JP5114195B2 - カルボン酸の製造方法 - Google Patents
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Description
本願は、2006年2月3日に日本国特許庁に出願された特願2006−026766号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
また、得られるカルボン酸の結晶が微細な粒子であると、後工程での脱液性が悪化し、その結果、得られるカルボン酸の純度が低下するばかりでなく、精製負荷の増大や、生産性の低下などを招く。よって、晶析法には、ある程度の粒径以上の結晶粒子が得られる方法であることも求められる。
さらに工業的な観点から、できるだけ安価な装置で実施でき、大量生産に適した晶析法であることも求められる。
さらに、このような晶析槽を用いて工業的に大量に生産しようとする場合には、晶析槽の内容積を大きくすることになるが、槽の内壁を冷却面とする通常の晶析槽では、内容積が大きくなるにつれて冷却面の面積が相対的に小さくなるため、冷却面の面積あたりの除熱負荷が増大し効果的な運転ができないし、内容積の大きな晶析槽内では掻き取り手段を高速で作動させることも難しいなど、単に晶析槽の内容積を大きくすることで工業的な生産に対応するのは事実上困難である。
すなわち、予備工程を実施すると、予備工程で生成した微結晶は晶析工程で種晶として作用する。また、晶析槽でカルボン酸含有液体を強く冷却しなくてもすむため、条件によっては液中の過飽和度が小さくなり微結晶が溶解して、より大きな結晶の表面に再析出する。そのため、結晶の粗大化が促進され、また、強く冷却することに起因するスケールや微細な結晶粒子の生成を抑制できる。このように、予備工程を実施すると、後工程での脱液性に優れたカルボン酸の粗大な結晶粒子を高い生産性で安定に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
11 冷却器
12 第1の晶析槽
13 第2の晶析槽
30 カルボン酸製造装置
31 冷却器
32 晶析槽
本発明のカルボン酸の製造方法は、晶析槽内でカルボン酸含有液体からカルボン酸を晶析する晶析工程の前に、カルボン酸含有液体の少なくとも一部を、結晶化開始温度を超えた温度から結晶化開始温度以下まで冷却する予備工程を有するものである。
カルボン酸の種類としても特に制限はないが、本発明によれば、内壁面への付着性の強いカルボン酸であっても、そのような付着を抑制できることから、特に付着性の高いアクリル酸、メタクリル酸である場合が効果的である。
この例で使用されている冷却器11は、二重円筒型掻き取り式熱交換器であって、円筒状の外筒の内表面15と円筒状の内筒の外表面16とがそれぞれ冷却面になっている。また、外筒の内表面(以下、外筒側冷却面という。)15と内筒の外表面(以下、内筒側冷却面という。)16とはそれぞれ独立に制御できるようになっていて、それぞれの冷却面に作用させる冷却媒体の温度、流量などを個別に調整できる。具体的には、外筒側冷却面15および内筒側冷却面16に、それぞれ独立に冷却媒体の流通経路や自動または手動の流量調整弁が設置されるなどして、このような独立制御を可能とすることができる。
外筒側掻き取り手段18は、冷却器11の軸線(外筒および内筒の長手方向の中心線)を中心として回転する回転式の掻き取り部20を冷却器11の長手方向に沿って2列有し、各掻き取り部20には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製で厚み10mmの板状のスクレーパー(掻き取り部材)21が装着されている。よって、各掻き取り部20を図中矢印で示す方向に回転させることによって、各スクレーパー21の側端部が外筒側冷却面15に接触しながら、外筒側冷却面15上の付着物を掻き取るようになっている。
また、この例では、2列の掻き取り部20は、冷却器11の軸線に対して、互いに対称に位置している。
また、カルボン酸含有液体の供給配管23は、途中で分岐していて、一方は冷却器11に接続され、他方は第1の晶析槽12に接続されている。また、冷却器11へと分岐した供給配管23の途中には、開閉自在な供給弁24が設けられている。
