JP5119269B2 - スパークプラグ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、スパークプラグ及びその製造方法に関し、更に詳しくは、接地電極の発火面に貴金属チップが設けられて成るスパークプラグ及びその製造方法に関する。
近年、自動車エンジンなどの内燃機関に使用されるスパークプラグは、耐火花消耗性向上のため中心電極の先端部における発火面、または接地電極の前記中心電極に対向した発火面に、耐火花消耗性に優れる白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)などから構成される貴金属チップ、またはこれらを主体とする合金からなる貴金属チップを溶接したスパークプラグが使用されている。一方、中心電極及び接地電極における前記貴金属チップが接合されている電極母材は、Ni合金のような熱伝導性が良好な金属が使用されている。
この電極母材と貴金属チップとは、十分な耐熱性を確保しているにもかかわらず、高温酸化及び高温熱サイクルを受けることにより、電極母材と貴金属チップとの接合部にクラックが発生してしまい、このクラックが進行して貴金属チップが剥離又は脱落に至るということがあった。また、近年の燃料のリーン化及び高圧縮化に伴い、貴金属チップは小径化が求められると共に電極の温度が上昇する傾向にある。その結果、電極母材と貴金属チップとの接合部に益々負荷がかかり、貴金属チップが電極母材から剥離又は脱落し易い状況となっている。そこで、電極母材と貴金属チップとを強固に接合するためのさまざまな試みがなされている。
特許文献1では、貴金属チップと中心電極又は接地電極との間に形成される溶融固着層の寸法等を規定することにより、溶融固着層における接合強度に優れた、高性能、長寿命の内燃機関用のスパークプラグを提供することを試みている。
特許文献2では、貴金属チップと接地電極とが溶け込みあった溶融部の形状及び貴金属チップの寸法及びその成分等を規定することにより、着火性を確保しつつ、接地電極と貴金属チップとの接合性を向上させたスパークプラグを提供することを試みている。
特許文献3では、貴金属チップとチップ被固着面形成部位とにまたがる形で形成された全周レーザー溶接部の寸法を規定することにより、発火部の耐久性を向上させたスパークプラグを提供することを試みている。
ところで、接地電極は中心電極より燃焼室内に突出した状態で設置されており、接地電極の方が中心電極よりも温度が高くなるので、温度差の激しい過酷な環境に置かれている。したがって、接地電極における貴金属チップの剥離又は脱落を防止することが、より望まれている。
特許第3121309号公報 特許第3702838号公報 特開2002−237370号公報
この発明の課題は、貴金属チップが接合されて成る接地電極の発火部が高い耐久性を有するスパークプラグ及びその製造方法を提供することであり、特に接地電極の電極母材と貴金属チップとの接合性が良好なスパークプラグ及びその製造方法を提供することにある。
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、
中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
電極母材の一端が前記主体金具の端部に接合され、他端に貴金属チップが接合され、前記貴金属チップの先端面と前記中心電極の先端面又は側面とが火花放電間隙を介して対向するように配置された接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記貴金属チップは、加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下であり、
前記電極母材は、Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成り、
前記貴金属チップと前記電極母材との間に設けられている溶接部は、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下であり、
前記貴金属チップの平均硬度が前記溶接部の平均硬度より大きく、更に、前記溶接部の平均硬度が前記電極母材の平均硬度より大きく、
かつ、前記溶接部の平均硬度がHv140以上Hv245以下であることを特徴とするスパークプラグであり、
請求項2は、
前記溶接部は、CrとAlとSiとFeとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して10質量%以上45質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグあり、
請求項3は、
前記溶接部は、CrとAlとSiとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグであり、
請求項4は、
前記溶接部は、前記貴金属チップと前記電極母材とをレーザ溶接によって接合されて成り、前記レーザ溶接は、3m秒以上のレーザパルスを複数回照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパークプラグであり、
請求項5は、
中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体を保持する主体金具と、
Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成る電極母材の一端が前記主体金具の端部に接合され、他端に加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下である貴金属チップが接合され、前記貴金属チップの先端面と前記中心電極の先端面又は側面とが火花放電間隙を介して対向するように配置された接地電極と、
を備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記電極母材における前記主体金具に接合された端部とは反対側の端部に、貴金属チップを3m秒以上のレーザパルスを複数回照射するレーザ溶接により接合し、
前記貴金属チップと前記電極母材との間に形成される溶接部における、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量を前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下にすることを特徴とするスパークプラグの製造方法であり、
請求項6は、
Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成る電極母材の端部を主体金具の端部に接合する工程と、
主体金具に中心電極と絶縁体とを組み付ける工程と、
