJF800(商品名:キヤノン(株)製)を用いて、その評価を、下記の方法及び基準で夫々行い、表2にその結果を示した。
【0172】
(吐出性の評価)
得られたインクをBJF800のインクタンクに所定量入れ、英数文字を市販の上質紙にインクを使い切るまで記録して、記録後、記録の初めと最後の記録物を比較し、下記の基準で評価した。
A:変わりがなかった。
B:若干品位の乱れが見られた。
C:品位の乱れが多く見られる、又は、不吐出が多く見られた。
【0173】
(安定性の評価)
得られたインクをガラスシャーレに入れ、60℃の環境下に7日間放置後、インクの状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:沈降物及びインク成分の分離は認められなかった。
B:インク界面で分離が見られた。
C:沈降物が多く見られた。
【0174】
(保存性の評価)
得られたインクをガラス容器に入れ密閉し、60℃の環境下に1ケ月間放置した後、更に常温環境下に1日放置後、インクを目視で観察し、インクの保存性を下記の基準で評価した。
A:沈降物、浮遊物も見られず、また、インク成分の分離もなかった。
B:沈降物又は浮遊物が僅かに見られた。
C:インクの気液界面に分離が見られた。
D:沈降物が多量に見られた。
【0175】
(発色性の評価)
市販の上質紙に英数文字及び単色の画像を記録し、得られた記録物を目視で観察し、下記基準で評価した。
A:鮮やかさがある。
B:鮮やかさはないが、くすんでは見えない。
C:くすんで見える。
【0176】
(蛍光性の評価1)
23℃、50%RH環境下で、市販の上質紙にDuty50%のベタを印字し、蛍光強度測定機として、FP−750(日本蛍光(株)製)で実施例、比較例に用いた色材の蛍光強度を最も測定し易い条件として、励起波長260nm、発光波長600nmで蛍光強度を測定し、下記基準で評価した。
A:蛍光強度≧350
B:350>蛍光強度≧300
C:300>蛍光強度
【0177】
(蛍光性の評価2)
蛍光性の評価1と同じことを、15℃、10%の低温低湿の環境下で行い、同様の方法及び基準で評価した。その結果を下記表2に示す。
【0178】
【0179】
(第2の態様にかかるインク)
(実施例9〜17、比較例6、8〜10)
下記表3及び表4に示す材料を用いた以外は、上記実施例1にかかるインクと同様にして各実施例並びに各比較例にかかるインクを調製し、上記実施例1と同様の方法並びに基準にて評価を行った。更に、実施例9〜17並びに比較例6、8〜10にかかる印字物については、下記の方法及び評価基準に基づき、蛍光性の経時変化についても観察した。
【0180】
(蛍光性の経時変化)
先ず、市販の上質紙にDuty50%のベタを印字し、印字物の蛍光強度を測定器FP−750を用いて測定した。次に、得られたベタ印字サンプルを直接太陽光の当たらない部屋の壁に貼り、蛍光灯をつけた状態で30日間放置した後、印字物について再度蛍光強度を測定した。得られた蛍光強度を比較して下記基準で評価した。その結果を下記表5に示した。
A:蛍光強度の低下率が5%未満。
B:蛍光強度の低下率が5%以上10%未満。
C:蛍光強度の低下率が10%以上。
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、蛍光特性を十分に生かすことで、得られる記録物について、例えば、自然界の色にとって重要な蛍光性を充分に記録部に付与させることができ、高い蛍光強度と、発色性を含めた印字品位に優れ、しかも記録物の安定性や信頼性を向上させることのできる蛍光インク、これを用いたインクジェット記録方法、該記録方法によって得られた記録物、及び、かかる蛍光インクを用いた機器を提供することができる。また、本発明の他の態様の蛍光インクによれば、見かけ上の蛍光強度が経時的に劣化しにくい蛍光着色部を備えている記録物を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット記録装置ヘッドの縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置ヘッドの縦横面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図5】インクカートリッジの縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図8】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図9】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図10】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図11】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図12】本発明の蛍光強度を含む発色のメカニズムを説明するための図である。
【図13】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【図14】液体吐出ヘッドを備えたインクジェットカートリッジの一例を示す概略斜視図である。
【図15】図14に示したインクジェットカートリッジに用いられている液体吐出ヘッドの一例の要部を模式的に示す概略斜視図である。
【図16】図14に示した液体吐出ヘッドの一例の一部を抽出した概念図である。
【図17】図16に示した吐出口の部分の拡大図である。
【図18】図17に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【図19】図16における主要部の模式図である。
【図20】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図21〜図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図21】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20及び図22〜図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図22】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20、図21及び図23〜図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図23】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20〜図22及び図24〜図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図24】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20〜図23及び図25〜図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図25】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20〜図24及び図26、図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図26】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20〜図25及び図27と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図27】図19中のX−X斜視断面形状に対応し図20〜図26と共に液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図である。
【図28】本発明の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図である。