また、カルボン酸含有液体の冷却器出口温度を測定するために温度指示計25が設けられている。
まず、カルボン酸含有液体を冷却器11に供給するラインの途中に設けられた供給弁24を閉じておき、冷却器11を経由させずに、供給配管23から直接カルボン酸含有液体を第1の晶析槽12に供給し、続いて抜液口(図示せず)を閉じた第2の晶析槽13に供給する。第2の晶析槽13のカルボン酸含有液が所定の量に到達した時点で、第1の晶析槽12の抜液口(図示せず)を閉じ、第1の晶析槽12のカルボン酸含有液が所定の量に到達したところで供給を停止する。ついで、第1の晶析槽12および第2の晶析槽13の掻き取り翼を作動させるとともに、それぞれの冷却用ジャケットに冷却媒体を流通させて、第1の晶析槽12の槽内温度および第2の晶析槽13の槽内温度が最終的に結晶化開始温度以下となるようにそれぞれ徐々に冷却する。槽内温度は、取扱うカルボン酸の種類や濃度、溶媒などにより異なるが、一般的には溶解度から算出される晶析槽スラリー濃度が40%以下となるように設定するのが好ましい。また、通常、後段側の晶析槽ほど槽内温度が低くなるように設定するため、この場合も、第1の晶析槽12の槽内温度よりも第2の晶析槽13の槽内温度を低く設定するのが好ましい。
カルボン酸含有液体の冷却器11を経由する流量、経由しない流量、およびこれらの合計である第1の晶析槽への総流量は目的とする生産量に合せて調節することができる。また、カルボン酸含有液体の晶析槽における適正な滞在時間は、使用するカルボン酸含有液体からの結晶成長速度、核発生速度、目的とする生産速度、目的とする結晶粒径、各晶析槽での除熱量などに依存するので、一概に決められないが、化学工学的手法により適正な滞在時間を都度決定することができる。そして、外筒側掻き取り手段18と内筒側掻き取り手段19とをそれぞれ150回/分以上の掻き取り頻度で作動させるとともに、冷却器11の外筒側冷却面15と内筒側冷却面16に冷却媒体を作用させて、カルボン酸含有液体を冷却する予備工程を行う。掻き取り頻度は180回/分以上が好ましく、200回/分以上がより好ましい。また掻き取り頻度は、1000回/分以下が好ましく、400回/分以下がより好ましい。
このような予備工程により、カルボン酸含有液体は、冷却器出口温度がカルボン酸含有液体の結晶化開始温度(以下、単に結晶化開始温度という。)以下となるように冷却され、カルボン酸含有液体に含まれるカルボン酸の一部が結晶微細粒子として析出する。なお、結晶化開始温度とは、カルボン酸含有液体を冷却していった際に、カルボン酸の結晶が析出し始める温度のことである。
このような晶析工程により結晶成長が促進され、第2晶析槽からは、冷却器11より晶析槽12に導入されたスラリーよりも単位スラリー体積あたりの結晶核数が少なく、粗大な結晶を含有するスラリー状のカルボン酸含有液体が排出される。
このような晶析工程の後には、排出されたカルボン酸含有液体から、濾過工程、洗浄工程、乾燥工程などの後工程が必要に応じて実施され、カルボン酸の結晶粒子が回収される。
さらに、予備工程では、晶析工程における第1の晶析槽12および第2の晶析槽13の除熱負荷がそれぞれスケーリングを起こす除熱負荷以下であること、より具体的には8.4MJ/hr/m2以下、さらには7.5MJ/hr/m2以下となるように冷却することが好ましい。予備工程でこのような程度まであらかじめ冷却しておくことにより、晶析工程でカルボン酸含有液体を強く冷却する必要がなくなり、晶析槽内で強く冷却することに起因する晶析槽12,13の冷却面でのスケール発生や、晶析槽内での微細粒子の生成を低減することができる他、予備工程で生成した微結晶が溶解して結晶化成分がより粗大な結晶の表面に析出し、脱液性、洗浄性に優れた粗大な結晶を得やすくなる。
(除熱負荷)={(晶析槽流入エンタルピー)−(晶析槽流出エンタルピー)}/
(冷却面の面積)
ただし、
(エンタルピー)=(上清流量)×(液比熱)×(温度)+(結晶流量)×(結晶比熱)×(温度)−(結晶流量)×(結晶化熱(絶対値))