電極母材における前記主体金具に接合される端部とは反対側の端部に、加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下である貴金属チップを、3m秒以上のレーザパルスを複数回照射するレーザ溶接により接合し、前記貴金属チップと前記電極母材との間に形成される溶接部における、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量を前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下にする工程と、
を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法である。

本発明に係るスパークプラグの接地電極の電極母材は、Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成るので、電極母材が酸化されるのを防止することができる。したがって、電極母材が酸化されることにより電極母材の厚みが減少し、その結果、電極母材表面から突出した状態で接合されている貴金属チップの電極母材表面からの高さが相対的に大きくなることを防止することができる。したがって、熱サイクル及び発火時の衝撃により、貴金属チップが電極母材から剥離又は脱落してしまうのを防止することができる。
また、本発明に係るスパークプラグの貴金属チップと前記電極母材との間に設けられている溶接部は、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量が溶接部全量に対して45質量%以上95質量%以下であるので、内燃機関内において厳しい熱サイクルを受けた後においても、溶接部が酸化されることにより溶接部に発生するエグレを抑制することができる。また、溶接部の平均硬度がHv140以上Hv245以下であるので、貴金属チップと電極母材と溶接部との各々の間における熱膨張率の差による熱応力を緩衝することができる。その結果、溶接部にクラックが生成したり保護皮膜が剥離したりするのを防ぐことができるので、溶接部が酸化しにくくなり、溶接部に生じるエグレを抑制することができる。
さらに、貴金属チップは、加工硬化により、平均硬度がHv200以上Hv650以下であるので、熱サイクルの影響により貴金属チップの側面に生じる引張り応力による、貴金属チップの割れを防止することができる。
また、貴金属チップ、溶接部、電極母材の順に平均硬度が大きいので、これによってもエグレの発生を防止することができる。
したがって、本発明によると、貴金属チップの突出量の増大を抑制し、かつ、溶接部に生じるエグレを抑制することができるので、貴金属チップが電極母材から剥離又は脱落してしまうのを防止することができる。その結果、電極母材と貴金属チップとの接合性が良好であり、高い耐久性を有するスパークプラグを提供することができる。
本発明に係るスパークプラグの製造方法によれば、前述した効果を奏するスパークプラグを容易に製造することができる。
本発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを図1に示す。図1(a)は、本実施形態のスパークプラグの一部断面全体説明図であり、図1(b)は、本実施形態のスパークプラグの主要部分を示す断面説明図である。尚、図1(a)では、紙面下方を軸線の先端方向、紙面上方を軸線の後端方向として、図1(b)では、紙面上方を軸線の先端方向、紙面下方を軸線の後端方向として説明する。このスパークプラグ1は、図1(a)、(b)に示すように、略棒状の中心電極2と、前記中心電極2の外周に設けられた略円筒状の絶縁体3と、前記絶縁体3を保持する円筒状の主体金具4と、電極母材10の一端が前記主体金具4の端部に接合され、他端に貴金属チップ5が接合され、前記貴金属チップ5の先端面と前記中心電極2の先端面とが火花放電間隙Gを介して対向するように配置された接地電極6とを備えている。
主体金具4は、円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。スパークプラグ1の先端部における主体金具4の外周面にはネジ部40が形成されており、このネジ部40を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドに取り付けられる。
主体金具4は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
絶縁体3は、主体金具4の内周部に滑石(タルク)やパッキン等を介して保持されており、絶縁体3の軸線方向に沿って中心電極2を保持する軸孔を有する。絶縁体3の先端部は、主体金具4の先端面から突出した状態で主体金具4に固定されている。
絶縁体3は、熱を伝えにくい材料で形成されていれば良く、そのような材料として例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
中心電極2は、外材7と、外材7の内部の軸心部に同心的に埋め込まれるように形成されて成る内材8と、外材7の先端面に接合されて成る貴金属チップ9とにより形成されている。中心電極2は、円柱体であり、先端部が絶縁体3の先端面から突出した状態で絶縁体3の軸孔に固定されており、主体金具4に対して絶縁保持されている。中心電極2の先端部は、先端に行くに従って径小となる円錐台形部を有し、外材7により形成されて成る円錐台形部の先端面に、円柱状の貴金属チップ9が、適宜の溶接手段例えばレーザ溶接又は電気抵抗溶接により溶融固着されている。この貴金属チップ9は、円錐台形部の直径より小さい直径を有する。中心電極2における貴金属チップ9は、通常、円柱形状を有し、その直径は0.3〜1.5mm、高さは0.4〜2.5mmであるのが好ましい。
外材7は、例えば、Ni合金などの耐熱性及び耐食性に優れた金属材料により形成されて成り、内材8は、例えば、銅(Cu)又は銀(Ag)などの熱伝導性に優れた金属材料により形成されて成る。
接地電極6は、例えば、角柱体に形成されて成り、一端が前記主体金具4の端部に接合され、途中で略L字に曲げられている電極母材10と、前記電極母材10の他端の側面に接合されている円柱状の貴金属チップ5とにより形成され、前記貴金属チップ5の先端面と前記中心電極2の先端面とが、火花放電間隙Gを介して相対向するように、接地電極6の形状及び構造が設計される。図1(a)、(b)にはその接地電極の一例が示される。
この火花放電間隙Gは、中心電極2における貴金属チップ9の先端面と接地電極6における貴金属チップ5の先端面との間の間隙であり、この火花放電間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。また、中心電極2における貴金属チップ9がない場合には、火花放電間隙Gは、中心電極2の先端面と接地電極6における貴金属チップ5の先端面との間の間隙であり、この火花放電間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。