【符号の説明】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:アルミニウム電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク滴
25:被記録媒体
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
100:インクジェット記録ヘッド
101:気泡
102:記録ヘッド
600:インクジェット記録装置
601:インクジェットヘッドカートリッジ
602:駆動モータ
603、604:駆動力伝達ギア
605:リードスクリュ
606:螺旋溝
607:キャリッジ
607a:レバー
608:ガイド
609:プラテンローラ
610:紙押え板
611、612:フォトカプラ
613:支持部材
614:キャップ部材
615:インク吸引手段
617:クリーニングブレード
618:移動部材
619:本体支持体
620:(吸引開始)レバー
621:カム
832:吐出口
832a:起部
832b:伏部
931:電気熱変換素子(ヒータ、インク吐出エネルギー発生素子)
933:インク供給口(開口部)
934:基板
935:オリフィスプレート(吐出口プレート)
935a:吐出口面
936:インク流路壁
936a:隔壁
940:吐出口部
1337:発泡室
1338:液流路
1141:溝
1141a:頂部
1004:メニスカス
1001:液体タンク
1006:移動駆動部
1008:ケーシング
1010:記録部
1010a:キャリッジ部材
1012:カートリッジ
1012Y,M,C,B:インクジェットカートリッジ
1014:ガイド軸
1016:ベルト
1018:モータ
1020:駆動部
1022a、1022b:ローラユニット
1024a、1024b:ローラユニット
1026:回復ユニット
1026a、1026b:プーリ
1028:用紙
1030:搬送装置
1101:7003と色材を含んでいる層
1103:7001と色材を含んでいる層
1105:気液界面
1107:液液界面
1201:界面活性剤のミセル層
7000:インク滴
7001:第1の有機化合物
7003:第2の有機化合物
7005:色材
7007:液媒体
7009:被記録材
C:濡れインク
FM:メニスカス後退方向
FC:メニスカス後退方向と反対方向
G:重心
I:インク
Ia:主液滴(液体,インク)
Ib、Ic:液体(インク)
Id:溝部に付着したインク(溝内のインク)
Ie:液流路内に残存しているインク
N1:発泡室の幅寸法
N2:発泡室の長さ寸法
O:吐出口の中心
P’:被記録媒体
P:用紙の搬送方向
R:ベルトの回転方向
S:用紙の搬送方向と略直交する方向
T1:吐出口伏部寸法
w:隔壁の幅寸法
Claims (19)
- (i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方と、
(iii)前記(i)及び(ii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、
該(ii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である
ことを特徴とする蛍光インク。 - 前記(i)の第1の有機化合物であるグリセリン基を有する化合物の溶解度パラメーター値が15以上であり、第2の有機化合物であるノニオン系界面活性剤の溶解度パラメーター値が13以下である請求項1に記載の蛍光インク。
- 前記グリセリン基を有する有機化合物が、常温で液体である請求項1又は2に記載の蛍光インク。
- 前記ノニオン系界面活性剤のHLBが、13以下である請求項1〜3の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 前記ノニオン系界面活性剤が、アセチレン基を有している請求項1〜4の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 前記ノニオン系界面活性剤が、インク全量に対して1質量%以上含有されている請求項1〜6の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 更に、一価アルコールを含有している請求項1〜7の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 更に、溶解度パラメーター値が、互いに相溶性のない2種の有機化合物(i)の夫々の溶解度パラメーター値の間にある化合物が併有されている請求項1〜8の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 前記(ii)が、蛍光性を示す色材である請求項1〜9の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 前記蛍光性を示す色材の対イオンとして、アンモニウムイオンとアルカリ金属イオンとが併用されている請求項10に記載の蛍光インク。
- 前記蛍光性を示す色材が、C.I.アシッドレッド52である請求項10又は11に記載の蛍光インク。
- インクジェット記録に用いるためのインクである請求項1〜12の何れか1項に記載の蛍光インク。
- 請求項13に記載の蛍光インクを記録信号に応じてオリフィスから吐出させる工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項13に記載の蛍光インクを収容しているインク収容部、及び該インクを吐出させるためのヘッド部を具備していることを特徴とする記録ユニット。
- 請求項1〜13の何れか1項に記載の蛍光インクを収容しているインク収容部を具備していることを特徴とするインクカートリッジ。
- 請求項13に記載の蛍光インクを収容しているインク収容部と、該インクを吐出させるためのヘッド部と、を具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。
- 蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の増強方法であって、該着色部は、インクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、該インクとして、
(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方と、
(iii)前記(i)及び(ii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、
該(ii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である蛍光インクを用いることを特徴とする蛍光性着色部の蛍光増強方法。 - 蛍光性着色部を被記録材上に有している記録物の、該着色部の蛍光性の長寿命化方法であって、該着色部はインクをインクジェット法で該被記録材に付与する工程を有するインクジェット法で形成されたものであり、
該インクとして、
(i)互いに相溶性のない第1及び第2の有機化合物と、
(ii)蒸気圧がジエチレングリコール以上のグリコール化合物と、
(iii)蛍光性を示す化合物及び蛍光性を示す色材の少なくとも一方と、
(iv)前記(i)、(ii)及び(iii)を溶解する液媒体、とを有する蛍光インクであって、
該液媒体が水であり、
該液媒体に溶解されている該(i)の第1及び第2の有機化合物が、水の蒸発に伴って液−液の状態で分離を生じるものであって、該第1の有機化合物が、水酸基を3個以上有し、グリセリン基を有する有機化合物であり、かつ、該第2の有機化合物が、ノニオン系界面活性剤であり、該(iii)の蛍光インク中での含有量が0.5質量%以下である蛍光インクを用いることを特徴とする蛍光性着色部の蛍光の長寿命化方法。
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