まず、外筒側冷却面15または内筒側冷却面16のいずれか一方の冷却面のみに冷却媒体を作用させるなどして、冷却器11から排出されるカルボン酸含有液体の温度が結晶化開始温度以下とならないように、すなわち、結晶化開始温度を超えたある温度(t)まで冷却する。(第1ステップ)。そして、冷却器11から排出されるカルボン酸含有液体の温度が、結晶化開始温度を超えたこの温度(t)で安定してから、他方の冷却面にも冷却媒体を作用させるなどして、カルボン酸含有液体を結晶化開始温度以下の温度にまで冷却する(第2ステップ)。
ここで温度(t)は、結晶化開始温度を超えた温度であるが、カルボン酸含有液体の供給温度よりも低い温度であり、かつ、結晶化開始温度よりも2℃高い温度以下であることが好適である。
このようにして予備工程を段階的にスタートアップさせることにより、予備工程においてカルボン酸含有液体を容易かつ安定に結晶化開始温度以下まで冷却できるため好ましい。ここで「温度が安定する」とは、少なくとも5分間の間の最低温度と最高温度との差が1℃以内であることをいう。
晶析槽の容積と冷却器の容積の比率にも特に制限はないが、省スペース、低コストで装置を構成するには、晶析工程での過剰な熱量を必要十分に除去できる能力の冷却器を選定することで達成できる。
[実施例1]
図1に示す装置を使用して、予備工程と晶析工程を行った。
冷却器11には、二重円筒型掻き取り式熱交換器として、「ターロサーム(商品名、N.V. Machinefabriek Terlet社製)」を使用した。この熱交換器は、外筒側掻き取り手段18および内筒側掻き取り手段19として、スクレーパー(厚み10mm、PTFE製)21が取り付けられた掻き取り部20,22をそれぞれ2列有するものである。
冷却器11の後段側には、掻き取り翼をそれぞれ有する第1の晶析槽12と第2の晶析槽13とを直列に設置した。冷却器11の容積は、第1の晶析槽12と第2の晶析槽13の総容積の0.16%であった。
まず、晶析槽12および13にカルボン酸含有液体(メタクリル酸にメタノールを4質量%混合し、凝固点(結晶化開始温度)が8.5℃となるように調整し、12℃まで冷却したもの。以下、原料液(A)という。)を仕込み、各晶析槽12および13の掻き取り翼を、冷却面の掻き取り頻度が40回/分となるように回転させた。最終的に第1の晶析槽12の槽内温度が6.3℃、第2の晶析槽13の槽内温度が5.4℃となるように、各晶析槽12および13の冷却用ジャケットの冷却媒体流量を調整し冷却を行った。
次に、供給配管23に、原料液(A)を、晶析槽12,13での総滞在時間が6時間となる供給速度(流量)で連続的に供給した。この際、第1の晶析槽12の槽内温度が6.3℃、第2の晶析槽13の槽内温度が5.4℃となるように、各晶析槽12,13の冷却用ジャケットの冷却媒体流量を調整した。また、各晶析槽12,13の掻き取り翼を、冷却面の掻き取り頻度が40回/分となるように回転させた。
冷却器11から排出されるカルボン酸含有液体の温度が9.5℃で安定したことを確認した後、冷却器11の内筒側冷却面16へ−10℃の冷却媒体を連続的に通液開始した。
その結果、冷却器11からは、冷却器出口温度が8.3℃であって、粒径およそ80μmのメタクリル酸の結晶粒子3.3質量%を含むスラリー状のカルボン酸含有液体が連続的に排出された。このような運転を継続したところ、100時間経過後も運転状況は安定しており、第2の晶析槽13の出口からは、粒径およそ225μmのメタクリル酸の結晶粒子を37質量%含むスラリー状のカルボン酸含有液体が得られた。冷却器でのカルボン酸含有液体の滞在時間は1.8分であった。
また、このとき、第1の晶析槽12の除熱負荷は6.2MJ/hr/m2、第2の晶析槽13の除熱負荷は7.4MJ/hr/m2であった。
内筒側掻き取り手段19および外筒側掻き取り手段18の具備するスクレーパー21を、厚み3.5mmのベークライト製のスクレーパーに変更した以外は実施例1と同様に装置を運転した。