電極母材10は、Niを主成分としてCrとAlとSiとFeとを含有するNi合金により形成されて成り、Crが15質量%以上30質量%以下、かつ、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成り、好ましくは、Crが20質量%以上25質量%以下、かつ、Alが2質量%以上3質量%未満含有されて成る。電極母材10を形成しているNi合金は、Crが15質量%以上含有されることにより、酸化雰囲気においてCr保護皮膜(単に保護皮膜と称することもある。)が生成し、耐酸化性を向上させることができる。このCr保護皮膜は、電極母材10の表面及び溶接部11の表面に形成される。なお、前記表面とは、電極母材10と溶接部11との接触面ではなく、酸化雰囲気に曝される外側表面のことである。また、電極母材10を形成しているNi合金は、Alが1.5質量%以上含有されることにより、Cr保護皮膜の密着性を向上させると共に、Cr保護皮膜直下にAlが生成されるので、耐酸化性を向上させることができる。一方、電極母材10を形成しているNi合金が、Crが15質量%未満又はAlが1.5質量%未満含有されている場合には、電極母材10の表面が酸化され易くなってしまう。また、電極母材10を形成しているNi合金が、Crが30質量%を超えて含有されている場合には、Ni−Cr金属間化合物が生成されることにより、内部酸化が促進されてしまい、Alが4質量%を超えて含有されている場合には、Cr保護皮膜より優先的にAlが電極母材10の表面に点在してしまうことにより、均一なCr保護皮膜を電極母材10の表面に生成させることができないので、酸化が促進されてしまう。このように、電極母材10を形成しているNi合金におけるCrとAlとの含有量が前記範囲外である場合には、電極母材10が酸化され易くなってしまうので、電極母材の体積が減少する、すなわち貴金属チップ周辺における電極母材の厚みが減少してしまうことがある。
図2(a)、(b)は、内燃機関内において熱サイクルを受ける前後における貴金属チップと電極母材との接合状態を示す半断面拡大説明図である。図2(a)に示される熱サイクルを受ける前の電極母材210aと図2(b)に示される熱サイクルを受けた後の電極母材210bとでは、熱サイクルを受けた後の電極母材210bの方が、その厚みが厚みBだけ薄くなっている。この電極母材210a、210bの厚みの減少は、電極母材210a、210bが酸化されたことによるものである。円柱形状を有する貴金属チップ25a、25bは、電極母材210a、210bの表面から突出した状態で接合されている。図2(a)、(b)に示すように、熱サイクルを受ける前後において電極母材210bの厚みが、厚みBだけ減少すると、貴金属チップ25bの突出量は厚みBの分だけ大きくなる。そうすると、外力が貴金属チップ25bに作用した場合の弱点、例えば貴金属チップ25bより小径となっている部分等が溶接部211bに存在すると(これを以下においてエグレと称することもある。)、熱サイクル及び発火時の衝撃により、貴金属チップ25bが折れ易くなり、電極母材210bから脱落し易くなってしまう。さらに、電極母材210a、210bを形成しているNi合金のCrの量が30質量%を超え、かつ、Alの量が4質量%を超えると、Ni合金が固溶硬化し、伸線及び曲げ加工が困難となるので、L字曲線を有する電極母材210a、210bとする場合には好ましくない。なお、電極母材210a、210bを形成しているNi合金に含まれているSiは、不可避不純物として含有される場合もある。
内燃機関内において熱サイクルを受ける前後における電極母材の厚みの減少量は、熱サイクルを受ける前の電極母材の厚みと熱サイクルを受けた後の電極母材の厚みとを測定し、この測定値から熱サイクルを受ける前後における電極母材の厚みの差Bを算出することにより求めることができる。
電極母材10の平均硬度は、Hv130以上Hv220以下であるのが好ましく、Hv140以上Hv220以下であるのが特に好ましい。電極母材10の平均硬度が前記範囲内にあると、エンジン内加熱下及び振動による電極母材10自身の折損を防ぐことができること、また、剛性が高いということから振動も抑えられ、溶接部11のエグレによる貴金属チップ5の脱落を抑制することができる。さらに、電極母材の硬度が前記範囲内にあると、L字型或いは緩やかに半円状に極性された湾曲型の電極母材は曲成部における折損事故が容易に起こらなくなるという特有の効果も奏される。
電極母材の平均硬度は、次のように測定して求めることができる。電極母材の長手方向に沿う中心軸線に直交する平面で電極母材を切断することにより現われる電極母材の断面における任意の面積の断面中で任意の数の測定点を選択してその測定点で硬度を測定し、得られる任意の数の測定値を平均することにより、平均硬度が求められる。もっとも、電極母材の硬度、溶接部の硬度及び中心電極の平均硬度を効率良く測定するのであれば、貴金属チップが溶接されている電極母材の端部において、貴金属チップの中心軸線を含む断面が現われるように溶接部を介して貴金属チップを有する電極母材を切断することにより現われる電極母材の切断面において、任意の数の硬度測定点を選択し、この硬度測定点でマイクロビッカース硬度計により0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して電極母材の硬度を測定する。そして任意の数の硬度測定値を平均することにより、電極母材の平均硬度が求められる。なお、硬度測定点の数としては4〜16を挙げることができるが、通常は縦3列及び横3列に等間隔に並んだ9点を好適例として挙げることができる。
図1(a)、(b)に示されるように、接地電極6における貴金属チップ5は、通常、円柱形状を有し、直径が0.5〜2.0mm、高さが0.4〜1.5mmであるのが好ましい。貴金属チップ5の大きさが前記範囲内であると、着火性、放熱性、及び接合性等の観点で好ましく、耐久性に優れたスパークプラグ1とすることができる。
中心電極2に接合されて成る貴金属チップ9と電極母材10に接合されて成る貴金属チップ5としては、Pt、Pt合金、Ir、Ir合金などの貴金属により形成され、例えば、Ptを主成分としてIr、Rh、Nb、W、Pd、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一つが添加されて成るPt合金チップ、及びIrを主成分としてPt、Rh、Nb、W、Pd、Re、Ru、Osのうちの少なくとも一つが添加されて成るIr合金チップを挙げることができる。Pt及びIrを主成分とした場合に、それ以外に添加される成分は、5〜50質量%の範囲内で添加されるのが好ましい。
電極母材10に接合されて成る貴金属チップ5は、中心電極2に接合されて成る貴金属チップ9よりも温度差の激しい苛酷な環境に置かれているので、後述するようにその特性を規定することにより耐久性を向上させることができる。
電極母材10に接合されて成る貴金属チップ5は、その平均硬度が200以上650以下であり、特に200以上550以下であるのが好ましい。貴金属チップ5を電極母材10に溶接する際には、貴金属チップに通常外的負荷が加えられる。この外的負荷としては、ハンドリング時に生じる応力、溶接時の熱衝撃、及びスパークプラグ1の作製工程時において治具との接触あるいは落下等といった不慮の衝撃等が挙げられる。貴金属チップの平均硬度が200以下であると、ハンドリング時に生じる応力及び不慮の衝突等の機械的応力により、貴金属チップ5が変形してしまうおそれがある。貴金属チップの平均硬度が650以上であると、前記機械的応力により欠けが生じるおそれがあり、さらに溶接時の熱衝撃により割れを生じるおそれがある。
貴金属チップの平均硬度は、次のようにして測定することができる。貴金属チップの長手方向に沿う中心軸線を含む平面が断面に成るように貴金属チップを切断することにより現われる貴金属チップの断面における任意の面積の断面中で任意の数の測定点を選択してその測定点で硬度を測定し、得られる任意の数の測定値を平均することにより、平均硬度が求められる。もっとも、電極母材の硬度、溶接部の硬度及び中心電極の平均硬度を効率良く測定するのであれば、貴金属チップが溶接されている電極母材の端部において、貴金属チップの中心軸線を含む断面が現われるように溶接部を介して電極母材に接合された貴金属チップを切断することにより現われる貴金属チップの切断面において、任意の数の硬度測定点を選択し、この硬度測定点でマイクロビッカース硬度計により0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して貴金属チップの硬度を測定する。そして任意の数の硬度測定値を平均することにより、貴金属チップの平均硬度が求められる。なお、硬度測定点の数としては4〜16を挙げることができるが、通常は縦3列及び横3列に等間隔に並んだ9点を好適例として挙げることができる。
なお、電極母材に貴金属チップが未だ接合されていない場合には、貴金属チップの中心軸線を含む断面が現われるように貴金属チップを切断し、切断により現われる貴金属チップの断面について硬度測定をしてもよい。
貴金属チップの作製法を下記する。貴金属チップは、貴金属材料のインゴットを熱間又は冷間による鍛造、圧延、スウェージャ、打ち抜き、及び伸線等の加工により作製される。貴金属チップが、この加工により生じる加工歪により硬度が高くなることを、加工硬化という。貴金属チップは、焼結法により作製されるよりもアーク溶解炉等を使用する溶解法によりインゴットを作製し、次いで前記加工方法により加工硬化を伴って作製されるのが好ましい。焼結法は、所望の組成を有する貴金属粉末を成形し、所望の形状を有する貴金属チップを焼き固める方法である。この焼結法により貴金属チップを作製した場合には、組成を均一化することが難しく、また脆く貴金属チップの欠けが生じやすくなることから、耐久性に劣るという不都合が生じる。一方、貴金属チップが溶解法と前記加工方法とにより作製され、加工硬化により前記範囲内の平均硬度を有する場合には、貴金属チップはその内部に歪を有することになる。エンジンを稼働することにより貴金属チップが高温下に曝されると、この歪が除かれて、この貴金属材料が再結晶化して組織が微細化する。この組織の微細化は、熱サイクルによる結晶粒界の脱落を抑制することができるので、貴金属チップの熱サイクル環境下における耐久性を向上させることができる。
貴金属チップは、熱間又は冷間による鍛造、圧延、及びスウェージャのいずれか1つを経た後に打ち抜きまたは伸線され、加工硬化するのが好ましい。伸線された線材の加工組織は、伸線方向すなわち長手方向に繊維状となるので、この線材を所望の長さに切断して、この切断面を電極母材10の側面と接触させて溶接するように形成されるのが好ましい。それは次の理由による。貴金属チップと電極母材とを溶接すると、一般に熱残留応力が生じる。本実施例においては、貴金属チップの熱膨張係数が電極母材の熱膨張係数よりも低いことから、主に貴金属チップの側面に引張り応力が生じ、その結果、貴金属チップに割れが生じ易くなる。しかし、伸線により得られた伸線方向の繊維状の組織が、電極母材の接触面に対して垂直になるように貴金属チップが溶接されると、この引張り応力により生じる、貴金属チップの割れを防止することができる。一般的に厚い(長い)貴金属チップほど伸線による加工をするのが好ましい。また、伸線による加工は、長さ及び径方向共に寸法精度に優れているので好ましい。一方、厚さが薄いものは切り出しの際に砥石の抵抗により変形する可能性が高い為、打ち抜きによる作製が好ましい。打ち抜きは、前記加工法のうち鍛造、圧延などによりシート状に作製したものを金型で打ち抜く手法である。貴金属電極が薄い場合は、前記熱残留応力は溶接面に水平な方向の引っ張り応力となる。この打ち抜きにより得られた貴金属チップは溶接面に対し水平な加工組織を有するので、この残留応力による貴金属チップの割れを防止することができる。
貴金属チップ5は、レーザ溶接又は電気抵抗溶接により電極母材10に溶融固着されるので、貴金属チップ5と電極母材10との境界には、貴金属チップ5と電極母材10とが溶融して形成されて成る溶接部11が設けられている。
溶接部11は電極母材10と貴金属チップ5とに前記溶接を行うことにより形成される。したがって、溶接部11は、電極母材を形成する物質と貴金属チップを形成する物質とに由来する物質で、形成される。
このようにして形成される溶接部11の組成は、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量が溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下であり、好ましくは、50質量%以上85質量%以下である。
また、溶接部11の組成は、CrとAlとSiとFeとの合計質量が溶接部の全質量に対して10質量%以上45質量%以下であるのが好ましく、14質量%以上40質量%以下であるのがより好ましい。
さらに、溶接部11の組成は、CrとAlとSiとの合計質量が溶接部の全質量に対して10質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、13質量%以上23質量%以下であるのがより好ましい。