その結果、冷却器11からは、冷却器出口温度が8.0℃であって、粒径およそ80μmのメタクリル酸の結晶粒子8.9質量%を含むスラリー状のカルボン酸含有液体が連続的に排出された。このような運転を継続したところ、100時間経過後も運転状況は安定しており、第2の晶析槽13の出口からは、粒径およそ225μmのメタクリル酸の結晶粒子を37質量%含むスラリー状のカルボン酸含有液体が得られた。
また、このとき、第1の晶析槽12の除熱負荷は6.0MJ/hr/m2、第2の晶析槽13の除熱負荷は7.2MJ/hr/m2であった。
冷却器11が設置されていない以外は図1と同様の構成の装置を用いて、実施例1と同様に装置を運転した。
その結果、スケーリングにより第1の晶析槽12の掻き取り翼のトルクが顕著に上昇し、100時間後には5%上昇し、約2000時間後にはトルク値が上限に達して運転を停止せざるを得なかった。
このとき、第1の晶析槽12の除熱負荷は10.0MJ/hr/m2であった。
図3に示すカルボン酸製造装置30を使用して、予備工程と晶析工程を行った。
図3の装置30は、晶析工程を行うための晶析槽32と、この晶析槽32の前段側に設けられ、予備工程を行うための冷却器31とを具備している。
冷却器31には、円筒型の掻き取り式熱交換器として、「オンレーター(商品名、櫻製作所社製)」を使用した。この熱交換器は、円筒の内表面33が冷却面になっているとともに、この冷却面を掻き取るための掻き取り手段34として、実施例1で使用した冷却器11における回転式の外筒側掻き取り手段18と同様のものを有している。
晶析槽32の外側には図示略の冷却用ジャケットが設置され、晶析槽32の内表面が冷却面になっている。また、晶析槽32には、冷却面に付着した付着物を掻き取るための図示略の回転式の掻き取り手段(掻き取り翼)が設けられている。
なお、冷却器31の容積は、晶析槽32の容積の0.5%であった。
その結果、冷却器31からは、温度指示計36で示される冷却器出口温度が8.8℃であって、粒径およそ50μmのメタクリル酸の結晶粒子40質量%を含むスラリー状のカルボン酸含有液体が連続的に排出された。このような運転を継続したところ、6時間経過後も運転状況は安定しており、晶析槽32の出口からは、粒径およそ200μmのメタクリル酸の結晶粒子を40質量%含むスラリー状のカルボン酸含有液体が得られた。
掻き取り頻度が140回/分となるように、掻き取り手段34を70回転/分で回転させた以外は実施例3と同様に装置を運転した。
その結果、冷却器出口温度は10.2℃となり、冷却器31から排出されるカルボン酸含有液体中にメタクリル酸の結晶は認められなかった。そのため、本例ではメタクリル酸の結晶を得ることはできなかった。
Claims (4)
- カルボン酸としてアクリル酸またはメタクリル酸を含有するカルボン酸含有液体の少なくとも一部を、冷却面と該冷却面を掻き取る掻き取り手段とを有する、晶析槽の前段に配置された冷却器に供給し、カルボン酸含有液体の結晶化開始温度を超える温度から該結晶化開始温度以下まで前記カルボン酸含有液体を冷却して冷却カルボン酸含有液体を作製する予備工程と、
晶析槽内で前記冷却カルボン酸含有液体を含むカルボン酸含有液体からカルボン酸を晶析する晶析工程と
を有し、
前記冷却器の掻き取り手段は、150回/分以上の掻き取り頻度で作動し、
前記予備工程では、前記晶析工程における晶析槽の除熱負荷がスケーリングを起こす除熱負荷以下となるように、前記冷却器で前記カルボン酸含有液体を冷却するカルボン酸の製造方法。 - 前記予備工程において、前記冷却器のカルボン酸含有液体の滞在時間が前記晶析工程における晶析槽でのカルボン酸含有液体の滞在時間の1%以下である請求項1記載のカルボン酸の製造方法。
- 前記予備工程の運転開始時において、
前記冷却器から排出される前記カルボン酸含有液体の温度が前記結晶化開始温度を超えた温度まで冷却する第1ステップと、
前記カルボン酸含有液体を前記結晶化開始温度以下の温度まで冷却する第2ステップとを有する請求項1または2に記載のカルボン酸の製造方法。 - 前記冷却器が、複数の冷却面を有する二重円筒型掻き取り式熱交換器である請求項1〜3のいずれか一項に記載のカルボン酸の製造方法。
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