溶接部11の組成が前記範囲内にあると、内燃機関内において厳しい熱サイクルを受けた後においても、溶接部11が酸化されることにより発生する溶接部11のエグレを抑制することができる。したがって、溶接部11のエグレにより貴金属チップ5と電極母材10との結合が弱くなり、その結果貴金属チップ5が電極母材10から剥離又は脱落するのを防止することができる。その結果、電極母材と貴金属チップとの接合性が良好なスパークプラグを提供することができる。図3は、内燃機関内において熱サイクルを受ける前後における溶接部の断面拡大説明図である。図3における点線は、熱サイクルを受ける前の溶接部における外観形状を示し、実線は熱サイクルを受けた後の溶接部における外観形状を示している。本発明においては、熱サイクルを受ける前後において溶接部における体積が減少した部分をエグレと称している。図3では、溶接部における点線と実線とに囲まれた部分がエグレ312である。
溶接部にエグレが生じる原因の一つとしては、溶接部が貴金属チップ及び電極母材に比べて、優先的に酸化されることが挙げられる。さらに、内燃機関内においては厳しい熱サイクルが負荷されるので、溶接部の表面に保護皮膜が形成されたとしても、この保護皮膜にクラックが生成したり剥離してしまったりする結果、酸化が促進されてしまうことが挙げられる。
電極母材を形成しているNi合金は、前述したように耐酸化性に優れた組成を有しているので、溶接部の組成を、Ni合金成分が多く含まれるような前記組成とすることにより、優先的に酸化されるのを防ぐことができる。つまり、本発明に係るスパークプラグ1における溶接部は、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量が溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下であるので、溶接部の表面に保護皮膜が生成される結果、溶接部におけるエグレの発生を抑制することができる。
また、熱サイクルが負荷されることにより、生成された保護皮膜にクラックが生成したり剥離してしまったりしたとしても、溶接部の組成が前記範囲内にある場合には、保護皮膜を再生することができる。特に、溶接部の組成がCrとAlとSiとFeとの合計質量が溶接部の全質量に対して10質量%以上45質量%以下である場合には、直ちに保護皮膜を再生することができるので、より耐酸化性が向上されて、溶接部におけるエグレの発生を抑制することができる。
溶接部の組成は次のようにして決定することができる。すなわち、溶接部における任意の複数箇所を選択し、EPMAを利用して、WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)分析を行うことにより、各々の箇所の質量組成を測定する。次に、測定した複数箇所の値の平均値を算出して、この平均値を溶接部の組成とする。
溶接部の平均硬度は、Hv140以上Hv245以下であり、好ましくは、Hv155以上Hv210以下である。溶接部の平均硬度がHv245を超える場合には、溶接部が脆性を有するようになるので、熱サイクルが負荷されることにより溶接部に熱応力かかると、この熱応力に対して追従することができないので、疲労によるクラックが溶接部に生成し易くなってしまう。このクラックの生成は、保護皮膜の破壊及び剥離につながってしまうので、溶接部が酸化し易くなり、その結果エグレが大きくなってしまう。溶接部の平均硬度がHv140未満である場合には、熱サイクルが負荷されることにより溶接部が変形され易くなってしまうので、保護皮膜が破壊及び剥離し易くなり、その結果エグレが大きくなってしまう。しかし、溶接部の平均硬度が前記範囲内にあると、貴金属チップと電極母材と溶接部と保護皮膜との各々の間における熱膨張率の差による熱応力を緩衝することができるので、溶接部にクラックが生成したり保護皮膜が剥離したりするのを防ぐことができる。その結果、溶接部が酸化しにくくなるので、エグレが小さくなる。したがって、貴金属チップが電極母材から剥離又は脱落してしまうのを防止することができる。その結果、電極母材と貴金属チップとの接合性が良好なスパークプラグを提供することができる。
内燃機関内において熱サイクルを受ける前後における溶接部の体積の減少は、以下に示す式(1)で算出されるエグレ量で評価することができる。エグレ量は、熱サイクルを受けた後に接地電極の側面から撮影した金属顕微鏡写真により、最もエグレた部分の溶接部の直径(Lb)すなわち最小直径を測定し、熱サイクルを受ける前の貴金属チップの直径(La)とエグレた部分の溶接部の直径(Lb)とから、下記(1)式により、求めることができる。
エグレ量(%)=(La−Lb)/La×100 (1)
溶接部の平均硬度は、次のように測定することができる。貴金属チップが溶接されている電極母材の端部において、貴金属チップの中心軸線を含む断面が現われるように溶接部を介して貴金属チップを接合した電極母材を切断することにより現われる溶接部の切断面において、任意の数の硬度測定点を選択し、この硬度測定点でマイクロビッカース硬度計により0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して溶接部の硬度を測定する。そして任意の数の硬度測定値を平均することにより、溶接部の平均硬度が求められる。なお、硬度測定点の数としては10〜40を挙げることができるが、通常は30箇所を好適例として挙げることができる。なお、溶接部における測定点の数が電極母材における測定点の数或いは貴金属チップにおける測定点の数よりも多くするのは、溶接部では熱による硬度の変化又はバラツキがあるからである。
貴金属チップと電極母材との接合は、レーザ溶接又は電気抵抗溶接等の適宜の溶接手法により貴金属チップを電極母材に溶融固着することができる。特に、電極母材表面の、例えば表面粗さや酸化物の影響を受けずに信頼性の高い溶接強度が得られる点からレーザ溶接が好ましい。レーザを用いて貴金属チップと電極母材とを接合する場合には、貴金属チップを電極母材の所定位置に設置し、貴金属チップの斜め上方から貴金属チップと電極母材との接触部分を部分的に又は全周に渡ってレーザビームを照射する。一回のレーザ照射による溶融部が重なり合うように、ほぼ等間隔となるように、全周に渡ってレーザビームを照射すると、貴金属チップと電極母材との接合が強固になるので、好ましい。
レーザ照射は、レーザエネルギーが2〜8J/パルス、一回のレーザ照射時間すなわちパルス幅が3m秒以上、特に5m秒以上のレーザ光を使用するのが好ましい。レーザエネルギー及びパルス幅が前記範囲内にあると、溶接部の平均硬度を前記範囲内に調整することができる。
溶接部における組成の調整は、貴金属チップの外周面においてレーザが照射される軸方向高さを一定にすることにより、貴金属チップを形成している貴金属の溶解量を一定にし、電極母材を形成しているNi合金の溶解量を増減させることにより行うことができる。図4(a)は、電極母材を形成しているNi合金の溶解量が少ない場合における貴金属チップと電極母材の半断面説明図であり、図4(b)は、電極母材を形成しているNi合金の溶解量が多い場合における貴金属チップと電極母材の半断面説明図である。図4(a)、(b)に示されるように、貴金属チップ45a、45bと電極母材410a、410bとの接触面413a、413bから貴金属チップ45a、45bと溶接部411a、411bとの境界面の内最も貴金属チップ寄りの位置414a、414bまでの距離Hを一定にする。電極母材410aを形成しているNi合金の溶解量を少なくする場合には、図4(a)に示されるように、貴金属チップ45aと電極母材410aとの接触面413aから、溶接部411aと電極母材410aとの境界面の内最も電極母材410a寄りの位置415aまでの距離haを小さくする。電極母材410bを形成しているNi合金の溶解量を多くする場合には、図4(b)に示されるように、貴金属チップ45bと電極母材410bとの接触面413bから、溶接部411bと電極母材410bとの境界面の内最も電極母材410b寄りの位置415bまでの距離hbを大きくする。なお、前記距離ha、hbは、レーザ照射径及びレーザ照射エネルギーを調整することにより増減させることができる。
溶接部は、貴金属チップと電極母材とが所望の強度で接合されるように形成されていれば良く、円柱状の貴金属チップを接地電極に設置した場合における、貴金属チップと接地電極との円形状接触面の環状部分に溶接部が形成されても良いし、この環状部分のうちの一部に形成されていても良い。また、図3に示すように、貴金属チップ35と電極母材310との接触面313全面又は一部に形成されていても良い。貴金属チップ35と電極母材310との接触面313全面に溶接部311が形成されていると、貴金属チップ35と電極母材310との接合を強固にすることができるので、好ましい。
また、貴金属チップ35と電極母材310との接触面313から貴金属チップ35と溶接部311との界面のうち最も貴金属チップ35寄りの位置314までの距離Hは0.3〜0.7mmであるのが好ましい。前記範囲内にあると、貴金属チップ35と電極母材310との接合を強固にすることができると共に、所望の着火性を保持することができる。
前述したように貴金属チップ5の平均硬度は、200以上650以下であり、溶接部11の平均硬度はHv140以上Hv245以下であり、電極母材10の平均硬度は、Hv130〜220であるのが好ましい。さらに、前記平均硬度の範囲内で、貴金属チップ5の平均硬度が溶接部11の平均硬度より大きく、かつ溶接部11の平均硬度が電極母材10の平均硬度より大きい。貴金属チップ5、溶接部11、電極母材10の順に平均硬度が大きくなっていると、エンジン内加熱下及び振動による電極母材10自身の折損を防ぐことができること、また、剛性が高いということから振動も抑えられ、溶接部11のエグレによる貴金属電極の脱落を抑制することができる。
前記スパークプラグ1は例えば次のようにして製造される。すなわち、前記組成を有するNi合金を所定の形状に加工して電極母材10を作製する。次いで、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具4の端部に、電極母材10の一端部をレーザ溶接又は電気抵抗溶接によって接合する。
前記工程と前後して、Ni合金等の電極材料を所定の形状に加工して中心電極2を作製し、所定の形状及び寸法を有する絶縁体3に公知の手法により組み付ける。なお、この中心電極2の端面には貴金属チップ9をレーザ溶接により溶融固着させてもよい。
次いで、中心電極2が組み付けられた絶縁体3を電極母材10が接合された主体金具4に組み付ける。
次いで、前記加工硬化により製造された貴金属チップ5を、前記電極母材10における主体金具4に接合されている端部とは反対側の端部に、レーザ溶接により溶融固着させ、電極母材10を略L字型になるように曲げて、前記貴金属チップ5と前記中心電極2の先端面又は側面とが火花放電間隙を介して対向するように調整する。
なお、電極母材10は、主体金具4に接合される前に略L字型に曲げられてもよい。また、貴金属チップ5は、主体金具4に接合された電極母材10が略L字型になるように曲げられた後に、電極母材10の端部に接合されてもよい。
この発明に係るスパークプラグは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、図1(b)に示されるスパークプラグ1の接地電極6は、主体金具4の端部に接合されているが、主体金具の外周面に接合されていてもよい。
また、中心電極2に接合されて成る貴金属チップ9は、要求される性能により必要とされないこともあるが、貴金属チップ9が中心電極2に接合される場合には、前述した電極母材10と貴金属チップ5とを接合する場合と同様にして、接合させることができる。
本発明に係るスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグを図5(a)、(b)に示す。図5(a)は、他の実施形態のスパークプラグの一部断面全体説明図であり、図5(b)は、他の実施形態のスパークプラグの主要部分を示す断面説明図である。このスパークプラグ51は、図5(a)、(b)に示すように、中心電極52と、前記中心電極52の外周に設けられた絶縁体53と、前記絶縁体53を保持する主体金具54と、一端が前記主体金具54の端部に接合され、他端に貴金属チップ55が接合され、前記貴金属チップ55の先端面と前記中心電極52の側面とが火花放電間隙G2を介して対向するように配置された接地電極56とを備えている。
このスパークプラグ51は、接地電極56の主体金具54に接合されている面とは反対側の端面に接合されて成る貴金属チップ55が、中心電極52の貴金属チップ59の側面と対向するように配置されていることの他は、図1(a)、(b)に示されるスパークプラグ1と同様に形成されることができる。
接地電極は、図5(a)、(b)に示すように、1つであっても良いし、図6に示されるように、2つの接地電極66,66が対向するように主体金具64の端部に接合されていても良い。さらに、図示はしていないが、3つ以上の接地電極が主体金具の端部に接合され、接地電極の主体金具に接合されている面とは反対側の端面に接合されて成る貴金属チップが、中心電極の貴金属チップの側面と対向するように配置されていても良い。
本発明に係るスパークプラグは、自動車用エンジンの点火栓として使用されるものであり、エンジンの燃焼室を区画形成するエンジンヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に挿入されて固定されて使用される。
<スパークプラグの作製>
図1(a)、(b)に示されるのと同様の形状を有するスパークプラグ1を次のようにして作製した。まず、後述する組成を有するNi合金を角柱状に加工して電極母材10を作製した。次いで、主体金具4の端部に電極母材10の一端部を接合し、これに中心電極2と絶縁体3とを組み付けた。これと前後して、Pt−20質量%Rhのインゴットを作製し、熱間による鍛造を経て伸線加工をし、伸線方向が円柱の高さとなるように切断することにより、直径0.7mm、高さ1.0mmの円柱形状を有する貴金属チップ5を作製した。次いで、前記電極母材10における主体金具4に接合されている端部とは反対側の端部側面に前記貴金属チップ5を固定し、電極母材10と貴金属チップ5とにレーザビームを照射して溶接固着させて、電極母材10を略L字型になるように曲げて、前記貴金属チップ5と前記中心電極2の先端面とが火花放電間隙を介して対向するように調整した。。なお、レーザビームのレーザエネルギーは4J/パルス、1回のレーザ照射時間すなわちパルス幅を4m秒として、全周に渡って等間隔に8箇所レーザ照射を行った。ここで、電極母材は、貴金属チップの中心軸に沿って切断した場合の断面形状が1.3mm(貴金属チップの中心軸方向の幅)×2.7mm(貴金属チップの中心軸に直交する方向の幅)の四角形であり、Ni合金により形成され、その組成は、Ni:残部、Cr:15〜17質量%、Si:0.1〜0.3質量%、Al:1.5〜3.0質量%、Fe:0〜9.0質量%のものを用いた。
溶接部における組成の調整は、図4(a)、(b)に示すように、貴金属チップの外周面においてレーザが照射される軸方向高さを一定とすることにより貴金属チップを形成している貴金属の溶解量は一定にし、電極母材を形成しているNi合金の溶解量を増減させることにより行った。なお、Ni合金の溶解量は、レーザ照射径を調整することにより管理した。
(冷熱サイクル試験)
作製したスパークプラグ試験体を、2000ccのエンジンに装着し、5000rpmで1分間保持後、アイドリング1分間保持という運転条件を100時間繰り返すことにより冷熱サイクル試験を行った。
(評価方法)
冷熱サイクル試験後のスパークプラグ1は、接地電極の長手方向に対し垂直に貴金属チップの半断面が観察できるように切り出して、鏡面研磨を行った。以下の評価項目について行った測定結果を表1に示す。
1.組成
スパークプラグ1の溶接部11の組成は、溶接部11における任意の10箇所を選択し、EPMAを利用して、WDS分析を行うことにより、各々の箇所の組成を測定した。次に、測定した10箇所の値の平均値を算出して、この平均値をスパークプラグ1の溶接部の組成とした。なお、分析は、ビーム径が50〜100μm、測定域が溶接部11内に収まるように行った。
2.硬度
スパークプラグ1の溶接部11の平均硬度は、まず、図7(a)に示されるように、溶接部11を介して貴金属チップ5を接合する電極母材10の前記貴金属チップ5の中心軸線P1を有する平面で電極母材10、溶接部11及び貴金属チップ5を切断することにより現われる断面(図7(b)を参照)において、図7(b)に示されるように、任意の30箇所を選択し、マイクロビッカース硬度計により、0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して、各々の箇所のマイクロビッカース硬さを測定した。次に、測定した30箇所の値の平均値を算出して、この平均値をスパークプラグ試験体の溶接部の平均硬度とした。
貴金属チップ5の平均硬度は、図7(b)に示されるように、切断した貴金属チップ5の断面において、測定領域に溶接部11が入らないように注意して、R×L1で示される領域中で縦3列及び横3列に等間隔に並んだ9点を選択し、マイクロビッカース硬度計により0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して測定した。次に、測定した9箇所の値の平均値を算出して、この平均値を貴金属チップ5の平均硬度とした。
電極母材10の平均硬度は、図7(b)に示されるように、切断した電極母材10の断面において、測定領域に溶接部11が入らないように注意して、R×L2で示される領域中で縦3列及び横3列に等間隔に並んだ9点を選択し、マイクロビッカース硬度計により0.5N荷重の条件でJIS Z 2244に準拠して測定した。次に、測定した9箇所の値の平均値を算出して、この平均値を電極母材10の平均硬度とした。なお、電極母材の平均硬度は、図7(a)で示されるP2で示される曲成部分における切断面における測定値(図7(c)を参照)であっても良い。
3.エグレ量
図3に示すように、冷熱サイクル試験後のスパークプラグ1における溶接部の外観形状(実線部分)は、接地電極の側面から撮影した金属顕微鏡写真から得た。本写真から最もエグレた部分の溶接部の直径すなわち最小直径を測定し、この測定値をLbとした。冷熱サイクル試験前の貴金属チップの直径(La)に対する溶接部の減径割合をエグレ量と称して、溶接部の体積の減少をエグレ量で評価した。このエグレ量は下記(1)式にて算出した。
エグレ量(%)=(La−Lb)/La×100 (1)
Figure 0005119269
冷熱サイクル試験後のスパークプラグ1はいずれも、溶接部11にエグレが生じていた。
<接地電極の作製>
CrとAlの量を変化させたNi合金をアーク溶解炉にて作製し、この作製したNi合金を線引き加工し、断面形状が1.3×2.7mmの四角形を有する電極母材10を作製した。前述のスパークプラグ1を作製した場合と同様にしてレーザ照射によって、直径0.7mm、高さ1.0mm、Pt−20質量%Rh合金により形成された貴金属チップ5を前記電極母材10に接合させ、貴金属チップ5を接合させた接地電極6を作製した。
(熱サイクル試験)
作製した接地電極6を、大気中において1200℃で30分間保持後、室温で30分間保持することを100回繰り返すことにより熱サイクル試験を行った。
(評価方法)
1.酸化減肉量
熱サイクル試験後の接地電極6を貴金属チップ5の半断面観察ができるように切り出した。熱サイクル試験後の電極母材10の厚さは、金属顕微鏡により、上述の判断面観察ができるように切り出した接地電極6から測定した。図2(a)、(b)に示すように、熱サイクル試験前の電極母材10の厚さ(1.3mm)と熱サイクル試験後の電極母材の厚さとの差Bを算出し、この算出値を酸化減肉量とした。この結果を表2に示す。
Figure 0005119269
図1(a)は、本発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグの一部断面全体説明図である。図1(b)は、本発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグの主要部分を示す断面説明図である。 図2(a)は、熱サイクル試験前における貴金属チップと電極母材の半断面拡大説明図である。図2(b)は、熱サイクル試験後における貴金属チップと電極母材の半断面拡大説明図である。 図3は、内燃機関内において熱サイクルを受ける前後における溶接部の断面拡大説明図である。 図4(a)は、電極母材を形成しているNi合金の溶解量が少ない場合における貴金属チップと電極母材の半断面説明図である。図4(b)は、電極母材を形成しているNi合金の溶解量が多い場合における貴金属チップと電極母材の半断面説明図である。 図5(a)は、本発明に係るスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグの一部断面全体説明図である。図5(b)は、本発明に係るスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグの主要部分を示す断面説明図である。 図6は、本発明に係るスパークプラグの他の実施例であるスパークプラグの主要部分を示す断面説明図である。 図7(a)は電極母材、溶接部及び貴金属チップの硬度測定位置を示す断面説明図であり、図7(b)は図7(a)におけるP1で切断して現われる切断面における硬度測定点を示す説明図であり、図7(c)は図7(a)におけるP2で切断して現われる切断面における硬度測定点を示す説明図である。
符号の説明
1、51、61 スパークプラグ
2、52、62 中心電極
3、53、63 絶縁体
4、54、64 主体金具
40 ネジ部
5、9、25a、25b、35、45a、45b、55、59、65、69 貴金属チップ
6、56、66 接地電極
7、57、67 外材
8、58、68 内材
10、210a、210b、310、410a、410b、510、610 電極母材
11、211a、211b、311、411a、411b、511、611 溶接部
216a、216b 外側面
312 エグレ
313、413a、413b 接触面
314、414a、414b 貴金属チップと溶接部との境界面の最も貴金属チップ寄りの位置
415a、415b 溶接部と電極母材との境界面の最も電極母材寄りの位置
G 火花放電間隙

Claims (6)

  1. 中心電極と、
    前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
    前記絶縁体を保持する主体金具と、
    電極母材の一端が前記主体金具の端部に接合され、他端に貴金属チップが接合され、前記貴金属チップの先端面と前記中心電極の先端面又は側面とが火花放電間隙を介して対向するように配置された接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
    前記貴金属チップは、加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下であり、
    前記電極母材は、Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成り、
    前記貴金属チップと前記電極母材との間に設けられている溶接部は、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下であり、
    前記貴金属チップの平均硬度が前記溶接部の平均硬度より大きく、更に、前記溶接部の平均硬度が前記電極母材の平均硬度より大きく、
    かつ、前記溶接部の平均硬度がHv140以上Hv245以下であることを特徴とするスパークプラグ。
  2. 前記溶接部は、CrとAlとSiとFeとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して10質量%以上45質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
  3. 前記溶接部は、CrとAlとSiとの合計質量が前記溶接部の全質量に対して10質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
  4. 前記溶接部は、前記貴金属チップと前記電極母材とをレーザ溶接によって接合されて成り、前記レーザ溶接は、3m秒以上のレーザパルスを複数回照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
  5. 中心電極と、
    前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
    前記絶縁体を保持する主体金具と、
    Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成る電極母材の一端が前記主体金具の端部に接合され、他端に加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下である貴金属チップが接合され、前記貴金属チップの先端面と前記中心電極の先端面又は側面とが火花放電間隙を介して対向するように配置された接地電極と、
    を備えるスパークプラグの製造方法であって、
    前記電極母材における前記主体金具に接合された端部とは反対側の端部に、貴金属チップを3m秒以上のレーザパルスを複数回照射するレーザ溶接により接合し、
    前記貴金属チップと前記電極母材との間に形成される溶接部における、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量を前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下にすることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
  6. Crが15質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上4質量%以下含有されて成るNi合金により形成されて成る電極母材の端部を主体金具の端部に接合する工程と、
    主体金具に中心電極と絶縁体とを組み付ける工程と、
    電極母材における前記主体金具に接合される端部とは反対側の端部に、加工硬化により平均硬度がHv200以上Hv650以下である貴金属チップを、3m秒以上のレーザパルスを複数回照射するレーザ溶接により接合し、前記貴金属チップと前記電極母材との間に形成される溶接部における、NiとCrとAlとSiとFeとの合計質量を前記溶接部の全質量に対して45質量%以上95質量%以下にする工程と、
    を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
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